特許第6781569号(P6781569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781569
(24)【登録日】2020年10月20日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】絶縁電線及び絶縁電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20201026BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20201026BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   H01B7/02 G
   H01B13/00 517
   H01F5/06 Q
   H01F5/06 P
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-87505(P2016-87505)
(22)【出願日】2016年4月25日
(65)【公開番号】特開2017-199478(P2017-199478A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2018年11月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】309019534
【氏名又は名称】住友電工ウインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】太田 槙弥
(72)【発明者】
【氏名】前田 修平
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 秀明
(72)【発明者】
【氏名】山内 雅晃
(72)【発明者】
【氏名】菅原 潤
(72)【発明者】
【氏名】田村 康
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健吾
(72)【発明者】
【氏名】古屋 雄大
(72)【発明者】
【氏名】畑中 悠史
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/123122(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/123123(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/137342(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 13/00
H01F 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、この導体の外周面を被覆する絶縁層とを備える絶縁電線であって、
上記絶縁層が、
空孔を含み、上記導体に直接積層される空孔層と、
空孔を含まない中実層とを有し、
上記空孔層がピロメリット酸二無水物とジアミノジフェニルエーテルとの重合により形成されるポリイミド前駆体から形成され、
上記中実層がピロメリット酸二無水物と4−(4−アミノフェノキシ)フェニルとの重合により形成されるポリイミド前駆体から形成され、
上記空孔の平均径が5μm以上15μm以下であり、
上記空孔層の空孔率が20体積%以上60体積%以下であり、
溶接により接合される絶縁電線。
【請求項2】
上記空孔層の平均厚さに対する上記中実層の平均厚さの比率が5%以上700%以下である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
導体と、この導体の外周面を被覆する絶縁層とを備え、上記絶縁層が、空孔を含み、上記導体に直接積層される空孔層と、空孔を含まない中実層とを有し、上記空孔層がピロメリット酸二無水物とジアミノジフェニルエーテルとの重合により形成されるポリイミド前駆体から形成され、上記中実層がピロメリット酸二無水物と4−(4−アミノフェノキシ)フェニルとの重合により形成されるポリイミド前駆体から形成され、上記空孔の平均径が5μm以上15μm以下であり、上記空孔層の空孔率が20体積%以上60体積%以下であり、溶接により接合される絶縁電線の製造方法であって、
樹脂及び空孔形成剤を含有する第1樹脂組成物を導体上に塗布する第1塗布工程と、
上記第1塗布工程で塗布された第1層を加熱する第1加熱工程と、
上記第1加熱工程で形成された空孔層上に、樹脂を含有する第2樹脂組成物を塗布する第2塗布工程と、
上記第2塗布工程で形成された第2層を加熱する第2加熱工程と
を備える絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線及び絶縁電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭用電気機器、自動車等の構成要素、例えばモータ、オルタネータ、イグニッション等に、絶縁電線を巻回してなるコイルが用いられている。このようなコイルを形成する絶縁電線は、導電性を有する金属製の導体と、これを被覆する樹脂製の絶縁層とから構成されるものが一般的である。
【0003】
例えば自動車用のモータ等に用いられるコイルに絶縁電線を使用する場合、短尺の絶縁電線同士を溶接により繋ぎ合わせ長尺のコイルを形成する方法が採られることがある。溶接はTIG溶接等の電気溶接で行われ、一定の電流を通電することで溶接部の温度を上げて導体同士を接続する。通常、溶接の作業効率を上げるため高電流が用いられるが、例えば絶縁層の耐溶接性が低い場合には、発泡が絶縁層中において生じ絶縁層が劣化するおそれがある。そのため、耐溶接性が高い絶縁電線が求められている。また、そのような耐溶接性に加え、高電流を流した場合でも絶縁破壊が生じない高い絶縁性が求められている。
