特許第6782238号(P6782238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6782238絶縁導体、固定子コイル、モータアセンブリ、絶縁導体を製造する方法、中間生成物、絶縁導体を製造するための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6782238
(24)【登録日】2020年10月21日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】絶縁導体、固定子コイル、モータアセンブリ、絶縁導体を製造する方法、中間生成物、絶縁導体を製造するための装置
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20201102BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20201102BHJP
   H01B 13/10 20060101ALI20201102BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20201102BHJP
   C08G 65/38 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   H01B7/02 A
   H01B7/02 C
   H01B13/00 517
   H01B13/10
   H01F5/06 H
   H01F5/06 Q
   H01F5/06 W
   C08G65/38
【請求項の数】30
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-534832(P2017-534832)
(86)(22)【出願日】2016年1月19日
(65)【公表番号】特表2018-512093(P2018-512093A)
(43)【公表日】2018年5月10日
(86)【国際出願番号】GB2016050106
(87)【国際公開番号】WO2016120592
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2018年11月8日
(31)【優先権主張番号】1501601.7
(32)【優先日】2015年1月30日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】501097318
【氏名又は名称】ビクトレックス マニュファクチャリング リミテッド
【氏名又は名称原語表記】VICTREX MANUFACTURING LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ボネット、ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】エルレイ、アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】グリーン、スチュアート
(72)【発明者】
【氏名】リマー、コリン
【審査官】 中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5391324(JP,B1)
【文献】 特開平02−270210(JP,A)
【文献】 特開2014−103045(JP,A)
【文献】 特開2014−154511(JP,A)
【文献】 特開昭59−040409(JP,A)
【文献】 特開平01−265417(JP,A)
【文献】 特開2000−207963(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/126375(WO,A1)
【文献】 特表2014−525846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
C08G 65/38
H01B 13/00
H01B 13/10
H01F 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体であって、前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化し、前記ポリマー材料が、一般式
【化1】
の繰り返し単位を含み、
式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表し、
前記絶縁層が、2μm〜300μmの範囲の厚さを有する、導体。
【請求項2】
前記結晶化度が、少なくとも30%である、請求項1に記載の導体。
【請求項3】
前記ポリマー材料の前記結晶化度が、前記絶縁層上の第1の位置で評価され、前記結晶化度が前記第1の位置で少なくとも30%であり、前記ポリマー材料の前記結晶化度が、前記絶縁層上の第2の位置で評価され、前記第2の位置における前記結晶化度が少なくとも30%であり、前記ポリマー材料の前記結晶化度が、前記絶縁層上の第3の位置で評価され、前記第3の位置における前記結晶化度が少なくとも30%であり、
前記第1の位置が、少なくとも10mの距離だけ前記第3の位置から離間し、前記第2の位置が、少なくとも9mの距離だけ前記第3の位置から離間する、請求項1または2に記載の導体。
【請求項4】
前記絶縁層が、前記長尺導体の実質的に全体に沿って延在する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導体。
【請求項5】
前記絶縁層には、前記結晶化度が15%未満である領域がない、請求項1〜のいずれか1項に記載の導体。
【請求項6】
前記絶縁層の少なくとも90重量%、好ましくは、少なくとも99重量%が、熱可塑性ポリマー材料を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の導体。
【請求項7】
前記絶縁層の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも99重量%が、前記ポリマー材料、特にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の導体。
【請求項8】
前記ポリマー材料が、前記繰り返し単位を含み、式中、t1=1、v1=0、及びw1=0である、請求項1〜のいずれか1項に記載の導体。
【請求項9】
前記ポリマー材料が、ポリエーテルエーテルケトンである、請求項1〜のいずれか1項に記載の導体。
【請求項10】
前記絶縁層が、前記長尺導体に直接接触する、請求項1〜のいずれか1項に記載の導体。
【請求項11】
前記絶縁層が、別の材料に覆われない、請求項1〜10のいずれか1項に記載の導体。
【請求項12】
前記絶縁導体が、x重量%の前記長尺導体及びy重量%の前記ポリマー材料を含み、xとyの合計が、前記絶縁導体の総重量の少なくとも90重量%、好ましくは、少なくとも99重量%である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の導体。
【請求項13】
前記長尺導体が、銅導体である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の導体。
【請求項14】
