(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[情報記録再生装置の転がり軸受用グリース]
本発明の情報記録再生装置の転がり軸受用グリース(以下、単に「グリース」ともいう。)は、基油と、増ちょう剤を含有する。
本発明のグリースは、下記測定方法で測定される弾性流体潤滑(EHL)膜の膜厚(h
C)が20nm以上である。前記h
Cは、20nm超が好ましく、40μm以上がより好ましく、60μm以上がさらに好ましい。前記h
Cが20nm以上であることで耐久性が高められる。一方、h
Cの上限値は、特に限定されないが、トルク平滑性が高められやすくなる点から、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。
<EHL膜の膜厚(h
C)の測定方法>
h
Cは、グリースを塗布したガラスディスク上で鋼球を転がり接触させた際の接触状態の膜厚を、二色光干渉法により求めたものである。
前記ガラスディスクとして、片面にクロムが蒸着された直径115mm、厚さ16mm、縦弾性係数75GPaのガラスディスクを用いる。前記鋼球として、直径19.05mm、縦弾性係数206GPaの軸受用鋼球を用いる。
まず、測定対象のグリースを、前記ガラスディスクのクロムが蒸着された面上の前記鋼球の軌道面となる領域に厚さが1mmとなるように塗布する。
つぎに、前記ガラスディスクと鋼球を、接触荷重150N、最大ヘルツ圧1.04GPaの純転がり条件で接触させる。そして、ガラスディスクの周速度を1mm/sとし、ガラスディスクの運転を開始してから1周するまでの間に10枚の干渉像を高速ビデオカメラで撮影して得る。前記10枚の干渉像の接触域中央における膜厚を求め、その平均値をh
Cとする。試験時の雰囲気温度は22.5±0.5℃とする。
【0012】
本発明のグリースは、前記接触域における膜厚の最大値(h
L)と最小値(h
S)との差が、180nm以下であることが好ましく、110nm以下であることがより好ましい。
前記h
Lとh
Sとの差が、上記好ましい範囲であると、トルクの平滑性、特に運転の初期段階におけるトルクの平滑性が高められやすくなる。
前記h
Lは、上記10枚の干渉像について接触域における膜厚の最大値をそれぞれ求め、これを算術平均した値である。前記h
Sは、上記10枚の干渉像についてそれぞれ求められた接触域中央における膜厚のうち最小の値である。
【0013】
なお、上記h
C、h
L及びh
Sは、グリースに配合される成分(基油、増ちょう剤)の種類を調整したり、グリースの混練条件(混練の時間、回数、圧力等)を調整することで、適宜調整される。
上記二色光干渉法によるEHL膜の膜厚の測定装置としては、公知のものを用いることができる。
【0014】
本発明のグリースは、グリース中の増ちょう剤の幅(T
w)が20nm以上であり、20nm超が好ましく、30nm以上がより好ましく、40nm以上がさらに好ましい。前記T
wが20nm以上であると耐久性が高められる。一方、T
wの上限値は、特に限定されないが、トルク平滑性が高められやすくなる点から、150nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。
T
wは、以下のように測定される。
<グリース中の増ちょう剤の幅(T
w)の測定方法>
グリースを適当な溶媒(例えばヘキサン)に分散した後、ろ過して、グリース中の増ちょう剤と、基油等とを分離する。ろ紙上に分離された増ちょう剤を回収し、乾燥したものを測定サンプルとする。
この測定サンプルの増ちょう剤を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて倍率5000〜30000倍で観察する。観察された増ちょう剤が繊維状の場合には、増ちょう剤の長手方向の中央の幅(W)を測定する。前記Wは、SEMに付属されたスケール機能を用いて測定する。前記の測定を任意に選択した5本の増ちょう剤について行い、その平均値をT
wとする。なお、増ちょう剤が塊や束となったものは測定対象から除外する。また、観察された増ちょう剤が粉体の場合には、該粉体を任意に5個選択しそれぞれの最短径の平均値をT
Wとする。
なお、上記T
Wは、増ちょう剤の反応条件(反応温度、温度勾配等)を調整したり、グリースの製造方法(基油に増ちょう剤を添加してグリース化するか、基油中で増ちょう剤を反応生成させグリース化するか)を調整したり、グリースの混練条件(混練の時間、回数、圧力等)を調整することで、適宜調整される。
【0015】
また、上記h
Cは、下記式(1)で表される膜厚比Λが1以上となる値が好ましく、1超となる値が好ましく、2以上となる値がさらに好ましく、3以上となる値が特に好ましい。
Λ=h
C/√(Rq
12+Rq
22) ・・・(1)
ここで、式(1)におけるRq
1、Rq
2は、それぞれ摺動する2部品の二乗平均粗さであり、√(Rq
12+Rq
22)はその合成表面粗さである。
例えば、後述する情報記録再生装置1の転がり軸受22では、摺動する2部品は、内輪30又は外輪31と、転動体33であり、Rq
1は内輪30又は外輪31の転動面の二乗平均粗さ、Rq
2は転動体33の二乗平均粗さである。
【0016】
通常、後述する情報記録再生装置1の転がり軸受22では、Rq
2はRq
1の1/10程度と明らかに小さく、上記式(1)は、Λ=h
C/Rq
1と近似される。また、当該転がり軸受におけるRq
1は20nm程度である。
したがって、当該転がり軸受においては、h
Cは、20nm以上が好ましく、20nm超がより好ましく、40nm以上がさらに好ましく、60nmが特に好ましい。
h
Cが上記範囲であると、摺動する2部品、すなわち内輪30又は外輪31と、転動体33との直接接触が抑制され、耐久性が高められる。
【0017】
また、上記T
Wは、摺動する2部品の合成表面粗さ以上が好ましく、合成表面粗さより大きいことがより好ましく、合成表面粗さの1.5倍以上がさらに好ましく、合成表面粗さの2倍以上が特に好ましく、合成表面粗さの3倍以上が最も好ましい。
また、上記T
Wは、合成表面粗さの7.5倍以下が好ましく、5倍以下がより好ましい。
上述のように、後述する情報記録再生装置1の転がり軸受22では、合成表面粗さ√(Rq
12+Rq
22)はRq
1と近似される。
よって、当該転がり軸受では、T
