特許第6782868号(P6782868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鉄住金エンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6782868-制振ブレース架構 図000002
  • 特許6782868-制振ブレース架構 図000003
  • 特許6782868-制振ブレース架構 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6782868
(24)【登録日】2020年10月22日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】制振ブレース架構
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20201102BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20201102BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   F16F15/02 E
   F16F7/08
   E04H9/02 311
   E04H9/02 351
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-48984(P2020-48984)
(22)【出願日】2020年3月19日
【審査請求日】2020年3月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 厚
(72)【発明者】
【氏名】蓑和 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】小西 克尚
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−113955(JP,A)
【文献】 特開2010−256630(JP,A)
【文献】 特開2003−239561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/00 − 7/14
F16F 15/00 −15/08
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物を構成し、柱と梁とにより形成される矩形枠架構にブレースが配設されている、制振ブレース架構であって、
前記ブレースは、相互に直交するウエブとフランジとを備える形鋼材により形成されており、
前記ブレースのうち、曲げモーメントがゼロである曲げモーメント不発生領域において、前記フランジには第一摩擦ダンパーが取り付けられ、前記ウエブには第二摩擦ダンパーが取り付けられており、
前記フランジの両側面に二つの摩擦材が配設され、該二つの摩擦材を挟むように二つの圧接鋼板が配設され、該フランジと該摩擦材と該圧接鋼板を貫通するボルト孔にボルトが挿通されてボルト接合されることにより、前記第一摩擦ダンパーが形成されており、
前記ウエブの両側面に二つの摩擦材が配設され、該二つの摩擦材を挟むように二つの圧接鋼板が配設され、該ウエブと該摩擦材と該圧接鋼板を貫通するボルト孔にボルトが挿通されてボルト接合されることにより、前記第二摩擦ダンパーが形成されており、
前記圧接鋼板と前記摩擦材との間の第一摩擦係数が、前記摩擦材と前記フランジもしくは前記ウエブとの間の第二摩擦係数よりも小さい場合は、前記摩擦材と前記フランジもしくは前記ウエブは非接合の状態で面接触されており、
前記第一摩擦係数が前記第二摩擦係数よりも大きい場合は、前記摩擦材と前記フランジもしくは前記ウエブが接合されていることを特徴とする、制振ブレース架構。
【請求項2】
前記矩形枠架構と前記ブレースが剛接合されており、
前記曲げモーメント不発生領域が前記ブレースの中間位置にあり、
前記ブレースは二つの前記形鋼材により形成され、前記中間位置に配設されている前記第一摩擦ダンパー及び前記第二摩擦ダンパーを介して二つの該形鋼材が相互に接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の制振ブレース架構。
【請求項3】
前記形鋼材はH形鋼もしくは十字形鋼であり、
