特許第6781544号(P6781544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781544
(24)【登録日】2020年10月20日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20201026BHJP
【FI】
   H01G4/30 201J
   H01G4/30 515
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-257374(P2015-257374)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-120854(P2017-120854A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2018年8月7日
【審判番号】不服2020-1237(P2020-1237/J1)
【審判請求日】2020年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅之
(72)【発明者】
【氏名】今野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】由利 俊一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康裕
(72)【発明者】
【氏名】小田嶋 努
(72)【発明者】
【氏名】加納 裕士
【合議体】
【審判長】 井上 信一
【審判官】 石川 亮
【審判官】 五十嵐 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−287045(JP,A)
【文献】 特開2012−129508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層および電極層を有するセラミック電子部品であって、
前記誘電体層は、複数のセラミック粒子および前記複数のセラミック粒子間に存在する粒界相を有し、
前記セラミック粒子の主成分はチタン酸バリウムであり、
前記粒界相の平均厚みが1.0nm以上1.5nm以下、かつ、前記粒界相の厚みバラツキσが0.1nm以下であることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記誘電体層は、チタン酸バリウム、イットリウム、マグネシウム、クロム、バナジウム、カルシウムおよびケイ素を含み、
前記チタン酸バリウムの含有量をBaTiO換算で100モル部とした場合に、前記イットリウムの含有量がY換算で1.0〜1.5モル部、前記マグネシウムの含有量がMgO換算で1.8〜2.5モル部、前記クロムの含有量がCr換算で0.2〜0.7モル部、前記バナジウムの含有量がV換算で0.05〜0.2モル部、前記カルシウムの含有量がCaO換算で0.5〜2.0モル部、前記ケイ素の含有量がSiO換算で1.65〜3.0モル部である請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記セラミック粒子のd50が0.47μm以下である請求項1または2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記誘電体層は希土類元素Rおよびケイ素を含有し、R換算した前記Rの含有量をSiO換算した前記ケイ素の含有量で割った値が0.40以上、0.79以下である請求項1〜3のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック電子部品は、小型、高性能、高信頼性の電子部品として広く利用されており、電気機器および電子機器の中で使用される個数も多数にのぼる。近年、電気機器および電子機器の小型化かつ高性能化に伴い、セラミック電子部品に対する小型化、高性能化、高信頼性化への要求はますます厳しくなっている。
【0003】
このような要求に対し、特許文献1には、チタン酸バリウムの原料粉末のBET値と、誘電体磁器組成物の原料粉末のBET値と、を特定の関係とすることで、絶縁破壊電圧等の信頼性の向上を図った積層セラミックコンデンサが開示されている。しかしながら、現在では、さらなる高温負荷寿命の向上が要求されている。さらに、高温負荷寿命のバラツキも小さくすることが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−290675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高温負荷寿命の向上および高温負荷寿命のバラツキの低減を実現し、信頼性の高いセラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討を行った結果、セラミック電子部品の誘電体層における複数のセラミック粒子の間に存在する粒界相の厚みに着目した。そして、粒界相の平均厚みおよび粒界相の厚みバラツキσを特定の範囲内とすることで、高温負荷寿命を向上させ、高温負荷寿命のバラツキを低減することができ、その結果、信頼性を高めることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明に係るセラミック電子部品は、具体的には、