【0004】
これに対し、絶縁層に含まれるポリイミドを構成する各単量体を適宜選択することで、耐溶接性及び絶縁性を向上させた絶縁電線が開発されている(特開2014−007065号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−007065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の絶縁電線の耐溶接性は十分ではなく、材料の選択による耐溶接性及び絶縁性の向上には限界がある。
【0007】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであり、耐溶接性及び絶縁性に優れる絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る絶縁電線は、導体と、この導体の外周面を被覆する絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記絶縁層が、空孔を含み、上記導体に直接積層される空孔層と、空孔を含まない中実層とを有する絶縁電線である。
【0009】
本発明の別の一態様に係る絶縁電線の製造方法は、導体と、この導体の外周面を被覆する絶縁層とを備え、上記絶縁層が、空孔を含み、上記導体に直接積層される空孔層と、空孔を含まない中実層とを有する絶縁電線の製造方法であって、樹脂及び空孔形成剤を含有する第1樹脂組成物を導体上に塗布する第1塗布工程と、上記第1塗布工程で塗布された第1層を加熱する第1加熱工程と、上記第1加熱工程で形成された空孔層上に、樹脂を含有する第2樹脂組成物を塗布する第2塗布工程と、上記第2塗布工程で形成された第2層を加熱する第2加熱工程とを備える絶縁電線の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
当該絶縁電線は、絶縁層が導体に直接積層された空孔層及びその外側に設けられた中実層を備えるため、耐溶接性及び絶縁性に優れる。また、当該絶縁電線の製造方法によれば、このような絶縁電線を容易かつ確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態に係る絶縁電線の模式的断面図である。
図2図2は、耐溶接性の試験方法を模式的に示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る絶縁電線は、導体と、この導体の外周面を被覆する絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記絶縁層が、空孔を含み、上記導体に直接積層される空孔層と、空孔を含まない中実層とを有する絶縁電線である。
【0013】
当該絶縁電線は、絶縁層が高い断熱性を有する空孔層を導体に接して有することで、絶縁層の熱による劣化を抑えることができる。そのため、当該絶縁電線は耐溶接性に優れる。また、当該絶縁電線は、絶縁層が空孔を含まない中実層を備えるため、絶縁層の絶縁性を向上でき、絶縁破壊を抑制することができる。さらに、当該絶縁電線は、絶縁層が空孔層を備えることで、絶縁層に可撓性を付与することができる。このように、当該絶縁電線は、絶縁層が導体に直接積層される空孔層と、中実層とを備えるため、耐溶接性、絶縁性及び可撓性に優れる。
【0014】
上記空孔層の空孔率としては、5体積%以上80体積%以下が好ましい。このように、空孔層の空孔率を上記範囲とすることで、絶縁層の熱による劣化を効果的に抑制することができる。ここで「空孔率」とは、空孔層の容積に対する空孔層に含まれる全ての空孔の合計体積の比率を意味し、百分率で表される。
【0015】
上記空孔の平均径としては、0.1μm以上30μm以下が好ましい。このように、空孔の平均径を上記範囲とすることで、絶縁層の熱による劣化を確実に抑制することができ、耐溶接性を向上させることができる。ここで、「空孔の平均径」とは、空孔層に含まれる全ての空孔について、空孔の容積に相当する真球の直径を平均した値を意味する。なお、絶縁層が複数の空孔層を有する場合、「空孔の平均径」とは、全ての空孔層に含まれる空孔について上記直径を平均した値を意味する。
【0016】
上記空孔層の平均厚さに対する上記中実層の平均厚さの比率としては、5%以上700%以下が好ましい。このように上記空孔層の平均厚さに対する上記中実層の平均厚さの比率を上記範囲とすることで、耐溶接性、絶縁性、及び可撓性を向上させることができる。
【0017】
本発明の別の一態様に係る絶縁電線の製造方法は、導体と、この導体の外周面を被覆する絶縁層とを備え、上記絶縁層が、空孔を含み、上記導体に直接積層される空孔層と、空孔を含まない中実層とを有する絶縁電線の製造方法であって、樹脂及び空孔形成剤を含有する第1樹脂組成物を導体上に塗布する第1塗布工程と、上記第1塗布工程で塗布された第1層を加熱する第1加熱工程と、上記第1加熱工程で形成された空孔層上に、樹脂を含有する第2樹脂組成物を塗布する第2塗布工程と、上記第2塗布工程で形成された第2層を加熱する第2加熱工程とを備える絶縁電線の製造方法である。
【0018】
当該絶縁電線の製造方法は、空孔を含む空孔層を導体に直接積層させる。空孔内には断熱効果の高い空気が閉じ込められているため、このような空孔を含む空孔層は耐熱性に優れ、それにより当該絶縁電線は耐溶接性に優れる。また、当該絶縁電線の製造方法は、空孔を含まない中実層を上述の空孔層上に形成する。中実層は空孔を有しないため得られる絶縁電線は絶縁性に優れる。そのため、当該絶縁電線の製造方法は、耐溶接性及び絶縁性に優れる絶縁電線を製造することができる。
