特許第6781877号(P6781877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781877
(24)【登録日】2020年10月21日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】標的細胞捕捉装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20201102BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20201102BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20201102BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20201102BHJP
   C12N 5/09 20100101ALN20201102BHJP
   C12N 15/115 20100101ALN20201102BHJP
【FI】
   G01N33/543
   G01N1/10 BZNA
   C12M1/34 A
   C12M1/26
   !C12N5/09
   !C12N15/115
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-211026(P2015-211026)
(22)【出願日】2015年10月27日
(65)【公開番号】特開2017-83266(P2017-83266A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年10月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年10月21日、一般社団法人日本機械学会 第7回マイクロ・ナノ工学シンポジウムの講演論文集、https://www.semiconductorportal.com/submission/dl.cfm
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598062952
【氏名又は名称】株式会社オジックテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】中島 雄太
(72)【発明者】
【氏名】北村 裕介
(72)【発明者】
【氏名】安田 敬一郎
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−509823(JP,A)
【文献】 特開2006−214880(JP,A)
【文献】 特開2014−083000(JP,A)
【文献】 米国特許第05830680(US,A)
【文献】 中国実用新案第203754716(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 1/00− 1/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料を吸引して保持する本体と、
当該本体の先端部に着脱自在に取り付けられるディスポーサブル部と、
を備える標的細胞捕捉装置であって、
当該ディスポーサブル部は、
先端に生体試料導入部となる開口が設けられ、
当該本体との連結側に着脱自在に取り付けられる標的細胞捕捉フィルターを備え、
当該標的細胞捕捉フィルターは、
(i)元素周期表第10族元素、第11族元素及びこれらの組み合わせから選択される元素を含む担持層と、
(ii)当該担持層上に設けられている自己組織化単分子膜と、
(iii)当該担持層上に直接、又は当該自己組織化単分子膜を介して設けられており、標的細胞と特異的に結合するアプタマー又は抗体と、
を備え
当該担持層は、当該アプタマー又は抗体と結合しない大きな寸法の細胞も小さな寸法の細胞も共に通過させる粗大孔を有する、標的細胞捕捉装置。
【請求項2】
前記自己組織化単分子膜は、一方の末端基が前記担持層を構成する元素と結合しており、前記担持層に結合していない側の末端基の少なくとも一部は、前記アプタマー又は抗体と結合している、請求項1に記載の標的細胞捕捉装置。
【請求項3】
前記自己組織化単分子膜の担持層に結合していない側の末端基のうち前記アプタマー又は抗体が結合していない末端基の全部又は一部はキャップされている、請求項1又は2に記載の標的細胞捕捉装置。
【請求項4】
前記担持層は、金、白金、銀、パラジウム、銅及びこれらの組み合わせからなる群から選択される元素を含む、請求項1〜3のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
【請求項5】
前記自己組織化単分子膜は、一方の末端にチオール基を含み、他方の末端にカルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基又はN−ヒドロキシスクシンイミド基を含む、請求項1〜4のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
【請求項6】
前記アプタマー及び/又は前記自己組織化単分子膜は、チオール結合により前記担持層を構成する元素と結合している、請求項1〜5のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
【請求項7】
前記アプタマーは、アミド結合により前記自己組織化単分子膜と結合している、請求項1〜6のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
【請求項8】
前記自己組織化単分子膜の担持層に結合していない側の末端基のうち前記アプタマー又は抗体が結合していない末端基の全部又は一部は、メトキシ基、カルバモイル基、メチルカルバモイル基、ヒドロキシル基から選択される基でキャップされている、請求項1〜7のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
【請求項9】
前記自己組織化単分子膜の担持層に結合していない側の末端基であって、前記アプタマー又は抗体が結合していない末端基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又はアミノ基である、請求項1〜8のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
【請求項10】
前記標的細胞は血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell:CTC)である、請求項1〜8のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的細胞を特異的に捕捉する装置(以下「標的細胞捕捉装置」と称す。)に関し、特に腫瘍細胞を特異的に捕捉する装置(以下「腫瘍細胞捕捉装置」と称す。)に関する。
【背景技術】
【0002】
