【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様において、高齢の、虚弱な及び/又は罹患した人物、特に、パーキンソン病を患う人物をサポートするためのシステムが提示される。このシステムは、
(i)人物の脳活動に関係する脳活動信号を検出するための脳活動センサと、(ii)人物の1つ以上の身体部分の運動に関係する運動信号を検出するための運動検出ユニットと、を備える検出ユニットと、
検出された脳活動信号及び運動信号に基づいて、人物がいくつの異なる運動タスク及び認知タスクを同時に行っているかを示す人物の活動レベルを求めるための解析ユニットと、
人物の活動レベルが所定の閾値を超えている場合に人物にフィードバックを提供するためのフィードバックユニットと、
を備える。
【0011】
本発明の更なる態様において、高齢の、虚弱な及び/又は罹患した人物、特に、パーキンソン病を患う人物をサポートするための方法が提示される。この方法は、
人物の脳活動に関係する脳活動信号を受信し、(ii)人物の1つ以上の身体部分の運動に関係する運動信号を受信するステップと、
検出された脳活動信号及び運動信号に基づいて、人物がいくつの異なる運動タスク及び認知タスクを同時に行っているかを示す人物の活動レベルを求めるステップと、
人物の活動レベルが所定の閾値を超えている場合に、人物にフィードバックを提供するステップと、
を有する。
【0012】
本発明のまた更なる態様によれば、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるときに、上述した方法のステップをコンピュータに実行させるためのプログラムコード手段を含むコンピュータプログラムが提示される。
【0013】
本発明の好ましい実施形態は従属請求項において定義される。特許請求される方法及び特許請求されるコンピュータプログラムは、特許請求されるシステムと及び従属請求項において定義されるのと類似の及び/又は同一の好ましい実施形態を有することが理解されよう。
【0014】
本明細書において提示されるシステム及び方法は、人物、特、パーキンソン病を患う人物が、過度に多くの運動タスク及び/又は認知タスクを同時に行っており、したがって転倒するか又は別の形で怪我をするリスクがあることを検出した場合に、それらの人物にアクティブに警告することを可能にする。
【0015】
本システムは、3つの主要なコンポーネント、すなわち、(i)本明細書において検出ユニットとして表される検知コンポーネント、(ii)本明細書において、検出ユニット内で検知された信号を解析及び解釈する解析ユニットとして表される処理ユニット、及び(iii)本明細書においてフィードバックユニットとして表され、解析ユニットにおいて処理された信号に基づいて人物にフィードバックを与えるように構成されるアクチュエータユニット、を備える。
【0016】
検出ユニットは、人物の脳活動に関係する脳活動信号を検出するための脳活動センサと、人物の1つ以上の身体部分の運動、特に、人物の1つ以上の手足の運動に関係する運動信号を検出するための運動検出ユニットとを備える。検出ユニットは、このため、人物の運動及び/又は認知動作を監督する1つ以上のセンサを備える。
【0017】
解析ユニットは、好ましくは、検出された脳活動信号及び運動信号に基づいて、人物の運動活動及び認知活動を示す人物の活動レベルを求めるように構成された1つ以上のプログラムモジュールを備えるプロセッサとして実現される。好ましい実施形態によれば、活動レベルは、人物がいくつの異なる運動タスク及び認知タスクを同時に行っているかを示す。本明細書における「求める」という用語は、むしろ「推定する」の意味を有することが明らかであろう。なぜなら、例えば、脳波(EEG)信号及び/又は動き信号に基づいて、人物がいくつの運動タスク及び/又は認知タスクを同時点に行っているかを厳密に求めることは通例不可能であるためである。また一方で、この事例において、タスクの総数を厳密に求めることはそれほど重要でない。むしろ、検知された信号に基づいて、人物が過度に多くの同時タスクを行うことに起因して過度に緊張しているか否かを判断することが重要である。
【0018】
フィードバックユニットは、解析ユニットによって操作することができ、解析ユニットが、検出された信号に基づいて、人物の活動レベルが所定の閾値を超えていると判断する場合に、人物にアクティブにフィードバック、例えば警告信号を与える1つ以上のアクチュエータを備える。
【0019】
このため、パーキンソン患者は、歩行中に同時に一方の手で物を掴もうとする場合に、本明細書において提示されるシステムによって自動的に警告を受けることができる。この場合、人物に歩行に集中するように警告する警告信号を生成することができる。これにより、転倒のリスクが低減し、特に、人物が1つのタスクに集中し、同時にいくつかのタスクを行うことによって気が散らないことがどれだけ重要であるかの認識が生じる。
【0020】
以下において、本出願全体を通じて用いられるいくつかの用語が簡単に説明及び定義される。
【0021】
