【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブレースには、平鋼や特許文献1に記載されるH形鋼等、様々な鋼材が適用されるが、平鋼を適用する場合も特許文献1に記載のH形鋼を適用する場合も、例えばブレースと矩形枠架構から突設するガセットプレートの両側面に摩擦材(摩擦板)を配設し、両側面の摩擦材を二枚の鋼板(特許文献1では圧接板)により挟み、これらに所定の圧縮力を付与した状態でボルト接合することにより、摩擦ダンパーが形成される。例えば地震時にブレース架構が変形してブレースに軸方向力が作用した際に、摩擦ダンパーが摩擦抵抗を発揮することにより、ブレースの軸方向力を低減するようにしている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の
図1に示すように、摩擦ダンパーの取り付け位置が矩形枠架構の隅角部の近傍や矩形枠架構の梁の近傍である場合、これらの位置には曲げモーメントが発生することから、この曲げモーメントが摩擦ダンパーに作用することになる。曲げモーメントが摩擦ダンパーに対して摩擦面と直交する方向に作用すると、ボルトの張力が変化し、摩擦ダンパーの有する制振性能(もしくは摩擦特性)が変化する恐れがある。このように摩擦ダンパーに対して摩擦面と直交する方向に曲げモーメントが作用し、摩擦ダンパーの制振性能が変化する課題に対する解決手段は、特許文献1をはじめとして従来開示されていない。
【0007】
さらに、ブレースがH形鋼等の形鋼材から形成される場合に、断面視においてウエブとフランジは直交する二方向に延設しており、発生する曲げモーメントもこの二方向に固有の曲げモーメントが生じることになるが、摩擦ダンパーがこのように二方向に延設する断面形状の形鋼材からなるブレースに取り付けられている場合においては、ウエブとフランジのいずれか一方もしくは双方のボルトに曲げモーメントによる張力が作用し、この張力の作用に起因するボルトの張力変化により、摩擦ダンパーの摩擦特性が変化する課題に対する解決手段は、当然に従来開示されていない。
【0008】
本発明は、矩形枠架構において、直交するウエブとフランジとを備える形鋼材により形成されているブレースを備え、さらに摩擦ダンパーを備える制振ブレース架構に関し、摩擦ダンパーに二方向の曲げモーメントが作用することを解消することにより、摩擦ダンパーの有する制振性能の変化を防止することのできる、制振ブレース架構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による制振ブレース架構の一態様は、
建築物を構成し、柱と梁とにより形成される矩形枠架構にブレースが配設されている、制振ブレース架構であって、
前記ブレースは、相互に直交するウエブとフランジとを備える形鋼材により形成されており、
前記ブレースのうち、曲げモーメントがゼロである曲げモーメント不発生領域において、前記フランジには第一摩擦ダンパーが取り付けられ、前記ウエブには第二摩擦ダンパーが取り付けられていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、ウエブとフランジとを備える形鋼材により形成されているブレースのうち、曲げモーメントがゼロである曲げモーメント不発生領域に摩擦ダンパー(第一摩擦ダンパー、第二摩擦ダンパー)が取り付けられていることにより、各摩擦ダンパーに固有の二方向の曲げモーメントが作用することが解消され、摩擦ダンパーに曲げモーメントが作用した際にボルトの張力が変化し、各摩擦ダンパーの制振性能が変化するといった課題は生じない。
【0011】
ここで、ウエブとフランジとを備える形鋼材には、山形鋼や溝形鋼、H形鋼、十字形鋼(例えば、縦方向のウエブと、ウエブの中心において左右に張り出す二つのフランジにより形成される形鋼材)等があり、例えばH形鋼である場合は、二つのフランジに対してそれぞれ第一摩擦ダンパーが取り付けられ、ウエブに対して第二摩擦ダンパーが取り付けられる。また、型鋼材を形成して相互に直交するウエブとフランジにそれぞれ固有の曲げモーメントが生じることから、これらを「二方向の曲げモーメント」としている。例えば、ブレースが溝形鋼から形成される場合、ウエブに一方向の曲げモーメントが生じ、二つのフランジに他の一方向の曲げモーメントが生じる。
【0012】
本態様において、例えば矩形枠架構の対角線に沿う方向にブレースが配設されている形態において、ブレースの端部と矩形枠架構の隅角部が剛接合されている場合には、曲げモーメント不発生領域はブレースの中間位置(中心位置)となることから、このブレースの中間位置に摩擦ダンパーが取り付けられる。一方、例えば、ブレースの一端と矩形枠架構の一方の隅角部が剛接合され、ブレースの他端と矩形枠架構の他方の隅角部がピン結合される場合には、このピン結合箇所が曲げモーメント不発生領域となる。従って、後者の形態においては、ブレースの一端と矩形枠架構の隅角部のピン結合箇所に摩擦ダンパーが取り付けられる。
【0013】
また、本発明による制振ブレース架構の他の態様において、前記矩形枠架構と前記ブレースが剛接合されており、
前記曲げモーメント不発生領域が前記ブレースの中間位置にあり、
前記ブレースは二つの前記形鋼材により形成され、前記中間位置に配設されている前記第一摩擦ダンパー及び前記第二摩擦ダンパーを介して二つの該形鋼材が相互に接続されていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、矩形枠架構とブレースが剛接合されている形態の制振ブレース架構において、曲げモーメントがゼロとなるブレースの長手方向の中間位置に摩擦ダンパー(第一摩擦ダンパー、第二摩擦ダンパー)が取り付けられていることにより、各摩擦ダンパーに固有の二方向の曲げモーメントが作用することが解消され、各摩擦ダンパーの制振性能の変化は生じない。
