特許第6781362号(P6781362)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781362
(24)【登録日】2020年10月20日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】排水栓装置
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/22 20060101AFI20201026BHJP
   E03C 1/23 20060101ALI20201026BHJP
   A47K 1/14 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   E03C1/22 C
   E03C1/23 Z
   A47K1/14 B
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-247357(P2016-247357)
(22)【出願日】2016年12月21日
(65)【公開番号】特開2018-100539(P2018-100539A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】302045705
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(73)【特許権者】
【識別番号】392028767
【氏名又は名称】株式会社日本アルファ
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】夏目 昌寿
(72)【発明者】
【氏名】牧 道太郎
(72)【発明者】
【氏名】石垣 征樹
(72)【発明者】
【氏名】須藤 翼
(72)【発明者】
【氏名】北川 浩平
【審査官】 下井 功介
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭55−163367(JP,U)
【文献】 特開2012−251315(JP,A)
【文献】 実開昭63−083089(JP,U)
【文献】 特開2015−108267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/22、1/23、
A47K 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔操作によって排水栓を開閉する際の開口量が可変な排水栓装置であって、
前記開閉の操作を行うための操作機構と、
前記操作機構の操作に応じて前記排水栓側の端部が移動する機械要素を介して、前記操作機構の操作を前記排水栓に伝達するための伝達機構と、
前記排水栓の閉時における前記伝達機構に備えられた機械要素の前記操作機構側の端部の位置と、開時における該端部の位置との変位量を変化させるための可変機構と、
前記可変機構を動作させて前記変位量を調整するための調整部とを備える排水栓装置。
【請求項2】
請求項1記載の排水栓装置であって、
前記可変機構は、排水栓を開いたときの前記機械要素の前記操作機構側の端部の位置を変化させる機構である排水栓装置。
【請求項3】
請求項2記載の排水栓装置であって、
前記操作機構は、開操作に応じて、前記機械要素の前記操作機構側の端部を前記排水栓の開時の位置に保持する保持機構を備え、
前記可変機構は、前記保持機構の位置を移動させる機構である排水栓装置。
【請求項4】
請求項3記載の排水栓装置であって、
前記保持機構は、
前記操作機構のボタンを押し下げる操作ごとに、前記機械要素の前記操作機構側の端部を前記排水栓の閉時の位置と、開時の位置に交互に保持するスラストロック機構であり、
前記排水栓の閉時における前記操作機構側の端部の位置は、前記スラストロック機構の位置に依存せず固定された規制部によって規制される排水栓装置。
【請求項5】
請求項3または4記載の排水栓装置であって、
前記保持機構は、水平方向に外部に張り出す張出部を有しており、
前記可変機構は、
前記張出部の位置を上下方向に移動させることが可能なカム機構である排水栓装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載の排水栓装置であって、
前記調整部は、前記操作機構の近傍に設けられている排水栓装置。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載の排水栓装置であって、
前記調整部には、前記変位量が視覚的に認識可能な表示が付されている排水栓装置。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の排水栓装置であって、
