特許第6781546号(P6781546)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781546
(24)【登録日】2020年10月20日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】注射器
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/178 20060101AFI20201026BHJP
【FI】
   A61M5/178
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-514516(P2015-514516)
(86)(22)【出願日】2013年5月30日
(65)【公表番号】特表2015-517860(P2015-517860A)
(43)【公表日】2015年6月25日
(86)【国際出願番号】EP2013061215
(87)【国際公開番号】WO2013178771
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2016年2月25日
【審判番号】不服2018-14723(P2018-14723/J1)
【審判請求日】2018年11月5日
(31)【優先権主張番号】12170628.7
(32)【優先日】2012年6月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147762
【弁理士】
【氏名又は名称】藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ブライアント,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ビュートゲン,ハインリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】パプスト,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ピッチ,マリー
【合議体】
【審判長】 高木 彰
【審判官】 井上 哲男
【審判官】 宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−528044(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0078219(US,A1)
【文献】 特開2003−265607(JP,A)
【文献】 米国特許第3248950(US,A)
【文献】 国際公開第2009/154107(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/125475(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、ストッパと、プランジャとを備える注射器であって、前記本体が、出口端部にある出口を備え、前記ストッパが、前記ストッパの前面と前記本体とが可変容量チャンバを画定するように前記本体内部に配置され、前記可変容量チャンバから、前記出口を通して流体を押し出すことができ、前記プランジャが、1つの材料から形成された一体構造を有し、第1の端部にあるプランジャ接触面と、前記プランジャ接触面と後部との間に延在するロッドとを備え、前記ストッパは、液密シールを用いて前記可変容量チャンバの後部を画定することによって封止機能を提供し、前記プランジャ接触面が、前記ストッパに接触するが、前記ストッパに結合はしないように構成され、それにより、前記ストッパを前記本体の前記出口端部に向けて押し進めて前記可変容量チャンバの前記容量を減少するために前記プランジャを使用することができるが、前記出口端部から離れる向きに前記ストッパを移動させるために前記プランジャを使用することができず、
前記ロッドが、前記出口端部とは逆向きの少なくとも1つのロッドショルダを備え、前記注射器が、前記本体の後部に配置されたバックストップを含み、前記バックストップが、前記出口端部に向いたバックストップショルダを含み、前記ロッドショルダと協働して、前記バックトップショルダとロッドショルダが接触するときに前記出口端部から離れる向きへの前記プランジャロッドの移動を実質的に防止し、
前記ロッドショルダが前記ロッドの外径の内側に配置され、
前記バックストップショルダは、前記本体の穴半径外から、前記ロッドショルダ半径よりも小さい半径まで広がり、
前記注射器は、0.25ml〜0.75mlの間の公称最大容量と、0.01ml〜0.3mlの間の充填容量とを有するように寸法設定される、
眼科用注射器。
【請求項2】
前記プランジャ接触面が、実質的に平坦なディスクであり、前記プランジャ接触面が、前記ストッパの後面に接触する請求項1に記載の注射器。
【請求項3】
前記ロッドショルダが、前記ロッド上で実質的にディスク形状の部分を備える請求項1または2に記載の注射器。
