【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、平成28年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「スーパークラスタープログラム」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一次側のコイルと前記二次側のコイルが、螺旋形、平面コイル形、積層巻形のいずれかの形態に巻回されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のトランス。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源は,安定した直流電力を供給するためにサーバー用電源などに用いられる。また,スイッチング電源に用いられるコンバータには,小形化,高効率化が強く要請されている。コンバータの小形化は,駆動周波数を高周波化することにより可能である。しかしながら,駆動周波数の増加に伴い,インバータでのスイッチング損失,トランスの巻線で生じる銅損,コアで生じる鉄損が増加し,コンバータの効率が低下する。
【0003】
スイッチング損失を低減させる方法として,ソフトスイッチングがある。コンバータの駆動回路に用いられるLLC共振駆動方式は、複数の電流,電圧共振によるソフトスイッチングが可能である(
特許文献1、2、非特許文献1、2)この方式は,トランスの漏れインダクタンスを共振用インダクタとして用いるため,回路素子数の低減,小形化につながる。
スイッチング損失を低減させる方法としては、この他に,SiCやGaNなど新材料パワー半導体を用いた高効率パワーデバイスの研究,開発が盛んに行われている(非特許文献3、4)。この高効率パワーデバイスは、従来のSiパワー半導体を用いたデバイスと比較して電力損失が極めて低いため,スイッチング損失の低減が可能である。
【0004】
トランスの銅損の要因は,電流密度の偏りによって生ずる表皮効果と近接効果に起因する交流抵抗である。交流抵抗の低減のためにはトランスの巻線に細い素線を撚り合わせたリッツ線が用いられる。しかし,リッツ線は,各素線間での静電容量に起因して自己共振周波数が低下し,交流抵抗が増加する。また,トランスの降圧比が大きいほどコイルの巻数が増加するため,近接効果に起因する交流抵抗が増加する。
また、トランスの鉄損の低減については、コアに用いる磁性材料が検討されている。トランスのコアに多く用いられているMnZnフェライトは,MHz帯では損失が増加するため,MHz帯駆動に適さない。MHz帯で使用するためのコアとして,鉄系メタルコンポジット鉄心がある。鉄系メタルコンポジット鉄心は金属磁性紛と樹脂前駆体を混合・攪拌した混合スラリを鋳型で焼成して製作する。数μmの磁性紛を用いることで,渦電流損を低減し,金属磁性紛間に樹脂前駆体によるギャップが生じるため,磁気飽和しにくいコアとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再表2012/101906号公報
【特許文献2】再表2013/133028号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H de Groot, E Janssen, R Pagano, and K Schetters: “Design of a 1-MHz LLC Resonant Converter Based on a DSP-Driven SOI Half-Bridge Power MOS Module”, IEEE Transactions on Industry Applications, Vol. 22, No.6 pp.2307-2320 (2007)
【非特許文献2】芳賀 浩之・清水 敏久:「小型・高効率を実現するLLC型直列共振コンバータ」,電気学会論文誌. D, 産業応用部門誌,Vol.133, No.6 pp. 652-658 (2013)
【非特許文献3】T Ueda, M Ishida, T Tanaka, and D Ueda: “GaN transistors on Si for switching and high-frequency applications”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 53, No.10 pp. 100214-1 - 6 (2014)
