特許第6781883号(P6781883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781883
(24)【登録日】2020年10月21日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】アプタマーの選抜方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20201102BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20201102BHJP
【FI】
   C12N15/10 112Z
   C12N15/115 ZZNA
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-51099(P2016-51099)
(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公開番号】特開2016-171795(P2016-171795A)
(43)【公開日】2016年9月29日
【審査請求日】2019年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-51714(P2015-51714)
(32)【優先日】2015年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年9月17日広島大学において開催された第1回アジア分析科学シンポジウム2014で発表(I−03)
(73)【特許権者】
【識別番号】000131474
【氏名又は名称】株式会社シノテスト
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【上記1名の代理人】
【識別番号】000131474
【氏名又は名称】株式会社シノテスト
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和生
(72)【発明者】
【氏名】土田 真帆
(72)【発明者】
【氏名】渋川 雅美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
【審査官】 池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0018530(US,A1)
【文献】 Anal. Bioanal. Chem. (Jan 2015) vol.407, issue 6, p.1527-1532
【文献】 Anal. Chem. (2012) vol.84, issue 5, p.2452-2458
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 − 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アプタマーの選抜方法であって、
(a)アプタマー候補からなるライブラリーと標的物質とを溶液中で混合して、アプタマーと標的物質とを結合させ、これらの複合体を形成させる工程、
(b)前記工程(a)の後、ポリエチレンオキサイドを含むpH7〜9の泳動液の存在下、キャピラリー過渡的等速電気泳動法によって、前記複合体を含む溶液から前記複合体を濃縮し分離する工程、
(c)前記工程(b)により分離された前記複合体からアプタマーを回収し、前記アプタマーを増幅する工程、を含む前記選抜方法。
【請求項2】
前記標的物質が、粒子や細胞等の表面に存在するものである、請求項1記載の選抜方法。
【請求項3】
前記泳動液が、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−グリシン緩衝液である、請求項1又は2に記載の選抜方法。
【請求項4】
前記工程(a)〜(c)を複数回繰り返す工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の選抜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アプタマーの選抜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アプタマーは、標的物質に対して特異的な結合能力をもつ生体高分子であり、タンパク質よりも取り扱いが容易な物質として注目されており、創薬分野で盛んに研究されているだけでなく、臨床診断試薬や生化学研究における分子ツールとしても用いられており、将来的に多様な応用法が期待されている。
このアプタマーは、標的物質に対して特異的な結合能力をもつ生体高分子という点で抗体と類似しているが、生物を用いずに化学的に試験管内での合成が可能であり、修飾・改変が容易にできること、安定性が高く、免疫原性が低いという、抗体にはない長所を有するものである。
【0003】
このアプタマーの選抜方法としては、例えば、1013〜1020にも及ぶ膨大な一本鎖核酸のプール(核酸ライブラリー)中の任意の配列パターンの中からアプタマーを選抜する方法である、試験管内進化法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment;SELEX法)が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
このSELEX法は、次の1〜3の工程(1.核酸ライブラリーと標的物質との複合体形成、2.標的物質に結合するアプタマーの回収、3.回収したアプタマーの増幅)を1ラウンドとして、このラウンドを繰り返し行うことにより、標的物質との結合能力の強いアプタマーだけを選抜するというものである。
しかしながら、このSELEX法では、1回のラウンドで得られるアプタマーの標的物質との結合能力や特異性が十分でないため、ラウンドを数回から十数回程度繰り返す必要がある。このため、十分な結合能力と特異性を有するアプタマーを得るためには、多くの労力と時間を要するという問題があった。
【0004】
このため、近年では、標的物質との結合能力の改良や、効率的にアプタマーを選抜するためにSELEX法の改良が行われている。
例えば、標的物質と類似した構造を持つ物質を担体に固定化し、SELEX法と同様の工程を行うことで、類似した構造をもつ化合物に結合する交差反応性の高い核酸分子を除去することにより、標的物質に対するアプタマーの特異性を改善する、COUNTER SELEX法や、アプタマーの分離工程において、標的物質と結合した核酸分子と結合していない核酸分子とをキャピラリー電気泳動法(CE)を用いて分離する、CE−SELEX法(例えば、特許文献1)が報告されている。
後者のCE−SELEX法は、核酸アプタマーの分離能が高く、ラウンド数も4〜6回と少ないため、タンパク質に対するアプタマーを効率的に選抜可能な方法として知られている。
【0005】
また、低分子やタンパク質だけでなく、細胞や組織の表面に存在する分子に結合するアプタマーを選抜する、Cell−SELEX法(例えば、非特許文献2)が報告されている。
しかしながら、このCell−SELEX法は、シャーレ内で標的物質と核酸ライブラリーの混合及び分離を行うため、分離効率が著しく悪く、標的物質と核酸分子との複合体を完全に分離することは難しい。このため、全工程に一ヶ月近い時間がかかり、かつ結合力の弱いアプタマーも一緒に選抜してしまうという問題点があった。
【0006】
