特許第6782714号(P6782714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6782714高齢の、虚弱な及び/又は罹患した人物をサポートするためのシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6782714
(24)【登録日】2020年10月22日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】高齢の、虚弱な及び/又は罹患した人物をサポートするためのシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0476 20060101AFI20201102BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20201102BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20201102BHJP
   A61B 5/04 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   A61B5/04 322
   A61B5/11 230
   A61B5/00 102A
   A61B5/04ZDM
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-562074(P2017-562074)
(86)(22)【出願日】2016年5月26日
(65)【公表番号】特表2018-521725(P2018-521725A)
(43)【公表日】2018年8月9日
(86)【国際出願番号】EP2016061880
(87)【国際公開番号】WO2016193106
(87)【国際公開日】20161208
【審査請求日】2019年5月23日
(31)【優先権主張番号】15170281.8
(32)【優先日】2015年6月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】特許業務法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】デ ヴリース ヤン ヨハネス ゲラルドゥス
(72)【発明者】
【氏名】ウェフェアース‐アルブ ミレラ アリナ
【審査官】 福田 千尋
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0276130(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0358024(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0120007(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高齢の、虚弱な及び/又は罹患した人物、特に、パーキンソン病を患う人物をサポートするためのシステムであって、前記システムは、
(i)人物の脳活動に関係する脳活動信号を検出するための脳活動センサと、(ii)人物の1つ以上の身体部分の運動に関係する運動信号を検出するための運動検出ユニットと、を備える検出ユニットと、
検出された前記脳活動信号及び前記運動信号に基づいて、人物がいくつの異なる運動タスク及び認知タスクを同時に行っているかを示す人物の活動レベルを求めるための解析ユニットと、
人物の前記活動レベルが所定の閾値を超えている場合に人物にフィードバックを提供するためのフィードバックユニットと、
を備える、システム。
【請求項2】
前記脳活動信号は、各々が人物の脳の異なる領域における脳活動に関係する複数の異なる信号成分を含み、前記解析ユニットは、人物がいくつの異なる運動タスク及び認知タスクを同時に行っているかを推定するために、前記異なる信号成分を解析することによって人物の前記活動レベルを求める、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記解析ユニットは、人物の脳の第1の領域における脳活動に関係する異なる信号成分のうちの第1の成分が、前記第1の領域において第1の所定の脳活動レベルを超える脳活動を示す場合、人物の前記活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するように前記フィードバックユニットを操作する、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記解析ユニットは、人物の脳の第1の領域における脳活動に関係する異なる信号成分のうちの第1の成分が、前記第1の領域において第1の所定の脳活動レベルを超える脳活動を示す場合、かつ同時に、人物の脳の第2の領域における脳活動に関係する異なる信号成分のうちの第2の成分が、この第2の領域において第2の所定の脳活動レベルを超える脳活動を示す場合に、人物の前記活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するように前記フィードバックユニットを操作する、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記脳活動センサはEEGセンサであり、前記脳活動信号はEEG信号であり、前記解析ユニットは、周波数領域における前記EEG信号の周波数スペクトルの1つ以上の範囲における前記EEG信号を解析することによって、人物の前記活動レベルを求める、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記解析ユニットは、(i)前記EEG信号の全体周波数スペクトルにおける信号電力、(ii)前記EEG信号のアルファ帯域における信号電力、及び(iii)前記EEG信号のベータ帯域における信号電力のうちの少なくとも1つを解析する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記解析ユニットは、(i)前記EEG信号の全体周波数スペクトルにおける信号電力が第1の閾値を超えている、(ii)前記EEG信号のアルファ帯域における信号電力が第2の閾値未満である、及び/又は(iii)前記EEG信号のベータ帯域における信号電力が第3の閾値を超えている、のうちの少なくとも1つの場合に、人物の前記活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するように前記フィードバックユニットを操作する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記解析ユニットは、検出された前記脳活動信号及び前記運動信号に基づいて、人物が歩行しているか否かを判断し、前記解析ユニットは、検出された前記脳活動信号及び前記運動信号に基づいて、人物が歩行しており、同時に更なる運動タスク及び/又は認知タスクを行っていると判断される場合に、人物の前記活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するように前記フィードバックユニットを操作する、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
