特許第6782085号(P6782085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ホーユー株式会社の特許一覧

特許6782085白毛化抑制剤、細胞死抑制剤、活性酸素発生抑制剤、DNA損傷抑制剤、ミトコンドリア損傷抑制剤
<>
  • 特許6782085-白毛化抑制剤、細胞死抑制剤、活性酸素発生抑制剤、DNA損傷抑制剤、ミトコンドリア損傷抑制剤 図000003
  • 特許6782085-白毛化抑制剤、細胞死抑制剤、活性酸素発生抑制剤、DNA損傷抑制剤、ミトコンドリア損傷抑制剤 図000004
  • 特許6782085-白毛化抑制剤、細胞死抑制剤、活性酸素発生抑制剤、DNA損傷抑制剤、ミトコンドリア損傷抑制剤 図000005
  • 特許6782085-白毛化抑制剤、細胞死抑制剤、活性酸素発生抑制剤、DNA損傷抑制剤、ミトコンドリア損傷抑制剤 図000006
  • 特許6782085-白毛化抑制剤、細胞死抑制剤、活性酸素発生抑制剤、DNA損傷抑制剤、ミトコンドリア損傷抑制剤 図000007
  • 特許6782085-白毛化抑制剤、細胞死抑制剤、活性酸素発生抑制剤、DNA損傷抑制剤、ミトコンドリア損傷抑制剤 図000008
  • 特許6782085-白毛化抑制剤、細胞死抑制剤、活性酸素発生抑制剤、DNA損傷抑制剤、ミトコンドリア損傷抑制剤 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6782085
(24)【登録日】2020年10月21日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】白毛化抑制剤、細胞死抑制剤、活性酸素発生抑制剤、DNA損傷抑制剤、ミトコンドリア損傷抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20201102BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20201102BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20201102BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20201102BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20201102BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20201102BHJP
   A61Q 15/00 20060101ALI20201102BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   A61K8/49
   A61K31/352
   A61P17/00 101
   A61P17/18
   A61Q5/12
   A61Q19/00
   A61Q15/00
   A61Q17/04
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-62402(P2016-62402)
(22)【出願日】2016年3月25日
(65)【公開番号】特開2017-171635(P2017-171635A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113274
【氏名又は名称】ホーユー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】特許業務法人雄渾
(74)【代理人】
【識別番号】100197022
【弁理士】
【氏名又は名称】谷水 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(72)【発明者】
【氏名】田口 暢彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 愛
(72)【発明者】
【氏名】神谷 江美
(72)【発明者】
【氏名】國貞 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 仁美
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−193550(JP,A)
【文献】 特開2013−129644(JP,A)
【文献】 Fazilatun Nessa, et al.,Free radical-scavenging activity of organic extracts and of pure flavonoids of Blumea balsamifera DC leaves,Food Chemistry,2004年,Vol.88,pp.243-252
