(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6782480
(24)【登録日】2020年10月22日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】工作機械の隔壁構造
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/08 20060101AFI20201102BHJP
【FI】
B23Q11/08 A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-234963(P2016-234963)
(22)【出願日】2016年12月2日
(65)【公開番号】特開2018-89741(P2018-89741A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000212566
【氏名又は名称】中村留精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【弁理士】
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 政明
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3197353(JP,U)
【文献】
特開2003−165002(JP,A)
【文献】
特開2010−058234(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2005−0068301(KR,A)
【文献】
特開2011−025324(JP,A)
【文献】
特開2000−084786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/08
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを加工する加工領域と機械を配置した機構領域とを区画する鉛直方向の隔壁と、当該隔壁を貫通して斜めに移動する部材とを備え、前記部材の前記移動を許容するために前記隔壁に設けた開口を滑り移動自在に積層された複数枚の羽板を備えたカバーで閉鎖している隔壁構造において、
当該カバーが、前記部材の斜めの移動に伴う水平方向の移動と連動する水平移動板と、この水平移動板を案内する鉛直移動部材と、この鉛直移動部材と固定の隔壁との間に鉛直方向に滑り移動自在に積層された前記複数枚の羽板と、前記隔壁に固定されて前記複数枚の羽板の両端部を案内する鉛直方向のガイド溝とを備えている、工作機械の隔壁構造。
【請求項2】
前記複数枚の羽板のそれぞれがその一方又は両方の端部に鉛直方向下方に伸びる案内縁を備えている、請求項1記載の工作機械の隔壁構造。
【請求項3】
前記複数枚の羽板のそれぞれがその両方の端部を直角に屈曲して形成された屈曲部を備え、当該複数枚の羽板の屈曲部が前記ガイド溝内で滑り移動自在に摺接している、請求項1又は2記載の工作機械の隔壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械のワーク加工領域で発生する切粉や切削油が機械の機構領域に侵入するのを防止するための隔壁の構造に関するもので、特に隔壁の垂直面に沿って移動する部材の移動通路に沿って当該隔壁に設けられる開口を閉鎖する保護カバーの構造に特徴がある隔壁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械でワークを加工する際には、加工部に切削油が供給され、加工部から切粉が飛散する。飛散した切削油や切粉が機械の機構領域に配置される歯車、送りねじ、ガイド溝などに付着して機械が損傷するのを防ぐために、ワークの加工を行う加工領域と機械を動作させるための装置を配置した機構領域とを区画する隔壁、保護カバー、開閉扉などが設けられる。
【0003】
例えば、タレット旋盤において、
図4に示すように、主軸軸線と直交する鉛直面を備えた隔壁11側に主軸チャック5とタレットヘッド4とを配置した場合、主軸チャック5やタレットヘッドの割出装置3が隔壁11を貫通して設けられることになる。そして、ワークを加工する際にタレットヘッド4、従って当該タレットヘッドを割出回転する割出装置3は、主軸軸線aに近接及び離隔する方向に移動するので、隔壁11には、その移動を許容するための開口8が設けられ、この開口を閉鎖するための保護カバーが設けられる。
【0004】
割出装置3が主軸軸線a側に移動したときに、反主軸軸線側に生ずる開口は、その周縁に密着して滑り移動する1枚の滑り板34で閉鎖することができる。しかし、割出装置の主軸軸線側にある開口は、1枚の滑り板で閉鎖すると割出装置3が主軸軸線a側に移動したときに主軸チャック5と当該滑り板とが干渉するので、伸縮可能なカバー(伸縮カバー)で閉鎖する必要がある。この伸縮構造として、割出装置3の移動方向に短いストロークで滑り移動可能に摺接する羽板33の多数枚を積重した構造の伸縮カバー30が多く用いられている。
