【文献】
Toshio Fukuda, et.al.,Assembly of Nanodevices With Carbon Nanotubes Through Nanorobotic Manipulations,PROCEEDINGS OF THE IEEE,米国,IEEE,2003年11月,Vol.91, No.11,pp1803-1818
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記提示表面の表面は複数の表面固定チップを有し、前記複数の表面固定チップの二つ以上が前記第一のメカノ合成チップとして機能可能である、請求項2に記載の方法。
前記第二のメカノ合成チップが、前記第一のメカノ合成チップ及び前記加工物のうちのいずれかから前記供給原料を抽出し、続いて前記加工物及び前記第一のメカノ合成チップのうちの他方へ前記供給原料を供給する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記第一のメカノ合成チップ及び前記第二のメカノ合成チップ間の一つ以上のメカノ合成反応を実施することをさらに含み、前記メカノ合成チップのうち少なくとも一つが、前記メカノ合成チップのボディ及び活性サイトのうち少なくとも一つの構造が変更されるように変更される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
前記加工物が、Al、B、Be、Br、C、Cl、F、Ge、H、Ir、Li、Mg、N、Na、O、P、S及びSiからなる群から選択される少なくとも二つの異なる原子を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
前記表面固定チップが、前記異なる種類の表面固定チップの領域毎の配置、前記異なる種類の表面固定チップのランダム配置、及び加工物を製造する際に必要とされるチップの移動及びチップの移動時間のうち少なくとも一つを最小化する前記異なる種類の表面固定チップの配置、からなる群から選択される少なくとも一つのスキームに従って前記提示表面に配置される、請求項14又は15に記載のシステム。
【発明を実施するための形態】
【0070】
1.2 定義
以降、以下の定義が用いられる:
【0071】
「アダマンタン」分子は、10個の炭素原子を有する三次元のケージ構造を含み、それぞれ一つ又は二つの水素原子で末端封止されており、完全に水素封止された形態においてはC10H16の化学式を有するものである。アダマンタンは、結晶ダイヤモンドが取り得る最小ケージ単位である。
【0072】
「アダマンタン様」構造は一つ以上のアダマンタンを含み、当該一つ以上のアダマンタンは一つ以上の原子が、同一又は類似の価数の原子又は分子フラグメント(例えば、窒素、酸素、及び硫黄置換された種、ならびに多環性の又はケージ様の構造)により置換されている。非限定的な例として、アダマンタン様構造にはアダマンタン、ヘテロアダマンタン、ポリマンタン、ロンズデーライト、結晶ケイ素又はゲルマニウム、及びそれぞれについて例えばフッ素又は他のハロゲンが水素の代わりに末端封止に用いられているものや末端封止が不完全であるものが含まれる。
【0073】
「非周期的」加工物は、全体形状又は原子構成が加工物の結晶構造又は格子から直接的に由来するものではないものである。例えば、ダイヤモンドは、その基礎をなす原子の結合角に起因して八面体形状を形成する傾向がある。八面体ダイヤモンド結晶又はその変種は、その内部構造及び外部形状の両方が結晶の周期的構造により決定されるため、周期的であると言える。他方、車様の形状を有するダイヤモンドは、内部構造は別として、ダイヤモンドの格子セルが車の形状を特定できるとは言えないため、周期的であると言えない。別の非周期的ダイヤモンドの例は、大半がダイヤモンドで構成された結晶であるものの不規則な(結晶マトリックスに対して)置換がマトリックス内で生じているものである。置換にはいくつかの炭素原子のケイ素又はゲルマニウムによる置き換えが挙げられれる。複雑な形状又は部分のほとんどが、その形状、その原子構成、又はこれらの両方に起因して非周期的となる。非周期的は、必ずしも不規則であることを意味しない。例えば、ダイヤモンド製の従来のギヤが挙げられる。ギヤの丸く対称的な形状及びその歯は放射方向に対称的であり一種の周期性を有している。しかしながら、このような周期性はその基礎をなす結晶構造に起因するものではない。構造が周期的であるためには、規則的であるだけでは不十分であり、その結晶構造に起因した規則性を有する態様である必要がある。このような定義は衒学的にも思えるが、人工的な、原子的に正確な材料と天然に存在するか又はバルク合成された結晶との違いを議論する際に有用である。天然に存在するか又はバルク合成された結晶は一般に、不純物又は結合欠陥があったとしても、周期的構造である。原子的に正確であり且つ非周期的であるようにするための要因は知り得ない。なぜならば、その製造方法は、メカノ合成のような位置制御性技術により行われる原子毎の構造の制御ではなく、特定の条件群に基づく周期的な結晶構造が与える因子に内在的に由来するものであるからである。
【0074】
「原子」は、当該用語の通常の使用を含み、例えばH
+の場合におけるプロトンのようなラジカルも含まれる。
【0075】
反応という文脈における「原子的に正確」は、各原子の位置及び同一性が、反応を特定の原子サイトへ方向付けること(「サイト特異的」)を可能にする程度の正確さで把握されることを意味する。加工物という文脈においては、原子的に正確とは実際の分子構造が特定された構造(例えば、分子モデル又は構築シークエンスにより特定されたもの)と同一であることを意味する。
【0076】
アダマンタン様分子構造の「橋頭」位置は、三つの他の構造原子に結合した構造原子を意味し、一つ以上の非構造原子により封止されていてもよい。これに対して、「側壁」位置は、二つの他の構造原子に結合した構造原子を意味し、一つ以上の非構造原子により封止されている。
【0077】
「構築シークエンス」とは順序付けられた一つ以上のメカノ合成反応であり、加工物の組み立て、解体、又は改質を可能にするものである。
【0078】
「化学結合」は、原子間の共有結合、原子間のイオン結合、又は原子間の配位結合を意味し、これらの用語は当業者に一般に理解されるものである。
【0079】
「化学反応」は、化学結合が形成され、開裂され、又は変換される場合に起こるものである。
【0080】
「従来モード」は一つ以上のチップが位置手段/デバイス(例えばSPMプローブ)に固定され、チップと加工物との間のメカノ合成反応を促進するものである。これに対して、「逆モード」では加工物が位置手段に固定され加工物がチップへ移動する。実務においては一般的ではないが、理論上はチップ及び加工物の双方が位置手段に固定可能であるため、これらのモードを区別する別の方法は、プローブとして用いられていることを示唆する装置に加工物が接続されている場合(例えば、STMが加工物を介して行われている場合)にはシステムは逆モードで動作していると判断することである。そうでない場合は、システムは従来モードで動作している。従来モードチップは一般に一つ又は少ない数で位置手段に固定されており、逆モードにおいては、より大きく一般的に固定された提示表面により多数の表面固定チップが提供可能になっている。逆モードと表面固定を一緒に用いることは可能であるが、逆モードを表面固定チップと一つにすべきでない。ここに開示されるように(連続チップ法)、表面固定チップは従来モードで動作しているシステムにおいて用いることが可能である。
【0081】
「従来モードチップ」は、位置手段に固定されたチップであるか、あるいは当該定義において記載されたように従来モードで用いられるチップであり、同様に「逆モードチップ」は提示表面に固定されたチップであるか、あるいは当該定義において記載されたように「逆モード」で用いられるチップである。
【0082】
「ダイヤモンド」は結晶性アダマンタンケージユニットを繰り返した結晶であり、アダマンタンケージユニットが種々の既知の結晶格子配置に配置されている。
【0083】
「ダイヤモンドイド」材料は任意の硬い共有結合性個体を含み、強度、化学的不活性、又は他の重要な材料特性においてダイヤモンドに類似しており、三次元の結合ネットワークを有している。そのような材料の例は、(1)ダイヤモンド、立法格子及び六方格子ならびにこれらの全ての一次結晶表面及び近接の結晶表面、(2)カーボンナノチューブ、フラーレン、及び他のグラフェン構造、(3)炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素を代表例とするいくつかの強共有結合性セラミックス、(4)サファイヤ(酸化アルミニウム単結晶)を代表例とする少数の非常に硬いイオン性セラミックス、及び(5)当業者に既知である上記の部分的に置換された変種を含み、これらに限定されない。
【0084】
「供給原料」は、メカノ合成反応を実施するために用いられる供給原子である。供給原料は一つ以上の原子の形態を取り得、ラジカル(例えばGeH2、CH2)を含む。供給原料は加工物から除かれた原子を含む。例えば、加工物からの水素原子が水素抽出チップの供給原料となり得る。このような場合、加工物から除かれた原子について後に行う処理が無い場合が頻繁にあることから、このような供給原料は「廃棄原子」とも称され得る。供給原料は原子的に正確でなければならない。
【0085】
「ハンドル構造」は複数の原子を含み、当該原子の結合パターンはサイト特異的メカノ合成化学反応の間変化せず、その主要な機能はチップ又は加工物を保持して位置デバイスによりハンドル構造が操作される際にメカノ合成化学反応を促進することである。ハンドル構造がNullのケース(例えば位置手段に直接結合されたチップ又は加工物)を含み得る。
【0086】
「不活性環境」は超高真空(UHV)、アルゴン、窒素、ヘリウム、ネオン又は他のガス又は液体を含み、これらは単独又は組み合わせであってもよく、これらに限定されない。不活性環境は、メカノ合成の実施の間チップ、供給原料、又は加工物と反応しない。
【0087】
「逆モード」については「従来モード」における定義を参照。
【0088】
「機械的力」は、付与された機械的力であって、正、負、又は零の大きさを有するものを含み得る。機械的力の付与により駆動される化学反応には、次の(1)反応基質又は生成物を機械的に遷移状態を超えさせて反応障壁を超えさせることで駆動するもの、又は(2)反応性を有するサイトが物理的に近接することを機械的に阻止することで所望でない反応が起こらないように駆動するもの、又は(3)零の機械的力を付与することで反応性を有するサイトが物理的に近接するように駆動するもの(例えば、反応障壁が無い場合や、熱エネルギーのみで反応障壁を超えるのに十分である場合)が含まれる。
【0089】
「メカノ合成」は、位置制御及び機械的力を用いて加工物の構築、改変、又は解体に関与するサイト特異的化学反応を促進することである。メカノ合成は電圧バイアスを必要としないが、その使用を排除するものではない。
【0090】
「メカノ合成反応」(反応がメカノ合成であることが文脈上明確である場合には「反応」と称されることもある)は、メカノ合成を用いて実施される化学反応である。
【0091】
「メタチップ」は複数のチップが結合されたハンドルである。例えば、メタチップは末端に平らな表面を有する従来のSPMプローブを用いて調製可能であり、後に複数のチップにより官能基化される。
【0092】
「モジュールチップ」はモジュール設計を有するチップである。モジュールは活性サイト、ボディ、供給原料、足、及びリンカーを含む。これらのモジュールのいくつかはそれ自身がモジュールであると考えることができる。例えば、ボディが活性サイトを含み、当該活性サイトは供給原料を含むと言える。同様に、リンカーは足モジュールの一部であると考えることができる。どのような種類のチップであるかが文脈上明らかである場合には、モジュールチップは単に「チップ」と称することも可能である。
【0093】
「位置デバイス」は、メカノ合成チップ、ツール又は加工物に対して原子的に正確な位置制御を実行可能なデバイスであり、走査型プローブ顕微鏡(SPM)及び原子間力顕微鏡(AFM)ならびにこれらに関連するデバイス、小型の又はMEMSスケールSPM又はAFM、任意のサイズスケールのロボティックアーム機構、又は原子的に正確な位置制御及び適切な力の付与が可能な他の操作システムを含むがこれらに限定されない。このような位置デバイスは多数当業者に知られているが、例えば、アクチュエータはピエゾ素子又は静電気に基づくものであってもよい。ピエゾ素子又は光学的(例えば干渉法)、容量性、又は誘導性技術に基づく計測は、必要に応じて位置フィードバックに用いることが可能である。
【0094】
「提示表面」は、メカノ合成に用いられる供給原料又はチップを結合させるために用いることが可能な表面であり、加工物を構築するベースとして用いることも可能である。一般にはモノリスであるが、提示表面は一つ以上の材料から構成されることも可能であり(例えば、双方に有利な点があれば、金とケイ素の両方を用いることが可能である)、又は複数の近接しない表面により構成されることも可能である。提示表面は、文脈上明確である場合には単に「表面」と称することも可能である。提示表面はハンドル構造及びメタチップ上の適切な領域を含む。提示表面は、原子レベルで平らに近いことが好ましいが、これは標準的な装置設計に起因するところが大きく、絶対条件というよりはむしろより高速で少ない走査を行うことを促進する(例えば、平らでない表面の形態マップを作成する)便宜上のものである。
【0095】
「サイト特異的」は、特定の原子の間で反応が進行する程度に十分正確な位置で起こるメカノ合成反応を意味する(例えば、構築シークエンスにおいて定義したように)。高い信頼性でサイト特異的な反応を促進するために必要な位置的な正確性は、一般にはサブオングストロームである。大きな原子が関与するいくつかの反応や、広い軌道マージンを有する反応においては、約0.3〜1オングストロームの位置的な不確実性で十分である。より一般的には、高い信頼性には約0.2オングストローム未満の位置的な不確実性が要求される。いくつかの反応においては、例えば、立体的な事情によってより高い正確性、例えば0.1オングストロームの正確性が要求される。これらは厳しいカットオフではなく、むしろ、位置的な不確実性が大きいほど、反応の信頼性が、より失われる。
【0096】
アダマンタン様分子構造内の「構造原子」は、ケージの枠組みを構成する原子を意味し、例えばアダマンタン分子中の炭素原子である。より一般的に、構造原子はバックボーンの一部や高次に結合された分子における全体構造を構成する原子である。
【0097】
「合成チップ」は、バルク法(例えばメカノ合成ではなく気相又は液相化学)により製造された原子的に正確なチップである。合成チップは、文脈上明確である場合には単に「チップ」と称することも可能である。
【0098】
「封止原子」は、構造原子として機能せず、構造原子の使用されていない原子価を取り込む原子を意味する。例えば、アダマンタン分子中の水素原子である。
【0099】
「三次元」加工物は、原子の格子を含む加工物を意味し、その共有結合性構造は一つ以上の平面を占有し、結合角が削減されている。本定義のもとでは、例えば、ほとんどのタンパク質(例えば分子間及び分子内のジスルフィド結合が削減されている)及び他のポリマーは、グラフェン平面のように二次元となる。共有結合性ネットワークソリッド又はカーボンナノチューブは三次元となる。
【0100】
「チップ」は、メカノ合成反応を促進するデバイスであり、結合パターン又は電気状態がメカノ合成の実施の間に変化する一つ以上の「活性」原子又はサイトを含み、結合パターン又は電気状態がメカノ合成の実施の間に変化しない一つ以上の「サポート」原子を含むものである。サポート原子は活性原子を定位置に保持し、一つ以上の活性原子の化学的挙動を改変し得る。他に規定の無い限り、チップは原子的に正確である。
【0101】
「チップ交換」は、新しいチップとハンドル構造を位置手段に連結させるプロセスである。従来のSPMにおいては、これは例えば手動でプローブを交換するか、又は複数のプローブを保持するプローブマガジンを有し、自動でチップ交換可能な装置を用いることにより実施され得る。
【0102】
「ツール」はチップを含み、潜在的にハンドルに結合され、位置デバイス又は位置手段により制御される。
【0103】
「加工物」は、メカノ合成により構築された装置、生産品、又は組成物である。システムは一つより多い加工物を有し得る。加工物は、当該加工物が構築されるサポート基質又は既存の構造のような原子的に正確はでない構造に連結され得るが、これを含むことは無い。
1.3 化学構造及び科学的表記
【0104】
点(「.」)は、電子を表すために化学構造中で用いることができ、例えばラジカル基「.CH2」が挙げられる。簡便な植字のために、ここにおける表記は下付き文字や非標準文字を排除している。上付き文字は、明確さが要求される場合には「^」を用いて記載する。
1.4 合成チップ
【0105】
先行文献(例えば、米国特許第9244097号又は国際出願WO2014/133529号を参照)には、原子的に正確でないチップからメカノ合成を用いた原子的に正確なチップの作成を促進するためのブートストラップ過程が開示されている。これは潜在的に複雑なプロセスであり、原子的に正確でないチップの特性評価を行い、その後にそれらのチップを用いてメカノ合成反応を実施して原子的に正確なチップの構築を行うことが要求される。したがって、この工程を省略することが可能であることは比較的有用である。原子的に正確なチップを調製する代替方法として、我々は種々の原子的に正確なチップのバルク合成化学調製(適切である場合には、不動態化、非不動態化、又は活性化)を紹介する。
【0106】
チップのバルク合成調製は、ブートストラップ過程の回避を可能にする。このようなチップを表面にバルクで提示することは、供給原料の提供、廃棄原子の廃棄、及び複数のチップへのアクセスについて抜本的に異なる対処方法を提供するものである。
【0107】
供給原料の提供に関し、従来の研究、例えば国際特許出願WO2014/133529では、供給原料の貯蔵庫や廃棄物の貯蔵庫の使用が開示されている。供給原料の貯蔵庫は、供給原料が直接結合している提示表面である。廃棄物の貯蔵庫は、チップへ表面不要原子を移転させることをチップに許容することで廃棄物の廃棄を可能にする表面である。この方法の欠点の一つは、表面上の化学的多様性の欠如である。均一な表面では、異なる供給原料は異なる親和性を有し得、それは最適なポテンシャルの状態より高いか低い。ここで、我々は、「表面上のチップ」を用いることにより供給原料又は廃棄原子を直接表面に結合させる必要性を完全に回避する方法を開示する。提示表面を供給原料及び廃棄物の貯蔵庫として直接用いることに加えて、従来の提案は再充填可能なチップを開示しており、構築シークエンスの際に比較的少ない数のチップを何度も繰り返し使用する方針を採用している。ここで、我々はチップの再使用を部分的又は完全に回避する方法を開示しており、よって我々はチップの再充填工程を省略すること(例えば、国際特許出願WO2014/133529に開示されている)が可能であり、全体のプロセスを合理化している。
【0108】
合成チップは、バルク化学技術により製造可能であるため、合成後に非常に多くの数で得られる(ほとんどのバルク化学反応における分子と同様に、「非常に多くの数」は、100万、10億、又はより大きな数字であって簡便な表現に科学的な表記が要求される領域にまで至ることが可能である)。したがって、多くの数の合成チップが提示表面に固定され得る。合成チップは、予め充填されていてもよく(チップがすでに所望の反応を実施するのに望ましい化学的状態にあることを意味し、例えばすでに供給原料に結合されていることである)、これらは所定の構築シークエンスに必要な多くの数の様々な種類のチップを含み得る。このようにして、提示表面は、供給原料の貯蔵庫(合成チップがすでに供給原料で充填されている)、廃棄物の貯蔵庫(たとえば、ラジカルチップを用いて廃棄原子を結合することが可能である)、及び全ての必要な反応を実施することが可能な改変された一連のチップ(例えば、任意の数のチップであって、ここに記載された全てのチップ又は例えば国際特許出願WO2014/133529において先行の研究に記載された全てのチップを含み、提示表面上に提供され得、全て多数である)として機能するという目的を果たすことが可能である。多くの数の合成チップを用いることは、以降の使用のために再充填することを必要とせず、各チップの使い切りを可能にし、再充填の操作を設計し実施する必要性を回避可能にする。
【0109】
多くの数のチップが表面上に提供可能であることは、チップを加工物に移動させる(「従来モード」)ではなく、加工物を位置手段に連結させて加工物をチップに移動させる(「逆モード」)ことを可能にするというアイディアを浮かばせる。コンセプトとしては、加工物が移動して提示表面が固定されている場合、構築シークエンスを提示表面の周囲を移動する加工物とすることが考えられ、所望のチップと自身を整列させ、それからメカノ合成反応を引き起こすのに十分な力を伴って当該チップと接触させる。使用したチップはその後廃棄されるが、提示表面は容易に多くの数のチップを提供可能である。その後、加工物を次の適切な使用前のチップと整列させてこれらを一緒にすることで構築シークエンスが進行する。このプロセスが加工物の全体が構築されるまで繰り返される。
【0110】
本願の他の箇所で議論されるように、いくつかの実施形態においてメカノ合成のプロセスは提示表面を走査して形態マップを作成したり使用すべきチップの位置を認識することを含み得ることに留意すべきである。チップをマッピングした場合、ソフトウエアを用いてどの位置のチップが使用済みでどの位置のチップが未使用であるかを追跡することが可能である。別の実施法としては、単に必要に応じて未使用のチップを走査することであり、これは、使用済みのチップと未使用のチップは例えばSTMなどで評価した場合に顕著に異なる特性を有しているからである。
【0111】
このコンセプトにおける他の改変も可能であり、当該改変には複数のチップ(「メタチップ」)を保持するツールが含まれる。そのような設計は、チップ交換又はチップの再充填を必要とせずに複数の反応を実施することが可能であるため、一つのチップを保持するツールより効率的である。チップが提示表面上又はツール上にあるか否か、及び提示表面、ツール、加工物、又はこれらの組み合わせが位置手段やアーチ型に覆っている箇所に組み合わされているか否かは、他の箇所に対して以下のような特性及び優位点の少なくともいくつかを有する設計次第である。
【0112】
第一に、複数のチップが利用可能である。これらのチップは全て同一であってもよく、又は異なる種類のチップを数多く含んでいてもよい。複数のチップの種類が存在する場合、これらはランダムに混ざっていてもよく、区域又は位置により区別されていてもよく、又はチップは構築シークエンスの効率を最大化するような順序に並べられていてもよい(例えば、異なるチップの区域を、特定の加工物を構築するためのメカノ合成の実施に要求される動きが最小化されるように配置したり、より一般的な設計を考案してより頻繁に使用されるチップを加工物の近傍に位置づけたり、あるいはチップの区域を加工物の周囲に同心円状に位置づけてチップから加工物までの距離の総和を反応の順序に関わらず最小化させることである)。
【0113】
第二に、システムが利用可能なチップの数が多いために、構築シークエンスの際のチップの再充填を削減又は排除し得る。各チップを1回使用し、その後無視することが可能である。再充填の操作を排除することによって、より短く速い構築シークエンスが促進される。追加のチップが依然として必要とされる場合、例えば加工物が利用可能なチップの数を超えて多数のチップを必要とする場合には、多くの数のチップ(好ましくは使用可能な状態で)を装着するという方針は新しい表面に交換することでチップのバルク置き換えが可能となる。この状況においてはチップの再充填は完全には排除できていないが、大幅に削減されている。
【0114】
第三に、チップは、化学的な多様性のために交換される必要がない。これは、所与の構築シークエンスに必要な各々の種類のチップが提示表面のどこかに存在し得るからである。これにより複数の位置手段やチップ交換の必要性が削減又は排除される。
【0115】
第四に、多数の原子的に正確なチップがバルク化学反応により調製され固定され得る(そして必要に応じてバルク活性化される)。これにより原子的に正確でないチップを使用して原子的に正確なチップを作成するブートストラップ過程の必要性が排除される。これはまた、メカノ合成を用いてチップを構築する必要性を削減又は排除するものであり、これはメカノ合成の実施が製造プロセスの速度律速段階であるような場合に有用である。複数の合成チップの合成ルートの例がここに開示される。
【0116】
