特許第6782649号(P6782649)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6782649
(24)【登録日】2020年10月22日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】超音波撮像装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20201102BHJP
【FI】
   A61B8/00
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-37254(P2017-37254)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-140061(P2018-140061A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩章
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏樹
【審査官】 永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0168575(US,A1)
【文献】 国際公開第2005/120359(WO,A1)
【文献】 特開2016−202327(JP,A)
【文献】 特開2013−126069(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/111013(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0083119(US,A1)
【文献】 特開2015−100472(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0146502(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/144243(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0331699(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探触子として静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサを使用する超音波撮像装置であって、
直流バイアス電圧と、交流駆動電圧とを前記静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサの電極間に印加することで超音波の送信を行い、
符号、振幅、または位相の異なる超音波波形を、走査線1本辺り2種類以上送受信することにより撮像を行う、
送受信制御部を有し、
前記2種類以上の送信超音波のうち少なくとも1種類の送信超音波には、
高周波パルス波形と、
前記高周波パルス波形より長周期であり、直流バイアス電圧との合計電圧がプルイン電圧以下となるような電圧振幅からなり、任意の関数に従い滑らかに変化する低周波波形と、
を加算した電圧波形を前記交流駆動電圧として使用し、
他方の送信超音波には、前記高周波パルス波形のみからなる電圧波形を前記交流駆動電圧として使用し、
複数回の超音波送信後、受信した超音波信号各々に対し、対応する送信音圧振幅に応じた係数を乗じた後に加算し、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタにより、受信信号中の低周波成分を除去し、
前記送信超音波として、振幅が最大となる第1送信超音波と、振幅が最小となる第2送信超音波とを含む音圧波形を送信する、超音波撮像装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波撮像装置において、
前記高周波パルス波形として、正電圧の先行パルスと、正電圧または負電圧からなる1つまたは複数のメインパルスと、正電圧の後続パルスとを時間的に連続して出力し、
前記先行パルスの電圧最大値と前記直流バイアス電圧との合計が、前記静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサのプルイン電圧を超える、超音波撮像装置。
【請求項3】
請求項2記載の超音波撮像装置において
記第1送信超音波と前記第2送信超音波とは、
音圧振幅の比が、1対1/3以上、1対1以下となり、
符号の正負が反転する、超音波撮像装置。
【請求項4】
請求項記載の超音波撮像装置において、
前記複数のメインパルスのうち前記先行パルスの直後に出力されるメインパルスが、負電圧からなる、超音波撮像装置。
【請求項5】
請求項記載の超音波撮像装置において、
前記後続パルスの電圧最大値と前記直流バイアス電圧との合計が、前記静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサのプルイン電圧を超える、超音波撮像装置。
【請求項6】
請求項1記載の超音波撮像装置において、
前記任意の関数は、台形波、cos関数、cosのn乗、またはガウス関数である、超音波撮像装置。
【請求項7】
超音波探触子として静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサを使用する超音波撮像装置であって、
前記静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサに対して、2回の送信波形のうち少なくとも一方には高周波パルス波形に低周波成分を重畳して送信し、残る他方には前記高周波パルス波形のみを送信する送受信制御部を有し、