基準脳活動信号及び/又は基準運動信号を記憶するメモリユニットをさらに備え、前記解析ユニットは、検出された前記脳活動信号及び前記運動信号を前記基準脳活動信号及び/又は前記基準運動信号とそれぞれ比較することによって、人物の前記活動レベルを求める、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記運動検出ユニットは、1つ以上の加速度計を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記運動検出ユニットは、光運動センサを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記運動検出ユニットは、筋電図センサを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記フィードバックユニットは、(i)人物に可聴フィードバックを提供するためのラウドスピーカ、(ii)人物に視覚フィードバックを提供するためのディスプレイ又は光アクチュエータ、及び(iii)人物に触知性フィードバックを提供するための触覚アクチュエータ、のうちの少なくとも1つを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
高齢の、虚弱な及び/又は罹患した人物、特に、パーキンソン病を患う人物をサポートするための方法であって、前記方法は、
(i)人物の脳活動に関係する脳活動信号を受信し、(ii)人物の1つ以上の身体部分の運動に関係する運動信号を受信するステップと、
検出された前記脳活動信号及び前記運動信号に基づいて、人物がいくつの異なる運動タスク及び認知タスクを同時に行っているかを示す人物の活動レベルを求めるステップと、
人物の前記活動レベルが所定の閾値を超えている場合に、人物にフィードバックを提供するステップと、
を有する、方法。
【請求項15】
コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるときに、請求項14に記載の方法のステップをコンピュータに実行させるためのプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢の、虚弱な及び/又は罹患した人物をサポートするためのシステムに関する。特に、本システムは、パーキンソン病を患う人物をサポートすることに焦点を当てる。本発明は、更に、対応する方法及びこの方法を実行するための対応するコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ある人々、特に、高齢の、虚弱な、又は身体に障害がある人々は、アクティブな状態を保つ必要があるが、物理的活動中に困難に直面する。歩行のような物理的活動中、それらの人々には転倒のリスクがある。
【0003】
「平常の」日常業務を自身で遂行する能力は、人物の年齢のみに依拠するのではなく、歩行能力にある程度の影響を及ぼす様々な疾患にも依拠する。そのような疾患は、歩行能力及び他の運動タスクを行う能力に影響を与えるのみでなく、そのような人物の認知能力にも影響を与える。
【0004】
特に、パーキンソン病を患う人々は、上述した問題に関係する。パーキンソン病を患う患者の場合、病気の進行と共に運動及び認知技能が下がるため、転倒のリスクが特に高い。これらの転倒事象の主要な原因は、患者が2つのことを同時に行おうとしていることであり、これにより、そのようないわゆる同時タスクの複雑性によって患者に課される負荷の増大に対処するために、患者の認知及び運動能力に過負荷がかかる。
【0005】
パーキンソン病を患う患者が同時タスクを行う場合に、歩行能力が損なわれることを明確に示す様々な研究が存在する。Bond,J.M.,:「Goal−Directed Secondary Motor Tasks:Their Effects on Gait in Subjects with Parkinson’s disease」,Arch Phys Med Rehabil Vol.81, January 2000, pp.110−116は、例えば、「2つのタスクを同時に行う困難は、特発性パーキンソン病(PD)において頻繁に生じる消耗性の問題である。ほとんどの人々は、歩行しながら話し、電話で会話しながらメモをとり、又は運転しながらラジオを聴くことを容易に行うことができる。対照的に、PDを有する多くの人々は、1つのタスクに注意を集中しているとき、別のタスクを行うことが厄介になることがわかっている。第2のタスクは低速になり、持続が困難となり、場合によっては全く行うことができない。PDにおける二重タスク干渉は、動き及び認知の双方に影響を及ぼし、タスクが長い又は複雑なシーケンスの一部であるときに際立つ」と報告している。Bond,J.M.は、「PDにおける中程度の障害を有する被験者は、上肢を伴う複雑な視覚運動タスクに関心を向けている間に歩く必要があるとき、かなりの困難に直面する」という結論に至っている。
【0006】
Morris,M.他:「Postural instability in Parkinson’s disease:a comparison with and without a concurrent task」Elsevier, Gait and Posture 12(2000), pp.205−216から、同様の研究が既知である。この論文は、いくつかの試験において、パーキンソン病を患う人物が歩行中に意図せずに転倒するリスクが、これらの人物が歩行中に更なる同時の認知及び/又は運動タスクを行い、これにより気が散っている場合に大幅に増大することも示している。
【0007】
このため、そのような人物は、2つの運動タスク、又は運動タスク及び認知タスクを組み合わせる、そのような組み合わされた動作を行い、それにより自身の認知及び運動技能に過度に要求することを回避するように助言されるべきである。
【0008】