【0019】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る絶縁電線及び絶縁電線の製造方法を説明する。
【0020】
[絶縁電線]
図1の当該絶縁電線は、導体1と、この導体1の外周面を被覆する絶縁層2とを備える。絶縁層2は、空孔5を含み、導体1に直接積層される空孔層3と、この空孔層3の外周面に積層され、空孔を含まない中実層4とを主に有する。
【0021】
<導体>
上記導体1は、例えば断面が円形状の丸線とされるが、断面が方形状の角線や、複数の素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。
【0022】
導体1の材質としては、導電率が高くかつ機械的強度が大きい金属が好ましい。このような金属としては、例えば銅、銅合金、アルミニウム、ニッケル、銀、鉄、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。導体1は、これらの金属を線状に形成した材料や、このような線状の材料にさらに別の金属を被覆した多層構造のもの、例えばニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミ線、銅被覆鋼線等を用いることができる。
【0023】
導体1の平均断面積の下限としては、0.01mmが好ましく、0.1mmがより好ましい。一方、導体1の平均断面積の上限としては、10mmが好ましく、5mmがより好ましい。導体1の平均断面積が上記下限に満たない場合、導体1に対する絶縁層2の体積が大きくなり、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。逆に、導体1の平均断面積が上記上限を超える場合、誘電率を十分に低下させるために絶縁層2を厚く形成しなければならず、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0024】
<絶縁層>
上記絶縁層2は、空孔5を含み、導体1に直接積層される空孔層3と、空孔層3の外周面に積層され、空孔を含まない中実層4とを有する。
【0025】
絶縁層2の平均厚さの下限としては、30μmが好ましく、40μmがより好ましい。一方、絶縁層2の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、180μmがより好ましい。絶縁層2の平均厚さが上記下限に満たない場合、絶縁層2に破れが生じ、導体1の絶縁が不十分となるおそれがある。逆に、絶縁層2の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。
【0026】
(空孔層)
上記空孔層3は、樹脂組成物と空孔5とから構成されている。
【0027】
空孔層3を形成する樹脂組成物の主成分の樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニルサルフォン、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂や、例えばポリビニールホルマール、熱硬化ポリウレタン、熱硬化アクリル、エポキシ、熱硬化ポリエステル、熱硬化ポリエステルイミド、熱硬化ポリエステルアミドイミド、芳香族ポリアミド、熱硬化ポリアミドイミド、熱硬化ポリイミド等の熱硬化性樹脂が使用できる。なお、絶縁層2の可撓性を維持し易い点で、空孔層3を形成する樹脂として熱硬化性樹脂よりも熱可塑性樹脂が好ましい。また、これらの熱可塑性樹脂の中でも、誘電率が低く絶縁層2の誘電率を低下させ易い点で、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。ここで「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば50質量%以上含有される成分である。
【0028】
また、空孔層3を形成する樹脂組成物に、上記樹脂と共に硬化剤を含有させてもよい。硬化剤としては、チタン系硬化剤、イソシアネート系化合物、ブロックイソシアネート、尿素やメラミン化合物、アミノ樹脂、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などの脂環式酸無水物、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物などが例示される。これらの硬化剤は、使用する樹脂組成物が含有する樹脂の種類に応じて、適宜選択される。例えばポリアミドイミド系の場合、硬化剤として、イミダゾール、トリエチルアミン等が好ましく用いられる。
【0029】
なお、上記チタン系硬化剤としては、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラヘキシルチタネートなどが例示される。上記イソシアネート系化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタンなどの炭素数5〜18の脂環式イソシアネート、キシリレインジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、これらの変性物などが例示される。上記ブロックイソシアネートとしては、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネートなどが例示される。上記メラミン化合物としては、メチル化メラミン、ブチル化メラミン、メチロール化メラミン、ブチロール化メラミンなどが例示される。
【0030】
また、空孔層3を形成する樹脂組成物中の樹脂は、架橋していることが好ましい。空孔層3を形成する樹脂組成物中の樹脂を架橋させることにより、空孔層3の機械的強度が向上し、空孔5を含むことによる機械的強度の抑制作用を低減できるので、絶縁層2の機械的強度が維持し易くなる。また、空孔層3を形成する樹脂組成物中の樹脂を架橋させることにより、耐薬品性及び耐溶接性も向上させることができる。