第五に、他の供給原料の提供方法の提案(例えば、カートリッジ又はコンベヤーベルトを必要とする方法(Rabani, "Practical method and means for mechanosynthesis and assembly of precise nanostructures and materials including diamond, programmable systems for performing same; devices and systems produced thereby, and applications thereof." United States. 2009. 12/070489.))と比較して、システムの複雑さは比較的低く保たれ、利用可能なチップの数及び供給原料部位の数は比較的多い。
【0117】
これらの状況下のいくつかにおいて利用可能なチップの数は、大きく変化し得る。例えば、プローブチップの末端の小さな平面(慣例上一つのチップを保持し、本発明のいくつかの実施形態においても同様である)のような非常に小さな表面上に、少数のチップを供給することで化学的多様性を得ることができる。例えば、2〜10のチップをプローブの末端に位置させることが可能であり、これには数ナノメートル四方未満のスペースしか必要とされない。これにより多様な化学的性質のチップへの便利なアクセスが可能となり、プローブの交換が不要である。チップの小さなバッチが提供可能な反応より多くの反応を必要とする構築シークエンスを想定する場合、そのようなチップは依然として再充填することが必要であるが、これを物理的にチップ及びハンドルの全体を交換する必要なく化学的に(例えば、供給原料を抽出又は供給するのに適切な表面にチップを触れさせることにより)行うことが可能であるという利点がある。
【0118】
より大きな表面においては、より大きな数のチップが提供可能である。例えば、ナノメートル四方のオーダーの提示表面上には数ダース、数百、数千のチップを提供可能である。ミクロン四方のオーダーの提示表面上には数百万又は数十億のチップを提供する余裕がある。さらに、より大きな数又はより広いスペースが望まれる場合であっても、長距離測定学によりミリメートル四方又はセンチメートル四方のオーダーの提示表面としつつ要求される位置正確性を維持することが可能である(Lawall, "Fabry-Perot metrology for displacements up to 50 mm," J. Opt. Soc. Am. A. OSA. 2005. 22:2786-2798)。
【0119】
複数のチップを使用する場合、当該チップは全て同一であってもよいが(ここに開示されるように、再充填反応を削減することに貢献し得る)、化学的な多様性も有用であり、いかなる任意の異なる種類であってもよく、2種類から、例えば
図3〜7に開示されているような少なくとも8種類のメインチップ/供給原料の組み合わせ(あるいは後に開示されるアダマンタンラジカル−Brチップを含む9種類)が可能であり、あるいは実質的にさらに多くの異なる種類のリンカー、供給原料、他のチップ設計が使用可能であり、加えて新規な反応を促進させるか又は異なる条件下で作用し得るチップの位置的要望がある。
【0121】
合成チップは、適切に設計されていれば、提示表面に化学的に結合させるか、又は「表面固定」させることが可能である。伝統的な化学の手法を用いた合成に適用可能であり、一つ以上のメカノ合成反応を実施することが可能であることに加えて、表面固定チップは提示表面への効率的な結合(しばしば大きな量において)が可能なように設計されている。
【0122】
表面固定チップは、単にハンドル構造にとって不可欠ではなく(例えば、市販のチップは、チップの結晶構造がハンドル構造と連続していて、チップが実質的にハンドル構造の末端であるというだけのものであることが多い)、ささいな機能が付加されただけのハンドル構造(例えば、既存のチップの末端に存在する一つのCO分子は分解能を向上させる一般的な技術である)でもないという点においてSPMにおいて通常使用されるチップとは異なる。表面固定チップは以前に提案されたメカノ合成で制作されたチップとは製造のためにメカノ合成を必要としない(これはプロセスとの関係だけでなく、構造的及び化学的な関係を有する。なぜならば、メカノ合成の補助無しで所望の表面に表面固定チップが結合可能であることが要求されるからである。)という点において異なる。このことから、表面固定チップは外面上は文献に開示される他のチップと同様に見えるが、表面固定可能であるチップの設計に必要とされる事項は実質的に異なる。
【0123】
結合の方向は表面固定チップを設計する際に考慮しなければならない事項の一つである。チップがメカノ合成反応における使用に適切な方向を有する態様(ただし、存在可能な余剰のチップの数が分かるのであれば、複数の可能性のある方向を有する態様も許容可能であり、そのようなシステムではチップを走査して所望の方向を有するチップのみを使用するが、これは効率を低下させる。)で表面に固定されることが好ましい。
【0124】
ここに活性サイト及び足が詳細に開示されるが、正しい結合方向を保証する主要な因子が得られる。例えば、ラジカル活性サイトを有するチップはその活性型において高い反応性を有する。このような高い反応性に起因して、足ではなく活性サイトが提示表面に結合し得る。このような事象が起こると、チップは逆さまに、あるいは少なくとも不適切な方向で提示表面に結合されてしまう。反応性サイトは同じチップの他の部分において結合を形成したり、他のチップと結合を形成して二つのチップの二量体を形成し得る。このような問題は、反応性活性サイトの場合には、活性サイトが中和されている際にチップを提示表面に結合させることで回避可能である。足を結合させた後に活性サイトを活性化させることが可能である。同様の事象が足についても存在している。足(又は足リンカー)は提示表面に結合できる程度に活性である必要があるが、それら自身又は他のチップとの異常反応(例えば、足−表面結合でなく足−足結合を形成したり、又は、他の所望でない反応を起こすこと)に対抗可能でなければならない。
【0125】
もちろん、チップの設計について他の考慮事項があり、これには構築シークエンスの際に所望の反応を信頼性をもって実施することが含まれるが、上述の考慮事項はバルク合成された表面固定チップに固有なものである。メカノ合成を用いて制作されたチップは上述の問題の大半は、その合成において用いられる反応を位置特異的にすることにより回避可能である。
1.5.1 モジュールチップ設計
【0126】
以降の実施例において見られるように、表面固定チップはモジュールであるとみなすことが可能である。各チップは、活性サイト(所望の原子又は原子の集合を結合する一つ以上の原子であって、例えば供給反応の供給原料、又は抽出反応において加工物から取り除くいくらかの部分であり得る)、ボディ(我々の例においてはアダマンタン又はアダマンタン誘導体であるが、ここに提供される教示に基づいて他の構造を用いることも可能である)、及び表面にチップを結合させるように機能する一つ以上の足を有するものとみなすことができる。チップの供給原料は、表面と同様に、モジュールであるとみなすことが可能であるが、技術的にはチップの一部ではないけれども、チップの設計及び機能において重要であり得る。
【0127】
チップがどのように機能するか、及びこれらがどのようにして合理的に設計されるかの理解を助けるために、各モジュールに関連した考慮事項が以下に記載される。例示される特定の例においてはアダマンタン又はアダマンタン様のボディが使用されていることに留意すべきである。アダマンタンに機能を付与するための種々の反応が知られており、その硬さ、小ささ、コンピュータによる扱いやすさ及び他の好ましい特性に起因して我々はこれらの構造を例示的なチップとして用いているが、他のアダマンタン様構造を含む他の多くの異なる分子が同じ目的を果たすことができる。
【0128】
活性サイトの主要な特性は、加工物上での所望の反応を確実に促進することである。しかしながら、チップを効率的に合成し、表面へ届ける方法、そしてそれらを使用するための調整方法を設計の際に考慮しなくてはならない。具体的には、使用可能な状態にあるチップがラジカルを含む場合には、チップは保護キャップを組み込み得る(液相化学において一般的に「保護基」と称されるものである)。このキャップは、使用前の活性サイトの反応性によって、例えばチップ−チップ二量化、活性サイトの表面への結合、又は他の所望でない反応が進行することを削減する。しかしながら、当該キャップは使用の際に活性化できるように除去可能でなければならない。これを実現する方法の一つは、キャップが光により切断可能であるようにすることであるが、他の方法も利用可能であり、化学分野においてよく知られている。
【0129】
ボディは、活性サイトを含むか、活性サイトの結合点として機能し得る。ボディはまた、一つ以上の足の結合点としても機能し得る。ボディはまた、活性サイトを調節して、それを他の化学的影響から隔離するように機能することも可能である。活性サイトの調節については、例えば、結合長、角度、又は電気陰性度を変化させるような置換を用いて活性サイトの供給原料との親和性を向上又は低下させることができる。隔離については、ボディは、例えば足からの化学的な隔離の状態を提供し得る。このような隔離は、当該モジュール設計の典型例の一つの側面であり、モジュールを組み合わせ的な態様で一緒にすることで新規なチップの設計を容易にするものである。例えば、所望の反応を実現する活性サイトとボディの組み合わせが既に知られているものの、異なる足が必要となる異なる表面の使用が望まれる場合には、ボディと活性サイトを再設計すること無く新規な足を交換することになるであろう。足が活性サイトに直接結合している場合、それらの化学的性質は活性サイトに対してより大きな影響を与える傾向があり、潜在的にボディの再設計を必要とするか、又は足の選択肢を不必要に強いることになる。ボディの別の特性は、硬直であることが好ましい点である。硬直なボディはより多目的な傾向にある。なぜならば、硬直なボディであればメカノ合成反応の際に付与された力に対して変形耐性がより高いからである。
【0130】
足は、表面にボディを結合させるように機能する。好ましくは、足は過度のひずみを生じること無くボディを表面へ結合させることを可能とするような幾何学を有しており、足の結合に先立って機能を付与された表面が含まれる。塩素化されたSiのように機能を付与された表面においては、より長い足が好ましくなる。なぜならば、例えばCl原子はチップボディの直下となり得、ボディのチップとSi表面との間にいくらかのクリアランスがあることが好ましくなるからである。足はまた、かなり硬直で十分な強度を有していることが好ましく、これによって反応が力の付与を必要とする場合に確実に反応を進行させてもチップの傾き、あるいは足の結合の移動又は破壊は起こらない。足が短すぎる場合には表面へ確実に結合させることができなくなり得るが、足が長すぎる場合にはフレキシブル過ぎるようになり、チップ原子の位置的な不確実性がメカノ合成の実施の際に生じてしまう。表面への機能の付与や表面とボディとの間における格子のミスマッチなどの事象が問題とはならない場合、足は非常に短くもなり得る(例えば、一つの酸素原子が足として機能し得る)。
【0131】
足の数に関し、ここには三本の足を有するチップの例が提示されている。三本の足があれば活性サイト又は供給原料に対して種々の角度から加えられる力に対抗して安定性を付与することに寄与し、任意の足に加えられた力を全ての足へ拡散させることで力を低減させることが可能である。しかしながら、一本又は二本の足を有するチップを使用することが可能であり、四本以上の足を有するチップを使用することも可能である。全ての足が提示表面に結合していない場合には、必要な安定性が確保できるのであれば一本以上の足を有するチップを使用することが可能であることに留意すべきである。複数の足を有するチップにおいて、各足が同一である必要は無い。
【0132】
足にはリンカーを組み込んでもよく(さもなければ、足をリンカーでもあると考えることができ、あるいはその逆も可能である)、当該リンカーは他の足とボディ又は表面との間の橋渡しとして機能する。リンカーの優位性は、表面と結合する際に適切な化学的特性を付与することである。例えば、他の足に表面に対する必要な反応性又は結合力が無い場合、リンカーによりこの問題を解決し得る。これは、ここに例示されるチップにより実証され、各チップは例えばトリフルオロベンゼンの足を有していてもよく、当該足は例えばNH、O、又はSであるリンカーに結合されていてもよい。このようなリンカーのモジュール交換によれば、その他の点において同一であるチップを、活性サイトの特性を妥協することなく種々の表面へ適合させることを可能にする。リンカーはまた、足の幾何学の調整に用いることができ、例えば、よりうまく足が表面格子スペースにはまるように補助したり、あるいは足の硬直性を調整したりすることができる。
【0133】
供給原料は、加工物に供給することが可能な原子の供給源として機能し、一般にチップの「上部」(例えば
図1〜17に表される方向に対するものであり、現実には方向は異なり得る)に結合されてチップの他の部位又は表面との立体障害を回避して供給原料へのアクセスを提供する。供給原料はそれがどのような原子を含有しているかによってのみ選択されるのではなく、チップの活性サイト及び加工物上の所望の位置へどのように結合するかにより選択される。多くの方法があり、例えば、加工物に対して炭素原子を供給する場合、C2、CH2、及びCH3を用いる例がここに提示される。状況によりいずれが最適であるかが判断されるが、構築シークエンスにおいて適切な変更をしているのであれば一つ以上を用いて所与の加工物を構築することができることが多い。
【0134】
チップが結合される表面は種々の重要な特性を有しており、これには化学的反応性、表面の滑らかさ、格子スペース、リンカー−表面間の結合力、及び内部結合力が含まれる。化学的反応性に関しては、チップ結合工程において表面はリンカーに結合しなければならないが、好ましくはチップの他の部位には結合しない。表面の格子スペースは、過度のひずみを生じさせることなくリンカーの結合を可能にしなければならない。リンカー−表面間の結合力は、引っ張り力が必要とされる場合に結合が破壊されない程度でなければならない。そして、内部(表面−表面)結合力は、引っ張り力が必要とされる場合に、チップ全体が、一つ以上の表面原子とともに表面から剥がれない程度でなければならない。
【0135】
記載されているモジュールへ分解された表面固定チップ、各モジュールの重要な機能的特性、及び少なくとも種々のモジュールを互いに分離する程度にこのモジュール設計を実行してモジュールの再使用と新規のチップの組み合わせによる創造の推進は、ここに開示される例とともに、ここに提示される具体的な例示を優に超える新規なチップの設計及び合成のための設計パラダイムを提供する。
【0136】
図1は、他の部位のうち、加工物から水素を除くために使用され得る抽出チップの一例を表す。抽出されるべき部位を結合するためにラジカル101が用いられ、チップの活性サイトとして機能する。活性サイトはボディ102に結合され、この例においてはアダマンタンである。ボディは三本のメチル基の足に結合されており、足103として例示されている。各足は硫黄のリンカーを含み、リンカー104として例示されている。各リンカーは表面105に結合されている。抽出チップが使用可能な状態として表されているため、供給原料は存在しない。
【0137】
供給原料を有する異なる例として、
図2は多くの種類の原子に水素を供給可能なチップの一例を表す。活性サイト201はGe原子であり、このケースにおいては置換されたアダマンタンボディ202の一部である。足203に例示されるようにトリフルオロベンゼン(リンカーと一体に捉える場合にはトリフルオロフェノールとみなすことも可能である)の足が用いられ、各足が酸素リンカー204に結合され、これは表面205に結合している。供給原料206は活性サイト201を介して結合されている。
1.5.2 例示的チップ
【0138】
表面固定チップは、その合成ルートと共に、チップの二量体化や表面への装着の際の不適切な方向付けのような事象を最小化又は排除しつつメカノ合成反応を実施し、適切な足の長さ、柔軟性、及び例示の表面に結合するためのリンカーの化学的特性を達成するように工夫されてきた。これらの合成ルートは、種々の異なるチップのバルク製造を可能にし、よって種々の異なるメカノ合成反応を促進しつつ表面固定チップ及びそのようなチップを用いるプロセスについて述べた利点を有している。
【0139】
ここに記載されるチップのセットには、C2を基本とした活性サイトを有する抽出チップ(種々の異なるタイプの加工物から種々の原子を抽出可能であり、例えばダイヤモンドから水素を抽出することが含まれる)、水素供給チップ、C2供給チップ、メチル供給チップ、及び置換されたアダマンタンボディ中のGe活性原子に結合した供給原料に応じてSiH3、GeH3、Si(CH3)3、又はGe(CH3)3を供給可能な供給チップが含まれる。
【0140】
ここに記載されるモジュール設計を実証するために、各チップの種々の変形例が示される。特に、各チップは塩素化されたケイ素表面又は部分的に水素化され部分的に塩素化されたケイ素表面に対して、酸素リンカー又はNHリンカーを介してリンク可能な三本のトリフルオロベンゼンの足を有している。各チップの変形例も示されており、足がメチル基であり、硫黄リンカーを用いてAu表面に結合している。これらの多様な変形例により種々の表面物性及び表面結合化学が提供され、足、リンカー、及び表面が変化した後であってもチップに所望の機能を発揮させるためにどのようにボディを用いてチップ中に生じる他の変化から活性サイトを隔離できるのかが実証される。
【0141】
ケイ素表面は、金表面と比較してより強い表面内結合を有していることに留意すべきである。金の表面にチップを置く際、実質的に引っ張り力(数nNを超える)が必要となる反応によってチップは表面から引き離され得(これと共に一つ以上の金原子が取られ得る)、あるいはチップが表面に渡ってスライドし得る。それにも関わらず、チオールリンカーの化学は非常に入手しやすく、実質的に引っ張り力を必要としない反応であれば、金は(鉛及び他の類似の材料とともに)有用な表面となり得る。
【0142】
各々の例示チップの詳細が示され、
図3〜17に示されるように規定されるリンカーの化学に適切な表面に結合されている。
図3〜7は、全てケイ素表面上におけるトリフルオロベンゼンの足と酸素のリンカーを用いるチップを表している。特に、
図3は、ケイ素表面上(全てのSi表面は例えば塩素化された、部分的に塩素化された、及び部分的に水素化され部分的に塩素化されたSiを含む)におけるC2ラジカルをベースとした活性サイト、アダマンタンのボディ、トリフルオロベンゼンの足、及び酸素のリンカーを有する抽出チップを表す。このようなチップを抽出Oと称する。
図4は、ケイ素表面上における水素供給原料、置換されたアダマンタンボディに組み込まれたGeをベースとした活性サイト、トリフルオロベンゼンの足、及び酸素リンカーを有する水素供給チップを表す。このようなチップをH供給O(又は、具体的なリンカー基を省略して、任意の変形例を意味するものであって、任意のチップ名に慣習的に適用可能な「H供給」)と称する。
図5は、.C2供給原料を有し、他の構造は
図4と同様であるC2供給チップを表す。このようなチップをC2供給Oと称する。
図6は、.CH2供給原料を有し、他の構造は
図4と同様であるメチル供給チップを表す。このようなチップをMe供給Oと称する。
図7は、M及びR基が何であるかに応じて種々の供給原料部位を供給するのに用いることが可能な供給チップを表す。MはSi又はGeであり得、RはH又はC3であり得、よってチップはSiH3、GeH3、Si(CH3)3、又はGe(CH3)3を供給可能である。これらのチップはそれぞれSiH3供給O、GeH3供給O、SiMe3供給O、又はGeMe3供給Oと称される。
図7はその他の点においては
図4と同じ構造を有する。
【0143】
図8〜12は、
図3〜7のものとそれぞれ同じ供給原料(存在する場合)、活性サイト、及び足を有するチップを表すが、
図8〜12におけるチップは酸素リンカーではなくNHリンカーを用いてケイ素表面に結合している。これらのチップは、それぞれ抽出NH、H供給NH、C2供給NH、Me供給NHと称され、
図12に示される種々の変形例についてはSiH3供給NH、GeH3供給NH、SiMe3供給NH、又はGeMe3供給NHと称される。
【0144】
図13〜17は、
図3〜7のものとそれぞれ同じ供給原料(存在する場合)、活性サイト、及びボディを有するチップを表すが、
図13〜17におけるチップはメチルの足及び硫黄のリンカーを用いてチップを金表面に結合している。これらのチップは、それぞれ抽出S、H供給S、C2供給S、Me供給Sと称され、
図17に示される種々の変形例についてはSiH3供給S、GeH3供給S、SiMe3供給S、又はGeMe3供給Sと称される。
【0145】
これらの充填された状態のチップの使用に加えて、充填されていない状態のチップを使用することもできる。例えば、水素供給チップのようなチップのいくつかは非充填状態でGeラジカル活性サイトを有している。これは、これらのチップにとって有用な形態であり、C=C結合へ開裂したり、所望でない原子の廃棄物貯蔵庫となる(適切な親和性を有するものと推定される)。
【0146】
命名の便宜のため、チップはどのような反応を実施するかにより表される場合があり、その構造及び搭載物により表される場合もあることに留意すべきである。例えば、「Me供給」(チップの足がNH、O、S、フェニルプロパルギルアルコール又はその他のものをベースとするものであるか否かによらない)は、「メチル供給」を表す。当該チップがこれを実施するためである。構造及び搭載物に基づいて命名する場合には、例えば、ここに記載される多くの供給チップはGeで置換されたアダマンタンのボディを有している。供給原料が無い場合、Ge原子はラジカルであり、よって「Geラジカル」と称される。同様に、「アダマンタンラジカル」はGeで置換されるCが無いアダマンタン分子であり、活性サイトにラジカル炭素を有しているものである。アダマンタンはその活性サイトにおいてケイ素原子で置換されていてもよく、これはSiラジカルと称される。すでに明白であるが、これらは命名上の便宜性を説明するための例として用いられているに過ぎず、膨大な数となる実施可能な構造や置換の全ての一覧ではない。どのような供給原料が結合されているのかを伝えるために、名称を例えばGeラジカル−CH2(Me供給チップの適用の一つである)、Geラジカル−H(H供給チップの適用の一つである)のように称することも可能である。このような伝達を理解することで、通常はチップの名前によってその構造及び/又は機能が自明になる。
1.5.3 チップの合成
【0147】
チップの例示的な合成ルートが
図18〜41に表される。
図7、12及び17に示されるチップについては複数の合成ルートが、M及びRについて可能な組み合わせの種類に応じて存在することに留意すべきである。活性形態においてラジカルを有するチップは保護キャップを有するように合成される。キャップの除去の操作がここに開示される。
【0148】
図18は、抽出Oの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:酸性条件下で市販の1,3,5−トリヒドロキシアダマンタンと2,4,6−トリフルオロフェノールとを50〜80℃で加熱して反応させ、OFA−1を得る。OFA−1を過剰量のジメチルジオキシラン(DMDO)のアセトン溶液で室温において処理し、三級C−H結合を選択的に酸化してアルコールOFA−2を得る。Koch-Haaf条件(Stetter, H., Schwarz, M., Hirschhorn, A. Chem. Ber. 1959, 92, 1629-1635)を用い、−5〜0℃において濃硫酸でギ酸を脱水してCOを生成させる。COは、室温において、橋頭のアルコールの脱水により生じた三級カルボカチオンと結合を生じる。水性処理によりカルボン酸OFA−3が得られる。乾燥メタノールと触媒量の硫酸を用いて40〜60℃でカルボン酸OFA−3をエステル化することでメチルエステルOFA−4が得られる。OFA−4中のフェノール性OH基は、イミダゾールの存在下室温でtert−ブチルジメチルシリルクロリド(TBSCl)により保護され、TBS−シリルエーテルOFA−5が得られる。メチルエステルを、0℃〜室温においてテトラヒドロフラン(THF)中でLiAlH4で還元してメチルアルコールOFA−6が得られる。メチルアルコールの酸化によるアルデヒドOFA−7の合成は、触媒量のテトラプロピルアンモニウム過ルテニウム酸塩((Pr4N)RuO4、TPAP)及び化学量論量のN−メチルモルホリン-N-オキシド(NMO)により進行する。4オングストロームの粉末状モレキュラーシーブスを反応混合物中に存在させることによって、存在する水を吸着し、カルボン酸にまで過度に酸化されてしまう可能性を削減できる(Ley, S. V., Norman, J., Griffith, W. P., Marsden, S. P., Synthesis, 1994, 639-666)。改質されたCorey-Fuchsの手法(Michel, P., Rassat, A. Tetrahedron Lett. 1999, 40, 8570-8581)を用い、室温において予め調製されたヨードホルム(CHI3)、トリフェニルホスフィン、及びカリウムtert-ブトキシドの混合物のTHF溶液にアルデヒドのTHF溶液を加え、炭素−炭素結合生成反応により1,1−ジヨードアルケンが得られる。過剰量のカリウムtert−ブトキシド及び注意深い温度制御(−78℃〜−50℃)により、ヨウ化ビニルのみの除去が進行し、ヨードアルキンOFA−8が得られる。温度を注意深く制御しない場合にはこの反応により末端アルキンを生成することが可能であるが、末端アルキンはN−ヨードスクシンイミド/AgNO3により、あるいは塩基性メタノール中のI2によりヨード化可能である。TBS−シリルエーテル基の最終的な全体的脱保護は、フッ化tetra-n-ブチルアンモニウム(TBAF)により行う。水性処理の後、遊離フェノールリンカーを有する抽出OチップOFA−9が得られる。
