(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781710
(24)【登録日】2020年10月20日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】ハロゲン化テトラフェニルバクテリオクロリンおよびクロリンのアトロプ異性体、並びに光線力学療法におけるその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/409 20060101AFI20201026BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20201026BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20201026BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20201026BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20201026BHJP
【FI】
A61K31/409
A61P35/00
A61P31/00
A61P33/00
A61K41/00
【請求項の数】12
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2017-550250(P2017-550250)
(86)(22)【出願日】2016年3月18日
(65)【公表番号】特表2018-509454(P2018-509454A)
(43)【公表日】2018年4月5日
(86)【国際出願番号】IB2016051552
(87)【国際公開番号】WO2016151458
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2019年3月12日
(31)【優先権主張番号】108310
(32)【優先日】2015年3月20日
(33)【優先権主張国】PT
(73)【特許権者】
【識別番号】517330793
【氏名又は名称】ルジチン ソシエダージ アノニマ
(73)【特許権者】
【識別番号】511102309
【氏名又は名称】ウニベルシダージ デ コインブラ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE DE COIMBRA
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】フェレイラ ゴンサルヴェス,ヌノ パウロ
(72)【発明者】
【氏名】セルカ マルティンス ドス サントス,タニア パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】ペレイラ ナシメント コスタ,ゴンサーロ
(72)【発明者】
【氏名】ペレイラ モンテイロ,カルロス ジョルジ
(72)【発明者】
【氏名】シャベレ,ファビョ アントーニョ
(72)【発明者】
【氏名】コヘヤ アルファ,ソーニャ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイス デ アブレウ,アルトゥル カルロス
(72)【発明者】
【氏名】ミゲウンス ペレイラ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ダ シルヴァ アルナウト モレイラ,ルイス ギレルメ
【審査官】
深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−506425(JP,A)
【文献】
J. Org. Chem.,1980年,Vol. 45,p. 5215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61P 1/00−43/00
A61K 41/00−41/17
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式のアトロプ異性体またはそれらの薬学的に許容可能な塩を含む薬学的組成物であって、
上記アトロプ異性体またはそれらの薬学的に許容可能な塩の相対量は、上述の薬学的組成物中のアトロプ異性体の合計の70%超である、薬学的組成物:
【化1】
(式中、
【化2】
は、炭素−炭素単結合または炭素−炭素二重結合を表し;
太線は、太線で記載される原子およびそれらに結合した基が、大環状の環によって規定された平面の上側に存在するように立体的に制限されていることを示し;
X
2、X
4、X
6およびX
8は、
Fであり;
X
1、X
3、X
5およびX
7は、
Fまたは水素であり;
R
1、R
2、R
3およびR
4は、独立に、−OH、−ORまたは−SO
2R’’であり(R’’はそれぞれ独立に、−Cl、−OH、−アミノ酸、−OR、−NHRまたは−NR
2から選択され、Rは1〜12個の炭素原子のアルキルであるか、R
2は2〜12個の炭素原子を有するシクロアルキルを表す);
R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立に、H、−OH、−OR、−Clまたは−NHRである(Rは1〜12個の炭素原子のアルキルである))。
【請求項2】
下記式のアトロプ異性体またはその薬学的に許容可能な塩の相対量が上述の薬学的組成物中のアトロプ異性体の合計の20%超である、請求項1に記載の薬学的組成物:
【化3】
(式中、
太線は、太線で記載される原子およびそれらに結合した基が、大環状の環によって規定された平面の上側に存在するように立体的に制限されていることを示し;
X
2は、独立に、
Fから選択され;
X
1は、独立に、
Fまたは水素から選択され;
R’は、−SO
2R’’である(R’’はそれぞれ独立に、−Cl、−OH、−アミノ酸、−OR、−NHRまたは−NR
2から選択され、Rは1〜12個の炭素原子のアルキルであるか、R
2は2〜12個の炭素原子を有するシクロアルキルを表す))。
【請求項3】
下記式のアトロプ異性体またはその薬学的に許容可能な塩の相対量が、上述の薬学的組成物中のアトロプ異性体の合計の60%超であるか、より好ましくは、上述の薬学的組成物中のアトロプ異性体の合計の70%超であるか、より好ましくは、上述の薬学的組成物中のアトロプ異性体の合計の80%超であるか、より好ましくは、上述の薬学的組成物中のアトロプ異性体の合計の90%超であるか、より好ましくは、上述の薬学的組成物中のアトロプ異性体の合計の95%超である、請求項1に記載の薬学的組成物:
【化4】
(式中、
太線は、太線で記載される原子およびそれらに結合した基が、大環状の環によって規定された平面の上側に存在するように立体的に制限されていることを示し;
X
2は、独立に、
Fから選択され;
X
1は、独立に、
Fまたは水素から選択され;
R’は、−SO
2R’’である(R’’はそれぞれ独立に、−Cl、−OH、−アミノ酸、−OR、−NHRまたは−NR
2から選択され、Rは1〜12個の炭素原子のアルキルであるか、R
2は2〜12個の炭素原子を有するシクロアルキルを表す))。
【請求項4】
上記薬学的組成物がさらに薬学的担体を含む、請求項1〜3のいずれか1項に係る薬学的組成物。
【請求項5】
下記式のクロリンまたはバクテリオクロリンアトロプ異性体の混合物の単離工程を含み:
【化5】
(式中、
【化6】
は、炭素−炭素単結合または炭素−炭素二重結合を表し;
太線は、太線で記載される原子およびそれらに結合した基が、大環状の環によって規定された平面の上側に存在するように立体的に制限されていることを示し;
X
2、X
4、X
6およびX
8は、
Fであり;
X
1、X
3、X
5およびX
7は、
Fまたは水素であり;
R
1、R
2、R
3およびR
4は、独立に、−OH、−ORまたは−SO
2R’’であり(R’’はそれぞれ独立に、−Cl、−OH、−アミノ酸、−OR、−NHRまたは−NR
2から選択され、Rは、1〜12個の炭素原子のアルキルであるか、R
2は2〜12個の炭素原子を有するシクロアルキルを表す);
R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立に、H、−OH、−OR、−Clまたは−NHRである(Rは1〜12個の炭素原子のアルキルである));
大環平面の同じ側に基R
1、R
2、R
3またはR
4の大部分を有する上記アトロプ異性体は、選択的沈殿、クロマトグラフィー、溶媒抽出、再結晶、
または熱的もしくは光化学的回転異性
化によって、少なくとも部分的に分離される、請求項1〜4に記載の薬学的組成物を調製する方法。
【請求項6】
まず、高い極性の溶媒にアトロプ異性体混合物を溶解し、それから、当該溶媒へ低い極性の溶媒を添加して、式(I−A)および(I−B)のアトロプ異性体を選択的に沈殿させることにより、クロリンまたはバクテリオクロリンアトロプ異性体の選択的沈殿を達成し、
【化7】
(式中、
【化8】
は、炭素−炭素単結合または炭素−炭素二重結合を表し;
太線は、太線で記載される原子およびそれらに結合した基が、大環状の環によって規定された平面の上側に存在するように立体的に制限されていることを示し;
X
2、X
4、X
6およびX
8は、
Fであり;
X
1、X
3、X
5およびX
7は、
Fまたは水素であり;
R
1、R
2、R
3およびR
4は、独立に、−OH、−ORまたは−SO
2R’’であり(R’’はそれぞれ独立に、−Cl、−OH、−アミノ酸、−OR、−NHRまたは−NR
2から選択され、Rは1〜12個の炭素原子のアルキルであるか、R
2は2〜12個の炭素原子を有するシクロアルキルを表す);
R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立に、H、−OH、−OR、−Clまたは−NHRである(Rは1〜12個の炭素原子のアルキルである));
式(I−C)および(I−D)のアトロプ異性体に富んだ溶液を残し、
【化9】
(式中、
【化10】
は、炭素−炭素単結合または炭素−炭素二重結合を表し;
太線は、太線で記載される原子およびそれらに結合した基が、大環状の環によって規定された平面の上側に存在するように立体的に制限されていることを示し;
X
2、X
4、X
6およびX
8は、
Fであり;
X
1、X
3、X
5およびX
7は、
Fまたは水素であり;
R
1、R
2、R
3およびR
4は、独立に、−OH、−ORまたは−SO
2R’’であり(R’’はそれぞれ独立に、−Cl、−OH、−アミノ酸、−OR、−NHRまたは−NR
2から選択され、Rは1〜12個の炭素原子のアルキルであるか、R
2は2〜12個の炭素原子を有するシクロアルキルを表す);
R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立に、H、−OH、−OR、−Clまたは−NHRである(Rは1〜12個の炭素原子のアルキルである));
上記溶液中の式(I−C)および(I−D)のアトロプ異性体の濃度の合計を、溶液に存在するすべてのアトロプ異性体の濃度の少なくとも70%、より好ましくは、上述の薬学的組成物中のアトロプ異性体の合計の70%超、より好ましくは、上述の薬学的組成物中のアトロプ異性体の合計の80%超、より好ましくは、上述の薬学的組成物中のアトロプ異性体の合計の90%超、より好ましくは、上述の薬学的組成物中のアトロプ異性体の合計の95%超に加える、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記溶媒抽出は、上記クロリンまたはバクテリオクロリンアトロプ異性体混合物を、極性溶媒を用いて溶解する第一の工程;および極性が低い溶媒を添加し、上記極性溶媒を用いて液−液相分離を形成し、極性が最も低いアトロプ異性体を抽出する第二の工程を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
上記再結晶は、母液においてアトロプ異性体組成物に相補的である大環平面の同じ側に基R1、R2、R3またはR4の大部分を有する上記アトロプ異性体を含む結晶の形成を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
上記熱的もしくは光化学的回転異性化が、上記クロリンまたはバクテリオクロリンアトロプ異性体混合物の少なくとも一つのアトロプ異性体を、当該少なくとも一つのアトロプ異性体が高い親和性を有する支持材に好ましくは結合させる第一の工程;および当該支持材にあまり結合しないアトロプ異性体の好ましい回転異性化を促進するために十分な熱的または放射エネルギーを提供する第二の工程を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
上記支持材がシリカゲルであり、上記支持材に結合される上記アトロプ異性体が、下記式を有するアトロプ異性体である、請求項9に記載の方法。
【化11】
【請求項11】
過剰増殖性疾患(癌または癌腫、骨髄腫、乾癬、黄斑変性症、および前癌症状が挙げられるが、これらに限定されない)の光線力学療法における使用のための、請求項1〜4に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
微生物(ウイルス、細菌、リケッチア、マイコプラズマ、原生動物、菌類が挙げられるが、これらに限定されない)または寄生虫(一般的に顕微鏡でなければ見えないか、非常に小さい多細胞無脊椎動物またはそれらの卵もしくは幼形)によって引き起こされる感染症の光線力学療法における使用のための、請求項1〜4に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本願は、ハロゲン化テトラフェニルバクテリオクロリンおよびクロリンのアトロプ異性体に富んだ薬学的組成物、その調製方法および光線力学療法における使用に関する。