【0031】
空孔層3の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、空孔層3の平均厚さの上限としては、180μmが好ましく、160μmがより好ましい。空孔層3の平均厚さが上記下限未満の場合、耐溶接性が低下するおそれがある。逆に、空孔層3の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0032】
空孔層3の空孔率の下限としては、5体積%が好ましく、10体積%がより好ましく、20体積%がさらに好ましい。一方、空孔層3の空孔率の上限としては、80体積%が好ましく、70体積%がより好ましく、60体積%がさらに好ましい。空孔層3の空孔率が上記下限未満の場合、空孔層3の断熱効果が低下し、耐溶接性を十分向上できないおそれがある。逆に、空孔層3の空孔率が上記上限を超える場合、絶縁性を十分に向上できないおそれや、空孔層3の機械的強度が低下し過ぎ、絶縁層2の機械的強度を維持できないおそれがある。
【0033】
空孔5の平均径の下限としては、0.1μmが好ましく、1μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。一方、上記空孔5の平均径の上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましく15μmがさらに好ましい。上記空孔5の平均径が上記下限未満の場合、空孔層3の断熱効果が低下し、耐溶接性を十分向上できないおそれがある。逆に、上記空孔5の平均径が上記上限を超える場合、絶縁性を十分に向上できないおそれや、空孔層3内における空孔5の分布を均一にし難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。
【0034】
(中実層)
上記中実層4は、空孔層3の外周面に積層される。中実層4は、樹脂組成物から構成され、中実層4中には空孔は含まれてない。
【0035】
中実層4を形成する樹脂組成物の主成分の樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニルサルフォン、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂や、例えばポリビニールホルマール、熱硬化ポリウレタン、熱硬化アクリル、エポキシ、熱硬化ポリエステル、熱硬化ポリエステルイミド、熱硬化ポリエステルアミドイミド、芳香族ポリアミド、熱硬化ポリアミドイミド、熱硬化ポリイミド等の熱硬化性樹脂が使用できる。これらの熱可塑性樹脂の中でも、誘電率が低く絶縁層2の誘電率を低下させ易い点で、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0036】
また、中実層4を形成する樹脂組成物に、上記樹脂と共に硬化剤を含有させてもよい。硬化剤としては、上述した空孔層3を形成する樹脂組成物に含有する硬化剤と同種のものが挙げられる。
【0037】
また、中実層4を形成する樹脂組成物中の樹脂は架橋していることが好ましい。中実層4を形成する樹脂組成物中の樹脂を架橋させることにより、中実層4の機械的強度が向上し、絶縁層2の機械的強度が維持し易くなる。また、中実層4を形成する樹脂組成物中の樹脂を架橋させることにより、耐薬品性及び耐溶接性も向上させることができる。
【0038】
また、中実層4の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、中実層4の平均厚さの上限としては、180μmが好ましく、160μmがより好ましい。中実層4の平均厚さが上記下限未満の場合、絶縁性を十分向上できないおそれがある。逆に、中実層4の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0039】
また、空孔層3の平均厚さに対する中実層4の平均厚さの比率の下限としては、5%が好ましく、10%がより好ましく、20%がさらに好ましい。一方、上記比率の上限としては、700%が好ましく、650%がより好ましく、600%がさらに好ましい。上記比率が上記下限未満であると、絶縁層2の機械的強度が低下すると共に絶縁層2の絶縁性が低下するおそれがある。逆に、上記比率が上記上限を超えると、絶縁層2の熱劣化抑制効果が低下するおそれがある。
【0040】
[絶縁電線の第1の製造方法]
次に、図1に示す当該絶縁電線の第1の製造方法について説明する。当該絶縁電線の製造方法は、樹脂及び空孔形成剤を含有する第1樹脂組成物を導体1上に塗布する第1塗布工程と、上記第1塗布工程で塗布された第1層を加熱する第1加熱工程と、上記第1加熱工程で形成された空孔層3上に、樹脂を含有する第2樹脂組成物を塗布する第2塗布工程と、上記第2塗布工程で形成された第2層を加熱する第2加熱工程とを備える。
【0041】
<第1塗布工程>
第1塗布工程では、空孔層3を形成する樹脂を溶剤で希釈し、さらに空孔形成剤と混合して第1樹脂組成物(以下、「空孔層用ワニス」ともいう。)を調製する。その後、この空孔層用ワニスを導体1上に塗布することで、第1層を形成する。
【0042】
上記空孔層用ワニスに混合する空孔形成剤としては、化学発泡剤が好ましく、例えば加熱により窒素ガス(Nガス)を発生するアゾビスイソブチロニトリル等の熱分解性を有する物質が好適に用いられる。
【0043】