【文献】 Na Li, et al.,Comparative Evaluation of Cytotoxicity and Antioxidative Activity of 20 Flavonoids,Journal of Agricultural and Food Chemistry,2008年,Vol.56,pp.3876-3883
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 31/00−31/80
A61P 17/00−17/18
A23L 33/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンを含有することを特徴とするDNA損傷抑制剤。
【請求項2】
求項に記載されたDNA損傷抑制剤有効成分として含有することを特徴とする医薬品、化粧料又は飲食品。
【請求項3】
前記3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンを0.0001〜1.0質量%(w/w)含有することを特徴とする請求項に記載の医薬品、化粧料又は飲食品。
【請求項4】
外用剤であることを特徴とする請求項又はに記載の医薬品又は化粧料。
【請求項5】
前記外用剤を頭皮へ適用することを特徴とする、請求項に記載の化粧料の使用方法(ただし、ヒトに対する医療行為を除く。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪、髭等の体毛の白毛化を抑制する白毛化抑制剤、細胞の細胞死を抑制する細胞死抑制剤、細胞内の活性酸素の発生を抑制する活性酸素発生抑制剤、細胞のDNAの損傷を抑制するDNA損傷抑制剤、及び、細胞内のミトコンドリアの損傷を抑制するミトコンドリア損傷抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪、髭等の体毛は、ケラチノサイトが筒状の構造を形作って構成された毛包に包まれており、体毛の色の形成は、毛包に存在するメラノサイトによってメラニンが産生され、そのメラニンがケラチノサイトに転送されて毛全体に広がることによるとされる。そして、白髪等の白毛化は、老化等によりメラノサイトが分化、死滅することにより起こることが知られている。
特許文献1には、フラボノイド類のステルビン、ヤーバサンタ抽出物、ヨモギ抽出物がメラノサイト幹細胞の維持・増加、メラニン合成の増加を促進することを見出し、これらの物質を含む白毛数抑制剤が記載されている。
【0003】
また、放射線(IR)の照射により白髪が引き起こされることが知られている。非特許文献1では、放射線の照射による毛包細胞への影響に関する研究について、放射線照射後の最初のターゲットは色素幹細胞ではなく、ケラチノサイト幹細胞であることが報告された。
そして、特許文献2には、フラボノイド類のステルビン、ルテオリン、ディオスメチン及びヤーバサンタ抽出物が毛包ケラチノサイト幹細胞のDNA損傷を抑制することによって、白毛化を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−147491号公報
【特許文献2】特開2015−193550号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hitomi. A, et al, Keratinocyte Stem Cells but Not Melanocyte Stem Cells Are the Primary Target for Radiation-Induced Hair Graying, Journal of Investigative Dermatology, 2013, 133(9), p.2143-2151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで種々のフラボノイド類について、白毛化の抑制効果が認められてきたが、本発明は、更に優れた白毛化抑制剤を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、放射線や紫外線、酸化ストレス等によって誘発される細胞死、細胞内の活性酸素の発生、DNAの損傷、又は、ミトコンドリアの損傷を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンが、白毛化を抑制することを見出し、本発明の白毛化抑制剤を完成した。
【0009】
更には、その作用機序を解明する過程において、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンが、細胞死、細胞内の活性酸素の発生、DNAの損傷、及び、ミトコンドリアの損傷を抑制することを見出し、本発明の細胞死抑制剤、活性酸素発生抑制剤、DNA損傷抑制剤、及び、ミトコンドリア損傷抑制剤を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の白毛化抑制剤、細胞死抑制剤、活性酸素発生抑制剤、DNA損傷抑制剤、ミトコンドリア損傷抑制剤を提供するものである。
(第1発明)
