【実施例】
【0110】
〔手順〕
(試薬)
SeeDB2Gは、オムニパーク350(例えば、第一三共;75.5%(w/v)または56.2%(w/w)のイオヘキソール,Tris−EDTA緩衝液に溶解)を使用して調製した。SeeDB2Sは、10mMのTris−Cl(pH7.6)と0.267mMのEDTAとの混合溶液に、イオヘキソール粉末(Histodenz(シグマアルドリッチ)またはNycoden(Axis-shield社))を70.4%(w/w)の濃度で溶解して調製した。なお、SeeDB2Sは「w/v」ではなく「w/w」に基づき調製した点に留意が必要である。溶液1および溶液2は、オムニパーク350を水で希釈し、サポニン(ナカライテスクまたはシグマアルドリッチ)を2%(w/v)で加えることによって調製した。サポニンはロットにより褐変レベルが異なる。褐色の色素は光の透過性を減少させるため、褐色の弱いロットを用いた。CLARITY法のための試薬は和光純薬工業(株)から購入した。屈折率はアッベ屈折計(Erma Inc.)および白色光源を用いて測定した。SeeDB2GおよびSeeDB2SをまとめてSeeDB2と称する。
【0111】
(SeeDB2を用いたマウス脳組織の光学的透明化)
PFAで固定したマウス脳サンプルを、5mLエッペンドルフチューブを用い、オーバーヘッドローテータ(TAITEC)を用いて室温(25℃)で穏やかに(〜4rpm)回転させ、透明化した。まず、固定化された組織サンプルを、PBSに溶解した2%サポニン(シグマ)で一晩インキュベートした。次に、サンプルを、オムニパーク350(第一三共)と2%サポニンを溶解した水との1:2の混合物(溶液1)中で6〜10時間インキュベートし、さらに、オムニパーク350と2%サポニンを溶解した水との1:1の混合物(溶液2)中で6〜10時間インキュベートした。最後に、2%サポニンを溶解したオムニパーク350(溶液3)で、サンプルを12時間以上インキュベートした。薄い脳切片はより短いインキュベート期間で透明化することができた。いくつかのサンプル(例えば、脂質を多く含む組織、および大きなサンプル)は、溶液3におけるインキュベーションを延長してさらに透明化してもよい。SeeDB2Sを用いた透明化については、サンプルをさらに、2%サポニンを含むSeeDB2S(溶液4)中で12時間以上インキュベートした。透明化された組織を、イメージングのため、サポニンを含まないSeeDB2GまたはSeeDB2Sに移した。サンプルの長期保存のため、保存剤として0.01%のアジ化ナトリウムを加えてもよい。蛍光を消失させることがあるので、蛍光タンパク質サンプルに対し、化学的保存料(例えばDABCO)の添加は推奨されない。サンプルは暗所で常温保存可能である。水分の蒸発により表面がべとつくことがあるので、透明化されたサンプルを長時間空気に晒すのは避けることが好ましい。
【0112】
(SeeDB)
SeeDB(80.2%(w/w)フルクトースおよび0.5%(v/v)α−チオグリセロールの水溶液)を、既報に記載のとおり調製した(参考文献:非特許文献4およびKe, M.T., and Imai, T. (2014). Curr Protoc Neurosci 66, Unit 2 22)。正立顕微鏡を用いた共焦点および二光子顕微鏡観察において、屈折率を一致させた2,2’−チオジエタノール水溶液をイマージョン液として使用した(参考文献:非特許文献4)。
【0113】
(CUBIC)
ScaleCUBIC−1(25%(w/w)尿素、25%(w/w)N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、および15%(w/w)Triton X−100の水溶液)およびScaleCUBIC−2(50%(w/w)スクロース、25%(w/w)尿素、10%(w/w)2,2’,2’’−ニトリロトリエタノール、および0.1%(v/v)Triton X−100の水溶液)を既報に記載のとおり調製した(参考文献:非特許文献2)。
【0114】
(CLARITY)
CLARITYの受動的透明化プロトコル(参考文献:Tomer et al. (2014). Nat Protoc 9, 1682-1697)を使用した。電気泳動による脂質除去に基づくオリジナルのプロトコル(参考文献:非特許文献3)よりも形態がよく保存されることが報告されているからである。麻酔したマウスに、20mLの氷冷PBSを、次いで20mLのHM溶液(4%アクリルアミド、0.05%ビスアクリルアミド、4%PFAおよび0.25%VA−044のPBS溶液)を経心的に潅流した。取り出した脳を20mLのHM溶液に移し、4℃で1〜2日間インキュベートした。そして、重合をさせるために、サンプルを37℃で一晩インキュベートした。その後、脳をヒドロゲルから切り取り、SBCバッファー(4%SDSの200mMホウ酸バッファー溶液、pH8.5)で1日間洗浄した。脳切片を作製するため、サンプルを4%低融点アガロースに包埋し、ビブラトームマイクロスライサー(Dosaka EM)を用いてスライスした。透明化のために、サンプルを穏やかに震盪しながらSBCバッファーでインキュベートした。透明化したサンプルを0.1%Triton X−100のPBS溶液で洗浄し、FocusClear(CelExplorer Labs)を用いてマウントした。CLARITY用の試薬は、和光純薬工業から購入した。
【0115】
(ScaleS)
ScaleS0(20%ソルビトール、5%グリセロール、1mMメチル−β−シクロデキストリン、1mMγ−シクロデキストリン、1%N−アセチル−L−ヒドロキシプロリン、および3%DMSO)、ScaleS1(20%ソルビトール、10%グリセロール、4M尿素、および0.2%Triton X−100)、ScaleS2(27%ソルビトール、2.7M尿素、0.1%Triton X−100、および8.3%DMSO)、ScaleS3(36.4%ソルビトール、2.7M尿素、および0.1%DMSO)、ならびにScaleS4(40%ソルビトール、10%グリセロール、4M尿素、0.2%Triton X−100、および20%DMSO)を既報に記載のとおり調製した(参考文献:Hama, H., et al. (2015). Nature neuroscience 18, 1518-1529)。
【0116】
(マウスの株)
全ての動物実験は、理研神戸事業所の動物実験審査委員会に承認されている。C57BL/6Nバックグラウンドにおける、野生型(ICR, C57BL/6N、およびBDF1)、Thy1-YFP line G (JAX #014130)、Thy1-YFP line H (JAX #003782)(参考文献:Feng, G. et al. (2000). Neuron 28, 41-51)、MOR23プロモーター下I7-IRES-ECFP (RIKEN BRC #RBRC02931)(参考文献:Imai et al. (2006). Science 314, 657-661)、MOR29A-IRES-ECFP/MOR29B-EYFP BAC トランスジェニックライン line(参考文献:Tsuboi, A., et al. (2011). The European journal of neuroscience 33, 205-213)、およびR26-H2B-EGFP (Acc.No. CDB0238K; http://www.cdb.riken.jp/arg/reporter_mice.html)(参考文献:Abe et al. (2011). Genesis 49, 579-590)マウスを、イメージング実験に使用した。子宮内エレクトロポレーションのために、C57BL/6J (JAX #005246)と戻し交配したFloxed Grin1マウス(参考文献:Tsien, J.Z., et al. (1996). Cell 87, 1317-1326)を、ICRマウスと交配させた。メスおよびオスの両方をイメージング実験に使用した。