上記化学発泡剤の発泡温度の下限としては、180℃が好ましく、210℃がより好ましい。一方、上記発泡温度の上限としては、300℃が好ましく、260℃がより好ましい。上記発泡温度が上記下限未満の場合、焼付け前に発泡が生じ易く、空孔層3の厚さの調整が困難となるおそれがある。逆に、上記発泡温度が上記上限を超える場合、焼付け温度の上昇や焼付け時間の長大化を招き、当該絶縁電線の製造コストが増加するおそれがある。ここで「発泡温度」とは、発泡剤が発泡を開始する温度である。「焼付け時間」とは、焼付け工程においてワニスが塗布された導体1を焼付け温度で保持する時間である。
【0044】
希釈用溶剤としては、従来より絶縁ワニスに用いられている公知の有機溶剤を用いることができる。具体的には、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール類、ピリジンなどの第三級アミン類などが挙げられ、これらの有機溶媒はそれぞれ単独であるいは2種以上を混合して用いられる。
【0045】
なお、これらの有機溶剤により希釈して調製した空孔層用ワニスの樹脂固形分濃度の下限としては、20質量%が好ましく、22質量%がより好ましい。一方、上記空孔層用ワニスの樹脂固形分濃度の上限としては、50質量%が好ましく、48質量%がより好ましい。上記空孔層用ワニスの樹脂固形分濃度が上記下限未満の場合、空孔層用ワニスを塗布する際の1回の塗布量が少なくなるため、所望の厚さの空孔層3を形成するためのワニス塗布工程の繰り返し回数が多くなり、ワニス塗布工程の時間が長くなるおそれがある。逆に、上記空孔層用ワニスの樹脂固形分濃度が上記上限を超える場合、空孔層3を形成する樹脂及び空孔形成剤を均一に混合し難くワニスの調製に要する時間が長くなるおそれがある。
【0046】
<第1加熱工程>
第1加熱工程では、第1塗布工程において塗布された第1層を加熱し焼付ける。これにより、導体1の外側に空孔層3を形成する。焼付けの際、第1層に含まれる空孔形成剤の発泡又は分解等により空孔5が形成される。
【0047】
空孔層用ワニスの一度の塗布及び焼付けにより所望の厚さの空孔層3が形成できない場合、空孔層3が所定の厚さとなるまで、上記空孔層用ワニスの塗布及び焼付けを繰り返し行う。
【0048】
<第2塗布工程>
第2塗布工程では、中実層4を形成する樹脂を溶剤で希釈して第2樹脂組成物(以下、「中実層用ワニス」ともいう。)を調製する。その後、この中実層用ワニスを空孔層3の上に塗布することで、第2層を形成する。
【0049】
上記中実層用ワニスの希釈用溶剤としては、従来より絶縁ワニスに用いられている公知の有機溶剤を用いることができ、具体的には上述した空孔層用ワニスの調製に用いる希釈用溶剤と同種のものが挙げられる。
【0050】
なお、これらの有機溶剤により希釈して調製した中実層用ワニスの樹脂固形分濃度の下限としては、20質量%が好ましく、22質量%がより好ましい。一方、上記中実層用ワニスの樹脂固形分濃度の上限としては、50質量%が好ましく、48質量%がより好ましい。上記中実層用ワニスの樹脂固形分濃度が上記下限未満の場合、中実層用ワニスを塗布する際の1回の塗布量が少なくなるため、所望の厚さの中実層4を形成するためのワニス塗布工程の繰り返し回数が多くなり、ワニス塗布工程の時間が長くなるおそれがある。逆に、上記中実層用ワニスの樹脂固形分濃度が上記上限を超える場合、希釈に要する時間が長くなるおそれがある。
【0051】
<第2加熱工程>
第2加熱工程では、第2塗布工程において空孔層3の外周面に塗布された第2層を加熱し焼付ける。これにより、導体1に形成された空孔層3の外周面に中実層4を形成する。なお、空孔層3と中実層4との間に絶縁層2を構成する空孔層3及び中実層4以外の層を形成してもよい。この層は1層であってもよいし複数の層であってもよい。
【0052】
中実層用ワニスの一度の塗布及び焼付けにより所望の厚さの中実層4が形成できない場合、中実層4が所定の厚さとなるまで、上記中実層用ワニスの塗布及び焼付けを繰り返し行う。所定の厚さの中実層4を形成することにより、当該絶縁電線が得られる。
【0053】
[絶縁電線の第2の製造方法]
次に、図1に示す当該絶縁電線の第2の製造方法について説明する。当該絶縁電線の第2の製造方法は、共押出しにより、上記導体1の外周面を空孔層3及び中実層4で被覆する工程(押出し被覆工程)を備える。上記空孔層3は空孔5を含み、上記中実層4は空孔を含まない。
【0054】
<押出し被覆工程>
押出し被覆工程では、空孔層3を形成する空孔層用樹脂組成物と、中実層4を形成する中実層用樹脂組成物とを溶融押出機に投入する。ここで、上記空孔層用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を主成分とし、空孔形成剤を含む。また、上記中実層用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を主成分とし、空孔形成剤を含まない。そして、これらの樹脂組成物を溶融押出機に投入した後、導体1側から空孔層3、中実層4の順で積層されるようにこれらの樹脂組成物を共押出しする。すなわち、導体1の外周面に空孔層用樹脂組成物、さらにその外周面を取り囲むように中実層用樹脂組成物が配設されるようにしてこれらの樹脂組成物を押出すことにより当該絶縁電線を得る。
【0055】
ここで、空孔層3内の空孔5は、上記樹脂組成物を軟化させるための共押出し時の加熱により空孔層用樹脂組成物に含まれる空孔形成剤の発泡又は分解等により生成される。これにより、空孔5を含む空孔層3と空孔を含まない中実層4とを有する絶縁層2を備える当該絶縁電線が得られる。
【0056】
なお、上記空孔層用樹脂組成物として熱硬化性樹脂を主成分とするものを用いてもよいが、上述のように熱可塑性樹脂を主成分とするものを用いた方が共押出し時の加熱制御が容易にできるので、当該絶縁電線を製造し易い。
【0057】
[利点]
