特許第6781605号(P6781605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6781605溶融塩電解槽およびそれを用いた金属マグネシウムの製造方法並びにスポンジチタンの製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781605
(24)【登録日】2020年10月20日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】溶融塩電解槽およびそれを用いた金属マグネシウムの製造方法並びにスポンジチタンの製造方法。
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/02 20060101AFI20201026BHJP
   C25C 7/00 20060101ALI20201026BHJP
   C25C 3/04 20060101ALI20201026BHJP
   C25C 3/28 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   C25C7/02 308Z
   C25C7/00 302B
   C25C3/04
   C25C3/28
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-210235(P2016-210235)
(22)【出願日】2016年10月27日
(65)【公開番号】特開2018-70924(P2018-70924A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 健人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】堀川 松秀
(72)【発明者】
【氏名】秋元 文二
(72)【発明者】
【氏名】持木 靖貴
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−028570(JP,A)
【文献】 特開2014−084529(JP,A)
【文献】 特開昭56−156785(JP,A)
【文献】 特公昭43−009973(JP,B1)
【文献】 特公昭49−026402(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00 − 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解室とメタル回収室とからなり、電解室内の電解セル単位中に細孔容積が0.12mL/g以下のグラファイトで構成された複極を少なくとも1つ有することを特徴とする、塩化マグネシウムの電解用の溶融塩電解槽であって、
前記複極の厚さが1〜10cmである、前記溶融塩電解槽
【請求項2】
請求項1に記載の溶融塩電解槽を用いて、溶融塩化マグネシウムを電解して金属マグネシウムを製造することを特徴とする金属マグネシウムの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法で得られた金属マグネシウムを用いて、四塩化チタンを還元してスポンジチタンを製造することを特徴とするスポンジチタンの製造方法。
【請求項4】
細孔容積が0.12mL/g以下のグラファイトで構成された溶融塩電解槽用の複極であって、
前記複極の厚さは1〜10cmであり、そして、
前記溶融塩電解槽は、塩化マグネシウムの電解のために用いられる、前記複極
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩化マグネシウム電解槽に関し、アノードとカソードのあいだに少なくとも1つの複極を装入した電解槽、およびそれを用いた金属マグネシウムの製造方法並びにスポンジチタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融塩電解槽、特に、溶融塩化マグネシウムから金属マグネシウムを製造する溶融塩電解槽は、クロール法によるスポンジチタンの製造において、還元剤として用いられる金属マグネシウムを再生するために使用されている。すなわち、クロール法によるスポンジチタンは、チタン鉱石を塩素化して四塩化チタンとし、この四塩化チタンをマグネシウムで還元することにより製造されるが、この還元反応で副生される塩化マグネシウムは溶融塩電解により、金属マグネシウムに再生され、還元剤として再利用される。
