特許第6781663号(P6781663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6781663溶接用電源装置および溶接用電源装置の出力制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781663
(24)【登録日】2020年10月20日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】溶接用電源装置および溶接用電源装置の出力制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20201026BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20201026BHJP
【FI】
   B23K9/073 560
   H02M7/48 E
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-95199(P2017-95199)
(22)【出願日】2017年5月12日
(65)【公開番号】特開2018-192477(P2018-192477A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2019年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【弁理士】
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】北村 佳昭
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−070474(JP,A)
【文献】 特開平06−238445(JP,A)
【文献】 特開平06−262356(JP,A)
【文献】 特開2014−093885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/073
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用交流電源を整流して直流電圧を出力する一次整流回路と、
前記一次整流回路から出力される直流電圧の大きさを変換する直流電圧変換回路と、
前記直流電圧変換回路から出力される直流電圧を前記商用交流電源より周波数が高い交流電圧に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路から出力される交流電圧の大きさを変換する変圧器と、
前記変圧器から出力される交流電圧を整流して直流電圧を出力する二次整流回路と、
前記二次整流回路から溶接ワイヤを介して流れる溶接電流の大きさを検出する電流検出回路と、
前記電流検出回路による前記溶接電流の検出値が当該溶接電流の目標値に近づくように前記インバータ回路を制御するとともに、当該目標値と当該検出値との差に応じて、出力する直流電圧の大きさを変更するように前記直流電圧変換回路を制御する制御回路と
を有する溶接用電源装置。
【請求項2】
商用交流電源を整流して直流電圧を出力する一次整流回路と、
前記一次整流回路から出力される直流電圧の大きさを変換する直流電圧変換回路と、
前記直流電圧変換回路から出力される直流電圧を前記商用交流電源より周波数が高い交流電圧に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路から出力される交流電圧の大きさを変換する変圧器と、
前記変圧器から出力される交流電圧を整流して直流電圧を出力する二次整流回路と、
前記二次整流回路から溶接ワイヤを介して流れる溶接電流の大きさを検出する電流検出回路と、
前記電流検出回路による前記溶接電流の検出値が当該溶接電流の目標値に近づくように前記インバータ回路を制御するとともに、現制御周期の当該目標値と前制御周期の当該目標値との差に応じて、出力する直流電圧の大きさを変更するように前記直流電圧変換回路を制御する制御回路と
を有する溶接用電源装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記直流電圧変換回路の電圧上昇後の電圧を一定値とすることを特徴とする請求項1または2記載の溶接用電源装置。
【請求項4】
前記制御回路は、前記直流電圧変換回路の出力電圧を上昇する制御を行う際、1制御周期当たりの当該直流電圧変換回路の電圧上昇幅を一定値とすることを特徴とする請求項1または2記載の溶接用電源装置。
【請求項5】
前記制御回路は、前記直流電圧変換回路の出力電圧を上昇する制御を行う際、1制御周期当たりの当該直流電圧変換回路の電圧上昇幅を可変とすることを特徴とする請求項1または2記載の溶接用電源装置。
【請求項6】
一次整流回路を用いて、商用交流電源を整流して直流電圧を出力し、
直流電圧変換回路を用いて、前記一次整流回路から出力される直流電圧の大きさを変換し、
インバータ回路を用いて、前記直流電圧変換回路から出力される直流電圧を前記商用交流電源より周波数が高い交流電圧に変換し、
変圧器を用いて、前記インバータ回路から出力される交流電圧の大きさを変換し、
二次整流回路を用いて、前記変圧器から出力される交流電圧を整流して直流電圧を出力し、
電流検出回路を用いて、前記二次整流回路から溶接ワイヤを介して流れる溶接電流の大きさを検出し、
