特許第6781894号(P6781894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781894
(24)【登録日】2020年10月21日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】コンクリート用充填材の確認方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20201102BHJP
【FI】
   E04G23/02 B
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-82990(P2018-82990)
(22)【出願日】2018年4月24日
(65)【公開番号】特開2019-190100(P2019-190100A)
(43)【公開日】2019年10月31日
【審査請求日】2018年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000154565
【氏名又は名称】株式会社福田組
(73)【特許権者】
【識別番号】591236437
【氏名又は名称】株式会社 東邦アーステック
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(74)【代理人】
【識別番号】100201237
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 伸之
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 篤志
(72)【発明者】
【氏名】西脇 健志
(72)【発明者】
【氏名】野口 浩
(72)【発明者】
【氏名】松田 裕介
【審査官】 津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−171767(JP,A)
【文献】 特開2015−059772(JP,A)
【文献】 特開2016−217828(JP,A)
【文献】 特開2017−014785(JP,A)
【文献】 特開2008−094978(JP,A)
【文献】 特開2008−063530(JP,A)
【文献】 齊木 祐介,共鳴振動法によるコンクリート内部の損傷評価,コンクリート工学年次論文集,日本コンクリート工学会,2010年,32巻1号,1715-1720,URL,data-jci-net.or.ja/data_pdf/32/032-01-1278.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に生じたひび割れなどの隙間に充填したコンクリート用充填材の充填確認方法であって、前記充填材は接着剤とガラス微小中空球とを含む混合物からなるものであり、この充填材を前記隙間に充填した後、下記の赤外線法を用いて前記コンクリート用充填材の充填状態を確認することを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法。

熱エネルギーを前記コンクリート用充填材を充填した後の前記コンクリート構造物の表面に供給して前記コンクリート用充填材の充填部分を加熱し、前記コンクリート構造物の表面の温度上昇の勾配を測定する方法。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリート用充填材の確認方法において、前記赤外線法を用いて前記コンクリート用充填材の充填状態を確認した後、下記の共鳴振動法を用いて前記コンクリート用充填材の充填状態を確認することを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法。

前記コンクリート用充填材を充填した後の前記コンクリート構造物の動弾性係数を測定する方法。
【請求項3】
コンクリート構造物に生じたひび割れなどの隙間に充填したコンクリート用充填材の充填確認方法であって、前記充填材は接着剤とガラス微小中空球とを含む混合物からなるものであり、この充填材を前記隙間に充填した後、下記の共鳴振動法を用いて前記コンクリート用充填材の充填状態を確認することを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法。

前記コンクリート用充填材を充填した後の前記コンクリート構造物の動弾性係数を測定する方法。
【請求項4】
請求項3記載のコンクリート用充填材の充填確認方法であって、前記共鳴振動法に加え、下記の赤外線法を併用することを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法。