【請求項4】
前記バックストップが、前記注射器から取外し可能である請求項1から3のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項5】
前記バックストップが、前記本体の端部フランジを実質的に挟持するように構成される請求項4に記載の注射器。
【請求項6】
前記プランジャ接触面と前記ストッパが接触した状態で配置され、前記可変容量チャンバがその所期の最大容量であるとき、前記ロッドショルダと前記バックストップショルダとの間に2mm以下の間隙が存在する請求項1から5のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項7】
前記可変容量チャンバが、4mm〜5mmの間の内径を有する請求項1から6のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項8】
0.4ml〜0.6mlの間の公称最大容量を有するように寸法設定される請求項1から7のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項9】
前記可変容量チャンバが、眼病の治療に適した薬剤を含む注射可能な薬剤で充填され、前記出口が可逆的に封止解除可能に封止される請求項1から8のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項10】
前記ストッパが前側円周リブと後側円周リブとを備え、前記前側円周リブと前記後側円周リブは、少なくとも4mm以上、前記ストッパの軸に沿った方向で離隔される
請求項1から9のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項11】
前記ストッパが前側円周リブと後側円周リブとを備え、前記ストッパの軸に沿った方向における前記前側円周リブと前記後側円周リブとの間隔は、前記プランジャ接触面とストッパが接触した状態で配置され、前記可変容量チャンバがその最大容量であるときの前記バックトップショルダと前記ロッドショルダとの間の間隙よりも長い
請求項1から10のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項12】
封止パッケージと、請求項1から11のいずれか一項に記載の滅菌済み注射器とを備える注射器パック。
【請求項13】
眼科用注射器を組み立てる方法であって、
i)本体およびストッパを提供するステップであって、前記本体が、出口端部にある出口を備え、前記ストッパが、前記ストッパの前面と前記本体とが可変容量チャンバを画定するように前記本体内部に配置され、前記可変容量チャンバから、前記出口を通して流体を押し出すことができ、前記ストッパは、液密シールを用いて前記可変容量チャンバの後部を画定することによって封止機能を提供し、前記出口が解放可能に封止され、前記可変容量チャンバが薬剤を含むステップと、
ii)第1の端部にあるプランジャ接触面と、前記プランジャ接触面と後部との間に延在するロッドとを備え、1つの材料から形成された一体構造を有するプランジャを提供し、前記プランジャを前記ストッパに結合させずに、前記プランジャ接触面と前記プランジャの少なくとも一部とを前記本体内部に配置するステップとを含み、
前記ロッドが、前記プランジャ接触面とは逆向きの少なくとも1つのロッドショルダを備え、バックストップが提供され、前記バックストップが、前記出口端部に向いたバックストップショルダを含み、前記バックストップが、前記プランジャが前記本体内に配置された後に前記注射器本体に結合され、前記ロッドショルダが、前記出口端部と前記バックストップショルダとの間に配置され、
前記ロッドショルダが前記ロッドの外径の内側に配置され、
前記バックストップショルダは、前記本体の穴半径外から、前記ロッドショルダ半径よりも小さい半径まで広がり、
前記眼科用注射器が、0.25ml〜0.75mlの間の公称最大容量と、0.01ml〜0.3mlの間の充填容量とを有するように寸法設定される、
方法。
【請求項14】
前記可変容量チャンバが、眼病の治療に適した薬剤を含む注射可能な薬剤を含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記プランジャロッドが、前記注射器本体内に落下される請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から11のいずれか一項に記載の注射器または請求項13から15のいずれか一項に記載の方法で使用するのに適したプランジャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射器に関し、特に、眼科用注射に適した注射器など小さい容量の注射器に関する。また、本発明は、そのような注射器を組み立てる方法も含む。
【背景技術】
【0002】
