特許第6781490号(P6781490)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6781490
(24)【登録日】2020年10月20日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】合成繊維紡糸工程用処理剤及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/256 20060101AFI20201026BHJP
   D06M 13/292 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   D06M13/256
   D06M13/292
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-36653(P2020-36653)
(22)【出願日】2020年3月4日
【審査請求日】2020年3月9日
(31)【優先権主張番号】特願2019-167272(P2019-167272)
(32)【優先日】2019年9月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】福岡 拓也
(72)【発明者】
【氏名】本郷 勇治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千尋
(72)【発明者】
【氏名】富田 貴志
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−067679(JP,A)
【文献】 特公昭48−022802(JP,B1)
【文献】 特表2008−519118(JP,A)
【文献】 特開2015−205962(JP,A)
【文献】 特開2016−089324(JP,A)
【文献】 米国特許第03332880(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00−15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)に示される化合物A、下記の式(2)に示される化合物B及び下記の式(3)に示される化合物Cを含むことを特徴とする合成繊維紡糸工程用処理剤。
【化1】
(式(1)において、
:炭素数6〜24のアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【化2】
(式(2)において、
:炭素数6〜24のヒドロキシアルキル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【化3】
(式(3)において、
:スルホ基(−SO)を少なくとも1つ有する炭素数6〜24の炭化水素基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。
但し、分子中にMが2以上ある場合は、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記化合物A、前記化合物B及び前記化合物Cの含有割合の合計を100質量%とすると、前記化合物Aを40〜79質量%、前記化合物Bを20〜59質量%及び前記化合物Cを1〜40質量%の割合で含む請求項1に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤。
【請求項3】
前記式(1)のR、前記式(2)のR及び前記式(3)のRが、炭素数10〜20のものである、請求項1又は2に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤。
【請求項4】
イオンクロマトグラフ法により合成繊維紡糸工程用処理剤から検出される硫酸イオンの濃度が100ppm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤。
【請求項5】
平滑剤、非イオン性界面活性剤及びイオン性界面活性剤を含有する合成繊維紡糸工程用処理剤であって、前記イオン性界面活性剤が前記化合物A、前記化合物B及び前記化合物Cを含み、前記平滑剤、前記非イオン性界面活性剤及び前記イオン性界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記化合物A、前記化合物B及び前記化合物Cを合計で0.1〜10質量%の割合で含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤。
【請求項6】
前記イオン性界面活性剤がリン酸エステル化合物を含有するものであって、前記リン酸エステル化合物が下記の式(4)に示されるリン酸エステルQ1と、下記の式(5)に示されるリン酸エステルQ2及び下記の式(6)に示されるリン酸エステルQ3から選ばれる少なくとも1つ以上とを含み、アルカリ過中和前処理された前記合成繊維紡糸工程用処理剤のP核NMR測定において、リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が15%以上である、請求項5に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤。
【化4】
(式(4)中において、
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【化5】
(式(5)中において、
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【化6】
(式(6)中において、
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【請求項7】