前記電流検出回路による前記溶接電流の検出値が当該溶接電流の目標値に近づくように前記インバータ回路を制御するとともに、当該目標値と当該検出値との差に応じて、出力する直流電圧の大きさを変更するように前記直流電圧変換回路を制御すること
を特徴とする溶接用電源装置の出力制御方法。
【請求項7】
一次整流回路を用いて、商用交流電源を整流して直流電圧を出力し、
直流電圧変換回路を用いて、前記一次整流回路から出力される直流電圧の大きさを変換し、
インバータ回路を用いて、前記直流電圧変換回路から出力される直流電圧を前記商用交流電源より周波数が高い交流電圧に変換し、
変圧器を用いて、前記インバータ回路から出力される交流電圧の大きさを変換し、
二次整流回路を用いて、前記変圧器から出力される交流電圧を整流して直流電圧を出力し、
電流検出回路を用いて、前記二次整流回路から溶接ワイヤを介して流れる溶接電流の大きさを検出し、
前記電流検出回路による前記溶接電流の検出値が当該溶接電流の目標値に近づくように前記インバータ回路を制御するとともに、現制御周期の当該目標値と前制御周期の当該目標値との差に応じて、出力する直流電圧の大きさを変更するように前記直流電圧変換回路を制御すること
を特徴とする溶接用電源装置の出力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接用電源装置および溶接用電源装置の出力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接装置等で用いられる電源装置として、商用電源(三相交流電源)を整流して直流電圧に変換する一次側変換回路と、複数のスイッチング素子を含み、一次変換回路から入力される直流電圧を高周波交流電圧に変換するインバータ回路と、インバータ回路から入力される高周波交流電圧をより低圧な交流電圧に変換する溶接トランスと、溶接トランスから入力される低圧な交流電圧を整流して直流電圧に変換し、溶接トーチおよび溶接対象に出力する二次側変換回路とを備え、溶接トーチの電極から溶接対象に流れる溶接電流の大きさを、インバータ回路のスイッチング制御によって調整するものが知られている(特許文献1参照)。また、特許文献1には、二次側変換回路の出力側に、溶接電流の変化を妨げるように逆起電力を発生することで、溶接電流およびアークプラズマを安定化させるリアクトルを設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−228773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アーク溶接では、非常に大きな出力電流の目標値に対し、所望とする電流値を出力することが要求される。このため、アーク溶接装置等で用いられる電源装置では、数μH〜数十μH程度のリアクトルが設置されることが多い。リアクトルは、そのインダクタンスによって電流の変化を妨げるように逆起電力を発生する性質を有しており、この性質を利用して出力電流およびアークプラズマを安定化させている。このインダクタンス値は、使用する溶接ワイヤの材料やワイヤ径、あるいは溶接で使用する電流範囲などによって異なる。
【0005】
また、溶接施工環境においては、電源装置を特定の場所に設置・固定し、アークを発生させる電極が搭載された溶接トーチを溶接施工箇所に移動させ、溶接装置と溶接トーチとの間は、溶接ケーブルによって結ばれる。この溶接ケーブルは、当然のことながら設置される施工環境によって長さは異なり、一般に数mから数十mに及ぶものが接続される。この長尺なケーブルもインダクタンス成分を有しているが、その大きさは、長さや配線経路によって大きく変化する。
【0006】
これに対し、例えば電子リアクトル制御と呼ばれる技術が知られている。電子リアクトル制御とは、デジタルインバータ制御によって出力特性を任意に制御出来ることを利用し、あたかも適切なリアクトルが搭載されているかのような出力特性を再現するものである。
【0007】
ところで、負荷のインダクタンス値が大きくなれば、その分、電流の変化を妨げ易くなるため、急峻な電流変化はしにくくなる。これを打開するためには、負荷のインダクタンス値を下げるか、インダクタンスと電流変化とによって発生する逆起電力を超える電圧を印加することが必要となる。前者は、例えば固定のリアクトルを除去することによってある程度は実現できるが、長尺なケーブルを接続しなければいけない場合、そのインダクタンス値は減じることは困難である。また、後者については、出力可能な最大電圧は、搭載されている変圧器の変圧比によって決まっている。変圧比を変えることによって対応することは可能であるが、一方で無負荷電圧が上昇することになるため、安全上好ましくない。
【0008】
本発明は、無負荷電圧の上昇を抑制しつつ、出力電流の急峻な変化に対応することが可能な溶接用電源装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の溶接用電源装置は、商用交流電源を整流して直流電圧を出力する一次整流回路と、前記一次整流回路から出力される直流電圧の大きさを変換する直流電圧変換回路と、前記直流電圧変換回路から出力される直流電圧を前記商用交流電源より周波数が高い交流電圧に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路から出力される交流電圧の大きさを変換する変圧器と、前記変圧器から出力される交流電圧を整流して直流電圧を出力する二次整流回路と、前記二次整流回路から溶接ワイヤを介して流れる溶接電流の大きさを検出する電流検出回路と、前記電流検出回路による前記溶接電流の検出値が当該溶接電流の目標値に近づくように前記インバータ回路を制御するとともに、当該目標値と当該検出値との差に応じて、出力する直流電圧の大きさを変更するように前記直流電圧変換回路を制御する制御回路とを有している。