上記課題を解決するための第1発明は、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンを含有することを特徴とする白毛化抑制剤である。
(第2発明)
上記課題を解決するための第2発明は、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンを含有することを特徴とする細胞死抑制剤である。
(第3発明)
上記課題を解決するための第3発明は、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンを含有することを特徴とする細胞内の活性酸素発生抑制剤である。
(第4発明)
上記課題を解決するための第4発明は、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンを含有することを特徴とするDNA損傷抑制剤である。
(第5発明)
上記課題を解決するための第5発明は、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンを含有することを特徴とするミトコンドリア損傷抑制剤である。
【0011】
(第6発明)
上記課題を解決するための第6発明は、第1発明の毛髪の白毛化抑制剤、第2発明の細胞死抑制剤、第3発明の細胞内の活性酸素発生抑制剤、第4発明のDNA損傷抑制剤、又は、第5発明のミトコンドリア損傷抑制剤の1種以上を有効成分として含有することを特徴とする医薬品、化粧料又は飲食品である。
(第7発明)
上記課題を解決するための第7発明は、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンを0.0001〜1.0質量%(w/w)含有することを特徴とする第6発明に記載の医薬品、化粧料又は飲食品である。
(第8発明)
上記課題を解決するための第8発明は、外用剤であることを特徴とする第6又は第7発明に記載の医薬品又は化粧料である。
(第9発明)
上記課題を解決するための第9発明は、前記外用剤を頭皮へ適用することを特徴とする、第8発明に記載の化粧料の使用方法である。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンが、放射線や紫外線、老化、酸化ストレス等の白毛化を誘発する因子から毛包ケラチノサイト幹細胞を保護し、白毛化を抑制することができる。
第2発明によれば、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンが、放射線や紫外線、老化、酸化ストレス等の細胞死を誘発する因子から細胞を保護し、細胞死を抑制することができる。
第3発明によれば、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンが、放射線や紫外線、老化、酸化ストレス等の細胞内の活性酸素を発生させる因子から細胞を保護し、細胞内の活性酸素の発生を抑制することができる。
第4発明によれば、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンが、放射線や紫外線、老化、酸化ストレス等のDNAの損傷を誘発する因子から細胞を保護し、DNAの損傷を抑制することができる。
第5発明によれば、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンが、放射線や紫外線、老化、酸化ストレス等のミトコンドリアの損傷を誘発する因子から細胞を保護し、ミトコンドリアの損傷を抑制することができる。
【0013】
第6発明〜第9発明によれば、第1発明の白毛化抑制剤、第2発明の細胞死抑制剤、第3発明の活性酸素発生抑制剤、第4発明のDNA損傷抑制剤、第5発明のミトコンドリア損傷抑制剤について、好適な利用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンの塗布試験についての手順を示す説明図である。
図2】3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンによる白毛化抑制効果を示す写真である。
図3】3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンによる白毛化抑制効果を示す写真である。
図4】3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボン及び各種フラボノイドによるNHEKのDNA損傷抑制効果を示す図である。
図5】(A)3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボン及び各種フラボノイドによるNHEKの細胞死抑制効果を示す図である。(B)3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンによるNHEKの細胞死抑制効果について濃度依存性を示す図である。
図6】3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンによるNHEK内の活性酸素発生抑制効果を示す図である。