前記調整部には、節度感が付与されている排水栓装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水口などの管口や孔に取り付けられ、機械的に開閉可能な機構を備える排水栓装置に関し、特に排水口の開き具合、即ち開口量を変更可能な排水栓装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浴槽の底面などの排水口に設けられた排水栓を機械的に開閉可能な排水栓装置として、操作部のボタンを操作すると、その操作力をレリースワイヤやリンクで、排水栓に伝達して開閉するものが知られている。特許文献1は、かかる排水栓装置の一例として、排水口に対して排水栓が適正な位置で開閉できるようにするためのアジャスト機構、即ち操作力を伝達するリンクの先端に取り付けられた栓体の位置をネジ送りで進退させることができる機構を有するものを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−60070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の排水栓装置では、排水栓の開口量(排水栓を排水口から持ち上げる量という意味で「リフト量」と呼ぶこともある)を調整することは考えられていなかった。リフト量を大きくすれば、排水時間を短くできるという利点がある一方、排水栓と排水口の隙間から排水口の中が見えることがあり美観を損ねるという欠点もある。リフト量が大きい場合には、槽内に落とした物やゴミが排水口内に流れ込んでしまいやすく、ヘアキャッチャーのような機構を設けなければ、物の紛失やゴミによる管のつまりなどを生じやすくもなる。また、排水時の流出音は、リフト量によって変化することが確認されており、排水栓を利用する場所や場面によっては、流出音の調整が望まれることもある。
これらの事情を考慮すると、排水栓装置において、利用者が比較的容易にリフト量を調整できることが好ましいと言える。本発明は、かかる課題に鑑み、排水栓装置において、排水栓の開口量、リフト量を調整可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
遠隔操作によって排水栓を開閉する際の開口量が可変な排水栓装置であって、
前記開閉の操作を行うための操作機構と、
前記操作機構の操作に応じて前記排水栓側の端部が移動する機械要素を介して、前記操作機構の操作を前記排水栓に伝達するための伝達機構と、
前記排水栓の閉時における前記伝達機構に備えられた機械要素の前記操作機構側の端部の位置と、開時における該端部の位置との変位量を変化させるための可変機構と、
前記可変機構を動作させて前記変位量を調整するための調整部とを備える排水栓装置として構成することができる。
【0006】
本発明では、可変機構によって伝達機構の操作機構側の端部の変位量を変化させることができるため、これに応じて排水栓側の変位量も変化させることができ、排水栓の開口量を変化させることができる。
本発明では、可変機構は、操作機構側の端部の変位量を変化させるものであるため、伝達機構の排水栓側ではなく、操作機構側に設けられることになる。そして、結果として、可変機構の変位量を調整するための調整部も、操作機構側に設けられることになる。従って、排水栓装置の利用者は、操作機構に比較的近い場所にある調整部によって、開口量を調整することが可能となる利点もある。
【0007】
操作機構は、利用者が直接操作する押しボタン、押し引き棒、回転ツマミなどの操作部のみで構成してもよいし、操作部の操作を伝達機構に伝えるために介在する何らかの機構を備えるものとしてもよい。また、操作機構は、伝達機構に直接連結されている場合のみならず、両者の間に一定の遊びが設けられているものとしてもよい。
機械要素は、ワイヤ、リンク、排水栓を押し上げる押し上げ棒などとすることができる。
伝達機構は、機械要素の排水栓側の端部が移動する、即ち排水栓を開閉するように移動する機構であるが、この端部と排水栓とは直接連結されていてもよいし、一定の遊びが設けられているものとしてもよい。
【0008】
本発明において、
前記可変機構は、排水栓を開いたときの前記機械要素の前記操作機構側の端部の位置を変化させる機構であるものとしてもよい。
【0009】
機械要素の長さが固定であれば、排水栓を閉じた時の操作機構側の端部の位置は決まることが多いため、上記態様では、排水栓を開いた時の端部の位置を可変とすることにより、開閉に伴う変位量を変化させることができる。
【0010】
また、本発明において、
前記操作機構は、開操作に応じて、前記機械要素の前記操作機構側の端部を前記排水栓の開時の位置に保持する保持機構を備え、
前記可変機構は、前記保持機構の位置を移動させる機構であるものとしてもよい。
【0011】
かかる態様では、保持機構全体の位置を移動させるため、比較的簡易に可変機構を実現することができる利点がある。保持機構は、摩擦を利用して保持する機構や、スラストロック機構など、種々の構成をとることができる。また、利用者が操作部から手を離した状態で自然に保持される機構のみならず、ネジ・ピンなどを用いて手動で留める機構としてもよい。