前記絶縁導体が、1000nmを超える、例えば厚さが300nmを超える厚さの酸化層を含まない、請求項1〜13のいずれか1項に記載の導体。
【請求項15】
前記長尺導体が、非円形の断面、好ましくは実質的に長方形の断面を有する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の導体。
【請求項16】
前記絶縁層中の膨れの表面積が、前記絶縁層の全表面積の5%未満、好ましくは1%未満に相当する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の導体。
【請求項17】
前記絶縁導体が、4〜30kVの範囲の絶縁破壊電圧を有する、請求項1〜16のいずれか1項に記載の導体。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の絶縁導体を組み込んだ固定子コイル。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の絶縁導体を組み込んだモータアセン
ブリ。
【請求項20】
ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体を製造する方法であって、
(i)長尺導体を選択することと、
(ii)ポリマー材料を含むテープで前記長尺導体を被覆することであって、前記ポリマー材料が、一般式
【化2】
の繰り返し単位を含み、
式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表す、被覆することと、
(iii)前記テープを加熱して前記ポリマー材料を溶融することと、
(iv)加熱されたテープを冷却して前記ポリマー材料を凝固させることと、を含み、前記ポリマー材料が、冷却後に少なくとも25%の結晶化度を有するように前記テープの冷却を制御
前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化する、方法。
【請求項21】
ステップ(ii)で言及された前記テープが、機械方向配向(Machine Direction Orientated)(MDO)テープである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記方法が、第1及び第2の加熱ステップを含み、前記第1の加熱ステップ(以下、ステップ(iii)と呼ぶ)が、ステップ(iii)の前に、前記ポリマー材料の溶融温度(Tm)よりも低い温度に前記テープを加熱することを含む、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記方法が、ステップ(iii)の後でありステップ(iii)の前であるステップ(iii)**を含み、ステップ(iii)**が、テープを前記長尺導体に向かって付勢するために前記テープで被覆された前記長尺導体に圧力を加えることを含む、請求項2022のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(iii)が、前記ポリマー材料のTmよりも高い温度に前記テー
プを加熱することを含む、請求項2023のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記方法が、ステップ(iii)の後に、テープで被覆された前記長尺導体に圧力を加えることを含むステップを含む、請求項2024のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記テープの加熱の間に、前記ポリマー材料といずれの他の材料との間にも共有結合が形成されない、請求項2025のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
ステップ(iii)の後、テープで被覆された前記長尺導体が、前記ポリマー材料が凝固する第1の冷却ステップで冷却され、
前記第1の冷却ステップの後、テープで被覆された前記長尺導体が、テープで被覆された前記長尺導体に冷却流体を導くことを含む第2の冷却ステップで冷却され、
前記第2の冷却ステップの後に、冷却流体除去ステップがある、請求項2026のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
第2の冷却ステップの後、前記ポリマー材料が、前記ポリマー材料のガラス転移温度(Tg)よりも高い温度にある、及び/または前記ポリマー材料のアニールが行われる、請求項2027のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
MDOテープで被覆された長尺導体を含む中間生成物であって、前記MDOテープがポリマー材料を含み、前記ポリマー材料が、一般式
【化3】
の繰り返し単位を含み、
式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表し、
前記ポリマー材料が、前記ポリマー材料を含む絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化する、中間生成物。
【請求項30】
ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体を製造するための装置であって、
(i)長尺導体を第1の位置と第2の位置との間で搬送するための搬送装置と、
(ii)ポリマー材料を含むテープを前記長尺導体の周りに巻き付けるための巻き付けユニットと、
(iii)前記第1の位置と前記第2の位置との間を通過する間に、前記長
尺導体を第1の温度に加熱するための第1の誘導コイルと、
(iv)前記長尺導体を前記第1の温度より高い第2の温度に加熱するための第2の誘導コイルであって、前記第1の誘導コイルの下流にある、第2の誘導コイルと、任意に、
(v)前記第2の誘導コイルの下流にある冷却装置とを備え
前記ポリマー材料が、一般式
【化4】
の繰り返し単位を含み、
式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表し、
前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化する、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁導体、固定子コイル、モータアセンブリ、絶縁導体を製造する方法、中間生成物、絶縁導体を製造するための装置に関し、具体的には、限定するものではないが、絶縁電線、例えば、厳しい環境で使用するための磁石線に関する。
【背景技術】
【0002】
電気モータ、オルタネータ、及び発電機のような電気装置は、ステータ及びロータを含む。ステータは、ステータコイルを形成するためにコアを通って巻かれた電気的に絶縁された線を有する金属コアを含む。交流電流がコアを通過すると、ステータに関連するロータを回転させる磁場が形成される。
【0003】
電気的に絶縁された線の特性及び性能は、装置が、例えば高温及び/または高湿度の環境及び/または装置が腐食性または有害な化学物質と接触する可能性がある環境のような、挑戦的な環境で動作される場合に、特に、前述の電気装置の性能に重要である。例えば、電気装置は、高温、有毒ガス(例えば、酸性ガス)及び他の化学物質に供される装置、例えば、電気式水中ポンプに組み込まれる場合がある。