【0117】
(マウス脳サンプル)
組織サンプルを得るため、過剰量のネンブタール(大日本住友ファーマ)を腹腔内投与することで、マウスを深く麻酔し、次いでリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解した4%パラホルムアルデヒド(PFA)を心臓から潅流した。取り出した脳または胚を、PBSに溶解した4%パラホルムアルデヒド(PFA)中において、4℃で一晩かけて固定した。脳切片(0.2〜2mm厚)を、マイクロスライサー(Dosaka EM)を用いて切断した。
【0118】
(子宮内エレクトロポレーション)
NR1(NMDAレセプター機能に不可欠なサブユニット)をコードするGrin1の単一細胞ノックアウト解析を行うために、C57BL/6J×ICRで交配したバックグラウンドにおけるホモのfloxed Grin1マウスおよび野生型マウスを用いた。E12において、pCAG-loxPNeo-loxP-tdTomato(1μg/μL)、pCAG-loxP-Neo-loxP-EYFP-Gephyrin(0.5μg/μL)、およびpCAG-Cre(0.5μg/μL)をL5錐体ニューロンに共エレクトロポレーションし、P22において解析した。子宮内エレクトロポレーションは、鉗子型電極(直径5mm)およびCUY21EXエレクトロポレータ(BEX)を用いて、既報に記載のとおり行った(参考文献:Ke, M.T., Fujimoto, S. & Imai, T. (2013). Nat Neurosci 16, 1154-1161)。バックボーンプラスミドベクターpCAG-CreERT2およびpCAFNF-DsRedは、C. Cepko (Addgene plasmid #14797および#13771)から入手した。
【0119】
(透明度の定量)
透明度の定量は、生後21〜24日の大脳皮質の光の透過を測定して行った。白質が不均等に光散乱するため、半前脳サンプルから視床および海馬を除去し、灰質の部分(大脳皮質)のみを使用した。透明化試薬および透明化された脳の光透過性は、スペクトロフォトメーター(日立、U−5100)を用いて決定した。半脳の皮質サンプルの中央−側面軸に沿った透明度が定量化された。
【0120】
(サンプルの大きさの変化の測定)
光学的透明化のプロセスにおける、サンプルの大きさの変化は、既報のとおり(参考文献:非特許文献4)、成体マウスの半脳サンプルを用いて定量化した。脳の平らな面をディッシュに載せ、立体顕微鏡を用いて上面からイメージングを実施した。線形の膨張量を、領域の面積変化の平方根から決定した。
【0121】
(形態的損傷の定量)
光学的透明化の間の形態変化を定量するために、僧帽細胞の側方樹状突起(in vivoでは突起はわずかで滑らかであった)を利用した。僧帽細胞を低密度で標識するために、AlexaFlour 488−または647−dextram(10kDa)を、既報に記載のとおり、in vivoでマウスの嗅球にエレクトロポレーションした(参考文献:Ke, M.T., Fujimoto, S. & Imai, T. (2013). Nat Neurosci 16, 1154-1161)。in vivoイメージング(AlexaFlour 488)を、麻酔したマウスにおいて二光子顕微鏡を用いて取得した。嗅球を透明化および蛍光イメージング(AlexaFlour 647)した後、僧帽細胞の側方樹状突起を、perisomaticな部位、分岐点、末端点、および画像野の端において分けた。次いで、セグメントの2つの端の間の最小距離(D)およびトレースした樹状突起の長さ(d)を、Neurolucidaソフトウェア(MBF Bioscience)を用いて決定した。既報に記載のとおり、湾曲度を、d/Dと定義した(参考文献:Ke, M.T., Fujimoto, S. & Imai, T. (2013). Nat Neurosci 16, 1154-1161)。
【0122】
(脳組織薄片の蛍光の定量)
組織内での蛍光タンパク質の安定性を定量化するため、Thy1−YFP−GまたはThy1−YFP−Hマウスの脳サンプルを使用した。20μm厚の脳薄片をクリオスタット(Leica、CM3050S)を用いて作製し、スライドガラスに収集した。薄片は4%PFAのPBS溶液で15分間固定し、PBSで洗浄した。その後薄片を光学的透明化試薬を用いて24時間までインキュベートした。組織内の蛍光タンパク質の蛍光強度を、冷却CCDカメラを備えた倒立蛍光顕微鏡(Leica、DMI6000B)を用いて定量化した。
【0123】
(組み換え蛍光タンパク質および化学蛍光色素のスペクトル解析)
E.coli JM109(DE3)株を、pRSET
A−ECFP、EGFP、EYFP、またはtdTomatoベクターでトランスフェクトした。得られた細菌培養物を、アンピシリンを添加した2×YT培地中において30℃で16時間、次いで25℃で20時間培養した。細菌ペレットをリゾチーム(シグマアルドリッチ)およびベンゾナーゼ(Novagen)の存在下で4回の凍結融解サイクル処理を行い、組み換えタンパク質をNi−NTA Spin Kit(QIAGEN)を用いて精製した。精製された組み換えタンパク質を様々な透明化試薬で希釈し、室温で一晩インキュベートした。励起および放射スペクトルを、蛍光スペクトロフォトメーター モデルF2700(日立)を用いて定量化した。Alexa色素の定量化では、Alexa色素と共役させたロバ抗マウス抗体(Life Technologies)を使用した。励起および放射曲線の決定のために使用した励起および放射波長はそれぞれ以下の通り(単位はnm):ECFP (435, 480), EGFP (480, 515), EYFP (505, 535), tdTomato (545, 590), Alexa 488 (480, 530), Alexa 555 (540, 580), Alexa 647 (640, 675)。
【0124】
(マウス脳切片の免疫染色)