誘電体層および電極層を有するセラミック電子部品であって、
前記誘電体層は、複数のセラミック粒子および前記複数のセラミック粒子間に存在する粒界相を有し、
前記セラミック粒子の主成分はチタン酸バリウムであり、
前記粒界相の平均厚みが1.0nm以上、かつ、前記粒界相の厚みバラツキσが0.1nm以下であることを特徴とする。
【0008】
前記誘電体層は、チタン酸バリウム、イットリウム、マグネシウム、クロム、バナジウム、カルシウムおよびケイ素を含み、
前記チタン酸バリウムの含有量をBaTiO換算で100モル部とした場合に、前記イットリウムの含有量がY換算で1.0〜1.5モル部、前記マグネシウムの含有量がMgO換算で1.8〜2.5モル部、前記クロムの含有量がCr換算で0.2〜0.7モル部、前記バナジウムの含有量がV換算で0.05〜0.2モル部、前記カルシウムの含有量がCaO換算で0.5〜2.0モル部、前記ケイ素の含有量がSiO換算で1.65〜3.0モル部であることが好ましい。
【0009】
前記セラミック粒子のd50が0.47μm以下であることが好ましい。
【0010】
また、前記誘電体層は希土類元素Rおよびケイ素を含有し、R換算した前記Rの含有量を、SiO換算した前記ケイ素の含有量で割った値が0.40以上、0.79以下であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
図2図2は、誘電体層におけるセラミック粒子と粒界相を示す模式図である。
図3図3は、ワイブルプロットの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0013】
積層セラミックコンデンサ1
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0014】
コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、図1に示すように、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0015】
誘電体層2
誘電体層2は、少なくとも複数のセラミック粒子および複数のセラミック粒子間に存在する粒界相を有する。そして、セラミック粒子はチタン酸バリウムを主成分とする。なお、「チタン酸バリウムを主成分とする」とは、セラミック粒子全体に対するチタン酸バリウムの含有量が90wt%以上であることを指す。
【0016】
本実施形態で用いられるチタン酸バリウムは、組成式BaTiO2+n で表される。nおよびBa/Tiのモル比に特に限定はないが、nが0.995≦n≦1.010であり、BaとTiとのモル比が0.995≦Ba/Ti≦1.010であるチタン酸バリウムが好適に使用できる。以下、チタン酸バリウムの組成式を、単にBaTiOと記載する。
【0017】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1の誘電体層2を拡大すると、図2に示すように、セラミック粒子12とセラミック粒子12´の間に粒界相20が存在する。本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1の誘電体層2は、平均厚みが1.0nm以上、かつ、厚みバラツキσが0.1nm以下の粒界相20を有する。
【0018】
粒界相20の平均厚みを1.0nm以上にすることで、高温負荷寿命が著しく向上する。さらに、粒界相20の厚みバラツキσを0.1nm以下とすることで高温負荷寿命のバラツキを小さく制御できる。なお、粒界相20の平均厚みに上限はないが、通常は1.5nm以下、好ましくは1.2nm以下である。
【0019】
粒界相20の厚みの測定方法には特に制限はないが、例えば以下の測定方法で測定することができる。
【0020】
粒界相20の厚みは、誘電体層2の断面をSTEMで観察し、図2のように粒界相20の厚みが測定できる写真を撮影し、目視にて測定することが可能である。なお、STEMの倍率、視野面積に特に制限はないが、例えば倍率500万〜1000万倍で視野面積(15〜25nm)×(15〜25nm)とすることができる。
【0021】
さらに、複数の視野についてSTEMで観察し、それぞれの視野で測定した粒界相20の厚みを平均することで、粒界相20の平均厚みを算出することができる。
【0022】
さらに、複数の粒界相20の厚みの標準偏差が厚みバラツキσである。粒界相20の平均厚みおよび厚みバラツキσを算出するための視野数は、最低5視野以上、好ましくは10視野以上である。
【0023】
粒界相20の平均厚みおよび厚みバラツキσの制御方法には特に制限はなく、例えば、誘電体層2の組成を制御する方法や誘電体層2の製造条件(焼成条件等)を制御する方法が挙げられる。また、その他の方法として添加物の分散状態を制御することによっても粒界相20の平均厚みおよび厚みバラツキσを制御することができる。
