特許第6783124号(P6783124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783124
(24)【登録日】2020年10月23日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】走査透過電子顕微鏡および画像生成方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/28 20060101AFI20201102BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20201102BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   H01J37/28 C
   H01J37/22 501C
   H01J37/147 B
   H01J37/147 A
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-230168(P2016-230168)
(22)【出願日】2016年11月28日
(65)【公開番号】特開2018-88321(P2018-88321A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】佐川 隆亮
【審査官】 小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−042753(JP,A)
【文献】 特開平02−220339(JP,A)
【文献】 特開2009−245678(JP,A)
【文献】 特開2010−251041(JP,A)
【文献】 米国特許第04514629(US,A)
【文献】 特開2013−041761(JP,A)
【文献】 特開2013−228375(JP,A)
【文献】 特開昭59−163548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J37/00−37/02
37/05
37/09−37/18
37/21
37/24−37/244
37/252−37/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を試料上で走査して、走査像を取得する走査透過電子顕微鏡であって、
電子線を放出する電子源と、
前記電子源から放出された電子線を前記試料上で走査するための走査偏向素子と、
前記電子源から放出された電子線を収束させる対物レンズと、
前記対物レンズの後焦点面および当該後焦点面の共役な面に配置された撮像装置と、
前記撮像装置で撮像された画像に基づいて、前記走査像を生成する走査像生成部と、
を含み、
前記走査像生成部は、
電子線の走査によって前記試料上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを前記撮像装置で撮像して得られた複数の画像を取得する処理と、
取得された複数の画像の各々について、画像中の透過波の像の大きさに基づき設定された積分領域内の各画素の強度を積分して、前記試料上の各位置の信号強度を求める処理と、
前記試料上の各位置の信号強度に基づいて、前記走査像を生成する処理と、
を行い、
前記走査像生成部は、前記撮像装置で撮像して得られた画像から、前記透過波の像の大きさを測定し、測定された前記透過波の像の大きさに基づき前記積分領域を設定する処理を行う、走査透過電子顕微鏡。
【請求項2】
電子線を試料上で走査して、走査像を取得する走査透過電子顕微鏡であって、
電子線を放出する電子源と、
前記電子源から放出された電子線を前記試料上で走査するための走査偏向素子と、
前記電子源から放出された電子線を収束させる対物レンズと、
前記対物レンズの後焦点面および当該後焦点面の共役な面に配置された撮像装置と、
前記撮像装置で撮像された画像に基づいて、前記走査像を生成する走査像生成部と、
前記試料に入射する電子線を偏向させる第1偏向素子と、
前記撮像装置に入射する電子線を偏向させる第2偏向素子と、
前記第1偏向素子および前記第2偏向素子を制御する処理を行う処理部と
を含み、
前記走査像生成部は、
電子線の走査によって前記試料上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを前記撮像装置で撮像して得られた複数の画像を取得する処理と、
取得された複数の画像の各々について、画像中の透過波の像の大きさに基づき設定された積分領域内の各画素の強度を積分して、前記試料上の各位置の信号強度を求める処理と、
前記試料上の各位置の信号強度に基づいて、前記走査像を生成する処理と、
を行い、
前記処理部は、
前記試料に入射する電子線の方位角が走査されるように前記第1偏向素子を制御する処理と、
互いに異なる方位角で得られた電子回折パターン中の透過波および回折波を含む像が積算された積算画像を取得する処理と、
前記積算画像から前記透過波の像を抽出する処理と、
抽出された前記透過波の像の位置に基づいて、前記透過波の像が前記撮像装置で撮像される画像の中心に位置するように、前記第2偏向素子を制御する処理と、
を行う、走査透過電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記撮像装置で撮像された画像において、前記透過波の像は、ディスクとして現れ、
前記透過波の像の大きさは、前記ディスクの直径である、走査透過電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記走査像生成部は、
前記試料上の各位置の信号強度を求める処理において、設定された複数の前記積分領域の各々について、前記試料上の各位置の信号強度を求め、
前記走査像を生成する処理において、複数の前記積分領域に対応する複数の前記走査像を生成する、走査透過電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記積分領域は、前記透過波の像の内側の領域であって、前記透過波の像の中心を中心とする円の領域である、走査透過電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記積分領域は、前記透過波の像の内側の領域であって、前記透過波の像の中心を中心とする円環状の領域である、走査透過電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記積分領域は、前記透過波の像の外側の領域であって、前記透過波の像を囲み、かつ、前記透過波の像の中心を中心とする円環状の領域である、走査透過電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記積分領域は、前記透過波の像の内側の領域であって、前記透過波の像の中心に関して対称な2つの領域である、走査透過電子顕微鏡。
【請求項9】
試料に入射する電子線を走査して、走査像を取得する走査透過電子顕微鏡における画像生成方法であって、
電子線の走査によって前記試料上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを撮像装置で撮像して得られた複数の画像を取得する工程と、
取得された複数の画像の各々について、画像中の透過波の像の大きさに基づき設定された積分領域内の各画素の強度を積分して、前記試料上の各位置の信号強度を求める工程と、
前記試料上の各位置の信号強度に基づいて、前記走査像を生成する工程と、
を含み、
前記撮像装置で撮像して得られた画像から、前記透過波の像の大きさを測定し、測定された前記透過波の像の大きさに基づき前記積分領域を設定する、画像生成方法。
【請求項10】
試料に入射する電子線を走査して、走査像を取得する走査透過電子顕微鏡における画像生成方法であって、
前記試料に入射する電子線の方位角が走査されるように第1偏向素子を制御する工程と、
互いに異なる方位角で得られた電子回折パターン中の透過波および回折波を含む像が積算された積算画像を取得する工程と、
前記積算画像から透過波の像を抽出する工程と、
