特許第6781591号(P6781591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781591
(24)【登録日】2020年10月20日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】水硬性組成物用レオロジー改質剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/38 20060101AFI20201026BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20201026BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20201026BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20201026BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20201026BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20201026BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   C04B24/38 C
   C04B24/26 B
   C04B24/26 E
   C04B24/26 F
   C04B24/26 H
   C04B28/02
   C04B24/32 A
   C04B24/02
   C08L71/02
   C08L1/00
【請求項の数】13
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-165823(P2016-165823)
(22)【出願日】2016年8月26日
(65)【公開番号】特開2018-30769(P2018-30769A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503044237
【氏名又は名称】株式会社フローリック
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】西盛 嘉人
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴史
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−034156(JP,A)
【文献】 特開2014−218619(JP,A)
【文献】 特開2014−094875(JP,A)
【文献】 特開2008−137889(JP,A)
【文献】 特開2011−132041(JP,A)
【文献】 特開2000−233957(JP,A)
【文献】 特開2014−125397(JP,A)
【文献】 特開2011−190144(JP,A)
【文献】 特開2005−154240(JP,A)
【文献】 国際公開第03/024884(WO,A1)
【文献】 国際公開第00/048961(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00−32/02, C04B40/00−40/06, C04B103/00−111/94
C08L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性増粘剤(A)と、
下記一般式(1)で表される単量体(I)に由来する構成単位及び下記一般式(2)で表される単量体(II)に由来する構成単位を含む共重合体(B)とを含み、
水溶性増粘剤(A)の共重合体(B)に対する重量比率((A)/(B))が、0.01/99.99〜25/75であり、
水溶性増粘剤(A)が、セルロース系増粘剤を含む
水硬性組成物用レオロジー改質剤。
【化1】
(式中、Rは、炭素原子数2〜5のアルケニル基を表す。AOは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜100の数を表す。Rは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【化2】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。mは、0〜2の数を表す。AOは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜100の数を表す。Xは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
共重合体(B)が、更に下記一般式(3)で表される単量体(III)に由来する構成単位を含む、請求項1に記載の水硬性組成物用レオロジー改質剤。
【化3】
(式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、−CH、又は−(CHCOOMを表し、−(CH2)COOMは、−COOM又は他の−(CHCOOMと無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM及びMは存在しない。M及びMは、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、又は置換アルキルアンモニウム基を表す。rは0〜2の整数を示す。)
【請求項3】
共重合体(B)が、更に下記一般式(4)で表される単量体(IV)に由来する構成単位を含む、請求項1又は2に記載の水硬性組成物用レオロジー改質剤。
【化4】
(式中、R、R10及びR11は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。R12は、炭素原子数1〜4のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基を表す。sは、0〜2の整数を表す。ただし、一般式(4)で表される単量体(IV)には、一般式(1)〜(3)で表される単量体は含まれない。)
【請求項4】
共重合体(B)を2種以上含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物用レオロジー改質剤。
【請求項5】
共重合体(B)が、単量体(II)に由来する構成単位としてn2が1である単量体(IIa)に由来する構成単位及びn2が1より大きく100以下である単量体(IIb)に由来する構成単位を含み、単量体(IIa)に由来する構成単位の単量体(IIb)に由来する構成単位に対する重量比率((IIa)/(IIb))が、1/99〜99/1である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水硬性組成物用レオロジー改質剤。
【請求項6】
共重合体(B)の重量平均分子量が、ポリエチレングリコール換算で5,000〜60,000である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水硬性組成物用レオロジー改質剤。
【請求項7】
水溶性増粘剤(A)を2種以上含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水硬性組成物用レオロジー改質剤。
【請求項8】
水溶性増粘剤(A)が、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の水硬性組成物用レオロジー改質剤。
【請求項9】
水硬性組成物用レオロジー改質剤が、下記一般式(5)で表される単量体(C)を更に含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の水硬性組成物用レオロジー改質剤。
【化5】
(式中、R1cは、炭素原子数2〜5のアルケニル基を表す。A1cOは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n1cは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜100の数を表す。R2cは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【請求項10】
単量体(C)の共重合体(B)に対する含有割合が、0.1〜30重量%である、請求項9に記載の水硬性組成物用レオロジー改質剤。
【請求項11】
両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリアルキレングリコール(D)を、更に含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の水硬性組成物用レオロジー改質剤。
【請求項12】
両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリアルキレングリコール(D)の共重合体(B)に対する含有割合が、0.01〜10重量%である、請求項11に記載の水硬性組成物用レオロジー改質剤。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の水硬性組成物用レオロジー改質剤を含む、水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント組成物に代表される水硬性組成物の施工時における作業人員の削減や作業効率の向上などの環境要因に付随して、ワーカビリティの向上が求められている。とりわけ、加振機の使用が困難な過密配筋部材や大部分が閉鎖された合成構造部材などのために、高い流動性を有するセメント組成物が求められており、セメント組成物に対する種々の添加剤が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アニオン性芳香族化合物、カチオン性界面活性剤、及びシリカヒュームを含有する水硬性組成物用添加剤が記載されている。
【0004】
特許文献2には、水溶性セルロースエーテル及び微生物発酵多糖類を添加することで、骨材分離を抑制し得る高流動のモルタル組成物が作製可能であることが記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、ポリカルボン酸系共重合体、水溶性セルロースエーテル、及び消泡剤を含む、ブリーディングを抑制し得るセメント組成物用添加剤が記載されている。
【0006】
更に、特許文献4にはヒドロキシプロピル高置換型ヒドロキシプロピルメチルセルロースが増粘剤として使用された高流動性コンクリート(セメント組成物)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−321064号公報
【特許文献2】特開2003−313069号公報
【特許文献3】国際公開第2003/024884号
【特許文献4】特開2014−101243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような状況下、適度な材料分離抵抗性及び高い流動性を有することで、ポンプ圧送性に優れたセメント組成物の開発が希求されているが、かかるセメント組成物の添加剤として、適度な材料分離抵抗性付与を指向した増粘剤と、長時間の高流動性付与を指向した、高性能AE減水剤などの水硬性組成物用分散剤との性質を併せ持つ水硬性組成物用添加剤(レオロジー改質剤)の活用が考えられる。
しかしながら特許文献1の技術は、幅広い水セメント比の領域に対して利用する際、添加剤及び水硬性組成物の配合を調整する必要があり、コンクリートの低品質化に伴う需要を満たすには、煩雑な作業が伴う。また特許文献2の技術は、微生物発酵多糖類の添加により、長時間の流動性を保持できるものの、凝結時間が大幅に遅延し、施工性を悪化させる。特許文献3の技術では、40℃程度の高温環境において、水溶性セルロースエーテルとポリカルボン酸系共重合体との相溶性が悪く、添加剤が固体と液体とに分離するため、添加剤を気温の高い夏場に使用することは困難である。一方で、セメント組成物に対して高い粘性を付与するために増粘剤を増配することにも制限がある。更に特許文献4の技術は、セメント流動性の持続性能が芳しくなく、混和剤添加後に時間が経つと流動性が急激に低下し、セメント組成物打設時のポンパビリティーにも大きな影響を及ぼし得る。