前記ブレースを構成する二つの前記H形鋼もしくは二つの前記十字形鋼が該ブレースの長手方向に隙間を備えた状態で配設され、双方の該H形鋼もしくは該十字形鋼の有する前記フランジ同士が前記第一摩擦ダンパーにて接続され、双方の該H形鋼もしくは該十字形鋼の前記ウエブ同士が前記第二摩擦ダンパーにより接続されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の制振ブレース架構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振ブレース架構に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物を構成する架構には、ラーメン架構やブレース架構等が存在するが、ブレース架構は、柱と梁とにより形成される矩形枠状の架構(矩形枠架構)の内部にブレースが配設されることにより形成される。一方、ラーメン架構においては、構造上は必ずしもブレースを配設する必要はないものの、柱と梁の接合隅角部の近傍にて曲げモーメントが卓越し、この曲げモーメントに対応するべく、柱等を形成する形鋼材の断面寸法が大きくなる傾向にある。そのため、ラーメン架構の内部にブレースを配設し、ブレースにも曲げモーメントの一部を負担させることにより、柱や梁の断面寸法を低減して、トータルとしての鋼材数量を低減する措置が図られる場合がある。
【0003】
ところで、柱と梁とにより形成される矩形枠架構にブレースが配設されているブレース架構の制振性能を向上させる目的で、摩擦ダンパーが適用される場合がある。この摩擦ダンパーは、矩形枠架構とブレースとの接続部に配設されるのが一般的であり、例えば、特許文献1にその構成の一例が開示されている。より具体的には、矩形枠架構の隅角部の近傍や、矩形枠架構を構成する梁の近傍などに摩擦ダンパーが設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−102809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブレースには、平鋼や特許文献1に記載されるH形鋼等、様々な鋼材が適用されるが、平鋼を適用する場合も特許文献1に記載のH形鋼を適用する場合も、例えばブレースと矩形枠架構から突設するガセットプレートの両側面に摩擦材(摩擦板)を配設し、両側面の摩擦材を二枚の鋼板(特許文献1では圧接板)により挟み、これらに所定の圧縮力を付与した状態でボルト接合することにより、摩擦ダンパーが形成される。例えば地震時にブレース架構が変形してブレースに軸方向力が作用した際に、摩擦ダンパーが摩擦抵抗を発揮することにより、ブレースの軸方向力を低減するようにしている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の図1に示すように、摩擦ダンパーの取り付け位置が矩形枠架構の隅角部の近傍や矩形枠架構の梁の近傍である場合、これらの位置には曲げモーメントが発生することから、この曲げモーメントが摩擦ダンパーに作用することになる。曲げモーメントが摩擦ダンパーに対して摩擦面と直交する方向に作用すると、ボルトの張力が変化し、摩擦ダンパーの有する制振性能(もしくは摩擦特性)が変化する恐れがある。このように摩擦ダンパーに対して摩擦面と直交する方向に曲げモーメントが作用し、摩擦ダンパーの制振性能が変化する課題に対する解決手段は、特許文献1をはじめとして従来開示されていない。
【0007】
さらに、ブレースがH形鋼等の形鋼材から形成される場合に、断面視においてウエブとフランジは直交する二方向に延設しており、発生する曲げモーメントもこの二方向に固有の曲げモーメントが生じることになるが、摩擦ダンパーがこのように二方向に延設する断面形状の形鋼材からなるブレースに取り付けられている場合においては、ウエブとフランジのいずれか一方もしくは双方のボルトに曲げモーメントによる張力が作用し、この張力の作用に起因するボルトの張力変化により、摩擦ダンパーの摩擦特性が変化する課題に対する解決手段は、当然に従来開示されていない。
【0008】
