(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に平均して2個以上有し、25℃における粘度が10,000〜1,000,000mPa・sである直鎖状のポリオルガノシロキサンと、
(B)式:SiO4/2で表される4官能型シロキサン単位を含み、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に平均して1.5個以上有するレジン構造を有するポリオルガノシロキサンを、前記(A)成分と本成分との合計に対して30〜80質量%と、
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に平均して3個以上有し、式:R43SiO1/2(式中、R4は、それぞれ独立にメチル基または水素原子である。)で表される1官能型シロキサン単位と、式:SiO4/2で表される4官能型シロキサン単位を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンであり、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を0個以上有するとともに、該アルコキシ基の前記ケイ素原子に結合した水素原子に対するモル比(アルコキシ基のモル数/ケイ素原子に結合した水素原子のモル数)が0.15未満であり、かつ150℃で30分間加熱したときの質量減少率が2.0%以下であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンを、前記(A)成分中のアルケニル基と前記(B)成分中のアルケニル基との合計1モルに対して、本成分中の前記ケイ素原子に結合した水素原子が1.0〜3.0モルとなる量、および
(D)ヒドロシリル化反応触媒の触媒量
をそれぞれ含有してなることを特徴とする成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
前記(C)成分は、前記アルコキシ基の前記ケイ素原子に結合した水素原子に対するモル比(アルコキシ基のモル数/ケイ素原子に結合した水素原子のモル数)が0.10未満であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンを含むことを特徴とする請求項1記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
前記(C)成分は、150℃で30分間加熱したときの質量減少率が0.5%以下であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンを含むことを特徴とする請求項1または2記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
無機充填剤を含有せず、6mmの厚さの硬化物の波長400nmの光の透過率が85%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の成形用ポリオルガノシロキサン組成物。
一次または二次のLED用レンズ、肉厚光学レンズ、LED用リフレクター、自動車用LEDマトリクスライティングレンズ、オーグメンテッドリアリティ(拡張現実感)用光学部材、LEDチップ用シリコーン光学ヘッド、作業ライト用レンズおよびリフレクター、スマートフォンまたはタブレット用の照明光学部材、コンピュータまたはテレビジョン用のLEDディスプレイ、ライトガイドから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項6記載の光学用部材。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
[成形用ポリオルガノシロキサン組成物]
本発明の実施形態の成形用ポリオルガノシロキサン組成物は、
(A)アルケニル基を1分子中に平均して2個以上有し、25℃における粘度が10,000〜1,000,000mPa・sである直鎖状のポリオルガノシロキサンと、
(B)式:SiO
4/2で表される4官能型シロキサン単位を含み、アルケニル基を1分子中に平均して1.5個以上有するレジン構造を有するポリオルガノシロキサンを、前記(A)成分と本成分との合計に対して30〜80質量%と、
(C)Si−Hを1分子中に平均して3個以上有し、式:R
13SiO
1/2(式中、R
1は、それぞれ独立にメチル基または水素原子である。)で表される1官能型シロキサン単位と、式:SiO
4/2で表される4官能型シロキサン単位を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンであり、アルコキシ基を0個以上有するとともに、該アルコキシ基の前記Si−Hに対するモル比(アルコキシ基のモル数/Si−Hのモル数)が0.15未満であり、かつ150℃で30分間加熱時の質量減少率が2.0%以下であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンを、前記(A)成分中のアルケニル基と前記(B)成分中のアルケニル基との合計1モルに対して、本成分中のSi−Hが1.0〜3.0モルとなる量、および
(D)ヒドロシリル化反応触媒の触媒量
をそれぞれ含有してなることを特徴とする。
以下、(A)〜(D)の各成分について説明する。
【0020】
<(A)成分>
(A)成分は、1分子中に平均して2個以上のアルケニル基を有し、25℃における粘度が10,000〜1,000,000mPa・s(10〜1,000Pa・s)のポリオルガノシロキサンである。(A)成分の分子構造は、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状である。(A)成分は、後述する(B)成分とともに、本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物のベースポリマーとなる。
【0021】
(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等の、炭素原子数が2〜8、より好ましくは2〜4のものが挙げられる。アルケニル基としては、特にビニル基が好ましい。アルケニル基は、分子鎖末端と末端以外の分子鎖の中間のいずれか一方のケイ素原子に結合していてもよいし、分子鎖末端と中間の両方のケイ素原子に結合していてもよい。
【0022】
(A)成分において、アルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基としては、非置換または置換の1価の炭化水素基が挙げられる。非置換の1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等の炭素原子数1〜10のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素原子数6〜14のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素原子数7〜14のアラルキル基が挙げられる。また、置換の1価の炭化水素基としては、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられる。アルケニル基以外の有機基としては、メチル基あるいはフェニル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0023】