【0004】
絶縁された磁石線を提供するための数多くの提案がなされている。典型的には、現在の磁石線は、円形または長方形の断面金属、例えば銅の、導体の周りに、1つまたは複数のポリマー絶縁体の層を使用する。ポリマー絶縁体は、ポリマー絶縁体が丈夫であり、導体上に連続絶縁層を提供することを目的として、薄膜の1つ以上の層(しばしば2つの異なる薄膜組成物が使用される)によって画定されてもよい。
【0005】
広く使用されている高性能ポリマー絶縁体は、2層の積層フッ素化エチレンプロピレン(FEP)及びポリイミドベースのテープを含む。ポリイミドは熱硬化性材料であり、金属と結合しないので、FEP層が必要である。FEPはヒートシール可能であり、ポリイミド/FEP積層テープで銅導体を被覆するための典型的な生産ラインの概略図である図1に示すテープ被覆/巻線プロセスにおいて導体と直接接触して配置される。図1を参照すると、テープ巻き付けユニット2は、FEPを銅に付着させる約320℃まで銅線を急速に加熱する単一の誘導コイル/加熱器を通り通過する巻回された導体4を供給する銅線の周りにポリイミド/FEPテープ(図示せず)を巻くように配置される。次に、導体4は、導体を250〜300℃に加熱してFEP層を架橋させ、導体への結合を改善する放射オーブン8を通過する。オーブン8内で加熱した後、確実に固定されたポリイミド/FEP絶縁体層を含む導体10をスプール(または同様のもの)の周りに巻き付けることができる。
【0006】
不都合なことに、ポリイミド/FEP被覆線は、いくつかの状況では不満足な特性を有する可能性がある。例えば、ポリイミドのいくつかの化学的及び/または機械的特性は、特に過酷な環境に耐えるには不十分である可能性がある。例えば、ポリイミドは、いくつかの状況において、酸性ガスの影響を受け、及び/または加水分解を受けやすい可能性がある。さらに、図1の構成を使用して達成可能なライン速度は、オーブン8内のFEPを架橋する必要性によって制限される可能性がある。さらに、比較的長いオーブン8を設ける必要性は、装置の設置面積が比較的大きいことを意味する。さらに、オーブン8中で比較的長い時間にわたって銅を高温に曝すと、銅導体の脆化を引き起こす可能性がある。
【0007】
銅導体を絶縁するために他のポリマーを使用することが提案されている。例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のようなポリアリールエーテルケトンの使用が提案されている。出願人は、銅導体にPEEKテープを適用するために、図1に記載の装置を使用しようと試みた。しかしながら、絶縁導体の絶縁破壊電圧に悪影響を及ぼす導体上のPEEKの著しい膨れ(薄膜内の空気のポケットを表す)が導体上に存在すること、及びさらに、銅の酸化を最小限に抑えながら許容可能な結晶化度を有するPEEK層を製造することは不可能であることが判明した。PEEK層を横切って結晶化度が実質的に一定でない場合、PEEK層が応力を受けて、PEEK絶縁導体がスプールの周りに被覆された場合にPEEK層の割れを招くことがあることを出願人は認識している。さらに、銅導体の酸化レベルが高すぎると、PEEK層の接着性が製造者にとって許容できないほど低くなり、絶縁銅導体がASTM D1676業界標準試験に合格しなくなることが判明した。上記の問題は、銅導体が非円形、例えば、長方形の断面を有する場合に特に深刻である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述の問題に対処することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、ポリマー材料を含む絶縁層を備えた長尺導体を含む絶縁導体が提供され、前記ポリマー材料が、少なくとも25%の結晶化度を有し、前記ポリマー材料は、
【化1】
一般式の繰り返し単位を含み、
式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表す。
【0010】
特に明記しない限り、前記長尺導体上の前記絶縁層の前記ポリマー材料の結晶性の評価は、以下の実施例4に記載されているように行うことができる。
【0011】
前記結晶化度は、好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%である。
【0012】
前記ポリマー材料の結晶化度は、前記絶縁層上の第1の位置で前述のように評価することができる。したがって、結晶化度は、前記第1の位置で少なくとも25%(好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%)が適切である。前記ポリマー材料の結晶化度は、前記絶縁層上の第2の位置で前述のように評価することができる。前記第2の位置における結晶化度は、適切には少なくとも25%(好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%)である。前記第1の位置は、少なくとも1mの距離だけ前記第2の位置から離間していてもよい。
【0013】
前記ポリマー材料の結晶化度は、前記絶縁層上の第3の位置で前述のように評価することができる。前記第3の位置における結晶化度は、適切には少なくとも25%(好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%)である。前記第1の位置は、少なくとも10mの距離だけ前記第3の位置から離間していてもよい。前記第2の位置は、少なくとも9mの距離だけ前記第3の位置から離間していてもよい。前記ポリマー材料の結晶化度は、前記絶縁層上の第4の位置で前述のように評価することができる。前記第4の位置における結晶化度は、適切には少なくとも25%(好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%)である。
【0014】
前記第4の位置は、少なくとも20mの距離だけ第1の位置から離間していてもよい。場合によっては、前記距離は少なくとも50m、例えば50m〜200mの範囲であってもよい。
【0015】
前記第1の位置は、絶縁導体の第1の端部にあってもよい。前記第4の位置は、絶縁導体の第2の対向側の端部にあってもよい。前記第2の位置は、絶縁導体の前記端部の中間であってもよい。前記第3の位置は、前記第2の位置と第4の位置の中間であってもよい。
【0016】
適切には、前記絶縁層は、長尺導体の全体に沿って延びる。前記絶縁層は、適切には、前記絶縁導体の前記第1の端部から前記第2の端部まで延びている。前記絶縁層は、好ましくは、前記第1の端部と第2の端部との間に連続した途切れない層を画定する。疑義を避けるために、絶縁導体の第1及び第2の端部(すなわち、対応する端面)に、長尺導体が露出していること、すなわち絶縁層が長尺導体の端部を覆っていないことが分かる。したがって、好ましくは、前記第1及び第2の端部(例えば、対応する端面)を除いて、前記絶縁層は前記長尺導体を完全に包囲する。
【0017】
