特許第6782408号(P6782408)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6782408
(24)【登録日】2020年10月22日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】近赤外光を用いた樹木の種子選別方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/359 20140101AFI20201102BHJP
   A01C 1/00 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   G01N21/359
   A01C1/00 L
【請求項の数】2
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-561427(P2016-561427)
(86)(22)【出願日】2015年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2015075168
(87)【国際公開番号】WO2016084452
(87)【国際公開日】20160602
【審査請求日】2018年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-242184(P2014-242184)
(32)【優先日】2014年11月28日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、農林水産省「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業」(うち産学の英知を結集した革新的な技術体系の確立)委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 真司
(72)【発明者】
【氏名】松田 修
(72)【発明者】
【氏名】上村 章
(72)【発明者】
【氏名】宇都木 玄
(72)【発明者】
【氏名】飛田 博順
【審査官】 ▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−301147(JP,A)
【文献】 特開昭53−015890(JP,A)
【文献】 特開昭64−028544(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/000266(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0229647(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0055211(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 − G01N 21/01
G01N 21/17 − G01N 21/61
A01C 1/00 − A01C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、正常な胚を持つ針葉樹の種子と正常な胚を持たない同一種の針葉樹の種子が混在している中から、正常な胚を持つ針葉樹の種子のみを特定して選別する、針葉樹の種子の選別方法:
(a)上記種子に近赤外光を照射し、該種子から反射される近赤外光のスペクトルを測定し、各波長における反射率のデータを取得する;
(b)750〜2200nmの範囲内にある2つの特定の波長における反射率のデータを、上記種子について抽出する、ただし前記2つの特定の波長は、正常な胚を持つ種子と正常な胚を持たない種子間において、上記スペクトルのパターンの差異が生じる、正常な胚を持つ種子であると判定するための反射率の比の閾値を与える所定の波長であり、2つの特定の波長の少なくとも1つは1720nm〜1760nmの範囲から選ばれる;
(c)前記抽出した反射率の比を各種子について計算する;及び
(d)(c)において計算した前記比を、正常な胚を持つ種子であると判定するための、前記2つの特定の波長における反射率の比の前記閾値と比較し、(i)前記比が正常な胚を持つ種子において前記閾値以下である傾向がある場合には、前記比が前記閾値以下である種子を正常な胚を持つ種子として特定し、(ii)前記比が正常な胚を持つ種子において前記閾値より大きい傾向がある場合には、前記比が前記閾値より大きい種子を正常な胚を持つ種子として特定する。
【請求項2】
以下の工程を含む、正常な胚を持つ針葉樹の種子と正常な胚を持たない同一種の針葉樹の種子が混在している中から、正常な胚を持つ針葉樹の種子のみを特定して選別する、針葉樹の種子の選別方法:
(a)上記種子に近赤外光を照射し、該種子から反射される近赤外光のスペクトルを測定し、各波長における反射率のデータを取得する;
(b)750〜2200nmの範囲内にある、2つの特定の波長(波長A及び波長C。ただし波長A<波長C)における反射率のデータを、上記種子について抽出する;
(c)前記2つの特定の波長とは異なる波長(波長B。ただし波長A<波長B<波長C)における反射率のデータを、上記種子について抽出する;
(d)x−y座標上において、点A、点Bおよび点Cを、x座標をそれぞれ波長A、波長B及び波長Cの値とするか、又は−1、0及び1とし、y座標をそれぞれ波長A、波長Bおよび、波長Cにおける反射率としてプロットし、これら点A、点Bおよび点Cの3点が作る三角形の点Bにおける角θを特定する;ならびに
(e)(d)において計算した前記角θを、正常な胚を持つ種子であると判定するために予め特定した角度の閾値と比較し、前記角θが前記閾値以下である場合には、当該種子を正常な胚を持つ種子として特定する、
