【実施例】
【0052】
これより本発明を以下の実施例で詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0053】
実施例1:麻黄エキスの作製。
麻黄の乾燥原料をミキサーにより粉砕し、その粉砕物50gに500mLの水を加え、攪拌しながら、95℃、1時間抽出した。固液分離し、抽出液を3000rpmにて10分間遠心分離を行った。得られた上清液を60℃にて減圧濃縮したと、60℃で一晩減圧乾燥を行い、麻黄エキスとして9.6gを得た。
【0054】
実施例2:イオン交換樹脂SK1Bによるエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの作製。
麻黄の乾燥原料をミキサーにより粉砕し、その粉砕物50gに500mLの水を加え、攪拌しながら、95℃、1時間抽出した。固液分離し、抽出液を3000rpmにて10分間遠心分離を行い、得られた上清液を25mLの強酸型陽イオン交換樹脂SK1B(三菱化学製)に通液させた。通過液を5%のNaHCO
3でpH=5.2まで調整し、60℃にて減圧濃縮したと、60℃で一晩減圧乾燥を行い、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスとして6.3gを得た。
【0055】
実施例3:イオン交換樹脂IR120Bによるエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの作製。
麻黄の乾燥原料をミキサーにより粉砕し、その粉砕物50gに500mLの水を加え、攪拌しながら、95℃、1時間抽出した。固液分離し、抽出液を3000rpmにて10分間遠心分離を行い、得られた上清液を25mLの強酸型陽イオン交換樹脂IR120B(オルガノ社製)に通液させた。通過液を5%のNaHCO
3でpH=5.2まで調整し、60℃にて減圧濃縮したと、60℃で一晩減圧乾燥を行い、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスとして6.3gを得た。
【0056】
実施例4:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2と実施例3)に含まれるエフェドリンの含量比較。
麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)のHPLCチャートを
図1に示す。
分析条件
カラム :SHISEIDO AG120 4.6×150mm 5μ
移動相 :ラウリル硫酸ナトリウム溶液(1→128)/アセトニトリル/リン酸混液(640:360:1)
温度 :45℃
検出 :紫外線吸光光度計(測定波長:210nm)
流速 :0.6mL/分(エフェドリンが14分付近になるよう調整)
サンプル :麻黄エキス、またはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの乾燥物を各10mg取り、メタノール1mLを加え混合し、各20μLを注入した。
標準溶液 :エフェドリン標準溶液(1.0mg/50%メタノール10mL)およびプソイドエフェドリン標準溶液(1.0mg/50%メタノール10mL)を各20μL注入した。
【0057】
得られた結果を以下の表1に示す。これらの結果から、強酸型陽イオン交換樹脂SK1B、あるいはIR120Bを用いたカラムクロマトグラフィーによって、麻黄エキスからエフェドリンアルカロイド(エフェドリン及びプソイドエフェドリン)を検出限界(0.05ppm)以下まで除去できることが明らかになった。
【0058】
【表2】
【0059】
実施例5:3次元高速液体クロマトグラフィー(3D-HPLC)による麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)の組成成分の比較。
分析条件
カラム :TSK−GEL 80TS 4.6×250mm 5μ
移動相 :(A)0.05M酢酸アンモニウム(pH3.6)
(B)アセトニトリル
0分:B液10% → 60分:B液100%
温度 :40℃
検出 :フォトダイオードアレイ(PDA)
流速 :1.0mL/分
サンプル :麻黄エキス、またはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの乾燥物を各10mg取り、メタノール1mLを加え混合し、各20μLを注入した。
標準溶液 :エフェドリン標準溶液(1.0mg/10mLメタノール)およびプソイドエフェドリン標準溶液(1.0mg/10mLメタノール)を各20μL注入した。
【0060】
3D-HPLCのフィンガープリントは
図2に示す。
【0061】
3D-HPLCにより麻黄エキスとエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの組成成分を比較した結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスにおいてはエフェドリンアルカロイドのピークが消失したが、他の成分のパターンは麻黄エキスとほぼ同じであった。
【0062】
実施例6:LC/MSによる麻黄エキス(実施例1)とエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)の組成解析および比較検討
分析条件
カラム:Inertsil ODS-3 (2.1×150 mmI.D. 5 mm)
移動相:0.1% HCOOH in water (A)−0.1% HCOOH in MeOH (B) in a gradient mode: 5%B (0−10 min)→75%B (70 min)
温度:40 ℃
検出 1:PDA 検出器 (200-400 nm)
検出 2:MS 検出器
Interface, ESI positive/negative; ESI source voltage, 4.0 kV; capillary voltage, 10V; source temperature, 300℃; sheath gas flow rate, 50; auxiliary gas flow rate, 25; scan range, m/z 150-2000; mass resolution, 30,000 full width.