SeeDB2による透明化の前に、免疫染色および対比染色を行ってもよい。抗体の浸透を容易にするため、サンプルを2%サポニンのPBS溶液中で、緩やかに回転(〜4rpm)させながら4℃で24時間インキュベートした。サポニンは、免疫染色のための界面活性剤として一般的に用いられるTriton X−100よりも良好に形態を維持させる。サンプルを3mLのブロッキングバッファー(0.5%(w/v)スキムミルク、0.25%(w/v)フィッシュゼラチン、2%(w/v)サポニン、0.5%(w/v)Triton X−100(任意)、および0.05%(w/v)アジ化ナトリウムのPBS溶液)の入った5mLエッペンドルフチューブに移した。緩やかに回転させながら、ブロッキングを4℃で24時間実施した。一次抗体との反応(5mLエッペンドルフチューブを使用し、3mLのブロッキングバッファー中で)は、ローテータ上で、4℃、24時間かけて実施した。マウス抗GAD67(Millipore、MAB5406)、マウス抗Reelin(Millipore、MAB5364)、マウス抗Bassoon(Abcam、AB82958、およびウサギ抗Homer1(Synaptic Systems、160003)を1/200に希釈して使用した。洗浄バッファー(2%サポニン、0.5%Triton X−100のPBS溶液)を用いて3回洗浄(各2時間)した後、二次抗体を含む3mLのブロッキングバッファー中(抗体は1/200希釈)で、サンプルを、ローテータ上で、4℃で12〜16時間インキュベートした。ロバ抗マウスAlexa647(Life Technologies)、および抗ウサギAlexa555(Life Technologies)を1/200希釈で使用した。DAPI(Life Technologies;1/500希釈)またはNeuroTrace 640/660 Deep−Red Fluorescent Nissl Stain(Life Technologies;1/200希釈)を必要に応じ、二次抗体の反応中に適用した。次いで、サンプルを、洗浄バッファーを用いて3回洗浄(各2時間)した。その後、抗体染色された脳サンプルを、上述のとおりSeeDB2で透明化およびマウントした。
【0125】
(SR−SIMのためのHEK293T細胞サンプル)
10%FBSを含むFluoroBrite DMEM中で維持されたHEK293T細胞を、ポリ−D−リシンでコーティングされた35mmのガラス底ディッシュ(MatTek)に播種し、0.4μgのpCAG−CreER
T2(addgene plasmid#14797、C. Cepkoから入手した)および3.6μgのpcDNA5/FRT−loxP−3×SV40 polyA−loxP−gapEGFPでトランスフェクトした。gapEGFPは、gap43のN末端20アミノ酸配列を含み、パルミトイル化反応に必要であり、細胞膜に偏在する(膜EGFP)。CreERはタモキシフェンを使用しない低頻度組み換えに使用した。トランスフェクションから24時間後、細胞に500nMのMitoTracker Red CMXRosを45分間ロードした。次いで、細胞を4%PFAで15分間固定し、0.2%Triton X−100のPBS溶液に溶解したDAPIで15分間染色した。細胞を溶液1で30分間、溶液2で30分間、溶液3で30分間、溶液4で30分間、SeeDB2Sで30分以上インキュベートし、SR−SIMイメージングを実施した。
【0126】
(PALMおよびdSTORMのためのHEK293T細胞サンプル)
PALMイメージングについては、35mmのガラス底ディッシュ(MatTek)中のHEK293T細胞に、mEos2-Lifeact-7(addgene plasmid #54809、M. Davidsonから入手した)プラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後、予熱した4%PFA in PBSで細胞を15分間固定し、上述のとおりSeeDB2Sで透明化した。dSTORMサンプルについては、予熱した4%PFA in PBSでHEK293T細胞を固定し、抗αチューブリン(DM1A、シグマ;1:500)で免疫染色し、次いでAlexaFluor 647 ロバ抗マウスIgG(Thermo Fisher、A31571)で免疫染色した。
【0127】
(倒立顕微鏡を用いた共焦点イメージング)
イメージングの機構は既報のとおりである(参考文献:非特許文献4およびKe, M.T., and Imai, T. (2014). Curr Protoc Neurosci 66, Unit 2 22)。透明化されたホールマウント脳サンプルを、SeeDB2で満たしたガラス底ディッシュに浸した。脳切片をマウントするため、適切な厚さのシリコンゴムシート(十川ゴム)および0.170±0.005mm厚のカバーガラス(Marienfeld、No.1.5H)を使用した。共焦点イメージを、倒立顕微鏡FV1000(Olympus)、TCS SP8X(Leica Microsystems)、LSM780(Carl Zeiss)、またはLSM880(Carl Zeiss)を用いて得た。FV1000において、レーザーダイオード(405nm)、マルチArレーザーライン(457、488、および515nm)、およびHe−Ne(543および633nm)レーザーラインを使用した。20×(Olympus、UPLSAPO20X、NA 0.75、WD 0.60mm)空気対物レンズを使用した。光軸方向スケールはSeeDB2G(屈折率1.46)で短縮されるので、実際の深度は見かけの深度に1.46をかけることで求められる。校正した深度を全ての図に示している。高解像イメージングにおいて、100×(Olympus、UPLSAPO 100XO、NA 1.40、WD 0.13mm)油浸対物レンズを使用した。市販のイマージョンオイル、イマーソル518F(Carl Zeiss)またはイマージョンオイルタイプF(Olympus)をイメージングに使用した(屈折率1.518)。TCS SP8Xにおいて、白色光レーザーを励起に使用し、HyD検出器を蛍光シグナルの検出に使用した。40×油浸(Leica, HC PL APO 40x OIL CS2, NA 1.3, WD 0.24 mm)および63×グリセロール浸(Leica, HC PL APO 63x/1.30 Glyc CORR CS2, NA 1.3, WD 0.30 mm)対物レンズを使用した。タイプG(屈折率1.46)イマージョン媒体をSeeDB2Gサンプルに、タイプF(屈折率1.518)イマージョン媒体をSeeDB2Sサンプルに使用した。LSM780またはLSM880において、20×ドライレンズ(Plan-Apochromat 20x/0.8 M27, NA 0.80, WD 0.55)または40×水浸レンズ(P-Apochromat 63x Oil DIC, NA 1.40, WD 0.19)およびGaAsP検出器を用いてイメージを得た。
【0128】
(光シート顕微鏡による観察)
透明化したマウス脳の光シート顕微鏡観察を、倒立共焦点顕微鏡に基づく市販の光シート顕微鏡、モデルTCS SP8 DLS(Leica Microsystems)を用いて行った。成体Thy1−YFP−Hマウス脳切片(厚さ2mm)をSeeDB2Gで透明化した後、カミソリ刃でより小さな断片に切断して、サンプルを用意した。2枚のカバーガラスを接着剤でガラス底ディッシュ上に垂直に立てて、切断した脳サンプルをその間に保持させた。イメージングのために、サンプルをSeeDB2Gに浸漬した。光シートの照射は514nm(Arレーザー)で行い、対物レンズ、TwinFlect反射鏡装置(HC APO L10x/0.30W DLS)およびsCMOSカメラを用いてEYFPシグナルを検出した。市販の対物レンズは水浸用に設計されている(屈折率1.33)ため、屈折率1.46のSeeDB2Gにおいて用いる場合と焦点面が異なる。したがって、特注の反射鏡装置(Leica Microsystems)を用いて、SeeDB2G溶液での焦点面における画像を検出した。
