特許第6782785号(P6782785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6782785
(24)【登録日】2020年10月22日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】免疫学的測定方法および測定試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20201102BHJP
   G01N 33/545 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   G01N33/543 581J
   G01N33/545 B
【請求項の数】18
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-546356(P2018-546356)
(86)(22)【出願日】2017年10月17日
(86)【国際出願番号】JP2017037517
(87)【国際公開番号】WO2018074467
(87)【国際公開日】20180426
【審査請求日】2019年4月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-205056(P2016-205056)
(32)【優先日】2016年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕輔
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−174871(JP,A)
【文献】 特開昭61−264262(JP,A)
【文献】 特開昭55−116259(JP,A)
【文献】 特開2001−074739(JP,A)
【文献】 特開平01−253654(JP,A)
【文献】 特開2002−303630(JP,A)
【文献】 特開2001−289850(JP,A)
【文献】 特開2001−255325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硫酸塩及び還元性物質を含有し、且つ8.0以下のpHを有する免疫学的測定試薬の存在下で、ヘモグロビンの影響を抑制させて抗原抗体反応を行う工程を含む、免疫学的測定方法。
【請求項2】
前記還元性物質の濃度が1mM〜300mMである、請求項1記載の免疫学的測定方法。
【請求項3】
前記亜硫酸塩の濃度が50mM〜600mMである、請求項1又は2記載の免疫学的測定方法。
【請求項4】
前記免疫学的測定試薬のpHが7.4以下である、請求項1〜3のいずれか1項記載の免疫学的測定方法。
【請求項5】
前記免疫学的測定試薬のpHが5.6〜7.4の範囲である、請求項4記載の免疫学的測定方法。
【請求項6】
前記還元性物質が、アスコルビン酸若しくはその塩、又はチオール化合物から選ばれるいずれか1つ以上の還元性物質である、請求項1〜5のいずれか1項記載の免疫学的測定方法。
【請求項7】
前記チオール化合物が、2-メルカプトエチルアミン、2-ジメチルアミノエタンチオール、2-メルカプトエタノール、3-メルカプトプロパノール、ジチオスレイトール、システイン、N-アセチルシステイン、還元型グルタチオン、チオフェノールから選ばれるいずれか1つ以上のチオール化合物である、請求項6記載の免疫学的測定方法。
【請求項8】
前記免疫学的測定試薬を含む第1試薬と、測定対象物と反応する抗体若しくは抗原、又は測定対象物と反応する抗体若しくは抗原を担持した担体を含む第2試薬とを混合する工程をさらに含み、該測定対象物を定量又は定性測定する、請求項1〜7のいずれか1項記載の免疫学的測定方法。
【請求項9】
免疫学的測定方法がラテックス凝集法である、請求項1〜8のいずれか1項記載の免疫学的測定方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の免疫学的測定方法に用いるための免疫学的測定試薬であって、亜硫酸塩及び還元性物質を含有し、且つ8.0以下のpHを有する、前記免疫学的測定試薬。
【請求項11】
前記還元性物質の濃度が1mM〜300mMである、請求項10記載の免疫学的測定試薬。
【請求項12】
前記亜硫酸塩の濃度が50mM〜600mMである、請求項10又は11記載の免疫学的測定試薬。
【請求項13】
前記免疫学的測定試薬のpHが7.4以下である、請求項10〜12のいずれか1項記載の免疫学的測定試薬。
【請求項14】
前記免疫学的測定試薬のpHが5.6〜7.4の範囲である、請求項13記載の免疫学的測定試薬。
【請求項15】
前記還元性物質が、アスコルビン酸若しくはその塩、又はチオール化合物から選ばれるいずれか1つ以上の還元性物質である、請求項10〜14のいずれか1項記載の免疫学的測定試薬。
【請求項16】
前記チオール化合物が、2-メルカプトエチルアミン、2-ジメチルアミノエタンチオール、2-メルカプトエタノール、3-メルカプトプロパノール、ジチオスレイトール、システイン、N-アセチルシステイン、還元型グルタチオン、チオフェノールから選ばれるいずれか1つ以上のチオール化合物である、請求項15記載の免疫学的測定試薬。
【請求項17】
免疫学的測定方法がラテックス凝集法である、請求項10〜16のいずれか1項記載の免疫学的測定試薬。
【請求項18】
請求項10〜17のいずれか1項記載の免疫学的測定試薬を含む第1試薬と、測定対象物と反応する抗体若しくは抗原、又は測定対象物と反応する抗体若しくは抗原を担持した担体を含む第2試薬とを含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の免疫学的測定方法に用いるための免疫学的測定試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物質の免疫学的方法での測定において、異好性抗体やリウマトイド因子等の干渉物質(以下、干渉物質)による干渉作用を抑制し、抗原または抗体濃度を正確に測定することができる免疫学的測定方法、および免疫学的測定試薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗原と抗体との間の抗原抗体反応を利用した免疫学的測定方法は、生体中の蛋白質等の免疫学的活性物質を簡便、迅速に測定できることから、近年、各種疾患の診断に広く利用されている。このような免疫学的測定方法としては、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、免疫比濁法(TIA)、ラテックス凝集法(LA)、イムノクロマトグラフィー法等の種々の方法が実用化されている。