保持機構が、排水栓の開時の位置、閉時の位置をそれぞれ保持する構成となっている場合には、排水栓の閉時の伝達機構の端部の位置を保持機構の位置に関係なく一定にするための構造をとることが好ましい。かかる構造として、伝達機構の端部と、保持機構との間に一定の遊びを設けることが考えられる。こうすることにより、保持機構の位置に応じて遊びの大きさが変化することによって、排水栓の閉時の伝達機構の端部の位置を一定に保つことが可能となる。
【0012】
保持機構の位置を移動させる可変機構を設ける場合には、
前記保持機構は、
前記操作機構のボタンを押し下げる操作ごとに、前記機械要素の前記操作機構側の端部を前記排水栓の閉時の位置と、開時の位置に交互に保持するスラストロック機構であり、
前記排水栓の閉時における前記操作機構側の端部の位置は、前記スラストロック機構の位置に依存せず固定された規制部によって規制されるものとしてもよい。
【0013】
上記態様は、例えば、排水栓の開時の位置は、スラストロック機構に備えられた回転ギヤとロックギヤによって規制されるように構成し、排水栓の閉時の位置は回転ギヤおよびロックギヤ以外の部分で規制される構造とすることができる。
上記態様によれば、スラストロック機構の位置に依存せず排水栓閉時の端部の位置を一定に保つことが可能となる。
【0014】
また、本発明においては、
前記保持機構は、水平方向に外部に張り出す張出部を有しており、
前記可変機構は、
前記張出部の位置を上下方向に移動させることが可能なカム機構であるものとしてもよい。
より具体的には、一例として、
前記可変機構は、
所定の鉛直軸を中心に回転可能な円筒部材であり、
該円筒部材の内部には、前記張出部によって前記保持機構の上下方向の位置を規制する螺旋状に形成された溝または段差を有しており、
該円筒部材を前記保持機構に対して相対的に回転させることにより、前記溝または段差にはめ込まれた張出部の位置を上下方向に移動させることが可能な機構であるものとしてもよい。
円筒に代えて、円弧状の板部材を用いても良い。また、円筒状、円弧は厳密に真円である必要はなく、回転可能な程度の曲面であればよい。
【0015】
かかる機構によれば、保持機構を上下方向に移動させることにより、開口量を変化させることが可能となる。
また、保持機構の位置は、円筒部材の回転で調整できるため、保持機構の位置によって美観が変化するなどという弊害なく、位置調整のための操作も容易である利点がある。
【0016】
本発明においては、
前記調整部は、前記操作機構の近傍に設けられているものとしてもよい。
【0017】
こうすることにより、開口量の調整と開閉のための操作をほぼ同一箇所で行うことができ、利便性が向上する。また、両者を近傍にまとめることによりすっきりとした美観を実現することもできる。
近傍とは、ユーザが操作機構を操作する際の視線や姿勢をそれほど変えることなく調整部を調整できる程度の位置関係を言う。調整部と操作機構とを近傍に設ける態様は、種々、考えられるが、例えば、操作機構が押しボタンである場合、調整部は、押しボタンの周囲に設けられた回転リングとすることが考えられる。また、押しボタン自体を回転させることによって調整部として機能するようにしてもよい。
【0018】
本発明においては、
前記調整部には、前記変位量が視覚的に認識可能な表示が付されているものとしてもよい。
【0019】
こうすることにより、利用者は比較的容易に開口量を把握することが可能となる。
【0020】
本発明においては、
前記調整部には、節度感が付与されているものとしてもよい。
【0021】
こうすることにより、開口量を段階的に変化させることができ、利便性が向上する。
【0022】
ここで、以上で説明した機構、特に排水栓を開いたときの前記機械要素の前記操作機構側の端部の位置を変化させる機構について、いくつか具体例を示す。
図1は、押しボタンを利用した開閉機構において操作機構側の端部の位置を変化させる機構を示す説明図である。図1(a)に示す通り、この機構では、利用者が押下げるための押しボタンと、押しボタンに対する操作に従ってレリースワイヤの端部(レリースワイヤがアウタチューブとインナワイヤで構成されている場合は、インナワイヤの端部)を動かすメカボックス(スラストロック機構に限られない)とが備えられており、この押しボタンとメカボックスとが、本明細書における操作機構に該当する。メカボックスは、排水栓を開いた時にレリースワイヤの端部の位置を保持する保持機構としても機能する。レリースワイヤの他端(図示しない側の端部)には、排水栓が取り付けられており、レリースワイヤの端部の位置に応じて、排水栓が上下動して排水口が開閉することになる。そして、メカボックスは、固定された可変機構に上下方向に移動可能に組み付けられている。図1(a)は、メカボックスが可変機構の上端から若干下がったp1の位置に調整されている状態を示し、図1(b)は、メカボックスが可変機構の上端の高い位置に調整されている状態を示している。この排水栓装置には、メカボックスの位置を調整するための調整部も設けられているが、ここでは図示を省略した。