【0005】
このような構造の伸縮カバーにおいて、旋盤がスラント形の、すなわち上面7を斜めにしたベッド6を備えた旋盤の場合には、割出装置3がベッド上面7と平行に斜めに移動sするので、伸縮カバー30も斜め方向に伸縮するように設けなければならない。積層した複数枚の羽板33からなる伸縮カバー30は、互いに摺接する羽板相互の密着状態を保つために、その移動方向に延在する、例えば断面コの字形のガイド溝38(38a、38b)を備えたガイド材37で案内する必要がある。ガイド溝38は、積層された羽板33の両端を案内するように設けるのが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような構造の伸縮カバーの羽板33は、移動部材、すなわち上記の例では割出装置3に連動して移動するため、割出装置3が後退(主軸軸線から離れる)したときに、ガイド溝38の先端側、すなわち主軸チャック5側に後退した羽板の厚さに相当する分の隙間が生ずる。主軸軸線aの上方に配置された刃物台については、このようなガイド溝を備えた伸縮カバーを設けたとしても、上記隙間に切削油や切粉が入り込む確率は少ないし、もし、入り込んだとしても、重力又は主軸軸線側である下方に移動する羽板によって押し出されるので、問題は生じない。
【0007】
しかし、主軸軸線aの下方に配置された刃物台について、上記のような伸縮カバー30を設けると、その下側のガイド溝38bの隙間に入り込んだ切削油や切粉は、羽板33が積層されている側に留まることになり、割出装置3が移動するごとに、これに伴って移動する羽板に押されて繰り返しガイド溝38b内を移動し、羽板やガイド材に損傷を与える。すなわちガイド溝38bに入り込んだ切粉は、ガイド溝38b内から排出されることがなく、いつまでも留まって羽板33と共にガイド溝38b内を移動し、伸縮カバー30を損傷させるという問題が起こる。
【0008】
上記の問題を避けるために、下側のガイド材を設けないで、上側のガイド溝38aのみで羽板33を案内することも試みられている。しかし、そのような構造の場合には、ガイド溝を設けていない側で羽板33相互を密着させる力が作用しないので、羽板の移動動作が不安定になったり、羽板相互の隙間に切削油や細かい切粉が入り込んだりして、羽板33の滑り動作が不安定になったり、羽板33が損傷するという問題が発生した。
【0009】
この発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、工作機械の加工領域と機構領域とを区画する隔壁を貫通して斜めに移動する傾斜移動部材の移動通路となる開口を遮蔽するための伸縮カバーを備え、当該伸縮カバーが積層された複数枚の羽板を備えている隔壁構造において、羽板の伸縮動作を不安定にすることがなく、かつ落下してくる切削油や切粉によって損傷することのない隔壁構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、隔壁11を貫通する傾斜移動部材3の当該移動を妨げないために設けられる開口8を閉鎖する保護カバー1を、水平方向に滑り移動するすべり板(水平移動板)21と鉛直方向に伸縮する伸縮カバー10とで形成する隔壁構造を提供することにより、上記課題を解決したものである。
【0011】
すなわちこの発明の隔壁構造は、ワークを加工する加工領域と主軸駆動装置や刃物台駆動装置などが配置されている機構領域とを区画する隔壁11であって、当該隔壁を貫通して斜めに移動する、例えば工具ヘッド4の割出装置などの傾斜移動部材3の当該斜めの移動を許容するために隔壁に設けられる開口8を閉鎖する伸縮カバーを備えた隔壁の構造に関し、前記開口8が、傾斜移動部材3の斜めの移動に伴う水平方向の移動と連動する水平移動板21と、この水平移動板を案内する鉛直移動部材12と、この鉛直移動部材と固定の隔壁11との間に鉛直方向に滑り移動自在に積層された複数枚の羽板13と、隔壁11に固定されて複数枚の羽板13の両端部を案内する鉛直方向のガイド溝18とを備えている隔壁構造である。
【0012】
複数枚の羽板13のそれぞれの一方又は両方の端部に鉛直方向下方に伸びる案内縁14を設け、この案内縁14がガイド溝18で案内されるようにすれば、羽板13の振れ動きを防止することができ、羽板13のより円滑な移動が可能になる。また、複数枚の羽板13のそれぞれの両端部を直角に屈曲した屈曲部15、16とし、積重された羽板13が屈曲部15、16においても積重されて互いに摺接しかつガイド溝18で案内される構造とすることで、伸縮カバー10の剛性を高くできると共に移動動作をより安定にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、隔壁11を貫通する部材3の斜めの移動を鉛直移動と水平移動に分解し、伸縮カバー10の羽板13を鉛直方向に移動させることにより、羽板13の両端をガイド溝18で案内することができ、羽板13の安定な移動動作を実現でき、かつガイド溝18内への切削油や切粉の侵入による羽板13やガイド材17の損傷を防止できる。
【0014】
