(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来法で得られる義歯床も、CAD/CAM法で得られる義歯床も、固定のため義歯床中に人工歯が埋設されている。有床義歯を必要とする患者は顎堤の高さがまちまちである。特に、顎堤の高い患者に対する有床義歯は装着感と咬合感を両立させるため、人工歯の直下の部分について義歯床の厚みが十分に確保できないことがある。しかしながら、義歯床の厚みを薄くすると、人工歯のカラー部(すなわち、義歯床中に埋没する部分)が患者の顎堤に触れてしまうおそれがある。したがって、該カラー部をあらかじめ切削する必要があり、有床義歯製作上の負荷が大きくなっていた。
【0005】
本発明の一実施形態は上記事実に鑑み、製造上の負担を軽減可能な義歯床及びそれに埋設される人工歯並びにこれらを備えた有床義歯の提供を目的する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 床部と、
前記床部の歯肉部分に対し段部をもって区画され、人工歯が装着されるソケットと、
前記歯肉部分のうち、歯列に沿って前記ソケットの両端に位置するとともに隣接する歯との間の歯間乳頭に相当する歯間乳頭部分と、を有し、
前記ソケットを上向きにした状態において、
前記ソケットの基底面は、両端の歯間乳頭部分の間を連結する尾根状を呈するソケット頂部を有するとともに全体として凸な面で構成され、
前記基底面の辺縁部分は、前記段部と互いに連続的に当接し、
前記ソケット頂部は、前記ソケットに人工歯を装着した状態で唇側から視認される歯間乳頭部分の頂部とほぼ同じ高さ又はより上に位置している、義歯床。
<2> 前記ソケット頂部から唇面側の基底面は、唇側に向かって傾斜が下がる凸形状に形成されている、<1>に記載の義歯床。
<3> 前記ソケット頂部から舌面側の前記基底面も、舌側に向かって傾斜が下がる凸形状に形成されている、<2>に記載の義歯床。
<4> 前記基底面において、前記ソケット頂部から上方に突出する突起部を有する、<3>に記載の義歯床。
<5> 前記ソケットが複数個、前記床部において隣接して形成されているとともに、
前記基底面を有するソケットが、前記複数個のソケットのうちの少なくとも1つである、<1>から<4>までのいずれか1つに記載の義歯床。
【0007】
<6> 義歯床用材料を切削して<1>から<5>までのいずれか1つに記載の義歯床を得る切削工程を有する義歯床の製造方法。
<7> 前記切削工程には、CADにより設計されたデザインをCAMにより切削する工程(CAD/CAM工程)を含む、<6>に記載の義歯床の製造方法。
<8> 前記CAD/CAM工程において前記ソケット部が形成される、<7>に記載の義歯床の製造方法。
<9> <1>から<5>までのいずれか1つに記載の義歯床を3Dプリントにより成形する成形工程を有する義歯床の製造方法。
【0008】
<10> 咬合面を上にしたときに、義歯床のソケットに接着される基底面が、歯列に沿った両端を連結する谷状を呈する基底面頂部を有するともに全体として凹な面で構成され、
唇側表面及び舌側表面は、前記ソケットに装着された後でも各々下端縁までが視認可能な連続面として形成されている、人工歯。
<11> 前記基底面頂部から唇面側の基底面は、唇側に向かって傾斜が下がる凹形状に形成されている、
<10>に記載の人工歯。
<12> 前記基底面頂部から舌面側の前記基底面も、舌側に向かって傾斜が下がる凹形状に形成されている、<11>に記載の人工歯。
<13> 前記基底面頂部の中央部に陥凹部を有する、<12>に記載の人工歯。
<14> 前記基底面が、<1>又は<1>に従属する<5>に記載の義歯床のソケットと嵌合可能に構成されている、<10>に記載の人工歯。
<15> 前記基底面が、<2>又は<2>に従属する<5>に記載の義歯床のソケットと嵌合可能に形成されている、<11>に記載の人工歯。
<16> 前記基底面が、<3>又は<3>に従属する<5>に記載の義歯床のソケットと嵌合可能に形成されている、<12>に記載の人工歯。
<17> 前記基底面が、<4>又は<4>に従属する<5>に記載の義歯床のソケットと嵌合可能に形成されている、<13>に記載の人工歯。
<18> 前記基底面頂部が人工歯の側面方向から視認可能に構成されている、<10>から<17>までのいずれか1つに記載の人工歯。
【0009】
<19>射出成形により<10>から<18>までのいずれか1つに記載の人工歯を得る成形工程を有する人工歯の製造方法。
<20>人工歯用材料を切削して<10>から<18>までのいずれか1つに記載の人工歯を得る切削工程を有する人工歯の製造方法。
<21><10>から<18>までのいずれか1つに記載の人工歯を3Dプリントにより成形する成形工程を有する人工歯の製造方法。
【0010】
<22> <1>に記載の義歯床と、前記義歯床の前記ソケットに装着された、<10>に記載の人工歯と、を備える有床義歯。
また、<2>に記載の義歯床と、前記義歯床の前記ソケットに装着された、<11>に記載の人工歯と、を備える有床義歯。
また、<3>に記載の義歯床と、前記義歯床の前記ソケットに装着された、<12>に記載の人工歯と、を備える有床義歯。
また、<4>に記載の義歯床と、前記義歯床の前記ソケットに装着された、<13>に記載の人工歯と、を備える有床義歯。
【0011】
<23> 前記ソケットが複数個、前記床部において隣接して形成されているとともに、前記ソケットの各々に装着される前記人工歯が連結されている、<22>に記載の有床義歯。
【0012】
<24> 義歯床用材料を切削して<1>に記載の義歯床を得る切削工程と、前記義歯床の前記ソケットに<10>に記載の人工歯を装着する装着工程と、を有する有床義歯の製造方法。
また、義歯床用材料を切削して<2>に記載の義歯床を得る切削工程と、前記義歯床の前記ソケットに<11>に記載の人工歯を装着する装着工程と、を有する有床義歯の製造方法。
また、義歯床用材料を切削して<3>に記載の義歯床を得る切削工程と、前記義歯床の前記ソケットに<12>に記載の人工歯を装着する装着工程と、を有する有床義歯の製造方法。