前記リン酸エステル化合物が前記リン酸エステルQ1と前記リン酸エステルQ2とを含み、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、前記リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分比率が5〜50%となるようにした請求項6に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤が、合成繊維に対し0.1〜3質量%(希釈剤と水を含まない)で付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸工程での長時間にわたる操業により蓄積するゴデットローラー上のタールを低減し、また、蓄積したタールを容易に洗浄することを可能とし、さらには高温のローラーとの摩擦が小さいことを特徴とする、合成繊維紡糸工程用処理剤及び、かかる処理剤が付着している合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成繊維の紡糸工程において、摩擦を低減し、糸切れ等の繊維の損傷を防止する観点から、合成繊維のフィラメント糸条の表面に合成繊維用処理剤を付着する処理が行われることがある。紡糸工程で生じうる毛羽数を低減するには、この合成繊維用処理剤の摩擦はできるだけ低いことが好ましい。この処理剤は、高温のゴデットローラーの熱に晒されるため、長時間操業することによってゴデットローラー上でのタールにもなりうる。このタールは、糸がタールの上を通過することで糸品質を低下させ、さらには断糸を引き起こし、生産性の低下をも起こす原因となる。また、蓄積したタールを洗浄するためには、生産を一時停止しなければならず、タールの洗浄に掛かる時間の分だけ生産性の低下を引き起こす。
【0003】
従来、特許文献1〜4に開示される合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、硬化ヒマシ油誘導体を1〜50%含有する合成繊維用処理剤について開示している。特許文献2は、チオジプロピオン酸エステル、2級アルキルスルホン酸化合物、リン酸エステルを特定の割合で含有する合成繊維用処理剤について開示している。特許文献3は、含硫黄化合物とゲルベアルコールのエステル化物を含有した合成繊維用処理剤について開示している。特許文献4は、特定の構造を有すリン酸化合物を含有した合成繊維用処理剤について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−307352号公報
【特許文献2】特開平08−120564号公報
【特許文献3】特許第6530129号公報
【特許文献4】特許第6405068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、これら従来の合成繊維用処理剤では、紡糸工程で長時間にわたって高温のローラーに晒されることによるタールの蓄積に対応できておらず、また、蓄積したタールの洗浄に対しても対応できていなかった。さらには、高温のローラーとの摩擦抵抗に対しても、対応が不十分だった。
本発明が解決しようとする課題は、紡糸工程で発生するタールを低減させ、またそのタールの洗浄を容易にし、さらには高温のローラーとの摩擦が小さい合成繊維紡糸工程用処理剤及び合成繊維を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、紡糸工程において高温のローラーとの摩擦が小さくなり、また発生するタールを低減させ、さらにはタールが蓄積したとしてもその洗浄性を向上させるためには、特定の化学構造を有するスルホン酸化合物が大きく関与していることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0007】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.下記の式(1)に示される化合物A、下記の式(2)に示される化合物B及び下記の式(3)に示される化合物Cを含むことを特徴とする合成繊維紡糸工程用処理剤。
【化1】

(式(1)において、
:炭素数6〜24のアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【化2】

(式(2)において、
:炭素数6〜24のヒドロキシアルキル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【化3】

(式(3)において、
:スルホ基(−SO)を少なくとも1つ有する炭素数6〜24の炭化水素基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。
但し、分子中にMが2以上ある場合は、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
2.前記化合物A、前記化合物B及び前記化合物Cの含有割合の合計を100質量%とすると、前記化合物Aを40〜79質量%、前記化合物Bを20〜59質量%及び前記化合物Cを1〜40質量%の割合で含む1.に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤。
3.前記式(1)のR、前記式(2)のR及び前記式(3)のRが、炭素数10〜20のものである、1.又は2.に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤。
4.イオンクロマトグラフ法により合成繊維紡糸工程用処理剤から検出される硫酸イオンの濃度が100ppm以下である、1.〜3.のいずれか一項に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤。
5.平滑剤、非イオン性界面活性剤及びイオン性界面活性剤を含有する合成繊維紡糸工程用処理剤であって、前記イオン性界面活性剤が前記化合物A、前記化合物B及び前記化合物Cを含み、前記平滑剤、前記非イオン性界面活性剤及び前記イオン性界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記化合物A、前記化合物B及び前記化合物Cを合計で0.1〜10質量%の割合で含有する、1.〜4.のいずれか一項に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤。
