(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、以下に示す図は、あくまで、実施形態の実施例を説明するものであって、図の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光モジュール1の模式的な側面図である。
図1は、y−z平面を表し、x軸は紙面を貫く手前向きの軸である。光モジュール1は、アレイ型半導体レーザ素子20と、SOI(Silicon On Insulator)基板10と、光導波路30とを備える。アレイ型半導体レーザ素子20が出射する光の伝送路と、光導波路30とはSOI基板10に設けられる光学素子により光結合される。なお、半導体レーザ素子はアレイ型ではなく個別の半導体レーザを複数配置しても良い。
【0022】
図2は光モジュール1の模式的な上面図である。
図2は、x−z平面を表し、y軸は紙面を貫く手前向きの軸である。本実施形態では光モジュール1として、4つの光信号のパラレル伝送に用いられるものを例示している。図示の都合上、
図2では、アレイ型半導体レーザ素子20の記載を省略しているが、アレイ型半導体レーザ素子20は、複数本の光ビームを出射する光素子であって、本実施形態ではそれぞれレーザ光を生成する4つのレーザ素子がx軸方向に配列されている。また、
図2にはアレイ型半導体レーザ素子20からの4つのレーザ光を入力される4つの光導波路30が示されている。当該各レーザ光の光導波路30に対する光軸を調整するために、SOI基板10には、操作レバー11、素子部12及び支持ばね13を含む光軸調整機構として、第1の光軸調整機構A、第2の光軸調整機構B、第3の光軸調整機構C及び第4の光軸調整機構Dが配列されている。このように、複数のレーザ素子及び光導波路をアレイ化することで、光モジュール1を小型化することができる。ちなみに、本実施形態に係る光モジュール1では、アレイ間隔(例えば、第1の光軸調整機構Aに入射するレーザ光と第2の光軸調整機構Bに入射するレーザ光とのx軸方向についての間隔)は250μmである。
【0023】
アレイ型半導体レーザ素子20は、既に述べたように複数本の光ビームを出射する光素子であって、具体的にはそれぞれレーザ光を生成する4つのレーザ素子がx軸方向に配列されている。アレイ型半導体レーザ素子20は、レーザ光を発振する光共振器21と、レーザ光を下方に反射する鏡面22と、レーザ光を集束するレンズ23とを含む。ここで、レンズ23は、光レーザビームを集束するレンズであり、アレイ型半導体レーザ素子20と一体で形成されている。レンズ23がアレイ型半導体レーザ素子20と一体で形成されていることにより、光モジュール1がより小型化される。
【0024】
SOI基板10は、シリコン(Si)基板の上にシリコン酸化物(SiO
2)からなる絶縁層(SiO
2層)と表面Si層とが順に積層された基板である。本実施形態では、SOI基板10の表面を加工して、操作レバー11、素子部12、支持ばね13及びバンク14がSOI基板10と一体に形成される。
【0025】
素子部12は、2つの光伝送路を光結合する光学素子を備える。例えば、素子部12は光学素子を支える土台を有し、光学素子は当該土台に取り付けられたり、一体に形成されたりする。本実施形態では素子部12はレーザ光を反射する鏡面12aを光学素子とするミラーであり、レーザ光の進行方向を変換してアレイ型半導体レーザ素子20からの出射光の伝送路を光導波路30に光結合する。なお光学素子はミラーに限らずレンズ等であっても良い。
【0026】
操作レバー11はSOI基板10におけるSi基板の表面上に延在され、素子部12を基板表面上にて動かす際に操作される。本実施形態では操作レバー11はz軸方向に延伸して設けられ、
図2にて左側に位置する一方端を素子部12に接続される。また、操作レバー11の他方端にはハンドル11aが設けられている。
【0027】
支持ばね13は、一方端を素子部12に接続され、他方端をバンク14に接続される。なお、本実施形態では支持ばね13は、x軸方向に延伸して設けられ、
図1における断面には現れていない。
【0028】
