(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6781801
(24)【登録日】2020年10月20日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】サンゴを核とする養殖真珠
(51)【国際特許分類】
A01K 61/57 20170101AFI20201026BHJP
A44C 27/00 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
A01K61/57
A44C27/00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-90436(P2019-90436)
(22)【出願日】2019年5月13日
【審査請求日】2020年5月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506090680
【氏名又は名称】有限会社松本真珠
(74)【代理人】
【識別番号】100074169
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 文彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 愼二
【審査官】
竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−046712(JP,A)
【文献】
特開平11−332620(JP,A)
【文献】
特開2001−346615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/57
A44C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状からなる中心核(10)と、該中心核を全球面において被覆する外殻層(20)と、からなるサンゴを核とする養殖真珠(1)において、
前記中心核(10)は、球体からなるサンゴから形成されるとともに、前記外殻層(20)は、結晶した炭酸カルシウムからなる真珠質(21)と蛋白質(22)とを交互に複数積層した真珠層からなるとともに、
前記外殻層(20)は、前記外殻層を貫通する複数の装飾孔(30)を外殻層表面の任意の箇所に削設した構成からなることを特徴とするサンゴを核とする養殖真珠。
【請求項2】
球状からなる中心核(10)と、該中心核を全球面において被覆する外殻層(20)と、からなるサンゴを核とする養殖真珠(1)において、
前記中心核(10)は、球体からなるサンゴから形成されるとともに、前記外殻層(20)は、結晶した炭酸カルシウムからなる真珠質(21)と蛋白質(22)とを交互に複数積層した真珠層からなるとともに、
前記外殻層(20)は、複数の装飾孔(30)を前記中心核の外周表面に薄膜(32)を形成しつつ外殻層表面の任意の箇所に削設した構成からなることを特徴とするサンゴを核とする養殖真珠。
【請求項3】
前記サンゴを核とする養殖真珠は、中心核のサンゴの色彩が外部から鑑賞できるように、前記装飾孔に透明部材(40)を埋設したことを特徴とする請求項1または請求項2記載のサンゴを核とする養殖真珠。
【請求項4】
前記透明部材は、樹脂製素材からなることを特徴とする請求項3記載のサンゴを核とする養殖真珠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖真珠に関し、特に、サンゴを核とした真珠を形成して自然なホワイトピンクに輝かせるとともに、該サンゴを覆う積層形成された外殻層に、模様となる装飾孔を形成することにより、より美しいデザインにすることを実現したサンゴを核とする養殖真珠に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、美しいデザインを有する身飾品が多数開発され製造されており、特に真珠を用いた身飾品は、様々なデザインのものが多数存在する。真珠は、主に、アコヤ貝の貝殻内に異物が侵入し貝殻と外套膜との間に入り込んだ際に、膜を破って膜とともに内部に入り込み、膜が異物を包み込んで真珠袋を形成した上で、その中で、貝殻を形成する物質が異物の周りを取り囲んで積層することによって形成される。天然真珠は、この過程が自然に行われるものであり、養殖真珠は、人工的にアコヤ貝に手を加えることによって生成するものである。
【0003】