多くの薬剤が注射器で患者に送達され、使用者は、注射器から薬剤を分注することができる。薬剤が注射器で患者に提供される場合、しばしば患者または介護者が薬剤を注射することが可能である。感染またはその他の患者に対する危険を回避するために、注射器およびその注射器の内容物が十分に滅菌されていることが、患者安全性および薬剤完全性の面で重要である。滅菌は、典型的には関連のパッケージング内に既にある組立て済みの製品が熱または滅菌ガスを使用して滅菌される最終滅菌によって実現することができる。
【0003】
小容量注射器、例えば約0.1ml未満の液体が注射されることが意図される眼科用注射のための注射器に関して、滅菌は、より大きな注射器には必ずしも伴わない問題を生じ得る。注射器の内外の圧力の変化により、注射器の一部分が予測不可能に移動することがあり、これは、封止特性を変え、場合によっては滅菌性を損なうことがある。また、注射器の組立てを含め、誤った取扱いは、製品滅菌性へのリスクを生じることもある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、本体と、ストッパと、プランジャとを備える注射器であって、本体が、出口端部にある出口を備え、ストッパが、ストッパの前面と本体とが可変容量チャンバを画定するように本体内部に配置され、可変容量チャンバから、出口を通して流体を押し出すことができ、プランジャが、第1の端部にあるプランジャ接触面と、プランジャ接触面と後部との間に延在するロッドとを備え、プランジャ接触面が、ストッパに接触するが、ストッパに結合はしないように構成され、それにより、ストッパを本体の出口端部に向けて押し進めて可変容量チャンバの容量を減少するためにプランジャを使用することができるが、出口端部から離れる向きにストッパを移動させるためにプランジャを使用することができない注射器を提供する。
【0005】
ストッパに結合しないプランジャを提供することが、注射器の誤った取扱いの可能性を減少させる。なぜなら、出口端部から離れる向きにストッパを移動させることなくプランジャを注射器から引き出すことができるからである。これは、使用者が誤ってプランジャ(したがってそこに接続されたストッパ)を移動させる、滅菌していない空気(または他の流体)を注射器内に引き込む、または滅菌していない領域にストッパを移動させるのを防止する。また、組立て中に、例えばねじ作用または圧入作用を使用してプランジャとストッパの接続を形成することは、ストッパを予測不可能な形で歪ませることがあり、これは、最終製品の封止および/または滅菌性を損なうことがあり、または可変容量チャンバ内の圧力を増加させることがあり、それにより出口端部からの流体漏れが生じるおそれがあることが分かっている。
【0006】
注射器の本体は、実質的に円筒形のシェルでよく、または非円形の外形を有する実質的に円筒形の穴を含んでいてもよい。本体の出口端部は出口を含み、前記チャンバの容量が減少されるときに、出口を通して、可変容量チャンバ内に収容されている流体を押し出すことができる。出口は、出口端部からの突出部を備えることがあり、突出部を通って、可変容量チャンバの直径よりも小さい直径を有するチャネルが延在する。出口は、例えばルアーロックタイプの接続によって、注射針、または可変容量チャンバを封止することが可能な封止デバイスなど他の付属品に接続されるように適合されることがあるが、可変チャンバの封止を解除して注射針など別の付属品に注射器を接続できるように操作する、または取り外すこともできる。そのような接続は、注射器と付属品の間で直接行うことも、封止デバイスを介して行うこともできる。本体は、出口端部から後端部まで第1の軸に沿って延在する。
【0007】
本体は、プラスチック、ガラス、または任意の他の適切な材料からなることがあり、その表面に、注射の手引きとなるように印を含む。
【0008】
ストッパは、ゴム、シリコーン、または他の適切な弾性変形可能な材料から形成することができる。ストッパは、液密シールを用いて可変容量チャンバの後部を画定することによって封止機能を提供し、液密シールは、滅菌性シールも提供する。ストッパは、実質的に円筒形でよく、ストッパの外面の周りに1つまたは複数の円周リブを含むことがあり、ストッパとリブは、リブが注射器本体の内面と実質的に液密のシールを形成するように寸法設定される。ストッパの前面は、任意の適切な形状、例えば実質的に平坦または実質的に円錐形でよい。ストッパは、実質的に中実でよく、または凹部を含むこともある。ストッパの後面は、実質的に中心の凹部を含むことがあり、凹部は、ストッパの封止機能が損なわれないという条件の下で任意の形状でよい。前記中心の凹部は、実質的に円筒形状でよく、または前記中心の凹部は、第1の直径を有する開始穴を含むことがあり、開始穴は、後面からストッパ内に延び、第2の直径を有する内側凹部まで通じ、第2の直径は、第1の直径よりも大きい。そのような中心の凹部を使用して、既知のようにして、スナップ嵌め機構を使用してプランジャをストッパに接続することができる。そのような設計は、実質的に標準的なストッパ設計を使用できるようにし、これは、注射器に関する部品コストを減少させることができる。また、ストッパが必要とされるように機能するために材料が必要とされないストッパの中央部分から材料を除去することは、ストッパの重量を減少させ、ストッパを製造するのに必要とされる材料の量も減少させることに留意されたい。ストッパは、ストッパを通る軸の周りで実質的に回転対称でよい。