本実施形態に係る光モジュール1において、操作レバー11、素子部12及び支持ばね13は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の加工技術を用いて形成されている。具体的には、操作レバー11、素子部12及び支持ばね13は、SOI基板10の表面Si層及び絶縁層をエッチングしてそれらの外形を切り出した後、当該外形における表面Si層下の絶縁層のみをエッチングにより除去することで形成される。そのような工程により、操作レバー11、素子部12及び支持ばね13はSOI基板10の絶縁層下に位置するSi基板の表面との間に隙間を形成されており、支持ばね13はバンク14に接続された端部を支点として、支持ばね13自身と素子部12及び操作レバー11とをSi基板表面から宙に浮いた状態に支持する。操作レバー11、素子部12及び支持ばね13をSOI基板10の表面Si層に一体的に形成することで、微細で可動範囲の広い光軸調整機構を得ることができ、光軸調整範囲が広く、小型化された光モジュール1が得られる。
【0029】
バンク14は、SOI基板10のSi基板表面から高くなった凸部である。例えば、SOI基板10の表面を削って素子部12、操作レバー11及び支持ばね13を形成する一方で、バンク14はSOI基板10にて表面を削らずに残すことで形成される。バンク14には、操作レバー11の長手方向(z軸方向)に沿った側面に向き合う段差面を有した部分であるレバー対向部分14aが設けられる。
【0030】
図2に示すように本実施形態では、支持ばね13は、操作レバー11と異なる方向に延びている。すなわち、操作レバー11は後述する調整前の状態では基本的にz軸方向に延びているのに対して、支持ばね13の伸縮し易い方向はx軸方向である。また、支持ばね13は素子部12から見てx軸の正方向側と負方向側とにそれぞれ設けられ、また、バンク14も操作レバー11から見てx軸の正方向側と負方向側とにそれぞれ設けられる。具体的には、2つのバンク14はそれぞれ、z座標に関し、素子部12の辺りからハンドル11aの辺りまでz軸方向に延在したレバー対向部分14aを有する。2つのレバー対向部分14aはそれらの間に操作レバー11、素子部12及び支持ばね13を挟んで対向配置される。各バンク14の素子部12側の端部は、支持ばね13の素子部12とは反対側の端部とつながる。
【0031】
SOI基板10にて操作レバー11、素子部12、支持ばね13及び、バンク14の支持ばね13の接続点からレバー対向部分14aにかけては、SOI基板10の平面視にて湾形状に連なる段差を形成する。この段差によって、SOI基板10の表面には湾形状に囲まれた凹部である貯留部15が形成される。なお、本実施形態では貯留部15は、操作レバー11から見てx軸の正方向側と負方向側とにそれぞれ形成される。当該凹部の底面は基本的にSi基板表面の高さを有する。
【0032】
光モジュール1は貯留部15に流し込まれ硬化された接着剤16を有する。接着剤16は操作レバー11、素子部12及び支持ばね13をSOI基板10に対して固定する。例えば、接着剤16は紫外線硬化樹脂やはんだである。
【0033】
図1に示すように、素子部12は鏡面12aを有し、鏡面12aと光導波路30との間の第1光路と、鏡面12aとアレイ型半導体レーザ素子20との間の第2光路とが重ならないように、鏡面12aは斜め上方を向いている。これにより、アレイ型半導体レーザ素子20からy軸に関して負の方向に出射されたレーザ光は、z軸に関して正の方向に反射されて光導波路30に入射する。素子部12は小型化が容易であり、操作レバー11の先端に素子部12を設けることで、操作レバー11にボールレンズ等の他の光学部品を設ける場合と比較して、光軸調整機構を小型化でき、光モジュール1を小型化できる。また、素子部12と光導波路30との距離を短くすることができ、光モジュール1を小型化できる。なお、本実施形態に係る素子部12の鏡面12aは、法線方向がy−z平面内に収まる平面だが、湾曲面であってもよいし、法線方向がy−z平面から外れる平面であってもよい。
【0034】
支持ばね13は、素子部12が少なくとも2軸に沿った移動又は回転によって向きを変えられるように、素子部12とSOI基板10を連結する。具体的には、支持ばね13は、素子部12がx軸、y軸及びz軸に沿って移動できるように設けられている。また、支持ばね13は、素子部12がx軸、y軸及びz軸を中心として回転できるように設けられている。このように、素子部12が、少なくとも2軸に沿った移動又は回転によって向きを変えられることで、レーザ光が光導波路30に結合するように光軸を調整することができる。また、アレイ型半導体レーザ素子20から出射される複数のレーザビームごとに、独立して光軸調整機構が設けられることで、全ての光導波路30について光結合を最適化することができる。なお、本実施形態に係る支持ばね13は、弾性変形するものであるが、塑性変形するものであってもよい。また、支持ばね13のばねの段数や幅を調整することで、素子部12を変位させるのに必要となる外力の大きさ及び素子部12の保持力を適宜調整することができる。