ただし波長A、波長B及び波長Cは、正常な胚を持つ種子と正常な胚を持たない種子間において、上記スペクトルのパターンの差異が生じる、正常な胚を持つ種子であると判定するための角θの閾値を与える所定の波長であり、波長Bは1700nm〜1790nmの範囲から選ばれる
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は近赤外光を用いた、針葉樹、とくにヒノキ科植物(スギ、ヒノキ)及びマツ科植物といった針葉樹の種子選別方法に関する。
【0002】
低コスト造林のための伐採後にすぐ植える一貫作業システムにおいては、コンテナ苗の生産が必要である。
種子を用いたコンテナ苗の生産では、種子をコンテナに直接播種して育苗する方法と、コンテナ外の播種床などに播種して発芽させた幼苗を移植して育苗する方法がある。
しかしながら樹木では発芽能を欠く不稔種子である渋種(内容物が胚ではなくヤニである種子)や未熟種子(内容物を欠く種子であるシイナを含む)の発生頻度が高いため予め選別をせずに播種を行うと発芽率が低く、コンテナへの1粒播種による効率的な生産はできないのが現状である。このことは、日本における重要な造林樹種であるスギ・ヒノキにも当てはまる。
不稔種子の一種である渋種は、正常な胚を持つ種子である充実種子と比較して、種皮より内側の成分が大きく異なっている。しかし、渋種は充実種子と比重及び外見上の相違はない。
【0003】
ところで種子の比重による選別は広く用いられており、シイナを除去することはできる。しかしながらスギ・ヒノキ等に特徴的な渋種は、前記のとおり充実種子と比重に違いがないため、比重による選別によって除去することはできない。
【0004】
このような背景の下、種子を選別する手法として、特許文献1及び2には、それぞれ近赤外光を用いた種子選別手法及びスペクトルデータを用いる手法が開示されている。特許文献3には種子の発芽勢や成苗率を選別要因とする種子の選別方法についての記載がある。
また非特許文献1には、近赤外ハイパースペクトル画像とケモメトリクスによる穀類の種子選別について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−257803号公報
【特許文献2】米国特許2004/0055211号明細書
【特許文献3】国際公開第2013−133171号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】McGoverin, C.M. et al.. Characterisation of non-viable whole barley, wheat and sorghum grains using near-infrared hyperspectral data and chemometrics, Anal Bioanal Chem. 2011, 401(7):2283-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜2及び非特許文献1に開示されている手法においては、いずれも複雑な計算を伴う主成分分析を行わなければならない。また、特許文献1及び非特許文献1に記載の方法においては、それぞれ適用対象が菜種及び穀物の種子のみに限られる。
特許文献2に記載の手法においては、予め水による処理を行う必要があり、操作が煩雑である。また特許文献3に記載の方法は充実種子と不稔種子とを分別する方法ではない。
【0008】
上記背景の下、本発明は、非破壊的な操作により、ある針葉樹の種子が充実種子であるかを判別し、充実種子と不稔種子が混在した種子群から充実種子を選別する方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み本発明者らは、赤外波長域における分光特性に基づき、種子の胚成分を非破壊的に検知することによる不稔種子の選別・除去の可能性に着目し鋭意研究を行ったところ、ある指標により正常な胚を有する種子である充実種子を高確度に検出できる可能性があることを見出し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、少なくとも以下の発明に関する:
[1]以下の工程を含む、正常な胚を持つ針葉樹の種子と正常な胚を持たない同一種の針葉樹の種子が混在している中から、正常な胚を持つ針葉樹の種子のみを特定して選別する、針葉樹の種子の選別方法:
(a)上記種子に近赤外光を照射し、該種子から反射される近赤外光のスペクトルを測定し、各波長における反射率のデータを取得する;
(b)750〜2200nmの範囲内にある、2つの特定の波長における反射率のデータを、上記種子について抽出する;
(c)前記抽出した反射率の比を各種子について計算する;及び
(d)(c)において計算した前記比を、正常な胚を持つ種子であると判定するための、前記2つの特定の波長における反射率の比の閾値と比較し、(i)前記比が正常な胚を持つ種子において前記閾値以下である傾向がある場合には、前記比が前記閾値以下である種子を正常な胚を持つ種子として特定し、(ii)前記比が正常な胚を持つ種子において前記閾値より大きい傾向がある場合には、前記比が前記閾値より大きい種子を正常な胚を持つ種子として特定する。
[2]針葉樹がヒノキ科植物又はマツ科植物である上記[1]に記載の方法。
[3]針葉樹がヒノキ科植物であり、ヒノキ科植物がスギ又はヒノキである上記[2]に記載の方法。
[4]針葉樹がマツ科植物であり、該マツ科植物がマツ類、カラマツ類、モミ類又はトウヒ類である上記[2]に記載の方法。
[5] 2つの特定の波長の少なくとも1つが約1720nm〜約1760nmの範囲から選ばれる、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]2つの特定の波長がそれぞれ約1720〜約1760nm及び約1840〜約1870nmの範囲から選ばれる、上記[5]に記載の方法。