図7】3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボンによるNHEKのミトコンドリア損傷抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
本発明は、3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボン(以下、「THMF」という。)を含有する白毛化抑制剤、細胞死抑制剤、活性酸素発生抑制剤、DNA損傷抑制剤、ミトコンドリア損傷抑制剤である。
【0016】
[3’,4’,5−トリヒドロキシ−7−メトキシフラボン(THMF)]
本発明のTHMFは、以下の化(1)に示す有機化合物である(CAS Number:20243−59−8)。
【化1】
【0017】
[白毛化抑制剤]
本発明の白毛化抑制剤とは、上記のTHMFを含有し、放射線や紫外線、老化、酸化ストレス等の白毛化を誘発する因子から毛包ケラチノサイト幹細胞を保護し、ヒトを含む動物の体毛の白毛化を抑制するものである。
【0018】
ここで、体毛とは、ヒトを含む動物の任意の毛を意味する。体毛は頭に生える毛髪、口髭や顎鬚を含むひげ、眉毛、睫毛、鼻毛、腕・脚・胸等の胴体に生える毛を好ましく例示することができ、毛髪、ひげ、眉毛、鼻毛を更に好ましく例示することができ、毛髪、ひげを特に好ましく例示することができる。
【0019】
本発明の白毛化抑制剤の適用において、白毛化を誘発する因子としては、特に制限されないが、例えば、X線、α線、β線、γ線、中性子線等の放射線照射、紫外線照射、老化、酸化ストレス等が挙げられる。本発明の白毛化抑制剤は、老化、放射線照射又は紫外線照射による白毛化に対して使用することが好ましい。
【0020】
[細胞死抑制剤]
本発明の細胞死抑制剤とは、上記のTHMFを含有し、放射線や紫外線、酸化ストレス等の細胞死を誘発する因子から細胞を保護し、細胞死を抑制するものである。
本発明の細胞死抑制剤を適用する細胞としては、どの組織の細胞であるかは制限されないが、例えば、毛包ケラチノサイト幹細胞、メラノサイト等の表皮組織の細胞や、角膜、結膜等の細胞等に適用して細胞死の発生を抑制する。
【0021】
本発明の細胞死抑制剤の適用において、細胞死を誘発する因子としては、特に制限されないが、例えば、X線、α線、β線、γ線、中性子線等の放射線照射、紫外線照射、老化、酸化ストレス等が挙げられる。本発明の細胞死抑制剤は、老化、放射線照射又は紫外線照射により誘発される細胞死に対して使用することが好ましい。
【0022】
[活性酸素発生抑制剤]
本発明の活性酸素発生抑制剤とは、上記のTHMFを含有し、放射線や紫外線、老化、酸化ストレス等の細胞内の活性酸素の発生を誘発する因子から細胞を保護し、細胞内の活性酸素の発生を抑制するものである。
本発明の活性酸素発生抑制剤を適用する細胞としては、どの組織の細胞であるかは制限されないが、例えば、毛包ケラチノサイト幹細胞、メラノサイト等の表皮組織の細胞や、角膜、結膜等の細胞等に適用して活性酸素の発生を抑制する。
【0023】
本発明の活性酸素発生抑制剤の適用において、活性酸素の発生を誘発する因子としては、特に制限されないが、例えば、X線、α線、β線、γ線、中性子線等の放射線照射、紫外線照射、老化、酸化ストレス等が挙げられる。本発明の活性酸素発生抑制剤は、老化、放射線照射又は紫外線照射により誘発される活性酸素の発生に対して使用することが好ましい。
【0024】
[DNA損傷抑制剤]
本発明のDNA損傷抑制剤とは、上記のTHMFを含有し、放射線や紫外線、老化、酸化ストレス等のDNAの損傷を誘発する因子から細胞を保護し、DNAの損傷を抑制するものである。
本発明のDNA損傷抑制剤を適用する細胞としては、どの組織の細胞であるかは制限されないが、例えば、毛包ケラチノサイト幹細胞、メラノサイト等の表皮組織の細胞や、角膜、結膜等の細胞等に適用してDNAの損傷を抑制する。
【0025】
本発明のDNA損傷抑制剤を適用する細胞において、DNAの損傷を誘発する因子としては、特に制限されないが、例えば、X線、α線、β線、γ線、中性子線等の放射線照射、紫外線照射、老化、酸化ストレス等が挙げられる。本発明のDNA損傷抑制剤は、老化、放射線照射又は紫外線照射により誘発されるDNAの損傷に対して使用することが好ましい。
【0026】
[ミトコンドリア損傷抑制剤]
本発明のミトコンドリア損傷抑制剤とは、上記のTHMFを含有し、放射線や紫外線、老化、酸化ストレス等のミトコンドリアの損傷を誘発する因子から細胞を保護し、細胞内のミトコンドリアの損傷を抑制するものである。
本発明のミトコンドリア損傷抑制剤を適用する細胞としては、どの組織の細胞であるかは制限されないが、例えば、毛包ケラチノサイト幹細胞、メラノサイト等の表皮組織の細胞や、角膜、結膜等の細胞等に適用してミトコンドリアの損傷を抑制する。
【0027】