Wは、20nm以上が好ましく、20nm超がより好ましく、40nm以上がさらに好ましく、60nmが特に好ましい。
T
Wが上記範囲であると、h
Cを上記の好ましい範囲としやすくなり、摺動する2部品、すなわち内輪30又は外輪31と、転動体33との直接接触が抑制され、耐久性が高められる。
さらに、T
Wが上記範囲であると、摺動する2部品間に介在するグリースの膜厚が小さくなった際にも、増ちょう剤自体が摺動する2部品の摺動面に吸着し当該2部品間に介在することで、摺動する2部品の直接接触が抑制され、耐久性が高められる。
【0018】
増ちょう剤の長さ(T
L)は、0.1〜5.0μmが好ましく、0.3〜2.0μmがより好ましい。
T
Lは、以下のように測定される。
<グリース中の増ちょう剤の幅(T
L)の測定方法>
グリースを適当な溶媒(例えばヘキサン)に分散した後、ろ過して、グリース中の増ちょう剤と、基油等とを分離する。ろ紙上に分離された増ちょう剤を回収し、乾燥したものを測定サンプルとする。
この測定サンプルの増ちょう剤を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて倍率5000〜30000倍で観察する。観察された増ちょう剤が繊維状の場合には、増ちょう剤の長手方向の長さ(L)を測定する。前記Lは、SEMに付属されたスケール機能を用いて測定する。前記の測定を任意に選択した5本の増ちょう剤について行い、その平均値をT
Lとする。なお、増ちょう剤が塊や束となったものは測定対象から除外する。また、観察された増ちょう剤が粉体の場合には、該粉体を任意に5個選択しそれぞれの最短径の平均値をT
Lとする。なお、長さの数字は概略である。
なお、上記T
Lは、増ちょう剤の反応条件(反応温度、温度勾配等)を調整したり、グリースの製造方法(基油に増ちょう剤を添加してグリース化するか、基油中で増ちょう剤を反応生成させグリース化するか)を調整したり、グリースの混練条件(混練の時間、回数、圧力等)を調整することで、適宜調整される。
【0019】
T
L/T
Wで表される増ちょう剤のアスペクト比は、10〜50が好ましく、15〜35がより好ましい。
【0020】
摺動する2部品間に介在する基油の膜厚は、摺動する2部品の摺動速度、基油の動粘度に比例する。
HDDのスイングアームにおいては、微小で高速な揺動動作や低速で広範囲にわたる動作など様々な動作が繰り返される。スイングアームの回動の支点となる転がり軸受においてもこれに連動した動作が繰り返される。この際、前記揺動動作の両端付近では摺動速度が小さくなり、基油の膜厚が小さくなる。これにより摺動する2部品の直接接触が避けられなくなる。
摺動する2部品間に介在する基油の膜厚を大きくするには、基油の動粘度を高く設定することが考えられる。しかし、この場合トルクが上昇する。さらに、基油の動粘度を高くすると、揺動運動、特に微小な角度範囲での揺動運動時に基油が前記2つの部品間に供給され難くなる。
摺動する2つの部品間へ基油が供給されやすい点からは、基油の動粘度は低い方が有利である。しかし、基油の動粘度を低くすると、該部品間に介在する膜厚は小さくなる。特に、揺動動作の両端付近において摺動速度が低速又はゼロとなる部分では膜厚はより小さくなり直接接触が避けられなくなる。
本発明では、グリースを構成する増ちょう剤として、特定の幅以上の大きさを有する増ちょう剤を用いる。前記増ちょう剤を用いることで、摺動速度が低速であっても膜厚を大きく保て、該部品の直接接触を抑制でき耐久性を高められる。さらに、前記増ちょう剤は、摺動する2つの部品間に入り、該部品の摺動面に吸着して両者の直接接触を抑制する。これにより、揺動運動において基油が摺動部品間に供給され難い環境や、揺動運動の両端付近において摺動速度が低速又はゼロとなり基油の膜厚が極めて小さくなる環境であっても、摺動部品の直接接触が抑制され耐久性が高められる。
【0021】
本発明のグリースの構成について説明する。
<基油>
本発明のグリースに配合される基油としては、特に限定されないが、鉱油、合成油等が挙げられる。
【0022】
前記鉱油としては、基油として用いられる公知の鉱油を使用でき、例えば、ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、水素化系鉱油、溶剤精製鉱油、高精製鉱油等が挙げられる。
鉱油は、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。例えば、動粘度の異なる複数の鉱油を混合し、目的の動粘度(平均動粘度)に調整してもよい。
【0023】
鉱油としては、よりアウトガス量が少なく、耐熱性に優れたグリースが得られる点から、API(American Petroleum Institute,米国石油協会)基油カテゴリーでグループIIIに分類される精製鉱油が好ましい。前記精製鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得た潤滑油留分をさらに高度水素化精製したパラフィン系鉱油等が挙げられる。
【0024】
合成油としては、基油として用いられる公知の合成油を使用でき、例えば、ポリαオレフィン(PAO)、ポリブテン等の脂肪族炭化水素油、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素油、ポリオールエステル、リン酸エステル等のエステル油、ポリフェニルエーテル等のエーテル油、ポリアルキレングリコール油、シリコーン油、フッ素油等が挙げられる。
これらの合成油は、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0025】
合成油としては、PAOを用いることが好ましい。PAOとしては、基油として用いられる公知のPAOを制限なく使用でき、例えば、α−オレフィン(1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、1−ドコセン等)の3〜5量体等が挙げられる。なかでも、PAOとしては、低アウトガス、適切な粘度が得られるという点から、炭素数8〜12のα−オレフィンの3〜5量体が好ましい。炭素数8〜12のα−オレフィンの3〜5量体は、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
PAOは、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。例えば、動粘度の異なる複数のPAOを混合し、目的の動粘度(平均動粘度)に調整してもよい。
