【実施例2】
【0102】
図8〜
図11には、目標とする減速比を50、100、150、200に設定し、これら4種の目標減速比近傍の各帯域において、伝達効率ηに影響する因子の組み合せを相違せしめた多数の設計例が示されている。
図8は、減速比約50の複合遊星歯車機構に関し、最適化前及び最適化後の動力伝達効率の相違を示す線図である。
図9は、減速比約100の複合遊星歯車機構に関し、最適化前及び最適化後の動力伝達効率の相違を示す線図である。
図10は、減速比約150の複合遊星歯車機構に関し、最適化前及び最適化後の動力伝達効率の相違を示す線図である。
図11は、減速比約200の複合遊星歯車機構に関し、最適化前及び最適化後の動力伝達効率の相違を示す線図である。なお、
図7の図表に示された設計例は、
図8〜
図11に示す多数の設計例より、比較的高い伝達効率ηが得られる2例を帯域毎に選択したものである。
【0103】
図8〜
図11に示す如く、本発明に従って最適化を図ることにより、伝達効率ηが概ね確実に改善しており、概ね5〜20%程度の効率改善効果が得られた。具体的には、目標減速比50近傍の帯域では、
図8に示す如く、伝達効率ηが概ね90%を超えており、一部の設計例では、95%を超えており、目標減速比100近傍の帯域では、
図9に示す如く、伝達効率ηが概ね85%を超えており、一部の設計例では、90%を超えている。また、目標減速比150近傍の帯域では、
図10に示す如く、伝達効率ηが概ね75%を超えており、一部の設計例では、85%を超えており、目標減速比200近傍の帯域では、
図11に示す如く、伝達効率ηが概ね70%を超えており、一部の設計例では、80%を超えている。
【0104】
上記においては、内歯車I2を固定し、キャリアHを入力手段、内歯車I1を出力手段とし、i
0=(z
i2/z
p2)・(z
p1/z
i1)>1とした場合を例にとって本発明に係る最適化方法を説明したが、i
0<1の場合には、式(21)を、次式(26)
【0105】
【数32】
【0106】
に置き換え、上述した式(24)の関数により、伝達効率ηが最大となるような最適化問題を解くことによって、複合遊星歯車機構Gの最大効率を求める処理を行えばよい。
【0107】
また、内歯車I1を固定し、キャリアHを入力手段、内歯車I2を出力手段とし、i
0>1とした場合、gを減速比、ηを伝達効率として、式(21)を、次式(27)
【0108】
【数33】
【0109】
に置き換えて行えばよい。
【0110】
また、内歯車I1を固定し、キャリアHを出力手段、内歯車I2を入力手段とし、i
0>1とした場合、gを減速比、ηを伝達効率として、式(21)を、次式(28)
【0111】
【数34】
【0112】
に置き換えて行えばよい。
【0113】
また、内歯車I1を固定し、キャリアHを入力手段、内歯車I2を出力手段とし、i
0<1とした場合、gを減速比、ηを伝達効率として、式(21)を、次式(29)
【0114】
【数35】
【0115】
に置き換えて行えばよい。
【0116】
また、内歯車I1を固定し、キャリアHを出力手段、内歯車I2を入力手段とし、i
0<1とした場合、gを減速比、ηを伝達効率として、式(21)を、次式(30)
【0117】
【数36】
【0118】
に置き換えて行えばよい。
【0119】
上記では、
図1、
図2のような2K−H型の複合遊星歯車機構を例にとり、本願発明の最適化方法を説明したが、
図12に示したような通常3K型と呼ばれる複合遊星歯車機構についても適用可能である。
図12は、本実施形態に係る複合遊星歯車機構の他の構成を示す概念図である。
図13は、
図12に示す複合遊星歯車機構の他の構造を概略的に示す正面図及び斜視図である。また、
図13(A)は、
図12に示す複合遊星歯車機構の他の構造を概略的に示す正面図であり、
図13(B)は、
図12に示す複合遊星歯車機構の他の構造を概略的に示す斜視図である。
【0120】
なお、
図12、
図13において、符号I1とI2は内歯車を示し、符号S1は太陽歯車を示し、符号P1とP2は遊星歯車を示し、符号Jは支軸を示し、符号Hはキャリアを示している。
図13に示すように、内歯歯車Aは、内歯車I1、I2を備えている。第1の遊星歯車機構Bは、遊星歯車P1(第1遊星歯車)と遊星歯車P2(第1遊星歯車)を備えている。第2の遊星歯車機構Cは、遊星歯車P1(第1遊星歯車)と遊星歯車P2(第1遊星歯車)を備えている。第3の遊星歯車機構Dは、遊星歯車P1(第1遊星歯車)と遊星歯車P2(第1遊星歯車)を備えている。キャリアHは、周方向に間隔を隔てて配置された複数の支軸Jを支持する。各支軸Jは、軸受(図示せず)によって第1の遊星歯車機構Bと第2の遊星歯車機構Cと第3の遊星歯車機構Dそれぞれの遊星歯車P1、P2を同心状且つ回転可能に支承する。第1の遊星歯車機構Bと第2の遊星歯車機構Cと第3の遊星歯車機構Dそれぞれの遊星歯車P1、P2は夫々、平歯車からなる内歯車I1、I2に噛合する。また、遊星歯車P1、P2は、遊星歯車装置全体を2段歯車機構に構成すべく、共通の回転中心軸線Lを中心に一体的に回転するように中心軸を共有し又は中心軸同士を一体的に連結され、或いは、共通の回転中心軸線Lを中心に一体的に回転するように互いに一体化している。