【0129】
(正立顕微鏡を用いた共焦点および二光子イメージング)
正立顕微鏡のイメージングチャンバーを既報のとおり用意した(参考文献:Ke, M.T., and Imai, T. (2014). Curr Protoc Neurosci 66, Unit 2 22)。1〜6mmの厚さのシリコンゴムシート(十川ゴム)をイメージングチャンバーの作製に使用した。サンプルおよびSeeDB2をチャンバーに入れ、ガラス底ペトリ皿で封をした(参考文献:Ke, M.T., and Imai, T. (2014). Curr Protoc Neurosci 66, Unit 2 22)。SeeDB2Gサンプルについては、イマージョン媒体(67%(v/v)2,2’−チオジエタノール水溶液、屈折率1.46)をガラス底ディッシュに加えた。自動ステージ(Sigma−Koki)付正立共焦点/二光子顕微鏡(Olympus, FV1000MPE)を蛍光イメージングに使用した。高屈折率サンプル用に最適化された、特注の25×対物レンズ(Olympus, NA 0.9, WD 8.0 mm、屈折率1.41〜1.51用)をSeeDB2サンプルのイメージングに使用した(類似のレンズが現在XLSLPLN25XGMPとしてOlympusから発売されている)。LD473レーザーをEYFPの一光子励起に使用した。InSight DeepSee Dual(Spectra−Physics)をEGFP(920nm)およびEYFP(950nm)の二光子励起に使用した。
【0130】
(超解像蛍光顕微鏡による観察)
STED顕微鏡観察は、市販のSTED顕微鏡、モデルTCS SP8 STED 3X(Leica Microsystems)および油浸対物レンズ(Leica、HC PL APO 100x/1.40 OIL STED WHITE、NA 1.40、WD 0.13mm)を使用して実施した。EYFPはマルチArレーザー(514nm)を用いて励起し、592nmSTEDレーザーを2D STEDに使用した。蛍光をHyD検出器を用いて、ゲーテッドSTED機能で検出した。SP8−HyVolutionを、TCS SP8X(Leica Microsystems)および63x油浸(Leica, HC PL APO 63x OIL CS2, NA 1.4, WD 0.14 mm)を用いて行った。ECFPおよびEYFPは、それぞれレーザーダイオード(442nm)およびWhite Light Laserを用いて励起した。蛍光シグナルは、HyD検出器を用いて検出し、Huygens(Scientific Volume Imaging B. V.)を用いて処理した。SR−SIMは市販のセットアップ、モデルELYRA PS.1(Carl Zeiss)、および100×油浸対物レンズ(Carl Zeiss, alpha Plan-Apochromat 100x / 1.46 oil, NA 1.46, WD 0.11 mm)を用いて実施した。グレーティングは3ローテーションで実施した。アベレージングの回数は2である。FV−ORS付FV1000(Olympus)においては、100×油浸対物レンズ(Olympus, UPLSAPO 100XO, NA 1.40, WD 0.13 mm)を用いた。GaAsP検出器を用いて蛍光を検出し、25〜30回アベレージングを行った。CSU−W1(Yokogawa)に基づくSD−OSR(Olympus)においては、100×油浸対物レンズ(Olympus, UPLSAPO 100XO, NA 1.40, WD 0.13 mm)を用いた。EYFPは488nmレーザーで励起させた。Airyscan(Carl Zeiss)付LSM880においては、油浸対物レンズ63×オイル(NA 1.4, WD 0.19 m)および100×オイル(NA 1.46, WD 0.11 mm)を使用した。蛍光は、Airyscan検出器で超解像モード(ピンホールサイズ、1.25AU)により検出した。EGFP、EYFPおよびAlexa Fluor 488は488nmで励起し、tdTomatoは561nmで励起した。PALM/dSTORMのイメージングは、100×油浸対物レンズ(alpha Plan-Apochromat 100x Oil DIC M27, NA 1.46, WD 0.11 mm)およびTIRF、HILOまたはEpi照射モードを使用してELYRA PS.1(Carl Zeiss)により行った。屈折率が高いので、TIRF照射モードではSeeDB2SによるTIRFイメージングはできず、照射光がサンプル内に進入した。PALMイメージングでは、mEos2を405nmおよび561nmのレーザーで照射した。
【0131】
(PSF解析)
PSFは、既報のとおり、0.1μm径(共焦点およびAiryscan)または0.04μm(STED顕微鏡)のFluoSpheres黄色−緑色蛍光ビーズ(Thermo Fisher, F8803およびF8795)を用いて決定した(参考文献:非特許文献4)。蛍光ビーズを1%(100nmビーズ)または4%(40nmビーズ)アガロースに埋め込み、透明化試薬を浸透させた。半値全幅(FWHM)をFiji plugin MetroloJを用いてガウスフィッティングによって決定した。サンプルのサイズは全てのPSF解析において20であった。
【0132】
(Sea応答解析)
軸共焦点走査により蛍光強度を評価するため、透明化試薬にローダミン6G(東京化学工業)を溶解した。イメージングチャンバー内で染色液をカバーガラス(Marienfeld, No. 1.5H)で密封し、100×油浸レンズ(Olympus, UPLSAPO 100XO, NA 1.40, WD 0.13 mm)を用いて倒立共焦点顕微鏡(FV1000(Olympus))によりイメージングした。
【0133】
(画像処理および定量)
蛍光イメージのボリュームレンダリングを、Neurolucida(MBF Bioscience)およびIMARIS(bitplane)を用いて行った。Leica TCS SP8X用ハイジーンデコンボリューションソフトウエアをSTEDおよびSP8−HyVolutionイメージに使用した。連続電子顕微鏡画像のためにもともと開発されたVAST Lite(https://software.rc.fas.harvard.edu/lichtman/vast/)を、超解像画像の再構成に用いた(参考文献:Kasthuri, N., et al. (2015). Cell 162, 648-661)。トレースされた画像の積み重ねをMatlab(Mathworks)に出力し、表面メッシュを作成して、ParaView(http://www.paraview.org/)で可視化した。AutoNeuronおよびAutoSpine機能付NeurolucidaおよびNeurolucida360(MBF Bioscience)を、半自動ニューロントレースおよびマウス錐体ニューロンにおける樹状突起スパインの定量のために使用した。50μm長の神経突起部分について、神経突起の平均径をNeurolucidaを用いて決定した。これらの手順は
図13にまとめた。
【0134】
(統計解析)