【0003】
しかしながら、免疫学的測定方法の測定対象となる検体の中には、抗原抗体反応に対して干渉する干渉物質等が含まれている場合がある。これら抗原抗体反応に干渉物質が含まれると、測定に影響するため正確な測定ができなくなり、特に臨床検査の分野では、正確な診断ができなくなるため、これまで、干渉物質の影響を軽減、あるいは抑制する方法が提案されている。
【0004】
例えば、リウマトイド因子の混在による干渉作用の問題を解決するため、検体を予めヒトリウマトイド因子の結合部位に結合する動物由来抗体で前処理して、リウマトイド因子による干渉作用を低減させる免疫学的測定方法(特許文献1)や、反応液のpHを4.0〜6.0に保つことにより、リウマトイド因子の干渉作用を抑制する免疫学的測定方法(特許文献2)等が提案されている。
【0005】
また、干渉物質による干渉作用を軽減あるいは抑制するため、免疫学的測定に使用する抗体のFc部分を酵素反応で除去したF(ab’)を使用する方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、この免疫学的測定方法では、抗原を測定する場合にしか利用できず、しかもF(ab’)2作製のための酵素反応や精製等の煩雑な工程が必要であり、コストアップや製造ロット間差という問題があった。
【0006】
さらに、重合化または凝集した抗体分子を利用する、異好性抗体による干渉作用を抑制する方法も提案されている(特許文献4)が、異好性抗体による干渉作用を完全に抑制するためには大量の重合化または凝集した抗体分子が必要であり、コストが高くなるという問題がある。
【0007】
これらの文献に記載された、干渉物質による干渉作用を抑制する方法では、確かに干渉物質による影響は改善されるものの、測定すべき試料中に干渉物質が高濃度で含まれる場合には、その干渉作用を抑制する効果は不十分であった。
【0008】
測定すべき試料中に干渉物質が高濃度で含まれる場合であっても、干渉物質による干渉作用を抑制することができる、亜硫酸塩を利用するする方法(特許文献5)が提案されている。亜硫酸塩は非常に安価であり、高濃度の干渉物質の影響を十分に抑制できるような濃度で使用してもコストを上げることがなく、また、抗原抗体反応に影響を与えにくいという利点がある。
【0009】
しかしながら、亜硫酸塩は測定試薬中の溶存酸素または空気中の酸素により徐々に硫酸塩に酸化されるため、干渉物質による干渉作用の抑制効果が経時的に低下する。すなわち、自動分析装置等で使用するために、開封状態で試薬庫等に保存することにより経時的に亜硫酸塩濃度が減少し、干渉物質の影響を十分に抑制できなくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−012818号公報
【特許文献2】特開平8−146000号公報
【特許文献3】特開昭54−119292号公報
【特許文献4】特開平4−221762号公報
【特許文献5】特開2001−074739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、亜硫酸塩を含む測定試薬のpHを7.0以下にすることで、空気雰囲気下での亜硫酸塩の安定性が改善し、干渉物質による干渉作用の抑制効果を長期間にわたり維持でき、さらに、非常に高濃度の異好性抗体の干渉作用を十分に抑制できることを見出した。
【0012】
しかしながら、亜硫酸塩を含む測定試薬のpHを7.0以下にすることで、溶血した試料を測定する場合にヘモグロビンの影響を受け、溶血した試料では正確な測定ができなくなるという問題に直面した。
【0013】
このヘモグロビンによる影響は、特に、免疫凝集反応法に基づく免疫比濁法(TIA法)やラテックス凝集法(LIA法)等、B/F分離(Bound/Free分離)を行わない免疫学的測定方法において大きな問題となる。
【0014】
従って本発明は、上記の現状に着目してなされたものであって、測定する試料中に干渉物質が高濃度に含まれる場合であっても、これらによる干渉作用を長期間十分に抑制することができ、ヘモグロビンによる影響を受けずに正確に測定しうる免疫学的測定方法およびこれを用いた測定試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、亜硫酸塩を含む測定試薬のpHを7.4以下とし、アスコルビン酸またはその塩、チオール化合物等の還元性物質をさらに含有させることにより、長期間にわたり干渉物質に対する抑制効果がえられ、ヘモグロビンの影響を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は以下の構成よりなる。
(1)免疫学的測定試薬を用いて、亜硫酸塩の存在下で、抗原抗体反応を行う免疫学的測定方法において、免疫学的測定試薬が、亜硫酸塩および還元性物質を含有することを特徴とする前記免疫学的測定方法。
(2)前記還元性物質の濃度が1mMから300mMである(1)に記載の免疫学的測定方法。
(3)前記亜硫酸塩が50mMから600mMである(1)または(2)に記載の免疫学的測定方法。
(4)前記亜硫酸塩および前記還元性物質を含有する免疫学的測定試薬のpHが5.6から7.4の範囲である(1)から(3)のいずれか1項に記載の免疫学的測定方法。
(5)前記還元性物質が、アスコルビン酸もしくはその塩、またはチオール化合物から選ばれるいずれか1つ以上の還元性物質である(1)から(4)のいずれか1項に記載の免疫学的測定方法。
(6)前記チオール化合物が、2−メルカプトエチルアミン、2−ジメチルアミノエタンチオール、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロパノール、ジチオスレイトール、システイン、N−アセチルシステイン、還元型グルタチオン、チオフェノールから選ばれるいずれか1つ以上のチオール化合物である(5)に記載の免疫学的測定方法。
(7)前記免疫学的測定試薬を含む第1試薬と、測定対象物と反応する抗体または抗原、もしくは測定対象物と反応する抗体または抗原を担持した担体を含む第2試薬とを混合する工程を含む、測定対象物を定量または定性測定する(1)から(6)のいずれか1項に記載の免疫学的測定方法。
