(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
制御室と排出室とを連通する連通路を開閉する開閉弁は、相対移動する第1弁体及び第2弁体を備えている。第1弁体は、平坦面のシート部を有している。また、第2弁体は、第1弁体のシート部と対向する位置に突出部を有している。このため、第2弁体の突出部が第1弁体のシート部に接触すると、第1弁体と第2弁体との間の流路が閉じられた状態となる。つまり、第2弁体の突出部が第1弁体のシート部に接触すると、開閉弁が閉じられ、制御室と排出室とを連通する連通路が閉じられた状態となる。また、第2弁体の突出部が第1弁体のシート部に接触していない状態においては、第1弁体と第2弁体との間の流路が開かれた状態となる。つまり、開閉弁が開かれ、制御室と排出室とを連通する連通路が開かれた状態となる。そして、開閉弁が開かれることにより、第1弁体と第2弁体との間の流路を通って制御室内の燃料が排出室に流出し、制御室内の燃料の圧力が低下して、上述のようなノズルニードルの動作によって燃料噴射孔が開かれることとなる。
【0006】
すなわち、開閉弁が開かれているときに第1弁体と第2弁体との間に形成される流路は、燃料の流れ方向に沿って観察した場合、第2弁体の突出部の先端位置まで流路断面積が縮小していくこととなる。このため、第1弁体と第2弁体との間の流路を流れる燃料は、第2弁体の突出部と対向する位置に配置されている第1弁体のシート部に衝突するように流れることとなる。このため、燃料に異物が混入している場合には、第1弁体と第2弁体との間の流路を燃料が流れる際、燃料に混入している異物も、第1弁体のシート部に衝突する。なお、燃料内の異物の量は、燃料清浄の度合い、及び、燃料噴射装置つまりエンジンが使用される環境によって異なってくる。
【0007】
ここで、近年、燃料噴射装置に供給される燃料の圧力が高圧になってきている。そして、今後、燃料噴射装置に供給される燃料の更なる高圧化が予想される。このように燃料噴射装置に供給される燃料の圧力が高圧になってくると、燃料内の異物が第1弁体のシート部に衝突する力も強くなり、シート部に侵食が発生することが懸念される。シート部に侵食が発生すると、開閉弁を閉じた状態にしても燃料が制御室から排出室に流出し、制御室内の圧力上昇速度が低下してしまう。そして、この制御室内の圧力上昇速度の低下に伴って、ノズルニードルが燃料噴射孔を閉じるまでの時間も遅くなり、予定量よりも多くの燃料をエンジンの燃焼室に噴射してしまうこととなる。このため、燃料噴射装置に供給される燃料の更なる高圧化に備え、現在のうちに、シート部の侵食を抑制する措置を講じることが重要である。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、燃料噴射装置に供給される燃料が高圧になった場合でも、シート部の侵食を従来よりも抑制することができる燃料噴射装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る燃料噴射装置は、燃料を噴射する燃料噴射孔が一端に形成された本体部と、前記本体部の内部に往復動自在に設けられ、前記燃料噴射孔を開閉するノズルニードルと、前記ノズルニードルにおける前記燃料噴射孔側とは反対側の端部である第1端部と対向するように前記本体部の内部に形成され、前記燃料が流入する制御室と、連通路を介して前記制御室と連通し、前記制御室に流入した前記燃料が前記連通路を介して流入する排出室と、前記連通路を開閉する開閉弁と、を備え、前記制御室内の前記燃料の圧力を前記ノズルニードルの前記第1端部に作用させ、当該圧力を前記ノズルニードルの駆動に利用する燃料噴射装置であって、前記開閉弁は、平坦面のシート部を有する第1弁体と、前記シート部と対向する位置に突出部を有する第2弁体と、を備え、前記シート部に前記突出部が接触することによって、前記第1弁体と前記第2弁体との間の流路を閉じて閉状態となる構成であり、前記第1弁体は、該第1弁体と前記第2弁体との間の流路を流れる前記燃料の流れ方向において前記シート部よりも上流側となる位置に、前記シート部よりも前記第2弁体側に突出した段部が形成されているものである。
【0010】
