特許第6782643号(P6782643)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6782643船舶の運航支援システム及び船舶の運航支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6782643
(24)【登録日】2020年10月22日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】船舶の運航支援システム及び船舶の運航支援方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 49/00 20060101AFI20201102BHJP
   G01C 21/26 20060101ALI20201102BHJP
   B63H 21/20 20060101ALI20201102BHJP
   B63H 21/17 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   B63B49/00 Z
   G01C21/26 Z
   B63H21/20
   B63H21/17
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-7532(P2017-7532)
(22)【出願日】2017年1月19日
(65)【公開番号】特開2018-114877(P2018-114877A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名嘉 丈博
(72)【発明者】
【氏名】三橋 真人
【審査官】 結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5455765(JP,B2)
【文献】 特開2009−227115(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/136297(WO,A1)
【文献】 特開2013−223332(JP,A)
【文献】 特開平5−286437(JP,A)
【文献】 特表2012−505629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 49/00,
B63H 21/17,21/20,
B63J 3/02− 3/04,99/00,
G01C 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船内蓄電池を備え、蓄電装置を有する積載物を積載して第1地点から第2地点までの航路を運航し、前記蓄電装置に対して充放電を行うことが可能な船舶の運航支援システムであって、
前記運航に要する時間、前記航路を複数の区間に分割した場合の前記区間ごとの対水船速、前記船舶の船内電力需要、前記船舶の出力、前記区間ごとの前記船内蓄電池及び前記蓄電装置の充放電量及び充電率、並びに前記船内蓄電池及び前記蓄電装置の温度を制約条件として設定する制約条件設定部と、
前記制約条件のもとに、前記区間ごとの対水船速を制御変数とし、前記第1地点から前記第2地点に到着するまでの運航コストを目的関数として、前記目的関数を最小とする前記区間ごとの対水船速配分と前記船内蓄電池及び前記蓄電装置の充放電量とを解として得る最適化計算を行う演算部と、
を備え、
前記運航コストは、前記船舶の航行に関するコストと、前記蓄電装置の充放電に関するコストとを含む、船舶の運航支援システム。
【請求項2】
前記船舶は、船内発電装置を有し、
前記船内電力需要は、前記船内発電装置の発電出力と、前記船内蓄電池の出力と、前記蓄電装置の出力との和である請求項1に記載の船舶の運航支援システム。
【請求項3】
前記船内発電装置は、再生エネルギー発電装置を含む請求項2に記載の船舶の運航支援システム。
【請求項4】
前記演算部は、前記航路の気象予報情報に基づいて前記再生エネルギー発電装置の発電量の予測値を算出する請求項3に記載の船舶の運航支援システム。
【請求項5】
船内蓄電池を備え、蓄電装置を有する積載物を積載して第1地点から第2地点までの航路を運航し、前記蓄電装置に対して充放電を行うことが可能な船舶の運航支援方法であって、
前記運航に要する時間、前記航路を複数の区間に分割した場合の前記区間ごとの対水船速、前記船舶の船内電力需要、前記船舶の出力、前記区間ごとの前記船内蓄電池及び前記蓄電装置の充放電量及び充電率、並びに前記船内蓄電池及び前記蓄電装置の温度を制約条件として設定することと、
