(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781350
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】粉末及びHIP処理された物体、並びにこれらの製造
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20060101AFI20201026BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20201026BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20201026BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20201026BHJP
B22F 3/15 20060101ALI20201026BHJP
B22F 3/20 20060101ALI20201026BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20201026BHJP
B22F 7/06 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
B22F1/00 T
C22C38/00 301Z
C22C38/00 304
C22C38/60
C22C33/02 B
B22F3/15 M
B22F3/15 G
B22F3/20 B
B22F3/20 C
B22F3/24 B
B22F7/06 C
【請求項の数】26
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-551348(P2019-551348)
(86)(22)【出願日】2018年3月21日
(65)【公表番号】特表2020-512485(P2020-512485A)
(43)【公表日】2020年4月23日
(86)【国際出願番号】EP2018057221
(87)【国際公開番号】WO2018172437
(87)【国際公開日】20180927
【審査請求日】2019年12月25日
(31)【優先権主張番号】17162456.2
(32)【優先日】2017年3月22日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】セーデルベリ, ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ブロームフェルト, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】キヴィサック, ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】ノルドバリ, ラーシュ−オロフ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ, チーリャン
【審査官】
河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−306553(JP,A)
【文献】
特表2014−500907(JP,A)
【文献】
特表2005−509751(JP,A)
【文献】
特開平01−111841(JP,A)
【文献】
米国特許第7081173(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
C22C 38/00−38/60
C22C 19/00−19/07
C22C 27/06
C22C 30/00−30/06
C22C 33/02
C22C 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で以下の組成:
C 0.03重量%以下、
Si 0.5重量%以下、
Mn 2.0重量%以下、
P 0.04重量%以下、
S 0.05重量%以下、
Cr 25〜28重量%、
Ni 33〜36重量%、
Mo 6〜7.5重量%、
N 0.20〜0.60重量%、
Cu 0.4重量%以下、
残部としてFe及び不可避不純物
である組成を有するオーステナイト合金粉末を含有する粉末。
【請求項2】
Siの含有率が0.1〜0.3重量%である、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
Mnの含有率が、1.1重量%以下である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
Niの含有率が34〜36重量%である、請求項1から3のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項5】
Moの含有率が6.1〜7.1重量%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項6】
Nの含有率が0.25〜0.60重量%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項7】