なお、前記第2弁体は、前記第1弁体の前記段部と対向する範囲に、前記第1弁体とは反対側に凹む逃げ部が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る燃料噴射装置においては、シート部が形成されている第1弁体は、該第1弁体と第2弁体との間を流れる燃料の流れ方向においてシート部よりも上流側となる位置に、シート部よりも第2弁体側に突出した段部が形成されている。すなわち、第1弁体における第2弁体と対向する側の表面を観察した際、第1弁体と第2弁体との間を流れる燃料の流れ方向において段部の後方となる位置に、第2弁体とは反対側に凹む凹みが形成されることとなる。このため、第1弁体と第2弁体との間の流路を燃料が流れる際、当該凹み部分において燃料の淀みが発生することとなる。そして、本発明に係る燃料噴射装置は、当該淀みが発生する範囲に、シート部を配置することができる。当該淀みが発生する範囲においては、第1弁体と第2弁体との間の流路の他の範囲と比べ、燃料があまり流れない。このため、シート部に衝突する異物の量を低減することができる。また、当該淀みが発生する範囲は、燃料が流れる速度も小さい。このため、シート部に異物が衝突した場合でも、異物がシート部に衝突する際の力を低減することもできる。したがって、本発明に係る燃料噴射装置は、燃料噴射装置に供給される燃料が高圧になった場合でも、シート部の侵食を従来よりも抑制することができる。
【0012】
また、本発明に係る燃料噴射装置において、第2弁体における第1弁体の段部と対向する範囲に、第1弁体とは反対側に凹む逃げ部を形成することにより、逃げ部が形成されていない場合と比較して、段部とシート部との間の距離を小さくしても、段部と第2弁体との接触することを防止でき、開閉弁が閉じなくなることを防止できる。上述した淀みは、段部に近い方が淀み具合が大きくなる。すなわち、淀みが発生している範囲のうち、段部に近い方が、燃料が流れづらくなり、燃料が流れる速度も低下する。このため、第2弁体に逃げ部を形成することにより、段部とシート部との間の距離を小さくすることができるので、シート部の侵食を更に抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態.
以下、本発明の燃料噴射装置に関する実施の形態について具体的に説明する。ただし、本実施の形態は本発明の一態様を示すものであり、本発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。
なお、本実施の形態においては、燃料噴射孔が形成された側の端部を燃料噴射装置の下端とし、燃料噴射孔側の端部とは反対側の端部を燃料噴射装置の上端として、燃料噴射装置を説明していく。
【0015】
[全体構成]
図1は、本発明の実施の形態に係る燃料噴射装置を示す断面図である。
燃料噴射装置100は、燃料を噴射する燃料噴射孔3が下端に形成された本体部1を備えている。本実施の形態では、本体部1を、ノズル本体2、ユニオンナット4及び閉塞板5で構成している。なお、本体部1を構成するこれらの部品は、あくまでも一例である。燃料噴射装置100のデザインに応じて、本体部1の分割数は、換言すると本体部1を構成する部品数は、任意に変更可能である。
【0016】
ノズル本体2は、本体部1の下部部分を構成するものである。ユニオンナット4は、本体部1の上部部分を構成するものであり、筒状に形成されている。ユニオンナット4の下端部には、例えば圧入等により、ノズル本体2が気密に固定されている。また、ユニオンナット4の上端部は、閉塞板5によって気密に閉塞されている。
【0017】
ノズル本体2の内部には、高圧室52が形成されている。当該高圧室52は、ノズル本体2及びユニオンナット4に形成された燃料入口51を介して、外部(例えばコモンレール、燃料ポンプ等)から、高圧の燃料が供給される。ノズル本体2の下端には、燃料噴射孔3が形成されている。当該燃料噴射孔3を通して、高圧室52内の高圧燃料が、図示されない燃焼室へと噴射される。
【0018】
高圧室52の上端部(つまり、燃料噴射孔3側とは反対側の端部)は、弁板21により画定されている。当該弁板21は、ユニオンナット4の内周面に取り付けられた固定リング4aとノズル本体2との間に挟持され、高圧室52を気密に閉塞している。弁板21における高圧室52側の面には、制御室10を包囲する筒状突出部が形成されている。当該筒状突出部における弁板21とは反対側の端部は壁11により閉塞されている。また、当該壁11には、後述のノズルニードル6が挿入されるノズルニードル開口部が形成されている。また、制御室10を包囲する筒状突出部には、制御室10と高圧室52とを連通させる連通路12が形成されている。すなわち、高圧室52内の高圧燃料は、連通路12を介して、制御室10に流入する構成となっている。