(A)成分の25℃における粘度は、10,000〜1,000,000mPa・sである。(A)成分の粘度は、10,000〜700,000mPa・sが好ましく、50,000〜500,000mPa・sがより好ましく、60,000〜200,000mPa・sが特に好ましい。(A)成分の粘度が10,000〜1,000,000mPa・sである場合には、得られる組成物の作業性が良好であるうえに、この組成物から得られる硬化物の機械的特性が良好となる。
【0024】
(A)成分の具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0025】
これらの重合体または共重合体は、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ケイ素原子に結合するアルケニル基以外の有機基が全てメチル基である直鎖状ポリオルガノシロキサン、すなわち分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体を使用した場合には、引張り強度や伸び等の機械的特性に優れた硬化物を得ることができる。
【0026】
<(B)成分>
(B)成分は、式:SiO
4/2で表される4官能型シロキサン単位(以下、Q単位という。)を含み、1分子中に平均して1.5個以上のアルケニル基を有するレジン構造(三次元網目構造)を有するポリオルガノシロキサンである。以下、「レジン構造を有する」ことを「レジン状」ともいう。
【0027】
(B)成分として、Q単位を含み、1分子中に平均1.5個以上のアルケニル基を有するレジン状ポリオルガノシロキサンを使用することにより、金型に対する離型性の良好な組成物が得られる。アルケニル基の数が平均で1.5個未満のレジン状ポリオルガノシロキサンを使用した場合には、組成物の金型に対する離型性および非汚染性が悪くなる。(B)成分の有するアルケニル基数のより好ましい範囲は、1分子中に平均2個以上であり、平均2.3個以上が特に好ましい。
【0028】
(B)成分であるレジン状ポリオルガノシロキサンは、金型離型性および非汚染性の観点から、ケイ素原子に結合した置換もしくは非置換のアルキル基を1分子中に1個以上有するとともに、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を1分子中に0個以上有し、置換もしくは非置換のアルキル基に対するアルコキシ基のモル比(アルコキシ基のモル数/置換もしくは非置換のアルキル基のモル数、以下、アルコキシ基/アルキル基ともいう。)が0.030以下のものであることが好ましい。アルコキシ基/アルキル基のより好ましい値は、0.020以下である。
【0029】
なお、前記したアルコキシ基を1分子中に0個以上有するレジン状ポリオルガノシロキサンには、アルコキシ基の数が0個であり、アルコキシ基/アルキル基の値が0であるポリオルガノシロキサンも含む。
【0030】
なお、(B)成分におけるアルコキシ基/アルキル基の値は、アルコキシ基およびアルキル基の含有量(モル数)を核磁気共鳴分光法(NMR)等により測定することにより、容易に求めることができる。
【0031】
(B)成分であるレジン状ポリオルガノシロキサンとしては、式:R
13SiO
1/2で表される1官能型シロキサン単位と、式:R
12SiO
2/2で表される2官能型シロキサン単位と、式:SiO
4/2で表される4官能型シロキサン単位(Q単位)を含有し、1分子中に平均して1.5個以上のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンを使用することが好ましい。このようなポリオルガノシロキサンを使用することにより、金型離型性および非汚染性に優れた組成物が得られる。
【0032】
上記単位式において、R
1は、それぞれ独立に、アルケニル基または置換もしくは非置換のアルキル基である。レジン状ポリオルガノシロキサンの1分子中に存在する複数のR
1は、平均して1.5個がアルケニル基である。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基等が挙げられる。アルケニル基としては、ビニル基が好ましい。非置換のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等が挙げられる。置換のアルキル基としては、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基のような、水素原子がハロゲン原子で置換されたハロゲン置換アルキル基が挙げられる。置換もしくは非置換のアルキル基としては、メチル基が好ましい。
【0033】
また、前記したように、(B)レジン状ポリオルガノシロキサンは、式:(R
0O
1/2)で表される単位、すなわち、ケイ素原子に結合する−OR
0で表されるアルコキシ基を含むことができる。ここで、R
0は非置換のアルキル基、例えば、炭素原子数1〜3のアルキル基である。非置換のアルキル基としては、メチル基またはエチル基が好ましい。以下、特に断りのない限り、ケイ素原子に結合する−OR
0基を単に「−OR
0基」とも記す。
【0034】
そして、(B)レジン状ポリオルガノシロキサンとしては、シロキサン単位が、
式:R
23SiO
1/2(R
2は、非置換のアルキル基であり、複数のR
2は異なっていてもよい。以下同じ。)で表される1官能型シロキサン単位(以下、R
23SiO
1/2単位ともいう。)と、式:R
22R
3SiO
1/2(R
3はアルケニル基である。以下同じ。)で表される1官能型シロキサン単位(以下、R
22R
3SiO
1/2単位ともいう。)と、式:R
22SiO
2/2で表される2官能型シロキサン単位(以下、R
22SiO
2/2単位ともいう。)と、式:SiO
4/2で表される4官能型シロキサン単位(Q単位)とからなる共重合体、
R
23SiO
1/2単位と、R
22R
3SiO
1/2単位と、Q単位とからなる共重合体、
R
22R
3SiO
1/2単位と、R
22SiO
2/2単位と、Q単位とからなる共重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
前記共重合体の中でも、シロキサン単位が、R
23SiO
1/2単位とR
22R
3SiO
1/2単位とQ単位とからなる共重合体が好ましい。金型離型性および非汚染性の観点から、共重合体の有する−OR
0基は少ないほど好ましく、−OR
0基を持たない共重合体が特に好ましい。
【0036】
より具体的には、シロキサン単位が、式:(CH
3)
2(CH
2=CH)SiO
1/2で表される1官能型シロキサン単位(以下、M
vi単位と示す。)と、式:(CH
3)
3SiO
1/2で表される1官能型シロキサン単位(以下、M単位と示す。)と、式:SiO