(8)免疫学的測定方法が、ラテックス凝集法である(1)から(7)のいずれか1項に記載の免疫学的測定方法。
【0017】
(9)亜硫酸塩の存在下で、抗原抗体反応を行う免疫学的測定方法に用いる試薬であって、亜硫酸塩および還元性物質を含有することを特徴とする前記免疫学的測定試薬。
(10)前記還元性物質の濃度が1mMから300mMである(9)に記載の免疫学的測定試薬。
(11)前記亜硫酸塩が50mMから600mMである(9)または(10)に記載の免疫学的測定試薬。
(12)前記亜硫酸塩および前記還元性物質を含有する試薬のpHが5.6から7.4の範囲である(9)から(11)のいずれか1項に記載の免疫学的測定試薬。
(13)前記還元性物質が、アスコルビン酸もしくはその塩、またはチオール化合物から選ばれるいずれか1つ以上の還元性物質である(9)から(12)のいずれか1項に記載の免疫学的測定試薬。
(14)前記チオール化合物が、2−メルカプトエチルアミン、2−ジメチルアミノエタンチオール、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロパノール、ジチオスレイトール、システイン、N−アセチルシステイン、還元型グルタチオン、チオフェノールから選ばれるいずれか1つ以上のチオール化合物である(13)に記載の免疫学的測定試薬。
(15)免疫学的測定方法が、ラテックス凝集法である(9)から(14)のいずれか1項に記載の免疫学的測定試薬。
(16)(9)から(15)のいずれか1項に記載の免疫学的測定試薬を含む第1試薬と、測定対象物と反応する抗体または抗原、もしくは測定対象物と反応する抗体または抗原を担持した担体を含む第2試薬と、を含む免疫学的測定試薬キット。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2016-205056号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、亜硫酸塩を含むpHが7.4以下の免疫学的測定試薬に、アスコルビン酸もしくはその塩、またはチオール化合物等の還元性物質をさらに含有させることにより、測定対象である試料中に抗原抗体反応に対する干渉物質が高濃度で含まれる場合においても、干渉物質の影響を受けることなく免疫学的測定を行うことができる、安定性にすぐれた免疫学的測定試薬を提供する。さらに、測定対象である試料中に、ヘモグロビンが含まれる場合であっても、精度よく免疫学的測定を行うことができる、安定性にすぐれた免疫学的測定試薬を提供する。
【0019】
そして、この免疫学的測定により得られる結果についても、信頼性の高いものとなることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1試薬がpH7.4のときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
図2】第1試薬がpH6.7のときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
図3】第1試薬がpH6.7でアスコルビン酸ナトリウムを10mM添加したときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
図4】第1試薬がpH6.7で2−メルカプトエチルアミンを10mM添加したときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
図5】第1試薬がpH6.7で2−ジメチルアミノエタンチオールを10mM添加したときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
図6】第1試薬がpH6.7でジチオスレイトールを5mM添加したときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
図7】第1試薬がpH6.7で2−メルカプトエタノールを10mM添加したときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
図8】第1試薬がpH6.7でシステインを10mM添加したときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
図9】第1試薬がpH6.7で還元型グルタチオンを10mM添加したときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
図10】第1試薬がpH6.7でアスコルビン酸ナトリウムを10mM添加し、亜硫酸塩ナトリウムを除いたときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
図11】第1試薬がpH6.7でアスコルビン酸ナトリウムを0.01mM添加したときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
図12】第1試薬がpH6.7でアスコルビン酸ナトリウムを0.1mM添加したときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
図13】第1試薬がpH6.7で2−メルカプトエチルアミンを0.1mM添加したときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
図14】第1試薬がpH6.7で2−メルカプトエチルアミンを1mM添加したときのヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
本発明の一実施形態は、亜硫酸塩の存在下で、免疫学的測定試薬を用いて抗原抗体反応を行う免疫学的測定方法において、免疫学的測定試薬が亜硫酸塩および還元性物質を含有する免疫学的測定方法である 。
【0022】
本発明において、「還元性物質」とは、水素イオン(プロトン)を放出しやすい物質をいう。
【0023】
また、本発明において、「免疫学的測定方法」とは、測定対象である測定対象物と特異的に結合する物質(例えば、抗体または抗原)を用いて、測定対象物の存在の有無の判定(検出、定性測定)や、測定対象物が存在する場合にはその存在量の測定(定量)を行う方法であり、例えば、サンドイッチ法、競合法の原理に基づくRIA法やELISA法、免疫凝集反応法に基づく免疫比濁法(TIA法)やラテックス凝集法(LIA法)等が挙げられる。