当該絶縁電線は、絶縁層2が高い断熱性を有する空孔層3を導体1に接して有することで、絶縁層2の熱による劣化を抑えることができる。そのため、当該絶縁電線は耐溶接性に優れる。また、当該絶縁電線は、絶縁層2が空孔を含まない中実層4を備えるため、絶縁層2の絶縁性を向上でき、絶縁破壊を抑制することができる。さらに、当該絶縁電線は、絶縁層2が空孔層3を備えることで、絶縁層2に可撓性を付与することができる。このように、当該絶縁電線は、絶縁層2が導体1に直接積層される空孔層3と、中実層4とを備えるため、耐溶接性、絶縁性及び可撓性に優れる。
【0058】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0059】
上記実施形態においては、絶縁層が空孔層及び中実層を1つずつ有する当該絶縁電線について説明したが、少なくとも1つの空孔層が導体上に直接積層され、その空孔層の外側に少なくとも1つの中実層が存在していれば、絶縁層が複数の空孔層を有する絶縁電線としてもよいし、絶縁層が複数の中実層を有する絶縁電線としてもよい。また、空孔層及び中実層が交互に積層される絶縁層を有する絶縁電線としてもよい。絶縁層が複数の空孔層を有する場合、それぞれの空孔層が絶縁層の耐溶接性向上に寄与する。また、絶縁層が複数の中実層を有する場合、これらの複数の中実層が総合して絶縁層の機械的強度の向上に寄与すると共に、絶縁性向上に寄与する。
【0060】
絶縁層が複数の空孔層を有する場合、各空孔層の平均厚さの合計の下限としては、絶縁層の平均厚さに対して10%が好ましく、20%がより好ましい。一方、上記平均厚さの合計の上限としては、絶縁層の平均厚さに対して95%が好ましく、90%がより好ましい。上記平均厚さの合計が上記下限未満の場合、耐溶接性を十分向上できないおそれがある。逆に、上記平均厚さの合計が上記上限を超える場合、絶縁性を十分向上できないおそれや、機械的強度の低い空孔層の全厚さが相対的に大きくなり、絶縁層の機械的強度を維持できないおそれがある。
【0061】
また、絶縁層が複数の中実層を有する場合、各中実層の平均厚さの合計の下限としては、絶縁層の平均厚さに対して5%が好ましく、10%がより好ましい。一方、上記平均厚さの合計の上限としては、絶縁層の平均厚さに対して90%が好ましく、80%がより好ましい。上記平均厚さの合計が上記下限未満の場合、絶縁性を十分向上できないおそれや、絶縁層の機械的強度を維持できないおそれがある。逆に、上記平均厚さの合計が上記上限を超える場合、耐溶接性を十分向上できないおそれがある。
【0062】
また、絶縁層が複数の中実層を有し最外に中実層が形成されている場合、最外層の中実層の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、上記最外層の中実層の平均厚さの上限としては、180μmが好ましく、160μmがより好ましい。上記最外層の中実層の平均厚さが上記下限未満であると、絶縁性を十分向上できないおそれがある。逆に、上記最外層の中実層の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0063】
なお、絶縁層が複数の空孔層を有する場合、「空孔層の平均厚さに対する中実層の平均厚さの比率」における「空孔層の平均厚さ」は、それらの空孔層のうち最内層の平均厚さを意味し、絶縁層が複数の中実層を有する場合、上記「中実層の平均厚さ」は、各中実層の平均厚さの合計を意味する。
【0064】
また、上記実施形態では、空孔形成剤として化学発泡剤を用いて空孔を生成させる製造方法について説明したが、空孔形成剤として熱膨張性マイクロカプセルを使用し、熱膨張性マイクロカプセルにより空孔を形成させる製造方法としてもよい。例えば上記第1の製造方法において、空孔層を形成する樹脂を溶剤で希釈したものを熱膨張性マイクロカプセルと混合して空孔層用ワニスを調製し、この空孔層用ワニスの導体の外周面側への塗布及び焼付けにより空孔層を形成してもよい。焼付けの際、空孔層用ワニスに含まれる熱膨張性マイクロカプセルが膨張又は発泡し、熱膨張性マイクロカプセルによって空孔層内に空孔が形成される。また、例えば上記第2の製造方法において、空孔層用樹脂組成物に熱膨張性マイクロカプセルを含ませてもよい。この場合、共押出し時の加熱により、空孔層用樹脂組成物に含まれる熱膨張性マイクロカプセルが膨張又は発泡し、熱膨張性マイクロカプセルによって形成された空孔を含む空孔層が形成される。
【0065】
上記熱膨張性マイクロカプセルは、熱膨張剤からなる芯材(内包物)と、この芯材を包む外殻とを有する。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤は、加熱により膨張又は気体を発生するものであればよく、その原理は問わない。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤としては、例えば低沸点液体、化学発泡剤又はこれらの混合物を使用することができる。
【0066】
上記低沸点液体としては、例えばブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタン等のアルカンや、トリクロロフルオロメタン等のフレオン類などが好適に用いられる。また、上記化学発泡剤としては、加熱によりNガスを発生するアゾビスイソブチロニトリル等の熱分解性を有する物質が好適に用いられる。
【0067】