米国特許出願公開第2014/0276130号は、転倒及び/又は病的状態のリスクがある人物を、診断、監視及び/又は治療するための方法及び/又はシステムを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高齢の、虚弱な及び/又は罹患した人物が上述した問題により良好に対処するのに役立つシステムを提供することである。本発明の目的は、特に、パーキンソン病を患う人物をサポートし、これらの人物が過度に多くの異なるタスクを同時に行うことによって気が散り、それにより転倒し怪我をするリスクを増すことがないように役立つシステムを提供することである。また、本発明の目的は、対応する方法及び対応するコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様において、高齢の、虚弱な及び/又は罹患した人物、特に、パーキンソン病を患う人物をサポートするためのシステムが提示される。このシステムは、
(i)人物の脳活動に関係する脳活動信号を検出するための脳活動センサと、(ii)人物の1つ以上の身体部分の運動に関係する運動信号を検出するための運動検出ユニットと、を備える検出ユニットと、
検出された脳活動信号及び運動信号に基づいて、人物がいくつの異なる運動タスク及び認知タスクを同時に行っているかを示す人物の活動レベルを求めるための解析ユニットと、
人物の活動レベルが所定の閾値を超えている場合に人物にフィードバックを提供するためのフィードバックユニットと、
を備える。
【0011】
本発明の更なる態様において、高齢の、虚弱な及び/又は罹患した人物、特に、パーキンソン病を患う人物をサポートするための方法が提示される。この方法は、
人物の脳活動に関係する脳活動信号を受信し、(ii)人物の1つ以上の身体部分の運動に関係する運動信号を受信するステップと、
検出された脳活動信号及び運動信号に基づいて、人物がいくつの異なる運動タスク及び認知タスクを同時に行っているかを示す人物の活動レベルを求めるステップと、
人物の活動レベルが所定の閾値を超えている場合に、人物にフィードバックを提供するステップと、
を有する。
【0012】
本発明のまた更なる態様によれば、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるときに、上述した方法のステップをコンピュータに実行させるためのプログラムコード手段を含むコンピュータプログラムが提示される。
【0013】
本発明の好ましい実施形態は従属請求項において定義される。特許請求される方法及び特許請求されるコンピュータプログラムは、特許請求されるシステムと及び従属請求項において定義されるのと類似の及び/又は同一の好ましい実施形態を有することが理解されよう。
【0014】
本明細書において提示されるシステム及び方法は、人物、特、パーキンソン病を患う人物が、過度に多くの運動タスク及び/又は認知タスクを同時に行っており、したがって転倒するか又は別の形で怪我をするリスクがあることを検出した場合に、それらの人物にアクティブに警告することを可能にする。
【0015】
本システムは、3つの主要なコンポーネント、すなわち、(i)本明細書において検出ユニットとして表される検知コンポーネント、(ii)本明細書において、検出ユニット内で検知された信号を解析及び解釈する解析ユニットとして表される処理ユニット、及び(iii)本明細書においてフィードバックユニットとして表され、解析ユニットにおいて処理された信号に基づいて人物にフィードバックを与えるように構成されるアクチュエータユニット、を備える。
【0016】
検出ユニットは、人物の脳活動に関係する脳活動信号を検出するための脳活動センサと、人物の1つ以上の身体部分の運動、特に、人物の1つ以上の手足の運動に関係する運動信号を検出するための運動検出ユニットとを備える。検出ユニットは、このため、人物の運動及び/又は認知動作を監督する1つ以上のセンサを備える。
【0017】
解析ユニットは、好ましくは、検出された脳活動信号及び運動信号に基づいて、人物の運動活動及び認知活動を示す人物の活動レベルを求めるように構成された1つ以上のプログラムモジュールを備えるプロセッサとして実現される。好ましい実施形態によれば、活動レベルは、人物がいくつの異なる運動タスク及び認知タスクを同時に行っているかを示す。本明細書における「求める」という用語は、むしろ「推定する」の意味を有することが明らかであろう。なぜなら、例えば、脳波(EEG)信号及び/又は動き信号に基づいて、人物がいくつの運動タスク及び/又は認知タスクを同時点に行っているかを厳密に求めることは通例不可能であるためである。また一方で、この事例において、タスクの総数を厳密に求めることはそれほど重要でない。むしろ、検知された信号に基づいて、人物が過度に多くの同時タスクを行うことに起因して過度に緊張しているか否かを判断することが重要である。
【0018】
フィードバックユニットは、解析ユニットによって操作することができ、解析ユニットが、検出された信号に基づいて、人物の活動レベルが所定の閾値を超えていると判断する場合に、人物にアクティブにフィードバック、例えば警告信号を与える1つ以上のアクチュエータを備える。
【0019】
このため、パーキンソン患者は、歩行中に同時に一方の手で物を掴もうとする場合に、本明細書において提示されるシステムによって自動的に警告を受けることができる。この場合、人物に歩行に集中するように警告する警告信号を生成することができる。これにより、転倒のリスクが低減し、特に、人物が1つのタスクに集中し、同時にいくつかのタスクを行うことによって気が散らないことがどれだけ重要であるかの認識が生じる。
【0020】
以下において、本出願全体を通じて用いられるいくつかの用語が簡単に説明及び定義される。
【0021】
「人物の活動レベル」という用語は、脳活動信号に基づいて検出される認知活動量、及び/又は運動信号に基づいて検出される運動量の尺度である。活動レベルは、好ましくは、人物が同時にいくつの異なる運動タスク及び/又は認知タスクを行っているかを示す尺度である。このため、人物の活動レベルは、人物の認知努力、及び/又は人物がどれだけ多く及びどれだけ高速に動いているか、又は同時にいくつの手足及び身体部分が動かされているかを表す尺度である。活動レベルは、あるスケールで測定可能な一定の値として表されるが、いくつかの質的及び/又は量的パラメータを含んでもよい。
【0022】
「所定の閾値」という用語は、解析ユニットにおいて、活動レベルがその値を超えているか又は所定の条件を満たしている場合に人物にフィードバックを提供するようにフィードバックユニットを操作するための条件として予め定義される具体的な値又は条件である。