【0035】
操作レバー11は、素子部12から、光導波路30への接近を避ける方向に延びている。具体的には、操作レバー11は、z軸に関して負の方向に延びている。言い換えると、操作レバー11は、光導波路30の延伸方向と同じ方向に延びている。操作レバー11が光導波路30への接近を避ける方向に延びていることで、操作レバー11の可動範囲が広く確保され、アレイ型半導体レーザ素子20等との干渉が無い位置で操作レバー11を操作できるため、光軸調整機構の調整可能範囲及び操作性が良好となる。
【0036】
バンク14は上述の操作レバー11、素子部12及び支持ばね13を含む光軸調整機構の各部の調整時における動きを妨げない位置に配置され、貯留部15の周りの湾形状の段差の一部を構成する。
【0037】
貯留部15は光軸調整機構の固定のために流し込まれる接着剤16を溜める機能を有し、当該機能に関し、バンク14は接着剤16の流出を阻止するダムとしての働きを有する。すなわち、バンク14は貯留部15内の接着剤16が光軸調整機構から遠ざかる方向へ広がることを妨げ、光軸調整機構に十分な接着剤16が付着した状態を維持する。
【0038】
また、貯留部15は、操作レバー11のハンドル11a側の端部の近傍に、硬化前の接着剤16の流出を阻止する流出阻止部を有する。貯留部15となる凹部を形成する操作レバー11、素子部12、支持ばね13及びバンク14からなる段差は湾形状であり、当該湾形状の開口部には段差が存在しない。流出阻止部は、当該開口部から接着剤16が流出しにくくする働きを有する。
【0039】
本実施形態においてバンク14の一部が流出阻止部14bを構成する。流出阻止部14bは平面視にて、レバー対向部分14aの開口部近傍の位置から、操作レバー11の端部であるハンドル11aに向けて突き出した凸部である。例えば、流出阻止部14bは平面視にて、z軸方向に延びるレバー対向部分14aの端部からx軸方向に延び、z軸方向の幅が一定の形状とすることができる。
【0040】
流出阻止部14bは湾形状の凹部の開口部を狭め、接着剤16が貯留部15から流出しにくくする。また、流出阻止部14bは専ら湾形状の間口を狭め、湾形状の奥は基本的に狭めないように構成され、これにより、貯留部15内に光軸調整機構の固定に十分な量の接着剤16を溜めることを可能とする。
【0041】
図3は光モジュール1のSOI基板10における1つの光軸調整機構に関する部分の模式的な上面図である。調整前の状態では操作レバー11は基本的には上述したようにz軸方向に延在し、
図3(a)はこの状態を示しており、操作レバー11はz軸方向に沿った位置31aにある。一方、調整により操作レバー11は動かされ、z軸に対して角度をなし得、
図3(b)はこの状態の一例を示している。
【0042】
ここで便宜上、
図3(a)の状態での操作レバー11の中心軸をz軸とし、光軸調整機構においてx座標が負の側(
図3において位置31aより上側)を右側とし、逆にx座標が正の側(
図3において位置31aより下側)を左側と定義する。
図3(b)では、ハンドル11aが位置31aより左側に動かされ、操作レバー11は素子部12を中心として時計回りの方向に回転している。
【0043】
図4は
図3のIV−IV線でのSOI基板10の部分断面図であり、
図4(a),(b)はそれぞれ
図3(a),(b)に対応する垂直断面図である。ここで、SOI基板10のSi基板10aの表面を高さの基準、つまり高さ0として、操作レバー11、素子部12及び支持ばね13の下面、上面の高さをそれぞれH
D,H
Uと表す。また、例えば、操作レバー11、素子部12及び支持ばね13の側面での接着剤の表面の高さをH
Sと表す。ちなみに、SOI基板10をエッチングして操作レバー11やバンク14を形成する場合、例えば、SOI基板10の絶縁層の厚みがH
Dに対応し、また、表面Si層の表面の高さがH
Uに対応し得、そして、バンク14の高さは基本的にH
Uとなり得る。
【0044】
本実施形態では、光軸調整機構の平面視の形状は、位置31aの操作レバー11のz方向に沿った中心軸に対して線対称としており、操作レバー11、素子部12、支持ばね13及びバンク14は上述の左右の定義において基本的に左右対称(
