(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783140
(24)【登録日】2020年10月23日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】非イオン性X線造影剤の合成における代替アセチル化方法
(51)【国際特許分類】
C07C 231/02 20060101AFI20201102BHJP
C07C 237/46 20060101ALI20201102BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20201102BHJP
【FI】
C07C231/02
C07C237/46
!C07B61/00 300
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-536235(P2016-536235)
(86)(22)【出願日】2014年12月8日
(65)【公表番号】特表2016-539147(P2016-539147A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】EP2014076885
(87)【国際公開番号】WO2015082719
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2017年11月27日
【審判番号】不服2019-9005(P2019-9005/J1)
【審判請求日】2019年7月4日
(31)【優先権主張番号】61/912,794
(32)【優先日】2013年12月6日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/969,932
(32)【優先日】2014年3月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】396019387
【氏名又は名称】ジーイー・ヘルスケア・アクスイェ・セルスカプ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100131990
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 玲恵
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】サーナム,インガ・ダグニー
(72)【発明者】
【氏名】ハーランド,トルフィン
(72)【発明者】
【氏名】カルバーグ,リタ
【合議体】
【審判長】
佐々木 秀次
【審判官】
瀬良 聡機
【審判官】
天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第1132743(CN,A)
【文献】
米国特許第7754920(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0021821(US,A1)
【文献】
特開平6−72927(JP,A)
【文献】
国際公開第02/014278(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(i)5−アミノ−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−
トリヨードイソフタルアミド(「化合物B」)を無水酢酸/酢酸の混合物と反応させて、
スラリーを形成する工程と、
(ii)スラリーを60℃に加熱する工程と、
(iii)反応温度が65〜85℃の温度範囲で維持されるような速度で、一度にではなく、前記反応温度を制御することにより前記反応温度を65〜85℃の温度範囲に維持するのに十分な時間にわたって、酸触媒をスラリーに添加する工程と
を含む、5−アセトアミド−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4
,6−トリヨードイソフタルアミド(「化合物A」)を合成する方法であって、
前記酸触媒が、メタンスルホン酸およびパラトルエンスルホン酸(PTSA)からなる群より選択されるスルホン酸であり、
前記酸触媒が、溶媒中の溶液の形態であり、前記溶媒が、酢酸、無水酢酸、および酢酸と無水酢酸との混合物からなる群より選択される、方法。
【請求項2】
工程(iii)の反応混合物に脱アセチル化剤を添加する工程(iv)をさらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(iv)の反応混合物を精製する工程(v)をさらに含む、請求項2に記載の方法
。
【請求項4】
精製工程が結晶化工程である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
結晶化工程が5−アセトアミド−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−
2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(「化合物A」)の添加によって達成される、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
酸触媒がパラトルエンスルホン酸(PTSA)である、請求項1乃至請求項5のいずれ
か1項に記載の方法。
【請求項7】
PTSAが、少量の無水酢酸に溶解されたPTSAの溶液として触媒量で添加される、
請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、非イオン性X線造影剤の大規模合成に関する。本発明は、さらに、非イオン性X線造影剤の工業的製造における中間体である、5−アセトアミド−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(「化合物A」)の合成のための代替アセチル化方法に関する。この方法は、化合物Aを生成するために工業的規模で実施することができ、確立された方法と比較して純度及び収率が改善している。
【背景技術】
【0002】
非イオン性X線造影剤は、大量生成される医薬化合物の非常に重要なクラスを構成している。5−[N−(2,3−ジヒドロキシプロピル)アセトアミド]−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(「イオヘキソール」)、5−[N−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル)アセトアミド]−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨード−イソフタルアミド(「イオペントール」)及び1,3−ビス(アセトアミド)−N,N’−ビス[3,5−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピルアミノカルボニル)−2,4,6−トリヨードフェニル]−2−ヒドロキシプロパン(「イオジキサノール」)は、そのような化合物の重要な例である。これらは、一般的に、1個又は2個の三ヨウ素化ベンゼン環を含む。
