(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
M個(Mは3以上の整数。以下同様。)の前記突起部と、(M−1)個の前記円弧状開口部を備え、各該円弧状開口部は、自身に嵌合する前記突起部の長さが短くなるほど、その開口幅が小さくなるように形成される、
請求項1に記載のロック機構。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜、その説明を省略するものとする。
【0012】
図1(a)は、本発明の実施形態であるロック機構100を適用した車椅子50を示し、
図1(b)は、本実施形態のロック機構100を拡大して示す。
【0013】
図1に例示する車椅子50では、フレーム56に固定された円筒状の軸受54に対して、旋回自在型のキャスター52の回転軸が回転自在に軸支されている。本実施形態のロック機構100は、このキャスター52の回転軸周りの旋回をロックするための機構であり、円板状部材10と、円板状部材20と、ロック状態切替手段30を含んで構成されている。
【0014】
ロック状態切替手段30は、円板状部材20の位置を変更することによりキャスター52のロック状態とロック解除状態の切替を行うための手段であり、
図1(b)に示すように、円板状部材20の上面に連結される棒状のリンク部材32と、リンク部材32の上端に接続されるレバー33と、連結部材35を介して車椅子50のフレーム58に固定される両端開放の円筒部材34と、車椅子50のフレーム56に固定されるガイド部材38を含んで構成されている。
【0015】
ここで、
図1(b)の上側の円に拡大して示すように、円筒部材34には、レバー33を係止するために、深さの異なる2つの切り欠き34a,34bが形成されている。加えて、
図1(b)の下側の円に拡大して示すように、ガイド部材38には、リンク部材32を挿入するガイド穴38aが形成されており、リンク部材32は、円筒部材34とガイド穴38aの双方を貫通することによって、その長手方向に摺動可能に支持されている。
【0016】
図2は、ロック機構100のキャスター52側の拡大図であり、
図2(a)は、ロック機構100を車椅子50の側面から見た図を示し、
図2(b)は、ロック機構100を車椅子50の正面から見た図を示す。
【0017】
円板状部材10は、
図2(a)、(b)に示すように、その平面がキャスター52の回転軸52aの軸心Rに対して垂直になるように、キャスター52に適切な方法で固定されており、キャスター52の旋回に追従して、円板状部材10が軸心Rを中心として回転するように構成されている。
【0018】
一方、円板状部材20の中心には、開口部23が形成されており、円板状部材20は、その開口部23に軸受54が貫通する形で、円板状部材10の上方に平行に配置される。ここで、円板状部材20の上面には、
図2(a)、(b)に示すように、リンク部材32が、長手方向周りに回転自在に固定されており、これにより、リンク部材32の長手方向の摺動に追従して、円板状部材20が、円板状部材10の平面との平行を維持したまま、軸心Rの軸方向に移動可能とされている。
【0019】
加えて、円板状部材20の円板状部材10に対向する平面には、それぞれが異なる長さを有する3個の棒状の突起部22が、当該平面の垂直方向に突出する形で形成されており、円板状部材10には、3個の突起部22のそれぞれが嵌合するための3個の開口部12が形成されている。
【0020】
ここで、
図3に基づいて、円板状部材20と円板状部材10をより詳細に説明する。なお、
図3(a)は、円板状部材20の上面図とA−A’線の断面図を並べて示し、
図3(b)は、円板状部材10の上面図とB−B’線の断面図を並べて示す。
【0021】
図3(a)に示すように、円板状部材20には、円板状部材10に対向する平面に、それぞれが異なる長さを有する3個の突起部22a、22b、22cが形成されている。ここで、3個の突起部22a、22b、22は、それぞれの中心が軸心Rを通る直線L上に位置するように、所定の間隔をおいて配置されており、軸心Rから離れるにつれて、その長さが短くなり、軸心Rから見て最遠の位置に、最短の長さを有する突起部22cが配置されている。また、各突起部22は、円板状部材10の表面に当接したときの摩擦抵抗を小さくするために、その先端が半球状に形成されている。
