特許第6782477号(P6782477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6782477
(24)【登録日】2020年10月22日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】電気銅めっき浴
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/38 20060101AFI20201102BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20201102BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   C25D3/38
   C25D7/00 J
   H05K3/18 F
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-551418(P2019-551418)
(86)(22)【出願日】2018年8月28日
(86)【国際出願番号】JP2018031730
(87)【国際公開番号】WO2020044432
(87)【国際公開日】20200305
【審査請求日】2019年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000120386
【氏名又は名称】株式会社JCU
(73)【特許権者】
【識別番号】000166683
【氏名又は名称】互応化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 健
(72)【発明者】
【氏名】岸本 一喜
(72)【発明者】
【氏名】高谷 康子
(72)【発明者】
【氏名】安田 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】下村 彩
(72)【発明者】
【氏名】原崎 裕介
(72)【発明者】
【氏名】佐波 正浩
(72)【発明者】
【氏名】清原 靖
(72)【発明者】
【氏名】藤原 伊織
(72)【発明者】
【氏名】田中 正夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 峰大
【審査官】 西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−149351(JP,A)
【文献】 特開2012−172195(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0237932(US,A1)
【文献】 特開2016−148023(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/090623(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/38
C25D 7/00
H05K 3/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にアミノ基を含有する化合物と、分子内にエポキシ基を含有する化合物との、酸の存在下における反応生成物を含有し、
前記酸が無機酸を含み、前記酸の酸当量が前記アミノ基に対して1.5当量以下である
電気銅めっき浴。
【請求項2】
前記分子内にアミノ基を含有する化合物が、下記一般式(I)で表されるアミン化合物を含み、
前記分子内にエポキシ基を含有する化合物が、下記一般式(II)で表されるエポキシド化合物を含む
請求項1に記載の電気銅めっき浴。
【化1】
〔上記一般式(I)中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、ヒドロキシアルキレン基である。Rは、炭素数1〜5のアルキレン基、−(C−O)α−(C−O)β−で表せるポリアルキレンオキサイド基(α、βはそれぞれ独立して0〜5である)である。RまたはRはRの元素と5〜7員環の環状アルキレンを形成することができる。Aは水素、メチル基、エチル基、プロピル基、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチン基、炭素原子、酸素原子、ヒドロキシ基、−(C−O)α−、アミノ基又は炭素数1〜3のモノあるいはジアルキルアミノ基を表す。aは1〜4の整数を表す。〕
【化2】
〔上記一般式(II)中、Rは、炭素数1〜8の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキレン基、−(CH−CH−O)−(CH−CH)−、−(C−O)−(C)−、炭素数1〜3のヒドロキシアルキレン基、下記式(V)で表される置換基又は下記式(VI)で表される置換基を表す。nは1〜9の整数を表す。Bは炭素数3のヒドロキシアルキレン基、メチル基、エチル基、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチン基、下記式(III)で表される置換基、下記式(IV)で表される置換基、炭素原子又は酸素原子を表す。bは1〜4の整数を表す。〕
