【実施例】
【0039】
以下に、本発明の実施例を説明する。
[マウスを用いた試験]
<試料>
〔試料1〕:THMF10mgを、10mLのエタノールに溶解して、0.1%(w/v)のTHMF溶液を調製した(以下、試料名を「0.1%THMF」という。)。
〔試料2〕:THMF−0.1%を、エタノールで1000倍に希釈して、1ppm(w/v)のTHMF希釈溶液を調製した(以下、試料名を「1ppmTHMF」という。)。
〔比較試料1〕:50体積%エタノール(以下、「50%EtOH」という。)。
【0040】
<塗布試験>
図1に各試料の塗布試験についての手順を示した。
7週齢のC57BL/6系統のマウスの背部をバリカンで刈り取り、その部位に200μLの試料を毎日1週間塗布した。1週間後、除毛クリーム(クラシエホームプロダクツ株式会社製「エピラット」)を用いて塗布部位の体毛を完全に除去することにより、休止期から成長期に発毛を誘導した。翌日、マウスに放射線(5Gy)を照射した。
【0041】
<毛包ケラチノサイト幹細胞のDNA損傷試験>
放射線照射6時間後の皮膚を回収し、免疫染色を実施した。毛包ケラチノサイト幹細胞の染色マーカーはCD34を用い、DNAの損傷した細胞の染色マーカーはγH2AXを用いた。毛包中において、CD34に陽性の細胞と、CD34及びγH2AXのいずれにも陽性の細胞について、それぞれ細胞数をカウントした。
【0042】
50%EtOH塗布マウス(N=1)は、CD34に陽性の細胞が20個、CD34及びγH2AXのいずれにも陽性の細胞が5個であった。一方、0.1%THMF塗布マウス(N=1)では、CD34に陽性の細胞が20個、CD34及びγH2AXのいずれにも陽性の細胞が2個であった。よって、THMFは、毛包ケラチノサイト幹細胞のDNA損傷抑制効果が認められた。
【0043】
<白毛化試験>
放射線照射1カ月後、抜去した体毛が生えそろった時点で、体毛を目視にて評価した。
図2は、50%EtOH塗布マウスと0.1%THMF塗布マウスの体毛の色を評価した写真である。
図3は、50%EtOH塗布マウスと1ppmTHMF塗布マウスの体毛の色を評価した写真である。
その結果、THMFを塗布したマウスの体毛は、0.1%THMF、1ppmTHMFのいずれも50%EtOHを塗布したマウスの体毛よりも黒い毛が多く生えた。
【0044】
さらに、50%EtOH塗布マウスと0.1%THMF塗布マウスについて、生えそろった体毛を回収し、分光側色計(ミノルタ製「CM508d」)を用いてL
*値を測定し、体毛の明度を評価した。各試料塗布群について10匹のマウスの体毛を刈り取った後、それぞれのL
*値を測定し、その平均を算出した。
その結果、50%EtOH塗布群のL
*値は47.6、0.1%THMF塗布群のL
*値は37.8であり、THMFを塗布することにより、体毛の白毛化を抑制するという効果が認められた。
また、50%EtOH塗布マウスと1ppmTHMF塗布マウスについて、上記と同じ手法でL
*値を測定し、体毛の明度を評価した。各試料塗布群について3匹のマウスの体毛を刈り取った後、それぞれのL
*値を測定し、その平均を算出した。
その結果、50%EtOH塗布群のL
*値は46.91、1ppmTHMF塗布群のL
*値は42.22であり、THMFを塗布することにより、体毛の白毛化を抑制するという効果が認められた。
【0045】
[NHEKを用いた試験]
<試料>
〔試料3〕:THMFをエタノールに溶解して、100μMのTHMF溶液を調製した(以下、試料名を「100μM-THMF」という。)。
〔比較試料2〕:ジメチルスルホキシド(CAS Number:67−68−5)をエタノールに溶解して、100μMのジメチルスルホキシド溶液を調製した(以下、試料名を「DMSO」という。)。
〔比較試料3〕:エリオディクティオン・アングスティフォリウム種のヤーバサンタ(ハゼリソウ科の植物)の葉及び茎の混合物の乾燥物1gに50体積%エタノール溶液200mLを加え、室温で約1週間抽出後、ろ過した。得られたろ液を濃縮して、100μg/mLのヤーバサンタ抽出液を調製した(以下、「E.angu.」という。)。
〔比較試料4〕:エリオディクティオン・カリフォルニカム種のヤーバサンタ(ハゼリソウ科の植物)の葉及び茎の混合物の乾燥物1gに50体積%エタノール溶液200mLを加え、室温で約1週間抽出後、ろ過した。得られたろ液を濃縮して、100μg/mLのヤーバサンタ抽出液を調製した(以下、「E.cali.」という。)。
〔比較試料5〕:ステルビン(CAS Number:51857−11−5)をエタノールに溶解して、100μMのステルビン溶液を調製した(以下、試料名を「Sterubin」という。)。