Prism5ソフトウエア(GraphPad)およびR(http://www.r-project.org/)を統計解析に使用した。
図2のCにおいて、正規分布を仮定して両側ウェルチ検定を用いた。
図1のEにおいて、非正規分布に基づくノンパラメトリック検定を用いた。テクニカルレプリケートに基づくデータを、平均値±標準誤差で示している。平均値±標準偏差を、生物学的ばらつきを示すために用いた。サンプルのサイズ(図面の凡例に特定されている)は、予備実験におけるデータの分布に基づき決定した。ニューロンの形態の定量化は非盲目であったが、サンプルのタイプ間の何らかの潜在的な偏りを避けるために、
図1のEでは全ての標識されたニューロンを定量化した。
図12では、明るく標識されたニューロンを解析のために選択し、尖端樹状突起の基部から伸びている斜めの樹状突起をトレースし、樹状突起の全長を定量した。
【0135】
〔結果〕
(非イオン性有機ヨウ素化合物を用いた迅速かつ効率的な光学的透明化)
組織深部の高解像画像を得るため、光の散乱および球面収差の両方を最小にする必要がある(
図6のA)。我々のグループおよびその他のグループの以前の研究により、透明化試薬の屈折率の最適な範囲は1.45〜1.55であることが判明している(参考文献:非特許文献4)。球面収差を最小にするため、サンプルおよびイマージョン媒体の屈折率は同じでなければならない。理論的に識別可能な点間の最小距離(d)は開口数(NA)の増大に応じて上がり(d = 0.61λ/NA;レイリー基準による)、またNAはイマージョン媒体の屈折率(n)の増大に応じて上がるため(NA = n sinα;αは対象物の半開口角)、高解像イメージングのための対物レンズは多くの場合油浸(屈折率=1.518)用に設計されている。また、油浸オイルの屈折率は、カバーガラスの屈折率(屈折率=〜1.52)と一致するように設計されている。そのため、高解像イメージングのための理想的な透明化試薬は、1.518の屈折率である必要がある。従来、屈折率1.515の97%TDEをこの目的でマウント媒体として使用されてきたが、TDEはほとんどの蛍光タンパク質および一般的に使用されるいくつかの化学染色液を消光させるので、TDEの実用性には限りがあった(参考文献:非特許文献6)。SeeDB法(屈折率1.49)(参考文献:非特許文献4)等の既存の透明化試薬においては、フルクトースの溶解性に上限があるため、この屈折率は達成されていない。グリセロール(屈折率1.47)を含んでいる一般的に使用されるマウント媒体も、この屈折率を達成できない。市販の高屈折率のマウント媒体は、収縮を引き起こす、および/または消光の問題を有する。したがって、大規模な容積の超解像イメージングは長年の挑戦であった。高屈折率の水溶性試薬のスクリーニングにおいて、我々はヨウ素含有化合物に着目した。例えば、我々は70.4%(w/w)イオヘキソール水溶液の屈折率が1.518に達することを発見した(
図6のC)。したがって、我々は、イオヘキソール等の非イオン性有機ヨウ素化合物を用いて、新たな透明化試薬およびマウント剤を開発することを試みた。
【0136】
近年には、Tween−20およびリン酸バッファーを含むイオヘキソール溶液(屈折率1.46)が、FocusClearの安価な代替品として、CLARITYサンプルをマウントするために用いられている(RIMSと命名)(参考文献:非特許文献5)。しかしながら、イオヘキソールおよびRIMSは何れも単独で、厚い脳サンプルを、単純浸漬で効率良く透明化することはできず、サンプルの収縮を起こす(
図1のA〜C)。これは、イオヘキソール溶液がサンプル内に効率的には侵入しないからと考えられる。したがって、我々は、イオヘキソールの透明化能力を、0.5〜2%の、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Tween(登録商標)20、Nonidet(商標)P−40、Triton X−100(商標)、およびサポニンを含む、様々な界面活性剤と組み合わせて試験した。我々は、弱い非イオン性界面活性剤として知られる2%のサポニンが、形態損傷を引き起こすことのないイオヘキソールによる透明化を最も効果的に促進できることを発見した(
図6のF)。Tween20、NonidetP−40、およびサポニンは、SDSおよびTriton X−100と比べて、サンプルの変形および/または蛍光タンパク質の消光/喪失が抑えられていた。また、低濃度のTriton X−100は比較的薄いサンプルに使用することができた。サポニンおよびTriton X−100はより効果的にイオヘキソールによる透明化を促進した。バッファーを添加していないイオヘキソール溶液に浸漬した脳サンプルは、未解明の理由により徐々に不透明に戻るため、脳サンプルの透明性を維持するかを様々なバッファーで試験した。その結果、低濃度のTris−EDTAバッファーが、イオヘキソールと組み合わせたときに、サンプルの高い透明度の維持により効果的であることを発見した(
図6のG)。ここで、Tris−EDTAバッファーの代わりに水またはPBSを使用した場合には、高い透明度は得られず、時間の経過に伴って透明度が低下した。最適化された透明化プロトコルにおいては、2%サポニンおよびTrisバッファーに溶解した、低濃度から高濃度のイオヘキソール中で、サンプルを連続的にインキュベートし、最終的に、SeeDB2S(SはSuper-resolutionを表す)と命名された、70.4%(w/w)のイオヘキソールを含むTris−EDTAバッファー(屈折率1.518)で平衡させた(
図1のC)。グリセロール浸対物レンズのために、屈折率1.46(56.2%(w/w)または75.5%(w/v)イオヘキソール溶液;SeeDB2Gと命名;Gはグリセロール浸レンズを表す)でサンプルを平衡させるプロトコルも作成した。より低い粘性と十分な透明度のため、SeeDB2Gは大きなサンプルに適するが、油浸レンズを用いる高解像イメージングにはSeeDB2Sの方がより適している。大脳皮質サンプルの透過曲線は、SeeDB2SおよびSeeDB2Gが、既知の透明化試薬であるSeeDBおよびマウント媒体であるRIMSと比較してよりよくサンプルを透明化することを示す(
図1のB)。鼻骨でさえも、SeeDB2Sによって良好に透明化された(
図1のD)。必要な合計のインキュベート時間は数時間(比較的薄いサンプル)から2日間(成体の半脳サンプル)であり、CLARITYおよびCUBIC等の他の透明化法よりはるかに短い(
図1のC)。また、SeeDB2は、無害であり、且つ、組織に易損性を与えなかった。
【0137】
(SeeDB2は神経の微細構造を保持する)
真の高解像の画像を得るためには、透明化の過程においてサンプルの微細な細胞構造を保持することが不可欠である。このことは他の透明化のプロトコルにおいていつでも考慮されているわけではない(参考文献:非特許文献4)。例えば、ScaleA2はサンプルの膨張を引き起こし、一方BABBは縮小を引き起こすが、両者とも神経突起の変形を引き起こす(参考文献:非特許文献4)。近年開発された透明化法であるCLARITY、CUBIC、およびScaleSもまた、最終的なサンプルの大きさは元と同等であるものの、一時的なサンプルの膨張を伴う(参考文献:非特許文献2〜5;Hama, H., et al. (2015). Nature neuroscience 18, 1518-1529;Tomer, R., et al. (2014). Nat Protoc 9, 1682-1697)。対照的に、我々のSeeDB2G/Sプロトコルは、サンプルの大きさは透明化の過程で保存された(