【0024】
高温負荷寿命の測定方法、評価方法には特に制限はない。以下、高温負荷寿命のバラツキの評価方法の一例として、ワイブル分布による評価方法について説明する。
【0025】
ワイブル分布によれば、時間tに対する故障率λ(t)は次式(1)で表される。ここで、mはワイブル係数、αは尺度パラメータと呼ばれる。
【0026】
λ(t)=(m/α)×tm−1 ・・・式(1)
【0027】
ここで、m<1の場合には、式(1)は時間とともに故障率が小さくなる性質を表す。m=1の場合には、式(1)は時間に対して故障率が一定となる性質を表す。m>1の場合には、式(1)は時間とともに故障率が大きくなる性質を表す。以下、ワイブル係数mの算出方法について説明する。
【0028】
上記の故障率λ(t)を有する製品の信頼度(故障しない確率)R(t)は次式(2)で表される。
【0029】
R(t)=exp{−(t/α)} ・・・式(2)
【0030】
そして、不信頼度(累積故障率)F(t)は次式(3)で表される。
【0031】
F(t)=1−R(t)=1−exp{−(t/α)} ・・・式(3)
【0032】
ここで、式(3)を変形すると次式(4)のようになる。
【0033】
ln[ln{1/(1−F(t))}]=mlnt−mlnα ・・・式(4)
【0034】
ここで、y=ln[ln{1/(1−F(t))}]、x=lntとすると次式(5)のようになる。
【0035】
y=mx−mlnα ・・・式(5)
【0036】
すなわち、x=lntに対してy=ln[ln{1/(1−F(t))}]をプロットすると直線になり、その傾きからワイブル係数mを算出することができる。この手法をワイブルプロットという。
【0037】
本実施形態では、複数の積層セラミックコンデンサ1の高温負荷寿命(上記の式でのt)を測定し、測定結果をワイブルプロットすることでワイブル係数mを求めることができる。ワイブルプロットの方法には特に制限はない。ワイブル確率紙に試験結果をプロットしてmを算出する方法の他、近年では、試験結果を入力すると自動的にワイブルプロットを行い、ワイブル係数mを算出するコンピュータプログラムも広く用いられている。ワイブルプロットの概略図を図3に例示する。
【0038】
m>1の場合には、ワイブル係数mが大きいほど、ある時間tの近辺で不信頼率(累積故障率)F(t)が急激に上昇することになる。すなわち、ワイブル係数mが大きいほど、個々の製品が故障するまでの時間のバラツキが小さくなる。
【0039】
図3において、m=3の場合にはm=1.5の場合と比較して、ある時間tの近辺で急激にF(t)が増加する。すなわち、mが大きい場合には、ある時間tの近辺で多数の製品が一斉に故障しており、個々の製品が故障するまでの時間のバラツキが小さい。なお、ワイブルプロットにおいて、直線が右に移動するほど、個々の製品が故障するまでの時間が長くなる。
【0040】
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1に当てはめれば、ワイブル係数mが大きいほど、高温負荷寿命のバラツキが小さくなる。また、図3の直線が右に移動するほど高温負荷寿命の平均が長くなる。
【0041】
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1の誘電体層2に含まれる成分については、チタン酸バリウム以外の成分について特に制限は無い。チタン酸バリウム以外の成分としては、例えば、イットリウム、マグネシウム、クロム、バナジウム、カルシウムおよび/またはケイ素からなる成分を含んでもよく、その他の元素からなる成分を含んでもよい。なお、誘電体層2に含まれる成分の測定方法には特に制限はないが例えばX線回折装置により測定することができる。
【0042】
イットリウムは、チタン酸バリウム100モル部に対して、Y換算で、好ましくは1.0〜1.5モル部、さらに好ましくは1.3〜1.5モル部含有される。イットリウムの含有量を上記の範囲内とすることで粒界相20の平均厚みを大きく、厚みバラツキσを小さく制御しやすい傾向にある。また、イットリウムの含有量が多い場合には、粒界相20の平均厚みは小さくなる傾向にあり、厚みバラツキσは大きくなる傾向にある。イットリウムが多いほど静電容量温度特性が良好になる傾向にある。また、イットリウムの代わりに、ジスプロシウムまたはホルミウムを含有してもよい。ジスプロシウムは、チタン酸バリウム100モル部に対して、Dy換算で、好ましくは1.0〜1.5モル部、さらに好ましくは1.3〜1.5モル部含有される。ホルミウムは、チタン酸バリウム100モル部に対して、Ho換算で、好ましくは1.0〜1.5モル部、さらに好ましくは1.3〜1.5モル部含有される。ジスプロシウムおよびホルミウムの場合であっても、含有量を上記の範囲内とすることで粒界相20の平均厚みが大きくなり、厚みバラツキσが小さくなる傾向にある。
【0043】