この種の溶融塩電解槽は、電解室中に、アノード(陽極)とカソード(陰極)の他に、アノードとカソード間に複極を配置することによって、複極の両面においても電気分解が起こるため、電気分解回数が増加し、生産性が向上するため、広く使用されている。そして、この種の溶融塩電解槽を構成する複極材には、グラファイトが用いられる(例えば特許文献1)。
さらに電流効率を向上させるためにリーク電流を防ぐ方法が求められており、外部挿入アノード、カソードの下部または複極の下部に絶縁ブロックを配置することで電極の下から迂回するリーク電流を防ぐ技術(特許文献2、特許文献3)や、中心のアノードを取り囲むように複極およびカソードを円筒形あるいは角筒形で配置した多重電極構造をとることでリーク電流を防ぐ技術(特許文献4、特許文献5)、溶融塩電解槽内の溶融塩浴面レベル制御することで電極上部からの迂回するリーク電流を防ぐ技術(特許文献6)等が挙げられる。
しかしながら、これらの従来技術によればリーク電流をある程度防ぐことができるが、依然として電流効率は低く、リーク電流の更なる低減が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−149301号公報
【特許文献2】昭59−6389号公報
【特許文献3】特開昭59−107090号公報
【特許文献4】特開平11−503794号公報
【特許文献5】米国特許公開2013/0032487号
【特許文献6】特開2002−317293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの従来技術は、いずれも、複極を迂回してアノードからカソードへ直接流れてしまう電流(以下、「迂回電流」と呼ぶ。)を低減することを課題とする発明であった。そこで、本発明者らは、電解槽内のリーク電流をさらに低減させるために、電流効率を低下させる要因として上記迂回電流以外の要因を探求する必要があると考え鋭意検討した結果、本発明の構成に想い到った。
すなわち、本発明は、電流効率を低減させるリーク電流には迂回電流とは別の種類のものがあり、この電流の発生を抑えることで溶融塩電解における電流効率をさらに向上させることに成功したものである。
本発明による新たな知見によれば、このリーク電流は、アノード側からカソード側へ電流が流れる際に複極で電気分解せずに複極内の貫通孔を通過し、直接アノードからカソードに流れてしまう電流である。以下では、このリーク電流を貫通イオン電流と呼ぶことにする。
本発明は、この貫通イオン電流を低減して効率を向上させるという、従来技術にはなかった新たな課題を解決することを目的とするものである。具体的には、複極を用いる溶融塩電解槽において、グラファイト製の複極内の貫通孔を通り、アノードからカソードへ複極部にて電気分解に寄与せず流れてしまう貫通イオン電流を防ぎ、槽効率をさらに向上させることができる溶融塩電解槽および金属マグネシウムの製造方法並びにそれを用いたスポンジチタンを製造する方法を提供することにある。
なお、グラファイトのように貫通孔を持つ材質を複極として使用する場合、複極の厚さをより厚くすることで、貫通イオン電流を低減させることは可能ではあるが、複極を厚くすると電解槽の単位体積当たりの生産性が下がる問題がある。そのため、複極の厚さを厚くすること以外でこの貫通イオン電流を防ぐことが必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段として、本発明が採用した手段は次の通りである。
[1]電解室とメタル回収室とからなり、電解室内の電解セル単位中に細孔容積が0.12mL/g以下のグラファイトで構成された複極を少なくとも1つ有することを特徴とする溶融塩電解槽 。