前述したCE−SELEX法に用いられるCEは、現存する中で最も分離能の高い分離分析手法であるが、このCEを用いたCell−SELEX法はこれまで報告されていない。これは、浮遊細胞(微生物を含む)をCEに導入した場合、細胞の会合体の無数のピークが検出されてしまい、「細胞と一本鎖核酸の複合体」と核酸プールを分離することが不可能であったことに起因する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第WO03/102212号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Tuerk C. and Gold L.,Science,249(4968):505−510(1990)
【非特許文献2】Guo K.−T.,et al.,Int. J. Mol. Sci.,9(4):668−678(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、粒子や細胞等の表面に存在する標的物質に対して高い結合能を有するアプタマーを短時間にかつ高効率的に選抜する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題の解決を目指して鋭意検討を行った結果、高分子化合物の存在下でキャピラリー過渡的等速電気泳動を行うことにより、粒子や細胞等の表面に存在する標的物質に対して高い結合能力を有するアプタマーを短時間にかつ高効率的に選抜できることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供する。
(1) アプタマーの選抜方法であって、
(a)アプタマー候補からなるライブラリーと標的物質とを溶液中で混合して、アプタマーと標的物質とを結合させ、これらの複合体を形成させる工程、
(b)前記工程(a)の後、高分子化合物を含む泳動液の存在下、キャピラリー過渡的等速電気泳動法によって、前記複合体を含む溶液から前記複合体を濃縮し分離する工程、
(c)前記工程(b)により分離された前記複合体からアプタマーを回収し、前記アプタマーを増幅する工程、を含む前記選抜方法。
(2) 前記標的物質が、粒子や細胞等の表面に存在するものである、前記(1)記載の選抜方法。
(3) 前記高分子化合物が、ポリエチレンオキサイドである、前記(1)又は(2)記載の選抜方法。
(4) 前記泳動液が、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−グリシン緩衝液である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の選抜方法。
(5) 前記工程(a)〜(c)を複数回繰り返す工程をさらに含む、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の選抜方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高分子化合物の存在下でキャピラリー過渡的等速電気泳動を行うことにより、粒子や細胞等の表面に存在する標的物質に対して高い結合能力を有するアプタマーを短時間にかつ高効率的に選抜することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明により大腸菌に対するアプタマーを選抜した際の電気泳動図である。
図2】本発明により枯草菌に対するアプタマーを選抜した際の電気泳動図である。
図3】本発明により酵母に対するアプタマーを選抜した際の電気泳動図である。
図4】本発明により選抜したアプタマーの大腸菌に対するアフィニティーを確認した結果を示した図である。
図5】本発明により選抜したアプタマーの酵母に対するアフィニティーを確認した結果を示した図である。
図6】配列番号4、配列番号5及びDNAライブラリーの解離定数を測定した結果を示した図である。
図7】本発明により選抜した大腸菌に対するアプタマーの選択性を確認した結果を示した図である。
図8】本発明によりPC−9細胞に対するアプタマーを選抜した際の電気泳動図である。
図9】本発明により選抜したPC−9細胞に対するアプタマーのアフィニティーを確認した結果を示した図である。
図10】本発明による選抜前のDNAライブラリーのPC−9細胞に対するアフィニティーを確認した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【0015】
〔1〕発明の基本要件
本発明のアプタマーの選抜方法では、高分子化合物の存在下でキャピラリー過渡的等速電気泳動を行うことにより、粒子や細胞等の表面に存在する標的物質に対して高い結合能力を有するアプタマーを短時間にかつ高効率的に選抜することができる。
【0016】
〔2〕アプタマー
本発明において、アプタマーとは、標的物質に対して特異的な結合能力をもつ核酸分子やペプチドをいい、配列、分子の大きさ、分子の立体構造等によって限定されるものではない。
本発明におけるアプタマーが核酸アプタマーの場合、核酸分子はRNAでもDNAでもよく、PNA等のペプチド核酸でもよい。また、一本鎖RNAや一本鎖DNA等の一本鎖核酸や、二本鎖RNAや二本鎖DNA等の二本鎖核酸でもよい。なお、核酸アプタマーが二本鎖核酸の場合は、例えば、使用する前に、変性等によって一本鎖にすることが好ましい。
また、本発明においては、アプタマーが、核酸アプタマーであることが好ましい。
【0017】
〔3〕アプタマー候補からなるライブラリー
本発明のアプタマー候補からなるライブラリーは、アプタマーの候補となる核酸分子又はペプチドを複数含む混合物のことをいう。アプタマー候補が核酸分子である場合、アデニン、グアニン、シトシン、チミンから任意に選択された塩基を20〜120個程度連結した領域(ランダム領域)を有していれば、その他の構造に制限はないが、ポリメラーゼ連鎖反応等での増幅を可能にするため、その両端にプライマーとなるべき塩基配列を有するものを使用することが好ましい。この場合、使用するプライマー配列部分の塩基配列数は特に限定されるものではないが、20〜50塩基が好ましい。
また、アプタマー候補からなるライブラリーは、高次構造を形成させるため、溶液中で一度90℃以上に昇温することが好ましい。室温に戻す時間は特に限定されないが、1℃/1分程度が好ましい。
【0018】
〔4〕標的物質
本発明において、標的物質としては、特に制限されないが、本発明のアプタマー選抜方法によって得られたアプタマーが認識できるものであればよい。例えば、粒子や細胞等の表面に結合又は表現された物質を挙げることができる。この粒子や細胞の大きさは、例えば、数nm〜100μmで、形状は特に制限されないが、球状か棒状が好ましい。
また、本発明において、前記の粒子や細胞等の表面に結合又は表現された物質としては、例えば、無機物、金属イオン、金属錯体、有機物質、生体分子、細胞、微生物、ウイルス、リケッチア、マイコプラズマ、クラミジア、プリオン等の各種粒子等を挙げることができる。
なお、本発明においては、標的物質が、微生物、ウイルス又は細胞であることが好ましい。
【0019】
(1)標的物質の培養方法
本発明において標的物質が微生物、ウイルス又は細胞である場合、液体培地で培養することが好ましい。この場合、液体培地の種類に特に制限はなく、それぞれの微生物、ウイルス又は細胞の培養に適したものを用いればよい。また、微生物、ウイルス又は細胞は培養直後のものを使用するのが好ましい。
【0020】
(2)標的物質の精製方法