マグネシウムは、チタン酸バリウム100モル部に対して、MgO換算で、好ましくは1.8〜2.5モル部、さらに好ましくは1.8〜2.2モル部含有される。マグネシウムの含有量を上記の範囲内とすることで粒界相20の平均厚みを大きく、厚みバラツキσを小さく制御しやすい傾向にある。また、マグネシウムの含有量が多いほど、粒界相20の平均厚みは大きくなる傾向にあり、厚みバラツキσは小さくなる傾向にある。マグネシウムが多いほど高温負荷寿命が良好になる傾向にある。マグネシウムが少ないほど比誘電率が良好になる傾向にある。
【0044】
クロムは、チタン酸バリウム100モル部に対して、Cr換算で、好ましくは0.2〜0.7モル部、さらに好ましくは0.2〜0.4モル部含有される。クロムの含有量を上記の範囲内とすることで粒界相20の平均厚みを大きく、厚みバラツキσを小さく制御しやすい傾向にある。また、クロムの含有量が多いほど、粒界相20の平均厚みは大きくなる傾向にあり、厚みバラツキσは小さくなる傾向にある。クロムが多いほど高温負荷寿命が良好になる傾向にある。クロムが少ないほど比誘電率および静電容量温度特性が良好になる傾向にある。なお、クロムの代わりにマンガンを用いても良い。マンガンは、チタン酸バリウム100モル部に対して、MnO換算で、好ましくは0.2〜0.7モル部、さらに好ましくは0.2〜0.4モル部含有される。マンガンの場合であっても、含有量を上記の範囲内とすることで粒界相20の平均厚みが大きくなり、厚みバラツキσが小さくなる傾向にある。
【0045】
バナジウムは、チタン酸バリウム100モル部に対して、V換算で、好ましくは0.05〜0.2モル部、さらに好ましくは0.05〜0.10モル部含有される。バナジウムの含有量を上記の範囲内とすることで粒界相20の平均厚みを大きく、厚みバラツキσを小さく制御しやすい傾向にある。また、バナジウムの含有量が多いほど、粒界相20の平均厚みは大きくなる傾向にあり、厚みバラツキσは大きくなる傾向にある。バナジウムの含有量が多いほど高温負荷寿命および静電容量温度特性が良好になる傾向にある。バナジウムの含有量が少ないほど比誘電率が良好になる傾向にある。
【0046】
カルシウムは、チタン酸バリウム100モル部に対して、CaO換算で、好ましくは0.5〜2.0モル部、さらに好ましくは0.5〜1.5モル部含有される。カルシウムの含有量を上記の範囲内とすることで粒界相20の平均厚みを大きく、厚みバラツキσを小さく制御しやすい傾向にある。また、カルシウムの含有量が多いほど、粒界相20の平均厚みは大きくなる傾向にあり、厚みバラツキσは大きくなる傾向にある。カルシウムが多いほど高温負荷寿命が良好になる傾向にある。カルシウムが少ないほど静電容量温度特性が良好になる傾向にある。
【0047】
ケイ素は、チタン酸バリウム100モル部に対して、SiO換算で、好ましくは1.65〜3.0モル部、さらに好ましくは1.7〜2.5モル部含有される。ケイ素の含有量を上記の範囲内とすることで粒界相20の平均厚みを大きく、厚みバラツキσを小さく制御しやすい傾向にある。また、ケイ素の含有量が多いほど、粒界相20の平均厚みは大きくなる傾向にあり、厚みバラツキσは大きくなる傾向にある。ケイ素が多いほど高温負荷寿命が良好になる傾向にある。ケイ素が少ないほど比誘電率および静電容量温度特性が良好になる傾向にある。
【0048】
さらに、セラミック粒子12、12´の粒径には特に制限はないが、d50が0.47μm以下となるようにすることが好ましい。d50を0.47μm以下と小さくする場合には、粒界相20の平均厚みを大きく、厚みバラツキσを小さく制御しやすい傾向にある。また、d50が大きいほど、粒界相20の平均厚みは小さくなる傾向にあり、厚みバラツキσは大きくなる傾向にある。d50の下限は0.26μm以上となるようにすることが好ましい。また、セラミック粒子12、12´の粒径が大きいほど比誘電率が向上する傾向にあり、セラミック粒子12、12´の粒径が小さいほど静電容量温度特性が向上する傾向にある。セラミック粒子12、12´の粒径は、チップ側面を鏡面研磨したサンプルをFE−SEMにて観察し、30000倍に拡大した画像を得て、その画像から得られた粒子の円相当径により測定した。なお、d50とは、積算値が50%である粒度の直径を指す。
【0049】
さらに、本実施形態において、R換算した希土類の含有量と、SiO換算したケイ素の含有量とのモル比(R/SiO)を0.40以上、0.79以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.40以上、0.60以下である。R/SiOを0.40以上、0.79以下とすることで、粒界相20の平均厚みが大きくなり、厚みバラツキσが小さくなる傾向にある。さらに、高温負荷寿命、高温負荷寿命のバラツキおよび静電容量温度特性が向上する傾向にある。また、R/SiOが大きい場合には粒界相20の平均厚みが小さくなりやすく、R/SiOが小さい場合には厚みバラツキσが大きくなりやすい。
【0050】
誘電体層2の厚みは、特に限定されないが、一層あたり2〜10μmであることが好ましい。
【0051】
誘電体層2の積層数は、特に限定されないが、300〜400層程度であることが好ましい。積層数の上限は、特に限定されないが、たとえば2000程度である。