上記熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度、つまり低沸点液体の沸点又は化学発泡剤の熱分解温度としては、後述する熱膨張性マイクロカプセルの外殻の軟化温度以上とされる。より詳しくは、熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度の下限としては、60℃が好ましく、70℃がより好ましい。一方、熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度の上限としては、200℃が好ましく、150℃がより好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度が上記下限に満たない場合、当該絶縁電線の製造時、輸送時又は保管時に熱膨張性マイクロカプセルが意図せず膨張してしまうおそれがある。逆に、熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度が上記上限を超える場合、熱膨張性マイクロカプセルを膨張させるために必要なエネルギーコストが過大となるおそれがある。ここで、「熱膨張剤の膨張開始温度」とは、熱膨張剤が低沸点液体である場合は、この低沸点液体の沸点を意味し、熱膨張剤が化学発泡剤である場合は、この化学発泡剤の熱分解温度を意味する。
【0068】
一方、上記熱膨張性マイクロカプセルの外殻は、上記熱膨張剤の膨張時に破断することなく膨張し、発生したガスを包含するマイクロバルーンを形成できる延伸性を有する材質から形成される。この熱膨張性マイクロカプセルの外殻を形成する材質としては、通常は、熱可塑性樹脂等の高分子を主成分とする樹脂組成物が用いられる。
【0069】
上記熱膨張性マイクロカプセルの外殻の主成分とされる熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリレート、メタアクリレート、スチレン等の単量体から形成された重合体、あるいは2種以上の単量体から形成された共重合体が好適に用いられる。好ましい熱可塑性樹脂の一例としては、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体が挙げられ、この場合の熱膨張剤の膨張開始温度は、80℃以上150℃以下とされる。
【0070】
さらに、空孔形成剤として熱分解性樹脂を用いてもよい。すなわち、上記第1の製造方法の第1樹脂組成物として、空孔層を形成する樹脂を溶剤で希釈し、さらに熱分解性樹脂を混合したものを用いてもよい。また、上記第2の製造方法の空孔層用樹脂組成物として、空孔層を形成する樹脂に熱分解性樹脂を混合したものを用いてもよい。
【0071】
上記熱分解性樹脂としては、例えば空孔層を形成する樹脂の焼付け温度又は押出温度よりも低い温度で熱分解する樹脂粒子を用いる。例えば空孔層を形成する主ポリマーの焼付け温度は、樹脂の種類に応じて適宜設定されるが、通常200℃以上350℃以下程度である。従って、上記熱分解性樹脂の熱分解温度の下限としては200℃が好ましく、上限としては300℃が好ましい。ここで、熱分解温度とは、窒素雰囲気下で室温から10℃/分で昇温し、質量減少率が50%となるときの温度を意味する。熱分解温度は、例えば熱重量測定−示差熱分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社の「TG/DTA」)を用いて熱重量を測定することにより測定できる。
【0072】
上記空孔層に用いる熱分解性樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの片方、両方の末端又は一部をアルキル化、(メタ)アクリレート化又はエポキシ化した化合物、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸の炭素数1以上6以下のアルキルエステル重合体、ウレタンオリゴマー、ウレタンポリマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ε―カプロラクトン(メタ)アクリレートなどの変性(メタ)アクリレートの重合物、ポリ(メタ)アクリル酸、これらの架橋物、ポリスチレン、架橋ポリスチレン等が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル系重合体の架橋物が好ましく、架橋ポリ(メタ)アクリレートがより好ましい。また、熱分解性樹脂は、上記空孔層を形成する樹脂の海相に微小粒子の島相となって均等分布できることが好ましい。従って、上記空孔層に用いる熱分解性樹脂としては、上記空孔層を形成する樹脂との相溶性に優れると共に、球状にまとまる樹脂であることが好ましく、具体的には架橋樹脂が好ましい。
【0073】
上記架橋ポリ(メタ)アクリル系重合体は、例えば(メタ)アクリル系モノマーと多官能性モノマーとを乳化重合、懸濁重合、溶液重合等により重合することで得られる。
【0074】
ここで、(メタ)アクリル系モノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどが挙げられる。
【0075】
また、多官能性モノマーとしては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどが挙げられる。
【0076】
なお、架橋ポリ(メタ)アクリル系重合体の構成モノマーとしては、(メタ)アクリル系モノマー及び多官能性モノマー以外に他のモノマーを使用してもよい。他のモノマーとしては、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のグリコールエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、酢酸ビニル、酪酸ビニルなどのビニルエステル類、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミドなどのN−アルキル置換(メタ)アクリルアミド類、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどのニトリル類、スチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系単量体等が挙げられる。