〔比較試料6〕:ルテオリン(CAS Number:491−70−3)をエタノールに溶解して、100μMのルテオリン溶液を調製した(以下、試料名を「Luteolin」という。)。
〔比較試料7〕:ホモエリオジクチオール(CAS Number:446−71−9)をエタノールに溶解して、100μMのホモエリオジクチオール溶液を調製した(以下、試料名を「Homoeri」という。)。
〔比較試料8〕:ヘスペレチン(CAS Number:520−33−2)をエタノールに溶解して、100μMのヘスペレチン溶液を調製した(以下、試料名を「Hesper」という。)。
〔比較試料9〕:ジオスメチン(CAS Number:520−34−3)をエタノールに溶解して、100μMのジオスメチン溶液を調製した(以下、試料名を「Diosmet」という。)。
〔比較試料10〕:エリオジクチオール(CAS Number:552−58−9)をエタノールに溶解して、100μMのエリオジクチオール溶液を調製した(以下、試料名を「Eriodic」という。)。
【0046】
<DNA損傷試験>
NHEK(正常ヒト表皮角化細胞:Normal Human Epidermal Keratinocytes)を用いて、放射線によるDNAの損傷試験を行い、各試料のDNA損傷抑制効果について評価した。評価方法は、NHEKを1ウェルあたり1.2×10
4個となるように、6ウェルプレートに投入した。翌日、このNHEKを各試料に1時間(37℃)暴露した後、放射線(5Gy)を照射した。
5時間後、DNAの損傷の指標となるγH2AXを免疫蛍光により発色させ、細胞あたりのγH2AXフォーサイの数をカウントした。細胞あたりのγH2AXフォーサイの数のカウントでは、試験を独立して3回行い、各試験の平均値をγH2AXフォーサイの数とした。その結果を
図4に示す。
図4を参照すると、THMFは、ヤーバサンタ抽出物やステルビン等の他のフラボノイド類と比べて、優れたDNA損傷抑制効果を奏することが認められた。
【0047】
<細胞の生存率の測定>
NHEKを用いて、放射線による細胞の生存率の測定を行い、各試料の細胞死抑制効果について評価した。評価方法は、NHEKを1ウェルあたり1.2×10
4個となるように、6ウェルプレートに投入した。翌日、このNHEKを各試料に1時間(37℃)暴露した後、放射線(20Gy)を照射した。72時間後、細胞生存率を、MTTアッセイを用いて測定した。その結果を
図5に示す。
図5(A)を参照すると、THMFは、ステルビン等の他のフラボノイド類と比べて、優れた細胞死抑制効果を奏することが認められた。また、
図5(B)に示すように、THMFの細胞死抑制効果について、濃度依存性も確認された。
【0048】
<活性酸素の発生の評価>
NHEKを用いて、放射線による細胞内の活性酸素の発生を確認し、THMFの活性酸素発生の抑制効果について評価した。評価方法は、NHEKを1ウェルあたり1.2×10
4個となるように、6ウェルプレートに投入した。翌日、このNHEKを各試料に1時間(37℃)暴露した後、放射線(20Gy)を照射した。次に、10μMのDCF-DAに30分間暴露した。活性酸素により生じたDCF(蛍光物質)を蛍光顕微鏡により撮影し、活性酸素の発生を確認した。その結果を
図6に示す。なお、
図6の「DAPI」は核染色による蛍光顕微鏡写真であり、「Merge」は、「DCF」と「DAPI」を合わせた写真である。
図6を参照すると、THMFで処理したNHEKでは、細胞内の活性酸素の発生が抑制されたことがわかる。
【0049】
<ミトコンドリアの損傷の評価>
NHEKを用いて、放射線によるミトコンドリアの膜電位の低下を確認し、THMFのミトコンドリアの損傷の抑制効果について評価した。評価方法は、NHEKを1ウェルあたり1.2×10
4個となるように、6ウェルプレートに投入した。翌日、このNHEKを各試料に1時間(37℃)暴露した後、放射線(20Gy)を照射した。次に、Mito-Tracker red fluorescent(以下、「Mito-Tracker」という。)による染色を30分間行った。なお、Mito-Trackerは、ミトコンドリアの膜電位に依存して染色する染色色素である。染色したMito-Trackerを蛍光顕微鏡により撮影し、放射線によるミトコンドリアの膜電位の低下を確認した。その結果を
図7に示す。なお、
図7の「DAPI」は核染色による蛍光顕微鏡写真であり、「Merge」は、「Mito-Tracker」と「DAPI」を合わせた写真である。
図7を参照すると、THMFで処理したNHEKは、放射線照射によるミトコンドリアの膜電位の低下が抑制されており、THMFはミトコンドリアの損傷を抑制することが認められた。