前記制約条件のもとに、前記区間ごとの対水船速を制御変数とし、前記第1地点から前記第2地点に到着するまでの運航コストを目的関数として、前記目的関数を最小とする前記区間ごとの対水船速配分と前記船内蓄電池及び前記蓄電装置の充放電量とを解として得る最適化計算を行うことと、
を含み、
前記運航コストは、前記船舶の航行に関するコストと、前記蓄電装置の充放電に関するコストとを含む、船舶の運航支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の運航支援システム及び船舶の運航支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船内蓄電池の電力を用いて推進するハイブリッド型の船舶が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2等参照)。このようなハイブリッド型の船舶では、船内蓄電池の電力を効率的に使用するための船舶の運用システムが搭載されている。また、可搬式の蓄電装置を有する電気自動車を積載して運航する船舶において、蓄電装置を電力源として使用する構成が知られている(例えば、特許文献3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−209018号公報
【特許文献2】特開2015−003658号公報
【特許文献3】特許第5455765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような船舶の運航支援システムは、船内蓄電池の電力を効率的に使用することに加えて、1回の運航に要する運航コストを抑えることが求められる。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、1回の運航に要する運航コストを抑制することが可能な船舶の運航支援システム及び船舶の運航支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る船舶の運航支援システムは、船内蓄電池を備え、蓄電装置を有する積載物を積載して第1地点から第2地点までの航路を運航し、前記蓄電装置に対して充放電を行うことが可能な船舶の運航支援システムであって、前記運航に要する時間、前記航路を複数の区間に分割した場合の前記区間ごとの対水船速、前記船舶の船内電力需要、前記船舶の出力、前記区間ごとの前記船内蓄電池及び前記蓄電装置の充放電量及び充電率、並びに前記船内蓄電池及び前記蓄電装置の温度を制約条件として設定する制約条件設定部と、前記制約条件のもとに、前記区間ごとの対水船速を制御変数とし、前記第1地点から前記第2地点に到着するまでの運航コストを目的関数として、前記目的関数を最小とする前記区間ごとの対水船速配分と前記船内蓄電池及び前記蓄電装置の充放電量とを解として得る最適化計算を行う演算部と、を備え、前記運航コストは、前記船舶の航行に関するコストと、前記蓄電装置の充放電に関するコストとを含む。
【0007】
本発明によれば、船内蓄電池及び積載物の蓄電装置からの電力を活用することが可能な船舶において、蓄電装置に関する条件を含む制約条件のもとに、目的関数(運航コスト)を最小化する対水船速配分及び充放電量を解として得る最適化計算を行うため、船内蓄電池の必要容量を低減しつつ、1回の運航に要する運航コストを低減することが可能な船舶の運航支援システムが得られる。
【0008】
また、前記船舶は、船内発電装置を有し、前記船内電力需要は、前記船内発電装置の発電出力と、前記船内蓄電池の出力と、前記蓄電装置の出力との和であってもよい。
【0009】
本発明によれば、船内電力需要として、蓄電装置に関する条件を含む制約条件とすることにより、運航コストを最小化する船速配分及び充放電量の値を高精度に算出可能となる。
【0010】
また、前記船内発電装置は、再生エネルギー発電装置を含んでもよい。
【0011】
これにより、省エネルギー化を図ることができるため、運航コストをより低減することができる。
【0012】
また、前記演算部は、前記航路の気象予報情報に基づいて前記再生エネルギー発電装置の発電量の予測値を算出してもよい。
【0013】
これにより、運航コストをより正確に求めることができる。これにより、運航コストを最小化する船速配分及び充放電量の値を高精度に算出可能となる。