また、義歯床用材料を切削して<4>に記載の義歯床を得る切削工程と、前記義歯床の前記ソケットに<13>に記載の人工歯を装着する装着工程と、を有する有床義歯の製造方法。
さらに、前記ソケットが複数個、前記床部において隣接して形成されているとともに、前記基底面を有するソケットが、前記複数個のソケットのうちの少なくとも1つである、これらのいずれかの有床義歯の製造方法。
【0013】
<25> 3Dプリントにより<1>に記載の義歯床を得る工程と、前記義歯床の前記ソケットに<10>に記載の人工歯を装着する装着工程と、を有する有床義歯の製造方法。
また、3Dプリントにより<2>に記載の義歯床を得る工程と、前記義歯床の前記ソケットに<11>に記載の人工歯を装着する装着工程と、を有する有床義歯の製造方法。
また、3Dプリントにより<3>に記載の義歯床を得る工程と、前記義歯床の前記ソケットに<12>に記載の人工歯を装着する装着工程と、を有する有床義歯の製造方法。
また、3Dプリントにより<4>に記載の義歯床を得る工程と、前記義歯床の前記ソケットに<13>に記載の人工歯を装着する装着工程と、を有する有床義歯の製造方法。
さらに、前記ソケットが複数個、前記床部において隣接して形成されているとともに、前記基底面を有するソケットが、前記複数個のソケットのうちの少なくとも1つである、これらのいずれかの有床義歯の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態は、上記のように構成されているので、製造上の負担を軽減可能な義歯床及びそれに埋設される人工歯並びにこれらを備えた有床義歯が提供できる。具体的には、たとえば、人工歯が義歯床に埋設される部分が少ないため、顎堤が高い患者向けの有床義歯でも人工歯を切削する工程を大幅に減らし、あるいはなくすことができる。また、義歯床の基底面が凸形状になるために人工歯との接着面積が増大し、人工歯の固定力を上げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の各実施形態を図面を参照しつつ説明する。なお、以下で言及する全図面を通じて、同じ符号は同じ部材を表す。
【0017】
[第一実施形態]
(有床義歯の構成)
図6に示すように、第一実施形態に係る有床義歯300は、義歯床100と、この義歯床100の床部102に装着された複数の人工歯200を含む。また、床部102のうち、人工歯200が装着された状態で歯肉として視認される部分を歯肉部分110と称する。なお、
図6では、上顎用の有床義歯300を示しているが、もちろん、下顎用の有床義歯及び義歯床であってもよい。
【0018】
(義歯床の構成)
図1A及び
図1Bに示すように、義歯床100は、人工歯200が装着される部位である床部102を有する。床部102には、人工歯200(
図6参照)が載置されて固定される複数のソケット120が歯列に沿って隣接して形成されている。なお、
図1A及び
図1Bの義歯床100は、ソケット120を上向きにした状態で示してある。義歯床100に関する以後の説明において言及する上下方向及び高低は、全てこの
図1A及び
図1Bに示した状態での上下方向及び高低に従っている。また、
図1A中、D−D間の湾曲した破線で示した矢印が、歯列に沿った方向を示す。さらに、Lで示す矢印の方向が唇側又は頬側を示し、Tで示す矢印の方向が舌側を示す。以後の説明で言及する「歯列に沿った方向」、「唇側」(本願発明では、特に断らない限り、「頬側」も含んだ概念としてこのように表現する)及び「舌側」はそれぞれこれらの
図1A中の矢印で示した方向を表す。以下の図中でも適宜この矢印によって方向が示されている。
【0019】
図2Aに示すように、ソケット120は、歯肉部分110とは段部112をもって明瞭に区画されている。換言すると、ソケット120は、歯肉部分110に対し段部112の高さ分だけ表面が低くなっている。
【0020】
また、各ソケット120の歯列に沿った両端には、歯肉部分110が段部112の高さ分だけ高くなった歯間乳頭部分114が形成されている。この歯間乳頭部分114とは、ソケット120に装着される人工歯200と、隣接する歯との間で歯間乳頭を形成する部分を含む。なお、ここでいう隣接する「歯」とは、隣接する人工歯200を意味するが、有床義歯300が部分義歯であれば、当該部分義歯が隣接する自然歯である場合もある。
【0021】
ソケット120において人工歯200が固定される面である基底面130は、当該ソケット120の両端に位置する歯間乳頭部分114の間を連結するような尾根状を呈している。この尾根状の部分をソケット頂部138と称する。換言すると、ソケット頂部138は、ソケット120の基底面130のうちもっとも高い箇所をいう。なお、ソケット頂部138に関して言及されている「尾根状」とは、図中のようにソケット120を上向きにした状態として表現されるものである。したがって、この義歯床100が有床義歯300の一部として実際に口腔中に装着された場合には、上顎用の有床義歯300の場合はこの「尾根」は一番低い位置にあり、下顎用の有床義歯300の場合は逆に一番高い位置にあることになる。
【0022】
ソケット120の基底面130は、このソケット頂部138を含めて全体として凸な面で構成されている。ここで、「全体として凸な面」とは、基本的には全体が凸な立体形状であるということを意味し、全体が凸曲面で形成されていることが望ましいが、その一部に平坦面を含んでいても、また、複数の平坦面の組み合わせで全体が凸形状に形成されていてもよい、ということを意味する。
【0023】
ソケット120の唇側の基底面132は、
図2Bに示すように、唇側に向かって傾斜が下がる凸形状に形成されている。なお、
図2Cの変形例に示すように、唇側の基底面132は平坦面として形成されていてもよい。また、舌側の基底面134も、舌側に向かって傾斜が下がる凸形状に形成されている。なお、
図2Dの変形例に示すように、舌側の基底面134は平坦面として形成されていてもよい。さらに、
図2Eの変形例に示すように、基底面130が全体として凸形状であれば、唇側の基底面132及び舌側の基底面134の両方が平坦面として形成されていてもよい。