【0023】
「運動タスク」という用語は、身体(の一部)の随意運動を伴う、人物によって行われる主に運動性の動作に等しい。通常の運動タスクは、歩行すること、座った状態から立ち上がること、手で物を掴むこと、手で物を運ぶこと等である。
【0024】
「認知タスク」という用語は、人物によって行われる任意の主に認知性の動作を指す。通常の認知タスクは、本を読むこと、謎を解き明かすこと、数学的問題又はパズルを解くこと、人物について考えること、1日の計画を立てること等である。
【0025】
当然ながら、ジェスチャを伴って話すこと、音楽の即興演奏(例えば、ジャズ)等の、認知及び運動が組み合わされたタスクも存在する。
【0026】
実施形態によれば、脳活動信号は、各々が人物の脳の異なる領域における脳活動に関係する複数の異なる信号成分を含む。解析ユニットは、人物がいくつの異なる運動タスク及び認知タスクを同時に行っているかを推定するために、異なる信号成分を解析することによって人物の活動レベルを求めるように構成される。
【0027】
脳活動センサは、例えば、いくつかのセンサを含み、各センサは人物の異なる脳領域を監督する。このため、「信号成分」という用語は、脳活動センサの別個のセンサによって提供される異なる部分信号に関係する。この用語は、異なる信号チャネルにも関係する。例えば、あるセンサは人物の一次運動野を監督し、別のセンサは前運動皮質を監督し、更なるセンサは前頭前野を監督し、また更なるセンサは後頭頂皮質を監督する。
【0028】
一次運動野における脳活動は、通常、人物の同時に進行中の動きに関係する。前運動皮質における脳活動は、動きを行う意図を検出するために測定され得る(この脳の領域は、通常、運動が開始する直前にアクティブとなる)。認知活動を検出するために、前頭前皮質に焦点が当てられる。前頭前皮質では、意思決定及び推論が行われ、作業記憶及び言語産出のための部位が位置する。
【0029】
一実施形態によれば、解析ユニットは、例えば、人物の脳の第1の領域における脳活動に関係する異なる信号成分のうちの第1の成分が、この第1の領域において第1の所定の脳活動レベルを超える脳活動を示す場合に、人物の活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するようにフィードバックユニットを操作するように構成される。
【0030】
例えば、活動レベルは、一次運動野において検出される脳活動が、人物が現在いくつかの運動タスクを同時点に行っていることを示す所定の閾値を超えている場合に、所定の閾値を超えているとみなされる。
【0031】
また、解析ユニットは、人物の脳の第1の領域における脳活動に関係する異なる信号成分のうちの第1の成分が、この第1の領域において第1の所定の脳活動レベルを超える脳活動を示す場合、かつ同時に、人物の脳の第2の領域における脳活動に関係する異なる信号成分のうちの第2の成分が、この第2の領域において第2の所定の脳活動レベルを超える脳活動を示す場合に、人物の活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するようにフィードバックユニットを操作するように構成される。
【0032】
換言すれば、人物の2つの脳領域における脳活動が同時に比較的高いレベルにあることが検出される場合に、活動レベルの所定の閾値を超えているとみなされ得る。「第1の」及び「第2の」(信号成分、脳領域、所定の脳活動レベル)という用語は、本明細書において、いかなる時系列も優先順位リストも暗に意味するように用いられておらず、単に、本明細書において同じ用語で称される異なる部分を区別するためのものである。人物の活動レベルは、例えば、一次運動野における脳活動が所定のレベルを超えており、かつ前運動皮質における脳活動も同時に所定の(他の)レベルを超えている場合に、所定の閾値を超えているとみなされる(それによって、人物へのフィードバックが必要となる)。そのような状況は、人物が現在、動いており、例えば歩行しており、同時に、別の運動タスクを行おうとしている、例えばデスクから物を掴もうとしていることを示し得る。次に、システムは、フィードバック信号によって、人物に、同時に過度に多くのタスクを行わないように警告する。
【0033】
また、人物の活動レベルは、一次運動野における脳活動が所定のレベルを超えており、かつ前頭前皮質における脳活動が同時に所定の(他の)レベルを超えていることが検出される場合に、所定の閾値を超えているとみなされ得る。そのような状況は、例えば、人物が歩行しながら話そうとしていることを示すものであり得る。
【0034】
要約すると、上述した実施形態において、脳活動信号の異なる信号成分から、脳のある部位の脳活動の尺度を生成し、人物の脳のある種の2D/3Dヒートマップを再構成することが可能である。そして、脳の選択された部位ごとに、(例えば、その部位にわたって積分をとることによって)脳活動を取り出すことが可能である。システムは、特定の部位における脳活動がかなり高いか、又は2つの異なる脳部位における脳活動が、同時に比較的高いレベルにある場合に、人物に警告することができる。
【0035】
更なる実施形態によれば、システムは、基準脳活動信号を記憶するためのメモリユニットを更に備える。解析ユニットは、脳活動センサによって検出された脳活動信号を、メモリユニットに記憶された基準脳活動信号と比較することによって、人物の活動レベルを求めるように構成される。
【0036】
上述した基準脳活動信号は、好ましくは、人物が休んでいる、すなわち、動いておらず、いかなる認知タスクもアクティブに行っていない間に記録される脳活動信号である。この基準脳活動信号は、初期化段階中にメモリユニットに取得及び記憶することができる。次に、システムは、現在測定されている脳活動信号又は人物の異なる脳部位に関係する脳活動信号の異なる成分を、メモリユニットに記憶された1つ以上の基準脳活動信号と比較する。次に、活動レベルの所定の閾値を、一定の固定値、例えば、2、3又は4として定義することができ、現在測定されている脳活動信号を基準脳活動信号で除算した商として定義することができる。例えば、現在測定されている脳活動信号の最大振幅又は総信号電力が、基準脳活動信号の最大振幅又は総信号電力の2倍高い場合に、所定の閾値を超えているとみなすことができる。当然ながら、この比較は、別個の脳領域における脳活動について、又は脳全体の全体的な脳活動について再び行われる。
【0037】
同様に、基準運動信号は、メモリユニットにも記憶され、解析ユニットは、検出された運動信号を基準運動信号と比較することによって、人物の活動レベルを求めるように構成される。
