【実施例】
【0018】
[実施例1]
図1において、本実施例に係る単一指向性ダイナミックマイクロホンは、ユニットケース1をベースにして各部材が組み立てられている。ユニットケース1はほぼ円筒形状をしていて、ユニットケース1の下半部内方には内筒7が嵌められて固着されている。ユニットケース1の内周には、内筒7よりも上方において拡径されることにより段部12が形成され、拡径部分に、ヨーク2、磁石3、外ヨーク4、ポールピース8からなる磁気回路構成部材が嵌められ、段部12にヨーク2が接している。
【0019】
ヨーク2は周壁を有する皿状の部材で、内方の中心部に周壁から間隔をおいて平板状の磁石3が固着されている。磁石3の上には平板状のポールピース8が重ねられて固着されている。ヨーク2の周壁の上面にはリング状の外ヨーク4が重ねられて固着されている。ヨーク2の外周面と外ヨーク4の外周面は共通の円筒面上にある。外ヨーク4とポールピース8は、それぞれの上面と下面が共通の平面上にある。
【0020】
磁石3は厚さ方向すなわち
図1において上下方向に着磁されて、N極とS極が上下方向に分かれている。外ヨーク4の内周面とポールピース8の外周面との間には適宜の間隔で円筒状の空間が形成されている。この円筒状の空間は磁気ギャップになっていて、磁石3から出た磁束が前記磁気ギャップを均一な密度で通っている。
【0021】
ユニットケース1の上端外周縁には突堤15が形成され、突堤15よりも内周側には突堤15の上面よりも低い位置に段部14が形成されている。段部14には振動板5の外周縁部が固着されている。振動板5は、球面の一部を切り取った形のセンタードーム51と、センタードーム51の外周に続く縦断面形状が円弧状のサブドーム52と、サブドーム52の外周に続く平坦な外周縁部を有する。振動板5の外周縁部がユニットケース1の段部14に接着されている。振動板5は、音波を受けると、センタードーム51とサブドーム52が音波に従い前後方向に振動する。
【0022】
振動板5の背面側(
図1において下面側)には、センタードーム51とサブドーム52の境界に沿って、細線が円筒形状に巻き回されて形成されているボイスコイル5の一端が固着されている。ボイスコイル5は前記磁気ギャップを貫いている。ボイスコイル5は外ヨーク4からもポールピース8からも離間している。周知の通り、振動板5が音波を受けると、振動板5と一体的にボイスコイル5が振動し、磁気ギャップを通る磁束とボイスコイル5との電磁変換作用により、ボイスコイル5が音波に対応する音声信号を生成する。
【0023】
ユニットケース1の突堤15にはイコライザー22の下端外周部が固着されている。イコライザー22は、外部からの音波を振動板5に導くための孔を有する。この孔は前部音響端子を構成している。イコライザー22は、振動板5の保護部材を兼ねている。イコライザー22の下面側中心部は振動板5のセンタードーム51の形に合わせてドーム状に形成され、センタードーム51との間に一定間隔の隙間が保たれている。
【0024】
前記磁気ギャップは、振動板5の背面側の空間と、磁石3の外周面とヨーク2の周壁の内周面との間に生じている空間40を連通させている。空間40は、ヨーク2の底部に開けられている適宜数の孔を通じて前記内筒7の内部空間に連通している。
【0025】
ユニットケース1には、
図7にも示すように、複数の連通路30が周方向に等間隔でかつユニットケース1の中心軸を中心とした円弧に沿う形に形成されている。連通路30は、振動板5のサブドーム52に対応する位置にあってユニットケース1の中心軸線方向に形成されている。ユニットケース1は、連通路30の下部が外部空間に開放されている。したがって、連通路30は、振動板5の背面側の空間と外部空間とをつないでいる。連通路30には、振動板5に対して実効的に音圧を与える空気の位置すなわち振動板と同時に動く空気の中心位置である後部音響端子が含まれている。後部音響端子を有することによって、本実施例に係るマイクロホンの指向性は単一指向性になっている。
【0026】
ユニットケース1には、連通路30の一端側(
図1において上端側)の開口に重なって薄空気層形成部材10が固着されている。薄空気層形成部材10は、
図2に示すように、外周縁部が下方に折り曲げられて極低い周壁101が形成されるとともに、中心孔102が形成されたリング状の部材である。
【0027】
図3にも示すように、振動板5の外周縁部が固着されているユニットケース1の段部14よりも内周側でありかつ段部14よりも低い位置に第2の段部がある。この第2の段部はポールピース8の上面と同一面にある。前記第2の段部に薄空気層形成部材10の周壁101が係合されて固着されている。薄空気層形成部材10の中心孔102の径はボイスコイル6の外径よりも大きく、薄空気層形成部材10の半径方向の幅は、振動板5のサブドーム52の半径方向の幅よりも小さい。
【0028】