【0024】
ソケット120の基底面130の辺縁部分136は、
図2Bに示すように、唇側及び舌側のいずれにおいても、歯肉部分110の段部112と互いに連続的に当接している。すなわち、当該辺縁部分136は、当該段部112との間に溝や谷部のような陥凹構造を介在させることなく、当該辺縁部分136が直接、当該段部112と接していることとなっている。また、当該段部112も、当該辺縁部分136との間に溝やポケットのような陥凹構造を介在させることなく、当該段部112が直接、当該辺縁部分136と接していることとなっている。このことを上記のように「互いに連続的に当接している」と表現している。
【0025】
ここで、
図3は、一部のソケット120に人工歯200が装着されている様子を正面視にて模式的に示すものである。本図に示すように、歯肉部分110の歯間乳頭部分114は、ソケット頂部138の高さに対して、段部112の分だけ幾分高くなっている。しかし、この部分は、隣接する2本の人工歯200が装着されるとその間に隠れて唇側からは視認することができない。そして、隣接する2本の人工歯200の間に位置する歯間乳頭部分114で唇側から視認できる部分(すなわち、図中の歯間乳頭P)の一番高い部分である頂部116の高さは、ソケット頂部138の高さとほぼ同じである。ここで、ソケット頂部138の高さと歯間乳頭部分114の頂部116の高さとがほぼ同じである、とは、両者の高さが一見して同じであると認識できればよい、という趣旨であり、厳密に同じ高さであることまでを要求するものではない。よって、現実にはいずれかの一方がわずかながら他方よりも高い、という場合があってもよい。
【0026】
なお、ソケット120に人工歯200を装着した状態で唇側から視認される歯間乳頭部分114の頂部116の高さについて、
図15A、
図15B及び
図15Cを用いて具体的に説明する。
【0027】
図15Aにおいて、直線aは、隣接する歯間乳頭部分114の最高点を通る直線である。直線bは、ソケット下端部139を通り、かつ、前記直線aと平行な直線である。面S1は、隣接する前記直線a及び前記直線bを通る面である。さらに、距離D1は、直線aと直線bとの距離である。
【0028】
一方、
図15Bにおいて、直線cは、前記直線bと平行で、かつ、ソケット頂部138を通る直線である。また、面S2は、前記直線b及び前記直線cを通る面である。さらに、距離D2は、直線bと直線cとの距離である。なお、面S1と面S2とは、必ずしも同一平面であるとは限らない。
【0029】
そして、ソケット頂部138がソケットに人工歯を装着した状態で唇側から視認される歯間乳頭部分114の頂部116の高さとがほぼ同じである、とは、
図15Cにおいて、前記直線bから歯間乳頭部分114の頂部116までの距離D3が、前記距離D2とほぼ同じである、ということを意味する。このことを、前記距離D1及び距離D2を参照して、D1:D2が1:1.2〜1:0.8である場合、好ましくは1:1.1〜1:0.9である場合、より好ましくは1:1〜1:0.95である場合をもって、前記距離D3が前記距離D2とほぼ同じである、と定義することができる。
【0030】
なお、本実施形態では、ソケット頂部138が、ソケット12
0に人工歯を装着した状態で唇側から視認される歯間乳頭部分114の頂部116とほぼ同じ高さである場合を示したが、ソケット頂部138が、歯間乳頭部分114の頂部116より高い位置、すなわち、
図15Cにおいて、D3<D2となる位置にあってもよい。
【0031】
また、義歯床100のソケットの形状としては、
図1A及び
図1B並びに
図2A〜
図2Eに示すような、ソケット頂部138を有し全体として凸な面で構成される基底面130を有するものとして全てのソケットを形成してもよいし、このような基底面130を有するソケットを従来の凹形状のソケットと混在させてもよい。このような異なる形状のソケットを混在させる例としては、たとえば前歯をこのような基底面130を有するソケットとし、臼歯を従来の凹形状ソケットとすることが挙げられる。
【0032】
(義歯床用材料)
義歯床用材料としての義歯床100の材質は、特に限定されない。ただし、後述するように、CAD/CAMシステム(CAD(Computer Aided Design)システムユニットと、CAM(Computer Aided Manufacturing)システムユニットとを備えた製造システム)を用いた製造に適している点、及び、市販のアクリル系樹脂製のレジン歯との接着性に優れる点から、アクリル系樹脂が好ましい。
【0033】
ここで、アクリル系樹脂とは、アクリル酸に由来する構造単位、メタクリル酸に由来する構造単位、アクリル酸エステルに由来する構造単位、及びメタクリル酸エステルに由来する構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含む重合体を指す。
【0034】
すなわち、本明細書中におけるアクリル系樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種(以下、「アクリル系単量体」とも称する)を含む単量体成分を重合して得られた重合体である。
【0035】
アクリル系樹脂の原料の少なくとも一部であるアクリル系単量体は、単官能アクリル系単量体であってもよいし、多官能アクリル系単量体であってもよい。
【0036】
単官能アクリル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、一分子中にアクリロイル基を1つ含むアクリル酸エステル、一分子中にメタクリロイル基を1つ含むメタクリル酸エステル、等が挙げられる。
【0037】
多官能アクリル系単量体としては、一分子中にアクリロイル基を2つ以上含むアクリル酸エステル、一分子中にメタクリロイル基を2つ以上含むメタクリル酸エステル、等が挙げられる。
【0038】
上記アクリル酸エステルとしては、アクリル酸アルキルエステルが好ましい。中でも、アルキルエステルの部位に含まれるアルキル基の炭素数が1〜4であるアクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルがさらに好ましく、アクリル酸メチルが特に好ましい。