【0002】
〔背景技術〕
スルホンアミドテトラフェニルクロリン、および、フェニル基のオルト位にハロゲン原子を有するテトラフェニルバクテリオクロリンは、光線力学療法(PDT)において特に有用な特性を有することが見出された(1−4)。PDTは、光増感薬、その薬によって吸収される波長の光、および、標的組織において活性酸素種(ROS)を生成する分子酸素の使用を組み合わせた治療法である。その治療効果は、ROSによって局所的に生産される酸化ストレスによって媒介される。テトラフェニルポルフィリン、テトラフェニルクロリンおよびテトラフェニルバクテリオクロリンの誘導体は、PDT光増感剤としてしばしば使用される(5)。これらの分子は、束縛回転を伴うフェニル−大環単結合を有する。フェニル基がオルト位にハロゲン原子を含む場合、フェニル基と大環との間の単結合の回転は、妨げられ得るか、または大きく減少し得る。フェニル−大環単結合の回転の立体障害は、原理上、高温によって克服され得るが、ハロゲン化されたテトラフェニルポルフィリン、テトラフェニルクロリンおよびテトラフェニルバクテリオクロリンにおけるこの回転の半減期は、このクラスの分子に存在し得る立体異性体の分離および独立した使用を許容する室温および体温にて、十分に長くなり得る。立体異性体は、キラル原子の結果として最も頻繁に観察される。キラル原子の存在の結果としてもたらされる光学異性体またはジアステレオマーは、生物学的標的と非常に差別化された相互作用を有する薬物の起源として知られている。ハロゲン化されたテトラフェニルバクテリオクロリン、テトラフェニルクロリンおよびテトラフェニルバクテリオクロリンは、大環またはフェニル基上にキラル原子を有さないが、分離可能な立体異性体を有する。これは、束縛されたフェニル−大環単結合が、嵩高い置換基の異なる空間分布を生成し得るためである。それらの分子がオルト位および/またはメタ位に非対称の置換基を含み、フェニル−大環単結合の回転に対する障壁が高い場合、このようなケースとなり得る。ゆっくりとした軸回転の結果としてもたらされる立体異性体は、アトロプ異性体と称される(6)。フェニル基の2つのメタ位における置換基が異なる場合の、ハロゲン化されたテトラフェニルポルフィリンのアトロプ異性体(7−9)。本発明の化合物は、オルト−ハロゲン化テトラフェニルクロリンおよびオルト−ハロゲン化テトラフェニルバクテリオクロリンのアトロプ異性体が分離可能であり、当該アトロプ異性体がPDTの光増感剤として差別化された治療効果を有することの最初の証拠を提示する。
【0003】
単結合の周りの立体構造のみが異なるアトロプ異性体が、劇的に異なる治療結果をもたらす酸化ストレスを生成し得ることは、驚くべきことであり得る。予想外なことに、本発明の発明者らは、大環によって規定された平面の同じ側により嵩高い基(voluminous groups)を有するアトロプ異性体に富んだアトロプ異性体の混合物は、皮下に移植された腫瘍を有するマウスを治癒し得ること(大環の平面の両側において同じ数の嵩高い基を有するアトロプ異性体に富んだ混合物が動物を治癒しない状況であっても)を見出した。フェニル基のメタ置換基の大部分が大環によって規定された平面の同じ側にて大環に結合したアトロプ異性体に富んだアトロプ異性体組成物の、高いPDT有効性は、当該分野の専門家であっても予期できるものではなかった。実際に、テトラフェニルポルフィリンを用いた以前の光毒性の研究では、まさに逆のことが示されたようであった。すなわち、「ピケット・フェンス」テトラフェニルポルフィリンの4つの単離可能なアトロプ異性体は、光増感能において差がないことが示唆されていた(10)。さらに、ベンゾポルフィリン誘導体一酸環Aの2つの位置異性体は、ベルテポルフィンとして知られており、加齢黄斑変性症のPDTにおける光増感剤として臨床的な実務において使用されており、インビトロおよびインビボにおいて同等に有力な、腫瘍細胞の光増感剤である(11)。さらに、ベルテポルフィンの2つの位置異性体はそれぞれ、2つの光学異性体のラセミ混合物からなり、全ての光学異性体は同じ薬理学的活性を有する(12)。当該分野の専門家であれば、利用可能な全てのデータに基づき、任意の光増感剤のアトロプ異性体が、非常によく似た方法で光および酸素と相互作用することを信じ、アトロプ異性体のPDT有効性は非常によく似ているに違いないと結論づける。本発明は、フェニル基の全てのメタ置換基が大環によって規定された平面の同じ側にて大環に結合したアトロプ異性体(アトロプ異性体α
4)に富んだ、PDTにおいて用いるための、ハロゲン化テトラフェニルクロリンまたはハロゲン化テトラフェニルバクテリオクロリンの誘導体のアトロプ異性体の、治療に有益な薬学的組成物を初めて開示する。当該薬学的組成物におけるアトロプ異性体α
4の相対量は、20%以上である。全ての予測に反し、隣接するフェニル環のメタ位における嵩高い置換基が、大環によって規定された平面の反対側にある場合に、最も小さい光活性アトロプ異性体αβαβのインビトロにおけるPDT有効性に比べて、好ましいアトロプ異性体α
4のPDT有効性は、規模が大きいことが実証された。
【0004】
図1は、フェニル環のオルト位にハロゲンを有し、メタ位の1つにスルホンアミド基を有するスルホンアミドハロゲン化テトラフェニルバクテリオクロリンに存在する種々の立体異性体を説明している。
図1に説明された立体異性体の原子の三次元配向性は異なり、フェニル−大環単結合の回転によって相互転換され得る。フェニル環のオルト位にハロゲン原子(F、Cl、Br)が存在するため、そのような相互転換は、室温または体温において非常に遅く、これはそれぞれのアトロプ異性体の分離および個々の使用を可能にする。
図1の分子構造における太線は、太線で記載される原子、およびそれらに結合した基が、大環状の環によって近似的に規定された平面の上側に存在するように立体的に制限されていることを示しており、大環状の環は、水平配列からいくらか歪んでいるにもかかわらず、R’基の制限された空間配向性を規定することが知られている。大環によって規定された平面の同じ側に全てのR’が存在することは、α
4として表され、3つのR’が平面の同じ側にあり、最後のR’が他の側にある場合、アトロプ異性体はα
3βによって表され、2つのR’がそれぞれの側にあり、互いに隣接している場合、アトロプ異性体の表示はα
2β
2であり、最後に、2つのR’がそれぞれの側にあるが、大環の平面に対して交互の位置である場合に、アトロプ異性体の表示はαβαβである。
【0005】
ハロゲン化テトラフェニルポルフィリンのアトロプ異性体は分離可能であり、電磁スペクトルの赤色領域において異なるモル吸収係数を有し得ることが示されている(7、9)。可視スペクトルの他の領域よりもヒトの組織が高い透明性を有する赤色における高いモル吸収係数は、PDTにおいて望ましい特性である。なぜなら、より多くの光を吸収する色素は、ROSを生成する光化学反応のカスケードをより開始しやすいためである。一方、ハロゲン化されたテトラフェニルポルフィリン、テトラフェニルクロリンおよびテトラフェニルバクテリオクロリンは、そのPDT有効性に影響し得る、異なる励起状態寿命を有し得る(13)。通気された溶液における、より短い三重項寿命は、電荷移動相互作用によって媒介されると考えられる分子酸素との強い相互作用と関係する(4)。著しいことに、
図1のアトロプ異性体は、大環の両側に異なる数および異なる配向性の極性基を有しており、その結果、異なる極性を有している。極性、形状および排除モル体積(excluded molecular volume)における差異は、アトロプ異性体を分離するための基準を提供し得るとともに、アトロプ異性体の生物学的活性に影響を与え得る。従って、アトロプ異性体のモル吸収係数、励起状態寿命、極性および排除モル体積における差異は、アトロプ異性体の分子酸素および生物学的標的との相互作用における差異をもたらし得るとともに、これまで明かされていなかったPDT活性における影響を有し得る。さらに、少なくとも上述の議論に基づけば、高いモル吸収係数を有するアトロプ異性体は、光線力学療法において、より効果的であると、当業者は予測するであろう。しかしながら、驚くべきことに、光線力学療法において最も効率的であることが示された本発明のアトロプ異性体は、より多くの光を吸収するアトロプ異性体ではない。
【0006】
テトラフェニルバクテリオクロリンは比較的不安定であり(14、15)、それらのアトロプ異性体の分離が費用効率の良い手順によって実現可能であることは予期されていなかった。フェニル環のオルト位におけるハロゲン原子の導入は、フェニル−大環結合の回転を妨げるとともに、大環を酸化に対して安定させる。従って、ハロゲン化テトラフェニルバクテリオクロリンは、高いフェニル−大環回転障壁およびテトラフェニルポルフィリンと同程度の酸化電位を伴う、独特な、安定したアトロプ異性体を有する。これらの特性は、室温と同等、またはそれ以上の温度で、光および酸素の存在下にて、ハロゲン化テトラフェニルバクテリオクロリンのアトロプ異性体の分離を可能にする。従って、そのようなアトロプ異性体の分離は、費用効率が良い。
【0007】
光増感剤を生成し得る種々のROSがある。適切な波長の光および分子酸素の存在下にてバクテリオクロリンによって生成される最も重要なROSは、一重項酸素(すなわち、分子酸素の、最も低い電子励起状態)、スーパーオキシドイオン、過酸化水素およびヒドロキシルラジカルである(16)。ヒドロキシルラジカルは、これらのROSのなかで最もよく反応する。ヒドロキシルラジカルは、広い範囲の生物学的標的と反応することができ、光増感剤とも反応してその退色(bleaching)をもたらし得る。電子的に励起された光増感剤は、分子酸素と接触した場合にROSを生成する非常に特別な触媒であると見なされ得る。しかしながら、光増感剤がROSによって退色される場合、それ以上のROSを生成することはできない。従って、光増感剤の有効性は、光増感剤の、分子酸素と強く相互作用する能力と、退色されることなく相互作用を切り抜ける能力との間の繊細なバランスによって与えられる(4)。アトロプ異性体α
4、α
3β、α
2β
2およびαβαβのメタ置換基の異なる空間配向性は、明白な、疑いのない分子酸素との相互作用を提供し得る。本発明は、アトロプ異性体α
4、α
3β、α
2β
2およびαβαβが、異なる三重項寿命および/または光分解量子収量を示す分子酸素および/またはROSとの差別化された相互作用を有することを初めて実証した。これらの差異は、アトロプ異性体の差別化されたPDT活性を説明し得る。
【0008】
〔本発明の要旨〕
本発明に開示される、α
4アトロプ異性体、α
3βアトロプ異性体ならびにα
4アトロプ異性体およびα
3βアトロプ異性体に富んだ薬学的組成物の分離は、アトロプ異性体が異なるPDT活性を有し、それらの違いは、PDTの治療的結果を向上させるために活用され得る、という最初の証拠である。「濃縮されたアトロプ異性体化合物(Enriched atropisomer compound)」は、合成において得られる統計学的アトロプ異性体混合物(statistical atropisomer mixture)中に存在する、光活性が低いαβαβおよびα
2β
2アトロプ異性体を部分的に除去するために精製された、ハロゲン化テトラフェニルクロリンおよびハロゲン化テトラフェニルバクテリオクロリンの合成において得られる、アトロプ異性体の混合物と理解される。ここで、上記テトラフェニルクロリンおよびテトラフェニルバクテリオクロリンは、フェニル基のオルト位の少なくとも一つに水素原子を有するか、両方のオルト位が水素原子に占有される場合は、フェニル基の2つのメタ位には異なる置換基を有する。
【0009】
本発明は、高いPDT活性を有する光活性化合物の新たなセットを提供するアトロプ異性体α
4およびα
3βに富んだ薬学的組成物の調製のための方法を提供する。大環によって規定された平面の同じ側に半分以上のR’基を有する、
図1のアトロプ異性体が、組成物中に存在するアトロプ異性体の総量の70%超を構成する、薬学的組成物が含まれる。
【0010】
本発明の薬学的組成物の調製の方法は、室温における(または室温より高い温度における)、(おそらく光および酸素の存在下での)溶解性、分配係数、適切な溶媒の違い、またはクロマトグラフィーにおける滞留時間の違いを用いて、ハロゲン化テトラフェニルクロリンおよびハロゲン化テトラフェニルバクテリオクロリンを分離できる能力を利用する。テトラフェニルポルフィリン、テトラフェニルクロリンまたはテトラフェニルバクテリオクロリンのフェニル環に存在する極性基の空間配向性が異なることにより、極性、形態および排除体積が異なり、アトロプ異性体のクロマトグラフィーでの分離が可能となる。さらに、アトロプ異性体の、種々の溶媒における溶解性または分配係数の違いにより、選択的沈殿、選択的再結晶、溶媒抽出または適切な溶媒でのアトロプ異性体混合物の簡単な洗浄を用いて、アトロプ異性体組成物における変化を引き起こすことができる。単に、適切な極性の溶媒に、所望の、または所望でないアトロプ異性体の一部を選択的に溶解させることにより、混合物中に存在する低いPDT有効性の所定のアトロプ異性体の分画を減らしたり、混合物中に存在する高いPDT有効性の他のアトロプ異性体の分画を増やしたりすることもできる。フェニル−大環単結合の束縛回転を克服するために十分なエネルギーを分子が獲得するように、熱または光化学処置によって一つのアトロプ異性体を他のアトロプ異性体に部分的に改変し、それによって、アトロプ異性体混合物の組成物を変化させることもできる。