【0022】
一方、円板状部材10には、最長の突起部22aが嵌合可能な位置に円弧状開口部12aが形成され、突起部22aより短い突起部22bが嵌合可能な位置に円弧状開口部12bが形成され、最短の突起部22cが嵌合可能な位置に円形開口部12cが形成されている。ここで、3個の開口部12a、12b、12cは、それぞれの中心が軸心Rを通る直線L上に位置するように、3個の突起部22の間隔と同じ間隔をおいて形成されている。
【0023】
本実施形態では、2つの円弧状開口部12aと円弧状開口部12bは、軸心Rを中心とする同心円弧上に配置されており、各開口部12に突起部22が嵌合した場合に、突起部22が弧長方向に相対的に摺動自在となるように構成されている。ここで、本実施形態では、最長の突起部22aが嵌合する円弧状開口部12aの円弧の中心角が40度とされ、突起部22aより短い突起部22bが嵌合する円弧状開口部12bの円弧の中心角が20度とされている。
【0024】
以上、本実施形態のロック機構100の構造について説明してきたが、続いて、本実施形態のロック機構100がキャスター52の旋回をロックする仕組みを説明する。
【0025】
図4(a)は、キャスター52のロックを解除する第1の状態を示す。本実施形態においては、リンク部材32の上端に接続されるレバー33が円筒部材34の浅い方の切り欠き34aに係止することで、ロック機構100が第1の状態に遷移する。
【0026】
第1の状態では、リンク部材32に連結する円板状部材20と円板状部材10の間の離間距離が、円板状部材20に形成される最長の突起部22aの長さ(円板状部材20の平面からの突出量)よりも大きい距離Dに維持される。この場合、円板状部材20に形成された3個の突起部22はいずれも対応する開口部12に嵌合することができないので、円板状部材10は、360°旋回可能な状態となり、円板状部材10に固定されるキャスター52(図示せず)はフリーとなる。
【0027】
一方、本実施形態では、キャスター52をロックするにあたって、円筒部材34の切り欠き34aに係止されるレバー33の係止を解いて、リンク部材32を長手方向周りに回転させ、レバー33を円筒部材34の深い方の切り欠き34bに係止する。ここで、本実施形態の円筒部材34は、切り欠き34bの深さと切り欠き34aの深さの差分が距離Dと等しいかそれよりも若干大きくなるように構成されており、レバー33を切り欠き34bに係止することによって、ロック機構100が第2の状態に遷移する。
【0028】
第2の状態では、リンク部材32に連結する円板状部材20が自重で降下することにより、円板状部材20に形成された3個の突起部22が円板状部材10に形成された3個の開口部12に嵌合可能な状態が実現される。
【0029】
図4(b)は、上述した第2の状態を経て、キャスター52がロックされた状態を示す。この場合、自重で降下した円板状部材20に形成された3個の突起部22a、22bおよび22cが、それぞれ、円板状部材10に形成された円弧状開口部12a、円弧状開口部12bおよび円形開口部12cに嵌合することにより、円板状部材10が旋回不能な状態となり、円板状部材10に固定されるキャスター52(図示せず)がロックされる。
【0030】
一方、キャスター52のロックを解除する場合は、切り欠き34bに係止されるレバー33の係止を解いて、リンク部材32を長手方向周りに回転させ、レバー33を切り欠き34aに係止する。これにより、リンク部材32に連結する円板状部材20が軸心R方向に上昇して、円板状部材20と円板状部材10の間に離間距離Dが維持され、円板状部材10は、360°旋回可能な状態となり、円板状部材10に固定されるキャスター52(図示せず)は再びフリーとなる。
【0031】
図5は、ロック機構100が上述した第2の状態に遷移した場合において、円板状部材20に形成された3個の突起部22が円板状部材10に形成された3個の開口部12に順次嵌合していく様子を時系列的に示す。なお、
図5においては、車椅子50の直進方向を矢線で示す。