【0039】
上記メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸アルキルエステルが好ましい。中でも、アルキルエステルの部位に含まれるアルキル基の炭素数が1〜4であるメタクリル酸アルキルエステルがより好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルがさらに好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0040】
また、アクリル系樹脂は、反応性や生産性の観点から、単官能アクリル系単量体を含む単量体成分を重合して得られた重合体であることが好ましい。
【0041】
アクリル系樹脂は、単官能アクリル系単量体を50質量%以上(好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上)含む単量体成分を重合して得られた重合体であることがより好ましい。
【0042】
上記アクリル系樹脂として、特に好ましくは、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体であり、最も好ましくはメタクリル酸メチルの単独重合体(ポリメタクリル酸メチル、すなわち、ポリメチルメタクリレート(PMMA))である。
【0043】
上記アクリル系樹脂は、耐衝撃性の観点から、ゴムを含んでいてもよい。
【0044】
ゴムの種類としては、アクリル系ゴム、ブタジエン系ゴム、ブタジエン−アクリル系ゴム、ブタジエン−スチレン系ゴム、シリコーン系ゴム、等が挙げられる。
【0045】
上記アクリル系樹脂がゴムを含む場合、ゴムの種類は、適宜物性を考慮して選択すればよいが、硬度、耐衝撃性等の諸物性のバランスを考慮すると、ブタジエン系ゴム又はブタジエン−アクリル系ゴムが好ましい。
【0046】
義歯床100は、審美性の観点から、歯肉に近い色調に着色されていてもよい。義歯床100の着色には、たとえば、顔料、染料、色素などを使用すればよい。
【0047】
義歯床100は、全部床義歯(いわゆる総入れ歯)用の義歯床であってもよいし、局部床義歯(いわゆる部分入れ歯)用の義歯床であってもよい。
【0048】
また、義歯床100は、上顎用義歯の義歯床であってもよいし、下顎用義歯の義歯床であってもよいし、上顎用義歯床と下顎用義歯床とのセットであってもよい。
【0049】
(義歯床の製造方法)
次に、義歯床100の製造方法について説明する。
【0050】
義歯床100の製造にあたっては、一例としてCAD/CAMシステムを用いることができる。このCAD/CAMシステムによる製造工程を、「CAD/CAM工程」と称する。
【0051】
CADシステムユニットは、口腔内の3D表面形状情報と、人工歯200の3D形状情報に基づき、コンピュータを用いて義歯床100の形状情報をデジタルデータとして設計し、かつ、製作する。本実施形態では、このデジタルデータに、ソケット120の形状情報も含まれる。
【0052】
CAMシステムユニットは、たとえばミリングマシンを有している。そして、CAMシステムユニットは、CADシステムユニットにより形成された形状情報を取得し、ミリングマシンにより、義歯床100を形成する。すなわち、ミリングマシンは、入力された義歯床100の形状データに基づいて、前記の義歯床用材料で形成されたレジンブロックを切削加工して義歯床100が得られる。
【0053】
このように、本実施形態の義歯床の製造方法では、義歯床100を形成する工程の少なくとも一部に、切削工程(たとえば、上記したミリングマシンによる切削)を含む。これにより、手作業等によってソケット120を成形する工程をなくすことができ、又は、ソケット120の形状の手作業等による修正を最小限にできる。
【0054】
特に、切削によりソケット120を形成することで、ソケット120を高精度で形成できる
【0055】
義歯床100の製造システムでは、CADシステムユニットによって得られた、義歯床100の形状情報が含まれている。そして、この形状データに基づいて、CAMユニットにより、義歯床100の材料を成形し、義歯床100を製造する。このため、所望の形状の義歯床100を、効率的に、高精度で形成できる。
【0056】
特に、本実施形態では、義歯床100の形状情報には、ソケット120の形状情報も含まれている。したがって、ソケット120を有する義歯床100を、ミリングマシンを用いたCAD/CAM工程のみにより形成してもよい。
【0057】
なお、切削工程の一部に、作業者による手作業が含まれていてもよい。
【0058】
また、義歯床100の製造にあたっては、上記した製造システムのミリングマシンに代えて、3Dプリンタを有する製造システムでもよい。このような製造システムでは、CAMシステムユニットは、CADシステムユニットにより形成された形状情報を取得し、CAMシステムユニットの一部である3Dプリンタを用いた3Dプリントにより、義歯床100を形成する。3Dプリンタは、入力された義歯床100の形状データに基づいて、一層ずつ、前記の義歯床用材料を積層することにより義歯床100を成形する。3Dプリンタは、光造形方式、粉末焼結積層方式、熱溶解積層方式およびインクジェット方式のいずれの方式を採用するものであってもよい。
【0059】
特に、本実施形態では、義歯床100の形状情報には、ソケット120の形状情報も含まれている。したがって、たとえば、ソケット120を有する義歯床100を、3Dプリンタを用いたCAD/CAM工程のみにより形成してもよい。
【0060】
このように、3Dプリントにより義歯床100を形成する工程において、ソケット120の形状も含めて3Dプリンタのみで成形することができる。これにより、手作業等によってソケット120を成形する工程をなくすことができ、又は、ソケット120の形状の手作業等による修正を最小限にできる。
【0061】
なお、義歯床100の製造システムとしては、CAMユニットは、ミリングマシンと3Dプリンタの少なくともいずれか一方を有していればよく、両方を有していてもよい。