【0014】
本発明に係る船舶の運航支援方法は、船内蓄電池を備え、蓄電装置を有する積載物を積載して第1地点から第2地点までの航路を運航し、前記蓄電装置に対して充放電を行うことが可能な船舶の運航支援方法であって、前記運航に要する時間、前記航路を複数の区間に分割した場合の前記区間ごとの対水船速、前記船舶の船内電力需要、前記船舶の出力、前記区間ごとの前記船内蓄電池及び前記蓄電装置の充放電量及び充電率、並びに前記船内蓄電池及び前記蓄電装置の温度を制約条件として設定することと、前記制約条件のもとに、前記区間ごとの対水船速配分を制御変数とし、前記第1地点から前記第2地点に到着するまでの運航コストを目的関数として、前記目的関数を最小とする前記区間ごとの対水船速と前記船内蓄電池及び前記蓄電装置の充放電量とを解として得る最適化計算を行うことと、を含み、前記運航コストは、前記船舶の航行に関するコストと、前記蓄電装置の充放電に関するコストとを含む。
【0015】
本発明によれば、船内蓄電池及び積載物の蓄電装置からの電力を活用することが可能な船舶において、蓄電装置に関する条件を含む制約条件のもとに、目的関数(運航コスト)を最小化する対水船速配分及び充放電量を解として得る最適化計算を行うため、船内蓄電池の必要容量を低減しつつ、1回の運航に要する運航コストを低減することが可能な船舶の運航支援システムが得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、運航コストを抑制することが可能な船舶の運航支援システム及び船舶の運航支援方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、船舶の運航支援システムの一例を示すブロック図である。
図2図2は、制御装置における処理の流れを示すブロック図である。
図3図3は、船舶に接続予定の自動車情報の一例を示す表である。
図4図4は、制約条件設定部で設定される制約条件と、演算部の演算に用いられる制御変数及び目的関数の内容を具体的に示す表である。
図5図5は、第1地点から第2地点に到着するまでの運航コストが最小となるように、区間ごとに配分された船速を示す図である。
図6図6は、区間ごとに配分された船速で航海したときの区間と船速との関係を示す図である。
図7図7は、船舶の運航支援方法の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、ステップS20における処理をより詳細に示すフローチャートである。
図9図9は、ステップS120における処理をより詳細に示すフローチャートである。
図10図10は、複数の候補航路の例を示す図である。
図11図11は、複数の候補航路の中から最適航路を選定するための処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る船舶の運航支援システム及び船舶の運航支援方法の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0019】
図1は、船舶の運航支援システムSYSの一例を示すブロック図である。運航支援システムSYSは、船舶10と、制御装置30とを備えている。運航支援システムSYSは、例えば船舶10の航海計画、気象・海象予報情報、及び初期条件(例えば、船速配分)に基づいて船舶の運航を支援するものである。
【0020】
船舶10は、船内蓄電池を有する電気推進船、ハイブリッド推進船等である。具体的には、自動車運搬船、カーフェリー、客船、艦船等が挙げられる。船舶10は、船舶10を推進させるためのメインエンジンである主機関11と、主機関11から得られる動力により発電するタービン発電機等の発電機12と、主機関11とは独立して構成されたディーゼル発電機等の発電機13と、太陽光発電装置等の直流電力を生じる再生エネルギー発電装置14と、風力発電装置等の交流電力を生じる再生エネルギー発電装置15と、これら発電機12、13、再生エネルギー発電装置14、15により生じた電力を蓄電可能な船内蓄電池17とを有する。
【0021】
船舶10は、蓄電装置を有する積載物を積載して第1地点P1から第2地点P2までの所定の航路(図6等参照)を運航する。本実施形態において、蓄電装置を有する積載物としては、例えば自動車蓄電池(又は自動車用蓄電池)18を有する電気自動車、ハイブリッド自動車等が挙げられる。なお、蓄電装置を有する積載物として、自動車蓄電池18とは異なる他の可搬式蓄電システムを有する積載物であってもよい。
