(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コイルを有する電磁部品の解析モデルに基づいて、複数時点それぞれにおける該電磁部品の挙動をシミュレートする処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記解析モデルに基づく磁界解析によって得られる、前記コイルにおける鎖交磁束と、前記コイルのインダクタンスと、前記コイルに流れる電流とを関連付けたルックアップテーブルを作成し、
前回及び前々回のシミュレーションステップで算出した前記コイルに流れる電流を用いて前記ルックアップテーブルを参照して、前記電磁部品の挙動をシミュレートする
処理を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
コイルを有する電磁部品の解析モデルに基づいて、複数時点それぞれにおける該電磁部品の挙動をシミュレートする処理をコンピュータが実行するシミュレーション方法であって、
前記コンピュータは、
前記解析モデルに基づく磁界解析によって得られる、前記コイルにおける鎖交磁束と、前記コイルのインダクタンスと、前記コイルに流れる電流とを関連付けたルックアップテーブルを作成し、
前回及び前々回のシミュレーションステップで算出した前記コイルに流れる電流を用いて前記ルックアップテーブルを参照して、前記電磁部品の挙動をシミュレートする
処理を実行するシミュレーション方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係るシミュレーション装置1の構成を示すブロック図である。図中1は、本発明の実施形態に係るシミュレーション装置1である。シミュレーション装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の演算部11を備えたコンピュータであり、演算部11にはバスを介して記憶部12が接続されている。記憶部12は、例えば不揮発性メモリ及び揮発性メモリを備える。不揮発性メモリは、例えばEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)等のROMである。不揮発性メモリは、コンピュータの初期動作に必要な制御プログラム、及び本実施形態に係るシミュレータプログラム21を記憶している。シミュレータプログラム21は、例えばモータ挙動シミュレータプログラム(コンピュータプログラム)21a、駆動回路シミュレータプログラム21b、磁界解析シミュレータプログラム21c等を含む。演算部11は、シミュレータプログラム21を実行することによって、複数時点それぞれにおけるモータ4(
図2参照)の挙動をシミュレートするモータ挙動シミュレータ、モータ4を駆動する駆動回路の挙動をシミュレートする駆動回路シミュレータ、有限要素法、境界要素法等の磁界解析によってモータ4の挙動を磁界解析する磁界解析シミュレータとして機能する。揮発性メモリは、例えばDRAM(Dynamic RAM)、SRAM(Static RAM)等のRAMであり、演算部11の演算処理を実行する際に不揮発性メモリから読み出された制御プログラム、シミュレータプログラム21又は演算部11の演算処理によって生ずる各種データを一時記憶する。
【0015】
また記憶部12は、モータ4を構成する複数のコイル42、固定子41及び回転子43(
図2参照)の二次元又は三次元形状及び電磁特性を表す解析モデル12a、モータ4を駆動する駆動回路モデル等を記憶している。
【0016】
図2は回転軸方向から見たモータ4を示す模式図、
図3はモータ4の回路構成を示す模式図である。シミュレーション対象のモータ4は、例えば、三相永久磁石同期モータである。
図2に示すモータ4は8極48スロットの埋込磁石型の永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)である。モータ4は、界磁束を発生させるU相コイル42u、V相コイル42v及びW相コイル42wが周方向に等配された円筒状の固定子41と、該固定子41の内径側に同心円状に配された回転子43とを備えている。各コイル42は、例えば
図3に示すようにスター結線されている。
