特許第6782674号(P6782674)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6782674複動式摩擦攪拌点接合装置用クランプ部材、複動式摩擦攪拌点接合装置、及び、複動式摩擦攪拌点接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6782674
(24)【登録日】2020年10月22日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】複動式摩擦攪拌点接合装置用クランプ部材、複動式摩擦攪拌点接合装置、及び、複動式摩擦攪拌点接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20201102BHJP
【FI】
   B23K20/12 340
   B23K20/12 344
   B23K20/12 310
   B23K20/12 364
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-172968(P2017-172968)
(22)【出願日】2017年9月8日
(65)【公開番号】特開2019-48306(P2019-48306A)
(43)【公開日】2019年3月28日
【審査請求日】2019年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】二宮 崇
(72)【発明者】
【氏名】山田 悦子
【審査官】 岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/098341(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/063538(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/047574(WO,A1)
【文献】 特開2007−29981(JP,A)
【文献】 特開2005−508256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具により被接合物を摩擦攪拌点接合する複動式摩擦攪拌点接合装置に備えられ、前記被接合物が支持された状態で前記被接合物の表面を押圧するクランプ部材であって、
前記回転工具は、予め定められた軸線周りに回転し且つ前記軸線方向に進退可能に設けられたピン部材と、前記ピン部材の外周を囲んだ状態で前記軸線周りに回転し且つ前記ピン部材とは独立して前記軸線方向に進退可能に設けられたショルダ部材とを有し、
前記被接合物の前記表面と面接触して前記表面を押圧可能に配置された端面と、前記端面から前記軸線方向に突出して前記軸線周りに延び且つ前記被接合物を押圧可能に配置された突出部とを有し、前記ショルダ部材の外周を囲むように設けられる、複動式摩擦攪拌点接合装置用クランプ部材。
【請求項2】
前記軸線方向から見て、前記端面が円環状に形成され、前記突出部が前記端面の周方向に延びる円弧状に形成されている、請求項1に記載のクランプ部材。
【請求項3】
前記軸線方向から見て、前記端面が円環状に形成され、前記突出部が前記端面の全周に延びる円環状に形成されている、請求項1に記載のクランプ部材。
【請求項4】
前記突出部が、前記端面の外縁よりも前記軸線側に配置されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のクランプ部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の前記クランプ部材を備える、複動式摩擦攪拌点接合装置。
【請求項6】
被接合物を摩擦攪拌点接合するための回転工具と、前記被接合物が支持された状態で前記被接合物の表面を押圧するためのクランプ部材とを用いて前記被接合物を摩擦攪拌点接合する摩擦攪拌点接合方法であって、
前記回転工具として、予め定められた軸線周りに回転し且つ前記軸線方向に進退可能に設けられたピン部材と、前記ピン部材の外周を囲んだ状態で前記軸線周りに回転し且つ前記ピン部材とは独立して前記軸線方向に進退可能に設けられたショルダ部材とを有する回転工具を用い、
前記クランプ部材として、前記被接合物の前記表面と面接触して前記表面を押圧可能に配置された端面と、前記端面から前記軸線方向に突出して前記軸線周りに延び且つ前記被接合物を押圧可能に配置された突出部とを有し、前記ショルダ部材の外周を囲むように設けられたクランプ部材を用い、
前記クランプ部材により前記被接合物の前記表面を押圧した状態において、前記ショルダ部材による摩擦攪拌によって前記ショルダ部材の内部に入り込む前記被接合物の塑性流動部を前記ピン部材により埋め戻しながら、前記被接合物を摩擦攪拌点接合する接合ステップと、