【0149】
図19は、H供給Oの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:0℃においてTHF溶媒中の過剰量の水素化リチウムアルミニウムによりFHD−104Xを還元し、ハロゲン化ゲルマニウムを水素化ゲルマニウムFHD−105へ変換する。THF中でフッ化tetra−n−ブチルアンモニウムを用いてFHD−105からtert−ブチルジメチルシリル保護基を脱保護し、H供給OHチップであるトリフェノールFHD−106が得られる。
【0150】
図20は、C2供給Oの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:グリニャール試薬である臭素化エチニルマグネシウムのTHF溶液を、乾燥THF中に溶解させたFHD−104Xに添加し、激しく撹拌しながら−78℃に冷却する。反応は、1時間撹拌を維持し、1時間かけて0℃に昇温し、室温で1時間撹拌し、FC2D−101を得る。FC2D−101を乾燥THFに溶解し、−78℃に冷却する。n−ブチルリチウムのヘキサン溶液を添加し、反応溶液を−78℃で1時間撹拌する。ヨウ素の乾燥THF溶液を添加し、反応溶液を室温まで昇温させてFC2D−102を得る。FC2D−102をTHFに溶解し、室温において激しく撹拌する。フッ化tetra−n−ブチルアンモニウムを加え、反応溶液を1時間撹拌してC2供給OチップであるFC2D−103を得る。
【0151】
図21は、Me供給Oの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:ハロゲン化ゲルマニウムFHD−104XのTHF溶液を、金属リチウムを用いて還元し、系内でリチウムゲルマニウム種を生成する。反応溶液を、0℃に冷却した10倍過剰量のヨウ化メチレン(CH2I2)のTHF溶液にゆっくり滴下する。このような滴下方法は、メチレン架橋されたゲルマンよりヨードメチルゲルマンFMeD−101を優先して生成させる。化学量論量のフッ化tetra−n−ブチルアンモニウムを用いてtert−ブチルジメチルシリル保護基をTHF溶液中のFMeD−101から脱保護し、Me供給OチップであるトリフェノールFMeD−102を得る。
【0152】
図22は、SiH3供給Oの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:FHD−106のフェノールを、ピリジン塩基下で塩化メシトイルのジクロロメタン溶液によりアシル化する(Corey ら, JACS 1969, 91, 4398)。メシトエート保護基は、FSiHD−102のリチオ化条件における安定性のために利用されるものである。FSiHD−101の乾燥THF溶液を、−78℃でn−ブチルリチウムのヘキサン溶液により脱プロトン化し、ゆっくりと室温まで昇温させる。得られるリチオ化アニオンをクロロトリエトキシシランのTHF溶液によりシリル化してFSiHD−102を得る。FSiHD−102の乾燥THF溶液を0℃に冷却し、水素化リチウムアルミニウムのTHF溶液を加えてメシトエートエステル保護基を除去してトリエトキシシリル基を還元し、SiH3供給OチップであるFSiHD−103を得る。
【0153】
図23は、GeH3供給Oの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:FGeHD−101を生成するために、ハロゲン化ゲルマニウムFHD−104XのTHF溶液を、金属リチウムを用いて還元し、系内でリチウムゲルマニウム種を生成する。この溶液をシリンジで除いてリチウムゲルマニウム種を未反応のリチウム金属から分離し、クロロ(フェニル)ゲルマンのTHF溶液にこれをゆっくり滴下し、0℃に冷却する(Ohshita, J.; Toyoshima, Y.; Iwata, A.; Tang, H.; Kunai, A. Chem. Lett. 2001, 886-887)。塩化トリメチルゲルマニウムに加える前にリチウムゲルマニウム種を過剰のリチウム金属から分離することが必要であるが、これはリチウムがハロゲン化ゲルマニウムとの交換反応を起こすことが可能であるからである。0℃において、FGeHD−101のフェニル基をトリフルオロメタンスルホン酸のジクロロメタン溶液により除去する。粗製反応物を中和及び後処理により分離して乾燥THFに溶解する。反応溶液を0℃に冷却し、水素化リチウムアルミニウムを滴下してGeH3供給OチップであるゲルマニウムFGeHD−102を得る。
【0154】
図24は、SiMe3供給Oの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:FSiHD−101を生成するために、FHD−106のフェノールを、ピリジン塩基下で塩化メシトイルのジクロロメタン溶液によりアシル化する(Corey ら, JACS 1969, 91, 4398)。メシトエート保護基は、FSiHD−102のリチオ化条件下における安定性のために利用されるものである。FSiHD−101の乾燥THF溶液を、−78℃でn−ブチルリチウムのヘキサン溶液により脱プロトン化し、ゆっくりと室温まで昇温させる。得られるリチオ化アニオンを塩化トリメチルシリルのTHF溶液によりシリル化してFSiMeD−102を得る。FSiMeD−102の乾燥THF溶液を0℃に冷却し、水素化リチウムアルミニウムのTHF溶液を加えてメシトエートエステル保護基を除去してトリエトキシシリル基を還元し、SiMe3供給OチップであるFSiMeD−103を得る。
【0155】
図25は、GeMe3供給Oの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:FGeMeD−101を生成するために、ハロゲン化ゲルマニウムFHD−104XのTHF溶液を、金属リチウムを用いて還元し、系内でリチウムゲルマニウム種を生成する。この溶液をシリンジで除いてリチウムゲルマニウム種を未反応のリチウム金属から分離し、塩化トリメチルゲルマニウムのTHF溶液にこれをゆっくり滴下し、0℃に冷却する。塩化トリメチルゲルマニウムに加える前にリチウムゲルマニウム種を過剰のリチウム金属から分離することが必要であるが、これはリチウムがハロゲン化ゲルマニウムとの交換反応を起こすことが可能であるからである。FMeD−101のtert−ブチルメチルシリル保護基を化学量論量のフッ化tetra−n−ブチルアンモニウムのTHF溶液を用いて脱保護してGeMe3供給OチップであるトリフェノールFGeMeD−102を得る。
【0156】
図26は、抽出NHの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:酸性条件下で市販の1,3,5−トリヒドロキシアダマンタンと2,4,6−トリフルオロアニリンとを1,2−ジクロロメタン中で50〜80℃で加熱して反応させ、NFA−1を得る。NFA−1テトラフルオロホウ酸を処理することで系内でテトラフルオロホウ酸アミン塩を生成し、アミンの酸化を防止する(Asencio, G., Gonzalez-Nunez, M. E., Bernardini, C. B., Mello, R., Adam, W. J. Am. Chem. Soc., 1993, 115, 7250-7253)。塩の生成に続いて、過剰量のジメチルジオキシラン(DMDO)のアセトン溶液で室温において処理し、三級C−H結合を選択的に酸化してアルコールNFA−2を得る。Koch-Haaf条件(Stetter, H., Schwarz, M., Hirschhorn, A. Chem. Ber. 1959, 92, 1629-1635)を用い、濃硫酸でギ酸を脱水してCOを生成させる。COは、室温において、橋頭のアルコールの脱水により生じた三級カルボカチオンと結合を生じる。水性処理によりカルボン酸NFA−3が得られる。乾燥メタノールと触媒量の硫酸を用いるエステル化によりエステルNFA−4が得られ、これは水素化ジイソブチルアルミニウムにより容易に還元され得る。ジ−tert−ブチルジカーボネート(Boc2O)を用いて−NH2基を保護し、酸による加水分解で除去する。NFA−4をBoc2Oで処理することで保護された化合物NFA−5が得られる。メチルエステルをLiAlH4のテトラヒドロフラン(THF)溶液で還元することでメチルアルコールNFA−6が得られる。メチルアルコールのアルデヒドNFA−7への酸化は、触媒量のテトラプロピルアンモニウム過ルテニウム酸塩(TPAP)及び化学量論量のN−メチルモルホリン-N-オキシド(NMO)により進行する。4オングストロームの粉末状モレキュラーシーブスを反応混合物中に存在させることによって、存在する水を吸着し、カルボン酸にまで過度に酸化されてしまう可能性を削減できる(Ley, S. V., Norman, J., Griffith, W. P., Marsden, S. P., Synthesis, 1994, 639-666)。改質されたCorey-Fuchsの手法(Michel, P., Rassat, A. Tetrahedron Lett. 1999, 40, 8570-8581)を用い、室温において予め調製されたヨードホルム(CHI3)、トリフェニルホスフィン、及びカリウムtert−ブトキシドの混合物のTHF溶液にアルデヒドのTHF溶液を加え、炭素−炭素結合生成反応により1,1−ジヨードアルケンが得られる。注意深い温度制御(−78℃〜−50℃)下、過剰量のカリウムtert−ブトキシドによるヨウ素のみの除去を行い、ヨードアルキンNFA−8が得られる。温度を注意深く制御しない場合にはこの反応により末端アルキンを生成することが可能であるが、末端アルキンはN-ヨードスクシンイミド/AgNO3により、あるいは塩基性メタノール中のI2によりヨード化可能である。Boc基の最終的な全体的脱保護は、トリフルオロ酢酸(TFA)のジクロロメタン溶液により室温で行う。水性処理の後、抽出NHチップであるNFA−9が得られる。
【0157】
図27は、H供給NHの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:NHD−103Xの乾燥THF溶液を0℃に冷却し、水素化リチウムアルミニウムのTHF溶液を添加してハロゲン化ゲルマニウムを還元し、NHD−104を得る。NHD−104を乾燥MeOHに溶解し、加圧水素化に適した反応容器に加える。水酸化パラジウム触媒を添加し、反応容器を水素ガスで加圧する。反応溶液を加圧された水素雰囲気下で撹拌し、H供給NHチップであるNHD−105を得る。
【0158】
図28は、C2供給NHの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:(トリイソプロピルシリル)アセチレンを乾燥THFに溶解し、−78℃に冷却する。N−ブチルリチウムのヘキサン溶液をゆっくりと滴下してアセチレンの水素を脱プロトン化する。反応溶液を1時間撹拌し、室温まで昇温させ、−78℃に冷却したNHD−103Xの乾燥THF溶液に滴下する。反応溶液を1時間撹し、1時間かけて0℃に昇温し、1時間室温において撹拌してNC2D−101を得る。NC2D−101を乾燥MeOHに溶解し、加圧水素化に適した反応容器に加える。水酸化パラジウム触媒を添加し、反応容器を水素ガスで加圧する。反応溶液を加圧された水素雰囲気下で撹拌し、NC2D−102を得る。トリイソプロピルシリル基及びゲルマアダマンタンの核の両方の嵩高さによりアルキンの水素化が妨げられる。NC2D−102をTHFに溶解し、室温において激しく撹拌する。フッ化tetra−n−ブチルアンモニウムを反応溶液に加えて室温で1時間撹拌してNC2D−103を得る。NC2D−103をMeOHに溶解し、激しく撹拌する。水酸化カリウムを加え、ヨウ素のメタノール溶液を室温においてゆっくりと滴下して、C2供給NHチップであるNC2D−104を得る。
【0159】
図29は、Me供給NHの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:ハロゲン化ゲルマニウムNHD−103XのTHF溶液を、金属リチウムを用いて還元し、系内でリチウムゲルマニウム種を生成する。この溶液を、0℃に冷却した10倍過剰量のヨウ化メチレン(CH2I2)のTHF溶液にゆっくり滴下する。このような滴下方法は、メチレン架橋されたゲルマンよりヨードメチルゲルマンNMeD−101を優先して生成させる。NMeD−101を乾燥MeOHに溶解し、加圧水素化に適した反応容器に加える。水酸化パラジウム触媒を添加し、反応容器を水素ガスで加圧する。反応溶液を加圧された水素雰囲気下で撹拌し、Me供給NHチップであるNMeD−102を得る。
【0160】
図30は、SiH3供給NHの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:ハロゲン化ゲルマニウムNHD−103XのTHF溶液を、−78℃で金属リチウムを用いて還元し、系内でリチウムゲルマニウム種を生成する。この溶液をシリンジで除いてリチウムゲルマニウム種を未反応のリチウム金属から分離し、クロロトリエトキシシランのTHF溶液にこれをゆっくり滴下し、0℃に冷却する。反応溶液を室温まで昇温させ、NSiHD−101を生成させる。NSiHD−101のTHF溶液を0℃に冷却し、水素化リチウムアルミニウムで還元してNSiHD−102を得る。NSiHD−102をシクロヘキサンに溶解し、加圧水素化に適した反応容器に加える。水酸化パラジウム触媒を添加し、反応容器を水素ガスで加圧する。反応溶液を加圧された水素雰囲気下で撹拌し、SiH3供給NHチップであるNSiHD−103を得る。
【0161】
図31は、GeH3供給NHの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:ハロゲン化ゲルマニウムNHD−103XのTHF溶液を、−78℃で金属リチウムを用いて還元し、系内でリチウムゲルマニウム種を生成する。この溶液をシリンジで除いてリチウムゲルマニウム種を未反応のリチウム金属から分離し、クロロ(フェニル)ゲルマンのTHF溶液にこれをゆっくり滴下し、0℃に冷却する。反応溶液を室温まで昇温させ、NGeHD−101を生成させる。塩化トリメチルゲルマニウムに加える前にリチウムゲルマニウム種を過剰のリチウム金属から分離することが必要であるが、これはクロロ(フェニル)ゲルマンとのリチウム−ハロゲン交換反応を防ぐためである。0℃において、NGeHD−101のフェニル基をトリフルオロメタンスルホン酸により除去する。粗製反応物の酸を中和及び後処理により分離して乾燥THFに溶解する。反応溶液を0℃に冷却し、水素化リチウムアルミニウムを加えてゲルマンNGeHD−102を得る。NGeHD−102をシクロヘキサンに溶解し、加圧水素化に適した反応容器に加える。水酸化パラジウム触媒を添加し、反応容器を水素ガスで加圧する。反応溶液を加圧された水素雰囲気下で撹拌し、GeH3供給NHチップであるNGeHD−103を得る。
【0162】
図32は、SiMe3供給NHの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:ハロゲン化ゲルマニウムNHD−103XのTHF溶液を、−78℃で金属リチウムを用いて還元し、系内でリチウムゲルマニウム種を生成する。この溶液をシリンジで除いてリチウムゲルマニウム種を未反応のリチウム金属から分離し、過剰のクロロトリメチルシランのTHF溶液にこれをゆっくり滴下し、0℃に冷却する。反応溶液を室温まで昇温させ、NSiMeD−101を生成させる。NSiMeD−101をシクロヘキサンに溶解し、加圧水素化に適した反応容器に加える。水酸化パラジウム触媒を添加し、反応容器を水素ガスで加圧する。反応溶液を加圧された水素雰囲気下で撹拌し、SiMe3供給NHチップであるNSiMeD−102を得る。
【0163】
図33は、GeMe3供給NHの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:ハロゲン化ゲルマニウムNHD−103XのTHF溶液を、−78℃で金属リチウムを用いて還元し、系内でリチウムゲルマニウム種を生成する。この溶液をシリンジで除いてリチウムゲルマニウム種を未反応のリチウム金属から分離し、塩化トリメチルゲルマニウムのTHF溶液にこれをゆっくり滴下し、0℃に冷却する。反応溶液を室温まで昇温させ、NGeMeD−101を生成させる。塩化トリメチルゲルマニウムに加える前にリチウムゲルマニウム種を過剰のリチウム金属から分離し、塩化ゲルマニウムのリチウム還元を防ぐことが必要である。NGeMeD−101をシクロヘキサンに溶解し、加圧水素化に適した反応容器に加える。水酸化パラジウム触媒を添加し、反応容器を水素ガスで加圧する。反応溶液を加圧された水素雰囲気下で撹拌し、GeMe3供給NHチップであるNGeMeD−102を得る。
【0164】
図34は、抽出Sの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:市販されている1−ブロモアダマンタンを、AlCl3のルイス酸条件下で三つの異なるベンゼン分子と共に90℃でFriedel-Craftsアルキル化反応に処してSHA−1を得る。注意深く制御された化学量論量のtert−ブチルブロミド(2.0当量)により1,3,5−トリフェニルアダマンタンを得る(Newman, H. Synthesis, 1972, 12, 692-693)。SHA−1のフルオロベンゼン溶液と50%NaOH水溶液を相間移転触媒で処理することでSHA−2を得る。この反応は、アダマンタン中の三級C−H結合を選択的に臭素化する(Schreiner, P. R.; Lauenstein, O.; Butova, E. D.; Gunchenko, P. A.; Kolomitsin, I. V.; Wittkopp, A.; Feder, G.; Fokin, A. A., Chem. Eur. J. 2001, 7, 4996-5003)。二相系混合物中における芳香環のRuCl3による酸化的開裂によりトリカルボン酸SHA−3を得る(Carlsen, P. H. J.; Katsuki, T.; Martin, V. S.; Sharpless, K. B., J. Org. Chem. 1981, 46, 3936-3938)。SHA−3を乾燥メタノール及び触媒量の硫酸により50〜60℃でエステル化し、トリエステルSHA−4が得られ、これは0℃においてLiAl4により容易に還元可能である。トリオールSHA−4は無水トリフルオロ酢酸とピリジンのジクロロメタン溶液と0℃で容易に反応し、化合物SHA−5が得られる。臭化アダマンタンSHA−5の存在下、−20℃で臭化ビニルを触媒量のAlBr3で縮合してジブロモエチルアダマンタン中間体を得て、これにカリウムtert-ブトキシドを作用させて脱離してアルキンSHA−6を得る(Malik, A. A.; Archibald, T. G.; Baum, K.; Unroe, M. R., J. Polymer Sci. Part A: Polymer Chem. 1992, 30, 1747-1754)。アセトニトリル還流下で3当量のカリウムチオアセテートによりトリフラート基を置き換えて化合物SHA−7を得る。18−クラウン−6を使用することでチオアセテートの求核性が上がるため、これを加えて室温での反応速度を上げてもよい(Kitagawa, T., Idomoto, Y.; Matsubara, H.; Hobara, D.; Kakiuchi, T.; Okazaki, T.; Komatsu, K., J. Org. Chem. 2006, 71, 1362-1369)。硝酸銀とN−ヨードスクシンイミドのTHF溶液により室温でヨードアルキンを生成し、水酸化カリウムで処理してアセテート基を除去し、抽出Sチップである化合物SHA−8を得る。
【0165】
図35は、H供給Sの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:RHD−101を、ジクロロメタン中、室温においてベンゼン及びトリフルオロ酢酸(TFA)と反応させてトリフェニルゲルマアダマンタンSHD−101を得る。フェニル基をCCl4、CH3CN、及びH2Oの混合溶媒中の触媒量のRuCl3及び化学量論量の酸化剤としての過ヨウ素酸を添加して0℃〜室温で芳香環を開裂させることで酸化的開裂を進行させ、トリカルボン酸SHD−102を得る。SHD−102とメタノールを硫酸で40〜60℃でエステル化してトリエステルを得て、当該トリエステルを後にLiAlH4で0℃で還元してトリオールSHD−103を得る。トリオールSHD−103をトリフルオロメタンスルホン酸無水物で0℃においてジクロロメタン中のピリジンで処理してトリフラートSHD−104を得る。18−クラウン−6エーテルのアセトニトリル溶液の存在下、室温でトリフラート基をカリウムチオアセテートで置き換えることでアセテート保護されたチオールをSHD−105中に形成する。SHD−105を、SnCl4、I2、又はBr2のジクロロメタン溶液に限定されないルイス酸源で−78℃〜室温において処理することでGe−Me結合を選択的に開裂させて対応のGe−X(X=Cl、Br、I)結合をSHD−106X中に形成する。Ge−X化合物であるSHD−106Xを0℃〜室温でLiAlH4で処理することでGe−X結合を還元するとともに、同時にチオアセテート基をチオール基から除去し、水性処理を経てHD供給SチップであるトリチオールSHD−107を生成する。
【0166】
図36は、C2供給Sの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:H供給Sの合成における中間体SHD−106Xを過剰量の市販の臭化エチニルマグネシウムのジエチルエーテル溶液と0℃〜室温において反応させてSC2D−101を生成する。臭化エチニルマグネシウムが過剰であることで、水性処理を経た際のチオアセテート保護基の完全な脱保護を確実にする。SC2D−101中のチオールは、無水酢酸(Ac2O)で処理してアセテート基で保護する。保護された化合物は次に硝酸銀及びわずかに過剰量のN-ヨードスクシンイミドのTHF溶液で室温において処理してヨードアルキンをSC2D−中のヨードアルキンを生成する。次に粗製反応物の混合物を室温において塩基性メタノールで処理し、C2供給SチップであるSC2D−102を得る。
【0167】
図37は、Me供給Sの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:チオールメチル供給ツールの合成は、中間体SHD−105から始まる。アセテート基はチオエーテル保護基で置き換えられなければならず、特にtert−ブチル基は合成条件に耐えるために置き換えが必要である。アセテート基は室温において塩基性メタノールにより除去され、その後室温でtert−ブタノールの酸性溶液で処理してSMeD−101を生成する。Ge−Me結合は、ルイス酸により−78℃〜室温の間でSnCl4、I2、又はBr2などの試薬により開裂され、SMeD−102X中にGe−Cl結合を生成する。SMeD−102Xを金属リチウム及び過剰のCH2I2で0℃において高希釈のTHF中で処理し、SMeD−103を得る。Tert−ブチル基の除去は、塩化2−ニトロベンゼンスルフェニルの酢酸溶液で行われ、ジスルフィドの混合物を得る(Pastuszak, J. J., Chimiak, A., J. Org. Chem., 1981, 46, 1868. Quintela, J. M., Peinador, C., Tetrahedron, 1996, 52, 10497)。このジスルフィドをNaBH4で−20℃〜0℃の間の低温で処理してMe供給Sチップである遊離チオールSMeDon−104をC−I結合を還元することなく得る。
【0168】
図38は、SiH3供給Sの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:t−ブチル保護されたチオールを有する中間体SMeD−102Xを金属リチウムのTHF溶液で0℃において処理し、続いてトリエトキシクロロシランを加えて、処理後にSSiHD−101を得る。この反応によりSiH3供給に必要なGe−Si結合が形成される。t−ブチル基の除去を、塩化2−ニトロベンゼンスルフェニルの試薬により酢酸中室温において行い、ジスルフィドの混合物を得る。LiAlH4で処理することでS−S結合が開裂され、SiH3供給SチップであるSSiHD−102中に遊離チオールを生成し、同時にトリエチルシリル基を−SiH3へ還元する。
