特許第6782407号(P6782407)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6782407
(24)【登録日】2020年10月22日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】制振装置及び制振装置の組み立て方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 90/52 20060101AFI20201102BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20201102BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   B65D90/52
   F16F15/02 D
   F16F15/023 Z
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-252381(P2015-252381)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-114531(P2017-114531A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(73)【特許権者】
【識別番号】302064382
【氏名又は名称】株式会社エヌ・ワイ・ケイ
(73)【特許権者】
【識別番号】000145471
【氏名又は名称】株式会社十川ゴム
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】平野 廣和
(72)【発明者】
【氏名】石川 友樹
(72)【発明者】
【氏名】井田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】河田 彰
【審査官】 加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06308856(US,B1)
【文献】 特開平04−352690(JP,A)
【文献】 特開2011−184087(JP,A)
【文献】 特開平03−111283(JP,A)
【文献】 米国特許第04483454(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 90/52
F16F 15/02
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体用貯蔵タンク内に配設されて液体揺動を制振する制振装置であって、
前記液体用貯蔵タンクにおける所定の水平軸に沿う方向に連結されている複数の枠体を備え、
前記複数の枠体が、平面視において、前記水平軸と交差するように配置され、前記液体用貯蔵タンクに貯蔵された貯蔵液体に対して液面から所定深さまでの範囲に位置する状態で浮遊可能に構成されており、
前記複数の枠体が、一列に連結されており、且つ平面視において、前記水平軸に対して左右方向に交互に偏心して配置されており、
前記枠体の平面形状が円形であることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記貯蔵液体に対する比重を調節するための比重調節部材を備えることを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記液体用貯蔵タンクが輸送タンクであり、前記水平軸が前記輸送タンクを運ぶ車両の前後方向に沿うものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記所定深さが、前記貯蔵液体の貯蔵深さの1/9〜1/3であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項5】
前記枠体が2段の円体を備え、該2段の円体の間にスリットが形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の制振装置
【請求項6】
前記枠体の表面に、周方向に延びる複数の溝によって凹凸面が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の制振装置
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の制振装置の組み立て方法であって、