抽出された前記透過波の像の位置に基づいて、前記透過波の像が撮像装置で撮像される画像の中心に位置するように、第2偏向素子を制御する工程と、
電子線の走査によって前記試料上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを前記撮像装置で撮像して得られた複数の画像を取得する工程と、
取得された複数の画像の各々について、画像中の前記透過波の像の大きさに基づき設定された積分領域内の各画素の強度を積分して、前記試料上の各位置の信号強度を求める工程と、
前記試料上の各位置の信号強度に基づいて、前記走査像を生成する工程と、
を含む、画像生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査透過電子顕微鏡および画像生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査透過電子顕微鏡(STEM)は、収束した電子線(電子プローブ)で試料上を走査し、試料を透過した電子を検出して走査透過電子顕微鏡像(STEM像)を得るための装置である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
走査透過電子顕微鏡では、シンチレーターと光電子増倍管等によって構成された検出器を用いて、対物レンズの後焦点面に形成された電子回折パターン中の特定の領域の電子線の信号強度を積分することで、STEM像を生成していた。当該特定の領域の形状は、ディスク状や円環状のものが用いられている。当該特定の領域の形状は、シンチレーターの形状によって決定される。このように走査透過電子顕微鏡では、シンチレーターの形状によって、一般的なSTEM像に加えて、環状明視野STEM像や、低角度散乱暗視野STEM像、高角度散乱暗視野STEM像等、種々のSTEM像を取得することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−235665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の走査透過電子顕微鏡では、例えば、2種類のSTEM像を取得する場合、2種類の検出器を準備しなければならない。このように、従来の走査透過電子顕微鏡では、複数種のSTEM像を取得するためには複数の検出器を用意しなければならなかった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、1つの検出器で、複数種のSTEM像を取得することができる走査透過電子顕微鏡を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、1つの検出器で、複数種のSTEM像を取得することができる画像生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る走査透過電子顕微鏡は、
電子線を試料上で走査して、走査像を取得する走査透過電子顕微鏡であって、
電子線を放出する電子源と、
前記電子源から放出された電子線を前記試料上で走査するための走査偏向素子と、
前記電子源から放出された電子線を収束させる対物レンズと、
前記対物レンズの後焦点面および当該後焦点面の共役な面に配置された撮像装置と、
前記撮像装置で撮像された画像に基づいて、前記走査像を生成する走査像生成部と、
を含み、
前記走査像生成部は、
電子線の走査によって前記試料上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを前記撮像装置で撮像して得られた複数の画像を取得する処理と、
取得された複数の画像の各々について、画像中の透過波の像の大きさに基づき設定された積分領域内の各画素の強度を積分して、前記試料上の各位置の信号強度を求める処理と、
前記試料上の各位置の信号強度に基づいて、前記走査像を生成する処理と、
を行い、
前記走査像生成部は、前記撮像装置で撮像して得られた画像から、前記透過波の像の大きさを測定し、測定された前記透過波の像の大きさに基づき前記積分領域を設定する処理を行う
【0008】
このような走査透過電子顕微鏡では、積分領域に応じて、観察や分析の目的に応じた様々な種類の走査像を生成することができる。したがって、このような走査透過電子顕微鏡では、1つの検出器(撮像装置)で、複数種の走査像を取得することができる。
【0009】
(2)本発明に係る走査透過電子顕微鏡は、
電子線を試料上で走査して、走査像を取得する走査透過電子顕微鏡であって、
電子線を放出する電子源と、
前記電子源から放出された電子線を前記試料上で走査するための走査偏向素子と、
前記電子源から放出された電子線を収束させる対物レンズと、
前記対物レンズの後焦点面および当該後焦点面の共役な面に配置された撮像装置と、
前記撮像装置で撮像された画像に基づいて、前記走査像を生成する走査像生成部と、
前記試料に入射する電子線を偏向させる第1偏向素子と、
前記撮像装置に入射する電子線を偏向させる第2偏向素子と、
前記第1偏向素子および前記第2偏向素子を制御する処理を行う処理部と
を含み、
前記走査像生成部は、
電子線の走査によって前記試料上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを前記撮像装置で撮像して得られた複数の画像を取得する処理と、
取得された複数の画像の各々について、画像中の透過波の像の大きさに基づき設定された積分領域内の各画素の強度を積分して、前記試料上の各位置の信号強度を求める処理と、
前記試料上の各位置の信号強度に基づいて、前記走査像を生成する処理と、
を行い、
前記処理部は、
前記試料に入射する電子線の方位角が走査されるように前記第1偏向素子を制御する処理と、
互いに異なる方位角で得られた電子回折パターン中の透過波および回折波を含む像が積算された積算画像を取得する処理と、
前記積算画像から前記透過波の像を抽出する処理と、
抽出された前記透過波の像の位置に基づいて、前記透過波の像が前記撮像装置で撮像される画像の中心に位置するように、前記第2偏向素子を制御する処理と、
を行う。
このような走査透過電子顕微鏡では、積分領域に応じて、観察や分析の目的に応じた様々な種類の走査像を生成することができる。したがって、このような走査透過電子顕微鏡では、1つの検出器(撮像装置)で、複数種の走査像を取得することができる。また、このような走査透過電子顕微鏡では、撮像装置で撮像される画像の中心に透過波の像が位置するため、撮像装置で撮像された画像中の透過波の像の大きさを容易に測定することができる。
【0010】
(3)本発明に係る走査透過電子顕微鏡において、
前記撮像装置で撮像された画像において、前記透過波の像は、ディスクとして現れ、
前記透過波の像の大きさは、前記ディスクの直径であってもよい。
【0011】
(4)本発明に係る走査透過電子顕微鏡において、
前記走査像生成部は、
前記試料上の各位置の信号強度を求める処理において、設定された複数の前記積分領域の各々について、前記試料上の各位置の信号強度を求め、
前記走査像を生成する処理において、複数の前記積分領域に対応する複数の前記走査像を生成してもよい。
【0012】
このような走査透過電子顕微鏡では、複数の積分領域に応じて、複数種の走査像を生成することができる。したがって、このような走査透過電子顕微鏡では、試料上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを撮像装置で撮像して得られた複数の画像から、複数種の走査像を同時に生成することができる。
【0013】
(5)本発明に係る走査透過電子顕微鏡において、
前記積分領域は、前記透過波の像の内側の領域であって、前記透過波の像の中心を中心とする円の領域であってもよい。
【0014】
このような走査透過電子顕微鏡では、明視野STEM像を生成することができる。
【0015】
(6)本発明に係る走査透過電子顕微鏡において、
前記積分領域は、前記透過波の像の内側の領域であって、前記透過波の像の中心を中心とする円環状の領域であってもよい。
【0016】
このような走査透過電子顕微鏡では、環状明視野STEM像を生成することができる。
【0017】
(7)本発明に係る走査透過電子顕微鏡において、