【0169】
図39は、GeH3供給Sの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:t−ブチル保護されたチオールを有する中間体SMeD−102Xを金属リチウムのTHF溶液で−78℃において処理する。この溶液をシリンジで除いてリチウムゲルマニウム種を未反応のリチウム金属から分離し、0℃においてPhGeH2Clの溶液にこれをゆっくり滴下する。後処理によりSGeHD−101が得られる。この反応により−GeH3供給に必要なGe−Ge結合が形成される。SGeHD−101をトリフルオロ酸と処理することでPh−Ge結合が開裂されてGe−OSO2CF3結合が生成される。トリフルオロ酸はまた、t−ブチルチオエーテル基を除去する。この中間体をLiAlH4のジエチルエーテル溶液で0℃において処理することで任意のS−S結合が開裂され、GeH3供給SチップであるSGeHD−102中に遊離のチオールを与え、同時にGeトリフラート基を−GeH3へ還元する。
【0170】
図40は、SiMe3供給Sの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:t−ブチル保護されたチオールを有する中間体SMeD−102Xを金属リチウムのTHF溶液で−78℃において処理し、続いてクロロトリメチルシランを加えて0℃に昇温する。後処理を経てGe−Si結合を有する化合物SSiMeD−101を得る。t−ブチル基の除去を、塩化2−ニトロベンゼンスルフェニルの酢酸溶液により室温において行い、ジスルフィドの混合物を得る。NaBH4のクロロホルム溶液及びメタノールと室温において処理することでS−S結合が開裂され、SiMe3供給SチップであるSSiMeD−102中に遊離チオールを生成する。
【0171】
図41は、GeMe3供給Sの合成ルートを示す。合成ステップは次の通りである:t−ブチル保護されたチオールを有する中間体SMeD−102Xを金属リチウムのTHF溶液で−78℃において処理する。この溶液をシリンジで除いてリチウムゲルマニウム種を未反応のリチウム金属から分離し、0℃においてクロロトリメチルゲルマンの溶液にこれをゆっくり滴下する。後処理によりGe−Ge結合を有するSGeMeD−101が得られる。t−ブチル基の除去を、塩化2−ニトロベンゼンスルフェニルの酢酸溶液により室温において行い、ジスルフィドの混合物を得る。NaBH4のクロロホルム溶液及びメタノールと室温において処理することでS−S結合が開裂され、GeMe3供給SチップであるSGeMeD−102中に遊離チオールを生成する。
【0172】
図42は、中間体FHD−104Xの合成ルートを示し、当該中間体よりいくつかの他の合成が始められる。合成ステップは次の通りである:cis,cis−トリ−O−アルキル1,3,5−シクロヘキサントリカルボキシレートを、還流THF及び激しい撹拌の条件下において水素化リチウムアルミニウムで還元し、cis,cis−1,3,5−トリ(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンHD−1を得る。ここで使用される工程は、Boudjouk ら, Organometallics 1983, 2, 336に開示されるものに類似である。cis,cis−1,3,5−トリ(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、HD−1を、系内で生成した二臭素化トリフェニルホスフィンを利用して臭素化する。これは、臭素をトリオール及びトリフェニルホスフィンのDMF溶液へ室温においてゆっくり滴下してcis,cis−1,3,5−トリ(ブロモメチル)シクロヘキサン、HD−2を得ることで達成される。ここで使用される工程は、Boudjouk ら, Organometallics 1983, 2, 336に開示されるものに類似である。トリ−グリニャールは、cis,cis−1,3,5−トリ(ブロモメチル)シクロヘキサン、HD−2を室温においてTHF中のマグネシウムリボンに加えて加熱還流させることにより系内で生成される。トリ−グリニャールを次に第二の反応容器へ移して試薬を過剰のマグネシウムリボンから分離する(MgはGe−Cl結合に挿入可能である)。あらかじめ水素化カルシウムで乾燥させ脱気させたトリメチルクロロゲルマンを0℃において反応溶液へゆっくり滴下する。2時間後、反応溶液を室温まで2時間かけて昇温し、最終的に一晩還流させる。反応により主としてcis,cis−1,3,5−トリ(トリメチルゲルミルメチル)シクロヘキサン、HD−3が得られる。cis,cis−1,3−ジメチル−5−(トリメチルゲルミルメチル)シクロヘキサン及びcis,cis−1−メチル−3,5−ビス(トリメチルゲルミルメチル)シクロヘキサンも少量生成する。ここで使用される工程は、Boudjouk 及び Kapfer, Journal of Organometallic Chemistry, 1983, 296, 339に開示されるものに類似である。HD−3のベンゼン溶液を、高純度の無水塩化アルミニウムを用いる再分配反応の条件に処し、加熱還流により1−メチル−1−ゲルマアダマンタンを得る。HD−3の副生成物であるcis,cis−1,3−ジメチル−5−(トリメチルゲルミルメチル)シクロヘキサン及びcis,cis−1−メチル−3,5−ビス(トリメチルゲルミルメチル)シクロヘキサンは反応系に存在していてもよく、あるいは分離した後にこれらの条件で反応させて同様にHD−4を得ても良い。HD−4は、過剰の「ケトンを有さない」ジメチルジオキシラン(DMDO)(Crandall, J. K. 2005. Dimethyldioxirane. e-EROS Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis.)と塩化メチレン溶液中において−20℃で反応させて1−メチル−3,5,7−トリヒドロキシ−1−ゲルマアダマンタンRHD−1を得る。反応系にアセトンを存在させないことによりRHD−101を反応混合物から析出させ、過酸化を防ぐことができる。反応の完了後、イソプロピルアルコールを用いて過剰のDMDOをクエンチし、反応溶液の後処理において過剰の試薬が存在することによる過酸化を防止する。RHD−101を、2,4,6−トリフルオロフェノールの存在下で強酸性条件の室温で処理してFHD−102を得る。ブロンステッド酸の条件を用いるとアダマンタンケージ構造の3,5,7橋頭位置におけるカルボカチオン生成がゲルマニウム中心における反応性再分配に優先する。FHD−102の1−メチル基は、種々の求電子性試薬を用いて所望のハロゲン化物に応じて−78℃〜室温の範囲内の低温においてハロゲン化物(X=F、Cl、Br、I)と交換することが可能である。試薬には、SnCl4又はGaCl3のようなルイス酸、ハロゲン分子Br2及びI2とルイス酸触媒、塩化イソプロピルのようなハロゲン化アルキルとルイス酸触媒、ならびにIBr及びIClのようなハロゲン間化合物が含まれるがこれらに限定されない。さらに、適切な軽いハロゲン化銀を用いることで重いFHD−103Xハロゲン化物を軽いハロゲン化物へ変換することが可能である(例えば、FHD−103Br及びAgClによりFHD−103Clが得られる)。tert−ブチル(クロロ)ジフェニルシラン及びイミダゾールのDMF溶液を利用してFHD−103Xのフェノールアルコール(X=F、Cl、Br、I)を室温において保護し、FHD−104X(X=F、Cl、Br、I)を得ることが可能である。
【0173】
図43は、中間体NHD−103Xの合成ルートを示し、当該中間体よりいくつかの他の合成が始められる。合成ステップは次の通りである:RHD−101を、2,4,6−トリフルオロアニリンの存在下、室温でメタンスルホン酸などの強酸条件下で処理してNHD−102を得る。ブロンステッド酸の条件を用いるとアダマンタンケージ構造の3,5,7橋頭位置におけるカルボカチオン生成がゲルマニウム中心における再分配反応性に優先する。NHD−103を生成するために、NHD−102を、ヨウ化カリウムの存在下、室温において臭化4−メトキシベンジルと炭酸カリウム塩基でアルキル化する。NHD−103Xを生成するため、NHD−103の1−メチル基を、種々の求電子性試薬を用いて所望のハロゲン化物に応じて−78℃〜室温の範囲内の低温においてハロゲン化物(X=F、Cl、Br、I)と交換することが可能である。試薬には、SnCl4又はGaCl3のようなルイス酸、ハロゲン分子Br2及びI2とルイス酸触媒、塩化イソプロピルのようなハロゲン化アルキルとルイス酸触媒、ならびにIBr及びIClのようなハロゲン間化合物が含まれるがこれらに限定されない。さらに、適切な軽いハロゲン化銀を用いることで重いNHD−103Xハロゲン化物を軽いハロゲン化物へ変換することが可能である(例えば、NHD−103Br及びAgClによりNHD−103Clが得られる)。
1.5.4 表面の調製
【0174】
種々の例示的な表面がここに開示され、これにはダイヤモンド、ケイ素及び金が含まれる。好ましくは、これらの表面は、特に非不動態化されたダイヤモンド、部分的に水素化され部分的に塩素化されたSi(111)、及びAu(111)である。もちろん、類似の表面を使用することができ、これにはゲルマニウム、鉛が含まれるが、これらは足又はリンカーの改質が必要であり得る。
【0175】
ダイヤモンドについては、チップの提示及び加工物の構築の両方に適切な表面を得る方法は文献においてよく知られている(例えば、(Hayashi, Yamanaka ら, "Atomic force microscopy study of Atomically flat (001) diamond surfaces treated with hydrogen plasma," Applied Surface Science. 1998. 125:120-124; Watanabe, Takeuchi ら, "Homoepitaxial diamond film with an Atomically flat surface over a large area," Diamond and Related Materials. 1999. 8:1272-1276; Okushi, "High quality homoepitaxial CVD diamond for electronic devices," Diamond and Related Materials. 2001. 10:281-288; Tokuda, Umezawa ら, "Atomically flat diamond (111) surface formation by homoepitaxial lateral growth," Diamond and Related Materials. 2008. 17:1051-1054; Yatsui, Nomura ら, "Realization of an Atomically flat surface of diamond using dressed photon-phonon etching," Journal of Physics D: Applied Physics. 2012. 45:475302)を参照)。
【0176】
部分的に水素化され部分的に塩素化されたSi(111)は、完全に塩素化されたSi表面に対して優先的に用いられるが、これは部分的な塩素化によりチップ分子の結合の際のエネルギー障壁が単に塩素化されたSi(111)と比較して低減されているからである。これは、水素がClより小さいために、チップが表面に接近する際の立体的な密集性を低減されるためである。水素化は、好ましくは33%〜50%の範囲内であるが、より広い範囲であっても実施可能であり、全く水素化されていない場合でも同様である。部分的に水素化され部分的に塩素化されたSi(111)は、複数の方法により調製され得る。その一つを以下に示す。
【0177】
清浄で、原子的に平坦なドープSi(111)表面は、Siを約650℃で数時間直接電流アニール処理し、続いてチャンバーの圧力を1×10−9Torr未満に維持しつつ〜1200℃へ1〜20秒で急速に加熱することで調製される。この工程により、J Phys Cond Matt 26, 394001 (2014)に開示されるように7×7の再構築された表面が得られる。
【0178】
Si(111)表面は、Vac Sci and Tech A 1, 1554 (1983)に記載されている電気化学セルと同様のものにより、Si(111)を約400℃に加熱して塩素化することができる。原子的に平坦な塩素化Si(111)表面はこのようにしてPhys Rev Lett 78, 98 (1997)に開示されるように調製された。
【0179】
Si(111)−Cl表面は次に、Surf Sci 402-404, 170-173 (1998)に開示されるように室温においてH2クラッカーからの600Lの原子水素で表面を処理して部分的に水素化することができる。
【0180】
清浄で、原子的に平坦なAu(111)表面は、Phys Rev Lett 80, 1469 (1998)に記載されるように、単結晶Au(111)表面に対してスパッタリング及びアニーリングの処理サイクルを繰り返すことで調製される。
1.5.5 チップの結合
【0181】
一旦結晶化されると、チップは提示表面に結合させることができ、これには大きな表面及び小さな表面が含まれ、例えばメタチップ又はシングルチップツール表面が挙げられる。チップを表面に結合する方法は多数あり、チップ及び表面の実際の特性に応じて変更され得る。
【0182】
表面に単離されたチップを蒸着する一つの方法は、真空での熱蒸発を介するものである。この技術では、個体又は液体の精製された分子がチャンバー内で加熱されて蒸発し、気化した単離分子となる。提示表面をこの気化ガス内に設置することで、個々のチップが表面に吸着する(「Spatially resolved electronic and vibronic properties of single diamondoid molecules," Nature Materials 7, 38-42 (2008)」に記載されているテトラマンタン蒸着を参照)。この方法には、表面を溶媒により汚染すること無く分子を蒸着することができ、マスクを使用できるという優位点がある。マスクを使用することにより各々異なるチップを含む領域や、異なるチップの混合物を含む領域を作成することができ、チップを論理的且つ効率的に配置できる。
【0183】
硫黄又はチオールをベースとしたリンカーを有するチップは、室温において金に対し自発的に結合する。塩素化されたケイ素表面に結合するように設計されたO又はNHリンカーを有するチップでは、反応障壁を超えるために表面を加熱することが必要である。これが、部分的な水素化/塩素化が好ましい理由である。立体障害を削減することでチップを結合させる際の反応障壁を、チップの分解温度より相当低く保つことが可能である。
【0184】
分子を蒸発させる簡便な方法は、分子をタングステンワイヤーに覆われたガラス又はアルミナのるつぼに入れることである。ワイヤーに電流を流すことでるつぼ及び分子が加熱され、生成した分子ガスがるつぼの正面から排出される。るつぼ上の熱電対により温度が測定される。石英結晶微量天秤を用いて時間及び温度の関数として蒸発量を決定することができる。
【0185】
これは、チップをどのようにして表面に結合させることが可能かを示す一例にすぎない。そのような技術は、特定の分子の領域を作成する方法を含め、関連技術においてよく知られている(Zahl, Bammerlin ら, "All-in-one static and dynamic nanostencil atomic force microscopy/scanning tunneling microscopy system," review of Scientific Instruments. 2005. 76:023707; Sidler, Cvetkovic ら, "Organic thin film transistors on flexible polyimide substrates fabricated by full-wafer stencil lithography," Sensors and Actuators A: Physical. 2010. 162:155-159; Vazquez-Mena, Gross ら, "Resistless nanofabrication by stencil lithography: A review," Microelectronic Engineering. 2015. 132:236-254; Yesilkoy, Flauraud ら, "3D nanostructures fabricated by advanced stencil lithography," Nanoscale. 2016. 8:4945-50)。
1.5.6 チップの活性化
【0186】
チップ、特にその活性サイトにおいてラジカルが露出されているチップは、不活性な形態において表面に結合され得る。そのようなチップの活性化方法の一つは、構造の光開裂を経由するものである。例えば、ここに例示されるハロゲンキャップされたチップは、254nmの光に暴露することで活性化され得る。
図44は、ハロゲンキャップされたチップの活性化反応を表す。他の波長及び化学的手法も使用可能である。例えば、異なる合成工程が使用される場合、チップをBartonエステルで保護することができ、これはその後365nmの光により開裂させることでチップを活性させることが可能である。
図45はBartonエステルにおいて適用可能な活性化反応の例を示す。
【0187】
チップのキャップを除く唯一の方法ではないが、光活性化は表面の異なる部分をマスク可能であるという点において便利である。異なる波長を使用することもでき、いくつかのチップに影響を及ぼすが他のチップには影響を及ぼさない波長を選択することが可能である。これにより光活性化は、複数の種類のチップが存在したり、位置的に複雑なレイアウトパターンが所望される場合においても多目的な技術となり得る。
1.5.7 Bartonエステルキャップ
【0188】
ここにハロゲンキャップされたチップの合成ルート、及びこれらをどのようにして活性化するかの他の例が示される。保護キャップを有するチップの合成についての別の化学技術を論証するに際し、Bartonエステルは、例えば355〜365nmの波長の光を照射して炭素中心ラジカルであるCO2及びピリチルラジカルの断片を生じる変更例である(Barton, D. H. R., Crich, D., Potier, P. Tetrahedron Lett., 1985, 26, 5943-5946チオヒドロキサムサン酸の化学についての総説については、Crich, D., Quintero, L. Chem. Rev. 1989, 89, 1413-1432を参照)。これらの種類の活性化分子は、記載の化合物から製造することができ、その合成ルートの一つが以下に記載されるが、抽出OチップのBartonエステル変形例を与える。
【0189】
図46は、Bartonエステル抽出Oチップの合成を以下の通り表す。光活性化するためのBartonエステルを合成するために、伝統的なCorey-Fuchs工程を用い、CO2ガスを反応混合物を通してバブリングするクエンチにより(Corey, E. J., Fuchs, P. L. Tetrahedron Lett. 1972, 36, 3769-3772)、プロピオン酸OFAB−1をOFA−7から製造する。第一の工程において−78℃で1,1−ジブロモアルケンを溶液中で生成する。2当量のブチルリチウムを添加することで反応溶液中にリチウムアセチリドを生成する。二酸化炭素のバブリングを行い、所望のカルボン酸OFAB−1を水性後処理の後に得る。Bartonエステルを得るため、カルボン酸誘導体OFAB−1をオキザリル酸及び触媒量のN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)のジクロロメタン溶液中で室温において酸ハロゲン化物へ活性化する。この反応混合物にピリチオンナトリウム塩を添加し、所望のエステル結合をOFAB−2中に形成する。Bartonエステルは、水性の酸性及び塩基性媒体中では不安定であるため、保護基を除く際には反応条件の制御に注意が必要である。OFAB−2のようなpHに敏感なシリルエーテルの除去には複数の技術が適用可能である。一つには、より安定なTBS−シリルエーテルに代えてより信頼性のあるトリメチルシリル−(TMS−)又はトリエチルシリル−(TES−)エーテルなどのシリルエーテルを使用することである。別の方法としては、OFAB−2及び触媒量の固体フッ化tetra−n−ブチルアンモニウム(TBAF)又はフッ化セシウムの100:1 THF−バッファ溶液を用いてOFAB−3を製造することである。K2HPO4をpH=7.1緩衝液とした溶液をTBAFの脱保護に用いることができる(DiLauro, A. M.; Seo, W.; Phillips, S. T., J. Org. Chem. 2011, 76, 7352-7358)。これによりBartonエステル結合を加水分解してしまうリスクを低減し、Bartonエステル抽出Oチップである遊離フェノールをOFAB−3中に得る可能性を向上させることができる。
1.6 チップの使用方法
【0190】
表面固定チップを使用する方法の一つが
図47に示される。この図は図式的であり、スケールは合っていない。
図47において、ハンドル4701が表面4702に結合されている。表面4702は任意であり、ハンドルの材料が直接加工物4703を結合させるのに適していない場合に、加工物4703を結合させるために好ましい材料及び化学的特性を付与するように機能している。加工物4703を直接ハンドル4701に結合させることも可能である。ハンドル4701は、当該ハンドル4701を動かすための位置手段(図示せず)に結合されていて、加工物4703を表面4705に固定されたチップ(チップ4704がその代表例である)に対して移動させる。
【0191】
表示の位置において、加工物4703はチップ上へ下降していてもよく、あるいはチップにより作用された直後にこれより上昇しているものであってもよい。いずれであっても、ポイントは、表面4705は多数の多種類のチップを含み得、これには非機能性チップ(正しく合成することに失敗したか、又はすでに使用されたもの)が含まれる。チップの位置についての知識は、例えば、特定のチップを特定の位置へ配置するために領域又は表面の走査(構築シークエンスの前又は最中)が用いられているため、加工物を所望のチップへ移動させることを可能にし、この時にメカノ合成反応が進行し、加工物は次の所望のチップへ移動する。この工程が加工物の完成まで繰り返される。
【0192】
表面固定チップを使用する別の方法は、メタチップを作成することであり、これは複数のチップが直接又は表面を介して固定され得るハンドルである。
図48はこのような表面固定チップの使用を示し、ハンドル4801は(任意の)表面4802に結合されている。ハンドル4801は位置手段(図示せず)にも結合されている。チップ4804を代表的な例とするチップは、表面4802に固定されている状態で示されているが、ハンドル4801に直接固定されていてもよい、この状況において、チップは表面4805上にある加工物4803に対して作用するように移動する。
【0193】
図47と
図48の状況の主な違いは、加工物が移動するか、チップが移動するかである。実際には、両方が移動することも可能であり(例えば一つはコースの調整で、もう一つは精密さのためである)このような区別は主に装置の設計の一つである。
【0194】
おそらく
図48が、従来のメカノ合成技術に対する表面固定チップの優位性を最も明確に示している。表面4802が固定されたチップを一つしか有していなかったとすれば、メカノ合成において一般に用いられるチップと類似である。このような状況では複雑な加工物を作成するためには固定されたチップはa)複数の反応を実施可能であり、b)頻繁に再生されるか、頻繁にチップ交換を実施しなくてはならない。
図47又は
図48のいずれかの状況(及びここに開示される教示に従ってこれらを改変したもの)を採用することによって、多くのチップがメカノ合成反応を提供可能となり、位置的に(初期において利用可能なチップの数及び加工物を構築するのに必要な反応の数に応じて)チップの再充填又はチップ交換をすることなく利用可能なポテンシャルを有する。チップの再充填又はチップ交換の削減は、反応を実施するのに必要な平均時間を削減するのに役立つ。
1.7 利用可能なチップの数
【0195】
利用可能なチップの総数は、大きな範囲内で変わり得、これは加工物を作成するのに必要な反応の総数、加工物を作成するのに必要な反応の種類の数、利用可能な提示表面の大きさ、及び実際に用いられる方法などの要因に応じて変化するものである。さらに、利用可能なチップの総数と、チップの種類の数を区別することはコンセプト上重要である。
【0196】