【0022】
船舶10は、交流系統22及び直流系統23を有する。交流系統22と直流系統23とは、DC/ACコンバータ21を介して接続される。交流系統22には、発電機12、13と、再生エネルギー発電装置15、推進装置16と、その他の交流系統の負荷(AC負荷)19とが接続される。直流系統23には、再生エネルギー発電装置14と、船内蓄電池17と、その他の直流系統の負荷(DC負荷)20とが接続される。また、直流系統23には、上記の自動車蓄電池18が接続可能となっている。直流系統23に自動車蓄電池18が接続された場合、自動車蓄電池18に対して充放電が可能となる。
【0023】
船舶10では、発電機12、13、再生エネルギー発電装置14、15により生じた電力が、船内蓄電池17に充電され、又は推進装置16、その他の交流系統の負荷19、その他の直流系統の負荷20等により消費される。直流系統23に自動車蓄電池18が接続される場合には、発電機12、13、再生エネルギー発電装置14、15により生じた電力が自動車蓄電池18に充電可能となる。
【0024】
制御装置30は、第1地点P1から第2地点P2までの航路を複数の区間に分割し、該区間ごとの対水船速を算出する。図2は、制御装置30における処理の流れを示すブロック図である。制御装置30は、入力される各種情報に基づいて所定の制約条件を設定する制約条件設定部31と、設定された制約条件のもとに、区間ごとの対水船速及び船内蓄電池17及び自動車蓄電池18の充放電量の最適値を算出する演算部32と、演算部32における演算の初期条件を設定する初期条件設定部33とを有する。
【0025】
図2に示すように、制約条件設定部31は、例えば、運航計画情報A1、海象予報情報A2、気象予報情報A3、過去の電力使用実績情報A4、大規模負荷設備の利用計画情報A5、接続予定の自動車情報A6等の情報が入力される。制約条件設定部31は、入力された各情報に基づいて、制約条件を設定して出力する。
【0026】
運航計画情報A1は、例えば出航時刻、入港時刻、航路、船速制限区画、喫水、トリム、及び水深のうち少なくとも1つの情報を含む。海象予報情報A2は、例えば風向、風速、潮流(流速及び方向)、海流、波高、及び波向のうち少なくとも1つの情報を含む。気象予報情報A3は、例えば天気、気温、日射量のうち少なくとも1つの情報を含む。海象予報情報A2及び気象予報情報A3は、例えば航路上の各ウェイポイントWPの出航時刻から次のウェイポイントWPの到着時刻までのものであり、航路全域にわたり入手されてもよい。過去の電力使用実績情報A4は、過去の運航における電力使用実績のデータを含む。大規模負荷設備の利用計画情報A5は、船舶10のうち負荷の大きい推進装置16、客室電力、空調電力又は補機電力等の設備の電力利用計画データを含む。接続予定の自動車情報A6は、自動車の仕様、台数、自動車蓄電池18の充電率等が挙げられる。
【0027】
また、制約条件設定部31は、入力された海象予報情報A2について、各ウェイポイントWP(図6等参照)の時間ステップ毎の値に変換し、変換した情報B1を出力する。制約条件設定部31は、入力された気象予報情報A3に基づいて再生エネルギー発電装置14、15における発電量を予測し、予測結果情報B2を出力する。制約条件設定部31は、入力された気象予報情報A3、過去の電力使用実績情報A4及び大規模負荷設備の利用計画情報A5に基づいて、船内電力需要を予測し、予測結果情報B3を出力する。
【0028】
なお、上記の各種情報A1、A2、A3、A4、A5、A6については、それぞれ更に詳細にカテゴライズしてもよい。図3は、船舶に接続予定の自動車情報A6の一例を示す表である。図3に示すように、接続予定の自動車情報A6としては、車についての情報と、蓄電池についての情報と、その他の情報とに分類される。車についての情報としては、車種、排気量、モータ出力、満充電時の走行距離、経済性(例えば、1km走行時の費用)、環境性(1km走行時のCO排出量)等の各項目が挙げられる。車種については、電気自動車の例と、プラグインハイブリッド車の例と、電源車の例とにカテゴライズされている。
【0029】