6.前記イオン性界面活性剤がリン酸エステル化合物を含有するものであって、前記リン酸エステル化合物が下記の式(4)に示されるリン酸エステルQ1と、下記の式(5)に示されるリン酸エステルQ2及び下記の式(6)に示されるリン酸エステルQ3から選ばれる少なくとも1つ以上とを含み、アルカリ過中和前処理された前記合成繊維紡糸工程用処理剤のP核NMR測定において、リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が15%以上である、5.に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤。
【化4】
(式(4)中において、
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【化5】
(式(5)中において、
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【化6】
(式(6)中において、
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
7.前記リン酸エステル化合物が前記リン酸エステルQ1と前記リン酸エステルQ2を含み、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、前記リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分比率が5〜50%となるようにした6.に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤。
8.1.〜7.のいずれか一項に記載の合成繊維紡糸工程用処理剤が、合成繊維に対し0.1〜3質量%(希釈剤と水を含まない)で付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、紡糸工程で発生するタールを低減させることができ、またそのタールの洗浄を容易にし、さらには高温のローラーとの摩擦の抵抗を小さくできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、上記式(1)〜(3)で示される3種類のスルホン酸化合物を含有する合成繊維紡糸工程用処理剤や、この合成繊維紡糸工程用処理剤が、合成繊維に対し0.1〜3質量%(希釈剤と水を含まない)で付着した合成繊維に関する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
<化合物A、B、C>
本発明の合成繊維紡糸工程用処理剤は、下記の式(1)に示される化合物A、下記の式(2)に示される化合物B及び下記の式(3)に示される化合物Cを必須成分として含有するものである。
【化7】
(式(1)において、
:炭素数6〜24のアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【化8】
(式(2)において、
:炭素数6〜24のヒドロキシアルキル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【化9】
(式(3)において、
:スルホ基(−SO)を少なくとも1つ有する炭素数6〜24の炭化水素基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。
但し、分子中にMが2以上ある場合は、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0011】
(化合物A)
本発明における上記の式(1)に示される化合物Aは、1級スルホン酸化合物であることが好ましく、式(1)中のRで示されるアルケニル基は、直鎖構造であっても、分岐構造であってもよい。式(1)で示される化合物Aは、二重結合の位置に制限はないが、2−3位間に二重結合を持つものが好ましい。また、シス−トランス異性体を有するが、シス体であっても、トランス体であってもよい。
本発明において、上記式(1)中のRが、炭素数10〜20のアルケニル基であるアルケンスルホン酸化合物が好ましく、炭素数12〜19のアルケニル基がさらに好ましく、炭素数14〜18のアルケニル基が特に好ましい。
本発明における式(1)で示される化合物Aは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
(化合物B)
本発明における上記の式(2)に示される化合物Bは、1級スルホン酸化合物であることが好ましく、式(2)中のヒドロキシアルキル基は、直鎖構造であっても、分岐構造であってもよい。ヒドロキシ基の位置に制限は無いが、式(2)のスルホ基が結合した炭素を1位として、3位にあるのが好ましい。また、炭素数10〜20のヒドロキシアルキル基であることが好ましく、炭素数12〜19のヒドロキシアルキル基がさらに好ましく、炭素数14〜18のヒドロキシアルキル基が特に好ましい。
上記式(2)で示す化合物Bは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
(化合物C)
本発明における上記の式(3)に示される化合物Cは、式(3)中のRで示される炭化水素基は、直鎖構造であっても、分岐構造であってもよい。スルホ基の位置に制限はないが、式(3)の化合物は炭化水素鎖の末端にスルホ基を少なくとも1つ持つことが好ましい。炭化水素基には、二重結合を有していても良く、トランス体でもシス体でも良い。また、炭化水素基にはヒドロキシ基を有していても良い。
本発明において、上記式(3)中のRの炭素数は10〜20であることが好ましく、炭素数12〜19であることがさらに好ましく、炭素数14〜18であることが特に好ましい。
本発明における式(3)で示される化合物Cは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