前記低周波成分の電圧成分は、前記静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサの振動膜の初期位置を調整する電圧であり、
前記2回の送信波形の送波直前に一瞬、前記静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサのプルイン電圧を超える電圧を印加する、超音波撮像装置。
【請求項8】
請求項記載の超音波撮像装置において、
前記低周波成分は、前記2回の送信波形の送信に対する受信後の加算処理の後に、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタにより除去する、超音波撮像装置。
【請求項9】
請求項記載の超音波撮像装置において、
前記2回の送信波形のうちの第1送信波形と第2送信波形とは、音圧振幅の比が1対1/3以上、1対1以下となり、符号の正負が反転する、超音波撮像装置。
【請求項10】
請求項記載の超音波撮像装置において、
前記プルイン電圧を超える電圧を印加した後に、電圧をマイナス側限度まで下げる、超音波撮像装置。
【請求項11】
請求項10記載の超音波撮像装置において、
前記電圧をマイナス側限度まで下げた後に、前記プルイン電圧を超える電圧を印加して前記振動膜を引き戻す、超音波撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波撮像装置に関し、例えば超音波探触子として静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサを使用する超音波撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高周波パルス信号に一定周期の直流バイアス信号を重畳させて静電容量型超音波振動子に印加し、直流バイアス信号の電圧値を調整し、高い音圧を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2005/120359号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波撮像装置においては、例えば超音波探触子として静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサを使用する超音波撮像装置がある。このような超音波撮像装置において、近年の表在組織の画像診断には、THI(Tissue Harmonic Imaging)による高精細な画像が必須であり、その実現にあたり画像のS/N(Signal to Noise ratio)向上が必要である。
【0005】
例えば、上述した特許文献1の技術では、超音波振動子に、高周波パルス信号に直流バイアス信号を重畳させて印加しているが、振動膜の可動範囲を使いきれず、高音圧化による画像のS/N向上には不向きである。
【0006】
本発明の目的は、高音圧化による画像のS/N向上を実現する超音波撮像装置を提供することにある。
【0007】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴については、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0009】
一実施の形態における超音波撮像装置は、超音波探触子として静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサを使用する超音波撮像装置である。この超音波撮像装置は、直流バイアス電圧と、交流駆動電圧とを静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサの電極間に印加することで超音波の送信を行い、符号、振幅、または位相の異なる超音波波形を、走査線1本辺り2種類以上送受信することにより撮像を行う、送受信制御部を有する。そして、2種類以上の送信超音波のうち少なくとも1種類の送信超音波には、高周波パルス波形と、高周波パルス波形より長周期であり、直流バイアス電圧との合計電圧がプルイン電圧以下となるような電圧振幅からなり、任意の関数などに従い滑らかに変化する低周波波形と、を加算した電圧波形を交流駆動電圧として使用する。例えば、台形波、cos関数、cosのn乗、またはガウス関数を用いると好適である。
【0010】
一実施の形態における別の超音波撮像装置は、超音波探触子として静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサを使用する超音波撮像装置である。この超音波撮像装置は、静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサに対して、2回の送信波形のうち少なくとも一方に低周波成分を重畳して送信する送受信制御部を有する。そして、低周波成分の電圧成分は、静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサの振動膜の初期位置を調整する電圧である。
【発明の効果】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0012】
一実施の形態によれば、高音圧化による画像のS/N向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態における超音波撮像装置の構成の一例を示すブロック図である。
図2】実施の形態における超音波撮像装置に使用される超音波トランスデューサの構造の一例を示す垂直断面図である。
図3】実施の形態における超音波撮像装置に使用される超音波トランスデューサアレイおよび超音波探触子の一例を示す斜視図である。
