特許第6781446号(P6781446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781446
(24)【登録日】2020年10月20日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】ホログラム計算装置
(51)【国際特許分類】
   G03H 1/04 20060101AFI20201026BHJP
   G03H 1/22 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   G03H1/04
   G03H1/22
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-81584(P2016-81584)
(22)【出願日】2016年4月14日
(65)【公開番号】特開2017-191256(P2017-191256A)
(43)【公開日】2017年10月19日
【審査請求日】2019年2月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本光学会年次学術講演会 Optics&Photonics Japan 2015 講演予稿集 1(平成27年10月29日筑波大学(東京キャンパス)において開催された日本光学会年次学術講演会 Optics&Photonics Japan 2015で発表)
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智義
(72)【発明者】
【氏名】西辻 崇
(72)【発明者】
【氏名】下馬場 朋禄
(72)【発明者】
【氏名】角江 崇
【審査官】 池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/060612(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0310448(US,A1)
【文献】 特開平05−160640(JP,A)
【文献】 特開2000−112715(JP,A)
【文献】 特開昭62−028872(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0018259(US,A1)
【文献】 岩瀬 進,吉川 浩,差分法に基づくフレネルホログラムの高速計算法,映像情報メディア学会誌,1998年,Vol.52,No.6,pp.899-pp.901
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03H 1/04
G03H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相計算部と、三角関数計算部と、積算部と、を備えるホログラム計算装置であって、
前記三角関数計算部は、所定の周期で区切られた位相出力データを半周期毎に振幅0の仮想線を基準に反転させ、該反転させて得られた反転位相データと該反転位相データに続く半周期の反転させない前記位相出力データとを順に繋ぎ合わせて作られる擬似cos波形データを作成するホログラム計算装置。
【請求項2】
前記所定の周期で区切られた位相出力データは、2πの周期で畳み込まれたものである請求項1記載のホログラム計算装置。
【請求項3】
前記三角関数計算部は、前記位相計算部による位相出力データに対しビット抽出、減算びXORを含む計算処理により行われる請求項1記載のホログラム計算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム計算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ホログラフィ方式による三次元映像再生システムは、高い臨場感が得られる技術として研究されている。
【0003】
しかしながら、再生には多量な計算が必要であり、この計算負荷の高さが課題の一つとなっている。
【0004】
そのため、例えば下記非特許文献1で示すような専用計算機HORNが提示されており、また、下記非特許文献2で示すようなGPU(Graphic Processing Unit)を用いたシステムが提案されており、簡素な三次元映像についてはテレビ映像と同等なフレームレートでの再生が実現されつつある
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yasuyuki Ichihashiら,“HORN−6 special−purpose clustered computing system for electroholography”,Vol.17,No.16,OPTICS EXPRESS,13895−13903
【非特許文献2】Hiroaki Niwaseら,“Real−time spatiotemporal division multiplexing electroholography with a single graphics processing unit utilizing movie features”,Vol.22,No.23,OPTICS EXPRESS 28052−28057
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記専用計算機や上記GPUの性能向上をもってしても、未だに十分な臨場感を得られる再生システムの実現には至っていない。
【0007】