4/2で表される4官能型シロキサン単位(Q単位)とから構成される共重合体が好ましい。また、このようなシロキサン単位のみから構成され、アルコキシ基を有しない共重合体が特に好ましい。
【0037】
一般に、レジン状ポリオルガノシロキサンは、クロロシランとアルコキシシランに水を加えて加水分解することにより得ることができる。本発明の組成物に配合する(B)レジン状ポリオルガノシロキサンを得るには、アルコキシ基(メトキシ基やエトキシ基等)の含有割合を一定以下に調整しつつ加水分解反応を行わせることが好ましい。
【0038】
アルコキシ基の含有割合を一定以下に調整する方法は特に限定されず、加水分解の反応温度や時間等をコントロールする、アルコール、アセトン等の水溶性溶媒を用いて抽出除去する、などの方法があるが、例えば、以下に記載する(1)〜(3)の工程を順に行うことにより、アルコキシ基の含有割合が少ないレジン状ポリオルガノシロキサンを得ることができる。
【0039】
(1)式:R
13SiW、R
12SiW
2、SiW
4から選ばれる少なくとも3種のケイ素化合物を、アセトンと水との混合液により加水分解する工程。
(2)前記(1)の工程の後、水洗浄により酸およびアセトンを除去する工程。
(3)前記(2)の工程の後、アルカリを加えて加熱する工程。
【0040】
前記(1)の工程で出発物質として用いるケイ素化合物において、R
1は、それぞれ独立に、アルケニル基または置換もしくは非置換のアルキル基であり、前記と同様の基を挙げることができる。また、Wは、それぞれ独立に、塩素原子、アルコキシ基、または水酸基である。このようなケイ素化合物として、テトラエトキシシラン、クロロジメチルビニルシラン、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン等を挙げることができる。そして、これらのケイ素化合物の中から3種以上を選択して使用する。
【0041】
なお、出発物質として用いる3種のケイ素化合物のうちの少なくとも1種は、R
1として、1個以上のアルケニル基を有するものを用いる。また、少なくとも1種のケイ素化合物は、Wとして、1個以上の塩素原子を有するものを用いることが好ましい。
【0042】
アセトンと水と混合割合は、アセトン:水が1:1〜1:4(質量比)の範囲が好ましい。加水分解は公知の方法で行うことができる。また、(2)の工程において、水洗浄の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0043】
(3)の工程において、前記(2)の工程で得られた溶液に加えるアルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化セシウム等を挙げることができる。そして、そのようなアルカリを公知の方法で加えて加熱し脱水を行った後、リン酸等を用いて中和を行い、レジン状ポリオルガノシロキサンを得る。
【0044】
さらに、このような方法によるレジン状ポリオルガノシロキサンの合成においては、(3)の工程で使用するアルカリ触媒に由来するアルカリ金属や、中和剤として使用するリン酸に由来するリンが、組成物中に残留すると、種々の特性が低下することがわかった。
【0045】
組成物に安定した良好な特性(金型離型性や保存安定性など)を持たせるために、前記方法で得られる(B)レジン状ポリオルガノシロキサンは、リン(P)およびアルカリ金属の残留ができるだけ少ないものであることが好ましい。
【0046】
具体的には、(B)レジン状ポリオルガノシロキサン中のリン(P)とアルカリ金属の含有量の合計が、(B)成分に対して30質量ppm以下の割合のものであることが好ましい。また、(B)成分中のリンの含有割合は25質量ppm以下であり、カリウムの含有割合は2質量ppm以下であることが好ましい。
【0047】
ここで、アルカリ金属としては、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs)等を挙げることができる。
【0048】
(B)成分中のPおよびCsの含有量は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)法により測定することができる。Csについては、より感度の高い高周波誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)法を用いることもできる。KおよびNaの含有量は、原子吸光分析(AAS)法により測定することができる。
【0049】
(B)成分中のリンの含有割合は15質量ppm以下がより好ましく、実質的に含有しないこと(10ppm未満)が最も好ましい。なお、「実質的に含有しない」とは、含有量が検出感度以下であることを意味する。Pの検出感度の限界は、上記の測定方法において、10質量ppm程度である。さらに、(B)成分中のカリウムの含有割合は1質量ppm以下がより好ましく、実質的に含有しないこと(0.4ppm未満)が最も好ましい。上記の測定方法において、Csの検出感度の限界はICP−MS法において0.1質量ppb程度であり、KおよびNaの検出感度の限界は0.4質量ppm程度である。
【0050】
(B)成分中のリンとアルカリ金属の含有量の合計は、20質量ppm以下がより好ましく、実質的に含有しないこと(10ppm未満)が最も好ましい。なお、リンとアルカリ金属の合計量の検出感度の限界は、リンの検出感度の限界に比べてアルカリ金属の検出感度の限界が非常に小さいことから、リンの検出感度の限界、すなわち10ppmとした。
【0051】
(B)成分中のリンとアルカリ金属の含有量を前記範囲に調整するには、(B)成分を水洗する、イオン交換樹脂で処理する、吸着剤で処理するなどの方法で、リンおよびナトリウム、カリウム、Cs等のアルカリ金属を除去する。なお、吸着剤としては、ケイ酸アルミニウム粉体、ケイ酸粉体、ケイ酸マグネシウム粉体のような、固体の塩基性吸着剤を用いることができる。
【0052】
(B)成分であるレジン状ポリオルガノシロキサンの好適な質量平均分子量Mwは、1,500〜10,000であり、2,200〜8,000の範囲がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと示す。)によるポリスチレン換算の値である。(B)レジン状ポリオルガノシロキサンのMwが1,500未満の場合は、十分な機械的強度が安定して得られないことがある。Mwが10,000を超える場合は、本組成物の粘度が高くなり、流動性を失い射出成形性が劣ることがある。
【0053】
(B)成分であるレジン状ポリオルガノシロキサンは、前記(A)成分である直鎖状ポリオルガノシロキサンとともに、本発明の組成物のポリマー成分となる。(B)レジン状ポリオルガノシロキサンと(A)直鎖状ポリオルガノシロキサンとの配合比は、(A)成分と(B)成分との合計(100質量%)に対して、(B)成分が30〜80質量%、(A)成分が70〜20質量%となる比率である。(B)成分の配合比率が30質量%未満の場合には、十分な硬度や機械的強度が得られない。(B)成分の配合比率が80質量%を超える場合には、組成物の粘度が高く、作業性が悪くなる。(A)成分と(B)成分との合計に対する(B)成分の配合比率は、35〜70質量%がより好ましく、37〜65質量%が特に好ましい。