前記液体用貯蔵タンクの既設マンホールに挿入脱自在な前記制振装置の構成部材を、該既設マンホールから取り込み、前記液体用貯蔵タンクの中で、取り込んだ前記構成部材を連結して前記複数の枠体を作製する工程と、該複数の枠体を前記液体用貯蔵タンクの水平軸に沿う方向に連結する工程とを包含する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体用貯蔵タンク内に配設されて液体揺動を制振する制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体用貯蔵タンクの一つであるISOタンクコンテナは、国際規格の危険物液体貨物や、一般の液体貨物を輸送する輸送手段として広く使用されている。
【0003】
ISOタンクコンテナを車両に固定して輸送する際、危険物液体貨物を収容した場合には、液体揺動防止のための防波板や仕切壁等をタンク内に設置することが法律上義務づけられている。一方、一般の液体貨物を収容した場合には、防波板や仕切壁等をタンク内に設置しなければならないとする法律は特に定められていない。
【0004】
ISOタンクコンテナは、危険物容器としてだけでなく、一般の貨物コンテナとしても使用可能であるため、汎用性が高く、転売等もされ得ることから、防波板や仕切壁といった特殊な部材をタンク内に設置固定することは望ましくないという事情がある。
【0005】
尚、液体揺動防止のために防波板や仕切壁をタンク内に設置する技術については、従来から当業者の間で広く知られているものであるため、先行技術文献を示さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ISOタンクコンテナに限らず、タンク内に液体揺動防止のために防波板や仕切壁を設置していない輸送タンクを車両で輸送する場合、ブレーキをかけたときタンク内の液体貨物の液面が前後方向に大きく揺れ、これにより車両が前後方向に動いて所定位置に停止し難くなるという現象が起きる。またカーブでの減速時には、液体貨物の液面が左右方向に揺れることにより所謂ジャックナイフ現象が生じ易くなり、車両が横転してしまう虞もある。
【0007】
そのため運転手は、タンク内の液体をなるべく揺動させないように、走行中は加速・減速操作を必要最小限にするように配慮し、また特に停止する際には、揺動する液体の波がタンクの最も後ろに移動したときのタイミングを計って、クラッチを素早く入れて車両を少し後進させてから停止するといった複雑な運転操作を行っている。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑み、液体用貯蔵タンクにおける液体揺動を効果的に制振することができると共に、液体用貯蔵タンク内に設置固定する必要がなく、容易に配設することのできる制振装置と、その組み立て方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の制振装置に係る第1特徴構成は、液体用貯蔵タンク内に配設されて液体揺動を制振する制振装置であって、前記液体用貯蔵タンクにおける所定の水平軸に沿う方向に連結されている複数の枠体を備え、前記複数の枠体が、平面視において、前記水平軸と交差するように配置され、前記液体用貯蔵タンクに貯蔵された貯蔵液体に対して液面から所定深さまでの範囲に位置する状態で浮遊可能に構成されており、前記複数の枠体が、一列に連結されており、且つ平面視において、前記水平軸に対して左右方向に交互に偏心して配置されおり、前記枠体の平面形状が円形である点にある。
【0010】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、例えば、液体用貯蔵タンクが水平軸方向に揺れた場合には、水平軸方向に配設されている複数の枠体によって貯蔵液体の揺動エネルギーが減衰される。また、液体用貯蔵タンクが水平軸に対する左右方向に揺れた場合であっても、揺動エネルギーが最も大きくなる水平軸上方の貯蔵液体の液面部分に制振装置が配置されているため、貯蔵液体の揺動エネルギーが効率的に減衰される。従って、本構成に係る制振装置によれば、液体用貯蔵タンクにおける液体揺動を効果的に制振することができる。
また本構成のごとく、水平軸に対して左右方向に交互に偏心して複数の枠体を配置することによって、液体用貯蔵タンクの液面全体に亘るように、より少ない数の枠体を効率的に配設することができる。
また本構成によれば、浮遊する制振装置が使用中に揺動して液体用貯蔵タンクの内壁に当たるような場合が生じたとしても、枠体の平面形状が円形であるため、多角形状の枠体と比べてその衝撃力を吸収し易い。従って、制振装置が破損し難く、さらに、液体用貯蔵タンクの内壁も傷付き難い。
【0011】
第2特徴構成は、前記貯蔵液体に対する比重を調節するための比重調節部材を備える点にある。