図4】実施の形態における超音波撮像装置において、送信、受信および信号処理の流れの一例を概略的に示す説明図である。
図5】実施の形態における超音波撮像装置において、振動膜の変位の一例を示す説明図である。
図6】(a)〜(c)は実施の形態における超音波撮像装置において、超音波トランスデューサの駆動電圧、振動膜の変位、および媒体に対する音圧の一例を示す説明図である。
図7】(a)〜(c)は実施の形態における超音波撮像装置において、超音波トランスデューサの駆動電圧、振動膜の変位、および媒体に対する音圧の一例を示す説明図である。
図8】実施の形態における超音波撮像装置において、送信超音波に対応する超音波トランスデューサの駆動電圧の一例を示す説明図である。
図9】実施の形態における超音波撮像装置において、送信超音波に対応する超音波トランスデューサの駆動電圧を印加する手順の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために、平面図であってもハッチングを付す場合があり、また断面図であってもハッチングを省略する場合がある。
【0015】
[実施の形態]
実施の形態について、図1図9を用いて説明する。本実施の形態は、超音波探触子として静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサ(CMUT:Capacitive Micro-machined Ultrasonic Transducer)を使用する超音波撮像装置である。以下において、静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサを、単に超音波トランスデューサまたはCMUTなどとも記載する。
【0016】
<超音波撮像装置>
まず、実施の形態における超音波撮像装置について、図1を用いて説明する。図1は、実施の形態における超音波撮像装置の構成の一例を示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように、超音波撮像装置は、超音波探触子1、送受信切替スイッチ2、送信アンプ3、受信アンプ4、直流電源5、D/Aコンバータ6、A/Dコンバータ7、送信ビームフォーマ8、受信ビームフォーマ9、電源10、電圧リミッター11、制御部12、信号処理部13、スキャンコンバータ14、表示部15、および、ユーザインターフェース16を備えている。
【0018】
超音波撮像装置は、超音波探触子1として、超音波トランスデューサ(後述する図2および図3を参照)を使用する。超音波探触子1は、送受信切替スイッチ2を介して、この超音波探触子1を備えた超音波撮像装置の送信ビームフォーマ8および受信ビームフォーマ9に接続されている。超音波探触子1は、電源10によって駆動する直流電源5、送信アンプ3および受信アンプ4により超音波ビームを形成するアレイとして動作し、超音波の送受信のために利用される。送受信信号は、制御部12により、目的に応じて制御される。
【0019】
送信信号は、制御部12で波形制御され、個々のセルやセルを束ねたチャンネルの電極に、送信ビームフォーマ8、D/Aコンバータ6および送信アンプ3を介して任意の波形や振幅および遅延時間が設定された状態で電圧が印加される。また、超音波探触子1に過大な電圧が印加しないよう、あるいは送信波形制御の目的で、電圧リミッター11を備えている。受信信号は、受信アンプ4、A/Dコンバータ7および受信ビームフォーマ9を介した後、信号処理部13にて、Bモード断層像処理、ドップラー処理あるいはTHI処理などを経て画像信号に変換され、スキャンコンバータ14を介して表示部15に表示される。また、図1に示した構成要素の一部が超音波探触子1の内部に構成要素の一部として構成してもよい。
【0020】
以下、超音波信号の送受信および画像表示までの流れを説明する。一般的に超音波撮像装置は、生体内の構造を2次元あるいは3次元で表示する。このため、超音波の送信あるいは受信においては、アレイ型の超音波探触子1を用いて、各チャンネルに電気的な遅延操作あるいは使用するチャンネル数を設定し、ビームフォーミングを行い、2次元内あるいは3次元内において超音波の焦点を走査し撮像する。これらの操作は、送信ビームフォーマ8あるいは受信ビームフォーマ9の内部にて行われる。また、様々な撮像モードに合わせてビームフォーマの制御を制御部12にて行う。
【0021】
送信時は、送信ビームフォーマ8で制御された超音波探触子1内の各チャンネルには送信アンプ3を介して電圧が印加され、各チャンネルから放射される超音波がある焦点で位相が重なるよう送信される。送信と受信とは同じ超音波探触子1を用いて交互に行うため、送受信切替スイッチ2にて送信と受信との切り替えを行う必要がある。
【0022】
受信時は、受信信号を受信アンプ4で増幅し、受信ビームフォーマ9を介して信号処理部13にて信号を検出する。信号処理部13では、各信号が整相加算され、フィルタ処理、対数圧縮、検波などという過程を経て、走査変換前の音場走査に対応した2次元画像データあるいは3次元画像データとなる。これらの画像データは、スキャンコンバータ14で走査変換され、表示部15への画像信号として出力される。以上の制御部12による制御および表示部15の調整はユーザインターフェース16を介して使用者が行うことができる。
【0023】
本実施の形態における超音波撮像装置は、制御部12と、送信ビームフォーマ8および受信ビームフォーマ9とを含む送受信制御部を有する。この送受信制御部では、詳細は後述するが、直流バイアス電圧と、交流駆動電圧とを、超音波トランスデューサの電極間に印加することで超音波の送信を行い、符号、振幅、または位相の異なる超音波波形を、走査線1本辺り2種類以上送受信することにより撮像を行う。
