特許第6781922号(P6781922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781922
(24)【登録日】2020年10月21日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】鋳型の再生方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/059 20060101AFI20201102BHJP
   B22D 11/057 20060101ALI20201102BHJP
   C25D 5/10 20060101ALI20201102BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20201102BHJP
   C25D 21/10 20060101ALI20201102BHJP
   C25D 3/58 20060101ALN20201102BHJP
【FI】
   B22D11/059 110B
   B22D11/057
   B22D11/059 110H
   C25D5/10
   C25D7/00 F
   C25D21/10 301
   !C25D3/58
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-92192(P2016-92192)
(22)【出願日】2016年4月30日
(65)【公開番号】特開2017-196657(P2017-196657A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000155470
【氏名又は名称】株式会社野村鍍金
(74)【代理人】
【識別番号】100085615
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 政彦
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 正樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 純
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 利幸
(72)【発明者】
【氏名】仲井 啓治
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−183748(JP,A)
【文献】 特開昭53−077840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/057,11/059
C25D 3/58,5/00,7/00,21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型の再生方法であって、減肉した鋳型の表面に、不可避的不純物を含み、導電率が純銅の25〜80%となる銅−ニッケル合金めっき層を電気めっき法により肉盛り形成し、全体厚の8〜20%を寸法復元することを特徴とする鋳型の再生方法。
【請求項2】
銅−ニッケル合金めっき層が、めっき層全体の平均ニッケル含有率よりも高いニッケル含有率を有する高ニッケル含有層と、前記平均ニッケル含有率よりも低いニッケル含有率を有する低ニッケル含有層を交互に積層することで形成されていることを特徴とする請求項1記載の鋳型の再生方法。
【請求項3】
銅−ニッケル合金めっき層中の銅含有率が50wt%以上及び平均ニッケル含有率が0.5〜20wt%となることを特徴とする請求項1または2に記載の鋳型の再生方法。
【請求項4】
同一の合金めっき浴を用いて周期的に撹拌条件を変えることにより、高ニッケル含有層と低ニッケル含有層を交互に積層形成して、導電率を調整した銅−ニッケル合金を被覆することを特徴とする請求項2または3に記載の鋳型の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型の再生方法に関するものであり、減肉した鋳型を繰り返し再生・復元可能とするものである。
【背景技術】
【0002】
鋼を鋳造する為の連続鋳造鋳型の母材は、抜熱効果を得るために銅ないし銅合金が利用されている。鋳型母材のサイズは、連続鋳造機によってまちまちではあるが、スラブ鋳造用の鋳型母材の場合には、長辺サイズは、幅1,500〜3,000mmで、高さは700〜1,200mm、厚みは20〜60mm程度である。また同じくスラブ用鋳型の短辺の母材のサイズは、幅150〜500mm、高さは長辺と同様に700〜1,200mm、厚みは20〜60mm程度である。
【0003】