図3中、Tnは中性点である。Tu,Tv,Twは、U相コイル42u、V相コイル42v及びW相コイル42wに電圧が印加される端子である。回転子43は、円柱状をなし、複数対の永久磁石43aを備えている。なお、極数、スロット数及びコイル42の数はこれに限定されない。解析モデル12aは、例えばモータ4を構成する複数のコイル42、固定子41及び回転子43の形状を表す3次元CADデータ等の3次元形状モデル、3次元形状モデルを構成する各部の材料特性等を含む。材料特性としては、磁化特性、電気特性、機械特性、熱特性、鉄損特性等が挙げられる。電気特性は、導電率、比誘電率等である。
【0017】
シミュレーション対象の駆動回路は、例えばドライバ及びインバータにて構成されている。記憶部12は、前記ドライバ及びインバータを構成する複数の回路素子及び各回路素子の接続状態及び特性を表す駆動回路モデルを記憶している。
【0018】
更に、記憶部12は、モータ4の動的な挙動をシミュレートするための特性データベースとして、LUT12b及びトルクLUT12cを記憶する。各特性データベースは、モータ4の挙動をシミュレートする前段階に作成されるものである。LUT12b及びトルクLUT12cの詳細は後述する。
【0019】
なお記憶部12として、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等の読み出しが可能なディスクドライブ、及び可搬式の記録媒体2からデータの読み出しが可能なCD−ROMドライブ等の装置を備えても良い。本実施形態に係るシミュレータプログラム21又はモータ挙動シミュレータプログラム21aは、可搬式メディアであるCD(Compact Disc)−ROM、DVD(Digital Versatile Disc)−ROM、BD(Blu-ray Disc)(登録商標)等の記録媒体2にコンピュータ読み取り可能に記録されている。なお、光ディスクは、記録媒体2の一例であり、フレキシブルディスク、磁気光ディスク、外付けハードディスク、半導体メモリ等にシミュレータプログラム21又はモータ挙動シミュレータプログラム21aをコンピュータ読み取り可能に記録しても良い。演算部11は、記録媒体2からシミュレータプログラム21又はモータ挙動シミュレータプログラム21aを読み出して、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等に記憶させる。演算部11は、記録媒体2に記録されたシミュレータプログラム21又は記憶部12が記憶するシミュレータプログラム21を、実行することにより、コンピュータをシミュレーション装置1として機能させる。
【0020】
また、シミュレーション装置1は、
図1に示すようにキーボード又はマウス等の入力装置13と、液晶ディスプレイ又はCRTディスプレイ等の出力装置14とを備えており、データの入力等の使用者からの操作を受け付ける。
【0021】
更に、シミュレーション装置1は、通信インタフェース15を備え、通信インタフェース15に接続されている外部のサーバコンピュータ3から本発明に係るシミュレータプログラム21又はモータ挙動シミュレータプログラム21aをダウンロードし、演算部11にて処理を実行する形態であってもよい。
【0022】
図4はシミュレーション装置1が実行する連成解析の概要を示す概念図である。まず、シミュレーション装置1は、モータ4の挙動をシミュレートする前に、有限要素法モデル等の解析モデル12aに基づく磁界解析によってモータ4の各種特性を算出する。例えば、演算部11は、モータ4の特性として、回転子43の永久磁石43aに係る鎖交磁束成分と、相電流に係る鎖交磁束成分との総和であるトータル磁束Ψ(以下、単に鎖交磁束と呼ぶ)と、各コイル42のインダクタンスLと、各コイル42に流れる電流Iと、回転子43の機械角θとを対応付けたLUT(Ψ,L,I,θ)12b等を作成する。インダクタンスLには、各コイル42の自己インダクタンス及び各コイル42間の相互インダクタンスが含まれる。また、回転子43に生ずるトルクTと、各コイル42に流れる電流Iと、回転子43の機械角θとを対応付けたトルクLUT12cを作成する。
そして、シミュレーション装置1は、モータ挙動シミュレータと、駆動回路シミュレータとを連成させて、モータ4の動的な挙動をシミュレートする。駆動回路シミュレータは、モータ4の各コイル42の端子Tu,Tv,Twに印加される電圧[V]=[Vu、Vv、Vw]及び回転子43の機械角をモータ挙動シミュレータに引き渡す。モータ挙動シミュレータは、電圧[V]及び回転子43の機械角等を用いてLUT12b及びトルクLUT12cを参照して各コイル42の電流[I]=[Iu,Iv,Iw]及びモータ4のトルクを求め、そのシミュレーション結果を駆動回路シミュレータに返す。以下、同様の処理を反復的に実行することによって、モータ4の動的な挙動をシミュレートすることができる。