熱エネルギーを前記コンクリート用充填材を充填した後の前記コンクリート構造物の表面に供給して前記コンクリート用充填材の充填部分を加熱し、前記コンクリート構造物の表面の温度上昇の勾配を測定する方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載のコンクリート用充填材の確認方法において、前記接着剤はエポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂系接着剤であることを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載のコンクリート用充填材の確認方法において、前記ガラス微小中空球が前記接着剤100質量部に対し10〜50質量部配合されていることを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法
【請求項7】
請求項1〜5いずれか1項記載のコンクリート用充填材の確認方法において、前記ガラス微小中空球が前記接着剤100質量部に対し20〜30質量部配合されていることを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項記載のコンクリート用充填材の確認方法において、前記ガラス微小中空球は50%粒子径が10〜100μmであることを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項記載のコンクリート用充填材の確認方法において、前記ガラス微小中空球は真密度が0.10〜1.30g/cmであることを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート用充填材の確認方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート構造物に生じたひび割れ等に、エポキシ樹脂等から成る補修用充填材を充填して補修することが行われている。
【0003】
ところで、補修用充填材がひび割れ等に十分に充填されたか否かの確認は、通常、ひび割れ等の(推測される)空間容積に応じた充填材の計画上の使用量と実際の使用量とを比較することで行っている。
【0004】
しかし、ひび割れ等の詳細な構造は分からない場合が多いため、ひび割れ等の空間容積の正確な把握は困難である。従って、想定される容積の充填材を充填しても、ひび割れ等の末端まで充填できているか不明な場合も多い。
【0005】
そこで、コンクリート構造物の補修部分を抜き出して目視で調べることが行われている。しかし、その場合、コンクリート構造物を傷つける欠点がある。そのため、コンクリート構造物を破壊することなく、良好に補修用充填材の充填確認を行える技術が要望されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、補修用充填材に造影剤を混入し、ひび割れ等にこの補修用充填材を充填した後、電磁放射線(X線等)を照射して充填確認を行う、コンクリート構造物の非破壊検査方法が開示されている。しかし、コンクリート構造物に電磁放射線を扱う設備を設置する必要があり、実用面で簡便性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−133189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような現状に鑑みなされたもので、コンクリート構造物の隙間の補修において、電磁放射線(X線、γ線等)を用いる設備を設置する必要なく簡便且つ良好にコンクリート用充填材の充填状態の確認を非破壊的に行うことができる実用的なコンクリート用充填材の確認方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨を説明する。
【0010】
コンクリート構造物に生じたひび割れなどの隙間に充填したコンクリート用充填材の充填確認方法であって、前記充填材は接着剤とガラス微小中空球とを含む混合物からなるものであり、この充填材を前記隙間に充填した後、下記の赤外線法を用いて前記コンクリート用充填材の充填状態を確認することを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法に係るものである。

熱エネルギーを前記コンクリート用充填材を充填した後の前記コンクリート構造物の表面に供給して前記コンクリート用充填材の充填部分を加熱し、前記コンクリート構造物の表面の温度上昇の勾配を測定する方法。
【0011】
また、請求項1記載のコンクリート用充填材の確認方法において、前記赤外線法を用いて前記コンクリート用充填材の充填状態を確認した後、下記の共鳴振動法を用いて前記コンクリート用充填材の充填状態を確認することを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法に係るものである。

前記コンクリート用充填材を充填した後の前記コンクリート構造物の動弾性係数を測定する方法。
【0012】