例えば、チップの再充填が許容できる場合、チップの数は、構築シークエンスに必要な各反応の種類につき一つのチップを提供するように制限され得る。例えば、ここに記載されるように、ダイヤモンドを構築する一つの方法は、4種類の異なるチップが必要である(そして、列の開始及び終了にはそれぞれ三つのチップしか必要とされないが、列の拡張には四つのチップが必要とされる)。供給原料及び足又はリンカーのみにおける違いを無視し、約7つの異なる種類のチップがここに開示される。供給原料を数える際、例えば
図1〜17及び
図51に開示される構造に加えて表1に示される構造によれば、この数字は約20以上になることが理解できる。なぜならば、いくつかのチップは複数の供給原料を用いることが可能だからである。このような例によればシステムに存在するチップの種類の数は4未満、4〜7、8〜20、又はこれ以上であることが明らかである。これはシステム内の位置手段の数についてなんら言及するものではないことに留意すべきである。なぜならば、複数種類のチップが一つの位置手段に固定可能であるからである。
【0197】
現存する任意の必要な種類の一つのチップを有することは、チップ交換を回避する点において有用であるが、チップの再充填を回避する点においてはさほど有用でない。チップの再充填を回避するためには、理想的には各種類のチップが、少なくともそのチップが構築シークエンスにおいて使用される回数分存在することになる。構築シークエンスが本質的に任意で長くなり得ることを考慮すると、この一つの例は、比較的小さな加工物であっても存在するチップの総数を例えば10〜100とすることが有用であり、より大きな加工物の場合には100〜1,000の間、1,000〜1,000,000の間、又は1,000,000〜1,000,000,000の間又はこれ以上であることが有用であることを示している。適切なシステムにおいて利用可能な表面の面積及び平均的なチップの大きさを決定することで、例えば提示表面上に不完全に敷き詰められたチップやいくらかの割合で不良チップが存在することによりいくらかのスペースが無駄になることを許容したとしても、提示表面は多くの数のチップを保持し得ることが容易に理解できる。
1.8 メカノ合成に適合した装置
【0198】
市販の原子顕微鏡システムは、コース及び精密モーションコントローラを組み合わせて長い範囲のモーション及び原子解像度の両方を達成している。例えば、Omicron社(Scienta Omicron GmbH, Germany)のLT Nanoprobeは予め統合されたSPMであって、4つのプローブチップ、5mm×5mm×3mmのレンジを有するコースモーションコントローラ、1μm×1μm×0.3μmのレンジを有する精密モーションコントローラ、及び原子解像をSTMモードに有するSPMである。このような装置はメカノ合成が機能するのに十分であり、メカノ合成が何十年もの間実施されてきたことを考慮すると、現在において最新ではないと考えられる装置であっても十分に機能し得る。しかしながら、典型的なSPM装置は高容量のメカノ合成反応を実施できるようには最適化されていない。典型的なSPMの実施には製造よりむしろ分析が関与し、重要な点は一般にイメージの形成又は他のデータの収集のために試験片を走査することにある。走査速度は頻繁に制限の要因となり得、走査スピードを向上させることは活発な研究領域となっている(Dai, Zhu ら, "High-speed metrological large range AFM," Measurement Science and Technology. 2015. 26:095402)。
【0199】
走査速度は、システムが走査することなく必要な精度を達成できるのであれば、メカノ合成のシステムにおいては重要度がより低くなるが、これは技術水準の範囲内である。理論的には、メカノ合成用に調整されたシステムでは、少なくとも位置の決定又は改善に走査は必要でない。現実的には、おそらくいくらかの走査が必要となり、これには初期表面走査により表面の形態とチップの位置及び同一性をマッピングし、所望の場合には反応サイトの周囲の小さな領域を反応後に走査して反応が正しく進行したことを確認してもよい(例示の反応の多くにおいて非常に高い信頼性が得られていることを鑑みると、これは不必要であるとも判断され得ることに留意すべきである。)このような走査及びチップ又加工物の特性評価が可能であり、技術水準において明らかに存在しており、例えば(Giessibl, "Forces and frequency shifts in atomic-resolution dynamic-force microscopy," Physical review B. American Physical Society. 1997. 56:16010-16015; Perez, Stich ら, "Surface-tip interactions in noncontact atomic-force microscopy on reactive surfaces: Si(111)," PHYSICAL review B. 1998. 58:10835-10849; Pou, Ghasemi ら, "Structure and stability of semiconductor tip apexes for atomic force microscopy," Nanotechnology. 2009. 20:264015; Yurtsever, Sugimoto ら, "Force mapping on a partially H-covered Si(111)-(7×7) surface: Influence of tip and surface reactivity," Physical review B. 2013. 87; Hofmann, Pielmeier ら, "Chemical and crystallographic characterization of the tip apex in scanning probe microscopy," Phys Rev Lett. 2014. 112:066101; Hapala, Ondracek ら, "Simultaneous nc-AFM/STM Measurements with Atomic Resolution," Noncontact Atomic Force Microscopy: Volume 3. Cham, Springer International Publishing. 2015.29-49)を参照されたい。
【0200】
いくらかの走査がメカノ合成工程の様々な局面において用いられるであろうという事実に関わらず、位置の改善のために頻繁に走査を行うことを回避し、代わりに必要な2点間の精度(すなわち、位置の精度を上げるために間の走査を用いずに一つのチップ又は加工物の位置から別のものへ直接移動することを意味する)である測定学を用いることは、メカノ合成の工程のスピードを飛躍的に向上させる。
【0201】
分析的又は計測学的SPMへの理論的な寄与は、メカノ合成のシステムにおけるそれらとは異なり、以前のメカノ合成についての研究でさえもそのような研究によく適合されたシステムを提供できていなかった。これは、おそらく実施される研究が単純で少量であるという性質に基づくものであり、従来の装置が直面する問題でもある。例えば、多くの市販の原子顕微鏡は開ループであり、チップの位置の精度を上げるために測定学を使用しないことを意味している。しかしながら、閉ループのシステムもまた利用可能であり、構築可能であり、あるいは、既存の開ループシステムに測定学を追加することも可能である(例えば、(Silver, Zou ら, "Atomic-resolution measurements with a new tunable diode laser-based interferometer," Optical Engineering 2004. 43:79-86)を参照)。閉ループシステムは、測定学のフィードバック及び長距離に渡って非常に高い精度を達成可能な位置手段に起因して一般に精度がより高い。例えば、チップを高い精度を持って配置するためにピエゾ素子が頻繁に用いられ、干渉法を利用することにより、オングストローム又はピコメーターレベルの精度や50nmまでの距離の精度においても達成可能であることが示された(Lawall, "Fabry-Perot metrology for displacements up to 50 mm," J. Opt. Soc. Am. A. OSA. 2005. 22:2786-2798; Durand, Lawall ら, "Fabry-Perot Displacement Interferometry for Next-Generation Calculable Capacitor," Instrumentation and Measurement, IEEE Transactions on. 2011. 60:2673-2677; Durand, Lawall ら, "High-accuracy Fabry-Perot displacement interferometry using fiber lasers," Meas. Sci. Technol. 2011. 22:1-6; Chen, Xu ら, "Laser straightness interferometer system with rotational error compensation and simultaneous measurement of six degrees of freedom error parameters," Optics Express. 2015. 23:22)。さらに、これは高精度の閉ループシステムにおいては不要であり得るが、ヒステリシス、クリープ、及び他の現象に起因する位置的エラーを補償可能なソフトウエアが利用可能である。例えば、(Mokaberi and Requicha, "Compensation of Scanner Creep and Hysteresis for AFM Nanomanipulation," IEEE Transactions on Automation Science and Engineering. 2008. 5:197-206; Randall, Lyding ら, "Atomic precision lithography on Si," Journal of Vacuum Science and Technology B: Microelectronics and Nanometer Structures. 2009. 27:2764; Follin, Taylor ら, "Three-axis correction of distortion due to positional drift in scanning probe microscopy," Rev Sci Instrum. 2012. 83:083711)を参照。ソフトウエアには、位置の改善のために本質的にイメージ認識を利用するものもある。例えば、(Lapshin, "Feature-oriented scanning methodology for probe microscopy and nanotechnology," Nanotechnology. 2004. 15:1135-1151; Lapshin, "Automatic drift elimination in probe microscope images based on techniques of counter-scanning and topography feature recognition," Measurement Science and Technology. 2007. 18:907-927; Lapshin, "Feature-Oriented Scanning Probe Microscopy," Encyclopedia of Nanoscience and Nanotechnology. 2011. 14:105-115)を参照。理論的には、必要となる走査によりプロセスが全体として遅延するためこれは必要でないが、所望の場合には利用可能である。
【0202】
50nmは、多くの数のチップ(10億、1兆、又はこれ以上)及び複雑な加工物を組み込むために必要な実施距離より有意に長いことに留意すべきである。ミクロンオーダーの距離(又はより小さな加工物においてはより小さい距離)は、技術的に実施可能であることが立証されたものの何千倍も小さい距離であっても、種々の種類の加工物に有効である。
【0203】
計測学システムにおいては、チップは一般に測定された場所に正確に位置しておらず(これは、例えばレーザー干渉法を使用する場合の反射平面であり得る)、そのような測定学は注意深く実施して、例えば反射平面に対して僅かに非線形的なチップ又は加工物の動きにより誘導されるアッベエラーを回避しなくてはならない。このような事象に対処するための方法の一つは、反射平面のX、Y、Z軸のみならずこれらの軸の周囲で起こりうる任意の回転をも測定する(そしてこれを計算可能である)ことである。
【0204】
直線状及び角度を有する位置の両方を測定する方法の一つは、6つの干渉計(例えば、Michelson又はFabry-Perotの光学干渉計)を用いることである。
図49は、干渉計を用いて6の自由度(X、Y、Z軸及びこれらの軸中心の回転)を測定する方法を示している。
【0205】
図49において、反射鏡4901〜4906及びこれらの対応のビームであるビームZ1 4907、ビームZ2 4908、ビームZ3 4909、ビームX1 4910、ビームY1 4911、ビームY2 4912を共に用いて6の自由度の全てにおいて位置を決定することができる。種々の組み合わせのビームの間のスペースについての情報が回転を計算するために必要である。この状況において、ビームX1はX位置を与え、ビームY1又はビームY2はY位置を与える。ビームZ1又はビームZ2又はビームZ3はZ位置を与える。ビームZ1とビームZ2は、二つのビーム間の距離と共にX軸についての回転の算出を可能にする。ビームZ2とビームZ3は、二つのビーム間の距離と共にY軸についての回転の算出を可能にする。そして、ビームY1とビームY2は、二つのビーム間の距離と共にZ軸についての回転の算出を可能にする。
【0206】
理論的にサブオングストローム直線距離の測定からミリメートルスケールでの距離にまで拡張して提供する能力を組み合わせつつ角度のエラーを例えば4K(室温の方が実施は容易であるが技術的に困難になる)で動作する顕微鏡により超高真空環境で例えばqPlus sensorを用いて測定し計算することによって、チップ及び加工物の相対位置を改善するための走査や画像認識を用いる必要性が格段に低減された、大型提示表面上で正確な位置にアクセス可能なシステムが提供される。これらの適合自身はメカノ合成において価値のあることである。このような表面固定チップを有する装置及びここに開示されるプロセスを使用することにより従来のシステムより優れた反応量を提供可能なメカノ合成に適合したシステムが提供される。
【0207】
他の有用な適合であって、メカノ合成における要求の点でいくらか特異的な適合には、チップの再充填の削減及びチップ交換の削減(これはSPM装置をより伝統的な方法で使用する際に起こるが、通常はチップが損傷を受けているためであって、異なる化学的性質を有する多くのチップが必要とされるためではない)が含まれる。表面固定チップが、チップの再充填及びチップ交換の必要性を低減させる方法の一つとしてここで説明されてきた。
1.9 連続チップ方法
【0208】
表面固定チップ及び逆モードは従来モードに対して重要な改良をもたらす。しかしながら、逆モードでは、加工物がハンドル(例えば、SPMプローブ)に構築されているため、いくらかの不利益を有する。例えば、加工物が導電性でない場合、STMのようないくつかのモードが不可能となる。さらに、加工物の幾何学が問題を引き起こし得る。例えば、加工物が次の反応サイトに隣接してかなりの広さの平坦な表面を有している場合、加工物上の反応サイトが表面固定チップに近づくにつれて加工物の他の部分も他の表面固定チップに近づくこととなり、所望でない反応の可能性を引き起こす。理論的には、逆モードと従来モード両方の利点を組み合わせることを考える。すなわち、表面固定チップを有する逆モードにおいて大きな数の任意の種類のチップが所与の構築シークエンスにおいて利用可能であり、供給原料の提供及び廃棄物の貯蔵庫を表面固定チップから個別の実態として排除することが可能であることによる、チップ交換の削減または排除などの重要な改良を失うことなく、高いアスペクト比を維持しつつ多目的モード性能及び従来モードの他の好ましい特性を維持したいと考える。
【0209】
表面固定チップを有する逆モードと従来モードの両方の優位点を得ることは、チップの熱力学が追加のチップ−チップ供給原料移転を可能とするように設計されており、我々が「熱力学的カスケード」と称するものに至る場合には可能である。表面固定チップが直接加工物と作用するのではなく、連続チップ法は従来モードチップと作用する表面固定チップから構成される。従来モードチップは加工物と作用する。このようにして表面固定チップは、調節可能な親和性を有する表面として概念化されるものとして機能する。表面固定チップは、その供給原料用に任意の所望の親和性を有するように設計可能であるため、これらは、供給原料が直接提示表面に結合されている場合には従来のチップに対して広範囲の供給原料を提示又は受容することが可能である。加工物は、好ましくは提示表面に表面固定チップと共に配置されているが、ここで説明されるように必ずしもそのようではないことに留意すべきである。
【0210】
図50a〜fは、連続チップ法を実施する方法の一つを示し、サブ
図50a〜eは同じシステムの連続した状態を示し、
図50fは頭上から見た図を示す。
【0211】
図50aは、我々が任意で開始状態として用いるものであるが、頂点に結合されたチップ5003(従来モードチップ)を有するハンドル5001(非表示の位置制御手段に結合され得る)を示す。チップ5003は活性サイト5002を有しており、このケースにおいては空であり供給原料を待機している。提示表面5007がチップ及び加工物5006を保持しており、チップ5004(逆モードチップ)は例示的なものである。チップ5004は供給原料5005を含む。
【0212】
図50bにおいて、ハンドル5001及びチップ5003は、活性サイト5002が供給原料5005に結合するように配置されている。言い換えると、メカノ合成反応はチップ5003と供給原料5005との間で起こる。この時点において、供給原料5005はチップ5003及びチップ5004の両方に結合している。
【0213】
図50cにおいて、ハンドル5001及びこれに従ってチップ5003はチップ5004から引き離されており、供給原料5005がチップ5003へ移転されている。このような移転は二つのチップを互いから引き離す際に起こるが、これは、チップ5003はチップ5004より供給原料5005に対する親和性がより大きくなるように設計されているためである。
【0214】
図50dにおいて、ハンドル5001はチップ5003及びその供給原料5005が加工物5006の特定の位置へ持ってくる。これにより供給原料5005と加工物5006との間のメカノ合成反応が促進される。この時点において、供給原料5005はチップ5003及び加工物5006の両方に結合している。
【0215】
図50eにおいて、ハンドル5001及びチップ5003は加工物5006から引き離されており、供給原料5005は加工物5006に結合されている。以前のチップ5004とチップ5003との間のチップからチップへの移転と同様に、供給原料5005はチップ5003と共に引き離されずに加工物5006に結合したままであるが、これは、チップ5003が、加工物5006上の選択された特定の位置と比較して供給原料5005に対する親和性がより低くなるように設計されているためである。
【0216】
図50fは、
図50a〜eの側面図に示されるシステムの上面図を示す。加工物5006の一部は、(点線は加工物の隠れた境界線を表している)ハンドル5001及びチップ5003(ハンドル5001の下にあるため点線で表している)の下に示されている。チップ5004は多くの表面固定チップを表しており、これらは点線による格子状の領域、例えば領域5008などに配列されている。もちろん、これは必ずしも用いられるべき実際の寸法や配置を描くものではない。加工物は表面固定チップの隣にあってもよく、表面固定チップの中央にあってもよく、あるいは任意の他の便利な位置にあってもよく、これは異なる提示表面上であってもよい。領域は長方形、同心円状、くさび型のパイ状の形状、又は他の任意の便利な形状を取り得、あるいは領域は全く存在せずに異なる種類のチップが混在していてもよい。
【0217】
チップからチップへの移転の工程の追加は、化学的な見地からシステムの設計を複雑化させ得るが、全体としてはより効率的で多目的なシステムを作り出す。化学的な複雑さの上昇は、連続チップ法を実施するためには、供給反応を想定する場合、表面固定チップの供給原料への親和性が従来のチップの供給原料への親和性より低くなければならず(従来のチップ、又は逆モードのチップにおいてはチップからチップへの移転が起こらなかったために存在しなかった要求である)、従来のチップの供給原料への親和性は加工物の供給原料への親和性より低くなければならないという事実に起因するものである。
【0218】
一つの従来型チップにおいて、表面固定チップからの多数の異なる供給原料の受容を可能にし、そして供給原料を、化学的特性において多様であり得、よって供給原料への親和性が多様であり得る加工物上の種々の特定の位置に供給可能にするという要望により、化学はより一層複雑になる。これらの反応は一般に加工物に供給原料を供給するチップという観点から表現されているが、熱力学及び連続する事象を適宜変更する必要があるものの、同じ原則が抽出反応にも適用されることに留意すべきである。
【0219】
次に、我々はどのようにしてチップを設計及び構築するかを説明する。当該チップは表面固定チップ及び従来型チップの両方を含み、必要な熱力学的要求を満たす。我々は、また、一つの従来型チップが所定の構築シークエンスの反応の全てを実施することが不可能であるか、望ましくない場合の迂回策を提供する。
【0220】
連続チップ法は、一般的には二つのチップが関与し、よって一つのチップからチップへの移転が所与の加工物上での反応に関与するように表現されるが、所望であれば、チップの親和性が適切に設計されるのであれば連続チップ法が二つより多いチップで実施されないとする理由はない。
1.10 連続チップ法用のチップの設計
【0221】
二種類のチップが連続チップ法において使用される。すなわち、表面固定チップ及び従来型チップである。ここで、我々は表面固定チップとして使用可能なチップのセットであって、広範な種類の供給原料(加工物から抽出された原子を含み、例えば抽出O、抽出NH、及び抽出Sチップによるものを含む)を供給可能なチップのセットを説明する。これらの例示的な表面固定チップを用いて、我々は種々の供給原料の多くに対して親和性を有する従来型チップの設計を行う。ここで、親和性は表面固定チップの親和性と例示的なダイヤモンド加工物の親和性との間の程度である。
【0222】
メカノ合成反応においては相対的な親和性を特定するのは必ずしも生成物及び反応基質のエネルギーレベルではないことに留意すべきである。結合の強固さも要因である。仮想の反応として次のものを考える:チップ−F+加工物→チップ−+F−化合物。反応基質が生成物より低いエネルギーを有している可能性がある。しかしながら、F−加工物の結合がチップ−Fの結合より強固である場合には、メカノ合成反応は依然としてうまくいく。このような場合、チップが加工物から引き下げられるにつれてチップ−Fの結合は徐々に伸びて破断され、チップ−Fの結合の全体的なエネルギーの方が大きかったとしてもF−加工物の結合の強固さを超えることができない。これはただ単に仮想的なものではなく、いくつかの反応において例示的なチップはこのように機能している。したがって、親和性は結合エネルギーにより規定されない。むしろ、我々はメカノ合成反応において二つの構造(例えば、二つのチップ、又はチップと表面、又はチップと加工物、又は加工物と表面)を一緒にして位置的に供給原料を移転させる際に、二つの構造を引き離した後に供給原料が結合している構造が、供給原料に対してより高い親和性を有しているという実用的な規定を用いる。
【0223】
図51は、連続チップ法において使用可能な従来型チップの可能な構造の一例を示す。チップは表面5101(非表示の位置手段に結合されている)上に構築され、サポート原子5102、5103、及び5104、ならびに活性原子5105を含む。この状態において、活性原子5105はラジカルであり、例えば表面固定チップからの供給原料に結合したり、加工物から一つ以上の原子を抽出する準備ができている。不動態化原子5106は、使用されていない原子価を満たすために使用され、チップや表面に結合しているそのような原子の多くを代表するものである。
【0224】
一つの実施形態において、表面5101はケイ素であり、サポート原子5102、5103、及び5104は炭素であり、そして活性原子5105はケイ素である。ダイヤモンドをベースとする構造を構築するために、この実施形態では、開示の表面固定チップの親和性と、複数の異なる供給原料及び反応のための