薄空気層形成部材10は、振動板5のサブドーム52の背面側にサブドーム52と重なる位置に配置されるとともにサブドーム52に接触しない大きさに設定されている。薄空気層形成部材10は、その周壁101が前述のようにユニットケース1の前記第2の段部に固着されることにより、振動板5(サブドーム52)の背面側の空間にあって連通路30の一端側開口30Aから離間して配置されている。そして、薄空気層形成部材10と磁気回路との空隙により薄空気層が形成されている。
【0029】
前述のように薄空気層形成部材10の半径方向の幅は、振動板5のサブドーム52の半径方向の幅よりも小さいので、サブドーム52の背面側の空間は、薄空気層と連通路30の一端側開口30Aと連通路30を通る経路で外部空間と繋がっている。具体的には、薄空気層形成部材10は外ヨーク4との間に所定間隔をもって、一端側開口30Aから内側に延びて形成されている。
【0030】
薄空気層形成部材10の連通路30の一端側開口からの離間度合いは薄空気層形成部材10の周壁101の高さに依存する。周壁101の高さは低いため、薄空気層形成部材10の連通路30の一端側開口からの離間度合いは小さく、振動板5の背面側空間と連通路30をつなぐ空間は狭くなっている。
【0031】
振動板5のセンタードーム51の背面側空間にも容積制限部材18が配置され、センタードーム51の背面側空間の容積も制限されている。容積制限部材18も、ほぼ球体の一部を切断した形になっていて、平坦面がポールピース8の上面に固着され、球面がセンタードーム51の背面に対向している。容積制限部材18の球面とセンタードーム51の背面との間には一定間隔で間隙が保たれている。
【0032】
以上説明した単一指向性ダイナミックマイクロホンの実施例は、振動板5のサブドーム52の背面側空間に薄空気層形成部材10が存在することにより、サブドーム52の背面側空間の容積が小さくなっている。また、薄空気層形成部材10が存在することにより、後部音響端子から取り込まれる音波が薄空気層の抵抗で振動板5の背面の直近に加えられる。サブドーム52の背面側空間の容積が小さくなることにより、共振周波数を主要収音帯域よりも高くすることができ、主要収音帯域の周波数応答の凹凸を防ぐことができる。
【0033】
薄空気層形成部材10が存在することにより、薄空気層形成部材10を音響抵抗として機能させることができる。従来のように布や不織布などのように吸湿性のある素材を音響抵抗として用いた場合、湿度の変化などによって周波数応答などの音響特性が変動しやすい。しかし、本発明の実施例によれば、薄空気層形成部材10による薄空気層を音響抵抗として利用するため、湿度の変化などに影響されない安定した音響特性を得ることができる。
【0034】
次に、本発明に係る単一指向性ダイナミックマイクロホンの要部である薄空気層形成部材およびその周辺の各種変形例について説明する。
【0035】
[実施例2]
図4は実施例2を示す。実施例2は、前記実施例1における薄空気層形成部材10よりも、半径方向の幅を小さくした薄空気層形成部材50を用いたものである。その他のユニットケース1、外ヨーク4、振動板5、連通路30などの構成は前記実施例1と同じである。実施例1の場合よりも、振動板5のサブドーム52の背面側空間から連通路30に至る薄空気層の長さが短く、音響抵抗が小さくなる。また、サブドーム52の背面側空間の容積は実施例1の場合よりも大きくなり、共振周波数は実施例1の場合よりも低くなる。薄空気層形成部材50の半径方向の大きさをどのように設定するかは、求める音響特性に対応して設定すればよい。
【0036】
[実施例3]
図5は実施例3を示す。実施例3は、上面を振動板5のサブドーム52の円弧に対応させて断面形状を円弧状に形成した薄空気層形成部材60を用いたものである。薄空気層形成部材60の半径方向の幅は任意であるが、
図5に示す実施例3における薄空気層形成部材60の半径方向の幅は、前記実施例1の薄空気層形成部材10とほぼ同じになっている。実施例3によれば、薄空気層形成部材60によって、振動板5のサブドーム52の背面側の空間容積がさらに小さくなり、共振周波数がさらに高くなり、主要収音帯域の周波数応答の凹凸を防ぐことが容易になる。
【0037】
[実施例4]
図6は実施例4を示す。実施例4は、実施例1の薄空気層形成部材10と同じ構成の薄空気層形成部材10を用いているが、その固着部の構成が異なっている。
図6に示すように、振動板5の外周縁の固着部である段部14に対して薄空気層形成部材10の周壁101を固着する第2の段部16が、これまで説明してきた実施例に比較して大きな段差をもって形成されている。段部14よりも内周側に第2の段部16があり、段部14よりも下段に第2の段部16がある。
【0038】
図6に示す実施例4によれば、振動板5と薄空気層形成部材10の周壁101を離間させることができるため、振動板5の周縁部に付着している接着剤が薄空気層形成部材10との隙間に浸透することを防止することができる。これにより、振動板5の音波による振動が阻害されるというような不具合を防止することができる。