【0038】
解析ユニットは、例えば、検出された運動信号に基づいて、人物がどのように歩行しているかを判断し、正常歩行からの逸脱を検出するために、これを人物の正常歩行と比較するように構成される。人物の通常歩行を反映する運動信号は、基準運動信号としてメモリに記憶することができる。この場合、解析ユニットは、人物の通常歩行と異なる歩行が検出される場合、すなわち、検出された運動信号が、メモリユニットに記憶される基準運動信号と異なることが検出される場合、患者にフィードバックを提供するようにフィードバックユニットを操作するように構成される。
【0039】
更なる実施形態によれば、脳活動センサはEEGセンサであり、脳活動信号はEEG信号であり、解析ユニットは、周波数領域における脳活動信号の周波数スペクトルの1つ以上の範囲におけるEEG信号を解析することによって、人物の活動レベルを求めるように構成される。
【0040】
解析ユニットは、例えば、(i)EEG信号の全体周波数スペクトルにおける信号電力、(ii)EEG信号のアルファ帯域における信号電力、及び(iii)EEG信号のベータ帯域における信号電力のうちの少なくとも1つを解析するように構成される。
【0041】
このコンテキストにおいて、「信号電力」という用語は、例えば一定の周波数帯域にわたって積分をとることによる、周波数スペクトルの曲線下面積に関係する。
【0042】
EEG信号は、例えば、フーリエ変換を行うことによって時間領域から周波数領域に変換される。0Hz〜100Hzの脳活動信号の間の全体周波数スペクトルにおける信号電力を検討することは、総脳活動に関係する。高いレベルのこの総信号電力は、人物が同時に複数の認知タスク及び/又は運動タスクを行っている場合に予期される。他方で、アルファ帯域(7.5Hz〜12.5Hz)における信号電力を検討することにより、人物が行っている運動タスクに関するインジケーションがもたらされる。アルファ帯域における低レベルは、人物の運動活動及び/又は認知活動が高い場合に予期される。他方で、アルファ帯域における高レベルは、リラックスに関連付けられる。更なる妥当な尺度は、周波数スペクトルにおける脳活動信号のベータ帯域(12.5Hz〜40Hz)の解析である。ベータ帯域における高信号電力は、通例、アクティブな認知プロセスに結び付けられ、人物の高い認知努力を示すものである。EEG信号の周波数スペクトルの異なる範囲と、人物の運動活動及び/又は認知活動との間のこれらの対応関係及び他の対応関係は、以下の2つの科学論文において行われたいくつかの実験にも示された。これらの内容は、参照により本明細書に援用される:Ray,W.J.,他:「EEG alpha activity reflects attentional demands, and beta activity reflects emotional and cognitive processes」,Science,10 May 1985:Vol.228, No.4700, pp.750−752及びRay,W.J.:「EEG activity during cognitive processing:Influence of attentional factors」,International Journal of Psychophysiology, Vol.3, Issue 1, July 1985, pp.43−48。
【0043】
解析ユニットは、(i)EEG信号の全体周波数スペクトルにおける信号電力が第1の閾値を超えている、(ii)EEG信号のアルファ帯域における信号電力が第2の閾値未満である、及び/又は(iii)EEG信号のベータ帯域における信号電力が第3の閾値を超えている、のうちの少なくとも1つの場合に、人物の活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するようにフィードバックユニットを操作するように構成される。
【0044】
上記において、脳活動信号に基づく検知に主に焦点が当てられてきたことに留意されたい。上述したように、これにより、認知活動及び運動活動の双方を評価することが可能になる。一方、検出ユニットが、脳活動センサ及び運動検出ユニット(運動センサ)の双方を組み合わせる場合、そのような組み合わせにより運動タスクのより信頼性のある検知が可能になるため、特に好ましい。
【0045】
更なる実施形態によれば、解析ユニットは、検出された脳活動信号及び運動信号に基づいて、人物が歩行しているか否かを判断するように構成され、解析ユニットは、検出された脳活動信号及び運動信号に基づいて、人物が歩行しており、同時に更なる運動タスク及び認知タスクを行っていると判断される場合に、人物の活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するようにフィードバックユニットを操作するように構成される。
【0046】
最初に述べたように、特に、パーキンソンを患う人物は、歩行に大きな困難を有する。そのような人物が歩行に集中せず、他のタスク(認知及び/又は運動タスク)を同時に行っている場合、転倒のリスクは大きく増大する。この構成におけるシステムは、そのような状況を検出し、そのような状況が検出される場合、例えば、人物が歩行しており、同時に左手で物を掴もうとしている場合に、人物にフィードバックを与えることを特に対象としている。最も簡単な事例において、そのような状況は、人物の手足(左脚、右脚、左腕、右腕)に取り付けられた動きセンサによって検出することができる。EEGセンサと組み合わされる場合、測定は更に高い信頼性で行うことができる。
【0047】
運動検出ユニットは、1つ以上の加速度計を備える。これらの加速度計は、人物のいくつかの身体部分、特に、人物の手足に取り付けることができる。これらは次に、これらの身体部分の加速度を測定し、これにより人物がどのように動いているかが示される。
【0048】
代替的に又は更に、運動検出ユニットは、光運動センサを備える。そのような光運動センサは、例えば、人物を撮影し、人物の特定の身体部分の動きを記録するビデオカメラとして実現される。
【0049】
また代替的に又は更に、運動検出ユニットは、筋電図(EMG)センサを備えることができる。そのようなEMGセンサは、筋肉及び神経内の電気活動を測定し、人物の動きのタイプ及び量に関してもインジケーションを与える。また、単数又は複数のEMGセンサは、好ましくは人物の手足に配置される。
【0050】
