(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも繰り返し時間TRとフリップ角FAを撮像パラメータとする撮像シーケンスを、前記繰り返し時間TRとフリップ角FAの値の組み合わせを異ならせてN回(Nは3以上)実行することにより、同一の撮像対象のN個の画像を撮像する計測部と、
前記計測部が撮像したN個の前記画像に基づいて、1種以上の定量値を算出する定量値演算部と、
前記繰り返し時間TRとフリップ角FAの値の組み合わせをN種類生成し、前記計測部が前記撮像シーケンスをN回実行する際の前記繰り返し時間TRとフリップ角FAとして設定する撮像パラメータセット生成部と、
前記撮像対象を特定する情報をユーザーから受け付ける対象受付部とを有し、
前記撮像パラメータセット生成部は、複数の撮像対象について予め求めておいた1種以上の定量値の標準値から、前記対象受付部が受け付けた撮像対象の定量値の標準値を選択し、この定量値の標準値を用いて、前記撮像シーケンスの撮像時間が所定値以下、または、前記定量値演算部が算出する定量値の誤差が所定値以下、となる前記繰り返し時間TRとフリップ角FAの値のN種類の組み合わせを生成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、前記1種以上の定量値は、撮像対象の1種以上の物性値を含み、1種以上の物性値は、プロトン密度、縦緩和時間T1および横緩和時間T2又は見かけの横緩和時間T2*のいずれかを含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明が適用されるMRI装置の実施形態について説明する。
【0015】
<<第一の実施形態>>
本実施形態のMRI装置は、
図1に示すように、撮像条件受付部10と、計測部20と、定量値演算部
40と、撮像パラメータセット生成部
30と、を備える。
【0016】
撮像条件受付部10は、撮像条件や撮像対象を特定する情報をユーザーから受け付ける。計測部は、少なくとも繰り返し時間TRとフリップ角FAを撮像パラメータとする撮像シーケンスを、前記繰り返し時間TRとフリップ角FAの値の組み合わせを異ならせてN回(Nは3以上)実行することにより、同一の撮像対象のN個の画像を撮像する。定量値算出部は、計測部が撮像したN個の画像に基づいて、1種以上の定量値を算出する。撮像パラメータセット生成部は、繰り返し時間TRとフリップ角FAの値の組み合わせをN種類生成し、計測部が撮像シーケンスをN回実行する際の前記繰り返し時間TRとフリップ角FAとして設定する。その際、複数の撮像対象について予め求めておいた1種以上の定量値の標準値から、前記撮像条件受付部が受け付けた撮像対象の定量値の標準値を選択し、この定量値の標準値を用いて、前記撮像シーケンスの撮像時間が所定値以下、または、前記定量値算出部が算出する物性値の誤差が所定値以下、となる前記繰り返し時間TRとフリップ角FAの値のN種類の組み合わせを生成する。
【0017】
計測部は、撮像パラメータセット生成部が生成したN種類の撮像パラメータセットを用いて同一撮像シーケンスによりN回の計測を行い、N個の画像を取得する。
【0018】
本実施形態のMRI装置によれば、撮像時間の短縮を優先するか、定量値算出精度を優先するかに応じて、最適な撮像パラメータセットが決定される。それによりユーザーの撮像条件設定の自由度が増し、且つ算出される定量値の精度を高めることができる。撮像時間の短縮と定量値算出精度のいずれを優先するかは、ユーザーからの入力によって受け付けるようにしてもよいし、ユーザーが設定する撮像条件から撮像パラメータセット算出部が決定してもよい。
【0019】
以下、本実施形態を基本として、さらに詳細な実施形態を説明する。
<<第二の実施形態>>
まずMRI装置の典型的な構成を説明する。
図2にMRI装置の一実施形態を示すブロック図を示す。
図2に示すように、本実施形態のMRI装置100は、静磁場を発生するマグネット101と、傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル102と、被検体103に高周波磁場パルス(以下、RFパルス)を照射するRFコイル107と、被検体103から発生するエコー信号を検出するRFプローブ108と、マグネット101の発生する静磁場空間内で被検体(例えば、生体)103を載置する寝台(テーブル)115と、を備える。