【0026】
基油としては、鉱油及びPAOが併用されることが好ましい。この場合、前記基油100質量%に対して前記鉱油の割合が10〜40質量%であることが好ましい。また、前記基油中の前記鉱油の含有割合よりも前記PAOの含有割合の方が大きいことが好ましい。
【0027】
また、鉱油の40℃における動粘度ν
1を、PAOの40℃における動粘度ν
2よりも高くすることが好ましい。鉱油の動粘度ν
1がPAOの動粘度ν
2よりも高いことで、鉱油の耐熱性が高められやすくなる。その結果、鉱油からのアウトガス量が少なくなり、結果として基油からのアウトガス量が低減されやすくなる。また、鉱油の動粘度ν
1よりも低い動粘度ν
2のPAOが組み合わされることで、基油の動粘度νが低くなる。そのため、転がり軸受の転動体が転動している部分にグリースが供給されやすくなり、グリースによる潤滑効果が得られやすくなる。
なお、本発明における油の動粘度は、JIS K2283に準拠して40℃で測定された値を意味する。
また、動粘度の異なる複数の同種基油を混合させた場合には全体の平均動粘度を動粘度として考える。
【0028】
PAOの動粘度ν
2に対する鉱油の動粘度ν
1の比ν
1/ν
2は、アウトガス量をより低減しやすい点から、1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。また、比ν
1/ν
2は、転がり軸受の低トルク化の点から、4以下が好ましく、2以下がより好ましい。
【0029】
鉱油の動粘度ν
1は、アウトガス量をより低減しやすい点から、40mm
2/s以上が好ましく、45mm
2/s以上がより好ましい。また、鉱油の動粘度ν
1は、転がり軸受の転動面にグリース又は基油が供給されやすくなる点から、80mm
2/s以下が好ましく、60mm
2/s以下がより好ましい。
【0030】
PAOの動粘度ν
2は、アウトガス量をより低減しやすい点から、20mm
2/s以上が好ましく、30mm
2/s以上がより好ましい。また、PAOの動粘度ν
2は、転がり軸受の転動体が転動面にグリース又は基油が供給されやすくなる点から、60mm
2/s以下が好ましく、40mm
2/s以下がより好ましい。
【0031】
基油の40℃における動粘度νは、25〜45mm
2/sが好ましく、30〜40mm
2/sがより好ましい。基油の動粘度νが前記下限値以上であれば、アウトガス量をより低減しやすくなる。基油の動粘度νが前記上限値以下であれば、転がり軸受の転動面にグリース又は基油が供給されやすく、また低温での安定した動作が求められる用途(例えば−30℃の低温でも安定した動作が求められる車載用途)においても低トルクで動作が行われやすくなる。特に基油100質量%に対する鉱油の割合が30質量%以下の場合には、基油の40℃における動粘度νが25mm
2/s以上であればアウトガス量を低減しやすい。
基油の40℃における動粘度は、上記数値範囲に限定されず、トルク上昇(低温での特性含む)や摺運動時の摺動部材へのグリースの供給に問題ない範囲で粘度を上げてもよい。
基油の40℃の動粘度を25〜45mm
2/sとすると、特に高温(80℃)では基油粘度が著しく低下する。そのため、軸受の回転速度が上がると(例えば100mm/s)、基油そのもので得られる油膜hcは非常に薄くなってしまい、摺動する2部品の合成表面粗さよりも薄くなってしまう場合が多くなる。その対策として、基油の粘度を上げることも有効であるが、上限には限界がある。このような場合には、増ちょう剤の幅T
Wを摺動する2部品の合成表面粗さ以上とすることで、如何なる駆動条件においても、摺動する2部品の直接接触を抑えることが可能となる。
【0032】
<増ちょう剤>
増ちょう剤は、グリースを半固体状に保つ役割を果たす。
増ちょう剤としては、情報記録再生装置の転がり軸受用グリースに通常使用される公知の増ちょう剤を制限なく使用できる。増ちょう剤としては、例えば、ウレア化合物、リチウムセッケン、カルシウムセッケン、複合リチウムセッケン、複合カルシウムセッケン、シリカゲル、ポリテトラフルオロエチレン、有機化ベントナイト等が挙げられる。なかでも、増ちょう剤としては、耐熱性に優れる点から、ウレア化合物が好ましく、1分子中に2個のウレア結合を有するジウレア化合物がより好ましい。
【0033】
ジウレア化合物としては、例えば、末端が脂肪族基である脂肪族ジウレア化合物、末端が脂環族基である脂環族ジウレア化合物、末端が芳香族基である芳香族ジウレア化合物等が挙げられる。
脂肪族ジウレア化合物の脂肪族炭化水素基としては、炭素数8〜18の脂肪族炭化水素基が挙げられる。
ジウレア化合物の具体例としては、例えば、ジイソシアネート(フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等)とモノアミン(オクチルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、p−トルイジン等)との反応で得られる化合物が挙げられる。
リチウムセッケンとしては、例えば、ステアリン酸リチウム、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム等が挙げられる。
増ちょう剤は、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0034】
<他の成分>
本発明のグリースは、必要に応じて、上記以外の他の成分を含んでもよい。
他の成分としては、グリースに通常使用される公知の成分が使用でき、例えば、極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、油性向上剤、金属不活性化剤等の添加剤が挙げられる。
【0035】
極圧剤としては、例えば、有機モリブデン化合物(モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオフォスフェート等)、有機脂肪酸化合物(オレイン酸、ナフテン酸、コハク酸等)、有機リン化合物(トリオクチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェートトリフェニルフォスフェート、トリエチルフォスフェート等)、リン酸エステル、亜鉛ジチオカーバメート、アンチモンジチオカーバメート等が挙げられる。