【0012】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、比重調節部材によって制振装置の比重を変えることができるため、貯蔵液体の種類を変更したとしても、適切な所定深さとなるように制振装置の沈み加減を容易に調節することができる。
【0013】
第3特徴構成は、前記液体用貯蔵タンクが輸送タンクであり、前記水平軸が前記輸送タンクを運ぶ車両の前後方向に沿うものである点にある。
【0014】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、液体用貯蔵タンクにおける車両前後方向の液体揺動を制振することができるため、ブレーキをかけて車両を停車させたとしても車両が前後方向に動き難く、所定の位置で安全に停止することができる。さらに、液体用貯蔵タンクにおける車両左右方向の液体揺動を制振することができるため、カーブ減速時の車両横転も防止することができる。
従って、走行中、特に停止時やカーブ減速時等において、液体用貯蔵タンク内の液体をなるべく揺動させないようにこれまでに配慮してきた特別な注意や、複雑な運転操作の必要がなくなり、運転手はより安全に液体貨物を運ぶことができるようになる。また、滑り易い雪道等を運転しなければならないような場合には本発明は特に有用である。
さらに、従来では、例えば車両前後方向に揺動する波が液体用貯蔵タンクの後ろに来たときにアクセルを踏んでしまうと、エンジンに大きな負担が掛かり余分な燃料を消費して燃費を低下させてしまう虞があった。しかしながら本構成によれば、液体用貯蔵タンクにおける液体揺動が制振されるため、液体揺動によるエンジン負担が軽減されて燃費が向上する。
【0015】
第4特徴構成は、前記所定深さが、前記貯蔵液体の貯蔵深さの1/9〜1/3である点にある。
【0016】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく、制振装置を液面から貯蔵液体の貯蔵深さの1/9〜1/3の深さまでの範囲に位置する状態で浮遊させることによって、制振装置の制振効果をより確実且つ十分に発揮させることができる。
【0017】
第5特徴構成は、前記枠体が2段の円体を備え、該2段の円体の間にスリットが形成されている点にある
【0018】
第6特徴構成は、前記枠体の表面に、周方向に延びる複数の溝によって凹凸面が形成されている点にある
【0019】
本発明の制振装置の組み立て方法に係る特徴構成は、上記第1〜第特徴構成のいずれかに記載の制振装置の組み立て方法であって、前記液体用貯蔵タンクの既設マンホールに挿入脱自在な前記制振装置の構成部材を、該既設マンホールから取り込み、前記液体用貯蔵タンクの中で、取り込んだ前記構成部材を連結して前記複数の枠体を作製する工程と、該複数の枠体を前記液体用貯蔵タンクの水平軸に沿う方向に連結する工程とを包含する点にある。
【0020】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、制振装置が必要となった場合に、枠体の構成部材を既設マンホールから取り込んで制振装置を組み立てて使用することができる一方で、制振装置が不要となった場合には、制振装置をもとの構成部材に分解して既設マンホールから取り出すことができる。即ち、液体用貯蔵タンク内で制振装置の組み立て・分解を実施することができるため、従来の防波板や仕切壁といった特殊な部材を液体用貯蔵タンク内に設置固定する必要はなく、液体用貯蔵タンクの汎用性を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の制振装置の斜視図である。
図2】本発明の制振装置の平面図である。
図3】ダンパーパネルの正面図である。
図4】第1ジョイントパネルの正面図である。
図5】第2ジョイントパネルの正面図である。
図6】枠体の組み立て方法を示す斜視図である。
図7】枠体の組み立て方法を示す斜視図である。
図8】枠体の組み立て方法を示す斜視図である。
図9】組み立て後の枠体の斜視図である。
図10】枠体の連結方法を示す斜視図である。
図11】連結した2つの枠体の側面図である。
図12】本発明の制振装置を配設した液体用貯蔵タンクの縦断側面図である。
図13】本発明の制振装置を配設した液体用貯蔵タンクの一部切欠き斜視図である。
図14】本発明の制振装置を配設しなかったISOタンクコンテナにおけるブレーキテストの実証データである。
図15】本発明の制振装置を配設したISOタンクコンテナにおけるブレーキテストの実証データである。
図16】本発明の制振装置を配設しなかったISOタンクコンテナにおける一般公道走行実験の実証データである。
図17】本発明の制振装置を配設したISOタンクコンテナにおける一般公道走行実験の実証データである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔実施形態〕