この養殖真珠に関する技術として、特開平6−46712号公報が存在する。ここでは、真珠の核の表面に、色糸、金属性糸或いは金属片を介して模様を形成した後に、その核を真珠貝に入れて、真珠貝によって核の表面に真珠層を形成させて、核の模様をその表面に現出させる技術が開示されている。
【0004】
確かにこの技術によれば、表面に模様を形成したデザインの真珠を提供することが可能となるが、美しいデザインが確実に得られる保証はないという問題点があった。また、デザイン性に優れた真珠であるとは言えないという問題点も内在するものであった。
【0005】
また、特開2001−346615号公報では、紐状部材または台座に対して、安定した摩擦力で確実に取り付け、かつ、簡単に取り外し得る宝石として、孔が表面に開口する基体と、孔の内部に挿入される貫通孔を有する弾性体とからなり、貫通孔は、少なくとも一方の開口端が孔を介して基体の外部に連なる構成であり、かつ、内径が、一方の開口端に向かって次第に拡大されている構造が開示されている。
【0006】
更に、特開平11−332620号公報においても、真珠の核を通らない位置に孔を形成させることを可能にすることによって,宝飾品のデザイン上の制約を飛躍的に少なくする技術が開示されている。
【0007】
これらの技術によれば、紐状部材または台座に対して、安定した摩擦力で確実に宝石を取り付け、かつ、簡単に取り外しができることとなったり、容易に完成した装飾品のデザイン上の制約を最小限にとどめることが可能となるが、真珠本体に手を施しているとはいえ、真珠をはじめとする宝石自体のデザイン性については十分に考慮されているとはいえず、十分美しいデザインを確保した身飾品を実現したとは言えないという問題点があった。
【0008】
そこで、自然なホワイトピンクに輝くとともに、外殻層に模様を形成することにより、美しいデザインとすることを実現した養殖真珠の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−46712号公報
【特許文献2】特開2001−346615号公報
【特許文献3】特開平11−332620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、養殖真珠であって、特に、サンゴを核とした真珠を形成して自然なホワイトピンクに輝かせるとともに、該サンゴを覆う積層形成された外殻層に模様となる装飾孔を形成することにより、より美しいデザインにすることを実現したサンゴを核とする養殖真珠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために本発明に係るサンゴを核とする養殖真珠は、球状からなる中心核と、該中心核を全球面において被覆する外殻層と、からなるサンゴを核とする養殖真珠であって、前記中心核は、球体からなるサンゴから形成されるとともに、前記外殻層は、結晶した炭酸カルシウムからなる真珠質と
蛋白質とを交互に複数積層した真珠層からなるとともに、前記外殻層は、前記外殻層を貫通する複数の装飾孔を外殻層表面の任意の箇所に削設した構成である。
【0012】
また、本発明に係るサンゴを核とする養殖真珠は、球状からなる中心核と、該中心核を全球面において被覆する外殻層と、からなるサンゴを核とする養殖真珠であって、前記中心核は、球体からなるサンゴから形成されるとともに、前記外殻層は、結晶した炭酸カルシウムからなる真珠質と
蛋白質とを交互に複数積層した真珠層からなるとともに、前記外殻層は、複数の装飾孔を前記中心核の外周表面に薄膜を形成しつつ外殻層表面の任意の箇所に削設した構成でもある。
【0013】
また、前記サンゴを核とする養殖真珠は、中心核のサンゴの色彩が外部から鑑賞できるように、前記装飾孔に透明部材を埋設した構成である。
更に、前記透明部材は、樹脂製素材からなる構成である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記詳述した通りの構成であるので、以下のような効果がある。
1.中心核にサンゴを用いた養殖真珠としたため、真珠を自然なホワイトピンクに輝かせることが可能になる。また、外殻層に複数の装飾孔を削設する構成としたため、中心核を形成するサンゴの色彩がホワイトピンクの外殻層から直接見えることとなり、色合いやデザインの美しい審美性の高い養殖真珠を提供することが可能となる。
2.外殻層に、複数の装飾孔を中心核の外周表面に薄膜を形成しつつ外殻層表面の任意の箇所に削設する構成としたため、中心核が透けて見えることとなり、色合いやデザインの美しい審美性の高い養殖真珠を提供可能になるとともに、中心核を保護することが可能となる。
【0015】