極圧剤は、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0036】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、オクチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロ肉桂酸、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等)、アミン系酸化防止剤(フェニル−2−ナフチルアミン,ジフェニルアミン,ジ(4−オクチルフェニル)アミン、フェニレンジアミン等)等が挙げられる。
酸化防止剤は、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0037】
防錆剤としては、例えば、有機スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩(カルシウムスルフォネート、マグネシウムスルフォネート、バリウムスルフォネート等)、多価アルコール(ソルビタンモノオレエート等)の部分エステル等が挙げられる。
防錆剤は、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0038】
<各成分の割合>
本発明のグリース100質量%に対する基油の割合は、75〜93質量%が好ましく、80〜90質量%がより好ましい。基油の割合が前記下限値以上であれば、転がり軸受の転動面にグリース又は基油が供給されやすい。基油の割合が前記上限値以下であれば、グリースは半固形状であり、漏れにくく飛散しにくい。
【0039】
基油100質量%に対する鉱油の割合は、10〜40質量%が好ましく、20〜30質量%がより好ましい。鉱油の割合が前記下限値以上であれば、優れた耐久性とトルク平滑性のバランスのとれたグリースが得られやすくなる。鉱油の割合が前記上限値以下であれば、アウトガス量が充分に低減されたグリースが得られやすくなる。
【0040】
基油100質量%に対するPAOの割合は、50〜90質量%が好ましく、60〜80質量%がより好ましい。PAOの割合が前記下限値以上であれば、アウトガス量が充分に低減されたグリースが得られやすくなる。PAOの割合が前記上限値以下であれば、優れた耐久性とトルク平滑性のバランスのとれたグリースが得られやすくなる。
【0041】
基油100質量%に対する鉱油とPAOの合計の割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。鉱油とPAOの合計の割合が前記下限値以上であれば、低トルクなグリースが得られやすくなる。前記の鉱油とPAOの合計の割合の上限値は100質量%である。
【0042】
本発明のグリースでは、アウトガス量の低減と優れた耐久性を両立しやすい点から、基油中の鉱油の割合よりもPAOの割合の方が多いことが好ましい。
基油中の鉱油に対するPAOの質量比(PAO/鉱油)は、1.25〜9が好ましく、1.5〜4がより好ましい。前記質量比が前記下限値以上であると、アウトガス量が低減されやすくなる。前記質量比が前記上限値以下であると、耐久性、トルク平滑性が高められやすくなる。
【0043】
本発明のグリース100質量%に対する増ちょう剤の割合は、7〜20質量%が好ましく、10〜15質量%がより好ましい。増ちょう剤の割合が前記下限値以上であると、漏れにくく飛散し難いグリースが得られやすくなる。増ちょう剤の割合が前記上限値以下であると、転がり軸受の転動面にグリース又は基油が供給されやすくなる。
【0044】
本発明のグリース100質量%に対する極圧剤の割合は、0.2〜4質量%が好ましく、0.5〜2質量%がより好ましい。
本発明のグリース100質量%に対する防錆剤の割合は、0.2〜4質量%が好ましく、0.5〜2質量%がより好ましい。
【0045】
[情報記録再生装置]
本発明の転がり軸受、転がり軸受装置及び情報記録再生装置は、本発明のグリースを用いる以外は公知の態様を採用できる。以下、本発明の転がり軸受、転がり軸受装置及び情報記録再生装置の一例を示して説明する。
本実施形態の情報記録再生装置1は、ディスク(磁気記録媒体)Dに対して垂直記録方式で書き込みを行う装置であって、
図1に示すように、ディスクDと、スイングアーム2と、光導波路3と、レーザ光源4と、ヘッドジンバルアッセンブリ(HGA)5と、転がり軸受装置6と、アクチュエータ7と、スピンドルモータ(回転駆動部)8と、制御部9と、ハウジング10と、を備えている。
【0046】
ハウジング10は、情報記録再生装置1における各構成部分を収容するものである。
ハウジング10は、平面視四角形状の底部10aと、底部10aの周縁から立設する周壁部(不図示)と、周壁部の上部に着脱可能に固定され、開口部を塞ぐ蓋体(不図示)と、を備える。ハウジング10では、底部10a上における周壁部の内側に、各構成品が収容されるようになっている。
図1では、便宜上、周壁部及び蓋体を省略している。
ハウジング10の材質は、特に限定されず、例えば、アルミニウム等の金属材料が挙げられる。
【0047】
ハウジング10の底部10aの略中心にスピンドルモータ8が取り付けられている。また、ディスクDの中心に形成された中心孔がスピンドルモータ8に嵌め込まれることで、3枚のディスクDが着脱自在に装着されている。スピンドルモータ8により、回転軸線L1を軸にディスクDを一定方向に回転させることができるようになっている。
【0048】
ハウジング10の底部10aの一つの隅角部に、ディスクDの外側に位置するようにアクチュエータ7が取り付けられている。アクチュエータ7には、ディスクDに向かって延びるスイングアーム2が連結されている。スイングアーム2の基端側の部分には転がり軸受装置6が設けられている。アクチュエータ7による駆動によって、スイングアーム2が転がり軸受装置6の回転軸線L2を軸に水平面内で回動するようになっている。
【0049】
スイングアーム2は、アクチュエータ7に連結される基部2aと、基部2aからディスクDに向かって延設されたアーム部2bとを備える。スイングアーム2は、例えば、基部2aとアーム部2bを削り出し加工等により一体形成することで得られる。
基部2aは、略直方体形状であり、転がり軸受装置6を囲うように転がり軸受装置6に回動可能に支持されている。
【0050】