また、他の観点から捉えると、本発明の溶接用電源装置は、商用交流電源を整流して直流電圧を出力する一次整流回路と、前記一次整流回路から出力される直流電圧の大きさを変換する直流電圧変換回路と、前記直流電圧変換回路から出力される直流電圧を前記商用交流電源より周波数が高い交流電圧に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路から出力される交流電圧の大きさを変換する変圧器と、前記変圧器から出力される交流電圧を整流して直流電圧を出力する二次整流回路と、前記二次整流回路から溶接ワイヤを介して流れる溶接電流の大きさを検出する電流検出回路と、前記電流検出回路による前記溶接電流の検出値が当該溶接電流の目標値に近づくように前記インバータ回路を制御するとともに、現制御周期の当該目標値と前制御周期の当該目標値との差に応じて、出力する直流電圧の大きさを変更するように前記直流電圧変換回路を制御する制御回路とを有している。
これらの溶接用電源装置において、前記制御回路は、前記直流電圧変換回路の電圧上昇後の電圧を一定値とすることを特徴とすることができる。
また、前記制御回路は、前記直流電圧変換回路の出力電圧を上昇する制御を行う際、1制御周期当たりの当該直流電圧変換回路の電圧上昇幅を一定値とすることを特徴とすることができる。
さらに、前記制御回路は、前記直流電圧変換回路の出力電圧を上昇する制御を行う際、1制御周期当たりの当該直流電圧変換回路の電圧上昇幅を可変とすることを特徴とすることができる。
また、他の観点から捉えると、本発明の溶接用電源装置の出力制御方法は、一次整流回路を用いて、商用交流電源を整流して直流電圧を出力し、直流電圧変換回路を用いて、前記一次整流回路から出力される直流電圧の大きさを変換し、インバータ回路を用いて、前記直流電圧変換回路から出力される直流電圧を前記商用交流電源より周波数が高い交流電圧に変換し、変圧器を用いて、前記インバータ回路から出力される交流電圧の大きさを変換し、二次整流回路を用いて、前記変圧器から出力される交流電圧を整流して直流電圧を出力し、電流検出回路を用いて、前記二次整流回路から溶接ワイヤを介して流れる溶接電流の大きさを検出し、前記電流検出回路による前記溶接電流の検出値が当該溶接電流の目標値に近づくように前記インバータ回路を制御するとともに、当該目標値と当該検出値との差に応じて、出力する直流電圧の大きさを変更するように前記直流電圧変換回路を制御することを特徴としている。
また、他の観点から捉えると、本発明の溶接用電源装置の出力制御方法は、一次整流回路を用いて、商用交流電源を整流して直流電圧を出力し、直流電圧変換回路を用いて、前記一次整流回路から出力される直流電圧の大きさを変換し、インバータ回路を用いて、前記直流電圧変換回路から出力される直流電圧を前記商用交流電源より周波数が高い交流電圧に変換し、変圧器を用いて、前記インバータ回路から出力される交流電圧の大きさを変換し、二次整流回路を用いて、前記変圧器から出力される交流電圧を整流して直流電圧を出力し、電流検出回路を用いて、前記二次整流回路から溶接ワイヤを介して流れる溶接電流の大きさを検出し、前記電流検出回路による前記溶接電流の検出値が当該溶接電流の目標値に近づくように前記インバータ回路を制御するとともに、現制御周期の当該目標値と前制御周期の当該目標値との差に応じて、出力する直流電圧の大きさを変更するように前記直流電圧変換回路を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無負荷電圧の上昇を抑制しつつ、出力電流の急峻な変化に対応することが可能な溶接用電源装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る溶接システムの概略構成を示す図である。
図2】溶接システムにおける溶接電源装置の概略構成を示す図である。
図3】制御回路の概略構成を示す図である。
図4】実施の形態1の制御回路の動作を説明するためのフローチャートである。
図5】(a)〜(c)は、直流電圧変換装置の目標電圧補正値の設定手法を説明するための図である。
図6】実施の形態2の制御回路の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<実施の形態1>
[溶接システムの構成]
図1は、本発明の実施の形態に係る溶接システム1の概略構成を示す図である。この溶接システム1は、消耗電極式(溶極式)のガスシールドアーク溶接法によって、被溶接物200の溶接を行うものである。
【0013】
この溶接システム1は、溶接ワイヤ100を用いて被溶接物200を溶接する溶接トーチ10と、溶接トーチ10を保持するとともに溶接トーチ10の位置や姿勢を設定するロボットアーム20とを備えている。また、溶接システム1は、溶接トーチ10に溶接ワイヤ100を送給するワイヤ送給装置30と、溶接トーチ10にシールドガス(例えば炭酸ガス)を供給するシールドガス供給装置40とを備えている。さらに、溶接システム1は、溶接トーチ10を介して溶接ワイヤ100および被溶接物200に直流の溶接電流の供給を行うとともに溶接電流を制御する溶接用電源装置50と、ロボットアーム20を制御するロボット制御装置60とを備えている。なお、ここでは詳細な説明を行わないが、溶接用電源装置50は、溶接電流の他に、溶接速度や溶接ワイヤ100の送給速度等の制御も行っている。