【0054】
<(C)成分>
(C)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子(Si−H)を1分子中に平均して3個以上有し、式:R
43SiO
1/2(式中、R
4は、それぞれ独立にメチル基または水素原子である。)で表される1官能型シロキサン単位と、式:SiO
4/2で表される4官能型シロキサン単位(Q単位)を有するレジン状のポリオルガノハイドロジェンシロキサンである。(C)成分は、そのSi−Hが前記(A)成分および(B)成分のアルケニル基と反応することで、架橋剤として作用する。
【0055】
(C)成分であるレジン状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を1分子中に0個以上有するとともに、このアルコキシ基の前記したケイ素原子に結合した水素原子(Si−H)に対するモル比(アルコキシ基のモル数/Si−Hのモル数、以下、アルコキシ基/Si−Hともいう。)が0.15未満のものである。
【0056】
ここで、ケイ素原子に結合したアルコキシ基数が0個以上のレジン状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンには、1分子中のアルコキシ基が0個であり、前記アルコキシ基/Si−Hの値が0であるものも含む。
【0057】
前記したように、(B)成分におけるアルコキシ基の含有量を低減することで、組成物の金型離型性および非汚染性を向上させることができるが、(C)成分におけるアルコキシ基低減の効果はより大きい。(C)成分であるレジン状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、(B)成分であるレジン状ポリオルガノシロキサンに比べて含有量は少ないが、組成物の金型接着性増大に占める作用が大きいため、(C)成分におけるアルコキシ基の含有量を低減し、アルコキシ基/Si−Hを0.15未満にすることで、組成物全体の金型に対する離型性および非汚染性をより効果的に高めることができる。
【0058】
金型離型性および非汚染性の観点から、(C)成分であるレジン状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンの有するアルコキシ基(−OR
0基)は少ないほど好ましく、−OR
0基を持たない共重合体が特に好ましい。
【0059】
(C)成分として、アルコキシ基/Si−Hが0.15以上のレジン状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンを使用した場合には、得られる組成物の金型離型性が悪くなり、金型を汚染しやすい。(C)レジン状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンにおける前記モル比(アルコキシ基/Si−H)は、0.1未満がより好ましく、0.08以下が特に好ましい。アルコキシ基/Si−Hの値は、0であることが最も好ましい。(C)レジン状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンのアルコキシ基/Si−Hは、例えば、0.005以上0.1未満であってもよく、0.03以上0.08以下であってもよい。アルコキシ基としては、具体的には、炭素原子数1〜3のアルコキシ基が挙げられる。
【0060】
なお、レジン状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンにおけるアルコキシ基およびSi−Hの含有量(モル数)は、核磁気共鳴分光法(NMR)等により容易に求めることができる。
【0061】
(C)成分であるレジン状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンを得る方法は、特に限定されないが、例えば、クロロシランと、テトラアルコキシシランおよび/またはポリシリケート(例えば、エチルポリシリケート)とを、キシレン等の有機溶媒中で共加水分解および縮合させる。出発物質として、クロロシランを用いる代わりに、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを塩酸とともに仕込み、ジシロキサンを酸性条件で分解する方法を採ることもできる。そして、本発明に使用する(C)アルコキシ基/Si−H基が0.15未満のレジン状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンを得るには、アルコール等の水溶性溶媒を用いてアルコキシ基を抽出除去する方法を採ることが好ましい。
【0062】
また、(C)成分は、平均重合度が10以上でSi−Hの含有量が5.0mmol/g以上11.0mmol/g以下のポリオルガノハイドロジェンシロキサンであることが好ましい。平均重合度は1分子中のケイ素原子の数に相当し、1分子中に存在するシロキサン単位の数でもある。(C)成分の平均重合度は10〜25が好ましく、10〜20がより好ましい。
【0063】
さらに、本発明の(C)レジン状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、低分子量成分を含有しないものであり、150℃で30分間加熱したときの質量減少率が2.0%以下のものである。この質量減少率は、0.5%以下がより好ましい。
【0064】
なお、質量減少率は、例えば、加熱前の質量(Wb)からの加熱(150℃で30分間)後の質量(Wa)の質量減少率=(Wb−Wa)/Wb×100(Wb、Waは25℃で測定された質量)として求められる。なお、加熱は、約2gのサンプルを150℃に設定した乾燥機中に30分間放置する等で行うことができる。
【0065】
前記質量減少率が2.0%以下のポリオルガノハイドロジェンシロキサンを得る方法としては、例えば、前述の方法で得られたポリオルガノハイドロジェンシロキサンを、減圧条件下で130℃以上に加熱する方法や、薄膜蒸留を行う方法、分子蒸留を行う方法等が挙げられる。薄膜蒸留は、減圧下ワイパーや遠心力により原料を薄膜状で蒸留する方法である。薄膜蒸留法では、液深による沸点上昇が抑えられ、より低沸点条件での蒸留が可能である。また、分子蒸留は、上記に加えて、蒸発面近くに凝縮面(コンデンサー)を備えて蒸留する方法であり、より高真空での蒸留が可能になる。
【0066】
(C)成分であるレジン状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンとしては、シロキサン単位が、R
53SiO
1/2単位、R
52HSiO
1/2単位およびSiO
4/2単位(Q単位)からなる共重合体、R
53SiO
1/2単位、R
52HSiO
1/2単位、R
52SiO
2/2単位およびSiO
4/2単位(Q単位)からなる共重合体、R
53SiO
1/2単位、R
52HSiO
1/2単位、R
52SiO
2/2単位、R
5HSiO
2/2単位およびSiO
4/2単位(Q単位)からなる共重合体、R