【0023】
図1(a)において、排水栓を閉じた状態が左側の状態である。このとき、レリースワイヤの端部は、可変機構の上端からp2の位置にある。この状態で、利用者が押しボタンを押下げると、右側のように、レリースワイヤの端部は、メカボックスの上端からp3の位置まで下がったところで保持される。メカボックス自体が可変機構の上端からp1だけ下がった位置にあるから、レリースワイヤの端部は、可変機構の上端から(p1+p3)の位置で保持されることになる。このとき、レリースワイヤの他端に取り付けられた排水栓は、レリースワイヤの端部の変位量A1(=p1+p3−p2)だけ、持ち上げられることになる。つまり、図1(a)の開口量は、変位量A1となる。
【0024】
次に、図1(b)のようにメカボックスを上の方に移動させた場合を考える。かかる場合でも、左側に示すように、排水栓を閉じた時の端部の位置は、可変機構の上端からp2の位置で変わらない。一方、押しボタンを押下げたときは、右側に示すように、端部はメカボックスの上端からp3の位置まで下がったところで保持される。図1(b)の状態では、メカボックスは可変機構の上端まで移動しているから、押しボタンを押下げたときの端部の位置は、可変機構の上端からp3の位置となる。従って、開閉に伴う端部は、変位量A2(=p3−p2)となり、これが開口量となる。
図からも、上述の変位量A1、A2の式からも明らかな通り、変位量A1>変位量A2である。このように、図1に示した機構では、保持機構として機能するメカボックスの位置を移動させることにより、開口量を変化させることが可能となる。
【0025】
図2は、押し引き棒を利用した開閉機構において操作機構側の端部の位置を変化させる機構を示す説明図である。中央の図に示すように、この機構では、利用者が押し引き棒を押下げたり、引き上げたりすることにより、排水栓の開閉を行う。押し引き棒は、操作機構に相当する。押し引き棒には、レリースワイヤ(レリースワイヤがアウタチューブとインナワイヤで構成されている場合は、インナワイヤの端部)が連結されている。また、押し引き棒を押下げる限界の位置は、規制部によって規制されている。規制部は、固定の可変機構内で上下方向に移動させることができる。移動させるための調整部は、図示を省略した。押し引き棒を引き上げる限界の位置は、規制部の位置とは無関係に排水栓が閉じることによって決まる。
【0026】
図2の中央は、押し引き棒を引き上げた状態、即ち、排水栓を閉じた状態を表している。左側の図は、規制部が可変機構の上端からPB1という低い位置にある状態を示している。このとき排水栓の開閉に伴うレリースワイヤの端部の変位は、中央の状態から左側の図の状態に至る変位となり、図中の変位量B1で表される。
一方、右側の図は、規制部が可変機構の上端からPB2という比較的高い位置にある状態を示している。このとき排水栓の開閉に伴うレリースワイヤの端部の変位は、中央の状態から左側の図の状態に至る変位となり、図中の変位量B2で表される。
図から分かる通り、変位量B1>変位量B2であり、図2に示した機構では、規制部を上下に移動させることにより、レリースワイヤの端部の位置を変化することができ、開口量を変化させることが可能となる。
図2のような押し引き棒を利用する機構においても、図1のメカボックスのような保持機構を適用し、保持機構の位置を変化させる構造を適用することも可能である。
【0027】
図3は、回転ツマミを利用した開閉機構において操作機構側の端部の位置を変化させる機構を示す説明図である。
図3(a)に示すように、この機構では、利用者が排水栓の開閉のために矢印a1のように回転操作する回転ツマミを備えている。回転ツマミには、突起が設けられており、これが規制部に当たるところで回転ツマミの回転は規制される。規制部は、矢印a2に示すように固定の可変機構に沿って移動可能に取り付けられている。
回転ツマミの回転は、回転軸を介して従動板に伝達される。従動板は回転軸に固定された円板である。従動板には、図示するように押し上げ棒が取り付けられており、この押し上げ棒が、排水栓を押し上げることにより、閉じていた排水栓を開くことができるようになっている。図3の構成では、回転ツマミ、回転軸、および従動板が操作機構に該当し、押し上げ棒が伝達機構に該当する。図3において、回転軸および従動板を省略した構成とすることも可能である。
【0028】
図3(b)は、従動板の動きと排水栓の開口量との関係を表している。押し上げ棒が破線で示した閉位置のように低い位置にあるとき、排水栓は閉じた状態となっている。回転ツマミを回転させると、回転角度が小さいときは、押し上げ棒が破線pc2の位置となり、排水栓を変位量C2だけ押し上げる。この変位量C2がこの時点の開口量となる。回転角度が大きくなると、押し上げ棒が破線pc1の位置となり、排水栓を変位量C1だけ押し上げる。この変位量C1がこの時点の開口量となる。