本発明において、標的物質が微生物、ウイルス又は細胞である場合、その精製には、遠心分離を使用するのが好ましい。例えば、微生物として大腸菌を精製する場合、3000〜13000rpmで1〜10分間遠心分離に供し、上澄み液を除去、純水で洗浄する操作を4回程度繰り返せば良い。
【0021】
〔5〕キャピラリー過渡的等速電気泳動法
本発明において、アプタマーの選抜には、キャピラリー過渡的等速電気泳動法を用いる。キャピラリー過渡的等速電気泳動法とは、電気泳動度の極めて小さい物質と大きい物質(電解液)とを共存させ、使用することで、キャピラリー内で核酸分子と標的物質との複合体と遊離の核酸ライブラリーの濃縮及び分離を一段階で行うことができる方法である。
キャピラリー過渡的等速電気泳動で使用する電解液の条件等は特に制限されず、当該技術分野において周知の方法を用いればよい。
【0022】
〔6〕アプタマーの選抜方法
(1)アプタマーの選抜方法
本発明において、アプタマーを選抜する方法は、下記の(a)〜(c)の工程によりなるものである。
(a)アプタマー候補からなるライブラリーと標的物質とを溶液中で混合して、アプタマーと標的物質とを結合させ、これらの複合体を形成させる工程。
(b)前記工程(a)の後、高分子化合物を含む泳動液の存在下、キャピラリー過渡的等速電気泳動法によって、前記複合体を含む溶液から前記複合体を濃縮し分離する工程。
(c)前記工程(b)により分離された前記複合体からアプタマーを回収し、前記アプタマーを増幅する工程。
【0023】
以下、本発明のアプタマーの選抜方法の各工程を、アプタマーが核酸アプタマーである場合を例にとって詳細に説明する。
【0024】
(2)工程(a)
本発明のアプタマー選抜方法の工程(a)では、前記したアプタマー候補からなるライブラリーと標的物質とを溶液中で混合することにより、この混合溶液中においてアプタマーと標的物質とを接触、結合させ、「アプタマーと標的物質との複合体」を形成させる。
【0025】
この混合溶液中において「アプタマーと標的物質との複合体」を形成させる際の時間は、1分〜1時間程度が好ましい。
【0026】
そして、この混合溶液中において「アプタマーと標的物質との複合体」を形成させる際の温度は、特に制限はなく、室温でもよく、冷温下でもよく、又は加温下でもよい。
【0027】
また、この混合溶液中において「アプタマーと標的物質との複合体」を形成させる際に使用する緩衝液としては、そのpHが、pH7〜11の範囲のものが好ましく、pH7〜9の範囲のものがより好ましい。
この緩衝液としては、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液等を挙げることができる。
【0028】
更に、この混合溶液中には、キャピラリー過渡的等速電気泳動法における標的物質のピーク収束効果を高めるため、高分子化合物を含有させることができる。
この高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイドであることが好ましい。このポリエチレンオキサイドの分子量に特に制限はないが、分子量が1000〜10,000,000の範囲内にあるものを使用することができ、分子量10,000〜8,000,000のものを使用することが好ましく、分子量100,000〜1,000,000ものを使用することが特に好ましい。
また、この混合溶液中にポリエチレンオキサイドを含有させる濃度は、0.006〜0.5%(g/v)とするのが好ましい。
【0029】
(3)工程(b)
本発明のアプタマー選抜方法の工程(b)においては、前記の工程(a)におけるアプタマー候補からなるライブラリーと標的物質との混合溶液を、キャピラリー過渡的等速電気泳動法に適用する。
これは、このアプタマー候補からなるライブラリーと標的物質との混合溶液を、キャピラリー電気泳動装置に設置されたキャピラリーに、圧力又は電圧を印加することにより注入し、次に通電して、前記の「アプタマーと標的物質との複合体」を泳動させることにより行う。
このアプタマー候補からなるライブラリーと標的物質との混合溶液をキャピラリー過渡的等速電気泳動法に適用することにより、「アプタマーと標的物質との複合体」と遊離のアプタマー候補からなるライブラリーとの分離を行う。
【0030】
なお、このキャピラリー過渡的等速電気泳動法に使用するキャピラリーは、特に制限されないが、例えば、フューズドシリカキャピラリーが好ましい。また、キャピラリー過渡的等速電気泳動法に使用するキャピラリーの長さは、30〜100cm程度が好ましい。
【0031】
更に、このキャピラリー過渡的等速電気泳動法に使用するキャピラリーの内径は、25〜200μmが好ましく、75〜100μmがより好ましい。
【0032】
また、このキャピラリー過渡的等速電気泳動法に使用する泳動液としては、そのpHが、pH7〜11の範囲のものが好ましく、pH7〜9の範囲のものがより好ましい。この泳動液の緩衝液としては、前記のpH範囲において緩衝能を有する緩衝剤よりなるものであればよい。
この緩衝液としては、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−グリシン緩衝液等を挙げることができる。
【0033】
更に、この泳動液には、キャピラリー過渡的等速電気泳動法における標的物質のピーク収束効果を高めるため、高分子化合物を含有させる。
この高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイドであることが好ましい。このポリエチレンオキサイドの分子量に特に制限はないが、分子量が1000〜10,000,000の範囲内にあるものを使用することができ、分子量10,000〜8,000,000のものを使用することが好ましく、分子量100,000〜1,000,000ものを使用することが特に好ましい。
また、この泳動液中にポリエチレンオキサイドを含有させる濃度は、0.006〜0.5%(g/v)とするのが好ましい。
【0034】
更に、この泳動液及び標的物質とアプタマー候補からなるライブラリーとの混合溶液の緩衝液は、それぞれ電気泳動度の極めて小さい物質と大きい物質とを共存させ、使用することで、「アプタマーと標的物質との複合体」及び「アプタマー候補からなるライブラリー」のゾーンを濃縮し、ゾーン幅を短くさせることができる。
この電気泳動度の極めて小さい物質としては、グリシン等が好ましく、電気泳動度の大きい物質としては塩化物イオン等が好ましい。
これらの電気泳動度の極めて小さい物質、電気泳動度の大きい物質を共存させる濃度であるが、1μM〜1000mMが好ましく、100μM〜500mMがより好ましく、1mM〜200mMが特に好ましい。
【0035】
このキャピラリー過渡的等速電気泳動法に使用するキャピラリーに、前記工程(a)で調製した核酸ライブラリーと標的物質との混合溶液を注入する量は、5〜1000nLの範囲が好ましく、250〜1000nLがより好ましい。
また、アプタマー候補からなるライブラリーと標的物質との混合溶液を注入する方法は、特に制限されないが、例えば、圧力による注入が好ましい。
【0036】
このキャピラリー過渡的等速電気泳動法の際の通電条件は、使用する泳動液等の条件に応じたものとすれば良いが、一般的には、5kV〜30kVの電圧において行えばよい。
【0037】
「アプタマーと標的物質との複合体」を回収する際には、電圧の印加を止め、「アプタマーと標的物質との複合体」を回収するための溶液をキャピラリー出口側に設置し、再度電圧を一定時間印加することで、目的の分画を回収する。
【0038】