前記接合ステップ後、前記被接合物から前記ピン部材と前記ショルダ部材とを離隔させた状態において、前記被接合物の摩擦攪拌領域、及び、前記被接合物の前記摩擦攪拌領域と隣接する隣接領域の少なくともいずれかの表面を、前記クランプ部材の前記突出部により押圧する押圧ステップと、を備える、摩擦攪拌点接合方法。
【請求項7】
前記接合ステップでは、前記押圧ステップにおいて前記突出部により前記被接合物の前記表面を押圧する押圧位置とは異なる退避位置に前記突出部を位置させた状態で摩擦攪拌点接合を行い、
前記押圧ステップでは、前記退避位置から前記押圧位置へ前記突出部を移動させた状態で前記突出部により前記被接合物の前記表面を押圧する、請求項6に記載の摩擦攪拌点接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複動式摩擦攪拌点接合装置用クランプ部材、複動式摩擦攪拌点接合装置、及び、複動式摩擦攪拌点接合方法に関し、特に接合により形成された継手部分の疲労強度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されるように、互いに独立して予め定められた軸線周りに回転可能且つ前記軸線方向に進退可能なピン部材及びショルダ部材と、ショルダ部材の外周を囲み且つ前記軸線方向に進退可能にクランプ部材とが設けられた複動式摩擦攪拌点接合装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−196682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摩擦攪拌点接合により被接合物を接合する場合、接合により形成される継手部分の疲労強度を向上させることが求められている。しかしながら、このような疲労強度の向上を図るための工程を単に設けようとすると、接合体の製造効率が低下するおそれがある。
【0005】
本発明はこの課題に鑑みてなされたものであって、複動式摩擦攪拌点接合により形成される被接合物の継手部分における疲労強度の向上を効率よく図れるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る複動式摩擦攪拌点接合装置用クランプ部材は、回転工具により被接合物を摩擦攪拌点接合する複動式摩擦攪拌点接合装置に備えられ、前記被接合物が支持された状態で前記被接合物の表面を押圧するクランプ部材であって、前記回転工具は、予め定められた軸線周りに回転し且つ前記軸線方向に進退可能に設けられたピン部材と、前記ピン部材の外周を囲んだ状態で前記軸線周りに回転し且つ前記ピン部材とは独立して前記軸線方向に進退可能に設けられたショルダ部材とを有し、前記被接合物の前記表面と面接触して前記表面を押圧可能に配置された端面と、前記端面から前記軸線方向に突出して前記軸線周りに延び且つ前記被接合物を押圧可能に配置された突出部とを有し、前記ショルダ部材の外周を囲むように設けられる。
【0007】
上記構成によれば、クランプ部材の突出部が、クランプ部材の端面から前記軸線方向に突出して前記軸線周りに延び且つ被接合物を押圧可能に配置されているので、被接合物をクランプ部材により押圧して、回転工具のピン部材とショルダ部材とにより被接合物を摩擦攪拌点接合した後、クランプ部材の突出部により、被接合物の摩擦攪拌領域、及び、この摩擦攪拌領域と隣接する隣接領域の少なくともいずれかの表面を押圧できる。これにより被接合物を圧縮し、被接合物の継手部分に残留応力を付与できる。よって、被接合物の継手部分の疲労強度を向上できる。
【0008】
また、このような被接合物の押圧は、クランプ部材を用いて実施できると共に、複数の摩擦攪拌点接合を一連の接合動作により行う場合には各接合動作の合間に実施できる。よって、被接合物の摩擦攪拌点接合と押圧とを一連の動作で効率的に行うことができ、押圧工程を追加したことによる接合体の生産性低下を抑制できる。
【0009】
また、クランプ部材の端面から前記軸線方向に突出して前記軸線周りに延びる突出部により被接合物を押圧することで、押圧面積が小さくて済む分、比較的小さい押圧力でも良好に被接合物を圧縮できる。このため、被接合物を押圧するための専用装置を別途用意しなくてもよい。従って、継手部分の疲労強度を向上させるためのコストや作業負担を軽減でき、継手部分の疲労強度を効率よく向上させることができる。
【0010】
前記軸線方向から見て、前記端面が円環状に形成され、前記突出部が前記端面の周方向に延びる円弧状に形成されていてもよい。これにより、端面の周方向に延びる広い領域において、突出部により、被接合物に十分な圧縮塑性歪を付与できる。
【0011】
前記軸線方向から見て、前記端面が円環状に形成され、前記突出部が前記端面の全周に延びる円環状に形成されていてもよい。これにより、端面の全周にわたって延びる広い領域において、突出部により被接合物に圧縮塑性歪を付与できる。よって、被接合物の疲労強度を一層向上できる。