また、蓄電池についての情報としては、種類、容量、使用年数、劣化状態等の項目が挙げられる。蓄電池の種類については、リチウムイオンの例と、鉛の例と、ニッケル水素の例とにカテゴライズされている。また、その他の情報としては、充電設備、課金方法等の項目が挙げられる。充電設備については、コンセント型、ケーブル型、急速型の設備にカテゴライズされている。課金方法については、時間毎の課金、充放電量毎の課金にカテゴライズされている。このように、自動車情報について多方向からカテゴライズすることにより、演算部32においてより精度の高い解を得ることができる。なお、図3に示す自動車情報は一例であり、上記記載内容に限定されるものではない。
【0030】
図4は、制約条件設定部31で設定される制約条件と、演算部32の演算に用いられる制御変数及び目的関数の内容を具体的に示す表である。制約条件設定部31は、上記各種情報A1、A2、A3、A4、A5、A6、B1、B2、B3に基づいて、例えば運航に要する時間、航路を複数の区間に分割した場合の区間ごとの対水船速、船舶10の船内電力需要、船舶10の出力、区間ごとの船内蓄電池17及び自動車蓄電池18の充放電量及び充電率、並びに船内蓄電池17及び自動車蓄電池18の温度、等の制約条件を設定する。
【0031】
具体的には、運航に要する時間についての制約条件としては、例えば到着時刻から出発時刻を差し引いた総航海時間と、途中区間の通過時刻とを含む。航路を複数の区間に分割した場合の区間ごとの対水船速の制約条件としては、例えば区間ごとの対水船速の上限及び下限を含む。船舶10の船内電力需要の制約条件としては、例えば発電機12、13及び再生エネルギー発電装置14、15の出力と、船内蓄電池17の出力と、自動車蓄電池18の出力との和である。船舶10の出力の制約条件としては、例えば主機関11、発電機12及び推進装置16等の船内主要機器の区間ごとの最大出力を含む。区間ごとの船内蓄電池17及び自動車蓄電池18の充放電量及び充電率の制約条件としては、充放電量の最大値及び最小値、充電率の上限及び下限、充放電率の最終値を含む。船内蓄電池17及び自動車蓄電池18の温度の制約条件としては、船内蓄電池17、自動車蓄電池18に設定される温度条件を含む。
【0032】
演算部32は、制約条件設定部31から出力される制約条件が入力される。演算部32は、入力される制約条件のもとに、区間ごとの対水船速を制御変数とし、第1地点P1から第2地点P2に到着するまでの運航コストを目的関数として、当該目的関数を最小とする区間ごとの対水船速と、船内蓄電池17及び自動車蓄電池18の充放電量を解として算出する最適化計算を行い、計算結果を出力する。
【0033】
図4に示すように、運航コストは、船舶の航行に関するコストと、自動車蓄電池18の充放電に関するコストとの和である。具体的には、船舶の航行に関するコストは、例えば船内機器の起動停止に要するコストと、船舶10の運転に要するコストと、船舶10のメンテナンスに要するコストとの和である。また、自動車蓄電池18の充放電に関するコストは、自動車蓄電池18から電力を放電する場合に自動車の所有者に支払う費用(放電料)から、自動車蓄電池18に充電する場合に自動車の所有者から受け取る費用(充電料)を差し引いた値である。
【0034】
演算部32は、最大船速が制限される船速制限区間を除く区間のうち、少なくとも2つの区間において対水船速が一定である対水船速一定条件を最適化計算の初期条件として用いるように構成される。図5は、第1地点P1から第2地点P2に到着するまでの運航コストが最小となるように、区間ごとに配分された船速を示す図である。図6は、区間ごとに配分された船速で航海したときの区間と船速との関係を示す図である。
【0035】
図6に示すように、航路には、第1地点P1から第2地点P2までの間に複数の区間(本実施形態では第1区間から第10区間の10区間)が設定される。なお、複数の区間のうち第4区間及び第7区間は、船速制限区間である。また、各区間には、複数のウェイポイントWPが設定される。ウェイポイントWPは、例えば各区間内に距離が一定となるように均等に割り当てられる。なお、ウェイポイントWPは、距離が一定になるような割り当てに限定されるものではなく、例えば海象予報情報A2及び気象予報情報A3を取得可能な地点に設定されてもよい。また、ウェイポイントWPの設定は、演算部32によって行われてもよいし、外部機器において設定されたウェイポイントWPが任意のインターフェースを介して演算部32に入力されてもよい。
【0036】