鋳型母材の溶鋼の通過面は、耐摩耗性・耐熱性・耐食性付与の目的で、過去から色々な異種金属を被覆した歴史があり、現在では、ニッケルめっき、コバルト−ニッケル合金めっき、自溶性合金溶射皮膜等を適宜被覆して鋳造片の品質確保と同時に長寿命化を図っている。鋳型母材に被覆されているコバルト−ニッケル合金めっきや自溶性合金等の異種金属被覆層の寿命は鋳造する鋼種・鋳造速度・連続鋳造機の構造等によっても左右されるが、2,000〜3,000チャージにも達している。
【0004】
一般には、鋳型下部での銅ないし銅合金の露出をもって異種金属被覆層の寿命として、鋳型母材表面に残存している異種金属被覆層の完全除去と再度の被覆(再加工)で、再利用に供している。異種金属を再度被覆する時には、通常、表面に残存している異種金属だけでなく、鋳型母材表面の疵や凹み等の除去の為の整面も含めると再生毎に約1mm程度切削除去されてしまい、新作銅母材からカウントすると4〜5回の再生サイクル、鋳型母材の肉厚に換算すると僅か4〜5mmの銅母材の減肉で廃材となっている。
【0005】
特許文献1は、連続鋳造鋳型母材の少なくとも疵部や変形部を研削除去して当該部位に局所的に10mm以下に銅または銅合金を電気めっきして補修する方法が開示されている。前記10mmの膜厚制限は、塑性加工がない為に厚く被覆すると摩耗や座屈するとして、厚みの制約を設けている。また補修の対象は、長短辺の表面疵周辺とメニスカス付近の短辺の側面に生ずる塑性変形部位で、当該部位の研削・除去とその後の局所的な寸法復元が主目的である。一方、補修材の電気めっきについては、鋳型母材の熱伝導を落とさない為に銅及び銅合金が良いとしているが、補修材の銅合金については、合金種とその適用例の具体的な開示は皆無である。
【0006】
また特許文献2は、電磁撹拌装置を装着してなる連続鋳造機の連続鋳造鋳型で発生が多発するメニスカス近傍のヒートクラック回避を目的として鋳型母材上部に高純度の銅を事前に被覆することで伸びを改善し、さらにクロム、コバルトもしくはニッケル、またはそれらの合金めっきを被覆してヒートクラックを防止する方法が開示されており、鋳型銅板に高純度の銅をPR法で局所被覆することは開示されている。いずれの特許文献も銅めっき層の構成や特別な特性を付与する目的で鋳型母材に適用したものではない。
【0007】
非特許文献1は、電磁撹拌装置に関するもので、当該装置を連続鋳造機に装着する目的はスラブ表層品質の向上にあり、現在では電磁撹拌装置を備えた連続鋳造機が主流となっている。電磁撹拌装置に供する鋳型母材は、高強度で銅本来の抜熱効果(熱伝導度)を有しながらも鋳型内部の溶鋼への電磁力付与の為に、利用する鋳型母材は出来るだけ薄い方が望ましく、また導電率が低いものが良いと言う相反する特性を鋳型母材に求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−305351号公報
【特許文献2】特許第4294336号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】新日鉄技報 第379号 59〜64(2003) 電磁流体解析による電磁コイル設計
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
連続鋳造鋳型母材は、銅ないし銅合金製の鋳型母材の表面に被覆した耐食性・耐摩耗性・耐熱性を具備した銅以外の異種金属によって保護されると同時に長寿命化が図られている。同一の鋳型を用いて繰り返し鋳造を行う事で、鋳型母材表面に被覆した異種金属が、鋳片により連続的に擦られる為に、鋳型の下部では摩減や腐食によって銅の露出が起こってくる。鋳型母材の銅又は銅合金が露出するとこれが被覆した異種金属膜自体の寿命と言うことになり、従来はもっぱら異種金属の再生に至る迄の時間延長が寿命延長の主体であった。
【0011】
しかるに異種金属再生の都度、鋳造中に生じた疵、へこみ、変形等の修正の為に、残存する異種金属の除去加工のみではなく鋳型の表面に対しても、何某か切削除去を必須とするので、鋳型母材も次第に減肉する。その為異種金属の再生可能サイクル数にも限界があった。実状は、異種金属再加工の都度、鋳型母材も約1mm程度減肉することとなり、鋳型母材全体として4〜5mm減肉すると鋳型母材自体が再使用に耐え得ない、限界厚となって廃銅板となっていた。
【0012】
スラブ用鋳型銅板の長辺の背面の構造を図1に示す。鋳型母材自体は、元々20〜60mmの肉厚があるが、鋳型母材の溶鋼接触面1と反対側の背面2に、スリット状の冷却溝3が、鋳造片引き抜き方向に多数本設けられると同時に水箱取り付け用の取り付け座4(ボス)、熱電対装着用の穴などを併設しているので、実際に有効利用できる肉厚は意外に少ない。実状は全板厚の約8〜20%の減肉で廃材となっている。
【0013】
