(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6782600
(24)【登録日】2020年10月22日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】シール及びシール機構
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20201102BHJP
【FI】
F16J15/3204 201
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-196077(P2016-196077)
(22)【出願日】2016年10月4日
(65)【公開番号】特開2018-59559(P2018-59559A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 康展
(72)【発明者】
【氏名】桃井 直生
【審査官】
谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−069467(JP,A)
【文献】
特開2003−262230(JP,A)
【文献】
特開2016−142364(JP,A)
【文献】
特開平11−173337(JP,A)
【文献】
特開平9−177772(JP,A)
【文献】
特開2003−262232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を形成するハウジングと、
前記内部空間に部分的に収容されるシャフト部材と、
前記ハウジングと前記シャフト部材とにより形成された空間に嵌め込まれるシールと、を備え、
前記シールは、
前記ハウジング及び前記シャフト部材のうち少なくとも一方の回転軸を取り巻くシール部材と、
前記シール部材によって摺接されるスリーブ部と、前記スリーブ部から前記回転軸に向けて突出するフランジ部と、を含み、前記回転軸から離れる方向に突出するフランジ部を含まないスリンガと、を備え、
前記ハウジングには、前記スリーブ部から前記回転軸に向けて突出する前記フランジ部に向かって張り出す段差部が形成され、
前記シール部材は、前記段差部により規定される段差空間に収容されている
シール機構。
【請求項2】
前記シャフト部材は、前記スリーブ部によって囲まれる外周面を有し、
前記フランジ部は、前記外周面から凹設された凹部に収容される
請求項1に記載のシール機構。
【請求項3】
前記シール部材は、前記スリーブ部に押しつけられるメインリップを含み、
前記メインリップは、前記回転軸に対して直交する仮想平面上において、前記フランジ部と重なる
請求項1又は2に記載のシール機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置内に収容された流体の流出や装置内への流体の流入を防ぐためのシール技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シールは、様々な技術分野で利用される。シールが組み込まれた装置が、高速で回転するならば、或いは、メンテナンス作業なしで、長期間に亘って稼動されるならば、シールと装置の表面との間の境界での高い耐摩耗性が要求される。シールが組み込まれた装置が、腐食性の気体或いは液体が充満する環境下で使用されるならば、シールと装置の表面との間での高い耐腐食性が要求される。特許文献1は、高い耐摩耗性及び/又は耐腐食性が要求される使用環境下で好適に利用され得る技術を開示する。
【0003】
特許文献1は、シール部材とシール部材に取り囲まれたスリンガとを有するシールを開示する。スリンガは、シャフトを取り囲むスリーブと、シャフトを取り囲むハウジングに向けて折り曲げられたフランジと、を含む。フランジは、スリンガの剛性を向上させるので、作業者が、シールを装置に組み込むときにシールに力を加えても、シールは、変形しにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−84911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、フランジとハウジングとの間の接触を回避するために、大型のハウジングを必要とする。したがって、特許文献1の技術は、小型化を要求される装置には不向きである。
【0006】
本発明は、小型化を要求される装置に好適に適用可能なシール技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係るシールは、所定の回転軸を取り巻くシール部材と、前記シール部材によって摺接されるスリーブ部と、前記スリーブ部から前記回転軸に向けて突出するフランジ部と、を含むスリンガと、を備える。
【0008】
上記の構成によれば、シール部材は、スリーブ部と摺接するので、設計者は、スリーブ部に高い耐摩耗性及び/又は耐腐食性を有する材料を用いることによって、摩耗及び/腐食に強いシールを形成することができる。フランジ部は、スリーブ部から回転軸に向けて突出するので、フランジ部は、シールの外径寸法を増加させない。このことは、シール部材を取り囲む装置のハウジングの内径が、小さな値に設定され得ることを意味する。したがって、シールは、小型化を要求される装置に好適に組み込まれ得る。
【0009】
本発明の他の局面に係るシール機構は、上述のシールと、前記スリーブ部によって囲まれる外周面を有するシャフト部材と、を備える。前記フランジ部は、前記外周面から凹設された凹部に収容される。
【0010】
上記の構成によれば、フランジ部は、スリーブ部によって囲まれた外周面から凹設された凹部に収容されるので、設計者は、シャフト部材の表面からのフランジ部の突出量を非常に小さな値に設定することができる。この結果、シール機構が構築された装置は、回転軸の延設方向において、小さな長さ寸法を有することができる。加えて、フランジ部が凹部に収容される結果、シャフト部材とスリンガとの間の位置関係は略一定になる。すなわち、フランジ部は、シャフト部材に対するスリンガの位置決め機能を有することができる。したがって、スリンガは、シャフト部材に精度よく取り付けられる。