前記ポリマー材料の結晶化度は、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%(好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%)が適切である。前記ポリマー材料の結晶性は、好ましくは、前記絶縁層の範囲にわたって実質的に一定である。適切には、前記絶縁層の範囲にわたる前記ポリマー材料の結晶化度は、10%未満だけ変化する。例えば、絶縁層のポリマー材料の最小結晶化度と最大結晶化度との間の差は、10%未満である。
【0018】
前記絶縁層は、好ましくは、結晶性が15%未満である領域(しばしばアモルファスパッチと呼ばれる)がない。
【0019】
本明細書におけるいずれかに記載された前記ポリマー材料の結晶化度は、40%未満であってもよい。
【0020】
前記絶縁層は、好ましくは均質で、適切にはその全範囲にわたって均一である。
【0021】
適切には、前記絶縁層の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99重量%が熱可塑性ポリマー材料を含む。適切には、前記絶縁層の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99重量%が前記ポリマー材料を含む。ある場合には、前記絶縁層は、前記ポリマー材料と充填材、例えば窒化ホウ素とを含むことができる。しかしながら、好ましくは、前記絶縁層は充填材を含まない。好ましくは、前記絶縁層は、前記ポリマー材料、特にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から本質的になる。前記絶縁層は、好ましくは、前記ポリマー材料である1種類の熱可塑性ポリマーのみを含む。
【0022】
前記ポリマー材料は、t1=1、v1=0及びw1=0、t1=0、v1=0、w1=0、t1=0、w1=1、v1=2、またはt1=0、v1=1及びw1=0である繰り返し単位Iから選択される繰り返し単位を有することができる。前記ポリマー材料は、より好ましくは、t1=1、v1=0及びw1−0、またはt1=0、v1=0及びw1=0である繰り返し単位を有する。前記ポリマー材料は、より好ましくは、t1=1、v1=0及びw1=0である繰り返し単位を有する。
【0023】
前記ポリマー材料は、適切には、少なくとも50モル%、(例えば50〜100モル%)、好ましくは少なくとも60モル%(例えば60〜100モル%)、より好ましくは少なくとも80モル%(例えば80〜100モル%)、特に少なくとも99重量%の、式Iの繰り返し単位を含み、特にそのような単位は、t1=1、v1=0及びw1=0である。
【0024】
前記ポリマー材料は、適切には少なくとも50重量%(例えば50〜100重量%)、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも95重量%の式Iの繰り返し単位を含む。
【0025】
前記ポリマー材料は、好ましくは、基本的に式Iの繰り返し単位からなり、特にそのような繰り返し単位は、t1=1、v1=0、及びw1=0である。
【0026】
好ましい実施形態では、前記ポリマー材料は、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン及びポリエーテルケトンケトンから選択される。より好ましい実施形態では、前記ポリマー材料は、ポリエーテルケトン及びポリエーテルエーテルケトンから選択される。特に好ましい実施形態では、前記ポリマー材料はポリエーテルエーテルケトンである。
【0027】
前記ポリマー材料は、好ましくは、実施例5に記載のようにして測定した溶融粘度(MV)が400℃で少なくとも0.06kNsm−2、好ましくは少なくとも0.08kNsm−2、より好ましくは少なくとも0.085kNsm−2、特に少なくとも0.09kNsm−2である。前記ポリマー材料は、1.00kNsm−2未満、適切には0.8kNsm−2未満のMVを有し得る。
【0028】
前記絶縁層は、好ましくは前記長尺導体と直接接触する。したがって、好ましくは、絶縁導体は、長尺導体と前記絶縁層との間に中間層、例えば接着層(例えば、前記絶縁層とは異なる組成の層)を含まない。前記絶縁導体は、好ましくは、本明細書に記載の試験ASTM D1676に合格する。
【0029】
前記絶縁層は、好ましくは300μm未満、例えば250μm未満の厚さを有する。厚さは、少なくとも2μmまたは少なくとも20μmであってもよい。絶縁層の厚さは、好ましくは、絶縁層の範囲にわたって実質的に一定である。したがって、最も薄い点における絶縁層の厚さを絶縁層の最も厚い点での厚さで割った比が少なくとも0.8、好ましくは少なくとも0.9、より好ましくは少なくとも0.95であることが好ましい。
【0030】
前記絶縁層は、別の材料、例えば別の層で覆われていないことが好ましい。好ましくは、前記絶縁層は、前記絶縁導体の最外層を画定する。前記絶縁層は、好ましくは、前記絶縁導体の露出層(例えば、大気に露出される)である。
【0031】
前記絶縁導体は、x重量%の前記長尺導体及びy重量%の前記ポリマー材料のを含むことができ、xとyの合計が前記絶縁導体の総重量の少なくとも90重量%である。好ましくは、xとyの合計は、前記絶縁導体の総重量の少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99重量%、特に100重量%である。
【0032】
前記長尺導体は、好ましくは銅導体である。好ましくは、低レベルの不純物を除いて、前記長尺導体に含まれる唯一の金属は銅である。
【0033】
有利には、絶縁導体を製造するために使用される以下に記載されるプロセスは、長尺導体の外面、例えば記載される銅導体の最小限の酸化を引き起こす。前記絶縁導体は、好ましくは、1000nmよりも大きく、例えば500nmよりも大きいかもしくは300nmより厚い酸化層(例えば、酸化銅層)を含まない。絶縁導体は、1000nm以下、例えば500nm以下、特に300nm以下の酸化物層を含むことができる。酸化物層は、以下に記載するようにXPSによって評価することができる。
【0034】
前記長尺導体は、20mm以下の最大寸法を有する断面を有することができる。断面の最小寸法は、少なくとも0.5mmであってもよい。
【0035】
前記長尺導体は、非円形の断面を有してもよい。非円形の断面及び本明細書に記載の特性を有する絶縁導体を製造することは困難である。それにもかかわらず、記載されたプロセスは、非円形の断面を有する絶縁導体を製造するのに特に有利である。前記長尺導体は、第1の外向きの面と第2の外向きの面とを含む断面を有し、前記第1及び第2の面は実質的に平坦であり、好ましくは、前記第1及び第2の面は対向方向を向いているが、互いに実質的に平行に延びる。前記長尺導体は、好ましくは実質的に長方形である。前記絶縁導体は、好ましくは、断面が実質的に長方形である。
【0036】
前記長尺導体は、1.5mm〜4mm(好ましくは1.6〜3.5mm)の範囲の厚さと3〜20mmの範囲の幅を有することができる。
【0037】
前記絶縁層は、好ましくは、膨れ(例えば、絶縁層のポケット内に閉じ込められた空気によって画定される)を実質的に欠いている。前記絶縁層中の膨れの表面積は、絶縁層の全表面積の5%未満、好ましくは1%未満を表すのが適切である。
【0038】
前記絶縁導体は、実質的に導体のほぼ全範囲に沿った位置に、らせん状のマーク(しばしば「目印マーク」と呼ばれる)を含むことができる。そのようなマークは、絶縁層が押出プロセスで製造されていないことを適切に示す。押出プロセスは、このようなマークを生成しない。