前記粉末が、Oを200ppm以下含有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項8】
重量%で以下の組成:
C 0.03重量%以下、
Si 0.5重量%以下、
Mn 2.0重量%以下、
P 0.01重量%以下、
S 0.05重量%以下、
Cr 25〜28重量%、
Ni 33〜36重量%、
Mo 6〜7.5重量%、
N 0.20〜0.60重量%、
Cu 0.4重量%以下、
残部としてFe及び不可避不純物
である組成を有するオーステナイト合金を含有するHIP処理された物体。
【請求項9】
Siの含有率が0.1〜0.3重量%である、請求項8に記載のHIP処理された物体。
【請求項10】
Mnの含有率が、1.1重量%未満である、請求項8又は9に記載のHIP処理された物体。
【請求項11】
Niの含有率が34〜36重量%である、請求項8から10のいずれか一項に記載のHIP処理された物体。
【請求項12】
Moの含有率が6.1〜7.1重量%である、請求項8から11のいずれか一項に記載のHIP処理された物体。
【請求項13】
Nの含有率が0.25〜0.60重量%である、請求項8から12のいずれか一項に記載のHIP処理された物体。
【請求項14】
前記物体が、Oを200ppm以下含有する、請求項8から13のいずれか一項に記載のHIP処理された物体。
【請求項15】
請求項8から14のいずれか一項に記載のHIP処理された物体を製造する方法であって、以下の工程:
a)前記物体の形状の少なくとも一部を規定する型を用意する工程、
b)請求項8から14のいずれか一項に記載のHIP処理された物体と同じ元素を同じ範囲で含有する請求項1から7のいずれか一項に記載の粉末、を用意する工程、
c)前記型の少なくとも一部を、前記粉末で充填する工程、
d)前記型を、所定の温度、所定の等方圧力で、所定の時間にわたり熱間等方加圧にかけて、粉末粒子を冶金的に相互に結合させる工程、
を含む、方法。
【請求項16】
得られたHIP処理された物体を熱処理する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
得られたHIP処理された物体を熱間加工する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
HIP処理された物体を製造する方法であって、HIP処理された物体が管であり、以下の工程:
a)ビレット又は中空体又はバーの形状を規定する型を用意する工程、
b)請求項1から7のいずれか一項に記載の粉末を用意する工程、
c)前記型の少なくとも一部を、前記粉末で充填する工程、
d)前記型を、所定の温度、所定の等方圧力で、所定の時間にわたり熱間等方加圧にかけて、粉末粒子を冶金的に相互に結合させる工程、
e)得られたビレット、中空体又はバーを熱間加工する工程
を含む、方法。
【請求項19】
熱間加工プロセスが押出成形である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
熱間加工工程の後に行われる冷間加工工程を含む、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
任意選択的に、熱間加工工程の後、又は冷間加工工程の後のいずれかに行われる熱処理工程を含む、請求項18から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
熱処理プロセスが溶体化処理である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項15から22のいずれか一項に従って製造された管を2つ以上含む管であって、2つ以上の管が溶接によって接合されている、管。
【請求項24】
溶接が、窒素含有シールドガスにより、UNS N6022の規格を有する溶加材を用いて行われている、請求項23に記載の管。
【請求項25】
請求項24に記載の管を有する、アンビリカル。
【請求項26】
腐食環境における、請求項8から14のいずれか一項に記載のHIP処理された物体又は請求項23に記載の管の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オーステナイト合金の粉末、当該粉末から製造されるHIP処理された物体、HIP処理された物体の製造方法、及び腐食環境におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2相ステンレス鋼から製造される部材は、降伏応力が高く、耐腐食性が一般に良好なため、通常は石油及びガスの用途で、特に海中環境で使用される。しかしながら2相ステンレス鋼では、これらのステンレス鋼が、水素に起因する応力割れ(HISC)を起こしてしまう傾向があり得ることが1つの問題である。オーステナイト合金から製造された部材も使用されるが、これらの合金については、HISCの影響を受けないことが知られているものの、その降伏応力が低すぎることがある。また、析出硬化されたNi基合金から製造された部材も使用できるが、これらの合金は、水素脆化しやすいことがある。