図1のC)。結果として、サンプルの完全性が種々のサンプルにおいて良好に保存された。
【0138】
透明化における微細形態の変化を評価するため、マウスの嗅球において低密度に標識された平滑な僧帽細胞の樹状突起の湾曲度を定量した(参考文献:非特許文献4)。CLARITY、CUBICまたはScaleSで透明化した後、サンプルの大きさは元に戻ったにもかかわらず、in vivoと比較して樹状突起の湾曲度は増加し、変形した(
図1のE)。これは、細胞骨格等のタンパク質高次構造が等方位的に膨張および収縮しないことを考慮すれば、驚くべきことではない。対照的に、SeeDB2を用いて透明化されたサンプルは、形態変化の証拠を一切示さなかった(
図1のE)。それゆえ、SeeDB2を用いることで、神経などのサンプルの微細形態の正確で定量的な解析が可能になる。
【0139】
(SeeDB2はより多くの蛍光を保存し、自家蛍光をほとんど生じない)
高解像蛍光イメージングにおいて、低解像イメージングと比較して1ピクセルあたりより少ない量の光から光子を得る必要があり、そのため蛍光体は明るく、安定している必要がある。それゆえさまざまな蛍光体の、SeeDB2および現存するマウント剤中での安定性を実験により確認した。4つの蛍光タンパク質、ECFP、EGFP、EYFPおよびtdTomatoがSeeDB2Sにおいて安定で、かつPBS中と類似の励起および放射スペクトルを示した(
図2のA)。さらに、SeeDB2Sでは、自家蛍光シグナルが蓄積せずに、蛍光シグナルが長期間(1ヶ月以上)にわたって非常に安定していた(
図7のB〜E)。それに対し、これらの蛍光タンパクは、屈折率の観点から現在の高解像顕微鏡のための最良のマウント剤である、97% 2,2−チオジエタノール(TDE)中において、劇的に蛍光が消失した(参考文献:非特許文献6)。市販のマウント剤であるProLong Goldもまた、EYFPの蛍光を相当に減少させた。3つの化学的蛍光体、Alexa Fluor 488、555、および647もまた、SeeDB2S中において安定であったが、97%TDEはAlexa Fluor 488の蛍光を顕著に減少させた(
図7のA)。我々はEYFPを発現したマウスの脳切片を用いて類似の結果を得た(
図2のB)。それゆえ、蛍光タンパク質および化学蛍光色素の両方が、一般的に使用される、共焦点および高解像顕微鏡用のマウント剤と比較して、SeeDB2Sにおいて安定である。
【0140】
我々は以前にフルクトースを基剤とする透明化試薬であるSeeDBが、内因性の様々なアミンと反応するために、組織内で徐々に自家蛍光を蓄積することを報告している(メイラード反応として知られる)(参考文献:非特許文献4)。対照的に、SeeDB2は自家蛍光シグナルを産生しない(
図7のB)。加えて、蛍光シグナルはイオヘキソール溶液中での長期保存において非常に安定である(
図7のC〜E)。Thy1−YFPラインG(Thy1−YFP−G)マウスの脳サンプルは、SeeDB2G中で室温で1ヶ月以上保存した後でも、十分なレベルのEYFPシグナルを保った(
図7のC)。組み換え蛍光タンパク質は、SeeDB2S中において、室温で少なくとも1ヶ月間安定である(
図7のE)。
【0141】
これらの点は、大きな組織においてかすかな蛍光シグナルをイメージングする際に有利である。Thy1−YFPラインHの動物の大脳皮質において、第五層の錐体ニューロンから伸びた微細な樹状突起叢は、SeeDB2において、蛍光レベルの高さと自己蛍光シグナルの低さに起因して、SeeDB、CUBICおよびCLARITYと比較してより良いイメージングが可能である(
図1のH、
図7のB、
図7のD)。光シート顕微鏡は、大脳皮質の迅速で大規模なイメージングを可能にした(
図2のA)。SeeDB2Gはまた、自己蛍光シグナルが低いため、他のタイプのサンプル(例えば、R26−H2B−EGFPノックイン遺伝子座を保有し、H2B−EGFPを広範に比較的低レベルで発現している胚全体(E9.5))の、全ての核のイメージングを行うのに十分な力があった(
図2のBおよびC)(参考文献:Abe et al. (2011). Genesis 49, 579-590)。他の臓器もまた蛍光イメージングのために適切に透明化された(
図2のC)。サポニンが巨大分子の浸透を容易にするため、SeeDB2は組織切片の核対比染色および抗体染色と共用できる。DAPIは1.5mm厚の成体の脳切片に浸透し(
図2のD)、抗体は200μm以下の深さまで成体マウスの脳切片を染色することができ(
図2のE)、小スケールの高解像回路網マッピングに十分である。
【0142】
(SeeDB2S中において分解能および明るさは全ての深さにおいて維持される)
高解像蛍光イメージングにおけるSeeDB2Sの性能を評価するため、我々はまず、油浸レンズ(NA 1.40, WD 0.13 mm)を備える共焦点顕微鏡を用いて、アガロースゲルに包埋された蛍光ビーズ(直径100nm)の点拡がり関数(PSF)解析により空間的分解能を定量した。以前に、厚い脳組織を二光子顕微鏡を用いてイメージングを実施した。しかしながら、分解能(d)は、励起波長(λ)に応じて増加するため(d = 0.61λ/NA)、同じNAにおいては、一光子励起は、二光子顕微鏡の2倍の分解能である(
図8のA)。共焦点顕微鏡においては、NAはイマージョン媒体の屈折率の増加に応じて増加する(NA = n sinα)ため、油浸対物レンズは水浸対物レンズより分解能が高い(
図8のA)。それゆえ、光学的透明化および一光子イメージングは二光子顕微鏡よりも分解能の点で有利である。
【0143】
次に、さまざまな透明化剤およびマウント剤において、分解能および明るさを、油浸対物レンズを用いて調査した。予想のとおり、PSF解析により、屈折率が適切に調節されたSeeDB2でマウントした場合、全ての深さにおいて高い分解能が保たれることが示された(
図3のAおよびB)。しかしながら、屈折率が低い他のマウント剤においては、球面収差に起因して分解能は劣っていた。Z軸分解能は屈折率の不一致により、より強く影響を受ける。Z軸に沿った複数の繊維の交差の分析が容易になるため、SeeDB2SにおけるZ軸分解能の向上は、回路トレースにおいて重要である。深さに依存する蛍光強度の変化を評価するために、ローダミン6G染色溶液について、カバーガラス界面からの共焦点軸走査を実施した(Sea応答)(参考文献:Hell, S. et al. (1993). Journal of Microscopy 169, 391-405)。SeeDB2において、ローダミン蛍光レベルは全ての深さで維持された。しかしながら、最適化されていないマウント剤においては、球面収差のため、深さが増すのに従い徐々に明るさが減少した(
図3のC)。ここで、SeeDB2Gの屈折率は1.46であり、SeeDB2Sの屈折率は1.518である。屈折率がカバーガラスおよび/またはイマージョンオイルと一致するSeeDB2Sを用いて高い分解能および明るさが示された。
【0144】
(高密度に標識された神経回路網の高解像共焦点イメージング)