【0032】
レバー33が切り欠き34bに係止されることにより、ロック機構100が第2の状態に遷移した直後は、円板状部材20に形成された最長の突起部22aが円板状部材10の上面に当接するものの円弧状開口部12aには嵌合しないので、
図5(a)に示すように、円板状部材10とこれに固定されるキャスター52は、360°旋回可能な状態が維持される。
【0033】
続いて、
図5(a)に示す状態から、車椅子50を漕いで車体を直進させると、キャスター52は、
図5(b)に示すように、車輪を直進方向とは反対の方向に向けた状態で、軸心Rを中心として、約40°〜45°の角度範囲で揺動する。
【0034】
その後、キャスター52が約40°〜45°の角度範囲で揺動する過程で、最長の突起部22aの直下に円弧状開口部12aが位置する瞬間が訪れる。この瞬間、円板状部材20(図示せず)が自重で降下することにより、
図5(c)に示すように、突起部22aが円弧状開口部12aに嵌合する。これ以降、突起部22aが、円弧状開口部12aの弧長方向を限度として、相対的に摺動することにより、円板状部材10とこれに固定されるキャスター52の揺動角度範囲が円弧状開口部12aの円弧の中心角40°に制限される。
【0035】
その後、キャスター52が揺動角度範囲40°で揺動する過程で、最長の突起部22aより短い突起部22bの直下に円弧状開口部12bが位置する瞬間が訪れる。この瞬間、円板状部材20(図示せず)がさらに降下することにより、
図5(d)に示すように、突起部22bが円弧状開口部12bに嵌合する。これ以降、突起部22aが、円弧状開口部12bの弧長方向を限度として、相対的に摺動することにより、円板状部材10とこれに固定されるキャスター52の揺動角度範囲が円弧状開口部12bの円弧の中心角20°に制限される。
【0036】
その後、キャスター52が揺動角度範囲20°で揺動する過程で、最短の突起部22cの直下に円形開口部12cが位置する瞬間が訪れる。この瞬間、円板状部材20がさらに降下することにより、
図5(e)に示すように、突起部22cが円形開口部12cに嵌合する。その結果、円板状部材10とこれに固定されるキャスター52の旋回が完全にロックされる。
【0037】
以上、説明したように、本実施形態によれば、車椅子50の直進に伴って、3個の突起部22が、長いものから順番に、対応する開口部12に収まることによって、キャスター52は、その車輪52bの車軸方向が車椅子50の直進方向に対して垂直となった状態でロックされる。裏を返せば、本実施形態では、円形開口部12cは、キャスター52が直進方向に向いたとき、すなわち、キャスター52の車輪52bの車軸方向が車椅子50の直進方向に対して垂直となったときに、突起部22cが自身に嵌合するように、適切な位置に形成される。
【0038】
以上、本実施形態のロック機構100がキャスター52の旋回をロックする仕組みについて説明してきたが、続いて、円板状部材20に形成される突起部と円板状部材10に形成される開口部12の数およびその配置位置について説明する。
【0039】
まず、円板状部材20に形成される突起部と円板状部材10に形成される開口部12の数について説明する。
【0040】
上述した実施形態では、3個の突起部22とこれに対応する開口部12を含む態様を例にとって説明してきたが、本発明は、突起部の数を3個に限定するものではなく、突起部の数はN個(Nは2以上の整数。以下同様。)であればよい。
【0041】
例えば、突起部の数が2個の場合には、ロック機構100は、最短の突起部が嵌合可能な1個の円形開口部と、最長の突起部が嵌合可能な1個の円弧状開口部を含む。例えば、突起部の数がM個(Mは3以上の整数。以下同様。)の場合には、ロック機構100は、最短の突起部が嵌合可能な1個の円形開口部と、その余の(M―1)個の突起部が嵌合可能な(M―1)個の円弧状開口部を含む。この場合、(M―1)個の各円弧状開口部は、自身に嵌合する突起部の長さが短くなるほど、その中心角が小さくなるように形成される。
【0042】
次に、円板状部材20に形成される突起部22と円板状部材10に形成される開口部12の配置位置について説明する。
【0043】