【非特許文献4】Y Nakakohara, H Otake, T. M. Evans, T Yoshida, M Tsuruya, and K Nakahara: “Three-Phase LLC Series Resonant DC/DC Converter Using SiC MOSFETs to Realize High-Voltage and High-Frequency Operation”, IEEE Transactions on Industrial Electronics, Vol. 63, No.4 pp.2103 - 2110 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、スイッチング電源に用いられるコンバータの小形化は駆動周波数を高周波数化することにより可能である。しかしながら、駆動周波数の高周波数化にともなってコンバータの効率が低下するという課題がある。また、コンバータの小型化には部品点数を削減することも求められる。
本発明は、駆動周波数の高周波数化を可能とし部品点数を削減することによりコンバータの小型化を可能にする、新規な構成に係るトランス及びこれを用いた共振形コンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るトランスは、一次側のコイルと、二次側のコイルと、コアとからなるトランスであって、前記一次側のコイルと前記二次側のコイルは、ともにコイルの終端が開放した一対のコイルからなるオープン形のコイルとして形成され、前記一次側の一対のコイルと前記二次側の一対のコイルは、前記コアの中心線と、それぞれのコイルの中心線を一致させて前記コアに巻回されていることを特徴とする。
なお、一次側のコイルと二次側のコイルを巻回するコアの形状はとくに限定されるものではなく、E形のコア、トロイダル形のコア等のコアを用いることができる。
【0009】
前記一次側のコイルと二次側のコイルは、複数対のオープン形のコイルにより形成することができ、前記一次側のコイルが複数対のオープン形のコイルからなるとともに、前記二次側のコイルが前記一次側のコイルと同数の複数対のオープン形のコイルからなり、前記一次側の複数対のコイルと前記二次側の複数対のコイルが、それぞれ並列に接続されている構成とすることができる。複数対のコイルを並列接続することによりコイルの抵抗を低減させることができる。
また、前記一次側のコイルと前記二次側のコイルとが、前記コアの中心線の方向に、交互に配置されている構成とすること、また、前記一次側のコイルと前記二次側のコイルが、
前記複数対のオープン型のコイルの一方側の複数のコイルからなるコイル群と、
前記複数対のオープン型のコイルの他方側の複数のコイルからなるコイル群に形成され、前記一方側のコイル群と他方側のコイル群が、前記コアの中心線の方向に交互に配置されていることにより、一次側のコイルと二次側のコイルとの間の結合容量を大きくすること、または結合容量を調節することができ、さらに、コイル間の磁束が打ち消される作用により、近接効果に起因する抵抗を低減して、コンバータの効率を向上させることができる。
また、前記一次側のコイルと前記二次側のコイルは、螺旋形、平面コイル形、積層巻形等の適宜形態に形成することができる。
【0010】
また本発明に係るトランスを共振形コンバータに使用することにより、トランス自体がキャパシタンス成分を有することから、回路素子としてキャパシタを組み込むことなくコンバータの駆動周波数で直列共振させることができ、回路の部品点数を減らして回路の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るトランスは、一次側コイルと二次側コイルにオープン形のコイルを使用することにより、高周波域におけるコンバータの効率を向上させることができ、また部品点数を削減することによりコンバータの小型化を好適に図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るトランスの構成例を示す断面図である。
【
図2】一次側コイルと二次側コイルの構成と作用を示す説明図である。
【
図4】
図3に示す等価回路を簡素化した回路である。
【
図6】試作例のトランスの平面図(a)と断面図(b)である。
【
図7】トランスに装着するコイルの巻線構造を示す断面図である。
【
図8】並列接続した一次側のコイルと二次側のコイルの構成を示す説明図である。
【
図9】試作例のトランスに使用した巻線の断面図である。
【
図10】コアに用いたアモルファス/エポキシ複合材料の複素比透磁率-周波数特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図11】トランスのインピーダンス-周波数特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図12】トランスの位相-周波数特性の測定結果を示すグラフである。
【
図13】トランスの抵抗-周波数特性の測定結果を示すグラフである。
【
図14】トランスの伝送効率-周波数特性の測定結果を示すグラフである。
【
図15】トランスを実装した共振形コンバータの回路である。
【