52HSiO
1/2単位およびSiO
4/2単位(Q単位)からなる共重合体等が挙げられる。上記各単位において、R
5はメチル基である。なお、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、上記各共重合体は、上記各単位においてR
5がメチル基以外のアルキル基、例えば、エチル基、プロピル基である単位を含んでもよい。
【0067】
(C)レジン状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンとして、より具体的には、シロキサン単位が、式:(CH
3)
2HSiO
1/2で表される1官能型シロキサン単位(以下、M
H単位と示す。)と、式:(CH
3)
3SiO
1/2で表される1官能型シロキサン単位(以下、M単位と示す。)と、式:SiO
4/2で表される4官能型シロキサン単位(Q単位)とから構成される共重合体、またはM
H単位とQ単位とから構成される共重合体が好ましい。
【0068】
(C)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンの配合量は、上記(A)成分および(B)成分の硬化有効量である。具体的には、(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のアルケニル基との合計1モルに対して、(C)成分中のSi−Hが1.0〜3.0モルとなる量とする。すなわち、(A)成分と(B)成分の合計のアルケニル基に対する(C)成分のSi−Hのモル比(Si−Hのモル数/アルケニル基のモル数;以下、「Si−H/アルケニル基」で示す。)が1.0〜3.0となる量とする。Si−H/アルケニル基の好ましい範囲は、1.5〜2.5の範囲である。Si−H/アルケニル基が1.0未満では、硬化反応が進行せず、硬化物を得ることが困難になるおそれがある。また、Si−H/アルケニル基が3.0を超えると、未反応のSi−Hが硬化物中に多量に残存するため、硬化物の物性が経時的に変化するおそれがある。
【0069】
<(D)成分>
(D)成分であるヒドロシリル化反応触媒は、(A)成分および(B)成分中のアルケニル基と(C)成分中のSi−Hとの付加反応(ヒドロシリル化反応)を促進する触媒である。ヒドロシリル化反応触媒としては、ヒドロシリル化反応を促進するものであれば特に限定されない。白金系金属化合物が好ましいが、パラジウム、ロジウム、コバルト、ニッケル、ルテニウム、鉄等の金属系触媒も使用することができる。
【0070】
白金系金属化合物としては、例えば、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、オレフィン類やビニル基含有シロキサンまたはアセチレン化合物を配位子として有する白金錯体等を使用することができる。
【0071】
本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物における(D)ヒドロシリル化反応触媒の含有量は、上記ヒドロシリル化反応を促進できる量(触媒量)である。(D)ヒドロシリル化反応触媒が白金系金属化合物である場合、その配合量は、触媒量であり、具体的には、組成物全体に対する含有割合が、白金元素に換算して0.5〜10質量ppmとなる量である。より好ましくは1〜5質量ppm、さらに好ましくは1〜3質量ppmである。白金系金属化合物の配合量が0.5質量ppm未満では、硬化性が著しく低下し、10質量ppmを超える場合には、硬化物の透明性が低下する。白金系金属化合物の配合量が0.5〜10質量ppmの範囲にある場合には、物理的特性が良好な硬化物が得られ、また経済的にも有利である。
【0072】
本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物は、上述した各成分を均一に混合することによって調製される。本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物は、金型離型性および非汚染性の観点から、リンとアルカリ金属の含有量の合計が組成物全体の20質量ppm以下のものであることが好ましい。
【0073】
リンおよびアルカリ金属の合計含有量が組成物全体の20質量ppmを超える場合には、硬化物の金型離型性および非汚染性が低くなりやすい。組成物の粘度も増大しやすく、保存安定性が低下する。リンおよびアルカリ金属の合計含有量が組成物全体の20質量ppm以下の場合には、金型離型性および非汚染性に優れた硬化物が得られ、組成物の保存安定性も良好である。
【0074】
本発明の組成物中のリンとアルカリ金属の含有量の合計は、15質量ppm以下が好ましく、実質的に含有しないこと(10ppm未満)が最も好ましい。
【0075】
組成物中のリンおよびアルカリ金属の含有量を測定するのは、(B)成分中のリンおよびアルカリ金属の含有量の測定と同様な方法を採ることができる。すなわち、PおよびCsの含有量は、ICP−AES法、Csについてはより感度の高いICP−MS法、KおよびNaの含有量は、AAS法によりそれぞれ測定することができる。
【0076】
組成物中のリンとアルカリ金属の含有量を前記範囲に調整するには、前記したように、(B)成分について、水洗、イオン交換樹脂での処理、吸着剤での処理などを行い、(B)成分中のリンおよびアルカリ金属を除去する方法がある。その他、(A)成分についても、水洗、イオン交換樹脂での処理、吸着剤での処理などを行い、リンとアルカリ金属を除去することにより、またはアルカリ金属を含有しない熱分解性の触媒(例えば、テトラメチルアンモニウムシラノレート)を用いて調製を行うことにより、組成物全体としてのリンとアルカリ金属の合計含有量を20質量ppm以下に調整する。
【0077】
硬化性を調整するために、本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物には、反応抑制剤を添加することができる。硬化反応の抑制剤としては、3−メチル−1−ブチン−3−オール、2−フェニル−3−ブチン−2−オール、1−エチニルシクロヘキサノールのようなアセチレンアルコール、およびマレイン酸ジアリルのようなマレイン酸誘導体が挙げられる。
【0078】
また、硬化が進行しないように2液に分けて保存し、使用時に2液を混合して硬化を行うこともできる。2液混合タイプでは、脱水素反応の危険性の点から、(C)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンと(D)成分であるヒドロシリル化反応触媒を同一の包袋とすることは避ける必要がある。
【0079】
こうして得られた本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物の粘度は、10,000〜1,000,000mPa・sの範囲が好ましい。さらに好ましい範囲は20,000〜500,000mPa・sであり、特に50,000〜300,000mPa・sの範囲が好ましい。粘度が10,000mPa・s未満では、成形時の液だれ、エアーの混入等、成形不良が生じやすくなり、粘度が1,000,000mPa・sを超えると、流動性が悪くなり、射出が困難となる場合がある。特に、無機充填剤を含有しない射出成形用ポリオルガノシロキサンは、高粘度化が難しいため、(A)成分の粘度、(B)成分の分子量、(C)成分の平均重合度等が重要となる。