上述した実施形態では、複数の突起部とこれに対応する複数の開口部が軸心Rを通る直線L上に配置される態様を例にとって説明してきたが、本発明の原理上、複数の突起部とこれに対応する複数の開口部は、必ずしも、軸心Rを通る直線L上に配置されている必要はなく、
図6に例示するような態様で、複数の突起部とこれに対応する複数の開口部を配置してもよい。
【0044】
図6に示す例では、軸心Rを中心とする3つの同心円C1〜C3の上に、3個の突起部とこれに対応する3個の開口部が配置されている。具体的には、最長の突起部22xとこれが嵌合可能な円弧状開口部12xが円C1上に配置され、突起部22yとこれが嵌合可能な円弧状開口部12yが円C2上に配置され、突起部22zとこれが嵌合可能な円形開口部12zが円C3上に配置されている。
【0045】
ただし、円形開口部12zは、キャスター52の車輪52bの車軸方向が車椅子50の直進方向に対して垂直となったときに、突起部22zが自身に嵌合するように、適切な位置に形成されており、円形開口部12zは、突起部22zが円形開口部12zに嵌合したときに、突起部22yが自身の中心にくるように、適切な位置に形成されており、円形開口部12zは、突起部22zが円形開口部12zに嵌合したときに、突起部22yが自身の中心にくるように、適切な位置に形成されている。
【0046】
以上、説明したように、本実施形態のロック機構100によれば、車椅子の走行中に、任意のタイミングでキャスター52のロック/解除を行うことができる。本実施形態のロック機構100は、その操作に大きな力を必要とせず、椅子に座ったままの状態で、手元のレバー33を上下するだけで、簡単にキャスター52のロック/解除を行うことができる。また、本実施形態のロック機構100は、既存の自走式車椅子に対して簡単に後付けがすることができる。
【0047】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の設計変更が可能である。
【0048】
例えば、上述した実施形態では、開口部12を有する円板状部材10をキャスター52に固定し、突起部22を有する円板状部材20を円板状部材10の上方に配置する態様を示したが、
図7に示すように、突起部22を有する円板状部材20の方をキャスター52に固定し、開口部を有する円板状部材10を円板状部材20の上方に配置するようにしてもよい。この場合、
図7に示すように、開口部を有する円板状部材10の上面にロック状態切替手段30のリンク部材32が固定され、リンク部材32の長手方向の摺動に追従して、円板状部材10が、円板状部材20の平面との平行を維持したまま、軸心Rの軸方向に移動可能とされることにより、上述したのと同様の原理で、キャスター52のロック/解除が実現される。
【0049】
また、上述した実施形態では、突起部が形成される部材および上述した開口部が形成される部材として、円板状の部材を例示したが、当該部材は、必ずしも円板状の外形を有している必要はなく、キャスター52の旋回を阻害しない適切な外形を有する平板状であればよい。
【0050】
また、上述した実施形態では、突起部が形成される円板状部材が自重で降下する態様を例示したが、適切な手段を介して、突起部が形成される円板状部材の降下方向に付勢力を与えるようにしてもよい。
【0051】
また、本発明のロック機構は、車椅子の片方の前輪(キャスター)のみに適用してもよいし、両輪に適用してもよい。
【0052】
また、上述した実施形態では、本発明のロック機構を車椅子に適用した例について説明したが、本発明のロック機構の適用対象は、車椅子に限定されるものではなく、本発明のロック機構は、旋回自在型のキャスタを備える全ての移動体に対して適用が可能である。
【0053】
その他、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0054】
上記図に示したロック機構を作製して、既存の自走式車椅子に搭載し、その車椅子に乗って、排水勾配が設けられた路面を走行した。走行中に、手元のレバー33を切り欠き34bに係止した状態から、ハンドリムを一漕ぎすると、直ちに、キャスタがロックした。併せて、走行中に、ロックを片手で簡単に解除できることを確認した。