【0003】
よって、HISCの影響を受けず、降伏応力が高く、水素脆化に対して耐性のある合金を含む物体(部材)に対する必要性がある。よって本開示の態様は、上述の問題を解決すべきであるか、又は少なくとも緩和させるべきである。
【発明の概要】
【0004】
本開示により、オーステナイト合金の粉末が提供され、この粉末は、以下の組成を重量%(wt%)で有するものである:
C 0.03重量%以下、
Si 0.5重量%以下、
Mn 2.0重量%以下、
P 0.01重量%以下、
S 0.05重量%以下、
Cr 25〜28重量%、
Ni 33〜36重量%、
Mo 6〜7.5重量%、
N 0.20〜0.60重量%、
Cu 0.4重量%以下、
残部としてFe及び不可避不純物。
【0005】
本開示はまた、以下の組成を重量%(wt%)で有する粉末から製造された、HIP処理された物体に関する:
C 0.03重量%以下、
Si 0.5重量%以下、
Mn 2.0重量%以下、
P 0.01重量%以下、
S 0.05重量%以下、
Cr 25〜28重量%、
Ni 33〜36重量%、
Mo 6〜7.5重量%、
N 0.20〜0.60重量%、
Cu 0.4重量%以下、
残部としてFe及び不可避不純物。
【0006】
よって本開示は、先に、又は以下に規定する粉末と同じ元素を同じ範囲で含有するオーステナイト合金を含む、HIP処理された物体に関する。オーステナイト合金を含有することに加えて、得られたHIP処理された物体は、分布及び相の形状(すなわちミクロ構造)について等方性となり、これは、HIP処理された物体が、HISCに対して耐性を有すること、また全方向において同じ機械的強度を有することを意味する。
【0007】
本開示はさらに、HIP処理された物体の製造方法に関し、この製造方法は、以下の工程:
a)前記物体の形状の少なくとも一部を規定する型を用意する工程、
b)先に又は以下に規定する粉末を用意する工程、
c)前記型の少なくとも一部を、前記粉末で充填する工程、
d)前記型を、所定の温度、所定の等方圧力で、所定の時間にわたり熱間等方加圧にかけて、粉末粒子を冶金的に相互に結合させる工程、
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
前述のように本開示は、以下の組成を重量%(wt%)で有する粉末に関する:
C 0.03重量%以下、
Si 0.5重量%以下、
Mn 2.0重量%以下、
P 0.01重量%以下、
S 0.05重量%以下、
Cr 25〜28重量%、
Ni 33〜36重量%、
Mo 6〜7.5重量%、
N 0.20〜0.60重量%、
Cu 0.4重量%以下、
残部としてFe、及び不可避不純物。
【0009】
本開示はまた、以下の組成を重量%(wt%)で有する粉末から製造された、HIP処理された物体に関する:
C 0.03重量%以下、
Si 0.5重量%以下、
Mn 2.0重量%以下、
P 0.01重量%以下、
S 0.05重量%以下、
Cr 25〜28重量%、
Ni 33〜36重量%、
Mo 6〜7.5重量%、
N 0.20〜0.60重量%、
Cu 0.4重量%以下、
残部としてFe、及び不可避不純物。
【0010】
よって本開示は、以下の組成を重量%(wt%)で有するオーステナイト合金を含有するHIP処理された物体に関する:
C 0.03重量%以下、
Si 0.5重量%以下、
Mn 2.0重量%以下、
P 0.01重量%以下、
S 0.05重量%以下、
Cr 25〜28重量%、
Ni 33〜36重量%、
Mo 6〜7.5重量%、
N 0.20〜0.60重量%、
Cu 0.4重量%以下、
残部としてFe、及び不可避不純物。
【0011】
或いは、HIP処理された物体は、中空体又はビレット又はバーであってよく、これらはその後、熱間加工、例えば押出成形によって、管又はパイプへと加工することができる。
【0012】
本開示はまた、HIP処理された物体の製造方法に関し、この製造方法は、以下の工程:
a)前記物体の形状の少なくとも一部を規定する型を用意する工程、
b)先に又は以下に規定する粉末を用意する工程、
c)前記型の少なくとも一部を、前記粉末で充填する工程、
d)前記型を、所定の温度、所定の等方圧力で、所定の時間にわたり熱間等方加圧にかけて、粉末粒子を冶金的に相互に結合させる工程、
を含む。
【0013】
本開示の1つの実施態様によれば、得られたHIP処理された物体は、HIP処理された物体の強度を向上させるために、例えば溶体化処理によって熱処理にかけることができる。
【0014】
本開示はまた、HIP処理された物体の製造方法であって、この物体が管である製造方法に関し、この製造方法は、以下の工程:
a)ビレット又は中空体又はバーの形状を規定する型を用意する工程、
b)先に又は以下に規定する粉末を用意する工程、
c)前記型の少なくとも一部を、前記粉末で充填する工程、
d)前記型を、所定の温度、所定の等方圧力で、所定の時間にわたり熱間等方加圧にかけて、粉末粒子を冶金的に相互に結合させる工程、
e)得られたビレット、中空体又はバーを熱間加工する工程
を含む。
【0015】