本発明における、上記式(1)で示される化合物A、上記式(2)で示される化合物B及び、上記式(3)で示される化合物Cの化合物は、オレフィンを三酸化硫黄でスルホン化することにより混合物として得られ、この合成方法は工業的な製法として一般的に知られている。オレフィンと三酸化硫黄の仕込み物質量比や反応温度によって、これら化合物の生成割合は異なり、さらには種々の異性体や副生成物もできることが知られている(参考文献1:橋本茂、永井敏雄、「NMRスペクトル法によるα−オレフィンスルホン酸ナトリウムの異性体分析」、1977年、分析化学、第26巻、第1号、第10〜14頁。参考文献2:富山新一、「α−オレフィン・スルホン酸塩−その製造と性能について−」、1970年、油化学、第19巻、第6号、第359〜368頁。参考文献3:Arthur D. Little, Inc., Environmental and Human Safety of Major Surfactants, Vol. 1, Anionic Surfactants. Part 4, Alpha Olefin Sulfonates, Final report to the Soap and Detergent Association,New York, 1993.)。また、化合物A、化合物B、および化合物Cの混合物は、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製のリポランLB−440、リポランPB−800CJとしても知られている。
【0015】
本発明の合成繊維紡糸工程用処理剤は、上記式(1)で示される化合物A、上記式(2)で示される化合物B及び、上記式(3)で示される化合物Cの含有割合の合計を100質量%とすると、前記化合物Aを40〜79質量%、前記化合物Bを20〜59質量%、及び前記化合物Cを1〜40質量%の割合で含むことが好ましい。前記化合物Aは、上記範囲の中でも50〜73質量%の割合で含むことがより好ましい。前記化合物Bは、上記範囲の中でも20〜43質量%の割合で含むことがより好ましい。前記化合物Cは、上記範囲の中でも1〜19質量%の割合で含むことがより好ましい。
【0016】
上記式(1)で示される化合物A、上記式(2)で示される化合物B及び、上記式(3)で示される化合物Cを、α−オレフィンと三酸化硫黄の反応により合成した場合、本発明の合成繊維紡糸工程用処理剤は、その反応により生成した不純物を含んでいても良い。当該不純物としては、反応中間物である1,2−スルトン、1,3−スルトン、1,4−スルトンのような環状構造物のほか、炭化水素鎖に二重結合を有す2級スルホン酸化合物などの内部オレフィンスルホン酸化合物等が挙げられる。
α−オレフィンと三酸化硫黄の反応により得られた、上記式(1)で示される化合物A、上記式(2)で示される化合物B及び、上記式(3)で示される化合物Cは、不純物として多量の硫酸ナトリウム等の硫酸塩を含むことが多い。この硫酸塩は、紡糸中に高温のゴデットローラー上にタールとして蓄積されやすい。そのため、上記化合物A、化合物B及び、化合物Cは、精製してから合成繊維紡糸工程用処理剤に混合することが好ましい。具体的には、イオンクロマトグラフ法により合成繊維紡糸工程用処理剤から検出される硫酸イオンの濃度が100ppm以下になるよう精製することが好ましい。精製方法は、一般的な方法を用いてよく、例えば貧溶媒晶析法やイオン交換法などが挙げられる。
【0017】
本発明における合成繊維紡糸工程用処理剤において、平滑剤、非イオン性界面活性剤及びイオン性界面活性剤を含み、前記イオン性界面活性剤が、前記化合物A、前記化合物B及び前記化合物Cを含み、前記平滑剤、前記非イオン性界面活性剤及び前記イオン性界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記化合物A、前記化合物B及び前記化合物Cを合計で、0.1〜10質量%の割合で含有することが好ましく、0.1〜8質量%の割合で含有することがより好ましく、0.1〜5質量%の割合で含有することがさらに好ましい。
【0018】
<平滑剤>
本発明における合成繊維紡糸工程用処理剤に使用する平滑剤としては、(1)オクチルステアラート、ラウリルパルミタート、オレイルオレアート、オレイルエルシナート等のモノエステル化合物、(2)ジオレイルアジパート、1,4−ブタンジオレアート、ジラウリルセバテート、ジオレイルフマラート等のジエステル化合物、(3)ラウリルメルカプトプロピオナート、オクチルメルカプトプロピオナート、ジラウリルチオジプロピオナート、ジオレイルチオジプロピオナート等の含硫黄エステル化合物、(4)パラフィン、オレフィン、ナフテン等から成る鉱物油が挙げられる。中でも分子中に分岐構造を有するエステル化合物を含むものが好ましい。分子中に分岐構造を有するエステル化合物としては、例えば(5)イソブチルステアラート、2−エチルヘキシルオレイン酸エステル、2−エチルヘキシルエルシン酸エステル、イソステアリルオレアート、イソテトラコシルエルシナート等の分岐モノエステル化合物、(6)ジイソラウリルセバテート、ジイソステアリルアジパート、ジイソテトラコシルアジパート、ジ−2−エチルヘキシルマレイン酸エステル、ネオペンチルグリコールジオレイン酸エステル、2−エチルヘキシルアジパート等の分岐ジエステル、(7)グリセリントリオレアート、グリセリントリラウラート、トリメチロールプロパントリオレアート、トリメチロールプロパン大豆脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールテトラオクタノアート等の多価アルコールエステル、(8)トリオクチルトリメリタート、クエン酸トリエチル等の多価カルボン酸エステル、(9)大豆油、ヤシ油、ひまし油、パーム油、ナタネ油等の天然油脂、(10)2−エチルヘキシルメルカプトプロピオナート、イソラウリルメルカプトプロピオナート、ジイソラウリルチオジプロピオナート、ジイソステアリルチオジプロピオナート、ジイソパルミチルジチオプロピオナート、トリメチロールプロパントリスメルカプトプロピオナート等の含硫黄分岐エステルが挙げられる。なかでも、2−エチルヘキシルアジパート、イソステアリルオレアート、ナタネ油、トリメチロールプロパントリオレアート、ジイソステアリルチオジプロピオナート、ジイソラウリルチオジプロピオナートがより好ましい。これらの平滑剤成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