【化3】
〔上記一般式(V)は3つのセグメントがランダムに結合した構造で表される置換基である。Rは上記式(IV)で表される置換基である。x、y、zは0〜6の整数でx+y+z≦6である。〕
【化4】
【請求項3】
前記酸の酸当量が前記アミノ基に対して0.5当量以上である
請求項1又は2に記載の電気銅めっき浴。
【請求項4】
前記反応生成物のポリエチレングリコール換算の相対重量平均分子量が500以上20000以下の範囲内であり、絶対重量平均分子量が2000以上60000以下の範囲内であり、
前記相対重量平均分子量/前記絶対重量平均分子量の比が0.13以上1.3以下の範囲内である
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の電気銅めっき浴。
【請求項5】
さらに、前記反応生成物の生成で生じた副反応生成物である低分子量成分を含有し、
前記低分子量成分は、前記相対重量平均分子量が1000未満である
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の電気銅めっき浴。
【請求項6】
前記低分子量成分が前記反応生成物に対して30質量%以上70質量%以下の範囲内で含有する
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の電気銅めっき浴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気銅めっき浴に関する。詳しくは、電気銅めっきを行う際に使用される電気銅めっき浴に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型軽量化に伴い、プリント配線基板の高密度化、多層化、スルーホールの小径化が進んでおり、さらなる小型化を目的として、ビルドアップ製法技術の開発が急務とされている。ビルドアップ製法とは、銅配線−絶縁体間の接続にビアホールめっきを用いる技術であるが、ビアホール内部をめっきにより充填する際に、ビアホールめっきに内部ボイドが生じたり、ビアホールめっきの表面にくぼみが生じたりすることが問題となっている。
【0003】
特許文献1には、高アスペクト比のビアホール、スルーホール等をフィリング(埋め込み)可能とする銅めっき技術として、複素環化合物と3つ以上のグリシジルエーテル基を有する化合物との反応生成物を添加剤として含有する電気銅めっき浴が提供されるが、フィリング性の更なる向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5724068号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、ビアホールのフィリング性に優れる電気銅めっき浴を提供することを目的とする。
【0006】
本発明に係る一態様の電気銅めっき浴は、分子内にアミノ基を含有する化合物と、分子内にエポキシ基を含有する化合物との、酸の存在下における反応生成物を含有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0008】
(1)概要
本実施形態の電気銅めっき浴(PB)は、電気めっきを行うための槽内に貯められるめっき液である。電気銅めっき浴(PB)は銅イオンを含有する。
【0009】
電気銅めっき浴(PB)は銅イオンの他に、さらに、分子内にアミノ基を含有する化合物(以下、化合物(AM)ということがある)と、分子内にエポキシ基を含有する化合物(以下、化合物(EP)ということがある)との反応生成物(RP)を含有する。この反応生成物(RP)は酸(AC)の存在下で化合物(AM)と化合物(EP)とを反応させることで得られる。
【0010】
電気銅めっき浴(PB)は銅イオン及び反応生成物(RP)の他に、さらに、低分子量成分(LC)を含有することができる。低分子量成分(LC)は反応生成物(RP)を生成する際に生じる副反応生成物である。
【0011】
(2)分子内にアミノ基を含有する化合物(化合物(AM))
化合物(AM)は、分子内にアミノ基を含有する化合物である。化合物(AM)は分子内に1個又は2個以上のアミノ基を含有してもよい。化合物(AM)は1種であってもよいが、構造式が異なる2種以上を含有してもよい。例えば、化合物(AM)は、下記一般式(I)で表される1種又は複数種のアミン化合物を含んでもよい。
【0012】
【化1】
【0013】
は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基又はヒドロキシアルキレン基から選ばれるいずれか一つである。Rは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基又はヒドロキシアルキレン基から選ばれるいずれか一つである。RとRは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0014】