加工物の親和性との間の親和性を便宜的に有する。一つの実施形態において、不動態化原子5106及び他の不動態化原子は、適切な化学的性質を有する水素又はフッ素のような任意の原子であり得る。
【0225】
我々は、活性原子がケイ素であり、三つのサポート原子である炭素に結合している実施形態を半−Si−ラジカルチップ(基本形態において頂上にケイ素ラジカルを有しており、部分的又は「半分の」アダマンタン構造であることに由来する)と称する。種々の供給原料が結合されているため、チップは、他のもののうち半−Si−ラジカル−CCの形態(活性原子、及びラジカル自身に結合した炭素二量体であって、なんらかの理由により炭素二量体の頂上炭素を活性原子として他の原子をチップ又は加工物から抽出可能となっている)、及び半−Si−ラジカル−CH2の形態(活性原子に結合したCH2)を取り得る。
【0226】
半−Si−ラジカルチップの種々の変形例が実施できる例示的な反応には、次のものが含まれる。C(111)から半−Si−ラジカル−CCへの水素抽出、半−Si−ラジカル−HからC(111)−ラジカルへの水素供給、C(111)−CH3から半−Si−ラジカル−CCへの水素抽出、半−Si−ラジカル−HからC(111)−CH2への水素供給、半−Si−ラジカル−CH2からC(111)−ラジカルへのCH2供給、半−Si−ラジカルからC(111)−CH2へのCH2供給、及び半−Si−ラジカル−CCからC(111)−ラジカルへのC2二量体の供給。
【0227】
半−Si−ラジカルは多くの有用な反応を実施可能であるが、特に異なるクラスの加工物を考慮する場合には全ての反応を実施することはできない。例えば、ケイ素結合は炭素結合より弱い傾向があり、ゲルマニウム結合はさらに弱い傾向がある。よって、Si−又はGe−をベースとした加工物では、半−Si−ラジカルチップの供給原料に対する親和性は、加工物の供給原料に対する親和性より高いことも多い。これは、供給原料を加工物へ供給できないことを意味している。チップの親和性を調整するシステマチックな方法は、供給原料に対する異なる親和性を有するチップの合理的な設計を推進するのに有用である。
図51に示されるように、チップの基本的な結合構造から逸脱することなくチップの親和性を調整する二つの主要な方法がある。
【0228】
第一に、活性原子5105を、異なる親和性を有する原子で置き換えることが可能である。例えば、活性原子の供給原料に対する親和性を向上させるために、炭素をケイ素で置き換えることができ、活性原子の供給原料に対する親和性を低減させるために、親和性を低減させる順序にゲルマニウム、錫、又は鉛を使用することができる(ただし、これは凡そのものであり、全てのチップ−供給原料の組み合わせにおいて正確ということではなく、当業者であれば、親和性を予想するためのより微妙な方法を理解できる)。
【0229】
第二に、サポート原子5102、5103、及び5104の一つ以上を、活性原子5105の親和性に影響を与える異なる原子で置き換えることができる。例えば、サポート原子が各々炭素であるようなほとんどのダイヤモンドベースの反応である上述の実施形態において、全ケイ素チップは、全ケイ素チップの親和性が所望の値より低いという点において優れている。炭素原子は、活性原子と供給原料との間の結合を強化する。我々の計算による研究により、活性原子の供給原料に対する親和性は、一般に、以下のようにサポート原子の影響を受けることが示された。O>N>C>P>Si。これは、サポート原子として酸素を用いると供給原料に対する親和性が最も高くなり、サポート原子としてケイ素を用いると供給原料に対する親和性が最も低くなることを意味しているが、上述の親和性に関する議論と同様に、これも凡そのものである。それにも関わらず、この序列は新規なチップの設計において有用な開始点を与えるものである。明らかに、異なる基本構造を有しつつ所望の供給原料に対する親和性を有するチップもここに提示される例や教示に基づいて設計することが可能である。
【0230】
合理的に新規な従来型チップを設計する能力は、どのようにしてこれらのチップを合成して位置手段に結合させるかという問題をもたらす。我々は表面固定チップにおいて説明した方法と同様にして従来型チップを設計し固定することが可能であるが、これは、複数のハンドルがそれぞれ異なるチップを有していることを要求されることを意味している。一つの位置手段を想定すると、これはチップ交換が必要であることを示唆している。チップ交換は、ここに記載されるように、好ましくは回避される。複数の位置手段を有する装置を用いることは、この問題を解消する一つの方法である。例えば、2〜4つの位置手段を有するシステムが実在し、各位置手段が異なる親和性を有するチップに固定されている場合、チップのセット全体としては一つのチップのものより大きな多様性を有する反応を提供できる。しかしながら、複数の位置手段があると装置の設計を複雑にし、コストが上がる。一つの位置手段しかない場合であってもチップ交換を回避できる方法が好ましいと考えられ得る。
1.11 系内チップ合成
【0231】
従来型チップが同じ表面上(例えば、ハンドルに結合した提示表面)で分解され、再度組み立てられる(適切に改質された形態で)のであれば、必要に応じてチップ交換を回避できる。例えば、上述の半−Si−ラジカルチップはハンドルに結合される最初のチップであったが、異なる親和性を有するチップが必要となるまで構築シークエンスを実施することも可能である。その時点において、従来型チップ(本実施例においては半−Si−ラジカルである)は本質的に加工物となり、システムは一時的に連続モードではなく逆モードで動作している。
【0232】
これによって、表面固定チップは従来型チップに作用して所望の改質を付与することを意味している。表面固定チップは、従来型チップ中の任意の原子を除く(又は全ての原子を除いて完全に新規な構造を作り出す)ために用いることができる。その後表面固定チップは、構築シークエンスの次の部分を完成させるチップを製造するために新しい原子を供給する。このプロセスは、構築シークエンスを完成させるのに必要な回数だけ繰り返すことができるが、好ましくは製造プロセスの合理化の観点から従来型のチップを交換する必要性は最小限に抑えられる。これは、構築シークエンスを作り上げるプロセスの改善を提案するものである。当該構築シークエンスは、少なくとも一部において従来型チップの再構築の必要性を最小限にするように順序立てられている。
【0233】
系内のチップ合成の例として、
図52a〜oは、非不動態化されたケイ素表面から半−Si−ラジカルチップを作り出す構築シークエンスを示している。非不動態化されたケイ素表面は関連の技術分野においてよく知られており、バルクの化学手法又は加熱により作り出すことができる。また、非不動態化されたケイ素原子のパッチをメカノ合成により作り出すことも可能である。例えば、従来の不動態化されたケイ素プローブから出発して、頂点の末端にある小さな平面から、ここに開示される抽出チップを介して3つの水素を除くことができる。
【0234】
図52aにおいて、水素原子5201を代表例とする不動態化された水素で末端封止され、その底面においては非不動態化されている例示的なケイ素の構造が、自律的な構造として示される。現実的には、表示の構造はより大きな構造(これ自身も、ハンドルや位置手段のようなさらにより大きな構造に結合され得る)の一部であるが、明確性のためにごく小さな面積の提示表面が示されている。3つの非不動態化されたケイ素原子が存在しており、ケイ素原子5202がその代表例である。このケイ素構造は、非不動態化されたケイ素原子の小さなパッチを有しており、半−Si−ラジカルチップの構築の開始点として機能する。
【0235】
図52bにおいて、臭素原子が非不動態化されたケイ素原子の一つに供給される。これは炭素ラジカル活性サイトを有するアダマンタンボディを含むチップにより達成され得、当該活性サイトに臭素原子が結合されていた。我々はこのチップをアダマンタンラジカル−Brと表記する。
【0236】
図52cにおいて、もう一つの臭素原子が、アダマンタンラジカル−Brを用いて別の非不動態化されたケイ素原子に付加される。
【0237】
図52dにおいて、3つ目であり且つ最終の臭素が、アダマンタンラジカル−Brを用いて最後の非不動態化ケイ素原子に付加される。
【0238】
このシークエンスの最初の3つの工程において付加された3つの臭素原子は最終的には除かれることに留意すべきである。これは、なぜそもそも臭素原子を付加したのかという疑問を生じさせる。その理由は、シークエンスの特定の時点において非不動態化されたケイ素原子の原子価を満足させることが、所望でない再配置を防ぐ観点から好ましいためである。なぜシークエンスが水素化されたケイ素表面から出発しないのかという疑問も生じる。なぜならば、そのような表面には使用されていない原子価が無いため、位置的に反応性の問題を生じる可能性がないからである。この問題は、化学的利便性の問題の一つである。水素は、そして臭素以外の不動態化された原子が一般的に利用可能である。しかしながら、このシークエンスのために選択された特定のチップを使用すると、調査した他の原子と比較して臭素がより信頼性をもって所望の反応を促進できることが見出された。
【0239】
図52eにおける構造は、臭素原子の一つが除かれたことを示している。これはゲルマニウムラジカルチップを用いることで達成される。
【0240】
図52fにおいて、前の工程において臭素を除いて作成されたラジカルケイ素にCH2基が付加されている。このCH2供給反応は、ここに開示されるMe供給O又はその変形例のようなチップを用いることで達成される。
【0241】
図52gにおいて、前の工程において付加されたCH2ラジカルに水素原子が付加されている。これはH供給(H供給NH、H供給O、又はH供給Sのいずれであるかは反応に関係ない)を用いることで達成される。
【0242】
図52hにおいて、残る臭素原子の一つが、ゲルマニウムラジカルを用いて除去される。
【0243】
図52iにおいて、前の工程において臭素を抽出することで作成したケイ素ラジカルにメチル基が供給されている。メチル供給反応は、Me供給(ここにおいても、特定の変形例は関係がない)を用いることで達成される。
【0244】
図52jにおいて、前の工程においてMe供給ツールにより供給されたメチル基に対して、水素原子がH供給チップを用いて供給される。
【0245】
図52kにおいて、唯一残っている臭素がゲルマニウムラジカルを用いて除去されている。
【0246】
図52lにおいて、前の工程において臭素の抽出により生成されたケイ素ラジカルにメチル基が供給されている。メチル供給反応は、Me供給チップを用いることで達成される。以前のメチル基とは異なり、このメチル基の空いた原子価は水素供給反応により満たされていないことに留意すべきである。
【0247】
図52mにおいて、以前作成されたCH3基のうちの一つから、抽出チップを介して水素が抽出されており、二つのCH2基と一つのCH3基を有する表面を得ている。
【0248】
図52nにおいて、残っている以前作成されたCH3基から、抽出チップを介して水素が抽出されており、構造の表面に3つのCH2基を得ている。
【0249】
図52oにおいて、ケイ素原子が3つのCH2基の全てに結合している。ケイ素原子は、異なる搭載物を搭載した既出のチップから供給される。具体的には、抽出チップはそのラジカル活性サイトに結合したケイ素原子を有していてもよく、そのケイ素原子を構造に供給する。抽出チップは従来型のチップ上の任意の位置であって構築シークエンスに致命的な影響を及ぼさない位置からSi原子を抽出することでケイ素の供給原料が充填され得る。得られる構造は半−Si−ラジカルチップであり、これは
図52oに示される構造を実施する際に明確になるが、図の上部に示される末端封止の方法が異なっており、これは本質的には
図51からの構造である。
【0250】
半−Si−ラジカルの構築シークエンスは、アダマンタンラジカル−Brチップを必要とする。これは、臭素供給原料を有するアダマンタンラジカルである。このチップの合成は
図53に示される。合成は、以前
図34及び対応の合成において説明した化学品SHA−2から出発する。SHA−2は、I2及び[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼンのCHCl3溶液を用いて芳香環の4位においてヨウ素化して、AdBr−1を得ることができる。AdBr−1とトリイソプロピルシリルアセチレン(TIPSアセチレン)を薗頭カップリング条件で処理することで保護されたアルキンAdBr−2が得られる。TIPS基の脱保護はTBAFのTHF溶液で進行し、末端アセチレンAdBr−3が得られる。末端アセチレンを、n−ブチルリチウムを用いて低温で脱プロトン化し、パラホルムアルデヒトを添加してトリプロパルギルアルコールAdBr−4が得られる。これはアダマンタンラジカル−Brとも称される。このアダマンタンラジカル−Brの変形例は新規な足の構造であるフェニルプロパルギルアルコールを示しており、アダマンタンベースのボディとケイ素表面の結合に有用であることが見出されたが、ここに開示される他の任意のチップとも組み合わせることが可能である。
【0251】
アダマンタンラジカル−Brを全く用いずに半−Si−ラジカル構築シークエンスの改質された変形例を実施することが可能であることに留意すべきである。構築シークエンスにおいてアダマンタンラジカル−Brが果たす唯一の目的は、非不動態化されたケイ素表面を臭素化することである。ケイ素表面が、より一般的な水素ではなく、バルクで臭素により不動態化されるのであれば、構築シークエンスは
図52dの構造と等価なものから出発することができ、全ての臭素供給反応を排除することができる。ケイ素のバルク臭素化(及び一般にハロゲン化)は文献において知られており、例えば(He, Patitsas ら, "Covalent bonding of thiophenes to Si(111) by a halogenation/thienylation route," Chemical Physics Letters. 1998. 286:508-514; Eves 及びLopinski, "Formation and reactivity of high quality halogen terminated Si (111) surfaces," Surface Science. 2005. 579:89-96)を参照できる。
【0252】
ここで与えられる実施例は従来型チップを表面固定チップを用いて構築することを説明するものであるが、これらのみがそのようなプロセスである必要はない。例えば、従来型チップは表面固定チップを構築することができるが、これは他の表面固定チップからの供給原料を用いるものであってもよいし、提示表面から直接提供される供給原料を用いるものであってもよい。これは、例えば一つ以上の表面固定チップがごく少量しか必要でなく、バルク化学よりメカノ合成により構築する方が効率的であるような場合に有用である。
1.12 追加のチップの設計ガイドライン及び実施例
ここに我々は多くの異なるチップの説明、及びどのようにしてモジュールチップの設計が新規なチップの作成を促進し得るかの説明を提供した。チップの構造及び設計の基準についての他のいくつかのコメントは、新規なチップ及び反応の設計をさらに促進し得る。
【0253】
第一に、硬直なチップの幾何学は、供給原料原子が移転される際に頂点の原子と他のチップの原子との間の結合が過度に変形したり破断しないようにするように働く。しかしながら、反応障壁が小さいか存在しない場合、このような要求は緩和され得る。様々な理由により(例えば、合成の簡便性、チップの大きさ、チップのアスペクト比)、硬直なチップが所望でない場合もあり、要求を緩和することは可能な設計の許容度を広げる。例えば、所定の供給原料−加工物反応が物理的力を必要としない場合(すなわち、反応は供給原料を加工物の所望のサイトの近傍に持ってくるだけで進行する)、反応障壁を乗り越えるために3つ以上の足を有する設計が不要であり得る。一つ又は二つの足で十分に機能し得る。
【0254】
チップの形状は、好ましくはチップが立体障害を受けずに加工物に近づいて所望の反応を進行させることを可能とすることから、高いアスペクト比が優位であるという知見に至る。さらに、チップの幾何学を利用して供給原料を特定の角度で保持することができる。例えば、装置の制限により、例えばSPMプローブが実施表面に対して垂直に維持されなくてはならないという要求が生じ得る。しかしながら、供給原料を加工物に対して垂直に配置することが望ましい軌道とならない反応があり得る。そのような場合、供給原料を他のチップ又はハンドルに対して例えば45度(又は他の望ましい角度)で保持するようにチップを設計することが可能である。
【0255】
硬直なチップの幾何学に関して、供給原料原子が四面体の一つの足に結合され、反応の際に力が加えられた時に他の3つの結合が頂点原子を安定化させるように機能するように構成された、頂点原子に対する四面体構造は有用である。しかしながら、他の幾何学も採用可能である。例えば、VSEPR AX4(四面体、又はAX4の他の変形例)に加えて、AX5及び他の高次のハイブリダイゼーションも、硬直なチップ構造を作り出すのに必要な少なくとも3つの他の結合を形成する能力を有しつつ、供給原料原子を結合するのに必要な自由電子を供給可能である。しかしながら、主な関心は、単に所与のチップが信頼性をもって意図した反応を実施できるか否かであり、動作チップはもちろん、これらの提案から逸脱し得る。
【0256】
新規なチップ及び反応の設計の促進を例示的に示すために、そして追加的なチップ及び反応のライブラリを提供するために、以下に我々は種々の供給構造(例えば、チップ)、受容構造(例えば加工物であるが、実施例においては、受容構造は計算機分析を促進するためにチップサイズになっている)、及びこれらの2つの間で促進され得る反応の表を提供する。これらの構造及び反応は、複数のアルゴリズム及び取り組み法を用いて調べられ、これには、デフォルトでDFT法のグリッドサイズと収束の判断基準を採用するGaussian09ソフトウエアパッケージを使用するB3LYP/6−311G(dp)を含む。提供されるデータには正味のエネルギー変化及び反応障壁が含まれ、移転される供給原料にはAl、B、Be、Br、C、Cl、F、Ge、H、Ir、Li、Mg、N、Na、O、P、S、及びSiが含まれる。多くの実施例が提供されるが、これらは実に単なる実施例である。ここに提示される教示を考慮すれば、採用可能な構造や反応はこれらのみではないことは明白である。
【0257】
表1の反応において、チップは必ず同軸で加工物に接近した。「同軸」とは開裂される結合(例えば、チップ−供給原料結合)と形成される結合(例えば、供給原料−加工物結合)が同一線上にあることを意味する。同軸の軌道は、我々が研究したほとんどの反応を、信頼性をもって促進することが確認されている。この事実は、提供される広範なデータと共に、多数の関連した反応の容易な設計を可能にする。また、(Tarasov, Akberova ら, "Optimal Tooltip Trajectories in a Hydrogen Abstraction Tool Recharge Reaction Sequence for Positionally Controlled Diamond Mechanosynthesis," J. Comput. Theor. Nanosci., 2, 2010)は他の軌道を決定するプロセスが使用可能であることを開示しており、我々はこの文献を参照により組み込む。
【0258】
以下の表において、「チップ」は供給構造であり、「FS」(供給原料)は移転される原子であり、「加工物」は供給原料が移転される先の構造であり、「デルタ(e∨)」は反応によるエネルギーの変化を示し、「障壁(e∨)」は反応障壁を示す。
【0259】
「300K」は、300ケルビン(室温)において反応が失敗する可能性であり、「77K」は、77ケルビン(液体窒素温度)における可能性である。値が非常に小さいため、指数表記が用いられている。これらの計算は、コードリスト1に開示される式を用いて実施される。300K及び77Kは、代表的な温度でしかない。所定の目的のための反応にとって十分に信頼性のある任意の温度が使用可能であり、そして別の一般的な温度である4Kは、液体ヘリウムにより容易に調達可能であり、より信頼性のある数値を提示する。さらに、リストに提示されるほとんどの反応は99.99%を超える信頼性を室温においてさえ有している。
【0260】
構造に関しては、C9H14[Al、B、N、P]は、アダマンタン骨格の側壁位置において供給原料原子が結合している頂点原子を有している。C9H15[C、Si、Ge]は、アダマンタン骨格の橋頭位置において供給原料原子が結合している頂点原子を有している。加工物の表記法は、頂点原子が最初に記載されている点を除いて同じである。例えば、Beの供給原料原子を用いるC914Alチップが、CC9H15に供給原料原子を供給する反応は、次のように表される:アダマンタン側壁−Al−Be+C−アダマンタン橋頭→アダマンタン側壁−Al+Be−C−アダマンタン橋頭
表1:原子移転とエネルギー計算及び種々の温度における信頼性
【0262】
エネルギーの変化(e∨)が正になる可能性があることに留意すべきである。これは、エネルギーと力が等価ではないという事実に起因するものである。メカノ合成チップはある距離に渡って力を付与し得、これにより、たとえ反応生成物が局所的エネルギーの最小値に至るものであったとしても、全体として正となるエネルギー変化に至る。これは、本明細書において、結合の強固さ及び親和性に関連付けてより詳細に説明される。
【0263】
表1に提示されるように、Al、B、C、Ge、N、P、及びSiの活性原子を活用するチップを用いてAl、B、Be、Br、C、Cl、F、Ge、H、Ir、Li、Mg、N、Na、O、P、S、及びSiを含む原子の高い信頼性による移転が可能であることが示されている。これらは例示に過ぎず、ここに開示及び教示される内容により広範なチップ及び反応を設計することができることは自明である。
1.13 チップ中の結合のひずみ、反応及び加工物の設計
【0264】
ひずみ種類には、Van der Waalsひずみ、引っ張りひずみ、ねじれひずみ、及び角ひずみ(又は「曲がりひずみ」であって、環ひずみを含む)のように多数の種類がある。全体として、様々な種類のひずみは「立体エネルギー」と称されることがよくあり、これらの立体エネルギー又はひずみは、分子の安定性及び化学反応エネルギー論に影響することが知られている。
【0265】
例えば、7.5%kcal/mol/結合ひずみを有するシクロブタンは、環ひずみが緩和されているより大きな環状アルカンより反応性が高い。フラーレンも同様に結合ひずみの影響を受けている。個々のフラーレン単位における最エネルギーの低い構造は平面であるため、一般に曲率が高いほど反応性の高い分子となるが、これは少なくとも一部は角ひずみによるものである。個々の結合エネルギーとしては、約2%未満のひずみであれば反応性への影響は小さい傾向にある。3〜5%のひずみは少なくともいくらか反応性を向上させる傾向があり、5〜10%のひずみであれば反応性の目立った向上が一般に明白になる。もちろん、このような傾向は際限なく続くことはないが、ひずみが高すぎる場合には、結合は自発的に開裂し得、分子の転移反応に至る。
【0266】
分子は全体として非常に小さなひずみを有することも可能であるが、ひずみを有する一つ以上の結合によって反応性が高くなり得るため、ひずみの分配も重要であることに留意すべきである。逆に、分子はわずかなひずみしかない(例えば5%未満)多数の結合を有し得るが、複数の結合に渡って蓄積されると、全体のひずみエネルギーは相当な大きさになる。そのような場合、一つの結合当たりのあまり大きくはないひずみであっても、分子の立体構造及び種々の他の物性に対して相当の影響を及ぼし得る。これらの知見から、ひずみを利用して結合力を変更させ、よって反応性を変更させることは、チップ及び加工物の設計において有用な技術となり得るという結論に至る。
【0267】
一つの状況としては、供給原料が単結合によりチップへもたらされるものである。チップ内のひずみを用いて結合角を変更させることができ、これにより頂点チップ原子から供給原料へのエネルギーが変更される。例えば、橋頭炭素が供給原料に結合しているアダマンタン構造を想定する。橋頭炭素は通常3つの他の炭素に結合され、アダマンタン構造を通じて炭素−炭素結合の長さは均一であるため、橋頭炭素への各結合が約109.5度であるような完全な四面体形状を橋頭炭素が取ることを可能にする。しかしながら、橋頭炭素が結合している3つの炭素のそれぞれをGe原子が置き換えている場合、Ge−C−供給原料角は約112.9度になり、角ひずみをもたらす。
【0268】
角ひずみに加えて、他の種類のひずみを用いることもできる。例えば、Van der Waalsひずみは、供給原料の隣のH原子を、より大きな直径を有する同じ原子価の原子と置き換えることにより作り出すことができる。この場合、より大きな直径を有する原子は供給原料又は頂点チップ原子に結合されている必要は無い。供給原料のVan der Waals半径に影響を及ぼして立体的なひずみを生じさせればよい。