<非イオン性界面活性剤>
本発明における合成繊維紡糸工程用処理剤に使用する非イオン性界面活性剤としては、特に制限はなく、例えば(1)有機酸、有機アルコール、有機アミン、及び有機アミドから選ばれる少なくとも一種に炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを付加した化合物、例えばポリオキシエチレンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリン酸エステルメチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテルメチルエーテル、ポリオキシブチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンラウロアミドエーテル等のエーテル型非イオン性界面活性剤、(2)ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート、グリセリンモノラウラート等の多価アルコール部分エステル型非イオン性界面活性剤、(3)ポリエチレングリコールジオレアート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート、ポリオキシブチレンソルビタントリオレアート、ポリオキシプロピレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンプロピレン硬化ひまし油トリオレアート、ポリオキシエチレン硬化ひまし油トリラウラート、ひまし油のエチレンオキサイド(以下、EOという)付加物及び硬化ひまし油のEO付加物から選ばれる少なくとも1種の化合物と、モノカルボン酸及びジカルボン酸とを縮合させたエーテルエステル化合物等のポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン性界面活性剤、(4)ジエタノールアミンモノラウロアミド等のアルキルアミド型非イオン性界面活性剤等が挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明では、化合物名の末端にEOおよびPOと記載したものは、それぞれエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの付加物を意味し、後に続く数字はその付加モル数を示す。
【0020】
<リン酸エステル>
本発明における合成繊維紡糸工程用処理剤は、下記式(4)で示すリン酸エステルQ1と、下記式(5)で示すリン酸エステルQ2及び下記式(6)で示すリン酸エステルQ3から選ばれる少なくとも1つ以上とを含んでいてもよい。
【化10】
(式(4)中において、
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【化11】
(式(5)中において、
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【化12】
(式(6)中において、
:炭素数4〜24のアルキル基、又は炭素数4〜24のアルケニル基。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩。)
【0021】
ここで、アルカリ過中和前処理された前記合成繊維紡糸工程用処理剤のP核NMR測定において、上記リン酸エステルQ1、リン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が15%以上であることが好ましく、17%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。また、同様に、前記リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分比率が5〜50%であることが好ましく、6〜45%であることがより好ましく、7〜40%であることがさらに好ましい。さらに、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が15〜80%であり、かつ、前記リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分比率が5〜50%であることがより好ましく、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が17〜70%であり、かつ、前記リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分比率が6〜45%であることがさらに好ましく、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が20〜60%であり、かつ、前記リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分比率が7〜40%であることが特に好ましい。
本発明における「アルカリ過中和前処理」とは、合成繊維紡糸工程用処理剤に対して過剰量のアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ラウリルアミン)を添加する前処理を意味する。31P−NMRの測定において、この「アルカリ過中和前処理」を行うことで、リン酸エステルQ1、リン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、リン酸及びその塩に帰属されるピークを明瞭に分けることができ、下記数式(1)〜数式(4)による各化合物に帰属されるP核積分比率の計算が可能となる。本発明における31P−NMRの測定では、観測ピークが分かれる程度のアルカリを合成繊維紡糸工程用処理剤に加えるアルカリ過中和処理を行った。