[2]請求項1に記載の溶融塩電解槽を用いて、溶融塩化マグネシウムを電解して金属マグネシウムを製造することを特徴とする金属マグネシウムの製造方法。
[3]請求項2に記載の方法で得られた金属マグネシウムを用いて、四塩化チタンを還元してスポンジチタンを製造することを特徴とするスポンジチタンの製造方法。
[4]細孔容積が0.12mL/g以下のグラファイトで構成された溶融塩電解槽用の複極。
【発明の効果】
【0006】
本発明の溶融塩電解槽は、貫通イオン電流が少なくなるグラファイト材を複極として使用することで、槽効率が向上し、金属マグネシウム延いてはスポンジチタンの生産コストを低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】貫通イオン電流量の測定に使用した電解装置の横断面
図2】電圧を経時的に減らした電解装置(アノード−カソード間の複極装入数:1枚)における電流−電圧曲線図
図3】電圧を経時的に減らした電解槽(アノード−カソード間の複極装入数:2枚)における電流−電圧曲線図
図4】本発明の溶融塩電解槽の一実施形態の垂直断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
≪少なくとも1つの複極を持つ電解槽の構造≫
本発明における溶融塩電解槽は、少なくとも1つの複極が装入されている。複極を装入することで、電気分解の回数を増やすことができ、生産性を向上することができる。装入する複極は、2つ以上が好ましく、3つ以上がより好ましい。複極厚さは、電解槽の大きさと強度との兼ね合いから、1〜10cmとすることが好ましく、1〜7cmがより好ましく、さらに好ましくは1〜5cmである。複極の厚さを薄くすることで電解槽の容積を小型化することができ、そのため、材料費を抑えることができる。
本発明における溶融塩電解槽は、電解室には2以上の電解セル単位が設けられている。電解セル単位は、中央近傍に角柱形あるいは円柱形のアノードを配置し、このアノードを囲うように、角筒形あるいは円筒形の少なくとも1つの複極およびカソードが配置されるものが好ましい。なお、電解セル単位は、中央近傍に配置された角柱形のアノードの水平面を除く任意の面に対し、平行に角柱形あるいは円柱形のカソードを配置し、そのアノードとカソードのあいだに少なくとも1つの角柱形あるいは円柱形の複極を平行に配置したものを使用しても良い。本発明の電極は、水平断面形状が、正方形、長方形、または多角形で、三次元形状では、陽極においては、立方体、直方体または多角柱、複極および陰極においては、これらの筒状のものである。水平断面形状が正方形、長方形のものが、組み立てが容易で、加工コストが少なく済むため、好ましく、長方形のものが、電流効率が高く、電解面積を大きくすることができ、より好ましい。
なお、これらの電極は角部に面取り部を設けても良い。
【0009】
また、本発明における溶融塩電解槽で使用する陽極は、材質として、グラファイトが好ましい。陰極の材質は、鉄やグラファイトが好ましく、鉄がより好ましい。また、陰極の厚さは、3〜10cmとすることが好ましい。
また、本発明における溶融塩電解槽は、電解を行う電解室と電解で得られた金属を回収するメタル回収室を有し、メタル回収室と電解室の間に開口を有する隔壁を有する。そして、本発明における内壁および隔壁の材質は、生成金属と反応しにくく、且つ溶融塩と反応しなく、塩素からの耐腐食性が高いものが好ましい。従来溶融塩電解槽の内壁に使用されている材質であれば何でも良い。
【0010】
≪複極の材質≫
本発明の溶融塩電解槽で使用する複極の材質はグラファイトである。
本発明のグラファイトとは、炭素の同素体の一種であり、結晶構造が六方晶系であるものである。
このようなグラファイトは、電気伝導性に優れ、非酸素雰囲気化での耐熱性に優れ、金属マグネシウムや溶融塩、塩素などの活性ガスに対する化学的耐久を有するため溶融塩電解槽の電極として適している。
≪グラファイトの細孔容積について≫