既に上述したように、脳活動センサは、好ましくは、脳波(EEG)センサを備える。代替的に又は更に、脳活動センサは、機能的磁気共鳴画像(fMRI)センサ、及び/又は認知努力が増大するときに通例血流が増大し、それによって脳のその部分により解放される熱が増大する際の、頭部の熱検知のために構成された1つ以上の熱センサも備える。一方、本明細書に記載される用途の場合、非常に感度の高い熱センサが用いられなくてはならないことに留意されたい。精度も当然ながら、EEGセンサの使用と比較して限られている。
【0051】
フィードバックユニットは、(i)人物に可聴フィードバックを提供するためのラウドスピーカ、(ii)人物に視覚フィードバックを提供するためのディスプレイ又は光アクチュエータ、及び(iii)人物に触知性フィードバックを提供するための触覚アクチュエータ、のうちの少なくとも1つを備える。人物を驚かせ、これによって人物に平衡を失わせることを回避するために、アクチュエータ信号の選択には注意を払うべきである。一方、通常、人物が自身の挙動を変更し、同時タスクを行うことを回避することを意識することを可能にする任意のタイプのフィードバックが考えられる。
【0052】
本発明のこれらの及び他の態様は、以下に説明される実施形態から明らかとなり、これらを参照することにより解明される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明によるシステムの第1の実施形態を示す。
図2図1に示す第1の実施形態の概略ブロック図を示す。
図3】本発明によるシステムの第2の実施形態を示す。
図4図3に示す第2の実施形態の概略ブロック図を示す。
図5a】時間領域における例示的なEEG信号であり、EEG信号のデルタ帯域を示す。
図5b】時間領域における例示的なEEG信号であり、EEG信号のシータ帯域を示す。
図5c】時間領域における例示的なEEG信号であり、EEG信号のアルファ帯域を示す。
図5d】時間領域における例示的なEEG信号であり、EEG信号のベータ帯域を示す。
図6】周波数領域における例示的なEEG信号を示す。
図7】人間の脳を概略的に示し、異なる脳の領域を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1は、本発明によるシステムの第1の実施形態を概略的に示す。図1において、システムは、参照番号10によってその全体を表される。図2は、図1に示す第1の実施形態によるシステムのコンポーネント、及びそれらの互いに対する接続を概略的に図示するブロック図を示す。
【0055】
システム10は、好ましくは、装着されるか又は人物12に取り付けられるウェアラブルシステムとして構成される。システム10は、3つの主要なコンポーネント、すなわち、(i)本明細書において検出ユニット14として表される検知コンポーネント、(ii)本明細書において解析ユニット16として表される処理コンポーネント、及び(iii)本明細書においてフィードバックユニット18として表されるアクチュエータコンポーネント、を備える。
【0056】
検出ユニット14は、人物12の認知活動及び/又は運動活動を監視するための1つ以上のセンサを備える。これらのセンサは、例えば、人物12がどのように及び/若しくはどれだけ動いているかを監視し、及び/又は人物12の脳活動を監視する。図1及び図2に示す第1の実施形態によれば、検出ユニット14は、人物12の脳活動に関係する脳活動信号を検出するための脳活動センサ20と、人物12の1つ以上の手足の運動に関係する運動信号を検出するための運動検出ユニット22とを備える。
【0057】
脳活動センサ20は、好ましくは、複数の脳波(EEG)電極24を備えるEEGセンサとして実現される。図1及び図2に示される提示される例において、EEGセンサ20は、12個のEEG電極を備える。一方、用途に応じて、EEGセンサ20は、任意の数のEEG電極24(通常、10個〜24個)を備えてもよい。これらのEEG電極24は、人物12の頭皮上の異なる位置に取り付けられるように構成される。このため、各EEG電極24は、人物12の脳の特定の領域からの脳活動信号を記録する。
【0058】
EEGセンサの代替として、脳活動センサ20は、機能的MRIセンサとして実現されてもよい。人物の脳活動を測定するためのまた更なる代替は、1つ以上の熱センサの使用である。これらの熱センサは、人物12の頭皮にわたって分散され、頭部の熱検知によって間接的に脳活動を測定するように構成される。頭部のそのような熱検知は、認識努力の増大により血流が増大し、それによって、人物12の脳の特定の部分によって解放される熱が増大するという仮定に基づく。当然ながら、人物12の脳活動のそのような間接的な検知は、本出願の図1及び図2に示す実施形態1において用いられるようなEEGセンサの使用と比較してはるかに感度及び信頼性が低い。
【0059】
第1の実施形態による運動検出ユニット22は、複数の加速度計26を含む。これらの加速度計26は、人物12の手足に取り付けられるように構成される。図1及び図2に示す例示的な実施形態において、運動検出ユニット22は6つの加速度計26を備え、2つの加速度計26が人物12の各脚に取り付けられ、1つの加速度計26が人物12の各腕に取り付けられる。これは単なる例であり、運動検出ユニット22は、当然ながら、所望の検知精度に依拠して、より多くの又はより少ない加速度計26を備えてもよいことに留意されたい。加速度計26の利点は、移動時に、これらを身体上のセンサであるものとして用いることができることである。加速度計26によって、人物12の運動活動、特に、人物12の手足の動きを監視することが可能である。
【0060】
代替として、又は更に、運動検出ユニット22は、筋肉及び人物12の電気活動を検知するための1つ以上の筋電図(EMG)センサを備えてもよい。これらのEMGセンサは、加速度計26と同様に、好ましくは、人物12の手足に配置される。
【0061】
運動検出ユニット22の脳活動センサ20及び異なるセンサ26は、解析ユニット16に接続される。接続は、図1に点線によって示される。これらのデータ接続は、有線接続として実現されても、無線接続として実現されてもよい。
【0062】