【0121】
通常3K型と呼ばれる複合遊星歯車機構において、内歯車I1を固定し、太陽歯車S1を入力手段、内歯車I2を出力手段とし、i
0=z
i1/z
s1>1かつi
1=(z
i2/z
p2)・(z
p1/z
i1)>1の場合、gを減速比、ηを伝達効率として、式(21)を、次式(31)
【0122】
【数37】
【0123】
に置き換えれば同様に最適化できる。
【0124】
通常3K型と呼ばれる複合遊星歯車機構において、内歯車I1を固定し、太陽歯車S1を出力手段、内歯車I2を入力手段とし、i
0=z
i1/z
s1>1かつi
1=(z
i2/z
p2)・(z
p1/z
i1)>1の場合、gを減速比、ηを伝達効率として、式(21)を、次式(32)
【0125】
【数38】
【0126】
に置き換えれば同様に最適化できる。
【0127】
通常3K型と呼ばれる複合遊星歯車機構において、内歯車I1を固定し、太陽歯車S1を入力手段、内歯車I2を出力手段とし、i
0=z
i1/z
s1<1かつi
1=(z
i2/z
p2)・(z
p1/z
i1)<1の場合、gを減速比、ηを伝達効率として、式(21)を、次式(33)
【0128】
【数39】
【0129】
に置き換えれば同様に最適化できる。
【0130】
通常3K型と呼ばれる複合遊星歯車機構において、内歯車I1を固定し、太陽歯車S1を出力手段、内歯車I2を入力手段とし、i
0=z
i1/z
s1<1かつi
1=(zi2/z
p2)・(z
p1/z
i1)<1の場合、gを減速比、ηを伝達効率として、式(21)を、次式(34)
【0131】
【数40】
【0132】
に置き換えれば同様に最適化できる。
【0133】
次に、動力伝達効率が最大となるように複合遊星歯車機構Gを設計する方法例を説明する。
図14は、複合遊星歯車機構Gの設計装置100の構成例である。
図14に示すように、設計装置100は、取得部101、演算部102、記憶部103、及び出力部104を含んで構成される。設計装置100は、例えば、パーソナルコンピュータである。
【0134】
取得部101は、複合遊星歯車機構Gの設定値を取得し、取得した設定値を演算部102に出力する。取得部101には、キーボード、マウス、タッチパネルセンサー等が接続されていてもよく、USB(Universal Serial Bus)端子、通信部等であってもよい。
【0135】
演算部102は、取得部101が出力する設定値を、記憶部103が記憶する式に代入して、動力伝達効率が最大となる転位計数等を算出する。演算部102は、算出した転位計数等を出力部104に出力する。演算部102は、例えばCPU(中央演算装置)である。
【0136】
記憶部103は、前述した各式、初期値、複合遊星歯車機構Gの設計プログラム等を記憶する。記憶部103は、RAM(Random access memory)、ROM(Read Only Member)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)である。
【0137】
出力部104は、演算部102が出力する転位計数等を出力する。出力部104は、例えば、表示装置、印刷装置、通信装置等である。
【0138】
ここで、設定値について説明する。
設定値とは、例えば以下である。
I.複合遊星歯車機構Gが、2K−H型である/3K型である。
II.内歯車I2を固定し、キャリアHを入力手段、内歯車I1を出力手段
III.内歯車I1を固定し、キャリアHを入力手段、内歯車I2を出力手段
IV.内歯車I1を固定し、キャリアHを出力手段、内歯車I2を入力手段
V.内歯車I1を固定し、キャリアHを入力手段、内歯車I2を出力手段
VI.内歯車I1を固定し、キャリアHを出力手段、内歯車I2を入力手段
なお、II〜VIの設定値は、2K−H型の場合であり、かつ5つのうちのいずれか1つである。
VII.内歯車I1を固定し、太陽歯車S1を入力手段、内歯車I2を出力手段
VIII.内歯車I1を固定し、太陽歯車S1を出力手段、内歯車I2を入力手段
IX.内歯車I1を固定し、太陽歯車S1を入力手段、内歯車I2を出力手段
X.内歯車I1を固定し、太陽歯車S1を出力手段、内歯車I2を入力手段