「アプタマーと標的物質との複合体」を回収する分画は、電気浸透流からDNAピークまでの立ち上がりまでで良いが、標的物質及び「アプタマーと標的物質との複合体」が単一のピークとして泳動分離されるため、当該分画だけを回収するのが、効率的にアプタマーを選抜できるのでより好ましい。
【0039】
「アプタマーと標的物質との複合体」を回収する際に、キャピラリー出口側に設置する「アプタマーと標的物質との複合体」を回収するための溶液は、特に制限されず、例えば、泳動液と同じ緩衝液でよく、純水でもよい。
【0040】
(4)工程(c)
本発明のアプタマー選抜方法の工程(c)においては、前記工程(b)により遊離のアプタマー候補からなるライブラリーから分離された「アプタマーと標的物質との複合体」からアプタマーを回収し、前記アプタマーを増幅する。
また、アプタマーの増幅方法は、特に制限されないが、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法や、各種等温増幅法等を使用することができる。
なお、アプタマーがRNAの場合には、逆転写反応を行い、cDNAを合成した後に増幅を行えばよい。
【0041】
例えば、増幅方法としてPCRを使用する場合、特に制限されず、当該技術分野において周知の方法を用いればよく、市販のPCRキットを用いてもよい。
また、前記工程(b)で回収されたアプタマーをPCRで増幅する際に使用する、DNAポリメラーゼは特に制限されない。また、回収されたアプタマーをPCRで増幅する際に使用する、プライマーとなるDNAの濃度は、100〜1000nM程度が好ましい。
【0042】
更に、PCR増幅後、標的物質と結合する核酸分子(アプタマー)の検出を容易にするため、5´末端に放射標識又は蛍光標識等による標識を行ってもよい。また、PCR増幅後の二本鎖の核酸分子を一本鎖化するために、標的物質と結合する核酸分子(アプタマー)の相補鎖の5´末端をビオチン化等の修飾を行ってもよい。
【0043】
(5)工程(a’)
前記の工程(a)〜(c)で標的物質に結合するアプタマーが選抜されない場合には、前記工程(a)を行う前に、以下の工程(a’)を行うことが好ましい。
(a’)アプタマー選抜の際に、偶発的に結合又は混入する非特異的結合性一本鎖核酸を除去する工程。
【0044】
本発明のアプタマー選抜方法の工程(a’)においては、標的物質とは異なる種類の粒子や細胞等の物質と、上記で調製したアプタマー候補からなるライブラリー溶液とを混合し、接触させ、遠心分離に供することにより、標的物質とは異なる種類の粒子や細胞等の物質に結合する核酸分子と、遊離の核酸分子とに分離する。この際の上澄み溶液を回収することで、アプタマー選抜の際に、標的物質と偶発的に結合する核酸分子、又は非特異的に結合する核酸分子の存在割合を減少させたアプタマー候補からなるライブリーを調製する。
【0045】
アプタマー選抜方法の工程(a’)において、上記で得られたアプタマー候補からなるライブラリーと、標的物質とは異なる種類の粒子や細胞等の物質とを適当な濃度比で混合し、接触させる。このとき使用する標的物質とは異なる種類の粒子や細胞等の物質は、細胞、微生物又はウイルス等であれば、特に制限されない。
【0046】
そして、上記で得られたアプタマー候補からなるライブラリーと、標的物質とは異なる種類の粒子や細胞等の物質を混合し、接触させる温度は、特に制限はなく、室温でよく、冷温下でもよく、又は加温下でもよい。
【0047】
また、上記で得られたアプタマー候補からなるライブラリーと、標的物質とは異なる種類の粒子や細胞等の物質を混合し、接触させる際の緩衝液としては、特に制限はないが、前記工程(a)で使用する緩衝液を使用することが好ましい。
【0048】
更に、上記で得られたアプタマー候補からなるライブラリーと、標的物質と異なる種類の粒子や細胞等の物質を混合し、接触させた後、標的物質と異なる種類の粒子や細胞等の物質に結合する一本鎖核酸分子と遊離の一本鎖核酸分子とを分離する方法には、特に制限はないが、遠心分離を行うことが好ましい。
この場合、標的物質と異なる種類の粒子や細胞等の物質に結合する一本鎖核酸分子と遊離の一本鎖核酸分子とを分離する際の、遠心分離の回転数は、特に制約はなく、1000〜15000rpm程度でよく、1000〜5000rpm程度が好ましい。
【0049】
(5)工程(d)
本発明のアプタマー選抜方法においては、前記工程(c)で増幅されたアプタマーを一本鎖の核酸分子に変換する工程(d)を行う。
前記工程(c)で増幅されたアプタマーを一本鎖の核酸分子に変換する方法は、特に制限されず、当該技術分野において周知の方法を用いればよい。
そのような方法としては、例えば、ストレプトアビジン固定化磁性粒子とビオチンとの結合を利用する分離が挙げられる。これにより、増幅した二本鎖の核酸分子のうち標的物質に結合活性を有する一本鎖の核酸分子を分離することができ、さらにDNAポリメラーゼ等のPCR反応溶液中に含まれる不要な共存物質を除去することができる。
【0050】
ここで、工程(a)から工程(d)までを便宜上ラウンドと呼ぶ。工程(d)まで行ったのち、回収され、一本鎖化された一本鎖の核酸分子を次のラウンドの核酸ライブラリーとして使用することもできる。このラウンド後に回収した核酸ライブラリー溶液に標的物質を加え、ラウンドを繰り返し行ってもよい。ラウンドは、2〜20回繰り返すことが好ましいが、1回でアプタマーが選抜できる場合は1回でもよい。
【0051】
更に、前記工程(c)で増幅されたアプタマーの塩基配列の決定を行う。
前記工程(c)で増幅されたアプタマーの配列の決定を行う方法は特に制限されず、当該技術分野において周知の方法を用いればよい。そのような方法としては、例えば、大腸菌への形質転換により、プラスミドを調製後、クローン化したDNAをキャピラリー電気泳動により塩基配列を同定する方法や、次世代シーケンサーを使用する方法等を挙げることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をより具体的に詳述するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0053】
〔実施例1〕
[グラム陰性細菌(大腸菌)、グラム陽性細菌(枯草菌)及び真菌(酵母)に対するDNAアプタマーの選抜]
本発明のアプタマー選抜方法を用いて標的物質である微生物(グラム陰性細菌である大腸菌、グラム陽性細菌である枯草菌、及び真菌である酵母)に対して特異的に結合するDNAアプタマーの選抜を行った。
【0054】
1.微生物の培養と精製
細菌(大腸菌及び枯草菌)は試験管中で培養した。このとき用いた培地はトリプトン:1%(w/v)、酵母エキス:0.5%(w/v)、塩化ナトリウム:1%(w/v)を含むLB培地を用い、37度、毎分120回転で一晩撹拌し、細菌数が10〜10cfu/mLとなるように培養した。
その後、培養した細菌溶液1mLをとり、毎分3600回転で3分間遠心処理を行い、上澄み液を除去後、純水1mLを添加した。この操作を3回繰り返すことにより細菌を洗浄した。
【0055】
真菌である酵母は、市販のイースト菌1mgを遠心用バイアルにとり、純水1mLを添加後、撹拌し、溶解した。
その後、酵母を溶解した試料を、毎分3600回転で3分間遠心処理を行い、上澄み液を除去後、純水1mLを添加した。この操作を3回繰り返すことにより細菌を洗浄した。
【0056】
2.DNAライブラリーの調製
DNAライブラリーは以下の配列を有し、5´末端がフルオレセインで蛍光修飾され、全長が88塩基で、ランダム配列部分(N)が45塩基のオリゴDNAを用いた。