そこで本発明は、水硬性組成物に持続的に適度な流動性及び材料分離抵抗性を付与し、含まれる成分の相溶性が良好である、水硬性組成物用添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を行った結果、水溶性増粘剤と、特定の共重合体とを、特定の重量比率で含む水硬性組成物用添加剤により、上記課題が解決され得ることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[1] 水溶性増粘剤(A)と、
下記一般式(1)で表される単量体(I)に由来する構成単位及び下記一般式(2)で表される単量体(II)に由来する構成単位を含む共重合体(B)とを含み、
水溶性増粘剤(A)の共重合体(B)に対する重量比率((A)/(B))が、0.0
1/99.99〜25/75である、水硬性組成物用添加剤。
【化1】
(式中、Rは、炭素原子数2〜5のアルケニル基を表す。AOは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜100の数を表す。Rは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【化2】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。mは、0〜2の数を表す。AOは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜100の数を表す。Xは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
[2] 共重合体(B)が、更に下記一般式(3)で表される単量体(III)に由来する構成単位を含む、[1]に記載の水硬性組成物用添加剤。
【化3】
(式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、−CH、又は−(CHCOOMを表し、−(CH2)COOMは、−COOM又は他の−(CHCOOMと無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM及びMは存在しない。M及びMは、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、又は置換アルキルアンモニウム基を表す。rは0〜2の整数を示す。)
[3] 共重合体(B)が、更に下記一般式(4)で表される単量体(IV)に由来する構成単位を含む、[1]又は[2]に記載の水硬性組成物用添加剤。
【化4】
(式中、R、R10及びR11は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。R12は、炭素原子数1〜4のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基を表す。sは、0〜2の整数を表す。ただし、一般式(4)で表される単量体(IV)には、一般式(1)〜(3)で表される単量体は含まれない。)
[4] 共重合体(B)を2種以上含む、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の水硬性組成物用添加剤。
[5] 共重合体(B)が、単量体(II)に由来する構成単位としてn2が1である単量体(IIa)に由来する構成単位及びn2が1より大きく100以下である単量体(IIb)に由来する構成単位を含み、単量体(IIa)に由来する構成単位の単量体(IIb)に由来する構成単位に対する重量比率((IIa)/(IIb))が、1/99〜99/1である、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の水硬性組成物用添加剤。
[6] 共重合体(B)の重量平均分子量が、ポリエチレングリコール換算で5,000〜60,000である、[1]〜[5]のいずれか1つに記載の水硬性組成物用添加剤。
[7] 水溶性増粘剤(A)を2種以上含む、[1]〜[6]のいずれか1つに記載の水硬性組成物用添加剤。
[8] 水溶性増粘剤(A)が、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースから選ばれる少なくとも1種を含む、[1]〜[7]のいずれか1つに記載の水硬性組成物用添加剤。
[9] 下記一般式(5)で表される単量体(C)を更に含む、[1]〜[8]のいずれか1つに記載の水硬性組成物用添加剤。
【化5】
(式中、R1cは、炭素原子数2〜5のアルケニル基を表す。A1cOは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n1cは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜100の数を表す。R2cは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
[10] 単量体(C)の共重合体(B)に対する含有割合が、0.1〜30重量%である、[9]に記載の水硬性組成物用添加剤。
[11] 両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリアルキレングリコール(D)を、更に含む、[1]〜[10]のいずれか1つに記載の水硬性組成物用添加剤。
[12] 両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリアルキレングリコール(D)の共重合体(B)に対する含有割合が、0.01〜10重量%である、[11]に記載の水硬性組成物用添加剤。
[13] [1]〜[12]のいずれか1つに記載の水硬性組成物用添加剤を含む、水硬性組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水硬性組成物に持続的に適度な流動性及び材料分離抵抗性を付与し、含まれる成分の相溶性が良好である、水硬性組成物用添加剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水硬性組成物用添加剤は、水溶性増粘剤(A)及び共重合体(B)を含む。以下、水溶性増粘剤(A)及び共重合体(B)について説明する。なお、本明細書において、剤には、組成物が含まれる。
【0013】
1.水溶性増粘剤(A)
本発明に係る水溶性増粘剤(A)は、水溶性を示し、溶解後の水溶液の粘度を溶解前よりも上昇させることができるものであれば特に限定されず、例えば、ヒドロキシ基を含有するポリエチレングリコール系増粘剤、ポリビニルアルコール系増粘剤、多糖誘導体系増粘剤を用いることができるが、水溶性と粘度を上昇させる度合の調整をし易いので、水溶性増粘剤(A)は、好ましくは、多糖誘導体であり、より好ましくは、多糖類が有する複数のヒドロキシ基が、部分的又は全体的に、炭素原子数1〜5のアルキルオキシ基で置換された多糖誘導体;多糖類が有する複数のヒドロキシ基が、部分的又は全体的に、ヒドロキシ基を有する炭素原子数1〜5のアルキルオキシ基で置換された多糖誘導体;多糖類が有する複数のヒドロキシ基が、部分的又は全体的に、ヒドロキシ基を有する炭素原子数1〜5のアルキルオキシ基と、炭素原子数1〜5のアルキルオキシ基と、で置換された多糖誘導体;又は、多糖類が有する複数のヒドロキシ基又は多糖類のアルキル化誘導体若しくはヒドロキシアルキル化誘導体が有する複数のヒドロキシ基の水素原子が、部分的又は全体的に、炭素原子数8以上40以下の炭化水素鎖を部分構造として有する疎水性置換基と、スルホ基及びスルホナト塩の基からなる群から選ばれる一種以上の基を部分構造として有するイオン性親水性置換基と、で置換された多糖誘導体、である。多糖誘導体としては、例えば、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースが挙げられる。
本発明に係る水溶性増粘剤(A)としては、好ましくはアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースから選ばれる1種以上であり、より好ましくはC1−5アルキルセルロース、ヒドロキシC1−5アルキルセルロース、及びヒドロキシC1−5アルキルC1−5アルキルセルロースから選ばれる1種以上であり、更に好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースから選ばれる1種以上である。
ここで、「C1−5アルキル」とは、炭素原子数1〜5のアルキル基を意味する。
【0014】
本明細書において、スルホナト塩の基とは、−SO・Mで表される基を意味する。ここで、Mはカチオンを表す。以下、前記疎水性置換基を疎水性置換基(P)、前記イオン性親水性置換基をイオン性親水性置換基(Q)、本発明の水溶性増粘剤(A)として好ましい多糖誘導体を、多糖誘導体(A’)と称する。
【0015】
<疎水性置換基>
疎水性置換基(P)は、貧配合コンクリートにおいて良好な材料分離抵抗性やレオロジー(適度な流動性)を得る観点から、炭素原子数8以上、好ましくは12以上、より好ましくは16以上、及び、炭素原子数40以下、好ましくは36以下、より好ましくは24以下の、直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有するアルキルグリセリルエーテル基;
炭素原子数8以上、好ましくは12以上、より好ましくは16以上、及び、炭素原子数40以下、好ましくは36以下、より好ましくは24以下の、直鎖又は分岐鎖のアルケニル基を有するアルケニルグリセリルエーテル基;ヒドロキシ基が置換していてもよく、オキシカルボニル基が挿入されていてもよい、炭素原子数8以上、好ましくは12以上、より好ましくは16以上、及び、炭素原子数40以下、好ましくは36以下、より好ましくは24以下の、直鎖又は分岐鎖のアルキル基;
ヒドロキシ基が置換していてもよく、オキシカルボニル基が挿入されていてもよい、炭素原子数8以上、好ましくは12以上、より好ましくは16以上、及び、炭素原子数40以下、好ましくは36以下、より好ましくは24以下の、直鎖又は分岐鎖のアルケニル基;又はヒドロキシ基が置換していてもよく、オキシカルボニル基が挿入されていてもよい、炭素原子数8以上、好ましくは12以上、より好ましくは16以上、及び、炭素原子数40以下、好ましくは36以下、より好ましくは24以下の、直鎖又は分岐鎖のアシル基、である。製造の容易性、貧配合コンクリートにおいて良好なポンプ圧送性を得る観点から、疎水性置換基(P)は、好ましくはアルキルグリセリルエーテル基、長鎖アルキル基、及び2−ヒドロキシ長鎖アルキル基から選ばれる1種以上であり、より好ましくはアルキルグリセリルエーテル基である。
本明細書において、長鎖とは、炭素原子数が8以上であることを意味する。また、長鎖は、通常炭素原子数が40以下である。
【0016】
本明細書において、アルキルグリセリルエーテル基とは、モノアルキルグリセリルエーテルのヒドロキシ基を1個除いた残余の部分の構造を有する基を意味し、すなわち、2−ヒドロキシ−3−アルコキシプロピル基、2−アルコキシ−1−(ヒドロキシメチル)エチル基である。
また、アルケニルグリセリルエーテル基とは、モノアルケニルグリセリルエーテルのヒドロキシ基を1個除いた残余の部分の構造を有する基を意味し、すなわち、2−ヒドロキシ−3−アルケニルオキシプロピル基、2−アルケニルオキシ−1−(ヒドロキシメチル)エチル基である。