また、コンクリート構造物に生じたひび割れなどの隙間に充填したコンクリート用充填材の充填確認方法であって、前記充填材は接着剤とガラス微小中空球とを含む混合物からなるものであり、この充填材を前記隙間に充填した後、下記の共鳴振動法を用いて前記コンクリート用充填材の充填状態を確認することを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法に係るものである。

前記コンクリート用充填材を充填した後の前記コンクリート構造物の動弾性係数を測定する方法。
【0013】
また、請求項3記載のコンクリート用充填材の充填確認方法であって、前記共鳴振動法に加え、下記の赤外線法を併用することを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法に係るものである。

熱エネルギーを前記コンクリート用充填材を充填した後の前記コンクリート構造物の表面に供給して前記コンクリート用充填材の充填部分を加熱し、前記コンクリート構造物の表面の温度上昇の勾配を測定する方法。
【0014】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載のコンクリート用充填材の確認方法において、前記接着剤はエポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂系接着剤であることを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法に係るものである。
【0015】
また、請求項1〜5いずれか1項記載のコンクリート用充填材の確認方法において、前記ガラス微小中空球が前記接着剤100質量部に対し10〜50質量部配合されていることを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法に係るものである。
【0016】
また、請求項1〜5いずれか1項記載のコンクリート用充填材の確認方法において、前記ガラス微小中空球が前記接着剤100質量部に対し20〜30質量部配合されていることを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法に係るものである。
【0017】
また、請求項1〜7いずれか1項記載のコンクリート用充填材の確認方法において、前記ガラス微小中空球は50%粒子径が10〜100μmであることを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法に係るものである。
【0018】
また、請求項1〜8いずれか1項記載のコンクリート用充填材の確認方法において、前記ガラス微小中空球は真密度が0.10〜1.30g/cmであることを特徴とするコンクリート用充填材の確認方法に係るものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は上述のように構成したから、コンクリート構造物の隙間の補修において、電磁放射線(X線、γ線等)を用いる必要なく簡便且つ良好にコンクリート用充填材の充填状態の確認を非破壊的に行うことができる実用的なコンクリート用充填材の確認方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1本充填材で作製した試験体と比較例で作製した試験体における動弾性係数の測定結果を示すグラフである。
図2本充填材で作製した試験体におけるコンクリート用充填材の充填部分の動弾性係数測定値と健全なコンクリートの動弾性係数測定値の比とコンクリート用充填材の充填率の関係を示すグラフである。
図3本充填材で作製した試験体における熱容量比及び温度勾配の測定結果を示すグラフである。
図4】比較例で作製した試験体における熱容量比及び温度勾配の測定結果を示すグラフである。
図5】共鳴振動法による測定に使用される装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
好適と考える本発明の実施形態を、本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0022】
詳細については後述するが、本発明者らは、ガラス微小中空球を含むコンクリート用充填材においては、共鳴振動法により測定される動弾性係数と充填率との関係、並びに、赤外線法により測定される温度勾配及び熱容量比と充填率との関係が明確であることを見出し、この知見に基づき、コンクリート用充填材の充填状態を非破壊的に確認することを可能とする本発明に到った。
【0023】
即ち、コンクリート構造物の隙間に本発明に係るコンクリート用充填材を充填した後、共鳴振動法若しくは赤外線法を用いて前記コンクリート用充填材の充填状態を確認すると、ガラス微小中空球の存在により、前記コンクリート用充填材の充填状態、即ち、充填対象空間に対する充填材の充填度合い(充填率)を良好に確認することができる。
【実施例】
【0024】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0025】