【0009】
プランジャは、プランジャ接触面と、プランジャ接触面から後部まで延在するロッドとを備える。後部は、注射実施中に使用者が触れるために適合された使用者接触部分を含むことがある。使用者接触部分は、実質的にディスク形状の部分を備えることがあり、ディスクの半径は、ロッドが沿って延びる軸に実質的に垂直に延在する。使用者接触部分は、任意の適切な形状でよい。ロッドが沿って延びる軸は、第1の軸でよく、または第1の軸と実質的に平行でよい。
【0010】
プランジャ接触面は、ストッパの後面と接触するが、後面と結合はしないように適合される。プランジャ接触面は、実質的に平坦でよく、実質的に円形でよい。プランジャ接触面は、本体の内径よりも小さい外径を有して、実質的に円形でよい。プランジャ接触面の直径は、プランジャ接触面が接触することになるストッパの後面の直径に実質的に等しくてよい。プランジャ接触面は、ストッパの後面に対して実質的に回転対称の面を提供するように適合することができる。なぜなら、これは、使用中に、再現可能であり一様に分散された力をストッパに提供する一助となるからであり、歪みを防止する一助となり得る。プランジャ接触面は、平坦でなくてもよく、外縁部に、または外縁部に隣接してストッパに接触するために環状接触面を備えることがある。プランジャ接触面は、複数のアームを備えることがあり、アームは、プランジャロッドから延在して、ストッパと接触する。プランジャ接触面は、上記の実施形態または他の実施形態の任意のものにおいて実質的に回転対称でよい。
【0011】
ロッドは、円形または十字形断面を有することがある。十字形断面は、ロッドの少なくとも一部に沿って延在するリブから形成されることがある。リブは、ロッドが沿って延びる軸と実質的に平行に延在することがある。十字形の断面は、製造の複雑さを大幅に高めることなく、ロッドに剛性を提供する。
【0012】
ロッドは、任意の適切な材料または材料の組合せから製造することができ、一実施形態ではプラスチック材料から形成される。ロッドは、予想される使用条件下で実質的に剛性でよい。プランジャ内での材料のいくらかの撓みは、バルク製造される製品では避けられないが、撓みは予測不可能な投薬結果をもたらすことがあるので、特に小さい容量の正確な注射に関しては、使用中にロッドが大幅には撓み得ないことが有利である。
【0013】
注射器は、本体の後部に配置されたバックストップを含むことができる。バックストップは、注射器から取外し可能でよい。注射器本体が、出口とは反対側の端部に端部フランジを含む場合、出口端部およびバックストップは、本体の端部フランジを実質的に挟持するように構成されることがある。なぜなら、これにより、第1の軸に平行な方向でのバックストップの移動が防止されるからである。
【0014】
ロッドは、出口端部とは逆向きの少なくとも1つのロッドショルダを備えることがあり、バックストップは、出口端部に向いたバックストップショルダを含むことがあり、ロッドショルダと協働して、バックトップショルダとロッドショルダが接触するときに出口端部から離れる向きへのロッドの移動を実質的に防止する。出口端部から離れる向きへのロッドの移動の制約は、最終滅菌操作中、または可変容量チャンバ内部またはチャンバ外部の圧力が変わることがある他の操作中に滅菌性を維持する一助となり得る。そのような操作中、可変容量チャンバ内部に捕捉された任意のガス、または可変容量チャンバ内の液体中に生じることがある泡が容量を変え、それによりストッパを移動させることがある。出口から離れる向きへのストッパの移動は、ストッパによって形成される滅菌性区域の破壊をもたらすことがある。これは、構成要素サイズの公差がかなり小さく、ストッパの融通性がより低い、小容量注射器に特に重要である。本明細書で使用するとき、用語「滅菌性区域」は、注射器の両端部からのアクセスからストッパによって封止された注射器内部の領域を表す。これは、ストッパのシール、例えば出口に最も近い円周方向リッジと、ストッパのシール、例えば出口から最も遠い円周方向リッジとの間の領域であり得る。ストッパが滅菌性環境内で注射器筒体内に設置されるので、これら2つのシール間の距離がストッパの滅菌性区域を画定する。
【0015】
上述したように、最終滅菌プロセスを使用して物品全体を滅菌することができ、そのようなプロセスは、エチレンオキシドまたは過酸化水素滅菌プロセスなど既知のプロセスを使用することができる。
【0016】