は、炭素数1〜5のアルキレン基又は−(C−O)α−(C−O)β−で表せるポリアルキレンオキサイド基から選ばれるいずれか一つである。αとβはそれぞれ0〜5の整数であり、αとβは同じであってもよいし(但し、α=β≠0)、異なっていてもよい。
【0015】
又はRは、Rの元素と5〜7員環の環状アルキレンを形成することができる。
【0016】
Aは水素、メチル基、エチル基、プロピル基、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチン基、炭素原子、酸素原子、ヒドロキシ基、−(C−O)α−、アミノ基又は炭素数1〜3のモノあるいはジアルキルアミノ基の群から選ばれるいずれか一つである。aは1〜4の整数を表す。
【0017】
一般式(I)の構造を有する化合物の例としては、これらに限定されることはないが、
aが4のとき、3,3-bis(2-aminoethyl)-1,5-pentanediamine、2,2-bis(aminomethyl)-1,3-propanediamine、2,2-bis(dimethylaminomethyl)-N,N,N’,N’-tetramethyl-1,3-propanediamine、
aが3のとき、Jeffamine T-403(Huntsman Corp.製)、Jeffamine T-3000(Huntsman Corp.製)、Jeffamine T-5000A(Huntsman Corp.製)、2-(aminomethyl)-2-methyl-1,3-propanediamine、2-(aminomethyl)-1,3-propanediamine、 3-(2-aminoethyl)-3-methyl-1,5-pentanediamine、3-(1-aminoethyl)-3-methyl-2,4-pentanediamine、Tris[2-(dimethylamino)ethyl]amine、
aが2のとき、1,3-diaminopropane、1,6-diaminohexane、1,3-di(4-piperidyl)propane、N,N,N’,N’-tetramethyl-1,3-diaminopropane、N,N,N’,N’-tetramethylhexamethylenediamine、bis(3-aminopropyl)ether、bis(2-dimethylaminoethyl)ether、iminobispropylamine、N,N,N’,N’’,N’’-pentamethyldiethylenetriamine、N,N,N’,N’’,N’’-pentamethyldipropylenetriamine、Jeffamine D-230(Huntsman Corp.製)、Jeffamine D-400(Huntsman Corp.製)、Jeffamine D-2000(Huntsman Corp.製)、Jeffamine D-4000(Huntsman Corp.製)、Jeffamine EDR-148(Huntsman Corp.製)、Jeffamine EDR-176(Huntsman Corp.製)、Jeffamine ED-600(Huntsman Corp.製)、Jeffamine ED-900(Huntsman Corp.製)、Jeffamine ED-2003(Huntsman Corp.製)、Jeffamine HK-511(Huntsman Corp.製)、
aが1のとき、ethylamine、N-methylamine、propylamine、diethylamine、triethylamine、dipropylamine、butylamine、dibutylamine、N,N-dimethylbutylamine、N-butylamine、hexylamine、N-methylhexylamine、ethanolamine、2-dimethylaminoethylamine、N,N’-dimethylethylenediamine、N,N,N’,N’-tetramethylethylenediamine、2-ethylaminoethylamine、2-diethylaminoethylamine、3-methylaminopropylamine、3-dimethylaminopropylamine、3-diethylaminopropylamine
などが挙げられる。
【0018】
(3)分子内にエポキシ基を含有する化合物(化合物(EP))
化合物(EP)は、分子内にエポキシ基を含有する化合物である。化合物(EP)は分子内に1個又は2個以上のエポキシ基を含有してもよい。化合物(EP)は1種であってもよいが、構造式が異なる2種以上を含有してもよい。例えば、化合物(EP)は、下記一般式(II)で表される1種又は複数種のエポキシド化合物を含んでもよい。
【0019】
【化2】
【0020】