本発明は、矩形枠架構において、直交するウエブとフランジとを備える形鋼材により形成されているブレースを備え、さらに摩擦ダンパーを備える制振ブレース架構に関し、摩擦ダンパーに二方向の曲げモーメントが作用することを解消することにより、摩擦ダンパーの有する制振性能の変化を防止することのできる、制振ブレース架構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による制振ブレース架構の一態様は、
建築物を構成し、柱と梁とにより形成される矩形枠架構にブレースが配設されている、制振ブレース架構であって、
前記ブレースは、相互に直交するウエブとフランジとを備える形鋼材により形成されており、
前記ブレースのうち、曲げモーメントがゼロである曲げモーメント不発生領域において、前記フランジには第一摩擦ダンパーが取り付けられ、前記ウエブには第二摩擦ダンパーが取り付けられていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、ウエブとフランジとを備える形鋼材により形成されているブレースのうち、曲げモーメントがゼロである曲げモーメント不発生領域に摩擦ダンパー(第一摩擦ダンパー、第二摩擦ダンパー)が取り付けられていることにより、各摩擦ダンパーに固有の二方向の曲げモーメントが作用することが解消され、摩擦ダンパーに曲げモーメントが作用した際にボルトの張力が変化し、各摩擦ダンパーの制振性能が変化するといった課題は生じない。
【0011】
ここで、ウエブとフランジとを備える形鋼材には、山形鋼や溝形鋼、H形鋼、十字形鋼(例えば、縦方向のウエブと、ウエブの中心において左右に張り出す二つのフランジにより形成される形鋼材)等があり、例えばH形鋼である場合は、二つのフランジに対してそれぞれ第一摩擦ダンパーが取り付けられ、ウエブに対して第二摩擦ダンパーが取り付けられる。また、型鋼材を形成して相互に直交するウエブとフランジにそれぞれ固有の曲げモーメントが生じることから、これらを「二方向の曲げモーメント」としている。例えば、ブレースが溝形鋼から形成される場合、ウエブに一方向の曲げモーメントが生じ、二つのフランジに他の一方向の曲げモーメントが生じる。
【0012】
本態様において、例えば矩形枠架構の対角線に沿う方向にブレースが配設されている形態において、ブレースの端部と矩形枠架構の隅角部が剛接合されている場合には、曲げモーメント不発生領域はブレースの中間位置(中心位置)となることから、このブレースの中間位置に摩擦ダンパーが取り付けられる。一方、例えば、ブレースの一端と矩形枠架構の一方の隅角部が剛接合され、ブレースの他端と矩形枠架構の他方の隅角部がピン結合される場合には、このピン結合箇所が曲げモーメント不発生領域となる。従って、後者の形態においては、ブレースの一端と矩形枠架構の隅角部のピン結合箇所に摩擦ダンパーが取り付けられる。
【0013】
また、本発明による制振ブレース架構の他の態様において、前記矩形枠架構と前記ブレースが剛接合されており、
前記曲げモーメント不発生領域が前記ブレースの中間位置にあり、
前記ブレースは二つの前記形鋼材により形成され、前記中間位置に配設されている前記第一摩擦ダンパー及び前記第二摩擦ダンパーを介して二つの該形鋼材が相互に接続されていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、矩形枠架構とブレースが剛接合されている形態の制振ブレース架構において、曲げモーメントがゼロとなるブレースの長手方向の中間位置に摩擦ダンパー(第一摩擦ダンパー、第二摩擦ダンパー)が取り付けられていることにより、各摩擦ダンパーに固有の二方向の曲げモーメントが作用することが解消され、各摩擦ダンパーの制振性能の変化は生じない。
【0015】
また、本発明による制振ブレース架構の他の態様において、前記形鋼材はH形鋼もしくは十字形鋼であり、
前記ブレースを構成する二つの前記H形鋼もしくは二つの前記十字形鋼が該ブレースの長手方向に隙間を備えた状態で配設され、双方の該H形鋼もしくは該十字形鋼の有する前記フランジ同士が前記第一摩擦ダンパーにて接続され、双方の該H形鋼もしくは該十字形鋼の前記ウエブ同士が前記第二摩擦ダンパーにより接続されていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、二つのフランジを備えたH形鋼もしくは十字形鋼(いずれも、相互に直交するウエブとフランジとを備える形鋼材である)にてブレースが形成されていることにより、山形鋼等の他の形鋼材に比べて、型鋼材の強軸方向と弱軸方向のいずれの剛性ともに高いブレースを形成できる。