【0024】
<超音波トランスデューサ>
次に、実施の形態における超音波撮像装置に使用される超音波トランスデューサについて、図2および図3を用いて説明する。図2は、超音波トランスデューサの構造の一例を示す垂直断面図である。図2では、超音波トランスデューサであるCMUTの素子の一つ(CMUTセル)を示している。
【0025】
図2に示すように、超音波トランスデューサ(CMUTセル)100は、基板101、固定電極102、可動電極103、絶縁膜104、絶縁膜105、ダイアフラム層106、空隙層107、および、支持壁108を備えている。ダイアフラム層106は、超音波トランスデューサ100の振動膜として機能するので、ここでは振動膜106とも記載する。
【0026】
超音波トランスデューサ100は、シリコン単結晶や石英ガラス、ポリマなどの半導体または絶縁体からなる平板状の基板101に、アルミニウムやタングステンあるいはチタンなどの導電体からなる薄膜状の固定電極102が形成され、固定電極102の上にダイアフラム層106が形成されている。ダイアフラム層106は周縁部が基板101から立ち上がった支持壁108によって基板101に固定され、ダイアフラム層106と基板101との間には、周囲が支持壁108によって密閉された空隙層107が形成されている。空隙層107の上部には、絶縁膜105で被覆された可動電極103が配置され、可動電極103はダイアフラム層106の内部に存在する。
【0027】
可動電極103は、固定電極102と可動電極103との間に電圧(直流バイアス電圧DC+交流電圧AC)を印加した際、静電気力により、基板101側に変位する。この変位が過剰になり、可動電極103が固定電極102と接触し、導通することを防ぐために、固定電極102の上部に絶縁膜104を設けるか、もしくは可動電極103を絶縁膜105で被覆するのが好ましい。なお、仕様の要求から、設計によっては、可動電極103はダイアフラム層106の外側にはみ出している場合や、支持壁108にまで達している場合、あるいはダイアフラム層106の厚みが一定でないなど、素子形状には様々な場合が考えられる。
【0028】
ダイアフラム層106、支持壁108および絶縁膜105で被覆された可動電極103は、半導体プロセス技術で加工可能な材料で作られる。例えば、シリコン、サファイア、あらゆる形式のガラス材料、ポリマ(ポリイミドなど)、多結晶シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、金属薄膜(アルミニウム合金、銅合金、またはタングステンなど)、スピン・オン・グラス(SOG)、埋め込みドープ材または拡散ドープ材、ならびに酸化シリコンおよび窒化シリコンなどからなる積層膜である。空隙層107の内部は真空でもよいし、空気または何らかの気体を充填してもよい。定常時(非動作時)において、可動電極103と基板101との間隔(Z軸方向)は、主にダイアフラム層106、支持壁108および可動電極103の剛性によって維持されている。
【0029】
超音波トランスデューサ100は、空隙層107および絶縁膜104を挟んで、固定電極102と可動電極103とを配置した可変容量コンデンサとして動作する。可動電極103に力が加わりZ軸方向に変位すると、固定電極102と可動電極103との間隔が変わり、コンデンサの静電容量が変化する。可動電極103とダイアフラム層106とは結合しているため、ダイアフラム層106に力が加わっても、可動電極103は変位する。このとき、固定電極102と可動電極103とに電荷が蓄積されていると、固定電極102と可動電極103との間隔が変わり、両電極間の静電容量が変化するとともに、両電極間に電圧が発生する。このようにして、超音波などの何らかの力学的変位をもたらす力がダイアフラム層106に伝播すると、その変位が電気信号に変換される。
【0030】
また、固定電極102と可動電極103との間に電位差を与えると、各々異なる符合の電荷が蓄積し、静電気力により可動電極103がZ軸方向に変位する。このとき、可動電極103とダイアフラム層106とは結合しているため、ダイアフラム層106も同時に変位する。こうして、ダイアフラム層106の上部(Z軸方向)に、空気、水、プラスチック、ゴム、生体などの音響伝播媒体が存在すれば、音が放射される。すなわち、この超音波トランスデューサ100は、入力された電気信号を超音波信号に変換してダイアフラム層106に隣接した媒体へ放射し、媒体から入力された超音波信号を電気信号に変換して出力する機能を有する電気音響変換素子である。
【0031】
図3は、超音波トランスデューサアレイおよび超音波探触子の一例を示す斜視図である。図3に示すように、超音波トランスデューサアレイ200は、超音波探触子(プローブ)1の送受信面をなすものであって、基板101に、上述した微細な(例えば水平幅50μm)超音波トランスデューサ100を1つのセル(素子)として、多数のセルを形成し、所定個数ごとに結線210によって電気的に接続したものである。図3中のセルは六角形をしているが、セルの形は用途に応じて適宜変えればよい。また、超音波トランスデューサ100の個数は、図示したものに限られず、半導体製造技術やプリント基板実装技術によって更に多数の超音波トランスデューサ100のセルをより大型の基板に集積してもよい。
【0032】
なお、図3に示した超音波トランスデューサ100の配列は一例であって、蜂の巣状のほか、碁盤目状など、他の配列形態でもよい。また、配列面は、平面状または曲面状のいずれでもよく、その面形状も、円形状または多角形状などにすることができる。あるいは、超音波トランスデューサ100を、直線状または曲線状に並べてもよい。
【0033】