【0023】
以下、本実施形態に係るシミュレーション方法として、LUT12bの作成手順、モータ4の挙動シミュレート手順を順に説明する。
【0024】
図5はLUT12bの作成に係る演算部11の処理手順を示すフローチャートである。シミュレーション装置1の演算部11は、記憶部12が記憶しているモータ挙動シミュレータプログラム21aに従って、以下の処理を実行する。演算部11は、まずシミュレーション対象であるモータ4の解析モデル12a及び駆動回路モデルの選択、その他各種設定を入力装置13にて受け付ける(ステップS11)。
【0025】
次いで、演算部11は、駆動状態を示すパラメータ、つまり各コイル42を流れる電流、及び回転子43の機械角の値を振りながら、有限要素法による磁界解析を実行する(ステップS12)。なお、各コイル42を流れる電流を振る際、電流保存側を満たすように各コイル42に流れる電流を設定する。有限要素法では、モータ4の3次元形状モデルを複数の要素に分割する。例えば、演算部11は、モータ4の3次元形状モデルを複数の四面体要素、六面体要素、四角錐要素、三角柱要素等に分割する。演算部11は、マクスウェル方程式から得られる多元一次連立方程式を、特定の境界条件、例えばディリクレ境界条件、ノイマン境界条件の下で数値計算することにより、各要素の磁気ベクトルポテンシャルを算出する。磁気ベクトルポテンシャルから、モータ4の各部の磁界又は磁束密度が得られる。磁界又は磁束密度は、電流、トルク等を算出するための基本的な情報である。なお、準定常磁場はマクスウェル方程式で記述される。
【0026】
次いで、演算部11は、ステップS12の磁界解析結果に基づいて、各コイル42の電流及び回転子43の位置に応じた各コイル42における鎖交磁束を算出する(ステップS13)。また、演算部11は、各コイル42の自己インダクタンス及び相互インダクタンスを算出する(ステップS14)。
ここで算出する自己インダクタンス及び相互インダクタンスは微分インダクタンスであり、下記式(5)で表される。以下、単に自己インダクタンス及び相互インダクタンスと呼ぶ。
L=∂Ψ/∂I={Ψ(I+ΔI,θ)−Ψ(I,θ)}/ΔI…(5)
但し、
L:微分インダクタンス(自己インダクタンス及び相互インダクタンス)
Ψ:各コイル42における鎖交磁束
I:各コイル42に流れる電流
ΔI:電流の微小変化
【0027】
なお、上記微分インダクタンスは、3相コイルの場合、各コイル42の鎖交磁束と、微小変化させる各コイル42の電流毎に求められ、3×3のインダクタンス行列で表される。3×3=9個の行列成分は、Luu=∂Ψu/∂Iu、Luv=∂Ψu/∂Iv、Luw=∂Ψu/∂Iw、Lvu=∂Ψv/∂Iu、Lvv=∂Ψv/∂Iv、Lvw=∂Ψv/∂Iw、Lwu=∂Ψw/∂Iu、Lwv=∂Ψw/∂Iv、Lww=∂Ψw/∂Iwである。
【0028】
次いで、演算部11は、ステップS12の磁界解析結果に基づいて、各コイル42の電流及び回転子43の位置に応じて回転子43に作用する電磁力を算出し、該回転子43に働くトルクを算出する(ステップS15)。演算部11は、例えば節点力法等の手法を用いて、回転子43に作用する電磁力を算出する。
【0029】
次いで、演算部11は、ステップS12の磁界解析結果に基づいて、各コイルにおける鎖交磁束と、各コイル42の自己インダクタンス及び相互インダクタンスと、各コイル42に流れる電流と、回転子43の機械角とを対応付けて格納したLUT12bを作成する(ステップS16)。
【0030】
次いで、演算部11は、ステップS15で算出したトルクと、各コイル42に流れる電流と、回転子43の機械角とを対応付けて格納したトルクLUT12cを作成し(ステップS17)、処理を終える。
【0031】
なお、LUT12b及びトルクLUT12cを別体のテーブルであるものとして説明したが、これらのテーブルを一つのテーブルで構成してもよい。
【0032】
図6は連成解析に係る演算部11の処理手順を示すフローチャートである。演算部11は、コイル42に印加される電圧、電流、回転子43の位置等の初期値を設定する(ステップS31)。