は、炭素数1〜8の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキレン基、−(CH−CH−O)−(CH−CH)−、−(C−O)−(C)−、炭素数1〜3のヒドロキシアルキレン基、下記式(V)で表される置換基又は下記式(VI)で表される置換基の群から選ばれるいずれか一つである。nは1〜9の整数を表す。Bは炭素数3のヒドロキシアルキレン基、メチル基、エチル基、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチン基、下記式(III)で表される置換基、下記式(IV)で表される置換基、炭素原子又は酸素原子の群から選ばれるいずれか一つである。bは1〜4の整数を表す。
【0021】
【化3】
【0022】
上記一般式(V)は3つのセグメントがランダムに結合した構造で表される置換基である。Rは上記式(IV)で表される置換基である。x、y、zは0〜6の整数でx+y+z≦6である。
【0023】
【化4】
【0024】
一般式(II)の構造を有する化合物としては、これらに限定されることはないが、
bが4の時、pentaerythritol tetraglycidyl ether、sorbitol tetraglycidyl ether、polyglycerin tetraglycidyl ether、
bが3の時、trimethylolpropane triglycidyl ether、sorbitol triglycidyl ether、polyglycerin triglycidyl ether、
bが2の時、glycerin diglycidyl ether、neopenthyl glycol diglycidyl ether、1,6-hexanediol diglycidyl ether、1,4-butanediol diglycidyl ether、bisphenol A diglycidyl ether、hydrogenated bisphenol A diglycidyl ether、
bが1の時、ethylene glycol diglycidyl ether、diethylene glycol diglycidyl ether、poly(ethylene glycol)#200 diglycidyl ether、poly(ethylene glycol)#400 diglycidyl ether、propylene glycol diglycidyl ether、poly(propylene glycol) diglycidyl ether、n-butyl glycidyl ether、2-ethylhexyl glycidyl ether
などが挙げられる。
【0025】
(4)酸(AC)
酸(AC)は、化合物(AM)と化合物(EP)の反応を酸存在下で行わせるために使用される。酸(AC)は有機酸と無機酸との一方又両方を使用することができる。有機酸としては酢酸、クエン酸、乳酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などを使用することができる。無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などを使用することができる。
【0026】
(5)反応生成物(RP)
反応生成物(RP)は酸(AC)の存在下で化合物(AM)と化合物(EP)とを反応させることで得られる。反応生成物(RP)は水溶性の化合物である。また反応生成物(RP)は化合物(AM)と化合物(EP)とが結合した重合体であると考えられる。また反応生成物(RP)は化合物(AM)と化合物(EP)とが結合した高分子であると考えられる。なお、発明者らは、反応生成物(RP)の詳細な構造の同定を試みたが、反応生成物(RP)の単離の困難さ故、その構造の同定に至っていない。
【0027】
反応生成物(RP)を生成するにあたって、化合物(AM)と化合物(EP)との配合比率は、1当量(モル当量)の化合物(AM)に対して、0.9当量以上1.1当量以下の範囲内の化合物(EP)を反応させることが好ましい。化合物(AM)と化合物(EP)との当量比が上記範囲から逸脱すると、ビアホールのフィリング性に優れた電気銅めっき浴が得にくくなる。
【0028】
また反応生成物(RP)を生成するにあたって、酸(AC)の配合比率は、1当量(モル当量)の化合物(AM)に対して、0.5当量以上1.5当量以下の範囲内であることが好ましい。
【0029】
反応時に存在する酸(AC)の当量が、化合物(AM)に対して0.5当量以上であることによって、化合物(AM)と化合物(EP)との過剰な生長反応が進行することを抑制することができ、この結果、反応生成物(RP)の相対重量平均分子量の増大が抑えられる。また、ゲルろ過クロマトグラフ上で低分子量の領域、すなわち相対重量平均分子量1000未満の副生成物成分(低分子量成分(LC))が充分に得られる。このようにして、ビアホールのフィリング性に優れる電気銅めっき浴(PB)に適した添加剤(反応生成物(RP)と低分子量成分(LC)を含む組成物)を得ることができる。