ストッパ上に1つまたは複数の円周リブを含むことで、ストッパを静止位置から移動させるのに必要な力を変えることができ、また、ストッパの封止特性を変えることもできる。上述した操作中に滅菌性を維持するさらなる一助となるように、ストッパは、少なくとも前側円周リブと後側円周リブを備えることができ、それらのリブは、少なくとも3mm、少なくとも3.5mm、少なくとも3.75mm、または4mm以上、第1の軸に沿った方向で離隔されることがある。前側リブと後側リブとの間に、1つまたは複数の追加のリブ(例えば、2、3、4、または5個の追加のリブ、または1〜10個、2〜8個、3〜6個、または4〜5個の追加のリブ)が配置されることもある。一実施形態では、合計で3つの円周リブが存在する。
【0017】
また、そのような滅菌性が向上した区域を有するストッパは、最終滅菌プロセス中に注射可能な薬剤を保護することもできる。いくつかの薬剤、例えば生物学的薬剤は、エチレンオキシドへの露出によって損なわれることがある。ストッパ上のより多くのリブ、または前側リブと後側リブとの間のより大きな距離は、滅菌剤への薬剤の露出の可能性を減少させることができる。
【0018】
ロッドショルダはロッドの外径の内側に配置されることがあり、またはロッドの外径の外側に配置されることもある。ロッドの外径を越えて広がるが、それでも本体内部に嵌まるショルダを提供することによって、ショルダは、第1の軸に垂直なロッドの移動を減少させることにより、本体内部のロッドの移動を安定させる一助となり得る。ロッドショルダは、ロッド上に任意の適切なショルダ形成要素を備えることができるが、一実施形態では、ロッドショルダは、ロッド上に実質的にディスク形状の部分を備える。
【0019】
注射器の一実施形態では、プランジャ接触面とストッパが接触した状態で配置され、可変容量チャンバがその所期の最大容量であるとき、ロッドショルダとバックストップショルダとの間に約2mm以下の間隙が存在する。いくつかの実施形態では約1.5mm未満、またいくつかの実施形態では約1mm未満の間隙が存在する。この距離は、(出口端部から離れる向きへの)ストッパの余剰の後方移動を実質的に制限または防止するように選択される。
【0020】
一実施形態では、可変容量チャンバは、3mmまたは4mmよりも大きく、5mmまたは6mm未満の内径を有する。内径は、3mm〜6mmの間、または4mm〜5mmの間でよい。別の実施形態では、注射器は、約0.25ml〜0.75mlの間、または0.4ml〜0.6mlの間の容量の公称最大充填容量を有するように寸法設定される。注射器の本体の長さは、70mm未満、60mm未満、または50mm未満でよい。一実施形態では、注射器本体の長さは、45mm〜50mmの間であり、内径は、4mm〜5mmの間であり、充填容量は、液体に関して0.1ml〜0.3mlの間である。
【0021】
一実施形態では、注射器は、眼科用注射に適しており、したがって適切に小さい容量を有する。注射器は、眼科用注射に適合されることがある。また、注射器は、シリコーンを含まない、または実質的にシリコーンを含まないことがあり、または潤滑剤として少量のシリコーンを含むことがある。一実施形態では、注射器は、USP789に適合することがある。
【0022】
注射器の可変容量チャンバには、任意の適切な注射可能な液体または薬物、例えば注射可能な薬剤を充填することができる。一実施形態では、可変容量チャンバが、眼病の治療に適した活性剤を含む注射可能な薬剤を充填される。そのような眼病の例は、脈絡膜新生血管、加齢黄斑変性(滲出型と萎縮型の両方)、網膜静脈閉塞症(RVO)に続発する黄斑浮腫(網膜静脈分枝閉塞症(bRVO)と網膜中心静脈閉塞症(cRVO)の両方を含む)、病的近視(PM)に続発する脈絡膜新生血管、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症、および増殖網膜症を含む。一実施形態では、薬剤は、生物学的活性物質を含む。生物学的活性物質は、抗体(もしくは抗体のフラグメント)または非抗体タンパク質でよい。一実施形態では、薬剤は、VEGF拮抗薬を含む。適切なVEGF拮抗薬としては、ラニビズマブ(ルセンティス(商標))、ベバシズマブ(アバスチン(商標))、アフリベルセプト(アイリーア(商標)、VEGF−Trap Eye(アフリベルセプト硝子体内注射液)としても知られている)、コンベルセプト(conbercept)(参照により本明細書に組み込む国際公開第2005/121176号にFP3として述べられているChengdu Kanghong Biotechnologies Co.LtdからのKH902)、および関連の糖型KH906またはパゾパニブ(GlaxoSmithKlineからのもの)が挙げられる。
【0023】