癌疾患特定に用いられる代表的な手法として腫瘍マーカーを用いる生検が一般的であるが、腫瘍は単クローン性の細胞の集合体ではなく、異なるプロファイルを持った細胞で構成されているため、細胞を採取する場所の違いで判定に異なる結果が生じるなどの問題点が指摘されている。進行癌では、腫瘍細胞が原発腫瘍細胞組織から剥離し、血液やリンパ液の流れに乗り、体内の別の臓器に移動することで癌転移が起こっていると考えられている。血流に乗って体内を循環する腫瘍細胞である血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell:CTC)の単位血液量(体積)当たりのCTCの個数が癌病態に対して高い相関を示すことが確認されているが、1mLの血液中にわずか数個〜10個程度のCTCが含まれているに過ぎず、一方血液細胞は10億個も存在しているため、CTCの検出が極めて困難である。これまで提案されているCTCの検出方法は、細胞サイズの差を利用するフィルター(たとえば特許文献1及び2、非特許文献1)や誘電泳動特性の差を利用するマイクロ流体デバイス(たとえば非特許文献2)などで分離した後に捕捉する方法、アビジン修飾プレートにビオチン修飾核酸アプタマーを固定化したプレートリーダーで捕捉する方法などが提案されている。しかし、フィルターは標的細胞以外の血球細胞やタンパク質成分などによる目詰まりを起こしやすく、前処理が必要になり、マイクロ流体デバイスは分離しながら捕捉するまでに長時間を要し、プレートリーダーは検出装置が限定されるなどの問題があり、標的細胞のみを簡便に短時間でかつ効率よく捕捉する手法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-30881号公報
【特許文献2】特開2014-83000号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】"Development of a New Rapid Isolation Device for Circulating Tumor Cells (CTCs) Using 3D Palladium Filter and Its Application for Genetic Analysis", PLOS ONE, Vol. 9, Issue 2, e88821
【非特許文献2】「誘電泳動を利用した血中希少がん細胞の検出・解析システムの開発」東ソー研究・技術報告 第58巻(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、血液などの生体試料中に含まれる標的細胞を簡便に短時間で且つ効率よく分離捕捉するための装置を提供することを目的とする。特に、従来の微細孔フィルターの目詰まり等の欠点を解消し、微量乃至大量の生体試料を扱うことのできる標的細胞捕捉装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究した結果、(i)元素周期表第10族元素、第11族元素及びこれらの組み合わせから選択される元素を含む担持層と、(ii)当該担持層上に設けられている自己組織化単分子膜と、(iii)当該担持層上に直接、又は当該自己組織化単分子膜を介して設けられており、標的細胞と特異的に結合するアプタマー又は抗体と、を備える標的細胞捕捉フィルターを用いることで、フィルターの孔径に左右されずに、標的細胞のみを捕捉し得ることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の具体的態様は以下を含む。
[1]生体試料を吸引して保持する本体と、
当該本体の先端部に着脱自在に取り付けられるディスポーサブル部と、
を備える標的細胞捕捉装置であって、
当該ディスポーサブル部は、
先端に生体試料導入部となる開口が設けられ、
当該本体との連結側に着脱自在に取り付けられる標的細胞捕捉フィルターを備え、
当該標的細胞捕捉フィルターは、
(i)元素周期表第10族元素、第11族元素及びこれらの組み合わせから選択される元素を含む担持層と、
(ii)当該担持層上に設けられている自己組織化単分子膜と、
(iii)当該担持層上に直接、又は当該自己組織化単分子膜を介して設けられており、標的細胞と特異的に結合するアプタマー又は抗体と、
を備える、標的細胞捕捉装置。
[2]前記自己組織化単分子膜は、一方の末端基が前記担持層を構成する元素と結合しており、前記担持層に結合していない側の末端基の少なくとも一部は、前記アプタマー又は抗体と結合している、[1]に記載の標的細胞捕捉装置。
[3]前記自己組織化単分子膜の担持層に結合していない側の末端基のうち前記アプタマー又は抗体が結合していない末端基の全部又は一部はキャップされている、[1]又は[2]に記載の標的細胞捕捉装置。
[4]前記担持層は、金、白金、銀、パラジウム、銅及びこれらの組み合わせからなる群から選択される元素を含む、[1]〜[3]のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
[5]請前記自己組織化単分子膜は、一方の末端にチオール基を含み、他方の末端にカルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基又はN−ヒドロキシスクシンイミド基を含む、[1]〜[4]のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
[6]前記アプタマー及び/又は前記自己組織化単分子膜は、チオール結合により前記担持層を構成する元素と結合している、[1]〜[5]のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
[7]前記アプタマーは、アミド結合により前記自己組織化単分子膜と結合している、[1]〜[6]のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
[8]前記自己組織化単分子膜の担持層に結合していない側の末端基のうち前記アプタマー又は抗体が結合していない末端基の全部又は一部は、メトキシ基、カルバモイル基、メチルカルバモイル基、ヒドロキシル基から選択される基でキャップされている、[1]〜[7]のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
[9]前記自己組織化単分子膜の担持層に結合していない側の末端基であって、前記アプタマー又は抗体が結合していない末端基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又はアミノ基である、[1]〜[8]のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
[10]前記標的細胞は血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell:CTC)である、[1]〜[9]のいずれか1に記載の標的細胞捕捉装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の標的細胞捕捉装置は、標的細胞をアプタマー又は抗体によって特異的に捕捉するため、フィルターの孔径に左右されずに、誤検出を抑制できる。また、フィルターの孔径を大きくすることができるため、従来の細胞径に依存するフィルタリングと異なり、大きな細胞を含む生体試料であってもフィルターの目詰まりが生じにくく、小さな標的細胞であってもアプタマー又は抗体によって特異的に捕捉することができる。また、フィルターの孔径を大きくすると、一度に多量の生体試料を流通させることができ、標的細胞の捕捉に要する時間を短縮することができる。さらに、フィルターの孔径に左右されないため、微量乃至大量の生体試料から標的細胞のみを捕捉することができる。