ここで、矩形枠架構の隅角部から架構の構面内にブラケットが張り出し、このブラケットとH形鋼もしくは十字形鋼が剛接合される。ブラケットは、ブレースを形成するH形鋼もしくは十字形鋼と同様のH形鋼もしくは十字形鋼により形成されてもよいし、ウエブに取り付けられるガセットプレート(平鋼)と、ブレースの二つのフランジに取り付けられるフィンスチフナ(平鋼)がガセットプレートに溶接されている形態であってもよい。いずれの形態のブラケットともに、ブラケットとブレースの対応する部材(ガセットプレートやフィンスチフナと、ブレースのウエブやフランジ)同士は、スプライスプレートを介して高力ボルト等にてボルト接合されることにより、矩形枠架構の隅角部とブレースが剛接合される。
【0017】
また、本発明による制振ブレース架構の他の態様において、前記フランジの両側面に二つの摩擦材が配設され、該二つの摩擦材を挟むように二つの圧接鋼板が配設され、該フランジと該摩擦材と該圧接鋼板を貫通するボルト孔にボルトが挿通されてボルト接合されることにより、前記第一摩擦ダンパーが形成されており、
前記ウエブの両側面に二つの摩擦材が配設され、該二つの摩擦材を挟むように二つの圧接鋼板が配設され、該ウエブと該摩擦材と該圧接鋼板を貫通するボルト孔にボルトが挿通されてボルト接合されることにより、前記第二摩擦ダンパーが形成されていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、相互に摩擦ダンパーを介して接続される二つのH形鋼もしくは二つの十字形鋼のフランジ同士、及びウエブ同士が、それらの両側面に配設された摩擦材(摩擦板)と、両側面の摩擦材の外側の圧接鋼板とにより挟持され、ボルト接合されることにより、ボルトによる締付け力にて摩擦力を所望に制御自在な摩擦ダンパーを備えた制振ブレース架構が形成される。ここで、相互に接続されるH形鋼(例えば第一H形鋼と第二H形鋼とする)において、第二H形鋼には圧接鋼板がボルト接合されることにより緊結される。一方、他方の第一H形鋼には、上記する摩擦材が配設され、第二H形鋼側から延設する圧接鋼板が摩擦材の上に配設され、第二H形鋼においてボルトが所定の締付け力で締付けられることにより、摩擦ダンパーが形成される。摩擦材と圧接鋼板との間の摩擦係数と、ボルトに導入される締付け力と、ボルト本数とにより、摩擦ダンパーによる設計摩擦力が設定される。尚、形鋼材が十字形鋼(例えば第一十字形鋼と第二十字形鋼が相互に接続される)の場合も、同様の方法により摩擦ダンパーによる設計摩擦力が設定される。
【0019】
ブレースを形成するウエブやフランジにおいて、一つ(もしくは一組)の摩擦材が奇数本(一本、三本等であって、三本以上の場合は各ボルトが等間隔に並ぶ)のボルトにて締め付けられる場合は、中央のボルト(ボルトが一本の場合はそのボルト自身)が、ブレースの長手方向の中間位置(中心位置)に位置決めされるようにして矩形枠架構内にブレースを取り付けることにより、摩擦ダンパーがモーメント不発生領域に配設されるものとする。一方、一つ(もしくは一組)の摩擦材が偶数本(二本、四本等であって各ボルトが等間隔に並ぶ)のボルトにて締め付けられる場合は、複数本のボルトの中央位置が、ブレースの長手方向の中間位置(中心位置)に位置決めされるようにして矩形枠架構内にブレースを取り付けることにより、摩擦ダンパーがモーメント不発生領域に配設されるものとする。
【0020】
また、本発明による制振ブレース架構の他の態様において、前記圧接鋼板と前記摩擦材との間の第一摩擦係数が、前記摩擦材と前記フランジもしくは前記ウエブとの間の第二摩擦係数よりも小さい場合は、前記摩擦材と前記フランジもしくは前記ウエブは非接合の状態で面接触されており、