前記積分領域は、前記透過波の像の外側の領域であって、前記透過波の像を囲み、かつ、前記透過波の像の中心を中心とする円環状の領域であってもよい。
【0018】
このような走査透過電子顕微鏡では、環状暗視野STEM像を生成することができる。
【0019】
(8)本発明に係る走査透過電子顕微鏡において、
前記積分領域は、前記透過波の像の内側の領域であって、前記透過波の像の中心に関し
て対称な2つの領域であってもよい。
【0020】
このような走査透過電子顕微鏡では、微分位相コントラストSTEM像を生成することができる。
【0021】
(9)本発明に係る画像生成方法は、
試料に入射する電子線を走査して、走査像を取得する走査透過電子顕微鏡における画像生成方法であって、
電子線の走査によって前記試料上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを撮像装置で撮像して得られた複数の画像を取得する工程と、
取得された複数の画像の各々について、画像中の透過波の像の大きさに基づき設定された積分領域内の各画素の強度を積分して、前記試料上の各位置の信号強度を求める工程と、
前記試料上の各位置の信号強度に基づいて、前記走査像を生成する工程と、
を含み、
前記撮像装置で撮像して得られた画像から、前記透過波の像の大きさを測定し、測定された前記透過波の像の大きさに基づき前記積分領域を設定する。
【0022】
このような画像生成方法では、積分領域に応じて、観察や分析の目的に応じた様々な種類の走査像を生成することができる。したがって、このような画像生成方法では、1つの検出器(撮像装置)で、複数種の走査像を取得することができる。
【0023】
(10)本発明に係る画像生成方法は、
試料に入射する電子線を走査して、走査像を取得する走査透過電子顕微鏡における画像生成方法であって、
前記試料に入射する電子線の方位角が走査されるように第1偏向素子を制御する工程と、
互いに異なる方位角で得られた電子回折パターン中の透過波および回折波を含む像が積算された積算画像を取得する工程と、
前記積算画像から透過波の像を抽出する工程と、
抽出された前記透過波の像の位置に基づいて、前記透過波の像が撮像装置で撮像される画像の中心に位置するように、第2偏向素子を制御する工程と、
電子線の走査によって前記試料上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを前記撮像装置で撮像して得られた複数の画像を取得する工程と、
取得された複数の画像の各々について、画像中の前記透過波の像の大きさに基づき設定された積分領域内の各画素の強度を積分して、前記試料上の各位置の信号強度を求める工程と、
前記試料上の各位置の信号強度に基づいて、前記走査像を生成する工程と、
を含む。
【0024】
このような画像生成方法では、積分領域に応じて、観察や分析の目的に応じた様々な種類の走査像を生成することができる。したがって、このような画像生成方法では、1つの検出器(撮像装置)で、複数種の走査像を取得することができる。また、このような画像生成方法では、撮像装置で撮像される画像の中心に透過波の像が位置するため、撮像装置で撮像された画像中の透過波の像の大きさを容易に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係る走査透過電子顕微鏡を模式的に示す図。
図2】撮像装置で撮像された電子回折パターンの像を模式的に示す図。
図3】透過ディスクの中心を通る直線に沿った強度プロファイルを示すグラフ。
図4】強度プロファイルを微分した結果を示すグラフ。
図5】明視野STEM像を生成するための積分領域の一例を示す図。
図6】環状明視野STEM像を生成するための積分領域の一例を示す図。
図7】微分位相コントラストSTEM像を生成するための積分領域の一例を示す図。
図8】環状暗視野STEM像を生成するための積分領域を示す図。
図9】STEM像を説明するための図。
図10】第1実施形態に係る走査透過電子顕微鏡の動作の一例を示すフローチャート。
図11】第2実施形態に係る走査透過電子顕微鏡を模式的に示す図。
図12】試料に入射する電子線の方位角を走査している様子を模式的に示す図。
図13】試料に入射する電子線の方位角を走査している様子を模式的に示す図。
図14】光軸に沿って電子線を試料に入射したときの電子回折パターン中の透過波および回折波を含む像を模式的に示す図。
図15】試料に入射する電子線を傾斜させたときの電子回折パターン中の透過波および回折波を含む像を模式的に示す図。
図16】試料に入射する電子線の方位角を走査して得られた像を模式的に示す図。
図17】積算画像を二値化して得られた画像。
図18】補正ベクトルに基づき電子線を偏向させて透過ディスクを移動させた画像。
図19】第2実施形態に係る走査透過電子顕微鏡の動作の一例を示すフローチャート。
図20】変形例における、透過ディスクの直径の測定方法を説明するための図。
図21】透過ディスクの中心を通り、互いに方向の異なる複数の直線に沿った強度プロファイルを積算した結果を示すグラフ。
図22】積算された強度プロファイルを平滑化した結果を示すグラフ。
図23】平滑化された強度プロファイルを微分した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0027】
1. 第1実施形態
1.1. 走査透過電子顕微鏡
まず、第1実施形態に係る走査透過電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る走査透過電子顕微鏡100を模式的に示す図である。
【0028】
走査透過電子顕微鏡100は、電子プローブ(収束した電子線)で試料S上を走査し、試料Sを透過した電子を検出して走査像(走査透過電子顕微鏡像、以下「STEM像」ともいう)を取得するための装置である。
【0029】
走査透過電子顕微鏡100は、図1に示すように、電子源10と、収束レンズ12と、走査コイル13(走査偏向素子の一例)と、対物レンズ14と、試料ステージ16と、試料ホルダー17と、中間レンズ18と、投影レンズ20と、撮像装置22と、制御部30と、PC(パーソナルコンピュータ)40(走査像生成部の一例)と、を含む。
【0030】
電子源10は、電子線を放出する。電子源10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0031】
収束レンズ12は、電子源10から放出された電子線を収束する。収束レンズ12は、図示はしないが、複数の電子レンズで構成されていてもよい。
【0032】
走査コイル13は、電子線を二次元的に偏向させて、収束レンズ12および対物レンズ14で収束された電子線(電子プローブ)で試料S上を走査するためのコイルである。
【0033】
対物レンズ14は、電子線を試料S上に収束させて、電子プローブを形成するためのレ
ンズである。また、対物レンズ14は、試料Sを透過した電子を結像する。対物レンズ14の後焦点面には、電子回折パターンが形成される。
【0034】
図示はしないが、走査透過電子顕微鏡100の照射系には、電子線の開き角や照射量を制御するためのコンデンサー絞りが組み込まれている。
【0035】
試料ステージ16は、試料Sを保持する。図示の例では、試料ステージ16は、試料ホルダー17を介して、試料Sを保持している。試料ステージ16は、試料Sを水平方向や鉛直方向に移動させたり、試料Sを傾斜させたりすることができる。
【0036】
中間レンズ18および投影レンズ20は、対物レンズ14の後焦点面に形成された電子回折パターンを拡大、転送するレンズ(転送レンズ)として機能する。
【0037】
撮像装置22は、対物レンズ14の後焦点面に共役な面に配置されている。走査透過電子顕微鏡100では、中間レンズ18および投影レンズ20によって対物レンズ14の後焦点面が拡大、転送されることで、撮像装置22の検出面に後焦点面に共役な面が形成される。これにより、撮像装置22において、電子回折パターンを撮像することができる。なお、図示はしないが、撮像装置22を対物レンズ14の後焦点面に配置してもよい。
【0038】