【0011】
上記の構成に関して、前記シール部材は、前記スリーブ部に押しつけられるメインリップを含んでもよい。前記メインリップは、前記回転軸に対して直交する仮想平面上において、前記フランジ部と重なってもよい。
【0012】
上記の構成によれば、メインリップは、スリーブ部に押しつけられるので、スリーブ部とメインリップとの間の境界を通じた流体の流通は生じにくい。メインリップは、回転軸に対して直交する仮想平面上において、フランジ部と重なるので、設計者は、メインリップの端面からのフランジ部の突出量を非常に小さな値に設定することができる。この結果、シール機構が構築された装置は、回転軸の延設方向において、小さな長さ寸法を有することができる。
【発明の効果】
【0013】
上述のシール技術は、小型化を要求される装置に好適に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】例示的なシール機構の概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、例示的なシール機構100の概略的な断面図である。
図1を参照して、シール機構100が説明される。
【0016】
シール機構100は、シール200と、シャフト部材300と、ハウジング400と、を備える。シール200、シャフト部材300及びハウジング400は、装置の一部を形成する。装置は、減速機であってもよいし、他の装置であってもよい。本実施形態の原理は、シール機構100が構築される特定の装置に限定されない。
【0017】
シャフト部材300は、所定の回転軸RAX上に配置される。シャフト部材300は、円柱状の部材であってもよいし、円筒状の部材であってもよい。本実施形態の原理は、シャフト部材300の特定の形状に限定されない。
【0018】
回転軸RAXは、シャフト部材300の中心軸に相当する。ハウジング400は、シャフト部材300と略同軸である。シャフト部材300及びハウジング400のうち少なくとも一方は、回転軸RAX周りに回転する。すなわち、シャフト部材300が、固定されているならば、ハウジング400は、回転軸RAX周りに回転してもよい。ハウジング400が、固定されているならば、シャフト部材300は、回転軸RAX周りに回転してもよい。
【0019】
ハウジング400は、シャフト部材300が部分的に収容される内部空間を形成する。装置の一部として用いられる様々な部品が、ハウジング400の内部空間に更に収容されてもよい。たとえば、シャフト部材300に連結された歯車部品が、ハウジング400内に配置されてもよい。
【0020】
シール200は、上述の内部空間を、ハウジング400の外側の外部空間から仕切る。シャフト部材300及びハウジング400は、内部空間と外部空間との間の境界に環状の空間を形成する。シール200は、環状の空間に嵌め込まれる。
【0021】
シャフト部材300は、シール200によって密着される外周面310を含む。シール性の接着剤は、外周面310に塗布され、接着層AHLを形成する。ハウジング400は、シャフト部材300の外周面310と協働してシール200を挟む内周面410を含む。上述の環状の空間は、外周面310と内周面410との間に形成される。
【0022】
シール200は、シール部材210と、スリンガ220と、を含む。シール部材210は、ハウジング400の内周面410に全体的に当接される外周面を有するリング状の部材である。シール部材210は、回転軸RAXを取り囲む。回転軸RAXは、シール部材210の中心軸に相当する。
【0023】
スリンガ220は、円筒状のスリーブ部221と、スリーブ部221の内端(すなわち、内部空間に現れる端部)から屈曲され、回転軸RAXに向けて突出するフランジ部222と、を含む。スリーブ部221は、全周に亘って、シール部材210とシャフト部材300とによって挟まれる。
【0024】
スリーブ部221は、内周面223と、内周面223とは反対側の外周面224と、を含む。スリーブ部221の内周面223は、接着層AHLによって、シャフト部材300の外周面310に全体的に接着される。したがって、シャフト部材300の外周面310は、スリーブ部221によって囲まれる。シャフト部材300及びハウジング400のうち少なくとも一方が回転している間、スリーブ部221の外周面224は、シール部材210によって摺接される。
【0025】
シャフト部材300の外周面310から回転軸RAXに向けて凹没するリング状の凹部320が、シャフト部材300に形成される。シャフト部材300は、回転軸RAXに直交する仮想平面PLNに沿うリング状の第1面321を含む。シャフト部材300は、第1面321の内周縁から内部空間に向けて、回転軸RAXに略平行に延びる母線によって形成される第2面322を更に含む。凹部320は、第1面321と第2面322とによって部分的に囲まれる空間である。
【0026】
フランジ部222は、凹部320に相補的である。フランジ部222は、凹部320に収容される。
【0027】
シャフト部材300は、第2面322から回転軸RAXに向けて屈曲し、且つ、第1面321に略平行な第3面323を含む。
図1に示される仮想平面PLNは、第1面321と第3面323との間で定義されている。
図1は、凹部320の幅Wを示す。幅Wは、回転軸RAXの延設方向における第1面321と第3面323との間の距離として定義されてもよいし、第2面322を形成する母線の長さとして定義されてもよい。フランジ部222の厚さは、幅Wと等しくてもよいし、幅Wよりも小さくてもよい。この場合、フランジ部222は、回転軸RAXの延設方向において、第3面323から突出しない。この結果、ハウジング400によって囲まれた内部空間は、様々な部品の配置のために有効に利用される。このことは、シール機構100が構築された装置の軸長寸法(すなわち、回転軸RAXの延設方向における装置の寸法)の低減に貢献する。