【0012】
前記突出部が、前記端面の外縁よりも前記軸線側に配置されていてもよい。これにより、摩擦攪拌領域の周縁に圧縮塑性歪を付与する際にクランプ部材の被接合物に対する移動量を少なくでき、圧縮塑性歪を効率よく付与し易くすることができる。
【0013】
また、本発明の一態様に係る摩擦攪拌点接合装置は、上記したいずれかの態様の前記クランプ部材を備える。これにより、継手部分の疲労強度を向上させるために必要なコストや作業負担を軽減でき、摩擦攪拌点接合装置により、継手部分の疲労強度を効率よく向上させることができる。
【0014】
また、本発明の一態様に係る摩擦攪拌点接合方法は、被接合物を摩擦攪拌点接合するための回転工具と、前記被接合物が支持された状態で前記被接合物の表面を押圧するためのクランプ部材とを用いて前記被接合物を摩擦攪拌点接合する摩擦攪拌点接合方法であって、前記回転工具として、予め定められた軸線周りに回転し且つ前記軸線方向に進退可能に設けられたピン部材と、前記ピン部材の外周を囲んだ状態で前記軸線周りに回転し且つ前記ピン部材とは独立して前記軸線方向に進退可能に設けられたショルダ部材とを有する回転工具を用い、前記クランプ部材として、前記被接合物の前記表面と面接触して前記表面を押圧可能に配置された端面と、前記端面から前記軸線方向に突出して前記軸線周りに延び且つ前記被接合物を押圧可能に配置された突出部とを有し、前記ショルダ部材の外周を囲むように設けられたクランプ部材を用い、前記クランプ部材により前記被接合物の前記表面を押圧した状態において、前記ショルダ部材による摩擦攪拌によって前記ショルダ部材の内部に入り込む前記被接合物の塑性流動部を前記ピン部材により埋め戻しながら、前記被接合物を摩擦攪拌点接合する接合ステップと、前記接合ステップ後、前記被接合物から前記ピン部材と前記ショルダ部材とを離隔させた状態において、前記被接合物の摩擦攪拌領域、及び、前記被接合物の前記摩擦攪拌領域と隣接する隣接領域の少なくともいずれかの表面を、前記クランプ部材の前記突出部により押圧する押圧ステップと、を備える。
【0015】
上記方法によれば、クランプ部材の突出部が、クランプ部材の端面から前記軸線方向に突出して前記軸線周りに延び且つ被接合物を押圧可能に配置されているので、接合ステップにおいて、被接合物をクランプ部材により押圧して、回転工具のピン部材とショルダ部材とにより被接合物を摩擦攪拌点接合した後、押圧ステップにおいて、クランプ部材の突出部により、被接合物の摩擦攪拌領域、及び、この隣接領域を押圧できる。これにより、被接合物の継手部分に残留応力を付与できる。よって、被接合物の継手部分の疲労強度を向上できる。
【0016】
また、このような押圧ステップにおける被接合物の押圧は、クランプ部材を用いて実施できると共に、複数の摩擦攪拌点接合を一連の接合動作により行う場合、各接合動作の合間に実施できる。よって、被接合物の摩擦攪拌点接合と押圧とを一連の動作で効率的に行うことができ、押圧工程を追加したことによる接合体の生産性低下を抑制できる。
【0017】
また、クランプ部材の端面に前記軸線方向に突出して前記軸線周りに延びる突出部により被接合物を押圧することで、比較的小さい押圧力でも良好に被接合物を圧縮できる。このため、被接合物を押圧するための専用装置を別途用意しなくてもよい。従って、継手部分の疲労強度を向上させるためのコストや作業負担を軽減でき、継手部分の疲労強度を効率よく向上させることができる。
【0018】
前記接合ステップでは、前記押圧ステップにおいて前記突出部により前記被接合物の前記表面を押圧する押圧位置とは異なる退避位置に前記突出部を位置させた状態で摩擦攪拌点接合を行い、前記押圧ステップでは、前記退避位置から前記押圧位置へ前記突出部を移動させた状態で前記突出部により前記被接合物の前記表面を押圧してもよい。
【0019】
上記方法によれば、接合ステップにおいて突出部が押圧した位置とは異なる位置で、押圧ステップにおいて被接合物の表面を良好に押圧できるため、接合ステップにおいて被接合物の表面に形成された押圧部による制約を受けることなく、被接合物の継手部分の広い範囲に残留応力を付与できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の各態様によれば、複動式摩擦攪拌点接合により形成される被接合物の継手部分における疲労強度の向上を効率よく図れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態に係る複動式摩擦攪拌点接合装置の要部構成図である。
図2図1のクランプ部材の端面側から見た斜視図である。
図3】第1実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法を示すステップ図である。
図4】(a)〜(f)は、第1実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法を説明するための断面図である。