本発明のミトコンドリア損傷抑制剤を適用する細胞において、ミトコンドリアの損傷を誘発する因子としては、特に制限されないが、例えば、X線、α線、β線、γ線、中性子線等の放射線照射、紫外線照射、老化、酸化ストレス等が挙げられる。本発明のミトコンドリア損傷抑制剤は、老化、放射線照射又は紫外線照射により誘発されるミトコンドリアの損傷に対して使用することが好ましい。
【0028】
[用途]
上記の本発明の白毛化抑制剤、細胞死抑制剤、活性酸素発生抑制剤、DNA損傷抑制剤、ミトコンドリア損傷抑制剤は、これらを有効成分として1種以上含有する医薬品、化粧料又は飲食品として利用される。医薬品とは、医薬部外品等も含む概念であり、飲食品とは、特定保健用食品、栄養機能食品、健康食品等も含む概念である。
【0029】
また、化粧料は、化粧水、乳液、リップクリーム、日焼け止め、洗顔フォーム、メイク落とし、シェービングフォーム、クレンジングオイル等のフェイスケア剤や、石鹸、ボディソープ、ハンドクリーム、ハンドソープ、制汗剤、入浴剤等のボディケア剤や、シャンプー、コンディショナー、整髪料、育毛剤、発毛剤、ヘアカラー等のヘアケア剤等が挙げられる。
【0030】
THMFの投与形態としては、特に制限されないが、例えば、経口や経鼻により摂取する内用剤、手や塗布具等によって皮膚の目的部位に塗布する外用剤、注射により皮下、皮内、血管内に注入する注射剤等が挙げられる。
なお、投与対象としては、ヒトを含む動物一般であり、好ましくは、ヒト及び非ヒト哺乳動物であり、特に好ましくは、ヒトである。
【0031】
内用剤は、例えば、錠剤、カプセル剤、液剤、散剤、シロップ剤等の医薬品や、加工食品、飲料等の飲食品が挙げられ、外用剤は、例えば、軟膏、湿布、消毒薬、点鼻薬、目薬、坐薬等の医薬品、フェイスケア剤、ボディケア剤、ヘアケア剤等の化粧料が挙げられ、注射剤は、例えば、注射、点滴等の医薬品が挙げられる。
【0032】
放射線や紫外線、老化、酸化ストレス等から直接的に細胞を保護するという観点から、外用剤が好ましい。外用剤を塗布する部位は、特に制限されず、頭、顔、体、手、腕、脚、足等のいずれの皮膚でもよい。
頭髪の白毛化を抑制するという観点では、ヘアケア剤等の頭皮へ適用する外用剤が好ましく、髭の白毛化を抑制するという観点では、フェイスケア剤等の顔の皮膚へ適用する外用剤が好ましい。
【0033】
上記の医薬品、化粧料又は飲食品に含まれるTHMFの含有量は、特に制限されないが、好ましくは0.0001〜1.0質量%(w/w)であり、更に好ましくは0.001〜0.5質量%(w/w)であり、特に好ましくは0.01〜0.1質量%(w/w)である。
【0034】
上記の医薬品、化粧料又は飲食品の剤型は限定されないが、例えば液状、乳液状、クリーム状又はゲル状が好適である。その他、粉末状、固体状、シロップ状、顆粒剤、糖衣剤、カプセル剤、吸入剤としてもよい。これらの剤型は、周知の方法や常法に従って実現可能である。
【0035】
剤型に応じて、その他の成分を添加してもよい。その他の成分としては、例えば、水、低級アルコール、多価アルコール等の溶剤、界面活性剤、油脂、ロウ、炭化水素、脂肪酸、高級アルコール、シリコーン等の油剤、アラビアガム等の増粘剤、アミノ酸類、でんぷん、デキストリン等の多糖類、乳糖、ぶどう糖等の糖類、ソルビトール、マルトース等の糖アルコール類、パラベン、安息香酸ナトリウム等の防腐成分、EDTA−2Na等のキレート成分、フェナセチン、8−ヒドロキシキノリン、アセトアニリド、ピロリン酸ナトリウム、バルビツール酸、尿酸、タンニン酸等の安定成分、リン酸、クエン酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸等のpH調整成分、生薬抽出物、ビタミン類、香料、紫外線吸収成分、美白成分、皮膚用柔軟化成分、殺菌成分等が挙げられる。
【0036】
[使用方法]
医薬品、化粧料又は飲食品の使用方法としては、THMFを、ヒトを含む動物一般に投与する方法であれば、特に制限されないが、例えば、経口や経鼻により摂取する方法、手や塗布具等によって皮膚の目的部位に塗布する方法、注射により皮下、皮内、血管内に注入する方法等により投与すればよい。
【0037】
また、本発明の化粧料の使用方法とは、THMFを皮膚へ適用する方法である。当該方法は、白毛化の予防又は改善や、シミやそばかす、シワの予防又は改善等の美容を目的とするものであり、手術、治療又は診断する方法を含まない。
化粧料の使用方法は、皮膚へ塗布する手段であれば、特に制限されないが、例えば、手や塗布具等によって化粧料を塗布する手段や、布等の貼付部材に含浸して目的部位に貼付する手段等が挙げられる。
【0038】
ヒトの皮膚に塗布する場合、皮膚20〜40cm2あたり、THMFが0.0025〜25mg/回が皮膚に適用されることが好ましく、適用間隔は少なくとも1日1〜2回塗布とすることが好ましい。
非ヒト哺乳動物の皮膚に塗布する場合、皮膚4〜5cm2あたり、THMFが0.002〜20mg/回が皮膚に適用されることが好ましく、適用間隔は少なくとも1日1回塗布とすることが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の実施例を説明する。