【0028】
シール部材210は、主リング部211と、環状のメインリップ212と、環状のダストリップ213と、スプリングリング214と、を含む。主リング部211は、第1部分215と、第2部分216と、を含む。第1部分215は、回転軸RAXに略一致する中心軸を有する円筒状の部位である。第1部分215の外周面は、ハウジング400の内周面410に略全体的に当接される。第2部分216は、第1部分215の外端(すなわち、外部空間に現れる端部)から屈曲し、回転軸RAXに向けて突出するリング状の部位である。第2部分216は、スリーブ部221の外周面224に対向する内周端217を含む。ダストリップ213及びメインリップ212は、内周端217に接続される。
【0029】
ダストリップ213は、主リング部211の内周端217から外部空間及び回転軸RAXに向けて斜めに突出する。ダストリップ213は、外部空間で浮遊する塵埃といった異物が内部空間に侵入することを防ぐために用いられる。
【0030】
ダストリップ213の先端は、スリーブ部221の外周面224に当接する。シャフト部材300及びハウジング400のうち少なくとも一方が回転している間、ダストリップ213の先端は、スリーブ部221に擦れる。スリンガ220は、シャフト部材300よりも耐摩耗性に優れた材料から形成されるので、スリーブ部221へのダストリップ213の摺接下においても、スリンガ220は、ほとんど摩耗しない。
【0031】
メインリップ212は、圧接リング218と、連結リング219と、を含む。圧接リング218は、ダストリップ213と内部空間との間で、スリーブ部221の外周面224に当接する。連結リング219は、圧接リング218を、主リング部211の内周端217に連結させる。
【0032】
スプリングリング214は、圧接リング218に取り付けられる。圧接リング218を取り囲むスプリングリング214は、回転軸RAXに向かう力を、圧接リング218の全周に亘って、圧接リング218に加える。この結果、圧接リング218は、スリーブ部221の外周面224に密着され、圧接リング218とスリーブ部221の外周面224との間の境界にシール構造が形成される。内部空間に収容された液体(たとえば、潤滑液)は、圧接リング218とスリーブ部221の外周面224との間の境界に形成されたシール構造によって阻まれ、外部空間に漏出しない。
【0033】
シャフト部材300及びハウジング400のうち少なくとも一方が回転している間、圧接リング218は、スリーブ部221に強く擦れる。スリンガ220は、シャフト部材300よりも耐摩耗性に優れた材料から形成されるので、スリーブ部221への圧接リング218の摺接下においても、スリンガ220は、ほとんど摩耗しない。
【0034】
図1に示される如く、仮想平面PLNは、フランジ部222と圧接リング218とに重なる。このことは、幅Wによって表される領域が、フランジ部222に配設だけでなく、圧接リング218の配設にも利用されることを意味する。
【0035】
ハウジングに向けて屈曲するフランジ部を有する従来のスリンガに関して、圧接リング218が、幅Wによって表される領域へ突出するならば、フランジ部は、圧接リング218に干渉することになる。一方、本実施形態の原理によれば、フランジ部222は、回転軸RAXに向けて屈曲するので、フランジ部222は、圧接リング218に干渉しない。幅Wによって表される領域が、フランジ部222及び圧接リング218の配設に有効に利用されるので、設計者は、シール機構100が構築された装置の軸長寸法(すなわち、回転軸RAXの延設方向における装置の寸法)に小さな値を与えることができる。
【0036】
上述の実施形態に関して、シール性を有する接着層AHLが、シール200とシャフト部材300の外周面310との間に形成され、これらの境界をシールする。しかしながら、接着層AHLに代えて、シール性を有するゴム部材が、シール200とシャフト部材300の外周面310との間に配置されてもよい。上述の実施形態の原理は、シール200とシャフト部材300の外周面310との間に配置される特定のシール性部材に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
上述の実施形態の原理は、様々な機械設備に好適に利用される。
【符号の説明】
【0038】
100・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シール機構
200・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シール
210・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シール部材
212・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・メインリップ
220・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スリンガ
221・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スリーブ部
222・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フランジ部
300・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シャフト部材
310・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・外周面
320・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・凹部
PLN・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・仮想平面
RAX・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・回転軸