【0020】
傾斜磁場コイル102は、互いに直交する3軸方向について傾斜磁場発生する3組の傾斜磁場コイルからなり、それらを適宜組み合わせることによって、任意の方向について位置情報を与えることができる。
【0021】
さらに、本実施形態のMRI装置100は、傾斜磁場コイル102を構成する各コイルを駆動する傾斜磁場電源105と、RFコイル107を駆動する高周波磁場発生器106と、RFプローブ108で検出したエコー信号を受信する受信器109と、傾斜磁場電源105と高周波磁場発生器106とに命令を送り、それぞれ傾斜磁場および高周波磁場を発生させるとともに、検波の基準とする核磁気共鳴周波数を受信器109にセットするシーケンサ104と、検波された信号に対して信号処理を施す計算機110と、計算機110での処理結果を表示する表示装置111と、処理結果を保持する記憶装置112と、ユーザーからの指示を受け付ける入力装置116と、を備える。表示装置111と入力装置112とが近接して配置される場合には、表示装置111にUI(ユーザーインターフェイス)を表示し、ユーザーと装置とがインタラクティブに動作する構成とすることができる。また、記憶装置112には、計算機110における処理に必要な各種のデータが保持される。
【0022】
また、MRI装置100は、静磁場均一度を調節する必要があるときには、シムコイル113と、シムコイル113を駆動するシム電源114をさらに備えてもよい。シムコイル113は、複数のチャネルからなり、シム電源114から供給される電流
により静磁場不均一を補正する付加的な磁場を発生する。静磁場均一度調整時にシムコイル113を構成する各チャネルに流す電流は、シーケンサ104により制御される。
【0023】
以上の各部によりMRI装置100の計測部20(
図1)の機能が実現される。即ち、シーケンサ104の制御により、RFパルスがRFコイル107を通じて被検体103に印加されるとともに、スライス選択や位相エンコードなどの位置情報をエコー信号に与えるための傾斜磁場パルスが傾斜磁場コイル102によって印加される。また、被検体103から発生した信号はRFプローブ108によって受波され、検波された信号は計算機110に送られ、ここで画像再構成などの信号処理が行われる。なお、記憶装置112には、信号処理の結果だけでなく、必要に応じて、検波された信号自体、撮像条件等を記憶させてもよい。
【0024】
計算機110は、CPUとメモリとを備え、受信した信号を処理する演算部として機能するとともに、MRI装置100全体の動作の制御等を行う制御部としても機能する。本実施形態では、演算部として、上述した画像再構成の他に、
図1に示す定量値演算部
40及び撮像パラメータセット生成部
30の処理を行う。但し、定量値演算部
40及び撮像パラメータセット生成部
30の機能を、撮像を行うMRI装置とは別の計算機が実現する場合もある。
【0025】
制御部は、例えば、予めプログラムされたタイミング、強度で各部が動作するようシーケンサ104に指示を出し、MRI装置100を構成する各部の動作を制御し、計測を行う。パルスシーケンスは、上記プログラムのうち、特に、高周波磁場、傾斜磁場、信号受信のタイミングや強度を記述したものである。パルスシーケンスは、撮像方法によって種々のパルスシーケンスがあり、それらの基本のパルスシーケンスが予め記憶装置112に保持されている。
【0026】
実際の撮像においては、撮像部位や撮像目的などに合わせて基本のパルスシーケンスを調整する。この調整のパラメータは撮像パラメータと呼ばれ、ユーザーにより入力装置116を介して入力される。撮像パラメータは、繰り返し時間(TR)、エコー時間(TE)、RFパルスの強度を決定するフリップ角(FA)、周波数エンコード数、位相エンコード数、スライス厚、スライス枚数、スライス間隔、受信バンド幅などがある。計測は、パルスシーケンスとこれを制御するために必要な撮像パラメータとに従って行われる。定量値撮像では、上述した撮像パラメータのうち複数の撮像パラメータの各値を変化させて計測を行う。値を変化させる撮像パラメータの組み合わせをここでは撮像パラメータセットという。
【0027】
定量値画像の撮像に用いられるパルスシーケンスの一例として、RF―spoiled GRASSシーケンスを