[マウスを用いた試験]
<試料>
〔試料1〕:THMF10mgを、10mLのエタノールに溶解して、0.1%(w/v)のTHMF溶液を調製した(以下、試料名を「0.1%THMF」という。)。
〔試料2〕:THMF−0.1%を、エタノールで1000倍に希釈して、1ppm(w/v)のTHMF希釈溶液を調製した(以下、試料名を「1ppmTHMF」という。)。
〔比較試料1〕:50体積%エタノール(以下、「50%EtOH」という。)。
【0040】
<塗布試験>
図1に各試料の塗布試験についての手順を示した。
7週齢のC57BL/6系統のマウスの背部をバリカンで刈り取り、その部位に200μLの試料を毎日1週間塗布した。1週間後、除毛クリーム(クラシエホームプロダクツ株式会社製「エピラット」)を用いて塗布部位の体毛を完全に除去することにより、休止期から成長期に発毛を誘導した。翌日、マウスに放射線(5Gy)を照射した。
【0041】
<毛包ケラチノサイト幹細胞のDNA損傷試験>
放射線照射6時間後の皮膚を回収し、免疫染色を実施した。毛包ケラチノサイト幹細胞の染色マーカーはCD34を用い、DNAの損傷した細胞の染色マーカーはγH2AXを用いた。毛包中において、CD34に陽性の細胞と、CD34及びγH2AXのいずれにも陽性の細胞について、それぞれ細胞数をカウントした。
【0042】
50%EtOH塗布マウス(N=1)は、CD34に陽性の細胞が20個、CD34及びγH2AXのいずれにも陽性の細胞が5個であった。一方、0.1%THMF塗布マウス(N=1)では、CD34に陽性の細胞が20個、CD34及びγH2AXのいずれにも陽性の細胞が2個であった。よって、THMFは、毛包ケラチノサイト幹細胞のDNA損傷抑制効果が認められた。
【0043】
<白毛化試験>
放射線照射1カ月後、抜去した体毛が生えそろった時点で、体毛を目視にて評価した。図2は、50%EtOH塗布マウスと0.1%THMF塗布マウスの体毛の色を評価した写真である。図3は、50%EtOH塗布マウスと1ppmTHMF塗布マウスの体毛の色を評価した写真である。
その結果、THMFを塗布したマウスの体毛は、0.1%THMF、1ppmTHMFのいずれも50%EtOHを塗布したマウスの体毛よりも黒い毛が多く生えた。
【0044】
さらに、50%EtOH塗布マウスと0.1%THMF塗布マウスについて、生えそろった体毛を回収し、分光側色計(ミノルタ製「CM508d」)を用いてL*値を測定し、体毛の明度を評価した。各試料塗布群について10匹のマウスの体毛を刈り取った後、それぞれのL*値を測定し、その平均を算出した。
その結果、50%EtOH塗布群のL*値は47.6、0.1%THMF塗布群のL*値は37.8であり、THMFを塗布することにより、体毛の白毛化を抑制するという効果が認められた。
また、50%EtOH塗布マウスと1ppmTHMF塗布マウスについて、上記と同じ手法でL*値を測定し、体毛の明度を評価した。各試料塗布群について3匹のマウスの体毛を刈り取った後、それぞれのL*値を測定し、その平均を算出した。
その結果、50%EtOH塗布群のL*値は46.91、1ppmTHMF塗布群のL*値は42.22であり、THMFを塗布することにより、体毛の白毛化を抑制するという効果が認められた。
【0045】
[NHEKを用いた試験]
<試料>
〔試料3〕:THMFをエタノールに溶解して、100μMのTHMF溶液を調製した(以下、試料名を「100μM-THMF」という。)。
〔比較試料2〕:ジメチルスルホキシド(CAS Number:67−68−5)をエタノールに溶解して、100μMのジメチルスルホキシド溶液を調製した(以下、試料名を「DMSO」という。)。
〔比較試料3〕:エリオディクティオン・アングスティフォリウム種のヤーバサンタ(ハゼリソウ科の植物)の葉及び茎の混合物の乾燥物1gに50体積%エタノール溶液200mLを加え、室温で約1週間抽出後、ろ過した。得られたろ液を濃縮して、100μg/mLのヤーバサンタ抽出液を調製した(以下、「E.angu.」という。)。
〔比較試料4〕:エリオディクティオン・カリフォルニカム種のヤーバサンタ(ハゼリソウ科の植物)の葉及び茎の混合物の乾燥物1gに50体積%エタノール溶液200mLを加え、室温で約1週間抽出後、ろ過した。得られたろ液を濃縮して、100μg/mLのヤーバサンタ抽出液を調製した(以下、「E.cali.」という。)。
〔比較試料5〕:ステルビン(CAS Number:51857−11−5)をエタノールに溶解して、100μMのステルビン溶液を調製した(以下、試料名を「Sterubin」という。)。
〔比較試料6〕:ルテオリン(CAS Number:491−70−3)をエタノールに溶解して、100μMのルテオリン溶液を調製した(以下、試料名を「Luteolin」という。)。
〔比較試料7〕:ホモエリオジクチオール(CAS Number:446−71−9)をエタノールに溶解して、100μMのホモエリオジクチオール溶液を調製した(以下、試料名を「Homoeri」という。)。