3.装飾孔に透明部材を埋設する構成としたため、中心核のサンゴの色彩を外部から鑑賞することが可能となるとともに、中心核を保護することが可能となる。
4.装飾孔に埋設する透明部材として樹脂製素材を用いる構成としたため、確実に中心核を保護することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係るサンゴを核とする養殖真珠を、図面に示す実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るサンゴを核とする養殖真珠を示す図であり、
図2は、サンゴを核とする養殖真珠の断面図である。
図3は、中心核の外周表面に薄膜を形成した装飾孔を有するサンゴを核とする養殖真珠の断面図であり、
図4は、装飾孔に透明部材を埋設した養殖真珠の断面図である。
【0017】
本発明に係るサンゴを核とする養殖真珠1は、
図1に示すように、中心核10と、外殻層20とからなり、自然なホワイトピンクの光沢を発するとともに、表面に施された装飾孔30による視覚的効果が相まって、観るものに美しいデザインを看取させるデザイン性に優れた養殖真珠である。
【0018】
中心核10は、本発明に係るサンゴを核とする養殖真珠1の核をなす部分であって、球状からなるものである。本実施例では、球体からなるサンゴを中心核として形成する構成であり、これに後述する外殻層20が積層される構成である。本実施例では、中心核10として、特にモモサンゴを使用する構成である。この構成とすることにより、自然なホワイトピンクの輝きを得ることが可能となるが、これに限定されることはなく、中心核として他の種類のサンゴを用いることも可能である。
【0019】
外殻層20は、中心核10の外側に積層される部材であり、中心核10を全球面において積層被覆する構成である。外殻層20は、本実施例では、
図2に示すように、結晶した炭酸カルシウムからなる真珠質21と、
蛋白質22とを交互に複数積層した真珠層からなる構成である。本発明を構成する養殖真珠は、主に、アコヤ貝の貝殻内にピースと中心核10を挿入するとアコヤ貝内部で真珠袋が形成され、その中で、貝殻を形成する物質が真珠層として中心核10の周りを取り囲んで、外殻層20として積層することによって形成される。なお、本発明を構成するサンゴを核とする養殖真珠1の具体的な製造工程は、後述する。
【0020】
外殻層20は、装飾孔30を削設した構成である。装飾孔30は、養殖真珠1に形成する装飾要素であり、外殻層20を貫通する複数の孔からなる。装飾孔30は、本実施例では、
図2に示すように、複数の装飾孔30が、外殻層20表面の任意の箇所に、外殻層20を貫通して中心核10に達するまで削設する構成である。この構成とすることにより、中心核10を形成するサンゴの色彩がホワイトピンクの外殻層20から直接見えることとなり、色合いやデザインの美しい審美性の高い養殖真珠を提供することが可能となった。
【0021】
装飾孔30は、本実施例では、円形からなるが、これに限定されることはなく、四角形、三角敬、星形など、任意の形状の孔を削設することが可能である。また、装飾孔30は、本実施例では任意の箇所に削設する構成であるが、例えば文字の形など、あらゆる形状を表すように削設配置することが可能である。
【0022】
本発明のサンゴを核とする養殖真珠1の実施例として、
図3に示すように、外殻層20表面の任意の箇所に、中心核10の外周表面に薄膜32を形成しつつ削設する複数の装飾孔30を、外殻層20に設けた構成である。この構成とすることにより、中心核10が薄膜32を介して淡く透けて見えることとなり、色合いやデザインの美しい審美性の高い養殖真珠を提供することが可能となった。また同時に、中心核10を外気に直接触れて劣化することを防止したり汚れから保護することが可能となった。
【0023】
本発明のサンゴを核とする養殖真珠1の他の実施例として、
図4に示すように、装飾孔30に透明部材40を埋設する構成とすることが可能である。装飾孔30は、孔を削設した構成であるため、このままアクセサリーとして長期間にわたって使用し続けると、装飾孔30にゴミ等の汚れが侵入する可能性がある。また、空気に触れ続けることにより、中心核10のサンゴが劣化することも考えられる。装飾孔30に透明部材40を埋設する構成とすることにより、中心核10のサンゴの色彩を外部から鑑賞することが可能となるとともに、中心核10を保護することが可能となった。
【0024】
透明部材40は、本実施例では、樹脂製素材を使用することが可能である。樹脂製素材としては、例えばエポキシ等を埋設することが考えられる。この構成とすることにより、確実に中心核10を保護することが可能となった。