【0052】
内部電極層3
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、1〜1.2μm程度であることが好ましい。
【0053】
外部電極4
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、10〜50μm程度であることが好ましい。
【0054】
積層セラミックコンデンサ1の製造方法
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0055】
まず、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体原料(混合原料粉末)を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
【0056】
誘電体原料として、まずチタン酸バリウムの原料および希土類化合物の原料を準備する。これらの原料としては、上記した成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0057】
チタン酸バリウムの原料は、いわゆる固相法の他、各種液相法(たとえば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など)により製造されたものなど、種々の方法で製造されたものを用いることができる。
【0058】
また、チタン酸バリウムの原料粉末のBET比表面積値は、好ましくは2.0〜5.0m/g、より好ましくは2.5〜3.5m/gである。BET比表面積値を上記の範囲内とすることで粒界相20の平均厚みおよび厚みバラツキσを好適に制御しやすくなる。また、BET比表面積値が大きいほど、粒界相20の平均厚みは大きくなる傾向にあり、厚みバラツキσは小さくなる傾向にある。
【0059】
また、チタン酸バリウムの原料粉末の表面に、少なくとも希土類化合物の原料粉末を被覆してもよい。被覆する方法は特に制限されず、公知の方法を用いればよい。たとえば、希土類化合物の原料粉末を溶液化し、熱処理することで、被覆してもよい。また、その他の成分の原料粉末を、チタン酸バリウムの原料粉末の表面に被覆してもよい。
【0060】
誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した粒界相20の平均厚みおよび厚みバラツキσとなるように適宜決定すればよい。なお、通常は、焼成の前後で誘電体磁器組成物の組成は変化しない。
【0061】
また、上記誘電体原料には、チタン酸バリウム粉末とは別に、バリウム化合物粉末(例えば酸化バリウム粉末または焼成により酸化バリウムとなる粉末)を添加してもよい。バリウム化合物粉末の添加量には特に制限はなく、バリウム化合物粉末を添加しなくともよい。バリウム化合物粉末を添加する場合の添加量は、例えばチタン酸バリウム100モル部に対して、BaO換算で0.20〜1.50モル部とすることができる。バリウム化合物を添加することで比誘電率が良好になる傾向にある。バリウム化合物の添加量が大きいほど、粒界相20の平均厚みは小さくなる傾向にあり、厚みバラツキσは小さくなる傾向にある。また、バリウム化合物の添加量が大きいほど、静電容量温度特性が良好になる傾向にある。
【0062】
本実施形態では、バリウム化合物、カルシウム化合物、ケイ素化合物の原料粉末として各元素の酸化物を用いる場合には、それぞれBaO粉末、CaO粉末、SiO粉末の形で準備してもよく、複合酸化物である(Ba,Ca)SiO粉末(BCG粉末)の形で準備してもよい。なお、(Ba,Ca)SiOの組成、すなわちBa、Ca、Siの含有量の比には特に制限はない。
【0063】
ここで、誘電体原料のd50には特に制限はないが、0.45μm以下であることが好ましい。誘電体原料のd50を0.45μm以下とすることにより、焼成後のセラミック粒子のd50を0.47μm以下に制御しやすくなる。また、誘電体原料のd50が大きいほど比誘電率が良好になる傾向にある。誘電体原料のd50が小さいほど高温負荷寿命および静電容量温度特性が良好になる傾向にある。
【0064】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0065】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0066】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0067】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。また、内部電極層用ペーストには、共材が含まれていてもよい。共材としては特に制限されないが、主成分と同様の組成を有していることが好ましい。