図5】第1実施形態の摩擦攪拌点接合方法により形成された被接合物の継手部分の正面図である。
図6】第1実施形態の摩擦攪拌点接合方法により形成された被接合物の継手部分に被接合物の両端から引張荷重を加えたときの様子を示す断面図である。
図7】(a)〜(f)は、第2実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法を説明するための断面図である。
図8】第2実施形態の摩擦攪拌点接合方法により形成された被接合物の継手部分の正面図である。
図9】変形例1に係るクランプ部材の端面側から見た斜視図である。
図10】変形例2に係るクランプ部材の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して各実施形態及び各変形例を説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る複動式摩擦攪拌点接合装置1(以下、単に装置1と称する。)の要部構成図である。図1では、回転工具2を断面で示すと共に、回転工具2と工具駆動部3との繋がりを破線により模式的に示している。
【0024】
装置1は、被接合物W(一例として一対の板材(第1板材W1及び第2板材W2))を摩擦攪拌点接合する。装置1は、回転工具2、工具駆動部3、制御部4、裏当部5、及びクランプ部材8を備える。
【0025】
工具駆動部3は、回転工具2を予め定められた複数の位置に移動させると共に、回転工具2を回転駆動させる。制御部4は、回転工具2が有する各部材6〜8を駆動させるように、工具駆動部3を制御する。工具駆動部3の具体的な構造は限定されず、例えば公知の構造を利用できる。
【0026】
制御部4は、一例として、CPU、ROM、及びRAM等を備えたコンピュータであり、工具駆動部3の動作を制御する。ROMには、所定の制御プログラムが格納され、RAMには、オペレータにより入力された設定情報が記憶される。この設定情報には、例えば、板材W1,W2の各板厚値の情報と、各接合位置の情報とが含まれる。
【0027】
裏当部5は支持部であり、被接合物Wを挟んで回転工具2とは反対側に配置されて被接合物Wを支持する。裏当部5の一部は、被接合物Wを挟んで回転工具2と対向する。
【0028】
回転工具2は、ピン部材6とショルダ部材7とを有する。回転工具2は、ピン部材6の外側にショルダ部材7が配置され、ショルダ部材7の外側にクランプ部材8が配置された入れ子構造を有する。
【0029】
ピン部材6は、予め定められた軸線P周りに回転し且つ軸線P方向に進退可能に設けられている。本実施形態のピン部材6は、軸線P方向に延びる円柱状に形成されている。ピン部材6の軸線P方向後端部(ピン部材6の被接合物W側とは反対側の端部)は、工具駆動部3の固定部(不図示)に支持されている。
【0030】
ショルダ部材7は、ピン部材6の外周を囲んだ状態で軸線P周りに回転し且つピン部材6とは独立して軸線P方向に進退可能に設けられている。ショルダ部材7は中空部7aを有し、ピン部材6はショルダ部材7の中空部7aに内挿されている。本実施形態の回転工具2では、ショルダ部材7の中空部7aにピン部材6が内挿された状態で、ピン部材6とショルダ部材7とが、それぞれ独立して軸線P周りに回転し且つ軸線P方向に進退可能に設けられている。またショルダ部材7は、軸線P方向に延びる円筒状に形成されている。
【0031】
クランプ部材8は、ショルダ部材7の外周を囲むように設けられている。またクランプ部材8は、ピン部材6とショルダ部材7とは独立して、軸線P方向に進退可能に設けられている。クランプ部材8は中空部8cを有し、ショルダ部材7はクランプ部材8の中空部8cに内挿されている。
【0032】
クランプ部材8の軸線P方向後端部には、軸線P方向に被接合物Wに向けてクランプ部材8に付勢力を付与するためのスプリング9が配置されている。クランプ部材8は、スプリング9からの付勢力により、裏当部5に支持された被接合物Wを軸線P方向に押圧する。クランプ部材8が被接合物Wから後退させられる際、クランプ部材8は、工具駆動部3により引き上げられ、被接合物Wから後退させられる。
【0033】
図2は、図1のクランプ部材8の端面8a側から見た斜視図である。図1及び2に示すように、クランプ部材8は、端面8aと突出部8bとを有する。端面8aは、被接合物Wの表面(ここでは第1板材W1の板面)と面接触して被接合物Wの表面を押圧可能に配置されている。
【0034】
突出部8bは、端面8aから軸線P方向に突出している。突出部8bは、摩擦攪拌点接合された被接合物Wを押圧する圧子である。突出部8bは、摩擦攪拌点接合された被接合物Wを軸線P方向に押圧可能に配置されている。
【0035】
突出部8bは、通常の摩擦攪拌点接合装置の荷重出力範囲内において、被接合物Wの荷重伝達部位である接合界面に圧縮塑性歪を与えるための形状を有する。このように装置1は、被接合物Wに対する圧縮加工機構を備えている。