前記第一摩擦係数が前記第二摩擦係数よりも大きい場合は、前記摩擦材と前記フランジもしくは前記ウエブが接合されていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、圧接鋼板と摩擦材との間の第一摩擦係数と、摩擦材とフランジもしくはウエブとの間の第二摩擦係数との大小関係に応じて、摩擦材とフランジもしくはウエブの接触面の処理を行うことにより、所望する圧接鋼板と摩擦材の間の滑り摩擦を保証することができ、摩擦ダンパーの制振性能を発揮させることができる。ここで、「接合」には、溶接接合や接着剤による接合が含まれる。また、「非接合の状態で面接触」とは、摩擦材とフランジもしくはウエブが単に面接触している状態を意味する。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明から理解できるように、本発明の制振ブレース架構によれば、矩形枠架構において、直交するウエブとフランジとを備える形鋼材により形成されているブレースを備え、さらに摩擦ダンパーを備える制振ブレース架構に関し、摩擦ダンパーに二方向の曲げモーメントが作用することを解消することにより、摩擦ダンパーの有する制振性能の変化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係る制振ブレース架構の一例の正面図である。
図2図1のII−II断面図である。
図3】実施形態に係る制振ブレース架構に地震時の水平力が作用した際に生じる曲げモーメント分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態に係る制振ブレース架構について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0025】
[実施形態に係る制振ブレース架構]
図1乃至図3を参照して、実施形態に係る制振ブレース架構の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る制振ブレース架構の一例の正面図であり、図2は、図1のII−II断面図である。また、図3は、実施形態に係る制振ブレース架構に地震時の水平力が作用した際に生じる曲げモーメント分布図である。
【0026】
図示する制振ブレース架構50は、建築物を構成し、柱11と梁12とにより形成される矩形枠架構10において、その対角線上にある二つの隅角部13の間に摩擦ダンパー30が介在するブレース20が配設されることにより形成される。
【0027】
柱11と梁12はいずれも、H形鋼等の形鋼材や角形鋼管により形成され、図示例では、角形鋼管により形成される柱11に対して、H形鋼により形成される梁12が溶接接合やボルト接合されることにより、矩形枠架構10が形成されている。
【0028】
矩形枠架構10の有する四つの内側の隅角部のうち、対角線上にある左上の隅角部13Aと右下の隅角部13Bにはいずれも、平鋼により形成されるブラケット15A,15Bが溶接接合されている。この平鋼15A,15Bの内側端面は、H形鋼により形成されるブレース20のウエブ22の端面と当接される。尚、図示例のブレース20はH形鋼により形成されているが、その他、十字形鋼等によりブレースが形成されてもよく、ブレースが十字形鋼により形成される場合は、ブラケットもブレースに対応した断面十字形のブラケットが適用される。
【0029】
平鋼により形成されるブラケット15A,15Bの広幅面のうち、ブレース20の二つのフランジ21に対応する位置には、フィンスチフナ16A,16Bが溶接接合されており、ブラケット15A(15B)を構面の内側から見た際に、中央の平鋼と、平鋼の左右において上下二組のフィンスチフナ16A,16Bとにより形成される断面H形のブラケットが形成されている。尚、ブラケットは、ブレースに適用されるH形鋼と同寸法のH形鋼により形成されてもよい。
【0030】
対角線上にある二つのブラケット15A,15Bにはそれぞれ、長さの異なるブレース20A,20Bが取り付けられている。ブレース20A,20Bはいずれも、ウエブ22(22A,22B)と、二つのフランジ21(21A,21B)とを有するH形鋼(形鋼材の一例)により形成されている。
【0031】
フィンスチフナ16Aを備える左上のブラケット15Aに対して、相対的に長さの短いブレース20Aが配設され、対応するフィンスチフナ16Aとフランジ21Aの端面同士が当接され、平鋼15Aとウエブ22Aの端面同士が当接される。そして、フィンスチフナ16Aとフランジ21Aに跨るようにスプライスプレート18Aが配設され、平鋼15Aとウエブ22Aに跨るようにスプライスプレート19Aが配設され、フィンスチフナ16Aとフランジ21A、及び平鋼15Aとウエブ22Aがそれぞれ複数の高力ボルト18Aにてボルト接合されることにより、構面左上のブラケット15Aとブレース20Aの端部が剛接合される。
【0032】