[7]2つの特定の波長がそれぞれ約1720〜約1760nm及び約1620〜約1650nmの範囲から選ばれる、上記[5]に記載の方法。
[8]2つの特定の波長がそれぞれ約1734nm及び約1854nmである上記[6]に記載の方法。
[9]2つの特定の波長がそれぞれ約1734nm及び約1637nmである上記[7]に記載の方法。
[10] 2つの特定の波長が約1620nm〜約1760nmの範囲から選ばれる、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[11]2つの特定の波長が約1720nm〜約1870nmの範囲から選ばれる、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[12]前記2つの特定の波長とは異なる波長における反射率のデータを解析することをさらに含む、上記[1]に記載の方法。
[13] 前記2つの特定の波長及び前記2つの特定の波長とは異なる波長が、それぞれ約1580nm〜約1650nm、約1700nm〜約1790nm及び約1800nm〜約2100nmの範囲の波長である、上記[12]に記載の方法。

[14] 針葉樹がヒノキ科植物又はマツ科植物であり、前記2つの特定の波長及び前記2つの特定の波長とは異なる波長が、約1600nm〜約1650nm、約1700nm〜約1790nm及び約1950nm〜約2100nmの範囲の波長である、上記[13]に記載の方法。
[15] 前記2つの特定の波長及び前記2つの特定の波長とは異なる波長が、1622nm、1772nm及び1981nmであるか、又は1645nm、1727nm及び1997nmである、上記[14]に記載の方法。
[16] 針葉樹がカラマツ属植物であり、前記2つの特定の波長及び前記2つの特定の波長とは異なる波長が、約1580nm〜約1620nm、約1700nm〜約1750nm及び約1850nm〜約1910nmである、上記[13]に記載の方法。
[17] 前記2つの特定の波長及び前記2つの特定の波長とは異なる波長が、1600nm、1734nm及び1891nmである、上記[16]に記載の方法。
[18] 以下の工程を含む、ある特定の針葉樹の種子が正常な胚を持つかを判別する方法:
(a)上記種子に近赤外光を照射し、該種子から反射される近赤外光のスペクトルを測定し、各波長における反射率のデータを取得する;
(b)750〜2200nmの範囲内にある2つの特定の波長における反射率のデータを、上記種子について抽出する;
(c)前記抽出した反射率の比を各種子について計算する;及び
(d)(c)において計算した前記比を、正常な胚を持つ種子であると判定するための、前記2つの特定の波長における反射率の比の閾値と比較し、(i)前記比が正常な胚を持つ種子において前記閾値以下である傾向がある場合には、前記比が前記閾値以下である種子を正常な胚を持つ種子として特定し、(ii)前記比が正常な胚を持つ種子において前記閾値より大きい傾向がある場合には、前記比が前記閾値より大きい種子を正常な胚を持つ種子として特定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、2波長の反射率の比を用いることによりスギ及びヒノキを含むヒノキ科植物、マツ科植物といった針葉樹植物の種子選別、すなわち充実種子の抽出を行うことができる。
本発明の方法においては、2波長のみを用いて実施することが可能であるため、用いられる機器である近赤外用カメラとして低コストのものの使用が可能であるうえに、得られた反射率のデータの分析において複雑な計算を行う必要がなく簡便である。
本発明の方法を用いることにより、充実種子と不稔種子が混在する種子群から充実種子を分別することが可能であり、針葉樹植物種子の発芽率の向上を図ることができる。発芽率が向上することにより、コンテナへの1粒播種を行っても、発芽せずに無駄な育苗スペースとなるコンテナの発生を減らすことが可能になる。そのため本発明は、これまでの実生によるコンテナ苗のように、複数の種子を播種して後で間引きを行う手間や、発芽床からの植替えの手間を省き、低コストでのコンテナ生産に寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】種子の分類を示す図である。
図2】充実種子及び不稔種子(渋種及び未熟種子)の横断面を示す写真図である。
図3A】スギの充実種子の反射スペクトルデータの例を示すグラフである。矢印は特徴的な形状パターン(下に凸)を示す。
図3B】スギの渋種の反射スペクトルデータの例を示すグラフである。矢印は特徴的な形状パターン(平坦な形状)を示す。
図3C】スギの未熟種子の反射スペクトルの例を示すグラフである。矢印は特徴的な形状パターン(平坦な形状)を示す。
図4】充実種子及び不稔種子(渋種及び未熟種子)における反射スペクトルパターンの相違(M字形状及びπ字形状)をより明瞭に示す図である。上段及び下段はそれぞれスギ(島根産)及びヒノキ(茨城産)について、左から充実種子、渋種及び未熟種子について順に示す。
図5】ヒノキ(四国産)について、750nmと1734nmの波長を選択した場合に、充実種子及び不稔種子(渋種及び未熟種子)について、相対反射率の値の出現頻度のパターンを示す図である。相対反射率の値の頻度が、約0.76を境に明らかに異なることが示されている。
図6】スギ(茨城産)について、1250nmと1734nmの波長を選択した場合に、充実種子及び不稔種子(渋種及び未熟種子)について、相対反射率の値の出現頻度のパターンを示す図である。相対反射率の値の頻度が、約0.64を境に明らかに異なることが示されている。
図7】スギ(茨城産)について、1400nmと1734nmの波長を選択した場合に、充実種子及び不稔種子(渋種及び未熟種子)について、相対反射率の値の出現頻度のパターンを示す図である。相対反射率の値の頻度が、約0.72を境に明らかに異なることが示されている。