図3にて上下対称)である。この場合、操作レバー11が位置31aにある調整前の状態では、右側の貯留部15Rと左側の貯留部15Lとは基本的に同じ大きさであり、それらには基本的に同量の接着剤16が注入される。これは
図4(a)では、左右の貯留部15にて接着剤16の高さH
Sが同じ高さH
S0になることに表されている。H
Dは本実施形態では2μm程度であるが、これに限定されるものではなく、使用する接着剤の種類や他の構造物との位置関係に応じて適宜選択して構わない。
【0045】
図3(a),
図4(a)の状態から、操作レバー11が動かされ位置31bに移動すると、右側の貯留部15Rは広くなり、左側の貯留部15Lは狭くなる。その結果を、
図4(b)では、右側の貯留部15Rでは接着剤16が広がり
図4(a)に示す状態より高さが低くなり、左側の貯留部15Lでは接着剤16が寄せ集められ
図4(a)に示す状態より高さが高くなる様子として表している。このときの右側でのH
SをH
S−、また左側でのH
SをH
S+と表しており、H
S+>H
S0>H
S−となる。なお、接着剤の粘性が低い場合や操作レバー11の位置変動が少ない場合等は、操作レバー11側面の接着剤の高さは経時的に変化して左右でほぼ同等となる場合もあるが、ここではレバー位置変動直後の状態を示している。
【0046】
ここで、レバー対向部分14a又は流出阻止部14bを有さない光軸調整機構の構造を比較例とし、レバー対向部分14a及び流出阻止部14bを含むバンク14を有する本実施形態の光軸調整機構の構造と当該比較例とを対比する。
【0047】
比較例では、操作レバー11の近傍に注入された接着剤は操作レバー11から見て外側へ伸展し易く、厚い接着剤層を形成しにくい。そのため、操作レバー11、素子部12及び支持ばね13と接着剤との接触面積が小さくなり、それらの固定が不十分になり易い。ここで、操作レバー11、素子部12及び支持ばね13の側面と接着剤との接触面積S
Cは、大まかにはH
S−H
Dに比例すると考えることができる。よって、接着剤層が薄くH
Sが小さくなるとS
Cが小さくなり、接着強度が低くなり得る。特に、操作レバー11の移動方向とは逆側(例えば、操作レバー11を左側に動かした場合、操作レバー11の右側)でのH
Sは、操作レバー11の移動前における値H
S0より小さい値H
S−となり、さらに接着強度が低下し得る。
【0048】
これに対し、バンク14を設け貯留部15を備えた本実施形態の光軸調整機構では、接着剤16の厚みはバンク14の高さ(例えばH
U)に応じて大きくすることが可能であり、接触面積S
Cの増加を図ることができる。
【0049】
また、貯留部15は操作レバー11の移動に対する接着剤16の厚みの変化を小さくするバッファとしての機能を有し、操作レバー11の位置に依らず十分な接着強度が得られる接触面積S
Cを確保することを可能とする。
【0050】
例えば、操作レバー11が中心にある
図3(a),
図4(a)の状態での貯留部15L,15Rの面積をA
0とし、操作レバー11を左側に最大限に移動させた状態での貯留部15L,15Rの面積をそれぞれA
0−ΔA,A
0+ΔAとする。そして、貯留部15に注入した接着剤16の面積は貯留部15の面積に比例すると仮定し、また操作レバー11を左側に最大限に移動させた状態での貯留部15L,15Rそれぞれでの接着剤16の高さH
SをH
S0+ΔH,H
S0−ΔHとすると、近似的には、
ΔH/H
S0=ΔA/A
0 ………(1)
となる。接着剤16の高さの上限はH
U以下とすることが好ましい。よって、
H
S0+ΔH≦H
U ………(2)
である。また、十分な接着強度が得られる接触面積S
Cを与える接着剤16の高さの最小値をH
Lと表すと、
H
S0−ΔH≧H
L ………(3)
である。(2)式,(3)式から
ΔH≦(H
U−H
L)/2 ………(4)
が得られる。
【0051】
ここで、(1)式を用いて(2)式,(3)式からH
S0を消去すると、ΔHの上限及び下限がΔA/A
0の関数として表される。それらの関数の性質から、当該上限及び下限が等しくなるときΔHは最大値となり、また、このときΔA/A
0も最大値をとることが分かる。このことは、或るΔAに対しA
0が小さい、つまりΔA/A
0が大きいほど、貯留部15の上述のバッファとしての効果は小さくなって操作レバー11の左右での接着剤16の高さの差(2ΔH)が大きくなることから直感的にも理解される。ΔHの最大値は(4)式右辺で与えられる値であり、ΔA/A
0の最大値は、(H