従来の共焦点顕微鏡および高NA油浸対物レンズを用いて、対物レンズの作動距離(WD)までの、SeeDB2Sで処理したマウスの脳断片の高解像画像を容易に得ることができた(
図3のDおよびE)。SeeDB2Sにおいて全ての深さで分解能は一定であるので、微細な樹状突起スパインが全ての深さにおいて(200μmまで)鮮明に可視化された。より薄いサンプルについては、WDが大きい(NA 1.30, WD 0.30 mm)高NAグリセロール浸レンズと組み合わせたSeeDB2Gを用いることで、嗅球の糸球体に収束する嗅覚神経の軸索の、単軸索の分解能の高解像画像を得ることができた(
図3のF)。
【0145】
この分解能は高密度に標識された神経回路網をトレースするのに十分なものであった。我々は、SeeDB2Sを用いて透明化された、Thy1−YFP−Hマウスの脳切片サンプルから得られた283μm×127μm×132μmの大脳皮質ブロックから高解像蛍光イメージを得た(
図3のG)。半自動の神経トレースソフトウェアを用いて、海馬CA1錐体ニューロンの樹状突起の回路構造を、ほぼ完全に抽出し、3Dに再構成した(
図3のH、
図8のB)。それゆえ、SeeDB2Sを用いることで、以前には時間のかかるアレイ断層撮影(AT)により行われていた(参考文献:Micheva, K.D., and Smith, S.J. (2007). Neuron 55, 25-36)、高解像神経マッピングを容易に行うことができる。
【0146】
(マウス脳切片の超解像顕微鏡観察)
回折限界を超えて樹状突起スパインおよびシナプスの配置を解明するため、超解像顕微鏡の1つであるSTED顕微鏡がよく使用される。しかしながら、標準的なSTED顕微鏡は、球面収差のため標本の表面の超解像画像しか得ることができない。組織深部の超解像画像を得るためには、特別な光学的調整(参考文献:Urban, N.T. et al. (2011). Biophys J 101, 1277-1284)または二光子励起STED(参考文献:Ding, J.B. et al. (2009). Neuron 63, 429-437)が必要である。
【0147】
ここで、市販のSTED顕微鏡を用い、SeeDB2Sにより透明化したThy1−YFP−Hマウスの脳切片のイメージングを実施した。対物レンズの作動距離(WD)で定められる上限である、100μmの深さまでの超解像画像を得ることができた(
図4のA)。実際に、スパイン頸部の直径は理論的な回折限界(〜200nm)を下回ることが多く、以前にもそのように報告されてきた(参考文献:Tonnesen, J. et al. (2014). Nature Neuroscience 17, 678-+)。我々は神経の機能を理解する上で不可欠な情報である、樹状突起スパインおよびスパイン頸部の微細な配置を可視化した。一般的な市販のマウント剤である、ProLong Goldに浸漬したサンプルでは、球面収差のため、サンプルの表面領域を可視化できたに過ぎなかった。加えて、このサンプルにおいては蛍光シグナルが弱かったため、レーザーの出力を上げる必要があった。その結果、超解像のZスタック蛍光画像が得られる前に、サンプルが光退色を起こすことがしばしばあった。それゆえ、SeeDB2Sにより、STED顕微鏡を用いてイメージングが可能な深度が劇的に深くなった。
【0148】
Airy discイメージのデコンボリューション(FV−OSRおよびAiryscan)に基づく市販の超解像システムも検討した。その結果、再度、油浸対物レンズの作動距離が許す深度までの(〜100μmまたは〜170μm)樹状突起スパインの超解像画像を得ることができた(
図4のBおよびC、
図9のAおよびB)。光退色が最小限であるため、Airyscanシステムは大規模な3D超解像イメージを得るのに有用であった(
図4のC)。
【0149】
(細胞生物学における3次元的な超解像顕微鏡観察)
超解像顕微鏡観察は細胞生物学においてよく行われる手法である。しかしながら、細胞生物学における適用においても、球面収差は、イメージング可能な深度を表面近傍に制限する大きな問題である。例えば、市販の超解像構造化照明顕微鏡(SR−SIM)は、数μmまでのサブ回折画像を得ることができるが、細胞1つのみの厚み(10〜20μm)を可視化するのにさえ十分ではない。DAPI、膜EGFP、およびMito Trackerで標識されたHEK293T細胞は、PBS中において、充分に解像された。ProLong GoldまたはTDEでマウントした同一サンプルは、これらの媒体においては蛍光レベルがはるかに低く、より強いレーザー出力が必要であるため、イメージング中に光退色が起きた。しかしながら、我々のSeeDB2Sでマウントした場合には、これらの細胞の全ての厚さにおいて構造の超解像画像を得ることができた(
図5のE)。全ての深度において細胞膜から伸びる微細なフィロポディアが解像された。
【0150】
(SeeDB2Sを使用した深部組織超解像顕微鏡観察)
我々は次に、超解像顕微鏡観察におけるSeeDB2Sの性能を評価した。我々は、油浸対物レンズ(NA 1.40,WD 0.13mm)を用い市販の誘導放出抑制(STED)顕微鏡を試験した。様々な深度における水平方向のPSFを決定するため、アガロースゲルに埋包された直径40nmの蛍光微粒子を用いた。SeeDB2Sおよび97%TDEにおいて、x−yにおける50〜60nmのFWHMは深度100μmまで維持された。しかしながら、ProLong GoldおよびPBSにおいて、分解能は急激に低下し、蛍光微粒子は20μmより大きい深度においては視認できなかった(
図5のA)。
【0151】
次に、Thy−YFP−Hマウス脳切片をSeeDB2Sを用い透明化し、同一のSTEDレーザー条件下でイメージングし、対物レンズのWDにより設定される上限である深度110μmまでのサブ回析イメージを得ることができた(
図11のB)。我々は、シナプスの機能の理解に不可欠な情報である、樹状突起スパインの頭部および頸部の微細構造を可視化することができた(
図5のC)。さらに、既存の顕微鏡を用いて解像するのが困難である、スパイン頭部から伸びているフィロポディアを時折観察した(
図5のC)。脳組織の様々な深度における解像を評価するため、回折限界よりも小さいことが知られているスパイン頸部の直径(参考文献:Tonnesen, J., et al. (2014). Nature Neuroscience 17, 678-+)を決定した。我々は、脳切片の表面領域(〜30μm)および深部領域(〜110μm)において定量したスパイン頸部の直径に差が無いことを発見した(
図5のD)。このように、SeeDB2Sは標準的なマウント条件下において以前より大きな深度のSTED顕微鏡観察を可能とするものである。なお、深部組織のSTED顕微鏡観察は二光子励起STED(参考文献:Ding, J.B., et al. (2009). Neuron 63, 429-437;Moneron, G., and Hell, S.W. (2009). Opt Express 17, 14567-14573)または手動光学較正(参考文献:Urban, N.T., et al. (2011). Biophys J 101, 1277-1284)によってのみ達成されたこと、および後者において、大規模3D画像を得るために手動で屈折率のミスマッチを各z位置において修正することは現実的ではないことに留意すべきである。