このように回転ツマミを設けた場合には、その回転角度を規制部の位置によって規制することによって、伝達機構としての押し上げ棒の変位を変化させることができ、開口量を調整することができる。
【0029】
以上で説明した種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、本発明は、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりして構成することができる。
また、以上の説明で例示した具体例は、それぞれ機構の一例として示したに過ぎず、本発明をこれらの機構に限定する趣旨ではない。
さらに、「排水栓を開いたときの前記機械要素の前記操作機構側の端部の位置を変化させる可変機構」において説明した種々の特徴は、「開閉の操作における操作機構における操作部の変位量に対する前記機械要素の前記操作側の端部の変位量の割合を変化させる可変機構」においても、適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】押しボタンを利用した開閉機構において操作機構側の端部の位置を変化させる機構を示す説明図である。
図2】押し引き棒を利用した開閉機構において操作機構側の端部の位置を変化させる機構を示す説明図である。
図3】回転ツマミを利用した開閉機構において操作機構側の端部の位置を変化させる機構を示す説明図である。
図4】実施例1における排水栓装置の全体構成を示す説明図である。
図5】排水栓装置の保持機構の構成を示す説明図である。
図6】可変機構の構成を示す説明図である。
図7】可変機構の動作を示す説明図である。
図8】可変機構の変形例を示す説明図である。
図9】実施例2における保持機構の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0031】
本発明の栓装置につき、浴槽の排水口に取り付ける排水栓装置として構成した場合の実施例を以下に示す。ただし、本発明は、浴槽の排水口に限らず、洗面台その他種々の排水口に適用可能である。
図4は、実施例1における排水栓装置の全体構成を示す説明図である。排水栓装置1は、浴槽100の底板101に設けられた排水口104を開閉するための装置である。開閉機構4を構成する押しボタン2は、槽体102の上部のリム103に設けられている。押しボタン2を押し下げると、その動作がレリースワイヤ3で伝達され、排水口104の排水栓を機械的に開閉することができる。レリースワイヤ3は、アウタチューブとインナワイヤとで構成されているが、ここでは図示を省略した。
なお、図4の押しボタン2付近の構造は、一般的なものを模式的に示したものであり、実施例1における詳細な構造は、図5以降に示す。
【0032】
図5は、排水栓装置の保持機構の構成を示す説明図である。図4における押しボタン2の周辺の構造およびその動作を詳細に示したものである。なお、図面の詳細度が図4とは異なるため、図5では、各部位の符合も図4と無関係に改めて付してある。
【0033】
実施例1では、保持機構として、押しボタン11を矢印Aのように押下げる度に、レリースワイヤのインナワイヤ13を排水栓の開位置、閉位置でそれぞれ保持するスラストロック機構20を採用している。図5(a)には、スラストロック機構20の内部構造を斜視図で示した。図示する通り、スラストロック機構20は、ガイド15に組み付けられている。ガイド15は、図4における浴槽のリム103など、操作用の押しボタン11を取り付ける箇所に固定される部材である。押しボタン11は、ロッド12を介して保持機構20およびレリースワイヤのインナワイヤ13に連結されているため、押しボタン11を押下げる動作によって、排水栓を開閉することができるのである。
【0034】
ロッド12の位置を保持するため、スラストロック機構20の構成部品として、ロッド12には、途中に段差を設け、この部分に回転ギヤ21がはめ込まれている。図5(b)は、回転ギヤ21の平面図および側面図である。図示する通り、回転ギヤ21は、円筒状の本体21aの周囲4カ所に径方向の突起である歯部21bが設けられている。本体21aの中心の孔には、ロッド12が挿入され、回転ギヤ21は、ロッド12を軸として図5(b)中の矢印Bのように回転可能となっている。回転ギヤ21の回転に応じて歯部21bの周方向の位置が変動し、歯部21bが後述する他の部材と係合する部位が変化して、ロッド12を保持する位置が変化するようになっているのである。
【0035】
図5(a)に戻り、スラストロック機構20の説明を続ける。ロッド12および回転ギヤ21の周囲には、ロックギヤ22が設けられている。本実施例では、ロックギヤ22の上方は、周囲に張り出した張出部22aとなっており、張出部22aによってロックギヤ22は、上下方向の位置が保持されている。本実施例では、ダイヤル10を回転することにより、ロックギヤ22の上下方向の位置を調整することができるようになっているが、このための構造については、後述する。