撮像装置22は、電子回折パターンを二次元デジタル画像として記録可能なデジタルカメラである。撮像装置22は、例えば、ピクセル型STEM検出器である。ピクセル型STEM検出器は、電子線を二次元的に検出して二次元像を取得することができるとともに、電子線の走査に追従可能なハイスピードのイメージセンサーである。
【0039】
撮像装置22の検出面の中心(センサーの中心)は、走査透過電子顕微鏡100の光学系の光軸上に位置している。また、撮像装置22の検出面の中心は、撮像装置22で撮像された画像の中心に対応する。
【0040】
制御部30は、PC40からの制御信号に基づき、走査透過電子顕微鏡100を構成する各部10,12,13,14,18,20,22を制御する。制御部30の機能は、専用回路により実現してもよいし、プロセッサ(CPU等)でプログラムを実行することにより実現してもよい。
【0041】
PC40は、走査透過電子顕微鏡100の各部を制御するための制御信号を生成する処理や、撮像装置22で撮像された画像に基づいて、種々のSTEM像を生成する処理などを行う。
【0042】
PC40は、図示はしないが、操作部と、表示部と、記憶部と、処理部と、を含んで構成されている。操作部は、ユーザーからの入力情報を入力(検出)するための機器であり、ユーザーの入力情報を処理部に出力する。操作部の機能は、タッチパネル(タッチパネル型ディスプレイ)、タッチパッド、マウス、方向キーやボタン、キーボード等の入力機器により実現することができる。表示部は、処理部で生成された画像を出力するものであり、その機能は、LCD、CRT、或いはタッチパネルなどのディスプレイにより実現できる。記憶部は、処理部の各部(走査像生成部)としてコンピューターを機能させるためのプログラムや各種データを記憶するとともに処理部のワーク領域として機能し、その機能はハードディスク、RAMなどにより実現できる。処理部は、走査透過電子顕微鏡100の各部を制御するための制御信号を生成する処理や、種々のSTEM像を生成する処理などの処理を行う。処理部の機能は、各種プロセッサ(CPU等)でプログラムを実行することにより実現することができる。
【0043】
1.2. 画像生成方法
(1)手法
次に、第1実施形態に係る走査透過電子顕微鏡におけるSTEM像を生成する手法について説明する。
【0044】
本実施形態に係る画像生成方法は、電子線の走査によって試料S上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを撮像装置22で撮像して得られた複数の画像を取得する工程と、取得された複数の画像の各々について、画像中の透過波の像の大きさに基づき設定された積分領域内の各画素の強度を積分して、試料S上の各位置の信号強度を求める工程と、試料S上の各位置の信号強度に基づいて、STEM像を生成する工程と、を含む。
【0045】
まず、走査透過電子顕微鏡100の撮像装置22で撮像される電子回折パターンについて説明する。図2は、撮像装置22で撮像された電子回折パターンの像を模式的に示す図である。
【0046】
走査透過電子顕微鏡100では、試料Sに対して円錐状に収束された電子線が照射されるため、対物レンズ14の後焦点面には、透過波および回折波がディスク状に広がった電子回折パターンが形成される。対物レンズ14の後焦点面に形成された電子回折パターンは、中間レンズ18および投影レンズ20で転送、拡大されて撮像装置22で撮像される。このようにして、図2に示す電子回折パターンが撮像される。撮像装置22で撮像された画像には、透過波の像として、透過波のディスク(以下「透過ディスク」ともいう)があらわれ、回折波の像として、回折波のディスク(以下「回折ディスク」ともいう)があらわれる。なお、図2では、撮像装置22で撮像された画像中の透過ディスクAのみを図示している。また、図2では、画像の中心と透過ディスクAの中心とが一致している。
【0047】
次に、透過ディスクAの直径(すなわち透過ディスクの大きさ)を求める手法について説明する。
【0048】
図3は、図2に示す透過ディスクAの中心を通る直線Lに沿った強度プロファイルを示すグラフである。図4は、図3に示す強度プロファイルを微分した結果を示すグラフである。
【0049】
図3および図4に示すように、透過ディスクAの中心を通る直線Lに沿った強度プロファイルを取ることで、透過ディスクAの直径(すなわち、透過波の大きさ)を求めることができる。図4に示す強度プロファイルを微分した結果を示すグラフには、透過ディスクAのエッジ部分に信号強度が大きい箇所が現れる。そのため、図4に示す強度プロファイルを微分した結果を示すグラフにおいて、所定強度(絶対値)を閾値とすることで、透過ディスクのエッジを検出することができ、透過ディスクの直径Dを求めることができる。
【0050】
なお、透過ディスクAの直径を求める手法は、これに限定されない。例えば、図2に示す画像からHough変換を用いてディスク(円)を検出し、検出されたディスク(円)の直径を求めることで、透過ディスクAの直径を求めてもよい。
【0051】
次に、積分領域について説明する。図5は、明視野STEM像を生成するための積分領域IBF−STEMの一例を示す図である。図6は、環状明視野STEM像を生成するための積分領域IABF−STEMの一例を示す図である。図7は、微分位相コントラストSTEM像を生成するための積分領域IDPC−STEM(+),IDPC−STEM(−)の一例を示す図である。図8は、環状暗視野STEM像を生成するための積分領域IADF−STEMを示す図である。
【0052】
明視野STEM像(BF−STEM像、Bright−field scanning
transmission electron microscopy image)は、試料Sを透過した電子のうち、散乱されずに透過した電子を検出して作られるSTEM像である。明視野STEM像を生成する場合、積分領域IBF−STEMは、図5に示すように透過ディスクAの内側の領域であって、透過ディスクAの中心を中心とする円の領域に設定される。
【0053】
図5に示す例では、透過ディスクAは、画像の中心を中心とする直径が100ピクセルの円であり、積分領域IBF−STEMは、画像の中心を中心とする直径が20ピクセルの円に設定されている。
【0054】
あらかじめ透過ディスクAの直径に対する積分領域IBF−STEMの直径の割合(図5に示す例では20/100)を決めておくことで、BF−STEM像を生成する際に、透過ディスクAの直径の測定値から積分領域IBF−STEMを設定することができる。
【0055】
環状明視野STEM像(ABF−STEM像、Annular bright−field scanning transmission electron microscopy image)は、試料Sを透過した電子のうち、明視野領域における低角度散乱された電子を検出して作られるSTEM像である。環状明視野STEM像を生成する場合、積分領域IABF−STEMは、図6に示すように、透過ディスクAの内側の領域であって、透過ディスクAの中心を中心とする円環状の領域に設定される。
【0056】
図6に示す例では、透過ディスクAは、画像の中心を中心とする直径が100ピクセルの円であり、積分領域IABF−STEMは、画像の中心を中心とする直径が100ピクセルの円から、透過ディスクAの中心を中心とする直径が50ピクセルの円を除いた円環状の領域である。
【0057】
あらかじめ透過ディスクAの直径に対する積分領域IABF−STEMの内側の領域の直径の割合(図6に示す例では50/100)を決めておくことで、ABF−STEM像を生成する際に、透過ディスクAの直径の測定値から積分領域IABF−STEMを設定することができる。
【0058】
微分位相コントラストSTEM像(DPC−STEM像、Differential phase contrast scanning transmission electron microscopy image)は、試料S中の電磁場による電子線の偏向を、試料S中の各位置で計測し、電磁場を可視化したSTEM像である。微分位相コントラストSTEM像を生成する場合、2つの積分領域(積分領域IDPC−STEM(+)、および積分領域IDPC−STEM(−))が設定される。積分領域IDPC−STEM(+)および積分領域IDPC−STEM(−)は、透過ディスクAの中心に関して対称な領域である。積分領域IDPC−STEM(+)と積分領域IDPC−STEM(−)の差を取ることで、試料S内の電子線の偏向量とその方向を検出することができる。