【0039】
前記絶縁導体は、好ましくは少なくとも10m、例えば少なくとも50m、特に少なくとも100mの長さを有する。前記絶縁導体は、好ましくは、実施例3に記載のように測定した場合、4〜30kVの範囲の絶縁破壊電圧を有する。前記絶縁導体は好ましくはスプールの周りに被覆されている。前記絶縁導体は、好ましくは磁石線である。
【0040】
本発明は、前記絶縁導体を組み込んだ固定子コイルにも及ぶ。
【0041】
本発明は、前記絶縁導体を含む電気水中ポンプ(ESP)にも及ぶ。モータリード延長(MLE)ケーブルは、記載された絶縁導体を含むことができる。本発明は、記述された前記絶縁導体を組み込んだモータアセンブリに及ぶ。前記モータアセンブリは、適切には、前記絶縁導体を組み込んだ前記ステータコイルを含む。
【0042】
本発明の第2の態様によって、絶縁導体を製造する方法が提供され、方法が、
(i)長尺導体を選択することと、
(ii)ポリマー材料を含むテープ(例えばMDOテープ)で導体を被覆することと、ポリマー材料が、一般式
【化2】
の繰り返し単位を含み、
ここで、式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表し、
(iii)テープを加熱してポリマー材料を溶融することと、
(iv)加熱されたテープを冷却してポリマー材料を凝固させることと、を含み、ポリマー材料が、適切には、冷却後に少なくとも25%の結晶化度を有するようにテープの冷却を制御する。
【0043】
第2の態様の絶縁導体は、第1の態様の絶縁導体の任意の特徴を有することができる。
【0044】
前記長尺導体は、第1の態様の長尺導体の任意の特徴を有することができる。しかし、ステップ(i)において選択された長尺導体は、方法中に長尺導体の幾分限定された酸化のために、第1の態様の絶縁導体における長尺導体と比較して、酸化されにくい。ステップ(i)において選択された前記長尺導体は、好ましくは本質的に銅からなる。
【0045】
好ましくは、ステップ(ii)において言及される前記テープは、機械方向配向(Machine Direction Orientated)(MDO)テープである。前記テープは、好ましくは一軸配向されている。前記テープは、少なくとも200MPa、好ましくは少なくとも300PMaの引張強さを有することができる。前記引張強さは450MPa未満であってもよい。前記テープは、少なくとも170MPa、好ましくは少なくとも220MPaの破断応力を有することができる。前記破断応力は、350MPa未満であり得る。前記テープは、少なくとも50MPa、好ましくは少なくとも70MPaの降伏応力を有することができる。前記降伏応力は、120MPa未満であり得る。引張強度、破断応力及び降伏応力は、ASTM D882に記載されているように評価することができる。
【0046】
前記テープは、250μm未満の厚さを有することができる。それは少なくとも1μmの厚さを有することができる。前記テープは好ましくは2〜100μm、より好ましくは4〜75μm、特に8〜50μmの範囲の厚さを有する。前記テープは、3〜50mmの範囲、例えば12〜25mmの範囲の幅を有することができる。
【0047】
前記テープは、方法において引き出されるキャリア上に提供されてもよい。キャリアは50mを超えるテープを保持することがある。
【0048】
ステップ(ii)において、テープは、好ましくは、複数のキャリアから引き出され、複数の別個の長さのテープが、導体を被覆するために使用される。ステップ(ii)において、前記テープは、好ましくは、前記長尺導体と直接接触する。ステップ(ii)において、適切には、テープの少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ(好ましくは8つ未満)の重複するテープの層が長尺導体上に配置されるように、導体をテープで被覆する。好ましくは、ステップ(ii)の終わりに、前記長尺導体は、2〜300μmの範囲の厚さを有するテープの層を担持する。
【0049】
前記テープの前記ポリマー材料は、第1の態様に従って記載されたものであってもよい。
【0050】
前記テープは、前記ポリマー材料の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99重量%を含むことができる。前記テープは、好ましくは、前記ポリマー材料、特にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から本質的になる。
【0051】
前記導体を複数の別個の長さのテープで被覆する場合、好ましくは、前記導体を被覆するために使用されるテープのそれぞれの長さが前記ポリマー材料を含み、及び/または、好ましくは使用される全てのテープが同一であり、好ましくはPEEKをよりなる。
【0052】
この方法は、第1及び第2の加熱ステップを含むことができる。好ましくは、ステップ(iii)の前に、第1の加熱ステップ(以下、ステップ(iii)と呼ぶ)は、前記ポリマー材料の溶融温度(Tm)よりも低い温度にテープを加熱することを含む。
テープは、前記ポリマー材料のTm未満の10℃以下(例えば、5℃以下)の温度に加熱することができる。前記ポリマー材料がPEEKを含む場合、テープは343℃未満であるが333℃より高い温度に加熱される。ステップ(iii)において、テープは粘着性になり、前記長尺導体にある程度付着するように適切に加熱される。
【0053】
好ましくは、ステップ(iii)において、テープが収縮する。例えば、テープの長さは、このような収縮によって少なくとも5%減少することができる。ステップ(iii)は、好ましくは、第1の誘導加熱器を使用して、テープで被覆された前記導体の誘導加熱を含むことが好ましい。
【0054】
好ましい実施形態では、前記長尺導体は、第1の外向き面と第2の外向き面とを適切に含む非円形断面を有し、前記第1及び第2の面は実質的に平坦であり、対向方向を向いており、互いに実質的に平行に延びる。例えば、前記好ましい実施形態では、前記長尺導体は、好ましくは長方形の断面を有する。好ましい実施形態では、前記方法は、ステップ(iii)**の後であってステップ(iii)の前に適切に行われるステップ(iii)**を含み、ステップ(iii)**は、テープで被覆された導体に圧力を加えテープは長尺導体に向かって移動することを含む。有利には、ステップ(iii)**は、テープに付随する膨らみの数を減らすことができる。
【0055】
圧力は、前述のように、前記長尺導体の第1及び第2の外向きの面に接触するように配置された対向するローラによって印加されてもよい。ローラは好ましくは弾性を有する。それらは、ポリマー材料、例えばシリコーンを含むことができる。
【0056】
ステップ(iii)(適切には参照された第2の加熱ステップを含む)は、好ましくは、テープを、前記ポリマー材料のTmよりも高い温度、好ましくはポリマー材料が溶融する温度に加熱することを含む。ステップ(iii)は、前記ポリマー材料のTmよりも少なくとも10℃、好ましくは少なくとも20℃高い温度にテープを加熱することを含むことができる。これは、前記Tmよりも50℃未満の温度に加熱することができる。好ましくは、ステップ(iii)において、テープが溶融され、それにより、前記テープの複数の層から形成された実質的に均質な絶縁層が画定される。ステップ(iii)は、適切には第2の誘導加熱器を使用してテープで被覆された前記長尺導体の誘導加熱を含むことが好ましい。