【0062】
(人工歯の構成)
図4B〜
図4Dに示すように、人工歯200は、前記義歯床100のソケット120の基底面130に接着される面としての、人工歯200の基底面230を有する。なお、
図4A〜
図4Dの人工歯200は、
図1A及び
図1Bに示す前記義歯床100に装着されるものであって、咬合面を上向きにした状態で示してある。すなわち、
図4A〜
図4Dの人工歯200の上下方向は、
図1A及び
図1Bの義歯床100の上下方向と同じである。人工歯200に関する以後の説明において言及する上下方向及び高低は、全てこの
図4A〜
図4Dに示した状態での上下方向及び高低を意味する。
【0063】
人工歯200の基底面230は、対応するソケット120の基底面130に対応するように、全体として凹な面で構成されている。ここで、「全体として凹な面」とは、基本的には全体が凹な立体形状であるということを意味し、全体が凹曲面で形成されていることが望ましいが、前記ソケット120の基底面130の一部又は全部が平坦面で形成されている場合には、全体が
凹形状に形成されていれば、その平坦面に対応する部分として平坦面で構成されていてもよい、ということを意味する。
【0064】
この、全体として凹な面として構成されている人工歯200の基底面230のうち、前記ソケット頂部138に対応する部分が一番高い位置にあり、この部分を基底面頂部238と称する(
図4D参照)。この基底面頂部238は、歯列に沿った人工歯200の両端E(
図4A〜
図4C参照)を連結する谷状を呈する。ここで、この「両端」とは隣接する歯(人工歯又は自然歯を問わない)のある側をいう。なお、ここでいう「谷状」とは、人工歯200の基底面230を仮に上向きにした場合、「谷」のような形状を呈していることを意味する。したがって、この人工歯200が有床義歯300の一部として実際に口腔中に装着された場合には、上顎用の有床義歯300の場合はこの「谷」は一番低い位置にあり、下顎用の有床義歯300の場合は逆に一番高い位置にあることになる。
【0065】
人工歯200の唇側の基底面232は、
図4Dに示すように、唇側に向かって傾斜が連続的に下がる凹形状に形成されている。また、舌側の基底面234も、舌側に向かっても傾斜が連続的に下がる凹形状に形成されている。すなわち、この人工歯200が装着される義歯床100のソケット120の基底面130の辺縁部分136は、前記の通り、唇側及び舌側のいずれにおいても、歯肉部分110の段部112と連続的に当接している(
図2B参照)。よって、このソケット120の基底面130の辺縁部分136の「連続的」な形状と対応して、人工歯200の基底面230も同様に「連続的」な形状、すなわち、突起及び突条のような突出構造がない、ということとなっている。なお、
図4Eに示すように、唇側の基底面232は、前記
図2Cに示すソケット120の唇側の基底面132の形状に対応するように、平坦面として形成されていてもよい。また、
図4Fに示すように、舌側の基底面234は、前記
図2Dに示すソケット120の舌側の基底面134の形状に対応するように、平坦面として形成されていてもよい。さらに、
図4Gに示すように、唇側の基底面232及び舌側の基底面234は、前記
図2Eに示すソケット120の唇側の基底面132及び舌側の基底面134の形状にそれぞれ対応するように、両方とも平坦面として形成されていてもよい。
【0066】
人工歯200の唇側表面204(
図4A及び
図4D参照)並びに舌側表面206(
図4B、
図4C及び
図4D参照)は、各々その下端縁208までが連続面として形成されている。ここでいう「連続面」とは、従来の人工歯において、義歯床に埋設される部分である、所謂カラー部のような段部が下端縁208には形成されていないことを意味する。よって、人工歯200の唇側表面204及び舌側表面206は各々その下端縁208までが、義歯床100に装着された後でも視認可能となっている(
図5参照)。
【0067】
本実施形態においては、複数の人工歯200が、義歯床100の床部102において隣接して形成されるソケット120に配置される際には、これらの隣接する人工歯200が互いに連結されていてもよい。具体的には、たとえば、
図3のように人工歯200を義歯床100に配置させる場合において、それぞれの人工歯200が接する部分において連結するようにしてもよい。
【0068】
本実施形態においては、人工歯200は、基底面頂部238が人工歯の側面方向から視認可能に構成されていることが好ましい。たとえば、
図4B及び
図4Cに示すように、人工歯200を側面方向から視認した場合に、一方の側面側から他方の側面側までの基底面頂部238に接する線の占める空間が貫通しているため、基底面頂部238(
図4D参照)が側面方向から視認可能となっている。
【0069】
(人工歯の材料)
人工歯200に用いられる材料としては、長石、石英、シリカ、アルミナ、ジルコニアなどのセラミック材料、又はマトリックスレジンとしてポリメチルメタクリレート(PMMA)やジメタクリレートを含み、その他に無機フィラーを含むコンポジットレジンや、アクリル系レジンなど通常歯科材料として用いられているレジン材料から適宜選択される。ジメタクリレートとしては、たとえば、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート(Bis−GMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ウレタンジメタクリレート(UDMA)が挙げられる。
【0070】
なお、人工歯200の審美性を向上させるため、エナメル層用と象牙質用の2色以上の色調の異なる材料を使用して複数層に分け積層してもよい。また、2つの異なる材料に色調を変えたものを準備して組み合わせてもよく、同じ材質で色調を変えたものを準備して用いてもよい。
【0071】
人工歯200としては、アクリル系のレジン歯、アクリル系の硬質レジン歯、セラミック
歯が挙げられる。ここで、義歯床100への接着を強固にする観点から、アクリル系のレジン歯及び硬質レジン歯が好ましい。