【0024】
本発明の「免疫学的測定試薬」とは、抗原抗体反応を行う免疫学的測定方法に用いる試薬であり、亜硫酸塩および還元性物質を含む。さらに、本発明の免疫学的測定試薬は測定対象物質を含む測定試料の前処理試薬として用いることができる。
【0025】
本発明の「前処理試薬」とは、免疫学的測定方法を用いて測定対象物質を含む測定試料を測定する前に、測定試料を処理するために用いる試薬であり、亜硫酸塩および還元性物質を含む。前処理試薬によって処理した測定試料は、そのまま公知の免疫学的測定方法の測定試料とすることができる。
【0026】
本発明に使用する亜硫酸塩は公知のものから適宜選択することができる。亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム等が挙げられる。
【0027】
本発明において、亜硫酸塩が免疫学的測定試薬または前処理試薬に含まれる場合、免疫学的測定試薬または前処理試薬中の亜硫酸塩濃度は、50mM以上、好ましくは50から600mM、より好ましくは100〜600mM、さらに好ましくは250mMから500mMである。亜硫酸塩の濃度が50mM未満になると免疫反応に影響を与える干渉物質の影響を十分に抑制しにくく、600mMを超えても干渉物質の影響を効果的に抑制できなくなり、また、溶液の粘度上昇により測定に悪影響を与えうる。
【0028】
また、本発明に使用する還元性物質も、公知のものから適選択することができる。還元性物質としては、例えば、アスコルビン酸またはその塩、チオール化合物等が挙げられる。
【0029】
アスコルビン酸またはその塩は公知のものから適宜選択することができ、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸カルシウム等が挙げられる。
【0030】
チオール化合物も公知のものから適宜選択することができ、例えば、2−メルカプトエチルアミン、2−ジメチルアミノエタンチオール、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロパノール、ジチオスレイトール、システイン、N−アセチルシステイン、還元型グルタチオン、チオフェノール等が挙げられる。
【0031】
本発明において、還元性物質が免疫学的測定試薬または前処理試薬に含まれる場合、免疫学的測定試薬または前処理試薬中の還元性物質濃度は、1mM以上、好ましくは1〜300mM、より好ましくは1〜100mM、さらに好ましくは1〜50mMである。還元性物質の濃度が1mM以上であることにより、ヘモグロビンによる影響を効果的に回避することができるが、300mMを超えると、測定に悪影響を与え、正確な測定ができなくなることがある。
【0032】
本発明の亜硫酸塩および還元性物質を含有する免疫学的測定試薬または前処理試薬のpHは、7.4以下が好ましく、pH5.6からpH7.4の範囲がより好ましく、pH6.7からpH6.9の範囲がさらに好ましい。pH5.6を下回ると蛋白質等の変性が起こりやすく正確な測定に影響を与えやすくなり、pH7.4を超えると干渉物質の影響の抑制効果が経時的に低下しやすくなる。
【0033】
本発明においては、必要に応じて公知の蛋白質保護剤を加えて測定対象物質の安定性を高めることができる。このような蛋白質保護剤としては、アルブミンやゼラチン等の蛋白質や合成ポリマー素材、界面活性剤等を挙げることができる。
【0034】
本発明の亜硫酸塩および還元性物質を含有する免疫学的測定試薬または前処理試薬によって干渉物質の影響を抑制した試料は、そのまま公知の免疫学的測定方法により測定することができる。免疫学的測定方法としては、例えば、サンドイッチ法、競合法の原理に基づくRIA法やELISA法、免疫凝集反応法に基づく免疫比濁法(TIA法)やラテックス凝集法(LIA法)等が挙げられる。
【0035】
これらの免疫学的測定方法の中でも、特に測定試料中の被測定物質である抗原(または抗体)と測定試薬中の抗体(または抗原)とを反応させ、その結果生じる免疫凝集物を検出することを測定原理とする、免疫比濁法やラテックス凝集法が好ましい。
【0036】
本発明の免疫学的測定試薬は、免疫比濁法やラテックス凝集法に用いることができ、緩衝液を含む第1試薬、および緩衝液に抗体または抗原、もしくは抗体または抗原を担持させた担体(好ましくはラテックス粒子)を含有させた第2試薬の2つの試薬から構成することができる。また、これら2つの試薬を、免疫学的測定試薬キットとして提供することもできる。
【0037】
免疫比濁法やラテックス凝集法による免疫学的測定試薬に用いることができる緩衝液としては、pHを一定に保てるものであれば特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。例えば、りん酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。
【0038】
本発明の亜硫酸塩および還元性物質を含む免疫学的測定試薬を、前記2つの試薬から構成される免疫比濁法やラテックス凝集法等の免疫学的測定方法の第1試薬とすることもできる。すなわち、本発明の干渉物質の影響の抑制方法を用いた第1試薬に、測定試料を混合した後に、この混合液に抗体(または抗原)、あるいは抗体(または抗原)を担持したラテックス粒子等を含む第2試薬を混和して測定してもよい。
【0039】
また、本発明の干渉物質の影響の抑制方法を用いた前処理試薬と測定試料を混合した後、この混合液を、ELISA法やラテックス凝集法等の免疫学的測定方法の測定試料として測定してもよい。
【0040】
本発明においては、担体に担持させる抗体または抗原としては、特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。担体に担持させる抗体または抗原としては、例えば、C反応性蛋白(CRP)、トランスフェリン等の血漿蛋白質に対する抗体、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、サイロキシン、インスリン、ヒト胎盤性ラクトーゲン等のホルモンに対する抗体、癌胎児性抗原(CEA)、β2−マイクログロブリン、α―フェトプロテイン(AFP)等の腫瘍関連物質に対する抗体、HBs抗原、HBe抗原等のウイルス性肝炎の抗原に対する抗体およびHBs抗体、HBe抗体等のウイルス性肝炎の抗体に対する抗原、ヘルペス、麻疹、風疹等のウイルス、各種生体成分に対する抗体または抗原、フェノバルビタール、アセトアミノフェン、サイクロスポリン等の各種薬剤に対する抗体等が挙げられる。