【0036】
具体的に、端面8aの突出部8b以外の領域は、平坦に形成されている。本実施形態のクランプ部材8では、端面8aは、軸線P方向から見て円環状に形成されている。突出部8bは、軸線P方向から見て端面8aの周方向に延びる円弧状に形成されている。即ち突出部8bは、軸線P方向から見て、一定の曲率で湾曲しながら延びている。一例として、突出部8bの幅寸法及び高さ(軸線P方向)寸法は一定である。また、突出部8bの長手方向に垂直な断面は矩形状である。
【0037】
本実施形態では、中空部8cの周縁形状は、軸線P方向から見て真円状に形成されている。突出部8bは、中空部8cの周縁に沿った円弧状に形成されている。突出部8bは、端面8aの外縁よりも軸線P側に配置されている。一例として、突出部8bは、クランプ部材8の中空部8cと面する内周面と連続する位置に配置されている。突出部8bの軸線P側側面は、前記内周面と滑らかに連続している。
【0038】
一例として、突出部8bの長さ寸法は、軸線P方向から見て、中空部8cにおける周縁の全周長の1/2(半周長)の値に設定されている。突出部8bの高さ(軸線P方向)寸法は、適宜設定可能である。被接合物Wが一対の板材W1,W2である場合、突出部8bの高さ寸法は、例えば、板材W1の板厚寸法よりも小さい値に設定できる。
【0039】
突出部8bの幅寸法及び高さ寸法の少なくともいずれかは、突出部8bの複数位置において異なっていてもよい。また、突出部8bの長手方向に垂直な断面は、矩形状に限定されず、例えば、被接合物Wに向けて凸となる放物線状でもよい。また突出部8bは、クランプ部材8の前記内周面とは非連続な位置に配置されていてもよい。言い換えると、突出部8bの軸線P側側面と、クランプ部材8の前記内周面との間には、段差が設けられていてもよい。
【0040】
なお装置1は、例えば、C型フレーム構造を有していてもよい。この場合、回転工具2、工具駆動部3、制御部4、及びクランプ部材8は、装置1の上部に配置され、裏当部5は、装置1の下部に配置されていてもよい。また装置1は、例えば、多関節ロボットに取り付けられていてもよい。また装置1は、回転工具2、工具駆動部3、制御部4、及びクランプ部材8が多関節ロボットに取り付けられ、裏当部5が前記多関節ロボットとは別の構成(ポジショナー等)に取り付けられていてもよい。
【0041】
図3は、第1実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法を示すステップ図である。図3に示すように、当該方法では、複数のステップS1〜S4を順に含むシークエンスを行う。具体的には、所定の接合位置において摩擦攪拌点接合を行うために被接合物Wに対して回転工具2の位置合わせを行う第1位置合わせステップS1と、第1位置合わせステップS1後に、前記接合位置においてピン部材6とショルダ部材7とを回転させながら被接合物Wに押し込んで、被接合物Wを摩擦攪拌点接合する接合ステップS2とを行う。
【0042】
また、接合ステップS2において被接合物Wを摩擦攪拌点接合した後、ピン部材6とショルダ部材7とを被接合物Wから後退させ、且つ、所定位置において被接合物Wを押圧するために接合物Wに対してクランプ部材8の位置合わせを行う第2位置合わせステップS3と、第2位置合わせステップS3後に、前記所定位置においてクランプ部材8の突出部8bにより被接合物Wを押圧する押圧ステップS4とを行う。この押圧ステップS4により、被接合物Wに残留応力を付与し、被接合物Wの疲労強度を向上させる。
【0043】
図4の(a)〜(f)は、第1実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法を説明するための断面図である。最初にオペレータは、前記設定情報を装置1に入力し、板材W1,W2を重ねた状態で裏当部5に支持させる。制御部4は、回転工具2が予め定められた接合位置まで移動されるように、工具駆動部3を制御する(図4(a))。これにより第1位置合わせステップS1が行われ、回転工具2が被接合物Wに対して位置合わせされる。
【0044】
次に制御部4は、ピン部材6とショルダ部材7とが回転駆動されるように工具駆動部3を制御すると共に、ショルダ部材7とクランプ部材8とを被接合物Wの表面に当接するように、工具駆動部3を制御する。その後、制御部4は、ショルダ部材7を被接合物Wに押圧するように、工具駆動部3を制御する。
【0045】
これにより、端面8aが被接合物Wの表面に面接触すると共に、クランプ部材8の突出部8bが被接合物Wの表面を押圧する(被接合物Wが圧縮される)。その結果、突出部8bが押圧した被接合物Wの部分に、溝状の凹部Lが形成される。また、ショルダ部材7が被接合物Wの内部に押し込まれて被接合物Wが摩擦攪拌される(図4(b))。
【0046】