U−H
L)/(H
U+H
L)である。
【0052】
つまり、バッファ機能を実現する上では、想定されるΔAに対し、貯留部15の面積A
0を、
ΔA/A
0≦(H
U−H
L)/(H
U+H
L) ………(5)
を満たすように設定することが好適である。一方、貯留部15を含む光軸調整機構のサイズを小さくし光モジュール1の小型化を図る上では、A
0は小さい方がよい。よって、例えば、A
0は(5)式にて等号が成立する値である、ΔA・(H
U+H
L)/(H
U−H
L)に設定することができる。
【0053】
図3(b),
図4(b)の状態では、貯留部15のバッファ機能により、操作レバー11の貯留部15Rに面する側面と接着剤16との接触面積S
Cが確保され、接着剤16の操作レバー11への安定した付着状態が実現される。
【0054】
一方、貯留部15Lでは、操作レバー11の左側への移動量が大きい程、接着剤16が高まり、外へ広がろうとする力も大きくなる。しかし、操作レバー11が左側へ移動するほど、流出阻止部14bと操作レバー11との距離が近くなり、貯留部15Lの開口部が狭まるので接着剤16が流出しにくくなる。つまり、貯留部15の面積A
0はバッファ機能が得られる程度には大きくしなければならないところ、流出阻止部14bを設けることで、接着剤16の貯留部15からの流出を防ぎつつA
0を大きくすることが可能である。
【0055】
この観点で、操作レバー11の端部に位置するハンドル11aから流出阻止部14bの凸部先端までの距離を、操作レバー11におけるハンドル11a以外の箇所からレバー対向部分14aまでの距離より小さくすることで、開口部は狭くしつつ、貯留部15の面積を確保することができる。なお、流出阻止部14bは、調整により移動される操作レバー11と干渉しない位置に設けられる。
【0056】
ちなみに、支持ばね13とSi基板との間には隙間が存在するが当該隙間は狭いため、この隙間が貯留部15の接着剤16を溜める機能に与える影響は小さいものと考えることができる。
【0057】
なお、本実施形態に係るアレイ型半導体レーザ素子20は、SOI基板10に平行な方向に光共振器21を備えたレーザに、SOI基板10に垂直な方向に発振光を出射させる鏡面22を有しているタイプであるが、これに限定されない。例えば、SOI基板10に垂直な方向に光共振器を備え、SOI基板10に垂直な方向に発振光を出射する所謂VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)を用いてもよい。さらには、SOI基板10に平行な方向に光共振器を備え、SOI基板10に平行な方向に発振光を出射する端面出射型レーザを用いてもよい。なお、端面出射型レーザを用いる場合は、出射端面側をSOI基板10に対向するように配置し、該出射端面と鏡面12aとの間に集光レンズを別に設ける等の配置が好ましい。また、本実施形態に係るアレイ型半導体レーザ素子20は、波長がおおよそ1310nmであるレーザ光を発振するものであるが、レーザ光の波長は、光通信において通常用いられる1.3μm帯のその他の波長又は1.55μm帯の波長であってもよい。
【0058】
なお、素子部12の鏡面12aは、45°の面としてもよいし、Si表面層に異方性ウェットエッチングを施すことにより45°以外の面としてもよい。シリコンの場合、水酸化カリウムによるウェットエッチングで傾斜角が約54°の結晶面を形成することができる。その場合、例えば出射光をy軸から光共振器21の端面側に約18°傾ければ、鏡面12aで反射された光の光軸をSOI基板10とほぼ平行とすることができる。
【0059】
図5は、本発明の実施形態に係る光モジュール1の製造方法における調整工程を示す上面図である。本実施形態に係る光モジュール1の製造方法では、既に述べたように、SOI基板10に操作レバー11、素子部12及び支持ばね13を一体的に形成する工程が行われる。またこの工程とは別に、光信号を発振又は受信する光素子として本実施形態ではアレイ型半導体レーザ素子20を準備する工程と、光信号を伝送するための光導波路30を準備する工程とが行われる。なお、レーザ光を集光するレンズ23は本実施形態ではアレイ型半導体レーザ素子20に集積されて形成されているが、これに限定されず別体としてレンズ23を用意しても構わない。次に、これらを
図1,