【0059】
図7に示す例では、透過ディスクAは、画像の中心を中心とする直径が100ピクセルの円であり、積分領域IDPC−STEM(+)および積分領域IDPC−STEM(−)は、画像の中心を中心とする直径が100ピクセルの円から、画像の中心を中心とする直径が50ピクセルの円を除いた円環における中心角が90°の扇形状の領域であり、互いに画像の中心に関して対称に配置されている。
【0060】
あらかじめ透過ディスクAの直径に対する積分領域IDPC−STEM(+),IDPC−STEM(−)の内側の領域の直径の割合(図7に示す例では50/100)を決めておくことで、DPC−STEM像を生成する際に、透過ディスクAの直径の測定値から積分領域IDPC−STEM(+),IDPC−STEM(−)を設定することができる。
【0061】
環状暗視野STEM像(ADF−STEM像、Annular dark−field
scanning transmission electron microscopy image)は、試料Sを透過した電子のうち、散乱・回折した電子線を検出して作られるSTEM像である。環状暗視野STEM像を生成する場合、積分領域IADF−STEMは、図8に示すように、透過ディスクAの外側の領域であって、透過ディスクAを囲み、かつ、透過ディスクAの中心を中心とする円環状の領域に設定される。
【0062】
図8に示す例では、透過ディスクAは、画像の中心を中心とする直径が100ピクセルの円であり、積分領域IADF−STEMは、画像の中心を中心とする直径がaピクセルの円から画像の中心を中心とする直径がbピクセル(a>b>100ピクセル)の円を除いた円環状の領域である。
【0063】
あらかじめ透過ディスクAの直径に対する積分領域IADF−STEMの内径の割合(図8に示す例ではb/100)と、透過ディスクAの直径に対する積分領域IADF−STEMの外径の割合(図8に示す例ではa/100)と、を決めておくことで、ADF−STEM像を生成する際に、透過ディスクAの直径の測定値から積分領域IABF−STEMを設定することができる。
【0064】
例えば、積分領域IADF−STEMを設定する際に、「a」および「b」の値を適宜調整することで、低角度散乱環状暗視野STEM像(LAADF−STEM像、Low−angle annular dark−field scanning transmission electron microscopy image)や、高角度散乱環状暗視野STEM像(HAADF−STEM像、High−angle annular dark−field scanning transmission electron microscopy image)を生成することができる。LAADF−STEM像は、ADF−STEM像のうち、低角度に回折した電子や低角度に非弾性散乱された電子を検出して作られるSTEM像である。HAADF−STEM像は、ADF−STEM像のうち、高角度に非弾性散乱された電子を検出して作られるSTEM像である。
【0065】
上述したいずれの積分領域IBF−STEM,IABF−STEM,IDPC−STEM(+),IDPC−STEM(−),IADF−STEMについても、透過ディスクAの直径を基準として設定することができる。そのため、走査透過電子顕微鏡100では、上述した積分領域IBF−STEM,IABF−STEM,IDPC−STEM(+),IDPC−STEM(−),IADF−STEMを設定するための情報(例えば、BF−STEM像の場合には、透過ディスクAの直径に対する積分領域IBF−STEMの直径の割合)が、あらかじめPC40の記憶部に記憶されている。そして、PC40は、STEM像の種類に応じて当該情報を読み出して、透過ディスクAの直径の測定値から生成するSTEM像の種類に応じた積分領域を設定する。
【0066】
なお、上記では、透過ディスクAの大きさとして、透過ディスクAの直径を用いた例について説明したが、これに限定されない。透過ディスクの大きさとして、透過ディスクAの半径を用いてもよいし、透過ディスクAの面積を用いてもよい。
【0067】
次に、STEM像を生成する手法について説明する。
【0068】
走査透過電子顕微鏡100では、試料S上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを撮像装置22で撮像することで、試料S上の各位置ごとに、電子回折パターン中の透過ディスクを含む画像を取得することができる。
【0069】
具体的には、走査透過電子顕微鏡100では、電子源10から放出された電子線を収束レンズ12および対物レンズ14で円錐状に収束して試料Sに照射する。これにより、試料Sを透過した電子線は対物レンズ14の後焦点面に電子回折パターンを形成する。走査コイル13によって電子線は試料S上で走査されるため、撮像装置22において、試料S上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを撮像することができる。
【0070】
図9は、STEM像2を説明するための図である。図9に示すように、STEM像2は、n×m個(n,mは任意の整数)の画素(ピクセル)で構成されている。上述したように、試料S上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを撮像装置22で撮像することで、STEM像2の各画素に対応する電子回折パターンの画像を取得することができる。図9に示す例では、画素(X,Y)=(0,0),(1,0),(2,0),・・・,(n,m)に対応するn×m個の電子回折パターンの画像が取得される。
【0071】
例えば、BF−STEM像を生成する場合、n×m個の電子回折パターンの画像の各々に対して積分領域IBF−STEM内の各画素の強度値を積分し、当該積分値をSTEM像2の対応する各画素の信号強度とする。このようにして得られたSTEM像2の各画素ごとの信号強度に応じて、各画素の濃淡を設定する。これにより、BF−STEM像が生成される。ABF−STEM像およびADF−STEM像を生成する場合も同様である。
【0072】
DPC−STEM像を生成する場合、n×m個の電子回折パターンの画像の各々に対して積分領域IDPC−STEM(+)内および積分領域IDPC−STEM(+)内の各画素の強度値をそれぞれ積分し、当該2つの積分値の差を計算し、当該差をSTEM像2の対応する各画素の信号強度とする。
【0073】
なお、ここでは、BF−STEM像、ABF−STEM像、DPC−STEM像、およびADF−STEM像を生成する手法について説明したが、本実施形態では積分領域を任意に設定することもできる。したがって、本実施形態によれば、観察や分析の目的に応じて様々な種類のSTEM像を生成することができる。
【0074】
(2)走査透過電子顕微鏡の動作
次に、第1実施形態に係る電子顕微鏡の動作について説明する。ここでは、走査透過電子顕微鏡100におけるSTEM像を生成する動作について説明する。図10は、第1実施形態に係る走査透過電子顕微鏡100の動作の一例を示すフローチャートである。
【0075】
まず、PC40(処理部)が、ユーザーがSTEM像取得開始の指示を行ったか否かを判定する(ステップS100)。PC40は、例えば、ユーザーによってSTEM像取得開始ボタンや、キーボード、GUI等によりSTEM像取得開始の操作が行われた場合に、ユーザーがSTEM像取得開始の指示を行ったと判定する。このとき、ユーザーは、STEM像取得開始の指示とともに、STEM像の種類の選択する指示も行う。以下では、ユーザーが、BF−STEM像を選択した場合について説明する。
【0076】
STEM像取得開始の指示が行われたと判断された場合(ステップS100でYesの場合)、PC40(処理部)は、撮像装置22で撮像された画像中の透過ディスクの直径を測定し、測定された透過ディスクの直径に基づき積分領域IBF−STEMを設定する(ステップS102)。