〔配列番号1〕:5´−6FAM−GCAATGGTACGGTACTTCC−N45−CAAAAGTGCACGCTACTTTGCTAA−3´〔医学生物学研究所社製〕
【0057】
10mM水酸化ナトリウムを含む、50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝溶液(pH8.5)を調製し、この緩衝溶液を溶媒として10μMのDNAライブラリー溶液を調製した。この試料をサーマルサイクラーに設置し、95度まで温度を上昇させ、5分間熱変性させた後、60分間で20度まで冷却して用いた。
【0058】
3.標的物質とDNAライブラリーの混合
大腸菌、枯草菌、又は酵母に対して特異的に結合するDNAアプタマーの選抜のため、以下の試料1、試料2及び試料3を調製した。
〔試料1〕前記1の大腸菌溶液と、前記2のDNAライブラリー溶液と、500mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝溶液(pH8.5)と、0.125%(w/v)ポリエチレンオキサイド600,000と、純水とを、それぞれ2:1:1:1:5で混合し、これにより大腸菌とDNAライブラリーとを接触させ、室温にて30分放置し、この混合溶液中において大腸菌とDNAアプタマーとの複合体を形成させた。
【0059】
〔試料2〕前記1の枯草菌溶液と、前記2のDNAライブラリー溶液と、500mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝溶液(pH8.5)と、0.125%(w/v)ポリエチレンオキサイド600,000と、純水とを、それぞれ2:1:1:1:5で混合し、これにより枯草菌とDNAライブラリーとを接触させ、室温にて30分放置し、この混合溶液中において枯草菌とDNAアプタマーとの複合体を形成させた。
【0060】
〔試料3〕前記1の酵母溶液と、前記2のDNAライブラリー溶液と、500mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝溶液(pH8.5)と、0.125%(w/v)ポリエチレンオキサイド600,000と、純水とを、それぞれ2:1:1:1:5で混合し、これにより酵母とDNAライブラリーとを接触させ、室温にて30分放置し、この混合溶液中において酵母とDNAアプタマーとの複合体を形成させた。
【0061】
4.キャピラリー過渡的等速電気泳動法による細菌−DNAアプタマー複合体と遊離のDNAライブラリーの分離と細菌−DNAアプタマー複合体の回収
0.0125%(w/v)ポリエチレンオキサイド600,000を含む、50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−300mMグリシン緩衝溶液(pH8.5)を調製し、この緩衝溶液をキャピラリー電気泳動の泳動液とした。
【0062】
キャピラリー電気泳動装置は、Agilent G7100キャピラリー電気泳動システム〔アジレント・テクノロジー社製〕を使用し、検出波長は270nmとした。
【0063】
キャピラリー電気泳動装置は、内径100μm、全長50cm、有効長41.5cmのフューズドシリカキャピラリー〔GLサイエンス社製〕を設置して用いた。
【0064】
前記の泳動液を、前記のフューズドシリカキャピラリーに満たした後、前記3の試料1、試料2、又は試料3を50mbarで18秒間、圧力を印加することで、500nL注入した。
【0065】
次に、20kVの電圧を印加することにより、DNAアプタマーと微生物(大腸菌、枯草菌、又は酵母)との複合体と遊離のDNAライブラリーの分離を行った。
【0066】
分離されたDNAアプタマーと微生物(大腸菌、枯草菌、又は酵母)との複合体がキャピラリー出口に到達する12秒前から30秒間の分画を30μLの純水に回収した。
【0067】
5.大腸菌結合性DNAアプタマーのポリメラーゼ連鎖反応による増幅
PCRの反応溶液の調製は、PCR酵素キットであるTaKaRa Ex Taq〔タカラバイオ社製〕のプロトコールに準拠して調製した。
【0068】
ここで用いたプライマー配列を以下に示した。
〔配列番号2〕5´−FAM−GCAATGGTACGGTACTTCC−3´〔医学生物学研究所社製〕
〔配列番号3〕5´−Bio−TTAGCAAAGTAGCGTGCACTTTTG−3´〔医学生物学研究所社製〕
配列番号2のDNAには、PCR増幅後のDNAの検出を容易にするため、5´末端にフルオレセインを修飾したものを用いた。また、配列番号3のDNAには、PCR増幅後のDNAを一本鎖化するために、5´末端にビオチンを修飾したものを用いた。
【0069】
前記の配列番号2及び配列番号3のDNA(プライマー)と前記のPCR酵素キットを用いて以下のようにPCR反応溶液を調製した。
2.5mMデオキシヌクレオシド三リン酸溶液 4μL、5μMの配列番号2のDNAを3μL、5μMの配列番号3のDNAを3μL,5unit/μLのTaqポリメラーゼを0.25μL、10×Ex Taq buffer を5μL、前記4のDNAアプタマーと大腸菌との複合体を含む溶液を2μL加え,超純水で全量を50μLとした.
【0070】
前記で調製したPCR反応溶液をサーマルサイクラーに設置し、次の温度条件で増幅を行った。はじめは95度5分間加熱し、熱変性(95度で30秒間)、アニーリング(56.3度で30秒間)、伸長反応(72度で10秒間)のサイクルを15回繰り返し行った。
【0071】
6.PCR増幅試料の一本鎖化
前記5でPCRにより増幅したDNAを一本鎖化するために、核酸精製用ストレプトアビジン結合磁気ビーズ〔VERITAS社製〕を用いた。前記5で得られたDNA溶液と、核酸精製用ストレプトアビジン結合磁気ビーズを混合し、接触させ、ストレプトアビジン−ビオチン結合によってPCR産物のDNAを磁気ビーズ上に固定化した。次に磁石により磁気ビーズを回収し、上澄み液を除去後、0.1M水酸化ナトリウムを添加した。このときの上澄み液を回収することで、選抜後のDNAプールを得た。
【0072】
7.結果
前記試料1〜試料3をキャピラリー過渡的等速電気泳動で細菌とDNAライブラリーを分離検出した際の電気泳動図をそれぞれ図1図3に示した。
これらの図1図3から、様々な種類の微生物(グラム陰性細菌、グラム陽性細菌、及び真菌)とDNAライブラリーとの完全分離が可能であることが分かる。
【0073】
すなわち、通常は、多くの細菌のピークが出現するが、本発明の工程(b)では粒子である細菌と分子であるDNAライブラリーの両方が、キャピラリー内で濃縮され、そして分離されていることが分かる。また、微生物及び微生物とDNAアプタマーとの複合体の混合物と、DNAライブラリーの両方がそれぞれ一本ずつの先鋭なピークを示していることが分かる。
【0074】
さらにDNAピークを正規分布と仮定し、微生物とDNAアプタマーとの複合体を分取した分画中に含まれるDNAライブラリー量を計算したところ、理論上1分子も存在しないことが分かった。
これはすなわち本発明のキャピラリー過渡的等速電気泳動法を用いた細菌及び細胞に対するDNAアプタマーの選抜方法を用いれば、結合しないDNAを含まない分画を効率的に分離、回収できることを示している。
【0075】
〔実施例2〕
[グラム陰性細菌(大腸菌)及び真菌(酵母)に対するDNAアプタマーの選抜後のDNAプールの結合特性の評価]
1.試料調製