【0033】
次いで、演算部11は、前回のシミュレーションステップで算出されたコイル42の電流及び回転子43に働くトルクに基づいて、次シミュレーションステップにおいてコイル42に印加される電圧及び回転子43の機械角を算出する(ステップS32)。ステップS32の処理は、駆動回路シミュレータによって実行され(
図4参照)、シミュレーション結果である電圧[V]=[Vu、Vv、Vw]及び回転子43の機械角をモータ挙動シミュレータに与える。
【0034】
次いで、演算部11は、モータ4に印加される電圧、前回以前のシミュレーションステップで算出した各コイル42の電流、各コイル42における鎖交磁束、回転子43の位置等に基づいて、モータ4の挙動をシミュレートし、各コイル42に流れる電流、回転子43に生ずるトルクを算出する(ステップS33)。ステップS33の処理は、モータ挙動シミュレータによって実行され(
図4参照)、シミュレーション結果であるコイル42の電流[I]=[Iu,Iv,Iw]及び回転子43に生ずるトルクは、駆動回路シミュレータに引き渡される。ステップS33の詳細な処理は後述する。
【0035】
次いで、演算部11はシミュレーションの終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS34)。例えば、所定の実時間に相当する所定回数のシミュレーションステップを実行した場合、演算部11はシミュレーションを終了する。シミュレーションの終了条件を満たさないと判定した場合(ステップS34:NO)、演算部11は処理をステップS32へ戻し、ステップS32及びステップS33の処理を反復実行する。シミュレーションの終了条件が満たされたと判定した場合(ステップS34:YES)、演算部11は処理を終了する。
【0036】
以下、ステップS33における演算部11の処理手順の詳細を説明する前に、各コイル42に印加される電圧に基づいて、各コイル42に流れる電流及び中性点の電位を算出する方法の理論を説明する。
【0037】
図3に示すようなスター結線回路の電圧方程式は、上記式(1)〜(3)で表すことができる。また、中性点Tnでは、上記式(4)に示す電流保存則が成り立つ。
【0038】
U相コイル42uの電圧方程式に着目する。上記式(1)で表される当該電圧方程式の時間微分を時間差分Δtに置き換えると下記式(6)のようになる。
【数3】
【0039】
ここで、鎖交磁束Ψは未知数である電流Iに依存しているが、これを陽に電流Iを使って表現することを考える。電流起源による鎖交磁束成分は微分インダクタンスと電流を用いて記述することができるため、上記式(6)における鎖交磁束の時間微分成分は電流起源による鎖交磁束成分を分離して下記式(7)のように表すことができる。
【数4】
【0040】
上記式(7)の右辺第2項及び第3項は、回転子43の回転等、電流変化以外に起因する電圧を表している。この、第2項及び第3項を、更に前のシミュレーションステップでの値で近似すると、上記式(7)は下記式(8)で表すことができる。
【数5】
【0041】
上記式(8)を上記式(6)に代入すると、式(8)は下記式(9)となる。
【数6】
【0042】
上記式(9)の両辺に時間Δtを乗じ、未知数である電流I及び中性点Tnにおける電位Vnを左辺に、既知量の項を右辺に移項すると、式(9)は下記式(10)となる。
【数7】
【0043】
U相コイル42uと同様、上記式(2)で表されるV相コイル42vの電圧方程式は下記式(11)で表される。
【数8】
【0044】
U相コイル42uと同様、上記式(3)で表されるW相コイル42wの電圧方程式は下記式(12)で表される。
【数9】
【0045】
上記式(10)、(11)、(12)と、上記式(4)の電流保存式をまとめてマトリクス形式で記述すると、下記式(13)となる。
【数10】
【0046】
上記式(13)中、インダクタンス及び鎖交磁束は、電流I=(Iu,Iv,Iw)及び回転子43の機械角θをキーにしてLUT12bを参照することによって読み出すことができる。上記式(13)によれば、前回及び前々回のシミュレーションステップ(第(n−1)ステップ及び第(n−2)ステップ)における情報を用いることによって、反復計算することなしに、今回のシミュレーションステップ(第nステップ)における各コイル42に流れる電流及び中性点Tnにおける電位を算出することができる。