アーム部2bは平板状であり、かつ基端部から先端部に向かって先細るテーパ形状になっている。アーム部2bは、基部2aにおけるアクチュエータ7が取り付けられた後面2cと反対側の前面(隅角部と反対側の面)2dから、基部2aの上面の面方向(水平面内方向)に延出するように設けられている。
また、この例のスイングアーム2では、3枚のアーム部2bが、基部2aの高さ方向(垂直方向)に、各アーム部2bの間にディスクDが挟まれるように設けられている。つまり、アーム部2bとディスクDとが互いに高さ方向に交互に位置するように配置されており、アクチュエータ7の駆動によってアーム部2bがディスク面(ディスクDの表面)D1に平行な方向に移動するようになっている。
【0051】
スイングアーム2におけるアーム部2bの先端にはヘッドジンバルアッセンブリ5が設けられている。スイングアーム2の基部2aの側面部にはレーザ光源4が設けられている。スイングアーム2の基部2a及びアーム部2bには、レーザ光源4とヘッドジンバルアッセンブリ5とを結ぶ光導波路3が設けられている。これにより、レーザ光源4から光導波路3を介してヘッドジンバルアッセンブリ5に光を供給できるようになっている。
【0052】
ヘッドジンバルアッセンブリ5は、サスペンション5aと、サスペンション5aの先端に取り付けられたスライダ5bとを備えている。
スライダ5bは近接場光発生素子を有している。レーザ光源4から光がスライダ5bに導かれた際に該近接場光発生素子から近接場光が発生される。該近接場光を利用することで、ディスクDに各種情報を記録したり、再生させたりすることができる。
近接場光発生素子は、例えば、光学的微小開口や、ナノメートルサイズに形成された突起部等により構成される。
【0053】
ヘッドジンバルアッセンブリ5は、アクチュエータ7の駆動によって、スイングアーム2のアーム部2bとともにディスク面D1に平行な方向に移動する。なお、スイングアーム2及びヘッドジンバルアッセンブリ5は、ディスクDの回転停止時にはアクチュエータ7の駆動によってディスクD上から退避するようになっている。
【0054】
制御部9は、レーザ光源4と接続されている。制御部9においては、情報に応じて変調した電流により、ヘッドジンバルアッセンブリ5のスライダ5bに供給する光の光束を制御できるようになっている。
【0055】
[転がり軸受装置]
転がり軸受装置6は、
図2及び
図3に示すように、シャフト20と、シャフト20の外側にシャフト20と同軸上に設置されたスリーブ21と、シャフト20とスリーブ21の間に設置された2つの転がり軸受22と、を備える。
【0056】
シャフト20は、円柱形状の棒状部材であり、ハウジング10の底部10aから立設されている。シャフト20の中心軸が、スイングアーム2が回動する際の回転軸線L2となる。
シャフト20におけるハウジング10の底部10a側の部分には、本体部20aよりも拡径したフランジ部20bと、本体部20aよりも縮径した縮径部20cとが、基端に向かって順に設けられている。縮径部20cの外周面には雄ねじ20dが形成されている。ハウジング10の底部10aに設けられた穴10bにシャフト20の縮径部20cを挿入し、穴10bの内周面に形成された雌ねじ10cと縮径部20cの雄ねじ20dとを螺合することで、シャフト20がハウジング10の底部10aに立設される。このとき、フランジ部20bの下面がハウジング10の底部10aに接することで、シャフト20の高さ方向の位置決めがなされる。
【0057】
スリーブ21は、円筒形状に形成された部材である。スリーブ21の内径は、フランジ部20bの外径と略同径とされている。
スリーブ21は、シャフト20を径方向外側から囲むように、かつその内周面がシャフト20の外周面に対して所定間隔で離間するように設置されている。シャフト20の中心軸とスリーブ21の中心軸は一致するようになっている。
また、スリーブ21は、スイングアーム2の基部2aに形成された取付孔2e内に直接圧入されるか、波型に形成された金属リング等の弾性体を介して圧入されるか、又は接着嵌合されることで、スイングアーム2と一体的に組み合わされている。
【0058】
スリーブ21の内周面における高さ方向の中央部には、周方向に全周にわたって内側に突出するスペーサ部21aが形成されている。シャフト20とスリーブ21の間においては、スペーサ部21aの上下にそれぞれ2つの転がり軸受22が設置され、それら2つの転がり軸受22の間隔が所定距離に保持されるようになっている。
【0059】
[転がり軸受]
転がり軸受装置6に備えられている2つの転がり軸受22は、同じものである。
転がり軸受22は、
図3〜6に示すように、内輪30と、外輪31と、リテーナ32と、複数の転動体33と、2つのシールド板34と、を備える。
PIVOTで使用される軸受は、内径4〜7mm、外径7〜10mm、幅1〜3.5mm程度である。ボール径は0.8〜1mm程度である。ボール数は一般に11〜13個程度である。内外輪にはステンレス鋼、ボールには軸受鋼(SUJ2)もしくは内外輪と同様なステンレス鋼が使用される。与圧は200〜1200gf程度がかけられて使用される。
【0060】
内輪30は、円筒状の部材である。
内輪30の内径は、シャフト20の挿入が可能な寸法とされる。本実施形態では、内輪30の内径は、シャフト20の外径よりも若干大きくなっている。内輪30の内側にシャフト20が挿し込まれ、接着剤等で内輪30がシャフト20に固定される。
なお、内輪30の内径は、シャフト20に設置できる範囲であれば、シャフト20の外径と同一か、若干小さくなっていてもよい。この場合は、内輪30にシャフト20が圧入固定される。
【0061】
転がり軸受22では、内輪30にシャフト20に対して軸方向に相対的に予圧が付与された状態で内輪30をシャフト20に固定する、いわゆる内輪予圧を採用できる。これにより、転がり軸受22を高剛性化でき、転がり軸受装置6の共振周波数(共振点)を高くできる。そのため、より高速回転に対応可能な転がり軸受装置6となる。
なお、転がり軸受22では、外輪31にシャフト20に対して軸方向に相対的に予圧が付与された状態で外輪31をスリーブ21に固定する、いわゆる外輪予圧を採用してもよい。
【0062】
内輪30の外周面における軸方向の中間部には、転動体33の転動をガイドする凹条の内輪転動面30aが内輪30の全周にわたって形成されている。内輪転動面30aは、内輪30の中心軸を通る平面で切断したときの断面形状が円弧状になっている。