【0019】
ノズル本体2の内部には、高圧室52の軸線に沿って往復動自在(
図1では上下動自在)に、ノズルニードル6が設けられている。このノズルニードル6は、燃料噴射孔3を開閉するものである。ノズルニードル6は、制御室10側の上端部6aと、燃料噴射孔3側の下端部6bとを有する。なお、ノズルニードル6は、一体で構成されることも可能であり、又は、互いに作動接続された複数の構成要素から構成されることも可能である。ここで、上端部6aが、本発明の第1端部に相当する。
【0020】
ノズルニードル6の上端部6aは、壁11に形成されたノズルニードル開口部に挿入され、制御室10内に突出している。換言すると、制御室10は、ノズルニードル6の上端部6aと対向するように本体部1内に形成されているとも言える。ノズルニードル6が往復動することにより、制御室10の容積が変更される。また、ノズルニードル6の外周面には、壁11の下方となる位置に、鍔状の突起部8が形成されている。
【0021】
また、突起部8と壁11との間には、ノズルニードル6を燃料噴射孔3側へ付勢するバネ9が設けられており、ノズルニードル6には、下向き(つまり燃料噴射孔3に近づく方向)の力が加わることとなる。また、ノズルニードル6の下端部6bの上方には、段部7が形成されている。高圧室52内の高圧燃料の圧力が段部7に作用することにより、ノズルニードル6には、上向き(つまり燃料噴射孔3から離れる方向)の力が加わることとなる。ノズル本体2内の燃料噴射孔3につながる部位は、シート部が形成されており、ノズルニードル6がシート部に対して着座(シート)することで燃料噴射孔3が閉塞され、高圧室52内の高圧燃料が燃料噴射孔3から噴射されない状態となる。一方、ノズルニードル6がシート部から離間(リフト)することで、燃料噴射孔3が開放され、高圧室52内の高圧燃料が燃料噴射孔3から噴射される状態となる。
【0022】
弁板21における制御室10とは反対側面側には、筒状の壁31及び該壁31の上端部を閉塞する壁33に包囲されて、排出室30が形成されている。また、弁板21には、制御室10と排出室30とを連通させる連通路13の構成の一部である貫通孔13aが形成されている。弁板21の排出室30側には、弁ニードル25が配置されている。この弁ニードル25は、弁板21と共に開閉弁20を構成するものである。
【0023】
弁ニードル25は、後述のように、弁板21に向かう方向及び弁板21から離れる方向に、往復動自在(
図1では上下動自在)となっている。そして、弁ニードル25の弁板21側の先端部(後述する
図2の突出部27)が弁板21における貫通孔13aの開口部の外周側(後述する
図2のシート部22)に接触した状態では、つまり開閉弁20が閉じた状態では、弁板21と弁ニードル25との間の流路(後述する
図2の流路13b)を閉塞する。また、弁ニードル25の弁板21側の先端部が弁板21における貫通孔13aの開口部の外周側から離れた状態では、つまり開閉弁20が開いた状態では、弁板21と弁ニードル25との間の流路(後述する
図2の流路13b)が開く。すなわち、制御室10と排出室30とを連通する連通路13は、弁板21に形成された貫通孔13aと、弁板21と弁ニードル25との間の流路13bと、で構成される。また開閉弁20は、連通路13を開閉するものである。
なお、開閉弁20における弁板21と弁ニードル25との接触部近傍(
図1に二点鎖線で囲んだQ部)の詳細構成については、
図2を用いて後述する。
【0024】
上述のように開閉弁20が開くことにより、制御室10と排出室30とが、連通路13(貫通孔13a,流路13b)を介して連通する。このため、制御室10内の燃料は、連通路13を通って、排出室30に流入することとなる。ここで、連通路13を構成する貫通孔13a及び流路13bの流路断面積は、高圧室52と制御室10とを連通する連通路12の流路断面積よりも大きくなっている。このため、開閉弁20が開かれた際、高圧室52から制御室10へ流入する燃料の量よりも、制御室10から排出室30へ流出する燃料の量の方が多くなる。したがって、開閉弁20が開かれた際、制御室10内の燃料の圧力は、高圧室52内の燃料の圧力よりも低くなる。
【0025】