【0009】
本発明の標的細胞捕捉装置を用いることで、簡易かつ迅速に標的細胞のみを特異的に捕捉することができる。
【0010】
本発明の標的細胞捕捉装置に用いる標的細胞捕捉フィルターを簡易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の標的細胞捕捉装置の断面図である。
図2】本発明の標的細胞捕捉装置の全体斜視図である。
図3】本発明の標的細胞捕捉装置のディスポーサブル部の全体斜視図である。
図4】本発明の標的細胞捕捉装置のディスポーサブル部の断面図である。
図5】本発明の標的細胞捕捉装置のディスポーサブル部の分解図である。
図6】本発明の標的細胞捕捉装置のディスポーサブル部に挿入する標的細胞捕捉フィルターカセット保持部の分解図である。
図7】本発明の標的細胞捕捉装置のディスポーサブル部に挿入する標的細胞捕捉フィルターの標的細胞捕捉を示す模式図である。
図8】本発明の標的細胞捕捉装置のディスポーサブル部に挿入する標的細胞捕捉フィルターの構成例(アプタマーが直接担持層に結合している態様)を示す概略説明図である。
図9】本発明の標的細胞捕捉装置のディスポーサブル部に挿入する標的細胞捕捉フィルターの別の構成例(アプタマーが自己組織化単分子膜に結合している態様)を示す概略説明図である。
図10】本発明の標的細胞捕捉装置のディスポーサブル部に挿入する標的細胞捕捉フィルターの開口パターンの一例(円形)を示す電子顕微鏡写真(以下「SEM写真」と称す。)である。
図11】本発明の標的細胞捕捉装置のディスポーサブル部に挿入する標的細胞捕捉フィルターの開口パターンの別の一例(菱形)を示すSEM写真である。
図12】本発明の標的細胞捕捉装置のディスポーサブル部に挿入する標的細胞捕捉フィルターのパターンの別の一例(ピラー)を示すSEM写真である。
図13】実施例4において本発明の標的細胞捕捉フィルターで捕捉した標的細胞、正常細胞及び比較例の蛍光観察写真である。
図14】実施例5において本発明の標的細胞捕捉フィルターで捕捉した標的細胞及び正常細胞の蛍光観察写真である。
図15】実施例6において本発明の標的細胞捕捉フィルターで捕捉した標的細胞及び正常細胞の蛍光観察写真である。
図16】実施例7において本発明の標的細胞捕捉フィルターで捕捉した標的細胞及び正常細胞の蛍光観察写真である。
図17】実施例8において本発明の標的細胞捕捉フィルターで捕捉した標的細胞及び正常細胞の蛍光観察写真である。
【好ましい実施形態】
【0012】
添付図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0013】
図1乃至2は本発明の標的細胞捕捉装置全体、図3乃至5はディスポーサブル部、図6は標的細胞捕捉フィルターを示す。
【0014】
図1乃至2に示されているように、本発明の標的細胞捕捉装置1は、生体試料を吸引する本体10と、本体10の先端部に着脱自在に取り付けられるディスポーサブル部20と、を備える。本体10は、図示した実施態様では、先端のチップ部分を除いて一般的なマイクロピペットと同様の構造であり、生体試料を吸引して保持する生体試料保持部11と、生体試料の吸引と撹拌及び吐出を実現する2段階の押し込み形式のプッシュボタン12とを有する。しかし、本発明の標的細胞捕捉装置の本体10は生体試料を吸引できる構成であれば特に限定されず、また正確な微量の吸引及び吐出を必要としない場合には通常の注射器やチューブでもよい。ディスポーサブル部20は、図示した実施態様では、ネジ13で本体10に着脱自在に取り付けられる形式である。しかし、着脱自在に流体漏洩が生じない状態で取り付けられれば特に限定されず、気密シール付きの嵌合式でもよい。本体10及びディスポーサブル部20は、樹脂から射出成形等の公知の方法で作製することができる。樹脂としては、生体試料から標的細胞を捕捉する目的を阻害しない限り、一般的な樹脂を特に限定されずに用いることができる。
【0015】
図3乃至4に示されているように、ディスポーサブル部20は、先端に生体試料導入部211となる開口が形成されており、本体10との連結側の開口にフランジ212が形成されており、生体試料導入部211とフランジ212との間に形成された空間213及び214を有する本体部21に生体試料を吸引する。図示した形態において、空間213は、生体試料導入部211に向かって縮径するテーパー形状であり、空間213とフランジ212との間に形成される空間214は寸胴形状である。空間213と214との境界に標的細胞捕捉フィルター30が定置される。
【0016】
図5乃至6に示されているように、標的細胞捕捉フィルター30は、フィルターカセット23及びカセット保持部22を用いてディスポーサブル部20の空間214に挿入され、定置に保持される。
【0017】
図示した態様において、フィルターカセット23は、標的細胞捕捉フィルター30と同径のリング231と、リング231の半周にわたって立設されている保持用側壁面232とを有する。カセット保持部22は、ディスポーサブル部20のフランジ212に載置されるフランジ221と、標的細胞捕捉フィルター30を載置して、ディスポーサブル部20の空間214に嵌合する円筒の底面外周部223と、底面外周部223の半円周に沿って立設されている側壁面222と、を有する。側壁面222には、底面外周部223の上にフィルターカセット23を受け入れて嵌合する寸法及び形状の凹部224が形成されている。標的細胞捕捉フィルター30は、フィルターカセット23のリング231及び保持用側壁面232で挟まれた状態でカセット保持部22の底面外周部223の上に載置され、フィルターカセット23を側壁面222に向けてスライドさせて、側壁面222の凹部に挿入する。フィルターカセット23を保持した状態でのカセット保持部22の底面の径は、ディスポーサブル部20の空間214に嵌合保持される大きさである。図示した態様において、カセット保持部22のフランジ221の開口部内径と、底面外周部223の開口部内径とは同じ寸法である。なお、図示した態様では、標的細胞捕捉フィルター30は1枚であるが、同じ形状あるいは異なる形状の複数枚の標的細胞捕捉フィルターを組み合わせて用いてもよい。
【0018】
図7は標的細胞捕捉フィルター30の標的細胞を捕捉した状態を示す模式図である。図示した態様において、標的細胞Tは、アプタマー33に特異的に結合して捕捉され、赤血球R及び白血球Wは担持層31の開孔を通過する。なお、赤血球及び白血球は説明のために示したものであるがこれらに限定されず、標的細胞以外の細胞など生体試料に含まれている物質である。
【0019】
次に、図8乃至12を参照しながら、標的細胞捕捉フィルター30について説明する。
【0020】