【0068】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0069】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0070】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0071】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷し内部電極パターンを形成した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0072】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。また、脱バインダ雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。また、脱バインダ時の保持温度が大きく、保持時間が長いほど、粒界相20の平均厚みは大きくなる傾向にあり、厚みバラツキσは小さくなる傾向にある。
【0073】
グリーンチップの焼成では、昇温速度を好ましくは200〜600℃/時間、より好ましくは200〜500℃/時間とする。このような昇温速度とすることで、粒界相20の平均厚みおよび厚みバラツキσを好適に制御することが容易となる。また、昇温速度が大きいほど、粒界相20の平均厚みは小さくなる傾向にあり、厚みバラツキσは小さくなる傾向にある。
【0074】
焼成時の保持温度は、好ましくは1200〜1350℃、より好ましくは1220〜1300℃であり、その保持時間は、好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは2〜3時間である。保持温度が1200℃以上であることで、誘電体磁器組成物が十分に緻密化しやすくなる。保持温度が1350℃以下であることで、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元などを防止しやすくなる。また、保持温度が高く、保持時間が長いほど、粒界相20の平均厚みは大きくなる傾向にあり、厚みバラツキσは大きくなる傾向にある。
【0075】
焼成雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。
【0076】
また、焼成時の酸素分圧は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−14〜10−10MPaとすることが好ましい。酸素分圧を10−14MPa以上とすることで、内部電極層の導電材が異常焼結を起こすことを防止しやすくなり、内部電極層が途切れてしまうことを防止しやすくなる。また、酸素分圧を10−10以下とすることで、内部電極層の酸化を防止しやすくなる。降温速度は、好ましくは50〜500℃/時間である。また、酸素分圧が高いほど、粒界相20の平均厚みは小さくなる傾向にあり、厚みバラツキσは小さくなる傾向にある。
【0077】
還元性雰囲気中で焼成した後、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命(高温負荷寿命)を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0078】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−5MPaとすることが好ましい。酸素分圧を10−9MPa以上とすることで、誘電体層の再酸化を効率的に行いやすくなる。また、酸素分圧を10−5MPa以下とすることで、内部電極層の酸化を防止しやすくなる。また、酸素分圧が高いほど、粒界相20の平均厚みは小さくなる傾向にあり、厚みバラツキσは小さくなる傾向にある。
【0079】
アニールの際の保持温度は、950〜1150℃とすることが好ましい。保持温度を950℃以上とすることで誘電体層を十分に酸化させやすくなり、IR(絶縁抵抗)およびIR寿命を向上させやすくなる。一方、保持温度を1150℃以下とすることで、内部電極層の酸化および内部電極層と誘電体素地との反応を防止しやすくなる。その結果、静電容量、静電容量温度特性、IRおよびIR寿命を向上させやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0080】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、より好ましくは2〜4時間、降温速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。また、アニール温度が高く、アニール時間が長いほど、粒界相20の平均厚みは大きくなる傾向にあり、厚みバラツキσは大きくなる傾向にある。
【0081】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0082】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0083】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、たとえばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0084】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0085】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0086】