本実施例は、接着剤とガラス微小中空球とを含む混合物からなるコンクリート用充填材をコンクリート構造物の隙間に充填し、コンクリート構造物を補修するコンクリート構造物の補修方法であり、以下詳述する。
【0026】
本発明において、隙間とは、コンクリート構造物のひび割れ、孔、溝または継ぎ目(接合面間)等をいう。
【0027】
ガラス微小中空球は、内部に空洞を有するガラスからなる微小な玉である。ガラス微小中空球は、例えば、ガラス粒に含ませた発泡剤によってガラス粒を膨張させることにより、製造することができる。
【0028】
ガラス微小中空球を構成するガラスは、ケイ素酸化物が主要成分であり、ガラス微小中空球の50質量%以上、好ましくは60〜90質量%、より好ましくは65〜85質量%がケイ素酸化物からなる。ガラス微小中空球は、ケイ素酸化物以外に、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、リン酸化物、硫黄酸化物及びホウ素酸化物等を含みうる。例えば、ケイ素酸化物60〜90質量%、アルカリ金属酸化物2〜20質量%、アルカリ土類金属酸化物0〜25質量%、リン酸化物0〜10質量%、硫黄酸化物0.005〜0.3質量%、ホウ素酸化物1〜30質量%を含むことが好ましい。ガラス微小中空球に使用されるガラスは、好ましくはソーダ石灰ホウケイ酸ガラスからなる。
【0029】
本実施例のガラス微小中空球の形状は、内部に空洞を有する構造からなる立体であれば良く、好ましくは空洞を有する球状、より好ましくは空洞を有する真球である。ガラス微小中空球の大きさは、現場の状況に応じて適宜採用できるが、好ましくは50%粒子径が10〜100μm、より好ましくは50%粒子径が16〜65μmである。ここで、50%粒子径とは、メジアン径(d50)のことである。粒子分布が2つのピーク、例えば50〜55μmのピークと20〜25μmのピークを有するガラス微小中空球も使用できる。
【0030】
ガラス微小中空球としての密度については、好ましくは真密度0.10〜1.30g/cm3、より好ましくは真密度0.13〜0.60g/cm3である。ガラス微小中空球としての嵩密度は、好ましくは0.05〜0.50g/cm3、より好ましくは0.08〜0.33g/cm3である。好適なガラス微小中空球として、3M社製のグラスバブルズを使用できる。
【0031】
ガラス微小中空球は、接着剤100質量部に対し、好ましくは10〜50質量部、より好ましくは20〜30質量部を配合する。
【0032】
接着剤としては、エポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤が好適に使用される。エポキシ樹脂を主剤とし、アミン類を硬化剤とするエポキシ樹脂系接着剤が好ましく、具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を主剤とし、ポリアミン類を硬化剤とする2液常温硬化型エポキシ樹脂系接着剤がより好ましい。
【0033】
接着剤には、その他の成分が任意に配合されていてもよい。具体的には、染料及び顔料や、増粘剤、可塑剤、反応性希釈剤、シランカップリング剤、反応促進剤等の各種添加剤を一種又は複数種配合することができる。
【0034】
本実施例に係るコンクリート用充填材の好ましい調製方法は、接着剤として2液混合型エポキシ樹脂系接着剤を使用する場合、エポキシ樹脂を含むa液と硬化剤を含むb液とガラス微小中空球を混合して、コンクリート用充填材として充填する方法である。かかる方法において、ガラス微小中空球は、a液もしくはb液のいずれか一方、または、両方に前もって配合しておき、両液を混合することができる。あるいは、a液とb液の混合後にガラス微小中空球を配合しても良い。好ましくは、エポキシ樹脂を含むa液にガラス微小中空球を前もって配合しておき、これにb液を混合して使用する。接着剤としてエポキシ樹脂系接着剤以外の接着剤種を使用する場合、同様に、接着剤にガラス微小中空球を前もってまたは使用時に配合してコンクリート用充填材を調製し、これを充填に使用することができる。
【0035】
以上の構成の接着剤とガラス微小中空球を含有する混合物からなるコンクリート用充填材をコンクリート構造物の隙間に充填する。具体的には、接着剤とガラス微小中空球を含む混合物を硬化前の流動状態においてひび割れ等のコンクリート構造物の隙間(充填対象空間)に注入する。注入操作には、シリンダー型の注入器具を使用し、圧縮空気の圧力、又は、ゴム若しくはバネ等の弾性体の復元力を利用して加圧注入する「自動式低圧樹脂注入工法」を好適に用いることができる。
【0036】
コンクリート用充填材の硬化後、共鳴振動若しくは赤外線放射を利用してコンクリート構造物の物性を測定する共鳴振動法若しくは赤外線法によって、コンクリート用充填材が充填対象空間に対してどの程度充填されたかを確認する。共鳴振動法若しくは赤外線法において、コンクリート構造物におけるコンクリート用充填材の充填部分と非充填部分は明瞭に区別して検知され、その結果、コンクリート用充填材の充填状態を非破壊的に確認することができる。