【0057】
前記長尺導体が、上述のような非円形の断面を有する場合、方法は、テープで被覆された導体に圧力を印加することを含む、ステップ(iii)の後のステップを含むことができる。これは、テープに関連する膨れの数を減らすことができる。
【0058】
圧力は、前述のように、前記長尺導体の第1及び第2の外向きの面に接触するように配置された対向するローラによって印加されてもよい。ローラは好ましくは弾性を有する。それらは、ポリマー材料、例えばシリコーンを含むことができる。
【0059】
好ましくは、共有結合は、テープの加熱中にポリマー材料といずれの他の材料との間にも形成されない。好ましくは、共有結合は、本方法においてポリマー材料内に(例えば、架橋によって)またはポリマー材料と共に形成されない。
【0060】
好ましくは、ステップ(iii)の後、テープで被覆された導体は冷却される。それは、能動的にまたは受動的に(例えば、周囲条件に供給することによって)冷却することができる。ステップ(iii)の後、好ましくは、テープで被覆された導体は、ポリマー材料が凝固する第1の冷却ステップで冷却される。第1の冷却ステップは、好ましくは、テープで被覆された導体に周囲条件に供することを含む。第1の冷却ステップにおいて、テープで被覆された導体中のポリマー材料は、好ましくは、前記ポリマー材料のTmより少なくとも3℃低い温度まで冷却される。好ましくは、第1の冷却ステップの終了時に、ポリマー材料は、その結晶化温度(Tc)よりも高い温度、例えば少なくとも10℃またはそのTcよりも少なくとも30℃高い温度にある。
【0061】
好ましくは、第1の冷却ステップの後、テープで被覆された導体は、第2の冷却ステップにおいて冷却され、例えば急冷される。第2の冷却ステップは、好ましくは、テープで被覆された前記導体の能動冷却を含む。
【0062】
前記第2の冷却ステップは、テープで被覆された導体に冷却流体、例えば液体(特に水を含むかまたは本質的に水からなる)を送ることを含むことができる。冷却流体は、テープで被覆された導体との接触の直前に、少なくとも10℃、好ましくは90℃未満(例えば、15〜35℃の範囲内)の温度であり得る。冷却流体は、テープで被覆された導体に噴霧することができ、流体がテープで被覆された導体の外面の実質的に全体に接触するようにすることが適切である。冷却流体は、長尺導体(例えば、銅)の酸化を制限するように適切に配置される。そのような冷却はまた、ポリマー材料の結晶性を低下させる(例えば、非晶質にする)ことができる。後続のステップは、好ましくは結晶化度を高めるように配置される。
【0063】
前記第2の冷却ステップの後、好ましくは冷却流体除去ステップがある。このステップでは、テープで被覆された導体との接触から冷却流体が適切に除去される。冷却流体除去ステップは、好ましくは、テープで被覆された導体から冷却流体を吹き飛ばすために、好ましくは前記冷却流体の実質的に全てがテープで被覆された前記導体との接触から除去されるように、テープで被覆された導体をガスに供することを含むことができる。冷却液除去ステップは、エアナイフの使用を含んでもよい。
【0064】
この方法は、テープで巻かれた導体の冷却後(例えば、前記冷却流体を用いた能動的な冷却)に(例えば、前記冷却流体除去ステップ後に)、長尺導体の中及び/またはテープに巻かれた導体に関連する残熱が、そのポリマー材料がアニール及び/または結晶化できるようなものであるように制御されることが好ましい。したがって、前記冷却後、ポリマー材料は、前記ポリマー材料のガラス転移温度(Tg)よりも高い温度にあり、及び/または前記ポリマー材料のアニールが起こる。
【0065】
前記アニールの後、前記ポリマー材料は、適切には少なくとも25%、好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%の結晶化度を有する。
【0066】
この方法は、好ましくは、スプールの周りに作られた絶縁導体を巻くことを含む。導体は、好適には、第1の態様に従って記載されたものである。
【0067】
この方法のステップ(ii)後にテープで被覆された導体は新規であると考えられる。したがって、本発明の第3の態様によれば、MDOテープで被覆された長尺導体を含む中間生成物が提供され、前記MDOテープはポリマー材料を含み、前記ポリマー材料は、一般式の繰り返し単位
【化3】
を含み、
式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表す。
【0068】
前記長尺導体は、本明細書中のいずれかの記述に記載されているものとすることができる。前記MDOテープは、本明細書中のいずれかの記述に記載されているものとすることができる。前記ポリマー材料は、本明細書のいずれかの記述に記載されているものとすることができる。
【0069】
前記中間生成物は、第2の態様に記載の第1の加熱ステップの後にMDOテープで被覆された長尺導体を含むことができる。したがって、MDOテープを長尺導体に接着させることができる。前記MDOテープは収縮している場合がある。
【0070】
本発明の第4の態様によれば、第1の態様による長尺導体を製造すること、第2の態様による絶縁導体を製造することのため、及び/または第3の態様による中間生成物を製造することのための装置が提供され、装置が、
(i)長尺導体を第1の位置と第2の位置との間で搬送するための搬送装置と、
(ii)ポリマー材料を含むテープを長尺導体の周りに巻き付けるための巻き付けユニットと、
(iii)前記第1の位置と第2の位置との間を通過する間に長尺導体を第1の温度に加熱するための第1の誘導コイルと、
(iv)長尺導体を第1の温度より高い第2の温度に加熱するための第2の誘導コイルと、第2の誘導コイルが、第1の誘導コイルの下流にあり、任意に、
(v)前記第2の誘導コイルの下流にある冷却装置と、を備える。
【0071】
前記第1の誘導コイルは、第2の態様の方法の第1の加熱ステップ(すなわち、ステップ(iii))を実装するように構成することができる。前記第2の誘導コイルは、第2の態様の方法の第2の加熱ステップを実装するように構成することができる。
【0072】
前記冷却装置は、好ましくは、第2の態様の方法の第2の冷却ステップを実装するように構成されている。前記冷却装置は、装置内で製造されたテープで被覆された導体に冷却流体を噴霧するように配置された一連の噴霧装置を含むことができる。前記冷却装置は、第2の態様の冷却流体除去ステップを実装するように構成することができる。前記冷却装置は、一連のエアナイフを含むことができる。
【0073】
前記装置は、本明細書に記載の前記ポリマー材料を含むMDOテープと組み合わせて提供することができる。
【0074】
本明細書に記載された任意の発明の任意の態様の任意の特徴は、必要に変更を加えて本明細書に記載された他の任意の発明と組み合わせることができる。本発明の特定の実施形態を、添付の図面を参照して例として以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1】銅導体をポリイミド/FEP積層テープで被覆するための既知の生産ラインの概略図である。