内輪30の材質としては、例えばステンレス等の金属材料が挙げられる。内輪30は、例えば鍛造や機械加工等により製造できる。
【0063】
外輪31は、内輪30よりも直径が大きい、内輪30と同様の円筒状の部材である。
外輪31はスリーブ21の内側に固定されることで、内輪30の外側に、内輪30から離間した状態で設置される。内輪30と外輪31とは、それらの中心軸がともにシャフト20の中心軸と一致するように同軸上に設置される。
【0064】
外輪31の内周面における軸方向の中間部には、内輪30の内輪転動面30aと対向するように、転動体33の転動をガイドする凹条の外輪転動面31aが外輪31の全周にわたって形成されている。外輪転動面31aは、外輪31の中心軸を通る平面で切断したときの断面形状が円弧状になっている。
外輪31の材質としては、例えばステンレス等の金属材料が挙げられる。内輪30は、例えば鍛造や機械加工等により製造できる。
【0065】
リテーナ32は、
図6に示すように、円環状の本体部32aと、本体部32aの上部から形成され、先端に向かって互いの距離が接近するように円弧状に立ち上がる七対の爪部32b,32cとを備える。七対の爪部32b,32cは、リテーナ32の周方向に等間隔に設けられている。それぞれの対になった爪部32bと爪部32cの内側には転動体33を転動可能に保持する正面視略円状のボールポケットBが形成されている。
なお、爪部の対の数、すなわちボールポケットBの数は、7個には限定されず、6個以下であってもよく、8個以上であってもよい。
【0066】
リテーナ32の内径は内輪30の外径よりも大きく、またリテーナ32の外径は外輪31の内径よりも小さくなっている。内輪30と外輪31の間にリテーナ32が設置された状態で、各々のボールポケットBに転動体33がそれぞれ転動可能に保持される。このように、内輪30及び外輪31とリテーナ32とが互いに干渉しない状態で、内輪30の内輪転動面30aと外輪31の外輪転動面31aとの間に転動体33が配置される。
リテーナ32は、各々のボールポケットBにそれぞれ転動体33を転動可能に保持した状態で中心軸L2回りを回転できるようになっている。
リテーナ32の材質としては、特に限定されず、例えば、ポリアミド樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0067】
リテーナ32の上部における一対の爪部32b,32cと、その隣りの一対の爪部32b,32cの間には、ボールポケットBに比べて深さが浅いグリースポケットGが形成されている。すなわち、リテーナ32には、複数対の爪部32b,32cによって周方向にボールポケットBとグリースポケットGが交互に形成されている。
【0068】
グリースポケットGに本発明のグリースが配置され、ボールポケットBに転動体33が配置された状態でリテーナ32と共に転動体33が回動する際には、グリースポケットGから内輪30及び外輪31と転動体33との間にグリースが染み出し、グリースによる潤滑効果が得られる。
グリースポケットGを利用して転がり軸受22にグリースを使用することで、グリースの使用量を少なくすることができる。これにより、グリース量が過度となって転がり軸受22のトルクが増大することが抑制されやすくなり、またディスクDへの読み書きのために要求される充分なクリーン度が得られやすくなる。
【0069】
この例の転動体33は、球状である。転動体33は、内輪30の内輪転動面30aと外輪31の外輪転動面31aとの間において、リテーナ32のボールポケットB内に配置され、内輪転動面30aと外輪転動面31aに沿って転動するようになっている。各々の転動体33は、リテーナ32によって周方向に均等に配列される。
転動体33の数は、この例では7個であるが、リテーナ32におけるボールポケットBの数に応じて決定すればよく、6個以下であってもよく、8個以上であってもよい。
転動体33の材質としては、例えば、軸受鋼等の金属材料が挙げられる。
【0070】
シールド板34は、内輪30と外輪31との間に形成された円環状の空間の上下を塞ぐ環状の板部材である。シールド板34は、内輪30と外輪31との間におけるリテーナ32及び複数の転動体33の上下に設置される。それぞれのシールド板34は、その外周縁部が外輪31に形成された係合用の環状溝部40内に入り込んだ状態で外輪31に固定されている。
【0071】
(作用機構)
情報記録再生装置1では、転がり軸受22におけるリテーナ32のグリースポケットGに本発明のグリースを配置する。アクチュエータ7の駆動によってスイングアーム2が回動する際には、グリースポケットGに配置したグリースが内輪30及び外輪31とリテーナ32の側面を通り、内輪30及び外輪31と転動体33の間に供給され、グリースによる潤滑効果が発揮される。
情報記録再生装置1においては、本発明のグリースを用いているため、アウトガス量が充分に低減されている。そのため、アウトガスがヘッドジンバルアッセンブリとディスクDの隙間等に溜まりにくく、安定して読み書きが行える。また、優れた耐久性を確保でき、低トルクでトルク平滑性に優れた状態を長期間維持できる。
【0072】
(他の実施形態)
なお、本発明の転がり軸受、転がり軸受装置及び情報記録再生装置は、本発明のグリースを用いたものであればよく、前記したものには限定されない。
例えば、転がり軸受22、転がり軸受装置6を備える情報記録再生装置1は近接場光を利用するものであったが、本発明のグリースを用いた転がり軸受及び転がり軸受装置を備える一般的なHDDや光ディスクD装置等であってもよい。
【0073】
また、転がり軸受装置は、スリーブを備えないものであってもよい。具体的には、例えば、シャフトの外側において軸方向に離間して配置される2つの転がり軸受の間に、互いの転がり軸受の間隔を所定距離に保持する環状のスペーサリングを備え、スリーブを備えない転がり軸受装置としてもよい。この場合は、スイングアームの基部に形成された取付孔に転がり軸受の外輪が直接圧入又は接着嵌合される態様とすることができる。
また、転がり軸受における転動体は、円筒状のころであってもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
本実施例における鉱油、PAO及び基油の動粘度は、キヤノン−フェンスケ粘度計を用い、JIS K2283に準拠して40℃で測定したものである。
【0075】
[実施例1〜5、参考例1]
実施例1〜5の各グリースを以下のように調製した。
【0076】