図8】スギ(茨城産)について、2100nmと1734nmの波長を選択した場合に、充実種子及び不稔種子(渋種及び未熟種子)について、相対反射率の値の出現頻度のパターンを示す図である。相対反射率の値の頻度が、約1.66を境に明らかに異なることが示されている。
図9】反射率のデータを追加して解析する手法に用いられるスペクトルパターンについて示す図である。角θ及び角θは、それぞれ充実種子及び不稔種子についての、3点の反射率のデータポイントにより形成される角を表す。
図10】実施例に示したスギ(島根産)についての結果を得る際に用いたヒストグラムである。充実種子と渋種及び未熟種子の相対反射率(R1734/R1854)の値の頻度の分布域が、約0.98を境に明らかに異なることが示されている。
図11】実施例に示したヒノキ(茨城産)についての結果を得る際に用いたヒストグラムである。充実種子と渋種及び未熟種子の相対反射率(R1734/R1854)の値の頻度の分布域が、約0.95を境に明らかに異なることが示されている。
図12】実施例に示したヒノキ(四国産)についての結果を得る際に用いたヒストグラムである。充実種子と渋種及び未熟種子の相対反射率(R1734/R1854)の値の頻度の分布域が、約0.95を境に明らかに異なることが示されている。
図13】実施例に示したカラマツ(山梨県産)について、2波長を用いる本発明の方法により選別を行う際に用いられるヒストグラムである。充実種子と未熟種子の相対反射率(R1734/R1854)の値の頻度の分布域が、約1.0075を境に異なることが示されている。
図14】実施例に示したカラマツ(長野県産)について、2波長を用いる本発明の方法により選別を行う際に用いられるヒストグラムである。充実種子と未熟種子の相対反射率(R1734/R1854)の値の頻度の分布域が、約1.0075を境に異なることが示されている。
図15】実施例に示したグイマツ(北海道産)について、2波長を用いる本発明の方法により選別を行う際に用いられるヒストグラムである。充実種子と未熟種子の相対反射率(R1734/R1854)の値の頻度の分布域が、約1.0025を境に異なることが示されている。
図16A】実施例に示したカラマツ(山梨県産)について反射率のデータを追加して解析した結果の例を示す図である。縦軸は個数を表し横軸は角θ[単位:°]を表す(図16B及びCならびに図17A図17Cにおいて同様)。 用いられた波長は、1637.11nm、1734.40nm及び1853.75nmである。閾値は135.62°と計算された。縦軸は個数を表し横軸は角θ(3点の反射率のデータポイントにより形成される角。単位:°)を表す。
図16B】実施例に示したカラマツ(長野県産)について反射率のデータを追加して解析した結果の例を示す図である。用いられた波長は、1637.11nm、1734.40nm及び1853.75nmである。閾値は135.62°と計算された。
図16C】実施例に示したグイマツ(北海道産)について反射率のデータを追加して解析した結果の例を示す図である。用いられた波長は、1637.11nm、1734.40nm及び1853.75nmである。閾値は135.62°と計算された。
図17A】実施例に示したカラマツ(山梨県産)について反射率のデータを追加して解析した結果の別の例を示す図である。用いられた波長は、1599.69nm、1734.40nm及び1890.77nmである。閾値は202.86°と計算された。
図17B】実施例に示したカラマツ(長野県産)について反射率のデータを追加して解析した結果の別の例を示す図である。用いられた波長は、1599.69nm、1734.40nm及び1890.77nmである。閾値は202.86°と計算された。
図17C】実施例に示したグイマツ(北海道産)について反射率のデータを追加して解析した結果の別の例を示す図である。用いられた波長は、1599.69nm、1734.40nm及び1890.77nmである。閾値は202.86°と計算された。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、上記のとおり、以下の工程を含む、正常な胚を持つ針葉樹の種子と正常な胚を持たない同一種の針葉樹の種子が混在している中から、正常な胚を持つ針葉樹の種子のみを特定して選別する、針葉樹の種子の選別方法に関する:
(a)上記種子に近赤外光を照射し、該種子から反射される近赤外光のスペクトルを測定し、各波長における反射率のデータを取得する;
(b)750〜2200nmの範囲内にある、2つの特定の波長における反射率のデータを、上記種子について抽出する;
(c)前記抽出した反射率の比を各種子について計算する;及び
(d)(c)において計算した前記比を、正常な胚を持つ種子であると判定するための、前記2つの特定の波長における反射率の比の閾値と比較し、(i)前記比が正常な胚を持つ種子において前記閾値以下である傾向がある場合には、前記比が前記閾値以下である種子を正常な胚を持つ種子として特定し、(ii)前記比が発芽可能な充実種子において前記閾値より大きい傾向がある場合には、前記比が前記閾値より大きい種子を正常な胚を持つ種子として特定する。
【0013】
(定義・原理)
本明細書において「発芽種子」の語は、正常な胚が形成され発芽能を有する種子を指し、「充実種子」の語は正常な胚を持つ種子全般を指す。発芽は休眠等により抑制されることがあるため、正常な胚を有することは、播種後に必ず発芽することを保障しない。すなわち、充実種子には胚は形成されているが発芽能を有しない種子も包含される(図1)。
これに対し「不稔種子」の語は、正常な胚を持たず発芽能を欠く種子を意味する。さらに「渋種」の語は、前記正常な胚が形成されていない種子(すなわち不稔種子)のうち内部に茶褐色の硬質な内容物(ヤニ)を蓄積した種子を指し、内容物を欠く種子か、又は胚があっても十分に発達していない種子(併せて「未熟種子」という)とは区別される(図1)。