図16】オープン形コイルの構成例1の斜視図(a)、平面図(b)、A-A’線断面図(c)、側面図(d)である。
【
図17】オープン形コイルの構成例2の斜視図(a)、平面図(b)、A-A’線断面図(c)、側面図(d)である。
【
図18】オープン形コイルの構成例3の斜視図(a)、平面図(b)、A-A’線断面図(c)、側面図(d)である。
【
図19】オープン形コイルの構成例4の斜視図(a)、平面図(b)、A-A’線断面図(c)、側面図(d)である。
【
図20】オープン形コイルの構成例5の斜視図(a)、平面図(b)、A-A’線断面図(c)、側面図(d)である。
【
図21】オープン形コイルの構成例6の斜視図(a)、平面図(b)、A-A’線断面図(c)、側面図(d)である。
【
図22】オープン形コイルの構成例7の斜視図(a)、平面図(b)、A-A’線断面図(c)、側面図(d)である。
【
図23】オープン形コイルの構成例8の斜視図(a)、平面図(b)、A-A’線断面図(c)、側面図(d)である。
【
図24】オープン形コイルの構成例9の斜視図(a)、平面図(b)、A-A’線断面図(c)、側面図(d)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(トランスの構成)
図1に本発明に係る電磁界結合形トランスの構成例を示す。
図1に示すトランスは、磁性材からなるコア5の中心コア部5aに、一次側コイル10a、10bと、二次側コイル20a、20bを巻回して形成されている。このトランスでは、一次側コイル10a、10bの端子1、1’間に交流電圧V
1を印加することにより、二次側コイル20a、20bの端子2、2’間から交流電圧V
2が出力される。
【0014】
図1に示すトランスにおいて特徴的な構成は、一次側のコイルと二次側のコイルが、それぞれコイル端が開放された一対のコイル(オープン形のコイル)からなることである。すなわち、一次側のコイルがコイルの終端が開放された一対の一次側コイル10a、10bからなり、二次側のコイルがコイルの終端が開放された一対の二次側コイル20a、20bからなり、一対の一次側コイル10a、10bがトランスの一次側として作用し、一対の二次側コイル20a、20bがトランスの二次側として作用する。
【0015】
図2に、一次側のコイルと二次側のコイルの構成と作用をわかりやすく示すため、一次側コイル10a、10bと二次側コイル20a、20bを抜き出して示す。
図2では、一次側コイル10a、10bと二次側コイル20a、20bを平面形のコイルとして示しているが、一次側のコイルと二次側のコイルは平面コイルに限られるものではなく、らせん型であってもよい。ここでは説明を分かりやすくするため平面形のコイルとして示す。
【0016】
図2に示すように、一次側コイル10aと一次側コイル10bは、コイルの中心線を相互に一致させ、コイル面を平行にして配置され、それぞれのコイルの終端が開放されて、二つのコイルの終端が開放された状態(オープン形)になっている。
また、一次側コイル10aの巻回方向と一次側コイル10bは、一次側コイル10aと一次側コイル10bの開放端を結んで一連のコイルとしたときに、巻き始めと巻き終わりまで巻回方向が同一になるように設定されている。言い換えれば、一次側のコイルの端子1、1’間に交流電圧V
1を印加したときに、一次側コイル10aと一次側コイル10bから発生する磁界の向きが一致するように設定されている。
【0017】
二次側コイル20aと二次側コイル20bの構成も一次側のコイルと同様に、二次側コイル20aと二次側コイル20bは、コイルの中心線を相互に一致させ、コイル面を平行にして配置され、二次側コイル20aと二次側コイル20bの終端が開放されている(オープン形)。
また、二次側コイル20aと二次側コイル20bの巻回方向は、コイルを平面方向から見たときに同一方向となるように設定されている。すなわち二次側コイル20aと20bから発生する磁界の向きが同じ向きになる。
なお、図示例では、二次側コイル20a、20bの巻回方向は一次側コイル10a、10bの巻回方向とは逆方向であるが、二次側コイル20a、20bと一次側コイル10a、10bの巻線方向は逆方向であっても同一方向であってもよい。コイルの巻回方向が一次側と二次側で逆方向であっても同一方向であっても、一次側のコイルによって発生する磁界を妨げる方向に二次側のコイルで電圧が発生する。
【0018】
図2では、一次側の端子1、1’間に交流電圧を印加すると、電流I
1の向きにより下向きと上向きの磁束(Φ)が生じること、一次側のコイルに生じた磁束が二次側のコイルに作用して磁界結合により二次側の端子2、2’に交流の起電力が生じることを示す。このとき、端子1、1’間と端子2、2’間には電位差が生じるため、一次側のコイルと二次側のコイルとの間で電界結合が生じ、一次側のコイルと二次側のコイルの結合度がさらに向上する。
【0019】