【0077】
上記熱分解する樹脂粒子を用いる場合、樹脂粒子は球状であることが好ましい。上記樹脂粒子の平均粒子径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがさらに好ましい。一方、上記樹脂粒子の平均粒子径の上限としては、100μmが好ましく、50μmがより好ましく、30μmがさらに好ましく、10μmが特に好ましい。上記樹脂粒子は空孔層を形成する樹脂の焼付け時に熱分解して存在していた部分に空孔を形成する。そのため、上記樹脂粒子の平均粒子径が上記下限未満の場合、空孔層に空孔が形成され難くなるおそれがある。逆に、上記樹脂粒子の平均粒子径が上記上限を超える場合、空孔層内における空孔の分布が均一になり難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。ここで、上記樹脂粒子の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布において、最も高い体積の含有割合を示す粒径を意味する。
【0078】
また、例えば上記空孔を中空フィラーで形成してもよい。上記空孔を中空フィラーで形成する場合、例えば空孔層を形成する樹脂組成物と中空フィラーとを混練し、共押出し成形によりこの混練物を導体に被覆することで当該絶縁電線を製造できる。
【0079】
中空フィラーにより空孔を形成する場合、この中空フィラーの内部の空洞部分が空孔層に含まれる空孔となる。中空フィラーとしては、例えばシラスバルーン、ガラスバルーン、セラミックバルーン、有機樹脂バルーン等が挙げられる。これらの中で当該絶縁電線の可撓性を向上させることができる有機樹脂バルーンが好ましい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
<実施例1>
銅を鋳造、延伸、伸線及び軟化し、断面が円形で直径が1.0mmの導体を得た。次に、ピロメリット酸二無水物とジアミノジフェニルエーテルとの重合により形成されるポリイミド前駆体をN−メチル−2−ピロリドンに溶解した絶縁ワニスを作成した。さらに、この絶縁ワニスに空孔形成剤(発泡剤)を空孔層の空孔率が10体積%となるように分散させて空孔層用ワニスを作成した。この空孔層用ワニスを導体の外周面に塗布し、線速3.0m/分、加熱炉入口温度350℃、加熱炉出口温度450℃の条件で焼き付ける工程を繰り返し行うことで導体の外周面に平均厚さ20μmの空孔層を形成した。次に、ピロメリット酸二無水物と4−(4−アミノフェノキシ)フェニルとの重合により形成されるポリイミド前駆体をN−メチル−2−ピロリドンに溶解した中実層用ワニスを作成した。この中実層用ワニスを上記空孔層の外周面に塗布し、線速3.0m/分、加熱炉入口温度350℃、加熱炉出口温度250℃の条件で焼き付けることによって空孔層の外周面に平均厚さ30μmの中実層を形成し、実施例1の絶縁電線を得た。
【0082】
<実施例2及び実施例3>
空孔層及び中実層の平均厚さ並びに空孔層の空孔率を表1の通りとした以外は実施例1と同様にして、実施例2及び実施例3の絶縁電線を得た。
【0083】
<比較例1>
下層に空孔を形成しなかった点以外は実施例1と同様にして比較例1の絶縁電線を作製した。
【0084】
<耐溶接性>
実施例1〜3及び比較例1の絶縁電線について耐溶接性を評価した。図2に耐溶接性の評価方法の模式図を示す。導体と絶縁層とからなる実施例1〜3及び比較例1の絶縁電線を100mmの長さに切断して試験片とし、各試験片の一方の端末から5.0mmの位置まで絶縁層を剥離した。絶縁層を剥離した側の末端から2.5mmの部分を、断面寸法が1.5mm×2.0mmである2本のクロム銅製アース棒15で挟み込み、試験片の端末の端部から1.25mm離れた位置(図2の試験片の端末の端部から溶接トーチ14の先端までの距離tが2.5mmとなる位置)に溶接トーチ14の先端位置を合わせ、TIG溶接機により通電を行った。通電電流は60Aから10Aずつ上げ、最大100Aとした。各通電についての通電時間は0.3秒とした。通電後の各試験片における通電部近傍の表面を目視で確認し、皮膜の浮きや発泡の発生が起こらず良好に溶接可能な通電電流の最大値を求めた。以上の評価結果を表1に示す。表1において、材料の欄に記載された「A」はピロメリット酸二無水物とジアミノジフェニルエーテルとの重合により形成されるポリイミド前駆体を示し、「B」はピロメリット酸二無水物と4−(4−アミノフェノキシ)フェニルとの重合により形成されるポリイミド前駆体を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
[評価結果]
表1に示すように、絶縁層が導体に直接積層された空孔層を有しその空孔率がそれぞれ10体積%、30体積%及び50体積%である実施例1、実施例2及び実施例3では、耐溶接性は90A以上であった。実施例1〜3の絶縁電線は、下層が空孔を有しない比較例1の絶縁電線より耐溶接性が高かった。また、実施例1と実施例2との比較から、空孔率を10体積%から30体積%に上昇させることで、耐溶接性を向上させることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明に係る絶縁電線は、耐溶接性及び絶縁性に優れるため、溶接により接合される電線として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 導体
2 絶縁層
3 空孔層
4 中実層
5 空孔
14 溶接トーチ
15 アース棒
図1
図2