なお、VII〜Xの設定値は、3K型の場合であり、かつ5つのうちのいずれか1つである。
XI.内歯車I1の歯数z
i1、内歯車I2の歯数z
i2、遊星歯車P1の歯数z
p1、遊星歯車P2の歯数z
p2、内歯車I1及び遊星歯車P1のモジュールm
1、内歯車I2及び遊星歯車P2のモジュールm
2、遊星歯車P1、P2の個数
【0139】
次に、設計方法例を説明する。まず、太陽歯車S1を有する構成の複合遊星歯車機構Gの設計方法を説明する。
図15は、太陽歯車S1を有する構成の複合遊星歯車機構Gの設計手順例を示すフローチャートである。
【0140】
(ステップS1)利用者は、複合遊星歯車機構Gの設定値を入力又は選択する。取得部101は、設定値を取得し、取得した設定値を演算部102に出力する。
【0141】
(ステップS2)演算部102は、組み合わせ可能な歯数(z
s1、z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)の組を生成する。
(ステップS3)演算部102は、組み合わせ可能な最初の歯数(z
s1、z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)の組を設定する。
【0142】
(ステップS4)演算部102は、ベクトルx=(x
s1、x
p1、x
p2、x
i1、x
i2)(転位係数)に適当な初期値を与える。なお、適当な初期値は、記憶部103が記憶している。
【0143】
(ステップS5)演算部102は、勾配ベクトルv=(∂η/∂x
s1、∂η/∂x
p1、∂η/∂x
p2、∂η/∂x
i1、∂η/∂x
i2)を求める。
【0144】
(ステップS6)演算部102は、v・q>0を満たすベクトルqを選ぶ。
(ステップS7)演算部102は、xの更新量γqが十分小さくなったか否かを判別する。演算部102は、更新量γqが十分小さくなっていないと判別した場合(ステップS7;NO)、ステップS8に処理を進め、更新量γqが十分小さくなったと判別した場合(ステップ7;YES)、ステップS9に処理を進める。なお、十分小さい場合は、例えば、歯車の加工精度から決まる量に対して十分小さければよい。
【0145】
(ステップS8)演算部102は、ベクトルxにγqを加算して更新する。更新後、演算部102は、ステップS5の処理に戻す。
【0146】
(ステップS9)演算部102は、歯数(z
s1、z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)の組と対応したベクトルxを記憶部103に記憶させる。処理後、演算部102は、ステップS10に処理を進める。
【0147】
(ステップS10)演算部102は、組み合わせ可能な歯数(z
s1、z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)の次の組み合わせがあるか否かを判別する。演算部102は、組み合わせ可能な歯数(z
s1、z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)の次の組み合わせがあると判別した場合(ステップS10;YES)、ステップS11の処理に進める。演算部102は、組み合わせ可能な歯数(z
s1、z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)の次の組み合わせがないと判別した場合(ステップS10;NO)、ステップS12の処理に進める。
【0148】
(ステップS11)演算部102は、組み合わせ可能な次の組の(z
s1、z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)を設定する。処理後、演算部102は、ステップS4に処理を戻す。
【0149】
(ステップS12)演算部102は、歯数(z
s1、z
p1、z
p2、z
i1、z
i2、)と転位係数の組み合わせであるベクトルx=(x
s1、x
p1、x
p2、x
i1、x
i2)の組み合わせのうち、動力伝達効率ηが最大又は準最大となる歯数(z
s1、z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)と転位係数(x
s1、x
p1、x
p2、x
i1、x
i2)との組み合わせを選択する。なお、準最大とは、極大値、最大値や極大値を含む許容範囲(例えば90%以上)である。
【0150】
(ステップS13)演算部102は、動力伝達効率ηを最大にする歯数(z
s1、z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)と転位係数(x