排出室30を包囲する壁31には、例えば2つの出口孔32が形成されている。当該出口孔32は、排出室30と、ユニオンナット4内において弁板21の上方に形成された低圧室53と、を連通する貫通孔である。低圧室53は、燃料噴射装置100内に供給された燃料を外部に排出させる燃料出口54と連通している。このため、低圧室53内には、高い燃料圧は形成されない。
【0026】
弁ニードル25は、排出室30の上方を包囲する壁33に形成された開口部を通って、低圧室53へと伸張している。つまり、弁ニードル25の上端部(弁板21側とは反対側の端部)は、壁33よりも上方へ突出している。そして、弁ニードル25の該上端部には、アーマチャ板41が設けられている。当該アーマチャ板41は、低圧室53において、燃料噴射装置100の縦方向と直角に伸張している。なお、アーマチャ板41を弁ニードル25と一体形成してもよい。
【0027】
アーマチャ板41と閉塞板5との間には、バネ42が配置される。バネ42は、弁ニードル25が弁板21上に押圧されて両者の間が閉塞するように、アーマチャ板41を弁板21の方へ付勢する。
【0028】
アーマチャ板41と閉塞板5との間には、電磁石43も設けられている。当該電磁石43の作動により(電磁石43に電力が供給されることにより)、アーマチャ板41は、バネ42の力に逆らって上方に移動する。つまり、アーマチャ板41に取り付けられた弁ニードル25は、開閉弁20が開く方向に移動する。すなわち、開閉弁20は、電磁石43の作動により開放される。開閉弁20が開いた際、制御室10の燃料は、上述のように排出室30内に流入し、当該排出室30から、出口孔32を通ってさらに低圧室53及び燃料出口54へと流入する。
【0029】
制御室10からの燃料の流出によって制御室10内の燃料の圧力が低下すると、当該制御室10内の燃料の圧力は、ノズルニードル6の段部7に作用する高圧室52内の燃料の圧力に逆らってノズルニードル6を下の閉塞位置に保持するためには、もはや十分ではない。このため、制御室10からの燃料の流出によって制御室10内の燃料の圧力が低下すると、ノズルニードル6は、上方へ移動して燃料噴射孔3を開放する。これにより、高圧室52内の燃料は、燃料噴射孔3を通って、図示されない燃焼室へと噴射される。
すなわち、本実施の形態に係る燃料噴射装置100は、制御室10内の燃料の圧力をノズルニードル6の上端部6aに作用させ、当該圧力をノズルニードル6の駆動に利用する燃料噴射装置である。
【0030】
燃料噴射孔3からの燃料の噴射を終了させるには、電磁石43への電力の供給を停止する。これにより、アーマチャ板41が、バネ42によって下の閉塞位置へと押圧される。そして、アーマチャ板41と共に弁ニードル25も下方に移動し、弁板21と接触する。すなわち、開閉弁20が閉じる。開閉弁20が閉じると、連通路12を通って高圧室52から制御室10へと流入する燃料は、制御室10から排出室30へと流出できない。このため、制御室10内の燃料の圧力が高まる。制御室10内の高まった圧力は、ノズルニードル6に対して、バネ9の力と共に当該ノズルニードル6を下の閉塞位置へと押圧する下向きの力を加える。これにより、ノズルニードル6が下降し、ノズルニードル6の下端部6bは燃料噴射孔3を閉塞する。その結果、更なる燃料が、高圧室から燃料噴射孔3を通って燃焼室へと噴出されることはない。
【0031】
弁ニードル25内には、燃料噴射装置100の縦軸に沿って、弁ニードル孔26が形成されている。この弁ニードル孔26には、高圧に対して気密に圧力ピン61がはめ込まれる。さらに、この圧力ピン61は、燃料噴射装置100の縦軸に沿って、ノズルニードル6及び弁ニードル25の移動方向と平行して、弁ニードル孔26内を移動しうる。圧力ピン61は、アーマチャ板41内に形成された孔と、バネ42と、電磁石43と、の中央を通って伸張している。また、圧力ピン61は、下端面に対して作用する力が上端面を介して例えば圧力センサであるセンサ63へと伝達されるように、配置されている。
【0032】
本実施の形態では、圧力ピン61の上端面とセンサ63との間に、補正素子62が設けられる。この補正素子62は、センサ63と圧力ピン61との間の角度許容誤差を補正し、センサ63により遂行される測定の精度を高めることを可能とする。
【0033】