これらの疎水性置換基(P)は、多糖類分子にヒドロキシアルキル基(例、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基)が結合している場合、結合しているヒドロキシアルキル基のヒドロキシ基の水素原子と置換していてもよい。
【0017】
<イオン性親水性置換基>
イオン性親水性置換基(Q)は、水硬性組成物中における耐塩性の観点から、好ましくは、スルホ基及びスルホナト塩の基からなる群から選ばれる一種以上の基を部分構造として有する置換基である。具体的には、水硬性組成物中における耐塩性の観点から、例えば、ヒドロキシ基が置換していてもよい炭素原子数1〜5のスルホアルキル基又はその塩の基が挙げられる。より具体的には、イオン性親水性置換基(Q)として、例えば、2−スルホエチル基、3−スルホプロピル基、3−スルホ−2−ヒドロキシプロピル基、及び2−スルホ−1−(ヒドロキシメチル)エチル基、並びにこれらの基に含まれるスルホ基が塩となっている基が挙げられる。多糖誘導体(A’)は、イオン性親水性置換基(Q)を複数有していてもよい。複数のイオン性親水性置換基(Q)が複数のスルホ基を有する場合、そのすべてがスルホナト塩の基の形態であってもよく、その一部のみがスルホナト塩の基の形態であってもよい。スルホナト塩の基におけるカチオンとしては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属イオン、アミン類などの有機カチオン、アンモニウムイオンなどが挙げられる。
【0018】
<置換度>
多糖誘導体(A’)の炭素原子数1〜5のアルキルオキシ基又は疎水性置換基(P)、及びヒドロキシル基を有する炭素原子数1〜5のアルキルオキシ基又はイオン性親水性置換基(Q)の置換度は、混練水への適度な溶解性やレオロジー(適度な流動性)を得る観点から、炭素原子数1〜5のアルキルオキシ基又は疎水性置換基(P)による置換度が、構成単糖残基1単位あたり0.0001以上が好ましく、0.0005以上がより好ましく、2以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。またヒドロキシル基を有する炭素数1〜5のアルキルオキシ基又はイオン性親水性置換基(Q)による置換度は、構成単糖残基1単位あたり0.001以上が好ましく、0.01以上がより好ましく、3.0以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。
【0019】
<多糖類>
多糖誘導体(A’)の原料となる多糖類としては、例えば、セルロース;スターチ;コンニャクマンナン、トロロアオイ粘着物等の根茎多糖類;アラビアガム、トラガカントガム、カラヤガム等の樹液多糖類;ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム等の種子多糖類;寒天、カラギーナン、アルギン等の海草多糖類;キチン、キトサン、ヘパリン、コンドロイチン硫酸等の動物性多糖類;デキストラン、キサンタンガム等の微生物多糖類が挙げられる。
多糖類のアルキル化誘導体としては、例えば、セルロースのアルキル化誘導体が挙げられ、具体的には、例えば、メチルセルロース、及びエチルセルロースが挙げられる。多糖類のヒドロキシアルキル化誘導体としては、例えば、セルロースのヒドロキシアルキル化誘導体が挙げられ、具体的には、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
【0020】
多糖誘導体(A’)の原料となる多糖類としては、特に、後で詳述する本発明のB成分との相溶性に優れるので、セルロース又はその誘導体が好ましい。なお、本明細書において、セルロース又はその誘導体を原料として製造された水溶性増粘剤(A)を、セルロース系増粘剤という。また、これらの多糖類に置換基(例、メチル基及びエチル基などのアルキル基、ヒドロキシエチル基及びヒドロキシプロピル基などのヒドロキシアルキル基、アルキレンオキシ基)を導入して多糖誘導体(A’)とする場合、多糖誘導体(A’)が有する複数の置換基は、単一種の置換基であってもよいし、複数種の置換基であってもよい。
多糖誘導体(A’)が有する置換基による、構成単糖残基当たりの置換度は、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.5以上であり、及び、好ましくは5以下であり、より好ましくは3以下である。また置換基が(ポリ)アルキレンオキシ基の場合には、置換度、即ちその構成単糖残基当たりの(ポリ)アルキレンオキシ基の付加モル数は、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.5以上であり、及び、好ましくは10以下であり、より好ましくは5以下である。
【0021】
<水溶性増粘剤の分子量>
水溶性増粘剤(A)の重量平均分子量は、水硬性組成物(例、コンクリート)中の水への良好な溶解性と良好なポンプ圧送性を得る観点から、100,000以上が好ましく、200,000以上がより好ましく、500,000以上が更に好ましく、及び、5,000,000以下が好ましく、2,000,000以下がより好ましく、1,000,000以下が更に好ましい。
【0022】
<多糖誘導体の製造>
<置換基の導入>
多糖誘導体(A’)は、例えば、上記多糖類を原料として、公知の方法により製造することができ、また、多糖誘導体として市販品を使用可能である。
多糖誘導体(A’)が、疎水性置換基(P)及びイオン性親水性置換基(Q)を有する場合、多糖誘導体(A’)への疎水性置換基(P)及びイオン性親水性置換基(Q)の導入の順序は特に限定がなく、疎水性置換基(P)の導入をまず行い、次いでイオン性親水性置換基(Q)の導入を行ってもよいし、イオン性親水性置換基(Q)の導入をまず行い、次いで疎水性置換基(P)の導入を行ってもよいし、又は疎水性置換基(P)及びイオン性親水性置換基(Q)の導入を同時に行ってもよい。例えば、多糖誘導体(A’)は、多糖類又は多糖類のアルキル化誘導体若しくはヒドロキシアルキル化誘導体が有する複数のヒドロキシ基の水素原子を部分的に疎水化(疎水性置換基(P)の導入)又は親水化(イオン性親水性置換基(Q)の導入)した後、残りのヒドロキシ基の一部又は全部の水素をそれぞれ親水化又は疎水化することにより得られ、又は疎水化及び親水化を同時に行うことにより得られる。
【0023】
<置換基の導入例>
疎水性置換基(P)及びイオン性親水性置換基(Q)の導入は、例えば次のようにして行うことができる。すなわち、多糖類又は多糖類のアルキル化誘導体若しくはヒドロキシアルキル化誘導体を、アルカリの存在下で、炭素原子数8〜40のアルキル基を有する、アルキルグリシジルエーテル;
炭素原子数8〜40のアルケニル基を有する、アルケニルグリシジルエーテル;
炭素原子数8〜40の、直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素のエポキシド;
炭素原子数8〜40の、直鎖又は分岐鎖の不飽和炭化水素のエポキシド;
炭素原子数8〜40の、直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素のハライド;
炭素原子数8〜40の、直鎖又は分岐鎖の不飽和炭化水素のハライド;
炭素原子数8〜40の、直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素のハロヒドリン;
炭素原子数8〜40の、直鎖又は分岐鎖の不飽和炭化水素のハロヒドリン;
炭素原子数8〜40の、直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素のアシルハライド;
炭素原子数8〜40の、直鎖又は分岐鎖の不飽和炭化水素のアシルハライド;
炭素原子数8〜40のアシル基を有する、エステル;又は
炭素原子数8〜40のアシル基を有する、カルボン酸無水物、と反応させることにより疎水性置換基(P)を導入し、得られた中間反応物を、更にアルカリの存在下で、ビニルスルホン酸;ヒドロキシル基が置換していてもよい炭素原子数1〜5のハロアルカンスルホン酸;又はそれらの塩などと反応させてイオン性親水性置換基(Q)を導入することにより行うことができる。
【0024】
<水溶性増粘剤(A)の含有量>
本発明の水硬性組成物用添加剤における水溶性増粘剤(A)の含有比率は特に限定されないが、水溶性増粘剤(A)は、水硬性組成物用添加剤100重量部に対して、0.1重量部以上が好ましく、0.3重量部以上がより好ましく、0.5重量部以上が更に好ましく、4.0重量部以下が好ましく、3.0重量部以下がより好ましく、2.0重量部以下が更に好ましい。なお、水溶性増粘剤(A)の水硬性組成物用添加剤に対する配合比率は、特に限定されないが、重量比率で、好ましくは0.1/100以上であり、より好ましくは0.3/100以上であり、更に好ましくは0.5/100以上であり、好ましくは4.0/100以下であり、より好ましくは3.0/100以下であり、更に好ましくは2.0/100以下である。通常、このような範囲で配合することにより、上記の好ましい含有比率、より好ましい含有比率、更に好ましい含有比率が実現できる。
【0025】
本発明の水硬性組成物用添加剤は、水溶性増粘剤(A)を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。
【0026】
2.共重合体(B)
本発明の水硬性組成物用添加剤に含まれる共重合体(B)は、下記一般式(1)で表される単量体(I)に由来する構成単位及び下記一般式(2)で表される単量体(II)に由来する構成単位を含む。なお、共重合体(B)に含まれる各構成単位の比率は、通常各構成単位の仕込み比率に一致する。
本発明の水硬性組成物用添加剤は、共重合体(B)を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。
【0027】
(一般式(1)で表される単量体(I))
以下、まず単量体(I)について説明する。
【0028】
単量体(I)は、下記一般式(1)で表される。
【0029】
【化6】
【0030】
(式中、Rは、炭素原子数2〜5のアルケニル基を表す。AOは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜100の数を表す。Rは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【0031】
一般式(1)中のRは、炭素原子数2〜5のアルケニル基を表す。該アルケニル基の炭素原子数は、好ましくは3〜5である。Rとして具体的には、アリル基、メタリル基、3−メチル−3−ブテン−1−オールの残基等を例示することができるが、これらに限定されない。
【0032】
一般式(1)中のAOは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。該オキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)、オキシブチレン基(ブチレングリコール単位)が挙げられ、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)が好ましい。
【0033】
上記「同一若しくは異なって」とは、一般式(1)中にAOが複数含まれる場合(n1が2以上の場合)、それぞれのAOが同一のオキシアルキレン基であってもよいし、異なる(2種類以上の)オキシアルキレン基であってもよいことを意味する。一般式(1)中にAOが複数含まれる場合の態様としては、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)及びオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)からなる群から選ばれる2以上のオキシアルキレン基が混在する態様が挙げられ、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)とが混在する態様、又はオキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)とが混在する態様であることが好ましく、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)とが混在する態様であることがより好ましい。異なるオキシアルキレン基が混在する態様において、2種類以上のオキシアルキレン基の付加は、ブロック状の付加であってもよく、ランダム状の付加であってもよい。