【0014】
[溶接用電源装置の構成]
図2は、溶接システム1における溶接用電源装置50の概略構成を示す図である。ただし、図2は、溶接用電源装置50のうち、溶接電流の供給および制御に関連する構成要素を示している。
【0015】
溶接用電源装置50は、商用交流電源5から供給されてくる三相交流電力に各種処理を施すことによって直流電力に変換し、溶接トーチ10および被溶接物200(図1参照)へと供給する。この間、溶接用電源装置50では、各種電力変換を行うことにより、外部に出力する直流電力の電圧(直流電圧)および電流(直流電流)を調整する。そして、本実施の形態の溶接用電源装置50は、一次整流回路51と、直流電圧変換回路52と、インバータ回路53と、変圧器54と、二次整流回路55と、出力電流検出回路56と、制御回路57とを備えている。
【0016】
(一次整流回路)
一次整流回路51は、入力側が商用交流電源5に接続されており、出力側が直流電圧変換回路52に接続されている。この一次整流回路51は、商用交流電源5から入力されてくる三相交流電圧(例えば三相200V:60Hz)を、整流および平滑化することで直流電圧(例えば300V)に変換する。この一次整流回路51は、三相全波整流回路等で構成することができる。また、一次整流回路51の出力側には、必要に応じて平滑コンデンサを並列に接続してもよい。
【0017】
(直流電圧変換回路)
直流電圧変換回路52は、入力側が一次整流回路51に接続されており、出力側がインバータ回路53に接続されている。この直流電圧変換回路52は、一次整流回路51から入力されてくる直流電圧を、より電圧値の高い直流電圧に変換する。ただし、この直流電圧変換回路52は、一次整流回路51から入力されてくる直流電圧を、必要に応じてそのまま(同じ電圧値のまま)出力することもできる。この直流電圧変換回路52は、パワートランジスタ等のスイッチング素子を含む各種チョッパ回路や、さらに変圧器を含むDC/DCコンバータ等で構成することができる。
【0018】
(インバータ回路)
インバータ回路53は、入力側が直流電圧変換回路52に接続されており、出力側が変圧器54に接続されている。このインバータ回路53は、直流電圧変換回路52から入力されてくる直流電圧を、上記商用交流電源5よりも周波数の高い交流電圧に変換する。このインバータ回路53は、パワートランジスタ等のスイッチング素子を含む各種インバータ等で構成することができる。また、本実施の形態のインバータ回路53は、例えばPWM(Pulse Width Modulation)制御によって動作する。
【0019】
(変圧器)
変圧器54は、入力側がインバータ回路53に接続されており、出力側が二次整流回路55に接続されている。そして、変圧器54からみて入力側(図中左側)が一次側に、変圧器54からみて出力側(図中右側)が二次側になっている。この変圧器54は、インバータ回路53から入力されてくる交流電圧(一次側電圧)を、より電圧値の低い交流電圧(二次側電圧)に変換する。この変圧器54は、単相トランス等で構成することができる。
【0020】
(二次整流回路)
二次整流回路55は、入力側が変圧器54に接続されており、出力側の正極は溶接トーチ10(図1参照)に、出力側の負極は出力電流検出回路56に、それぞれ接続されている。この二次整流回路55は、変圧器54から入力されてくる交流電圧を、整流および平滑化することで直流電圧に変換する。この二次整流回路55は、変圧器54における二次側のセンタータップ(図示せず)を利用する、センタータップ型全波整流回路等で構成することができる。また、二次整流回路55の出力側の正極には、必要に応じて直流リアクトルを直列に接続してもよい。
【0021】
(出力電流検出回路)
出力電流検出回路56は、入力側が二次整流回路55に接続されており、出力側が被溶接物200(図1参照)に接続されている。この出力電流検出回路56は、溶接トーチ10から溶接ワイヤ100およびアークを介して被溶接物200に流れる、溶接電流(出力電流)の大きさである、検出値の一例としての出力電流値Ioを検出する。
【0022】
(制御回路)
制御回路57は、出力電流検出回路56が検出した出力電流値Ioに基づき、直流電圧変換回路52およびインバータ回路53の動作を制御する。
【0023】
[制御回路の構成]
図3は、制御回路57の概略構成を示す図である。
この制御回路57は、電流演算部571と、昇圧フラグ設定部572と、電圧決定部573と、制御指令値出力部574と、格納部575とを備えている。
【0024】
(電流演算部)
電流演算部571は、出力電流検出回路56から入力されてくる出力電流値Ioを用いて、出力電流の目標値の一例である出力電流目標値Irefに関する演算処理を行い、得られた演算結果を昇圧フラグ設定部572に出力する。
【0025】
(昇圧フラグ設定部)
昇圧フラグ設定部572は、電流演算部571から入力されてくる演算結果に基づき、直流電圧変換回路52の出力電圧(直流電圧)を昇圧させるか否かを判断するための基準となるフラグ(昇圧フラグと称する)の設定を行い、その結果を格納部575に書き込む。また、昇圧フラグ設定部572は、格納部575に書き込まれた昇圧フラグを読み出す。ここで、本実施の形態では、昇圧フラグとして、昇圧すべき場合には「ON(1)」が、昇圧すべきでない場合には「OFF(0)」が、それぞれ設定されるようになっている。
