(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御回路は、前記直流電圧変換回路の出力電圧を上昇する制御を行う際、1制御周期当たりの当該直流電圧変換回路の電圧上昇幅を一定値とすることを特徴とする請求項1または2記載の溶接用電源装置。
前記制御回路は、前記直流電圧変換回路の出力電圧を上昇する制御を行う際、1制御周期当たりの当該直流電圧変換回路の電圧上昇幅を可変とすることを特徴とする請求項1または2記載の溶接用電源装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<実施の形態1>
[溶接システムの構成]
図1は、本発明の実施の形態に係る溶接システム1の概略構成を示す図である。この溶接システム1は、消耗電極式(溶極式)のガスシールドアーク溶接法によって、被溶接物200の溶接を行うものである。
【0013】
この溶接システム1は、溶接ワイヤ100を用いて被溶接物200を溶接する溶接トーチ10と、溶接トーチ10を保持するとともに溶接トーチ10の位置や姿勢を設定するロボットアーム20とを備えている。また、溶接システム1は、溶接トーチ10に溶接ワイヤ100を送給するワイヤ送給装置30と、溶接トーチ10にシールドガス(例えば炭酸ガス)を供給するシールドガス供給装置40とを備えている。さらに、溶接システム1は、溶接トーチ10を介して溶接ワイヤ100および被溶接物200に直流の溶接電流の供給を行うとともに溶接電流を制御する溶接用電源装置50と、ロボットアーム20を制御するロボット制御装置60とを備えている。なお、ここでは詳細な説明を行わないが、溶接用電源装置50は、溶接電流の他に、溶接速度や溶接ワイヤ100の送給速度等の制御も行っている。
【0014】
[溶接用電源装置の構成]
図2は、溶接システム1における溶接用電源装置50の概略構成を示す図である。ただし、
図2は、溶接用電源装置50のうち、溶接電流の供給および制御に関連する構成要素を示している。
【0015】
溶接用電源装置50は、商用交流電源5から供給されてくる三相交流電力に各種処理を施すことによって直流電力に変換し、溶接トーチ10および被溶接物200(
図1参照)へと供給する。この間、溶接用電源装置50では、各種電力変換を行うことにより、外部に出力する直流電力の電圧(直流電圧)および電流(直流電流)を調整する。そして、本実施の形態の溶接用電源装置50は、一次整流回路51と、直流電圧変換回路52と、インバータ回路53と、変圧器54と、二次整流回路55と、出力電流検出回路56と、制御回路57とを備えている。
【0016】
(一次整流回路)
一次整流回路51は、入力側が商用交流電源5に接続されており、出力側が直流電圧変換回路52に接続されている。この一次整流回路51は、商用交流電源5から入力されてくる三相交流電圧(例えば三相200V:60Hz)を、整流および平滑化することで直流電圧(例えば300V)に変換する。この一次整流回路51は、三相全波整流回路等で構成することができる。また、一次整流回路51の出力側には、必要に応じて平滑コンデンサを並列に接続してもよい。
【0017】
(直流電圧変換回路)
直流電圧変換回路52は、入力側が一次整流回路51に接続されており、出力側がインバータ回路53に接続されている。この直流電圧変換回路52は、一次整流回路51から入力されてくる直流電圧を、より電圧値の高い直流電圧に変換する。ただし、この直流電圧変換回路52は、一次整流回路51から入力されてくる直流電圧を、必要に応じてそのまま(同じ電圧値のまま)出力することもできる。この直流電圧変換回路52は、パワートランジスタ等のスイッチング素子を含む各種チョッパ回路や、さらに変圧器を含むDC/DCコンバータ等で構成することができる。
【0018】
(インバータ回路)
インバータ回路53は、入力側が直流電圧変換回路52に接続されており、出力側が変圧器54に接続されている。このインバータ回路53は、直流電圧変換回路52から入力されてくる直流電圧を、上記商用交流電源5よりも周波数の高い交流電圧に変換する。このインバータ回路53は、パワートランジスタ等のスイッチング素子を含む各種インバータ等で構成することができる。また、本実施の形態のインバータ回路53は、例えばPWM(Pulse Width Modulation)制御によって動作する。
【0019】
(変圧器)
変圧器54は、入力側がインバータ回路53に接続されており、出力側が二次整流回路55に接続されている。そして、変圧器54からみて入力側(図中左側)が一次側に、変圧器54からみて出力側(図中右側)が二次側になっている。この変圧器54は、インバータ回路53から入力されてくる交流電圧(一次側電圧)を、より電圧値の低い交流電圧(二次側電圧)に変換する。この変圧器54は、単相トランス等で構成することができる。