【0077】
具体的には、PC40は、撮像装置22で撮像された電子回折パターンの画像を取得し、当該画像から透過ディスクの直径を測定する。当該画像は、例えば、試料Sの任意の位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを撮像して得られる。透過ディスクの直径は、上述したように、透過ディスクの中心を通る直線に沿った強度プロファイルを取ることで測定してもよいし、Hough変換を用いて測定してもよい。
【0078】
そして、PC40は、測定された透過ディスクの直径に基づいて、積分領域IBF−STEMを設定する。PC40は、記憶部に記憶されている透過ディスクAに対する積分領域IBF−STEMの割合の情報(図5に示す例では20/100)を読み出して、透過ディスクの直径の測定値に当該割合をかけて、積分領域IBF−STEMを設定する。このように、走査透過電子顕微鏡100では、ユーザーがSTEM像の種類を選択することで、自動で積分領域を設定できる。
【0079】
次に、PC40(処理部)は、電子線の走査によって試料S上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを撮像装置22で撮像して得られた複数の画像を取得する(ステップS104)。
【0080】
具体的には、PC40は、電子線で試料S上が走査されるように走査コイル13を制御する処理を行う。これにより、電子線が試料S上で走査され、試料S上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンが、撮像装置22で撮像される。そして、撮像装置22で撮像された試料S上の各位置の電子回折パターンの画像がPC40に送られる。このようにして、PC40は、試料S上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを、撮像装置22で撮像して得られた複数の画像を取得する。
【0081】
PC40(処理部)は、取得した複数の画像の各々について、設定された積分領域IBF−STEM内の各画素の強度値を積分して、試料S上の各位置の信号強度を求める(ステップS106)。そして、PC40(処理部)は、試料S上の各位置の信号強度に基づいてSTEM像(BF−STEM像)を生成する(ステップS108)。
【0082】
PC40は、撮像装置22が試料S上の各位置の電子回折パターンを撮像するごとに、設定された積分領域内の各画素の強度値を積分して信号強度を求め、STEM像に当該信号強度を反映させてもよい。すなわち、電子回折パターンの撮像と、STEM像の生成とが並行して行われてもよい。また、PC40は、撮像装置22が試料S上の各位置の電子回折パターンの撮像を行ってSTEM像を生成するために必要な画像を全て取得した後に、設定された積分領域内の各画素の強度値を積分して信号強度を求め、STEM像を生成してもよい。
【0083】
以上の処理により、STEM像を生成することができる。そして、PC40は、得られたSTEM像をPC40の表示部に表示する処理を行う。
【0084】
上記では、PC40がBF−STEM像を生成する例について説明したが、ABF−STEM像、DPC−STEM像、およびADF−STEM像を生成する場合も同様の処理で生成することができる。
【0085】
走査透過電子顕微鏡100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0086】
走査透過電子顕微鏡100では、PC40(処理部)が、電子線の走査によって試料S上の各位置を透過した電子線で形成された電子回折パターンを撮像装置22で撮像して得られた複数の画像を取得する処理と、取得された複数の画像の各々について、透過ディス
クの直径に基づき設定された積分領域内の各画素の強度を積分して、試料S上の各位置の信号強度を求める処理と、試料S上の各位置の信号強度に基づいてSTEM像を生成する処理と、を行う。そのため、走査透過電子顕微鏡100では、積分領域に応じて、観察や分析の目的に応じた様々な種類のSTEM像を生成することができる。したがって、走査透過電子顕微鏡100では、1つの検出器(撮像装置22)で、複数種のSTEM像を取得することができる。
【0087】
また、走査透過電子顕微鏡100では、積分領域を任意に設定してSTEM像を生成することができるため、STEM像の作成の自由度が高い。例えば、従来の走査透過電子顕微鏡では、新たな種類のSTEM像を得るためには、新たに検出器を準備しなければならなかったが、走査透過電子顕微鏡100では、積分領域を設定することで、新たな種類のSTEM像を得ることができる。
【0088】
また、上記では、STEM像を生成する処理において、撮像装置22で撮像された複数の画像の各々に対して1つの積分領域を設定して信号強度を求めることで、1種類のSTEM像を生成する例について説明したが、これに限定されない。走査透過電子顕微鏡100では、撮像装置22で撮像された複数の画像の各々に対して複数の積分領域を設定して当該積分領域ごとに信号強度を求めることで、複数種のSTEM像を同時に生成することができる。
【0089】
具体的には、PC40(処理部)は、試料S上の各位置の信号強度を求める処理において、設定された複数の積分領域の各々について、試料S上の各位置の信号強度を求める。このとき、信号領域は、画像上において重なる領域であってもよい。例えば、図6に示す積分領域IABF−STEMと、図7に示す積分領域IDPC−STEM(+),IDPC−STEM(−)とは画像上において重なる領域であるが同時に設定可能である。そして、PC40(処理部)は、STEM像を生成する処理において、複数の積分領域に対応する複数のSTEM像を生成する。
【0090】
例えば、従来の走査透過電子顕微鏡では、同時に複数種のSTEM像を取得する場合、対応する複数の検出器を準備しなければならず、また、それらの信号受光部分は互いに重なりあってはならなかった。これに対して、走査透過電子顕微鏡100では、上述したように、1つの検出器(撮像装置22)で、同時に複数種のSTEM像を生成することができる。また、走査透過電子顕微鏡100では、信号受光部分が重なるようなSTEM像の組み合わせであっても同時に生成することが可能である。
【0091】
2. 第2実施形態
2.1. 走査透過電子顕微鏡
次に、第2実施形態に係る走査透過電子顕微鏡について、図面を参照しながら説明する。図11は、第2実施形態に係る走査透過電子顕微鏡200を模式的に示す図である。以下、第2実施形態に係る走査透過電子顕微鏡200において、第1実施形態に係る走査透過電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0092】
第2実施形態に係る走査透過電子顕微鏡200は、上述した走査透過電子顕微鏡100と同様に、STEM像を生成することができる。走査透過電子顕微鏡200では、さらに、撮像装置22で撮像される画像の中心に透過ディスクを位置させる軸合わせを行うことができる。
【0093】
走査透過電子顕微鏡200は、図11に示すように、傾斜コイル202(第1偏向素子の一例)と、デスキャンコイル204と、偏向素子206(第2偏向素子の一例)と、を
含んで構成されている。走査透過電子顕微鏡200では、PC40(処理部の一例)が、傾斜コイル202および偏向素子206を制御して、電子回折パターン中の透過ディスクが撮像装置22で撮像される画像の中心に位置するように軸合わせを行う処理を行う。
【0094】
傾斜コイル202は、電子線を二次元的に偏向させる。傾斜コイル202が電子線を偏向させることにより、試料Sに入射する電子線の方位角および入射角を変更することができる。傾斜コイル202を用いて電子線を偏向させることにより、試料Sに入射する電子線の方位角および入射角の少なくとも一方を走査(角度走査)することができる(ビームロッキング)。
【0095】
デスキャンコイル204は、試料Sを透過した電子を二次元的に偏向させる。デスキャンコイル204は、傾斜コイル202によって電子線の方位角および入射角が変更されることで走査透過電子顕微鏡200の光学系の光軸から外れた電子線を、光軸に振り戻すために用いられる。