本明細書において、波長の数値は小数第2位までの数値で表したり、測定値を小数第1位で四捨五入した整数の数値で表したりする場合があるが、これらの数値の表記の仕方による数値間の差異により方法は相違しないし、得られる結果も実質的に同一である。
【0014】
発芽率低下の大きな原因である不稔種子の一種である渋種は、充実種子と比較して、重量や比重、外見上の相違はないものの、種皮より内側の成分(貯蔵脂質成分)の含有割合が異なっている。より具体的には、渋種は充実種子において白い軟質の胚が形成される部位に、茶褐色の硬質な内容物を蓄積する(図2)。少なくともスギ及びヒノキの充実種子における前記貯蔵脂質成分には、トリグリセリドが多く含まれると推測される。
一方生体組織の赤外分光特性は当該生体の構成物質の化学成分に依存した特徴的なものとなる。そのため、赤外波長域における分光特性に基づき、種子の胚成分を非破壊的に検知することにより、充実種子の選別が可能となると考えられた。
なお本発明の方法によれば、充実種子と渋種との分別のみならず充実種子と未熟種子との分別も可能である。そのため本発明によれば、未熟種子が比較的多く発生する樹種(例えばマツ科植物)にも好適に適用される。
【0015】
生体組織を構成する分子が赤外領域の光エネルギーを吸収すると、その振動または回転状態が変化する。これらの状態変化に必要なエネルギー量は分子構造により異なるため、生体組織の赤外分光特性は、それを構成する化学成分に依存した特徴的なものとなる。赤外光の中でも比較的エネルギーレベルの高い近赤外光は、より長波長の遠赤外および中赤外光と比較して物質による吸収が小さいため、超薄切片等を作製することなく、生体組織の構成成分を非破壊的に測定するのに適している。また、生体組織に対して高い透過性をもつため、表面に顕在化していない内部の状態を診断する上でも有利である。
【0016】
(本発明の方法を実施するための手順)
本発明の方法の一態様の手順は、以下のように例示される:
必要に応じて充実種子であることを示す基準値となる、前記反射率の比の閾値を決定する。
該閾値は例えば約0.5〜約2.0の数値範囲にある数値から、選別の目的や求める精度に応じて決定してよい。例えば、スギ及びヒノキにおいては、当該閾値は近赤外光の波長に応じて約0.6〜1.7とすればよいことが、本明細書において明らかにされている。
また、選別後に不稔種子が混ざることを許容し、充実種子を不稔種子と誤判定するリスクを下げることを重視する場合には基準となる閾値を高めに設定する。一方、充実種子を不稔種子と誤判定することを許容し、不稔種子をより確実に取り除くことを重視する場合には、閾値を低めに設定する。
閾値を決定することができない場合や、より厳密に閾値を設定する場合には、以下のような手法により閾値を設定することができる。
当該針葉樹の複数個(数は多いほど好ましく、通常約30個以上、好ましくは約50個以上、より好ましくは100個以上)の種子に、ハロゲン光源のような連続波長光源により均一に光を照射し、近赤外域の分光情報を含むハイパースペクトル画像を撮影する。
次に前記ハイパースペクトル画像において、各々の種子に対応する全ての画素から反射スペクトル情報を抽出し、該反射スペクトル情報の平均値を各々の種子の反射スペクトルの代表値とする。
続いて反射スペクトルを測定した種子を解剖し、目視により充実種子であるか不稔種子であるかを判定したうえで、充実種子と不稔種子の反射スペクトルを比較し、充実種子及び/又は不稔種子のいずれかに特徴的な反射率の変化のパターンを示す波長域を特定する。
充実種子と不稔種子の上記波長域における反射スペクトルの相違を反映する数値指標を設定し、上記特徴的な反射率の変化のパターンを数値により表し、充実種子と不稔種子とを分別するために好適な指標としての閾値(の範囲)を、当該樹種について決定する。
【0017】
生体組織の分光特性は、光ファイバー式の分光器による点計測が可能なほか、リモートセンサの一種であるハイパースペクトルカメラを用いることにより、座標情報(画像)と併せて計測(測定)することができる(面計測)。計測に際しては、対象とする波長域において高い検出感度を示す機器を選択する必要がある。本発明において着目する750〜2200nm域(脂質の吸収波長域を含む)における分光特性を計測するためには、CCD、CMOS、HgCdTe(MCT)、Type II超格子(T2SL)などの赤外検出器を備えた機器を用いることができる。
当該データをグラフ化して表すと充実種子と不稔種子では、グラフの形状がある特定の波長部位において著しく異なる。すなわち、例えばスギ及びヒノキの正常な種子においては、例えば1700nmよりやや大きい波長において下に凸の形状及び1850nmよりやや大きい波長において上に凸の形状パターンを示す(図3A)。別な表現をすれば、当該種子においては約1720〜1760nm付近に極小値を有する、約1600nm〜約1900nmにおいての波長域を中心にM字形状のパターンを示す(図3A)。
これに対し不稔種子(渋種及び未熟種子)においてはこのようなパターンは示されず、当該波長領域におけるグラフは平坦な形状である(図3B及びC)。
上記充実種子及び不稔種子における反射スペクトルパターンの相違を図4においてより明瞭に示した。
【0018】
このようなグラフの形状の相違を数値により表すと、1720〜1760nm付近の反射率の値を1840〜1870nm付近の反射率の値で除して得られる数値(比)は、充実種子においてはほとんどの種子において1.0未満となるのに対し、不稔種子においては大部分が1.0以上となる。そのため前記比は、充実種子と不稔種子の反射スペクトルの相違を反映する数値指標として利用できる。さらに、当該数値として約1を閾値として定めることにより、当該比が前記閾値以下である種子を充実種子として特定することができる。この場合の2つの特定の波長として、それぞれ約1734nm及び約1854nmを選択することは好ましい。