【0025】
次に、本発明に係るサンゴを核とする養殖真珠1の製造の工程について説明する。まず、10月頃に養殖のための母貝(アコヤ貝:受け取り3年貝)を所要量用意し、サイズ別に選別してカゴ詰め(抑制作業)し、海水に漬ける(水温18℃程度の条件)。また、母貝の状態を見ながら足糸をちぎって抜く。これらにより、翌年4月までの間にカゴの中でピースや核(中心核10)を挿核できる状態にすることが可能となる。
【0026】
翌年3月頃、水温の上昇とともに母貝も活発に活動することを考慮し、カゴの中の海水を入れ替えたり、環境を変えたりする手入れを行い、母貝の活動を促進する。次に、4月頃、母貝に対する挿核工程を行なう。すなわち、例えばアコヤ貝から切り出したピース(細胞片)と、球状に形成した中心核10となるモモサンゴの核とを母貝の生殖巣内に挿入する。具体的には、母貝の生殖巣の一部を切開し、その部分からアコヤ貝から切り出したピース(細胞片)と、中心核10となるモモサンゴの球状の核を密着して挿核する。この場合、抑制のきいている母貝、即ち、卵のない貝、足糸の少ない貝、柱の柔らかい貝等を選別して挿核作業を実行する。
【0027】
次に、挿核後の母貝の体力の回復、パールサックの形成のための養生(安静状態に維持)を行なう(挿核から1箇月程度、なお、水温によって異なる)。
【0028】
次に、挿核した母貝をネットに並べて入れ、沖の漁場へ運んで海水に漬ける。この作業を全ての挿核作業の終わる9月ごろまで行う。沖出し終了後、水圧で貝の汚れを落とす動噴作業(約一週間に一回)、塩を貝の表面に振って付着物・寄生虫の処理をする塩振り(塩水処理)を実行する。これらは約年3回の割合で水温、プランクトン等海の状況も考慮して実行する。これらの作業を行うことにより、母貝に刺激を与え、外殻層20の分泌を促進することができる。また、浜揚げ1箇月前頃までこれの作業を繰り返す。これらの作業において母貝を汚さないようにすることが肝要である。
【0029】
次に、翌年1月頃浜揚げを行う。すなわち、水温の下がりを待って浜揚げし、試験剥ぎを行う。これにより、真珠の表面に照りを出し、また、母貝の状態、珠の巻き具合を考慮して養殖真珠の取り出し、又は一層良好な養殖真珠を得るために行われるいわゆる越物(例えば2年物)とする。
【0030】
次に、取り出した養殖真珠の選別を、大きさ、色、形(真円度)、傷、等を考慮しつつ実行し、商品珠又は廃棄珠に分類する。
【0031】
次に、得られた養殖真珠の任意の箇所に複数の装飾孔30を削設する。削設処理は、ドリル等で孔を形成することも可能であり、錐条を刺衝して孔を形成することも可能である。装飾孔30は、前述のように、中心核10まで貫通してもよいし、中心核10との間に薄膜32を形成するように形成してもよい。また、文字等を形成するような配置で装飾孔30を削設してもよい。
【0032】
上記製造工程により、モモサンゴの保有するピンク質を基調とし、アコヤ貝から切り出したピースのホワイト質を含有して、自然なホワイトピンクの色調を呈する外殻層20を備えた養殖真珠を得ることができ、更に装飾孔30を設けることにより、より美しいデザインにすることを実現したサンゴを核とする養殖真珠1を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明に係るサンゴを核とする養殖真珠を示す図
【
図3】中心核との間に薄膜を形成した装飾孔を有するサンゴを核とする養殖真珠の断面図
【
図4】装飾孔に透明部材を埋設した養殖真珠の断面図
【符号の説明】
【0034】
1 サンゴを核とする養殖真珠
10 中心核
20 外殻層
21 真珠質
22
蛋白質
30 装飾孔
32 薄膜
40 透明部材
【要約】 (修正有)
【課題】サンゴを核とした真珠を形成して自然なホワイトピンクに輝かせるとともに、該サンゴを覆う積層形成された外殻層に模様となる装飾孔を形成することにより、より美しいデザインにすることを実現したサンゴを核とする養殖真珠を提供する。
【解決手段】球状からなる中心核10と、該中心核10を全球面において被覆する外殻層20と、からなるサンゴを核とする養殖真珠1であって、前記中心核10は、球体からなるサンゴから形成されるとともに、前記外殻層20は、結晶した炭酸カルシウムからなる真珠質21と淡泊質22とを交互に複数積層した真珠層21からなるとともに、前記外殻層20は、前記外殻層20を貫通する複数の装飾孔30を外殻層表面の任意の箇所に削設した構成である。
【選択図】
図2