<実施例1>
精製鉱油(API基油カテゴリーでグループIIIに分類されるもの。動粘度ν
1=47mm
2/s)と、PAO(動粘度ν
2=30mm
2/s)とを質量比3:7で混合し、基油(動粘度ν=34mm
2/s)とした。
上記基油に、脂肪族モノアミンとジイソシアネートを添加し、基油中で60〜80℃で反応させて脂肪族ジウレア(増ちょう剤)を生成して、反応生成物を最高温度200℃まで加熱してグリースを得た。これに、酸化防止剤、防錆剤及び極圧剤を添加して3本ロールミルで混練して実施例1のグリースを製造した。
各成分の割合は、グリース100質量%に対して、基油が85.0質量%、増ちょう剤が12.5質量%、酸化防止剤が0.5質量%、防錆剤が1.0質量%、極圧剤が1.0質量%であった。
【0077】
<実施例2>
実施例1と同じ基油に、脂肪族モノアミンとジイソシアネートを添加し、基油中で60〜80℃で反応させて脂肪族ジウレアを生成して、反応生成物を最高温度180℃まで加熱してグリースを得たこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のグリースを製造した。
各成分の割合は、グリース100質量%に対して、基油が85.0質量%、増ちょう剤が12.5質量%、酸化防止剤が0.5質量%、防錆剤が1.0質量%、極圧剤が1.0質量%であった。
【0078】
<実施例3、4>
3本ロールミルの混練条件(ロールを通す回数、ロール締め圧)を変えたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例3、4のグリースを製造した。
【0079】
<実施例5>
極圧剤を添加しなかったこと以外は、実施例2と同様にして実施例5のグリースを製造した。
各成分の割合は、グリース100質量%に対して、基油が86.0質量%、増ちょう剤が12.5質量%、酸化防止剤が0.5質量%、防錆剤が1.0質量%とした。
【0080】
<参考例1>
参考例1としては、市販の情報記録再生装置の転がり軸受用グリースαを用いた。グリースαは増ちょう剤としてウレア化合物を、基油としてPAOと鉱油を含む。
【0081】
上記実施例1〜5及び参考例1の各グリースについて、h
C、T
Wを以下のように測定した。また、前記各グリースについて、アウトガス量の測定、酸化安定度試験、耐久試験、グリースバンプ試験、トルク平滑性試験、耐摩耗性試験を下記のように行った。結果を表1に示す。
【0082】
(EHL膜の膜厚h
Cの測定)
上記各グリースが塗布されたガラスディスクの面に鋼球を転がり接触させ、その際の接触域の膜厚を二色光干渉法により求めた。
上記二色光干渉法によるEHL膜の膜厚の測定装置としては、
図7に示す測定装置100を用いた。
測定装置100は、クロムが蒸着されて形成されたクロム膜111を下方の面に備える円盤状のガラスディスク110を有する。前記ガラスディスク110は、該ガラスディスク110を周方向に回転可能にする回転軸115で軸支されている。
前記ガラスディスク110の下方には、軸受用鋼球120が備えられ、該軸受用鋼球120は、回転軸121により回転可能に支持されている。さらに前記軸受用鋼球120は、その下方からローラ(図示せず)で支持され任意の接触荷重Xがかけられるようにされている。
前記ガラスディスク110の上方には、反射光路150が設けられ、該反射光路150の途中には、光源(図示せず)から照射された光Lが入射する入射光路140が接続されている。前記反射光路150の上方には、高速ビデオカメラ130が備えられている。前記入射光路140の途中には、前記光Lから特定波長の光を透過させる光学フィルター141が設けられ、前記反射光路150の途中には、前記光学フィルター141を透過した光をガラスディスク110に送るミラー151が設けられている。
【0083】
前記ガラスディスクとして、直径115mm、厚さ16mm、縦弾性係数75GPaのガラスディスクを用いた。前記鋼球として、直径19.05mm、縦弾性係数206GPaの軸受用鋼球を用いた。前記ガラスディスク110と軸受用鋼球120との接触荷重Xは150N、最大ヘルツ圧1.04GPaとした。
【0084】
次に、測定装置100を用いたEHL膜の膜厚h
Cの測定方法について説明する。
光源(図示せず)から照射された光Lは、入射光路140の途中に設けられた光学フィルター141により波長555nm(緑)、640nm(赤)を中心とする光とされる。この光は、反射光路150の途中に設けられたミラー151によりガラスディスク110に送られ、ガラスディスク110の下面に形成されたクロム膜111及び軸受用鋼球120の表面で反射される。この際、前記クロム膜111で反射された反射光と軸受用鋼球120の表面で反射された反射光との光路差により干渉縞が生じる。
この干渉縞を高速ビデオカメラ130により撮影し干渉像を得た。前記干渉像から、予め作成しておいた検量表により、クロム膜111及び軸受用鋼球120との間に介在するグリース160のEHL膜の膜厚を求めた。
グリースの塗布方法としては、ガラスディスク110のクロムが蒸着された面の軸受用鋼球120の軌道面となる領域に、想定されるグリースのEHL膜の膜厚よりも充分に大きくなるように(例えば塗布されたグリースの厚みが0.3mmとなるように)、へらを用いて均一に塗布した。ガラスディスクの周速度は1mm/sとし、ガラスディスク110の運転を開始してから1周するまでの間に10枚の干渉像を高速ビデオカメラ130で撮影した。前記10枚の干渉像の接触域中央における膜厚を求め、その平均値をh
Cとした。試験時の雰囲気温度は22.5±0.5℃とした。なお、運転を開始してから1周した後で、ガラスディスク110における軸受用鋼球120の軌道面に塗布したグリースの厚みを観察し、その厚みが初めに塗布したグリースの厚みよりも薄くなりその両側にグリースの土手ができたこと、すなわちガラスディスク110と軸受用鋼球120との間に充分にグリースが供給されていたことを確認した。また、参考までに検量表の一部を表2に示す。
【0085】
図8(a)〜(c)に、
図7の測定装置で観察されたEHL膜の干渉像の一例を示す。
図8(a)は、参考例1のグリースについて観察されたEHL膜の干渉像である。
図8(b)は、実施例1のグリースについて観察されたEHL膜の干渉像である。
図8(c)は、実施例2のグリースについて観察されたEHL膜の干渉像である。