高価な銅材の塊を、鋳型用銅板にするために背面の通水溝や取り付け穴等の加工に多大な時間を掛けて製作しているが、僅か8〜20%程度の肉厚の減少で廃材としなければならないことは、資源の有効利用の観点のみならず経済的に見ても多大な無駄がある。
【0014】
そこで本発明者等は、一旦新製した鋳型母材を繰り返し利用する為に鋳型母材の再生方法について検討した。具体的な課題は、寸法的に寿命に至った鋳型母材と遜色のない特性、つまり硬度・引張り強さ・電磁撹拌に適する導電率の全てを満足出来る特性の銅合金を電気めっき法で被覆することである。つまり、鋳型母材の再生に利用できる様に少なくとも1〜5mm厚程度の厚付が可能であること、加えて既存の鋳型母材に対して再生目的で被覆するめっき皮膜が完全に密着していること等の要件を満足する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の発明は、鋳型の再生方法であって、減肉した鋳型の表面に、不可避的不純物を含み、導電率が純銅比の25〜80%の範囲となる銅−ニッケル合金めっき層を電気めっき法により肉盛り形成し、全体厚の8〜20%を寸法復元することを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1記載の鋳型の再生方法において、銅−ニッケル合金めっき層が、めっき層全体の平均ニッケル含有率よりも高いニッケル含有率を有する高ニッケル含有層と、前記平均ニッケル含有率よりも低いニッケル含有率を有する低ニッケル含有層を交互に積層することで形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の鋳型の再生方法において、銅−ニッケル合金めっき層中の銅含有率が50wt%以上及び平均ニッケル含有率が0.5〜20wt%(好ましくは1〜15wt%)となることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項2または3に記載の鋳型の再生方法において、同一の合金めっき浴を用いて周期的に撹拌条件を変えることにより、高ニッケル含有層と低ニッケル含有層を交互に積層形成して、導電率を調整した銅−ニッケル合金を被覆することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、析出電位が離れている為に合金となり難い上、厚く被覆することが出来なかった銅とニッケルの合金を、めっき液の撹拌条件(空気吹き込み量)をコントロールすることで高ニッケル含有率の層と低ニッケル含有率の層とが交互に積層した構造の特異な銅−ニッケル合金めっき皮膜を作成できるようになった。これにより、厚みの上限制約なしに銅−ニッケル合金を厚く被覆することが可能となったので、全体厚の8〜20%しか利用できないままに廃銅材とされていた鋳型母材を廃棄することなく再生利用することが可能となった。
【0018】
また鋳型母材は、電磁撹拌装置を装着した連続鋳造機で利用される場合が多い為に抜熱効果と導電率を純銅比の80〜25%とした銅材を必要としているが、本発明によれば、めっき液の撹拌条件をコントロールすることで高ニッケル含有層のニッケル含有率と層厚、ならびに低ニッケル含有層のニッケル含有率とその層厚を変化させることが出来るので、鋳型母材の導電率と同等の導電率を有する銅−ニッケル合金で被覆・再生することが可能となる。従って、一旦製作した鋳型銅板を寸法的限界で廃材にすることなく、半永久的に繰り返して再生することが可能となる為に連続鋳造用鋳型に係る費用を大幅に削減できると同時に、省資源で環境負荷の少ない鋳型の再生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】鋳型長辺の反溶鋼接触側(背面)から見た斜視図である。
図2】積層型銅−ニッケル合金めっき皮膜の平均ニッケル含有率と純銅に対する導電率の割合との関係を示す図である。
図3】積層型銅−ニッケル合金めっき皮膜の平均ニッケル含有率と硬度の関係を示す図である。
図4】積層型銅−5wt%ニッケル合金めっき皮膜と代表的な鋳型母材との加熱による硬度変化を示す図である。
図5】積層型銅−5wt%ニッケル合金めっき皮膜の断面構造を示す図であり、(A)はアニールする前の断面構造を示す拡大図、(B)は上記合金めっき皮膜を600℃にてアニールした後の断面構造を示す拡大図である。
図6】積層型銅−ニッケル合金めっき皮膜について、温度を付与した場合の高ニッケル含有率層と低ニッケル含有率層とのニッケル含有率の変化をEPMAで調査した結果を示す図である。
図7】積層型銅−5wt%ニッケル合金めっき皮膜、鋳型母材A、鋳型母材Bの被熱温度と引張り強さの関係を示す図である。