【0041】
本発明において、抗体または抗原を担持させる担体としては、特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。抗体または抗原を担持させる担体としては、ポリスチレンプレート、ポリスチレンビーズ、ラテックス粒子、金属コロイド粒子、シリカコロイド粒子等が挙げられる。
【0042】
本発明で使用できる上記抗体としては、由来する動物種は特に限定されず、例えば、ウサギ、ヤギ、マウス、ラット、ウマ、ヒツジ等の動物に由来する抗体が挙げられ、測定対象物を免疫した動物の血清から得られるポリクローナル、測定対象物を免疫した動物の脾臓をミエローマ細胞と細胞融合して得られるモノクローナル抗体のいずれを用いてもよい。
【0043】
本発明において、測定試料は特に限定されず、例えば、血液、血清、血漿、尿、リンパ液、刺液、髄液、汗、唾液、胃液、肺洗浄液、糞便等が挙げられる。これらのうち、血清、血漿が特に好ましい。本発明によれば、血清、血漿等の測定試料が溶血している場合に、ヘモグロビンの影響を回避した正確な測定ができる。
【0044】
また、本発明において、測定対象物質についても特に限定されず、例えば、C反応性蛋白(CRP)、トランスフェリン等の血漿蛋白質、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、サイロキシン、インスリン、ヒト胎盤性ラクトーゲン等のホルモン、癌胎児性抗原(CEA)、β2−マイクログロブリン、α―フェトプロテイン(AFP)等の腫瘍関連物質、HBs抗原、HBe抗原等のウイルス性肝炎の抗原およびHBs抗体、HBe抗体等のウイルス性肝炎の抗体、ヘルペス、麻疹、風疹等のウイルス、各種生体成分に対する抗体または抗原、フェノバルビタール、アセトアミノフェン、サイクロスポリン等の各種薬剤等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1 干渉反応抑制効果に対する亜硫酸塩濃度の影響
亜硫酸ナトリウム添加による干渉反応の抑制に対する亜硫酸塩濃度の影響を評価した。また、亜硫酸塩の酸化を促進する条件(試薬容器に半分充填し4℃で3週間振とう)で保存して安定性を評価した。
【0046】
(1)試薬
第1試薬として、0mM、50mM、100mM、250mM、350mM、500mMまたは600mMの亜硫酸ナトリウムを含む50mM HEPES緩衝液(pH7.4)を調製した。また、調製した第1試薬を試薬容器に半分充填し、4℃で3週間振とうして、亜硫酸塩の空気中の酸素による酸化を促進させた。
また、第2試薬として抗KL−6抗体担持ポリスチレンラテックス液を含む50mM HEPES緩衝液(pH7.4)を調製した。
【0047】
上記の抗KL−6担持ラテックス液は、公知の方法により調製した。すなわち、抗KL−6抗体とポリスチレンラテックスを混合して、ポリスチレンラテックス表面に抗KL−6抗体を担持することにより調製した。
【0048】
(2)測定試料
プール血清に干渉チェックRFプラス(シスメックス株式会社)をリウマトイド因子(RF)濃度が、0、100、200、300、400、500または1000IU/mLとなるように添加してRF試料を調製した。
【0049】
(3)評価方法
前記RF試料2.0μLに第1試薬120μLを混合し37℃で5分間インキュベーションした後、この混合液に第2試薬を40μL混合し37℃で反応させ、第2試薬混合後約5分間の660nmの吸光度変化を測定した。なお、一連の測定は日立7180形自動分析装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて行った。
KL−6の濃度を定量するため、KL−6の標準物質を測定して得られた検量線から、血清検体中のKL−6濃度を算出した。調製直後の結果を表1に、亜硫酸塩の酸化を促進させた場合の結果を表2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表1より、亜硫酸塩濃度50mM以上でRFによる干渉反応の抑制効果がみられ、亜硫酸塩濃度50mMにおいても、RFによる干渉反応を亜硫酸塩無添加時(0mM)の約1/2に抑制できることがわかった。また、干渉反応の抑制効果は、亜硫酸塩濃度に依存して向上し、亜硫酸塩濃度250mMから500mMで抑制効果は最大となり、亜硫酸塩濃度600mMでは低下することがわかった。亜硫酸塩濃度は50mM以上が好ましく、100mMから600mMが更に好ましく、250〜500mMが最も好ましい。
【0053】
また、表1と表2より、亜硫酸塩濃度が50mMの場合には、亜硫酸塩の酸化により干渉反応の抑制効果が低下している。干渉反応の抑制効果に対する亜硫酸塩の酸化の影響は、亜硫酸塩濃度に依存して軽減され、亜硫酸塩濃度250mMから500mMで最も影響が小さくなり安定性が向上したが、亜硫酸濃度が600mMの場合には、亜硫酸塩の酸化により干渉反応の抑制効果が低下することがわかった。
【0054】
実施例2 亜硫酸塩の干渉反応の抑制に対するpHの影響
亜硫酸ナトリウムを250mMとして、干渉物質の干渉反応の抑制に対するpHの影響を評価した。
【0055】
(1)試薬
第1試薬として、250mM 亜硫酸ナトリウムを含む、50mM PIPES緩衝液(pH6.4または6.8)または50mM HEPES緩衝液(pH7.4、7.8または8.2)を調製した。第2試薬は、実施例1と同様である。
(2)測定試料
プール血清に干渉チェックRFプラス(シスメックス株式会社)をリウマトイド因子濃度が、0、100、200、300、400、または500IU/mLとなるように添加してRF試料を調製したRF試料に加え、正常検体(異好性抗体およびRF陰性のヒト血清試料)および異常検体(異好性抗体およびRF陽性のヒト血清試料)を測定試料とした。
(3)評価方法
実施例1と同様に試料を測定した。RF試料の結果を表3に、ヒト血清試料の結果を表4に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
表3より明らかなように、亜硫酸塩によるRFの干渉反応の抑制効果は、pH7.8以上では高pHほど顕著に低下し、測定値の正誤差が拡大する。しかし、pH7.4以下での亜硫酸塩によるRFの干渉反応の抑制効果には大きな差異は見られない。