一実施形態では、注射器は、約0.01ml〜約2ml(例えば、約0.05ml〜約1mlの間、約0.1ml〜約0.5mlの間)の注射可能な薬剤を充填される。当然、典型的には、注射器は、患者に投与すべき所要投薬量よりも多く充填されて、注射器および注射針内部の「デッドスペース」による損失を考慮に入れる。したがって、一実施形態では、注射器は、約0.01ml〜約2ml(例えば、約0.05ml〜約1mlの間、約0.1ml〜約0.5mlの間)の注射可能な薬剤の投薬体積(すなわち、患者に送達することを意図された薬剤の体積)を充填される。例えば、ルセンティスに関して、投薬体積は、10mg/mlの注射可能な薬剤溶液について0.05mlまたは0.03ml(0.5mgまたは0.3mg)であり、アイリーアに関して、投薬体積は、40mg/mlの注射可能な薬剤溶液について0.05mlである。
【0024】
上述したように、注射器が薬剤溶液を含むとき、出口は、薬剤の滅菌性を保つために可逆的に封止されることがある。この封止は、当技術分野で知られている封止デバイスの使用により実現することができる。例えば、Vetter Pharma International GmbHから市販されているOVS(商標)システムである。出口の封止は、ストッパが移動されて滅菌性シールを破壊する時点または出口が封止解除される時点まで、可変容量チャンバの内容物の滅菌性を維持することができるようなものにすべきである。
【0025】
ストッパと結合していないプランジャを提供することによって、新規の組立て方法が可能になり、したがって、本発明は、さらに、注射器を組み立てる方法であって、
i)本体およびストッパを提供するステップであって、本体が、出口端部にある出口を備え、ストッパが、ストッパの前面と本体とが可変容量チャンバを画定するように本体内部に配置され、可変容量チャンバから、出口を通して流体を押し出すことができ、出口が解放可能に封止され、可変容量チャンバが薬剤を含むステップと、
ii)第1の端部にあるプランジャ接触面と、プランジャ接触面と後部との間に延在するロッドとを備えるプランジャを提供し、プランジャをストッパに結合させずに、プランジャ接触面とプランジャの少なくとも一部とを本体内部に配置するステップと
を含む方法を提供する。
【0026】
この方法は、注射器の可変容量チャンバを充填する追加のステップ、すなわちステップiii)をさらに含むことがあり、注射器には、任意の適切な注射可能な薬剤を充填することができる。一実施形態では、可変容量チャンバが、眼病の治療に適した注射可能な薬剤を充填される。そのような眼病の例は、脈絡膜新生血管、加齢黄斑変性(滲出型と萎縮型の両方)、網膜静脈閉塞症(RVO)に続発する黄斑浮腫(網膜静脈分枝閉塞症(bRVO)と網膜中心静脈閉塞症(cRVO)の両方を含む)、病的近視(PM)に続発する脈絡膜新生血管、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症、および増殖網膜症を含む。一実施形態では、薬剤は、生物学的活性物質を含む。生物学的活性物質は、抗体(もしくは抗体のフラグメント)または非抗体タンパク質でよい。一実施形態では、薬剤は、VEGF拮抗薬を含む。適切なVEGF拮抗薬としては、ラニビズマブ(ルセンティス(商標))、ベバシズマブ(アバスチン(商標))、アフリベルセプト(アイリーア(商標)、VEGF−Trap Eye(アフリベルセプト硝子体内注射液)としても知られている)、コンベルセプト(conbercept)(参照により本明細書に組み込む国際公開第2005/121176号にFP3として述べられているChengdu Kanghong Biotechnologies Co.LtdからのKH902)、および関連の糖型KH906またはパゾパニブ(GlaxoSmithKlineからのもの)が挙げられる。
【0027】
上のステップii)とiii)は、いずれの順序で行われてもよいことに留意すべきである。したがって、この方法は、順に、ステップi)、ii)、iii)、またはステップi)、iii)、ii)、またはステップiii)、i)、ii)を含むことがある。
【0028】
この方法は、組み立てられた注射器を、実質的に封止されたパッケージ内にパッケージングするステップiv)をさらに含むことがある。この方法は、パッケージング後の最終滅菌ステップ、すなわちステップv)をさらに含むことがある。最終滅菌ステップは、過酸化水素滅菌またはエチレンオキシド滅菌など既知の技法を含むことがある。
【0029】
また、本発明は、実質的に本明細書で述べるような予め充填された滅菌済みの注射器を含む封止パッケージも含む。
【0030】
ロッドが、上述したようにロッドショルダを備え、注射器が、上述したように取外し可能なバックストップを含む場合、バックストップは、プランジャが本体内に配置された後に注射器本体に結合されることがあり、ロッドショルダは、出口端部とバックストップショルダとの間に配置される。バックストップがデバイスに結合されるときに出口端部とバックストップショルダとの間にロッドショルダが配置されることを保証することによって、バックストップを注射器に結合した後にバックストップショルダを超えてロッドショルダが移動できるようにするための複雑なメカニズムが不要になる。