解析ユニット16は、好ましくは、脳活動センサ20及び運動検出ユニット22によって取得される信号を処理及び解釈するように適合されたソフトウェアが記憶されたプロセッサを備える。解析ユニット16は、脳活動センサ20によって提供される、検出された脳活動に基づいて、及び/又は運動検出ユニット22によって提供される運動信号に基づいて、人物12がいくつの異なる運動タスク及び/又は認知タスクを同時に行っているかを示す人物12の活動レベルを求めるように特に構成される。解析ユニット16は、換言すれば、人物12がいくつの異なる運動タスク及び/又は認知タスクを同時点に行っているかを求めるために、検知された信号を解釈する。脳活動センサ20の脳活動信号は、例えば、人物12の脳の監視されている異なる領域が、一定の閾値を超える活動を同時点に示しているか否かを判断するように解析される。代替的に、脳活動センサ20によって提供される脳活動信号は、人物12の脳の単一の領域において、拡張した活動が生じているか否かを判断するように解析される。運動検出ユニット22の運動信号は、人物12が、同時に複数の運動タスクを行っている(歩行することと右手を振ることを同時に行っている)か否かを判断するために、人物12の手足の活動を判断するように解析ユニット16によって解析される。解析ユニット16によって行われる信号解析の特定の例は、以下で更に詳細に概説される。解析ユニット16によって行われる信号解析の機能は、人物12の活動レベルを求めることであり、この活動レベルは、人物12によっていくつの異なるタスクが同時点に行われているかを示すものである。これは、提示されるシステム10が、パーキンソン病を患う人物をサポートすることに焦点を当てているため、特に重要である。そのような人物は、同時に過度に多くの異なる運動タスク及び/又は認知タスクを行っている場合、これによって怪我をするリスクが大幅に増大するため、本明細書に提示されるシステム10によって警告を受ける。本明細書の導入部分に概説されているように、パーキンソン患者は、歩行に集中せず、他のことを並行して行っている場合に、高い転倒リスクを有する。
【0063】
システム10は、フィードバックユニット18を用いて、人物12にフィードバックを提供する。このフィードバックは、上述した状況にある人物12に警告する。フィードバックユニット18は、解析ユニット16によって制御され、解析ユニット16が人物12の活動レベルが所定の閾値を超えていると判断した場合に、人物12にフィードバックを与えるように構成される。フィードバックユニット18は、好ましくは、人物12によって装着されるウェアラブルコンポーネントとして実現される。図1に示される提示される例では、フィードバックユニット18は、人物12の手首に装着されるウェアラブルコンポーネントとして実現される。一方、これは例示的な実施例とみなされるにすぎない。フィードバックユニット18は、いくつかのタイプのアクチュエータ、例えば、(a)ラウドスピーカ等の、人物12に可聴フィードバックを提供するためのサウンドアクチュエータ、(b)(例えば、振動によって)人物12に触知性フィードバックを提供するための触覚アクチュエータ、(c)人物12に視覚フィードバックを提供するためのディスプレイ又は光アクチュエータを含む。
【0064】
更なる実施形態(詳細に示されない)によれば、フィードバックユニット18は、1つのデバイスに組み合わされてもよく、解析ユニット16と共に同じケーシング内に配列されてもよい。例えば、解析ユニット16及びフィードバックユニット18が統合されるスマートフォン又は任意の他の同様のタイプのモバイルコンピューティングデバイスを使用することも考えられる。この場合、解析ユニット16は、モバイルコンピューティングデバイスのプロセッサを用い、このプロセッサにおいて、ソフトウェアアプリケーションの形態で実施され得る。フィードバックユニット18は、モバイルコンピューティングデバイス/スマートフォンのディスプレイ、ラウドスピーカ及び/又は振動アラームの一部とすることができる。
【0065】
また更なる代替では、解析ユニット16及び/又はフィードバックユニット18は、人物に直接取り付けられず、人物12によって装着もされない外部デバイスとして実現される。そのような場合、システム10の異なるコンポーネント14、16、18、20、22は、無線データ接続によって互いに接続されることが好ましい。
【0066】
図3及び図4は、システム10の第2の実施形態を示す。この第2の実施形態は主に、運動検出ユニット22が実現される方法において、図1及び図2に示す第1の実施形態と異なる。図3及び図4に示す第2の実施形態によれば、運動検出ユニット22は、(身体上のコンポーネントではなく)外部コンポーネントとして実現される。運動検出ユニット22は、人物12がどのように動いているか、特に人物12が手足をどのように動かしているかを光学的に監視するように構成される光運動センサ28を備える。光運動センサ28は、好ましくは、人物12の動きを外側から記録するビデオカメラを備える。システム10の残りの部分は、図1及び図2に示される第1の実施形態を参照して説明されるものと同じままであり、したがって再び繰り返さない。第1の実施形態及び第2の実施形態は、運動検出ユニット22が、1つ以上の加速度計26及び1つ以上のビデオカメラ又は他の光学運動センサ28を備えるように、互いに組み合わされてもよいことに留意されたい。
【0067】
以下において、検出された脳活動信号及び/又は運動信号に基づいて、解析ユニット16が人物12の活動レベルをどのように求めるかについていくつかの例示的な実施形態が概説される。
【0068】
解析ユニット16は、人物12の脳の第1の領域における脳活動に関係するEEG信号の異なる信号成分のうちの第1の成分が、この第1の領域において、所定の脳活動レベルを超える脳活動を示す場合に、人物12の活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するようにフィードバックユニット18を操作するように構成される。人物12の活動レベルは、例えば、一次運動野における脳活動が、脳のこの領域に固有の所定の活動レベルを超えている場合に、フィードバックを人物12に提供する必要を生じさせる所定の閾値を超えているとみなされる可能性がある。また、人物12の活動レベルは、前頭前皮質における脳活動が、この脳領域に固有の所定の脳活動レベルを超えている場合に、所定の閾値を超えているとみなされる可能性もある。
【0069】
図7は、人間の脳の異なる領域を概略的に示す。前頭前皮質30は、通例、意思決定、推論及び作業記憶、並びに言語産出に関連付けられる。前運動皮質32は、通常、動きが開始される直前(動きを行う意図)においてアクティブとなる脳の領域である。一次運動野34における脳活動は、通例、進行中の運動活動(動き)に関連付けられる。図7に示す更なる脳領域は、補足運動野36及び後頭頂皮質38である。補足運動野36は、身体の姿勢安定、身体の両側の協調を伴う動き、及び連続した動きの制御に関連付けられると仮定される。後頭頂皮質38は、通例、身体の向き及びその環境に対する影響に関する動きの計画に関連付けられる。
【0070】