【0059】
また、表4より、正常検体では亜硫酸塩による干渉反応の抑制に対するpHの影響は、ほとんど見られない。これに対し、干渉物質が存在する異常検体では、高pHほど亜硫酸塩の干渉反応の抑制効果が顕著に低下し測定値が高値化したが、pH6.4および6.8での測定値の変動は小さく、効果的に干渉反応が抑制されていることがわかる。
【0060】
実施例3 ヘモグロビンの影響に対する亜硫酸塩含有試薬のpHの影響
亜硫酸ナトリウムを250mMとして、ヘモグロビン(Hb)の影響、およびリウマトイド因子の干渉反応の抑制に対するpHの影響を評価した。
【0061】
(1)試薬
第1試薬として、250mM 亜硫酸ナトリウムを含む50mM PIPES緩衝液(pH6.7)または50mM HEPES緩衝液(pH7.4)を調製した。第2試薬は、実施例1と同様である。
(2)測定試料
プール血清に干渉チェックRFプラス(シスメックス株式会社)をリウマトイド因子濃度が、0、100、200、300、400、500または1000IU/mLとなるように添加してRF試料を調製した。また、プール血清に干渉チェックAプラス 溶血ヘモグロビン(シスメックス株式会社)をヘモグロビン濃度が、0、100、200、300、400、500、600、800または1000mg/dLとなるように添加してHb試料を調製した。
(3)評価方法
実施例1と同様に試料を測定した。結果を表5に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
表5から明らかなように、亜硫酸塩を含有する試薬がpH7.4の場合はRFによる干渉反応が見られるのに対し、pH6.7ではRFによる干渉反応は抑制されている。これに対し、測定値に対するヘモグロビンの影響は、pH7.4では見られないのに対して、pH6.7ではヘモグロビン濃度に依存した正の影響が見られる。
【0064】
実施例4 ヘモグロビンの影響の原因の確認
亜硫酸ナトリウム濃度を250mMとして、ヘモグロビンの吸収スペクトルに対するpHの影響を評価した。
【0065】
(1)試薬
第1試薬は、実施例3と同様である。第2試薬として、実施例1の組成から抗KL−6抗体担持ラテックスを除いたものを調製した。
(2)測定試料
プール血清に干渉チェックAプラス 溶血ヘモグロビン(シスメックス株式会社)をヘモグロビン濃度が500mg/dLになるように添加してHb試料を調製した。
(3)評価方法
Hb試料10μLに第1試薬600μLを添加し、この混合物に第2試薬を添加後、SHIMADZU UV−2600(株式会社島津製作所)にて波長800nmから400nmで吸収スペクトルを測定した。吸収スペクトル測定終了後、混合液を37℃で加温し、加温開始5分後に波長800nmから400nmで吸収スペクトルを測定し、その後5分おきに波長800nmから400nmで吸収スペクトルを測定した。結果を図1および図2に示す。
【0066】
図1から明らかなように、亜硫酸塩を含有する第1試薬のpHが7.4の場合、ヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化は見られない。これに対して、図2のように、亜硫酸塩を含有する第1試薬のpHが6.7の場合には、ヘモグロビンの吸収スペクトルが経時的に変化することがわかった。このヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的変化が、免疫比濁法やラテックス凝集法等のB/F分離を行わない免疫学的測定方法の測定値に影響を与えるものであり、測定値に対する影響の原因がヘモグロビンであることを示すものである。
【0067】
実施例5 ヘモグロビンの影響に対する還元性物質の効果
亜硫酸ナトリウムを250mM、pHを6.7として、還元性物質のアスコルビン酸ナトリウム(AA)、2−メルカプトエチルアミン(2−MEA)、2−ジメチルアミノエタンチオール(2−DAET)、およびジチオスレイトール(DTT)の効果を評価した。
【0068】
(1)試薬
第1試薬として、250mM 亜硫酸ナトリウム、および10mM還元性物質(DTTは5mM)を含む50mM PIPES緩衝液(pH6.7)を調製した。また、比較例として、還元性物質を添加しないものも調製した。さらに、アスコルビン酸ナトリウムおよび2−メルカプトエチルアミンについては、亜硫酸ナトリウムを除いたものも調製した。
第2試薬は、実施例1と同様である。
(2)測定試料
実施例3と同様に調製した。
(3)評価方法
実施例1と同様に試料を測定した。結果を表6および表7に示す。
【0069】
【表6】
【0070】
【表7】
【0071】
表6から明らかなように、亜硫酸ナトリウムを含有する第1試薬に、アスコルビン酸ナトリウム、2−メルカプトエチルアミン、2−ジメチルアミノエタンチオールまたはジチオスレイトールを添加しても、比較例と同様にRFによる干渉反応は見らない。これに対して、亜硫酸ナトリウムを含有せず、アスコルビン酸ナトリウムまたは2−メルカプトエチルアミンを単独で用いた場合は、RFによる干渉反応が見られる。
【0072】
表7から明らかなように、比較例がヘモグロビンの影響を顕著に受けるのに対し、アスコルビン酸ナトリウム、2−メルカプトエチルアミン、2−ジメチルアミノエタンチオールまたはジチオスレイトールを等の還元性物質を添加することでヘモグロビンの影響が抑制されることがわかった。アスコルビン酸ナトリウム単独ではヘモグロビンの影響が見られるが、同様に単独での添加ではヘモグロビンの影響が見られる亜硫酸塩(比較例)と組み合わせることで、ヘモグロビンの影響を抑制できることは驚くべきことである。
【0073】
実施例6 還元性物質の添加効果の確認
亜硫酸ナトリウム濃度を250mM、pHを6.7として、還元性物質のアスコルビン酸ナトリウム(AA)、2−メルカプトエチルアミン(2−MEA)、2−ジメチルアミノエタンチオール(2−DAET)、ジチオスレイトール(DTT)、2−メルカプトエタノール(2−ME)、システインまたは還元型グルタチオンのヘモグロビンの吸収スペクトルに対する効果を評価した。
【0074】
(試薬)
第1試薬として、実施例5に加え、2−メルカプトエタノール、システインまたは還元型グルタチオンをそれぞれ10mM添加したものも調製した。第2試薬は、実施例4と同様である。
(2)測定試料
実施例4と同様に調製した。
(3)評価方法