1つの実施態様によれば、熱間加工プロセスは、押出成形である。その他の熱間加工プロセスの例は、熱間ローラ加工、及び熱間穿孔である。熱間加工工程は任意で、1つ又は複数の熱間加工プロセスを含むことができる。
【0016】
別の実施態様によれば、本製造方法は、冷間加工工程を含み、この冷間加工工程は、熱間加工工程の後に行うことができる。冷間加工プロセスの例は、冷間ローラ加工、冷間引抜、冷間ピルガー圧延及び矯正だが、これらに限られない。冷間加工工程は、1つ又は複数の冷間加工プロセスを含むことができる。また、冷間加工プロセスは、同じであるか、又は異なっていてよい。
【0017】
別の実施態様によれば、本製造方法は、熱間加工工程の後、又は冷間加工工程の後のいずれかに行われる熱処理工程を、含むことができる。熱処理プロセスの例は、アニール、例えば溶体化処理だが、これに限られない。
【0018】
熱間等方加圧成形(HIP)は、当分野で知られた技術である。当業者であれば、熱間等方成形にかけるべき合金については、粉末形態で用意すべきことが分かる。このような粉末は、熱した合金を噴霧、すなわち熱した合金を液状のままノズルを介してスプレーし(このため溶融した合金は、開口部を通じて押し出される)、その直後にこの合金を固化させることによって、得ることができる。
【0019】
圧力は、噴霧を行うために使用する設備に依存するため、噴霧は、当業者に知られた圧力で行われる。1つの実施態様によれば、気体噴霧化の技術を使用し、その際に気体は、ノズルを出る直前に、熱した金属合金流内へと導入され、混入された気体が(熱により)膨張するにつれて乱流を生じさせ、開口部に対して外側にある大容量の回収空間(a large collection volume)へと出る。回収空間は好ましくは、溶融金属噴射のさらなる乱流を促進させるための気体により、充填されている。
【0020】
粒子のサイズ分布D50は通常、80〜130μmである。生じる粉末はその後、鋳型へと移される。
【0021】
先に、又は以下に規定する製造方法によれば、型(鋳型又はカプセルと呼ぶこともある)を用意する。型は、得られる物体の形状又は輪郭の少なくとも一部を規定する。型は通常、一体的に溶接結合されたスチールシートから製造される。型は、HIP処理後に、例えば酸洗い又は機械加工によって、取り外す。
【0022】
型の少なくとも一部が充填されるが、これは、一回のHIP工程で完全な物体を作るかどうかによる。鋳型は、熱間等方加圧成形(HIP)にかけ、当該粉末の粒子を冶金学的に相互に結合させる。1つの実施態様によれば、鋳型は完全に充填されており、物体は、一回のHIP工程で作製される。
【0023】
HIP法は、オーステナイト合金の融点未満の所定の温度で、好ましくは1000〜1200℃の範囲で行う。所定の等方圧力は、>900bar(例えば約1000ba)であり、所定の時間は、1〜5時間の範囲である。HIPプロセスの後、物体を鋳型から取り出す。これは通常、鋳型自体を取り外すことによって、例えば機械加工又は酸洗いによって行われる。得られた物体の形は、鋳型の形と、充填の度合いによって決まる。
【0024】
HIP法はまた、熱処理(例えば溶体化処理)の後に続けることもでき、これは、得られた物体を、1000〜1300℃の範囲、例えば1100〜1200℃の範囲の温度で1〜5時間、熱処理し、引き続きクエンチすることを意味する。
【0025】
以下では、先に若しくは以下に規定されるオーステナイト合金の合金元素を、その効果という観点で論じる。しかしながらこれは、限定と解釈されるべきではない。これらの元素は、言及されていないその他の効果を有することもある。「重量%」又は「wt%」という記載は、相互に交換可能に用いる。
【0026】
炭素(C):0.03重量%以下
Cは、オーステナイト合金に含まれる不純物である。Cの含有率が0.03重量%を超えると、粒界において炭化クロムが析出するため、耐腐食性が低減する。よってCの含有率は、0.03重量%以下、例えば0.02重量%以下である。
【0027】
ケイ素(Si):0.5重量%以下
Siは、脱酸のために添加可能な元素である。しかしながらSiは、金属間化合物相(例えばシグマ相)の析出を促進するので、Siは0.5重量%以下、例えば0.1〜0.5重量%の含有率で含まれる。
【0028】
マンガン(Mn):2.0重量%以下
Mnは、ほとんどのステンレス合金で使用される。Mnには、不純物である硫黄と結合する能力があるからであり、硫黄と結合することによって、高温延性が好ましくなるからである。2.0重量%を超える水準のMnは、機械的な特性を減少させることになる。よってMnの含有率は、2.0重量%以下、例えば1.1重量%未満、例えば0.1〜1.1重量%である。
【0029】
ニッケル(Ni):33〜36重量%
Niは、オーステナイトを安定化させる元素であり、Cr及びMoとともに、ステンレス合金において応力腐食割れを減少させるために有用である。構造安定性を得るとともに、これによって耐腐食性を得るため、Niの含有率は、33重量%以上である必要がある。しかしながら、Ni含有率が増加すると、Nの溶解性が減少することになる。よってNiの最大含有率は、36重量%以下である。1つの実施態様によれば、Niの含有率は、34〜36重量%である。