【0072】
人工歯200の成形方法としては、圧縮成形、射出成形、射出圧縮成形等により成形してもよいし、たとえば人工歯用材料のブロック体からCAD/CAM等により切削して成形してもよく、3Dプリンタ等により積層して成形してもよい。
【0073】
(人工歯の義歯床への装着)
図5に示すように、人工歯200は、ソケット120の基底面130を覆うようにして、義歯床100に固定されて装着される。この際、前述のように、人工歯200の唇側表面204は連続面として形成されているため、その下端縁208までが歯肉部分110に埋没せずに、歯肉部分110と面一の状態で外部から視認可能となっている。図示しない舌側表面206についても同様である。
【0074】
具体的には、前記義歯床用材料を前記の通り切削する切削工程により、又は、前記の通り3Dプリントによる工程により、前記義歯床100を得ることができる。この義歯床100の前記ソケット120に前記人工歯200を装着する装着工程で全ての人工歯200が固定して装着され、
図6に示す有床義歯300が製造される。有床義歯300においては、
図7Aの断面図に示すように、ソケット120の基底面130に、人工歯200の基底面230が固定され、上顎の顎堤Rを義歯床100の床部102の凹部104に嵌入させた状態で装着される。そして、上述のように、人工歯200の唇側表面204及び舌側表面206のいずれの下端縁208も、歯肉部分110に埋没せず、外面から視認可能となっている。
【0075】
ここで、
図7Bに示す比較例の有床義歯700のように、ソケット520が従来例のように陥凹していると、その分だけ義歯床500の床部502を薄くせざるを得ないことは自明である。よって、患者によって顎堤Rが高い場合には、人工歯600の歯根部分630が顎堤Rに当たらないようにするためには、床部502を厚くして、その分だけ、人工歯600がソケット520に固定される歯根部分630を削る必要がある。そのため、人工歯600とソケット520との固定度が不十分となるおそれもある。
【0076】
一方、本実施形態においては、
図7Aからも明らかなように、ソケット120を凸形状にして、人工歯200をこれに載置するように固定しているため、顎堤Rが高くても人工歯200がソケット120に固定される部分を削る必要はない。
【0077】
これにより、本実施形態によると、製造上の負担を軽減可能な義歯床及びそれに埋設される人工歯並びにこれらを備えた有床義歯が提供できる。たとえば、上述のように、義歯床の厚みを薄くしつつ、人工歯のカラー部をあらかじめ切削しなくても済むようになる。より具体的には、たとえば、本実施形態によると、人工歯が義歯床に埋設される部分が少ないため、顎堤が高い患者向けの有床義歯でも人工歯を切削する工程を大幅に減らし、あるいはなくすことができる。また、義歯床の基底面が凸形状になるために人工歯との接着面積が増大し、人工歯の固定力を上げることができる。
【0078】
上記装着工程は、人工歯200を義歯床100に接着する工程、すなわち接着工程でもある。人工歯200を義歯床100に接着するための接着剤(レジン)としては、たとえば、アクリル系レジンを用いることができる。アクリル系レジンとしては、義歯床100と人工歯200との本接着が可能なものであれば特に限定されず、市販品を用いてもよい。すなわち、接着工程は、アクリル系レジンを用いて人工歯200を義歯床100に本接着する工程(以下、「本接着工程」とも称する)であることが好ましい。なお、ここでいう義歯床100と人工歯200との本接着とは、有床義歯300としての使用が可能な程度に人工歯200が義歯床100に固定して装着されていることをいう。
【0079】
本接着工程で用いるアクリル系レジンとしては、たとえば、常温(0℃〜35℃)で重合するレジン、熱を加えて重合するレジン、光で重合するレジンが挙げられる。常温(0℃〜35℃)で重合するレジン又は熱を加えることで重合するレジンとしては、たとえば、比較的低い温度(好ましくは0℃〜70℃)で重合が進行するアクリル系レジン、70℃以上で重合が進行するアクリル系レジンが挙げられる。なお、以下において比較的低い温度(好ましくは0℃〜70℃)で重合が進行するアクリル系レジンを「特定アクリル系レジン」と称する。
【0080】
アクリル系レジンとしては、ポリマー粉とモノマー液とを混合させたものを用いてもよい。ソケット120と人工歯200との隙間にアクリル系レジンを注入する場合、混合直後の低粘度の状態であれば、注入が容易である。ポリマー粉としては、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂が挙げられ、モノマー液としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどのメタクリル酸エステルが挙げられる。また、アクリル系レジンは、他の成分として、4−META(4−メタクリルオキシエチルトリメリット酸無水物)などの拡散促進モノマー、TBB(トリ−n−ブチルボラン)などの常温重合開始剤(あるいは、熱重合開始剤)、重合禁止剤、着色剤などを含んでいてもよい。
【0081】
また、市販のアクリル系レジンとしては、たとえば、アクロン(株式会社ジーシー製)、パラエクスプレスウルトラ(ヘレウスクルツァー社製)、山八歯科工業株式会社製リファインブライトなどが挙げられる。
【0082】
前記装着工程は、人工歯200を義歯床100に予備接着する工程(以下、「予備接着工程」とも称する)を含んでもよい。ここでいう、予備接着とは、人工歯200と義歯床100との位置関係が維持される程度に人工歯が義歯床に装着されていて、必要に応じてその位置関係を修正したり、又は接着状態を容易に解消したりできることをいう。
【0083】
人工歯200を義歯床100に予備接着する方法としては、たとえば、歯科用複合レジン又はアクリル系レジンを用いて、ソケット120の少なくとも一部について、人工歯200との間の隙間に上記レジン(歯科用複合レジン又はアクリル系レジン)を注入し、注入された上記レジンを常温(0℃〜35℃)で重合させる、加熱して重合させる、又は光(たとえば可視光)で重合させる方法が挙げられる。