解析ユニット16はまた、2つの脳領域30、38における脳活動が所定の脳活動レベル(閾値)を超えている場合に、人物12の活動レベルが所定の閾値を超えているとみなし、フィードバックを提供するようにフィードバックユニット18を操作するように構成される。例えば、フィードバック(警告信号)は、脳活動が、一次運動野34(進行中の運動タスクを担当する)及び前頭前皮質30(進行中の認知タスクを担当する)において同時に比較的高いレベルにある場合に出力される。これは、人物12が動いている、例えば歩行しているのみでなく、特定の題目についてかなり集中して考えていることも示すものであり得る。
【0071】
双方の上述した例において、人物12が行っている運動タスクの検知は、運動検出ユニット22によって検出される運動信号によってもサポート及び/又は確認されることが好ましい。
【0072】
解析ユニット16はまた、検出された脳活動信号及び/又は運動信号に基づいて、人物12が歩行しているか否かを判断するように構成される。人物12の活動レベルは、この場合、人物が歩行しているのみでなく、同時に追加の運動タスク及び/又は認知タスクを行っていると判断される場合にフィードバックが提供されるような、所定の閾値を超えているとみなされる。解析ユニット16が、人物12が歩行しているか否かを判断するための最も容易な方法は、人物12の脚及び/又は足に取り付けられた加速度計26によって提供される運動信号に基づく。人物12が歩行と同時点に別のタスクを行っている(例えば、左手若しくは右手を振っている、又は左手若しくは右手で物を握っている)ことの検出は、人物12の腕及び/又は手に取り付けられた加速度計26に基づいて判断される。このため、この実施形態において脳活動センサ20は必ずしも必要とされない。
【0073】
他方で、運動検出ユニット22が必ずしも必要とされない実施形態も考えられる。人物12の活動レベルは、EEG信号の周波数スペクトルの1つ以上の範囲においてEEGセンサによって提供されるEEG信号を解析することによっても求められる。EEG信号のそのような周波数解析は、好ましくは、周波数領域において行われる。図5は、時間領域における例示的なEEG信号を示す。図6は、周波数領域における例示的なEEG信号を示す。図5aは、EEG信号のデルタ帯域、すなわち、0.5Hz〜3.5Hzの周波数範囲を示す。図5bは、EEG信号のシータ帯域、すなわち、3.5Hz〜7Hzの周波数範囲を示す。図5cは、EEG信号のアルファ帯域、すなわち、7.5Hz〜12.5Hzの周波数範囲を示す。図5dは、EEG信号のベータ帯域、すなわち、12.5Hz〜40Hzの周波数範囲を示す。同じ周波数範囲は、参照番号40〜46(デルタ帯域40、シータ帯域42、アルファが帯域44及びベータ帯域46)によって図6に示される。
【0074】
解析ユニット16は、EEG信号48の周波数スペクトルを以下のように調査するように特に構成される。(1)解析ユニット16が、脳活動(0Hz〜100Hz)に関係する周波数スペクトルにおいて総電力を決定するように構成される。高レベルは、人物12の運動活動及び/又は認知活動が高い場合に予期される。(2)解析ユニット16はまた、アルファ帯域44及び/又はベータ帯域46において電力を決定するように構成される。アルファ帯域における低レベルは、運動活動及び/又は認知活動が高い場合に予期される。代わりに、アルファ帯域における高レベルは、通例、リラックスに関連付けられる。ベータ帯域における高レベルは、通例、アクティブな認知タスクに結び付けられる。
【0075】
このため、解析ユニット16は、(i)EEG信号の全体周波数スペクトルにおける信号電力が所定の閾値を超える、(ii)EEG信号のアルファ帯域における信号電力が所定の閾値未満である、及び/又は(iii)EEG信号のベータ帯域における信号電力が所定の閾値を超える、のうちの少なくとも1つである場合に、人物12の活動レベルが、所定の閾値を超えているとみなすように構成される。
【0076】
「電力」、「信号電力」及び「スペクトル電力」という用語は、全て、例えば一定の周波数帯域にわたって積分をとることによって、周波数スペクトルの曲線下面積を計算することによって求められる尺度を表すように意図される。
【0077】
一方、特に、人物12によって、歩行している間に同時点に行われるタスクが、重大であるとみなされることを再び指摘しておく。換言すれば、解析ユニット16は、このため、「歩行」というタスクを、活動レベルにおいて高くランク付けし、それによって、歩行が検出され、かつ任意の他の認知及び/又は運動タスクが同時点に検出される場合に、解析ユニット16によって求められる人物12の活動レベルを常に超過するように構成される。
【0078】
上述した全ての実施形態において、検知された信号(脳活動信号及び/又は運動信号)を、人物12がリラックスしているときに取得される基準信号と比較することも好ましい。したがって、システム10は好ましくは、そのような基準信号を記憶するメモリユニット50も備える。このメモリユニット50は、例えば、ハードドライブ又は任意の他の電子ストレージ手段として実現される。
【0079】
本発明は、図面及び上記の説明において詳細に図示され、説明されたが、そのような図示及び説明は、例証的又は例示的とみなされ、制約するものではなく、本発明は開示される実施形態に限定されない。当業者は、特許請求される発明を実施する際に、図面、開示及び添付の特許請求の範囲の研究から、開示された実施形態に対する他の変形を理解し、実行することができる。
【0080】
特許請求の範囲において、「備える、含む、有する(comprising)」という語は、他の要素又はステップを排除せず、不定冠詞「a」又は「an」は複数形を排除しない。単一の要素又は他のユニットは、特許請求の範囲に挙げられたいくつかの項目の機能を満たすことができる。単に、互いに異なる従属項に一定の尺度が挙げられていることは、これらの尺度の組み合わせを用いて利点を得ることができないことを示すものではない。
【0081】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと共に又はその一部として供給される光ストレージ媒体又はソリッドステート媒体等の適切な媒体において記憶/配信されてもよいが、インターネット又は他の有線若しくは無線電気通信システム等の他の形態で配信されてもよい。
【0082】
特許請求の範囲における任意の参照符号は、範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
図1
図2
図3
図4
図5(a)】
図5(b)】
図5(c)】
図5(d)】
図6
図7