上記の例においては充実種子及び不稔種子において異なる反射スペクトルパターンを示す波長域として、1720〜1760nm付近及び1840〜1870nm付近を選択したが、本発明において用いられる波長域又は波長は当該例示された波長域に限定されず、2つの特定の波長の少なくとも1つが約1720nm〜約1760nmの範囲から選ばれればいかなる波長域又は波長であってもよい。例えば、他の波長域又は波長の組み合わせとして、2つの特定の波長がそれぞれ約1720〜約1760nm及び約1620〜約1650nmの範囲から選ばれる組み合わせも例示され、当該組み合わせの例においては2つの特定の波長をそれぞれ約1734nm及び約1637nmとすることができる。
【0019】
上記閾値は樹木の種類に応じて任意に設定してよいところ、充実種子と不稔種子のそれぞれについて、前記比の頻度分布を解析し、現れる頻度が最も高い比の値の2つの範囲を特定し、前記2つの範囲の間の値、例えばほぼ中間の値を閾値とし、2つの分布域をほぼ等分する前記比を閾値とする。前記比が前記閾値以下である種子を発芽可能な充実種子として特定することができる。前記のとおり該閾値は、目的に応じて閾値を高めあるいは低めに設定するなどして変動してもよい。
【0020】
工程(a)においては、対象種子群のすべての種子に、近赤外光を照射し、該種子から反射される近赤外光のスペクトルを測定し、各波長における反射率のデータを取得する。
【0021】
工程(b)、すなわち750〜2200nmの範囲内にある、2つの特定の波長における反射率のデータをすべての上記種子について抽出する工程において用いられる2つの特定の波長は、例えば前記のとおりM字形状のグラフ部分について極小値及び極大値を示し、かつ他方のπ字形状のグラフ部分について傾きの変化率が緩やかとなる範囲から選択することができる。1つの波長を脂質の吸収波長域である約1720〜約1760nmから選択することは好ましい。もう一方の波長は前記脂質の吸収波長域近傍の波長であってよく、当該もう一方の波長を1250〜1760nm及び1840〜2200nmの範囲から選ぶことは好ましく、1720〜1760nm及び1840〜1870nmの範囲から選ぶことはより好ましい。これらの波長域から波長を選ぶことはスギ及びヒノキにおいてとくに好ましく、スギ及びヒノキにおいて、当該波長がそれぞれ約1734nm及び約1854nmである本発明の方法はとくに好ましい。
工程(c)は、前記抽出した反射率の比を各種子について計算する工程である。
続く工程(d)においては、(c)において計算した前記比を、正常な胚を持つ種子、すなわち充実種子であると判定するための、前記2つの特定の波長における反射率の比の閾値と比較し(i)前記比が充実種子において前記閾値以下である傾向がある場合には、前記比が前記閾値以下である種子を充実種子として特定し、(ii)前記比が充実種子において前記閾値より大きい傾向がある場合には、前記比が前記閾値より大きい種子を充実種子として特定する。
上記(i)及び(ii)のそれぞれは、比を計算する際の分母と分子を入れ替えることにより相互に転換可能である。例えば、スギ又はヒノキにおいて示した上記約1の閾値は1720〜〜1760nm付近の反射率の値を1840〜1870nm付近の反射率の値で除して得られる比であり、この場合充実種子においてはほとんどの種子において1.0未満となるのに対し、不稔種子においては大部分が1.0以上となるところ、上記除算の分母と分子を入れ替えれば、充実種子における比の値が1.0以上になり、不稔種子における比が1.0未満となる傾向になる。
なお、スギ又はヒノキにおいては当該閾値が約1になるが、上記閾値は樹木の種類に応じて設定してよいことも前記の通りである。
また、特定の波長部位は、充実種子と渋種におけるスペクトルパターンの差異が生じる波長部位から選択してよい。例えば、750nm、1250nm、1400nm又は2100nmを選択しても、前記比の出現頻度の相違により充実種子と渋種及び未熟種子との選別を行うことができる(図5〜8)。750nmを選択することは、ヒノキにおいて好ましい。
【0022】
本発明の方法はあらゆる針葉樹種について用いることができるばかりでなく、針葉樹の産地も限定されない。針葉樹の例としてはヒノキ科植物、マツ科植物が例示される。本発明の方法は、ヒノキ科植物、とくにスギ又はヒノキについて、充実種子の選別効率がとくに高いため好ましく適用される。
また本発明の方法は、マツ科植物にも好ましく適用されるところ、かかるマツ科植物としてアカマツなどのマツ類、カラマツやグイマツなどのカラマツ類、トドマツなどのモミ類及びエゾマツなどのトウヒ類が例示される。
【0023】
前記2つの特定の波長とは異なる波長(以下「波長C」ということがある)における反射率のデータを追加して解析することをさらに含む、本発明の種子選別法は、誤差がより小さく計測にともなう外乱に対して選別結果がより堅牢となるため好ましい。
この方法によれば、脂質の吸収波長域である1720〜1760nmにおける1波長(以下「波長B」ということがある)のほか、2つの波長(以下「波長A」および「波長C」ということがある)を選択する。
続いて、x−y座標上において、点A、点Bおよび点Cを、x座標をそれぞれ−1、0、1とし、y座標をそれぞれ波長A、波長Bおよび、波長Cにおける反射率としてプロットする。
そして、これらA、BおよびCの3点が作る三角形のBにおける角θを評価することによって、種子を選別しようとするものである。