ロックギヤ22は、中央部分に孔が設けられ、ロッド12の上下動のガイドとして機能する。また、ロックギヤ22の周囲4カ所には下方に突出したツメ部22bが形成されており、これが回転ギヤ21の歯部21bと係合することにより、回転ギヤ21ひいてはロッド12の位置を下位置で保持することができるようになっている。
【0036】
ロックギヤ22の下側には、送りギヤ23が設けられている。送りギヤ23は、突起部23aを、ロックギヤ22にはめ込むことによってロックギヤ22と一体的に組み付けられている。送りギヤ23の下方には、押しボタン11を押し下げた時に回転ギヤ21の歯部21bに当たる位置に断面が鋸の歯のような形状をした鋸ツメ部23bが形成されている。鋸ツメ部23bは、押しボタン11を押し下げるたびに、回転ギヤ21を周方向に回転させ、回転ギヤ21の歯部21bを周方向に順次送る送り機能を奏する。
【0037】
ロックギヤ22の上方には、お椀を逆さにした形状のケース24が取り付けられている。本実施例では、ロックギヤ22は上下方向に位置を調整可能となっているが、ケース24は、ロックギヤ22の位置に関わらず一定の高さに固定される部材である。
ケース24の中央には、ロッド12とほぼ同径の孔が設けられており、ロッド12が挿入されている。ロッド12には、ケース24の下側で径が太くなる段差12aが設けられており、これによってロッド12の上方の位置が規制される。ロッド12には、押しボタン11、インナワイヤ13が取り付けられているから、上述の段差12aとケース24によって、押しボタン11の戻り位置、インナワイヤ13の上方の位置、即ち排水栓を閉じた時の位置が規制されることになる。
【0038】
図5(c)に、スラストロック機構20の動作を模式的に示した。周方向に配置されているロックギヤ22のツメ部22bおよび送りギヤ23の鋸ツメ部23bを直線状に配置した状態で示してある。
押しボタン11を押し下げると、回転ギヤ21の歯部21b[1]、21b[4]は、矢印Cのように下に押し下げられる。そして、送りギヤの鋸ツメ部23b[2]に当たると、その斜面にそって図中の左方向に滑るようにして歯部21b[2]の状態まで送られる。その後、利用者が押しボタン11を放すと、押しボタン11はバネの付勢力によって上方に戻され、これに伴って回転ギヤ21も上方に戻る。このとき、回転ギヤ21の歯部23b[2]がロックギヤ22のツメ部22b[2]に当たり、その斜面にそって図中の左方向に滑るようにして歯部21b[3]の状態まで送られる。この結果、回転ギヤ21は、押しボタン11を押し下げる前の歯部21b[1]の状態から見ると、それよりも下側の歯部21b[3]の状態で保持されることになる。回転ギヤ21がこのように保持されているとき、ロッド12に連結されたインナワイヤ13も下がった状態で保持されるため、排水栓を開いた状態で保持することができる。
【0039】
続いて押しボタン11を押し下げた時の動作を説明する。回転ギヤ21が、歯部21b[3]の状態で保持されているとき、その隣は、歯部21b[5]の状態で保持されている。この状態で押しボタン11が押し下げられると、歯部21b[5]は、矢印Dのように押し下げられ、送りギヤの鋸ツメ部23b[1]に当たると、その斜面にそって図中の左方向に滑るようにして歯部21b[6]の状態まで送られる。歯部21b[3]も同様の動作をするが、図の煩雑化を回避するため、図示は省略してある。
【0040】
歯部21b[6]の状態になった後、利用者が押しボタン11を放すと、押しボタン11が上方に戻るのに伴って歯部21b[6]も上方に移動するが、ロックギヤ22のツメ部22b[1]に当たると、その斜面にそって図中の左方向に滑るようにして送られ、歯部21b[5]のようなツメ部22b[1]による保持状態から解放されることになる。この結果、回転ギヤ21は、当初の歯部21b[1]、21b[4]と同じ高さまで戻されることになる。このときの戻り位置は、先に図5(a)で説明した通り、ロッド12の段差12aとケース24によって規制されることになる。回転ギヤ21の戻りに伴って、ロッド12に連結されたインナワイヤ13も上方に引き上げられることになるため、排水栓を閉じた状態に保持することができるのである。
【0041】
以上で説明した通り、本実施例のスラストロック機構20は、押しボタン11を押し下げるたびに、インナワイヤ13を排水栓の開状態、閉状態に交互に保持することができる。また、スラストロック機構20は、高さ方向を調整可能であるが、排水栓の閉状態におけるインナワイヤ13の位置は、スラストロック機構20の位置に関わらずケース24によって一定の位置に規制される。
【0042】
次に、スラストロック機構20の高さを調整する可変機構の構造について説明する。