【0080】
本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物は、無機充填剤を含有しないことが好ましい。無機充填剤を含有しない組成としても、十分なゴム硬度を有し、機械的特性(強度、伸び等)が良好な硬化物を得ることができる。また、無機充填剤を含有しない成形用ポリオルガノシロキサン組成物を使用した場合には、光(例えば、可視光)の透過率の高い硬化物を得ることができる。
【0081】
本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物は、必要に応じて加熱することで硬化する。硬化条件は特に限定されるものではないが、通常40〜200℃、好ましくは60〜170℃の温度に、0.5分〜10時間好ましくは1分〜6時間程度保持することで硬化する。
【0082】
[成形方法]
本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物を成形し硬化することにより、成形品を得ることができる。成形は、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、ポッティングおよびディスペンシングから選ばれる方法で行うことができ、特に射出成形が好ましい。この硬化物である成形品は、金型からの離型性、および金型に対する非汚染性に優れている。
【0083】
また、この成形品は、十分なゴム硬度を有し、機械的特性(強度、伸び)が良好であり、かつ耐候性が良好である。また、経時的に変色、例えば、黄変しにくい。さらに、無機充填剤を含有しない成形用ポリオルガノシロキサン組成物を使用した場合には、6mmの厚さで波長400nmの光の透過率が85%以上と、光透過率が高い。
【0084】
[光学用部材]
本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物を成形し硬化してなる硬化物は、金型離型性および非汚染性に優れ、機械的特性や耐候性が良好で変色、例えば、黄変しにくく、可視光等の光透過率が高いので、光学用部材として使用することができる。本発明の成形用ポリオルガノシロキサン組成物を成形し硬化してなる硬化物はLED装置のような発光装置における発光素子の封止材料や機能性レンズの材料等、光学用部材として好適している。
【0085】
光学用部材としては、屋内または屋外用の各種の光源や自動車用光源のレンズやカバーとして、好適に使用することができる。光源としては、屋内または屋外用照明、公共輸送機関の読書灯およびアクセント照明、LED街路灯などが挙げられる。
【0086】
光学用部材として、より具体的には、一次または二次のLED用レンズ、肉厚光学レンズ、LED用リフレクター、自動車用LEDマトリクスライティングレンズ、オーグメンテッドリアリティ(拡張現実感)用光学部材、LEDチップ用シリコーン光学ヘッド、作業ライト用レンズおよびリフレクター、スマートフォンまたはタブレット用の照明光学部材、コンピュータまたはテレビジョン用のLEDディスプレイ、ライトガイドなどを例示することができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
以下の記載において、M単位、M
vi単位、M
H単位、およびQ単位は、それぞれ以下の式で表されるシロキサン単位を表し、OE単位は、以下の式で表される有機単位を表す。
M単位…………(CH
3)
3SiO
1/2
M
vi単位…………(CH
3)
2(CH
2=CH)SiO
1/2
M
H単位…………(CH
3)
2HSiO
1/2
Q単位…………SiO
4/2
OE単位…………CH
3CH
2O
1/2【0088】
以下に記載の粘度は、25℃において回転式粘度計を用いて、JIS K6249に準じて測定した粘度である。また、質量平均分子量(Mw)は、トルエンを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置(株式会社島津製作所製、装置名;Prominence GPCシステム、カラム;Shim−pack GPC−80M)を用いて測定し、ポリスチレン換算した値である。不揮発分(質量%)は、150℃×1時間の加熱条件で測定した値である。さらに、Pの含有量はICP−AES法により、Csの含有量はICP−MS法により、NaおよびKの含有量はAAS法により、それぞれ測定した。
【0089】
[合成例1(両末端ビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサンA1の合成)]
テトラメチルアンモニウムシラノレートを触媒とし、公知の方法で分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサンA1を合成した。
得られた直鎖状ポリジメチルシロキサンA1の粘度は80Pa・sであり、ビニル基の含有量は0.03mmol/g(1分子中の平均ビニル基個数;2個)であった。また、ポリジメチルシロキサンA1中のPおよびCs、K、Naの含有量を測定したが、いずれも検出されなかった。
【0090】
[合成例2(ビニル基含有レジン状ポリシロキサンB1の合成)]
テトラエトキシシラン970g、クロロジメチルビニルシラン70、クロロトリメチルシラン335gおよびキシレン400gをフラスコにいれて撹拌し、その中に、水600gとアセトン300gとの混合液900gを滴下した。70〜80℃で1時間撹拌して加水分解を行った後、分液し、キシレン溶液を得た。次いで、得られたキシレン溶液に水500gを加えて水洗と分液を行い、キシレン溶液中のアセトンを水中に抽出した。そして、洗浄に用いた水が中性を示すまで、水洗と分液の操作を繰り返した。
【0091】
次いで、得られたキシレン溶液に、キシレン200gと水酸化カリウム0.18gを加え、加熱しながら撹拌を行った。140℃まで加熱を行い、その後140℃で3時間還流を行った。冷却後、リン酸を用いて中和を行い、不揮発分が50質量%になるように調整し、ビニル基含有樹脂状ポリシロキサンB0のキシレン溶液を得た。
なお、得られたビニル基含有樹脂状ポリシロキサンB0は、出発物質の仕込み量から、M
Vi単位とM単位とQ単位を有し、各単位のモル比が、M
Vi単位:M単位:Q単位=0.07:0.37:0.56であることがわかる。また、ビニル基の含有量は1mmol/g(1分子中の平均ビニル基個数;2.8個)であり、GPCにより求めたビニル基含有レジン状ポリシロキサンB0のMwは2840であった。
【0092】
次に、前記で得られたビニル基含有レジン状ポリシロキサンB0のキシレン溶液に対して水洗を2回行った。すなわち、ビニル基含有レジン状ポリシロキサンB0のキシレン溶液に水を添加し分液した後、140℃まで加熱して残った水を除去した。その後、さらに水を添加し分液した後、140℃まで加熱して残った水を除去した。そして、不揮発分が50質量%になるように調整して、ビニル基含有レジン状ポリシロキサンB1のキシレン溶液を得た。