図8(a)〜(c)において、円形の領域がガラスディスク110と軸受用鋼球120との接触域である。接触域中央は、前記円形の領域の中央(円の中心)である。
なお、予め作成しておいた検量表から、
図8(a)〜(c)の接触域中央200、210、220の膜厚は、それぞれ17nm、60nm、60nmである。本発明のh
Cは、各グリースについて観察された10枚の干渉像について接触域中央における膜厚をそれぞれ求め、これを算術平均した値である。
また、
図8(a)の202、
図8(b)の212、
図8(c)の222は、それぞれの干渉像において膜厚が最大となる箇所であり、それぞれ60nm、219nm、149nmである。本発明における接触域における膜厚の最大値(h
L)は、10枚の干渉像について、それぞれ接触域における膜厚の最大値を求め、これを算術平均した値である。また、本発明における接触域における膜厚の最小値(h
S)は、10枚の干渉像についてそれぞれ求められた接触域中央の膜厚のうち最小の値である。
このような低速度(周速度1mm/s)の動作において、参考例1(市販の情報記録再生装置の転がり軸受用グリースα)のEHL膜の膜厚は17nmであった(
図8(a))。上述のとおり、通常、情報記録再生装置1の転がり軸受22の合成表面粗さは20nm程度である。参考例1(市販のグリースα)のEHL膜の膜厚は、このような低速度の動作において情報記録再生装置1の転がり軸受22の合成表面粗さよりも小さくなった。
これに対して、実施例1、実施例2のグリースのEHL膜の膜厚は、ともに60nmであり(
図8(b)、
図8(c))、上記合成表面粗さよりも充分に大きい。これは、本発明において、増ちょう剤のサイズ(増ちょう剤の幅)を調整することにより、このような低速度の環境であってもEHL膜の膜厚を大きく保つことができたものと考えられる。これにより、本発明のグリースは、このような低速度の環境であっても摺動部品の直接接触を抑制でき耐久性を高めることができる。
【0086】
(グリース中の増ちょう剤の幅の測定)
図9〜11に、SEMを用いて観察された増ちょう剤のSEM画像を示す。倍率は5000〜30000倍とした(なお、倍率を上げるとピントが合いにくいため、なるべく低倍率で観察した)。
図9は、参考例1の増ちょう剤のSEM画像(30000倍)である。
図10は、実施例1のグリース中の増ちょう剤のSEM画像(5000倍)である。
図11は、実施例2のグリース中の増ちょう剤のSEM画像(5000倍)である。
図9〜11中のWは、各グリースの増ちょう剤の長手方向の中央の幅(W)であり、
図9では15nm、
図10では30nm、
図11では40nmである。
本発明におけるT
wは、前記測定を各グリースの増ちょう剤について任意に選択した5本の増ちょう剤について行い、これを算術平均した値である。
【0087】
(耐久試験)
図3〜6に例示した転がり軸受装置6を作製し、リテーナ32のグリースポケットGに各例のグリースを配置し、下記の動作条件で連続動作を行わせ、連続動作前の初期トルクに対する連続動作後のトルクの比としてトルク変動幅(ハッシュ)を測定した。
≪動作条件≫
動作周波数:30Hz
動作角度:10deg
動作時間:100時間
動作環境温度:80℃
【0088】
(グリースバンプ試験)
図3〜6に例示した転がり軸受装置6を作製し、リテーナ32のグリースポケットGに各例のグリースを配置し、下記の動作条件で連続動作を行わせ、連続動作直後のトルクを測定し、以下の基準に従って評価した。
≪動作条件≫
動作周波数:15Hz
動作角度:5deg
動作時間:50時間
動作環境温度:室温
≪評価基準≫
○:連続動作前の初期トルクに比べて連続動作直後のトルクがほとんど変化しない。
×:連続動作前の初期トルクに比べて連続動作直後のトルクが大きく変化する。
【0089】
(トルク平滑性試験)
図3〜6に例示した転がり軸受装置6を作製し、リテーナ32のグリースポケットGに各例のグリースを配置した。前記転がり軸受装置6の動作を開始してから1回転させたとき(初期段階)のトルクの変動幅を測定し、以下の評価基準に従って評価した。なお、この初期段階のトルクの変動幅が大きいと、ディスクへの読み書きの制御に影響が生じる可能性がある。
≪評価基準≫
○:初期段階のトルクの変動幅が参考例1と同等。
△:初期段階のトルクの変動幅が参考例1よりもやや大きい(ディスクへの読み書きの制御に影響がでないと推定されるレベル)。
×:初期段階のトルクの変動幅が参考例1よりも大きい(ディスクへの読み書きの制御に影響が生じる可能性がある)。
【0090】
(耐摩耗性試験)
ASTM D2783に準拠して、四球試験機により荷重392N、回転数1,200rpm、油温75℃、試験時間60分間の条件で耐摩耗性試験を行った。該四球試験機の1/2インチ球3個の摩耗痕径を測定し、その平均値を算出した。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
表1に示すように、h
Cが本発明の範囲を満たす実施例1〜5のグリースは、耐久試験及びグリースバンプ試験のいずれにおいてもトルクの変動が少なく、優れた耐久性を示した。さらに、実施例1〜5のグリースは、耐摩耗性試験における摩耗痕径が小さく耐摩耗性に優れるものであった。
また、実施例2〜5のグリースは、h
Lとh
Sとの差が180nmの実施例1のグリースよりもトルク平滑性に優れていた。さらに、本発明者らは、T
Wが156nmのウレア増ちょう剤を含むグリースについてもトルク平滑性試験を行い、前記グリースにおいて増ちょう剤の塊が観察されないにもかかわらずトルク平滑性試験の評価が損なわれることを確認した。
なお、実施例1のグリースは、トルク平滑性試験において、参考例1の市販のグリースαよりもトルク変動幅が大きくなったが、連続動作前後のトルクの比は、参考例1のグリースαよりも小さい。このことから、実施例1のグリースは、参考例1の市販のグリースαより耐久性に優れることは明らかである。
一方、市販のグリースαは、耐久試験におけるトルク変動幅が大きく、実施例1〜5のグリースに比べて耐久性が劣っていた。さらに、グリースバンプ試験においては、連続動作前のトルクに比べて連続動作後のトルクが6倍まで上昇した。これは、連続動作における動作範囲の両端部分に酸化劣化したグリースが溜まってバンプが形成されること、もしくは連続動作における動作範囲の両端部分(摺動速度が低速又はゼロとなる部分)で摩耗が激しくなることが要因であると考えられる。