【0020】
(二次整流回路)
二次整流回路55は、入力側が変圧器54に接続されており、出力側の正極は溶接トーチ10(
図1参照)に、出力側の負極は出力電流検出回路56に、それぞれ接続されている。この二次整流回路55は、変圧器54から入力されてくる交流電圧を、整流および平滑化することで直流電圧に変換する。この二次整流回路55は、変圧器54における二次側のセンタータップ(図示せず)を利用する、センタータップ型全波整流回路等で構成することができる。また、二次整流回路55の出力側の正極には、必要に応じて直流リアクトルを直列に接続してもよい。
【0021】
(出力電流検出回路)
出力電流検出回路56は、入力側が二次整流回路55に接続されており、出力側が被溶接物200(
図1参照)に接続されている。この出力電流検出回路56は、溶接トーチ10から溶接ワイヤ100およびアークを介して被溶接物200に流れる、溶接電流(出力電流)の大きさである、検出値の一例としての出力電流値I
oを検出する。
【0022】
(制御回路)
制御回路57は、出力電流検出回路56が検出した出力電流値I
oに基づき、直流電圧変換回路52およびインバータ回路53の動作を制御する。
【0023】
[制御回路の構成]
図3は、制御回路57の概略構成を示す図である。
この制御回路57は、電流演算部571と、昇圧フラグ設定部572と、電圧決定部573と、制御指令値出力部574と、格納部575とを備えている。
【0024】
(電流演算部)
電流演算部571は、出力電流検出回路56から入力されてくる出力電流値I
oを用いて、出力電流の目標値の一例である出力電流目標値I
refに関する演算処理を行い、得られた演算結果を昇圧フラグ設定部572に出力する。
【0025】
(昇圧フラグ設定部)
昇圧フラグ設定部572は、電流演算部571から入力されてくる演算結果に基づき、直流電圧変換回路52の出力電圧(直流電圧)を昇圧させるか否かを判断するための基準となるフラグ(昇圧フラグと称する)の設定を行い、その結果を格納部575に書き込む。また、昇圧フラグ設定部572は、格納部575に書き込まれた昇圧フラグを読み出す。ここで、本実施の形態では、昇圧フラグとして、昇圧すべき場合には「ON(1)」が、昇圧すべきでない場合には「OFF(0)」が、それぞれ設定されるようになっている。
【0026】
(電圧決定部)
電圧決定部573は、昇圧フラグ設定部572から入力されてくる昇圧フラグの状態に基づき、直流電圧変換回路52の出力電圧(直流電圧)の目標値である出力電圧目標値V
refを決定する。
【0027】
(制御指令値出力部)
制御指令値出力部574は、電圧決定部573から入力されてくる出力電圧目標値V
refに基づき、直流電圧変換回路52およびインバータ回路53のそれぞれに対する制御指令値を作成するとともに、直流電圧変換回路52とインバータ回路53とに、それぞれの制御指令値を出力する。
【0028】
(格納部)
格納部575は、電流演算部571および電圧決定部573で使用する各種パラメータや、各種演算結果等を格納する。また、格納部575は、昇圧フラグ設定部572が設定する昇圧フラグを格納する。
【0029】
[制御回路の動作]
図4は、本実施の形態の制御回路57の動作を説明するためのフローチャートである。
なお、初期状態において、二次整流回路55の出力電流(直流電流)の目標値は、出力電流目標値I
refに設定されているものとする。また、初期状態において、直流電圧変換回路52の出力電圧(直流電圧)の目標値である出力電圧目標値V
refは、初期出力電圧目標値V
tに設定されているものとする。ここで、初期出力電圧目標値V
tは、出力電流目標値I
refに基づいて決まる。なお、これら出力電流目標値I
refおよび初期出力電圧目標値V
tは、格納部575にパラメータとして格納されている。また、初期状態において、格納部575に格納される昇圧フラグは、「OFF」に設定されているものとする。
【0030】
溶接システム1において溶接が開始されると、電流演算部571は、出力電流検出回路56から入力されてくる出力電流値I
oを読み込む(ステップ101)。続いて、電流演算部571は、格納部575から読み出した出力電流目標値I
refと、出力電流検出回路56から入力されてきた出力電流値I
oとのずれである差分ΔI
1(=I
ref−I
o)を算出する(ステップ102)。
【0031】
次に、昇圧フラグ設定部572は、ステップ102で算出された差分ΔI
1が、予め定められた第2の閾値I
th2以上(ΔI
1≧I
th2)となっているか否かを判断する(ステップ103)。ここで、第2の閾値I
th2は、予め決められた数値であって、格納部575にパラメータとして格納されている。
【0032】
ステップ103で肯定の判断(YES)を行った場合、すなわち、差分ΔI