一方、フィンスチフナ16Bを備える右下のブラケット15Bに対して、相対的に長さの長いブレース20Bが配設され、対応するフィンスチフナ16Bとフランジ21Bの端面同士が当接され、平鋼15Bとウエブ22Bの端面同士が当接される。そして、フィンスチフナ16Bとフランジ21Bに跨るようにスプライスプレート18Bが配設され、平鋼15Bとウエブ22Bに跨るようにスプライスプレート19Bが配設され、フィンスチフナ16Bとフランジ21B、及び平鋼15Bとウエブ22Bがそれぞれ複数の高力ボルト18Bにてボルト接合されることにより、構面右下のブラケット15Bとブレース20Bの端部が剛接合される。
【0033】
ブレース20Aの一端がブラケット15Aに剛接合され、ブレース20Bの一端がブラケット15Bに剛接合された状態において、ブレース20Aの他端とブレース20Bの他端の間には、隙間Gが形成される。そして、ブレース20A,20Bの対応するフランジ21A,22A同士と、ウエブ22A,22B同士がそれぞれ、第一摩擦ダンパー30Aと第二摩擦ダンパー30Bを介して相互に接続されることにより、制振ブレース架構50が形成される。
【0034】
図2に明りょうに示すように、ブレース20A,20Bの上下のフランジ21同士は、ウエブ22を挟んだ左右においてそれぞれ第一摩擦ダンパー30Aにより接続される。一方、ブレース20A,20Bのウエブ22同士は、ウエブ22の高さ中央位置において第二摩擦ダンパー30Bにより接続される。
【0035】
図1に戻り、相対的に長さの短いブレース20Aには、平鋼により形成される高さ調整プレート35が、上下のフランジ21Aの両側とウエブ22Aの両側にそれぞれ配設され、それらを挟持するように圧接鋼板32の一端側が配設され、高力ボルト36によりボルト接合されている。すなわち、短いブレース20Aにおいては、圧接鋼板32とフランジ21Aやウエブ22Aの間に摩擦材は介在せず、摩擦材の厚みと同程度の厚みを有する高さ調整プレート35が介在し、圧接鋼板32の一端側が緊結される。
【0036】
一方、相対的に長さの長いブレース20Bには、摩擦材31が、上下のフランジ21Bの両側とウエブ22Bの両側にそれぞれ配設され、それらを挟持するように圧接鋼板32の他端側が配設され、高力ボルト33によりボルト接合されている。図示例の摩擦ダンパー30において、上下のフランジ21Bには、図2に示すように一つの断面においてフランジ21Bを挟持する上下で一組の摩擦材31が四組あり、図1に示すようにブレース20Bの長手方向に等間隔で四組の摩擦材31があり、従って計16組の摩擦材31が適用されている。また、ウエブ22Bには、ウエブ22Bの両側を挟持する一組の摩擦材31が、図1に示すようにブレース20Bの長手方向に四組あり、従って計四組の摩擦材31が適用されている。よって、図示例のブレースには、ウエブ22Bとフランジ21Bにおいて総計20組の摩擦材31が適用されている。尚、適用される摩擦材31の数は、所望する設計摩擦力、ボルトに導入可能な締付け力、圧接鋼板32と摩擦材31の間の摩擦係数等により、様々に設定できる。
【0037】
ここで、ブレース20を形成するH形鋼と圧接鋼板32は、建築用一般厚板鋼材、ステンレス鋼、チタン鋼等により形成できる。また、摩擦材31は、アルミ板等の金属板の他、樹脂板等により形成される。この樹脂板は、ガラス繊維やカーボン繊維等が含有された熱硬化性樹脂等により形成できる。
【0038】
図1に示すように、二つのブレース20A,20Bによるブレースの全長(各ブレース20A,20B間の隙間Gを含む)が長さtである場合に、ブレースの長手方向の中間位置(端部からt/2の位置)に、ブレースの長手方向に等間隔に配設されている四組の高力ボルト33の中央位置が位置決めされるようにして、全体のブレースが構成される。
【0039】
各高力ボルト33に導入される所定の締付け力と、圧接鋼板32と摩擦材31の間の摩擦係数とにより、一本当たりの高力ボルト33による摩擦力が設定され、図示例においては一本当たりの高力ボルト33による摩擦力を20倍することにより、設計摩擦力が設定される。
【0040】
ここで、圧接鋼板32と摩擦材31との間の摩擦係数を第一摩擦係数とし、摩擦材31とフランジ21Bもしくはウエブ22Bとの間の摩擦係数を第二摩擦係数とした場合に、第一摩擦係数が第二摩擦係数よりも小さい場合は、摩擦材31とフランジ21Bもしくはウエブ22Bを非接合の状態で単に面接触させる。