超音波探触子1は、例えば、複数の超音波トランスデューサ100の群を短冊状に配列してアレイ型に形成したり、複数の超音波トランスデューサ100を扇状に配列してコンベックス型に形成したりしたトランスデューサアレイ200を備える。
【0034】
また、図3に示すように、この超音波探触子1において、超音波トランスデューサ100の媒体(被検体)側には、超音波ビームを収束させる音響レンズ310と、超音波トランスデューサ100と媒体(被検体)との音響インピーダンスを整合する音響整合層320や導電性膜330を配置し、またその背面側(媒体側に対して逆)には、超音波の伝播を吸収するバッキング材340を設けて使用することができる。
【0035】
<THIによる画像>
上述したような超音波撮像装置において、近年の表在組織の画像診断には、THI(Tissue Harmonic Imaging)による高精細な画像が必須であり、その実現にあたり画像のS/N(Signal to Noise ratio)向上が必要である。
【0036】
例えば、従来技術におけるPI(Pulse Inversion)法では、原理上S/Nが他の方法と比較して高いが、同一形状で符号のみ反転した送信音圧波形が必要であり、超音波トランスデューサの動作原理上、実用的なS/Nが得られるだけの音圧を出せない。
【0037】
また、従来技術において、超音波トランスデューサの駆動には、直流バイアス電圧を交流電圧に加算して印加してダイアフラム層(振動膜)を振動させる技術もある。この従来技術では、直流バイアス電圧により振動膜は初期の空隙層の高さの25%程度凹んだ状態にあり、この位置を中心に上下に振動する。直流バイアス電圧を増加させれば凹み量は増大するが、凹み量がある限界点を超えると固定電極102と可動電極103との間に働く静電気力と、可動電極103に結合された振動膜106の弾性復元力とが釣り合わなくなり、凹み量を一定に維持できなくなった振動膜106が固定電極102と衝突する。この不安定化を静電プルインと呼び、静電プルインの発生する電圧をプルイン電圧と呼ぶ。直流バイアス電圧はこのプルイン電圧を超えてはならないため、前記の通り25%凹み状態で使用する必要がある。このような上下非対称な振動特性を持つことから、従来技術による方法では、超音波トランスデューサ100は凹む方向への音圧に比べ、膨らむ方向への音圧は1/3程度しか出せない。
【0038】
例えば、上述した特許文献1の技術でも、超音波振動子に、高周波パルス信号に直流バイアス信号を重畳させて印加しているが、単純に直流バイアス信号の電圧符号を反転させるに過ぎないため、振動膜の可動範囲を使いきれず、高音圧化による画像のS/N向上には不向きである。
【0039】
そこで、本実施の形態は、上述した特許文献1を含む従来技術の課題を解決し、高音圧化による画像のS/N向上を実現する超音波撮像装置を提供するものである。本実施の形態における技術的思想は、送信時には意図的に打ち消し誤差の出る波形を送信し、受信後の処理で低周波成分を除去する点にある。
【0040】
具体的には、第1に、PI(Pulse Inversion)法またはAMPI(Amplitude Modulation Pulse Inversion:振幅の比が1対1ではない送信音圧波形を使用したPI法)法に低周波成分を加算する方法を用いて、2回の送信超音波のうち少なくとも一方(言い換えれば、2種類以上の送信超音波のうち少なくとも1種類の送信超音波)に低周波成分を重畳して送信する。このとき、低周波成分は振動開始時のダイアフラム層(振動膜)の位置を調整することで、送信音圧を向上させる。これは、感度を向上させるのではなく、振動膜の可動範囲を広くして振動膜が膨らむ方向の音圧を出せるようにするものである。第2に、低周波成分は受信後の加算処理では除去せず、その後に、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタを通すことで除去する。第3に、音圧振幅比は任意だが、S/Nの観点から可能な限り音圧を出すことが望ましい。
【0041】
以上の本実施の形態における技術的思想に基づいて、以下において詳細に説明する。
【0042】
<送信、受信および信号処理>
図4は、実施の形態における超音波撮像装置において、送信、受信および信号処理の流れの一例を概略的に示す説明図である。実施の形態における超音波撮像装置では、AMPI法に低周波成分を加算する方法を用いる。
【0043】
上述(図2)に示したように、本実施の形態における超音波撮像装置において、送信信号は、制御部12で波形制御され、送信ビームフォーマ8、D/Aコンバータ6および送信アンプ3を介して、超音波探触子1の超音波トランスデューサ100に、所望の波形が設定された状態で駆動電圧として印加される。
【0044】
超音波トランスデューサ100に印加された駆動電圧は、超音波トランスデューサ100において、固定電極102と可動電極103との間に印加され、静電気力により可動電極103が変位する。このとき、可動電極103に結合している振動膜(ダイアフラム層)106も同時に変位する。こうして、振動膜106の表面側に存在する生体などの媒体に音圧として放射される。
【0045】
媒体に放射された音圧に対する受信信号は、受信アンプ4、A/Dコンバータ7および受信ビームフォーマ9を介した後、信号処理部13にて、画像信号に変換され、スキャンコンバータ14を介して表示部15に表示される。
【0046】
本実施の形態における超音波撮像装置は、超音波トランスデューサ100の駆動電圧として、直流バイアス電圧と、交流駆動電圧とを、超音波トランスデューサ100の固定電極102と可動電極103との間に印加することで超音波の送信を行う。この時、超音波トランスデューサ100は、駆動電圧が印加されると、振動膜106が変位する。この振動膜106の変位は、音圧となる。そして、媒体(被検体)に対する音圧として、符号、振幅、または位相の異なる超音波波形を、走査線1本辺り2種類以上送信する。この音圧の送信に対する反射信号を受信し、送受信により被検体内部組織(生体組織等)の撮像を行う。