図2で示すような形態となるように組み立てる。また、この組み立てが完了するまでのいずれかの時点で、貯留部15に接着剤16を配置する工程が行われる(接着剤配置工程)。接着剤16が紫外線硬化樹脂の場合、貯留部15に注射器状の注入器で液状の紫外線樹脂を注入する。接着剤16がはんだの場合、貯留部15にはんだボールを投入してから加熱して溶融状態とするか、あらかじめSOI基板上にはんだパターンを作成しておき、加熱することで溶融状態とする。なお、本明細書においては接着剤を溶融状態として配置することを注入と表現しており、上記のとおり言葉通り流動のある接着剤を注入することだけではなく、はんだのような加熱をして溶融状態とするものを用いる場合も含めて注入と表現している。いずれにしても操作レバー11を動かして光軸調整を行う工程においては、接着剤16は流動性を維持した状態としておく。本発明では接着剤16が紫外線硬化樹脂やはんだである例を挙げているが、これに限定されるものではなく、調整工程時に流動性を有し、調整工程後に固定が維持できる材料であれば代わりのものを用いても構わない。
【0060】
組み立て後、調整工程が行なわれる。調整工程は、操作レバー11により素子部12の位置又は向きを操作し、素子部12の鏡面12aで反射されたレーザ光の進行方向を調整する工程であり、貯留部15内の接着剤16の流動性を維持したまま行われる。例えば、接着剤16が紫外線硬化樹脂である場合は、紫外線がカットされた環境で調整工程が行われる。また、接着剤16にはんだを用いる場合は、ヒーター等で加熱してはんだの溶融状態を維持する。
【0061】
図5に示す例では、光軸の向きがy軸を中心として角度θだけ回転させられ、第1の方向P1から第2の方向P2に変えられている。調整工程によって、前工程においてアレイ型半導体レーザ素子20や光導波路30の取付け位置に誤差が生じた場合であっても、光信号が光導波路30に確実に光結合され、光信号の損失を低減して伝送することができる光モジュール1が得られる。
【0062】
調整工程において、素子部12の向きは、素子部12が配置される位置を基準として光導波路30の反対側に位置する操作レバー11の端部(ハンドル11a)に外力を加えることで操作する。ハンドル11aは、マニピュレータにより把持したり、鈎をかけたりすることができるものであってよい。ハンドル11aに加えられる外力は、マニピュレータにより直接加えられる接触力であってよい。もっとも、ハンドル11aに加えられる外力は、静電気力等の遠隔力であってもよい。
【0063】
調整工程後、接着剤16を硬化させて、素子部12と共に、素子部12につながる可動部である操作レバー11及び支持ばね13をSOI基板10に対して固定する接着剤硬化工程が行われる。これにより、素子部12の位置及び向きは調整された状態に固定され、アレイ型半導体レーザ素子20からの各レーザ光が確実に光導波路30に光結合した光モジュール1が得られる。また、操作レバー11及び支持ばね13が固定されることで、例えば、それらの振動が防止されるので、当該振動が素子部12に伝わり光結合に悪影響を与えることが防止される。なお、固定は操作レバー11の一部だけであってもよいが、安定的に固定するためには操作レバー11の全体、できればハンドル11aに近いところから支持ばね13を含む領域を固定することが好ましい。
【0064】
図2に示す構成では、支持ばね13が操作レバー11と異なる方向に延在されている。これにより、支持ばね13の伸縮し易い方向と操作レバー11の延伸する方向とが直交することになり、素子部12の可動範囲が広がる。また、操作レバー11の左右に貯留部15が設けられているため、操作レバー11を左右両方から固定することができ、操作レバー11の固定強度が増す。
【0065】
また、本実施形態に係る光モジュール1において、支持ばね13の支点は、素子部12と光導波路30との間には設けられず、素子部12から光導波路30に接近しない方向であるx軸方向に離れたバンク14に設けられる。これにより、素子部12と光導波路30との間の距離を縮めることができ、光モジュール1を小型化できる。なお本実施形態では支持ばね13を「ばね」と呼称したが、これはその機能を表現しているに過ぎず、弾性的に素子部12を可動であれば所謂ばね形状である必要はなく、何かしらの弾性体であってもよい。
【0066】
(第1の変形例)
図6は、第1の実施形態の第1の変形例に係る光モジュール1Aの光軸調整機構を示す上面図である。なお、同図において貯留部15内の接着剤16は図示を省略している。
【0067】