図3に示す。本図において、RF、Gs、Gp、Gr、Echoはそれぞれ、高周波磁場、スライス傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場、リードアウト傾斜磁場、エコー信号を表す。スライス傾斜磁場パルス301の印加とともにRFパルス302を照射し、対象物体内のあるスライスの磁化を励起する。次いでスライスリフェーズ傾斜磁場パルス303と磁化の位相に位相エンコード方向の位置情報を付加するための位相エンコード傾斜磁場パルス304、ディフェーズ用リードアウト傾斜磁場305を印加した後、リードアウト方向の位置情報を付加するためのリードアウト傾斜磁場パルス306を印加しながらエコー信号307を計測する。そして最後にディフェーズ用位相エンコード傾斜磁場パルス308を印加する。以上の手順を位相エンコード傾斜磁場パルス304と308の強度(位相エンコード量kp)を変化させるとともにRFパルスの位相を増分値θ(例えば117度)ずつ変化させながら(n番目のRFパルスの位相はφ(n) = φ(n-1) + 117nとなる)繰り返し時間TRで繰り返し、1枚の画像を得るのに必要なエコーを計測する。各エコーはk空間上に配置され、2次元逆フーリエ変換によって画像が再構成される。このパルスシーケンスは、T1(縦緩和時間)を強調した画像が得られる特徴をもつ。
【0028】
定量値撮像では、複数の異なる撮像パラメータセットを用いて同一のパルスシーケンス(RF―spoiled GRASSシーケンス)を実行する。本実施形態のMRI装置では、撮像パラメータセットとして、少なくとも繰り返し時間およびフリップ角の値の組み合わせが異なるものを用いる。計算機110(撮像パラメータセット生成部
30)は、入力装置116を介してユーザーが設定した撮像条件や検査対象に関する情報をもとに、最適な撮像パラメータセットの組み合わせを計算する。シーケンサ
104は計算機110が算出した撮像パラメータセットの組み合わせを用いて、上述したパルスシーケンスによる複数の計測を行うよう、MRI装置の各部を制御する。
【0029】
演算部及び制御部として機能する本実施形態の計算機110の構成を
図4に示す。計算機110は、
図4に示すように、撮像条件を受け付ける撮像受付部410と、少なくとも繰返し時間およびフリップ角の組合せが異なる少なくとも3つ以上の撮像パラメータセットを生成する撮像パラメータセット生成部430と、生成した撮像パラメータセットに基づき同一のパルスシーケンスを実行する計測制御部420と、得られた画素値の異なる複数の画像を用いて定量値を演算する定量値演算部440と、表示装置111に表示させる画像やGUI等を制御する表示制御部450と、を備える。
【0030】
撮像条件受付部410は、撮像部位や撮像対象臓器などの撮像対象に関連する条件を受け付ける対象受付部411と、撮像時間に関連する指標かあるいは定量値の推定精度に関連する指標のいずれかを受け付ける制約条件受付部412を備える。制約条件受付部412が受け付けた指標は、撮像パラメータセット生成部430が特定された撮像対象において最適な撮像パラメータセットを決定する際の制約条件となる。
【0031】
これら計算機
110の機能は、主としてCPUに組み込まれたプログラムにより達成される。また定量値演算の一部或いは全部は、ASICやFPGAなどのハードウェアによって実現する場合もある。
【0032】
次に本実施形態の計算機110における処理の流れを説明する。
図5に処理の流れの概要を示す。はじめに、表示制御部450が表示装置111に撮像条件設定のためのUIを表示し、ユーザーからUI及び入力装置116を介して入力される撮像対象を対象受付部411にて受け付ける(ステップS501)。また、ユーザーからUI及び入力装置116を介して入力された撮像時間または定量値の推定精度に関する制約条件を、制約条件受付部412にて受け付ける(ステップS502)。
【0033】
次に、撮像パラメータセット生成部430において、ステップS501で受け付けた撮像対象に基づき、撮像対象における定量値情報を設定する(ステップS503)。さらに、撮像パラメータセット生成部430において、ステップS502で指定した制約条件が時間に関するものか精度に関するものかを判別する(ステップS504)。ステップS504において、時間に関する制約を受け付けたと判断した場合、撮像パラメータセット生成部