弁ニードル25が下方に移動している状態においては、すなわち、開閉弁20が閉じて制御室10と排出室30との間が連通していない状態においては、制御室10内に存在する高い燃料圧が、貫通孔13aを通って圧力ピン61の下端面に作用する。そして、圧力ピン61は、制御室10内の燃料圧に比例する力をセンサ63へと伝達する。このとき、制御室10は、連通路12を介して高圧室52と連通しているため、制御室10内の燃料圧は、油圧のバランスが保たれて、高圧室52内の燃料圧と同じである。したがって、圧力ピン61によりセンサ63に対して加えられる力は、高圧室52内の燃料圧に比例する。高圧室52内の燃料圧は、センサ63により測定された値から簡単に決定可能である。
【0034】
[開閉弁20の詳細]
続いて、開閉弁20における弁板21と弁ニードル25との接触部近傍の詳細構成について、説明する。
【0035】
図2は、
図1のQ部拡大図である。この
図2は、開閉弁20が開いた状態の弁板21及び弁ニードル25を示している。なお、
図2に示す先端黒塗りの矢印は、開閉弁20が開いている際の、流路13bにおける燃料の流れ方向を示している。
【0036】
弁板21は、弁ニードル25と対向する範囲の表面に、平坦面のシート部22を有している。このシート部22は、貫通孔13aの弁ニードル25側の開口部の外周側を囲むように、環状に形成されている。なお、
図2では、シート部22の範囲を、太い二点鎖線でも示している。また、弁ニードル25は、先端部における弁板21のシート部22と対向する位置に、環状の突出部27を有している。弁ニードル25が上述のように下降して弁板21に接触した際、つまり開閉弁20が閉状態となった際、弁ニードル25の突出部27が弁板21のシート部に接触する。
すなわち、弁板21が本発明の第1弁体に相当し、弁ニードル25が本発明の第2弁体に相当する。
【0037】
図2のように、開閉弁20が開いた状態になっているとき、弁板21と弁ニードル25との間には、連通路13の一部分である貫通孔13aの外周側を囲むように、連通路13の他の一部分として環状の流路13bが形成される。そして、制御室10から貫通孔13aを介して流路13bに流入した燃料は、該流路13bを通って排出室30へ流出していく。また、開閉弁20が閉状態となったとき、弁ニードル25の突出部27が弁板21のシート部22に接触し、流路13bを閉じることによって、連通路13が閉じられる。
【0038】
さらに、本実施の形態に係る開閉弁20の弁板21においては、流路13bを流れる燃料の流れ方向においてシート部22よりも上流側となる位置に、シート部22よりも弁ニードル25側に突出した段部23が形成されている。この段部23は、弁板21における弁ニードル25と対向する表面において、貫通孔13aの開口部とシート部22との間に形成されている。さらに、本実施の形態に係る開閉弁20の弁ニードル25には、弁板21の段部23と対向する範囲に、弁板21とは反対側に凹む逃げ部28が形成されている。
【0039】
弁板21に段部23を形成することにより、燃料噴射装置100に供給される燃料が高圧になった場合でも、シート部22の侵食を従来よりも抑制できるという効果が得られる。以下では、当該効果の理解を容易にするため、従来の燃料噴射装置において制御室と排出室との間の連通路の開閉に用いられていた開閉弁120の構成を説明する。そして、その後に本実施の形態に係る燃料噴射装置100が上述の効果を得られる理由について説明する。
【0040】
図3は、従来の燃料噴射装置において制御室と排出室との間の連通路の開閉に用いられていた開閉弁の、弁板と弁ニードルとの接触部近傍の構成を示す要部拡大図(断面図)である。この
図3は、上述の
図2と同様の範囲を示したものである。なお、
図3は開閉弁120が開いた状態の弁板121及び弁ニードル125を示している。また、
図3では、従来の燃料噴射装置の構成のうち、本実施の形態に係る燃料噴射装置100と同じ構成には、本実施の形態に係る燃料噴射装置100と同じ符号を付している。また、
図3に示す先端黒塗りの矢印は、開閉弁120が開いている際の、流路13bにおける燃料の流れ方向を示している。
【0041】
従来の燃料噴射装置は、制御室と排出室との間の連通路の開閉する開閉装置として、
図3に示す開閉弁120を備えていた。この開閉弁120は、弁板121及び弁ニードル125を備えている。従来の開閉弁120の弁板121と本実施の形態に係る弁板21との間で異なる点は、弁板121には段部23が形成されていない点である。弁板121のその他の構成は、本実施の形態に係る弁板21の構成と同様である。
【0042】