【0152】
(細胞生物学における容積測定超解像イメージング)
種々のタイプの超解像顕微鏡、構造化照明顕微鏡(SIM)は、多色イメージングが可能であり、細胞生物学への応用にしばしば使用されていた。そこで、我々は、SeeDB2Sサンプルのイメージングのために、油浸対物レンズ(NA 1.46,WD 0.11mm)を備える市販の超解像(SR)SIMシステムを用いた。膜EGFP、MitoTracker、およびDAPIで標識されたHEK293T細胞(厚さ10μm以下)を、3D SR−SIMを用いてSeeDB2S中で完全に解像することができたが、PBS中においてはできなかった。例えば、細胞膜から伸長する微細フィロポディアは、SeeDB2S中においてより良好に解像された(
図5のE)。
【0153】
(コネクトミクスにおけるボリュメトリック超解像イメージング)
大規模超解像イメージングは蛍光タンパク質と組み合わせてコネクトミクスにおける応用において特に強力である可能性がある。そこで、マルチアレイGaAsP検出器およびピクセル再割り当てに基づく市販の新型の超解像顕微鏡Airyscan(参考文献:Huff, J. (2015). Nat Methods 12)を用いた。Airyscanは、様々な超解像顕微鏡のうちで、光子束が比較的高く、光退色が低いため、分解能はSTEDに及ばないものの、大規模イメージングに有用である。PSF解析において、油浸レンズ(NA 1.40,WD 0.19mm)を使用し、高分解能(xyにおいて〜150nm、zにおいて〜360nm)が全ての深度において維持された(
図11のA)。
【0154】
我々は、二光子顕微鏡、共焦点顕微鏡、およびAiryscanを用いた、Thy1−YFP−Hマウス脳切片の同一の領域の画像を比較した。励起波長が長いほど分解能は低くなるため(d=0.61λ/NA)、二光子顕微鏡は高分解能イメージングに適さない。AiryscanはEYFPで標識された密な神経回路を最も良く解像した(
図11のB)。二光子顕微鏡観察において見逃されることが多いフィロポディアおよび細いスパインは、Airyscanにおいて確実に同定することができた。二光子イメージング研究においてよく確認される“短くて太い”スパインは、Airyscanにおいては(少なくともL5ニューロンにおいては)観察されず、おそらく低い軸分解能に起因する細い/キノコ型スパインのアーチフェクトの投影である(参考文献:Tonnesen, J., et al. (2014). Nature Neuroscience 17, 678-+)。また、SD−OSR(参考文献:Hayashi, S., and Okada, Y. (2015). Mol Biol Cell 26, 1743-1751)およびSP8−HyVolutionを用いた大規模超解像画像も得られた(
図10のA〜C)。
【0155】
軸分解能が優れているため、z軸に伸びている樹状突起スパインは、SeeDB2Sで確実に検出できたが、他のマウント媒体では球面収差に起因して検出できなかった(
図11のC)。SeeDB2Sは、細い軸索のトレーシングおよび定量にも有用であった。脳梁において、子宮内エレクトロポレーションで標識されたL2/3脳梁軸索はSeeDB2S中で良好に解像したが、ScaleS中では解像しなかった(
図11のD)。SeeDB2Sにおける軸分解能の向上は、回路のトレーシングに特に重要である。x軸に沿った複数の繊維の交差を分析するのをより容易にするからである。嗅覚神経の軸索束において、MOR29B-IRES-EYFP導入遺伝子で標識された、ミエリン化されていない細い軸索繊維(直径200〜300nmであり、先行の電子顕微鏡研究と一致する)が、SeeDB2S中で良好に解像されて、解析された(
図11のEおよび
図10のC)。大脳皮質(厚さ100μm、成体Thy1−YFP−Hマウス)の大規模な超解像画像において、全ての深度における樹状突起スパインおよび軸索束を確実に同定し(
図4のC)、それらを3Dに再構成する(
図4のD)ことができた。このように、SeeDB2Sと超解像顕微鏡との組み合わせは、大規模なシナプスのマッピングに有用である。
【0156】
(NMDA受容体欠損ニューロンの樹状突起における包括的なシナプスマッピング)
多くの認知および精神障害はシナプスの異常によって引き起こされるため、シナプスの超解像マッピングは学習に関連するシナプスの変化およびその病理を理解するための強力なツールになり得る。我々は、野生型ニューロンおよびNMDA受容体欠損L5錐体ニューロン(不可欠なNR1サブユニットがノックアウトされている)の興奮性および抑制性シナプスを、子宮内エレクトロポレーションを用いてマッピングした(
図12のAおよびB)(参考文献:Tsien, J.Z., et al. (1996). Cell 87, 1317-1326)。興奮性シナプスはL5ニューロンにおいて成熟した樹状突起スパインの先端に位置し、そのサイズはスパイン頭部の直径と相関することが知られている。スパイン頭部の直径に基づき、樹状突起スパインを3つのタイプに分類した:フィロポディア(<250nm)、細いスパイン(250〜500nm)、およびキノコ型スパイン(>500nm)(
図12のC)。抑制性シナプスのシナプス後の構造を可視化するため、EYFP−ゲフィリンを用いた(参考文献:Chen, J.L., et al. (2012). Neuron 74, 361-373)。EYFP−ゲフィリン斑点は樹状突起軸およびスパイン頭部のサブセットに見られ、この2つのタイプは我々の超解像イメージにおいて明確に区別された(
図12のAおよびB)。我々は、定量における偏りを避けるために、近位端から遠位端まで全て、先端の樹状突起の胴部から伸びている100〜200μm長の分岐のない斜めの樹状突起に焦点を当てた。
【0157】
NR−1欠損ニューロンにおいて、全スパイン密度および平均スパイン長に変化はなかった(
図12のDおよびE)が、スパイン頭部の直径の分布は野生型と異なっていた(
図12のC、DおよびF)。スパイン頭部直径の平均値の増加は、皮質特異的NR1ノックアウトマウスを用いた先行研究と一致する(参考文献:Ultanir, S.K., et al. (2007). Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 104, 19553-19558)。EYFP−ゲフィリン斑点について、軸における密度は有意な影響を受けなかったものの、スパイン頭部における密度はノックアウトにおいて増加した(
図12のG)。また、EYFP−ゲフィリン斑点はNR1ノックアウトニューロンにおいて大きなスパイン頭部に蓄積する傾向があることを発見した(
図12のHおよびI)。それゆえ、NMDA受容体ノックアウトは、直接的または間接的に、興奮性シナプスのみならず抑制性シナプスにも影響を与える。NR1欠損ニューロンにおける大きなスパインへの抑制性シナプスの漸増は、これらのシナプスにおける抑制性シナプス新生の、活性に依存する恒常性作用によるものであり得る(参考文献:Baho, E. & Di Cristo, G. (2012). Journal of Neuroscience 32, 911-918)。