430は、指定された時間制約を満たしながら定量値推定誤差が最小となる、少なくとも繰返し時間およびフリップ角の組合せが異なる少なくとも3つ以上の撮像パラメータセットを誤差伝播法にて算出する(ステップS505)。あるいは、ステップS504において精度に関する制約を受け付けたと判断した場合、撮像パラメータセット生成部
430は、指定された精度制約を満たしながら撮像時間が最小となる、少なくとも繰返し時間およびフリップ角の組合せが異なる少なくとも3つ以上の撮像パラメータセットを誤差伝播法にて算出する(ステップS506)。
【0034】
その後、計測制御部420において、ステップS505あるいはステップS506で算出された撮像パラメータセットを計測の条件に設定する(ステップS507)。計測制御部420において、設定された条件で撮像を実行する(ステップS508)。次に、定量値演算部440において、撮像で得た複数の画像から定量値を算出する(ステップS509)。
【0035】
以下、各部の処理の詳細を説明する。
<ステップS501、S502>
表示制御部450が表示装置111に表示させる、撮像条件受付のためのUIの一例を
図6に示す。図示する例では、受付画面600は、撮像対象に関連する条件を受け付ける対象受付ブロック601と、制約条件受付ブロック602とで構成され、対象受付ブロック601は、予めリスト化された撮像対象(脳、脊椎、心臓、肝臓など)から一項目をユーザーが選択する形式で構成される。制約条件受付ブロック602は、撮像時間かあるいは定量値の推定精度に関連する指標を受け付けるためのUIで、時間か精度のいずれかを選択可能な選択部603と、時間と精度それぞれに関連する指標の数値入力を受け付ける数値入力部604が備えられる。時間に関する指標としては、例えば、生成する撮像パラメータセットのTRの合計値や、撮像パラメータセットの数(3以上を指定)などを入力する。精度指標としては、例えば、誤差伝播法にて算出される相対誤差に関する閾値を入力する。さらに、入力内容を保存して次のステップS503に進むための、確認ボタン605が備えられる。
【0036】
<ステップS503>
撮像パラメータセット生成部430は、まず、ステップS501で選択された撮像対象における定量値情報を設定する。定量値情報とは、撮像対象ごとに経験的に求められている典型的な定量値の値(以下、定量値の基準値という)であり、後述のステップS505、S506における誤差伝搬法の演算に用いられる。定量値は、例えば、プロトン密度PD、受信コイルの感度Sc、送信感度B1、縦緩和時間T1、横緩和時間T2或いは見かけの横緩和時間T2*、などである。
【0037】
本実施形態では、対象受付部411にてユーザーが選択可能な撮像対象の定量値の基準値をテーブルとして予め記憶装置112に保存しておく。撮像パラメータセット生成部430は、対象受付部411におけるユーザーの選択に応じて、記憶装置112に保存された撮像対象と定量値のテーブルを参照し、選択された撮像対象における基準値を呼び出す。例えば、対象が脳であった場合、呼び出される値は脳の主な組織である白質、灰白質、脳脊髄液、脂肪などの定量値が呼び出される。
【0038】
<ステップS504、S505>
ステップS504で選択部603(
図6)を介して時間優先であることが選択され、時間指標504を介して時間の制約条件が入力されると、制約条件受付部412が、これら条件を受け付け、撮像パラメータセット生成部430は受け付けた制約条件のもとで、誤差伝搬法を用いた最適化手法により撮像パラメータセットを生成する。
図7(A)にステップS505の詳細を示す。
【0039】
最適化手法の対象となる撮像パラメータセットは、総当たり法でもよいが、演算時間を短縮するため、撮像パラメータ(フリップ角FA、繰り返し時間TR、エコー時間TE、RFパルスの位相増分θ)の設定可能な値をもとに、対象とする撮像パラメータセットの組み合わせの数を絞っておくことが好ましい(S5051)。具体的には、撮像パラメータの設定可能な値の候補を予め記憶装置112に保存しておき、時間指標として、例えばパラメータセットの数Nの指定を受けた場合は、Nの値を固定し、パラメータセットの数がN個となる撮像パラメータセットを各々の値の候補の組合せにて作成する。或いは時間指標として、撮像パラメータセットのTRの合計値を受け付けた場合は、Nを3以上に設定し、撮像パラメータ値の候補を組合せて作成した撮像パラメータセットのうち、TRの合計値が指定された値に一致する組合せのみを選択してもよい。また4つの撮像パラメータのうち、TE、θの両方或いは一方は固定し、FA、TRのみを異ならせた組み合わせから作成してもよい。これにより組み合わせ数が膨大になるのを防止できる。