【0030】
クロム(Cr):25〜28重量%
Crは、ステンレス合金において最も重要な元素である。Crは、ステンレス合金を腐食から保護する不活性膜を作るために必須だからである。また、Crの添加によって、Nの溶解性が上昇することになる。Crの含有率が25重量%未満だと、本開示によるオーステナイト合金についての耐腐食性は、充分とはならず、Crの含有率が28重量%より多いと、二次相(例えば窒化物及びシグマ相)が形成されることになり、耐腐食性に不利な影響がもたらされる。従って、Crの含有量は、25〜28重量%、例えば26〜28重量%である。
【0031】
モリブデン(Mo):6.0〜7.5重量%
Moは、オーステナイト合金の表面に形成された不活性膜を安定化する際に、効果的であり、耐ピッティング性を改善する際にも効果的である。Moの含有率が6.0重量%未満の場合、ピッティングに対する耐食性は、先に又は以下に規定するオーステナイト合金にとって充分高くはない。しかしながら、Moの含有率が高過ぎると、金属間化合物相(例えばシグマ相)の析出を促進させることとなり、熱間加工性も低下する。従って、Moの含有量は、6.0〜7.5重量%、例えば6.1〜7.1重量%、例えば6.1〜6.7重量%である。
【0032】
窒素(N):0.25〜0.6重量%
Nは、オーステナイト合金の強度を向上させるために効果的な元素であり、製造プロセスにおいては熱処理、例えば固溶硬化が使用される。Nは、構造安定性にとっても有用である。Nはさらに、冷間加工の間のひずみ硬化を改善させることになる。Nの含有率が0.25重量%未満の場合、先に又は以下に規定するオーステナイト合金は、充分に高い強度を有さないことになる。Nの含有率が0.6重量%より多い場合、合金中にさらにNを溶解させることが不可能になる。1つの実施態様によれば、Nの量は、例えば0.25〜0.40重量%、例えば0.30〜0.38重量%である。
【0033】
リン(P):0.05重量%以下
Pは、オーステナイト合金中に含まれる不純物であり、Pが熱間加工性に対して否定的な影響をもたらすことは、よく知られている。従ってPの含有率は、0.05重量%以下、例えば0.03重量%以下、例えば0.010重量%に設定される。
【0034】
硫黄(S):0.05重量%以下
Sは、オーステナイト合金中に含まれる不純物であり、熱間加工性を低下させる。よってSについて許容される含有率は、0.05重量%以下、例えば0.02重量%以下、例えば0.005重量%である。
【0035】
銅(Cu):0.4重量%以下
Cuは任意の元素であり、0.4重量%を超えると、機械的特性に否定的な影響を与える。1つの実施態様によれば、Cuの含有率は、0.3重量%以下、例えば0.25重量%以下である。
【0036】
酸素(O):200ppm%以下
Oは、意図的に添加されるものではないにせよ、オーステナイト合金中に存在し得る元素である。その目的は、酸素を回避することである。酸素は、衝撃強さに対して否定的な影響を与えることになるからである。200ppmより高い水準では、HIPされた物体の衝撃強さが低くなり過ぎ、この物体は、あらゆる用途において使用できなくなる。
【0037】
本明細書で述べる「不純物」という用語は、工業的に製造された場合に、原材料(例えば鉱石及びスクラップ)に起因して、また製造プロセスにおける様々なその他の要因に起因して、オーステナイト合金を汚染することになる物質を意味することが意図されており、先に又は以下に規定するオーステナイト合金に否定的な影響を与えない範囲での汚染は許容される。1つの実施態様によれば、先に又は以下に規定する合金は、本明細書で言及した範囲における元素から成る。さらに、「最大」又は「未満」という用語は、範囲の最小値が「0」であることを意味する。
【0038】
本開示の追加的な利点は、得られたHIP処理された物体を、高度の腐食環境で使用する場合に、特に有利になる。特に高度の腐食環境の例は、石油及びガスを回収するために使用される海中構造であるが、これらに限られない。このような海中構造は、外部では海水にさらされ、内部では鉱井の流れにさらされるからであり、このような環境はまた、石油化学産業及び化学産業にも存在する。
【0039】
本開示は、先に又は以下に規定する本発明によるHIP処理された物体の使用、又は先に又は以下に記載する方法により製造されるHIP処理された物体の使用であって、例えば石油化学産業、化学産業における部材のための建築材料としての、海中構造(例えばHUB)又はマニホールドとしての使用に関する。1つの実施態様によれば、このような物体の1つの実施態様は、2つ以上の管を備える溶接された管(建築物)であって、これら2つ以上の管が、先に又は以下に規定する粉末を含有するもの、及び先に又は以下に規定する方法によって製造されたものである。2つ以上の管は、溶接によって各管の端部で相互に接続されている。これらの管は、熱間加工又は冷間加工されており、それから接合を行う前に、熱処理される。当業者であれば、本願発明によるHIP処理された物体が部材として有用となるその他の技術分野も考慮するだろう。