図1は、コア5の中心コア部5aに一次側コイル10a、10bと二次側コイル20a、20bを巻回することにより、一次側の端子1、1’間に交流電圧を印加することにより、一次側のコイルと二次側のコイルとがコア5を介して磁気的に効率的に結合し、磁界結合と電界結合作用により、二次側の端子2、2’に交流の起電力が生じることを示している。
【0020】
本明細書において、一次側のコイルを一次側コイル10a、10b、二次側のコイルを二次側コイル20a、20bと二つの部材番号を付して記載している理由は、一次側のコイルと二次側のコイルがそれぞれ2つのコイルから成るからである。一次側コイル10a、10bをあわせて一次側のコイル10ということもでき、二次側コイル20a、20bをあわせて二次側のコイル20ということもできる。
【0021】
図3、4、5は
図1に示したトランスの等価回路を示す。
図3では、
図1に示した一次側のコイルと二次側のコイルについて、それぞれのインダクタンス、キャパシタンス、レジスタンスを以下のように記載している。
一次側コイル10a:インダクタンスL
p1 キャパシタンスC
p1 レジスタンスR
p1
一次側コイル10b:インダクタンスL
p2 キャパシタンスC
p2 レジスタンスR
p2
二次側コイル20a:インダクタンスL
s1 キャパシタンスC
s1 レジスタンスR
s1
二次側コイル20b:インダクタンスL
s2 キャパシタンスC
s2 レジスタンスR
s2
また、一次側コイル10aと一次側コイル10bとの間の結合キャパシタンスをC
rp、漏れインダクタンスをL
sh1とし、二次側コイル20aと二次側コイル20bとの間の結合キャパシタンスをC
rs、漏れインダクタンスをL
sh2とした。
【0022】
図4は
図3に示した等価回路を、一次側のコイルと二次側のコイルとの相互インダクタンスをMとし、R
p=R
p1+R
p2、L
p=L
p1+L
p2+L
sh1、R
s=R
s1+R
s2、L
s=L
s1+L
s2+L
sh2と置き換えて簡素化した形式で表現したものである。
図4の回路は
図5に示す等価回路になる。
一次側と二次側とを共振させた状態、すなわち一次側と二次側とを同一の周波数により駆動することにより、最も効率的にエネルギーを伝送することができる。
【0023】
(トランス:試作例)
図6(a)は実際に試作した電磁界結合形トランスの構造を示す平面図、
図6(b)は
図6(a)のA−A’線断面図である。
図7はトランスに装着するコイルの巻線構造を示す。
この試作例のトランスは、コア30の中心の円柱形の中心コア部30aに螺旋状に導線を巻いて形成したものである。
【0024】
図1に示すトランスは一次側のコイルと二次側のコイルが一組であるが、本試作例のトランスは、一次側のコイルを二組、二次側のコイルを二組とし、それぞれ二組のコイルを並列に接続したものである。
図8に、本試作例での一次側と二次側のコイルの構成を抜き出して示す。
図8では説明上、一次側と二次側のコイルを平面コイルとして表している。
図8において、一次側のコイルは、オープン形の一次側コイル10a、10bと一次側コイル10c、10dであり、二次側のコイルは、オープン形の二次側コイル20a、20bと二次側コイル20c、20dである。
一次側のコイルと二次側のコイルを交互に配置するため、コイルの中心線の方向に、一次側コイル10a、10b、二次側コイル20a、20b、一次側コイル10c、10d、二次側コイル20c、20dの順に交互にコイルを配置する。
【0025】
一次側のコイルと二次側のコイルはそれぞれ並列接続するため、一次側コイル10aの端子1と一次側コイル10cの端子1とを接続し、一次側コイル10bの端子1’と一次側コイル10dの端子1’とを接続する。また、二次側コイル20aの端子2と二次側コイル20cの端子2とを接続し、二次側コイル20bの端子2’二次側コイル20dの端子2’とを接続する。
本試作例のように、一次側と二次側について複数組のコイルを並列接続することにより、コイルの全抵抗値を低減させることができ、また複数組のコイルを交互に配置することにより、一次側と二次側の結合性を向上させることができ、トランスの効率を向上させることが可能になる。
また、一次側と二次側のコイルを交互に配置することにより、コイルに電流が流れたとき,各コイルに流れる電流の向きは逆向きとなり、コイルの中心線方向に磁束を打ち消しあう。これにより、他の巻線に作用する磁束が減少するため、近接効果に起因する抵抗の低減が可能である。
【0026】
試作例のトランスの巻線には、
図9に示す平角線(厚さ0.253mm、幅3.111mm)を使用した。平角線を使用した理由は一次側と二次側のコイル間の結合容量をできるだけ大きくするためである。平角線にすると、丸線を並列に並べたときよりも線間の対向面積が増大し、結合容量が大きくなる。
【0027】