図8】鋳型の表面に被覆した銅−ニッケル合金めっき皮膜の剪断密着力を測定する試験片を示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1)銅合金の浴の選定と操作条件
本発明者等は、鋳型母材と特性の類似した銅合金を電気めっき法で被覆する為に、まず銅とその他の元素との合金種について検討した。銅とニッケル、亜鉛、スズなどとの合金は比較的良く知られており、亜鉛やスズは、それぞれ黄銅(真鍮)と青銅(ブロンズ)として多方面で利用されている。また、冶金的にも電気めっき法を用いた製造例は無数に存在する。しかしながら、銅と亜鉛又はスズとの合金は融点に問題がある為に、事実上、銅−ニッケルに限定されることとなった。
【0021】
なお、銅とニッケルとの合金を電気めっき法で作成するためには、銅とニッケルとの析出電位が近似していることが必要条件となるが、実際には銅が貴で、ニッケルが卑なことからこれらの合金化は容易ではない。事実、電気めっき法で銅とニッケルとの合金化を試みても銅が優先的に析出する傾向がある。また、過去の特許文献に於いても合金比が曖昧であると同時に、1mm以上の厚い銅−ニッケル合金めっき皮膜を安定的に被覆するためのめっき液組成やこれを用いためっき方法に関する開示も示唆も無かった。
【0022】
本発明者等は、銅−ニッケル合金用のめっき浴として硫酸浴、クエン酸浴、シアン化浴、ピロリン酸浴、スルファミン酸浴等が利用できないかどうかについて確認するために、浴中の銅とニッケルの塩類の構成比、電位調整剤の有無、浴温度および付与する電流密度等について鋭意検討した結果、アミノカルボン酸やオキシカルボン酸の中から選ばれるキレート剤を存在させたピロリン酸浴のみが、特定の組成範囲と条件の下で、ニッケル含有率をコントロール出来るだけでなく、平坦で任意の厚さのめっき皮膜を被覆することが可能となることを知見した。
【0023】
銅とニッケルとの合金を平滑に厚く被覆する為の必須条件は、めっき浴の撹拌時の吹き込み空気量と撹拌時間、さらに撹拌停止時間のコントロールで、撹拌時と無撹拌時とを交互に繰り返すことにより、初めて1mm以上の平坦で外観の優れた銅−ニッケル合金めっきが得られることを知見した。得られる合金皮膜は、層状構造をとり、高ニッケル含有の銅合金層とそうでない層とが交互に積層しており、この積層構造とする条件を見出せたことで、初めて平滑で厚い合金めっき皮膜とすることが出来た。
表1に厚く平滑な銅−ニッケル合金めっき皮膜を得るための好適な条件について示す。
【0024】
【表1】
【0025】
表1の示す条件範囲で作成した銅−ニッケル合金めっき皮膜は、平均ニッケル含有率を約25wt%程度まで高めることも可能である。そして平均ニッケル含有率が10wt%を超えた辺りから銅の色調は消失し、銀白色を呈すようになる。
【0026】
なお、表1に於いて、高ニッケル含有率とする為には、エアによるめっき浴の撹拌を弱め無撹拌とするとニッケル含有量が増加する。逆にめっき浴の撹拌を強めると低ニッケル含有率となる。例えば、銅イオン 0.2mol/L、ニッケルイオン 0.2mol/L、ホウ砂 0.15mol/L、キレート剤 0.20mol/L、pH 8.5、浴温度 55℃、電流密度 2A/dm2 のめっき浴を用いてエア撹拌に用いるエア通気量を0、0.4、0.6m3 /m2 ・minに変化させて、銅−ニッケル合金めっき皮膜を作成した。めっき厚は、0.3mm(10時間)とし、エア撹拌時間と無撹拌時間はそれぞれ2分間に固定した。得られた3種類の銅−ニッケル合金めっき皮膜を硝酸に溶解して、それぞれの平均ニッケル含有率をICPにより求めると表2のようで、同じ組成と条件を利用しながらもめっき浴の撹拌条件に変化を与えることでニッケル含有率を変化させることが出来る。
【0027】
【表2】
【0028】
表1において、エア撹拌時のエア通気量に制約があるのは、通気量が少ないと粗雑な合金皮膜となり、また表1に記載した通気量以上では、めっき液の飛び跳ねが大きくなり過ぎる為である。さらにエア停止時間を2分以下の短時間とすると高ニッケル含有率の層が薄くなり過ぎて平均ニッケル含有率を3wt%以上とするのに困難をきたす為である。また20分以上になるとニッケル含有率を高めることが出来るが、めっきに必要な金属イオン量が液と物品との界面付近で欠乏するようになり、粗雑な外観を呈すためである。
【0029】
2)銅−ニッケル合金めっき皮膜の平均ニッケル含有率と導電率
現在用いられている鋳型母材は、銅、クロムやジルコニウム、あるいは銅の導電率をさらに低下させる為の微量のアルミニウムから構成されている。これらの鋳型銅材の純銅に対する導電率として純銅比で25〜80%の範囲のものが利用されているが、鋳型母材としての抜熱能力の観点からは25%程度がほぼ限界となっている。
【0030】