1が第2の閾値I
th2以上であった場合、昇圧フラグ設定部572は、格納部575から昇圧フラグを読み出すととともに、読み出した昇圧フラグが「OFF」であるか否かを判断する(ステップ104)。ステップ104で否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、昇圧フラグが「ON」であった場合は、後述するステップ107へと進む。
【0033】
一方、ステップ104で肯定の判断(YES)を行った場合、すなわち、昇圧フラグが「OFF」であった場合、昇圧フラグ設定部572は、ステップ102で算出された差分ΔI
1が、予め定められた第1の閾値I
th1以上(ΔI
1≧I
th1)となっているか否かを判断する(ステップ105)。ここで、第1の閾値I
th1は、予め決められた数値であって、格納部575にパラメータとして格納されている。また、第1の閾値I
th1は、ステップ103で用いた第2の閾値I
th2よりも大(I
th1>I
th2)となる関係を有している。ステップ105で否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、差分ΔI
1が第1の閾値I
th1未満であった場合は、後述するステップ109へと進む。
【0034】
これに対し、ステップ105で肯定の判断(YES)を行った場合、すなわち、差分ΔI
1が第1の閾値I
th1以上であった場合、昇圧フラグ設定部572は、昇圧フラグを「ON」に設定し(ステップ106)、格納部575に格納する。
【0035】
また、ステップ104で否定の判断(NO)を行った場合、および、ステップ106において昇圧フラグを「ON」に設定した場合、換言すれば、昇圧フラグが「ON」となっている状態において、電圧決定部573は、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値V
refを、初期出力電圧目標値V
tと目標補正電圧値V
aとの和(V
ref=V
t+V
a)に設定する(ステップ107)。そして、後述するステップ110へと進む。なお、目標補正電圧値V
aは正の値をとるが、その決定手法については後述する。
【0036】
一方、ステップ103において否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、差分ΔI
1が第2の閾値I
th2未満であった場合、昇圧フラグ設定部572は、昇圧フラグを「OFF」に設定し(ステップ108)、格納部575に格納する。
【0037】
また、ステップ105で否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、差分ΔI
1が第1の閾値I
th1未満であった場合、および、ステップ108で昇圧フラグを「OFF」に設定した場合、換言すれば、昇圧フラグが「OFF」となっている状態において、電圧決定部573は、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値V
refを、初期出力電圧目標値V
t(V
ref=V
t)に設定する(ステップ109)。そして、後述するステップ110へと進む。
【0038】
それから、制御指令値出力部574は、電圧決定部573から入力されてくる、ステップ107あるいはステップ109で決定された出力電圧目標値V
refに基づき、直流電圧変換回路52用の制御指令値を作成し、直流電圧変換回路52へ出力する(ステップ110)。このとき、制御指令値出力部574は、直流電圧変換回路52の出力電圧が出力電圧目標値V
refとなるように、直流電圧変換回路52用の制御指令値を作成する。なお、直流電圧変換回路52用の制御指令値は、直流電圧変換回路52を構成するスイッチング素子(ここではパワートランジスタ)をオン・オフ制御するためのデータ(デューティ比等)を含んでいる。
【0039】
また、制御指令値出力部574は、上記出力電圧目標値V
refに基づき、インバータ回路53用の制御指令値を作成し、インバータ回路53へ出力する(ステップ111)。このとき、制御指令値出力部574は、ステップ110における直流電圧変換回路52の出力電圧の調整に合わせて、インバータ回路53用の制御指令値を作成する。なお、インバータ回路53用の制御指令値は、インバータ回路53を構成するスイッチング素子(ここではIGBT)をオン・オフ制御するためのデータ(デューティ比等)を含んでいる。
【0040】
そして、制御指令値出力部574は、上記出力電圧目標値V
refに基づいて出力電流目標値I
refを更新し(ステップ112)、格納部575に書き込む。
【0041】