図2】銅導体をポリエーテルエーテルケトン(PEEK)テープで被覆するための生産ラインの概略図である。
図3】凝固前の導体上のテープの層を示す被覆された導体の断面の概略図である。
図4】PEEKテープで被覆された銅導体を含む高温アセンブリを冷却するための冷却装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
下記の材料は、以降、以下のように称され、機械方向配向(Machine−Direction Orientated)(MDO)ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリマーテープは、Imperial Chemical Industries Plc.のB.P.Griffin及びI.D.Luscombeによりに開示されているResearch Disclosureデータベース番号216001の実施例3に概説された手順に従って一軸配向されたPEEKテープを指す。典型的には、MDOテープは、ASTM D882に従って測定された以下の特性を有し、引張強さ−338MPa、破壊応力−256MPa、降伏応力−84MPaである。
【0077】
図2を参照すると、長方形断面の銅導体20は、巻き付けユニット22から引き出された機械方向配向(MDO)ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリマーテープ(図示せず)で被覆されている。テープで被覆された導体のアセンブリ23aは、PEEKポリマーの温度を340℃(すなわち、PEEKの溶融温度(Tm)のすぐ下)に上昇させるのに十分なエネルギーを生成する第1誘導コイル24を通過する。温度は、PEEK層に焦点を当てた適切に配置されたパイロメータを使用して監視することができる。加熱の結果、MDOテープは銅導体の周りで収縮し(すなわち、MDOテープを製造するために延伸プロセスに供される前の状態に向かってテープ固着する)、さらにテープは、粘着性になり、銅導体20に固着する。
【0078】
第1の誘導コイル24を出た後、導体及び収縮テープを含むアセンブリ23bは、アセンブリ23bと接触するように、そして、トラップされた空気、膨張した膨れを除去し及びまたは表面仕上げを改善するためにその対向する側に圧力を印加するために配置された第1の対のシリコーンローラ26の間を通過する。ローラ26の下流で、アセンブリ23cは、PEEK層の溶融温度(Tm)を上回る約380℃に銅導体を急速に加熱する第2の誘導コイル28を通過する。その結果、PEEK層が溶融して下地の銅導体に固着し、導体のまわりに連続した滑らかなPEEK層を生成する。
【0079】
第2の誘導コイル28を出た後、アセンブリ23dは、ローラ26のように、アセンブリ23dと接触するように、そして、トラップされた空気、膨張した膨れを除去し及びまたは表面仕上げを改善するためにその対向する側に圧力を印加する第2の対のシリコーンローラ30の間を通過する。
【0080】
ローラ30の下流で、アセンブリ23eの銅導体を急速に冷却して銅の酸化を制限する一方、PEEK層を徐々に冷却してPEEK層の結晶度を最適化するように配置された冷却装置32をアセンブリ23eが通過する。
【0081】
冷却装置32を出た後、高結晶性の薄いPEEK層で絶縁された比較的非酸化性の銅を含むアセンブリ23fは、電気装置で使用する前にスプールの周りに巻き付けることができる。
【0082】
本発明の好ましい実施形態の特徴は、以下でより詳細に説明される。
【0083】
銅導体は、ETP裸銅線を含んでもよく、長尺、長方形の断面線の形態であってもよい。断面は、3〜20mmの幅及び1.6〜3.5mmの厚さを有することができる。好ましい断面は約8×2mmである。
【0084】
長方形断面線を使用する代わりに、他の形状の導体を本明細書で説明するように処理することができる。例えば、円形(例えば、0.5〜10mmの直径を有する)または楕円形の断面線、ストランド線またはセグメント化された線を使用することができる。しかし、好ましくは、線は長方形の断面を有する。
【0085】
銅を使用する代わりに、アルミニウムの導体を上記のように処理してもよい。特に、本明細書に記載のプロセスは、本明細書に銅について記載したような酸化を受けやすい任意の金属に適用することができる。
【0086】
上記のように、PEEKポリマーテープはMDOテープである。これは、一般にResearch Disclosureデータベース番号21600に記載されているように製造することができ、3〜50mmの範囲の幅及び1〜250μmの範囲の厚さを有することができる。本明細書に記載した実施例は、幅12mm及び厚さ18μmのテープを用いて製造した。
【0087】
巻き付けユニットは、適切な専用ユニットである。銅導体上に8m/分以上でテープを巻き付けるために、約1500rpm以上で動作可能である。テープは、業界標準重複配置を用いて巻き付けられてもよい。例えば、図3に示す一実施形態では、銅導体40を二重に被覆することができ、一方のラップ41は3つの層42a、42b及び42cを含み、他方のラップ43は層44a、44b及び44cを含む。したがって、この実施形態では、銅導体は、6層の厚さのPEEKテープで覆われている。
【0088】
第1の誘導コイル24は、コイル24を出る際に、被覆された導体の表面が約340℃の温度を有するように、銅導体を加熱するように配置される(PEEKは導電性ではないため、PEEKは加熱しない)。
【0089】
上述したように、第1の誘導コイルを使用する1つの目的は、PEEKテープの温度をその融解温度直下まで上昇させることである。その結果、テープはMDOテープを製造するために引き伸ばされる前に元の状態に向かって戻るよう収縮する。このプロセスでは、収縮は、テープの適切なオーバーラップ配置の初期選択によって補償される。また、銅の外面の酸化を最小限に抑えるために、銅導体が第1の誘導コイル内の高温に供される時間を最小化することも重要である。
【0090】
記載されているシリコーンローラ26、30は、それらが処理中に供される比較的高い温度で適切な特性を保持するようにする必要がある。第1のシリコーンローラ対26は、それらの間を通過するアセンブリ23bの幅よりも大きい幅を有し、その結果、ローラは、それらの間を通過するときにアセンブリ23cの上面及び底面と完全に重なる。ローラ26は、アセンブリ23bが通過するとき自由に回転可能であるが、それ自体は駆動されない。
【0091】
第2の誘導コイル28はまた、銅導体を加熱するように配置されるが、第1の誘導コイルと比較してより高い温度に加熱されるように構成される。
【0092】
このプロセスにおいて、アセンブリ23cは、第2の誘導コイルの範囲内にあってもよく、及び/または第2の誘導コイルによって適切な最短時間にわたって加熱されてもよい。上述したように、第2誘導コイルの使用目的は、銅導体を380℃に急速に加熱してPEEK層を溶融させて銅に付着させることである。PEEK層が過度に高い温度及び/または高温に長時間供されると、PEEK層が不利に膨らむ場合がある。シリコーンローラ30の第2の対は、一般に、第1のローラ対26について説明した通りである。
【0093】