図6は、可変機構の構成を示す説明図である。図6(a)は、スラストロック機構20の断面図であり、図6(b)は断面斜視図である。スラストロック機構20の構造は、図5で説明した通りである。
【0043】
本実施例では、スラストロック機構20が組み付けられているガイド15の内側には、円筒状の調整シリンダ30が回転可能にはめ込まれている。調整シリンダ30の斜視図を図6(c)に示した。図示する通り、調整シリンダ30は、円筒状の本体32と、その上方にダイヤル31が張り出した形状となっている。本体32の内側には、らせん状のガイド溝33が形成されている。また、ダイヤル31の上面には、「開」、「閉」という文字とともに、メモリ34が描かれている。
【0044】
図6(a)、図6(b)にそれぞれ示す通り、スラストロック機構20のロックギヤ22の張出部22aは、調整シリンダ30のガイド溝33にはめ込まれている。この状態で、調整シリンダ30を図6(b)に示した矢印Aのように回転させると、張出部22aがガイド溝33内を移動し、これによってスラストロック機構20の高さが図6(a)、図6(b)中の矢印Bのように変化する。本実施例では、かかる原理で高さ方向を調整可能とするため、スラストロック機構20が、調整シリンダ30と一体となって回転しないようにスラストロック機構20の回転を規制する構造を設けている。
【0045】
スラストロック機構20の位置が高くなれば、排水栓を開いたときにインナワイヤ13が保持される位置も高くなる。つまり、図1に示したように、排水栓の閉状態から開状態のインナワイヤ13の端部の変位は小さくなることを意味しており、排水栓の開口量を小さくすることができる。逆にスラストロック機構20の位置が低くなれば、排水栓の開口量を大きくすることができる。
【0046】
本実施例では、利用者が開口量を容易に把握できるよう、図6(b)に示すように、押しボタン11の上面と、ダイヤル31の上面にメモリを設けた。ダイヤル31を回転させたときも、スラストロック機構20の回転が規制されている結果、押ボタンがスラストロック機構と相対回転しない構造としておけば押しボタン11も回転しないため、利用者は、両者のメモリによって、ダイヤル31の回転量を把握でき、排水栓の開口量を把握することができる。
メモリは、必ずしも押しボタン11、ダイヤル31の上面に設ける必要はなく、例えば、押しボタン11等が取り付けられる浴槽のリムとダイヤルに設けるようにしてもよい。
また、メモリを省略し、ダイヤル31の上面等に、「開」「閉」や「高」「低」という記載のみを行っても良い。
【0047】
また、ダイヤル31の回転には、節度感を持たせてもよい。こうすることで、開口量を段階的に切り替えることができ、利用者は従前に利用した開口量を容易に再現できるため、利便性を向上させることができる。
ダイヤル31の回転に節度感を持たせるための構造については、周知の技術を種々適用可能であるため、詳細な説明を省略する。
【0048】
図7は、可変機構の動作を示す説明図である。図7(a)は、スラストロック機構20を下げたときの断面図であり、図7(b)はその斜視図である。スラストロック機構20は、ダイヤル31の下端から下側にH1の位置にある。ケース24は、スラストロック機構20の位置に関わらず一定の高さに固定されているから、図7(a)、図7(b)の状態では、ケース24は、ロックギヤ22よりも若干、上方に突出した状態となっている。
かかる状態で、押しボタン11を押せば、排水栓の開状態では、インナワイヤ13は低い位置で保持され、開口量が大きくなる。
【0049】
図7(c)は、調整シリンダ30を回転させてガイド溝33に沿ってスラストロック機構20を上げたときの断面図であり、図7(d)はその斜視図である。スラストロック機構20は、ダイヤル31の下端から下側にH2(<H1)の位置にある。ケース24は、スラストロック機構20の位置に関わらず一定の高さに固定されているから、図7(c)、図7(d)の状態では、ケース24は、ロックギヤ22よりも下に埋もれた状態となっている。
かかる状態で、押しボタン11を押せば、排水栓の開状態では、インナワイヤ13は高い位置で保持され、開口量が小さくなる。
このように調整シリンダ30を回転させることにより、ロックギヤ22の高さを変更し、ひいては開口量を変更することが可能となる。
【0050】
本実施例の調整シリンダ30は、次のような変形例をとることもできる。即ち、図6(c)に示すように、ガイド溝33の下のライン33L以下のハッチングを付した部分33Cを削り取った構造としてもよい。(以下、変形例の構造をガイド溝33Aと示す)このとき、スラストロック機構20の位置は、ガイド溝33Aの上のライン33Uによって規制されることになる。
【0051】
図8は、可変機構の変形例を示す説明図である。図8(a)は、スラストロック機構20を下げたときの断面図であり、図8(b)はその斜視図である。スラストロック機構20は、ダイヤル31の下端から下側にH1の位置にある。また、図8(c)は、調整シリンダ30を回転させてガイド溝33Aに沿ってスラストロック機構20を上げたときの断面図であり、図8(d)はその斜視図である。スラストロック機構20は、ダイヤル31の下端から下側にH2(<H1)の位置にある。