ここで、波長A<波長B<波長Cあるいは、波長A>波長B>波長Cになっていなくてもよい。例として、波長Aを1637nm、波長Bを1734nm、波長Cを1854nmとした場合には、角θは、充実種子において不稔種子よりも小さくなる(図9)。波長Aと波長Cをこのような波長とすることにより、3点の反射率のデータポイントにより形成される角(図9における角θ及び角θ)が、充実種子においては不稔種子におけるものより小さくなることが明らかである(角θ<角θ)。したがって、かかる指標も種子選別判定に用いることができ、より確度が高い選別が可能になる。
例えば、前記2つの特定の波長及び前記2つの特定の波長とは異なる波長が、それぞれ約1580nm〜約1650nm、約1700nm〜約1790nm及び約1800nm〜約2100nmの範囲の波長である本発明の方法によれば、2波長を用いる方法に比較して、選別する確度を向上させることができるため好ましい。
針葉樹がヒノキ科植物又はマツ科植物の場合、前記2つの特定の波長及び前記2つの特定の波長とは異なる波長が、約1600nm〜約1650nm、約1700nm〜約1790nm及び約1950nm〜約2100nmの範囲の波長である本発明の方法は好ましく、前記2つの特定の波長及び前記2つの特定の波長とは異なる波長が、1622nm、1772nm及び1981nmであるか、又は1645nm、1727nm及び1997nmである本発明の方法はより好ましい。これらの波長の組み合わせのうち、1622nm、1772nm及び1981nmの組み合わせはとくにスギにおいて好適であり、1645nm、1727nm及び1997nmの組み合わせはとくにヒノキにおいて好適である。
【0024】
また、カラマツ属植物においては、前記2つの特定の波長及び前記2つの特定の波長とは異なる波長が、約1580nm〜約1620nm、約1700nm〜約1750nm及び約1850nm〜約1910nmの波長である本発明の方法は好ましく、前記2つの特定の波長及び前記2つの特定の波長とは異なる波長が、1600nm、1734nm及び1891nmである本発明の方法はより好ましい。
【0025】
なお、本発明により、以下の工程を含む、ある特定の針葉樹の種子が正常な胚を持つか、すなわち充実種子であるか、を判別する方法も提供される。かかる方法は、充実種子の選別を目的としない場合において用いることができる。
(a)上記種子に近赤外光を照射し、該種子から反射される近赤外光のスペクトルを測定し、各波長における反射率のデータを取得する;
(b)750〜2200nmの範囲内にある2つの特定の波長における反射率のデータを、上記種子について抽出する;
(c)前記抽出した反射率の比を計算する;及び
(d)(c)において計算した前記比を、発芽可能な充実種子であると判定するための、前記2つの特定の波長における反射率の比の閾値と比較し、(i)前記比が充実種子において前記閾値以下である傾向がある場合には、前記比が前記閾値以下である種子を充実種子として特定し、(ii)前記比が充実種子において前記閾値より大きい傾向がある場合には、前記比が前記閾値より大きい種子を充実種子として特定する。
【0026】
(実施例)
本発明について、実施例を参照しながらさらに説明する。本発明は、いかなる意味においても当該実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
スギ・ヒノキの種子の反射率の測定と解析
[材料]
材料として、森林総合研究所貯蔵のスギ及びヒノキの種子と、島根県中山間地域研究センター貯蔵のスギの種子を用いた。
近赤外光の照射にはハロゲン光源(400nmから980nmまでの波長の反射率測定時には、市販(メーカー名不明)の250W投光器2灯、1250nmから2500nmの波長の反射率測定時には岩崎電気社製、J110V100W/S2灯)を用い、照射測定にはハイパースペクトルカメラ(400nmから980nmまでの波長には、Themis Vision社製、VNIR-200Rを、1250nmから2500nmまでの波長には、Emerging Technologies社製、 SWIR-200R)を用いた。
[方法]
充実種子であることを示す基準値となる、前記反射率の比の閾値を決定した。当該工程は、本発明の方法において必ずしも必要な工程ではなく、従来技術における知見を適宜用いてよい。
(1)スギ及びヒノキの種子にハロゲン光源より均一に光を照射し、近赤外域の分光情報を含むハイパースペクトル画像を撮影した。
(2)ハイパースペクトル画像において、各々の種子に対応する全ての画素から反射スペクトル情報を抽出した。その平均値を各々の種子の反射スペクトルの代表値とした。
(3)反射スペクトルを測定した種子を解剖し、目視により充実種子であるか不稔種子であるかを判定した。
(4)充実種子と不稔種子の反射スペクトルを比較し、それぞれの種子群に特有なスペクトル波形の部位を、特定の2波長における反射率のみにより特定できるか否かを調査した。
(5)また、特定の3波長における反射率(単位:%)をY座標とする3点、A 、B及びC(A<B<C)において、∠ABCは3波長のうち中央の波長であるBにおける波長における反射率の低下の程度を表しており、種子の稔性を予測するための指標とした。3波長を考慮する指標(以下においてASQI(Angular Seed Quality Index)ということがある)は、2波長のみを考慮する指標(以下においてRSQI(Ratio−based Seed Quality Index)より、測定計測にともなうノイズに対して堅牢である。
【0028】
[結果・考察]
スギ・ヒノキともに、近赤外域における2つの狭波長帯の反射率をもとに、充実種子を高確度に検出・選抜することができた(図10〜12)。
さらに選別の前後で、発芽率が高まることを確認した(表1〜3)。なお、発芽率が高まることの確認には、RSQIよりもノイズに対して堅牢であるASQIを用いている。