演算部32は、所定の運航コスト計算モデルを用いて最適値を算出する。例えば、海象予報情報A2、気象予報情報A3等の情報に基づく制約条件については、ウェイポイントWP毎に設定される制約条件を適用することができる。また、演算部32は、初期条件によって規定される各区間の船速(船速初期値)について全区間における運航コストを算出し、船速配分及び船内蓄電池17及び自動車蓄電池18の充放電量を変更する。そして、演算部32は、変更後の値に基づいて運航コストの算出を繰り返し行うことで、上記の制約条件を満たし、かつ、運航コストが最小となる対水船速配分C1及び充放電量(充放電計画)C2(図2参照)を算出する。なお、演算部32は、最適化計算のアルゴリズムとして、内点法、逐次二次計画法等の公知のアルゴリズムを採用可能である。
【0037】
図5に示す例では、最大船速が制限される第4区間及び第7区間を除く第1区間から第3区間、第5区間及び第6区間、並びに第8区間から第10区間において対水船速が一定である対水船速一定条件が最適化計算の初期条件として用いられる。このようにすれば、最適化計算の解の収束性が高まり、第1地点P1から第2地点P2までの運航コストが最小となる対水船速配分C1及び充放電量C2を区間ごとに求めることができる。
【0038】
なお、図6には、対水船速一定条件の例を示しており、最大船速が制限される第4区間及び第7区間を除く第1区間から第3区間、第5区間及び第6区間、並びに第8区間から第10区間において一定である。尚、対水船速が一定で航海する場合であっても各区間において潮流の影響を受けるので、大部分において対地船速は一定にはならない。
【0039】
上記の構成によれば、最大船速が制限される船速制限区間を除く区間のうち少なくとも2つの区間において対水船速が一定である対水船速一定条件を最適化計算の初期条件として用いる。上記初期条件は、初期条件設定部33において設定される。このため、最適化計算の解の収束性が高まり、第1地点P1から第2地点P2に到着するまでの運航コストを最小にする対水船速配分C1及び充放電量C2を区間ごとに求めることができる。
【0040】
次に、本実施形態に係る船舶10の運航支援方法を説明する。船舶10の運航支援方法は、第1地点P1から第2地点P2までの航路を複数の区間に分割し、該区間ごとの対水船速配分C1及び充放電量C2を算出する。図7は、船舶10の運航支援方法の一例を示すフローチャートである。図7に示すように、船舶10の運航支援方法は、制約条件を設定する工程(ステップS10)と、対水船速配分C1及び充放電量C2を演算する工程(ステップS20)とを含む。
【0041】
ステップS10において、制約条件設定部31は、制約条件を設定するための上記各種情報A1、A2、A3、A4、A5、A6、B1、B2、B3に基づいて、例えば運航に要する時間、航路を複数の区間に分割した場合の区間ごとの対水船速、船舶10の船内電力需要、船舶10の出力、区間ごとの船内蓄電池17及び自動車蓄電池18の充放電量及び充電率、並びに船内蓄電池17及び自動車蓄電池18の温度、等の制約条件を設定する。制約条件設定部31は、設定した制約条件を出力する。
【0042】
ステップS20において、演算部32は、制約条件設定部31から出力される制約条件のもとに、区間ごとの対水船速を制御変数とし、第1地点P1から第2地点P2に到着するまでの運航コストを目的関数として、当該目的関数を最小とする区間ごとの対水船速配分C1と、船内蓄電池17及び自動車蓄電池18の充放電量C2を解として算出する最適化計算を行い、計算結果を出力する。
【0043】
図8は、ステップS20における処理をより詳細に示すフローチャートである。図8に示すように、ステップS20においては、まず、最大船速条件、最小船速条件、実測船速条件、及び対水船速条件の中から条件が設定される(ステップS110)。条件が設定されると、区間ごとに初期値が算出され、区間ごとに初期値が設定される(ステップS120)。次に、条件ごとに最適化計算が実行され(ステップS130)、条件ごとに運航コストが最小となる解が算出される(ステップS140)。次に、運航コストが最小となる条件を抽出し(ステップS150)、抽出された計算条件で求められた解(区間ごとの対水船速配分C1及び充放電量C2)を最適解として出力する(ステップS160)。
【0044】