【0269】
このようにして設計されたチップは、同一のチップの二つ以上の部位(一つの部位は供給原料サイトであり、もう一つの部位は供給原料の位置に対して少なくとも部分的に影響を及ぼすように設計されたチップの部位である)が干渉するようなVan der Waalsひずみを生じさせることができる一方で、供給原料に対して機械的力を付与する第二のチップを用いることもできる。例えば、供給原料が結合した第一のチップを想定する。第二のチップを用いて供給原料に対して垂直に(あるいは、任意の有用な角度によって)結合点に力を付与することで第一のチップと供給原料との間の結合を弱めることができる。これは、そのようなひずみを一つのチップ内に構築することとコンセプトとしては似ているが、タイミング、力の強さ、及び力を付与する角度が変更可能であるため、より多彩である。
【0270】
ひずみが用いられ得るもう一つの状況は、供給原料が一つより多くの結合によりチップに保持されている場合である。供給原料へのチップの結合力を低減させるために、結合が所望のひずみに達するまで結合点を引き離すことができる。これは、一つのアダマンタンより僅かに大きな構造においてより簡便に示され、チップのバックボーンの硬直さを、過度に変形させることなくひずみを作り出すために用いられる。例えば、酸素により結合された二つのメチル基(3HC−O−CH3)の間の生来の距離は約2.36Aであり、角度は約110.7度である。しかしながら、格子空間により、この形状を(111)ダイヤモンドにおいて得ることはできない。ダイヤモンドの(111)面上の隣り合う二つの炭素の各々から水素を除き、酸素原子をそれらの炭素に結合させて、3つの連結されたアダマンタンから構成される非常に小さな構造とした場合(より大きな構造はチップのバックボーンの変形を低減させ得る)、酸素は二つの炭素と約87.8度の角度で結合し、これらの炭素間の距離は約2.02Aとなる。明らかに、これは最小エネルギー形状の実質的なゆがみであり、酸素が供給原料である場合、エネルギーの最小値に近い形状で結合されている場合と比較して、チップ構造から除くために必要なエネルギーがより少なくなる。置き換えを用いてダイヤモンド格子空間を変更し、作り出されるひずみの量を増減させることができる。一つより多いチップにより保持された一つの供給原料部位において類似の技術を用いることができる。チップ空間を用いてチップ−供給原料の結合力を調節することができ、所望により動作中に変更させることができる。
【0271】
一つの単結合では、回転が自由であるため、ねじれは一般に重要でない。しかしながら、供給原料部位が多重結合されていたり、あるいは、例えば二重結合(又は任意の自由回転不能な結合)を一つ以上用いて供給原料を一つ以上のチップに結合させているか、又はチップの一つ以上の部位に結合させている場合には、ねじれもひずみを作り出すために使用でき、他の任意の既知のひずみの導入によっても改質が可能である。
【0272】
同じ技術の多くを、加工物に対して用いることが可能である。いくつかの場合において、チップの結合力を変更させることに代えて、あるいはこれに加えて、加工物の結合力を変更させることが便利である。そして、これによって反応性が好ましく変更される場合には、ひずみを有する中間体構造を作り出すように構築シークエンスの順序を選択することが可能である。
【0273】
ひずみを作り出し、ひずみを開放させることは、同じ効果の二つの側面であることに留意すべきである。ひずみを有する構造を既定の構造と捉えた場合、ひずみの開放によって、例えば、結合を弱めるのではなく強めることができる。さらに、ひずみの程度は静的である必要は無い。ひずみの程度は、反応の最中に変化させることが可能である。例えば、供給原料をピックアップする際にチップの親和性を向上させて、その後供給原料をリリースする際にチップの親和性を低下させることである。
【0274】
図54は、調整可能なひずみを作り出す種々の一つの方法、すなわち供給原料への親和性を作り出す方法を表す。
図54aにおいて、第一のチップ(5401)は、結合(5403)を介して供給原料(5405)に結合している。第二のチップ(5402)も、結合(5404)を介して供給原料(5405)に結合している。我々は、これが最小エネルギーを与える形状であると理解する。二つのチップの種々の動きにより結合の角度及び長さが変更され、ひずみを生じさせ、よって供給原料のチップに対する親和性を減少させる。例えば、
図54bにおいては、二つのチップが引き離され、伸長により供給原料への結合の角度を変化させている。
図54cにおいては、二つのチップがより近寄せられ、位置的な圧縮により供給原料への結合の角度を変化させている。そして、
図54dにおいては、一つのチップが他に対して垂直に移動され、結合(5403)の伸長と結合(5404)の圧縮に至り、加えて角度が変化している。完全なシステムにおいては、チップは位置手段(図示せず)に結合されている。各チップが自身の位置手段を有し得る。両方のチップが一つの位置手段に属していて(実際には同じチップの半分とも考えられ得る)、様々な方法により相対的な動きを生じさせることが可能であることもあり得る。例えば、チップが固定されている表面は、拡張したり縮められたりすることが可能なピエゾ素子であってもよい。あるいは、温度、電荷、又は他のパラメータを変化させてチップ又はこれらが固定されている表面の構造を変化させる。
1.14 加工物の特定及び構築シークエンス
【0275】
本明細書において多くの構造及び反応を、追加的な構造及び反応を作り出すことを可能にする教示と共に説明してきた。しかしながら、この情報を加工物の構築に適用するためには、加工物を原子的に正確に定義し、加工物を作り出す構築シークエンスを定義することが有用である。
【0276】
メカノ合成用の加工物は、加工物中の各原子を特定しその原子的な座標を直接的又は間接的に(例えば、所望の構造を生成するアルゴリズムを介して)特定することで定義され得る。多くの計算化学プログラムにより、原子座標に基づくモデル又はそのような原子座標を生成するアルゴリズムを作り出すことが可能になる。
【0277】
原子座標が一旦特定されれば、加工物へ付加されるか、又は加工物から取り除かれる各原子の順序を特定する構築シークエンスを作り出すことが可能である。原子を付加したり取り除かない反応も可能であり、例えば加工物の結合構造を変化させる反応がある。あるいは、必要であれば、電荷を変化させたりチップを変更したりすることが可能である。反応は、所望の加工物を与えるように順序立てられなければならない一方で、例えば、異常な反応を起こしやすい中間状態又は不必要に際配置される不安定な構造を回避すべきである。これらのトピックスについては、以下においてより詳細に説明される。
1.15 プロセスフローチャート及び説明
【0278】
加工物を作り出す一般的なプロセスの理解に役立てるため、
図55〜
図58は例示的なフローチャートを用いて本発明の実施形態を表すものである。これらのプロセスについて多くの変形例が可能であり、関与する工程を変化させること無く、判断のロジック又はループの変更をいくつかのプロセスにおいて一回より多く行い得ることに留意すべきである。例えば、製造性のために加工物を最適化して設計することは(55−2)、加工物の設計が続く工程又はプロセスの結果に基づいて改定される反復のプロセスが必要とされる場合があり、例えば
図56に表される反応設計プロセスがこれにあたる。
【0279】
プロセスは
図55から開始することができ、工程(55−1)「加工物の機能的定義を作成する」において、どのようにして加工物の定義が作り出されるかの概要が提示されている。この工程は、生成物が工業的見地により設計されるより先に生成物の要求が定義されなくてはならないという点において、従来において製造されてきた任意の生成物と類似している。
【0280】
工程(55−2)「製造性のために加工物を設計」も、従来の製造に類似点を有している。製造プロセスの制限を考慮して生成物の設計をしなければならない。メカノ合成については、これは、デバイスは好ましくは元素及び結合パターンの物性が既知であるものにより設計されており、そのチップ及び構築シークエンスが設計され又は設計され得、装置の性能と適合可能であるということを意味している。これは、ここに開示された教示を受けた当業者にとって自明である他の制限の中から関連するチップについて利用可能な幾何学を用いて行われる。
【0281】
一旦デバイスが設計されると、工程(55−3)で「加工物の原子座標を特定する」を行う。すなわち、構造内の各原子の種類と位置を定義する。この工程は、結合の構造の定義を含み得る。なお、原子座標を通じて結合の構造を完全に特定することができるため、この工程は技術的には無駄となり得るものの情報性を有している。これは、HyperChem Gaussian、GROMACS、又はNAMDのように適切な性能を有する任意の分子モデリング又は計算化学ソフトウエアにより行うことが可能である。
【0282】
工程(55−4)「反応の信頼性要求を決定する」は、欠陥の可能性の影響を分析し、結果として反応の信頼性要求を確立することを伴う。メカノ合成のゴールは原子的に正確な生成物の製造であるが、用いられる化学反応、チップの設計、反応経路、装置の性能及び温度を含む因子に依存して、意図しない反応がしばしば起こり得る。各反応において、起こりうる最も可能性のある異常な副反応及び完成された加工物への影響を分析することが可能である。例えば、供給原料原子の移転が失敗することの影響を決定することが可能である。ここで想定される失敗では、供給原料原子は、意図する位置に隣接している加工物原子に結合しているか、又は意図しない再配置が加工物において起こっている。加工物は各欠陥の可能性によってシミュレーションされ得、又はより一般的な発見的方法又は機能的試験を用いて加工物に起こり得るエラーにより生じ得る影響が決定され得る。
【0283】
欠陥が、どのようにして一の環境においては影響力が無いものの、他の環境においてはそうではないことがあるかを示す一例としては、例えば構造ビームのような簡単な部位を考える。ミスの数が少ない場合には完成された部位の物性に実質的な影響を及ぼさず、生成物全体に影響しない。特に、当該部位がいくらかの欠陥を許容するように高度に設計されている場合にはそうである。そのような状況においては、いくらかの欠陥に耐えることができ、よって比較的低い反応信頼性が要求されていると決定され得る。他方、構築されている加工物が、例えば単分子トランジスタであって、重要な原子が誤った位置に置かれた場合には正しく機能しないか、全く機能しないような場合には、非常に低い数(0を含む)の欠陥が要求される。
【0284】
欠陥の影響の分析の代替の一つは、各反応が十分に信頼性を有していて、統計的に最終加工物がエラーを有していることがありそうもないことである。これは、ここに提示されている反応の信頼性の掲載においても見られるように、比較的実現可能である。エラーを修正する能力は、反応の信頼性の要求に影響を与え得る。エラーを修正できるのであれば、要求される信頼性を低減させ、単にエラーが起こった際に修正するように決定することができる。
【0285】
図56は、構築シークエンスがどのようにして設計されるかを表すものであるが、工程(56−1)「反応の順序、反応条件、及び軌道を決定する」から開始される。加工物の原子座標により特定されている各原子は、一般に、その原子を供給するために加工物上で特定の反応が行われることを要求する(ただし、供給原料として例えば二量体やより大きな分子を用いることができるため、必須ではない)。抽出反応も必要とされる場合があり、当該反応は原子を追加したり差し引いたりすることなく加工物の結合構造を変更させ得るものである。
【0286】
特定の加工物の構築の余地を与える多くの異なる構築シークエンスがあり得る。立体ひずみは、原子が追加される順序の決定要因の一つであるが、これは、三次元の加工物が後の反応において必要なツールによるアクセスの余地を与えるような順序で原子を追加することを必要とするためである。中間体構造の安定性も考慮すべきである。例えば、特定の原子は、ラジカルとして置かれた場合再配置され得、隣接する原子と望ましくない結合を生成することがある。原子の追加の理論的順序に加えて、他の技術を用いて望ましくない再配置を防ぐことができる。例えば、封止原子をラジカルサイトに付与して一時的に空の原子価を満たしたり、又は、温度を下げることができる。
【0287】
仮の構築順序が設定されると、構築シークエンスをシミュレーションして問題なく動作するかを決定することができる(56−2)。同じシミュレーションによって、いずれのチップを用いるべきか、どのような温度であるべきか、どのような軌道をチップがたどるべきか等を含む反応パラメータを試験することができる。前述のように低い温度ほど正確になり、同軸の軌道が好結果の反応を可能にすることが多い。
【0288】
構築シークエンスにおいて再配置反応及び抽出反応が必要とされ得ることから、加工物は、完成した加工物中の原子の数より多い数の反応を必要とする場合があることに留意すべきである。そして、たとえそうでなかったとしても、多くの原子を有する加工物は一般に多くの反応を必要とする。手動で反応を実施する場合、これは実質的な労働を必要とするものとなる。したがって、反応工程を自動化することが望ましい。CADプログラムを用いてAFM軌道が明示され得る(Chen, "CAD-guided automated nanoassembly using atomic force microscopy-based nonrobotics," IEEE Transactions on Automation Science and Engineering, 3, 2006; Johannes, "Automated CAD/CAM-based nanolithography using a custom atomic force microscope," IEEE Transactions on Automation Science and Engineering, 3, 2006)。プログラム可能な原子間力顕微鏡が市販されており、科学的装置を制御するプログラム言語又は環境(例えば、LabVIEW)がよく知られている(Berger ら, "A versatile LabVIEW and field-programmable gate array-based scanning probe microscope for in operando electronic device characterization," review of Scientific Instruments 85, 123702 (2014))。
【0289】
シミュレーションの結果に基づいて、規定された反応が正しいか否かの判断に至る(56−3)。そうでない場合、シークエンスが改定される。そうである場合、工程は(56−4)に進み、例えば(56−2)のシミュレーション中に見られた再配置や正しくない反応に基づき、計算された反応が信頼性についての懸念事項を生じさせ得るか否かについての判断がなされる。
【0290】
(56−5)において、反応の信頼性が計算され得る(例えば、エネルギー障壁の計算又はモンテカルロ・シミュレーション)。(56−6)は、提案された反応の信頼性が製造品質の要求を満たすかの決定であり、(56−6)に対する結果が「いいえ」である場合、工程は(56−7)へ進み、構築シークエンスによる限定が満たされなくなったため緩和させることが可能か否かを調査する。(56−7)からの結果が「はい」である場合、新たな繰り返しが(55−4)から開始されて、改定された反応に要求される信頼性が決定される。(56−7)からの結果が「いいえ」である場合、代替の反応、反応順序、反応軌道、又は反応条件がシュミレートされ得(56−1)、反応に要求される信頼性を満たす改定構築シークエンスを探す。(56−6)に対する結果が「はい」である場合、工程は
図57の工程(57−1)を続ける。
【0291】
図57は、構築シークエンスによってメカノ合成反応を実施するための工程を表す。(57−1)「メカノ合成反応を実施する」から開始して、構築シークエンスにおいて決定された反応がSPM/AFM−様の装置又は他の適切な装置を用いて実施される。この工程には、手動であるいはコンピュータ制御された手法にて位置制御チップを用いて構築シークエンス中の各メカノ合成反応を実施することが含まれる。これは、供給原料原子を提示表面(又は供給原料の原料となり得る気体又は液体)からピックアップし、これを加工物に結合させたり、又は加工物から原子を除去したり、又は原子を追加したり除去することなく加工物の結合構造を変化させることを意味する。この工程はまた、他の反応を包含し、これには必要となり得るチップの再生又は反応前の供給原料の操作などの、加工物が関与しない反応が含まれる。
【0292】
工程(57−2)は判定ポイントである。答えが「いいえ」である場合、試験は必要とされず(例えば、用いられる反応が十分に信頼性を有していて、試験が不要である場合)、プロセスは(57−3)へ進む。(57−3)以降に取られる行動は、構築シークエンス中の全ての反応が完了しているか否かによる。完了していない場合、答えが「はい」になるまで反応が繰り返され、その時点において加工物が完成する。(57−2)に戻って、答えが「はい」である場合、試験が必要であり、プロセスは
図58へ続き、工程(58−1)から開始される。
【0293】
図58において、試験は、例えば、AFM又はSPM−様の技術を用いて加工物の表面を走査し、予期した構造が存在しているかを確認することで実施され得る。(58−2)においてエラーが見つからなかった場合、プロセスは(57−3)へ続く。(58−2)においてエラーが有る場合、(58−3)において当該エラーが無視可能であるか否か(例えば、加工物が機能することを妨げるようなエラーでは無いこと)についての判断をしなければならない。エラーが無視可能である場合、プロセスはまた(57−3)へ続くが、構築シークエンスは主要な原子がエラーの結果として移動している場合には調整が必要となり得る(図示せず)。エラーが無視可能でない場合、当該エラーを修正可能であるか否かについての判断をしなければならない(58−4)。これは、多くはエラーを修正するためのツールやプロセスが存在するか否かの問題である。
【0294】
エラーは様々な方法により修正可能であり、例えば可能であれば直接最後の反応を逆戻りさせたり、又は抽出チップを用いて加工物の局所領域を完全に取り除いたりして、加工物を削って端が正しく安定な形状に置かれる時点にまで戻すことができる。その後、残りのシークエンスを進める前に、除かれた領域において再充填されるように構築シークエンスが変更される。
【0295】
エラーが修正可能である場合、これは(58−6)で実施され、プロセスは(57−3)へ続く。エラーが修正可能でない場合であって、その前に重要なエラーであると判断されている場合、構築シークエンスはやり直さなければならない(58−5)。
【0296】
図58に示されるプロセスの実施形態は、エラーを検出し、修正する能力を仮定している(58−6)。必ずしもそうではなく、そしてこのフローチャートはメカノ合成を実施する一つの可能なプロセスを示しているに過ぎない。例えば、エラーを修正する能力が無いか、又は少なくとも全てのエラーを修正する能力が無い状況で試験の実施を所望することは可能である。その場合、(58−5)に示されるように、加工物を廃棄してプロセスを新規に開始しなくてはならないことを知るのみとなる。エラーチェックを完全に見送ることも可能であり、これは特に信頼性の高い反応においては合理的な解決策である。他の懸案事項中、生成物に対する要求及びプロセスの性能は、いずれの工程を実際に使用するか及びどのような順序とするかを決定する。
1.16 例示的な構築シークエンス
【0297】
構築シークエンスを設計するプロセスについての説明がなされたため、すでに説明した半−Si−ラジカル構築シークエンスに加えて、いくつかの例示的な構築シークエンスを提示する。以下のシークエンスはダイヤモンド(又は、改質を伴ったダイヤモンドイド)を作り出すために用いることができる。反応は、理論的にシークエンスのセットに分類され、ダイヤモンド構造中の列の開始、伸長、及び停止を可能にする。これらの具体的なシークエンスにおいて、仮定される開始表面はダイヤモンドの110面であるが、これは単なる例示である。他の面をその上に構築することができ、そして他の表面を用いることができる(例えば、最小の格子空間ミスマッチである場合にはダイヤモンドはSi上に構築することも出来る)。
【0298】
これらの構築シークエンスは、B3LYP/6-311G**基底関数系を用いる代表的な密度汎関数法を使用して計算さる。これは典型的には正確さと計算コストとの間で良好なトレードオフを与えるものである。結合クラスター法(Lee, Scuseria ら, "Achieving Chemical Accuracy with Coupled-Cluster Theory," Quantum Mechanical Electronic Structure Calculations with Chemical Accuracy, Kluwer Academic Publisher, 1995)のような、より過酷な計算技術を用いることにより、反応の精度が上がる。このシークエンスには、より高い温度であっても反応は信頼性のあるものとなると考えられるものの、4ケルビン(液体ヘリウムにより容易に調整可能)が仮定された。
1.16.1 反応
【0299】
表2中の反応は3つうち1つの機能に分類されている。列開始、列延伸、又は列停止である。例えば、構築表面上にダイヤモンドの新規な列を開始するためには、列開始反応#1〜#11を用いればよい。次にその列を延伸するためには、列延伸反応#12〜#17を用いればよい(所望の長さに達するまで必要な回数)。列を停止させるためには、停止反応#18〜#22を用いればよい。
【0300】
各反応のセットは、必要な回数だけ繰り返すことができ、これは適宜異なる適切な位置において実施することができ、よって多様化した幾何学を有する加工物を構築することができる。これは、3Dプリンターがどのようにして材料の線又は小塊を置いて、集合体として所望の形状を構築するかということとコンセプトとしては類似している。この類似点は、メカノ合成を用いる「3Dプリンター」は加工物上の異なるサイトにおける多様化した化学的性質を考慮しなければならないという理由から、ここにまでしか及ばない。例えば、ダイヤモンドを構築するための異なるサブシークエンスが示すように、列に最初の炭素を配置することは中央の炭素又は遠い端の炭素を配置することとは同じではない。
これらの構築シークエンスにおいて用いられるチップは本明細書中の他の箇所において詳細に説明されている。これらは、抽出チップ、H供給チップ、ゲルマニウムラジカルチップ(Geラジカル)、及びMe供給チップである。さらに、説明により事象のシークエンスは自明になるが、以下に説明される反応の生成物及び反応基質を表す分子モデルは米国特許第20160167970号中に見出すことができる。同様の反応及び構築シークエンスは、ピラミッド状の例示的な加工物と共に国際特許出願WO2014/133529に見出すことができる。
【0301】
【表2】
例示的な構築シークエンス反応
1.17 メカノ合成の生成物を変化させる
【0302】
ここではピラミッド状の加工物について言及されているが、与えられた反応シークエンスは任意の他の形状を作り出すことが可能であることに留意すべきである。一般に、加工物は実質的に加工物が化学的に取る余地を有する任意の形状を取り得るが、いくつかの形状及び置き換えは追加の反応の設計が必要となり得る。ピラミッド、直方体、円柱、球、楕円体、及び他の単純な幾何学的形状などは明らかに作り出すことが可能であるが、これらはメカノ合成で構築可能な最も興味深いか有用な例とはならないであろう。これは種々の理由に起因するものであり、これらの単純さがその機能を制限していること(ただし、異なる部位を組み合わせてこの問題に対処可能である)が含まれ、そしてこれらの形状の少なくともいくつかは、たとえ原子的に正確な態様でなくとも、他の技術により近似可能であるからである。例えば、化学蒸着を用いていくつかの単純な近似の形状を成長させることが可能である。
【0303】
より興味深いのは、おそらく、加工物が単純な形状ではなく、又はその結晶構造から直接的に導かれる任意の周期的な形状でもない場合であろう(よってCVD、自己アッセンブリ、又は他の既知のプロセスによる製造の余地を与える)。我々はそのような加工物を「非周期的」であると称する。非周期的な加工物は興味深いが、それはそのような加工物を製造する唯一の方法が、我々の知るところではメカノ合成であるためである。例えば、車の外形のような任意の形状を想定する(尺度は適切でないものの、見慣れた形状を使用するものである。)CVDを用いて原子的に正確な結晶を成長させることができても、このような不規則な形状を達成するために用いることは到底できない。非周期的な加工物には、大部分は規則的であるものの非周期的な置き換えを有する加工物も含まれる。例えば、全ての観点において正確で規則的であるものの特定の位置に窒素の空間が置かれているダイヤモンドの立方体を想定する。ここでも、メカノ合成を除いては、CVD又は我々が知りうる他の技術により製造することは不可能であるものの、これは量子コンピューターを実現するためには非常に有用な加工物たり得る。今日のデバイスに用いられている部品の大多数は、機械的であるか電子的であるかによらず、非周期的である。非周期的であることは例外というよりはむしろ支配的であり、そのような部品はサブトラクティブ・マニュファクチャリング(例えば、切削加工)及び他の技術を用いてマクロスケールで容易に製造されているが、そのような部品を原子レベルでの正確性で製造することは難しい。ほとんどのケースにおいて、メカノ合成無しでは不可能であろう。