前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率は下記の数式(1)で、前記リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分比率は下記の数式(2)で、前記リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分比率は下記の数式(3)で、前記リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率は下記の数式(4)で示される。
【0022】
【数1】
(数式(1)において、
Q1_P%:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率、
Q1_P:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分値、
Q2_P:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分値、
Q3_P:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分値。)
【数2】
(数式(2)において、
Q2_P%:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分比率、
Q1_P:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分値、
Q2_P:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分値、
Q3_P:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分値。)
【数3】
(数式(3)において、
Q3_P%:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分比率、
Q1_P:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分値、
Q2_P:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分値、
Q3_P:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分値。)
【数4】
(数式(4)において、
リン酸_P%:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率、
Q1_P:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分値、
Q2_P:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分値、
Q3_P:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分値。)
【0023】
上記式(4)〜(6)で示されるリン酸エステルQ1〜Q3中のR、R、R、R、Rとしては、例えば、ブタノールから水酸基を除いた残基、ヘキサノールから水酸基を除いた残基、ヘプタノールから水酸基を除いた残基、オクタノールから水酸基を除いた残基、ノナノールから水酸基を除いた残基、デカノールから水酸基を除いた残基、ラウリルアルコールから水酸基を除いた残基、ミリスチルアルコールから水酸基を除いた残基、パルミチルアルコールから水酸基を除いた残基、オレイルアルコールから水酸基を除いた残基、ステアリルアルコールから水酸基を除いた残基、エイコサノールから水酸基を除いた残基、テトラコサノールから水酸基を除いた残基、2−エチルヘキサノールから水酸基を除いた残基、2−デシル−1−テトラデカノールから水酸基を除いた残基、イソセチルアルコールから水酸基を除いた残基、2−ブチル−1−オクタノールから水酸基を除いた残基等が挙げられる。なかでも、2−エチルヘキサノール、オレイルアルコール、2−デシル−1−テトラデカノール、イソセチルアルコール、2−ブチル−1−オクタノールが好ましい。
上記式(4)〜(6)で示されるリン酸エステルQ1〜Q3におけるリン酸エステルに対する対イオンは、特に制限はないが、例えば、水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、有機アミン、ホスホニウム等が挙げられる。なかでも、ジブチルエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンオクチルアミノエーテル、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
これらリン酸エステルは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本発明における合成繊維紡糸工程用処理剤は、さらにその他のイオン性界面活性剤を含んでいてもよく、具体的には、例えば、(1)酢酸カリウム、オクタン酸カリウム塩、オレイン酸カリウム塩、オレイン酸ナトリウム塩、アルケニルコハク酸カリウム塩等のカルボン酸石鹸型イオン性界面活性剤、(2)2級アルカンスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩等のスルホン酸エステル型イオン性界面活性剤、(3)ポリオキシエチレンラウリル硫酸エステルナトリウム塩、ヘキサデシル硫酸カリウム塩、牛脂硫化油、ひまし油硫化油等の硫酸エステル型イオン性界面活性剤等が挙げられる。これらの成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
<その他の成分>
本発明の合成繊維紡糸工程用処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常合成繊維の処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【0026】
<合成繊維>