実施例1で得られた1ラウンドの選抜(工程(a)〜(e)をそれぞれ一度だけ行う)をした後のDNAプールの目的の微生物に対するアフィニティーの有無を確認するため、以下の試料4を調製した。
〔試料4〕実施例1の6で得られた各微生物に対する1ラウンドのDNAアプタマー選抜(本発明の工程(a)〜(e)をそれぞれ一度だけ行う)をした後のDNAプールの所定量と、実施例1の1で得たDNAアプタマー選抜の標的物質である微生物の所定量とを、0.0125%ポリエチレンオキサイド600,000を含む、50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝溶液(pH8.5)に溶解し、調製した。
【0076】
DNAを添加しない場合の微生物のピークを測定するため、以下の試料5を調製した。
〔試料5〕実施例1の1の微生物(大腸菌又は酵母)を所定量、0.0125%ポリエチレンオキサイド600,000を含む、50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝溶液(pH8.5)に溶解し、調製した。
【0077】
2.キャピラリー過渡的等速電気泳動
0.0125%(w/v)ポリエチレンオキサイド600,000を含む、50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−300mMグリシン緩衝溶液(pH8.5)を調製し、この緩衝溶液をキャピラリー電気泳動の泳動液とした。
【0078】
キャピラリー電気泳動装置は、P/ACE MDQ〔Beckman Coulter社製〕を使用し、MDQレーザー誘導蛍光ディテクタを設置して用いた。レーザーモジュールは、アルゴンイオンを使用し、励起波長は488nmとした。
【0079】
また、キャピラリー電気泳動装置は、内径100μm、全長50.2cm、有効長40.0cmのフューズドシリカキャピラリーを設置して用いた。
【0080】
前記の泳動液を、前記のフューズドシリカキャピラリーに満たした後、前記試料3を1psiで13秒間、圧力を印加することで、500nL注入した。
【0081】
次に、20kVの電圧を印加することにより、DNAアプタマーと微生物との複合体を蛍光検出し、DNAアプタマーと微生物との結合の有無を調査した。すなわち、DNAアプタマーが細菌と結合すれば、高い強度の信号として蛍光検出される。
【0082】
3.カウンターセレクション
実施例1の7の微生物結合性DNAプールの結合特性の評価において実施例1の1〜6で選抜したDNAが目的の微生物に対してアフィニティーを持たない場合、DNAライブラリーに含まれる微生物表面に非特異的に結合するDNAを取り除く操作(カウンターセレクション,本発明の工程(a’))が必要となる。
【0083】
ここでは酵母のDNAアプタマーの選抜の際に、カウンターセレクション(本発明の工程(a’))の操作を行った。具体的な操作を以下に示した。
実施例1の2で調製したDNAライブラリーを最終濃度が100nMとなるように所定量と、実施例1の3の大腸菌の最終濃度が8×10cfu/mLとなるように所定量とを取り、50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝溶液(pH8.5)中で混合し、1時間室温で放置し、接触させた。
【0084】
次にDNAライブラリーと大腸菌の混合試料を、毎分6150回転で5分間遠心分離し、上澄み溶液を回収し、大腸菌に対して結合しないDNAを回収した。
【0085】
ここで回収したDNAを前記3のDNAライブラリーとして使用し、実施例1の4〜6と同様の操作を行い、酵母結合性DNAアプタマーを選抜した。
【0086】
4.結果
図4は、大腸菌に対するDNAアプタマー選抜後のDNAプールの大腸菌に対するアフィニティーの有無を確認した結果である。大腸菌に、大腸菌に対するDNAアプタマー選抜後のDNAプールを添加したところ、大腸菌ピークの蛍光が増感することが分かった。
すなわち、これは選抜されたDNAが大腸菌に対してアフィニティーを持つことを示している。
【0087】
図5は、カウンターセレクションを適用後、酵母に対するDNAアプタマー選抜後のDNAプールの酵母に対するアフィニティーの有無を調査した結果である。酵母にカウンターセレクションを適用後、酵母に対するDNAアプタマー選抜後のDNAを添加したところ、酵母ピークの蛍光信号が増感することが分かった。
すなわち、これは選抜されたDNAが酵母に対してアフィニティーを持つことを示している。
【0088】
〔実施例3〕
[グラム陰性細菌(大腸菌)に対するDNAアプタマーの配列の決定とその結合特性の評価]
1.塩基配列の調査
増幅したDNAは次世代シーケンサーによって塩基配列の決定をした。
【0089】
2.実施例1で選抜された大腸菌結合性DNAアプタマーの結合特性の評価
(a)塩基配列
配列決定後、結合特性を調査した塩基配列は以下のとおりである。
〔配列番号4〕5´−FAM−GCAATGGTACGGTACTTCCACTCATCACCACTAGTGATAGTATGTTCCGGGTTTCTCTGCACTACAAAAGTGCACGCTACTTTGCTAA−3´
〔配列番号5〕5´−FAM−GCAATGGTACGGTACTTCCCGCTAGTGCACGTCTTCAAGGTTCTATGATTAATTTATACATTGGCAAAAGTGCACGCTACTTTGCTAA−3´
【0090】
(b)一本鎖DNA溶液の調製
10mM水酸化ナトリウムを含む、50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝溶液(pH8.5)を調製し、この緩衝溶液を溶媒として10μMの配列番号2の一本鎖DNA溶液及び配列番号3の一本鎖DNA溶液を調製した。この試料をサーマルサイクラーに設置し、95度まで温度を上昇させ、5分間熱変性させた後、60分間で20度まで冷却して用いた。
【0091】
(c)測定試料の調製
前記の配列番号4及び配列番号5の大腸菌に対する解離定数の測定のため、以下の試料6及び試料7を調製した。
〔試料6〕配列番号4の最終濃度が0、10、20、50、100、300nMとなるように、前記で調製した10μMの配列番号4のDNA溶液を所定量と、最終濃度が10cfu/mLとなるように、実施例1の1で調製した大腸菌溶液を所定量とをとり、0.0125%ポリエチレンオキサイド600,000を含む、50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝溶液(pH8.5)に溶解した。
【0092】
〔試料7〕配列番号5の最終濃度が0、10、20、50、100、300nMとなるように、前記で調製した10μMの配列番号5のDNA溶液を所定量と、最終濃度が10cfu/mLとなるように、実施例1の1で調製した大腸菌溶液を所定量とをとり、0.0125%ポリエチレンオキサイド600,000を含む、50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝溶液(pH8.5)に溶解した。
【0093】
選抜前後でのDNAのアフィニティーの比較を行うため、以下の試料8を調製した。
〔試料8〕DNAライブラリーの最終濃度が0、25、50、100、250、500、1000、2000、4000nMとなるように、実施例1の2で調製した10μMのDNAライブラリーを所定量と、実施例1の1で調製した大腸菌溶液を所定量とをとり、0.0125%ポリエチレンオキサイド600,000を含む、50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝溶液(pH8.5)に溶解した。