冷却装置32は図4により詳細に示されている。参照番号50で表される第1の領域では、アセンブリ23eは周囲温度に供され、アセンブリが位置52に達するまでに、PEEK層はその溶融温度よりも低い(すなわち、約343℃未満)温度を有し、すなわち、PEEK層が凝固している。これにより、アセンブリ23eが下流側の水冷にさらされたときに膨らみ現象が防止される。しかし、温度はPEEKの結晶化温度(Tc)すなわち278℃より高い。番号54で示された領域内の位置52の下流で、一連の水噴霧器がアセンブリ23eの周りに沿って配置される。噴霧器は、アセンブリ23eにおいて一定の20℃に維持された温度で水を噴霧して急速に冷却し、銅導体から熱を効果的に除去することによって銅導体の酸化を制限するように配置される。
【0094】
領域54の下流には、アセンブリ23eの周りに沿って位置する一連のエアナイフを含む領域56がある。エアナイフは、残留水の存在が最終生成物23f上のPEEKの無定形パッチの不利な生成を招くことがあることが判明したので、アセンブリの表面から水を完全に除去するように配置されている。
【0095】
領域56内の水を除去した後、導体23fは冷却装置32を出る。しかしながら、冷却装置32は、出口位置58において、銅導体内の残熱が、PEEK層が冷却装置32を出た後にアニールするのに十分に高くなるように配置されている。したがって、適切には、位置58において、導体23fは、冷却装置32の下流で、導体23fに追加の加熱を供することなく、PEEK層が160℃を超える温度に達するのに十分な熱を含む。
【0096】
冷却装置32の下流で、導体23fは周囲空気中で適切に冷却され、直ちに巻かれる。例えば、導体23fは、位置58から2〜10mの距離内に位置するスプールに連続的に巻かれることができる。
【0097】
例えば、8m/分を超えるような引き取り速度及び/またはスプール上の巻き付け速度は、比較的高くてもよい。
【0098】
好都合なことに、図2及び図4を参照して説明した装置を使用して、非常に高品質のPEEK絶縁銅線を高速で製造することができる。
【0099】
製造される線の特性は、以下のように確認することができる。
【0100】
実施例1−被覆された絶縁コーティングの接着性の評価
伸びは、薄膜絶縁磁石線の延性の一般的な尺度を提供し、導体に対する薄膜絶縁の可撓性及び接着性の有用な指標は、以下の試験から導き出すことができる。
【0101】
厚さ36μm、結晶化度30.4%のPEEK絶縁層を有する、上記の方法により製造された磁石線を、100mm長さの線を使用した以外はASTM D1676(薄膜絶縁マグネット線の標準試験方法(Standard Test Methods for Film−Insulated Magnet wire))の節122〜129に従って伸びについて試験した。線をInstron 3369 Tensometerを用いて23℃、50%の室内湿度で破るまで一定速度(300mm/分)で引き延した。次いで、試料を、破断点及び試料の長さに沿って視覚的に検査した。
【0102】
サンプルは、被覆されたPEEK絶縁薄膜が、断線の前に線がネックダウンし始めた時点で絶縁体の限定された層間剥離によって示されるように、導体に対する優れた接着性を有することを示した。
【0103】
実施例2−銅層の評価
本明細書で言及される銅上の酸化物層の厚さは、X線光電子分光法(XPS)を用いて評価することができる。酸化物層の厚さは、一般に5−300nmの範囲内にあることが見出される。
【0104】
実施例3−耐圧の評価
試験は、EN60851−5規格を参照してSefelec RMG15AC HiPot誘電体強度試験機を用いて周囲温度(23℃)及び相対湿度で行った。
【0105】
特定の例では、18μmのPEEK薄膜で絶縁された直径3.264mmの銅導体を、66%の重なりで総PEEK厚さ108μmを画定し、32%の最終線における結晶化度を有するものとして評価した。
【0106】
裸の銅導体を露出させるために、鋭利なナイフを用いて、絶縁導体試料の一端から25mmのPEEK絶縁を完全に除去することによって、合計8×200mmの長さの試料を最初に調製した。電極は、導電性の感圧テープで裏打ちされた薄い金属箔を各試料の中央に適用することによって調製した。これらの電極は、典型的には幅6mm、長さ約60mmであった。各電極は、試料に対して直角に適用した。電極は、試料の周りをスムーズにしっかりと1ターン完全に被覆された。
【0107】
電極と露出した銅の端との間に正弦波交流電圧を印加した。この電圧を0.5kV/秒の速度で印加し、薄膜絶縁体が穿孔された最小電圧をその後記録した。この破壊電圧は、10.7〜12.7kVの範囲にあることが判明した。
【0108】
実施例4−被覆された導体におけるPEEK層の結晶化度の評価
適用後、絶縁導体からPEEK層のサンプルを得るために、DSCによる測定のために、0.5cm×0.5cmと約100μmの厚さのテープの領域を、鋭利なナイフを用いて導体を屈曲させながらナイフを用いて銅導体から層を持ち上げることによって絶縁テープ層から切り取った。
【0109】
切断した2枚のテープ(約10mg)をDSCパンに一緒に入れ、以下のようにDSCでスキャンした。
ステップ1:サンプルを20℃/分で30℃から400℃に加熱することによって予備熱サイクルを実行し、記録する。
ステップ2:5分間保持する。
ステップ3:20℃/分で30℃まで冷却し、5分間保持する。
ステップ4:Tg、Tn、Tm、ΔHn及びΔHmを記録しながら、20℃/分で30℃から400℃まで再加熱する。
【0110】
Tcは冷却サイクル(ステップ3)で測定され、結晶化発熱が最小に達する温度である。
【0111】
ステップ4のスキャンから得られたDSCトレースから、Tgの開始は、転移前のベースラインに沿って描かれた線と、転移中に得られた最大の勾配に沿って描かれた線との交点として得られた。Tnは、低温結晶化発熱の主ピークが最大に達する温度であった。Tmは融解吸熱の主ピークが最大に達した温度であった。
【0112】
溶融の融解熱(ΔHm)は、融解吸熱が比較的直線的なベースラインから逸脱する2つの点を接続することによって得られた。時間の関数として吸熱下の積分面積は、融解遷移のエンタルピー(mJ)をもたらし、質量正規化融解熱は、エンタルピーを試料の質量(J/g)で割ることによって計算される。結晶化のレベル(X(%))は、試料の融解熱を、ポリエーテルエーテルケトンの場合130J/gである全結晶性ポリマーの融解熱で割ることによって決定される。
【0113】
実施例5−ポリマーの溶融粘度(MV)の測定
特に断りのない限り、これは、円形横断面タングステンカーバイドダイ0.5mm(毛細管直径×3.175mm(毛細管長))を使用して、1000s−1の剪断速度で、400℃で動作する毛管レオメトリーを用いて測定した。MV測定は、ポリマーが完全に溶融して5分後に行われ、ポリマーがレオメーターのバレルに装填されてから5分後に取られた。
【0114】
本発明は、前述の実施形態の詳細に限定されるものではない。本発明は、本明細書(いずれの添付の特許請求の範囲、要約書、及び図面も含む)に開示された特徴のうちの任意の新規な1つ、もしくは任意の新規な組み合わせ、または同様に開示された任意の方法またはプロセスのうちの任意の新規な1つ、または任意の新規な組み合わせに拡大する。
図1
図2
図3
図4