本発明の合成繊維は、本発明の合成繊維紡糸工程用処理剤が、合成繊維に対し0.1〜3質量%(希釈剤と水を含まない)で付着している合成繊維である。本発明の合成繊維紡糸工程用処理剤を付着させる合成繊維としては、特に制限はないが、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレンテレフタラート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。製造する合成繊維の繊度としては、特に制限はないが、好ましくは150デシテックス以上であり、さらに好ましくは500デシテックス以上であり、特に好ましいのは1000デシテックス以上である。また、製造する合成繊維の強度としては、特に制限はないが、好ましくは5.0cN/dtex以上であり、さらに好ましくは6.0cN/dtex以上、特に好ましくは7.0cN/dtex以上である。
本発明の合成繊維紡糸工程用処理剤(溶媒を含まない)を合成繊維に付着させる割合は、本発明の合成繊維紡糸工程用処理剤を合成繊維に対し0.1〜3質量%(希釈剤と水を含まない)の割合となるよう付着させる。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。
また、本発明の合成繊維紡糸工程用処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等の公知の方法を採用することができる。
【0027】
本発明における合成繊維紡糸工程用処理剤は、上記式(1)で示される化合物A、上記式(2)で示される化合物B及び、上記式(3)で示される化合物Cを必須成分として含有することにより、合成繊維の紡糸工程で発生するタールを低減させ、また、そのタールの洗浄を容易にすることができる。さらには、高温のローラーとの摩擦抵抗を軽減することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0029】
<試験区分1(スルホン酸化合物)>
・スルホン酸化合物(S1−1、S2−1及び、S3−1の合成)
1−テトラデセンに三酸化硫黄を加え、50℃以下でスルホン化した。これに、過剰量の水酸化ナトリウム水溶液を加えて1時間撹拌した後、オートクレーブ中で150℃、1時間加熱した。これに、石油エーテルおよびエタノールを加えて撹拌・静置した後、油相を取り除くことで油溶性の不純物を抽出除去した。残った水相を蒸発乾固させた。これをクロマトグラフィーで対イオンが水素であるS1−1、S2−1、S3−1をそれぞれ分取した。次いで、これらのpHが9となるよう、それぞれに水酸化ナトリウムを加えよく撹拌したのち、蒸発乾固させることでS1−1、S2−1、S3−1を得た。
S1−2〜S1−5、S2−2〜S2−5、S3−2〜S3−5は、表1〜3に示す炭素数のα−オレフィン原料を使用し、S1−1、S2−1、S3−1と同様の方法で合成した。尚、S1−3、S2−3、S3−3の中和剤にはラウリルアミンEO4を、S1−4、S2−4、S3−4の中和剤には水酸化カリウムを使用した。
今回の実施例及び比較例において、使用した上記式(1)で示される化合物A(S1−1〜S1−5)の内容を表1に、上記式(2)で示される化合物B(S2−1〜S2−5)の内容を表2に、使用した上記式(3)で示される化合物C(S3−1〜S3−5)の内容を表3に示した。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
<試験区分2(リン酸エステル化合物)>
・リン酸エステル化合物(P−1)の合成
4つ口フラスコ内で撹拌下の2−エチルヘキサノールに五酸化二燐を仕込み、70±5℃で3時間反応させた。次いで、中和剤としてジブチルエタノールアミンを仕込み、50℃で1時間撹拌した。(P−2〜P−5)は、表4の原料を使用し、P−1と同様の方法で合成した。尚、P−2及びP−5の中和では、水酸化ナトリウム水溶液にリン酸化物を仕込み、撹拌することで中和を行った。
・リン酸エステル化合物(rP−1)の合成
4つ口フラスコ内で撹拌下のオレイルアルコールに五酸化二燐とポリリン酸を仕込み、60±5℃で3時間反応させた。次いで、中和剤の水酸化カリウム水溶液に、これを仕込み、50℃で1時間撹拌した。
【0034】
【表4】
【0035】
<試験区分3(合成繊維紡糸工程用処理剤の調製)>
・合成繊維紡糸工程用処理剤(実施例1)の調製
平滑剤としてジオレイルアジパート(A−1)を20部、オレイルオレアート(A−2)を35部、ジイソステアリルチオジプロピオナート(bSA−1)を5部、非イオン性界面活性剤としてポリエチレングリコール(分子量600)とオレイン酸2モルとのエステル化物(B−4)を10部、ソルビタンモノオレアート(B−5)を8部、ひまし油−EO8(B−8)を10部、ひまし油−EO20 1モルとオレイン酸3モルのエステル化物(B−11)を8部、その他成分としてオレイン酸カリウム塩(D−1)を0.7部、化合物Aとして(S1−1)を0.4部、化合物Bとして(S2−1)を0.20部、化合物Cとして(S3−1)を0.1部、リン酸エステルとして(P−1)を2.6部、これらを均一混合し、実施例1の合成繊維紡糸工程用処理剤を調製した。
【0036】
・合成繊維紡糸工程用処理剤(実施例2〜12及び比較例1〜5)の調製
実施例1の合成繊維紡糸工程用処理剤の調製と同様に、実施例2〜12及び比較例1〜5の合成繊維紡糸工程用処理剤を調製し、実施例1〜12の組成を表5に、比較例1〜5の組成を表6に示した。
但し、実施例2及び比較例5は、表5、6の原料以外に酸化防止剤として1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンを処理剤100部に対し0.8部の割合で添加した。
【0037】
調製した合成繊維紡糸工程用処理剤0.10gにラウリルアミン0.15gを入れてよく撹拌した。溶媒を重クロロホルムとして、これの31P−NMRを測定した。尚、リン酸エステル化合物のP核積分比率は、31P−NMR(VALIAN社製の商品名MERCURY plus NMR Spectrometor System、300MHz)に供した測定値を用いて、前記数式(1)〜数式(4)から算出し、下記表5、6に示した。