「人物の活動レベル」という用語は、脳活動信号に基づいて検出される認知活動量、及び/又は運動信号に基づいて検出される運動量の尺度である。活動レベルは、好ましくは、人物が同時にいくつの異なる運動タスク及び/又は認知タスクを行っているかを示す尺度である。このため、人物の活動レベルは、人物の認知努力、及び/又は人物がどれだけ多く及びどれだけ高速に動いているか、又は同時にいくつの手足及び身体部分が動かされているかを表す尺度である。活動レベルは、あるスケールで測定可能な一定の値として表されるが、いくつかの質的及び/又は量的パラメータを含んでもよい。
【0022】
「所定の閾値」という用語は、解析ユニットにおいて、活動レベルがその値を超えているか又は所定の条件を満たしている場合に人物にフィードバックを提供するようにフィードバックユニットを操作するための条件として予め定義される具体的な値又は条件である。
【0023】
「運動タスク」という用語は、身体(の一部)の随意運動を伴う、人物によって行われる主に運動性の動作に等しい。通常の運動タスクは、歩行すること、座った状態から立ち上がること、手で物を掴むこと、手で物を運ぶこと等である。
【0024】
「認知タスク」という用語は、人物によって行われる任意の主に認知性の動作を指す。通常の認知タスクは、本を読むこと、謎を解き明かすこと、数学的問題又はパズルを解くこと、人物について考えること、1日の計画を立てること等である。
【0025】
当然ながら、ジェスチャを伴って話すこと、音楽の即興演奏(例えば、ジャズ)等の、認知及び運動が組み合わされたタスクも存在する。
【0026】
実施形態によれば、脳活動信号は、各々が人物の脳の異なる領域における脳活動に関係する複数の異なる信号成分を含む。解析ユニットは、人物がいくつの異なる運動タスク及び認知タスクを同時に行っているかを推定するために、異なる信号成分を解析することによって人物の活動レベルを求めるように構成される。
【0027】
脳活動センサは、例えば、いくつかのセンサを含み、各センサは人物の異なる脳領域を監督する。このため、「信号成分」という用語は、脳活動センサの別個のセンサによって提供される異なる部分信号に関係する。この用語は、異なる信号チャネルにも関係する。例えば、あるセンサは人物の一次運動野を監督し、別のセンサは前運動皮質を監督し、更なるセンサは前頭前野を監督し、また更なるセンサは後頭頂皮質を監督する。
【0028】
一次運動野における脳活動は、通常、人物の同時に進行中の動きに関係する。前運動皮質における脳活動は、動きを行う意図を検出するために測定され得る(この脳の領域は、通常、運動が開始する直前にアクティブとなる)。認知活動を検出するために、前頭前皮質に焦点が当てられる。前頭前皮質では、意思決定及び推論が行われ、作業記憶及び言語産出のための部位が位置する。
【0029】
一実施形態によれば、解析ユニットは、例えば、人物の脳の第1の領域における脳活動に関係する異なる信号成分のうちの第1の成分が、この第1の領域において第1の所定の脳活動レベルを超える脳活動を示す場合に、人物の活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するようにフィードバックユニットを操作するように構成される。
【0030】
例えば、活動レベルは、一次運動野において検出される脳活動が、人物が現在いくつかの運動タスクを同時点に行っていることを示す所定の閾値を超えている場合に、所定の閾値を超えているとみなされる。
【0031】
また、解析ユニットは、人物の脳の第1の領域における脳活動に関係する異なる信号成分のうちの第1の成分が、この第1の領域において第1の所定の脳活動レベルを超える脳活動を示す場合、かつ同時に、人物の脳の第2の領域における脳活動に関係する異なる信号成分のうちの第2の成分が、この第2の領域において第2の所定の脳活動レベルを超える脳活動を示す場合に、人物の活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するようにフィードバックユニットを操作するように構成される。
【0032】
換言すれば、人物の2つの脳領域における脳活動が同時に比較的高いレベルにあることが検出される場合に、活動レベルの所定の閾値を超えているとみなされ得る。「第1の」及び「第2の」(信号成分、脳領域、所定の脳活動レベル)という用語は、本明細書において、いかなる時系列も優先順位リストも暗に意味するように用いられておらず、単に、本明細書において同じ用語で称される異なる部分を区別するためのものである。人物の活動レベルは、例えば、一次運動野における脳活動が所定のレベルを超えており、かつ前運動皮質における脳活動も同時に所定の(他の)レベルを超えている場合に、所定の閾値を超えているとみなされる(それによって、人物へのフィードバックが必要となる)。そのような状況は、人物が現在、動いており、例えば歩行しており、同時に、別の運動タスクを行おうとしている、例えばデスクから物を掴もうとしていることを示し得る。次に、システムは、フィードバック信号によって、人物に、同時に過度に多くのタスクを行わないように警告する。