【0094】
更に、配列番号5の大腸菌に対する結合の選択性を調査するため、以下の試料9を調製した。
〔試料9〕配列番号5の最終濃度が10nMとなるように前記で調製した10μMの配列番号5のDNA溶液を所定量と、最終濃度が10cfu/mLとなるように実施例1の1で調製した大腸菌溶液を所定量、又は最終濃度が50μg/mLとなるように実施例1の1で調製した酵母溶液を所定量とを取り、0.0125%ポリエチレンオキサイド600,000を含む、50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝溶液(pH8.5)に溶解した。
【0095】
(d)キャピラリー過渡的等速電気泳動
0.0125%(w/v)ポリエチレンオキサイド600,000を含む、50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−300mMグリシン緩衝溶液(pH8.5)を調製し、この緩衝溶液をキャピラリー電気泳動の泳動液とした。
【0096】
キャピラリー電気泳動装置は、P/ACE MDQ〔Beckman Coulter社製〕を使用し、MDQレーザー誘導蛍光ディテクタを設置して用いた。レーザーモジュールは、アルゴンイオンを使用し、励起波長は488nmとした。
【0097】
キャピラリー電気泳動装置は、内径100μm、全長50.2cm、有効長40.0cmのフューズドシリカキャピラリーを設置して用いた。
【0098】
前記の泳動液を、前記のフューズドシリカキャピラリーに満たした後、前記試料6、前記試料7、前記試料8、又は前記試料9を1psiで13秒間、圧力を印加することで、500nL注入した。
【0099】
次に、20kVの電圧を印加することにより、DNAアプタマーと細菌との複合体を検出した。
【0100】
さらに、前記試料6、前記試料7、及び前記試料8におけるDNAアプタマーと大腸菌との複合体の補正ピーク面積を、添加したDNAアプタマー濃度に対してプロットし、本発明のDNAアプタマー選抜方法によって選抜された大腸菌結合性DNAアプタマーの大腸菌に対する解離定数を算出した。
【0101】
3.結果
図6は、配列番号4及び配列番号5及びDNAライブラリーの解離定数を測定した際に使用した、縦軸に結合割合、横軸に添加したDNA濃度をプロットした図である。
配列番号4及び配列番号5の大腸菌に対する解離定数はそれぞれ16±5nM、23±10nMであり、細菌のDNAアプタマーとしては十分なアフィニティーを持つことが分かった。一方でDNAライブラリーの解離定数は、3.5±1.6μMであり、配列番号4及び配列番号5よりも約2桁高い値になった。
【0102】
なお、既報(Kim,Y.S.,et.al.,Anal.Biochem.,436(1):22−28(2013))では、大腸菌に対する高いアフィニティーを示すアプタマーを10ラウンドのCell−SELEX法で選抜したことが報告されている。この既報で選抜されたアプタマーの解離定数は12.4〜25.2nMであり、本発明で選抜された大腸菌に対するアプタマーの解離定数は16±5nM及び23±10nMであり、配列番号4及び配列番号5のDNAが大腸菌に対するアプタマーとして高いアフィニティーを有することが明らかになった。
すなわち、本発明のアプタマー選抜法を使用すれば、一般的なCell−SELEX法で選抜されるアプタマーと同等のアフィニティーを有するアプタマーを一度の分離・分取で高速に選抜できることが明らかになった。
【0103】
また、図7は、大腸菌に対するDNAアプタマーである配列番号5の選択性を調査した結果である。
10nMの配列番号5のDNAを酵母に添加したところ、酵母の蛍光増感は観測されなかった。このことは配列番号5のDNAが大腸菌に対して選択的な結合をすることを示している。
【0104】
以上のことから、本発明であるキャピラリー過渡的等速電気泳動法を用いたDNAアプタマー選抜法により、効率的にDNAアプタマーを選抜できることが示された。
【0105】
なお、一般的なSELEX法により選抜されるタンパク質に対するDNAアプタマーの解離定数は、数百〜サブnM程度であり(Pichon, V. et al., Anal. Bioanal. Chem, 407:681−698(2015))、一般的なCell−SELEX法により選抜される細菌(ウィルス・細胞)に対するDNAアプタマーの解離定数は、数百〜サブnM程度(Tan,W. et al., Chem. Rev, 113:2842−2862(2013))であると報告されている。一方で本発明のアプタマー選抜法を用いて、一度の分離・分取で高速に選抜されたDNAアプタマーの解離定数は、数十〜数nMであり、一般的なCell−SELEX法で選抜されるDNAアプタマーと同等のアフィニティを有することが示された。
【0106】
すなわち、本発明のアプタマーの選抜方法では、高分子化合物の存在下でキャピラリー過渡的等速電気泳動を行うことにより、標的物質に対して高い結合能力を有するアプタマーを短時間(半日程度)にかつ高効率的に選抜することができることが確かめられた。
【0107】
〔実施例4〕
[動物細胞(ヒト非小細胞肺癌株PC−9)に対するDNAアプタマーの選抜]
本発明のアプタマー選抜方法を用いて、標的物質である動物細胞(ヒト非小細胞肺癌株PC−9)に対して特異的に結合するDNAアプタマーの選抜を行った。
【0108】
1.緩衝溶液の調製
5mMの塩化ナトリウムと、2.5mMの塩化マグネシウムと、290mMのグルコース、0.0125%(w/v)ポリエチレンオキサイド600,000を含む20mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝溶液(pH8.5)を調製し、試料用の緩衝溶液として用いた。
【0109】
2.細胞の培養と精製
PC−9の培養に用いた培地は、500mLのRPMIメディウム〔ThermoFisher Scientific社製〕に、5.7mLのペニシリン−ストレプトマイシン液(5000μg/mLペニシリン、500μg/mLストレプトマイシン〔ThermoFisher Scientific社製〕)および、55mLの非働化処理したウシ胎児血清〔シグマ・アルドリッチ社製〕を添加して調製した。
【0110】
PC−9の培養には、COインキュベーターを使用し、37℃、5%COに設定し、1×10〜2×10cell/mLとなるまで培養した。
【0111】
PC−9の精製には、遠心分離機を使用し、200g、5分で細胞を沈降させ、上澄み液を除去後、前記1の試料用の緩衝溶液を添加した。この操作を2回繰り返すことにより細胞の精製を行い、2×10cell/mLのPC−9溶液を調製した。
【0112】
3.DNAライブラリーの調製
DNAライブラリーは以下の配列を有し、5´末端がフルオレセインで蛍光修飾され、全長が88塩基で、ランダム配列部分(N)が45塩基のオリゴDNAを用いた。
〔配列番号1〕:5´−6FAM−GCAATGGTACGGTACTTCC−N45−CAAAAGTGCACGCTACTTTGCTAA−3´〔医学生物学研究所社製〕
【0113】
前記1の試料用の緩衝溶液を溶媒として10μMのDNAライブラリー溶液を調製した。この試料をサーマルサイクラーに設置し、95度まで温度を上昇させ、5分間熱変性させた後、4℃に急冷したものを使用した。
【0114】