図8乃至9に示されているように、標的細胞捕捉フィルター30は、(i)元素周期表第10族元素、第11族元素及びこれらの組み合わせから選択される元素を含む担持層31と、(ii)担持層31上に設けられている自己組織化単分子膜32と、(iii)担持層31上に直接又は自己組織化単分子膜32を介して設けられており、標的細胞と特異的に結合するアプタマー又は抗体33と、を備える。
【0021】
担持層31は、元素周期表第10族元素、第11族元素及びこれらの組み合わせから選択される元素を含む金属基板、あるいは金属、ガラス、プラスチック又は紙などの支持基板の少なくとも一面に上記元素をメッキ、蒸着、スパッタリングなどの公知の方法を用いて成膜したものでよい。また、ニッケル系合金(たとえばニッケル−コバルト、ニッケル−リンなど)、クロム系合金、スズ系合金などで支持基板をメッキした後に、元素周期表第10族元素、第11族元素及びこれらの組み合わせから選択される元素を電鋳により成膜して、担持層31を形成してもよい。いずれの成膜方法でも、支持基板は特に限定されず、担持層31の少なくとも表面に、元素周期表第10族元素、第11族元素及びこれらの組み合わせから選択される元素を有していればよく、特に金、白金、銀、パラジウム、銅及びこれらの組み合わせからなる群から選択される元素を含むことが好ましい。また、担持層31は、10乃至20μmの薄膜でも形状を保持して自立できる硬さを有することが好ましい。
【0022】
図8はアプタマー又は抗体33が担持層31に直接、化学的に結合している態様である。図9はアプタマー又は抗体33が自己組織化単分子膜32に化学的に結合した状態で担持層31に設けられている態様である。図示した態様において、アプタマー又は抗体33、及び/又は、自己組織化単分子膜32は、チオール結合により担持層31を構成する元素と結合している。
【0023】
自己組織化単分子膜32は、一方の末端にチオール基を含み、他方の末端にカルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基、又はN−ヒドロキシスクシンイミド基を含む。これらの官能基で末端が修飾されているポリエチレングリコール膜又はヒドロキシアルカンチオール膜から形成することができる。ヒドロキシアルカンチオールとしては、例えば、ヒドロキシ−EG6−ウンデカンチオール、ヒドロキシ−EG3−ウンデカンチオール、ヒドロキシ−EG6−ヘキサデカンチオール、ヒドロキシ−EG3−ヘキサデカンチオール、6−メルカプト−1−ヘキサノール、アミノ−EG6−ウンデカンチオールヒドロクロライド、アミノ−EG6−ヘキサデカンチオールヒドロクロライド、カルボキシ−EG6−ヘキサデカンチオール、カルボキシ−EG6−ウンデカンチオール、15−カルボキシ−1ペンタデカンチオール、10−カルボキシ−1−デカンチオール、7−カルボキシ−1−ヘプタンチオール、5−カルボキシ−1−ペンタンチオール、16−アミノ−1−ヘキサデカンチオールヒドロクロライド、11−アミノ−1−ウンデカンチオールヒドロクロライド、8−アミノ−1−オクタンチオールヒドロクロライド、6−アミノ−1−ヘキサンチオールヒドロクロライド、16−ヒドロキシ−1−ヘキサンデカンチオール、11−ヒドロキシ−1−ウンデカンチオール、8−ヒドロキシ−1−オクタンチオール、6−ヒドロキシ−1−ヘキサンチオールを好適に挙げることができるが、これらに限定されない。
【0024】
自己組織化単分子膜32にアプタマー又は抗体33が結合している態様では、自己組織化単分子膜32の末端のカルボキシル基又はヒドロキシル基を活性化するために官能基で修飾した後に、当該官能基をアプタマー又は抗体33で置換してもよい。非限定的に自己組織化単分子膜32の末端基を修飾する官能基は、N−ヒドロキシスクシンイミド基、又はマレイミド基であることが好ましい。
【0025】
自己組織化単分子膜32の末端がN−ヒドロキシスクシンイミド基の場合、アミノ化アプタマー又は抗体33のアミノ基と反応させて、これらを自己組織化単分子膜32に結合させることができる。自己組織化単分子膜32の末端がアミノ基の場合、例えば化学合成したN−ヒドロキシスクシンイミド化アプタマー、又は、カルボキシル末端をN−ヒドロキシスクシンイミド化した抗体を、自己組織化単分子膜32に結合させることができる。
【0026】
自己組織化単分子膜32の末端がアミノ基の場合、これをさらにマレイミド化して、自己組織化単分子膜32の末端を修飾する官能基をマレイミド基としてもよい。具体的には、非限定的に、片方の端にN−ヒドロキシスクシンイミド基を有し、もう一方の端にマレイミド基を有する二価性試薬、例えば、N−(6−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(EMCS)(例えば、株式会社 同仁化学研究所より入手可能)を、末端にアミノ基を有する自己組織化単分子膜と反応させると、自己組織化単分子膜32の末端を修飾する官能基がマレイミド基となる。この場合、化学合成したチオール化アプタマー、又は、チオール基を有する抗体(システイン残基を有する抗体)を、自己組織化単分子膜32に結合させることができる。
【0027】
アプタマー又は抗体33で置換されなかった官能基が残存することもある。核酸アプタマーが結合しなかった官能基、たとえばN−ヒドロキシスクシンイミド基は水中で分解し、自己組織化単分子膜32の末端としてはヒドロキシル基又はカルボキシル基が残る。自己組織化単分子膜32の末端基がマレイミド基で修飾されている場合には、核酸アプタマーが結合しなかったマレイミド基は自己組織化単分子膜32の末端基として残る。残ったマレイミド基は、一方の末端にSH基を有し、他方の末端がメトキシ基(−OCH)、カルバモイル基(−CONH)、メチルカルバモイル基(−CONHCH)及びヒドロキシル基(−OH)を有するキャッピング剤でキャッピングすることが必要となる。
【0028】
自己組織化単分子膜32の末端基のうちアプタマー又は抗体33が結合していない末端基がN−ヒドロキシスクシンイミド基である場合、その全部又は一部は、一方の末端にNH基を有し、他方の末端がメトキシ基(−OCH)、カルバモイル基(−CONH)、メチルカルバモイル基(−CONHCH)及びヒドロキシル基(−OH)から選択される基を有するキャッピング剤でキャップされていることがより好ましい。
【0029】
自己組織化単分子膜32の末端基のうちアプタマー又は抗体33が結合していない末端基がアミノ基である場合、その全部又は一部は、一方の末端にN−ヒドロキシスクシンイミド基を有し、他方の末端がメトキシ基(−OCH)、カルバモイル基(−CONH)、メチルカルバモイル基(−CONHCH)及びヒドロキシル基(−OH)から選択される基を有するキャッピング剤でキャップされていることがより好ましい。
【0030】
上記のように、アプタマー又は抗体33が結合していない末端基をキャップすることで、標的細胞以外の細胞との非特異的結合を抑制することができ、より確実に標的細胞のみを捕捉することができる。
【0031】