流速:0.2 mL/min
サンプル:); injection volume, 1 μL at 5 mg/mL
【0063】
LC/MSのチャートは
図3に示す。
【0064】
LC/MSにより麻黄エキスとエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの組成成分を比較した結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスにおいては、l-ephedrine、pseudoephedrine、methylephedrine、norephedrineの各ピークが消失していることを確認した(
図3)。
【0065】
実施例7:麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)のMETキナーゼ阻害作用
METキナーゼ活性は,Poly E4Y1ペプチドを基質とした組換えMETキナーゼドメインによるATP消費に伴うADPの産生量を指標とした。組換えMETキナーゼドメインにPoly E4Y1ペプチドとATPを含む反応緩衝液の混合物に、麻黄エキス、あるいはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(2ロット)を、それぞれ1μg/mL、5μg/mL、及び10μg/mLとなるように添加し、室温で1時間インキュベートした。反応停止後、ADP-Glo試薬を用いてADP量に依存したルミノール発光強度を測定し、相対METキナーゼ活性を調べた。
【0066】
その結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは麻黄エキスと同程度にMETキナーゼ作用を阻害することが明らかとなった。麻黄エキス(実施例1)とエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)のMETキナーゼ阻害曲線を
図4に示す。
【0067】
実施例8:麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)のヒト肺癌由来H1975細胞の増殖に対する抑制効果
H1975細胞は、米国生物資源バンク(ATCC)より購入した。H1975細胞を10%FCS-RPMI培地に懸濁し、96穴培養プレートの各ウエルあたり、2×10
3個/100μLでまいた。一晩培養した後、培養上清を除去し、麻黄エキスおよびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(3ロット)を、それぞれ50、100、150、200μg/mLで添加し、コントロールは10%FCS-RPMI培地を添加した。72時間培養した後、Cell counting kit-8を10μL各ウエルに添加し、4時間を培養した後、各ウエルの吸光度(450 nm)をプレートリーダーにて測定した。各エキスの濃度ごとに4ウエル測定し、その平均値から相対細胞数を算出した(
図5)。
【0068】
その結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは麻黄エキスと同様にヒト肺癌由来H1975細胞の増殖を抑制することが明らかとなった。
【0069】
実施例9:動物試験における麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)の疼痛に対する抑制効果
実験動物は4週齢の雄性ICRマウスを48匹用いた。実験開始日に体重測定を行い、各群でほぼ同じになるようにコントロール群,麻黄エキス2群及びエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス2群(1日投与量はそれぞれ350と700mg/kg)に分けた。麻黄エキスおよびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスには注射用蒸留水を加え、37℃、30分間撹拌しながら懸濁させた。懸濁液は、経口投与直前にボルテックスをかけて均一にしてからゾンデで投与した。1日目と2日目は、単回の投与量が175 mg/kg、また375 mg/kgとし、一日2回(9時と17時)を投与した。3日目は、午前中に350mg/kg または700 mg/kgの1回のみを投与した。
【0070】
3日目の午前中の最終投与6時間後に2.5%ホルマリン溶液を20μL足底部皮下に投与した。投与後速やかにマウスを円柱プラスチック容器(内径116mm、高152mm)に入れ、45分間ビデオ撮影した。疼痛関連行動は投与直後から10分後までに生じる第1相と15分以降30分まで生じる第2相を対象とし、一定時間ごとの処置の足を舐めるまたは噛む行動時間を計測した。統計学的解析はコントロール群と被験物質投与群の疼痛行動時間をDunnett’s testsにて行い、有意水準は5%とした。
【0071】
その結果、麻黄エキスは、700 mg/kg投与した場合、第2相の疼痛関連行動を有意に抑制した。エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、350 mg/kg、及び700mg/kgの両投与量で、第2相の疼痛関連行動を濃度依存的に有意に抑制し、エフェドリン除去前の麻黄エキスより疼痛抑制作用が高かった(
図6)。以上の結果より、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは麻黄エキスより、高い疼痛抑制効果を有することが明らかとなった。
【0072】
実施例10: 麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)のインフルエンザウイルス感染阻害作用
アッセイは、インフルエンザウイルスの感染によりMDCK細胞が溶解することを利用し、残存細胞を色素で染色することで検出した。
【0073】
麻黄エキスおよびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスについて、それぞれ10%FBS-MEMで200μg/mLの溶液に調製し、さらに10段階の2倍希釈系列を作製し、試料溶液とした。インフルエンザウイルス(A/WSN/33 (H1N1)株)を含む液を10%FBS-MEMで1000TCID
50/mLに希釈し、インフルエンザウイルス液とした。MDCK細胞を10%FBS-MEMで懸濁し、96穴培養プレートの各ウエルあたり、3x10
4個/100μLで播種した。24時間培養した後、培養上清を除去し、試料溶液100μLを各ウエルに添加し、さらに100μLのインフルエンザウイルス液もしくは10%FBS-MEMを添加した。72時間培養した後、クリスタルバイオレットで染色し、マイクロプレートリーダーで各ウエルの560nmにおける吸光度を測定した。
【0074】
その結果、10%FBS-MEMを添加した系列では、試料濃度1.56〜25μg/mLの範囲において、いずれのエキスにおいても細胞数の低下は観察されなかったことから、この添加濃度域では細胞毒性は示していないことが確認された(
図7B)。一方、インフルエンザウイルス液を添加した系列では、いずれのエキスも、この試料濃度域で濃度依存的に細胞が溶解していることが観察された(
図7A)。4パラメーターロジスティック曲線の近似式を求め、そのパラメーターよりIC
50値を算出した結果、麻黄エキスでは8.6μg/mL、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスでは8.3μg/mLであった。以上の結果より、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは麻黄エキスと同程度にMDCK細胞に対するインフルエンザウイルスの感染を阻害することが明らかとなった。