【0011】
本発明は、過剰増殖性疾患、細菌およびウイルス感染の光線力学療法に最も効果的な、ハロゲン化テトラフェニルクロリンおよびテトラフェニルバクテリオクロリンのアトロプ異性体、および、大環平面の同じ側に、フェニル基のメタ位の嵩高い置換基の大部分を有することを特徴とする、上述の2つの最も効果的な、ハロゲン化テトラフェニルクロリンのアトロプ異性体(すなわち、それぞれ式(I−C)および(I−D)で表されるα
3βおよびα
4)またはそれらの薬学的に許容可能な塩に富んだ薬学的組成物であり、
上記アトロプ異性体またはそれらの薬学的に許容可能な塩の相対量は、上記薬学的組成物中に存在する立体異性体の70%超であるものを開示する:
【0015】
は、炭素−炭素単結合または炭素−炭素二重結合を表し;
太線は、太線で記載される原子およびそれらに結合した基が、大環状の環によって規定された平面の上側に存在するように立体的に制限されていることを示し;
X
2、X
4、X
6およびX
8は、ハロゲン(F、Cl、Br)であり;
X
1、X
3、X
5およびX
7は、ハロゲン(F、Cl、Br)または水素であり;
R
1、R
2、R
3およびR
4は、独立に、−OH、−ORまたは−SO
2R’’であり(R’’はそれぞれ独立に、−Cl、−OH、−アミノ酸、−OR、−NHRまたは−NR
2から選択され、Rは、1〜12個の炭素原子のアルキルであるか、R
2は2〜12個の炭素原子を有するシクロアルキルを表す);
R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立に、H、−OH、−OR、−Clまたは−NHRである(Rは1〜12個の炭素原子のアルキルである))。
【0016】
本発明の他の実施形態において、上記薬学的組成物は、ハロゲン化テトラフェニルクロリンおよびテトラフェニルバクテリオクロリン(α
3βおよびα
4)のより効果的なアトロプ異性体に富み、当該効果的なアトロプ異性体またはそれらの薬学的に許容可能な塩は、上記薬学的組成物において存在するアトロプ異性体の(合計で)70%、75%、80%、85%、90%または95%超を構成する。
【0017】
従って、式(I−C)および(I−D)の化合物は、下記式を有するクロリン誘導体であってもよい:
【0019】
また、式(I−C)および(I−D)の化合物は、下記式を有するバクテリオクロリン誘導体またはそれらの薬学的に許容可能な塩であってもよい:
【0021】
(式中、
太線は、太線で記載される原子およびそれらに結合した基が、大環状の環によって規定された平面の上側に存在するように立体的に制限されていることを示し;
好適には、X
2は、ハロゲン(F、Cl、Br)であり;
好適なX
1は、水素またはハロゲン(F、Cl、Br)であり;
好適には、R’は、−SO
2R’’である(R’’はそれぞれ独立に、−Cl、−OH、−アミノ酸、−OR、−NHRまたは−NR
2から選択され、Rは、1〜12個の炭素原子のアルキルであるか、R
2は2〜12個の炭素原子を有するシクロアルキルを表す))。
【0022】
式(III−C)および(III−D)の好ましいアトロプ異性体は、X
2がフッ素またはクロリンであり、X
1がフッ素またはクロリンまたは水素であり、R’が−SO
2NHR
nである(R
nは1〜6個の炭素原子のアルキルである)アトロプ異性体である。
【0023】
より具体的には、式(III−D)の好ましいアトロプ異性体α
4は、X
2がフッ素またはクロリンであり、X
1がフッ素またはクロリンまたは水素であり、R’が−SO
2NHR
nである(R
nは1〜6個の炭素原子のアルキルである)アトロプ異性体である。
【0024】
本発明の具体的な好ましい化合物は、5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンのα
4アトロプ異性体(式LUZ11−Dのα
4アトロプ異性体)および5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンのα
3βアトロプ異性体(式LUZ11−Cのα
3βアトロプ異性体)を含む。
【0026】
本発明の他の実施形態において、上記薬学的組成物は、ハロゲン化テトラフェニルクロリンおよびテトラフェニルバクテリオクロリンの、最も効果的なアトロプ異性体α
4に富み、α
4は、大環によって規定された平面の同じ側に嵩高い置換基をすべて有し、上記効果的なアトロプ異性体またはその薬学的に許容可能な塩は、上記薬学的組成物中に存在するアトロプ異性体の20%超を構成する。
【0027】
本発明の他の実施形態において、上記薬学的組成物は、ハロゲン化テトラフェニルクロリンおよびテトラフェニルバクテリオクロリンの、最も効果的な第二のアトロプ異性体α
3βに富み、α
3βは、大環によって規定された平面の同じ側に嵩高い置換基の大部分を有し、上記効果的なアトロプ異性体またはその薬学的に許容可能な塩は、上記薬学的組成物中に存在するアトロプ異性体の60%超を構成する。
【0028】
本発明の他の実施形態において、上記薬学的組成物は、ハロゲン化テトラフェニルクロリンおよびテトラフェニルバクテリオクロリンの、最も効果的な第二のアトロプ異性体α
3βに富み、α
3βは、大環によって規定された平面の同じ側に嵩高い置換基の大部分を有し、上記効果的なアトロプ異性体またはその薬学的に許容可能な塩は、上記薬学的組成物中に存在するアトロプ異性体の70%、75%、80%、85%、90%または95%超を構成する。
【0029】
本発明の他の実施形態において、上記薬学的組成物は、ハロゲン化テトラフェニルクロリンおよびテトラフェニルバクテリオクロリンの、最も効果的なアトロプ異性体α
4に富み、上記効果的なアトロプ異性体またはその薬学的に許容可能な塩は、上記薬学的組成物中に存在するアトロプ異性体の20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%または95%超を構成する。
【0030】
本発明の他の実施形態において、上記薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含む。
【0031】
本発明は、ハロゲン化テトラフェニルクロリンおよびテトラフェニルバクテリオクロリンの最も効果的なアトロプ異性体2つ(すなわち、アトロプ異性体α
3βおよびα
4であり、大環によって規定された平面の同じ側に嵩高い置換基の大部分を有する)に富んだ薬学的組成物の調製のための方法も開示し、当該方法は、下記式のクロリンまたはバクテリオクロリンのアトロプ異性体の混合物の単離工程を含む:
【0035】
は、炭素−炭素単結合または炭素−炭素二重結合を表し;
太線は、太線で記載される原子およびそれらに結合した基が、大環状の環によって規定された平面の上側に存在するように立体的に制限されていることを示し;
X
2、X
4、X
6およびX
8は、ハロゲン(F、Cl、Br)であり;
X
1、X
3、X
5およびX
7は、ハロゲン(F、Cl、Br)または水素であり;
R
1、R
2、R
3およびR
4は、独立に、−OH、−ORまたは−SO
2R’’であり(R’’はそれぞれ独立に、−Cl、−OH、−アミノ酸、−OR、−NHRまたは−NR
2から選択され、Rは1〜12個の炭素原子のアルキルであるか、R
2は2〜12個の炭素原子を有するシクロアルキルを表す);
R
5、R
6、R
7およびR
8は、独立に、H、−OH、−OR、−Clまたは−NHRである(Rは1〜12個の炭素原子のアルキルである))。
【0036】
ここで、大環平面の同じ側における、基R
1、R
2、R
3またはR
4の大部分を有する上記アトロプ異性体は、選択的沈殿、クロマトグラフィー、溶媒抽出、熱的もしくは光化学的回転異性化、または選択的光分解によって、少なくとも部分的に分離される。ゆえに、本明細書中の式の所望のアトロプ異性体に富んだ(例えば、α
3βおよびα
4、α
3βまたはα
4に富んだ)薬学的組成物は、任意の方法(選択的沈殿、クロマトグラフィー、溶媒抽出、熱的もしくは光化学的回転異性化、または選択的光分解が挙げられる)によって得ることができ、明細書中の式のアトロプ異性体の所望の割合を有する組成物を提供するため、単一のアトロプ異性体またはアトロプ異性体の組み合わせの、単離または濃縮されたバッチを組み合わせることにより、濃縮されてもよい。
【0037】
平面の両側に同じ数のR
1、R
2、R
3またはR
4基を有するアトロプ異性体に対する、平面の同じ側にR
1、R
2、R
3またはR
4基の大部分を有するアトロプ異性体の極性および/または排除体積および/または形態および/または光安定性の違いを利用して、アトロプ異性体αβαβ、α
2β
2、α
3βおよびα
4を部分的に分離することができるため、上記薬学的組成物の濃縮が可能である。この分離は、式(I)のアトロプ異性体における大環−フェニル結合の回転に対する高い障壁をともに有するそれぞれのアトロプ異性体の安定性により可能である。
【0038】
本発明の他の実施形態において、高い極性の溶媒にまず溶解し、それから、低い極性の溶媒の溶液に添加することにより選択的に沈殿する、というクロリンまたはバクテリオクロリンアトロプ異性体混合物の選択的沈殿により、アトロプ異性体αβαβおよびα
2β
2に富んだ沈殿ならびにアトロプ異性体α
3βおよびα
4に富んだ液をもたらすが、それらの濃度を、溶液中に存在するすべてのアトロプ異性体の濃度の少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%)に加える。変更すべきところは変更して、上記アトロプ異性体混合物は、まず低い極性の溶媒に溶解させてもよく、上記選択的沈殿は、高い極性の溶媒の添加により行われてもよい。
【0039】
本発明の他の実施形態において、上記溶媒抽出は、上記クロリンまたはバクテリオクロリンアトロプ異性体混合物を、極性溶媒を用いて溶解する第一の工程;および極性が低い溶媒を添加し、上記極性溶媒を用いて液−液相分離を形成し、極性が最も低いアトロプ異性体を抽出する第二の工程を含む。
【0040】
本発明の他の実施形態において、上記再結晶化は、母液においてアトロプ異性体組成物に相補的である、大環平面の同じ側に基R
1、R
2、R
3またはR
4の大部分を有する上記アトロプ異性体を含む結晶の形成を含む。
【0041】
本発明の他の実施形態において、上記熱的もしくは光化学的回転異性化は、上記クロリンまたはバクテリオクロリンアトロプ異性体混合物の少なくとも一つのアトロプ異性体を、当該少なくとも一つのアトロプ異性体が高い親和性を有する支持材に好ましくは結合させる第一の工程;および上記支持材にあまり結合しないアトロプ異性体の好ましい回転異性化を促進するために十分な熱的または光化学的エネルギーを提供する第二の工程を含む。
【0042】
本発明の他の実施形態において、上記支持材は、好ましくはシリカゲルであり、上記支持材に好ましくは結合される上記アトロプ異性体は、式(I−D)を有するアトロプ異性体である。
【0043】
本発明の他の実施形態において、上記選択的光分解は、通気した溶媒に、上記クロリンまたはバクテリオクロリンアトロプ異性体混合物を溶解する第一の工程;および、上記アトロプ異性体混合物に吸収される光を照射して、光安定性が低いアトロプ異性体の多くを光分解させる第二の工程を含む。
【0044】
本発明のアトロプ異性体α
3βおよびα
4の利点の一つは、分子酸素と強く相互作用し、より反応性の高い酸素種を生成し、より強い酸化ストレスを局所的に生成するという能力にある。他の利点は、吸収されるより多くの光子のため、活性酸素種のターンオーバーを向上させるという、それらの向上した光安定性である。
【0045】
前癌症状(子宮頸部形成異常および口腔部形成異常が挙げられるが、これらに限定されない)だけでなく、過剰増殖性疾患(癌または癌腫、骨髄腫、乾癬、黄斑変性症が挙げられるが、これらに限定されない)の治療のための、本明細書に開示される薬学的組成物の使用を開示することも本発明の目的である。
【0046】
微生物(ウイルス、細菌、リケッチア、マイコプラズマ、原生動物、菌類が挙げられるが、これらに限定されない)または寄生虫(一般的に顕微鏡でなければ見えないか、非常に小さい多細胞無脊椎動物またはそれらの卵もしくは幼形)によって引き起こされる感染症の治療のための、本明細書に開示される薬学的組成物の使用を開示することも本発明の目的である。
【0047】
〔図面の簡単な説明〕
本明細書の開示を限定する意図はなく、理解をより容易にするために、本願は、説明された実施形態の添付図面を提示する。
【0048】
図1.ハロゲン化テトラフェニルバクテリオクロリンのアトロプ異性体であり、ここで、構造の下のスキームによって説明されているように、太線は大環平面の上側の結合を表し、その平面の上側または下側のR基の配向を規定する。R’基は、SO
2R’’を表し、ここで、R’’はそれぞれ独立に、−Cl、−OH、−アミノ酸、−OR、−NHRおよび−NR
2から選択され、ここで、Rは1〜12の炭素原子のアルキルであるか、またはR
2は2〜12の炭素原子を有するシクロアルキルを表す。原子X
1およびX
2は、少なくとも全てのX
2がハロゲンであるという条件で、それぞれ独立にハロゲン(F、Cl、Br)および水素原子から選択される。
【0049】
図2.溶媒なしの合成にて得られた5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)クロリンサンプルの380nmにて検出したUHPLCクロマトグラム。
【0050】