【0031】
一実施形態では、ステップi)およびiii)は、滅菌性または実質的に滅菌性の環境で行われる。充填ステップと、最終アセンブリがパッケージ内に封止されるステップとの間のある時点で、注射器は、滅菌性または実質的に滅菌性の環境から取り出される。次いで、パッケージングされた製品に対して最終滅菌ステップを行うことができる。
【0032】
この方法の一実施形態では、プランジャロッドは、注射器本体内に落下される。これは単純な操作であり、自動組立て機器を使用せずに、重力を利用する。ロッドがストッパと結合するために操作される、または力を加えられる必要がないので、これは重力の利用が可能になる。
【0033】
また、本発明は、上述した注射器または方法で使用するのに適したプランジャを提供する。
【0034】
本明細書および添付の特許請求の範囲を通じて、文脈上別段の解釈を必要としない限り、語「備える」またはその活用形は、指定の整数もしくはステップ、または整数もしくはステップのグループの包含を示唆することを理解すべきである。用語「備える」は、「含む」および「からなる」を包含する。例えば、Xを「備える」組成は、Xのみからなっていても、またはなんらかの追加を含んでいてもよい(例えば、X+Y)。また、物理的に不可能でない限り、一実施形態に関連して述べた特徴を単独で使用することも、同じ実施形態あるいは1つまたは複数の他の実施形態に関連して述べた1つまたは複数の特徴と組み合わせて使用することもできることを理解すべきである。数値xに関する用語「約」は、任意選択であり、例えば、x±10%を意味する。
【0035】
次に、以下の図面を参照して、単に例として本発明をさらに述べる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】注射器の側面図である。
図2】注射器の上面断面図である。
図3】プランジャを示す図である。
図4】プランジャを通る断面図である。
図5】ストッパを示す図である。
図6】組立てプロセスの流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、本体2と、プランジャ4と、バックストップ6と、封止デバイス8とを備える注射器1の側面図を示す。
【0038】
図2は、図1の注射器1を通る上からの断面を示す。注射器1は、眼科用注射での使用に適している。注射器1は、本体2と、ストッパ10と、プランジャ4とを備える。注射器1は、第1の軸Aに沿って延在する。本体2は、出口端部14に出口12を備え、ストッパ10は、ストッパ10の前面16と本体2とが可変容量チャンバ18を画定するように本体2内部に配置される。可変容量チャンバ18は、ラニビズマブを含む注射可能な薬剤20を含む。注射可能な流体20は、ストッパ10を出口端部14に向けて移動させ、それにより可変容量チャンバ18の容量を減少させることによって、出口12を通して押し出すことができる。プランジャ4は、第1の端部24にあるプランジャ接触面22と、プランジャ接触面22と後部25との間に延在するロッド26とを備える。プランジャ接触面22は、ストッパ10に接触するが、ストッパ10に結合はしないように構成され、したがって、ストッパ10を本体2の出口端部14に向けて移動させるためにプランジャ4を使用することができる。そのような移動は、可変容量チャンバ18の容量を減少させ、出口を通してチャンバ内部の流体を押し出す。しかし、プランジャ4がストッパ10に結合されないので、出口端部14から離れる向きにストッパ10を移動させるためにプランジャ4を使用することは可能でない。
【0039】
バックストップ6は、本体2の端部フランジ28に結合することによって、本体2に取り付けられる。バックストップ6は、挟持部分30を含み、挟持部分30は、本体2の端部フランジ28の少なくともいくらかを実質的に挟持するように適合される。バックストップ6は、バックストップ6を注射器2に嵌めることができるようにバックストップ6の片側を開いておくことによって、側方から本体2に結合されるように適合される。
【0040】
本体2は、穴半径を有する実質的に円筒形の穴36を画定する。ロッド26は、出口端部14とは逆向きのロッドショルダ32を備える。ロッドショルダ32は、第1の軸Aからロッドショルダ半径まで広がり、このロッドショルダ半径は、穴36内部にショルダが嵌まるように、穴半径よりもわずかに小さい。バックストップ6は、出口端部14に向いたバックストップショルダ34を含む。ショルダ32、34は、バックストップショルダ34とロッドショルダ32が接触するときに、出口端部14から離れる向きへのロッド26の移動を実質的に防止するように協働するように構成される。バックストップショルダ34は、穴半径外から、ロッドショルダ半径よりも小さい半径まで広がり、したがって、ロッドショルダ32は、第1の軸Aに沿って移動することによってバックストップショルダ34を通ることができない。この場合、ロッドショルダ32は、実質的にディスクまたはリング形状であり、バックストップショルダ34は、本体2の後端部38の周りの円弧状部分を含む。