本発明のグラファイト製の複極の細孔容積は、0.12mL/g以下である。
本発明のグラファイト製の複極の細孔容積が0.12mL/gより大きいと、貫通イオン電流による電流効率の低下が大きくなるため好ましくない。そのため、本発明のグラファイト製の複極の細孔容積は、小さいほど良く、0.11mL/g以下であることがより好ましく、0.09mL/g以下であることがさらに好ましい。細孔容積が小さければ小さいほど、複極の酸化消耗を抑制することができる。
【0011】
≪細孔容積と測定方法≫
本発明の細孔容積とは、グラファイト表面に存在する開気孔の体積のことである。
本発明の細孔容積の測定方法は、水銀圧入法により測定する。
水銀圧入法による細孔容積の測定は、(株)島津製作所製のオートポアIII9400シリーズ を使用して測定することができる。この測定は、複極に使用するグラファイトから切り出した試験片を測定セル内に収納し、セル内を0.003MPaまで減圧した後、水銀を導入して421 MPaまで加圧する方法である。水銀圧力が0.015MPa〜413 MPaにおいて、試験片内に存在する細孔中に押し込まれた水銀の体積を測定することで、細孔容積を把握することができる。
【0012】
≪効果≫
溶融塩電解槽に上記複極を装入することで、貫通イオン電流が少なくなり、槽効率が向上する。これは、複極の貫通孔を通り抜けてしまう電流を抑制し、複極での電気分解に寄与させることができるためである。例えば、複極を2枚装入した電解槽では、電極間は3つあり、一回の電解で3回電気分解が行われるはずである。しかしながら、この貫通イオン電流により、複極を通り抜け、一回の電解で電気分解が1回、または2回しか行われない場合がある。
このように、本発明では、上記複極を2枚挿入した場合には、従来1回または2回の電気分解しか行われなかったところを、3回きっちりと行うことができるので、電流効率が向上することは明らかである。
【0013】
≪貫通イオン電流量の測定≫
貫通イオン電流量は、以下のようにして定量できる。
すなわち、迂回電流が流れる経路を完全に排除するようにグラファイト複極を1枚設置した電解装置を用いて、溶融塩電解を行い、電解中に、経時的にアノード−カソード間の電圧を減らした際の通電量変化から求める。このときの電流−電圧の関係をグラフにすると、図2のような勾配の異なる2直線が存在する電流−電圧曲線となる。勾配の異なる2直線の電流−電圧曲線となる理由は、2直線の交点の電圧が、塩化マグネシウムの分解電圧Vの2倍(2V)に相当するためであり、電圧が2Vを下回ると複極表面での電気分解が起こらなくなり、迂回電流が流れる経路を完全に排除するようにグラファイト複極を1枚設置した電解装置においては、貫通イオン電流によるアノード表面、及びカソード表面だけでの電気分解が起こるようになるためである。
勾配が大きな直線の切片をb、勾配をaと定義し、また、勾配が小さな直線の切片をb、勾配をaと定義すると、それぞれの直線式は以下の式1、式2で表される。
V=aI+b ・・・式1
V=aI+b ・・・式2
I=I+I ・・・式3
(V:アノード−カソード間の電圧、I:通電量、I:貫通イオン電流量、
:複極表面で電気分解に寄与する電流量(以下、「実効電解電流量」という))
式1はI=0のため、I=Iを式1に代入すると、
V=a+b・・・式4
また、式2には式3を代入し、
V=a(I+I)+b ・・・式5
となる。式4と式5の連立方程式を解くと、
となり、通電量Iにおける貫通イオン電流量Iを求めることができる。
【0014】
≪槽効率の評価≫
槽効率とは、アノードとカソード間に複極を配置した電解槽に特有の評価指標であり、槽効率が高いほど、アノードからカソードへ流れる電流が複極部を通過し、複極部での塩化マグネシウムの電気分解に寄与している割合が多いことを意味し、すなわち、リーク電流が少なく、生産性が高いことを意味する。
槽効率をηと定義すると、
(n:極間数、I:実効電解電流量、Is(k−1):リーク電流量、I:通電量)
で表される。