【0047】
すなわち、本実施の形態における超音波撮像装置は、直流バイアス電圧と、交流駆動電圧とを、超音波トランスデューサ100の電極間に印加することで超音波の送信を行い、符号、振幅、または位相の異なる超音波波形を、走査線1本辺り2種類以上送受信することにより撮像を行う、送受信制御部を有する。この送受信制御部は、制御部12と、送信ビームフォーマ8および受信ビームフォーマ9とを含む部分である。
【0048】
<<送信>>
媒体(被検体)に対して音圧を送信する時は、2種類以上の送信超音波を送信する。本実施の形態では、送信超音波として、Tx1とTx2との2種類の例を図示している。これらの送信超音波のうちの少なくとも1種類の送信超音波、例えば送信超音波Tx2には、高周波パルス波形61と、低周波波形64と、を加算した電圧波形を交流駆動電圧として使用する。図4において、送信超音波Tx2の高周波パルス波形61は、送信超音波Tx1の高周波パルス波形51に対して振幅変調およびパルス反転を行い、「−1/k(k=送信音圧振幅に応じた係数)」として図示している。
【0049】
また、送信超音波Tx2の低周波波形64は、高周波パルス波形61より長周期であり、その電圧振幅とDCバイアス電圧の和がプルイン電圧以下となる電圧振幅からなり、台形波、cos(コサイン)関数、cosのn乗、またはガウス関数などに従い滑らかに変化する低周波波形とする。プルイン電圧とは、固定電極102と可動電極103との間に働く静電気力と、可動電極103に結合された振動膜106の復元力とが釣り合わなくなる限界の電圧値であり、プルイン電圧を超えた場合、振動膜を空隙内に維持することができず、振動膜は下部面に接触する。
【0050】
一方、送信超音波Tx1、Tx2のうちの他の1種類の送信超音波、例えば送信超音波Tx1には、高周波パルス波形を交流駆動電圧として使用する。図4において、送信超音波Tx1の高周波パルス波形51の振幅は、「1」として図示している。
【0051】
このように、2種類以上の送信超音波として、振幅が最大となる第1送信超音波Tx1と、振幅が最小となる第2送信超音波Tx2とを含む音圧波形を送信する。第1送信超音波Tx1と第2送信超音波Tx2とは、音圧振幅の比が、1対1/3以上、1対1以下となり、かつ、符号の正負が反転するものとする。
【0052】
<<受信>>
送信超音波Tx2の送信に対する媒体(被検体)からの受信では、図4に示すように、送信した音圧の波形61と音波が媒体を伝搬する際の非線形効果により発生した二次性高調波(ハーモニック)成分の波形62とを加算した波形63を受信する。このとき、媒質から発生する二次高調波成分は、送信した音圧の波形の大きさの2乗に比例した大きさで発生するため、図4において、送信超音波Tx2の受信波形63の二次性高調波成分62は、「a×1/k(a=媒体に依存する係数、k=送信音圧振幅に応じた係数)」として図示している。
【0053】
一方、送信超音波Tx1の送信に対する媒体(被検体)からの受信では、図4に示すように、送信した音圧の波形51と音波が媒体を伝搬する際の非線形効果により発生した二次性高調波(ハーモニック)成分の波形52とを加算した波形53を受信する。このとき、媒質から発生する二次高調波成分は、送信した音圧の波形の大きさの2乗に比例した大きさで発生するため、図4において、送信超音波Tx1の受信波形53の二次性高調波成分52は、「a×1」として図示している。ここでaは非線形効果や減衰効果を加味した係数である。1が乗算される理由は、高調波成分の生成は伝搬する音波に線形ではなく、非線形(ここでは近似的に2乗としている)に発生するからである。従って、ここでは便宜的に2乗としているが、3乗や2.5乗など様々な値を取ることが可能である。また高調波には二次だけでなく、3次、4次あるいは差周波等様々なモードが存在する。ここでは便宜的に二次高調波を例に取って説明するが、他の高調波についても同様の議論が成り立つ。
【0054】
<<信号処理>>
これらの送信超音波Tx2および送信超音波Tx1の受信波形は、画像信号に変換するために信号処理される。まず、図4において、受信した送信超音波Tx2の受信波形63は、Tx1の送信した音圧波形51と、Tx2の送信した音圧波形52の振幅を揃えるために積算(「×k」として図示)する。この積算処理により、Tx2で発生した二次高調波成分は「k×a/k」となる。一方、送信超音波Tx1の受信波形53の二次性高調波成分52は、「a×1」のままとする。これらの受信波形63と受信波形53とを加算処理することにより、Tx1で送信した音圧波形51とTx2で送信した音圧波形61は、ともに符号が反転しているためキャンセルされ、結果的に、Tx2での二次高調波成分に起因する「k×a/k」と、Tx1での二次高調波成分に起因する「a×1」が加算されたハーモニック信号の波形71と、Tx2で送信した低周波波形64に由来する低周波波形72とを加算した波形となる。このハーモニック信号の波形71と低周波波形72とを加算した波形は実線で示しており、送信超音波Tx2および送信超音波Tx1に対応する波形を加算した波形である。なお、破線で示している波形73は、送信超音波Tx1に対応する波形である。
【0055】
その後、ハーモニック信号の波形71と低周波波形72とを加算した波形に対して、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタを通して、低周波成分を除去する。これにより、低周波成分が除去されたハーモニック信号の波形71を得ることができる。図4において、ハーモニック信号の波形71を、「(1+1/k)a」として図示している。例えば、k=2のとき、ハーモニック信号の波形71は「(3/2)a」となる。このハーモニック信号の波形71は、さらに画像信号に変換される。