【0034】
一般式(1)中のn1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜100の数を表す。n1は、1〜50であることが好ましく、5〜50であることがより好ましく、8〜50であることが更に好ましい。平均付加モル数とは、単量体1モルに付加しているアルキレングリコール単位のモル数の平均値を意味する。
【0035】
一般式(1)中のRは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。炭素原子数が大きくなると、セメント混和剤のセメント分散性が十分発揮されないおそれがあるため、Rは水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であることが好ましく、水素原子又は炭素原子数1〜5の炭化水素基であることが更に好ましく、水素原子又はメチル基であることが最も好ましい。
【0036】
単量体(I)としては、例えば、(ポリ)エチレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールアリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールメタリルエーテル、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールアリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールメタリルエーテル、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテルが挙げられる。単量体(I)としては、これらのうち1種若しくは2種以上を用いてよいが、共重合体(B)の親水性及び疎水性のバランスを優れたものとし得ることから、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル、及び(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールアリルエーテルから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。前記単量体(I)の具体例においても、オキシアルキレン基(ポリアルキレングリコール単位)の平均付加モル数は1〜50であることが好ましく、5〜50であることがより好ましく、8〜50であることが更に好ましい。なお、本明細書において「(ポリ)」は、その直後に記載される構成要素又は原料が、1個又は2個以上結合していることを意味する。また、本明細書において、「(メタ)アリル」は、「アリル又はメタリル」を意味する。
【0037】
共重合体(B)は、単量体(I)に由来する構成単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上の組み合わせで含んでいてもよい。
単量体(I)は、特に制限されず公知の方法で製造し得る。その様な方法としては、例えば、アリルアルコール、メタリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等の不飽和アルコールにアルキレンオキサイドを1〜100モル付加する方法が挙げられる。
【0038】
(一般式(2)で表される単量体(II))
単量体(II)は、下記一般式(2)で表される。
【0039】
【化7】
【0040】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。mは、0〜2の数を表す。AOは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜100の数を表す。Xは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【0041】
一般式(2)中のR、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。
【0042】
一般式(2)中のAOは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。該オキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)、オキシブチレン基(ブチレングリコール単位)が挙げられ、オキシエチレン基(エチレングリコール)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール)が好ましい。
【0043】
上記「同一若しくは異なって」とは、一般式(2)中にAOが複数含まれる場合(n2が2以上の場合)、それぞれのAOが同一のオキシアルキレン基であってもよいし、異なる(2種類以上の)オキシアルキレン基であってもよいことを意味する。一般式(2)中にAOが複数含まれる場合の態様としては、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)及びオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)からなる群から選ばれる2以上のオキシアルキレン基が混在する態様が挙げられ、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)とが混在する態様、又はオキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシブチレン基(ブチレングリコール単位)とが混在する態様であることが好ましく、オキシエチレン基(エチレングリコール単位)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール単位)とが混在する態様であることがより好ましい。異なるオキシアルキレン基が混在する態様において、2種類以上のオキシアルキレン基の付加は、ブロック状の付加であってもよく、ランダム状の付加であってもよい。
【0044】
一般式(2)中のn2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜100の数を表す。n2は、1〜50であることが好ましく、5〜50であることがより好ましく、8〜50であることが更に好ましい。平均付加モル数とは、単量体1モルに付加しているアルキレングリコール単位のモル数の平均値を意味する。
【0045】
共重合体(B)は、一般式(2)で表される単量体(II)に由来する構成単位を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上の組み合わせで含んでいてもよい。特にオキシアルキレン基の平均付加モル数が異なる2種の単量体(II)を含んでいることが好ましく、オキシアルキレン基の平均付加モル数n2が1である単量体(IIa)及びオキシアルキレン基の平均付加モル数n2が1より大きく100以下である単量体(IIb)、の組み合わせを含むことがより好ましく、当該組み合わせであることが更に好ましい。これにより、本発明の水硬性組成物用添加剤を水硬性組成物(例、セメント組成物)に添加して長時間経過しても水硬性組成物が優れた流動性を有し得る。
【0046】
単量体(IIa)としては、例えば、n2が1でありかつXが水素原子である、式(2)で表される化合物が挙げられ、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられ、n2が1でありかつXが水素原子である、式(2)で表される化合物が好ましく、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0047】
単量体(II)に由来する構成単位が単量体(IIa)に由来する構成単位及び単量体(IIb)に由来する構成単位を含む場合、単量体(IIa)に由来する構成単位の単量体(IIb)に由来する構成単位に対する重量比率((IIa)/(IIb)、但し、単量体(IIa)に由来する構成単位及び単量体(IIb)に由来する構成単位の合計を100重量%とする)は、1/99〜99/1であることが好ましく、3/97〜50/50であることがより好ましく、5/95〜30/70であることが更に好ましい。なお、単量体(IIa)に由来する構成単位の単量体(IIb)に由来する構成単位に対する重量比率は、通常単量体(IIa)の単量体(IIb)に対する仕込み重量比率に一致する。
【0048】
一般式(2)中のXは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。炭素原子数が大きすぎないことで、水硬性組成物用添加剤(分散剤)水硬性組成物の分散性が十分発揮される。したがって、Xは水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であることが好ましく、水素原子又は炭素原子数1〜5の炭化水素基であることが更に好ましく、水素原子又はメチル基であることが最も好ましい。
【0049】
単量体(II)としては、例えば、(メタ)アクリレート(以下、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート又はメタアクリレート」を意味する)等の不飽和モノカルボン酸と、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールなどの(ポリ)アルキレングリコールとのエステル化物が挙げられる。
具体的には、例えば、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール(メタ)アクリレートなどの、(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。単量体(II)としては、これらのうち1種若しくは2種以上を組み合わせて用いてよいが、(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートを用いることが好ましく、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートを用いることがより好ましい。単量体(II)が(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートである場合、単量体(II)において、(ポリ)アルキレングリコールの平均付加モル数は1〜50であることが好ましい。単量体(IIa)が(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートである場合、単量体(IIa)における(ポリ)アルキレングリコールの平均付加モル数は1であり、単量体(IIb)が(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートである場合、単量体(IIb)における(ポリ)アルキレングリコールの平均付加モル数は、1より大きく100以下であることが好ましく、5〜50であることがより好ましく、8〜50であることが更に好ましい。
【0050】
なお単量体(II)は、特に制限されず公知の方法で製造し得る。その様な方法としては、例えば、(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸と、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコール、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)ブチレングリコールなどの、(ポリ)アルキレングリコールとをエステル化する方法が挙げられる。