上記第1の実施形態の光モジュール1の各光軸調整機構は平面視にて、z軸に沿った操作レバー11を中心に両側に対称の構造を有していたが、本変形例の光軸調整機構はその片側からなる構造である。つまり、本変形例では、支持ばね13及びバンク14は1つであり、素子部12はそのx軸方向の片側のみを支持ばね13で支持される。支持ばね13は片側だけであるが、貯留部15があることで十分に接着剤16を配置することができるために、操作レバー11の固定性は十分に確保することができる。
【0068】
本変形例のように、操作レバー11の片側のみに支持ばね13やバンク14、貯留部15を設けることで、第1の実施形態と比べてさらに光軸調整機構を小型化することができ、アレイ化した場合に光モジュール1A全体を小型にすることができる。
【0069】
(第2の変形例)
図7は、第1の実施形態の第2の変形例に係る光軸調整機構を示す上面図である。なお、同図において貯留部15内の接着剤16は図示を省略している。本変形例の特徴は、流出阻止部14bの形状にあり、その形状を上記第1の変形例と同様、片側支持の構成にて図示しているが、第1の実施形態の両側支持の構成の2つのバンク14の流出阻止部14bについても本変形例の形状とすることができる。
【0070】
本変形例の流出阻止部14bは貯留部15の内側に面する段差14cを
図7にて斜めに形成されている。例えば、流出阻止部14bは平面視にて、z軸方向の幅がバンク14側から操作レバー11側に向けて狭まる形状であり、これに対応して、貯留部15は、x座標が流出阻止部14bの先端での位置からレバー対向部分14a側に向けて移動するにつれてz軸方向の幅が狭まる形状を有する。
【0071】
(第3の変形例)
図8は、第1の実施形態の第3の変形例に係る光軸調整機構を示す上面図である。なお、同図において貯留部15内の接着剤16は図示を省略している。本変形例の特徴は、流出阻止部14bの形状にあり、その形状を上記第1の変形例と同様、片側支持の構成にて図示しているが、第1の実施形態の両側支持の構成の2つのバンク14の流出阻止部14bについても本変形例の形状とすることができる。本変形例の流出阻止部14bは先端に貯留部15の内側に向かう突起14dを有する。第1の実施形態と比べて接着剤の流れに対して流出阻止部に返し(14d)を有しているため、バンク14からの接着剤流出防止効果を高めることができる。
【0072】
(第4の変形例)
図9は、第1の実施形態の第4の変形例に係る光軸調整機構を示す上面図である。なお、同図において貯留部15内の接着剤16は図示を省略している。
【0073】
本変形例では、バンク14に支点を有し素子部12を支持する支持ばね13がz軸方向に沿って配置される。具体的には、操作レバー11、素子部12及び支持ばね13がz軸に沿って1つの線上に配置される。また、素子部12と操作レバー11との間にばね17を配置してもよい。バンク14は操作レバー11の両側に配置され互いに対向するレバー対向部分14aと、各レバー対向部分14aの一方端部の流出阻止部14bと、2つのレバー対向部分14aの他方端部間をつなぐ連結部14eとを有する。支持ばね13の支点は連結部14eに設けられる。
【0074】
第1〜第3の変形例のように、操作レバー11の片側のみに貯留部15を設ける構成にて、操作レバー11、素子部12及び支持ばね13を直線上に一列に配置する構成とすることもできる。
【0075】
(第5の変形例)
図10,
図11は、第1の実施形態の第5の変形例に係る光軸調整機構を示す上面図である。なお、同図において貯留部15内の接着剤16は図示を省略している。本変形例の特徴は、貯留部15の湾形状をなす側面に凹凸18を有する点にある。例えば、
図10の構成では操作レバー11の側面にフィン構造の凹凸を有する。また、
図11の構成ではレバー対向部分14aの側面にフィン構造の凹凸を有する。凹凸はその凹部に接着剤16が入り込む形状、サイズに形成され、これにより接着剤16の付着面積が増え、接着剤16を硬化したときの強度が増加する。
【0076】
なお、
図10,
図11では、第1の変形例と同様、片側支持の構成にて図示しているが、第1の実施形態の両側支持の構成についても本変形例の特徴を適用することができる。
【0077】
[第2の実施形態]
以下、第2の実施形態について、基本的に第1の実施形態との共通点は説明を省略し、相違点に焦点を当てて説明する。
【0078】