槽効率を算出するためには、リーク電流量を定量する必要が有る。リーク電流量は、グラファイト複極を1枚以上設置した電解槽において、溶融塩電解を行い、電解中に、経時的にアノード−カソード間の電圧を減らした際の通電量変化から求める。このときの電流−電圧の関係をグラフにすると、例えば、複極を2枚設置した電解槽の場合、図3のような勾配の異なる3直線が存在する電流−電圧曲線となる。
勾配が大きな直線の切片をb、勾配をaと定義し、また、勾配が中の直線の切片をb、勾配をa、勾配が小さな直線の切片をb、勾配をaと定義すると、それぞれの直線式は以下の式8、式9、式10で表される。
V=aI+b・・・式8
V=aI+b・・・式9
V=aI+b・・・式10
I=I+Is2+Is1 ・・・式11
(V:アノード−カソード間の電圧、I:通電量、I:設置した複極全て(ここでは2枚)の表面で電気分解に寄与する電流量(以下、「3回電解電流量」という)、Is2:設置した複極(ここでは2枚)のいずれか表面のみで電気分解に寄与するリーク電流量(以下、「2回電解電流量」という)、Is1:設置した複極(ここでは2枚)の表面で全く電気分解に寄与しないリーク電流量(以下、「1回電解電流量」という))
式8はI=Is2=0であるため、I=Is1を式8に代入すると、
V=as1+b・・・式12
となる。
また、式9はI=0であるため、I=Is2+Is1を式9に代入すると、
V=a(Is2+Is1)+b・・・式13
となる。
そして、式10には式11を代入し、
V=a(I+Is2+Is1)+b・・・式14
となる。
式12、式13および式14の連立方程式を解くと、
となり、通電量Iにおける1回電解電流量Is1、2回電解電流量Is2、3回電解電流量Iを求めることができる。
複極を2枚設置した電解槽の槽効率ηは、式7より、
で表されるため、通電量Iにおける槽効率を算出することができる。
【0015】
≪グラファイトの製造方法≫
グラファイトの製造方法を以下に示す。
原料であるコークスを必要に応じて粉砕・篩別し、次に、そのコークスとバインダーピッチ(結合剤)を捏合機にて混捏する。バインダーピッチは軟化点90〜120℃、且つ、固定炭素55〜65質量%、且つ、キノリンなどの不溶分5〜15質量%含有する物性のものが一般によく用いられる。これら捏合物を押出しプレス機により、押出し成形する。その後、1000℃前後での焼成処理を行うことで、バインダーピッチ等に由来する揮発分を除去しつつ、組織を緻密化することができる。更に、その焼成体を超高温(3000℃程度)で熱処理することで炭素質からグラファイトに変化させる。
≪細孔容積が小さいグラファイト電極の製造方法≫
グラファイト製の複極の細孔容積を0.12mL/g以下にする方法は、グラファイトの製造過程でコークスとバインダーピッチから成る捏合物を冷間等方圧加圧法(CIP処理)により成型し、その後焼成する方法、熱間等方圧加圧(HIP)法により成型と焼成を同時に行う方法、放電プラズマ焼結(SPS)法によって加圧成型と焼成を瞬時に行う方法、捏合物成型体を焼成処理した後にコールタールピッチのような粘結液体中に含浸し、その後再焼成する処理方法(以下、「ピッチ含浸処理」という)およびこれら2つ以上の組合せによる処理などが挙げられる。特に、CIP処理により成形しその後焼成する方法やピッチ含浸処理、CIP処理により成形しその後焼成したうえで、その後ピッチ含浸処理を行なうことが好ましく、CIP処理により成形しその後焼成したうえで、その後ピッチ含浸処理を行なうことがより好ましい。
【0016】
≪金属マグネシウムの製造方法≫
本発明の溶融塩電解槽を用いて、溶融塩電解により金属マグネシウムを製造する一実施態様について説明する。
溶融塩電解槽では、原料供給口から、加熱溶融された塩化マグネシウムが装入され、電解浴面は隔壁の開口よりも上になるように保持されている。
操業中は、陽極から複極を介して陰極へ電解電流が流れ、極間で塩化マグネシウムが電気分解され、金属マグネシウムが生成するとともに、塩素が発生する。塩素は、電解浴中を上昇するため、電解浴に循環流を発生させる。この循環流により、陰極で生成した金属マグネシウムは、隔壁の開口を通って、メタル回収室へ運ばれ、電解浴との比重差により、メタル回収室内の浴面に浮上し、金属回収口より回収され、金属マグネシウムが製造される。