【0051】
(一般式(3)で表される単量体(III))
共重合体(B)は、更に下記一般式(3)で表される単量体(III)に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0052】
【化8】
【0053】
(式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、−CH、又は−(CHCOOMを表し、−(CHCOOMは、−COOM又は他の−(CH)rCOOMと無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM及びMは存在しない。M及びMは、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、又は置換アルキルアンモニウム基を表す。rは0〜2の整数を示す。)
【0054】
単量体(III)としては、例えば、不飽和モノカルボン酸系単量体及び不飽和ジカルボン酸系単量体が挙げられる。不飽和モノカルボン酸系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸、並びにこれらの塩(例、一価金属塩、アンモニウム塩、及び有機アミンとの塩)が挙げられる。不飽和ジカルボン酸系単量体としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びフマル酸、並びにこれらの塩(例、一価金属塩、アンモニウム塩、及び有機アミンとの塩)、並びにそれらの無水物が挙げられる。
なお、共重合体(B)は、単量体(III)に由来する構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0055】
(一般式(4)で示される単量体(IV))
本発明の水硬性組成物用添加剤に含まれる共重合体(B)は、更に下記一般式(4)で表される単量体(以下、単量体(IV)ともいう。)に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0056】
【化9】
【0057】
(式中、R、R10及びR11は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。R12は、炭素原子数1〜4のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基を表す。sは、0〜2の整数を表す。ただし、一般式(4)で表される単量体(IV)には、一般式(1)〜(3)で表される単量体は含まれない。)
【0058】
好ましくは、R、R10及びR11が、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、より好ましくは、R、R10及びR11が水素原子であり、又はR10がメチル基でありかつR及びR11が水素原子である。
【0059】
12が表す、炭素原子数1〜4のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1〜4のアルキル基及び炭素原子数1〜4のモノヒドロキシアルキル基が挙げられ、より具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、グリセリル基、2−ヒドロキシプロピル基が挙げられる。
12が表す、炭素原子数1〜4のヘテロ原子を含んでよい炭化水素基は、好ましくは、炭素原子数1〜4のモノヒドロキシアルキル基であり、より好ましくは、ヒドロキシプロピル基であり、更に好ましくは、2−ヒドロキシプロピル基である。
【0060】
単量体(IV)としては、例えば、不飽和モノカルボン酸のモノエステルが挙げられる。不飽和モノカルボン酸のモノエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリル(メタ)アクリレートが挙げられる。単量体(IV)は、好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素原子数1〜4のモノヒドロキシアルキルエステルであり、より好ましくは、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートである。
なお、共重合体(B)は、単量体(IV)に由来する構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0061】
(その他の構成単位)
共重合体(B)は、上記の単量体(I)〜(III)、及び単量体(IV)以外の単量体(V)に由来する構成単位を含んでいてもよい。共重合体(B)は、単量体(V)に由来する構成単位として、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。単量体(V)としては、例えば、下記の単量体を挙げることができる。なお、下記例示のうち、単量体(I)〜(III)、及び単量体(IV)に含まれる単量体は、単量体(V)から除かれる。
一般式(V−1):
【0062】
【化10】
【0063】
で示されるジアリルビスフェノール類、例えば4,4’−ジヒドロキシジフェニルプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3及び3’位アリル置換物;
【0064】
一般式(V−2):
【0065】
【化11】
【0066】
で示されるモノアリルビスフェノール類、例えば4,4’−ジヒドロキシジフェニルプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3位アリル置換物;
【0067】
一般式(V−3):
【0068】
【化12】
【0069】
で示されるアリルフェノール;
【0070】
マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアルコールとのハーフエステル、ジエステル類;
上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのハーフアミド、ジアミド類;
上記アルコール又はアミンに、炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコールと、上記不飽和ジカルボン酸類との、ハーフエステル、ジエステル類;
上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数2〜18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフエステル、ジエステル類;
マレアミド酸と炭素原子数2〜18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフアミド類;
炭素原子数1〜30のアルコールに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたアルコキシ(ポリ)アルキレングリコールと(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸類とのエステル類;(ポリ)エチレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)ブチレングリコールモノメタクリレート等の、(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸類への炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドの1〜500モル付加物類;
【0071】
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;
ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類;
トリエチレングリコールジマレート、ポリエチレングリコールジマレート等の(ポリ)アルキレングリコールジマレート類;
ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2−(メタ)アクリロキシエチルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホフェニルエーテル、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシスルホベンゾエート、4−(メタ)アクリロキシブチルスルホネート、(メタ)アクリルアミドメチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、並びに、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩;
メチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのアミド類;
スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン等のビニル芳香族類;
1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;
ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等のジエン類;
【0072】
(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;
(メタ)アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等の不飽和シアン類;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エステル類;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジブチルアミノエチル、ビニルピリジン等の不飽和アミン類;
ジビニルベンゼン等のジビニル芳香族類;トリアリルシアヌレート等のシアヌレート類;
(メタ)アリルアルコール、グリシジル(メタ)アリルエーテル等のアリル類;
メトキシポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、等のビニルエーテルあるいはアリルエーテル類;及び、
ポリジメチルシロキサンプロピルアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサンアミノプロピレンアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサン−ビス−(プロピルアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(ジプロピレンアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン−(1−プロピル−3−アクリレート)、ポリジメチルシロキサン−(1−プロピル−3−メタクリレート)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(1−プロピル−3−アクリレート)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(1−プロピル−3−メタクリレート)等のシロキサン誘導体。
【0073】
共重合体(B)を得るにあたり、必要に応じて、更にその他の単量体を用いてもよい。
【0074】
<共重合体Bの例>
共重合体(B)の例として、下記に示す共重合体b−1及びb−2が挙げられる。共重合体(B)は、好ましくは下記に示す共重合体b−1又は共重合体b−2である。共重合体(B)は、一般式(1)〜(3)で表される単量体に由来する構成単位として、それぞれ1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0075】