【0052】
変形例では、ガイド溝33Aは、下側のライン33L(図6(c)参照)が切除された状態となっている。従って、ロックギヤ22は、バネによってガイド溝33Aに下側から押し付けられるようにして保持されているに過ぎず、荷重がかかれば下側に下がり得る状態となっている。かかる状態で、押しボタン11を押し下げると、回転ギヤが送りギヤ23に当たった後は、図8(c)の矢印Aに示すように、スラストロック機構20全体が押し下げられることになる。そして、利用者が押しボタン11を放すと、バネの力で上方に押し戻され、それぞれ図8中に示した状態に戻ることになる。
つまり、変形例では、スラストロック機構20全体が押し下げられるような構造としたことにより、押しボタン11を押し込むときのストロークを、ロックギヤ22の高さに関わらず一定とすることができることになる。この結果、利用者による押しボタン11の操作感を一定にすることができる利点がある。
【0053】
以上で説明した実施例1の排水栓装置によれば、スラストロック機構の高さを調整することにより、排水栓の開口量を調整することが可能となる。
【実施例2】
【0054】
次に、実施例2としての排水栓装置について説明する。
図9は、実施例2における保持機構の構成を示す説明図である。実施例1と異なり、利用者が操作する操作部として押し引き棒を利用した構造となっている。即ち、利用者が、押し引き棒42を押し下げると、そこに連結されたインナワイヤ13を下げることができ、排水栓を開くことができる。押し引き棒42の上端のリング41をもって上に引き上げると、逆に排水栓を閉じることができる。
【0055】
実施例2の保持機構50は、ガイド15B内に組み付けられている。保持機構50の底部52bは、インナワイヤ13が貫通することはできるが押し引き棒42が通り抜けることはできない程度の大きさの孔が設けられている。従って、押し引き棒42を押し下げた時の位置は、底部52bによって規制されることになる。押し引き棒42の先端付近には、オーリング42cがはめ込まれており、この摩擦力によって押し引き棒42の位置は保持される。オーリング42cに代えて、機械的に保持する機構を設けても良い。
【0056】
保持機構50の上側には、保持機構50の位置に関わらず一定の高さに固定されたケース54が設けられており、実施例1と同様、押し引き棒42に形成された段差42aとケース54によって、押し引き棒42を引き上げた時の位置は規制されている。
【0057】
保持機構50の上部には、実施例1と同様、張出部52aが設けられている。また、ガイド15Bの内側には、実施例1と同様の調整シリンダ60がはめ込まれている。張出部52aが調整シリンダ60の内部に形成されたガイド溝63に沿って上下することにより、保持機構50の高さを調整することができる。
【0058】
かかる構造からなる実施例2の排水栓装置においても、保持機構50の高さを調整することにより、排水栓の開口量を調整することが可能である。
【0059】
以上、本発明の種々の実施例を説明したが、実施例1、2で説明した種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、適宜、一部を省略したり組み合わせたりして適用することができる。実施例2に対して、実施例1で説明した特徴を適用してもよい。
また、実施例1、2では、押しボタンや押し引き棒に、インナワイヤが連結されている構造を例示したが、両者の間に遊びを設けてもよい。
本発明は、実施例1、2の構造に限らず、種々の変形例をとることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、排水栓の開口量を調整可能な排水栓装置を提供するために利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…排水栓装置
2…押しボタン
3…レリースワイヤ
4…開閉機構
10…ダイヤル
11…押しボタン
12…ロッド
12a…段差
13…インナワイヤ
14…アウタチューブ
15、15B…ガイド
20…スラストロック機構
21…回転ギヤ
21a…本体
21b…歯部
22…ロックギヤ
22a…張出部
22b…ツメ部
23…送りギヤ
23a…突起部
23b…鋸ツメ部
24…ケース
30…調整シリンダ
31…ダイヤル
32…本体
33、33A…ガイド溝
34…メモリ
41…リング
42…押し引き棒
42a…段差
42c…オーリング
50…保持機構
52a…張出部
52b…底部
60…調整シリンダ
63…ガイド溝
100…浴槽
101…底板
102…槽体
103…リム
104…排水口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9