【0304】
メカノ合成による生成物と他の天然又は合成の生成物との間の違いを調べる方法としては、周期性と非周期性とは別の他のいくつかの製造面における側面を比較することである。具体的には、強固さ、結合構造、大きさ、及び複雑さ(周期性と関連付けられるが、周期性とは異なるものであり、周期性の欠落にも関連付けられる)を考慮することは有益である。
【0305】
多数の天然の又は合成の化学構造、及び合成経路がメカノ合成の範囲外で知られている。さらに、これらの既知の構造及び合成経路によって、より多くの構造の製造が可能となり得る。これらのいくつかの構造は大きく(分子の成長につれて)、いくつかは強固な高次の結合を有しており、いくつかはひずみを有する結合を有しており、いくつかは原子的に正確であり、そしていくつかは、種々の計測により、複雑であると考えられる。しかしながら、メカノ合成の助けを得ずに調製された天然の又は合成による構造には、これらの特性の全てを保持するものは無い。
【0306】
例えば、本質的に任意の長さ及びシークエンスを有するDNAは従来の技術を用いて調製することができる。そして、DNAが単純に同じモノマーの繰り返しである必要が無いことを考慮すると、いくつかの手段によりDNAに高い複雑性を付与することができる。しかしながら、DNAは本質的に柔軟な一次元のポリマーである。DNAは三次元の折りたたみ構造となり得るが、それでも、DNAは硬さも高次結合も有していない。
【0307】
大きな三次元ポリマーを合成することができる。例えば、2×108ダルトンのデンドリマーポリマーが合成されている(Zhang, Wepf ら, "The Largest Synthetic Structure with Molecular Precision: Towards a Molecular Object," Angewandte Chemie International Edition, 3, WILEY-VCH Verlag, 2011)。しかしながら、そのようなポリマーの組成を正確に制御する能力は無く、それらは、三次元形状をとることを可能にする態様により結合された比較的単純なポリマーシークエンスである傾向がある。(Zhang, Wepf ら, "The Largest Synthetic Structure with Molecular Precision: Towards a Molecular Object," Angewandte Chemie International Edition, 3, WILEY-VCH Verlag, 2011)によって合成されたデンドリマーポリマーは、強固でなく、高次の結合を有さず、又は複雑でもなく、そして分子内の様々な点でのエラー率に関するその後の研究は、それが原子的に正確ではないことを示す。
【0308】
ランダム形状の複数のアダマンタン単位からなる構造は石油から精製されている。これらの構造は強固であり、そして高次の結合を有している。さらに、改質され、又は官能基を供給されたアダマンタンを製造するための様々な化学プロセスが知られている(Szinai, "ADAMANTANE COMPOUNDS," 米国特許第3859352号, United States, Eli Lilly and Company (Indianapolis, IN), 1975; Baxter, "Adamantane derivatives," 米国特許第6242470号, United States, AstraZeneca AB (Sodertalje, SE), 2001)。しかし、天然資源から得られるアダマンタン凝集体はランダムに結合しているため、分子のサイズが大きくなるにつれてアダマンタンの特定の配置が見つかる可能性は極めて小さくなる。実際には、これらの分子は大きくも原子的に正確でもない。製薬産業で使用される官能化アダマンタンは原子的に正確であるが、それらは大きくなく、高次の結合も有していない(そのような分子は、例えば、長い柔軟な側鎖に結合した単一アダマンタンである傾向があるためである)。
【0309】
ダイヤモンドは、天然であるか合成であるかによらず(例えば化学気相成長法で成長させても)、複雑ではない(エラーを除いて)単一に繰り返されるアダマンタンの三次元ポリマーであるが、原子的に正確ではなく、原子のレベルでは欠陥を有している。
【0310】
ひずみ結合に関して、個々のひずみ結合の生成は化学分野においてルーチンなことであり、シクロプロパン及びキュバンのような分子は、ひずみ結合を用いて生成することができる構造を例示する。多くのひずみ結合を含むより大きな構造、例えば様々な形状のフラーレンも存在する。特定の生成機構は非常に異なるが、シクロプロパン、キュバン、フラーレン、および他のひずみを有する分子の合成の間には、初期反応基質から最終生成物に至るエネルギー的に実行可能な連続した反応経路があるという共通点がある。
【0311】
しかし、これが当てはまらないクラスのひずみ構造があり、従来の化学技術のみを用いた、構成原子又は分子から最終生成物への実用的な経路はない。この原理を概念的に説明するために、硬い棒状の分子を想定する。ここで、ロッドを円に曲げて端をつなぐ。輪状分子が形成される。輪状の分子には全てのシクロアルカン、及び他の多くのシクロポリマーが含まれるが、そのような構造の形成は、かなり制限的な要件に従っている。これらのひずみ構造を形成するための主な要件は、2つの端部を互いに結合させることができるように十分に接近させて、分子を線状構造から円形構造に変えることができることである。線状分子の両端は、さまざまな方法で厳密に近似できる。例えば、開始時の分子は非常に小さくなり得るので、分子が直線であっても、両端は両方とも一つの反応の範囲内にある。あるいは、分子は、必要とされる形状に曲がることができるほど十分に柔軟であり得る。あるいは、線状分子が固有のカーブを有しており、それによって部分的な輪を既に形成しており、従って橋渡しするための小さな間隙のみがある。
【0312】
しかし、これらの要件を満たさない分子のクラスを考慮しなければならない。長いロッドは、十分に硬い場合、たとえ多少湾曲していてその端部間に実質的な間隙を有しているとしても、従来の化学技術によって輪にすることができない。同様に、硬い二次元分子(例えば、厚さが1層又は2層のアダマンタン層のダイヤモンドの平面)はチューブ構造に曲げることができないが、これは、その硬さのために、そしておそらく複数の結合が同時に形成されなければならないという、統計上困難な事象を必要とするためである。
【0313】
硬く、位置的に広く離れた構造であって、二つの側を有する構造において、原子的には遠く離れていても近寄せて結合反応を経て安定な輪又は円柱を形成させる場合、非常に考案されたクラスの構造であると考えられるが、そうではない。例えば、それは、車軸が硬い円柱形のリングまたはチューブの内側で回転する、ナノデバイスのために提案された多くのベアリング設計の例である。メカノ合成は、力を使って必要な端を近づけたり、あるいは構造の周りに一時的なジグを構築して中間構造を必要な形状にしたりして(そしてその後所望の構造になったら取り除くことができる)様々な方法でそのような構造を形成できる。
【0314】
これらは単なる例示である。DNA及びデンドリマーポリマーに関するものと同様のコメントは他のポリマーにも同様に適用され、アダマンタンに関するものと同様のコメントは他の構造の存在または合成に適用され、ダイヤモンドに関するものと同様のコメントは他の結晶に適用される。輪または円柱に曲げられる必要がある棒状又は平面状構造は、幾何学的問題のために従来の化学によっては製造できなかった構造の形成を位置制御により可能にする方法の唯一の例ではない。
【0315】
従来の化学合成法に関する別の問題であって、上述したような幾何学的問題とは異なるものは、類似又は同一の化学的物性を有する複数の部位を区別することができない場合において、最終生成物がそれらを異なるように扱うことを必要とする場合である。成長している一次元ポリマーの一つまたは少数の特定の位置(例えば末端)でのみ作用することが可能であるので、線状ポリマー合成(例えばDNA合成)は例外であるが、これらのポリマーは硬くなく、また正確で高次に結合した三次元構造の形成に適用可能でもない。
【0316】
分子が二次元または三次元になると、化学的に等価なサイトが異なる場所にあるという問題が生じる。例えば、構造が構築されることになっているダイヤモンドの完全に平らな平面を想定する。ダイヤモンドに追加の炭素(または他の)原子を付加することができる反応が知られており、これはCVDに基づくダイヤモンドの成長の基礎である。しかしながら、平面の縁部及び角部のように縁部から離れた原子と同数の隣接炭素原子を持たないことにより異なる結合構造を有するサイトを除いて、平面の表面上の全てのサイトは本質的に化学的に等価である。CVD又は任意の非位置的技術によって、例えば平面上の任意の原子的に正確な座標に新しい原子を追加することはできない。
【0317】
複数の化学的に類似又は化学的に同一のサイトというこの概念は、三次元デンドリマーポリマーが単純で反復的な構造を持つ理由である。一つの枝に起こる反応はすべて、全ての枝の同等なサイトで起こる傾向がある。デンドリマーポリマーを超えて、この一般概念は、合成化学が任意で大きく複雑な構造を作り出すことができない主な理由の一つである。
【0318】
確かにメカノ合成は、DNAや他のポリマー、小さな分子、又は複雑さの低い反復構造などの生成物を製造するために使用できる。実際、そのような生成物はいくつかの点で優れている。例えば、100%純度の生成物を作り出すことができ、それは潜在的に生成物の物性を改善し、同時に無駄を排除し、そして精製工程の必要性を排除する。
【0319】
しかしながら、メカノ合成の生成物としての可能性について言えば、たとえ非効率的に又は不完全であったとしても、そのような生成物はすでに作り出すことが可能であるため、これらは最も重要なケースではない。より重要なケースは、他の方法では合理的に作り出すことができないか、又は得られない構造である。上記の理由から、これらは原子的に正確で、大きく、高次に結合し、そして複雑な構造である傾向がある。そのような構造は、ひずみがある場合も無い場合もあり得るが、少なくともいくつかの種類のひずみの存在は、位置的に制御された化学以外のいかなる方法によってもそのような構造を作り出すことができる可能性をいっそう低くする。
1.18 信頼性
【0320】
信頼性は、多原子の加工物用の構築シークエンスの設計において重要な考慮事項である。反応の信頼性は、与えられた温度での自発的な反応を防ぐのに十分なエネルギー障壁を有する反応、異常な副反応を回避するように設計された反応(所望の反応のみを優先する軌道を用いて加工物に接近したり、又は自発的な反応が可能な位置に満たされていない原子価を残さないように構築シークエンスを順序立てることによる)の使用、又はメカノ合成中の試験工程の導入を含むさまざまな方法で達成できる。これらの事項については以降において詳細に説明される。
【0321】
いくつかのケースでは、主としてその低い原子量のために水素において、トンネリングは反応エラーに寄与し得る。これらのエラーは、問題のある状況を回避するために構築シークエンスを少し変更することで減らすことができる。また、重水素を標準水素の代わりに使用することができる。重水素の異なる質量およびファンデルワールス半径もまた、反応速度(動的同位体効果)、振動数、ねじれ結合および他の物性に影響を与える。これらの効果はすべて、ケースバイケースで水素または重水素を使用することを選択することによって活用できる。一般に、その物性が有利である場合には任意の元素の同位体を使用することができ、異なる元素の位置制御が有用であるのと同様に、元素の同位体を位置的に制御する能力は有用であり得る。
1.19 反応障壁及び温度
【0322】
装置の性能が反応の信頼性に影響を与える可能性があることに留意すべきである。例えば、位置手段のエラーがゼロになることはほとんどない。しかしながら、十分に高い位置精度を達成することは、十分に従来の原子顕微鏡技術の限界内であるため、それは本質的に重要ではなくなる。例えば20pm未満の精度でチップの位置決めすることができる装置では、温度が反応の信頼性において支配的な変数となる。位置手段の正確性が低くなるにつれて、反応の信頼性は温度に関係なく損なわれ、そして例えば50pm以上の位置エラーは実質的に多くのメカノ合成反応の信頼性を低下させるであろう。当業者は、必要に応じて、そのような装置の制限を反応の信頼性の計算に組み込む方法を理解するであろう。 例示の目的で、反応の信頼性を計算する以下の例では温度のみが考慮される。
【0323】
メカノ合成の利点の一つは、機械的力を使用することによって反応障壁を克服し、特定の所望の反応を促進することである。従来の化学では、反応障壁又はエネルギーデルタはしばしば熱エネルギーによって克服される。しかしながら、熱エネルギーは非特異的であり、所望の反応及び望ましくない反応を同様に促進する。温度を下げると、非特異的反応を引き起こすために利用できる熱エネルギーが減少する。これは異常な副反応の可能性を減少させる一方、特定方向の機械的力は低温であっても依然として望ましい反応を促進する。
【0324】
アレニウスの式ならびに熱力学及び計算化学の他の原理は、与えられた温度での与えられた反応の信頼性を決定するために、正味のエネルギー差及びエネルギー障壁に関するデータと共に使用され得る。例えば、次のMathematica v8コードは、与えられた温度での反応の信頼性を決定するために、二つの構造間の正味のエネルギー差(たとえば、前後の加工物の)を考慮する際に使用される。
コード表1:
(
**与えられた温度における反応の信頼性を計算する
**)
(
**定数及び単位換算を定義する
**)
(
**ボルツマン定数=1.38
*10^−23J/K
**)
ボルツマン=1.38
*10^−23
(
**e∨をジュールに換算する
**)
ジュールバリア=バリア
*1.6
*10^―19;
(
**特定の反応のための入力
**)
(
**e∨での反応障壁
**)
バリア=Abs[−0.6418];
(
**ケルビンでの温度
**)
温度=300;
(
**反応の不成功の可能性を計算
**)
可能性=NumberForm[Exp[ジュールバリア/(ボルツマン
*温度)],4]
1.20 構築シークエンスにおける信頼性
【0325】
構築シークエンスを通しての反応の信頼性は、統計的エラー率を評価する一つの方法を提供する。そして、いずれの、又はどれだけの数のエラーが加工物の機能を妥協する必要がある程度に影響があると考えられるかに応じて、これらのデータは加工物の収率(又は、加工物が単純に品質チェックに合格/不合格であるかを評価されるのではなく、加工物の機能に対する特定のエラーの効果が既知であるような状況においてはパフォーマンス)を評価するために使用される。これは、実施例で最も簡単に説明される。
【0326】
作成するのに10^6の反応が必要な加工物を想定する。簡単にするために、これらの反応の各々は、異常な反応(エラー)に至るエネルギー障壁が同一であり、その障壁は0.2eVであると仮定する。別の仮定は、加工物に欠陥があると見なされる前に、シミュレーション、実際の経験、又は他の情報が、平均していくつのエラーが存在し得るかについてのガイドラインを提供することである。任意に、これは加工物の設計によって変わるので、この例では10のエラー上限が用いられる。すなわち、0から10のエラーを有する加工物は許容可能であり、一方、10を超えるエラーを有する加工物は欠陥品として排除される。 最後に、(やはり、この数値はビジネス上及び技術上の要件によって異なるため、論理を明示的に示すためのものである)少なくとも90%の収率が必要である。
【0327】
エラーはまれな事象であると推定されるので、エラー発生はポアソン分布としてモデル化される。その場合、問題は、予期される事象の数である1のいずれかを決定することとなるが、事象の数が10(許容されるエラーの最大数)である場合には累積分布関数は90以上である(90%の収率)。この場合、1は7である。すなわち、構築シークエンス中に平均して7つのエラーが発生すると予想される場合は、90%の確率で、発生する事象は10回未満になる。従って、予想されるエラー数は7以下にする必要がある。仮想加工物は構築するのに10^6の反応を必要とするため、エラーのしきい値は7/10^6である。ここに示される式を用いて0.2e∨の障壁の際にこのような正確さを達成するための最大許容温度を求めると、約195ケルビンという答えに至る。明らかに、この値は実際の反応障壁、製造上の要求、装置の性能、及び他の要因によって変わり得る。
【0328】
これらの計算は、温度が信頼性を制限する唯一の要因であると仮定していることに留意すべきである。前述のように、装置内の位置的な不確実性、又は水素のトンネリングなどの要因によって引き起こされる他のエラーの原因がある場合があり、これらは実際の製造プロセスを評価するときに考慮に入れることができる。また、エラーは統計的に独立しているという仮定にも留意すべきである。欠けている原子または誤って結合されている原子が隣接する原子を配置する時に問題を引き起こす可能性があるので、エラーの独立性はいくつかの状況では適切でない。しかしながら、これは必ずしも当てはまるわけではなく、またこれとは関係なく、0%に近いエラー率を必要とすることによって問題を重要でないものにすることができる。
【0329】
温度と反応障壁は別にして、ゼロエラーが要件である場合の統計を想定すると、より複雑な加工物の作成に必要な信頼性要件と文献プロセスを比較する方法が得られる。文献はしばしば1〜約12の反応を含む実験を記載している。文献にはエラー率は報告されていないが、理論的には、12の反応をエラー無しで実施するためには、どの程度の信頼性で反応を実施する必要があるであろうか。簡単な計算(信頼性#反応=収率)は、各反応について90%の信頼性であれば28%の収率を与えることを示している。これは実験室のプロセスとしては許容できるものであり、場合によっては優れた収率となり得るが、工業的な製造プロセスとしてはかなり低い収率であり、これはわずかに12の反応を伴うケースである。
【0330】
加工物に20の反応が必要な場合、各反応の信頼性が90%であれば収率は12%になる。50の反応が必要であれば、90%の信頼性はわずか0.5%の収率となる。100の反応が必要であれば、90%の信頼性ではエラーのない加工物が作成されることはほとんどないため、もはや合理的ではない。100の反応が必要な場合には、信頼性は95〜99%の範囲内にある必要がある。そして、1,000以上の反応が必要であれば、数%を超える収率が望ましいと仮定すると、信頼性は100%に近くなる必要がある。
【0331】
いくつかの反応は抽出または再配置反応であるが、いくつかの反応は一度に一つより多くの原子を追加することができる付加反応であることに留意すべきである。平均して、反応の数は与えられた加工物中の原子の数をおそらく超えるが、大きさのオーダーは同じであろう。よって、議論を簡単にするために我々は20の原子を含む加工物は約20の反応を必要とすると仮定する。50の原子を含む加工物の場合は約50の反応が必要とされ、100の原子を含む加工物の場合は約100の反応が必要とされ、1000の原子を含む加工物の場合は約1000の反応が必要とされ、以後同様である。
【0332】
明らかに、些細な数の反応を必要とする加工物にとって許容可能なエラー率は、より複雑な加工物を作るためには不十分である。もちろん、この記述には、エラー修正プロセスがないことや、完成した加工物のエラーに対する許容範囲が少ないことなど、さまざまな仮定がある。しかし一般的に、これは、文献で証明されているものをはるかに超えた信頼性の余地がある既知の反応に基づいて合理的に設計された構築シークエンスの必要性を示している(ただし、ここで報告される反応の性能の範囲内である)。
【0333】
もちろん、いくつかの有用な構築シークエンスはかなり短い。例えば、出発点が脱水素化されたSi表面であるか臭素化されたSi表面であるかに応じて、本明細書に記載の半-Si-ラジカル構築シークエンスは、わずか11〜15工程の長さである。同様に、ダイヤモンド表面で新しい列を開始するには11の反応が必要で、列を延伸するには5つの工程、列の終了には6つの工程が必要である(このような工程を繰り返す必要があることを考慮に入れていない。このようなケースは頻繁に見られるものの、必ずしもそうでは無いからである。)。明らかに、いくつかの構築シークエンスは5〜10の間、または10〜20の間の工程数であり、それでもなんらかの価値のあるものを達成することができる。そのような状況では、個々の反応における信頼性の要件はより低くてもよく、それでも例えば20〜50、50〜100、100〜1,000又はそれ以上の工程を有す構築シークエンスとは対照的に、ある程度の妥当な回数の頻度で成功する可能性がある。
1.21 まとめ
【0334】
上記は、メカノ合成を実施する様々な方法を説明している。一の実施形態は、モジュールチップを使用し、その際に、モジュール、又は足、リンカー、本体、活性サイト、及び供給原料などのサブモジュールを使用することによってチップ設計が合理化される。これらのモジュールそれぞれの複数の変形例により、このアプローチにより対応可能な多種多様な反応を実証した。
【0335】
記載された多くの例示的な合成によって実証されるように、モジュールチップはバルク化学の方法によって合成することができる。バルク合成は、チップが使用される手法のパラダイムシフトを促進し、多くの異なるタイプの多数のチップを提示表面に結合させることを可能にする。この表面固定チップの手法は、チップ交換および再充填の必要性を低減または排除することができ、また、原子的に正確でないチップを含むブートストラッププロセスなしで原子的に正確なチップの作成を可能にする。
【0336】
加工物は、逆モードの表面固定チップを使用して構築することができるが、そのようなプロセスが提示するいくつかの制限を回避するために、連続チップ法も記載される。ここでは例えば、表面固定チップが供給原料を従来モードのチップに供給し、その後供給原料を加工物に送る。最後の反応が従来モードによるものであることにより、表面固定チップから直接加工物を構築する場合より高い柔軟性(例えば、顕微鏡モードにおいては、アスペリティ又はアスペクト比における柔軟性)を可能にする。
【0337】
連続チップ法を使用して多くの多様な反応が可能であることが示された。しかしながら、一つのタイプの従来モードチップでは、全ての所望の反応を促進することができない可能性がある。複数のチップが従来モードの提示表面上に存在し得るが、可能な様々な反応を増加させるための別の方法は、構築シークエンス中に従来モードのチップを再構築することである。このようなプロセスでは、加工物に作用していた従来モードチップが加工物自体になる。従来モードのチップの構造は、表面のチップによって供給原料や活性サイトを再生させるだけではなく、変更することができる。例えば、半−Si−ラジカルチップは、Geラジカル−ベースのチップ、又ははアダマンタンラジカル−ベースのチップに変えることができ、その化学的性質を変えることによって、異なる条件下で異なる反応又は操作を可能にする(例えば、信頼性又は温度の変化を可能にする)。
【0338】
また、半−Si−ラジカル構築シークエンスによって実証されるように、表面固定チップは、SPMプローブの端部などの他の提示表面上にチップを構築するため以外にも使用され得る。
【0339】
これらの改良のそれぞれは、メカノ合成のプロセスに大きな利益をもたらし、これにはより速くより多様な反応の促進、ブートストラップ過程の回避、ならびにチップの再充填及びチップ交換の削減又は排除が含まれる。これらは、他の利益に加えて、多くの数の反応を促進しつつ一つの位置制御されたプローブであってチップカートリッジのような装具を必要としないプローブのみを必要とすることで、装置に対する要求を簡便にする。
【0340】
使用される実際の方法に関わらず、構築シークエンスはメカノ合成を介して加工物を構築するために必要とされる。多くの原子が確率的な態様で集合するバルク化学とは異なり、位置的なひずみを有する化学によって加工物を構築することは、どのような順序で原子が置かれるか、そしてそれらがどこに置かれるかについての選択をすることを必要とする。構築シークエンスを作成する必要性は従来の化学と比較して欠点と考えられるかもしれないが、大きく、高次の結合を有し、複雑又は不規則又は非周期的で、原子的に正確な加工物のような、我々が知る限りメカノ合成でなければ構築することが不可能であろう生成物を作成するメカノ合成の能力は、メカノ合成を非常に有用な技術たらしめる。