アプタマー33は、特定の分子と特異的に結合する分子やペプチドである。通常ランダム配列の巨大ライブラリ中から選び出してくるが、自然界にも存在し、リボスイッチとして知られており、基礎から薬剤探索などの応用まで幅広く研究されている。リボザイムと複合体化したアプタマーも存在しており、ターゲット分子存在下で自己切断するものが知られている。アプタマーは、核酸(DNA・RNA)アプタマー、ペプチドアプタマーの2種に大別される。核酸アプタマーは化学合成が可能であるため、コストを大幅に下げることができ、核酸を用いることでDNA折り紙やナノワイヤー等のように「静的な構造」のみならず、DNAウォーカーや、リボスイッチ、アプタザイムのような「動的な構造」を自在にプログラミングすることが可能となる(ダイナミックプログラミング)ので好ましい。このプログラムを利用して、腫瘍細胞捕捉のシグナルを増幅することも可能である。当業者は、標的細胞の種類に応じて細胞の細胞表面物質に特異的に結合する核酸アプタマーを適宜選択することができる。たとえば、上皮細胞接着分子(EpCAM:Epithelial Cell Adhesion Molecule)に対する核酸アプタマーを好適に挙げることができる。上皮細胞接着分子は、特に血中循環腫瘍細胞(CTC)の細胞表面物質であることが知られており、これに対する核酸アプタマーを利用可能である(例えば、Analytical Chemistry, 2013,85,p.4141−4149を参照されたい)。したがって、本発明の標的細胞捕捉装置は、標的細胞として血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell:CTC)を特異的に捕捉することができる。
【0032】
抗体33としては、特に限定されるわけではないが、標的細胞がCTCである場合には、上皮細胞接着分子(EpCAM:Epithelial Cell Adhesion Molecule)に対する抗体を好適に挙げることができる。たとえば、abcam製カタログNo.ab32392で入手可能なウサギ抗ヒトEpCAMモノクローナルIgG抗体などを挙げることができる。また、標的細胞がCTCでない場合も、標的細胞表層に発現しているタンパク質を介して、特異的に捕捉することができる。たとえば急性骨髄性白血病を発症している白血球を捕捉する場合、abcam製カタログNo.ab97426を用いればよい。
【0033】
図10乃至12は、標的細胞捕捉フィルター30の担持層31のパターン例を示すSEM写真である。図10は金基板に円形微細孔を形成した担持層31であり、図11は金基板に菱形の粗大孔を形成した担持層31である。円形微細孔を有する担持層31は、大きな寸法の細胞のみ捕捉し、小さな寸法の細胞(たとえば、約7μm径の赤血球や約15μm径の白血球)は通過させ、大きな標的細胞のみを捕捉する篩の機能も有する。菱形粗大孔を有する担持層31は、アプタマー又は抗体33と特異的に結合する細胞のみを捕捉し、アプタマー又は抗体33と結合しない大きな寸法の細胞も小さな寸法の細胞も共に通過させる。図12は、金基板上に複数のピラーを立設した担持層31である。金基板及びピラーの全表面にアプタマー又は抗体33を直接又は間接的に結合させることで、基板面積当たりの標的細胞との接触を増やし、より多量の標的細胞を捕捉することが可能となる。
【0034】
次に、本発明の標的細胞捕捉装置に組み込む標的細胞捕捉フィルター30の製造方法を説明する。
【0035】
担持層31は、元素周期表第10族元素、第11族元素及びこれらの組み合わせから選択される元素を含む金属基板を所定厚み(約5〜約50μm、好ましくは約10〜約20μm)に加工したものをそのまま用いてもよいし、あるいは金属、ガラス、プラスチック又は紙などの支持基板の少なくとも一面に上記元素をメッキ、蒸着、スパッタリングなどの公知の方法を用いて成膜したものを用いてもよい。担持層31に図10乃至12に示すような開孔又はピラーを設ける場合には、公知のフォトリソグラフィー技術や電鋳技術などを用いて形成することができる。
【0036】
次いで、担持層31の上に、アプタマー又は抗体33を直接化学結合させ、自己組織化単分子膜32を成膜させるか、もしくは担持層31の上に自己組織化単分子膜32を化学結合させ、自己組織化単分子膜32にアプタマー又は抗体33を化学結合させる。
【0037】
担持層31とアプタマー又は抗体33とを直接結合させるか、もしくは自己組織化単分子膜32を化学結合させるには、担持層31を構成する金属元素とのチオール結合が好適であり、アプタマー又は抗体、もしくは自己組織化単分子膜の一方の末端にチオール基を導入しておくことが望ましい。
【0038】
自己組織化単分子膜32とアプタマー又は抗体33とはアミド結合させることが好適である。アミド結合を導入するには、自己組織化単分子膜32の末端基を活性化させておくことが好適であり、N−ヒドロキシスクシンイミド基、カルボキシル基、マレイミド基及びアミノ基からなる群から選択される官能基を導入することが好ましい。これらの官能基を導入するには、担持層31上に形成されている自己組織化単分子膜を脂肪族アミン化合物、脂肪族チオール、脂肪族アルコールもしくは脂肪族カルボン酸と接触させることが好ましい。次いでこの官能基とアプタマー又は抗体33とを置換することで、自己組織化単分子膜32にアプタマー又は抗体33を結合させることができる。
【0039】
アプタマー又は抗体33が結合していない自己組織化単分子膜32の末端基は、メトキシ基(−OCH)、カルバモイル基(−CONH)、メチルカルバモイル基(−CONHCH)基またはヒドロキシル基(−OH)などでキャッピングすることが好ましく、自己組織化単分子膜32及びアプタマー又は抗体33が形成されている担持層31をこれらの基を含む脂肪族アミンなどと接触させることが好ましい。
【0040】
具体的に、非限定的例として、担持層31として銅基板上に金メッキを施し、自己組織化単分子膜32としてヒドロキシアルカンチオール膜を成膜し、アプタマー33として末端アミノ化アプタマーを結合させた標的細胞捕捉フィルターの製造を説明する。
(1)自己組織化単分子膜の末端がヒドロキシル基である標的細胞捕捉フィルターの製造(図9(1))
銅基板の一面にNiメッキを施した後、金メッキを施して、担持層31を調製する。次いで、担持層31を自己組織化単分子膜の溶液(ヒドロキシ−EG6−ウンデカンチオールのエタノール溶液)中に浸漬し、担持層31上に自己組織化単分子膜32を形成させる。次いで、自己組織化単分子膜32が形成されている担持層31に、炭酸N,N’−ジスクシンイミジル(DSC)を滴下し、自己組織化単分子膜32の末端に官能基(N−ヒドロキシスクシンイミド基)を導入して、末端基を活性化させる。次いで、末端アミノ化アプタマー溶液を滴下して、自己組織化単分子膜32の末端の官能基と反応させ、アミド結合にてアプタマーを結合させて、標的細胞捕捉フィルター30を作製する。この際、アプタマーと結合しなかった末端の官能基は水中で分解されてヒドロキシル基として残る。
(2)自己組織化単分子膜の末端がカルボキシル基である標的細胞捕捉フィルターの製造