【0040】
こうして対象となる撮像パラメータセットの組み合わせ(組み合わせ候補)が決まったならば、組み合わせ候補のそれぞれについて、各撮像パラメータセットを用いた場合に取得される画像の輝度値から定量値の摂動を計算し、誤差を推定する(S5052)。
【0041】
本実施形態において実行されるパルスシーケンスにて取得される画像の輝度値Iは、次式(1)のように撮像パラメータと撮像対象の定量値の輝度関数で表わすことができる。
【数1】
ここで、aはプロトン密度と受信コイルの感度および受信ゲインなどを含む比例係数、B1は送信感度、T1は縦緩和時間、T2*は見かけの横緩和時間、FAはフリップ角、TRは繰り返し時間、TEはエコー時間、θはRF(高周波磁場)の位相増分値である。a、B1、T1、T2*は定量値、FA、TR、TE、θは撮像パラメータである。輝度関数は、一般的なパルスシーケンスでは公知であり、またBlochの方程式を解くことで数値的な補間関数として求めることも可能である。
【0042】
定量値の摂動(Δa、ΔB1、ΔT1、ΔT2*)は、撮像パラメータセット数をN、i回目の撮像パラメータセットを
xi=(FAi、TRi、TEi、θi)、但し、iは1〜Nの整数
としたとき、式(1)の関数fの2次関数近似からの導出により次式(2)で表わされる。
【0043】
【数2】
ここで、▽fは勾配ベクトル、
▽2fはヘシアン行列であり、それぞれ、式(3)、式(4)で表わされる。
【0045】
この定量値の摂動の演算において、定量値として、ステップS503で設定した撮像対象の標準値を用いる。
【0046】
なお、悪条件による解の導出時の誤差を過大評価するため、条件数に閾値を設定し、次式(5)のように、閾値より小さい場合に、摂動が大きくなる条件判定を設定しても良い。
【数5】
【0047】
次に算出した摂動を規格化し、相対誤差Eを次式(6)で計算する。
【数6】
ここで、Mはターゲット組織(撮像対象に含まれる組織のうち定量値算出の対象とする組織)の数、wは重み付けの係数である。下付jは1〜Mの整数で各組織の定量値とその摂動であることを意味する。
【0048】
このように、対象組織の定量値(基準値)が予め分かっている場合、ある撮像パラメータセット「xi=(FAi、TRi、TEi、θi)」で計測された画素値から推定される定量値a、B1、T1、T2*がどの程度の誤差を含むかを相対誤差Eにて評価することができる。
【0049】
撮像パラメータセット生成部430は、組み合わせ候補すべてについて上述した相対誤差の計算を行い、相対誤差Eが最小となる撮像パラメータセット「xi=(FAi、TRi、TEi、θi)」の組み合わせを最適撮像パラメータセットとして、計測制御部420に渡す(S5053)。
【0050】
<ステップS504、S506>
図7(B)にステップS506の詳細を示す。
ステップS504で選択部603(
図6)を介して精度優先が選択され、精度の指標として、例えば、相対誤差Eの値がユーザーから指定された場合は、撮像パラメータセット生成部430は、撮像パラメータセットの組み合わせ(S5061)の中から、精度の制約として指定された値よりも相対誤差Eが小さくなる撮像パラメータセットを抽出し(S5062、S5063)、その中から撮像時間が最短となる撮像パラメータセットを抽出する(S5064)。撮像時間はTRで見積もることできるので、ここではTRの合計値が最小となる撮像パラメータセットを抽出する。
【0051】
<ステップS507、S508>
計測制御部420は、同一パルスシーケンスを用い、撮像パラメータセット生成部430にて生成したN種類の撮像パラメータにて、N回の計測を行い、N個の画像を取得する。即ち、計測の度に、撮像パラメータFA、TR、TE、及びθを撮像パラメータセット生成部が生成した撮像パラメータセットの各値にセットして、N回の計測を繰り返す。