【0030】
また、反応時に存在する酸(AC)の当量が、化合物(AM)に対して1.5当量以下であれば、過剰な酸性による反応の阻害及び反応生成物(RP)の分解を防ぐことができ、ビアホールのフィリング性に優れる電気銅めっき浴(PB)に適した添加剤を得ることができる。酸(AC)の配合量は、より好ましくは、化合物(AM)に対して1.0〜1.2当量の範囲内である。
【0031】
反応生成物(RP)のポリエチレングリコール換算における相対重量平均分子量は500以上20000以下の範囲内であることが好ましい。また反応生成物(RP)の絶対重量平均分子量は2000以上60000以下の範囲内であることが好ましい。また上記相対重量平均分子量/上記絶対重量平均分子量の比が0.13以上1.3以下の範囲内であることが好ましい。
【0032】
相対重量平均分子量は、媒体、すなわち溶媒中におけるみかけの分子サイズによって、分子量を規定するものである。そのために、系への親和性が高ければ、分子が系へ拡がることができるため、相対重量平均分子量は大きく見積もられる。系への親和性が低ければ、分子は系中で収縮するために、相対重量平均分子量は小さく見積もられる。一方、絶対重量平均分子量はゲルろ過クロマトグラフと光散乱法の組み合わせによる測定法によって得られる。これは、上述のようなみかけの分子サイズにかかわらず、真の分子量、たとえば重合体ならばコンフォーメーションを加味しない分子鎖長を見積もることができる。このため、相対重量平均分子量と絶対重量平均分子量に著しい差がみとめられることがあり、具体的には、溶媒への親和性が顕著に低い場合や、分子内架橋を多く形成している場合、分子の構造は過度に折りたたまれた構造をとるために、相対重量平均分子量が小さくなる。すなわち、上記相対重量平均分子量/上記絶対重量平均分子量の比は小さくなる。
【0033】
上記相対重量平均分子量/上記絶対重量平均分子量の比が1.3以下であれば、水中における反応生成物(RP)の構造がコンパクトに折りたたまれた構造であることが示唆され、銅めっき時のビアホール近傍への接触が促されることで、電気銅めっき浴は優れたビアフィリング性(ビアホールへの埋め込み性)を有する。また、相対重量平均分子量/絶対重量平均分子量の比が0.13以上であれば、反応生成物の構造が過剰に折りたたまれることはなく、水中で適度に柔軟な構造体として振る舞うため、銅めっき時のビアホール近傍への接触が阻害されることが抑制される。
【0034】
上記相対重量平均分子量は、より好ましくは500以上5000以下である。上記絶対重量平均分子量は、より好ましくは3000以上17000以下である。また上記相対重量平均分子量/上記絶対重量平均分子量の比は、0.13以上0.3以下の範囲内であることが、より好ましい。
【0035】
なお、絶対重量平均分子量は静的光散乱法でも測定することができるが、反応生成物(RP)は単一の分子量を有する化合物ではなく、分子量分布を有する。そのため重量平均分子量で規定するが、静的光散乱法では分子量分布を加味した絶対重量平均分子量を得ることが困難であるため、本実施形態における議論には適していない。本実施形態においては光散乱検出器を備えたゲルろ過クロマトグラフ装置によって、絶対重量平均重量平均分子量を測定した。この方法においては、分子量分布の要素をふくむ絶対重量平均分子量が得られるため、より適した情報を基に議論することができる。
【0036】
また反応生成物(RP)は、過剰当量の酸の存在下おいて、化合物(AM)と化合物(EP)との反応生成物(ポリマー)であり、その反応条件の特殊さ故に、汎用的な反応生成物の構造とは大きく異なる構造をもつと考えられる。上記の相対重量平均分子量/絶対重量平均分子量の比から示唆されるように、水中において反応生成物(RP)の構造が適度に折りたたまれた構造であることが予想される。
【0037】
(6)低分子量成分(LC)
低分子量成分(LC)は、化合物(AM)と化合物(EP)とが酸の存在下で反応して反応生成物(RP)を生成する際に生じる副反応生成物である。本実施形態における低分子量成分(LC)とは、ゲルろ過クロマトグラフ上で低分子量の領域、すなわち相対重量平均分子量500未満の化合物である。なお、低分子量成分(LC)の構造についても、反応生成物(RP)と同じ事情により構造を決定することが困難であった。
【0038】
(7)電気銅めっき浴
電気銅めっき浴(PB)は、反応生成物(RP)をレベラー(添加剤)として含んでいる。また電気銅めっき浴(PB)は、反応生成物(RP)及び低分子量成分(LC)をレベラーとして含んでいる。さらに、電気銅めっき浴(PB)は、キャリアー、ブライトナーなどの各種の添加剤及び水並びに銅イオンを含有することができる。
【0039】