〔比較試料8〕:ヘスペレチン(CAS Number:520−33−2)をエタノールに溶解して、100μMのヘスペレチン溶液を調製した(以下、試料名を「Hesper」という。)。
〔比較試料9〕:ジオスメチン(CAS Number:520−34−3)をエタノールに溶解して、100μMのジオスメチン溶液を調製した(以下、試料名を「Diosmet」という。)。
〔比較試料10〕:エリオジクチオール(CAS Number:552−58−9)をエタノールに溶解して、100μMのエリオジクチオール溶液を調製した(以下、試料名を「Eriodic」という。)。
【0046】
<DNA損傷試験>
NHEK(正常ヒト表皮角化細胞:Normal Human Epidermal Keratinocytes)を用いて、放射線によるDNAの損傷試験を行い、各試料のDNA損傷抑制効果について評価した。評価方法は、NHEKを1ウェルあたり1.2×104個となるように、6ウェルプレートに投入した。翌日、このNHEKを各試料に1時間(37℃)暴露した後、放射線(5Gy)を照射した。
5時間後、DNAの損傷の指標となるγH2AXを免疫蛍光により発色させ、細胞あたりのγH2AXフォーサイの数をカウントした。細胞あたりのγH2AXフォーサイの数のカウントでは、試験を独立して3回行い、各試験の平均値をγH2AXフォーサイの数とした。その結果を図4に示す。
図4を参照すると、THMFは、ヤーバサンタ抽出物やステルビン等の他のフラボノイド類と比べて、優れたDNA損傷抑制効果を奏することが認められた。
【0047】
<細胞の生存率の測定>
NHEKを用いて、放射線による細胞の生存率の測定を行い、各試料の細胞死抑制効果について評価した。評価方法は、NHEKを1ウェルあたり1.2×104個となるように、6ウェルプレートに投入した。翌日、このNHEKを各試料に1時間(37℃)暴露した後、放射線(20Gy)を照射した。72時間後、細胞生存率を、MTTアッセイを用いて測定した。その結果を図5に示す。
図5(A)を参照すると、THMFは、ステルビン等の他のフラボノイド類と比べて、優れた細胞死抑制効果を奏することが認められた。また、図5(B)に示すように、THMFの細胞死抑制効果について、濃度依存性も確認された。
【0048】
<活性酸素の発生の評価>
NHEKを用いて、放射線による細胞内の活性酸素の発生を確認し、THMFの活性酸素発生の抑制効果について評価した。評価方法は、NHEKを1ウェルあたり1.2×104個となるように、6ウェルプレートに投入した。翌日、このNHEKを各試料に1時間(37℃)暴露した後、放射線(20Gy)を照射した。次に、10μMのDCF-DAに30分間暴露した。活性酸素により生じたDCF(蛍光物質)を蛍光顕微鏡により撮影し、活性酸素の発生を確認した。その結果を図6に示す。なお、図6の「DAPI」は核染色による蛍光顕微鏡写真であり、「Merge」は、「DCF」と「DAPI」を合わせた写真である。
図6を参照すると、THMFで処理したNHEKでは、細胞内の活性酸素の発生が抑制されたことがわかる。
【0049】
<ミトコンドリアの損傷の評価>
NHEKを用いて、放射線によるミトコンドリアの膜電位の低下を確認し、THMFのミトコンドリアの損傷の抑制効果について評価した。評価方法は、NHEKを1ウェルあたり1.2×104個となるように、6ウェルプレートに投入した。翌日、このNHEKを各試料に1時間(37℃)暴露した後、放射線(20Gy)を照射した。次に、Mito-Tracker red fluorescent(以下、「Mito-Tracker」という。)による染色を30分間行った。なお、Mito-Trackerは、ミトコンドリアの膜電位に依存して染色する染色色素である。染色したMito-Trackerを蛍光顕微鏡により撮影し、放射線によるミトコンドリアの膜電位の低下を確認した。その結果を図7に示す。なお、図7の「DAPI」は核染色による蛍光顕微鏡写真であり、「Merge」は、「Mito-Tracker」と「DAPI」を合わせた写真である。
図7を参照すると、THMFで処理したNHEKは、放射線照射によるミトコンドリアの膜電位の低下が抑制されており、THMFはミトコンドリアの損傷を抑制することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の白毛化抑制剤は、放射線や紫外線、老化、酸化ストレス等の白毛化を誘発する因子から毛包ケラチノサイト幹細胞を保護し、白毛化を抑制することができるため、例えば、白毛化の予防に利用することができる。
【0051】
本発明の白毛化抑制剤は、放射線や紫外線、老化、酸化ストレス等の白毛化を誘発する因子から細胞死、細胞内の活性酸素の発生、DNA損傷、ミトコンドリア損傷を抑制することができるため、これらに起因する種々の症状(例えば、肌のシミやそばかす、シワ等)の予防に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7