図7で、Primary−1とあるのは一次側コイル10a、10b、Primary−2とあるのは一次側コイル10c、10dに相当し、Secondary-1とあるのは二次側コイル20a、20b、Secondary-2とあるのは二次側コイル20c、20dに相当する。
図7は、一次側と二次側の巻線位置が交互になるように(Primary−1→Secondary-1→Primary−2→Secondary-2)巻いていることを示す。コイルの巻き数比は6:6である。
【0028】
試作例のトランスで用いたコアの材質は大きさ数μmの磁性微粒子とエポキシ樹脂との複合材である。磁性微粒子にはエプソンアトミクス社製のアモルファス合金パウダーを用いた。使用した磁性微粒子の平均粒子径は5.2μmであり、ほとんどが球状である。コアの損失である渦電流損を低減させるためには、隣接する粒子同士の接触を防ぐ必要がある。アモルファスは抵抗率が高いため、隣接する微粒子と接触しても、粒子間で通電しにくいため、高抵抗率のコアとなる。
【0029】
図10に上述したアモルファス粉とエポキシ樹脂からなるアモルファス/エポキシ複合材料の複素比透磁率-周波数特性を示す。アモルファス/エポキシ複合材料の複素比透磁率の実部は約9.5である。また,虚部は10 MHzまで0.1以下であり、非常に低損失の磁性材料であることがわかる。
【0030】
(トランスのインピーダンス測定)
上述した試作例のトランスについてインピーダンス特性を測定した結果について説明する。インピーダンス特性の測定にはインピーダンスアナライザ(Agilent:4294A)を用いた。
図11はインピーダンス-周波数特性、
図12はトランスの位相-周波数特性の測定結果を示す。一次側のコイル、二次側のコイルの結合容量とインダクタンスの直列共振周波数はそれぞれ7.7 MHz,7.3 MHzであった。また、浮遊容量とインダクタンスの並列共振の周波数は30MHz以上であった。
図13はトランスの抵抗-周波数特性について測定した結果を示す。駆動周波数を7.5 MHzとしたとき、一次側のコイル、二次側のコイルの抵抗はそれぞれ0.75Ω、0.7Ωであった。
図14はトランスの伝送効率-周波数特性である。一次側のコイル、二次側のコイルの共振周波数である7.5 MHzで反射を含めたときの伝送効率は93.9 %となった。
【0031】
(共振形コンバータ)
図15に上述したトランスを実装した共振形コンバータの回路構造を示す。この回路では、インバータ部はFET Q
1、Q
2を接続したハーフブリッジ構成とした。FETのドレイン-ソース間のダイオードは寄生ダイオードである。二次側はブリッジ整流回路を接続し、出力抵抗R
Lである。インバータのFETはGaN、整流用ダイオードにはSiCを用いた。
【0032】
表1に上記共振形コンバータの伝送特性を示す。伝送特性は、入力電圧48V、出力電圧24Vとしたときの入出力電力を測定した結果である。駆動周波数が4.9 MHzのとき、入力電力、出力電力はそれぞれ25.4W、18.7Wであり、伝送効率は73.8%となった。
【表1】
【0033】
出力電力が18.7 Wのときの共振形コンバータのトランスの発熱を調べたところ、主な発熱の要因はスイッチング用FET、トランスのコア、巻線であり、それぞれ45.1℃、31 ℃、41℃であった。この実験から、効率の低下の要因は、FETと巻線の発熱による抵抗の増加が主な要因であることが分かる。
本実施形態のトランスはその構造から、キャパシタ成分を有するから、共振形コンバータに用いる際に回路素子として別途キャパシタを設ける必要がなく、部品点数を削減することができ、回路の小型化を図ることができる。
【0034】
なお、前述した試作例のトランスは、E形のコアを用いて、一次側と二次側のコイルにオープン形のコイルを使用したトランスの例であるが、トランスに使用するコアはE形のものに限るものではない。E形以外のトロイダル形のコアを備えるトランスについても、まったく同様に、一次側と二次側のコイルとしてオープン形のコイルを使用することにより、E形と同様の作用効果、すなわち、コイルの中心線方向の磁束が打ち消される作用により、近接効果に起因する抵抗が低減され、一次側と二次側のコイルの結合容量を大きくすることによりコンバータの効率を向上させることができる。
トロイダル形のコアの場合も、一次側と二次側のコイルの中心線とコアの中心線を一致させる配置とし、一次側と二次側のコイルを複数組(複数対)のコイルとし、一次側と二次側のコイルをそれぞれ並列接続することにより、コイルの抵抗値を低減させることができ、一次側と二次側のコイルを交互配置とすることにより一次側と二次側のコイルの結合容量を大きくすることができる。
【0035】
(オープン形コイルの構成例)
図16〜24に、平角線を用いてオープン形コイルを構成した例を示す。
図16〜18は、オープン形の一つのコイルを使用した例、
図19〜24は、オープン形の2つ(複数対)のコイルを使用した例である。