図3.溶媒なしの合成にて得られた5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)クロリンサンプルの
1H−NMRスペクトル。
【0051】
図4.溶媒なしの合成にて得られた5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンサンプルのHPLCクロマトグラム。
【0052】
図5.溶媒なしの合成にて得られた5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンサンプルの
1H−NMRスペクトル。
【0053】
図6A,6B,6Cおよび6D.分取HPLCによって分離されたLUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−DのサンプルのHPLCクロマトグラム。
【0054】
図7.LUZ11−Aサンプルの
1H−NMRスペクトル。
【0055】
図8.LUZ11−Bサンプルの
1H−NMRスペクトル。
【0056】
図9.LUZ11−Cサンプルの
1H−NMRスペクトル。
【0057】
図10.LUZ11−Dサンプルの
1H−NMRスペクトル。
【0058】
図11.5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンのα
4アトロプ異性体のX線構造であり、フッ素原子は黄色で表され、窒素原子は青で表され、硫黄原子は緑で表され、酸素原子は赤で表され、炭素原子は黒で表される。
【0059】
図12.A)LUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−Dの試料のエタノール中での吸収スペクトル。B)測定された全ての質量はLUZ11の質量であると仮定して、サンプルのモル吸収係数を算出するために用いられた同じサンプルのBeer−Lambertプロット。
【0060】
図13.アトロプ異性体α
3βおよびα
4の合計において分画Yの濃縮を明らかにした分画XおよびYのHPLCクロマトグラム。
【0061】
図14.照射期間の関数としての、メタノール:PBS(3:2)中でのLUZ11−A(744.5nm)、LUZ11−B(744.5nm)、LUZ11−C(745nm)およびLUZ11−D(746nm)のサンプルの最も高い波長のピークにおける吸収の衰退。
【0062】
図15.表5に提示されたIC50およびIC90の値を得るために用いた、LUZ11、LUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−Dのサンプルの光増感剤の用量を増加させ、1J/cm
2という一定の光線量(light dose)とした、HT−29細胞の生存率。
【0063】
図16.表1および5に提示されたIC50およびIC90の値を得るために用いた、LUZ11、LUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−Dの試料の光増感剤の用量を増加させ、1J/cm
2という一定の光線量とした、CT26細胞の生存率。
【0064】
図17.プロットに示された光増感剤0.7mg/kgおよび光フルエンス(light fluence)41J/cm
2を用いたPDTの後の、BALB/CマウスにおけるCT26細胞の再生のKaplan−Meierプロット。処理後60日間、腫瘍なしのままであったマウスは、治癒されたと考えた。
【0065】
図18.プロットに示されたアトロプ異性体組成物0.7mg/kgおよび光フルエンス41J/cm
2を用いたPDTの後の、BALB/CマウスにおけるCT26細胞の再生のKaplan−Meierプロット。処理後60日間、腫瘍なしのままであったマウスは、治癒されたと考えた。サンプルXおよびサンプルYは実施例3に由来する。
【0066】
〔詳細な実施形態〕
図面を参照し、ここでは、任意の実施形態をより詳細に記載するが、これは本願の範囲を限定することを意図するものではない。
【0067】
<A.定義>
本願の目的のために、以下の定義が適用されるであろう:
用語「立体異性体」は、同一の化学構造を有するが、空間における原子または原子団の配置に関して異なる化合物を指す。
【0068】
「アトロプ異性体」は、単結合の周りのゆっくりした軸回転の結果生じる立体異性体であり、熱的または光化学的に相互変換し得るが、相互変換は周辺光の下で室温にて十分遅く、分析的分離が可能である。
【0069】
ハロゲン化されたテトラフェニルポルフィリン、テトラフェニルクロリンまたはテトラフェニルバクテリオクロリンの「アトロプ異性体の統計学的混合物」は、合成において得られたαβαβ、α
2β
2、α
3βおよびα
4アトロプ異性体の混合物であり、当該アトロプ異性体は、以下の比率で存在する:(α
2β
2)/(αβαβ)は1.5と2.5との間であり、(α
3β)/(αβαβ)は3.0と4.5との間であり、(α
4)/(αβαβ)は0.6と1.2との間である。
【0070】
「アトロプ異性体α
4およびα
3βに富んだ」薬学的組成物は、光活性化合物の合成において得られたアトロプ異性体の統計学的混合物中に存在する最も多い光活性アトロプ異性体α
4およびα
3βの含有量に対して最も少ない光活性アトロプ異性体αβαβおよびα
2β
2の含有量が相対的により少ないアトロプ異性体の混合物として理解され、例えば、アトロプ異性体α
4およびα
3βが上記混合物の70%超を構成する。
【0071】
「PDT有効性」は、所定の薬物および光線量において、光活性化合物が、細胞、細菌もしくはウイルスを殺す、または罹患組織を破壊する能力である。PDT有効性がより高いことは、同じ用量の光活性化合物および光において、細胞死、微生物の死または組織の壊死の程度がより大きいことに対応する。
【0072】
「光線量」は、光活性化合物が存在する場合の、標的に送達される光子の数の指標である。
【0073】
「LUZ11」は、5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンのコードネームである。「LUZ11−A」は、LUZ11のαβαβアトロプ異性体によって実質的に構成されているサンプルである。「LUZ11−B」は、LUZ11のα
2β
2アトロプ異性体によって実質的に構成されているサンプルである。「LUZ11−C」は、LUZ11のα
3βアトロプ異性体によって実質的に構成されているサンプルである。「LUZ11−D」は、LUZ11のα
4アトロプ異性体によって実質的に構成されているサンプルである。
【0074】
この文脈における「実質的に構成されている」は、アトロプ異性体が、サンプル中に存在するアトロプ異性体の少なくとも80%である組成物を指す。
【0075】
HPLCは、高圧液体クロマトグラフィーを意味して用いられる。
【0076】
本明細書で使用される場合、「過剰増殖性疾患」は、基本的な病状として、無秩序または異常な細胞増殖によって引き起こされる過剰な細胞増殖を共有するそれらの状況の疾患を意味し、無制御な血管形成を含む。過剰増殖性疾患の例は、限定されないが、癌または癌腫、骨髄腫、乾癬、黄斑変性症を含む。
【0077】
「過剰増殖性組織」は、本明細書で使用される場合、制御不能に成長する組織を意味し、腫瘍、および、加齢黄斑変性症において見出される血管の増大等の、抑制のきかない血管の増大を含む。
【0078】
本明細書で使用される場合、「感染因子」は、侵入する微生物または寄生虫を示す。本明細書で使用される場合、「微生物」は、ウイルス、細菌、リケッチア、マイコプラズマ、原生動物、菌類および類似の微生物を示し、「寄生虫」は、感染性があり、一般的に顕微鏡でしか見えない、または非常に小さな多細胞無脊椎動物、またはその卵もしくは幼形を占めす。
【0079】
本発明はまた、本明細書に記載された有効な量の化合物(例えば、本明細書の式のアトロプ異性体)および薬学的に許容可能な担体を含む薬学的組成物を提供する。
【0080】
本発明の薬学的組成物における活性成分の投与の、実際の投薬レベルおよび時間的経過は、患者への毒性(または許容できない毒性)なしに、特定の患者、組成物、および投与方法に対する所望の治療反応を達成するために有効な活性成分の量を得られるように変動し得る。
【0081】
使用において、本発明に係る少なくとも1つの化合物(例えば、本明細書の式のアトロプ異性体)は、薬学的担体中で、薬学的に有効な量にて、それを必要とする被験体に、静脈内、筋肉内、皮下、病変内、もしくは脳室内への注射によって、または経口投与もしくは局所塗布によって、投与される。本発明によれば、本発明の化合物は、単独で、または第二の、異なる治療薬と併せて投与され得る。「併せて」は、実質的に同時または連続的であることをともに意味する。一実施形態において、本発明の化合物は、急性投与される。それゆえ、本発明の化合物は、治療の短い期間(例えば、約1日〜約1週間)に投与され得る。別の実施形態において、本発明の化合物は、慢性疾患を改善するために長期にわたって、治療される状況にもよるが、例えば、1週間〜数か月にわたって、投与され得る。
【0082】
本明細書で使用される場合、「薬学的に有効な量」は、健全な医学的判断の範囲内で、(妥当な利益/リスクの比にて)治療される状況を前向きに修正するために十分に高く、深刻な副作用をさけるために十分に低い本発明の化合物(例えば、本明細書の式のアトロプ異性体)の量を意味する。本発明の化合物の薬学的に有効な量は、達成される特定の目標、治療される患者の年齢および体調、元の病気の重症度、治療期間、併用される治療の性質、および、用いられる特定の化合物によって変動し得る。例えば、子供または新生児に投与される本発明の化合物の治療に有効な量は、健全な医学的判断に従って、比例的に低減され得る。従って、本発明の化合物の有効な量は、所望の効果を提供し得る最小の量であり得る。加えて、光線力学療法を用いる場合、薬学的組成物または化合物の「薬学的に有効な量」は、治療結果を達成するために必要な、光線量および酸素、それらの両方等の他の要因に部分的に依存する。従って、被験体または患者を治療する場合、酸素の量とともに光の「有効な量」もまたあり得る。薬物、光および酸素の「薬学的に有効な量」の決定に寄与する他の重要な要因としては、薬物−光の間隔(薬物の投与と組織を照らすこととの間の時間)が挙げられる。薬物−光の間隔は重要である。なぜなら、例えば、50mg/kgの高い薬物の用量を投与し、かつ、1週間後に500J/cm
2の光線量にて組織を照らすことは、0.01mg/kgの薬物の用量を用い、かつ、投与から10分後に0.1J/cm
2の光線量にて組織を照らすことと同じくらい非効率または無効であり得る。薬物の投与と照明との間の、生物による薬物消失(代謝)は、薬物−光の間隔が増加する(長くなる)場合、効力が減少し得る。しかしながら、薬物−光の間隔の増加は、治療がより選択的であり、悪影響がより少ないことにつながり得る。従って、少なくともこれらの理由のため、薬物−光の間隔は、本発明の組成物の「薬学的に有効な量」を決定する場合に考慮すべき重要な要因である。
【0083】
以上のように議論した、薬物、光、酸素、および、薬物−光の間隔の「有効な量」の決定に影響する要因に加えて、当業者は光のフルエンス率(単位時間あたりの単位面積あたりに、いくつの光子が送達されたか)も考慮するであろう。あまりに多くの光子があまりに速く送達されると、組織中の酸素を使い果たし、治療を非効率または無効にし得るため、フルエンス率は重要である。
【0084】
最後に、有効な治療において重要な別のパラメータは、照射される腫瘍または組織のマージンである。光線力学療法を用いる場合、照射される組織は、治療の主要な標的であり、最初に死に得るが、全身的な効果(照射した領域の外)も、宿主免疫系の刺激、および/または、主要な標的における光線力学療法の効果によって誘発される生物学的効果の他のカスケードの結果として観察され得る。従って、マージンの選択は、光線力学療法を用いた被験体または患者の治療において、外科治療の利用と同じくらい重要である。
【0085】
本発明の明らかな実用上の利点は、化合物(例えば、本明細書の式のアトロプ異性体)が、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、経口、病変内、もしくは脳室内への注射経路による、または局所塗布(例えば、クリームまたはジェル)による便利な様式によって投与され得ることである。投与の経路によって、本発明の化合物を含む活性成分は、化合物を不活性化し得る酵素、酸および自然条件の作用から化合物を保護するために、材料中でコーティングされる必要があり得る。非経口的投与以外によって本発明の化合物を投与するために、化合物は、不活性化を防ぐため、または溶解を改善するための材料によってコーティング、または当該材料とともに投与され得る。
【0086】
化合物(例えば、本明細書の式のアトロプ異性体)は、非経口または腹腔内に投与され得る。例えば、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中に、並びに油中に、分散物も調製され得る。
【0087】
注入可能な使用に適した薬学的形態としては、(可溶な)滅菌溶液または分散物、および、滅菌された注入可能な溶液または分散物の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。全てのケースにおいて、上記形態は、滅菌されている必要があり、容易に注射器を通過する能力が存在する程度に流動的である必要がある。上記形態は、製造および貯蔵の状況下で安定的である必要がある。担体は、例えば、水、DMSO、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、それらの好適な混合物および植物油を含む溶媒または分散媒であり得る。分散物の場合、例えば、レシチン等のコーティングの使用によって、必要な粒子径の維持によって、適切な流動性が維持され得る。多くの場合、等張剤(例えば、糖または塩化ナトリウム)を含むことが好ましいであろう。