一方、発生した塩素は、電解室の上部空間に集まり、塩素回収口より回収される。
【0017】
≪スポンジチタンの製造方法≫
本発明の溶融塩電解槽を用いて得られる金属マグネシウムはスポンジチタンの製造工程の一つである還元工程で四塩化チタンを還元することに使用できる。また、純度の高い金属マグネシウムを用いて四塩化チタンを還元することで、より高純度なスポンジチタンを生成することができる。
すなわち、スポンジチタンの製造工程においては、チタン鉱石を塩素化して四塩化チタンを製造する工程、該四塩化チタンを金属マグネシウムで還元して、スポンジチタンを製造する工程、更には、前記スポンジチタンを破砕整粒して、製品スポンジチタンを製造する工程、および四塩化チタンの金属マグネシウム還元で副生された塩化マグネシウムを溶融塩電解して金属マグネシウムと塩素ガスを副生する工程を含んでいる(例えば、Journal of MMIJ Vol. 123, P693 − 697 (2007)「東邦チタニウム(株)における金属チタンの製造」を参照)。
この溶融電解工程に、本発明の溶融塩電解槽を組み込むことにより、低コストで、効率よくスポンジチタンを生産できる。
【実施例】
【0018】
1 貫通イオン電流量の測定
1-1 電解装置
石英製の容器のサイズ: 8cm×8cm×高さ40cm
容器内ガス雰囲気:アルゴンガス雰囲気
溶融塩の組成:MgCl、CaCl、NaCl、MgFの質量比がそれぞれ20%、30%、49%、1%
溶融塩の重量:2.1kg
溶融塩保持温度:670℃
グラファイト製の複極のサイズ:幅8cm×厚さ1cm×長さ20cm
アノード及びカソードのサイズ:幅2cm×厚さ1cm×長さ50cm
複極の配置:図1に示すように迂回電流を完全に排除できるようにグラファイト複極を1枚垂直に配置
アノード及びカソードの配置:複極により隔てられた2ヶ所の電解浴中に複極との対向面の距離が1cmとなるように配置
アノード及びカソードの溶融塩への浸漬長:15cm
【0019】
1-2 貫通イオン電流量の測定方法
測定条件及び測定流れを下記に示す。
電流−電圧記録計:データロガー TR−W 500((株)キーエンス)
アノード−カソード間の初期印加電圧:7.5V
電圧走査速度(降圧時):0.2V/sec
電流−電圧の記録幅:0.1sec毎
測定流れ:
1)電解装置のアノード−カソード間に電圧7.5Vを印加し、10秒間溶融塩電解を実施した。
2)その後、経時的に電圧を減らした際の電流量をデータロガー TR−W500を用いて、計測した。
3)そのときの電流−電圧曲線から、勾配の異なる直線各々の切片、勾配を求めた。
(勾配大の直線:勾配b、勾配をa、勾配小の直線:切片b、勾配a
4)得られた勾配の異なる直線各々の切片、勾配から、式6を用いて、電流量Iにおける貫通イオン電流量Iの算出式を作成した。
5) 貫通イオン電流量Iを算出した。表1のIは電流量20Aにおける貫通イオン電流量である。
【0020】
1-3 実施例1〜4
(実施例1)
市販品である細孔容積0.12mL/gのグラファイトを複極として用いて、上記条件で、貫通イオン電流量を測定した。その結果を表1に示す。
(実施例2)
市販品である細孔容積0.11mL/gのグラファイトを複極として用いて、実施例1と同じ条件で、貫通イオン電流量を測定した。その結果を表1に示す。
(実施例3)
市販品である細孔容積0.09mL/gのグラファイトを複極として用いて、実施例1と同じ条件で、貫通イオン電流量を測定した。その結果を表1に示す。
(実施例4)
市販品である細孔容積0.08mL/gのグラファイトを複極として用いて、実施例1と同じ条件で、貫通イオン電流量を測定した。その結果を表1に示す。
(比較例1)
市販品である細孔容積0.13mL/gのグラファイトを複極として用いて、実施例1と同じ条件で、貫通イオン電流量を測定した。その結果を表1に示す。
【0021】
1-4 結果
以上の結果を表に纏めると次の表1のとおりとなる。