4.標的物質とDNAライブラリーの混合
ヒト非小細胞肺癌株PC−9に対して特異的に結合するDNAアプタマーの選抜のため、以下の試料10を調製した。
〔試料10〕前記2の精製したPC−9溶液と、前記3のDNAライブラリー溶液と、前記1の試料用の緩衝溶液とを1:1:8で混合し、これによりPC−9とDNAライブラリーとを接触させ、氷上で60分間放置し、この混合溶液中においてPC−9とDNAアプタマーとの複合体を形成させた。
【0115】
5.キャピラリー過渡的等速電気泳動法による細胞−DNAアプタマー複合体と遊離のDNAライブラリーの分離と細胞−DNAアプタマー複合体の回収
5mMの塩化ナトリウムと、2.5mMの塩化マグネシウムと、0.0125%ポリエチレンオキサイド600,000を含む40mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−290mMグリシン緩衝溶液(pH8.5)を調製し、この緩衝溶液をキャピラリー電気泳動の泳動液とした。
【0116】
キャピラリー電気泳動装置は、P/ACE MDQ〔Beckman Coulter社製〕を使用し、検出波長は270nmとした。
【0117】
キャピラリー電気泳動装置は、内径100μm、全長62.5cm、有効長52.3cm、40.6cmのフューズドシリカキャピラリー〔GLサイエンス社製〕を設置して用いた。
【0118】
前記の泳動液を、前記のフューズドシリカキャピラリー内に満たした後、前記4の試料10を0.5psiで7秒間、圧力を印加することで、100nL注入した。
【0119】
次に、25kVの電圧を印加することにより、細胞(PC−9)とDNAアプタマーとの複合体と遊離のDNAライブラリーの分離を行った。
【0120】
分離された細胞(PC−9)とDNAアプタマーとの複合体がキャピラリー出口に到達する30秒前から1分間の分画を50μLの純水に回収した。
【0121】
6.細胞結合性DNAアプタマーのポリメラーゼ連鎖反応による増幅
PCRの反応溶液の調製は、PCR酵素キットであるTaKaRa Ex Taq〔タカラバイオ社製〕のプロトコールに準拠して調製した。
【0122】
ここで用いたプライマー配列を以下に示した。
〔配列番号2〕5´−FAM−GCAATGGTACGGTACTTCC−3´〔医学生物学研究所社製〕
〔配列番号3〕5´−Bio−TTAGCAAAGTAGCGTGCACTTTTG−3´〔医学生物学研究所社製〕
配列番号2のDNAには、PCR増幅後のDNAの検出を容易にするため、5´末端にフルオレセインを修飾したものを用いた。また、配列番号3のDNAには、PCR増幅後のDNAを一本鎖化するために、5´末端にビオチンを修飾したものを用いた。
【0123】
前記の配列番号2及び配列番号3のDNA(プライマー)と前記のPCR酵素キットを用いて以下のようにPCR反応溶液を調製した。
2.5mMデオキシヌクレオシド三リン酸溶液 4μL、5μMの配列番号2のDNAを3μL、5μMの配列番号3のDNAを3μL、5unit/μLのTaqポリメラーゼを0.25μL、10×Ex Taq buffer を5μL、前記4のDNAアプタマーと細胞(PC−9)との複合体を含む溶液を2μL加え、超純水で全量を50μLとした。
【0124】
前記で調製したPCR反応溶液をサーマルサイクラーに設置し、次の温度条件で増幅を行った。はじめは95度5分間加熱し、熱変性(95度で30秒間)、アニーリング(56.3度で30秒間)、伸長反応(72度で10秒間)のサイクルを25回繰り返し行った。
【0125】
7.PCR増幅試料の一本鎖化
前記6でPCRにより増幅したDNAを一本鎖化するために、核酸精製用ストレプトアビジン結合磁気ビーズ〔VERITAS社製〕を用いた。前記6で得られたDNA溶液と、核酸精製用ストレプトアビジン結合磁気ビーズを混合し、接触させ、ストレプトアビジン−ビオチン結合によってPCR産物のDNAを磁気ビーズ上に固定化した。次に磁石により磁気ビーズを回収し、上澄み液を除去後、25mM水酸化ナトリウムを添加した。このときの上澄み液を回収することで、選抜後のDNAプールを得た。
【0126】
8.結果
図8は、キャピラリー過渡的等速電気泳動法で動物細胞であるPC−9とDNAライブラリーを分離検出した際の電気泳動図である。この図8からPC−9とDNAライブラリーの分離度は13.6であり、細胞とDNAライブラリーとの完全分離が可能であることが分かる。
【0127】
〔実施例5〕
[動物細胞(ヒト非小細胞肺癌株PC−9)に対するDNAアプタマーの選抜後のDNAプールの結合特性の評価]
1.試料調製
実施例4で得られたヒト非小細胞肺癌株PC−9に対するDNAアプタマーの選抜後のDNAプールのヒト非小細胞肺癌株PC−9に対するアフィニティーの有無を確認するため、以下の試料11を調製した。
〔試料11〕実施例4の7で得られたPC−9に対するDNAアプタマーの選抜をした後のDNAプールを所定量と、実施例4の2の精製したPC−9の所定量とを、実施例4の1で得られた試料用の緩衝溶液に溶解し、100nMのPC−9に対して選抜したDNAプールと2×10cell/mLのPC−9との混合試料を調製した。この試料を氷上で1時間放置し、この混合溶液中においてPC−9とDNAアプタマーとの複合体を形成させた。この試料を遠心分離機に供し、200g、5分で細胞を沈降させ、上澄み液を除去後、実施例4の1の試料用の緩衝溶液を添加した。この操作を2回繰り返すことにより複合体の洗浄を行った。
【0128】
選抜前のDNAライブラリーとPC−9に対するアフィニティーの有無を確認するため、以下の試料12を調製した。
〔試料12〕実施例4の3のアニーリングしたDNAライブラリーを所定量と、実施例4の2で得られた精製したPC−9の所定量とを、実施例4の1で得られた試料用の緩衝溶液に溶解し、100nMのDNAライブラリーと2×10cell/mLのPC−9との混合試料を調製した。この試料を遠心分離機に供し、200g、5分で細胞を沈降させ、上澄み液を除去後、実施例4の1の試料用の緩衝溶液を添加した。この操作を2回繰り返すことにより複合体の洗浄を行った。
【0129】
2.蛍光顕微鏡画像の取得
走査型蛍光顕微鏡はFV−1000D〔オリンパス社製〕を使用し、半導体レーザー(λem=473nm、出力:15mV)を設置して用いた。
【0130】
前記1で調製した、試料11および試料12をスライドガラスに10μL滴下し、カバーガラスをかぶせて、観察した。
【0131】
3.結果
図9は、PC−9に対するDNAアプタマー選抜後のDNAプールのPC−9に対するアフィニティーの有無を確認した結果である。PC−9と選抜後のDNAプールの混合試料では、細胞表面に蛍光修飾化したDNA由来の蛍光を確認できた。これはすなわち、選抜されたDNAがPC−9に対してアフィニティーを持つことを示している。
【0132】
図10は、選抜前のDNAライブラリーのPC−9に対するアフィニティーの有無を確認した結果である。PC−9と選抜前のDNAライブラリーの混合試料では、細胞表面に蛍光修飾化したDNA由来の蛍光は確認されなかった。図9の結果を考慮すると、DNAランダムライブラリーからPC−9に対してアフィニティーを持つDNAの集合体の選抜が行えたことを示している。
【0133】
以上のことから、本発明であるキャピラリー過渡的等速電気泳動法を用いたDNAアプタマー選抜法により、効率的にDNAアプタマーを選抜できることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]