その後、溶接システム1における溶接が終了したか否かが判断され(ステップ113)、否定の判断(NO)を行った場合はステップ101へと戻って処理を続行し、肯定の判断(YES)を行った場合は一連の処理を完了する。なお、本実施の形態では、溶接システム1において溶接が行われている間、ステップ101からステップ113へと至る処理が、一定の周期で繰り返し実行される。本実施の形態では、ステップ101からステップ113へと至る処理にかかる時間を、制御周期Tと称する。
【0042】
[目標電圧補正値の設定手法]
では、
図4に示すステップ107で、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値V
refの算出に用いられる、目標電圧補正値V
aの設定手法について説明を行う。
図5は、直流電圧変換回路52の目標電圧補正値V
aの設定手法を説明するための図である。ここで、
図5(a)は第1の設定手法を説明するための図であり、
図5(b)は第2の設定手法を説明するための図であり、
図5(c)は第3の設定手法を説明するための図である。
図5(a)〜(c)のそれぞれにおいて、横軸は経過時間tであり、縦軸は出力電圧目標値V
refである。また、
図5(a)〜(c)のそれぞれの横軸には、制御周期Tを併せて示している(5周期分)。そして、
図5(a)〜(c)のそれぞれにおいて、最初の出力電圧目標値V
refの大きさは、初期出力電圧目標値V
tとなっている。
【0043】
(第1の手法)
まず、第1の手法は、目標電圧補正値V
aの大きさを固定とするものである。この場合、ステップ107で決定される出力電圧目標値V
refの大きさ(=V
t+V
a)は、常に一定の値となる。例えば
図5(a)に示す例では、1番目および4番目の制御周期Tにおける出力電圧目標値V
refが初期出力電圧目標値V
tとなっているのに対し、2番目、3番目および5番目の制御周期Tにおける出力電圧目標値V
refは、初期出力電圧目標値V
tと目標補正電圧値V
aとの和になっている。このように、第1の手法では、出力電圧目標値V
refが2値となる。
【0044】
(第2の手法)
また、第2の手法は、目標電圧補正値V
aの大きさを可変とするが、1制御周期Tあたりの出力電圧目標値V
refの上昇幅を固定するものである。この場合、ステップ107で決定される出力電圧目標値V
refの大きさ(=V
t+V
a)は、変動し得ることになる。例えば
図5(b)に示す例では、1番目および5番目の制御周期Tにおける出力電圧目標値V
refが初期出力電圧目標値V
tとなっているのに対し、2番目〜4番目の制御周期Tにおける出力電圧目標値V
refは、初期出力電圧目標値V
tと目標補正電圧値V
aとの和になっている。ただし、上述した第1の手法とは異なり、1制御周期Tあたりの出力電圧目標値V
refの上昇幅が固定されていることから、1番目の制御周期Tと2番目の制御周期Tとの間での出力電圧目標値V
refの上昇幅と、2番目の制御周期Tと3番目の制御周期Tとの間での出力電圧目標値V
refの上昇幅と、3番目の制御周期Tと4番目の制御周期Tとの間での出力電圧目標値V
refの上昇幅とが同じになっている。このように、第2の手法では、出力電圧目標値V
refが多値となる。
【0045】
(第3の手法)
さらに、第3の手法は、目標電圧補正値V
aの大きさを可変とし、1制御周期Tあたりの出力電圧目標値V
refの上昇幅も可変とするものである。この場合、ステップ107で決定される出力電圧目標値V
refの大きさ(=V
t+V
a)は、変動し得ることになる。例えば
図5(c)に示す例では、1番目および3番目の制御周期Tにおける出力電圧目標値V
refが初期出力電圧目標値V
tとなっているのに対し、2番目、4番目および5番目の制御周期Tにおける出力電圧目標値V
refは、初期出力電圧目標値V
tと目標補正電圧値V
aとの和になっている。ただし、上述した第2の手法とは異なり、1制御周期Tあたりの出力電圧目標値V
refの上昇幅が固定されていないことから、1番目の制御周期Tと2番目の制御周期Tとの間での出力電圧目標値V
refの上昇幅と、3番目の制御周期Tと4番目の制御周期Tとの間での出力電圧目標値V
refの上昇幅とが異なっている。このように、第3の手法では、出力電圧目標値V
refが多値となる。
【0046】
(出力電圧目標値の上限)
図4に示すステップ107において、出力電圧目標値V
refを初期出力電圧目標値V
tと目標補正電圧値V
aとの和(V
ref=V
t+V
a)に設定する場合、出力電圧目標値V
refの大きさは、直流電圧変換回路52およびインバータ回路53を構成する各素子の耐圧を考慮して決定することが望ましい。出力電圧目標値V
refの大きさの目安としては、直流電圧変換回路52およびインバータ回路53のそれぞれに設けられるスイッチング素子の耐圧の75%以下であって、それぞれに設けられるコンデンサの耐圧の90%程度であることが望ましい。ただし、これらの数値に限定されるものではない。