この一因として、電子ホログラフィにおいて重要な要素である計算機合成ホログラム(CGH)の生成に不可欠な三角関数計算の合理的な実装方法が開発されておらず、その計算負荷の高さから、高い臨場感が期待できる高精細な立体像を高速かつ連続的に生成できないことが挙げられる。例えば、専用計算機では三角関数の数表をあらかじめ計算機内に用意するいわゆるLook−up tableを実装しているが、計算の並列数に応じてテーブル数が必要なため、回路面積を圧迫し計算の並列度を下げるおそれがある。
【0008】
また、GPUはその構造からLook−up tableの実装が難しく、専用回路や近似計算によって三角関数計算を実装しているがその計算負荷は高い。
【0009】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、より計算負荷の低いホログラム計算装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の一観点に係るホログラム計算装置は、位相計算部と三角関数計算部と、積算部と、を備えるホログラム計算装置であって、三角関数計算部は、2π周期で計算された位相出力データを半周期毎に振幅0の仮想線を基準に反転させ、該反転させて得られた反転位相データと該反転位相データに続く半周期の反転させない位相出力データとを順に繋ぎ合わせて作られる擬似cos波形データを作成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上、本発明によって、より計算負荷の低いホログラム計算装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る三次元表示システムの構成図である。
図2】実施形態に係るホログラム計算装置の機能ブロック図である。
図3】ホログラム計算のイメージを示す図である。
図4】ホログラム計算のイメージを示す図である。
図5】計算出力データのイメージを示す図である。
図6】畳み込みのイメージを示す図である。
図7】一部反転のイメージを示す図である。
図8】2πによる剰余演算と、2による剰余演算の比較の概念を示す図である。
図9】三角関数計算部の実装回路の例を示す図である。
図10】計算に用いたホログラムのイメージ図である。
図11】計算による再生像画質評価の結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態の例示にのみ狭く限定されるわけではない。
【0014】
図1は、本実施形態に係るホログラム計算装置(以下「本装置」という。)を用いて実現される三次元表示システム(以下「本システム」という。)Sの構成図である。
【0015】
本図で示すように、本システムSは、三次元ホログラム計算装置1と、この三次元ホログラム計算装置1によって計算される三次元ホログラムを表示させるための空間位相変調器2と、ハーフミラー3と、このハーフミラー3に光を照射するレーザー光源4と、を備えて構成されている。
【0016】
本図で示すように、本システムSでは、三次元ホログラム計算装置1により三次元ホログラムデータを作成し、空間位相変調器2は三次元ホログラムデータの入力を受けて三次元ホログラムを表示する。一方、レーザー光源4は、ハーフミラー3に光を入力しその一部を空間位相変調器2に入力する。位相空間変調器2に入力されたレーザー光は変調を受け、ハーフミラー3に再び戻り、変調を受ける前のレーザー光と干渉しあい、その結果、観測者には三次元の立体画像として認識される。なお空間位相変調器2の表示を時間の経過とともに変調させることで、動画像(映像)として認識される。
【0017】
本システムSにおいて、三次元ホログラム計算装置1は、三次元ホログラムデータを作成することのできるものである。この構造としては、限定されるわけではないが、いわゆるコンピュータであることが好ましい。コンピュータとしては、特に限定されるわけではないが、ハードウェア構成として、例えばデータについて計算処理を行う中央演算装置(CPU)、プログラムや各種データを格納するハードディスク等の記録装置、メモリ等一時的にデータを格納して処理するための記憶装置、キーボードやマウス等使用者の要求を入力するための入力装置、これら各装置を電子的に接続するためのバス等を備えて構成されていることが好ましい。また本システムSの三次元ホログラム計算装置1には、ホログラム計算を行うための専用のユニット、上記したHORN等の専用計算ユニットを設けておくことも好ましい。
【0018】
また、本システムSでは、上記ハードウェア構成が使用者の要求に基づき各種処理を行うことで、三次元ホログラム計算装置として機能する。この詳細については後述する。
【0019】
本システムSにおいて、空間位相変調器2は、上記の通り、三次元ホログラムデータの入力を受けて三次元ホログラムを表示することができるものである。この限りにおいて限定されず、例えば液晶表示装置等を用いることができる。
【0020】
本システムSにおいて、ハーフミラー3は、入射された光の一部を透過し、一部を反射させることができるものである。ハーフミラー3については、特に限定されず一般に市販されているものを使用することができる。
【0021】
本システムSにおいて、レーザー光源4は、上記の通りレーザー光を発することのできるものである。レーザー光を発することのできるものである限りにおいて限定されるわけではないが、例えばLED Laserであることは簡便な構成を実現する上で好ましい一例である。
【0022】
また、レーザー光の波長としては、特に限定されるわけではないが、観測者が認識することのできる波長であることが好ましく、より好ましくは可視領域であって、具体的には350nm以上800nm以下であることが好ましい。なお、レーザー光源の波長がこの波長範囲にない場合、波長変調を行いこの範囲に収めておくことが好ましい。
【0023】