本発明の制振装置1の実施形態について図面に基づいて説明する。尚、本明細書においては、便宜上、各図面におけるX軸方向を「前後方向」、Y軸方向を「左右方向」、Z軸方向を「上下方向」ということにする。
【0023】
(液体用貯蔵タンク)
本発明における液体用貯蔵タンクTとは、水、燃料、化学薬液等の貯蔵液体Rを収容・貯蔵するタンクを意味する。本発明に適用可能な液体用貯蔵タンクTの容器形状としては、例えば、矩形(正方形又は長方形)の横断面形状を有する一般的な箱型容器や、あるいは円筒状容器等であっても良い。また、本発明に適用可能な液体用貯蔵タンクTの用途としては、例えば、上水を貯蔵する受水槽等の設置固定型タンクや、あるいは牽引自動車などの車両で運ばれる輸送タンク等でも良く、特に好ましくは、輸送タンクの一つのISOタンクコンテナである。
【0024】
(所定の水平軸)
本発明における、液体用貯蔵タンクTにおける所定の水平軸Aとは、液体用貯蔵タンクTの中心を通り、且つ水平方向に延びる一本の軸を意味する。例えば、液体用貯蔵タンクTが横置きの直方体状容器の場合は、直方体状容器の中心を通り、且つその長手方向に沿って延びる軸を意味しており、横置きの円筒状容器の場合はその円筒の中心軸を意味する。
即ち、本発明における所定の水平軸Aとは、液体用貯蔵タンクT内における本発明の制振装置1が、平面視においてできるだけ液体用貯蔵タンクTにおける液面全体に亘るように配設され得る方向を規定するものである。また特に、液体用貯蔵タンクTが輸送タンクである場合には、水平軸Aは当該輸送タンクを運ぶ車両の前後方向に沿うものであることを意味する。
【0025】
(制振装置)
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る制振装置1は、前後方向に沿う方向に連結されている4つの枠体2A〜2Dを備えて構成される。
【0026】
図2に示すように、4つの枠体2A〜2Dは、平面視において、前後方向に沿う中心線Cと交差し且つ中心線Cに対して左右方向に交互に偏心して配置される。本実施形態における枠体2A〜2Dは、その平面形状が円形であって、4つの枠体2A〜2Dそれぞれの円の中心a1〜a4と中心線Cとの距離bが一定となっている。また枠体2は、以下のダンパーパネル3、第1ジョイントパネル7、及び第2ジョイントパネル10を備えて構成される。
【0027】
尚、制振装置1における枠体2の数については、本実施形態に限定されるものではなく、適用する液体用貯蔵タンクTの大きさに合わせて適宜設定して良い。
【0028】
(ダンパーパネル)
図3に示すように、ダンパーパネル3は湾曲可能な長方形の平板であって、その両面には、長手方向に延びる複数の溝によって凹凸面(図示せず)が形成されている。また、長手方向の両端部のそれぞれにボルト挿通用の2つの端貫通孔5が形成されており、さらに長手方向の中間部には同じくボルト挿通用の2つの中間貫通孔6が形成されている。
【0029】
ダンパーパネル3に適用可能な構成材料としては、例えば、ポリエチレン等の樹脂素材が挙げられる。樹脂素材を使用する場合、ダンパーパネル3は、例えば、公知の押出成形方法によって成形した後、公知の穿孔作業を実施して所定位置に貫通孔を設けることによって作製することができる。
【0030】
また本実施形態においては、中間貫通孔6を有しないダンパーパネル3a、及びダンパーパネル3の一端から中間貫通孔6までの距離Lがそれぞれ異なるダンパーパネル3b〜3dが使用されている。以下の表1に示されるダンパーパネル3a〜3dは、長さ2000mm×幅205mm×厚み14.5mm(両面の凸部に亘る最大厚み)の寸法サイズを有するダンパーパネル3における例である。
【0031】
【表1】
【0032】
(第1ジョイントパネル)
第1ジョイントパネル7は、ダンパーパネル3を接続して枠体2を形成するための部材である。
図4に示すように、第1ジョイントパネル7は長方形の平板であって、その両面には、長手方向に延びる複数の溝によって凹凸面(図示せず)が形成されている。また、ボルト挿通用の4つの貫通孔9が形成されている。また図4に示す第1ジョイントパネル7の寸法サイズの例としては、例えば長さ400mm×幅205mm×厚み14.5mm(両面の凸部に亘る最大厚み)である。
【0033】
第1ジョイントパネル7に適用可能な構成材料としては、例えば、ポリエチレン等の樹脂素材が挙げられる。樹脂素材を使用する場合、第1ジョイントパネル7は、例えば、公知の押出成形方法によって成形した後、公知の穿孔作業を実施して所定位置に貫通孔を設けることによって作製することができる。
【0034】
(第2ジョイントパネル)