【0047】
図7は実施形態1に係るモータ挙動シミュレーションに係る演算部11の処理手順を示すフローチャートである。以下、第nステップ目におけるステップS33の処理内容を説明する。nは3以上の整数とする。演算部11は、駆動回路シミュレータから各コイル42に印加される電圧及び回転子43の機械角を取得する(ステップS51)。例えば、駆動回路シミュレータがシミュレーション結果をファイルとして出力する構成の場合、演算部11は該ファイルから各コイル42の印加電圧及び回転子43の機械角を読み出す。
【0048】
演算部11は、第(n−1)シミュレーションステップにおける各コイル42の電流、第nシミュレーションステップにおける回転子43の機械角をキーにして、LUT12bを参照し、各コイル42の自己インダクタンス及び相互インダクタンスを読み出す(ステップS52)。また、演算部11は、第(n−2)シミュレーションステップにおける各コイル42の電流、第(n−1)シミュレーションステップにおける回転子43の機械角をキーにして、LUT12bを参照し、各コイル42の自己インダクタンス及び相互インダクタンスを読み出す(ステップS53)。
【0049】
次いで、演算部11は、第(n−1)シミュレーションステップにおける各コイル42の電流、第nシミュレーションステップにおける回転子43の機械角をキーにして、LUT12bを参照し、各コイル42における鎖交磁束を読み出す(ステップS54)。また、演算部11は、第(n−2)シミュレーションステップにおける各コイル42の電流、第(n−1)シミュレーションステップにおける回転子43の機械角をキーにして、LUT12bを参照し、各コイル42における鎖交磁束を読み出す(ステップS55)。
【0050】
なお、説明の便宜上、ステップS52〜ステップS55の順に各ステップに分けて説明したが、処理の順序は特に限定されるものではない。また、ステップS52及びステップS54を同時的に実行してもよい。ステップS53及びステップS55を同時的に実行してもよい。
【0051】
演算部11は、各コイル42に印加される電圧と、ステップS52〜ステップS55で読み出したインダクタンス及び鎖交磁束とに基づいて、上記式(13)により、第nシミュレーションステップにおける各コイル42に流れる電流及び中性点Tnの電位を算出する(ステップS56)。
【0052】
次いで演算部11は、ステップS56で算出して得た各コイル42の電流と、回転子43の機械角とをキーにして、トルクLUT12cから回転子43に作用するトルクを読み出す(ステップS57)。
【0053】
そして、演算部11は、ステップS56で算出して得た各コイル42の電流と、ステップS57で読み出したトルクとを駆動回路シミュレータへ出力し(ステップS58)、処理を終える。
【0054】
このように構成されたシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21の作用効果を説明する。作用効果を示すための実シミュレーションは、
図2に示すような形状を有する8極48スロットの埋込磁石型の永久磁石同期モータを用いて行った。固定子41のスロットにはコイル42が分布巻されている。
【0055】
図8、
図9、
図10及び
図11は、それぞれ実施形態1に係るシミュレーション装置1の作用効果を示す相電流、鎖交磁束、誘起電圧及び中性点電位のシミュレーション結果を示すグラフである。
図8A、
図9A、
図10A、
図11Aは、本実施形態1に係るシミュレーション装置1を用いてモータ4の挙動をシミュレートした演算結果であり、
図8B、
図9B、
図10B、
図11Bは、有限要素法を用いた磁界解析によりモータ4の挙動をシミュレートして得られた演算結果である。横軸は時間を示す。
図8に示すグラフの縦軸は各コイル42を流れる電流、
図9に示すグラフの縦軸は各コイル42における鎖交磁束、
図10に示すグラフの縦軸は各コイル42における誘起電圧、
図11に示すグラフの縦軸は中性点電位を示す。
【0056】
図8〜
図11に示すように、各コイル42の相電流、鎖交磁束、誘起電圧及び中性点電位が精度良く再現されている。
【0057】
以上の通り、本実施形態1に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21によれば、反復計算を行うことなく、非線形電圧方程式を解いてモータ4の動的な挙動をシミュレートすることができる。