【0026】
(電圧決定部)
電圧決定部573は、昇圧フラグ設定部572から入力されてくる昇圧フラグの状態に基づき、直流電圧変換回路52の出力電圧(直流電圧)の目標値である出力電圧目標値Vrefを決定する。
【0027】
(制御指令値出力部)
制御指令値出力部574は、電圧決定部573から入力されてくる出力電圧目標値Vrefに基づき、直流電圧変換回路52およびインバータ回路53のそれぞれに対する制御指令値を作成するとともに、直流電圧変換回路52とインバータ回路53とに、それぞれの制御指令値を出力する。
【0028】
(格納部)
格納部575は、電流演算部571および電圧決定部573で使用する各種パラメータや、各種演算結果等を格納する。また、格納部575は、昇圧フラグ設定部572が設定する昇圧フラグを格納する。
【0029】
[制御回路の動作]
図4は、本実施の形態の制御回路57の動作を説明するためのフローチャートである。
なお、初期状態において、二次整流回路55の出力電流(直流電流)の目標値は、出力電流目標値Irefに設定されているものとする。また、初期状態において、直流電圧変換回路52の出力電圧(直流電圧)の目標値である出力電圧目標値Vrefは、初期出力電圧目標値Vtに設定されているものとする。ここで、初期出力電圧目標値Vtは、出力電流目標値Irefに基づいて決まる。なお、これら出力電流目標値Irefおよび初期出力電圧目標値Vtは、格納部575にパラメータとして格納されている。また、初期状態において、格納部575に格納される昇圧フラグは、「OFF」に設定されているものとする。
【0030】
溶接システム1において溶接が開始されると、電流演算部571は、出力電流検出回路56から入力されてくる出力電流値Ioを読み込む(ステップ101)。続いて、電流演算部571は、格納部575から読み出した出力電流目標値Irefと、出力電流検出回路56から入力されてきた出力電流値Ioとのずれである差分ΔI1(=Iref−Io)を算出する(ステップ102)。
【0031】
次に、昇圧フラグ設定部572は、ステップ102で算出された差分ΔI1が、予め定められた第2の閾値Ith2以上(ΔI1≧Ith2)となっているか否かを判断する(ステップ103)。ここで、第2の閾値Ith2は、予め決められた数値であって、格納部575にパラメータとして格納されている。
【0032】
ステップ103で肯定の判断(YES)を行った場合、すなわち、差分ΔI1が第2の閾値Ith2以上であった場合、昇圧フラグ設定部572は、格納部575から昇圧フラグを読み出すととともに、読み出した昇圧フラグが「OFF」であるか否かを判断する(ステップ104)。ステップ104で否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、昇圧フラグが「ON」であった場合は、後述するステップ107へと進む。
【0033】
一方、ステップ104で肯定の判断(YES)を行った場合、すなわち、昇圧フラグが「OFF」であった場合、昇圧フラグ設定部572は、ステップ102で算出された差分ΔI1が、予め定められた第1の閾値Ith1以上(ΔI1≧Ith1)となっているか否かを判断する(ステップ105)。ここで、第1の閾値Ith1は、予め決められた数値であって、格納部575にパラメータとして格納されている。また、第1の閾値Ith1は、ステップ103で用いた第2の閾値Ith2よりも大(Ith1>Ith2)となる関係を有している。ステップ105で否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、差分ΔI1が第1の閾値Ith1未満であった場合は、後述するステップ109へと進む。
【0034】
これに対し、ステップ105で肯定の判断(YES)を行った場合、すなわち、差分ΔI1が第1の閾値Ith1以上であった場合、昇圧フラグ設定部572は、昇圧フラグを「ON」に設定し(ステップ106)、格納部575に格納する。
【0035】
また、ステップ104で否定の判断(NO)を行った場合、および、ステップ106において昇圧フラグを「ON」に設定した場合、換言すれば、昇圧フラグが「ON」となっている状態において、電圧決定部573は、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値Vrefを、初期出力電圧目標値Vtと目標補正電圧値Vaとの和(Vref=Vt+Va)に設定する(ステップ107)。そして、後述するステップ110へと進む。なお、目標補正電圧値Vaは正の値をとるが、その決定手法については後述する。
【0036】
一方、ステップ103において否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、差分ΔI1が第2の閾値Ith2未満であった場合、昇圧フラグ設定部572は、昇圧フラグを「OFF」に設定し(ステップ108)、格納部575に格納する。
【0037】
また、ステップ105で否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、差分ΔI1が第1の閾値Ith1未満であった場合、および、ステップ108で昇圧フラグを「OFF」に設定した場合、換言すれば、昇圧フラグが「OFF」となっている状態において、電圧決定部573は、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値Vrefを、初期出力電圧目標値Vt(Vref=Vt)に設定する(ステップ109)。そして、後述するステップ110へと進む。