s1、x
p1、x
p2、x
i1、x
i2)との組み合わせを、最適な設計値として出力する。
【0151】
なお、演算部102は、算出した転位係数を用いて、さらにトルク等を算出するようにしてもよい。
【0152】
次に、太陽歯車S1を有していない構成の複合遊星歯車機構Gの設計方法を説明する。
図16は、太陽歯車S1を有していない構成の複合遊星歯車機構Gの設計手順例を示すフローチャートである。なお、
図15と同じ処理については同じ符号を用いて、説明を省略する。
【0153】
(ステップS1)利用者は、複合遊星歯車機構Gの設定値を入力又は選択する。取得部101は、設定値を取得し、取得した設定値を演算部102に出力する。
【0154】
(ステップS102)演算部102は、組み合わせ可能な歯数(z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)の組を生成する。
(ステップS103)演算部102は、組み合わせ可能な最初の歯数(z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)の組を設定する。
【0155】
(ステップS104)演算部102は、ベクトルx=(x
p1、x
p2、x
i1、x
i2)に適当な初期値を与える。なお、適当な初期値は、記憶部103が記憶している。なお、ベクトルxは、中心軸間距離係数(Xc)に表される(x
p1、x
p2、X
c)を用いてもよい。
【0156】
(ステップS105)演算部102は、勾配ベクトルv=(∂η/∂x
p1、∂η/∂x
p2、∂η/∂x
i1、∂η/∂x
i2)を求める。または、演算部102は、勾配ベクトルv=(∂η/∂x
p1、∂η/∂x
p2、∂η/∂X
c)を求める。演算部102は、ステップS6に処理を進める。
【0157】
(ステップS6〜ステップS9)演算部102は、ステップS6〜ステップS9の処理を行う。演算部102は、ステップS10に処理を進める。
【0158】
(ステップS10)演算部102は、組み合わせ可能な歯数(z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)の次の組み合わせがあるか否かを判別する。演算部102は、組み合わせ可能な歯数(z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)の次の組み合わせがあると判別した場合(ステップS10;YES)、ステップS111の処理に進める。演算部102は、組み合わせ可能な歯数(z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)の次の組み合わせがないと判別した場合(ステップS10;NO)、ステップS112の処理に進める。
【0159】
(ステップS111)演算部102は、組み合わせ可能な次の組の歯数(z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)を設定する。処理後、演算部102は、ステップS104に処理を戻す。
【0160】
(ステップS112)演算部102は、歯数(z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)とベクトルx=(x
p1、x
p2、x
i1、x
i2)の組合せのうち、動力伝達効率が最大又は準最大となる歯数(z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)と転位係数(x
p1、x
p2、x
i1、x
i2)との組み合わせを選択する。なお、準最大とは、極大値、最大値や極大値を含む許容範囲(例えば90%以上)である。
【0161】
(ステップS113)演算部102は、動力伝達効率ηを最大にする歯数(z
p1、z
p2、z
i1、z
i2)と転位係数(x
s1、x
p1、x
p2、x
i1、x
i2)との組み合わせを、最適な設計値として出力する。
【0162】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能であり、該変形例又は変更例も又、本発明の範囲内に含まれるものであることは、いうまでもない。
【0163】
例えば、上述した複合遊星歯車機構においては、遊星歯車P1、P2は、遊星歯車機構毎に2又は3個の遊星歯車を周方向に配列した構成のものであるが、単一の遊星歯車により各遊星歯車機構を構成し、或いは、周方向に配列した4個以上の遊星歯車によって各遊星歯車機構を構成することも可能である。
【0164】
また、遊星歯車の位相差の調整手段として、テーパー嵌合構造等の任意の機構又は構造を用いることも可能である。