【0088】
滅菌された注入可能な溶液は、必要な量にて本発明の化合物を、上に列挙された種々の他の成分を含む適切な溶媒中に組み込み、必要とされる場合、続いてろ過滅菌を行うことにより、調製される。一般的に、分散物は、種々の滅菌された化合物を、基本的な分散媒および上に列挙された中から必要な他の成分を含む滅菌されたビヒクル中に組み込むことにより調製される。滅菌された注入可能な溶液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分に加えて前もって滅菌ろ過されたその溶液に由来する任意の追加の所望の成分の粉末を産出する真空乾燥および凍結乾燥の技術である。
【0089】
経口での治療的投与のため、化合物は、賦形剤に組み込まれ、摂取可能な錠剤、口腔錠、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、ウエハース等の形態にて使用され得る。本発明に係る組成物または調製物は、経口投薬単位形態が、被験体における疾患を治療するために十分な化合物の濃度を含むように調製される。
【0090】
薬学的担体として作用し得る物質のいくつかの例は、ラクトース、グルコースおよびスクロース等の糖;コーンスターチおよびジャガイモでんぷん等のでんぷん;セルロースおよびその誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース等);粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ステアリン酸;ステアリン酸マグネシウム;硫酸カルシウム;ピーナッツ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびテオブロマの油等の植物油;プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール等のポリオール;寒天;アルギン酸;発熱物質なしの水;等張食塩水;およびリン酸緩衝液;脱脂粉乳;並びに、例えば、ビタミンC、エストロゲンおよびエキナシア等の薬学的剤形に使用される他の無毒な適合する物質である。湿潤剤およびラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、並びに、着色剤、香味剤、滑剤、賦形剤、タブレット成形剤、安定剤、酸化防止剤および防腐剤も存在し得る。
【0091】
別の実施形態において、本発明は、上述の投薬の範囲および方法を提供し、本明細書で描写される化合物(例えば、本明細書の式のアトロプ異性体)の有効な量は、約0.005μg/kg〜約200mg/kgの範囲である。特定の実施形態において、本明細書の式の化合物(例えば、本明細書の式のアトロプ異性体)の有効な量は、約0.02mg/kg〜約20mg/kgの範囲である。さらなる実施形態において、本明細書で描写される化合物の有効な量は、約0.2mg/kg〜約2mg/kgの範囲である。さらなる実施形態において、本明細書で描写される化合物の有効な量は、約0.2mg/kg〜約1mg/kgの範囲であり、光線量は、30〜300J/cm
2の範囲である。さらなる実施形態において、本明細書で描写される化合物の有効な量は、約0.5mg/kg〜約2mg/kgの範囲であり、光線量は、20〜150J/cm
2の範囲である。さらなる実施形態において、本明細書で描写される化合物の有効な量は、約0.05mg/kg(50ng/mL)〜5mg/kgの範囲であり、光線量は、3J/cm
2と300J/cm
2との間であり、薬物−光の間隔は、薬物の投与と同時〜薬物の投与から一週間後より選択される。
【0092】
他の実施形態において、本明細書は、上述の方法を提供し、本明細書で描写される化合物(例えば、本明細書の式のアトロプ異性体)の有効な量は、照射時の標的組織中で、約0.1nM〜約50μMの範囲である。特定の実施形態において、上記有効な量は、約10.0pM〜約10nMの範囲である。別の実施形態において、上記有効な量は、約0.2nM〜約2nMの範囲である。別の実施形態において、上記有効な量は、約0.1μM〜約100μMの範囲である。
【0093】
本発明の別の目的は、本明細書で描写される薬学的組成物および当該組成物の投与のための説明書を含む薬学的組成物を含むキットである。当該キットは、任意の好適な容器(例えば、バイアル、ボトル、シリンジ、アンプル、チューブ)中の薬学的組成物を提供し得、例えば、光線力学療法/投与のための説明書(例えば、露光の説明書、波長露光(wavelength exposure)および期間の説明書)を含み得る。
【0094】
本発明の別の目的は、本明細書に記載される疾患または病気の治療に使用するための薬剤の製造における本明細書で記載される化合物(例えば、本明細書の式のアトロプ異性体)の使用である。本発明の別の目的は、本明細書に記載される疾患または病気の治療に使用するための本明細書で記載される化合物(例えば、本明細書の式のアトロプ異性体)の使用である。
【0095】
本明細書の変数の任意の定義における化学基のリストの詳説は、任意の単一の基または列挙された基の組み合わせとしての変数の定義を含む。本明細書の変数に対する実施形態の詳説は、任意の単一の実施形態、または任意の他の実施形態もしくはその一部との組み合わせとしての実施形態を含む。本明細書の実施形態の詳説は、任意の単一の実施形態、または任意の他の実施形態もしくはその一部との組み合わせとしての実施形態を含む。
【0096】
<B.前駆体化合物>
ポルフィリン前駆体は、以下の工程を含む特許PCT/EP/012212(1)およびPCT/PT2009/000057(2)に記載された方法を用いて調製され得る:
(i)特許PCT/EP/012212(1)に記載された有機障害塩基の存在下でヒドラジドを用いて、式(IV)
【0098】
(式中、アトロプ異性体の統計学的混合物が提示され、
X
2、X
4、X
6およびX
8はハロゲン(F、Cl、Br)であり、
X
1、X
3、X
5およびX
7はハロゲン(F、Cl、Br)または水素であり、
R
1、R
2、R
3およびR
4は独立に、−OH、−ORまたは−SO
2R’’であり、ここで、R’’はそれぞれ独立に、−Cl、−OH、−アミノ酸、−OR、−NHRおよび−NR
2から選択され、Rは1〜12個の炭素原子のアルキルであるか、またはR
2は2〜12個の炭素原子を有するシクロアルキルを表し、
R
5、R
6、R
7およびR
8は独立に、H、−OH、−OR、−Cl、または−NHRであり、ここでRは1〜12の炭素原子のアルキルである)
を有するポルフィリンを、式
【0102】
は炭素−炭素単結合または炭素−炭素二重結合を表し、
アトロプ異性体の統計学的混合物が提示される)
のクロリン誘導体および/またはバクテリオクロリン誘導体へ還元する工程;
任意で、還元工程は、PCT/PT2009/000057(2)に記載されたように、溶媒の非存在下および塩基の非存在下にて行われ得る。
【0103】
好適には、ヒドラジドは、p−トルエンスルホニルヒドラジド、4−クロロベンゼンスルホン酸ヒドラジド(4-chlorobenzenesulfonic hydrazide)、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニル)ヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、4−メトキシベンゼンスルホニルヒドラジドまたは安息香酸ヒドラジドである。
【0104】
好適には、立体障害塩基は、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)および1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)から選択される。
【0105】
好適には、還元工程は、70〜200℃の温度にて行われる。好適には、還元工程は、少なくとも100℃の温度にて行われる。好適には、還元工程は、少なくとも5分間行われる。
【0106】
好適には、還元工程は、不活性雰囲気下にて行われる。
【0107】
好適には、溶媒の非存在下にて反応を行う選択肢は、反応物質のうちの1種の融点を超える温度の利用が必要であり、他の反応物質(単数または複数)は、溶解した反応物質中に部分的に溶解または分散する。ヒドラジドとポルフィリン誘導体との固相反応において、当該固相反応は、ヒドラジドの融点を超えて好適に行われる。
【0108】
<C.機器>
元素分析は、Leco TruSpec CHNS元素分析装置によって行われた。
1H−NMRおよびスペクトルは、Bruker Avance 400MHzによって記録された。1Hアサインメントは、2D COSYおよびNOESY実験を用いて作成された。ESI−FIA TOF High Resolution Mass Spectrometryデータは、Micromass Autospec質量分析計を用いて得られた。HPLC Shimadzu Prominenceには、Diode Array(モデルSPD 20 AV)を備え付けた。分離は、セミ分取カラムInertsil−Phenyl(250*10mm;5μm)によって743nm、23℃にて行われた。
【0109】
吸収スペクトルは、Shimadzu UV−2100分光光度計によって記録された。蛍光スペクトルは、波長依存系(RCA C31034光電子増倍管)の補正を伴う、Spex Fluorolog 3分光光度計を用いて、測定された。過渡吸収スペクトルは、励起用のSpectra−Physics Quanta Ray GCR 130−01 Nd/YAGレーザーの第3高調波、Hamamatsu 1P28光電子倍増管およびHewlette−Packard Infiniumオシロスコープ(1GS/s)を用いて、Applied Photophysics LKS 60 ナノ秒レーザー閃光光分解キネティックスペクトロメーターによって測定された。閃光光分解の測定は、空気の存在下にて、アルゴン飽和溶液中で行われた。室温一重項酸素リン光は、適合させたApplied Photophysicsスペクトロメーターを用いて355nmにて通気した溶液をレーザー励起した後、液体窒素チャンバー(Products for ResearchモデルPC176TSCE005)中で193Kまで冷却し、Hamamatsu R5509−42光電子倍増管を用いて1270nmにて測定された。フォトブリーチング実験におけるバクテリオクロリンの照射は、Omicron Laserageから提供された749+/−3nmにて放出するCWレーザーを用いた。
【0110】
<D.方法>
好適な量のそれぞれの分画を、0.025mg/mlの濃度にて分析用の溶媒中に溶解させた。その後、調製した溶液の15μlの分画を、UV−Vis検出を用いたHPLCによって分析した。Zorbax XDB Eclipse Phenylカラム(150*4.6mm;5μm)および2つの移動相のグラジエントプログラムを用いて、アトロプ異性体の分離を実現した:メタノール(移動相A)、および、100mM、pH9.5の酢酸アンモニウム緩衝液とメタノールとの25:75(v/v)の溶液(移動相B)を1.0ml/min.の一定の流速にてポンプで送り込んだ。カラムの温度は、20℃で一定に保った。4つのLUZ11アトロプ異性体の相対量は、743nmで決定した。
【0111】
メタノール:PBS(3:2)溶液中で、フォトブリーチング実験を行った。ここで、PBSは、リン酸緩衝生理食塩水を指す。Omicron Laserageから提供された749±3nmにて放出するCWレーザーを用いて、光学距離1cmのキュベット中で上記溶液に照射した。合計出力は、640mWであった。それぞれの化合物に対して、数分から数時間までの照射の時間間隔にて吸光度を収集した。当該化合物の初期吸光度はca.1.0であった。
【0112】
アトロプ異性体(τ
T)の三重項−三重項吸収スペクトルおよび三重項寿命は、355nmでの励起を伴う、上述の過渡吸収スペクトル設備によって測定され、ここで、上記溶液は0.25と0.30との間の吸光度を有していた。
【0113】
エタノール中の一重項酸素量子収量は、参照としてフェナレノンを用いて、文献(17)に記載の手順を用いて得られた。エタノール中でフェナレノンを用いて得られた一重項酸素量子収量の文献の値は、Φ
Δ=0.95である(18)。
【0114】
本明細書に記載の薬学的組成物は、培養物中の腫瘍細胞および749nmのダイオードレーザー照射を用いたインビトロ研究において評価された。HT−29(ヒト結腸癌)およびCT26(マウス結腸癌)の細胞を、10%加熱不活性化Fetal Bovine Serum(FBS)(Biochrom,Berlin,Germany)および100IU/mlのペニシリン−100μg/mlのストレプトマイシン(Lonza,Verviers,Belgium)を補ったDulbecco’s Modified Eagle Medium(Sigma−Aldrich,Steinhelm,Germany)中で培養した。細胞株を、5%CO
2を含む湿潤雰囲気にて37℃で、75cm