このとき制御部4は、ピン部材6の被接合物Wへの押し込み側の端面を、ショルダ部材7の被接合物Wへの押し込み側の端面よりも押し込み方向とは反対側に移動させるように、工具駆動部3を制御する。これにより、ショルダ部材7の摩擦攪拌により生じた被接合物Wの塑性流動部W3を、ショルダ部材7の中空部7aに入り込ませる(図4(b))。
【0047】
次に制御部4は、クランプ部材8の端面8aを被接合物Wの表面に面接触させた状態で、ピン部材6とショルダ部材7との被接合物Wへの押し込み側の端面を、ピン部材6とショルダ部材7とが被接合物Wの表面に接触する前の被接合物Wの表面位置に向けて移動させるように、工具駆動部3を制御する。
【0048】
これにより、ショルダ部材7による摩擦攪拌によってショルダ部材7の内部に入り込む被接合物Wの塑性流動部W3をピン部材6により埋め戻しながら、被接合物を摩擦攪拌点接合する(図4(c))。
【0049】
以上により接合ステップS2が行われ、被接合物Wが摩擦攪拌点接合されて、被接合物Wに、軸線P方向から見て(正面視において)円形状の摩擦攪拌領域Jが形成される(図5参照)。接合ステップS2では、押圧ステップS4において突出部8bにより被接合物Wの表面を押圧する押圧位置とは異なる退避位置に突出部8bを位置させた状態で摩擦攪拌点接合が行われる。
【0050】
次に制御部4は、ピン部材6、ショルダ部材7、及びクランプ部材8を被接合物Wから離隔(後退)させるように、工具駆動部3を制御する(図4(d))。その後、制御部4は、ピン部材6の被接合物Wに対する軸線P位置を、被接合物Wの表面に沿って、摩擦攪拌点接合時の位置X1から所定距離ずれた位置X2へ移動して回転工具2を位置合わせするように、工具駆動部3を制御する(図4(e))。以上により第2位置合わせステップS3が行われ、突出部8bが被接合物Wに対して位置合わせされる。
【0051】
位置X2は、本実施形態では摩擦攪拌領域Jと重なる位置に設定される。また、突出部8bの軸線P周りの位置は、位置X2において、突出部8bの長手方向中央が、凹部Lに隣接する摩擦攪拌領域Jの周縁に位置し、且つ、突出部8bが摩擦攪拌領域Jの周方向に延びるように設定される。
【0052】
言い換えると、位置X2において、摩擦攪拌領域Jの周縁に突出部8bにより後述する凹部Mを形成するため、クランプ部材8は、少なくとも突出部8bの一部以上が凹部Lとは重ならない領域で被接合物Wの表面を押圧可能に設定される。
【0053】
なお、ピン部材6、ショルダ部材7、及びクランプ部材8を被接合物Wから後退させる動作と、第2位置合わせステップS3における回転工具2の位置合わせ動作とは、同時に行ってもよい。
【0054】
次に、接合ステップS2後、被接合物Wからピン部材6とショルダ部材7とを離隔させた状態において、被接合物Wの接合ステップS2により形成された摩擦攪拌領域J、又は、摩擦攪拌領域Jと隣接する隣接領域の少なくともいずれかの表面を、クランプ部材8の突出部8bにより押圧する。
【0055】
本実施形態では、第2位置合わせステップS3後、制御部4は、ピン部材6の被接合物Wに対する軸線P位置を位置X2に合わせた状態で、被接合物Wの摩擦攪拌領域Jの表面をクランプ部材8の突出部8bにより押圧するように、工具駆動部3を制御する(図4(f))。
【0056】
以上により押圧ステップS4が行われ、被接合物Wに圧縮部(圧縮塑性歪部)Kが形成されて、被接合物Wに残留応力が付与される。押圧ステップS4では、退避位置から押圧位置へ突出部8bを移動させた状態で突出部8bにより被接合物Wの表面が押圧される。摩擦攪拌領域Jの温度が摩擦攪拌温度よりも低下した状態で押圧ステップS4を行うことにより、被接合物Wは冷間圧縮される。その後制御部4は、クランプ部材8による圧縮を解除するように、工具駆動部3を制御する。
【0057】
図5は、第1実施形態の摩擦攪拌点接合方法により形成された被接合物Wの継手部分の正面図である。図6は、第1実施形態の摩擦攪拌点接合方法により形成された被接合物Wの継手部分に被接合物Wの両端から引張荷重を加えたときの様子を示す断面図である。
【0058】
図5に示すように、摩擦攪拌点接合後の被接合物Wには、正面視において円形状の摩擦攪拌領域Jが形成され、その周縁の半周長にわたって凹部Lが形成されている。摩擦攪拌領域Jの径方向において、摩擦攪拌領域Jの凹部Lに隣接する周縁には、摩擦攪拌領域Jの周方向に延びる溝状の凹部Mが形成されている。
【0059】
凹部L,Mは、いずれも突出部8bにより形成されたものであるが、凹部L,Mは互いに重ねられた領域(本実施形態では、凹部L,Mの長手方向両端領域)で一体となっている。圧縮部Kは、凹部Mの凹部Lとは重ならない領域に形成されている。被接合物Wは、圧縮部Kが形成されたことで残留応力(圧縮残留応力)が付与され、疲労強度が向上されている。
【0060】