第2ジョイントパネル10は、2つの枠体2を連結するための部材である。
図5に示すように、第2ジョイントパネル10は長方形の平板であって、その両面には、長手方向に延びる複数の溝によって凹凸面(図示せず)が形成されている。また、ボルト挿通用の2つの貫通孔12が形成されている。また図5に示す第2ジョイントパネル10の寸法サイズの例としては、例えば長さ400mm×幅205mm×厚み14.5mm(両面の凸部に亘る最大厚み)である。
【0035】
第2ジョイントパネル10に適用可能な構成材料としては、例えば、ポリエチレン等の樹脂素材が挙げられる。樹脂素材を使用する場合、第2ジョイントパネル10は、例えば、公知の押出成形方法によって成形した後、公知の穿孔作業を実施して所定位置に貫通孔を設けることによって作製することができる。
【0036】
(比重調節部材)
本発明の制振装置1は、貯蔵液体Rに対する比重を調節するための比重調節部材を備えていても良い。例えば、上述の実施形態のダンパーパネル3、第1ジョイントパネル7、及び第2ジョイントパネル10において、ボルト挿通用のさらなる貫通孔を単数又は複数設けるように構成しても良い。そのような余分な貫通孔にボルトを挿通させてナットで締結するか、あるいはそれらのボルト及びナットを取り外すことにより、制振装置1の総重量を増減させることができるため、貯蔵液体Rに対する制振装置1の比重を調節することが可能となる。この場合、そのような余分な貫通孔に取り付けたボルト及びナットが比重調節部材として機能する。
【0037】
(制振装置の組み立て方法)
次に、本実施形態に係る制振装置1の組み立て方法について説明する。本実施形態に係る制振装置1は、適用する液体用貯蔵タンクT内で組み立てることが可能であり、その組立方法の一例を以下に説明する。
【0038】
先ず、液体用貯蔵タンクTの既設マンホールから、ダンパーパネル3、第1ジョイントパネル7、第2ジョイントパネル10、ボルト、ナットのそれぞれを必要な数だけ液体用貯蔵タンクT内に取り入れる。本実施形態ではダンパーパネル3a〜3dのそれぞれを4枚づつ合計16枚、第1ジョイントパネル7を8枚、第2ジョイントパネル10を3枚、ボルトを38本、ナットを38個取り入れる。
【0039】
次いで、4つの枠体2A〜2Dを組み立てる。図6に示すように、枠体2Aについては、ダンパーパネル3a、ダンパーパネル3c、及び第1ジョイントパネル7をそれぞれ2枚使用する。ダンパーパネル3aとダンパーパネル3cとをそれぞれを湾曲させて、その両端同士を突き合わせ、突き合わせた部分のそれぞれに第1ジョイントパネル7を配置する。
【0040】
このとき、図7に示すように、第1ジョイントパネル7の上半分が、ダンパーパネル3a及びダンパーパネル3cからはみ出すように配置する。そして、第1ジョイントパネル7の下半分に設けられている2つの貫通孔9のそれぞれに、ダンパーパネル3a及びダンパーパネル3cのそれぞれの端貫通孔5を合わせ、ボルトを挿通させてナットで締結する。これにより一つの円体が形成される。
【0041】
さらに、図8に示すように、残りのダンパーパネル3aとダンパーパネル3cとをそれぞれを同様に湾曲させてその両端同士を突き合わせる。そして、先に作った円体における第1ジョイントパネル7の上半分の2つの貫通孔9のそれぞれに対して、突き合わせ部分におけるダンパーパネル3a及びダンパーパネル3cのそれぞれの端貫通孔5を合わせ、ボルトを挿通させてナットで締結する。これにより、図9に示すように、2段の円体を有する一つの枠体2Aが形成される。尚、本実施形態では、2つの円体の間に円弧状のスリットSが形成される。
【0042】
次いで、枠体2B〜Dについても上述の枠体2Aと同様に組み立てる。尚、枠体2Bについては、ダンパーパネル3b、ダンパーパネル3d、及び第1ジョイントパネル7をそれぞれ2枚使用する。枠体2Cについては、ダンパーパネル3b、ダンパーパネル3d、及び第1ジョイントパネル7をそれぞれ2枚使用する。枠体2Dについては、ダンパーパネル3a、ダンパーパネル3c、及び第1ジョイントパネル7をそれぞれ2枚使用する。
【0043】
最後に、液体用貯蔵タンクTの水平軸Aに沿う方向(液体用貯蔵タンクTが輸送タンクである場合には、当該輸送タンクを運ぶ牽引自動車等の車両の前後方向)に枠体2A〜2Dを連結する。
【0044】
図10に示すように、枠体2Aと枠体2Bとの間に第2ジョイントパネル10を介在させて、枠体2Aのダンパーパネル3cにおける中間貫通孔6、第2ジョイントパネル10の貫通孔12、及び枠体2Bのダンパーパネル3bにおける中間貫通孔6の位置を合わせてボルトを挿通させてナットで締結する。これにより、図11に示すように、枠体2Aと枠体2Bとが連結される。
【0045】