すなわちこの発明により、伸縮カバーの動作方向が鉛直であることから、切粉のガイド溝への侵入及び堆積が防止され、伸縮カバー10の動作が安定すると共に、羽板13やガイド材17の損傷を防止できる効果がある。
【0015】
更に、傾斜移動部材3の斜めの移動ストロークに対する伸縮カバー10の鉛直方向のストロークが短くなり、羽板13の枚数を少なくでき、伸縮カバー10の動作剛性も高くできるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施例を示す図面を参照して、この発明を更に説明する。
図1は、主軸チャック5及び割出装置3が貫通している隔壁11を加工領域側から主軸軸線a方向に見た図で、割出装置3に取り付けられているタレットヘッド4が想像線で示されている。
【0018】
割出装置3のケーシングの先端(加工領域側の端部)には、鉛直移動部材12の開口9の周囲に摺接して滑り移動する水平移動板21が固定されている。開口9の水平方向の長さは、隔壁の開口8の水平方向の長さと等しい。水平移動板21は、鉛直移動部材12に設けた水平ガイド22で水平方向に自由移動自在に案内されている。
【0019】
鉛直移動部材12は、隔壁の開口8の鉛直方向の長さと等しいストロークで鉛直方向に自由移動自在で、この鉛直移動部材12の主軸軸線a側に鉛直方向に伸縮する伸縮カバー10が設けられている。鉛直移動部材12の反主軸軸線側には、開口8の下側の周面に摺接する1枚の板材からなる滑り板24が固定されている。
【0020】
図2及び
図3は、伸縮カバー10の詳細構造を示した斜視図である。
図3は、割出装置が主軸チャック側に移動した状態を示し、
図2は、割出装置が反主軸チャック側に移動した状態を示している。
図2及び
図3は、羽板13を案内する手前側のガイド材を省略した状態で示している。
【0021】
伸縮カバー10は、互いに摺動自在に積重された複数枚の羽板13を備えている。各羽板13の一方の端部は、羽板13の移動方向に伸びる案内縁14を備えている。案内縁14の側縁と羽板の他方の端部は、直角に屈曲された屈曲部15、16となっている。複数枚の羽板13は、その移動方向の寸法がすべて等しく、案内縁14の長さが最も短い羽板が鉛直移動部材12に固定され、案内縁14の最も長い羽板13aが隔壁11に固定されている。案内縁14の最も短い羽板13bと最も長い羽板13aとの間の羽板13の案内縁14の長さは、等しい寸法差で順次長くなっている。
【0022】
複数枚の羽板13は、案内縁14の短い羽板がそれより長い案内縁を持つ羽板の内側に順次嵌り込むようにして積重されている。羽板両端の屈曲部15、16の高さは、積重したときにその頂辺15a、16aが同一高さとなるようにしてあり、この屈曲部が隔壁11に固定した断面コの字形ないし逆L形のガイド材17によって形成される断面コの字形のガイド溝18に案内されて鉛直方向に自由移動可能となっている。案内縁14の最も短い羽板13aを除く他の羽板の前縁部と案内縁14の後端部には、その内側に納まっている羽板のストロークを規制する突起(図では各羽板の裏側になるため、示されていない。)が設けられている。
【0023】
次に
図1を参照して、割出装置3が主軸軸線a側に向けて進出及び後退するときの伸縮カバーの動作について説明する。割出装置3が主軸軸線aに接近する方向に動くと、その移動に伴って水平移動板21が
図1で左方向に動き、伸縮カバー10が縮退する。一方、割出装置3が主軸軸線aから離れる方向に移動すると、水平移動板21が
図1で右方向に動き、伸縮カバー10が鉛直方向に伸長する。すなわち、この発明の保護カバー1の機能は、割出装置3の斜め方向の移動sによって水平移動板21の水平方向の移動hと、伸縮カバー10の鉛直方向vの伸縮動作の合成によって実現される。
【0024】
従って、伸縮カバー10の羽板13を案内するガイド溝18は、鉛直方向となり、ガイド溝内に落ち込んだ切削油や切粉は、鉛直移動部材12が上下動する間に当該ガイド溝から脱落して、羽板に損傷を与えることがない。そして、積重された羽板のそれぞれは、その両端がガイド溝18によって案内されて個々の羽板が搖動したり浮き上がったりすることがなくなり、羽板の動きが不安定になったり、積重した羽板の間に切粉が侵入して堆積する問題も解消される。
【0025】
すなわち、この発明は、工作機械の加工領域を区画している隔壁11を貫通する傾斜移動部材の通路に形成される当該隔壁の開口を両端をガイド溝に案内されて鉛直方向に伸縮する複数枚の羽板13を備えた伸縮カバー10と水平方向に自由移動する水平移動板21とによって閉鎖したことを特徴とするもので、伸縮カバー10の羽板13を案内するガイド溝38に侵入した切削油や切粉によって伸縮カバー10が損傷するのを防止し、かつ伸縮カバーの羽板13の案内を安定かつ確実に行うことができるようにしたものである。
【符号の説明】
【0026】
1 保護カバー
3 割出装置
4 工具ヘッド
8 開口
10 伸縮カバー
11 隔壁
12 鉛直移動部材
13 羽板
14 案内縁
15、16 屈曲部
18 ガイド溝
21 水平移動板