【0093】
得られたレジン状ポリシロキサンB1中のPの含有量は10質量ppm未満であり、すなわち、Pは検出されず、Kの含有量は0.6質量ppmであり、NaおよびCsは検出されなかった。
【0094】
[合成例3(ビニル基含有レジン状ポリシロキサンB2の合成)]
合成例2で得られたビニル基含有レジン状ポリシロキサンB0のキシレン溶液に水を添加し分液した後、140℃まで加熱して残った水を除去した。そして、不揮発分が50質量%になるように調整し、ビニル基含有レジン状ポリシロキサンB2のキシレン溶液を得た。
【0095】
得られたレジン状ポリシロキサンB2中のPの含有量は17質量ppmであり、Kの含有量は1.2質量ppmであり、NaおよびCsは検出されなかった。
【0096】
合成例4(ビニル基含有レジン状ポリシロキサンB3の合成)
合成例2で得られたビニル基含有レジン状ポリシロキサンB0のキシレン溶液を、水洗することなくそのまま使用し、ビニル基含有レジン状ポリシロキサンB3とした。
【0097】
得られたレジン状ポリシロキサンB3中のPの含有量は40質量ppmであり、Kの含有量は7質量ppmであり、NaおよびCsは検出されなかった。
【0098】
[合成例5(レジン状ポリメチルハイドロジェンシロキサンC1の合成)]
10%(質量%。以下、同じ。)塩酸425gと1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン1005gを、撹拌機、滴下装置、加熱・冷却装置および減圧装置を備えた反応容器に仕込んだ。次いで、室温でシリケート40(エチルポリシリケート、多摩化学工業の商品名)930gとエタノール375gの混合物を滴下しながら撹拌した後、キシレン1200gを添加し撹拌した。その後、得られた有機層を洗浄水が中性を示すまで水で洗浄し、さらにメタノールを用いて副生成物の抽出を行った。次いで、水およびアルコールを除去した後、キシレンを150℃/667Pa(5mmHg)で留去し、さらに窒素ガスを導入しながら減圧加熱撹拌を続け、液状のポリメチルハイドロジェンシロキサンC1を得た。
【0099】
得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC1の150℃、30分間加熱時の質量減少率は1.8%であった。また、得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC1の
29Si−NMRの測定により求められた各単位比は、M
H:Q=1.7:1であり、GPCにより求められたMw1239であった。そして、Si−Hの含有割合は9.4mmol/gであった。
【0100】
また、ポリメチルハイドロジェンシロキサンC1について、エトキシ基中のCH
2基由来の水素原子数と、ケイ素原子に結合した水素原子数との比(CH
2基由来の水素原子数/Si−H基由来の水素原子数)を
1H−NMRにより求めた。その結果、ケイ素原子に結合した水素原子(Si−H)に対するアルコキシ基(エトキシ基)のモル比(以下、OE/Si−Hという。)は、0.13であることがわかった。
【0101】
[合成例6(レジン状ポリメチルハイドロジェンシロキサンC2の合成)]
10%塩酸793gと1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン1219gを、撹拌機、滴下装置、加熱・冷却装置および減圧装置を備えた反応容器に仕込んだ。次いで、室温でテトラエトキシシラン1082gとシリケート40(エチルポリシリケート、多摩化学工業の商品名)484gとエタノール715gの混合物を滴下しながら撹拌した後、キシレン1500gを添加し撹拌した。その後、得られた有機層を洗浄水が中性を示すまで水で洗浄し、さらにメタノールを用いて副生成物の抽出を行った。次いで、水およびアルコールを除去した後、キシレンを150℃/667Pa(5mmHg)で留去し、さらに窒素ガスを導入しながら減圧加熱撹拌を続け、さらに薄膜蒸留を行った。すなわち、薄膜蒸留装置(株式会社神鋼環境ソリューション製、装置名:TYPE 2−03 WIPRENE)を用いて、前記加熱撹拌後の反応液を400Pa(3mmHg)の減圧下150℃で蒸留し、低沸点を有する低分子量物質の除去を行い、液状のポリメチルハイドロジェンシロキサンC2を得た。
【0102】
得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC2の150℃、30分間加熱時の質量減少率は0.1%であった。また、得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC2の
29Si−NMRの測定により求められた各単位比は、M
H:Q=1.6:1であり、GPCにより求められたMw1138であった。そして、Si−Hの含有割合は9.2mmol/gであった。
【0103】
また、ポリメチルハイドロジェンシロキサンC2について、
1H−NMRにより求められた水素原子(Si−H)に対するエトキシ基のモル比(OE/Si−H)は、0.08であった。
【0104】
[合成例7(レジン状ポリメチルハイドロジェンシロキサンC3の合成)]
トルエン500g、テトラエトキシシラン830gおよびジメチルクロロシラン760gを均一に溶解させた。これを、撹拌機、滴下装置、加熱・冷却装置および減圧装置を備えた反応容器に入れた過剰の水の中に、撹拌しながら滴下し、副生した塩酸の溶解熱を冷却により除去しつつ、室温で共加水分解と縮合を行った。次いで、得られた有機層を洗浄水が中性を示すまで水で洗浄し、脱水した後、トルエンと副生したテトラメチルジシロキサンを、100℃/667Pa(5mmHg)で留去して、液状のポリメチルハイドロジェンシロキサンC3を得た。
【0105】
得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC3の150℃、30分間加熱時の質量減少率は40%であった。また、得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC3の
29Si−NMRの測定により求められた各単位比は、M
H:Q=2:1であり、GPCにより求められたMw775であった。そして、Si−Hの含有割合は10.2mmol/gであった。
【0106】
また、ポリメチルハイドロジェンシロキサンC3について、
1H−NMRにより求められた水素原子(Si−H)に対するエトキシ基のモル比(OE/Si−H)は、0.03であった。
【0107】
[合成例8(レジン状ポリメチルハイドロジェンシロキサンC4の合成)]
合成例7で得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC3を、さらに150℃/667Pa(5mmHg)で加熱し、低沸点を有する低分子量物質の除去を行った。
【0108】
こうして得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC4の150℃、30分間加熱時の質量減少率は12%であった。また、得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC4のSi−Hの含有割合は10.0mmol/gであった。