【0037】
即ち、本実施例は、接着剤とガラス微小中空球を含有する混合物からなるコンクリート用充填材をひび割れ等のコンクリート構造物の隙間に充填した後、共鳴振動法若しくは赤外線法を用いて前記コンクリート用充填材の充填状態を確認することを特徴とする充填確認方法である。
【0038】
本実施例において、共鳴振動法とは、補修後、コンクリート構造体の動弾性係数を測定する方法である。典型的には、本実施例のコンクリート用充填材を使用してコンクリート構造物の補修作業を行った後、コンクリート構造体の補修した部分において、JIS A 1127に従って、コンクリート構造体を強制的に振動させ、コンクリートの共鳴周波数を測定し、動弾性係数を算出する。本発明の補修において、隙間に本実施例のコンクリート用充填材が十分に充填されている場合は、その部分の動弾性係数は健全なコンクリート、即ち、コンクリート構造物の隙間を有しない部分の動弾性係数に近接する。一方、本実施例のコンクリート用充填材が十分に充填されていない場合は、その部分の動弾性係数は健全なコンクリートの動弾性係数と明白な相違を生じる。
【0039】
具体的には、本実施例のコンクリート用充填材を所定量充填したモデル試験体を用いて、共鳴振動法によりコンクリート用充填材の充填率−動弾性係数のグラフ及びその検量線を作成し、この検量線に、補修部分について共鳴振動法により測定された動弾性係数の測定値を当てはめることにより、補修部分における本実施例のコンクリ―ト用充填材の充填率を非破壊的に測定することができる。
【0040】
また、簡便に、コンクリ―ト用充填材の充填が十分になされたかどうかを評価することができる。即ち、共鳴振動法により、コンクリートの補修した部分及び健全な部分について動弾性係数を測定し、両者を比較する。補修した部分の動弾性係数が健全な部分の動弾性係数に近似すれば、補修部分のコンクリート用充填材の充填率は100%またはそれに近いといえる。
【0041】
本実施例において、赤外線法とは、熱エネルギーをコンクリート構造物の表面に均一に供給することにより補修した部分を加熱し、コンクリート表面に生じる温度上昇の勾配を測定する方法である。本実施例のコンクリート用充填材を使用すると、微小な温度差さえあれば、充填不良部の検知や充填状態の測定ができる。広範囲を非接触で検査でき、複雑な形状の構造物にも適用可能である。太陽光や白熱球、ハロゲンランプ等、温度上昇を提供するための加熱手段が容易に利用できる場合、赤外線法のメリットが大きい。
【0042】
具体的には、本実施例のコンクリート用充填材を所定量充填したモデル試験体を用いて、赤外線法により温度勾配−熱容量比のグラフ及びその検量線を作成する。本実施例のコンクリート用充填材を使用してコンクリート構造物の補修作業を行った後、コンクリート構造物の補修した部分について測定された温度上昇勾配の実測値を当てはめることにより、補修した部分における本実施例のコンクリ―ト用充填材の充填率を非破壊的に推定することができる。
【0043】
本実施例のコンクリート用充填材は、共鳴振動法若しくは赤外線法を用いた測定により簡便且つ良好にコンクリート用充填材の充填状態を非破壊的に確認することができ、コンクリート構造物の補修を確実に行う上で実用的なものである。同様に、本実施例のコンクリート用充填材を使用するコンクリート構造物の補修方法及びコンクリート用充填材の充填確認方法は、簡便且つ良好にコンクリート用充填材の充填状態を非破壊的に測定できるので、実用的である。
【0044】
さらに、両測定方法を組み合わせることができる。即ち、本実施例のコンクリート用充填材を使用してコンクリート構造物の補修(コンクリート用充填材の充填)を行った後、赤外線法を用いてコンクリート用充填材の充填状態を全体的に評価し、次いで、確認を要する特定の部分について、共鳴振動法を用いてコンクリート用充填材の充填状態を部分的に評価することもできる。
【0045】
よって、本実施例は、補修作業後に、電磁放射線(X線、γ線等)を用いる必要なく簡便且つ良好にコンクリート用充填材の充填状態の確認を非破壊的に行うことができる実用的な方法となる。
【0046】
本実施例の効果を裏付ける実験について説明する。
【0047】
実施例に係るコンクリート用充填材(以下、「本充填材」という。)
主剤としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分とする変性エポキシ樹脂、硬化剤としてポリアミンを主成分とする変性ポリアミンを含む2液常温硬化型エポキシ樹脂系接着剤を使用した。まず、前記主剤に前記硬化剤を混合し、次いで、これにガラス微小中空球(3M社製、グラスバブルズGB−iM30K;50%粒子径16μm、真密度0.60g/cm)を加えて混合することにより、コンクリート用充填材を調製した。主剤と硬化剤の混合比は、50:50(重量比)とした。前記ガラス微小中空球は、接着剤の量(前記主剤と前記硬化剤の合計量)100質量部に対し26質量部の量を配合した。