2フラスコ(Orange Scientific,Brainc−l’Alleud,Belgium)内で維持した。85〜90%のコンフルエンスの細胞を、Trypsin−Versene−EDTA溶液(Lonza,Verviers,Belgium)を用いて分離し、計数し、きれいで平らな底面を有するDB Falconブラック96ウェルプレート(Franklin Lakes,NJ,USA)内で、所望の密度にて100μlの培養培地中に播種し、一晩接着させた。試験化合物の原液をジメチルスルホキシド中に調製し、細胞のインキュベーション(暗中で24時間、37℃)のための所望の濃度を得るために、培養培地中で希釈した。それぞれの濃度は、少なくとも3反復にて試験された。インキュベーションの後、200μlのPBSを用いて細胞を一度洗浄して、吸収されなかった化合物を除去し、100μlの新鮮な培養培地を加えた。コントローラー1201−08Pおよび749nmにて放出するレーザーヘッド1201−08D(Omicron,Rodgau,Germany)を備えた特注のダイオードレーザーモデルLDM750.300.CWA.L.Mを用いて、細胞に照射した(各ウェル個々に)。レーザービームは、光ファイバーの端部の調節可能な発散レンズにおいて光ファイバーと連結され、光ファイバーは支持体に固定され、細胞を含むプレートへと垂直に向けられた。ファイバーレンズは、照射領域がプレートのウェルの底部領域と正確に適合するように調節され、各ウェルは、プレートレベルで8.0mW/cm
2の出力密度にて、個々に、かつ、完全に照射された。レーザー出力測定は、LaserCheck手持ち式出力計(Coherent,Inc.,Santa Clara,CA,USA)を用いて行われた。1.0J/cm
2の光線量に対応する照射時間は、125秒である。
【0115】
細胞生存率は、レサズリン還元アッセイを用いて、照射から24時間後に評価された。要するに、レサズリンナトリウム塩(Sigma−Aldrich,Steinhelm,Germany)原液(PBS中に0.1mg/ml)を、FBSまたは抗生物質を含まない培養培地中に10%希釈し、各ウェルの細胞に200μl加えた。プレートを37℃にて3〜4時間インキュベートした。各ウェルの吸光度の値は、マイクロプレートリーダーMultiskan Ex(Thermo−Electron Corporation,Vartaa,Finland)を用いて540nmおよび630nmにて測定された。細胞生存率の結果は、少なくとも2回の独立した実験からの反復条件の平均値±SDとして表現される。
【0116】
細胞生存率の研究は、薬物の細胞毒性を知らせる。これは、無処理の細胞に対する細胞死を表現することによって定量化された(暗中に保持したコントロール細胞の%)。結果を用量−反応曲線としてプロットした(薬物の濃度の関数としての細胞生存率の%)。これにより、所望の光線量において、細胞生存率を50%に減少させる濃度(IC50)および細胞生存率を90%に減少させる濃度(IC90)の決定が可能になる。
【0117】
本研究に用いられたマウスは、体重が20〜25gのBALB/c雌(Charles River Laboratories,Barcelona,Spain)であった。マウスを、自由に水を飲むことができるようにして、標準的な実験用の食事を用いて飼育した。これらの動物を実験目的に使用することは、国家動物局(National Veterinary Authority)によって認可されている(DGVA承認番号0420/000/000/2011)。腫瘍の確立のため、350.000CT26細胞(CRL−2638
TM,ATCC−LCG Standards,Barcelona,Spain)を0.1mlのPBS中に加え、各マウスの右腿に皮下接種した。腫瘍は、接種から8〜10日後に処理され、その直径は約5mmに達した。マウスを、血管PDTプロトコルを用いて処理した。これは、化合物の静脈注射(0.7mg/kg)を用いて開始され、その15分後、腫瘍に、173mWのレーザー出力で749nmにてOmicronダイオードレーザーを照射した。レーザービームは、固定された発散レンズを備えた光ファイバーと連結され、光ファイバーは、1.33cm
2の領域に照射し、合計55Jの光線量を送達するために、腫瘍表面へと垂直に位置づけられた。
【0118】
<E.化合物の特性>
化合物の吸収性は、μMでいくつかの濃度にて測定され、全てのケースで、Beer−Lambertの法則に従って観察された。さらに、赤外線の最大吸収の波長(λ
max)は、研究した濃度範囲において変動しなかった。このことは、分子の間の凝集がほとんどないことを示している。この分子は、研究した溶媒においてこれらの濃度では大部分がモノマーとして存在する。表1は、5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)クロリン(サンプルLUZ11)およびその精製したアトロプ異性体(サンプルLUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−C、LUZ11−D)において得られたエタノール中での、赤外モル吸収係数(ε
max)および最大波長を提示している。このバクテリオクロリンは、近赤外にて強い光の吸収を有し、この領域ではヒトの組織は、可視領域よりも透明であり、これはPDTにおいて好ましい光増感剤の特徴である。アトロプ異性体は、そのε
maxにおいて小さな差異を有する。例えば、LUZ11−A〜LUZ11−Dのサンプルに由来するε
maxは3%減少している。同じ表はまた、通気したエタノール溶液における三重項寿命(τ
T)、通気したメタノール:PBS(3:2)溶液における光分解量子収量(Φ
PD)、および、通気したエタノール溶液における一重項酸素量子収量(Φ
Δ)を提示している。
【0120】
過渡寿命は、400、610および790nmにて測定された。全ての三重項の衰退は、明らかに単一指数関数的であり、空気が飽和したエタノール中で三重項寿命は200〜300ナノ秒の範囲であった。そのような値は、光増感剤の三重項状態から分子酸素への電荷移動相互作用を介した拡散律速エネルギー伝達と一致する(4)。光分解は749±3nmにて放出するCWレーザーおよび合計出力640mWを利用した。全ての化合物は、その吸収性強度において単一指数関数的な減少に従った。表1における最も光安定的なアトロプ異性体は、サンプルLUZ11−Dであり、光分解量子収率Φ
PD=9×10
−6であった。
【0121】
通気したエタノール溶液において測定された全ての一重項酸素の放出は、典型的な一重項酸素寿命(τ
Δ≒16μs)を有する単一指数関数的衰退によって非常によく説明されている。表1のΦ
Δの値は、上述の手順によって得られた。
【0122】
上述し、さらに下記の実施例にて詳述される方法を用いて、1J/cm
2のレーザー光線量にてインビトロでCT26細胞を50%殺すために必要な種々のアトロプ異性体の濃度が表1に提示されている。サンプルLUZ11−AとLUZ11−Dとの間の光毒性における劇的な差異は、光増感剤が酸素の存在下で光を吸収した場合のROSの生成によって引き起こされる酸化ストレスに基づく、PDTの作用の既知の機構から説明できるものではなかった。実際に、α
4に対して、一重項酸素の生成における光吸収および効率の小さな差異のみを有するアトロプ異性体αβαβが、より劣る光増感剤であることは予期されていなかった。PDTにおける光増感剤の以前の使用では、大環によって規定された平面の両側において同じ数の嵩高い基を有するアトロプ異性体が、アトロプ異性体の混合物のPDT有効性に十分に寄与することは認識されていなかった。本発明の中心的な目的は、アトロプ異性体α
3βおよびα
4に富んだ薬学的組成物であって、これらのアトロプ異性体が混合物中に存在する全てのアトロプ異性体の70%超であり、これらの合成から得られた統計学的なアトロプ異性体の混合物のPDT有効性を上回る薬学的組成物を、初めて記載することである。また、アトロプ異性体α
3βに富んだ薬学的組成物であって、このアトロプ異性体が混合物中に存在する全てのアトロプ異性体の60%超であり、そのPDT有効性を改善する薬学的組成物を記載することも本発明の目的である。また、アトロプ異性体α
4に富んだ薬学的組成物であって、このアトロプ異性体が混合物中に存在する全てのアトロプ異性体の20%超であり、そのPDT有効性を改善する薬学的組成物を記載することも本発明の目的である。アトロプ異性体混合物において従来不安定であると見なされていたテトラフェニルバクテリオクロリンのアトロプ異性体α
3βおよびα
4を豊富にするための、20℃より高い温度にて光および酸素の存在下での化学的分離方法の使用を初めて記載することは、本発明のさらなる目的である。
【0123】
〔実施例〕
この発明は、以下の限定しない実施例において、以下の図面を参照して、より詳細に記載されるであろう。
【0124】
<実施例1.フッ素化スルホンアミドテトラフェニルクロリンに存在するアトロプ異性体の合成および特徴付け>
式(II)
【0126】
(ここで、X
1およびX
2はフッ素原子であり、R’は−SO
2NHCH
3基である)
を満たすアトロプ異性体の混合物の化学的合成およびその特徴付けは、以下のように行われた:
5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)クロリンの合成は、0.6mbar未満の圧力で、p−トルエンスルホニルヒドラジド(700±10mg)と5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)ポルフィリン(100±10mg)とを反応させて、15分間、140±1℃に加熱することによって行われた。室温まで冷却した後、精製していないものをジクロロメタン(≒50mL)に溶解し、続いて、水酸化ナトリウム(0.5M)および水を用いて洗浄した(3回)。有機相を、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、ろ過し、そして濃縮した。化合物の混合物を、ヘキサンを用いて沈殿させた。固体をジメトキシエタン(DME)(20mL)に溶解させ、FeCl
3・6H
2O(1当量)を溶液に加え、続いて0.1mLの過酸化水素(水中に3%)を加えた。最終溶液を、室温にて撹拌しながら保持した。90分後、0.1mLの過酸化水素(水中に3%)を加え、バクテリオクロリンの吸収ピーク(≒750nm)が消失した時点(90分)で反応を停止させた。ジエチルカーボネートを溶液に加え、その後、チオ硫酸ナトリウム飽和溶液を用いて2回洗浄し、蒸留水を用いて2回洗浄し、そして、無水Na
2SO
4によって乾燥させた。溶媒を蒸発させ、シリカゲル(ジクロロメタン/酢酸エチル)を用いたカラムクロマトグラフィーによって精製した。アトロプ異性体の混合物を含む5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)クロリンを、80±5%の収量にて得た(80±5mg)。
図2は、380nmでの検出を用いたUHPLCクロマトグラムを提示している。全てのクロリンのアトロプ異性体の分離を、Acquity BEH C18カラム(150*2.1mm;1.7μm)および3つの移動相のグラジエントプログラムを用いて実現した:酢酸アンモニウム緩衝液50mM(移動相A)、イソプロパノール(移動相B)、および、メタノール:アセトニトリル(70:30 v/v)(移動相C)を0.2ml/minの一定の流速にてポンプで送り込んだ。カラムの温度は40℃にて一定に保った。著しいことに、統計学的に好ましいα
3βアトロプ異性体の形成が予測される最大のピークは、2つに分かれている。このことは、大環平面と同じ側の嵩高い置換基を有する2つのフェニル基の間の大環の還元されたピロール基の位置と、その平面の異なる側の嵩高い置換基を有する2つのフェニル基の間の還元されたピロール基の位置との間の区別に帰する。この実施例は、40℃にてテトラフェニルクロリン誘導体のアトロプ異性体を分離可能であることを説明しており、この説明は、この温度でのテトラフェニルクロリンの安定性と大環−フェニル結合の回転が遅いこととの予期せぬ組合せに基づく。
【0127】
テトラフェニルクロリンサンプルのNMRおよびMSは、以下のとおりである:
NMR
1H (400MHz,CDCl
3),δ,ppm:8.57(m,2H,β−H);8.33−8.21(m,8H,Ar−H+β−H);7.41−7.36(m,4H,Ar−H);4.81−4.79(m,4H,NH);4.22−4.19(m,4H,β−H);2.82−2.76(m,12H,CH
3);−1.49(s,2H,NH)。NMRスペクトルは
図3に示されている。
MS (ESI−FIA−TOF):(C
48H
37F
8N
8O
8S
4)について算出されたm/z、[M+H]
+:1133.1484、実測値[M+H]
+:1133.1466。
【0128】
<実施例2.フッ素化スルホンアミドテトラフェニルバクテリオクロリンに存在するアトロプ異性体の合成、特徴付けおよび分離>
式(III)
【0130】
(ここで、X
1およびX
2はフッ素原子であり、R’は−SO
2NHCH
3基である)
を満たすアトロプ異性体の混合物の化学的合成、それぞれのアトロプ異性体の分離およびその特徴付けは、以下のように行われた:
5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリン(LUZ11)の合成は、0.6mbar未満の圧力で、p−トルエンスルホニルヒドラジド(7±0.1g)と5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)ポルフィリン(1±0.05g)とを直接反応させて、60分間、140±1℃に加熱することによって行われた。室温まで冷却した後、精製されていない反応物を溶解させ、シリカゲル(ジクロロメタン/酢酸エチル)を用いたカラムクロマトグラフィーによって精製した。4つのアトロプ異性体の混合物を含む5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンを、95%を超えるHPLC純度にて、85±5%の収量(850±50mg)にて得た。