電気銅めっき浴(PB)中における反応生成物(RP)の含有量(濃度)は0.1mg/L以上1000mg/L以下であることが好ましい。反応生成物(RP)の含有量(濃度)が0.1mg/L以上であれば、反応生成物(RP)の含有量が充分に確保されるため、反応生成物(RP)のレベラー(平滑剤)としての性能が充分に発揮される。反応生成物(RP)の含有量(濃度)が1000mg/L以下であれば、低分子量成分(LC)の含有量が充分に確保されるため、低分子量成分(LC)のレベラー(平滑剤)としての性能が充分に発揮される。
【0040】
電気銅めっき浴(PB)中における低分子量成分(LC)の含有量は、反応生成物(RP)に対して、30質量%以上70質量%以下の範囲内であることが好ましい。低分子量成分(LC)の含有量が反応生成物(RP)に対して30質量%以上であれば、優れたビアフィリング性を有する電気銅めっき浴を得ることができる。低分子量成分(LC)の含有量が反応生成物(RP)に対して70質量%以下であれば、反応生成物(RP)の含有量が充分に確保されるため、反応生成物(RP)のレベラー(平滑剤)としての性能が充分に発揮される。
【0041】
電気銅めっき浴(PB)中におけるキャリアーの含有量(濃度)は、特に限定されないが、1mg/L以上5000mg/L以下であることが好ましい。電気銅めっき浴(PB)中におけるブライトナーの含有量(濃度)は、特に限定されないが、0.1mg/L以上50mg/L以下であることが好ましい。電気銅めっき浴(PB)中における銅イオンの含有量(濃度)は、特に限定されないが、30g/L以上75g/L以下であることが好ましい。
【0042】
電気銅めっき浴(PB)中における銅イオンは、例えば、硫酸銅を配合することによって得ることができるが、これに限らず、他の銅イオン供給源であってもよい。
【0043】
電気銅めっき浴(PB)は、多層プリント配線板等の基板のビアホールを銅めっきで充填(埋め込み)する際に用いられる。ビアホールの大きさは、特に限定されてないが、例えば、開口径(基板表面における開口の直径)が40μm以上150μm以下、深さが20μm以上100μm以下とすることができる。
【0044】
電気銅めっき浴(PB)を使用しためっき条件は、特に限定されてないが、例えば、浴温20℃以上35℃以下、電流密度0.5A/dm以上5A/dm以下とすることができる。
【0045】
そして、本実施形態の電気銅めっき浴は、分子内に一つ以上のアミノ基を含有する化合物(AM)と、分子内に一つ以上のエポキシ基を含有する化合物(EP)とを、特定条件の酸(AC)の存在下、反応させることによって得られる反応生成物(RP)を含有することで、ビアホールを均一にめっき充填できるなどの、高いフィリング性能が得られる。
【0046】
(変形例)
本実施形態の電気銅めっき浴は、スルーホールに銅めっきを充填する際にも使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
[反応生成物(RP)の調製]
温度計、攪拌機及び原料投入口を備えた1L容量のガラス製反応容器に、表1に示す1当量の化合物(AM)と、記載された当量の酸(AC)とを混合し、精製水で化合物(AM)の濃度が35質量%となるように希釈した。
【0048】
次に、これらの内容物を攪拌しながら1当量の化合物(EP)をゆっくりと反応容器内に導入した後、95℃に昇温し、4時間熟成させることで、水溶性の反応生成物(RP)を得た。冷却後、硫酸及び水を適宜、投入してpH及び有効成分濃度を調整することで、反応生成物(RP)の40質量%水溶液を得た。この水溶液には低分子量成分(LC)も含まれている。得られた水溶液の核磁気共鳴及びゲル浸透クロマトグラフ測定を行うことで、反応生成物(RP)及び低分子量成分(LC)の生成を確認した。
【0049】
得られた反応生成物(RP)の相対重量平均分子量、絶対重量平均分子量及び相対重量平均分子量/絶対重量平均分子量の比も表2に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
[相対重量平均分子量]
各製造例で得られた反応生成物(RP)の40質量%水溶液(低分子量成分(LC)も含む)を4g/Lに精製水で希釈した液を試料として、下記の装置及び条件によるゲルろ過クロマトグラフ測定を行うことで、ポリエチレングリコール換算の相対重量平均分子量及び低分子量の副生成物の含有量を測定した。
・装置:Prominenceシステム(株式会社島津製作所製)
・カラム:TSKgel G3000PWXL−CP(東ソー株式会社製)
・移動相:0.1M 硝酸ナトリウム水溶液
・流速:0.8ml/min
・カラム温度:40℃
・検出器:示差屈折率検出器
・分子量換算:ポリエチレングリコール
[絶対重量平均分子量]
各製造例で得られた反応生成物(RP)の40質量%水溶液(低分子量成分(LC)も含む)を4g/Lに精製水で希釈した試料を、下記の装置及び条件によるゲルろ過クロマトグラフ測定を行うことで、絶対重量平均分子量を測定した。
・装置:Viscotek TDAmaxシステム(スペクトリス株式会社製)
・カラム:TSKgel G3000PWXL−CP(東ソー株式会社製)
・移動相:0.1M 硝酸ナトリウム水溶液
・流速:0.8ml/min