図16〜24では、オープン形のコイルで一次側のコイルを構成した例であるが、二次側のコイルについてもまったく同様の形態に構成することができる。
【0036】
(構成例1)
図16は、螺旋形にコイルを形成した例である。
図16(a)、(b)、(c)、(d)が、それぞれ、斜視図、平面図、A-A’線断面図、側面図である。以下、各図とも、(a)、(b)、(c)、(d)は、斜視図、平面図、A-A’線断面図、側面図に対応する。
平面視の状態で同一の円形状となるように、一対のオープン形コイルのうち、一方のコイル10aと他方のコイル10bを、導通しないように重ね合わせる配置として巻回する。図では、コイル10aを薄色、コイル10bを濃色で示す。
コイル10aの端部に端子11が設けられ、コイル10bの端部に端子12が設けられる。
【0037】
(構成例2)
図17は、平面形のコイルとして形成した例である。平面コイルとして形成した場合は、
図17(c)、(d)に示すように、コイル10aとコイル10bが平行に対向して離間した配置になる。コイル10aとコイル10bの離間間隔を調節することによりコイル間の結合容量を調整することができる。
【0038】
(構成例3)
図18は、コイルの面方向と平角線の面方向とが垂直向きになるように、コイルを形成した例(積層巻という)である。
図16、17に示した例は、平角線の面方向とコイルの面方向が平行で、このような形状のコイルは製作が難しい。これに対し、
図18のように平角線を積層巻きすることは容易である。
図18では、外側がコイル10a、内側がコイル10bとなるように平角線を巻いている。コイルの最も外側に端子11、コイルの中心側に端子12が設けられている。
【0039】
(構成例4)
図19は、オープン形コイルを2つ組み合わせた例で、コイル10a、10bと、コイル10c、10dをそれぞれ並列接続して、螺旋形に形成した例である。
この例では、コイルの中心線の方向に、コイル10a、10b→コイル10c、10d→コイル10a、10bの順に交互に繰り返して積層している。コイル10aとコイル10cの端部を端子11に接続し、コイル10bとコイル10dの端部を端子12に接続している。
コイル(10a、10b)とコイル(10c、10d)を積層方向に交互に配置することにより、コイル間の結合容量を大きくすることができる。
【0040】
(構成例5)
図20は、構成例4と同様に螺旋形に形成した例である。この構成例では、オープン形コイルの対になる一方側のコイル10a、
10cを積層したコイル群10Gと、他方側
のコイル
10b、10dを積層したコイル群11Gとを、コイル群同士で積層した構成
としたものである。
この構成例において、一対のコイル間の結合容量についてみると、コイル群10Gとコイル群11Gとは、対向する個所が一個所のみであるため、構成例4のようにコイルを完全に交互に配置する例とくらべて、結合容量は小さくなる。オープン形のコイルの用途によっては、必ずしも大きな結合容量を必要としない場合がある。そのような場合には、
図20に示すような構成を選択することができる。
また、
図20では、対となるコイルの一方側と他方側を一つのコイル群としたが、一方側と他方側を複数のコイル群として、それぞれのコイル群を単位として交互に配置することにより、結合容量を調整することも可能である。
【0041】
(構成例6)
図21は、平面形コイルとして形成した例で、
図21(c)に示すように、コイル10a、10bとコイル10c、10dを積層して形成している。コイル10aと10cを端子11に接続し、コイル10bと10dを端子12に接続して並列接続とした。
(構成例7)
図22は、平面形コイルとして形成した例で、
図22(d)に示すように、オープン形コイルの一方側のコイル10a、10cからなる群コイル10Gと、他方側のコイル10b、10dからなる群コイル11Gを、群コイルを単位として積層した構成としたものである。
【0042】
(構成例8)
図23は、平角線を積層巻きとした例である。コイル10a、10b→コイル10c、10d→コイル10a、10bのように、一方のオープン形コイルと他方のオープン形コイルを交互に巻回したものである。
(構成例9)
図24は、積層巻きの例で、オープン形コイルの一方側のコイル10a、10cと、他方側のコイル10b、10dを群コイル10G、11Gとして群コイルを単位として巻回したものである。
【0043】
なお、上記構成例では、一次側のコイルと二次側のコイルとの結合容量を大きくするため導線として平角線を使用したが、平角線以外の丸線やリッツ線を使用することももちろん可能である。
また、一次側と二次側のコイルを組み合わせる場合には、一次側あるいは二次側のみについて、上述したようなコイルの配置について種々の組みわせが可能であることに加えて、一次側と二次側のコイルの組み合わせ方によって、さらにさまざまな組み合わせとすることが可能である。