【0041】
一方、第一摩擦係数が第二摩擦係数よりも大きい場合は、摩擦材31とフランジ21Bもしくはウエブ22Bを溶接接合や接着剤等により接合する。
【0042】
このように、圧接鋼板32と摩擦材31との間の第一摩擦係数と、摩擦材31とフランジ21Bもしくはウエブ22Bとの間の第二摩擦係数との大小関係に応じて、摩擦材31とフランジ21Bもしくはウエブ22Bの接触面の処理を行うことにより、所望する圧接鋼板32と摩擦材31の間の滑り摩擦を保証することができ、摩擦ダンパー30の制振性能を発揮させることができる。
【0043】
図3には、制振ブレース架構50に地震時の水平力Pが作用した際の、各部材に生じる曲げモーメント分布を示しており、より具体的には、柱11に生じる曲げモーメントをMcで示し、梁12に生じる曲げモーメントをMgで示し、ブレース20に生じる曲げモーメントをMbで示している。
【0044】
柱11と梁12が相互に剛結合されて矩形枠架構10が形成され、矩形枠架構10の隅角部13A,13Bに対してブレース20の端部が剛結合されている構面では、柱11と梁12、及びブレース20の端部において曲げモーメントMc,Mg,Mbが最大となり、各部材の中間位置において曲げモーメントがゼロとなる。従って、ブレース20の中間位置においては曲げモーメントがゼロ(Mb=0)となり、図示例においては、曲げモーメントゼロの位置、もしくはその周辺の領域までを含めて曲げモーメント不発生領域38としている。そして、この曲げモーメント不発生領域38に、摩擦ダンパー30の中央位置(等間隔に並ぶ四組の高力ボルト33の中央位置)が位置決めされている。
【0045】
ブレース20が相互に直交するウエブ22とフランジ21を備えていることから、このブレース20には、ウエブ22とフランジ21に対してそれぞれ二方向の曲げモーメントが生じ得る。しかしながら、図示例の制振ブレース架構50においては、摩擦ダンパー30の中央位置が曲げモーメント不発生領域38に配設されるようにして摩擦ダンパー30がブレース20に取り付けられていることにより、ブレース20に二方向の曲げモーメントが生じることが解消される。このことにより、発生する二方向の曲げモーメントによって高力ボルト33に導入された張力が変化し、摩擦ダンパー30の摩擦特性が変化するといった課題は生じない。そのため、制振ブレース架構50によれば、ブレース20を構成するフランジ21とウエブ22に取り付けられている第一摩擦ダンパー30Aと第二摩擦ダンパー30Bが、初期の摩擦特性を発揮することが可能になる。
【0046】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0047】
10:矩形枠架構
11:柱
12:梁
13A,13B:隅角部
15A,15B:ブラケット(平鋼)
16A,16B:フィンスチフナ
17A,17B:スプライスプレート
18A,18B:高力ボルト
19A,19B:スプライスプレート
20,20A,20B:ブレース(H形鋼、形鋼材)
21,21A,21B:フランジ
22,22A,22B:ウエブ
30:摩擦ダンパー
30A:第一摩擦ダンパー
30B:第二摩擦ダンパー
31:摩擦材
32:圧接鋼板
33:高力ボルト
34:ボルト孔
35:高さ調整プレート
36:高力ボルト
38:曲げモーメント不発生領域
50:制振ブレース架構
G:隙間
【要約】
【課題】矩形枠架構において、直交するウエブとフランジとを備える形鋼材により形成されているブレースを備え、さらに摩擦ダンパーを備える制振ブレース架構に関し、摩擦ダンパーに二方向の曲げモーメントが作用することを解消することにより、摩擦ダンパーの有する制振性能の変化を防止することのできる、制振ブレース架構を提供すること。
【解決手段】建築物を構成し、柱11と梁12とにより形成される矩形枠架構10にブレース20が配設されている、制振ブレース架構50であって、ブレース20は、相互に直交するウエブ22とフランジ21とを備える形鋼材により形成されており、ブレース20のうち、曲げモーメントがゼロである曲げモーメント不発生領域38において、フランジ21には第一摩擦ダンパー30Aが取り付けられ、ウエブ22には第二摩擦ダンパー30Bが取り付けられている。
【選択図】図1
図1
図2
図3