【0052】
<ステップS509>
定量値演算部440は、撮像パラメータセット「xi=(FAi、TRi、TEi、θi)」と計測制御部420にて取得した画像の各ボクセルの画素値Iiを輝度関数fでフィッティングすることにより定量値a、B1、T1、T2*を推定する。フィッティングは,次式(7)で表わされる最小二乗問題を解く。
【0054】
算出した定量値は、必要に応じて表示制御部450が表示装置111に表示する。表示の形態は従来の定量値撮像における表示形態と同様であり、例えば、定量値を画素とする定量値画像を表示してもよいし、定量値を数値として表示することも可能である。さらに複数の定量値を用いて、他の診断用の諸量を算出し、それを表示することも可能である。
【0055】
以上に説明したように、本実施の形態においては、ユーザーの入力する条件において、定量値推定に最適な撮像パラメータを提供する。これにより、分解能を維持したまま撮像時間を短くしたい場合、例えば、ユーザーは撮像する画像の枚数を指定するか、あるいは撮像パラメータセットの合計TRを指定することにより、現状より撮像時間の短い撮像パラメータセットを容易に作成できる。また、画像の質にこだわりたい場合においては、相対誤差を指定することにより、画質を維持した上で最短の撮像時間となる撮像パラメータセットを容易にできる。
【0056】
<変形例1>
第二の実施形態では、定量値撮像の撮像シーケンスとして、1回の繰り返し時間TRで一つのエコー信号を計測するパルスシーケンスを例示したが、TR内で複数のエコー信号を計測し、複数のTEの画像を取得するマルチエコー計測シーケンスを採用することも可能である。これにより各回の撮像で取得する画像数が増えるため定量値の推定精度を向上できる。
【0057】
<変形例2>
第二の実施形態では、少なくともTRとFAの組合せが異なるパラメータを抽出することを説明したが、本変形では、RFパルスの位相増分θを固定値とし且つその値を117度とは異なる角度に調整する。
【0058】
一般に、RF−spoiled GRASSシーケンスのように、T1(縦緩和時間)を強調した画像を取得するシーケンスでは、T2(横緩和)の影響を排除するためにRFパルスの位相をTRごとに変化させる。この際、位相増分を117度に設定したときにT2の影響を効果的に排除することが知られているが、定量値撮像において定量値算出の誤差を低減するために好適な位相増分は検討されていない。そこで本変形例では、定量値算出の誤差と位相増分との関係に基づき、位相増分を調整する。
【0059】
図8に、固定値であるθの値を変化させたときの相対誤差Eの値をプロットした図を示す。相対誤差Eは、上述した式(2)、(6)に種々のθを代入して算出した値であり、グラフにはTRの合計値がそれぞれ異なる場合をプロットしている。図からわかるように、いずれのTRにおいても、位相増分値θが10度を超えると、位相増分が大きくなるにつれ、相対誤差Eは高くなる傾向がある。
【0060】
そこで本変形例では、撮像パラメータセット設定部430は、位相増分を10度以下(0度以上10度以下)の固定値に設定した上で、他の撮像パラメータ値の候補を組合せて、撮像パラメータセットを生成する。生成した複数の撮像パラメータセットについて、時間に関する制約或いは誤差精度に関する制約のもと、相対誤差Eを算出し、相対誤差Eを最小にする撮像パラメータセットの組み合わせを決定することは第二の実施形態と同様である。
【0061】
本変形例によれば、位相増分値を調整することにより、誤差精度を高めることができる。
【0062】
なお位相増分値θを10度以下の固定値とするのではなく、位相増分値θの値を固定せず、各撮像パラメータセットでθを変えるような撮像パラメータセットを算出しても良い。これにより、定量値精度をさらに向上できる利点がある。
【0063】
<変形例3>
第二の実施形態では、ユーザーの指定に基づき、撮像パラメータセット生成部430にて算出する構成としていたが、予め複数の条件にて最適な撮像パラメータセットを演算してリスト化して記憶装置112に保存する構成にしても良い。その場合、撮像パラメータセット生成部430は、指定する条件に一致する撮像パラメータセットを記憶装置112に保存された情報を参照して抽出し、最適パラメータセットとして提示する。これにより、設定から最適パラメータの提示を受けるまでの処理時間を大幅に短縮することができ、利便性が向上する。