【0038】
それから、制御指令値出力部574は、電圧決定部573から入力されてくる、ステップ107あるいはステップ109で決定された出力電圧目標値Vrefに基づき、直流電圧変換回路52用の制御指令値を作成し、直流電圧変換回路52へ出力する(ステップ110)。このとき、制御指令値出力部574は、直流電圧変換回路52の出力電圧が出力電圧目標値Vrefとなるように、直流電圧変換回路52用の制御指令値を作成する。なお、直流電圧変換回路52用の制御指令値は、直流電圧変換回路52を構成するスイッチング素子(ここではパワートランジスタ)をオン・オフ制御するためのデータ(デューティ比等)を含んでいる。
【0039】
また、制御指令値出力部574は、上記出力電圧目標値Vrefに基づき、インバータ回路53用の制御指令値を作成し、インバータ回路53へ出力する(ステップ111)。このとき、制御指令値出力部574は、ステップ110における直流電圧変換回路52の出力電圧の調整に合わせて、インバータ回路53用の制御指令値を作成する。なお、インバータ回路53用の制御指令値は、インバータ回路53を構成するスイッチング素子(ここではIGBT)をオン・オフ制御するためのデータ(デューティ比等)を含んでいる。
【0040】
そして、制御指令値出力部574は、上記出力電圧目標値Vrefに基づいて出力電流目標値Irefを更新し(ステップ112)、格納部575に書き込む。
【0041】
その後、溶接システム1における溶接が終了したか否かが判断され(ステップ113)、否定の判断(NO)を行った場合はステップ101へと戻って処理を続行し、肯定の判断(YES)を行った場合は一連の処理を完了する。なお、本実施の形態では、溶接システム1において溶接が行われている間、ステップ101からステップ113へと至る処理が、一定の周期で繰り返し実行される。本実施の形態では、ステップ101からステップ113へと至る処理にかかる時間を、制御周期Tと称する。
【0042】
[目標電圧補正値の設定手法]
では、図4に示すステップ107で、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値Vrefの算出に用いられる、目標電圧補正値Vaの設定手法について説明を行う。
図5は、直流電圧変換回路52の目標電圧補正値Vaの設定手法を説明するための図である。ここで、図5(a)は第1の設定手法を説明するための図であり、図5(b)は第2の設定手法を説明するための図であり、図5(c)は第3の設定手法を説明するための図である。図5(a)〜(c)のそれぞれにおいて、横軸は経過時間tであり、縦軸は出力電圧目標値Vrefである。また、図5(a)〜(c)のそれぞれの横軸には、制御周期Tを併せて示している(5周期分)。そして、図5(a)〜(c)のそれぞれにおいて、最初の出力電圧目標値Vrefの大きさは、初期出力電圧目標値Vtとなっている。
【0043】
(第1の手法)
まず、第1の手法は、目標電圧補正値Vaの大きさを固定とするものである。この場合、ステップ107で決定される出力電圧目標値Vrefの大きさ(=Vt+Va)は、常に一定の値となる。例えば図5(a)に示す例では、1番目および4番目の制御周期Tにおける出力電圧目標値Vrefが初期出力電圧目標値Vtとなっているのに対し、2番目、3番目および5番目の制御周期Tにおける出力電圧目標値Vrefは、初期出力電圧目標値Vtと目標補正電圧値Vaとの和になっている。このように、第1の手法では、出力電圧目標値Vrefが2値となる。
【0044】
(第2の手法)
また、第2の手法は、目標電圧補正値Vaの大きさを可変とするが、1制御周期Tあたりの出力電圧目標値Vrefの上昇幅を固定するものである。この場合、ステップ107で決定される出力電圧目標値Vrefの大きさ(=Vt+Va)は、変動し得ることになる。例えば図5(b)に示す例では、1番目および5番目の制御周期Tにおける出力電圧目標値Vrefが初期出力電圧目標値Vtとなっているのに対し、2番目〜4番目の制御周期Tにおける出力電圧目標値Vrefは、初期出力電圧目標値Vtと目標補正電圧値Vaとの和になっている。ただし、上述した第1の手法とは異なり、1制御周期Tあたりの出力電圧目標値Vrefの上昇幅が固定されていることから、1番目の制御周期Tと2番目の制御周期Tとの間での出力電圧目標値Vrefの上昇幅と、2番目の制御周期Tと3番目の制御周期Tとの間での出力電圧目標値Vrefの上昇幅と、3番目の制御周期Tと4番目の制御周期Tとの間での出力電圧目標値Vrefの上昇幅とが同じになっている。このように、第2の手法では、出力電圧目標値Vrefが多値となる。
【0045】
(第3の手法)
さらに、第3の手法は、目標電圧補正値Vaの大きさを可変とし、1制御周期Tあたりの出力電圧目標値Vrefの上昇幅も可変とするものである。この場合、ステップ107で決定される出力電圧目標値Vrefの大きさ(=Vt+Va)は、変動し得ることになる。例えば図5(c)に示す例では、1番目および3番目の制御周期Tにおける出力電圧目標値Vrefが初期出力電圧目標値Vtとなっているのに対し、2番目、4番目および5番目の制御周期Tにおける出力電圧目標値Vrefは、初期出力電圧目標値Vtと目標補正電圧値Vaとの和になっている。ただし、上述した第2の手法とは異なり、1制御周期Tあたりの出力電圧目標値Vrefの上昇幅が固定されていないことから、1番目の制御周期Tと2番目の制御周期Tとの間での出力電圧目標値Vrefの上昇幅と、3番目の制御周期Tと4番目の制御周期Tとの間での出力電圧目標値Vrefの上昇幅とが異なっている。このように、第3の手法では、出力電圧目標値Vrefが多値となる。