(共重合体b−1)
共重合体b−1は、一般式(1)で表される単量体(I)に由来する構成単位、及び一般式(2)で表される単量体(II)に由来する構成単位、一般式(3)で表される単量体(III)を含む。好ましくは、共重合体b−1において、重量比率で、単量体(I)に由来する構成単位/単量体(II)に由来する構成単位/単量体(III)に由来する構成単位が、1〜98/1〜98/1〜50であり、好ましくは、5〜90/5〜90/1〜50であり、より好ましくは5〜50/50〜90/1〜50であり、更に好ましくは5〜20/70〜90/1〜20である。ただし、単量体(I)に由来する構成単位の重量比率、単量体(II)に由来する構成単位の重量比率、及び単量体(III)に由来する構成単位の重量比率の合計を100とする。
【0076】
(共重合体b−2)
共重合体b−2は、一般式(1)で表される単量体(I)、一般式(2)で表される単量体(II)、一般式(3)で表される単量体(III)、及び一般式(4)で表される単量体(IV)を含む。好ましくは、共重合体b−2において、重量比率で、単量体(I)に由来する構成単位/単量体(II)に由来する構成単位/(単量体(III)に由来する構成単位+単量体(IV)に由来する構成単位)が1〜98/1〜98/1〜50であり、より好ましくは、5〜90/5〜90/1〜50であり、より好ましくは5〜50/50〜90/1〜50であり、更に好ましくは5〜20/70〜90/1〜20である。ただし、単量体(I)に由来する構成単位の重量比率、単量体(II)に由来する構成単位の重量比率、単量体(III)に由来する構成単位の重量比率、及び単量体(IV)に由来する構成単位の重量比率の合計を100とする。
【0077】
なお共重合体b−1及び共重合体b−2は更に、単量体(V)に由来する構成単位を含むことができるが、共重合体(B)における単量体(V)に由来する構成単位の重量比率は0〜50であることが好ましい。ただし、単量体(I)に由来する構成単位の重量比率、単量体(II)に由来する構成単位の重量比率、単量体(III)に由来する構成単位の重量比率、単量体(IV)に由来する構成単位の重量比率、及び単量体(V)に由来する構成単位の重量比率の合計を100とする。
【0078】
<共重合体(B)の製造方法>
本発明における共重合体(B)は、それぞれの所定の単量体を、公知の方法によって共重合させて製造することができる。該方法としては、例えば、溶媒中での重合、塊状重合などの重合方法が挙げられる。
【0079】
(反応溶媒)
溶媒中での重合において使用される溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの脂環式又は脂肪族炭化水素;酢酸エチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などが挙げられる。原料単量体及び得られる共重合体の溶解性の面から、水及び低級アルコールからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、その中でも水を用いることがより好ましい。
溶媒中で共重合を行う場合は、各単量体と重合開始剤とを各々反応容器に連続滴下してもよいし、各単量体の混合物と重合開始剤とを各々反応容器に連続滴下してもよい。また、反応容器に溶媒を仕込み、単量体及び溶媒の混合物と、重合開始剤溶液とを各々反応容器に連続滴下してもよいし、単量体の一部又は全部を反応容器に仕込み、重合開始剤を連続滴下してもよい。
【0080】
(開始剤)
共重合に使用し得る重合開始剤として、特に限定はないが、水溶媒中で共重合を行う際には、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩;t−ブチルハイドロパーオキサイドなどの水溶性有機過酸化物が挙げられる。この際、亜硫酸水素ナトリウム、モール塩などの促進剤を併用してもよい。また、低級アルコール、芳香族炭化水素、脂環式又は脂肪族炭化水素、エステル類あるいはケトン類等の溶媒中で共重合を行う際には、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイドなどのパーオキサイド;クメンパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド;アゾビスイソブチロニトリルなどの芳香族アゾ化合物などが重合開始剤として使用できる。この際、アミン化合物などの促進剤を併用してもよい。更に、水−低級アルコール混合溶剤中で共重合を行う場合には、例えば、前述の重合開始剤又は重合開始剤と促進剤との組合せの中から適宜選択して使用することができる。重合温度は、用いる溶媒、重合開始剤の種類等重合条件によって適宜異なるが、通常50〜120℃の範囲で行われる。
【0081】
(連鎖移動剤)
また、共重合においては、必要に応じて連鎖移動剤を用いて分子量を調整してもよい。使用される連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、及び、2−メルカプトエタンスルホン酸などの既知のチオール系化合物;亜リン酸、次亜リン酸、及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム等)の低級酸化物及びその塩;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。更に、共重合体(B)の分子量調整のためには、共重合体(B)を得るための単量体として、上記単量体(I)〜(IV)以外に、更に連鎖移動性の高い単量体(V)を用いてもよい。連鎖移動性の高い単量体(V)としては、例えば(メタ)アリルスルホン酸(塩)系単量体が挙げられる。単量体(V)の配合率は、共重合体(B)において、通常は20重量%以下であり、10重量%以下であることが好ましい。なお、上記配合率は、単量体(I)の配合率+単量体(II)の配合率+単量体(III)の配合率+単量体(IV)の配合率=100重量%としたときの配合率である。
【0082】
(中和)
共重合体を得る際に水溶媒中で共重合する場合、重合時のpHは通常不飽和結合を有する単量体の影響で強酸性となるが、これを適当なpHに調整してもよい。重合の際にpHの調整が必要な場合は、リン酸、硫酸、硝酸、アルキルリン酸、アルキル硫酸、アルキルスルホン酸、(アルキル)ベンゼンスルホン酸などの酸性物質を用いてpHの調整を行うことができる。これら酸性物質の中では、pH緩衝作用がある点等から、リン酸を用いることが好ましい。しかし、エステル系の単量体が有するエステル結合の不安定さを解消するためには、pH2〜7で重合を行うことが好ましい。また、pHの調整に用い得るアルカリ性物質に特に限定はないが、NaOH、Ca(OH)などのアルカリ性物質が一般的である。pH調整は、重合前の単量体を含む溶液に対して行ってもよいし、重合後の共重合体を含む溶液に対して行ってもよい。また、これらは重合前に一部のアルカリ性物質を添加して重合を行った後、更に共重合体を含む溶液に対してpH調整を行ってもよい。
【0083】
(分子量)
共重合体(B)の重量平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、6,000以上であることがより好ましく、6,500以上であることが更に好ましい。これにより、水硬性組成物用添加剤の水硬性材料の分散性が十分発揮され、リグニンスルホン酸系又はオキシカルボン酸系などのAE減水剤を上回る減水率を得ることができ、流動性及び/又は作業性が改善され、セメント添加剤(セメント分散剤)としての目的の効果を十分に発現することができる。重量平均分子量の上限は、60,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることが更に好ましい。これにより、セメント粒子の凝集作用が抑制され、作業性を良好にすることができる。重量平均分子量は、5,000〜60,000であることが好ましい。
共重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)は、1.0以上であることが好ましく、1.20以上であることがより好ましい。上限は、3.0以下であることが好ましく、2.50以下であることがより好ましい。分子量分布は、1.0〜3.0の範囲であることが好ましく、1.2〜3.0の範囲であることがより好ましい。
【0084】
なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてポリエチレングリコール換算する公知の方法にて測定できる。
GPCの測定条件として特に限定はないが、例として以下の条件を挙げることができる。後段の実施例における重量平均分子量は、この条件で測定した値である。
【0085】
測定装置:東ソー製
使用カラム:Shodex Column OH−pak SB−806HQ、SB−804HQ、SB−802.5HQ
溶離液:0.05mM硝酸ナトリウム/アセトニトリル 8/2(v/v)
標準物質:ポリエチレングリコール(東ソー製、GLサイエンス製)
検出器:示差屈折計(東ソー製)
検量線:ポリエチレングリコール基準
【0086】
<A成分及びB成分の含有量>
本発明の水硬性組成物用添加剤中の(A)成分及び(B)成分の含有量は、特に限定されない。水硬性組成物用添加剤が後述する水溶液の形態である場合は、水硬性組成物用添加剤中の(A)成分の含有量は、好ましくは、水硬性組成物用添加剤に対して、0.1重量%〜1.5重量%である。また、水硬性組成物用添加剤中の(B)成分の含有量は、好ましくは、水硬性組成物用添加剤に対して、4.5重量%〜20重量%である。
【0087】
<A成分のB成分に対する重量比率>
本発明の水硬性組成物用添加剤における水溶性増粘剤(A)の共重合体(B)に対する重量比率((A)/(B))は、0.01/99.99〜25/75であり、好ましくは、0.02/99.98以上であり、より好ましくは1/99以上であり、更に好ましくは5/95以上であり、好ましくは20/80以下である。重量比率((A)/(B))は、好ましくは0.01/99.99〜20/80であり、より好ましくは1/99〜20/80である。
【0088】
<A成分及びB成分の含有形態>
本発明の水硬性組成物用添加剤において、(A)及び(B)成分の含有形態に制限はなく、(A)及び(B)成分をそのまま含んでいてもよいし、(A)及び(B)成分のそれぞれを又は両者を、溶媒に溶解させた溶液、分散させた分散液、懸濁させた懸濁液として配合されていてもよい。
【0089】
本発明の水硬性組成物用添加剤は、(A)及び(B)成分を水に溶解させた、(A)及び(B)成分を含む水溶液の形態とすることができる。
【0090】
<他の成分>
本発明の水硬性組成物用添加剤は、必要に応じて更に他の成分を有していてもよい。他の成分としては、例えば、下記一般式(5)で表される単量体(C)、両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリアルキレングリコール(D)が挙げられる。
【0091】
(一般式(5)で表される単量体(C))
単量体(C)は、下記一般式(5)で表される。
【0092】
【化13】
【0093】
(式中、R1cは、炭素原子数2〜5のアルケニル基を表す。A1cOは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。n1cは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜100の数を表す。R2cは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【0094】
1c、A1cO、n1c、及びR2cの具体例及び好ましい例については、それぞれ、前記一般式(1)で表される単量体(I)において説明したR、AO、n1、及びRの具体例及び好ましい例と同様である。