【0033】
また、人物の活動レベルは、一次運動野における脳活動が所定のレベルを超えており、かつ前頭前皮質における脳活動が同時に所定の(他の)レベルを超えていることが検出される場合に、所定の閾値を超えているとみなされ得る。そのような状況は、例えば、人物が歩行しながら話そうとしていることを示すものであり得る。
【0034】
要約すると、上述した実施形態において、脳活動信号の異なる信号成分から、脳のある部位の脳活動の尺度を生成し、人物の脳のある種の2D/3Dヒートマップを再構成することが可能である。そして、脳の選択された部位ごとに、(例えば、その部位にわたって積分をとることによって)脳活動を取り出すことが可能である。システムは、特定の部位における脳活動がかなり高いか、又は2つの異なる脳部位における脳活動が、同時に比較的高いレベルにある場合に、人物に警告することができる。
【0035】
更なる実施形態によれば、システムは、基準脳活動信号を記憶するためのメモリユニットを更に備える。解析ユニットは、脳活動センサによって検出された脳活動信号を、メモリユニットに記憶された基準脳活動信号と比較することによって、人物の活動レベルを求めるように構成される。
【0036】
上述した基準脳活動信号は、好ましくは、人物が休んでいる、すなわち、動いておらず、いかなる認知タスクもアクティブに行っていない間に記録される脳活動信号である。この基準脳活動信号は、初期化段階中にメモリユニットに取得及び記憶することができる。次に、システムは、現在測定されている脳活動信号又は人物の異なる脳部位に関係する脳活動信号の異なる成分を、メモリユニットに記憶された1つ以上の基準脳活動信号と比較する。次に、活動レベルの所定の閾値を、一定の固定値、例えば、2、3又は4として定義することができ、現在測定されている脳活動信号を基準脳活動信号で除算した商として定義することができる。例えば、現在測定されている脳活動信号の最大振幅又は総信号電力が、基準脳活動信号の最大振幅又は総信号電力の2倍高い場合に、所定の閾値を超えているとみなすことができる。当然ながら、この比較は、別個の脳領域における脳活動について、又は脳全体の全体的な脳活動について再び行われる。
【0037】
同様に、基準運動信号は、メモリユニットにも記憶され、解析ユニットは、検出された運動信号を基準運動信号と比較することによって、人物の活動レベルを求めるように構成される。
【0038】
解析ユニットは、例えば、検出された運動信号に基づいて、人物がどのように歩行しているかを判断し、正常歩行からの逸脱を検出するために、これを人物の正常歩行と比較するように構成される。人物の通常歩行を反映する運動信号は、基準運動信号としてメモリに記憶することができる。この場合、解析ユニットは、人物の通常歩行と異なる歩行が検出される場合、すなわち、検出された運動信号が、メモリユニットに記憶される基準運動信号と異なることが検出される場合、患者にフィードバックを提供するようにフィードバックユニットを操作するように構成される。
【0039】
更なる実施形態によれば、脳活動センサはEEGセンサであり、脳活動信号はEEG信号であり、解析ユニットは、周波数領域における脳活動信号の周波数スペクトルの1つ以上の範囲におけるEEG信号を解析することによって、人物の活動レベルを求めるように構成される。
【0040】
解析ユニットは、例えば、(i)EEG信号の全体周波数スペクトルにおける信号電力、(ii)EEG信号のアルファ帯域における信号電力、及び(iii)EEG信号のベータ帯域における信号電力のうちの少なくとも1つを解析するように構成される。
【0041】
このコンテキストにおいて、「信号電力」という用語は、例えば一定の周波数帯域にわたって積分をとることによる、周波数スペクトルの曲線下面積に関係する。
【0042】
EEG信号は、例えば、フーリエ変換を行うことによって時間領域から周波数領域に変換される。0Hz〜100Hzの脳活動信号の間の全体周波数スペクトルにおける信号電力を検討することは、総脳活動に関係する。高いレベルのこの総信号電力は、人物が同時に複数の認知タスク及び/又は運動タスクを行っている場合に予期される。他方で、アルファ帯域(7.5Hz〜12.5Hz)における信号電力を検討することにより、人物が行っている運動タスクに関するインジケーションがもたらされる。アルファ帯域における低レベルは、人物の運動活動及び/又は認知活動が高い場合に予期される。他方で、アルファ帯域における高レベルは、リラックスに関連付けられる。更なる妥当な尺度は、周波数スペクトルにおける脳活動信号のベータ帯域(12.5Hz〜40Hz)の解析である。ベータ帯域における高信号電力は、通例、アクティブな認知プロセスに結び付けられ、人物の高い認知努力を示すものである。EEG信号の周波数スペクトルの異なる範囲と、人物の運動活動及び/又は認知活動との間のこれらの対応関係及び他の対応関係は、以下の2つの科学論文において行われたいくつかの実験にも示された。これらの内容は、参照により本明細書に援用される:Ray,W.J.,他:「EEG alpha activity reflects attentional demands, and beta activity reflects emotional and cognitive processes」,Science,10 May 1985:Vol.228, No.4700, pp.750−752及びRay,W.J.:「EEG activity during cognitive processing:Influence of attentional factors」,International Journal of Psychophysiology, Vol.3, Issue 1, July 1985, pp.43−48。