【0046】
(出力電圧目標値の上限)
図4に示すステップ107において、出力電圧目標値Vrefを初期出力電圧目標値Vtと目標補正電圧値Vaとの和(Vref=Vt+Va)に設定する場合、出力電圧目標値Vrefの大きさは、直流電圧変換回路52およびインバータ回路53を構成する各素子の耐圧を考慮して決定することが望ましい。出力電圧目標値Vrefの大きさの目安としては、直流電圧変換回路52およびインバータ回路53のそれぞれに設けられるスイッチング素子の耐圧の75%以下であって、それぞれに設けられるコンデンサの耐圧の90%程度であることが望ましい。ただし、これらの数値に限定されるものではない。
【0047】
[本実施の形態の効果]
直流電圧変換回路52を有しない従来の電源装置では、インバータ回路53の機能によって、被溶接物200に実際に流れる出力電流値Ioの上限が定められていた。このため、出力電流値Ioが出力電流目標値Irefに対して不足する場合であっても、さらなる電流の供給が困難となることがあった。
【0048】
これに対し、本実施の形態では、一次整流回路51とインバータ回路53との間に直流電圧変換回路52を設け、インバータ回路53における電流制御での限界値を超えて電圧を出力できるようにした。これにより、例えば、負荷のインダクタンス値が大きくとも、十分な応答性を持った電流変化を実現することができる。また、出力電流値Ioをある程度以上大きくしたいときにだけ直流電圧変換回路52の出力電圧(直流電圧)を高くするようにしたので、溶接用電源装置50における無負荷電圧の上昇を抑制することができる。
【0049】
<実施の形態2>
実施の形態1では、実測した溶接用電源装置50の出力電流値Ioに基づいて、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値Vrefを決定していた。これに対し、本実施の形態では、制御周期T毎に定められる溶接用電源装置50の出力電流目標値Irefに基づいて、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値Vrefを決定するようにしたものである。なお、本実施の形態において、実施の形態1と同様のものについては、同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0050】
[制御回路の動作]
図6は、本実施の形態の制御回路57の動作を説明するためのフローチャートである。
なお、初期状態において、二次整流回路55の出力電流(直流電流)の目標値は、出力電流目標値Irefに設定されているものとする。ただし、本実施の形態では、現在(n制御周期目とする)の出力電流目標値Irefである「今回の出力電流目標値Iref(n)」と、現在の1制御周期前となるn−1制御周期目の出力電流目標値Irefである「前回の出力電流目標値Iref(n-1)」とが存在し、格納部575にパラメータとして格納されているものとする。ここで、前者の「今回の出力電流目標値Iref(n)」は、今回の目標値の一例であり後者の「前回の出力電流目標値Iref(n-1)」は、前回の目標値の一例である。
【0051】
溶接システム1において溶接が開始されると、電流演算部571は、格納部575から読み出した、今回の出力電流目標値Iref(n)と前回の出力電流目標値Iref(n-1)とのずれである差分ΔI2(=Iref(n)−Iref(n-1))を算出する(ステップ201)。
【0052】
次に、昇圧フラグ設定部572は、ステップ201で算出された差分ΔI2が、予め定められた第4の閾値Ith4以上(ΔI2≧Ith4)となっているか否かを判断する(ステップ202)。ここで、第4の閾値Ith4は、予め決められた数値であって、格納部575にパラメータとして格納されている。
【0053】
ステップ202で肯定の判断(YES)を行った場合、すなわち、差分ΔI2が第4の閾値Ith4以上であった場合、昇圧フラグ設定部572は、格納部575から昇圧フラグを読み出すととともに、読み出した昇圧フラグが「OFF」であるか否かを判断する(ステップ203)。ステップ203で否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、昇圧フラグが「ON」であった場合は、後述するステップ206へと進む。
【0054】
一方、ステップ203で肯定の判断(YES)を行った場合、すなわち、昇圧フラグが「OFF」であった場合、昇圧フラグ設定部572は、ステップ201で算出された差分ΔI2が、予め定められた第3の閾値Ith3以上(ΔI2≧Ith3)となっているか否かを判断する(ステップ204)。ここで、第3の閾値Ith3は、予め決められた数値であって、格納部575にパラメータとして格納されている。また、第3の閾値Ith3は、ステップ202で用いた第4の閾値Ith4よりも大(Ith3>Ith4)となる関係を有している。ステップ204で否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、差分Δ2が第3の閾値Ith3未満であった場合は、後述するステップ208へと進む。
【0055】