実施例4と同様にヘモグロビンの吸収スペクトルの経時変化を測定した。結果を図3から図10に示す。
【0075】
図3から図9から明らかなように、第1試薬に亜硫酸ナトリウムに加えて、アスコルビン酸ナトリウム、2−メルカプトエチルアミン、2−ジメチルアミノエタンチオール、ジチオスレイトール、2−メルカプトエタノール、システインまたは還元型グルタチオン等の還元性物質を含む場合には、ヘモグロビンの吸収スペクトルは経時的に変化せず安定している。これに対し、アスコルビン酸ナトリウムは亜硫酸ナトリウムを除き単独で添加すると(図10)、ヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的な変化が見られる。
【0076】
実施例7 亜硫酸塩および2−メルカプトエチルアミン添加組成でのpH影響
亜硫酸ナトリウム250mM、2−メルカプトエチルアミン10mMとして、リウマトイド因子の干渉反応やヘモグロビンの影響に対するpHの影響を評価した。
【0077】
(1)試薬
第1試薬として、250mM 亜硫酸ナトリウム、10mM 2−メルカプトエチルアミンを含む50mM PIPES緩衝液(pH6.0、6.2、6.7または6.9)または50mM HEPES緩衝液(pH7.4または8.0)を調製した。第2試薬は、実施例1と同様である。
(2)測定試料
プール血清に干渉チェックRFプラス(シスメックス株式会社)をリウマトイド因子濃度が、0、250または500IU/mLとなるように添加してRF試料を調製した。また、プール血清に干渉チェックAプラス 溶血ヘモグロビン(シスメックス株式会社)をヘモグロビン濃度が、0、250または500mg/dLとなるように添加してHb試料を調製した。
(3)評価方法
実施例1と同様に試料を測定した。結果を表8および表9に示す。
【0078】
【表8】
【0079】
【表9】
【0080】
表8から明らかなように、pH6.0から7.4ではリウマトイド因子の干渉反応が抑制されるのに対し、pH8.0ではRF濃度に依存してリウマトイド因子の干渉反応が見られており、亜硫酸塩の干渉反応の抑制効果が低下している。
【0081】
また、表9から明らかなように、亜硫酸塩に2−メルカプトエチルアミンを添加することで、pH6.0から8.0の範囲でヘモグロビンの影響が抑制されている。亜硫酸塩に2−メルカプトエチルアミンを混合した免疫学的測定試薬のpHは7.4以下が好ましい。
【0082】
実施例8 亜硫酸塩およびアスコルビン酸塩添加組成でのpH影響
亜硫酸ナトリウム250mM、アスコルビン酸ナトリウム10mMとして、リウマトイド因子の干渉反応およびヘモグロビンの影響に対するpHの影響を評価した。また、亜硫酸塩やアスコルビン酸塩の酸化を抑制する条件(試薬容器一杯に充填し4℃で静置)と、酸化を促進する条件(試薬容器に半分充填し4℃で3週間振とう)で保存して、亜硫酸塩やアスコルビン酸塩の酸化の影響を評価した。
【0083】
(1)試薬
第1試薬として、250mM 亜硫酸ナトリウム、10mM アスコルビン酸ナトリウムを含む50mM PIPES緩衝液(pH5.6、6.0、6.2、6.4、6.7または6.9)または50mM HEPES緩衝液(pH7.2または7.4)を調製した。第2試薬は、実施例1と同様である。
(2)測定試料
プール血清に干渉チェックRFプラス(シスメックス株式会社)をリウマトイド因子濃度が、0、100、200、300、400または500IU/mLとなるように添加してRF試料を調製した。また、プール血清に干渉チェックAプラス 溶血ヘモグロビン(シスメックス株式会社)をヘモグロビン濃度が、0、100、200、300、400または500または500mg/dLとなるように添加してHb試料を調製した。
(3)評価方法
実施例1と同様に試料を測定した。結果を表10および表11に示す。
【0084】
【表10】
【0085】
【表11】
【0086】
表10から明らかなように、pH5.6から7.4のpH範囲では、リウマトイド因子の干渉反応が抑制されるが、pH7.2以上では抑制効果が低下することがわかった。しかし、pH5.6から7.4のpH範囲では亜硫酸塩およびアスコルビン酸塩の酸化を促進する保存条件でも、リウマトイド因子の干渉反応の抑制効果の低下が見られない。
【0087】
また、表11から明らかなように、ヘモグロビンの影響に対するpHの影響はみられず、また、保存条件による差異も見られない。亜硫酸塩にアスコルビン酸塩を混合した免疫学的測定試薬のpHは7.4以下が好ましく、pH5.6から7.4がより好ましく、pH5.6から6.9がさらに好ましい。
【0088】
実施例9 チオール化合物の濃度の影響
亜硫酸ナトリウム250mM、pH6.7として、リウマトイド因子の干渉反応およびヘモグロビンの影響に対する2−メルカプトエチルアミン濃度の影響を評価した。
【0089】
(1)試薬
第1試薬として、250mM 亜硫酸ナトリウム、0(比較例)、10、50、または100mM 2−メルカプトエチルアミンを含む50mM PIPES緩衝液(pH6,7)を調製した。さらに、10mMおよび50mMの2−メルカプトエチルアミンを添加した試薬については、亜硫酸ナトリウムを除いたものも調製した。第2試薬は、実施例1と同様である。
(2)測定試料
実施例8と同様に調製した。
(3)評価方法
実施例1と同様に試料を測定した。結果を表12および表13に示す。
【0090】
【表12】
【0091】
【表13】
【0092】
表12から明らかなように、亜硫酸塩に2−メルカプトエチルアミンを混合した場合は、リウマトイド因子の干渉反応の抑制に対する、2−メルカプトエチルアミンの濃度の影響は見られない。これに対し、亜硫酸塩を添加せず2−メルカプトエチルアミン単独を添加した試薬では、濃度による差がみられ、10mMではリウマトイド因子による干渉反応が見られる。
【0093】
表13から明らかなように、2−メルカプトエチルアミンを混合しない比較例では、ヘモグロビンの影響が見られるのに対し、亜硫酸塩に2−メルカプトエチルアミンを混合した場合は、ヘモグロビンの影響は見られず、2−メルカプトエチルアミンの濃度の影響も見られない。
【0094】
実施例10 アスコルビン酸濃度
亜硫酸ナトリウム250mM、pH6.7として、ヘモグロビンの影響に対するアスコルビン酸濃度の影響を評価した。
【0095】
(1)試薬
第1試薬として、250mM 亜硫酸ナトリウム、1、2、5、10、30、50、100または300mM アスコルビン酸ナトリウムを含む50mM PIPES緩衝液(pH6.7)を調製した。第2試薬は、実施例1と同様である。