このため、例えば図6に示すように、被接合物Wの第1板材W1と第2板材W2とに、各板材W1,W2が延びる方向に引張力D1を繰り返し負荷する疲労荷重が及び、摩擦攪拌領域Jの境界(接合境界)等が疲労破壊の起点及び進展経路となる場合、被接合物Wは、圧縮部Kに残留応力が付与されたことにより、疲労寿命が延長される。
【0061】
なお、圧縮部Kの長さは、摩擦攪拌領域Jの全周長より短くてもよい。被接合物Wの継手部分に求められる強度や負荷される荷重レベル、組合せ荷重に応じて、圧縮部Kの長さは適宜設定してもよい。本発明者らの検討により、圧縮部Kの長さは、例えば、図6に示す単軸引張荷重が負荷された場合、摩擦攪拌領域Jの全周長の1/2以下の範囲の値に設定してもよいことが分かっている。また、1つの摩擦攪拌領域Jの複数の位置に圧縮部Kを形成してもよい。複数の圧縮部Kは、正面視において、摩擦攪拌領域Jの径方向に並んでいてもよいし、摩擦攪拌領域Jの周方向に並んでいてもよい。
【0062】
以上説明したように、第1実施形態のクランプ部材8では、クランプ部材8の突出部8bが、クランプ部材8の端面8aから軸線P方向に突出して軸線P周りに延び且つ被接合物Wを押圧可能に配置されているので、被接合物Wをクランプ部材8により押圧して、回転工具2のピン部材6とショルダ部材7とにより被接合物Wを摩擦攪拌点接合した後、クランプ部材8の突出部8bにより、被接合物Wの摩擦攪拌領域J、又は、摩擦攪拌領域と隣接する隣接領域を押圧できる。これにより被接合物Wを圧縮し、被接合物Wの継手部分に残留応力を付与できる。よって、被接合物Wの継手部分の疲労強度を向上できる。
【0063】
また、このような被接合物Wの押圧(押圧ステップS4における被接合物Wの押圧)は、クランプ部材8を用いて実施できると共に、複数の摩擦攪拌点接合を一連の接合動作により行う場合には、各接合動作の合間に実施できる。よって、被接合物Wの摩擦攪拌点接合と押圧とを一連の動作で効率的に行うことができ、押圧ステップ(工程)S4を追加したことによる接合体の生産性低下を抑制できる。
【0064】
また、クランプ部材8の端面8aから軸線P方向に突出して軸線P周りに延びる突出部8bにより被接合物Wを押圧することで、押圧面積が小さくて済む分、比較的小さい押圧力でも良好に被接合物Wを圧縮できる。言い換えると、従来の摩擦攪拌点接合装置の接合ステップに要する荷重出力範囲内において、突出部8bにより、被接合物Wに必要な圧縮塑性歪を付与できる。このため、被接合物Wを押圧するための専用装置を別途用意しなくてもよい。従って、継手部分の疲労強度を向上させるためのコストや作業負担を軽減でき、継手部分の疲労強度を効率よく向上させることができる。
【0065】
また軸線P方向から見て、端面8aが円環状に形成され、突出部8bが円弧状に形成されているので、端面8aの周方向に延びる広い領域において、突出部8bにより被接合物Wに十分な圧縮塑性歪を付与できる。
【0066】
また突出部8bが、端面8aの外縁よりも軸線P側に配置されているので、摩擦攪拌領域Jの周縁に圧縮塑性歪を付与する際にクランプ部材8の被接合物Wに対する移動量を少なくでき、圧縮塑性歪を効率よく付与し易くすることができる。
【0067】
また装置1は、クランプ部材8を備えることにより、継手部分の疲労強度を向上させるために必要なコストや作業負担を軽減できる。よって装置1により、継手部分の疲労強度を効率よく向上させることができる。
【0068】
また接合ステップS2では、押圧ステップS4において突出部8bにより被接合物Wの表面を押圧する押圧位置とは異なる退避位置に突出部8bを位置させた状態で摩擦攪拌点接合を行い、押圧ステップS4では、退避位置から押圧位置へ突出部8bを移動させた状態で被接合物Wの表面を押圧する。これにより、接合ステップS2において突出部8bが押圧した位置とは異なる位置で、押圧ステップS4において被接合物Wの表面を良好に押圧できる。このため、接合ステップS2において被接合物Wの表面に形成された押圧部(凹部L)による制約を受けることなく、被接合物Wの継手部分の広い範囲に残留応力を付与できる。
【0069】
なお軸線P方向から見て、突出部8bを摩擦攪拌領域Jの周縁の曲率よりも大きな曲率で円弧状に形成することで、凹部Mを摩擦攪拌領域Jの表面に形成してもよい。これにより、摩擦攪拌領域Jの周縁よりも内側に圧縮部Kを形成し易くすることができる。次に第2実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0070】
(第2実施形態)
図7の(a)〜(f)は、第2実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法を説明するための断面図である。図8は、第2実施形態の摩擦攪拌点接合方法により形成された被接合物Wの継手部分の正面図である。
【0071】