これに対し、ステップ204で肯定の判断(YES)を行った場合、すなわち、差分ΔI2が第3の閾値Ith3以上であった場合、昇圧フラグ設定部572は、昇圧フラグを「ON」に設定し(ステップ205)、格納部575に格納する。
【0056】
また、ステップ203で否定の判断(NO)を行った場合、および、ステップ205において昇圧フラグを「ON」に設定した場合、換言すれば、昇圧フラグが「ON」となっている状態において、電圧決定部573は、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値Vrefを、初期出力電圧目標値Vtと目標補正電圧値Vbとの和(Vref=Vt+Vb)に設定する(ステップ206)。そして、後述するステップ209へと進む。なお、目標補正電圧値Vbは正の値をとるが、その決定手法については後述する。
【0057】
一方、ステップ202において否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、差分ΔI2が第4の閾値Ith4未満であった場合、昇圧フラグ設定部572は、昇圧フラグを「OFF」に設定し(ステップ207)、格納部575に格納する。
【0058】
また、ステップ204で否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、差分ΔI2が第3の閾値Ith3未満であった場合、および、ステップ207で昇圧フラグを「OFF」に設定した場合、換言すれば、昇圧フラグが「OFF」となっている状態において、電圧決定部573は、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値Vrefを、初期出力電圧目標値Vt(Vref=Vt)に設定する(ステップ208)。そして、後述するステップ209へと進む。
【0059】
それから、制御指令値出力部574は、電圧決定部573から入力されてくる、ステップ206あるいはステップ208で決定された出力電圧目標値Vrefに基づき、直流電圧変換回路52用の制御指令値を作成し、直流電圧変換回路52へ出力する(ステップ209)。このとき、制御指令値出力部574は、直流電圧変換回路52の出力電圧が出力電圧目標値Vrefとなるように、直流電圧変換回路52用の制御指令値を作成する。なお、直流電圧変換回路52用の制御指令値は、直流電圧変換回路52を構成するスイッチング素子(ここではパワートランジスタ)をオン・オフ制御するためのデータ(デューティ比等)を含んでいる。
【0060】
また、制御指令値出力部574は、上記出力電圧目標値Vrefに基づき、インバータ回路53用の制御指令値を作成し、インバータ回路53へ出力する(ステップ210)。このとき、制御指令値出力部574は、ステップ209における直流電圧変換回路52の出力電圧の調整に合わせて、インバータ回路53用の制御指令値を作成する。なお、インバータ回路53用の制御指令値は、インバータ回路53を構成するスイッチング素子(ここではIGBT)をオン・オフ制御するためのデータ(デューティ比等)を含んでいる。
【0061】
そして、制御指令値出力部574は、上記出力電圧目標値Vrefに基づいて出力電流目標値Irefを更新し(ステップ211)、格納部575に書き込む。このとき、ステップ201で今回の出力電流目標値Iref(n)として使用されたものが、前回の出力電流目標値Iref(n-1)として更新され、新たに作成されたものが、今回の出力電流目標値Iref(n)として更新される。
【0062】
その後、溶接システム1における溶接が終了したか否かが判断され(ステップ212)、否定の判断(NO)を行った場合はステップ201へと戻って処理を続行し、肯定の判断(YES)を行った場合は一連の処理を完了する。なお、本実施の形態では、溶接システム1において溶接が行われている間、ステップ201からステップ212へと至る処理が、一定の周期で繰り返し実行される。本実施の形態では、ステップ201からステップ212へと至る処理にかかる時間が、制御周期Tとなる。
【0063】
[目標電圧補正値の設定手法]
本実施の形態における目標電圧補正値Vbの設定手法は、基本的に、実施の形態1における目標電圧補正値Vaの設定手法と同じである。したがって、図5(a)〜(c)に示した3つの手法(第1の手法〜第3の手法:ただし、図5に示す「Va」を「Vb」に読み替えること)のいずれかを採用することが可能である。
【0064】
[本実施の形態の効果]
実施の形態1では、被溶接物200に実際に流れる出力電流値Ioに基づいて、直流電圧変換回路52等の制御を行っていた。この場合、出力電流値Ioが不足する状態が発生しないと、出力電流値Ioを充足させるための制御は行えない。
【0065】
これに対し、本実施の形態では、出力電流目標値Irefの履歴を用いて、予測制御を行うようにした。これにより、実際に出力電流値Ioの不足が検出されることを待つことなく、前もって、インバータ回路53における電流制御での限界値を超えて電圧を出力することが可能になる。
【符号の説明】
【0066】
1…溶接システム、5…商用交流電源、10…溶接トーチ、20…ロボットアーム、30…ワイヤ送給装置、40…シールドガス供給装置、50…溶接用電源装置、51…一次整流回路、52…直流電圧変換回路、53…インバータ回路、54…変圧器、55…二次整流回路、56…出力電流検出回路、57…制御回路、60…ロボット制御装置、100…溶接ワイヤ、200…被溶接物
図1
図2
図3
図4
図5
図6