従来の開閉弁120の弁ニードル125と本実施の形態に係る弁ニードル25との間で異なる点は、弁ニードル125には逃げ部28が形成されていない点である。弁ニードル125のその他の構成は、本実施の形態に係る弁ニードル25の構成と同様である。
【0043】
従来の開閉弁120の開閉動作は、本実施の形態に係る開閉弁20と同様である。すなわち、弁ニードル125は、弁板121に向かう方向及び弁板121から離れる方向に、往復動自在(
図3では上下動自在)となっている。そして、弁ニードル125の突出部27が弁板121のシート部22に接触した状態では、つまり開閉弁120が閉じた状態では、弁板121と弁ニードル125との間の流路13bを閉塞する。また、弁ニードル125の突出部27が弁板121のシート部22から離れた状態では、つまり開閉弁120が開いた状態では、弁板121と弁ニードル125との間の流路13bが開く。これにより、制御室から貫通孔13aを介して流路13bに流入した燃料は、該流路13bを通って排出室へ流出していく。
【0044】
開閉弁120が開かれているときに弁板121と弁ニードル125との間に形成される流路13bは、燃料の流れ方向に沿って観察した場合、弁ニードル125の突出部27の先端位置まで流路断面積が縮小していくこととなる。このため、流路13bを流れる燃料は、弁ニードル125の突出部27と対向する位置に配置されている弁板121のシート部22に衝突するように流れることとなる。このため、燃料に異物200が混入している場合には、流路13bを燃料が流れる際、燃料に混入している異物200も、弁板121のシート部22に衝突する。なお、燃料内の異物200の量は、燃料清浄の度合い、及び、燃料噴射装置(換言すると該燃料噴射装置を搭載しているエンジン)が使用される環境によって異なってくる。
【0045】
ここで、近年、燃料噴射装置に供給される燃料の圧力が高圧になってきている。そして、今後、燃料噴射装置に供給される燃料の更なる高圧化が予想される。このように燃料噴射装置に供給される燃料の圧力が高圧になってくると、燃料内の異物200が弁板121のシート部22に衝突する力も強くなり、シート部22に侵食が発生することが懸念される。シート部22に侵食が発生すると、開閉弁120を閉じた状態にしても燃料が制御室から排出室に流出し、制御室内の圧力上昇速度が低下してしまう。そして、この制御室内の圧力上昇速度の低下に伴って、ノズルニードルが燃料噴射孔を閉じるまでの時間も遅くなり、予定量よりも多くの燃料をエンジンの燃焼室に噴射してしまうこととなる。このため、燃料噴射装置に供給される燃料の更なる高圧化に備え、現在のうちに、シート部22の侵食を抑制する措置を講じることが重要である。
【0046】
例えば、シート部22の侵食を抑制する構成の1つとして、シート部22の表面にコーティングを施すことが考えられる。しかしながら、コーティングによってシート部22の侵食を抑制しようとした場合、コーティング費用、及び、コーティング品質を維持するための管理費用等が発生してしまう。このため、これらの費用に伴って、燃料噴射装置の価格も上昇してしまう。そこで、発明者は、燃料噴射装置の価格の上昇を抑制しつつシート部22の侵食を抑制できる構成について、鋭意検討した。そして、発明者は、鋭意検討の結果、
図2に示す開閉弁20の構成に至った。
【0047】
図2に示すように、本実施の形態に係る燃料噴射装置100の開閉弁20の弁板21は、流路13bを流れる燃料の流れ方向においてシート部22よりも上流側となる位置に、シート部22よりも弁ニードル25側に突出した段部23が形成されている。すなわち、弁板21における弁ニードル25と対向する側の表面を観察した際、流路13bを流れる燃料の流れ方向において段部23の後方となる位置に、弁ニードル25とは反対側に凹む凹みが形成されることとなる。このため、流路13bを燃料が流れる際、当該凹み部分において燃料の淀みが発生することとなる。そして、本実施の形態に係る燃料噴射装置100は、当該淀みが発生する範囲に、シート部22を配置することができる。
【0048】
当該淀みが発生する範囲においては、流路13bの他の範囲と比べ、燃料があまり流れない。このため、シート部22に衝突する異物200の量を低減することができる。また、当該淀みが発生する範囲は、燃料が流れる速度も小さい。このため、シート部22に異物200が衝突した場合でも、異物200がシート部22に衝突する際の力を低減することもできる。したがって、本実施の形態に係る燃料噴射装置100は、燃料噴射装置100に供給される燃料が高圧になった場合でも、シート部22の侵食を従来よりも抑制することができる。