【0096】
偏向素子206は、試料Sを透過した電子を二次元的に偏向させる。偏向素子206は、撮像装置22の前段(電子線の流れの上流側)に配置されている。偏向素子206で電子線を偏向させることにより、撮像装置22の検出面上の所望の位置に電子線を入射させることができる。偏向素子206は、例えば、電界により電子を偏向させる静電偏向器である。なお、偏向素子206は、磁界により電子を偏向させる電磁偏向器であってもよい。
【0097】
PC40(処理部)は、例えば、STEM像を生成するための処理の前に、軸合わせを行うための処理を行う。軸合わせを行うことで、撮像装置22で撮像される画像の中心に透過ディスクを位置させることができる。
【0098】
2.2. 軸合わせ方法
まず、本実施形態に係る軸合わせ方法について説明する。本実施形態に係る軸合わせ方法は、試料Sに入射する電子線の方位角を走査して、互いに異なる方位角で得られた電子回折パターン中の透過ディスクおよび回折ディスクを含む像を撮像装置22で撮像して、当該像が積算された積算画像を取得する工程と、積算画像から透過ディスクを抽出する工程と、抽出された透過ディスクが撮像装置22で撮像される画像の中心に位置するように、撮像装置22に入射する電子線を偏向させる工程と、を含む。
【0099】
図12および図13は、試料Sに入射する電子線EBの方位角φを走査している様子を模式的に示す図である。なお、図13は、光軸OLに沿った方向から見た図である。
【0100】
図12および図13に示すように、傾斜コイル202によって電子線EBを偏向させることにより、試料Sに入射する電子線EBの入射位置を固定した状態で、試料Sに入射する電子線EBの方位角φを変更する(走査する)ことができる。図示の例では、方位角φを、方位角φ、方位角φ、方位角φ、方位角φ、と4回変更している。方位角φ=0°とすると、方位角φ=90°、方位角φ=180°、方位角φ=270°であり、方位角φを、90°間隔で変更している。
【0101】
図示の例では、電子線EBの方位角φを90°間隔で4回変更しているが、この例に限定されない。例えば、電子線EBの方位角φを45°間隔で8回変更してもよいし、30°間隔で12回変更してもよい。電子線EBの方位角φを変更する回数を多くすることにより、積算画像から透過ディスクを抽出しやすくなる。
【0102】
ここでは、方位角φのみを変更し、試料Sに入射する電子線EBの入射角θは一定とす
る。図示の例では、電子線EBの入射位置は、試料S上の光軸OLと交わる位置である。なお、方位角φに加えて入射角θを走査してもよい。
【0103】
図14は、光軸OLに沿って電子線を試料Sに入射したときの電子回折パターン中の透過波および回折波を含む像を模式的に示す図である。図15は、傾斜コイル202によって試料Sに入射する電子線を傾斜させたときの電子回折パターン中の透過波および回折波を含む像を模式的に示す図である。
【0104】
なお、図14および図15では、試料Sは、結晶性を有する試料である。また、図14では、試料Sの晶帯軸が光軸OLに沿うように試料ステージ16が調整されている。すなわち、図14では、電子線は、試料Sの晶帯軸に沿って試料Sに入射している。また、図15では、電子線は、試料Sの晶帯軸に沿って試料Sに入射していない。すなわち、電子線は晶帯軸から外れた角度で試料Sに入射している。
【0105】
試料Sに対して円錐状に収束された電子線が照射されると、対物レンズ14の後焦点面には、透過波および回折波がディスク状に広がった電子回折パターンが形成される。図14および図15に示す電子回折パターン中の透過波および回折波を含む像には、ディスクA、ディスクB、ディスクC、ディスクD、ディスクEが見られる。ディスクAは透過波の像(透過ディスク)であり、ディスクB、ディスクC、ディスクD、ディスクEは回折波の像(回折ディスク)である。図14では、ディスクA、ディスクB、ディスクC、ディスクD、およびディスクEの強度が、互いに同程度である場合を図示している。
【0106】
透過ディスクの強度は、大抵の場合、回折ディスクの強度よりも大きい。しかし、回折ディスクの強度が、透過ディスクの強度と同程度か、もしくは透過ディスクの強度よりも大きい場合もある。
【0107】
ここで、図14に示す電子回折パターンが得られた状態から、試料Sに入射する電子線を傾斜させると(例えばディスクC,Dの方位に傾斜させると)、試料Sに入射する電子線が晶帯軸から外れるため、図15に示すように、ディスクCおよびディスクDの強度が小さくなる。また、図14に示す電子回折パターンが得られた状態から、ディスクB,Eの方位に傾斜させると、図示はしないが、同様に、ディスクBおよびディスクEの強度が小さくなる。
【0108】
このように、回折ディスクB,C,D,Eの強度は、試料Sに入射する電子線の方位角φに応じて変化する。
【0109】
一方、透過ディスクAは、試料Sに入射する電子線の方位角φを変化させてもその強度は大きく変化することはなく、回折ディスクB,C,D,Eに比べて強度の変化は小さい。
【0110】
図16は、試料Sに入射する電子線の方位角φを走査して得られた像を模式的に示す図である。図16に示す像は、様々な方位角φで得られた電子回折パターンが積算された像(以下「積算画像」ともいう)といえる。
【0111】
電子線の方位角φを走査して得られた像を積算することにより、回折ディスクB,C,D,Eの強度は透過ディスクAの強度に対して相対的に減少する。そのため、図16に示す積算画像では、電子回折パターン中のディスクA,B,C,D,Eのうち、透過ディスクAが、最も大きい強度を有することとなる。
【0112】
図16に示す積算画像は、電子線の方位角φを走査して、互いに異なる方位角φの電子
回折パターンを撮像装置22で撮像し、撮像された複数の画像を積算することで取得することができる。また、図16に示す積算画像は、電子線の方位角φを走査しながら、当該走査を行っている間、撮像装置22において露光することにより、取得することができる。
【0113】
図12および図13に示す例では、傾斜コイル202によって方位角φが4方向に変更される(方位角φ=φ,φ,φ,φ)ため、撮像装置22において4つの像が撮像され、当該4つの像を積算して積算画像が得られる。なお、互いに異なる方位角φで得られた像の積算数を増やすほど、透過ディスクAの強度は、回折ディスクB,C,D,Eの強度に対して相対的に大きくなるため、透過ディスクAを抽出しやすくなる。したがって、像の積算数は多いほうが望ましい。
【0114】
積算画像では、上述したように、積算画像に含まれる複数のディスクのうち最も強度が大きいものが透過ディスクとなる。したがって、積算画像に含まれる複数のディスクから最も強度が大きいディスクを抽出することで、透過ディスクを抽出することができる。
【0115】
図17は、図16に示す積算画像を二値化して得られた画像(以下「二値画像」ともいう)である。なお、図17では、互いに直交する破線の交点が画像の中心を表している。
【0116】
図16に示す積算画像を、所定の閾値で二値化することにより、積算画像に含まれる複数のディスクから最も強度が大きいディスク、すなわち透過ディスクAを抽出することができる。ここで、所定の閾値は、例えば、透過ディスクAに含まれる画素の最小強度と、回折ディスクB,C,D,Eに含まれる画素の最大強度と、の間に設定される。なお、画像の二値化に加えてエッジ検出を併用することでより精度よく透過ディスクAを抽出することができる。
【0117】
図17に示す透過ディスクAが抽出された二値画像において、当該画像の重心Oの位置を計算し、重心Oの位置から画像の中心に延びるベクトルを計算することで補正ベクトルVが得られる。この補正ベクトルVに基づき、偏向素子206の電流量を制御して電子線を偏向させる。偏向素子206の電流量と電子線の偏向量との関係は、あらかじめ較正しておく。
【0118】
図18は、補正ベクトルVに基づき電子線を偏向させて透過ディスクAを移動させた後の画像である。
【0119】