また本システムSにおいて、レーザー光源4を平行光とするためのコリメータレンズCをレーザー光源4とハーフミラー3との間に設けておくことも好ましい。このようにすることで、観測者は広い面積の画像を得ることが可能となる。
【0024】
ここで図2に、三次元ホログラム計算装置1の機能ブロックを示す。上記の通り、三次元ホログラム計算装置1は、コンピュータのハードウェアの各要素がそれぞれの機能を発揮することにより、一つの装置として動作することができる。
【0025】
本図で示すように、三次元ホログラム計算装置1は、位相計算部11と、三角関数計算部12と、積算部13と、を備えており、三角関数計算部12は、2π周期で計算された位相出力データを半周期毎に反転させることで擬似cos波形データを作成する。
【0026】
本実施形態において、三次元ホログラム計算は、以下の式に従い、ホログラム計算を行う。
【数1】
【0027】
すなわち、上記の式では、まず位相計算を行い(位相計算部による処理を行い)、その後三角関数計算具体的にはコサインの値を求め(三角関数計算部による処理を行い)、その後これらを積算する(積算部による処理を行う)ことになる。この場合の上記数式との関連のイメージを図3に示しておく。
【0028】
まず、三次元ホログラム計算装置1における位相計算部11は、三次元ホログラムのための位相の計算を行うものであって、この限りにおいて様々な計算方法を用いることができるが、具体的には、例えば、観測者に認識させたい三次元立体を想定し、その三次元立体を多数の点光源と仮定する。そして、この点光源から伝搬する光を想定し、ホログラムを表示させる面における位相を計算し、位相出力データとして出力する。この場合のイメージ図を図4に示しておくとともに、位相計算部による位相出力データのイメージを図5に示しておく。
【0029】
そして、三次元ホログラム計算装置1における三角関数計算部12は、上記位相計算部11の出力に基づき、2π周期で計算された位相出力データを半周期毎に反転させる。具体的には、上記図のイメージで示す位相出力データを2π周期で区切り、値をそろえていく、すなわちいわゆる畳み込みを行う。この場合のイメージ図を図6に示す。
【0030】
次に、この2πで区切った位相出力データの各範囲に対し、半分(半周期)毎に値を反転させ、周期的な擬似cos波形データを作成する。この結果作成される擬似cos波形データのイメージを図7に示す。
【0031】
三次元ホログラム計算装置1における積算部13は、上記三角関数計算部12による出力について積算を行い、その結果を三次元ホログラムデータとして出力する。
【0032】
以上、本実施形態の三次元ホログラム計算装置よって、より計算負荷の低いホログラム計算を行うことができる。より具体的に説明すると、従来、コサイン波形を計算するためには、cos(x)の値をあらかじめ計算して記録するいわゆるコサインテーブルを使用していた。この精度、xの粒度は実装に依存し、また、計算の並列数に応じてテーブル数が必要なため、回路面積を圧迫し計算の並列度を下げてしまう要因となっていた。一方、cos(x)の値をその場でそのまま計算していたのでは計算の負荷があまりに多くなってしまう。これに対し、本方法では、上記のとおり、位相出力データを所定の周期、具体的には2πで区切り、この位相出力データを半周期毎に反転させるといった簡便な方法で擬似cos波形データを作成することができ、計算の負荷を非常に軽くすることができる。
【0033】
ところで、上記方法によると確かに計算の負荷を非常に軽くすることができるが、本実施形態ではさらに、計算の負荷を軽減するための手法を採用することができる。具体的には、上記のように2π周期で畳み込む場合、2π毎にその剰余を求めるが、その場合、一般には剰余演算modulo(以下「mod」)を用いることで求められる。すなわち、この剰余はmod(kr,2π)であらわすことができる。しかしながら、計算において、浮動小数又は固定小数である2πに対するこの処理負荷は少なくない。そこで、整数Aに対するmodulo(A,2M),(Mは0より大きな自然数)がAの下位Mビットのビット抽出で実装可能であることを利用することで、計算の軽減を図ることができる。図8に、2πによる剰余演算と、2による剰余演算の比較の概念図を示す。ホログラムの計算において、各点光源の波面の振幅はそれらの比が一定であれば重要ではなく、位相計算出力に一定倍率をかけて得られる振動周波数は同じになる。また、出力として得られるホログラムデータも同じになる。すなわち、被剰余数を定数倍しても剰余数を同様に定数倍すれば、剰余演算によって得られる振動周波数は同じになる。そのため、本方法では、上記式における2πを2に置き換えて出力の下位Mビットを抽出することで三角関数と同じ周期性をもつ波形を作り出すことができる。ここでMは2、3倍程度の小さな値でも十分な性能のホログラムデータを生成することが可能である。
【0034】
上記を踏まえると、実装回路の例は、たとえば図9で示すことができる。すなわち、本実施形態では、ビット抽出、減算及びXOR(排他的論理和)を含む回路、より具体的にはこれらのみで構成される回路で示すことができる。
【0035】
ここで、上記手法を用いて、実際に図10で示すホログラム“tyranno”を用いて、上記背景技術で言及した直接計算を行った結果と、本方法による結果について計算を行った。この結果を図11に示す。またこの再製造画質評価を行ったところ、SN比40dB超を達成することができた。この結果から、本方法により大幅な計算負荷の軽減を図ることができるとともに、十分な再現制度を維持することができるのを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、ホログラム計算装置として産業上の利用可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11