第1実施形態と異なる点として、クランプ部材8は、軸線P周りに回転可能に工具駆動部3に設けられている。第1位置合わせステップS1と接合ステップS2とが行われた後(図7(a)〜(d)),制御部4は、摩擦攪拌点接合を行ったときのピン部材6の被接合物Wに対する軸線P位置を維持したまま、クランプ部材8を軸線P周りに所定角度(ここでは180°)回転させるように工具駆動部3を制御する(図7(e))。これにより、第2位置合わせステップS3が行われる。このようにクランプ部材8が被接合物Wに対して位置合わせされた状態で、押圧ステップS4が行われる(図7(f))。
【0072】
図8に示すように、これにより被接合物Wには、摩擦攪拌領域Jに隣接し且つ凹部Lとは重ならない領域に凹部Mが形成される。本実施形態では、正面視において、摩擦攪拌領域Jの全周が凹部L,Mにより囲まれている。摩擦攪拌領域Jの全周のうち、半周分の周縁が凹部Lにより囲まれ、残余の半周分の周縁が凹部Mにより囲まれている。第2実施形態では、接合ステップS2において形成される凹部Lの位置に制約されることなく、被接合物Wに圧縮部Kを形成できる。即ち第2実施形態では、凹部Mの全領域に対応して圧縮部Kを形成でき、被接合物Wの比較的広い領域に残留応力を付与できる。
【0073】
(変形例)
図9は、変形例1に係るクランプ部材18の端面18a側から見た斜視図である。クランプ部材18は、軸線P方向から見て、端面18aが円環状に形成され、突出部18bが端面18aの全周に延びる円環状に形成されている。言い換えると、軸線P方向から見て、クランプ部材18の中空部18cの周縁は、突出部18bにより囲まれている。
【0074】
このようなクランプ部材18を用いることにより、端面8aの全周にわたって延びる広い領域において、突出部8bにより被接合物Wに圧縮塑性歪を付与できる。よって、被接合物Wの疲労強度を一層向上できる。変形例1では、被接合物Wには、正面視において、円環状の凹部L,Mが、部分的に重なりながら互いにずれた位置に形成される。
【0075】
図10は、変形例2に係るクランプ部材28の正面図である。クランプ部材28は、第1実施形態のクランプ部材8を基本構造とするものであるが、軸線P方向から見て、クランプ部材28の突出部28bが、中空部28cの周縁よりもクランプ部材28の径方向外側の端面28aの位置に形成されている。また、突出部28bの中空部28c側の側面は、軸線P方向から見て、中空部28cの内周面と同じ曲率に設定されている。
【0076】
一例として変形例2では、端面28aを含み且つ端面28aに平行な面内において、突出部28bの長手方向中央と軸線Pとを通る方向に垂直な方向から見て、突出部28bの長手方向両端が、中空部28cと離隔する位置に配置されている。
【0077】
このようなクランプ部材28を用いることにより、押圧ステップS4では、接合ステップS2において被接合物Wに形成される凹部Lの位置に制約されることなく、被接合物Wの摩擦攪拌領域Jの周縁に圧縮部Kを形成して被接合物Wに残留応力を付与し易くすることができる。よって、被接合物Wの疲労強度を更に良好に向上できる。
【0078】
本発明は、上記実施形態及び上記変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成又は方法を変更、追加、又は削除できる。当然ながら、被接合物Wは、一対の板材W1,W2に限定されない。被接合物Wは、航空機、自動車、及び鉄道車両等の乗物の部品でもよいし、建築物の部品でもよい。
【0079】
押圧ステップS4において、被接合物Wの摩擦攪拌領域Jと隣接する隣接領域の表面を突出部8b,18b,28bで押圧する場合、圧縮部Kは、摩擦攪拌領域Jの周方向に延びるように形成されてもよい。また圧縮部Kは、摩擦攪拌領域Jと隣接領域との両方に跨って形成されてもよい。これにより、摩擦攪拌領域Jと隣接領域との界面に圧縮部Kを形成できる。
【0080】
また上記各実施形態では、単一の工具駆動部3によりピン部材6、ショルダ部材7、及びクランプ部材8,18,28を駆動する構成を示したが、この各部材のうちの1つ又は2つを別の駆動部により駆動してもよいし、この各部材を個別の駆動部により駆動してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、複動式摩擦攪拌点接合により形成される被接合物の継手部分における疲労強度の向上を効率よく図れるため、複動式摩擦攪拌点接合を利用した各分野に広く好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0082】
J 摩擦攪拌領域
P 軸線
W 被接合物
W3 塑性流動部
1 複動式摩擦攪拌点接合装置
2 回転工具
6 ピン部材
7 ショルダ部材
8,18,28 クランプ部材
8a,18a,28a 端面
8b,18b,28b 突出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10