本発明の水硬性組成物用添加剤は、好ましくは単量体(C)を含む。これにより、適度な自由水を増加させるなど、水硬性組成物(例、セメント組成物)の状態を改善させ、ワーカビリティを向上させることができる。
【0095】
本発明の水硬性組成物用添加剤における単量体(C)の含有割合は、共重合体(B)に対して、好ましくは30重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下である。30重量%以下であると、水硬性材料(例、セメント)を充分に分散させ得る。また、単量体(C)の含有割合の下限は、共重合体(B)に対して、通常は0.1重量%以上である。これにより、十分なワーカビリティの向上効果が得られる。
【0096】
単量体(C)の具体例及び好ましい例は、前記一般式(1)で表される単量体(I)の具体例及び好ましい例と同様である。単量体(C)は、前記単量体(I)と同一であってもよいし、異なっていてもよい。更に、本発明の水硬性組成物用添加剤に、単量体(C)が、1種のみ含まれていてもよいし、2種以上の組み合わせで含まれていてもよい。
【0097】
単量体(C)は、共重合体(B)とは別個に配合してもよい。あるいは、別個に配合はせずに例えば下記のようにして製造される、共重合体(B)の製造時において共重合されなかった残留物として存在していてもよい。共重合体(B)を製造する際に、原料として用いる単量体(I)が、共重合体(B)に対して残留している時点で重合反応を停止することによって、単量体(C)と共重合体(B)とを含有する組成物を得ることができる。前記重合反応を停止する時点は、単量体(C)の、共重合体(B)に対する配合率に応じて定めることができる。すなわち、単量体(C)の、共重合体(B)に対する残留量が、好ましくは30重量%以下、より好ましくは10重量%以下の時点で、重合反応を停止する。また、前記残留量の下限が通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上の時点で、重合反応を停止する。
【0098】
(水溶性ポリアルキレングリコール(D))
本発明の水硬性組成物用添加剤は、上述したように、両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリアルキレングリコール(D)を更に含んでいてもよい。両末端基がヒドロキシ基である、とは、主鎖の末端がヒドロキシ基であること、すなわち主鎖の末端のヒドロキシ基の水素原子が、他の基で置換されていないことを意味する。水溶性とは、任意の割合で水に可溶なことを意味する。本発明の水硬性組成物用添加剤が水溶性ポリアルキレングリコール(D)を含む場合、水溶性ポリアルキレングリコール(D)の含有割合は、共重合体(B)に対して通常は0.01〜10重量%である。両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリアルキレングリコール(D)は、共重合体(B)とは別個に配合してもよい。又は、共重合体(B)の原料である単量体(I)の製造時に、副生成物として、両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリアルキレングリコールを生じることがあるので、これを使用してもよい。両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリアルキレングリコール(D)の重量平均分子量は、300〜5,000であることが好ましい。
【0099】
両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリアルキレングリコール(D)として具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリブチレングリコール等が挙げられ、ポリエチレングリコール及びポリエチレンポリプロピレングリコールから選ばれる1種以上が好ましい。本発明の水硬性組成物用添加剤は、両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリアルキレングリコール(D)を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上の組み合わせて含んでいてもよい。
【0100】
本発明の水硬性組成物用添加剤が(C)及び/又は(D)成分を含む場合において、上記(C)及び(D)成分の含有形態に制限はなく、(C)及び(D)成分をそのまま含んでいてもよいし、(C)及び(D)成分のそれぞれを又は両者を、溶媒に溶解させた溶液、分散させた分散液、懸濁させた懸濁液として配合されていてもよい。
【0101】
<水硬性組成物用添加剤の使用形態及び使用用途>
本発明の水硬性組成物用添加剤は、通常水溶液の形態で用いることが好ましいが、乾燥させて粉体化した形態で使用することも可能である。なお、水硬性組成物用添加剤を、水硬性組成物に含有させる時期に特に限定はなく、例えば、水硬性組成物の使用時であってもよい。また、セメント粉末、ドライモルタルのような、セメント組成物を構成する水以外の成分に、粉体化した形態の本発明の水硬性組成物用添加剤を予め混合しておいて、左官、床仕上げ、グラウト等の際に水を添加して用いるプレミックス製品として用いることもできる。
【0102】
本発明の水硬性組成物用添加剤は、セメント等の水硬性材料に添加してセメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスター、グラウト等の水硬性組成物(例、セメント組成物)として利用することができる。本発明の水硬性組成物用添加剤は、水硬性組成物に、材料分離抵抗性及び適度な流動性を付与することができ、また、水硬性組成物の初期流動性を調整できる。したがって、本発明の水硬性組成物用添加剤は、特に、中流動性コンクリート、高流動性コンクリート、水中不分離性コンクリートに好適に使用することができ、また、空洞、空隙、隙間などを埋めるために注入する流動性の液体(グラウト、注入グラウト)の添加剤、あるいは普通コンクリートにおいてもコンクリートの状態改善用添加剤として好適に使用することができる。
【0103】
<水硬性組成物用添加剤を含む水硬性組成物>
本発明の水硬性組成物(例、セメント組成物)は、水硬性組成物用添加剤を含有すればよく、組み合わせる水硬性材料は特に限定されない。水硬性材料としては、例えば、セメント、石膏(半水石膏、二水石膏など)、ドロマイトが例示される。最も一般的な水硬性材料はセメントである。
【0104】
セメントとしては、特に限定はない。例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)等が挙げられる。セメントには、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体、石膏などが添加されていてもよい。
【0105】
また、セメント組成物は骨材を含んでいてもよい。骨材は、細骨材及び粗骨材のいずれであってもよい。骨材としては、例えば、砂、砂利、砕石;水砕スラグ;再生骨材等;珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が挙げられる。
【0106】
上記水硬性組成物(例、セメント組成物)における水硬性組成物用添加剤の配合割合については、特に限定はなく、例えば、目標とされる水硬性組成物(例、セメント組成物、コンクリート)のレオロジー(流動性)を実現できる量を配合してよい。例えば、水硬性組成物(セメント組成物)が、モルタル又はコンクリートである場合には、本発明の水硬性組成物用添加剤の添加量(配合量)は、セメントの全重量に対して、好ましくは0.01〜5.0重量%、より好ましくは0.02〜2.0重量%、更に好ましくは0.05〜1.0重量%である。この添加量とすることにより、得られるセメント組成物には、セメント組成物に材料分離抵抗性やレオロジー性、流動性、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上等の各種の好ましい諸効果が充分にもたらされる。上記配合割合が0.01重量%未満では、得られるセメント組成物が性能的に充分とはならないおそれがあり、逆に5.0重量%を超える多量を使用しても、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。
【0107】
上記のセメント組成物は、例えば、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等のコンクリートとして有効である。更に、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタル又はコンクリート、としても有効である。
【0108】
本発明の水硬性組成物用添加剤は、そのまま水硬性材料(例、セメント)の分散剤又はAE減水剤としても使用できる。特に、本発明の水硬性組成物用添加剤は、泡立ちが少ないために、消泡剤を併用しなくてもよい。しかし、本発明の水硬性組成物用添加剤は、消泡剤等の他の任意成分と併用してもよい。例えば、本発明の水硬性組成物用添加剤は、更に他の水硬性組成物用分散剤、水溶性高分子、高分子エマルジョン、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、効果促進剤、消泡剤、AE剤、その他の界面活性剤などの公知のコンクリート用添加剤と併用してもよい。他の添加剤は単独で使用してもよく、2種以上を用いてもよい。公知のコンクリート用添加剤として、例えば、カルボキシル基及び/又はその塩含有化合物(CA剤)、スルホン酸基及び/又はその塩含有化合物(SA剤)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
カルボキシル基及び/又はその塩含有化合物(CA剤)(例、ポリアクリル酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム)。これらの化合物のうち1種又は2種以上を用いてよい。
【0110】
スルホン酸基及び/又はその塩含有化合物(SA剤)(例、リグニンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸)。これらの化合物のうち1種又は2種以上を用いてよい。
【0111】
本発明の水硬性組成物用添加剤と上記(CA剤)及び/又は(SA剤)の添加剤を併用する場合、その比率は特に限定されない。例えば、2成分を併用する場合の重量比率は、本発明の水硬性組成物用添加剤/((CA剤)又は(SA剤))=0.1重量%/99.9重量%〜99.9重量%/0.1重量%であり、3成分を併用する場合の重量比率は、本発明の水硬性組成物用添加剤/((CA剤)+(SA剤))=0.1重量%/99.9重量%〜99.9重量%/0.1重量%である。
【実施例】
【0112】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定される
ものではない。例中特に断りのない限り、部は重量部を、%は重量%を示す。
【0113】
<A成分>
実施例及び比較例において、A成分として、下記の水溶性増粘剤(A−1)〜(A−2
)を使用した。
(A−1)ヒドロキシプロピルメチルセルロース(三晶社製、NEOVISCO MC、分子量75万)
(A−2)ヒドロキシエチルセルロース(三晶社製、SANHEC、分子量60万)
【0114】
<B成分>
実施例及び比較例において、B成分として、下記の共重合体(B−1)〜(B−5)を使用した。
【0115】
<製造例1>