発明者等は、純銅に対して積層構成の銅−ニッケル合金めっき皮膜の導電率を知る為に、表2に示した如く、めっき浴のエア通気量と撹拌時間等をコントロールして、平均ニッケル含有率の異なる銅−ニッケル合金めっき皮膜を作成して導電率を測定した。図2はこれら測定結果を基に、銅−ニッケル合金めっき皮膜中の平均Ni含有率と純銅に対する導電率との関係を整理したものである。図2より、導電率25%を下限値と見做せば、銅−ニッケル合金めっき皮膜中の平均ニッケル含有率を約20wt%とすれば目的を達成出来ることを知見した。参考までに代表的な鋳型母材の導電率と硬度を表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
表3において、鋳型母材Aは、変形・耐熱物性も優れており、電磁撹拌以外の鋳型母材として多用されている。一方、鋳型母材B、Cは電磁撹拌用鋳型母材として利用されており、鋳型母材Cが特に多用されている。
【0033】
3)銅−ニッケル合金めっき皮膜の硬度と機械的強度について
本発明の銅−ニッケル合金めっき皮膜を鋳型母材の一部に利用する為には、銅−ニッケル合金めっき皮膜の硬度や機械的特性も重要となる。そこで、平均ニッケル含有率と硬度との関係について調査すると図3のようになる。銅−ニッケル合金めっき皮膜の硬度は現用の鋳型母材と比べて高硬度で変形し難い合金となっている。また、鋳造用鋳型の特性として、銅板の表面近傍は300〜400℃、時には500℃程度の被熱を受ける為に、現在、多用されている鋳型母材AおよびCと鋳型母材Cと同等の導電率を有する銅−5wt%ニッケル合金めっき皮膜の被熱と硬度の関係を対比させると図4のようになる。図4より、銅−5wt%ニッケル合金めっき皮膜は被熱温度の上昇と共に硬度が低下し、鋳型母材Aや鋳型母材Cの硬度に近似していく事が分かる。これは高ニッケル含有層と低ニッケル含有層とが被熱温度の上昇に伴って相互拡散が促進され、500℃以上の高温度域では全層に亘って均一な合金層となってしまう事に起因すると考えられる。
【0034】
図5は、銅−5wt%ニッケル合金めっき皮膜の断面ミクロ写真であり、図5Aは、当該銅−ニッケル合金めっき皮膜について、めっき処理を行ったままの状態のもので、図5Bは600℃で被熱させたものを対比させている。被熱により銅とニッケルとが相互拡散し、元々の層状構造が消失していることが確認される。また図6は、層状構造を有する銅−5wt%ニッケル合金めっき皮膜を加熱していった時の高ニッケル含有率層と低ニッケル含有率層におけるニッケル含有率の変化をEPMAで調査したものであり、加熱温度が600℃になると全めっき層に亘って完全に均一な合金層となることが分かる。
【0035】
一方、銅−5wt%ニッケル合金めっき皮膜の引張り強さは、鋳型母材Aないし鋳型母材Cと比べてわずかではあるが上回っており、強靭な銅合金で連続鋳造鋳型母材の再生材として十分に適用できることが確認された(図7参照のこと)。
【0036】
(鋳造鋳型母材への銅−ニッケル合金めっきの適用実施例)
銅−ニッケル合金めっき皮膜を既存の鋳型母材の再生に適用する上で考慮すべきその他重要な条件としては、鋳型母材とその表面に被覆する銅−ニッケル合金めっき皮膜との密着性の問題である。そこで本発明者等は、鋳型母材として多用されている鋳型母材A及び鋳型母材C(サイズはいずれも110mm角で厚み20mm)に対して、整面後、脱脂、水洗を経て、過硫酸アンモニウムと硫酸からなる溶液で表面を活性状態にした後、水洗し、表4に示す銅−ニッケル合金めっき浴にて平均ニッケル含有率が3wt%前後となるようにめっき浴の撹拌条件をコントロールし、約3mm厚の銅−ニッケル合金めっき皮膜を被覆した。
【0037】
【表4】
【0038】
このものより、20mm幅×50mm長さの試験片を切り出し、JIS−G−0601に準拠して図8に示す剪断試験片を作成した。なお、剪断試験作成時に発生する銅-ニッケル合金めっき皮膜の切削片の一部を溶解してICPによる定量分析に供すと、平均ニッケル含有率は3.2wt%となった。また剪断試験片は、一部を加熱処理して剪断試験に供した。それぞれの剪断強さは表5に示すように被熱した温度により差異を呈すが、いずれも鋳型母材と銅−ニッケル合金めっき皮膜との界面破断ではなく、鋳型母材内部で破断しており、付着強度は十分に保証されていることが確認できた。
【0039】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の鋳型再生方法は、既に記述したように鋳型母材を繰り返して反復利用できるので、銅板厚の8〜20%減肉で廃材とすることがなくなり、鋳造用鋳型の整備費が大幅に削減できるのみならず、省資源で環境負荷をも低減できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8