【0056】
これらの送信超音波Tx2と送信超音波Tx1との受信波形に基づいた信号処理では、複数回の超音波送信後、受信した超音波信号各々に対して行う。この場合に、上述したように、対応する送信音圧振幅に応じた係数「k」を送信超音波Tx2に乗じた後に加算し、その後、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタにより、受信信号中の低周波成分を除去することで、ハーモニック信号の波形71を得ることができる。
【0057】
<振動膜の変位>
図5は、実施の形態における超音波撮像装置において、振動膜の変位の一例を示す説明図である。図5では、送信超音波Tx1、Tx2に対応する波形82、92の各時間t1〜t6における振動膜106(図2に示したダイアフラム層)の変位を示している。図5において、振動膜106の変位を示す矢印は振動膜106の移動量を表しており、矢の方向に移動し、矢印の長さが移動量の大きさに比例する。また、図5における波形82、92は、後述する図6(b)および図7(b)の振動膜106の変位を示す波形82、92である。
【0058】
図5において、時間t1は初期位置である。初期位置では、送信超音波Tx1、Tx2nの両方とも、振動膜106は空隙層107の高さの25%程度凹んだ状態にある。
【0059】
時間t1から経過した時間t2では、送信超音波Tx1の方は、振動膜106は初期位置の状態を維持している。一方、送信超音波Tx2の方は、振動膜106を低速で移動させるために、振動膜106を初期位置の状態に比べてさらに凹んだ状態にする。すなわち、送信超音波Tx2の方は、振動膜106を初期位置の状態から予め凹ませて、振動膜106の移動量を拡大する。この振動膜106の移動量に比例して前記図4で示した低周波成分64に対応する音圧が発生する。
【0060】
時間t2から経過した時間t3では、送信超音波Tx1の方は、振動膜106を、初期位置の状態から、空隙層107の高さの100%程度凹ませた状態にする。一方、送信超音波Tx2の方は、振動膜106を、初期位置の状態から予め凹ませた状態から、初期位置の状態に比べて膨らむ方向に移動させる。
【0061】
時間t3から経過した時間t4では、送信超音波Tx1の方は、振動膜106を、空隙層107の高さの100%程度凹ませた状態から、初期位置の状態に比べて膨らむ方向に移動させる。一方、送信超音波Tx2の方は、振動膜106を、初期位置の状態に比べて膨らませた状態から、初期位置の状態に比べて凹む方向に移動させる。
【0062】
時間t4から経過した時間t5では、送信超音波Tx1の方は、振動膜106を、初期位置の状態に比べて膨らませた状態から、初期位置の状態に移動させる。一方、送信超音波Tx2の方は、振動膜106を、初期位置の状態に比べて凹んだ状態から、初期位置に近い方向に移動させる。
【0063】
時間t5から経過した時間t6では、送信超音波Tx1の方は、振動膜106は初期位置の状態を維持している。一方、送信超音波Tx2の方は、振動膜106を、初期位置に近い状態から、初期位置の状態に移動させる。
【0064】
このように、送信超音波Tx2は、低周波成分を加えることで、空隙層の高さを最大限に使って高周波振動(t3、t4)させることができ、高音圧化が可能となる。また低周波成分は高周波振動(t3、t4)に比べて、低速で移動させることで、発生する超音波は低周波で低音圧となり、受信後の信号処理で低周波成分を除去することが容易となる。なぜならば、音圧振幅は振動膜の速度に比例するからである。
【0065】
<超音波トランスデューサの駆動電圧、振動膜の変位、および媒体に対する音圧>
図6および図7は、実施の形態における超音波撮像装置において、超音波トランスデューサの駆動電圧、振動膜の変位、および媒体に対する音圧の一例を示す説明図である。図6は送信超音波Tx1に対応し、図7は送信超音波Tx2に対応し、それぞれ、送信超音波Tx1、Tx2毎に、時間(μs)に対して、(a)は超音波トランスデューサの駆動電圧(V)を示し、(b)は振動膜の変位(nm)を示し、(c)は媒体に対する音圧(MPa)を示している。
【0066】
上述した図5に示したような送信超音波Tx1、Tx2に対応する振動膜106の変位を得るために、超音波トランスデューサ100に対して、駆動電圧として、図6(a)に示す波形81の電圧、図7(a)に示す波形91の電圧をそれぞれ印加する。図6(a)に示す波形81の駆動電圧では、時間0.6μsまでは0Vを維持し、時間0.6μsで−25Vに減少し、時間0.67μsで+75Vに増加し、時間0.74μsで−75Vに減少し、時間0.8μs以降は0Vを維持する。図7(a)に示す波形91の駆動電圧では、時間0.6μsまでは0Vから+25Vまで緩やかに増加し、時間0.6μsで+30Vに増加し、時間0.69μsで−75Vに減少し、時間0.71μsで+50Vに増加し、時間0.8μs以降は+25Vから0Vまで緩やかに減少する。
【0067】
すると、超音波トランスデューサ100に印加された駆動電圧は、超音波トランスデューサ100において、固定電極102と可動電極103との間に印加され、静電気力により可動電極103が変位する。このとき、可動電極103に結合している振動膜106も同時に、図6(b)に示す波形82の変位、図7(b)に示す波形92の変位でそれぞれ変位する。図6(b)に示す波形82の変位では、時間0.6μsまでは−55nmの変位を維持し、時間0.6μsで−45nmに変位し、時間0.7μsで−150nmに変位し、時間0.75μsで−25nmに変位し、時間0.8μs以降は−55nmの変位を維持する。図7(b)に示す波形92の変位では、時間0.6μsまでは−50nmから−70nmまで緩やかに変位し、時間0.6μsで−75nmに変位し、時間0.7μsで−20nmに変位し、時間0.75μsで−80nmに変位し、時間0.8μs以降は−70nmから−50nmまで緩やかに変位する。