【0049】
さらに、本実施の形態に係る燃料噴射装置100においては、開閉弁20の弁ニードル25には、弁板21の段部23と対向する範囲に、弁板21とは反対側に凹む逃げ部28が形成されている。上述した淀みは、段部23に近い方が淀み具合が大きくなる。すなわち、淀みが発生している範囲のうち、段部23に近い方が、燃料が流れづらくなり、燃料が流れる速度も低下する。ここで、開閉弁20の弁ニードル25に逃げ部28を形成することにより、逃げ部28が形成されていない場合と比較して、段部23とシート部22との間の距離を小さくしても、段部23と弁ニードル25との接触することを防止でき、開閉弁20が閉じなくなることを防止できる。このため、弁ニードル25に逃げ部28を形成することにより、段部23とシート部22との間の距離を小さくすることができるので、シート部22の侵食を更に抑制することが可能となる。
【0050】
なお、本実施の形態では、弁板21にシート部22を形成し、弁ニードル25に突出部27を形成した。これに限らず、弁板21に突出部27を形成し、弁ニードル25にシート部22を形成してもよい。弁ニードル25にシート部22が形成される構成の場合、弁ニードル25には、流路13bを流れる燃料の流れ方向においてシート部22よりも上流側となる位置に、シート部22よりも弁板21側に突出した段部23が形成されることとなる。このように段部23を形成しても、シート部22の侵食を従来よりも抑制することができる。すなわち、弁ニードル25にシート部22が形成される構成の場合、弁ニードル25が本発明の第1弁体に相当し、弁板21が本発明の第2弁体に相当することとなる。
【0051】
また、弁ニードル25にシート部22が形成される構成においては、逃げ部28を有する構成とする場合、逃げ部28を弁板21に形成すればよい。段部23とシート部22との間の距離を小さくすることができるので、シート部22の侵食を更に抑制することが可能となる。
【0052】
以上、本実施の形態に係る燃料噴射装置100は、燃料を噴射する燃料噴射孔3が下端(一端)に形成された本体部1と、本体部1の内部に往復動自在に設けられ、燃料噴射孔3を開閉するノズルニードル6と、ノズルニードル6の上端部6a(燃料噴射孔3側とは反対側の端部)と対向するように本体部1の内部に形成され、燃料が流入する制御室10と、連通路13を介して制御室10と連通し、制御室10に流入した燃料が連通路13を介して流入する排出室30と、連通路13を開閉する開閉弁20と、を備え、制御室10内の燃料の圧力をノズルニードル6の上端部6aに作用させ、当該圧力をノズルニードル6の駆動に利用する燃料噴射装置である。また、本実施の形態に係る燃料噴射装置100の開閉弁20は、平坦面のシート部22を有する第1弁体(弁板21及び弁ニードル25のうちの一方)と、シート部22と対向する位置に突出部27を有する第2弁体(弁板21及び弁ニードル25のうちの他方)と、を備え、シート部22に突出部27が接触することによって、第1弁体と第2弁体との間の流路を閉じて閉状態となる構成である。そして、本実施の形態に係る燃料噴射装置100においては、第1弁体は、該第1弁体と第2弁体との間の流路13bを流れる燃料の流れ方向においてシート部22よりも上流側となる位置に、シート部22よりも第2弁体側に突出した段部23が形成されている。
【0053】
本実施の形態に係る燃料噴射装置100は、段部23により、流路13bに流れる燃料に淀みを発生させることができる。そして、本実施の形態に係る燃料噴射装置100は、当該淀みが発生する範囲に、シート部22を配置することができる。このため、本実施の形態に係る燃料噴射装置100は、シート部22に衝突する異物200の量を低減することができ、異物200がシート部22に衝突する際の力を低減することもできる。したがって、本実施の形態に係る燃料噴射装置100は、燃料噴射装置100に供給される燃料が高圧になった場合でも、シート部22の侵食を従来よりも抑制することができる。
【0054】
なお、第2弁体における第1弁体の段部23と対向する範囲に、第1弁体とは反対側に凹む逃げ部28を形成してもよい。弁ニードル25に逃げ部28を形成することにより、段部23とシート部22との間の距離を小さくすることができるので、シート部22の侵食を更に抑制することができる。