また、
図8〜
図11に示すように、厳密解とする磁界解析による演算結果と略同一のシミュレート結果が得られており、モータ4の挙動を精度良くシミュレートすることができる。
【0058】
なお、本実施形態では可動子が回転する回転機としてのモータ4を説明したが、可動子が直動する直動機としてのモータ4に本発明を適用することによって、モータ4の動的な挙動をシミュレートすることもできる。解析モデル12aの形状が異なるだけで、同様の処理手順で直動機の挙動をシミュレートすることができる。
【0059】
また、解析対象として可動子が直線移動又は回転移動する対象を説明したが、可動子の移動態様は特に限定されるものでは無く、可動子が振動するようなモータ4、可動子が直線移動するリニアモータ、ソレノイドアクチュエータ等に対しても本発明を適用することができる。また、誘導機に対しても本発明を適用することができる。
更に、本発明の適用対象は、可動子を有するモータのシミュレートに限定されるものでは無く、複数のコイルを有する任意の電磁部品に対しても本発明を適用することができる。例えば、トランス、非接触充電器等の静止器の挙動をシミュレートする場合に本発明を適用することも可能である。
更にまた、本実施形態では、駆動回路シミュレータからモータ挙動シミュレータへ電圧を引き渡し、モータ挙動シミュレータから駆動シミュレータへ電流及びトルクを戻す例を説明したが、各シミュレータ間でやり取りする物理量はこれに限定されるものでは無く、やり取りする物理量は適宜選択すれば良い。また、モータ4又は発電機の状態を表す物理定数を交換するように構成しても良い。
例えば、駆動回路シミュレータからモータ挙動シミュレータへ電流を引き渡し、モータ挙動シミュレータから駆動シミュレータへ電圧を戻すように構成してもよい。この場合、モータ挙動シミュレータは、電流を既知量、各コイル42の電圧を未知量として、上記式(13)を解き、算出して得た各コイル42に生ずる電圧を算出し、算出した電圧を駆動回路シミュレータに戻す。
【0060】
更に、本実施形態1では、各コイル42に流れる電流と、回転子43の機械角と、各コイル42における鎖交磁束と、各コイル42のインダクタンスとを対応付けた情報としてのLUT12bを説明したが、各コイルの電流及び回転子43の機械角が入力された場合、各コイル42の自己インダクタンス及び相互インダクタンスが出力される第1LUTと、各コイルの電流及び回転子43の機械角が入力された場合、各コイル42における鎖交磁束が出力される第2LUTを用いてもよい。
【0061】
更にまた、本実施形態1では、主にスター結線のモータ4の挙動シミュレーションについて説明したが、本発明は任意の回路に適用することができ、結線方式は特に限定されるものではなく、デルタ結線、その他の任意の方式で結線されたモータ4の挙動をシミュレートする場合にも本発明を適用することができる。デルタ結線の場合も基本的な考え方はスター結線の場合と同様であり、電圧方程式は下記式(14)で表される。上記実施形態1と同様の手順で、下記式(14)を解くことによってモータ4の挙動をシミュレートすることができる。
【数11】
【0062】
更にまた、正常な回路のみならず、断線した回路におけるモータ4の挙動もシミュレートすることができる。例えば、W相が断線してW相が欠相しているような場合、Iw=0として上記式(13)又は(14)を解くことによって、断線状態におけるモータ4の挙動をシミュレートすることができる。
【0063】
(実施形態2)
実施形態2に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21は、固定子及び可動子を有するχ相モータの挙動をシミュレートする点が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。χは4以上の自然数である。また、実施形態2では、可動子は回転子43に限定されないものとして説明する。更に、各コイルの電気抵抗値は必ずしも同一でないものとして説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態1と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0064】