【表1】
この結果から、複極として使用するグラファイトの細孔容積が小さくなるにつれて、貫通イオン電流量が低下することが分かった。
【0022】
2 槽効率の測定
次に、実施例1〜4の測定結果からグラファイト複極を電解槽に使用したときの槽効率を測定した。以下に実験条件を示す。
2-1 溶融塩電解槽(図4
・溶融塩の組成:実施例1〜4同様
・溶融塩の量:2900kg
・溶融塩温度:670℃
・電解室:2m(縦80cm、横160cm、高さ160cm)
・単位電解セル数:2
・複極のサイズ:縦70cm、横70cm、厚さ5cm
・アノード−カソード間の複極の枚数:2枚
・アノード及びカソードの配置:アノード電解面の両面に対し、1枚ずつ平行になるように配置
・複極の配置:アノード電解面の両面に対し、2枚ずつ平行になるように配置
・各電極の有効電解面積:4900cm
・アノード−複極、カソード−複極の距離、複極−複極の距離:1cm
・電流密度:0.48A/cm
【0023】
2-2 槽効率の測定方法
溶融塩電解槽を1ヶ月間連続運転し、その間に、1週間/回の頻度で槽効率測定を計4回行った。測定条件および測定流れを下記に記す。
電流−電圧記録計:データロガーDX2030 (横河電機(株))
アノード−カソード間の初期印加電圧:13.4V
電圧走査速度(降圧時):0.2V/sec
電流−電圧の記録幅:0.1sec毎
測定流れ:
1)アノード−カソード間に電圧13.4Vを定常的に印加した電解槽において、1週間に1度経時的に電圧を減らした際の電流量をデータロガーDX2030を用いて、計測した。
2)そのときの電流−電圧曲線から、勾配の異なる直線各々の切片、勾配を求めた。
(勾配大の直線:勾配b、勾配をa、勾配中の直線:切片b、勾配a4、
勾配小の直線:切片b、勾配a
3)得られた勾配の異なる直線各々の切片、勾配から、式15〜式17を用いて、電流量Iにおける1回電解電流量Is1、2回電解電流量Is2、3回電解電流量Iの算出式を作成した。
4)電流密度0.48A/cmにおけるIs1、Is2、を算出した。
5)式18を用いて、電流密度0.48A/cmにおける槽効率ηを算出した。
【0024】
2-3 実施例5〜8
(実施例5)
実施例1と同じ細孔容積のグラファイトを複極として用いて、上記条件で槽効率を測定した。
溶融塩電解槽の槽効率測定結果を表2に示す。なお、実施例5の槽効率測定結果は、4回の槽効率測定の平均値であり、且つ、比較例2の槽効率を100としたときの相対値である。
(実施例6)
実施例2と同じ細孔容積のグラファイトを複極として用いて、上記条件で槽効率を測定した。溶融塩電解槽の槽効率測定結果を表2に示す。なお、実施例6の槽効率測定結果は、4回の槽効率測定の平均値であり、且つ、比較例2の槽効率を100としたときの相対値である。
(実施例7)
実施例3と同じ細孔容積のグラファイトを複極として用いて、上記条件で槽効率を測定した。溶融塩電解槽の槽効率測定結果を表2に示す。なお、実施例7の槽効率測定結果は、4回の槽効率測定の平均値であり、且つ、比較例2の槽効率を100としたときの相対値である。
(実施例8)
実施例4と同じ細孔容積のグラファイトを複極として用いて、上記条件で槽効率を測定した。溶融塩電解槽の槽効率測定結果を表2に示す。なお、実施例8の槽効率測定結果は、4回の槽効率測定の平均値であり、且つ、比較例2の槽効率を100としたときの相対値である。
(比較例2)
比較例1と同じ細孔容積のグラファイトを複極として用いて、上記条件で槽効率を測定した。溶融塩電解槽の槽効率測定結果を表2に示す。なお、比較例2の槽効率は、4回測定した槽効率の平均値を100としたものである。
【0025】
2-4 結果
以上の結果を表にまとめると次の表2のとおりとなる。
【表2】
この結果から、複極として使用するグラファイトの細孔容積が小さくなるにつれて貫通イオン電流量が低下することは上記したとおりであるが、本発明で特定する数値範囲の細孔容積を有するグラファイトを使用すれば、溶融塩電解槽の槽効率は、ほぼ一定の高い効率を示すことが分かった。
図1
図2
図3
図4