図12は第2の実施形態に係る光モジュール1Bの模式的な上面図である。なお、同図において貯留部15内の接着剤16は図示を省略している。光モジュール1Bが上述の第1の実施形態と基本的に異なる点は、流出阻止部19にある。第1の実施形態の流出阻止部14bはバンク14の一部であり、Si基板表面に段差を形成する凸部であった。これに対し、流出阻止部19は、貯留部15の開口部、つまり、操作レバー11、素子部12、支持ばね13及び、支持ばね13の接続点からレバー対向部分14aにかけてのバンク14が形成する段差が平面視にて形成する湾形状における開口部に形成され、当該開口部よりも湾形状内に入り込んだ貯留部15の内部領域と比較して接着剤16に対するぬれ性が低い基板表面である。
【0079】
本実施形態では流出阻止部19は、Si基板にて、z軸に沿った位置にある操作レバー11のハンドル11aとレバー対向部分14aの開口部近傍の位置とを結ぶ帯状の領域に形成される。
【0080】
上述したように操作レバー11の移動により貯留部15の面積が小さくなると、接着剤16が高まり、外へ広がろうとする力も大きくなる。そこで、流出阻止部19は、操作レバー11の移動により面積が小さくなる状態での貯留部15の開口部を閉じるような位置、形状、幅の領域に形成するのが好適である。また、より好適には、流出阻止部19は、操作レバー11の移動により面積が大きくなる状態での貯留部15の開口部を閉じるような位置、形状、幅の領域に形成する。
【0081】
例えば、流出阻止部19は接着剤16に対する離型剤を当該領域に選択的に付着して形成される。付着は蒸着や塗布などの手法により行われる。
【0082】
第1の実施形態の第1〜第5の変形例において流出阻止部14bに代えて、流出阻止部19を設ける構成とすることもできる。また、第1の実施形態及びその各変形例におけるバンク14の流出阻止部14bを備えた貯留部15の開口部に流出阻止部19を形成することもできる。
【0083】
[第3及び第4の実施形態]
本発明の特徴は主として光軸調整機構にあり、それ以外の部分、特にSOI基板10以外の部分の構成は上述の実施形態に限定されない。
図13,
図14はその例を示す実施形態である。
【0084】
図13は、第3の実施形態に係る光モジュール1Cを示す側面図である。光モジュール1Cは、素子部12の鏡面12aと光導波路30との間に、光アイソレータ40をさらに備える。光アイソレータ40は、z軸の正方向に進行する光を通過させるが、z軸の負方向に進行する光は遮断する。そのため、アレイ型半導体レーザ素子20への戻り光が抑制される。
【0085】
また、光モジュール1Cにおいて、アレイ型半導体レーザ素子20と一体に形成されたレンズは、コリメートレンズ24である。コリメートレンズ24は、鏡面22で反射された発散光を平行光に変換して鏡面12aに入射させる。そのため、光アイソレータ40には、平行光が入射する。
【0086】
光アイソレータ40と光導波路30との間には、集束レンズ41が設けられる。集束レンズ41は、光アイソレータ40を通過した平行光を集束させ、光導波路30に光結合させる。第1の実施形態では、支持ばね13とSOI基板10との接合部は、光導波路30側になく、鏡面12aと光導波路30との間には何もない空間が設けられている。そのため、本実施形態で示すように、この空間に光アイソレータ40等を配置することができ、かつ光モジュール全体のサイズが大幅に大きくなることを防止することができる。
【0087】
図14は、第4の実施形態に係る光モジュール1Dの側面図である。光モジュール1Dは第1の実施形態のアレイ型半導体レーザ素子20に代えて光素子としてアレイ型半導体受光素子50を有する。アレイ型半導体受光素子50は、光導波路30によって伝送され、素子部12の鏡面12aによって反射された光を受光し、光信号の内容を読み取る素子である。アレイ型半導体受光素子50には、レンズ51が一体的に形成され、鏡面12aで反射された発散光を集束させて受光する。
【0088】
光モジュール1Dの製造方法では、調整工程において、操作レバー11により素子部12の向きを操作し、鏡面12aで反射された光の進行方向を調整して、光がアレイ型半導体受光素子50に光結合するように調整される。このようにして、アレイ型半導体受光素子50や光導波路30の取付け位置に誤差が生じた場合であっても、光信号がアレイ型半導体受光素子50に確実に光結合され、光信号の損失を低減して読み取ることができる光モジュール1Dが得られる。
【0089】
これら第3、第4の実施形態においても、SOI基板10に形成される光軸調整機構は第1の実施形態及びその変形例、並びに第2の実施形態で説明した構成のいずれかと同様の構成とすることができる。