χ相の電圧方程式は、実施形態1と同様の考え方で、下記式(15)のように表すことができる。
【数12】
【0065】
LUT12bは、χ相の各コイル42に流れる電流と、可動子の位置と、各コイル42の自己インダクタンス及び相互インダクタンスと、各コイル42における鎖交磁束とを対応付けたテーブルである。
【0066】
演算部11は、実施形態1同様、第(n−1)シミュレーションステップにおける各コイル42の電流、第nシミュレーションステップにおける可動子の機械角をキーにして、LUT12bを参照し、各コイル42の自己インダクタンス及び相互インダクタンス並びに各コイル42における鎖交磁束を読み出す。また、演算部11は、第(n−2)シミュレーションステップにおける各コイル42の電流、第(n−1)シミュレーションステップにおける回転子43の機械角をキーにして、LUT12bを参照し、各コイル42の自己インダクタンス及び相互インダクタンス並びに各コイル42における鎖交磁束を読み出す。
【0067】
演算部11は、各コイル42に印加される電圧と、上記処理で読み出したインダクタンス及び鎖交磁束とに基づいて、上記式(15)により、第nシミュレーションステップにおける各コイル42に流れる電流及び中性点の電位を算出する。
【0068】
以下、同様にして、演算部11は、算出して得た各コイル42の電流と、回転子43の機械角とをキーにして、トルクLUT12cから回転子43に作用するトルクを読み出し、算出して得た各コイル42の電流と、読み出したトルクとを駆動回路シミュレータへ出力する処理を実行する。
【0069】
以上の通り、本実施形態2に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21によれば、実施形態1同様、反復計算を行うことなく、非線形電圧方程式を解いてモータ4の動的な挙動をシミュレートすることができる。
【0070】
なお、実施形態2は、スター結線されたχ相モータを一例として説明したが、実施形態1で説明したように、χ相モータにおいても結線方式は特に限定されるものではない。
【0071】
(実施形態3)
実施形態3に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21は、χ個のコイル42を有するトランスの挙動をシミュレートする点が実施形態1又は実施形態2と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。χは1以上の自然数である。χ個のコイル42は、例えば一次コイルである。コイル42が複数である場合、各コイル42の電気抵抗値は必ずしも同一でないものとして説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態1と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0072】
コイル42の電圧方程式は、実施形態2の上記式(15)と同様であり、機械角θ依存性が無い式を考えればよい。また、中性点が存在しないトランスの場合、中性点電位を無視した式を考えればよい。
【0073】
演算部11による処理手順は、可動子が存在しない点、トルクを計算しない点を除けば実施形態2と同様である。
【0074】
以上の通り、本実施形態3に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレータプログラム21によれば、実施形態1同様、反復計算を行うことなく、非線形電圧方程式を解いてトランスの動的な挙動をシミュレートすることができる。
【0075】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【解決手段】コイルを有する電磁部品の解析モデルに基づいて、複数時点それぞれにおける電磁部品の挙動をシミュレートする処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、解析モデルに基づく磁界解析によって得られる、コイルにおける鎖交磁束と、コイルのインダクタンスと、コイルに流れる電流とを関連付けたルックアップテーブルを作成し、前回及び前々回のシミュレーションステップで算出したコイルに流れる電流を用いてルックアップテーブルを参照して、電磁部品の挙動をシミュレートする処理をコンピュータに実行させる。