【0047】
[本実施の形態の効果]
直流電圧変換回路52を有しない従来の電源装置では、インバータ回路53の機能によって、被溶接物200に実際に流れる出力電流値I
oの上限が定められていた。このため、出力電流値I
oが出力電流目標値I
refに対して不足する場合であっても、さらなる電流の供給が困難となることがあった。
【0048】
これに対し、本実施の形態では、一次整流回路51とインバータ回路53との間に直流電圧変換回路52を設け、インバータ回路53における電流制御での限界値を超えて電圧を出力できるようにした。これにより、例えば、負荷のインダクタンス値が大きくとも、十分な応答性を持った電流変化を実現することができる。また、出力電流値I
oをある程度以上大きくしたいときにだけ直流電圧変換回路52の出力電圧(直流電圧)を高くするようにしたので、溶接用電源装置50における無負荷電圧の上昇を抑制することができる。
【0049】
<実施の形態2>
実施の形態1では、実測した溶接用電源装置50の出力電流値I
oに基づいて、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値V
refを決定していた。これに対し、本実施の形態では、制御周期T毎に定められる溶接用電源装置50の出力電流目標値I
refに基づいて、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値V
refを決定するようにしたものである。なお、本実施の形態において、実施の形態1と同様のものについては、同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0050】
[制御回路の動作]
図6は、本実施の形態の制御回路57の動作を説明するためのフローチャートである。
なお、初期状態において、二次整流回路55の出力電流(直流電流)の目標値は、出力電流目標値I
refに設定されているものとする。ただし、本実施の形態では、現在(n制御周期目とする)の出力電流目標値I
refである「今回の出力電流目標値I
ref(n)」と、現在の1制御周期前となるn−1制御周期目の出力電流目標値I
refである「前回の出力電流目標値I
ref(n-1)」とが存在し、格納部575にパラメータとして格納されているものとする。ここで、前者の「今回の出力電流目標値I
ref(n)」は、今回の目標値の一例であり後者の「前回の出力電流目標値I
ref(n-1)」は、前回の目標値の一例である。
【0051】
溶接システム1において溶接が開始されると、電流演算部571は、格納部575から読み出した、今回の出力電流目標値I
ref(n)と前回の出力電流目標値I
ref(n-1)とのずれである差分ΔI
2(=I
ref(n)−I
ref(n-1))を算出する(ステップ201)。
【0052】
次に、昇圧フラグ設定部572は、ステップ201で算出された差分ΔI
2が、予め定められた第4の閾値I
th4以上(ΔI
2≧I
th4)となっているか否かを判断する(ステップ202)。ここで、第4の閾値I
th4は、予め決められた数値であって、格納部575にパラメータとして格納されている。
【0053】
ステップ202で肯定の判断(YES)を行った場合、すなわち、差分ΔI
2が第4の閾値I
th4以上であった場合、昇圧フラグ設定部572は、格納部575から昇圧フラグを読み出すととともに、読み出した昇圧フラグが「OFF」であるか否かを判断する(ステップ203)。ステップ203で否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、昇圧フラグが「ON」であった場合は、後述するステップ206へと進む。
【0054】
一方、ステップ203で肯定の判断(YES)を行った場合、すなわち、昇圧フラグが「OFF」であった場合、昇圧フラグ設定部572は、ステップ201で算出された差分ΔI
2が、予め定められた第3の閾値I
th3以上(ΔI
2≧I
th3)となっているか否かを判断する(ステップ204)。ここで、第3の閾値I
th3は、予め決められた数値であって、格納部575にパラメータとして格納されている。また、第3の閾値I
th3は、ステップ202で用いた第4の閾値I
th4よりも大(I
th3>I
th4)となる関係を有している。ステップ204で否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、差分Δ
2が第3の閾値I
th3未満であった場合は、後述するステップ208へと進む。
【0055】
これに対し、ステップ204で肯定の判断(YES)を行った場合、すなわち、差分ΔI
2が第3の閾値I