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に水157部、及び、3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキサイド付加物(ポリエチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル:エチレンオキサイドの平均付加モル数25)111部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。その後、アクリル酸8部、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数13)63部、2−ヒドロキシエチルアクリレート30部、アスコルビン酸5部、水165部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム3部及び水47部の混合液とを、各々2時間で、80℃に保持した反応容器に連続滴下した。更に、温度を80℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。各単量体重量比率は、単量体I:II:III:IV:V=52:44:4:0:0であった。該共重合体に対する、ポリエチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテルの含有量は25重量%であり、両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリエチレングリコールの含有量は0.7重量%であった。この液を30%NaOH水溶液でpH7に調整した。液中の共重合体は、共重合体(B−1)(重量平均分子量28,000、Mw/Mn1.9)であった。
【0116】
<製造例2>
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に水129部、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数35)52部を仕込み、攪拌下で反応容器を80℃に昇温した。その後、メタクリル酸5部、アクリル酸3部、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数13)155部、2−ヒドロキシエチルアクリレート21部、メチルメタアクリレート8部、3−メルカプトプロピオン酸2部、水24部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム1部及び水50部の混合液とを、各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。更に、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。各単量体重量比率は、単量体I:II:III:IV:V=21:72:3.5:3.5:0であった。該共重合体に対する、ポリエチレングリコールモノアリルエーテルの含有量は20重量%であり、両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリエチレングリコールの含有量は0.5重量%であった。この液を31%NaOH水溶液でpH4に調整した。液中の共重合体は共重合体(B−2)(重量平均分子量15,000、Mw/Mn1.8)であった。
【0117】
<製造例3>
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に水135部、及び、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数33、プロピレンオキサイドの平均付加モル数2、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム付加)21部、2−ヒドロキシプロピルアクリレート3部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。その後、メタクリル酸11部、アクリル酸1部、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数25)73部、2−ヒドロキシプロピルアクリレート89部、3−メルカプトプロピオン酸4部、水36部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム3部及び水47部の混合液とを、各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。更に、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。各単量体重量比率は、単量体I:II:III:IV:V=11:36:6:47:0であった。該共重合体に対する、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノアリルエーテルの含有量は15重量%であり、両末端基がヒドロキシ基である水溶性ポリエチレングリコールの含有量は1.0重量%であった。この液を31%NaOH水溶液でpH6に調整した。液中の共重合体は共重合体(B−3)(重量平均分子量11,100、Mw/Mn1.5)であった。
【0118】
<製造例4>
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管及び滴下装置を備えたガラス反応容器に水132部、及び、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数52個)120部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で100℃に昇温し。その後、アクリル酸27部、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数25個)51部、3−メルカプトプロピオン酸2部、水103部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム2部及び水48部の混合液とを、各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。更に、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合体の水溶液を得た。各単量体重量比率は、単量体I:II:III:IV:V=61:25:14:0:0であった。該共重合体に対する、ポリエチレングリコールモノアリルエーテルの含有量は8重量%であり、両末端基が水素原子である水溶性ポリエチレングリコールの含有量は0.5重量%であった。この液を31%NaOH水溶液でpH7に調整した。液中の共重合体は共重合体(B−4)(重量平均分子量65,700、Mw/Mn2.3)であった。
【0119】
比較例において、B成分として、下記リグニンスルホン酸変性物(B−5)を使用した。
(B−5)リグニンスルホン酸変性物(日本製紙社製、サンフローRH)
【0120】
<実施例1〜5及び比較例1〜3>
A成分:A−1、A−2と、B成分:B−1、B−2、B−3、B−4、及びB−5とを、表1に示す組み合わせで配合して、セメント添加剤(水硬性組成物用添加剤)を調製した。得られたセメント添加剤について、下記の相溶性試験、泡立ちの評価、及び粘度測定を行った。
【0121】
<相溶性試験>
水溶性増粘剤(A成分)と、共重合体(B成分)との相溶性について、以下の手順に従い試験した。
実施例1〜5及び比較例1〜3のセメント添加剤を、調製(混練)してから1ヶ月間、20℃及び40℃にて保管し、セメント添加剤の分離の程度を評価した。評価基準は、下記のとおりである。濁りが少ないほど、分離が少なく、成分間の相溶性が優れていることを示す。相溶性試験の結果を表3に示す。
◎:濁りはほとんどない。
○:若干濁りがみられるが、使用に問題は無い。
△:濁りがあるが、使用に問題は無い。
×:非常に濁っている。
【0122】
<泡立ちの評価>
実施例1〜5及び比較例1〜3のセメント添加剤を、スターラーバーを入れたバイアル瓶(容積50ml)に10ml添加し、マグネティックスターラ―(東京理科器械社製)300rpmで1分間撹拌した後、液面上の泡立ちを目視にて評価した。泡立ちの評価結果を表2に示す。
◎:泡立ちが非常に少ない。
○:泡立ちが少ない。
△:泡立ちがみられるが、実用上問題がない。
×:泡立ちが多い
【0123】
<粘度測定>
実施例1〜5及び比較例1〜3のセメント添加剤の粘度測定も行った。粘度測定はB型粘度計を用いて、20℃、60rpmで測定を行った。結果を表3に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
【0127】
<コンクリート試験>
実施例1〜5及び比較例1〜3のセメント添加剤を添加したコンクリート(セメント組成物、水硬性組成物)を下記手順により調製し、得られたコンクリートについて、スランプ試験、空気量測定、粘性評価、及びブリーディング評価を行った。
【0128】
環境温度(20℃)において、表4のように配合した粗骨材、細骨材、セメント、及び水並びに表1に示すセメント添加剤を強制二軸ミキサに投入して、強制二軸ミキサによる機械練りにより90秒間練混ぜた。セメント添加剤は水と混合して強制二軸ミキサに投入した。その後、コンクリートが強制二軸ミキサから排出された直後に、フレッシュコンクリート試験(スランプ試験JIS A1101(フレッシュコンクリートの広がりをフロー値として測定)、空気量JIS A1128、コンクリート粘性評価)を行った。コンクリートの粘性については評価者5名による官能評価で、以下の基準により評価した。試験結果を表5に示す。
【0129】
<粘性の評価基準>
◎:スコップでコンクリートを切り返した際のハンドリングが非常に良好で、スコップ
からのコンクリートの離れが非常に良好。
○:スコップでコンクリートを切り返した際のハンドリングが良好で、スコップからの
コンクリートの離れが良好。
△:スコップでコンクリートを切り返した際のハンドリングに若干劣り、スコップからのコンクリートの離れに劣るが、実用の範囲内である。
×:スコップでコンクリートを切り返した際のハンドリングが悪く、スコップからのコ
ンクリートの離れが悪い。
【0130】
<ブリーディング評価>
JIS A1123に定める方法にて評価を行った。ブリーディング量が少ないほど、
コンクリートが材料分離抵抗性を有することを示す。結果を表5に示す。
【0131】
【表4】
【0132】
C:下記セメント3種の等重量混合物
普通ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製、比重3.16)
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製、比重3.16)
普通ポルトランドセメント(株式会社トクヤマ製、比重3.16)
W:水道水
S1:掛川産山砂(細骨材、比重2.57)
S2:岩瀬産砕砂(細骨材、比重2.61)
G:青梅産砕石(粗骨材、比重2.65)
セメント添加剤(固形分換算) 表5参照
【0133】
【表5】
【0134】
表5中、セメント添加剤の「添加率」は、セメントに対する添加剤の有姿添加率を示す。また、SLFはスランプフローをそれぞれ示す。
【0135】
表2及び表3に示す結果から明らかなように、実施例1〜5のセメント添加剤は、泡立ちが実用に問題ない程度であり、また良好な相溶性を示しており、セメント添加剤の性状に問題はなかった。特に、実施例1〜4のセメント添加剤は、濁りが少なく、水溶性増粘剤及び共重合体の相溶性が良好であり、泡立ちが少ない。また、表5に示す結果から明らかなように、実施例1〜5のセメント添加剤を用いたコンクリートは、比較例1〜3と比較して少ないセメント添加剤の添加率であっても、良好なブリーディング量を示している。特に、実施例1〜4のセメント添加剤を用いたコンクリートにおいて、持続的に所定の流動性を得ることができ、比較例1〜3のセメント添加剤を用いたコンクリートに比べてブリーディング量を低減することができた。以上の結果は、本発明の水硬性組成物用添加剤が、含まれる成分の相溶性に優れ、かつ水硬性組成物にレオロジー性(適度な流動性)と、材料分離抵抗性とを付与し得ることを示す。