とくにスギについては、本発明の方法により発芽種子の割合を、選抜前の14.4%から65.8%に、すなわち4.6倍に高めることができた(表1)。
またヒノキについても同割合を2.7倍(茨城県産、表2)及び1.8倍(四国産、表3)に高めることができた。
いずれの表においても「その他不発芽種子」としてカウントされた種子には、「未熟種子を間違って充実種子として選別した」ものとともに「正しく選別された充実種子が、発芽しなかった」ものの両方が含まれている。
他の樹種についても同様な手法により、充実種子を選別することが可能であると考えられた。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
なお、1854nmにおける反射率を基準とした相対反射率(R1734/R1854)が取り得る値の範囲は、充実種子と不稔種子で明確に異なることを事前に確認した。すなわち、スギについては、充実種子と渋種の相対反射率(R1734/R1854)の値の頻度が、約0.98を境に明らかに異なっており(図10)、ヒノキについては当該頻度は約0.95を境に明らかに異なっていた(図11及び12)。ヒノキにおいては、未熟種子についても渋種と同様であった。
したがって、スギ及びヒノキについての充実種子と不稔種子とを分別するための指標としてR1734/R1854を用いることが可能であり、それぞれの樹種における閾値は約1及び約0.95とした。
また、ASQI値をハイパースペクトル画像上の全ての座標において算出することにより、その空間的な分布を可視化した。このことにより、充実種子と不稔種子を画像レベルで判別できることが確認された。
種子に対応する全画素数に対する、閾値以下のASQI値を示す画素数の割合(面積比)を考え、スギおよびヒノキの充実種子において閾値と面積比の関係を解析した結果、種子の産地によらず、閾値および面積比の最適値の範囲はほぼ同一となることが確認された。すなわち、RSQIやASQIの代表値だけでなく、空間的分布を加味した充実種子と不稔種子の識別が可能であることが明らかとなった。
【0033】
(実施例2)
カラマツ類の種子の反射率の測定と解析
[材料]
材料として、森林総合研究所貯蔵の山梨県産カラマツ及び北海道産グイマツの種子と、長野県林業総合センター貯蔵のカラマツの種子を用いた。
用いられた機器は、実施例1において用いられた機器と同一であった。
[方法]
充実種子であることを示す基準値となる、前記反射率の比の閾値を実施例1における手法と同様の手法により、2波長又は3波長を用いて決定した。
2波長を用いる手法においては1734.40nm及び1853.75nmの波長を用い、充実種子と未熟種子の相対反射率(R1734/R1854)の値について、充実種子と未熟種子の頻度の分布域が変化する相対反射率の値を求めた。
3波長を用いる手法においてはさらに低波長である1637.11nm又は1599.69nmの波長を、それぞれ1734.40nm及び1853.75nmの波長又は1734.40nm及び1890.77nmの波長と組み合わせて用い、充実種子と未熟種子の頻度の分布域が変化する角θの値を求め、充実種子を選別する確度の改善度を評価した。
【0034】
[結果・考察]
(1)2波長を用いた場合
山梨県産及び長野県産のカラマツにおいては、充実種子と未熟種子の相対反射率(R1734/R1854)の値の頻度の分布域が、約1.0075を境に異なった(図13及び14)。北海道産グイマツにおいては、対応する数値は約1.0025であった(図15)。すなわち、いずれの産地におけるカラマツ類(山梨県産及び長野県産のカラマツならびに北海道産のグイマツ)についても、1734.40nm及び1853.75nmの2波長についての反射率を解析することにより、充実種子を未熟種子と区別し選別する確度を向上させることができることが明らかになった。
【0035】
(2)3波長を用いた場合
1637.11nm、1734.40nm及び1853.75nmの3波長を用いた場合、いずれの産地のカラマツについても充実種子を未熟種子と区別し選別する確度は2波長の場合に比較してさらに向上した。すなわち、山梨県産及び長野県産のカラマツならびに北海道産のグイマツにおいて、閾値を135.62°とした場合選抜後の発芽種子の割合はそれぞれ96.6%、76.5%及び92.0%であり、いずれも選抜前より発芽種子の割合は著しく向上した(表4〜表6、図16A図16C)。
【0036】
【表4】

【表5】

【表6】
【0037】
また、1599.69nm、1734.40nm及び1890.77nmの3波長を用いた場合、閾値を202.86°とした場合、山梨県産及び長野県産のカラマツについての選抜後の発芽種子の割合はそれぞれ97.1%及び80.9%であり、充実種子を未熟種子と区別し選別する確度は一層向上した(表7〜表8、図17A及び図17B)。
【0038】
【表7】

【表8】
【0039】
北海道産のグイマツについての選抜後の発芽種子の割合は、閾値を202.86°とした場合91.2%であり、1637.11nm、1734.40nm及び1853.75nmの3波長を用いた場合と同等の確度を示し良好であった(表9、図17C)。
【表9】
【0040】
これらの結果から、本発明の方法は未熟種子が比較的多く発生するマツ科植物のような樹種にも好適に適用されることが明らかになった。
【0041】
以上の結果から、本発明の方法により針葉樹全般について、充実種子と不稔種子とを高い確度において分別することができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、針葉樹の充実種子と不稔種子とを高い確度において分別することができる。したがって本発明は造林業及びその関連産業の発展に寄与するところ大である。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図17A
図17B
図17C