【0064】
<<第三の実施形態>>
以上の実施形態では、本発明の撮像パラメータセット生成に関わる機能をMRI装置内の計算機が実行する場合を説明したが、撮像パラメータセット生成に関わる機能は、MRI装置とは別の計算機で実行することが可能である。別の計算機は、独立したCPUであってもよいし、クラウド上に構築されたものであってもよく、撮像パラメータセット生成装置として本発明に包含される。
【0065】
この場合、撮像パラメータセット生成装置900は、
図9に示すように、MRI装置100の撮像条件受付部10が受け付けた撮像条件を受け付ける受付部910と、撮像パラメータセット生成部930とを備える。受付部910は、撮像パラメータセット生成装置900がMRI装置100とネットワークで接続可能な装置であれば、ネットワークを介して、或いは通信手段や可搬媒体等を介して、所定の撮像対象について撮像を行うMRI装置の撮像条件受付
部10が受け付けた撮像条件を受け付ける。撮像パラメータセット生成部930は、撮像条件をユーザーが入力する入力装置を備えていてもよい。
【0066】
撮像パラメータセット生成部930が、撮像パラメータセットを生成する手順は、上述したMRI装置内の撮像パラメータセット生成部430で行う手順(
図5)と同じであり、例えば、以下の処理手順を記述したプログラムに従って実行される。
【0067】
撮像対象を受け付けるステップ(S501)、撮像時間または定量値の推定精度に関する制約条件を受け付ける
ステップ(S502)、受け付けた撮像対象に基づき、撮像対象における定量値情報(定量値の標準値)を設定するステップ(S503)、指定した制約条件が時間に関するものか精度に関するものかを判定するステップ(S504)、時間に関する制約を受け付けたと判定した場合、定量値の標準値を用いて、指定された時間制約を満たしながら定量値推定誤差が最小となる、少なくとも繰返し時間およびフリップ角の組合せが異なる少なくとも3つ以上の撮像パラメータセットを誤差伝播法にて算出するステップ(S505)、精度に関する制約を受け付けたと判定した場合、指定された精度制約を満たしながら撮像時間が最小となる、少なくとも繰返し時間およびフリップ角の組合せが異なる少なくとも3つ以上の撮像パラメータセットを誤差伝播法にて算出するステップ(S506)。
【0068】
ステップS505の処理は、
図7(A)に示すように、例えば、時間に関する制約のもとで、即ち時間に関する指標を用いて、複数の撮像パラメータセットの組み合わせ候補を作成するステップS5051を含むことができる。或いは、予め組み合わせ候補をデータベース化しておくことも可能であり、その場合には、ステップ
S501ではデータベース化した候補から、例えば最適化手法の対象となる撮像パラメータセットの組み合わせを選択してもよい。またステップS505の処理は、S5051で作成した組み合わせ候補について、定量値の標準値を用いて相対誤差を計算するステップ(S5052)、及び、誤差伝搬法により誤差が最小となる撮像パラメータセットの組み合わせを決定するステップ(S5053)を含むことができる。
【0069】
ステップS506の処理は、
図7(B)に示すように、組み合わせ候補を作成するステップS5061、相対誤差を計算するステップS5062、相対誤差が指定された誤差精度以下となる組み合わせを選択するステップS5063、及び、ステップS5063で選択された組み合わせから撮像時間が最短となる組み合わせを選択するステップS5064を含むことができる。
【0070】
本実施形態によれば、MRI装置から独立した計算機で撮像パラメータセットの生成を行うので、MRI装置の演算部(CPU)の負荷を軽減することができる。
【0071】
なお本実施形態のパラメータセット生成装置900は、撮像パラメータセット生成部930に加えて、定量値演算部940(点線で示す)を備えていてもよい。この場合には、撮像パラメータセット生成装置900が生成した撮像パラメータセットを用いて、MRI装置100が撮像した複数の画像を定量値演算部940が取込み、定量値を算出する。算出した定量値を、MRI装置側に戻し、MRI装置100において、その他の画像(例えば定量値計算に用いた画像)とともに表示する。表示の形態は任意である。