なお、上記ステップST120においては、最大船速が制限される船速制限区間を除く区間のうち少なくとも二つの区間において対水船速が一定である対水船速一定条件を最適化計算の初期条件として用いてもよい。これにより、解の収束性が高まり、第1地点P1から第2地点P2に到着するまでの運航コストを最小にする船速を区間ごとに求めることができる。
【0045】
図9は、ステップS120における処理をより詳細に示すフローチャートである。図9に示すように、まず、船速制限区画を除く区間について初期対水船速を設定する(ステップS121)。つぎに、設定された初期対水船速で航海した場合における第2地点P2への到着時刻を求める(ステップS122)。求めた到着予定時刻と目標到着時刻との差が許容範囲内の場合(ステップS123のYES)には設定された初期対水船速を対水船速とする(ステップS124)。一方、求めた到着予定時刻と目標到着時刻との差が許容範囲内でない場合(ステップS123のNO)には許容範囲内に収まるように初期対水船速を補正する(ステップS125)。そして、補正した初期対水船速で航海した場合における第2地点P2への到着予定時刻と目標到着時刻との差が許容範囲内となった場合(ステップS123のYES)に補正した初期対水船速を対水船速とする(ステップS124)。
【0046】
以上のように、本実施形態に係る船舶10の運航支援システムSYSは、船内蓄電池17を備え、自動車蓄電池18等の蓄電装置を有する積載物(電気自動車等)を積載して第1地点P1から第2地点P2までの航路を運航し、蓄電装置に対して充放電を行うことが可能であり、運航に要する時間、航路を複数の区間に分割した場合の区間ごとの対水船速、船舶10の船内電力需要、船舶10の出力、区間ごとの船内蓄電池17及び自動車蓄電池18の充放電量及び充電率、並びに船内蓄電池17及び自動車蓄電池18の温度を制約条件として設定する制約条件設定部31と、上記の制約条件のもとに、区間ごとの対水船速を制御変数とし、第1地点P1から第2地点P2に到着するまでの運航コストを目的関数として、当該目的関数を最小とする区間ごとの対水船速と、船内蓄電池17及び自動車蓄電池18の充放電量を解として算出する最適化計算を行う演算部32と、を備え、運航コストは、船舶10の航行に関するコストと、自動車蓄電池18等の蓄電装置の充放電に関するコストとを含む。
【0047】
これにより、船内蓄電池17及び自動車蓄電池18等の蓄電装置からの電力を活用することが可能な船舶10において、自動車蓄電池18等の蓄電装置に関する条件を含む制約条件のもとに、目的関数(運航コスト)を最小化する対水船速配分C1及び充放電量C2を解として得る最適化計算を行うため、船内蓄電池17の必要容量を低減しつつ、1回の運航に要する運航コストを低減することが可能な運航支援システムSYSが得られる。なお、自動車蓄電池18等の蓄電装置の電力を船舶10側に供給する場合、つまり、蓄電装置を放電する場合には、船舶10の所有者側から自動車蓄電池18等の蓄電装置の所有者に対して報酬等を供与することにより、船舶10側に電力を供給するためのインセンティブを生じさせることができる。
【0048】
また、本実施形態に係る船舶10の運航支援システムSYSにおいて、船舶10は、船内発電装置である発電機12、13を有し、制約条件である船内電力需要が、発電機12、13等を含む船内発電装置の発電出力と、船内蓄電池17の出力と、自動車蓄電池18等の蓄電装置の出力との和であるため、船内電力需要として、自動車蓄電池18等の蓄電装置に関する条件を含む制約条件とすることにより、運航コストを最小化する対水船速配分C1及び充放電量C2の値を高精度に算出可能となる。
【0049】
また、本実施形態に係る船舶10の運航支援システムSYSにおいて、船内発電装置は、再生エネルギー発電装置14、15を含むため、省エネルギー化を図ることができる。これにより、運航コストをより低減することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る船舶10の運航支援システムSYSは、航路の気象予報情報A3に基づいて再生エネルギー発電装置14、15の発電量の予測値を算出するため、運航コストをより正確に求めることができる。これにより、運航コストを最小化する対水船速配分及び充放電量の値を高精度に算出可能となる。
【0051】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、上述の実施形態では、予め定められた航路の各区間への対水船速配分C1及び充放電量C2を最適化するものであったが、航路選択の自由度が比較的高い場合、演算部32は、複数の候補航路の中から運航コストが最小となる最適航路を選定するように構成されてもよい。