(2)測定試料
実施例8のHb試料と同様に調製した。
(3)評価方法
実施例1と同様に試料を測定して、ヘモグロビン(Hb)の影響に対するアスコルビン酸ナトリウム濃度の影響を評価した。結果を表14に示す。
【0096】
【表14】
【0097】
表14から明らかなように、アスコルビン酸無添加で見られるヘモグロビンの影響は、アスコルビン酸ナトリウムを1mM以上添加することで完全に抑制することができることがわかった。また、300mM添加した場合でも、正確に測定できることがわかった。
【0098】
実施例11 還元性物質添加濃度の下限の確認
亜硫酸ナトリウム濃度を250mM、pHを6.7として、還元性物質のアスコルビン酸ナトリウム、または2−メルカプトエチルアミン(2−MEA)の添加濃度の下限を、ヘモグロビンの吸収スペクトルの経時変化に対する効果により評価した。
【0099】
(試薬)
アスコルビン酸ナトリウム濃度を0.01mM、または0.1mM、2−メルカプトエチルアミン濃度を0.1mMまたは1.0mMとして、実施例5と同様に第1試薬を調製した。第2試薬は、実施例4と同様である。
(2)測定試料
実施例4と同様に調製した。
(3)評価方法
実施例4と同様にヘモグロビンの吸収スペクトルの経時変化を測定した。結果を図11から図14に示す。
【0100】
図13から図14より、2−メルカプトエチルアミンは1mMの添加で、ヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的な変化が抑制されることがわかった。また、図12より、アスコルビン酸ナトリウム0.1mMの添加では、ヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的な変化が若干みられるが、同濃度の2−メルカプトエチルアミンに比べ経時的な変化が小さいことから、2−メルカプトエチルアミンと同様1mMの添加で、ヘモグロビンの吸収スペクトルの経時的な変化が抑制されると考えられる。
【0101】
実施例12 亜硫酸塩およびアスコルビン酸塩を含有する試薬の安定性の評価
亜硫酸ナトリウムおよびアスコルビン酸を添加した第1試薬を4℃で、12ヶ月間保存後に、調製直後の第1試薬を対照に、干渉物質を含むヒト血清検体を測定して、干渉反応の抑制効果の安定性を評価した。
【0102】
(1)試薬
第1試薬として、250mM 亜硫酸ナトリウム、10mM アスコルビン酸ナトリウムを含む50mM PIPES緩衝液(6.7)を調製した。また、前記組成からアスコルビン酸ナトリウムを除いた第1試薬も調製した。第2試薬は、実施例1と同様である。
(2)測定試料
異好性抗体(HARA、HAGA、HAMAまたはHAHA)及び/またはリウマトイド因子を含むヒト血清検体を試料とした。
(3)評価方法
実施例1と同様に試料を測定した。結果を表15に示す。
【0103】
【表15】
【0104】
表15より、4℃で12ヶ月保存した第1試薬での異好性抗体及び/またはリウマトイド因子を含む血清検体の測定値は、調製直後の第1試薬での測定値と同様であり、4℃で12ヶ月保存しても干渉反応の抑制効果の低下は見られず、長期間安定であった。また、アスコルビン酸ナトリウムの有無による安定性の差異も見られないが、アスコルビン酸を含有しない場合は、実施例5等に示したようにヘモグロビンの影響を受ける。
【0105】
実施例13 MMP−3測定試薬での効果
さらに、測定対象物質をMMP−3に変えて本発明の効果を確認した。
【0106】
(1)試薬
第1試薬として、250mM 亜硫酸ナトリウム、10mM アスコルビン酸ナトリウムを含む50mM PIPES緩衝液(pH6.7)を調製した。また、前記組成からアスコルビン酸ナトリウムを除いた第1試薬、および前記アスコルビン酸ナトリウムを除いた第1試薬のPIPES緩衝液(pH6.7)をHEPES緩衝液(pH7.4)としたものも調製した。
第2試薬として、抗MMP−3抗体担持ポリスチレンラテックス液を含む50mM HEPES緩衝液(pH7.4)を調製した。
【0107】
上記の抗MMP−3担持ラテックス液は、公知の方法により調製した。すなわち、抗MMP−3抗体とポリスチレンラテックスを混合して、ポリスチレンラテックス表面に抗MMP−3抗体を担持することにより調製した。
【0108】
(2)測定試料
異好性抗体またはリウマトイド因子陽性のヒト血清検体、および実施例8と同様にHb試料を調製した。
【0109】
(3)評価方法
試料2.4μLに第1試薬120μLを混合し37℃で5分間インキュベーションした後、この混合液に第2試薬を40μL混合し37℃で反応させ、第2試薬混合後約5分間の主波長570nmおよび副波長800nmの二波長における吸光度変化を測定した。なお、一連の測定は日立7180形自動分析装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて行った。
MMP−3の濃度を定量するため、MMP−3の標準物質を測定して得られた検量線から、試料中のMMP−3濃度を算出した。結果を表16および表17に示す。
【0110】
【表16】
【0111】
【表17】
【0112】
表16から明らかなように、アスコルビン酸ナトリウムの有無によらず、第1試薬をpH6.7とすることで、干渉物質による干渉反応を抑制できるのに対し、第1試薬をpH7.4すると干渉物質が高濃度で含まれる血清(血清1、血清2、血清12および血清14)では、干渉物質による干渉反応を十分に抑制できず、MMP−3測定値が高値化した。
【0113】
表17から明らかなように、MMP−3においても、第1試薬をpH6.7とし、アスコルビン酸塩を添加しない場合は、ヘモグロビンの影響が見られるのに対し、アスコルビン酸塩の添加によりヘモグロビンの影響を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
以上のように、本発明によれば、測定する試料中に異好性抗体やリウマトイド因子等の干渉物質が高濃度に含まれる場合であっても、これらによる干渉作用を長期間十分に抑制することができ、ヘモグロビンによる影響を受けない、測定対象物を正確に測定ができる免疫学的測定方法および免疫学的測定試薬の提供が可能となる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14