【0084】
予備接着工程で用いるレジンとしては、歯科用複合レジン又はアクリル系レジンが挙げられる。予備接着工程で用いるアクリル系レジンとしては、本接着工程で用いるアクリル系レジンと同様のものが挙げられるが、中でも、特定アクリル系レジン(比較的低い温度(好ましくは0℃〜70℃)で重合が進行するアクリル系レジン)が好ましい。歯科用複合レジンについては後述する。
【0085】
接着工程が予備接着工程を有することにより、予備接着に用いるレジンの重合が進行するまで(たとえば光重合性レジンの場合には光硬化後まで)、人工歯200の配列の修正や、形状調整が必要な人工歯200がある場合には、その対象の人工歯200の取り外し等を行うことができる。
【0086】
また、予備接着工程は、本接着に用いるレジンの量をより適切に調整する観点から、人工歯200を、義歯床100のソケット120の少なくとも一部に予備接着する工程であることが好ましい。
【0087】
なお、歯科用複合レジンとしては、人工歯200と義歯床100との予備接着が可能なものであれば特に限定されず、たとえば、成形修復材料、歯冠補綴用材料、歯科用充填剤などのコンポジットレジン(修復材料)、自己接着性セメントなどを用いることができる。
【0088】
コンポジットレジンは、たとえば、マトリックスレジンとしてジメタクリレートを含み、その他に無機フィラー、シランカップリング剤などを含んでいてもよい。ジメタクリレートとしては、たとえば、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート(Bis−GMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ウレタンジメタクリレート(UDMA)が挙げられる。
【0089】
自己接着性セメントとしては、たとえば、マトリックスレジンとしてポリメチルメタクリレート(PMMA)や前述のジメタクリレートを含み、その他に接着性物質、フィラーなどを含んでいてもよい。
【0090】
また、コンポジットレジンとしては、低粘度及び低弾性であるフロアブルタイプ、高粘度及び高弾性であるペーストタイプなどが挙げられるが、義歯床100のソケット120が全体として凸な面で構成されていることに鑑み、ある程度の粘度及び弾性を有するペーストタイプが好ましい。
【0091】
また、人工歯200の位置調整をより好適に可能とする点から、光重合性のコンポジットレジンを用いることが好ましい。光重合性のコンポジットレジンを用いることにより、義歯床のソケット部に注入されたコンポジットレジンが光照射前にて硬化しないため、取り扱い性に優れ、人工歯の位置調整を精度良く行いやすい。また、光重合性のコンポジットレジンを用いることにより、硬化後の接着(予備接着)は、接着力が比較的弱いため、容易に義歯床100からの人工歯200の取り外しが可能であり、また、人工歯200を取り外した後、義歯床100のソケット120にコンポジットレジンを塗布して義歯床100と人工歯200との再度の接着(予備接着)を行いやすい。そのため、人工歯200のシェード(色調)を間違えた場合や硬化操作時に人工歯200の位置にズレが生じた場合などに、硬化後であっても容易に義歯床100からの人工歯200の取り外しが可能となるため、再度接着(予備接着)することによる位置調整を行いやすい。
【0092】
光重合性のコンポジットレジンとしては、たとえば、アクリル酸エステル又はメタアクリル酸エステルなどの重合性化合物、無機充填剤、光重合開始剤などを含むものであってもよく、さらに、重合促進剤を含むものであってもよい。
【0093】
また、市販のコンポジットレジンとしては、たとえば、ビューティフィルII(株式会社松風製)、レボテック(株式会社ジーシー製)などが挙げられる。
【0094】
なお、装着工程(接着工程)において接着剤により人工歯200を義歯床100に装着する前に、仮固定材を用いて、人工歯200が義歯床100に仮固定されていてもよい。このような仮固定によっても、人工歯200と義歯床100との位置関係が維持される程度に、人工歯200が義歯床100に一時的に固定される。なお、仮固定の後に、装着工程として、予備接着を行わずに本接着を行ってもよい。
【0095】
仮固定材を用いる場合、仮固定材としては、たとえば、25℃(常温)で変形する粘着性材料を用いることができる。粘着性材料としては、たとえば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ビニルアルキルエーテル系樹脂若しくはアクリルアミド系樹脂等の樹脂又は天然ゴム、シリコーン系ゴム又はスチレン−ブタジエン共重合エラストマー等のゴムが挙げられる。さらに、粘着性材料としては、たとえば、パテ(たとえば模型製作用パテ、歯科用パテ)、タックラベル、小麦粉粘土、粘着性金属箔テープを用いてもよい。
【0096】
パテとは、窪み、割れ、穴等を充填するために用いられる材料のことをいう。パテは、一般に顔料、樹脂(不揮発性展色剤)、揮発性物質を含む。
【0097】
パテとしては、エポキシパテ、ポリエステルパテ、シリコーンパテ若しくはこれらの変性パテ等の1成分型(1液性)若しくは多成分型(2液性等)のパテ、ラッカーパテ、瞬間接着パテ、石膏パテ、炭酸カルシウムパテ又は光硬化型パテ等が挙げられる。
【0098】
タックラベルとは、基材の裏面に粘着性材料が設けられたラベルをいい、その粘着性材料の側が仮固定される部位(たとえば歯冠及び歯根の境界付近)に配置されて用いられる。
【0099】
基材の材質は特に制限されない。基材の裏面に設けられる粘着性材料としては、たとえば上記樹脂、上記ゴムが挙げられる。
【0100】
また、金属箔テープとしては、公知の粘着性金属箔テープを用いることができる。
【0101】
粘着性材料の中でも、仮固定材除去後の有床義歯300への残付着が少ない観点から、パテが好ましく、歯科用パテがより好ましく、歯科用シリコーンパテがさらに好ましい。特に、歯科用パテ(好ましくは歯科用シリコーンパテ)を用いると、変形時の戻りが少ないので、人工歯200の位置調整が容易に行える。また、仮固定時における人工歯200と義歯床100との位置関係が保持されやすい。