同様に、枠体2Bと枠体2Cとの間に第2ジョイントパネル10を介在させて、枠体2Bのダンパーパネル3dにおける中間貫通孔6、第2ジョイントパネル10の貫通孔12、及び枠体2Cのダンパーパネル3bにおける中間貫通孔6の位置を合わせてボルトを挿通させてナットで締結する。これにより、枠体2Bと枠体2Cとが連結される。
【0046】
さらに、枠体2Cと枠体2Dとの間に第2ジョイントパネル10を介在させて、枠体2Cのダンパーパネル3dにおける中間貫通孔6、第2ジョイントパネル10の貫通孔12、及び枠体2Dのダンパーパネル3cにおける中間貫通孔6の位置を合わせてボルトを挿通させてナットで締結する。これにより、枠体2Cと枠体2Dとが連結されて制振装置1が完成する。
【0047】
上述の組み立て例では、4つの枠体2を使用する例を示したが、これに限定されるものではなく、適用する液体用貯蔵タンクTの前後方向の長さに応じてその数を適宜調節して良い。
【0048】
また、上述の組み立て例では、2段の円体を備える枠体2の例を示したが、これに限定されるものではなく、枠体2の円体を一段で構成しても良いし、あるいは、本実施形態における枠体2は、さらなるダンパーパネル3、第1ジョイントパネル7、第2ジョイントパネル10、ボルト、及びナットを使用して円体の段数をさらに増やすことも可能であるため、枠体2における円体の段数については必要に応じて適宜調整することができる。
【0049】
尚、本実施形態における制振装置1は、ボルトとナットの締結を解除することによって、容易に分解することができる。従って、制振装置が不要となった場合や、別の制振装置と取り換える必要が生じた場合には、制振装置1をダンパーパネル3、第1ジョイントパネル7、第2ジョイントパネル10、ボルト、及びナットに分解して、これらの構成部材を既設マンホールから取り出すことができる。即ち、本実施形態の制振装置1は、既設マンホールに挿入脱自在な構成部材で構成されている。
【0050】
(制振装置の使用方法)
次に、本実施形態に係る制振装置1の使用方法について説明する。ここでは、内部に防波板等の特殊部材が設置されていない円筒状容器のISOタンクコンテナを液体用貯蔵タンクTとして使用し、当該ISOタンクコンテナにおいて上述の本実施形態の制振装置1を適用した例を説明する。
【0051】
上述のようにして組み立てられた制振装置1を収容するISOタンクコンテナに対して、貯蔵液体Rを所定量導入する。
【0052】
図12及び図13に示すように、本実施形態に係る制振装置1は、所謂「フロート式」の制振装置1であって、液体用貯蔵タンクTの内部の貯蔵液体Rに対してその液面WLから所定深さDまでの範囲に位置する状態で、貯蔵液体Rに浮遊するように構成されている。尚、所定深さDは、十分な制振効果を確保するため、貯蔵液体Rの貯蔵深さFの1/9〜1/3であることが望ましい。
【0053】
このとき、平面視において、本実施形態に係る制振装置1の中心線Cが、ISOタンクコンテナの中心軸Aと略重なると共に、制振装置1の複数の枠体2が、中心軸Aと交差し且つ中心軸Aに対して左右方向に交互に偏心して配設されるように構成されている。
【0054】
また、本実施形態に係る制振装置1の前後方向と左右方向のそれぞれ大きさは、平面視においてISOタンクコンテナにおける液面全体に亘るように設定されている。これにより、浮遊する制振装置1の水平方向の回転運動と水平移動が規制される。
【0055】
尚、本実施形態に係る制振装置1では、貯蔵液体Rの種類に応じて、制振装置1の構成材料を変更したり、あるいは比重調節部材を使用するなどして貯蔵液体Rに対する比重を調節することによって、所定深さDとなるように制振装置1の沈み加減を調節すると良い。
【0056】
(制振装置の制振効果)
以上のような構成の制振装置1であれば、例えば、液体用貯蔵タンクTが水平軸A方向に揺れた場合には、水平軸A方向に配設されている複数の枠体2によって貯蔵液体Rの揺動エネルギーが減衰される。また、液体用貯蔵タンクTが水平軸Aに対する左右方向に揺れた場合であっても、揺動エネルギーが最も大きくなる水平軸A上方の貯蔵液体Rの液面部分に制振装置1が配置されているため、貯蔵液体Rの揺動エネルギーが効率的に減衰される。従って、本実施形態に係る制振装置1によれば、液体用貯蔵タンクTにおける液体揺動を効果的に制振することができる。
【0057】
尚、本実施形態に係る制振装置1では、貯蔵液体Rが制振装置1のスリットSを流通する際に、ダンパーパネル3による流通制限によって貯蔵液体Rの見かけ上の粘度が上昇する。特に上述の実施形態では、ダンパーパネル3、第1ジョイントパネル7、第2ジョイントパネル10それぞれの両面に凹凸面を設けてあるため、ダンパーパネル3、第1ジョイントパネル7、第2ジョイントパネル10のそれぞれの外周面と貯蔵液体Rとの接触面積がフラットな平板を用いる場合よりも大きく、貯蔵液体Rの見かけ上の粘度はより一層大きくなり、揺動エネルギーの減衰効果が向上する。