【0041】
また、バックストップ6は、2つのフィンガ突出部40を含み、これら2つのフィンガ突出部40は、使用中に注射器1を手で取り扱いやすくするために、第1の軸Aと実質的に垂直であり本体2から離れる方向に互いに逆向きに延在する。
【0042】
この例では、注射器は、0.5mlの本体2、すなわち約0.5mlの公称最大充填容量を有する本体を備え、ラニビズマブを含む注射可能な溶液を10mg/mlで含む約0.1〜0.3mlの間の注射可能な薬剤20を充填される。注射器本体2は、約4.5mm〜4.8mmの間の内径と、約45mm〜50mmの間の長さとを有する。
【0043】
さらなる図面を参照して、プランジャ4およびストッパ10をより詳細に述べる。
【0044】
図3は、図1のプランジャ4の斜視図を示し、プランジャ4の第1の端部24にあるプランジャ接触面22を示す。ロッド26は、第1の端部24から後部25まで延在する。後部25は、使用者がデバイスを取り扱いやすくするために、ディスク形状のフランジ42を含む。フランジ42は、使用者が触れるために、ロッド26の露出した端部よりも大きい表面積を提供する。
【0045】
ロッド26は、ロッド26に沿って延在するリブ44を備え、リブは、さらなる図でより詳細に示されるように、ロッド26に関する十字形の断面を形成する。ロッド26は、ディスク形状部分46を備え、ディスク形状部分46は、リブ44を越えて半径方向に延在し、またロッドショルダ32を形成する。
【0046】
リブ44は、実質的に中実でよく、または隙間48を含んでいてもよい。ディスク部分46は、中実でよく、または隙間50を含んでいてもよい。隙間48、50を使用して、滅菌または他の目的に必要な場合には、本体2内部へのガス流を促進することができる。
【0047】
図4は、注射器本体2およびロッド26を通る断面を示す。ロッド26は、4つの長手方向リブ44を含み、リブ間の角度は90°である。
【0048】
図5は、ストッパ10の詳細図を示し、円錐形状の前面16と、実質的に円筒形の本体58の周りの3つの円周リブ52、54、56とを示す。最初のリブ52と最後のリブ56との間の軸方向間隙は、約3mmである。ストッパ10の後面60は、実質的に中心の凹部62を含む。中心の凹部62は、第1の直径を有する開始穴64を含む。開始穴64は、後面60からストッパ10内に延び、第2の直径を有する内側凹部66に通じ、第2の直径は、第1の直径よりも大きい。
【0049】
図6は、注射器1の組立てに関する流れ図を示す。ステップ1で、予め充填された本体2が提供される。予め充填された本体は、ラニビズマブを含む注射可能な薬剤20を充填された本体2を備えるが、追加または代替として他の薬剤を使用することもでき、あるいはプラシーボ溶液を使用することもできる。ストッパ10は、本体2内に配置されて可変容量チャンバ18を形成し、出口12は、封止デバイス8で封止される。
【0050】
ステップ2で、プランジャ4が本体2内に配置される。一実施形態では、プランジャ4は、本体2内に落下される。これは重力のみによるものでよく、あるいは、機械を使用して、または手作業で本体2内にプランジャを配置し、次いで本体の向きを変えて、プランジャ接触面22がストッパ10と接触するまでプランジャ4を本体2内に落下させることもできる。
【0051】
ステップ3で、バックストップ6が本体の端部フランジ28と結合される。バックストップ6およびロッドは、ロッドショルダ32が本体の出口端部とバックストップショルダ34との間に位置されるように配置される。
【0052】
ステップ4で、注射器がパッケージ内に封止され、ステップ5で、パッケージおよびその内容物が最終滅菌プロセスで滅菌される。最終滅菌プロセスは、エチレンオキシドまたは過酸化水素滅菌プロセスなど既知のプロセスを使用することができる。
【0053】
本発明は、単に例として上述されており、特許請求の範囲の範囲から逸脱することなく詳細に修正を施すことができることを理解すべきである。
【符号の説明】
【0054】
1 注射器
2 本体
4 プランジャ
6 バックストップ
8 封止デバイス
10 ストッパ
12 出口
14 出口端部
16 前面
18 可変容量チャンバ
20 薬剤
22 プランジャ接触面
24 第1の端部
25 後部
26 ロッド
28 端部フランジ
30 挟持部分
32 ロッドショルダ
34 バックストップショルダ
36 穴
38 後端部
40 フィンガ突出部
42 フランジ
44 リブ
46 ディスク形状部分
48 隙間
50 隙間
52 円周リブ
54 円周リブ
56 円周リブ
58 本体
60 後面
62 中心の凹部
64 開始穴
66 内側凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6