【0102】
上記粘着性材料は、1種単独で用いてもよく、2種を併用してもよい。
【0103】
仮固定材の形状としては、人工歯200を義歯床100に仮固定できる形状であれば特に制限されず、種々の形状が採用され得る。
【0104】
なお、本実施形態においては、
図7Aに示すように、義歯床100のソケット120の基底面130を全体として凸な面で構成し、人工歯200の基底面230を全体として凹な面として構成したが、
図16に示すように、ソケット120の基底面130の一部に陥入部160があってもよく、人工歯200の基底面230の一部にこれに対応する突出部240があってもよい。
【0105】
すなわち、本開示において、ソケット120の基底面130についての「全体として凸な面」とは、
図16に示すようにソケット120の基底面130の一部に上記陥入部160のような凹形状があるものも含む。また、人工歯200の基底面230について「全体として凹な面」とは、
図16に示すように人工歯200の基底面230の一部に上記突出部240のような凸形状があるものも含む。
【0106】
ただし、
図16に示すように、人工歯200の基底面230の一部をなす突出部240は、人工歯200の唇側表面204及び舌側表面206の双方から隠れる程度の突起として構成される。また、
図16に示すように、義歯床100のソケット120の基底面130の一部をなす陥入部160は、人工歯200の基底面230の一部をなす突出部240が嵌合するような窪みとして構成される。
【0107】
換言すると、人工歯200の突出部240は、人工歯200を義歯床100に装着させた際に、人工歯200の唇側表面204の下端縁208及び舌側表面206の下端縁208を通る直線dを越えない程度の大きさである。同様に、ソケット120の基底面130の陥入部160も、人工歯200を義歯床100に装着させた際に、人工歯200の唇側表面204の下端縁208及び舌側表面206の下端縁208を通る直線dを越えない程度の大きさである。
【0108】
なお、ソケット120の基底面130においてこのような陥入部160は2個以上設けられていてもよく、人工歯200の基底面230においてこのような突出部240は、2つ以上あってもよい。ただし、いずれの陥入部160及びいずれの突出部240も、上記したように、人工歯200を義歯床100に装着させた際に、人工歯200の唇側表面204の下端縁208及び舌側表面206の下端縁208を通る直線dを越えない程度の大きさである。
【0109】
もちろん、
図7Aに示すように、義歯床100のソケット120の基底面130には上記のような陥入部160は必ずしも設けられていなくてもよく、また、人工歯200の基底面230には上記のような突出部240は必ずしも設けられていなくてもよい。
【0110】
[第二実施形態]
第二実施形態の有床義歯300は、
図8A及び
図8Bに示すように義歯床100のソケット120の基底面130におけるソケット頂部138から突起部122が突出している点、及び、
図9A及び
図9Bに示すように人工歯200の基底面230における基底面頂部238に前記突起部122に対応する陥凹部202が設けられている点以外の構成、材質及び製造方法は第一実施形態の有床義歯300と同様である。
【0111】
そして、義歯床100に人工歯200を装着する際には、人工歯200の陥凹部202に、義歯床100の突起部122を嵌め込みつつ、前記第一実施形態と同様に、ソケット120の基底面130と人工歯200の基底面230とを接着する。
【0112】
この有床義歯300においては、
図10の断面図に示すように、人工歯200の陥凹部202に義歯床100の突起部122が嵌合している。このような嵌合によって、人工歯200の義歯床100に対する固定度が増強される。その他の点は前記第一実施形態の有床義歯300と同様である。
【0113】
[第三実施形態]
第三実施形態の有床義歯300は、
図11A及び
図11Bに示すように義歯床100のソケット120の基底面130におけるソケット頂部138から突起部122が突出している点、及び、
図12A及び
図12Bに示すように人工歯200の基底面230における基底面頂部238に前記突起部122に対応する陥凹部202が設けられている点は前記第二実施形態と同様である。その他に、
図12Bに示すように、舌側表面206の中央部に切欠部210が設けられている。さらに、
図11Bに示すように、義歯床100において舌面側の基底面134に、前記切欠部210に嵌合する隆起部140が形成されている。これら以外の構成、材質及び製造方法は第一実施形態の有床義歯300と同様である。
【0114】
そして、義歯床100に人工歯200を装着する際には、人工歯200の陥凹部202に、義歯床100の突起部122を嵌め込み、同時に、人工歯200の切欠部210に義歯床100の隆起部140を嵌め込みつつ、前記第一実施形態と同様に、ソケット120の基底面130と人工歯200の基底面230とを接着する。
【0115】
この有床義歯300においては、
図13の断面図に示すように、人工歯200の陥凹部202に義歯床100の突起部122が嵌合し、かつ、人工歯200の切欠部210に義歯床100の隆起部140が嵌合している。このような嵌合によって、人工歯200の義歯床100に対する固定度がより増強される。その他の点は前記第一実施形態の有床義歯300と同様である。
【0116】
[第四実施形態]
第四実施形態に係る有床義歯300は、
図14に示すように部分義歯である。この有床義歯300においても前記第一実施形態と同様に、義歯床100のソケット(図示せず)に人工歯200が装着されている。この状態で、人工歯200の唇側表面204(及び図示しない舌側表面)の下端縁208は、歯肉部分110と面一の状態で外部から視認可能となっている。そして、人工歯200の歯列に沿った両端には、隣接する自然歯に対して有床義歯300を係止させるためのクラスプ150が設けられている。
【0117】
本発明は、義歯床及び人工歯並びにこれらを組み合わせてなる有床義歯に利用可能である。