銅基板の一面にNiメッキを施した後、金メッキを施して、担持層31を調製する。次いで、担持層31を自己組織化単分子膜の溶液(カルボキシ−EG6−ウンデカンチオールのエタノール溶液)中に浸漬し、担持層31上に自己組織化単分子膜32を形成させる。次いで、自己組織化単分子膜32が形成されている担持層31に、炭酸N,N’−ジスクシンイミジル(DSC)を滴下し、自己組織化単分子膜32の末端に官能基(N−ヒドロキシスクシンイミド基)を導入して、末端基を活性化させる。次いで、末端アミノ化アプタマー溶液を滴下して、自己組織化単分子膜32の末端の官能基と反応させ、アミド基結合にてアプタマーを結合させて、標的細胞捕捉フィルター30を作製する。この際、アプタマーと結合しなかった末端の官能基は水中で分解されてカルボキシル基として残る。
(3)自己組織化単分子膜の末端がアミノ基である標的細胞捕捉フィルターの製造
銅基板の一面にNiメッキを施した後、金メッキを施して、担持層31を調製する。次いで、担持層31を自己組織化単分子膜の溶液(アミノ−EG6−ウンデカンチオールのエタノール溶液)中に浸漬し、自己組織化単分子膜32を形成させる。次いで、末端N−ヒドロキシスクシンイミド化アプタマー溶液を滴下して、自己組織化単分子膜32の末端のアミノ基とアプタマーのN−ヒドロキシスクシンイミド基を反応させ、アプタマーをアミド結合によって連結させて、標的細胞捕捉フィルター30を作製する。この際、アプタマーと結合しなかった末端の官能基はそのままアミノ基として残る。
(4)自己組織化単分子膜の末端をマレイミド基で修飾してアプタマーを結合させた標的細胞捕捉フィルターの製造
銅基板の一面にNiメッキを施した後、金メッキを施して、担持層31を調製する。次いで、担持層31を自己組織化単分子膜の溶液(アミノ−EG6−ウンデカンチオールのエタノール溶液)中に浸漬し、担持層31上に自己組織化単分子膜32を形成させる。次いで、自己組織化単分子膜32が形成されている担持層31に、マレイミド基及びN−ヒドロキシスクシンイミド基を両末端に有する二価性試薬溶液(EMCS(N−(6−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド:化1)のアセトニトリル溶液)を滴下し、自己組織化単分子膜32の末端に官能基(マレイミド基)を導入する。次いで、末端チオール化アプタマー溶液を滴下して、自己組織化単分子膜32の末端の官能基とアプタマーチオール基を反応させることで、アプタマーを結合させ、標的細胞捕捉フィルター30を作製する。この際、アプタマーと結合しなかった末端のマレイミド基はキャッピング剤(片方にチオール基、もう片方にメトキシ基(−OCH)、カルバモイル基(−CONH)、メチルカルバモイル基(−CONHCH)基、又はヒドロキシル基(−OH)などを含む化合物)でキャッピングする。
【0041】
【化1】
【0042】
(5)自己組織化単分子膜の末端を官能基でキャップした標的細胞捕捉フィルターの製造(図9(2))
自己組織化単分子膜32の末端に官能基を導入した後、末端アミノ化アプタマーとキャッピング剤(メトキシ基(−OCH)、カルバモイル基(−CONH)、メチルカルバモイル基(−CONHCH)基、又はヒドロキシル基(−OH)などを含む)を添加する以外は、上記(1)〜(3)と同様にして、自己組織化単分子膜の末端官能基をキャップした標的細胞捕捉フィルターを作製する。
(6)担持層31に核酸アプタマー33を直接結合させた標的細胞捕捉フィルターの製造(図8
銅基板の一面にNiメッキを施した後、金メッキを施して担持層31を調製する。次に、末端チオール化アプタマー溶液を担持層31表面に添加し、担持層31にアプタマー33を直接、チオール結合させる。次いで、アプタマー33が結合している担持層31を自己組織化単分子膜の溶液(ヒドロキシ−EG6−ウンデカンチオールのエタノール)中に浸漬し、自己組織化単分子膜32を形成させて、標的細胞捕捉フィルター30を作製する。この場合、自己組織化単分子膜の担持層に結合していない側の末端は、ヒドロキシル基若しくは上記キャッピング剤でキャップされた官能基でよい。
【0043】
次に、本発明の標的細胞捕捉装置の使用方法を説明する。
【0044】
標的細胞捕捉フィルター30をカセット保持部22の底面外周部223の上に載置し、標的細胞捕捉フィルター30の上にフィルターカセット23のリング231を載置する。この状態で、標的細胞捕捉フィルター30及びフィルターカセット23をカセット保持部22の側壁面222の凹部に挿入する。次いで、カセット保持部22をディスポーサブル部20の空間214にはめ込み、カセット保持部22のフランジ221をディスポーサブル部20のフランジ212に載置して固定する。組み立てたディスポーサブル部20を本体10にネジ13で取り付ける。
【0045】
生体試料にディスポーサブル部20を浸漬し、プッシュボタン12を1段目の押し込み部まで押し込み、生体試料をディスポーサブル部20の空間213及び214に吸引する。この状態で、プッシュボタン12を1段目の押し込み部まで押し込む操作を複数回繰り返す。こうして、生体試料が標的細胞捕捉フィルター30と複数回接触し、標的細胞が捕捉される。所定量の生体試料の吸引が完了したら、プッシュボタン12を2段目の押し込み部まで押し込み、生体試料を排出する。
【0046】
本体10からディスポーサブル部20を取り外し、カセット保持部22を取り出し、フィルターカセット23を外して、標的細胞捕捉フィルター30を直接蛍光観察に供するか、あるいは検出用試薬に投入し、検出用試薬内での検出シグナル応答を観察することができる。検出用試薬は、標的細胞に応じて適宜選択することができる。また、捕捉された標的細胞が微量である場合には、トリガーが結合した核酸アプタマー(以下「トリガー−核酸アプタマー複合体」と称す。)を含む検出用試薬を用いて、蛍光シグナルを増幅させてもよい。トリガー−核酸アプタマー複合体に用いる核酸アプタマーは、標的細胞捕捉フィルターに用いられているアプタマーと同種でも異種でもよい。トリガー−核酸アプタマー複合体が標的細胞と結合すると、トリガー核酸が放出され、蛍光色素で修飾されているDNAプローブが発光し、蛍光シグナルが増幅される。
【0047】
本発明の標的細胞捕捉装置は、生体試料から標的細胞を特異的に捕捉することができる。生体試料としては、例えば体液又は組織単離液から選択され得る、標的細胞を含む可能性のある液体試料を好適に挙げることができる。「体液」とは、一般に、血液(血液全体又は血漿)、リンパ液、組織液(組織間液、細胞間液、間質液)、体腔液(関節液、脳脊髄液、漿膜腔液、眼房水等)等を意味する。さらに、消化液(唾液、胃液、胆汁、膵液、腸液等)、汗、涙等も含まれる。好ましくは、血液(血液全体又は血漿)である。「組織単離液」とは、生体組織を公知の方法で単離・分散し、液体状にしたものを意味する。組織の種類は特に限定されず、胃、腸、皮膚、肺、乳房、前立腺、精巣、卵巣、子宮、骨髄等、任意の生体組織を適宜対象として使用しうる。生体組織の単離・分散のための試薬は、例えば、トリプシン、パパイン、エラスターゼ、ヒアルロニターゼ、コラゲナーゼ又はこれらの混合物などの酵素を含む試薬を、生体組織や細胞の種類に応じて適宜使用し得る。例えば、トリプシン、コラゲナーゼなどの複数の酵素を含むCell Isolation Optimizing System(フナコシ株式会社製)など市販の試薬を用いてもよい。
【0048】