【0015】
また、本発明による制振ブレース架構の他の態様において、前記形鋼材はH形鋼もしくは十字形鋼であり、
前記ブレースを構成する二つの前記H形鋼もしくは二つの前記十字形鋼が該ブレースの長手方向に隙間を備えた状態で配設され、双方の該H形鋼もしくは該十字形鋼の有する前記フランジ同士が前記第一摩擦ダンパーにて接続され、双方の該H形鋼もしくは該十字形鋼の前記ウエブ同士が前記第二摩擦ダンパーにより接続されていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、二つのフランジを備えたH形鋼もしくは十字形鋼(いずれも、相互に直交するウエブとフランジとを備える形鋼材である)にてブレースが形成されていることにより、山形鋼等の他の形鋼材に比べて、型鋼材の強軸方向と弱軸方向のいずれの剛性ともに高いブレースを形成できる。ここで、矩形枠架構の隅角部から架構の構面内にブラケットが張り出し、このブラケットとH形鋼もしくは十字形鋼が剛接合される。ブラケットは、ブレースを形成するH形鋼もしくは十字形鋼と同様のH形鋼もしくは十字形鋼により形成されてもよいし、ウエブに取り付けられるガセットプレート(平鋼)と、ブレースの二つのフランジに取り付けられるフィンスチフナ(平鋼)がガセットプレートに溶接されている形態であってもよい。いずれの形態のブラケットともに、ブラケットとブレースの対応する部材(ガセットプレートやフィンスチフナと、ブレースのウエブやフランジ)同士は、スプライスプレートを介して高力ボルト等にてボルト接合されることにより、矩形枠架構の隅角部とブレースが剛接合される。
【0017】
また、本発明による制振ブレース架構の他の態様において、前記フランジの両側面に二つの摩擦材が配設され、該二つの摩擦材を挟むように二つの圧接鋼板が配設され、該フランジと該摩擦材と該圧接鋼板を貫通するボルト孔にボルトが挿通されてボルト接合されることにより、前記第一摩擦ダンパーが形成されており、
前記ウエブの両側面に二つの摩擦材が配設され、該二つの摩擦材を挟むように二つの圧接鋼板が配設され、該ウエブと該摩擦材と該圧接鋼板を貫通するボルト孔にボルトが挿通されてボルト接合されることにより、前記第二摩擦ダンパーが形成されていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、相互に摩擦ダンパーを介して接続される二つのH形鋼もしくは二つの十字形鋼のフランジ同士、及びウエブ同士が、それらの両側面に配設された摩擦材(摩擦板)と、両側面の摩擦材の外側の圧接鋼板とにより挟持され、ボルト接合されることにより、ボルトによる締付け力にて摩擦力を所望に制御自在な摩擦ダンパーを備えた制振ブレース架構が形成される。ここで、相互に接続されるH形鋼(例えば第一H形鋼と第二H形鋼とする)において、第二H形鋼には圧接鋼板がボルト接合されることにより緊結される。一方、他方の第一H形鋼には、上記する摩擦材が配設され、第二H形鋼側から延設する圧接鋼板が摩擦材の上に配設され、第二H形鋼においてボルトが所定の締付け力で締付けられることにより、摩擦ダンパーが形成される。摩擦材と圧接鋼板との間の摩擦係数と、ボルトに導入される締付け力と、ボルト本数とにより、摩擦ダンパーによる設計摩擦力が設定される。尚、形鋼材が十字形鋼(例えば第一十字形鋼と第二十字形鋼が相互に接続される)の場合も、同様の方法により摩擦ダンパーによる設計摩擦力が設定される。
【0019】
ブレースを形成するウエブやフランジにおいて、一つ(もしくは一組)の摩擦材が奇数本(一本、三本等であって、三本以上の場合は各ボルトが等間隔に並ぶ)のボルトにて締め付けられる場合は、中央のボルト(ボルトが一本の場合はそのボルト自身)が、ブレースの長手方向の中間位置(中心位置)に位置決めされるようにして矩形枠架構内にブレースを取り付けることにより、摩擦ダンパーがモーメント不発生領域に配設されるものとする。一方、一つ(もしくは一組)の摩擦材が偶数本(二本、四本等であって各ボルトが等間隔に並ぶ)のボルトにて締め付けられる場合は、複数本のボルトの中央位置が、ブレースの長手方向の中間位置(中心位置)に位置決めされるようにして矩形枠架構内にブレースを取り付けることにより、摩擦ダンパーがモーメント不発生領域に配設されるものとする。
【0020】
また、本発明による制振ブレース架構の他の態様において、前記圧接鋼板と前記摩擦材との間の第一摩擦係数が、前記摩擦材と前記フランジもしくは前記ウエブとの間の第二摩擦係数よりも小さい場合は、前記摩擦材と前記フランジもしくは前記ウエブは非接合の状態で面接触されており、
前記第一摩擦係数が前記第二摩擦係数よりも大きい場合は、前記摩擦材と前記フランジもしくは前記ウエブが接合されていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、圧接鋼板と摩擦材との間の第一摩擦係数と、摩擦材とフランジもしくはウエブとの間の第二摩擦係数との大小関係に応じて、摩擦材とフランジもしくはウエブの接触面の処理を行うことにより、所望する圧接鋼板と摩擦材の間の滑り摩擦を保証することができ、摩擦ダンパーの制振性能を発揮させることができる。ここで、「接合」には、溶接接合や接着剤による接合が含まれる。また、「非接合の状態で面接触」とは、摩擦材とフランジもしくはウエブが単に面接触している状態を意味する。