【0109】
また、ポリメチルハイドロジェンシロキサンC4について、
1H−NMRにより求められた水素原子(Si−H)に対するエトキシ基のモル比(OE/Si−H)は、0.03であった。
【0110】
[合成例9(レジン状ポリメチルハイドロジェンシロキサンC5の合成)]
メタノールを用いた副生物の抽出を行わなかった以外は合成例5と同様にして、合成を行った。すなわち、10%塩酸425gと1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン1005gを反応容器に仕込み、室温で930gのシリケート40とエタノール375gの混合物を滴下しながら撹拌した後、キシレン1200gを添加し撹拌した。その後、得られた有機層を洗浄水が中性を示すまで水で洗浄し、次いで水を除去した後、キシレンを150℃/667Pa(5mmHg)で留去し、さらに窒素ガスを導入しながら減圧加熱撹拌を続けた。次いで、150℃/400Pa(3mmHg)の条件で薄膜蒸留を行って低分子量物質の除去を行い、液状のポリメチルハイドロジェンシロキサンC5を得た。
【0111】
得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC5の150℃、30分間加熱時の質量減少率は0.2%であった。また、得られたポリメチルハイドロジェンシロキサンC5の
29Si−NMRの測定により求められた各単位比は、M
H:Q=1.9:1であり、GPCにより求められたMwは1264であり、Si−Hの含有割合は9.4mmol/gであった。
【0112】
また、ポリメチルハイドロジェンシロキサンC5について、
1H−NMRにより求められた水素原子(Si−H)に対するエトキシ基のモル比(OE/Si−H)は、0.22であった。
【0113】
[実施例1]
合成例1で得られた両末端ビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサンA1(粘度80Pa・s)60質量部(以下、単に部と示す。)と、合成例2で得られたビニル基含有レジン状ポリシロキサンB1のキシレン溶液(50質量%)80部とを混合し(混合の質量比は、不揮発分で(A1):(B1)=60:40)、減圧条件下150℃に加熱してキシレンを除去した。
【0114】
こうして得られたビニル基含有ポリマー混合物(1)100部と、合成例5で得られたレジン状ポリメチルハイドロジェンシロキサンC1を8.9部(ビニル基含有ポリマー混合物(1)中のビニル基に対する(C1)成分中のSi−Hのモル比(Si−H/Vi)=2.0)と、(D)テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンを配位子として有する白金錯体溶液をPt分として組成物全体の3ppmとなる量を、それぞれ混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0115】
[実施例2〜4、比較例1〜3]
合成例1で得られた両末端ビニル基含有直鎖状ポリジメチルシロキサンA1と、合成例2〜4で得られたビニル基含有レジン状ポリシロキサンB1〜B3のいずれか一つと、合成例5〜9で得られたレジン状ポリメチルハイドロジェンシロキサンC1〜C5のいずれか一つ、および(D)テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンを配位子として有する白金錯体溶液を、それぞれ表1に示す割合となるように実施例1と同様に混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。
【0116】
なお、レジン状ポリメチルハイドロジェンシロキサンC1〜C5のうち、C1およびC2は本発明の(C)成分の範囲のレジン状ポリメチルハイドロジェンシロキサンであり、C3〜C5は本発明における(C)成分の範囲外のレジン状ポリメチルハイドロジェンシロキサンである。表1においてレジン状ポリメチルハイドロジェンシロキサンC3〜C5については成分を(Cf)として示した。
【0117】
こうして実施例1〜4および比較例1〜3で得られたポリオルガノシロキサン組成物について、Pと、アルカリ金属としてNa、KおよびCsの含有量をそれぞれ測定した。表1にPとアルカリ金属の合計量(質量ppm)を示す。
【0118】
[成形性評価]
次に、実施例1〜4および比較例1〜3で得られたポリオルガノシロキサン組成物について、成形性の評価を行った。東芝製EC100N射出成形機を使用して、金型(20mm×170mm、深さ2mm)内に射出し硬化させる成形を、成形温度140℃で繰り返した。なお、硬化時間は30秒間とした。
【0119】
そして、50ショット毎に成形品のヘイズを、BYK Gardner社のmicro−TRI−glossを用いて測定し、1ショット目からのヘイズの変化率を、以下の式により算出し、変化率が50%を超えるショット数を求めた。
【0120】
ヘイズの変化率(%)={(50ショット毎の成形品のヘイズ−1ショット目の成形品のヘイズ)/(1ショット目の成形品のヘイズ)}×100
【0121】
結果を表1に示す。なお、実施例1〜4におけるヘイズ変化率50%のショット数は、1100ショット目でもヘイズ変化率が50%にならなかったことを意味する。比較例においては、ヘイズ変化率が50%を超えて()内の数値となるショット数を示した。
【0122】
成形品のヘイズの変化は、射出成形の繰り返しによる金型の汚染度合いを示す指標である。ヘイズの変化率が50%となるショット数が大きいほど、繰り返しの射出成形による金型の汚染が少ない、すなわち硬化物の金型からの離型が容易であることおよび金型表面へのシリコーンの被膜の形成が抑制されていることを示す。
【0123】
【表1】
【0124】
表1から、以下のことがわかる。すなわち、(A)〜(D)の各成分が本発明に規定する所定の組成で配合された実施例1〜4のポリオルガノシロキサン組成物は、硬化物の金型に対する離型性に優れており、繰り返し射出成形を行っても金型を汚染することが殆どない。また、成形品のヘイズの変化が少なく、初期の透明性を維持している。
【0125】
これに対して、比較例1〜2のポリオルガノシロキサン組成物は、本発明における(C)成分の範囲外のレジン状ポリメチルハイドロジェンシロキサン(Cf)である、150℃で30分間加熱時の質量減少率が2.0%超のメチルハイドロジェンポリシロキサンが使用されているため、金型に対する離型性および非汚染性が悪く、ショットの繰り返しによる成形品のヘイズ変化が大きくなっている。また、比較例3のポリオルガノシロキサン組成物は、本発明における(C)成分の範囲外のレジン状ポリメチルハイドロジェンシロキサン(Cf)である、150℃で30分間加熱時の質量減少率は2.0%以下であるが、アルコキシ基/Si−Hが0.15以上のメチルハイドロジェンポリシロキサンが使用されているため、金型に対する離型性および非汚染性が悪く、ショットの繰り返しによる成形品のヘイズ変化が大きくなっている。