図4は、LUZ11サンプルのHPLCクロマトグラムを提示している。好適な量のサンプルを、分析用の溶媒(2%w/vのTween20を含むN,N−ジメチルホルムアミド溶液)中に溶解させた。その後、調製した溶液の20μlの分画を、UV−Vis検出を用いたHPLCによって分析した。アトロプ異性体の分離は、Inertsil−Phenylカラム(250*4.6mm;5μm)および3つの移動相のグラジエントプログラムを用いて実現した:メタノール(移動相A)、トリメチルアミン溶液pH7.0(移動相B)、および、トリメチルアミン溶液pH7.0とメタノールとの混合物(25:75 v/v)(移動相C)を0.5ml/minの一定の流速にてポンプで送り込んだ。カラムの温度は60℃にて一定に保った。この実施例は、60℃にてテトラフェニルバクテリオクロリン誘導体のアトロプ異性体を分離可能であることを説明しており、この説明は、この温度でのテトラフェニルバクテリオクロリンの安定性と大環−フェニル結合の回転が遅いこととのまさに予期せぬ組合せに基づく。
【0131】
単離されたLUZ11サンプルのNMRおよびMSは、以下のとおりである:
NMR
1H:(400MHz,CDCl
3) δ ppm:8.24(m,4H,β−H);8.01−7.99(m,4H,Ar−H);7.39−7.31(m,4H,Ar−H);4.76−4.67(m,4H,NH);4.05(s,8H,β−H);2.81−2.70(m,12H,CH
3);−1.39(s,2H,NH)。NMRスペクトルは
図5に示されている。
MS (ESI−FIA−TOF):C
48H
39F
8N
8O
8S
4について算出されたm/z、[M+H]
+:1135.1640、実測値[M+H]
+:1135.1612。
元素分析 (C
48H
38F
8N
8O
8S
4.H
2O):計算値C 50.00,H 3.50,N 9.72,S 11.12,実測値C 49.88,H 3.47,N 9.38,S 10.94。
【0132】
上述のように合成されたLUZ11サンプル中に存在する4つのアトロプ異性体の分離は、12mLのジメチルホルムアミド(DMF)および2.5mLの水に300mgのLUZ11サンプルを溶解させて達成された。5分間の超音波処理を行い、LUZ11サンプルを完全に可溶化した後、分取カラムおよび以下の一般的な条件を用いてHPLCによってアトロプ異性体を分離した:カラム=Inertsil−Phenyl(250*10mm;5μm)、流量=3ml/min、検出=743nm、オーブン=23℃、注入量=100μl、実行時間=70min、移動相A=アセトニトリル(ACN)グラジエントグレード、移動相B=水。各アトロプ異性体の分離に用いたグラジエントは表2に提示されている。
【0134】
図6A、6B、6Cおよび6Dは、上述の方法によって得られた、分離されたLUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−DのサンプルのHPLCクロマトグラフを提示している。4つのサンプルはまた、NMR分光法、質量分析および元素分析によって特徴付けられた。結果を以下に提示する:
LUZ11−A(大部分はαβαβ):
NMR
1H(400MHz,CDCl
3):δ,ppm:8.31−8.26(m,4H,Ar−H);8.04(s,4H,β−H);7.45−7.41(m,4H,Ar−H);4.65−4.63(m,4H,NH);4.08(s,8H,β−H);2.85−2.83(m,12H,CH
3);−1.36(s,2H,NH)。NMRスペクトルは
図7に示されている。
MS(ESI−FIA−TOF):(C
48H
39F
8N
8O
8S
4)について算出されたm/z、[M+H]
+:1135.1640、実測[M+H]
+:1135.1665。
元素分析(C
48H
38F
8N
8O
8S
4):計算値C 50.79,H 3.37,N 9.87,実測値C 50.27,H 3.89,N 9.30。
LUZ11−B(大部分はα
2β
2):
NMR
1H(400MHz,CDCl
3):δ,ppm:8.27−8.24(m,4H,Ar−H);8.03−8.00(m,4H,β−H);7.43−7.36(m,4H,Ar−H);4.71−4.65(m,4H,NH);4.06(s,8H,β−H);2.84−2.77(m,12H,CH
3);−1.38(s,2H,NH)。NMRスペクトルは
図8に示されている。
MS(ESI−FIA−TOF):(C
48H
39F
8N
8O
8S
4)について算出されたm/z、[M+H]
+:1135.1640、実測値[M+H]
+:1135.1586。
元素分析(C
48H
38F
8N
8O
8S
4):計算値C 50.79,H 3.37,N 9.87、実測値C 50,98,H 3.67,N 9.47。
LUZ11−C(大部分はα
3β):
NMR
1H(400MHz,CDCl
3):δ,ppm:8.27−8.24(m,4H,Ar−H);8.03−8.00(m,4H,β−H);7.43−7.36(m,4H,Ar−H);4.71−4.65(m,4H,NH);4.06(s,8H,β−H);2.84−2.77(m,12H,CH
3);−1.38(s,2H,NH)。NMRスペクトルは
図9に示されている。
MS(ESI−FIA−TOF):(C
48H
39F
8N
8O
8S
4)について算出されたm/z、[M+H]
+:1135.1640、実測値[M+H]
+:1135.1657。
元素分析(C
48H
38F
8N
8O
8S
4.H
2O):計算値C 50.79,H 3.37,N 9.87、実測値C 50.00,H 3.50,N 9.72。
LUZ11−D(大部分はα
4):
NMR
1H(400MHz,CDCl
3):δ,ppm:8.29−8.26(m,4H,Ar−H);8.04−8.02(m,4H,β−H);7.46−7.41(m,4H,Ar−H);4.65−4.64(m,4H,NH);4.07(s,8H,β−H);2.85−2.82(m,12H,CH
3);−1.37 (s,2H,NH)。NMRスペクトルは
図10に示されている。
MS (ESI−FIA−TOF):(C
48H
39F
8N
8O
8S
4)について算出されたm/z、[M+H]
+:1135.1640、実測値[M+H]
+:1135.1632。
元素分析(C
48H
38F
8N
8O
8S
4.H
2O):計算値 C 50.79,H 3.37,N 9.87、実測値 C 50.38,H 3.66,N 9.13。
【0135】
LUZ11−Dアトロプ異性体の結晶は、アサインメントを確認するためのX線構造決定のために得られた。LUZ11−Dから得られたX線構造は、
図11に示されており、これがα
4アトロプ異性体であることを確認できる。サンプルLUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−Dの光物理的性質は、上述の機器および方法を用いて決定された。
図12は、4つのサンプルの吸収スペクトルを提示している。表1は、関連データを集めたものである。
図12はまた、濃度を算出するために測定した質量が全て、LUZ11アトロプ異性体の質量であると仮定して、各サンプルのモル吸収係数を得るために用いたBeer−Lambertプロットを提示している。この実施例は、アトロプ異性体α
4およびα
3βが、20℃を超える温度にて光および酸素の存在下で化学的分離方法を用いて高純度で得るために十分安定していることを示している。これらのアトロプ異性体の安定性は、ジメチルホルムアミド中のサンプルLUZ11−Cを高温で、表3に示されているように種々の時間加熱して調査された。アトロプ異性体の相互変換は、フッ素化スルホンアミドバクテリオクロリンの感知され得る分解なしに、高温で急速に起こる。
【0137】
<実施例3.選択的沈殿を用いたアトロプ異性体混合物の濃縮>
この実施例は、ハロゲン化テトラフェニルバクテリオクロリンの合成の結果として得られたアトロプ異性体の混合物が、単純かつ測定可能な方法を用いて分画に分離され得ること、および、ある分画は選択的にアトロプ異性体α
3βおよびα
4に富むことを示している。
【0138】
半グラムのLUZ11を丸底フラスコ内の50mLのジクロロメタンに溶解させた。50mLのヘキサンを加え、フラスコを穏やかに撹拌しながら真空ポンプに1分間接続した。溶液中に存在するいくつかのLUZ11は、フラスコ内に沈殿した。サンプルをろ過してサンプルXを得た。ジクロロメタンおよびヘキサンを含むこの溶液を、乾燥するまで蒸発させ、サンプルYを得た。両方のサンプルを、各サンプル中のアトロプ異性体の相対量を定量化するためにHPLCによって分析した。
図13は、方法セクションに記載された、743nmの検出を用いたHPLCクロマトグラムを提示しており、アトロプ異性体αβαβおよびα
2β
2のピークがLUZ11の元のサンプルに対してサンプルXにて増加していること、および、アトロプ異性体α
4のピークがLUZ11の元のサンプルに対してサンプルYにて増加していることを明らかにしている。表4は、初期のLUZ11サンプル、並びに分画XおよびYにおいて存在する4つのアトロプ異性体の相対量を提示している。アトロプ異性体α
2β
2は、B1およびB2として同定される2つのピークを有しており、これは、バクテリオクロリンにおいて、平面の同じ側にあるR’基が、メチン(=C−)基またはメチレン(−CH
2−)橋によって分離され得るためである。元のLUZ11サンプルが65.9%のアトロプ異性体α
3β+α
4を含んでいるのに対し、サンプルYが80.4%のアトロプ異性体α
3β+α
4を含んでいることは注目すべきことである。
【0139】
従って、サンプルYは、大環を規定する平面の同じ側に大部分のR’基を有するアトロプ異性体が、組成物中に存在するアトロプ異性体の総量の70%超を構成する組成物である。
【0141】
サンプル中のアトロプ異性体α
3β+α
4の相対量は、組成物中に存在するアトロプ異性体の総量の100%までの任意の値をとり得る。
【0142】
<実施例4.吸収された赤外光の存在下におけるハロゲン化およびスルホン化されたバクテリオクロリンのアトロプ異性体の差別化された安定性>
この実施例は、ハロゲン化およびスルホン化されたバクテリオクロリンのアトロプ異性体が、PDTにおいて利用されているものと同じ赤外光を照射された場合に、異なる光分解量子収量を有することを実証しており、このことは、差別化されたPDT有効性をもたらし得る。
【0143】
上述の実施例2で得られたLUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−Dのサンプルを、PBS:メタノール(2:3)溶液に独立して溶解させ、1cmの石英セルに移し、それらの吸収スペクトルを登録した。それぞれの石英セルは、予め焦点を合わさずに石英セルの窓と一致するビーム直径を有する749nmのOmicronダイオードレーザーのビームの中に連続して配置された。これらの条件下で測定されたレーザー出力は、640mWであった。照射は、規則的な時間間隔にて中断され、新たな吸収スペクトルが登録された。フォトブリーチングは、実験の時間窓における一次反応の反応速度論に従う。
図14は、照射時間の関数として、サンプルの吸収の最も高い波長のピークにおける吸収の衰退を示している。これらの条件下でのLUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−Dのサンプルの半減期は、それぞれ4.6分、4.8分、6.4分および6.5分である。光分解量子収量は、光増感剤分子の消失の初速度を、光子の吸収の初速度によって除して算出された。これらの計算の結果は表1に提示されている。最も安定しているアトロプ異性体は、α
4であり、続いてα
3βである。
【0144】
<実施例5.LUZ11アトロプ異性体のインビトロ光毒性>
この実施例は、それぞれの単離されたアトロプ異性体に富んだサンプルLUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−D、並びに元のLUZ11サンプルが、癌細胞株に対して差別化されたPDT有効性を提示することを示している。
【0145】
元のLUZ11サンプル、並びに実施例2で得られたLUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−Dサンプルの光増感活性は、前述の材料および方法を用いて測定された。380nmでの検出を用いたHPLCクロマトグラムは、分離されたアトロプ異性体サンプルに富んだLUZ11サンプルの含有量が80%よりも高いことを示している。純度における小さな差異は、光毒性の結果にバイアスをかけない。
【0146】
暗中のコントロールに対する、1J/cm
2の光線量および24時間のインキュベーション時間における生存率は、
図15(HT−29)および
図16(CT26)に示されている。1J/cm
2の光線量にて50%〜90%の細胞死をもたらした濃度は、表5に提示されており、外挿によって得られたアスタリスクによって同定された値以外は、GraphPad Prism 5 Softwareを用いた非線形回帰分析(log[inhibitor] versus normalized response − variable slope)を用いた内挿によって算出された。