また、上述した実施形態では、本発明に係るセラミック電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係るセラミック電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、誘電体層と電極層とを有するセラミック電子部品であれば何でも良い。例えば、単板型セラミックコンデンサ、圧電アクチュエータ、強誘電性メモリなどが挙げられる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0088】
実施例1
まず、チタン酸バリウム粉末を準備した。チタン酸バリウム粉末としては、組成式BaTiO2+n で表され、nが0.995≦n≦1.010であり、BaとTiとのモル比が0.995≦Ba/Ti≦1.010であるチタン酸バリウム粉末を用いた。以下、チタン酸バリウムの組成式を単にBaTiOと記載する。さらに、イットリウムの原料としてY粉末、ジスプロシウムの原料としてDy粉末、ホルミウムの原料としてHo粉末、マグネシウムの原料としてMgCO粉末 、クロムの原料としてCr粉末、マンガンの原料としてMnO粉末、バナジウムの原料としてV粉末、バリウムの原料としてBaO、カルシウムの原料としてCaO、ケイ素の原料としてSiOを、それぞれを準備した。
【0089】
次に、準備した各原料粉末をボールミルで10時間湿式混合・粉砕し、乾燥して、混合原料粉末を得た。また、原料粉末の粒径を材料粒径として、材料粒径のd50が0.40μmとなるようにした。
【0090】
次いで、得られた混合原料粉末:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0091】
また、上記とは別に、Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0092】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、乾燥後の厚みが4.5μmとなるようにグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0093】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、積層セラミック焼成体を得た。
【0094】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0095】
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1200〜1350℃とし、保持時間を1時間とした。降温速度は200℃/時間とした。なお、雰囲気ガスは、加湿したN+H混合ガスとし、酸素分圧が10−12MPaとなるようにした。
【0096】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1000℃、温度保持時間:2時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガス(酸素分圧:10−7MPa)とした。
【0097】
焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0098】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてCuを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、誘電体層の厚み3.6μm、内部電極層の厚み1.0μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は4とした。
【0099】
得られたコンデンサ試料について、焼成後の誘電体粒子のd50、粒界相の平均厚み、粒界相の厚みバラツキσ、高温負荷寿命HALT−ηおよび高温負荷寿命のバラツキHALT−mの測定を、下記に示す方法により行った。
【0100】
焼成後の誘電体粒子のd50
焼成後の誘電体粒子のd50は、チップ側面を鏡面研磨したサンプルをFE−SEMにて観察し、30000倍に拡大した画像を得て、その画像から得られた粒子の円相当径により測定した。なお、サンプル粒子数は500〜2000個となる。
【0101】
粒界相の平均厚み、厚みバラツキσ
コンデンサ試料の誘電体層の切断面についてSTEM観察を行った。視野のサイズを15×15nmとし、視野内に厚みが測定できる粒界相を1つ含むようにしてSTEM画像を撮影した。STEM画像は、一つのサンプルにつき、それぞれ異なる観察箇所で10視野観察した。各STEM画像について、目視にて粒界相の厚みを測定し、平均することにより、粒界相の平均厚みを算出した。また、各STEM画像における粒界相の厚みより標準偏差σを算出し、当該標準偏差σを粒界相の厚みバラツキσとした。