図18に示す透過ディスクAを移動させた後の画像では、重心Oは画像の中心に位置していない。これは、図16に示す透過ディスクAを移動させる前の画像において、透過ディスクAの上部が画像からはみ出して、透過ディスクAの一部が欠けていたためである。しかし、上述した処理を繰り返し行うことで、透過ディスクAを画像の中心に位置させることができる。
【0120】
(2)走査透過電子顕微鏡の動作
次に、第2実施形態に係る走査透過電子顕微鏡の動作について説明する。ここでは、走査透過電子顕微鏡200における軸合わせの動作について説明する。図19は、第2実施形態に係る走査透過電子顕微鏡200の動作の一例を示すフローチャートである。
【0121】
まず、PC40(処理部)が、ユーザーが軸合わせ開始の指示を行ったか否かを判定する(ステップS200)。PC40は、例えば、ユーザーによって軸合わせ開始ボタンや、キーボード、GUI等により軸合わせ開始の操作が行われた場合に、ユーザーが軸合わせ開始の指示を行ったと判定する。
【0122】
軸合わせ開始の指示が行われたと判断された場合(ステップS200でYesの場合)、PC40(処理部)は試料Sに入射する電子線の方位角φが走査されるように、傾斜コイル202を制御する処理を行う(ステップS202)。傾斜コイル202によって試料Sに入射する電子線の方位角φが変更されるごとに、撮像装置22で電子回折パターン中の透過ディスクおよび回折ディスクを含む像が撮像される。
【0123】
PC40(処理部)は、撮像装置22で撮像された、互いに異なる方位角φで得られた電子回折パターン中の透過ディスクおよび回折ディスクを含む像を取得し、これらの像を積算して積算画像を取得する(ステップS204)。
【0124】
次に、PC40(処理部)は、積算画像から透過ディスクを抽出する(ステップS206)。PC40は、積算画像に含まれる複数のディスクから最も強度が大きいディスクを抽出する。具体的には、PC40は、積算画像を所定の閾値を用いて二値化することにより二値画像を生成して、複数のディスクから最も強度が大きいディスクを抽出する。これにより、積算画像から透過ディスクを抽出することができる。
【0125】
次に、PC40(処理部)は、抽出された透過ディスクの位置に基づいて、透過ディスクが撮像装置22で撮像される画像の中心に位置するように偏向素子206を制御する処理を行う(ステップS208)。
【0126】
PC40は、例えば、二値画像の重心Oの位置を計算し、重心Oの位置から二値画像の中心に延びる補正ベクトルVを計算する(図17参照)。そして、当該補正ベクトルVに基づき偏向素子206に供給される電流量を制御する。これにより、撮像装置22で撮像される画像上における電子回折パターンの位置が移動する。
【0127】
次に、PC40(処理部)は、撮像装置22で撮像された画像上における透過ディスクが画像の中心に位置しているか否かを判定する(ステップS210)。PC40は、例えば、ステップS108において計算された補正ベクトルVの大きさが所定値以下の場合に透過ディスクが画像の中心に位置していると判定する。
【0128】
透過ディスクが撮像装置22で撮像された画像の中心に位置していないと判定された場合(ステップS210でNOの場合)、PC40(処理部)は、ステップS202に戻って、ステップS202、ステップS204、ステップS206、ステップS208、ステップS210の処理を行う。PC40は、透過ディスクが撮像装置22で撮像された画像の中心に位置すると判定されるまで、ステップS202〜ステップS210の処理を繰り返し行う。
【0129】
透過ディスクが撮像装置22で撮像された画像の中心に位置していると判定した場合(ステップS210でYESの場合)、PC40(処理部)は処理を終了する。
【0130】
なお、上記では、撮像装置22が試料Sに入射する電子線の方位角φが変更されるごとに、電子回折パターン中の透過ディスクおよび回折ディスクを含む像を撮像し、PC40が、これらの像を積算して積算画像を取得する処理(ステップS204)を行う場合について説明したが、これに限定されない。例えば、電子線の方位角φの走査が行われている間、撮像装置22において露光を行うことにより積算画像を撮像し、当該積算画像をPC40が受け付けることにより、積算画像を取得してもよい。
【0131】
走査透過電子顕微鏡200では、上述した軸合わせを行った後に、STEM像を生成する処理が行われる。
【0132】
走査透過電子顕微鏡200は、例えば、以下の特徴を有する。
【0133】
本実施形態に係る走査透過電子顕微鏡200では、PC40(処理部)は、試料Sに入射する電子線の方位角φが走査されるように傾斜コイル202を制御する処理と、互いに異なる方位角φで得られた電子回折パターン中の透過波および回折波を含む像が積算された積算画像を取得する処理と、積算画像から透過ディスクを抽出する処理と、抽出された透過ディスクの位置に基づいて、透過ディスクが撮像装置22で撮像される画像の中心に位置するように、偏向素子206を制御する処理と、を行う。そのため、走査透過電子顕微鏡200では、自動で軸合わせを行うことができる。また、走査透過電子顕微鏡200では、あらかじめ透過ディスクが画像の中心に位置するように軸合わせを行うことにより、透過ディスクの直径を容易に求めることができる。したがって、走査透過電子顕微鏡200によれば、容易に、STEM像を生成することができる。
【0134】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0135】
例えば、上述した第1実施形態では、透過ディスクAの直径は、図2に示す透過ディスクの中心を通る直線Lに沿った強度プロファイルを取ることで測定している例、およびHough変換を用いて測定している例について説明したが、透過ディスクAの直径の測定方法は、これに限定されない。例えば、図20に示すように、透過ディスクAの直径は、透過ディスクAの中心を通り、互いに方向の異なる複数の直線Lに沿った強度プロファイルを取ることで測定することができる。
【0136】
図21は、図20に示す透過ディスクAの中心を通り、互いに方向の異なる複数の直線Lに沿った強度プロファイルを積算した結果を示すグラフである。図22は、図21に示す積算された強度プロファイルを平滑化した結果を示すグラフである。図23は、図22に示す平滑化された強度プロファイルを微分した結果を示すグラフである。
【0137】
まず、図20に示すように、互いに方向の異なる複数の直線Lに沿った複数の強度プロファイルを取得する。次に、取得した複数の強度プロファイルを積算する。この結果、図21に示す強度プロファイルが得られる。
【0138】
次に、図21に示す積算された強度プロファイルに対して平滑化処理を行う。この結果、図22に示す強度プロファイルが得られる。
【0139】
次に、図22に示す平滑化された強度プロファイルを微分する。図23に示すように、強度プロファイルを微分したものでは、透過ディスクAのエッジ部分に信号強度が大きい箇所が現れる。そのため、透過ディスクAのエッジを検出することができ、透過ディスクの直径を求めることができる。
【0140】
本変形例によれば、透過ディスクAの直径を測定する際に、互いに方向の異なる複数の直線Lに沿った複数の強度プロファイルを取得するため、より精度よく透過ディスクAの直径を求めることができる。また、本変形例によれば、積算された強度プロファイルを平滑化処理するため、透過ディスクAのエッジの検出精度を高めることができる。
【0141】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0142】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法およ
び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0143】
10…電子源、12…収束レンズ、13…走査コイル、14…対物レンズ、16…試料ステージ、17…試料ホルダー、18…中間レンズ、20…投影レンズ、22…撮像装置、30…制御部、100…走査透過電子顕微鏡、200…走査透過電子顕微鏡、202…傾斜コイル、204…デスキャンコイル、206…偏向素子
図1
図2
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