・カラム温度:40℃
・検出器:粘度検出器、示差屈折率検出器、光散乱検出器(直列)
・校正試料:ポリエチレングリコール
[めっき試験]
製造例1〜18で調製した反応生成物(RP)及び低分子量成分(LC)をそれぞれ以下の組成の硫酸銅めっき液に50mg/L含有させ、電気銅めっき浴を調整した(実施例1〜16、比較例6、7)。また、比較例1〜5に記載された化合物についても同様の組成の硫酸銅めっき液に2mg/L〜50mg/L含有させて、電気銅めっき浴を調整した。
【0053】
これらの電気銅めっき浴に、無電解銅めっきを施した開口径φ60μm、深さ35μmのブラインドビアホールを有する樹脂基板を入れ、以下の条件で硫酸銅めっきを行った。めっき後の基板についてフィリング性を以下のようにして評価した。それらの結果を表3に示した。
【0054】
<硫酸銅めっき条件>
硫酸銅めっき液組成
・硫酸銅5水和物 150g/L、硫酸 150g/L、塩素イオン40mg/L
・添加剤:表2に示した量の添加剤
めっき条件
・電流密度:1.65A/dm
・時間:28分
・浴量:500mL
・攪拌:エアレーション 1.5L/min
<フィリング性評価基準>
充填したビアホール上方の窪み量(μm)を評点として、3次元白色光干渉型顕微鏡を用いて測定した。また、評価基準として、窪み量が3μm未満をA(非常に良い)、3μm以上7μm未満をB(やや良い)、7μm以上11μ未満をC(普通)、11μm以上をD(悪い)とした。結果を表3に示す。
【0055】
なお、表3中における各成分は、以下のものを使用した。
・SPS:ビス―(3−ナトリウムスルホプロピル)ジスルフィド
・PEG:ポリエチレングリコール(分子量4000)
・Jeffamine D230:ポリエーテルアミン(Huntsman Corp.製)
・Jeffamine ED600:ポリエーテルアミン(Huntsman Corp.製)
・ポリエチレンイミン600:ポリエチレンイミン(分子量600)(株式会社日本触媒製)
・PAA−1112:アリルアミン・ジメチルアリルアミン共重合体(ニットーボーメディカル株式会社製)
・PAS−M1−A:メチルジアリルアミン酢酸塩重合体(ニットーボーメディカル株式会社製)
【0056】
【表3】
【0057】
(まとめ)
以上述べた実施形態及び実施例から明らかなように、第1の態様に係る電気銅めっき浴は、分子内にアミノ基を含有する化合物と、分子内にエポキシ基を含有する化合物との、酸の存在下における反応生成物を含有する。
【0058】
第1の態様によれば、電気銅めっきの際に使用されると、ビアホールのフィリング性に優れる。
【0059】
第2の態様に係る電気銅めっき浴は、第1の態様において、前記分子内にアミノ基を含有する化合物が、上記一般式(I)で表されるアミン化合物を含み、前記分子内にエポキシ基を含有する化合物が、上記一般式(II)で表されるエポキシド化合物を含む。
【0060】
第2の態様によれば、電気銅めっきの際に使用されると、ビアホールのフィリング性にさらに優れる。
【0061】
第3の態様に係る電気銅めっき浴は、第1又は2の態様において、前記酸の酸当量が前記アミノ基に対して0.5当量以上である。
【0062】
第3の態様によれば、分子内にアミノ基を含有する化合物と、分子内にエポキシ基を含有する化合物との過剰な生長反応が進行することを抑制することができ、酸の存在下における反応生成物の相対重量平均分子量の増大が抑えられる。
【0063】
第4の態様に係る電気銅めっき浴は、第1ないし3の態様のいずれか一つにおいて、前記反応生成物のポリエチレングリコール換算の相対重量平均分子量が500以上20000以下の範囲内であり、絶対重量平均分子量が2000以上60000以下の範囲内であり、前記相対重量平均分子量/前記絶対重量平均分子量の比が0.13以上1.3以下の範囲内である。
【0064】
第4の態様によれば、水中における反応生成物の構造がコンパクトに折りたたまれた構造であることが示唆され、銅めっき時のビアホール近傍への接触が促されることで、電気銅めっき浴は優れたビアフィリング性を有する。また、反応生成物の構造が過剰に折りたたまれることはなく、水中で適度に柔軟な構造体として振る舞うため、銅めっき時のビアホール近傍への接触が阻害されることが抑制される。
【0065】
第5の態様に係る電気銅めっき浴は、第1ないし4の態様のいずれか一つにおいて、さらに、前記反応生成物の生成で生じた副反応生成物である低分子量成分を含有する。
【0066】
第5の態様によれば、さらに優れたビアフィリング性を有する電気銅めっき浴を得ることができ、また反応生成物のレベラーとしての性能が充分に発揮される。
【0067】
第6の態様に係る電気銅めっき浴は、第1ないし5の態様のいずれか一つにおいて、前記低分子量成分が前記反応生成物に対して30質量%以上70質量%以下の範囲内で含有する。
【0068】
第6の態様によれば、さらに優れたビアフィリング性を有する電気銅めっき浴を得ることができ、さらにレベラーとしての性能が充分に発揮される。