【0040】
或いは、1つの実施態様によれば、得られたHIP処理された物体は、ブロック(又はその他のありふれた形状)であり、このようなブロック等の形状から、様々な機械加工技術(例えば旋盤加工、ねじ切り、穿孔、切断及びミリング、又はこれらの組み合わせ:例えばミリング若しくは切断の後に旋盤加工)により、所望の最終的な部材を作製できる。
【0041】
本開示を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0042】
実施例1
本願発明により5つの加熱体(heats)を製造した:原材料そのままの加熱体150kgを噴霧化。3つの加熱体については、噴霧化のための材料を、HF加熱体から得た。噴霧化をどのように行うかは、最終的な物体の特性には影響を与えない。得られた粉末をカプセル内に充填し、1150℃、100MPaで3時間、熱間等方加圧した。これらのカプセルをゆっくりと冷却し、1200℃で30分間、熱処理し、それから水でクエンチした。その化学組成がそれぞれ、表1に示されている。この表では、幾つかの加熱体が、1つより多い試料で作製されている。当業者であれば分かるように、HIP処理を製造プロセスとして用いると、O及びNの含有率は、異なるバッチで製造された場合、同じ加熱体について異なることがある。引張試験体は、熱処理された材料から得られ、その結晶粒度は、ASTM E112に従って測定した。
【0043】
表2から見て取れるように機械的特性を評価したところ、高い降伏強度が得られた。HIP処理された材料についての降伏強度は、類似の組成を有する従来の材料よりも高かった。
【0044】
【0045】
【0046】
特定の用途では、65ksi材料(448MPa)を得ることが望ましいが、表1及び2から見て取れるように、これらの用途において窒素含有率は、0.25%超でなければならない。さらに、特定の用途では、−46℃での衝撃強さが100J超であるのが望ましいが、これらの用途において酸素含有率は、200ppm未満でなければならない。
【0047】
実施例2
粉末は、270kgのHF炉で製造したインゴットから噴霧化し、それからカプセルを充填し、1150℃、100MPaで3時間、HIP処理し、約1200℃で溶体化処理した。使用した材料は、加熱体890273の試料2つと、加熱体890274の試料2つであった。カプセルのサイズは、140×850mmであった。カプセルを取り外し、バーを機械加工して、直径130mmのバーにした。このバーから、HIP条件についての特性評価のための試料を取った。これらの試料を、1150℃で10分間維持して溶体化処理(熱処理)し、それから水でクエンチした。
【0048】
こうして製造された押出成形ビレットは、外径が121mm、肉厚が32mmであった。これらのビレットを1200℃で押出成形して、外径64mm、肉厚7mmの管にした。引張試験体を、溶体化処理したバー及び押出成形された管から得て、結晶粒度は、ASTM E112に従って測定した。
【0049】
表3から見て取れるように、意外なことに、高い降伏強度と良好な伸びが、非冷間加工条件下、又は非析出硬化条件下で押出成形された管について、観察された。表3から見て取れるように、意外なことに、押出成形後にさらなる冷間加工を行わなくても、高い降伏強度が既に存在した。
【0050】
【0051】
実施例3
表4に従った組成を有する粉末を、270kgのHF炉で製造したインゴットから噴霧化した。それからカプセルを充填し、1150℃、100MPaで3時間HIP処理し、それから1200℃の温度で溶体化処理した。カプセルのサイズは、140×850mmであった。得られた押出成形ビレットを、外径121mm、肉厚32mmの寸法で製造した。カプセルを取り外した。それからこれらのビレットを、1200℃で押出成形して、外径64mm、肉厚7mmの管にした。酸洗い後、これらの管を室温で冷間ピルガー圧延して、25.4×2.11mmにし、それから1200℃の温度で溶体化処理した。
【0052】
65°の斜角、1.2mmの溝、及び1.0mmの丘状部を有するV字状の接合部を、溶加材物質のために使用した。溶接は、1Gの溶接位置で、管を回転させながら、ガスタングステンアーク溶接(GTAW)法によって、アルゴンと、シールドガスとして2〜5%のN
2と、ルートガス(root gas)とから成るガスを用いて行った。
【0053】
引張試験体は、管溶接部に対して横方向に取り、ASME IX QW−462.1(C)に従って用意した。管から2つの試験体を参照用として、管ローラ加工方向に対して長手方向に採取した。引張試験は、室温で、ASTM E8Mに従って行った。CPTは、ASTM G150を修正して3MのMgCl
2で行った。
【0054】
これらの結果から見て取れるように冷間ピルガー圧延し、アニールされた管は、極めて高い降伏強度を有し、溶接された場合、降伏強度は533MPaである。高いピッティング耐性、及びH
2Sに対する良好な耐性とともに、高い降伏強度を有することによって、管と溶加材とのこのような組み合わせは、アンビリカルにとって良好な選択肢となる。
【0055】
【0056】