標的細胞としては、腫瘍細胞、その他の一般的な培養細胞、分化多能性細胞などを含み得る。好ましくは、腫瘍細胞である。腫瘍の種類は特に限定されず、脳悪性腫瘍、胃癌、肺癌、乳癌、咽頭癌、食道癌、大腸癌、肝癌、子宮癌、精巣癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、基底細胞癌、悪性リンパ腫、白血病、神経膠腫等を含む。腫瘍細胞は、原発性腫瘍細胞、転移性腫瘍細胞、血中循環腫瘍細胞等を含む。好ましくは、血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell:CTC)である。
【0049】
本発明の標的細胞捕捉装置により捕捉した標的細胞が検出できないほど極微量である場合には、適宜のシグナル(蛍光など)増幅方法や核酸複製増幅方法などを用いることで、微量標的細胞の検出にも適用できる。たとえば、血液から血中循環腫瘍細胞(CTC)を標的細胞として捕捉した標的細胞捕捉フィルターをトリガー−核酸アプタマー複合体、核酸複合体及び燃料核酸を含む検出溶液に浸漬し、核酸アプタマー複合体から放出されるトリガー核酸によってCTCの蛍光を増幅させて蛍光を検出し、癌細胞の有無を判断することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
標的細胞として血中循環腫瘍細胞を捕捉する場合を例にして、本発明の標的細胞捕捉装置の製作及び標的細胞の捕捉を説明する。
【0052】
[実施例1]
−自己組織化単分子膜の末端がヒドロキシル基である標的細胞捕捉フィルターの製造
担持層31として、銅基板の一面にNiメッキを施した後、金メッキを施した基板を準備した。この基板をピラニア溶液と10分間接触させて表面を洗浄し、さらに、超純水及びエタノールで洗浄した後、窒素を吹きかけて乾燥させた。次いで、この基板を1mMヒドロキシ−EG6−ウンデカンチオールのエタノール溶液中に浸漬し、飽和蒸気圧下、12時間室温で反応させて自己組織化単分子膜32を形成させた。次いで、この基板をエタノールで洗浄し、窒素を吹きかけて乾燥させた後、10mM N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド溶液を滴下し、飽和蒸気圧下で5時間静置し、自己組織化単分子膜32の末端にN−ヒドロキシスクシンイミド基を導入した。次いで、乾燥アセトニトリルで洗浄し、窒素を吹きかけて乾燥させた後、PBS(リン酸緩衝食塩水)中にて調製した10μM末端アミノ化アプタマー溶液(3’末端側にトリエチレングリコールスペーサーを介し、ヘキサメチレンアミンを導入した構造のアプタマー)を滴下して、飽和蒸気圧下で3時間静置し、自己組織化単分子膜32の末端のN−ヒドロキシスクシンイミド基とアプタマーのアミノ基を反応させ、アミド結合にてアプタマーを結合させた。最後にPBSで洗浄し、窒素を吹きかけて乾燥させ、標的細胞捕捉フィルター30を作製した。
【0053】
[実施例2]
−自己組織化単分子膜の末端を官能基でキャップした標的細胞捕捉フィルターの製造
ヒドロキシ−EG6−ウンデカンチオールの自己組織化単分子膜32の末端にN−ヒドロキシスクシンイミド基を導入した後、10μM末端アミノ化アプタマー(3’末端側にトリエチレングリコールスペーサーを介し、ヘキサメチレンアミンを導入した構造のアプタマー)と0.1μMメトキシエチルアミンの混合溶液(PBS中にて調製)を添加し、37℃で3時間静置し、PBSで洗浄後、窒素を吹きかけて乾燥させ、次に2mg/mLメトキシエチルアミン溶液(PBS中にて調製)を基板上に添加し、37℃で3時間静置した以外は、実施例1と同様にして、自己組織化単分子膜の末端を官能基でキャップした標的細胞捕捉フィルターを作製した。
【0054】
[実施例3]
−担持層31に核酸アプタマー33を直接結合させた標的細胞捕捉フィルターの製造
担持層31として、銅基板の一面にNiメッキを施した後、金メッキを施した基板を準備した。この基板をピラニア溶液と10分間接触させて表面を洗浄し、さらに、超純水及びエタノールで洗浄した後、窒素を吹きかけて乾燥させた。次いで、PBS溶液中にて調製した10μM末端チオール化アプタマー溶液(3’末端側にヘキサエチレングリコールスペーサーを介し、トリメチレンチオールを導入した構造のアプタマー)を基板表面に添加し、飽和蒸気圧下で24時間反応させて、担持層31にアプタマー33を直接、チオール結合させた。次いで、アプタマー33が結合している担持層31を1mMヒドロキシ−EG6−ウンデカンチオールのエタノール溶液中に浸漬し、飽和蒸気圧下、2時間室温で反応させて自己組織化単分子膜32を形成させた。次いで、エタノールで洗浄し、窒素を吹きかけて乾燥させて、標的細胞捕捉フィルター30を作製した。
【0055】
[実施例4]
−標的細胞としての腫瘍細胞の捕捉
多くの固形癌種の細胞膜上に高発現しているEpCAMに対するアプタマー(配列番号1)を用い、癌細胞の特異的な捕捉を試みた。
【0056】
MDA−MB−453(ヒト乳癌細胞)(独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターより入手)及びKATOIII(ヒト胃癌由来細胞)(独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターより入手)を標的細胞として、細胞膜をDiO(緑色標識染色体)で染色し、HEK293T(ヒト胎児腎由来細胞)(独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターより入手)を対照となる正常細胞として、細胞膜をDiD(赤色標識染色体)で染色し、細胞の核をDAPI(4’、6−ジアミジノ−2−フェニルインドール、青色標識染色体)で染色した後、それぞれの懸濁液(2×10細胞/mL)中に、細胞膜上の疎水性が高い部位への非特異的な吸着を抑えるため、マスキング剤としてtRNA(1mg/mL)を加え、撹拌後、37℃で30分インキュベートし、3種類のサンプル生体試料を調製した。
【0057】
次いで、実施例2で作製した標的細胞捕捉フィルターに3種類の生体試料を滴下し、PBSで洗浄した後、蛍光を観察した。結果を図13に示す。比較例として、標的細胞捕捉フィルターの代わりに、アプタマーを修飾していない金メッキ銅基板からなるフィルターを用いた以外は同様に行った。
【0058】
図13左側からMDA−MB−453(ヒト乳癌細胞)及びKATOIII(ヒト胃癌由来細胞)の赤色の蛍光は観察されたが、正常細胞であるHEK293T(ヒト胎児腎由来細胞)の赤色の蛍光は観察されなかったことから、本発明の標的細胞捕捉装置を用いることで、標的細胞のみを特異的に捕捉できたことが確認できた。また、比較例(図13右側)では、赤色の蛍光が観察できず、標的細胞を捕捉できなかったことが確認できた。
【0059】
[実施例5]
実施例1で製造した標的細胞捕捉フィルターを用いた以外は実施例4と同様にして、標的細胞を捕捉し、蛍光観察を行った。結果を図14に示す。
【0060】