【0048】
一対のコンクリート製の直方体ブロック(100×100×200mm)を用意し、両ブロックの端部間の幅2mmの間隙に、このコンクリート用充填材を間隙の空間容積に対して20%、50%、80%、または100%の容積となる量、シリンダーを使用して注入充填し、常温で2日間放置して硬化させて各試験体を作製した。
【0049】
比較
ガラス微小中空球を配合しなかった他は、本充填材と同様にしてコンクリート用充填材を調製した。得られたコンクリート用充填材を使用し、本充填材の場合と同様に各試験体を作製した。
【0050】
両コンクリート用充填材の性質を表1に示す。表1において、コンクリート用充填材の粘度は、JISに基づく硬化前の測定値を表し、コンクリート用充填材の硬化物密度、引張強さ、伸び率及び接着強さは、JISに基づく硬化後の測定値を表す。
【0051】
【表1】
【0052】
鳴振動
図5に示すように、本充填材で作製した各試験体をピンで支え、その一方のブロック(図5の右側)の下面に駆動器を設置し、コンクリート用充填材(樹脂製充填材)の充填部分を介して試験体の他方のブロック(図5の左側)の上面に検出器を設置し、JIS A 1127に従って、駆動器から発生させた超音波パルス波に応じて生じた振動を検出器でピックアップすることにより、各試験体の共鳴周波数を測定した。共鳴周波数の測定値から各試験体の動弾性係数を夫々算出した。また、隙間を有しないブロックのみを用いて、同様に共鳴周波数を測定し、健全なコンクリートの動弾性係数を算出した。
【0053】
結果を図1に示す。図1においてHPGが本充填材で作製した各試験体の結果を表し、HPGの後ろの数字は間隙空間容積へのコンクリート用充填材の充填率(%)を表す。図2には、本充填材で作製した各試験体の試験体のコンクリート用充填材の充填部分の動弾性係数測定値と健全なコンクリート(ブロック)の動弾性係数測定値の比と充填率の関係を線形近似した検量線を示す
【0054】
較例1で作製した試験体を使用し、上記と同様に測定して各試験体の動弾性係数を夫々算出した。結果を図1に示す。図1においてHPが比較例で作製した試験体の結果を表し、HPの後ろの数字は間隙空間容積へのコンクリート用充填材の充填率(%)を表す。
【0055】
図1から、ガラス微小中空球を含まないコンクリート用充填材(比較例)を使用した場合は充填率が増加しても各試験体の動弾性係数は大きく変化せず関連性が見られないが、ガラス微小中空球を含むコンクリート用充填材を使用した場合は各試験体の動弾性係数は充填率の増加に応じて上昇した。図2の検量線に示されるように、試験体のコンクリートの補修した部分の動弾性係数と健全なコンクリートの動弾性係数との比に対する充填率の関係は線形で近似された。また、コンクリート用充填材の充填率が100%の補修部分を含むコンクリートの動弾性係数は、健全なコンクリート(ブロック)の動弾性係数に接近することが確認された。
【0056】
従って、共鳴振動法によってコンクリート用充填材の充填率を動弾性係数測定値から推定でき、コンクリート用充填材の充填状態の確認が非破壊的に行えた。
【0057】
外線
本充填材で作製した各試験体のコンクリート表面に対して、ハロゲンランプの光を接合部を含めて均一に照射することにより強制的に加熱した。その間、赤外線サーモグラフィ装置(赤外線カメラ)を用いてコンクリート表面の赤外線放射の熱画像を経時的に撮影し、解析することで各試験体の上昇温度勾配を測定した。一方、コンクリートとコンクリ―ト用充填材(樹脂)の熱容量比(コンクリート/樹脂)を算出し、これと前記温度勾配測定値の関係及びこれを直線で近似した検量線を図3に示す。図3においてHPGが本充填材で作製した試験体の結果を示し、HPGの後ろの数字は間隙空間容積へのコンクリート用充填材の充填率(%)を表す
【0058】
例で作製した試験体を使用して、上記と同様にして各試験体の上昇温度勾配を測定した。結果を図4に示す。図4においてHPが比較例で作製した試験体の結果を示し、HPの後ろの数字は間隙空間容積へのコンクリート用充填材の充填率(%)を表す。
【0059】
図4から、赤外線法により測定した温度勾配及び熱容量比は、ガラス微小中空球を含まないコンクリ―ト用充填材(比較例)を使用した場合は充填率との関連性は見られなかった。一方、ガラス微小中空球を含むコンクリ―ト用充填材を使用した場合は充填率の増加に応じて線形的な関係が確認された。従って、コンクリ―ト用充填材の充填率を温度勾配と熱容量比の関係から推定でき、赤外線法により本実施例のコンクリ―ト用充填材の充填状態の確認が良好に行えた。
【0060】
以上から、ひび割れ等のコンクリート構造物の隙間に本実施例のコンクリート用充填材を充填し、共鳴振動法若しくは赤外線法を用いて測定することで、コンクリート用充填材の充填状態を非破壊的かつ良好に確認することができた。
図1
図2
図3
図4
図5