【0102】
高温負荷寿命HALT−η
本実施例においては、コンデンサ試料に対し、200℃にて、25V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を高温負荷寿命と定義した。また、本実施例では、上記の評価を10個のコンデンサ試料について行い、その平均値を高温負荷寿命HALT−ηとした。評価基準は10時間以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0103】
高温負荷寿命のバラツキHALT−m
前記10個のコンデンサ試料に対して高温負荷寿命を測定した結果をワイブルプロットし、ワイブル解析ソフトによりm値を求めた。本実施例では、このm値を高温負荷寿命のバラツキHALT−mとした。HALT−mが3.0以上の場合を良好とした。結果を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
さらに、表1の試料番号1、5、9について、それぞれ試験条件を変化させることで粒界相の平均厚みおよび厚みバラツキを変化させた試料のHALT−ηおよびHART−mを算出した。結果を表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
表1および表2より、粒界相の平均厚みが1.0nm以上であり、粒界相の厚みバラツキσが0.1nm以下である試料番号1a、2〜8(5a、5b除く)、9aは、含有する元素の種類および含有量に関わらずHALT−ηが10時間以上かつHALT−mが3.0以上となった。すなわち、高温負荷寿命が高く、高温負荷寿命のバラツキが小さい試料となった。
【0108】
これに対し、粒界相の厚みバラツキσが大きすぎる試料番号1、5aは、HALT−mが小さくなった。すなわち、高温負荷寿命のバラツキが大きくなった。また、粒界相の平均厚みが小さすぎる試料番号5b、9は、HALT−ηが小さくなり、高温負荷寿命が著しく低下した。
【0109】
なお、試料番号1aは試料番号1(焼成温度1240℃)から焼成温度を1220℃に変更して作成した試料である。試料番号5aは試料番号5(焼成温度1260℃)から焼成温度を1300℃に変更して作成した試料である。試料番号5bは試料番号5(焼成温度1260℃)から焼成温度を1220℃に変更して作成した試料である。試料番号9aは試料番号9(焼成温度1280℃)から焼成温度を1340℃に変更して作成した試料である。
【0110】
実施例2
各成分の含有量を変化させた点以外は実施例1と同様の方法で作製したコンデンサ試料について各種特性を測定した。結果を表3に示す。また、表3の試料番号13について、材料粒径d50を0.25〜0.45nmの範囲で変化させてコンデンサ試料を作製し、各種特性を測定した。結果を表4に示す。表3および表4に記載した試料は、全て粒界相の平均厚みが1.0nm以上であり、厚みバラツキσが0.1nm以下であった。さらに、HALT−mが3.0以上であった。以下、比誘電率εsおよび静電容量温度特性TCの測定方法について説明する。
【0111】
比誘電率εs
コンデンサ試料に対し、LCRメータを用いて、温度20℃、周波数1kHzで比誘電率εsを測定した。結果を表1に示す。なお、本実施例では、εs≧1900を良好とした。
【0112】
静電容量温度特性TC
コンデンサ試料に対し、恒温槽とLCRメータを用いて、温度25℃および125℃で静電容量を測定した。そして、温度25℃での静電容量を基準とした場合における温度125℃での静電容量の変化割合を求め、静電容量温度特性TC@125℃とした。結果を表1に示す。なお、本実施例では、−15.0%≦TC@125℃≦15.0%である場合を良好とした。また、−15.0%≦TC@125℃≦15.0%であるコンデンサ試料は、全てX7R特性を満足することを確認した。
【0113】
評価
まず、高温負荷寿命HALT−ηが10時間未満である試料は本発明の課題を解決していない。この場合には、比誘電率および静電容量温度特性の結果に関わらず×とした。次に、高温負荷寿命が10時間以上である場合において、比誘電率および静電容量温度特性の両方が良好である場合を◎、比誘電率および静電容量温度特性のいずれか一方が良好である場合を○、比誘電率および静電容量温度特性がいずれも良好ではない場合を△とした(ただし、実施例2では△、×と評価される試料は無かった)。なお、◎、○、△、×の順で評価が高い。
【0114】
【表3】
【0115】
【表4】
【0116】
表3、表4より、誘電体組成物の組成および誘電体粒子の粒径を制御することで、高温負荷寿命に加えて比誘電率および静電容量温度特性も良好に制御することができることが分かる。
【符号の説明】
【0117】
1… 積層セラミックコンデンサ
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極
10… コンデンサ素子本体
12、12´… セラミック粒子
20… 粒界相
図1
図2
図3