【0052】
図10は、変形例に係る複数の候補航路の例を示す図である。図10に示すように、候補航路A、候補航路B及び候補航路Cは、それぞれ、複数の区間に区分され、各区分内には複数のウェイポイントWPが設定されている。演算部32は、候補航路A、候補航路B及び候補航路Cのそれぞれについて、対水船速配分C1及び充放電量C2の最適化計算を行い、候補航路A、候補航路B及び候補航路Cの中から目的関数(運航コスト)が最小となる最適航路を選定するように構成される。
【0053】
演算部32は、候補航路A、候補航路B及び候補航路Cのそれぞれについて、初期条件によって規定される各区間の船速(船速初期値)について全区間における運航コストを算出し、船速配分及び充放電量を変更して運航コストの算出を繰り返し行うことで、制約条件(例えば、第2地点P2への目標到着時刻(目標航海時間)や各区間の最大船速制限および最小船速制限等)を満たし、かつ運航コストが最小となる対水船速配分C1及び充放電量C2を候補航路A、候補航路B及び候補航路C毎に算出する。このような最適化計算によって候補航路A、候補航路B及び候補航路C毎に得られた運航コストの最小値を比較し、運航コストが最小となるものを最適航路として選定する。
【0054】
図11は、複数の候補航路の中から最適航路を選定するための処理を示すフローチャートである。図11に示すように、まず、複数の候補航路を設定する(ステップS210)。この際、候補航路としては、例えば船舶の渋滞予測結果、季節的要因、または、突発的要因(台風、事故等)等の有無に基づいて設定してもよい。次に、設定した複数の候補航路について船速配分及び充放電量の最適化計算を実施し、制約条件を満たし、かつ運航コストが最小となる対水船速配分C1及び充放電量C2を候補航路毎に算出する(ステップS220)。次に、各候補航路について行った最適計算結果を比較し、運航コストが最小となる航路を最適航路として選定する(ステップS230)。このように、複数の候補航路の中から、運航コストを最小とする航路(最適航路)と、該最適航路のための対水船速配分C1及び充放電量C2の最適化計算結果と、が得られる。
【0055】
また、上記実施形態においては、演算部32は、出港地点である第1地点P1と入港地点である第2地点P2との間の各区間について対水船速配分C1及び充放電量C2を算出する例を説明したが、これに限定されない。例えば、演算部32は、船舶10が第1地点P1と第2地点P2との間に位置する中間地点に到達した場合、当該中間地点と第2地点P2との間の区間について最適化計算を再び行い、中間地点と第2地点P2との間の各区間について対水船速配分C1及び充放電量C2を算出し直すように構成されてもよい。
【0056】
また、上記実施形態においては、自動車蓄電池18等の蓄電装置を利用して1航海の航路全体の運航コストの最小化を図る構成を例に挙げて説明したが、これに限定するものではない。例えば、航路のうちある特定の区間や期間において特別な要求がなされる場合であって、予めその内容が既知である場合には、上記実施形態における最適化計算の初期設定条件等に加えてもよい。例えば停泊中の区間において荷役中の消費電力のピークを極力低減する要求がなされる場合や、砕氷船等において所定の区間でパルス的な負荷変動が生じる場合、艦船等において所定の区間で高出力パルス兵器を使用するため全蓄電池の使用可能な電力を一気に放電する場合等が挙げられる。
【符号の説明】
【0057】
10 船舶
11 主機関
12,13 発電機
14,15 再生エネルギー発電装置
16 推進装置
17 船内蓄電池
18 自動車蓄電池
19,20 負荷
21 DC/ACコンバータ
22 交流系統
23 直流系統
30 制御装置
31 制約条件設定部
32 演算部
33 初期条件設定部
A,B,C 候補航路
A1 運航計画情報
A2 海象予報情報
A3 気象予報情報
A4 過去の電力使用実績情報
A5 大規模負荷設備の利用計画情報
A6 接続予定の自動車情報
B1,B2,B3 情報
C1 対水船速配分
C2 充放電量
P1 第1地点
P2 第2地点
SYS 運航支援システム
WP ウェイポイント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11