【0043】
解析ユニットは、(i)EEG信号の全体周波数スペクトルにおける信号電力が第1の閾値を超えている、(ii)EEG信号のアルファ帯域における信号電力が第2の閾値未満である、及び/又は(iii)EEG信号のベータ帯域における信号電力が第3の閾値を超えている、のうちの少なくとも1つの場合に、人物の活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するようにフィードバックユニットを操作するように構成される。
【0044】
上記において、脳活動信号に基づく検知に主に焦点が当てられてきたことに留意されたい。上述したように、これにより、認知活動及び運動活動の双方を評価することが可能になる。一方、検出ユニットが、脳活動センサ及び運動検出ユニット(運動センサ)の双方を組み合わせる場合、そのような組み合わせにより運動タスクのより信頼性のある検知が可能になるため、特に好ましい。
【0045】
更なる実施形態によれば、解析ユニットは、検出された脳活動信号及び運動信号に基づいて、人物が歩行しているか否かを判断するように構成され、解析ユニットは、検出された脳活動信号及び運動信号に基づいて、人物が歩行しており、同時に更なる運動タスク及び認知タスクを行っていると判断される場合に、人物の活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するようにフィードバックユニットを操作するように構成される。
【0046】
最初に述べたように、特に、パーキンソンを患う人物は、歩行に大きな困難を有する。そのような人物が歩行に集中せず、他のタスク(認知及び/又は運動タスク)を同時に行っている場合、転倒のリスクは大きく増大する。この構成におけるシステムは、そのような状況を検出し、そのような状況が検出される場合、例えば、人物が歩行しており、同時に左手で物を掴もうとしている場合に、人物にフィードバックを与えることを特に対象としている。最も簡単な事例において、そのような状況は、人物の手足(左脚、右脚、左腕、右腕)に取り付けられた動きセンサによって検出することができる。EEGセンサと組み合わされる場合、測定は更に高い信頼性で行うことができる。
【0047】
運動検出ユニットは、1つ以上の加速度計を備える。これらの加速度計は、人物のいくつかの身体部分、特に、人物の手足に取り付けることができる。これらは次に、これらの身体部分の加速度を測定し、これにより人物がどのように動いているかが示される。
【0048】
代替的に又は更に、運動検出ユニットは、光運動センサを備える。そのような光運動センサは、例えば、人物を撮影し、人物の特定の身体部分の動きを記録するビデオカメラとして実現される。
【0049】
また代替的に又は更に、運動検出ユニットは、筋電図(EMG)センサを備えることができる。そのようなEMGセンサは、筋肉及び神経内の電気活動を測定し、人物の動きのタイプ及び量に関してもインジケーションを与える。また、単数又は複数のEMGセンサは、好ましくは人物の手足に配置される。
【0050】
既に上述したように、脳活動センサは、好ましくは、脳波(EEG)センサを備える。代替的に又は更に、脳活動センサは、機能的磁気共鳴画像(fMRI)センサ、及び/又は認知努力が増大するときに通例血流が増大し、それによって脳のその部分により解放される熱が増大する際の、頭部の熱検知のために構成された1つ以上の熱センサも備える。一方、本明細書に記載される用途の場合、非常に感度の高い熱センサが用いられなくてはならないことに留意されたい。精度も当然ながら、EEGセンサの使用と比較して限られている。
【0051】
フィードバックユニットは、(i)人物に可聴フィードバックを提供するためのラウドスピーカ、(ii)人物に視覚フィードバックを提供するためのディスプレイ又は光アクチュエータ、及び(iii)人物に触知性フィードバックを提供するための触覚アクチュエータ、のうちの少なくとも1つを備える。人物を驚かせ、これによって人物に平衡を失わせることを回避するために、アクチュエータ信号の選択には注意を払うべきである。一方、通常、人物が自身の挙動を変更し、同時タスクを行うことを回避することを意識することを可能にする任意のタイプのフィードバックが考えられる。
【0052】
本発明のこれらの及び他の態様は、以下に説明される実施形態から明らかとなり、これらを参照することにより解明される。