図14(a)は正常細胞であるHEK293T(ヒト胎児腎由来細胞)をDiDの蛍光で観察した画像であり、図14(b)はHEK293TをDAPIの蛍光で観察した画像であり、図14(c)は(a)と(b)をマージした画像である。図14(a)〜(c)より、正常細胞はほとんど捕捉されていないことが確認できる。図14(d)は捕捉されたMDA−MB−453(ヒト乳癌細胞)の細胞膜をDiOの蛍光で観察した画像であり、図14(e)は捕捉されたMDA−MB−453の細胞核をDAPIの蛍光で観察した画像であり、図14(f)は(d)と(e)をマージした画像である。図14(d)〜(f)より、標的細胞であるMDA−MB−453(ヒト乳癌細胞)の蛍光が確認できた。図14(c)と(f)を対比することによって標的細胞のみを特異的に捕捉できたといえる。
【0061】
[実施例6]
実施例3で製造した標的細胞捕捉フィルターを用いた以外は実施例4と同様にして、標的細胞を捕捉し、蛍光観察を行った。結果を図15に示す。
【0062】
図15(a)は正常細胞であるHEK293T(ヒト胎児腎由来細胞)をDiDの蛍光で観察した画像であり、図15(b)はHEK293TをDAPIの蛍光で観察した画像であり、図15(c)は(a)と(b)をマージした画像である。図15(a)〜(c)より、赤色の蛍光は非常に少なく、正常細胞はあまり捕捉されていないことが確認できる。図15(d)はMDA−MB−453(ヒト乳癌細胞)の細胞膜をDiO蛍光で観察した画像であり、図15(e)はMDA−MB−453の細胞核をDAPIの蛍光で観察した画像であり、図15(f)は(d)と(e)をマージした画像である。図15(d)〜(f)より、標的細胞であるMDA−MB−453(ヒト乳癌細胞)の蛍光が多数確認できた。図15(c)と(f)を対比することによって標的細胞のみを特異的に捕捉できたといえる。
【0063】
[実施例7]
担持層31として、銅基板の一面にNiメッキを施した後、金メッキを施した基板を準備した。この基板をピラニア溶液と10分間接触させて表面を洗浄し、さらに、超純水及びエタノールで洗浄した後、窒素を吹きかけて乾燥させた。次いで、この基板を1mM6−メルカプト−1−ヘキサノールのエタノール溶液中に浸漬し、飽和蒸気圧下、12時間室温で反応させて自己組織化単分子膜32を形成させた。次いで、この基板をエタノールで洗浄し、窒素を吹きかけて乾燥させた後、10mM N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド溶液を滴下し、飽和蒸気圧下で5時間静置し、自己組織化単分子膜32の末端にN−ヒドロキシスクシンイミド基を導入した。次いで、乾燥アセトニトリルで洗浄し、窒素を吹きかけて乾燥させた後、PBS(リン酸緩衝食塩水)中にて調製した10μM末端アミノ化アプタマー溶液(3’末端側にトリエチレングリコールスペーサーを介し、ヘキサメチレンアミンを導入した構造のアプタマー)を滴下して、飽和蒸気圧下で3時間静置し、自己組織化単分子膜32の末端のN−ヒドロキシスクシンイミド基とアプタマーのアミノ基を反応させ、アミド結合にてアプタマーを結合させた。最後にPBSで洗浄し、窒素を吹きかけて乾燥させ、標的細胞捕捉フィルター30を作製した。
【0064】
自己組織化単分子膜として6−メルカプト−1−ヘキサノールを用いて上記の標的細胞捕捉フィルターを用いた以外は、実施例4と同様にして、標的細胞を捕捉し、蛍光観察を行った。結果を図16に示す。
【0065】
図16(a)は正常細胞であるHEK293T(ヒト胎児腎由来細胞)をDiDの蛍光で観察した画像であり、図16(b)はHEK293TをDAPIの蛍光で観察した画像であり,図16(c)は(a)と(b)をマージした画像である。図16(a)〜(c)より、正常細胞はあまり捕捉されていないことが確認できる。図16(d)はMDA−MB−453(ヒト乳癌細胞)の細胞膜をDiO蛍光で観察した画像であり、図16(e)はMDA−MB−453の細胞核をDAPIの蛍光で観察した画像であり、図16(f)は(d)と(e)をマージした画像である。図16(d)〜(f)より、標的細胞であるMDA−MB−453(ヒト乳癌細胞)の多数の蛍光が明瞭に確認できた。図16(c)と(f)を対比することによって標的細胞のみを特異的に捕捉できたといえる。
【0066】
[実施例8]
担持層31として、銅基板の一面にNiメッキを施した後、金メッキを施した基板を準備した。この基板をピラニア溶液と10分間接触させて表面を洗浄し、さらに、超純水及びエタノールで洗浄した後、窒素を吹きかけて乾燥させた。次いで、PBS溶液中にて調製した10μM末端チオール化アプタマー溶液(3’末端側にヘキサエチレングリコールスペーサーを介し、トリメチレンチオールを導入した構造のアプタマー)を基板表面に添加し、飽和蒸気圧下で24時間反応させて、担持層31にアプタマー33を直接、チオール結合させた。次いで、アプタマー33が結合している担持層31を1mM6−メルカプト−1−ヘキサノールのエタノール溶液中に浸漬し、飽和蒸気圧下、2時間室温で反応させて自己組織化単分子膜32を形成させた。次いで、エタノールで洗浄し、窒素を吹きかけて乾燥させて、標的細胞捕捉フィルター30を作製した。
【0067】
自己組織化単分子膜として6−メルカプト−1−ヘキサノールを用いて上記の標的細胞捕捉フィルターを用いた以外は、実施例4と同様にして、標的細胞を捕捉し、蛍光観察を行った。結果を図17に示す。
【0068】
図17(a)は正常細胞であるHEK293T(ヒト胎児腎由来細胞)をDiDの蛍光で観察した画像であり、図17(b)はHEK293TをDAPIの蛍光で観察した画像であり、図17(c)は(a)と(b)をマージした画像である。図17(a)〜(c)より、正常細胞はあまり捕捉されていないことが確認できる。図17(d)はMDA−MB−453(ヒト乳癌細胞)の細胞膜をDiO蛍光で観察した画像であり、図17(e)はMDA−MB−453の細胞核をDAPIの蛍光で観察した画像であり、図17(f)は(d)と(e)をマージした画像である。図17(d)〜(f)より、標的細胞であるMDA−MB−453(ヒト乳癌細胞)の多数の蛍光が明瞭に確認できた。図17(c)と(f)を対比することによって、標的細胞のみを特異的に捕捉できたといえる。
【0069】
なお、本実施例で使用した核酸アプタマー等の配列は以下のとおりである。
【0070】
核酸アプタマー:
SYL3C:5’−CACTACAGAGGTTGCGTCTGTCCCACGTTGTCATGGGGGGTTGGCCTG−3’ (配列番号1)
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の標的細胞捕捉装置は、迅速に標的細胞のみを特異的に捕捉することができ、標的細胞を捕捉した後、標的細胞捕捉フィルターを取り外して直接蛍光を観察するか、もしくは検出液に浸漬して標的細胞を検出できるため、例えばがん患者への外科手術中に病巣摘出の奏功を判断するための検査にも利用することが可能である。超高齢社会の進展による医療費の高騰という課題に対してもがんの早期発見による利点は大きく、社会のニーズに対して時適を得ており、将来性も高い。
【符号の説明】
【0072】
10:本体
20:ディスポーサブル部
30:標的細胞捕捉フィルター
31:担持層
32:自己組織化単分子膜
33:アプタマー又は抗体
図1
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]