【0148】
図15および16、並びに表5において説明されている光毒性は、LUZ11アトロプ異性体が差別化されたインビトロPDT有効性を有することを明らかに実証している。サンプルの光毒性はAからDへ増加した。元のLUZ11サンプルは、合成の結果として得られたアトロプ異性体の統計学的混合物を含んでおり、アトロプ異性体α
3βおよびα
4に富んだサンプルに比べてインビトロの光毒性が小さい。本発明の主要な発見は、フェニル基のメタ置換基の大部分が大環によって規定された平面の同じ側にあるアトロプ異性体は、その平面の両側にそのような置換基を同じ数有するアトロプ異性体よりも光毒性が大きいことである。この発見は、当業者には予期され得なかった。
【0149】
<実施例6.LUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−Dアトロプ異性体を用いたBALB/Cマウスにおけるマウス結腸癌のPDT>
この実施例は、それぞれのLUZ11アトロプ異性体が、PDTを用いたマウス腫瘍モデルの治療において明確な長期の有効性プロファイルを提示することを説明している。
【0150】
腫瘍モデルは、皮下にCT26腫瘍を有するBALB/cマウスであった。ウシ胎仔血清および抗生物質を補ったDMEM培地中でCT26細胞を培養した。当該細胞を、5%CO
2を含む湿潤雰囲気にて37℃で増殖させた。CT26細胞(〜350,000)を0.1mlのPBS中に加え、BALB/Cマウスの右腿に皮下移植した。腫瘍は成長し、移植から約8〜10日後に直径が約5mmに達した。各動物において腫瘍が直径5mmに達した場合に、処理を開始した。腫瘍が処理サイズに達した日、Cremophor EL(Macrogolglycerol Ricinoleate)、エタノールおよび0.9NaCl生理食塩水を、LUZ11およびLUZ11−Aについては0.1:0.5:99.4の割合、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−Dについては0.5:0.5:99.0の割合で含むビヒクル中の0.7mg/kgの用量の光増感剤を、マウスに注射し、方法セクションに記載したように処理した。処理に用いた光フルエンスは、41J/cm
2(すなわち、1.33cm
2の表面に対して50J)であった。各化合物の用量は、各サンプルのLUZ11含有量を考慮して正規化された。光増感剤なしに、ビヒクルのみを与えられたコントロール群(n=6)は、残りの試験群と同じ条件で照射された。
【0151】
毎日マウスをチェックし、腫瘍は、2つの直交する測定LおよびW(Lに垂直)を用いて測定し、式V=L×W
2/2を用いて算出された体積を記録した。任意の腫瘍の最大直径が15mmに達した場合に、そのような腫瘍を有するマウスを犠牲にし、処理から経過した日数を記録した。
図17は、実施例2のLUZ11、LUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−DのサンプルについてのKaplan−Meierプロットを提示している。アトロプ異性体α
4のより高い光毒性は、LUZ11−Dサンプル群において、処理に続く日の中で2匹のマウスの、PDTに誘導された死から明らかである。アトロプ異性体α
4の過剰摂取は、他のアトロプ異性体の混合物におけるPDTに誘導された致死性なしに、薬物−光線量の組み合わせにおいて起こる。この観察は、インビトロでの光毒性と一致しており、アトロプ異性体α
4が最も高いPDT有効性を有することを示している。
【0152】
<実施例7.濃縮されたアトロプ異性体組成物を用いたBALB/Cマウスにおけるマウス結腸癌のPDT>
この実施例は、光活性のより大きいアトロプ異性体に富んだ薬学組成物が、PDTを用いたマウス腫瘍モデルの治療において最も良い長期的有効性プロファイルを提示するため、PDTにおいて好ましいことを示している。
【0153】
マウスおよび腫瘍モデルは、実施例6と同じである。PDTもまた同じプロトコルを用いて行われた:名目上の光増感剤の用量0.7mg/kgを静脈内注射した15分後、55Jにて1.33cm
2の円に照射した。この名目上の濃度は、サンプルの重量によるものであり、サンプルXに対するサンプルLUZ11、LUZ11−X、および、サンプルYに対するサンプルLUZ11−Yに存在するバクテリオクロリンの立体異性体の実際の量である0.52mg/kgの濃度と一致している。静脈内投与に用いたビヒクルは、実施例6と同じであったが、表4に特徴付けられたLUZ11サンプルと同時に、実施例3のサンプルXおよびYが用いられた。
図18は、LUZ11サンプル、並びにサンプルXおよびYについてのKaplan−Meierプロットを提示している。
【0154】
図18は、LUZ11の元の分画を用いた場合、この処理プロトコルによって長期的な治癒を行うことが不可能であることを示している。長期的な治癒の欠如は、サンプルXを用いて処理した群においても観察された。さらに、サンプルXを用いた処理におけるメジアン生存時間は、LUZ11サンプルを用いた中央生存時間よりも2日短かった(18日vs20日)。一方、サンプルYを用いて処理した群は、長いメジアン生存時間を有し、50%の治癒率を達成した。PDTにおける治癒率を改善するという、アトロプ異性体α
3βおよびα
4に富んだアトロプ異性体混合物を含む薬学的組成物の注目すべき能力は、予測できるものではなく、本発明において初めて開示されたものである。
【0155】
<実施例8.逆相古典的カラムクロマトグラフィーおよびセミ分取HPLCによるLUZ11−C(α
3β)アトロプ異性体の単離>
LUZ11−Cの精製を2つの工程にて行った:i)移動相としてMeOH/CN
3CN/H
2O(40:40:20、v/v)の混合物を用い、定常状態で、逆相シリカゲル(C−18)重力クロマトグラフィーを用いることによる、4つのアトロプ異性体(αβαβ、α
2β
2、α
3β、α
4および合成不純物)の混合物からα
3βへのサンプルの濃縮;ii)セミ分取HPLCによる、事前に得られたα
3βに富んだ混合物の精製。
【0156】
i)逆相クロマトグラフィーによるLUZ11−C(α
3β)の濃縮
LUZ11(1g;アッセイ75%)をアセトニトリル(10mL)およびメタノール(10mL)に溶解させ、混合物を5分間超音波処理した。全体が可溶化された後、5mLの水をゆっくりと加えた。溶離剤(MeOH/CN
3CN/H
2O(40:40:20、v/v))のスラリーおよびC−18逆相シリカ(〜150g)を用いて、ガラスカラムクロマトグラフィー(d=3.5cm*h=65cm)を調製した。LUZ11の調製されたサンプルを、カラムに慎重に移した。移動相混合物を、カラムを介してゆっくりと溶出させ、α
3βアトロプ異性体を含む分画を収集した。クロマトグラフィーの手順全体の間、収集した分画とともに、ガラスカラムクロマトグラフィーを光から保護した。ロータリーエバポレーターにおいて有機溶媒を除去した(T<35℃)。混合物を抽出漏斗に移し、ジクロロメタンを用いた溶媒−溶媒抽出によってLUZ11−Cを回収した。有機相を乾燥させ、ロータリーエバポレーションによって溶媒を除去した(T<35℃)。生成物を含むフラスコを、光から保護しながら、少なくとも72時間、18〜23℃にて真空ポンプと接続した。約300mgのLUZ11−Cを得た。
【0157】
ii)セミ分取HPLCによるLUZ11−C(α
3β)の単離
C−18逆相シリカゲルによって前もって調製した、LUZ11−C(α
3β)に富んだ分画のサンプル(300mg)を、12mLのDMFおよび2.5mLの水に溶解し、5分間または完全に可溶化するまで超音波処理を行った。LUZ11−Cの単離のためのHPLC条件を以下に記載する:
カラム:Inertsil−Phenyl(250*10mm;5μm)
流量:3mL/min
検出:Vis 743nm
オーブン:23℃
注入量:100μL
実行時間:70min
移動相:移動相A:アセトニトリルグラジエントグレード
移動相B:水
【0159】
混合物を抽出漏斗に移し、ジクロロメタンを用いた溶媒−溶媒抽出によってLUZ11−Cを回収した。有機相を乾燥させ、ロータリーエバポレーションによって溶媒を除去した(T<35℃)。生成物を含むフラスコを、光から保護しながら、少なくとも72時間、18〜23℃にて真空ポンプと接続した。この方法を用いて、LUZ11−Cは94%と96%との間のアッセイで得られた。このLUZ11−C(α
3β)に富んだ分画の不純物のプロファイルは、αβαβ、α
2β
2およびα
4アトロプ異性体が2%未満で存在することを示していた。
【0160】
<引用文献>
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【図面の簡単な説明】
【0161】
【
図1】ハロゲン化テトラフェニルバクテリオクロリンのアトロプ異性体であり、ここで、構造の下のスキームによって説明されているように、太線は大環平面の上側の結合を表し、その平面の上側または下側のR基の配向を規定する。R’基は、SO
2R’’を表し、ここで、R’’はそれぞれ独立に、−Cl、−OH、−アミノ酸、−OR、−NHRおよび−NR
2から選択され、ここで、Rは1〜12の炭素原子のアルキルであるか、またはR
2は2〜12の炭素原子を有するシクロアルキルを表す。原子X
1およびX
2は、少なくとも全てのX
2がハロゲンであるという条件で、それぞれ独立にハロゲン(F、Cl、Br)および水素原子から選択される。
【
図2】溶媒なしの合成にて得られた5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)クロリンサンプルの380nmにて検出したUHPLCクロマトグラム。
【
図3】溶媒なしの合成にて得られた5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)クロリンサンプルの
1H−NMRスペクトル。
【
図4】溶媒なしの合成にて得られた5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンサンプルのHPLCクロマトグラム。
【
図5】溶媒なしの合成にて得られた5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンサンプルの
1H−NMRスペクトル。
【
図6A】分取HPLCによって分離されたLUZ11−AのサンプルのHPLCクロマトグラム。
【
図6B】分取HPLCによって分離されたLUZ11−BのサンプルのHPLCクロマトグラム。
【
図6C】分取HPLCによって分離されたLUZ11−CのサンプルのHPLCクロマトグラム。
【
図6D】分取HPLCによって分離されたLUZ11−DのサンプルのHPLCクロマトグラム。
【
図7】LUZ11−Aサンプルの
1H−NMRスペクトル。
【
図8】LUZ11−Bサンプルの
1H−NMRスペクトル。
【
図9】LUZ11−Cサンプルの
1H−NMRスペクトル。
【
図10】LUZ11−Dサンプルの
1H−NMRスペクトル。
【
図11】5,10,15,20−テトラキス(2,6−ジフルオロ−3−N−メチルスルファモイルフェニル)バクテリオクロリンのα
4アトロプ異性体のX線構造であり、フッ素原子は黄色で表され、窒素原子は青で表され、硫黄原子は緑で表され、酸素原子は赤で表され、炭素原子は黒で表される。
【
図12A】LUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−Dの試料のエタノール中での吸収スペクトル。
【
図12B】測定された全ての質量はLUZ11の質量であると仮定して、サンプルのモル吸収係数を算出するために用いられた同じサンプルのBeer−Lambertプロット。
【
図13】アトロプ異性体α
3βおよびα
4の合計において分画Yの濃縮を明らかにした分画XおよびYのHPLCクロマトグラム。
【
図14】照射期間の関数としての、メタノール:PBS(3:2)中でのLUZ11−A(744.5nm)、LUZ11−B(744.5nm)、LUZ11−C(745nm)およびLUZ11−D(746nm)のサンプルの最も高い波長のピークにおける吸収の衰退。
【
図15】表5に提示されたIC50およびIC90の値を得るために用いた、LUZ11、LUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−Dのサンプルの光増感剤の用量を増加させ、1J/cm
2という一定の光線量(light dose)とした、HT−29細胞の生存率。
【
図16】表1および5に提示されたIC50およびIC90の値を得るために用いた、LUZ11、LUZ11−A、LUZ11−B、LUZ11−CおよびLUZ11−Dの試料の光増感剤の用量を増加させ、1J/cm
2という一定の光線量とした、CT26細胞の生存率。
【
図17】プロットに示された光増感剤0.7mg/kgおよび光フルエンス(light fluence)41J/cm
2を用いたPDTの後の、BALB/CマウスにおけるCT26細胞の再生のKaplan−Meierプロット。処理後60日間、腫瘍なしのままであったマウスは、治癒されたと考えた。
【
図18】プロットに示されたアトロプ異性体組成物0.7mg/kgおよび光フルエンス41J/cm
2を用いたPDTの後の、BALB/CマウスにおけるCT26細胞の再生のKaplan−Meierプロット。処理後60日間、腫瘍なしのままであったマウスは、治癒されたと考えた。サンプルXおよびサンプルYは実施例3に由来する。