【0058】
(その他の実施形態)
1.上述の実施形態では、4つの枠体2A〜2Dが、平面視において、中心線Cに対して左右方向に交互に偏心して配置されているが、必ずしも偏心して配置させる必要はなく、例えば、複数の枠体を直線的に配置するなどしても良い。
2.上述の実施形態における枠体の平面形状については円形に限るものではなく、四角形等の多角形状としても良い。また、枠体については、必要に応じて異種形状のものを組み合わせたり、あるいはその大きさを枠体毎に変更するなどしても良い。例えば、大きい円と小さい円と組み合わせたり、あるいは円と四角形とを組み合わせたりする、などである。
3.本実施形態では、枠体における2つの円体の間に円弧状のスリットが形成されているが、この構成に限定されるものではなく、スリットについては必要に応じて設けるよう構成して良い。
4.本実施形態では、ダンパーパネル、第1ジョイントパネル、第2ジョイントパネルの両面には、長手方向に延びる複数の溝によって凹凸面が形成されているが、この構成に限定されるものではなく、凹凸面については必要に応じて設けるよう構成して良い。
【実施例】
【0059】
(実証実験について)
上述の実施形態に係る制振装置の効果を確認する実証実験を行ったので、その実証実験の条件及び実証結果について説明する。
【0060】
制振装置におけるダンパーパネル、第1ジョイントパネル、第2ジョイントパネルのそれぞれの寸法サイズは、上述の実施形態に例示されている通りとした。また、直径2350mm、奥行き5800mmの円筒状容器であるISOタンクコンテナを液体用貯蔵タンクとして、トレーラに固定して使用した。
【0061】
貯蔵液体として水を使用した。制振装置の構成材料としてポリエチレンを使用し、制振装置の比重を、約0.88(アドブルーの密度:1.09g/cmで計算)に設定した。
【0062】
運転席のダッシュボードに加速度計1を設置し、運転席と荷台との連結部分に加速度計2を設置して、上記制振装置を配設した場合と配設しない場合とにおいて、以下のブレーキテストと一般公道走行実験とを実施した。
【0063】
(ブレーキテスト)
進行方向の加速度を2つの加速度計によって測定しながら、上記ISOタンクコンテナを載せたトレーラで敷地内を走行し、壁の20m手前でブレーキをかけて停止操作を実施した。結果を図10及び図11に示す。尚、図14及び図15において破線で囲まれた部分が、ブレーキ時の波形を示している。
【0064】
図14に示すように、制振装置を配設しなかった場合には、ISOタンクコンテナ内の液体揺動によってトレーラが停止し難く、トレーラが壁に衝突するのを避けるために数度のブレーキ操作が必要であった。
【0065】
一方、図15に示すように、制振装置を配設した場合には、一度のブレーキ操作でトレーラを略停止させることができた。
【0066】
(一般公道走行実験)
進行方向の加速度を2つの加速度計によって測定しながら、上記ISOタンクコンテナを載せたトレーラで一般公道を走行した。結果を図16及び図17に示す。
【0067】
図16の破線部分に示されるように、制振装置を配設しなかった場合には、ブレーキやギアチェンジ等の運転操作により発生した液体揺動による周期の長い波形が長時間検出された。当該実験中の運転手は、トレーラの走行状態を安定させるために多くの配慮を必要とした。
【0068】
一方、図17に示すように、制振装置を配設した場合には、走行振動による加速度のみが検出され、液体揺動らしき波形は検出されなかった。当該実験中の運転手は、特別な注意を払うことなくトレーラを運転することができた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の制振装置は、受水槽や石油タンクなどの液体貯蔵設備や、車両で輸送される液体輸送タンクなど、幅広い産業分野において使用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 制振装置
2A〜2D 枠体
3a〜3d ダンパーパネル
5 端貫通孔
6 中間貫通孔
7 第1ジョイントパネル
9 貫通孔
10 第2ジョイントパネル
12 貫通孔
a1〜a4 中心
b 距離
A 水平軸
C 中心線
D 所定深さ
F 貯蔵深さ
R 貯蔵液体
S スリット
T 液体用貯蔵タンク
WL 液面
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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