【0068】
すると、振動膜106の表面側に存在する生体などの媒体に対して、図6(c)に示す波形83の音圧、図7(c)に示す波形93の音圧がそれぞれ放射される。図6(c)に示す波形83の音圧では、時間0.6μsまでは0MPaの音圧を維持し、時間0.66μsで−0.9MPaの音圧になり、時間0.73μsで+1.2MPaの音圧になり、時間0.8μsで−0.3MPaの音圧になり、時間0.85μs以降は0MPaの音圧を維持する。図7(c)に示す波形93の音圧では、時間0.6μsまでは0MPaの音圧を維持し、時間0.66μsで+0.4MPaの音圧になり、時間0.73μsで−0.7MPaの音圧になり、時間0.78μsで+0.1MPaの音圧になり、時間0.8μs以降は0MPaの音圧を維持する。
【0069】
<送信超音波の特徴>
図8および図9は、実施の形態における超音波撮像装置において、送信超音波の特徴の一例を示す説明図である。図8は送信超音波Tx2に対応する超音波トランスデューサの駆動電圧(V)を示し、図9は駆動電圧を印加する手順を示している。図8における波形91は、上述した図7(a)の駆動電圧を示す波形91である。尚、ここでは正の直流電圧を振動膜側の電極(図2の103に相当)に印加し、図8に示す電圧も振動膜側の電極に印加されるものとする。ただし直流電圧および交流電圧を下層側の電極(図2の102に相当)を正としてもよい。
【0070】
図8に示す送信超音波Tx2に対応する超音波トランスデューサの駆動電圧として、以下の特徴を持つ電圧波形91を、図9に示す手順に従って印加する。
【0071】
まず、タイミングtaで、高周波パルスに低周波の電圧成分を追加し、振動膜106の初期位置を調整する(S1)。この低周波の電圧成分は、直流バイアスとの合計電圧をプルイン電圧以下とする。立ち上がりの形状は、台形波、cos関数、cosのn乗、またはガウス関数などに従い滑らかに変化させる。
【0072】
次に、タイミングtaから所定時間経過したタイミングtbで、送波直前に一瞬さらに電圧をかける(S2)。この電圧として、プルイン電圧を超える電圧をかけて振動膜106を引き込む。
【0073】
次に、タイミングtbから所定時間経過したタイミングtcで、電圧をマイナス側限度まで下げる(S3)。
【0074】
そして、タイミングtcから所定時間経過したタイミングtdで、プルイン電圧を超える電圧で振動膜106を引き戻す(S4)。ここでは、一時的にプルイン電圧を超える電圧を印加することで瞬間的に振動膜に大きな静電気力を発生させ、振動膜106を素早く初期位置に引き戻し、高周波パルスの送信を終える。ここで、プルイン電圧を超える電圧を印加する期間は振動膜が下部面に接触しないような範囲に限られる。
【0075】
すなわち、送信超音波Tx2では、高周波パルス波形として、正電圧の先行パルス(タイミングtbの部分)と、正電圧または負電圧からなる1つまたは複数(図8では1つの例)のメインパルス(タイミングtcの部分)と、正電圧の後続パルス(タイミングtdの部分)とを時間的に連続して出力する。この場合に、先行パルスの電圧最大値と直流バイアス電圧との合計が、超音波トランスデューサ100のプルイン電圧を超える電圧値となっている。また、複数のメインパルスのうち先行パルスの直後に出力されるメインパルスが、負電圧からなる。また、後続パルスの電圧最大値と直流バイアス電圧との合計が、超音波トランスデューサ100のプルイン電圧を超える電圧値となっている。
【0076】
以上説明した本実施の形態における超音波撮像装置によれば、高音圧化による画像のS/N向上を実現することができる。具体的には、送信時には意図的に打ち消し誤差の出る波形を送信し、受信後の処理で低周波成分を除去することで、送信超音波Tx1、Tx2いずれの送信時も超音波トランスデューサ100の機械的可動範囲を最大限に活用することを特徴とする。この効果により送信音圧を高音圧化することで、画像のS/N向上を実現できる。
【0077】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0078】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0079】
また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…超音波探触子、2…送受信切替スイッチ、3…送信アンプ、4…受信アンプ、5…直流電源、6…D/Aコンバータ、7…A/Dコンバータ、8…送信ビームフォーマ、9…受信ビームフォーマ、10…電源、11…電圧リミッター、12…制御部、13…信号処理部、14…スキャンコンバータ、15…表示部、16…ユーザインターフェース、
51、52、53、61、62、63、64、65、71、72、73…波形、
81、82、83、91、92、93…波形、
100…超音波トランスデューサ、101…基板、102…固定電極、103…可動電極、104…絶縁膜、105…絶縁膜、106…ダイアフラム層(振動膜)、107…空隙層、108…支持壁、
200…超音波トランスデューサアレイ、210…結線、310…音響レンズ、320…音響整合層、330…導電性膜、340…バッキング材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9