th3以上であった場合、昇圧フラグ設定部572は、昇圧フラグを「ON」に設定し(ステップ205)、格納部575に格納する。
【0056】
また、ステップ203で否定の判断(NO)を行った場合、および、ステップ205において昇圧フラグを「ON」に設定した場合、換言すれば、昇圧フラグが「ON」となっている状態において、電圧決定部573は、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値V
refを、初期出力電圧目標値V
tと目標補正電圧値V
bとの和(V
ref=V
t+V
b)に設定する(ステップ206)。そして、後述するステップ209へと進む。なお、目標補正電圧値V
bは正の値をとるが、その決定手法については後述する。
【0057】
一方、ステップ202において否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、差分ΔI
2が第4の閾値I
th4未満であった場合、昇圧フラグ設定部572は、昇圧フラグを「OFF」に設定し(ステップ207)、格納部575に格納する。
【0058】
また、ステップ204で否定の判断(NO)を行った場合、すなわち、差分ΔI
2が第3の閾値I
th3未満であった場合、および、ステップ207で昇圧フラグを「OFF」に設定した場合、換言すれば、昇圧フラグが「OFF」となっている状態において、電圧決定部573は、直流電圧変換回路52の出力電圧目標値V
refを、初期出力電圧目標値V
t(V
ref=V
t)に設定する(ステップ208)。そして、後述するステップ209へと進む。
【0059】
それから、制御指令値出力部574は、電圧決定部573から入力されてくる、ステップ206あるいはステップ208で決定された出力電圧目標値V
refに基づき、直流電圧変換回路52用の制御指令値を作成し、直流電圧変換回路52へ出力する(ステップ209)。このとき、制御指令値出力部574は、直流電圧変換回路52の出力電圧が出力電圧目標値V
refとなるように、直流電圧変換回路52用の制御指令値を作成する。なお、直流電圧変換回路52用の制御指令値は、直流電圧変換回路52を構成するスイッチング素子(ここではパワートランジスタ)をオン・オフ制御するためのデータ(デューティ比等)を含んでいる。
【0060】
また、制御指令値出力部574は、上記出力電圧目標値V
refに基づき、インバータ回路53用の制御指令値を作成し、インバータ回路53へ出力する(ステップ210)。このとき、制御指令値出力部574は、ステップ209における直流電圧変換回路52の出力電圧の調整に合わせて、インバータ回路53用の制御指令値を作成する。なお、インバータ回路53用の制御指令値は、インバータ回路53を構成するスイッチング素子(ここではIGBT)をオン・オフ制御するためのデータ(デューティ比等)を含んでいる。
【0061】
そして、制御指令値出力部574は、上記出力電圧目標値V
refに基づいて出力電流目標値I
refを更新し(ステップ211)、格納部575に書き込む。このとき、ステップ201で今回の出力電流目標値I
ref(n)として使用されたものが、前回の出力電流目標値I
ref(n-1)として更新され、新たに作成されたものが、今回の出力電流目標値I
ref(n)として更新される。
【0062】
その後、溶接システム1における溶接が終了したか否かが判断され(ステップ212)、否定の判断(NO)を行った場合はステップ201へと戻って処理を続行し、肯定の判断(YES)を行った場合は一連の処理を完了する。なお、本実施の形態では、溶接システム1において溶接が行われている間、ステップ201からステップ212へと至る処理が、一定の周期で繰り返し実行される。本実施の形態では、ステップ201からステップ212へと至る処理にかかる時間が、制御周期Tとなる。
【0063】
[目標電圧補正値の設定手法]
本実施の形態における目標電圧補正値V
bの設定手法は、基本的に、実施の形態1における目標電圧補正値V
aの設定手法と同じである。したがって、
図5(a)〜(c)に示した3つの手法(第1の手法〜第3の手法:ただし、
図5に示す「V
a」を「V
b」に読み替えること)のいずれかを採用することが可能である。
【0064】
[本実施の形態の効果]
実施の形態1では、被溶接物200に実際に流れる出力電流値I
oに基づいて、直流電圧変換回路52等の制御を行っていた。この場合、出力電流値I
oが不足する状態が発生しないと、出力電流値I
oを充足させるための制御は行えない。
【0065】
これに対し、本実施の形態では、出力電流目標値I
refの履歴を用いて、予測制御を行うようにした。これにより、実際に出力電流値I
oの不足が検出されることを待つことなく、前もって、インバータ回路53における電流制御での限界値を超えて電圧を出力することが可能になる。