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
表5、6において、
A−1:ジオレイルアジパート
A−2:オレイルオレアート
A−3:1,4−ブタンジオレアート
A−4:鉱物油(レッドウッド秒120)
bA−1:ジ(2−エチルヘキシル)アジパート
bA−2:イソステアリルオレアート
bA−3:ナタネ油
bA−4:トリメチロールプロパントリオレアート
bA−5:グリセリントリオレアート
SA−1:ジオレイルチオジプロピオナート
bSA−1:ジイソステアリルチオジプロピオナート
bSA−2:ジイソドデシルチオジプロピオナート
B−1:ヤシ脂肪酸−EO12
B−2:オレイルアルコール−EO15
B−3:イソステアリルアルコール−EO8PO10
B−4:ポリエチレングリコール(分子量600)とオレイン酸2モルとのエステル化物
B−5:ソルビタンモノオレアート
B−6:ラウリルアミン−EO6
B−7:ジエタノールアミンオレイン酸アミド
B−8:ひまし油−EO8
B−9:硬化ひまし油−EO12
B−10:硬化ひまし油−EO10PO15
B−11:ひまし油−EO20 1モルとオレイン酸3モルのエステル化物
B−12:硬化ひまし油−EO25 1モルとラウリン酸2モルのエステル化物
B−13:硬化ひまし油−EO15とアジピン酸とステアリン酸の重縮合物(分子量6000)
D−1:オレイン酸カリウム塩
D−2:オクチル酸ナトリウム塩
D−3:2級アルキルスルホン酸ナトリウム塩
D−4:2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム塩
【0041】
<試験区分4(合成繊維紡糸工程用処理剤の硫酸イオン量)>
試料1g(合成繊維紡糸工程用処理剤の揮発分も含む)を正確に量りとり、撹拌しながら10%の2−プロパノール水溶液を少しずつ加え、100mLメスフラスコで定容した溶液を作製した。作製した水溶液1mLを、ODS(シリカゲルにオクタデシル基を化学結合させた)前処理カートリッジに通し、イオンクロマトグラフ分析に使用した。以下のイオンクロマトグラフ条件により検出を行った。濃度既知の標準液に対するピーク面積比にて検出量を測定し、硫酸イオン(SO42−)の量を換算した。
<イオンクロマトグラフ条件>
装置:東ソー社製 IC2001 サプレッサ使用、
分析カラム:東ソー社製 TSKgel SuperIC−AZ 内径4.6mm×長さ75mm、
ガードカラム:東ソー社製 TSKgel guardcolumn SuperIC−AZ、内径4.0mm×長さ10mm、
溶離液:4.8mmolのNaCO、2.8mmolのNaHCOの23容量%メタノール水溶液、
流量:0.6mL/min。
【0042】
<試験区分5(合成繊維紡糸工程用処理剤の評価)>
・タール蓄積性の評価
試験区分3で調製した各処理剤を必要に応じてイオン交換水又は有機溶剤の希釈剤にて均一に希釈し、15%溶液とした。1670デシテックス、288フィラメント、固有粘度0.93の無給油のポリエチレンテレフタラート繊維に、前記の溶液を、オイリングローラー給油法にて不揮発分として付与量5質量%となるように付与し、希釈剤を乾燥させ試験糸とした。試験糸を、初期張力1.5kg、糸速度1m/分で、表面温度240℃の梨地クロムピンに接触させて12時間走行させた後のタールの蓄積を観察し、次の基準で評価した。結果を表7にまとめて示した。
【0043】
・タール蓄積性の評価基準
◎◎:糸道にタールの蓄積が見られない
◎○:糸道にほとんどタールの蓄積が見られない
○○:糸道に微かにタールの蓄積が見られる
○ :糸道にタールの蓄積が少し見られる
× :糸道にタールの蓄積がかなり見られる
【0044】
・タール洗浄性の評価
タール蓄積性評価で使用した梨地クロムピンに付着したタールを5%NaOHとなるよう調整したグリセリン溶液を含浸させた綿棒を用いて180℃で擦り、タールが消えるまでの回数を測定した。タール洗浄性は次の基準で評価した。結果を表7にまとめて示した。
【0045】
・タール洗浄性の評価基準
◎◎:50回未満
◎○:50回以上100回未満
○○:100回以上150回未満
○ :150回以上200回未満
× :200回以上
【0046】
・張力値の評価
タール蓄積性評価に使用する糸を、初期張力1.5kg、糸速度0.1m/分で、表面温度240℃の梨地クロムピンに接触させ、その梨地クロムピン擦過後の張力を測定した。測定した張力値を次の基準で評価した。結果を表7にまとめて示した。
【0047】
・張力値の評価基準
◎◎:1.80kg未満
◎○:1.80kg以上1.83kg未満
○○:1.83kg以上1.86kg未満
○ :1.86kg以上1.90kg未満
× :1.90kg以上
【0048】
【表7】
【0049】
表7の結果からも明らかなように、各実施例の合成繊維紡糸工程用処理剤は、タール蓄積性およびタール洗浄性評価、さらに張力値の評価がいずれも良好であった。本発明によれば、合成繊維の紡糸工程で発生するタールを低減させ、また、そのタールの洗浄を容易にすることに加え、高温のローラーとの摩擦抵抗を軽減しうる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の合成繊維紡糸工程用処理剤や、この合成繊維紡糸工程用処理剤が、合成繊維に対し0.1〜3質量%(希釈剤と水を含まない)で付着した合成繊維は、紡糸工程において、摩擦抵抗が小さく、またタールを低減させ、さらにはそのタールの洗浄を容易とすることができ、非常に有用である。
【要約】
【課題】本発明は、紡糸工程で発生するタールを低減させ、またそのタールの洗浄を容易にし、さらには高温のローラーとの摩擦が小さい合成繊維用処理剤及び合成繊維を提供することを課題としている。
【解決手段】式(1)に示される化合物A、式(2)に示される化合物B及び式(3)に示される化合物Cを含むことを特徴とする合成繊維用処理剤。
【選択図】なし