【0003】
例えば、商品名Visipaque(登録商標)で市販されているイオジキサノールは、診断用X線手順の中で最も使用される薬剤の1つである。イオジキサノールは、ノルウェーのリンネスネスにあるGEヘルスケア社によって大量生産されている。以下のスキーム1に示すように、イオジキサノールの工業生産は、多段階の化学合成を含む。米国特許第6,974,882号も参照されたい。最終製品のコストを削減するために、各合成工程を最適化することが重要である。反応デザインが少しでも改善すると、大規模生産における大幅な節約につながり得る。
【0004】
【化1】
5−アセトアミド−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(「化合物A」)は、このような非イオン性X線造影剤の両方の工業規模の合成における重要な中間体である。化合物Aは、5−アミノ−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(化合物B)のアセチル化によって調製される。アセチル化は、アセチル化試薬として無水酢酸と酢酸の混合物を使用することによって達成される。しかしながら、アセチル化の際に、化合物Aが生成されるだけでなく、いくつかの副産物も形成される。
【0005】
したがって、副産物のレベルを低下させ、化合物Aの純度及び収率の両方を増加させて、化合物Aを生成することができるアセチル化方法のニーズが当技術分野に存在する。このようなアセチル化方法は、実験室規模だけでなく工業的規模でも実施することができなければならない。以下に説明するように、本発明はこのようなニーズに応える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許第2277851号明細書
【発明の概要】
【0007】
本発明によれば、化合物Bのアセチル化反応中に反応温度を大幅に低下させることにより、生成される副産物のレベルを低下させることができ、したがって、化合物Aをより高収率及び高純度で生成できることが見出された。工業的規模での化合物Bのアセチル化工程中に、このような低い反応温度を達成するための方法も見出された。具体的には、本明細書に記載されるように、数時間にわたって酸触媒(例えば、パラトルエンスルホン酸(PTSA))の触媒量を化合物Bのアセチル化反応混合物に慎重に添加することによって、より低いアセチル化温度が達成できることが見出された。順に、アセチル化で形成された副産物のレベルが低下することで、化合物Aの純度が改善され、その結果として、その後の精製工程における化合物Aの収率が増加する。本発明は、実験室規模及び/又は工業的規模の両方で実施することができる化合物Aの生成のための代替アセチル化方法を提供する。本発明の好ましい実施形態では、この方法は、バッチ方法として実施される。本発明は、バッチ方法又は連続方法のいずれかとして実施することができる化合物Aの生成のための代替アセチル化方法を提供する。本発明の好ましい実施形態では、この方法は、バッチ方法として実施される。
【0008】
本発明は、
(i)5−アミノ−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(「化合物B」)を無水酢酸/酢酸の混合物と反応させて、スラリーを形成する工程と、
(ii)スラリーを約60℃に加熱する工程と、
(iii)反応温度が約65〜85℃の温度範囲で維持されるような速度で、スラリーに酸触媒(好ましくは、パラトルエンスルホン酸(PTSA))を添加する工程と
を含む方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、
(i)5−アミノ−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(「化合物B」)を無水酢酸/酢酸の混合物と反応させて、スラリーを形成する工程と、
(ii)スラリーを約60℃に加熱する工程と、
(iii)反応温度が約65〜85℃の温度範囲で維持されるような速度で、スラリーに酸触媒(好ましくは、パラトルエンスルホン酸(PTSA))を添加し、過剰アセチル化化合物Aを形成する工程と、
(iv)過剰アセチル化化合物Aを脱アセチル化し、化合物Aを形成する工程と
を含む工業的規模の方法も提供する。
【0010】
本発明はまた、
(i)5−アミノ−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(「化合物B」)を無水酢酸/酢酸の混合物と反応させて、スラリーを形成する工程と、
(ii)スラリーを約60℃に加熱する工程と、
(iii)反応温度が約65〜85℃の温度範囲で維持されるような速度で、スラリーに酸触媒(好ましくは、パラトルエンスルホン酸(PTSA))を添加し、過剰アセチル化化合物Aを形成する工程と、
(iv)過剰アセチル化化合物Aを脱アセチル化し、化合物Aを形成する工程と、
(v)化合物Aを分離する工程と
を含む工業的規模の方法も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
確立された工業的規模の方法では、化合物Bを無水酢酸と酢酸の混合物に添加する。次いで、得られたスラリーを約60℃に加熱する。その温度に達した時に、酸触媒(例えば、パラトルエンスルホン酸(PTSA)(複数可))を一度に、触媒量で添加する。反応器ジャケットにおける最大冷却にもかかわらず、反応混合物の温度が発熱アセチル化反応により約120〜125℃に急速に上昇する。それに応じて、アセチル化反応の主要部分が120〜125℃で起きる。高い反応温度により、化合物Aに加えて、かなりのレベルの以下の副産物I、II、及びIIIが形成される。
【0012】
【化2】
本発明によれば、代替アセチル化方法を提供する。本発明によれば、化合物Bを無水酢
酸と酢酸の混合物に添加する。次いで、得られたスラリーを約60℃に加熱する。この温
度で、酸触媒の触媒量を添加する。適切な酸触媒の例としては、例えば、メタンスルホン
酸、パラトルエンスルホン酸(PTSA)
などのスルホン酸、及び硫酸が挙げられる。これらのうち、パラトルエンスルホン酸(PTSA)が好ましい。本発明によれば、酸触媒は、固体として、又は溶液として添加することができる。そのような溶液を形成するのに適する溶媒の例としては、酢酸、無水酢酸又は酢酸と無水酢酸の混合物が挙げられる。温度を制御しながら、添加を慎重に行う。一実施形態では、PTSAを数回に分けて固体として添加する。一実施形態では、PTSAを少量の酢酸に溶解した溶液として添加する。一実施形態では、PTSAを少量の無水酢酸に溶解した溶液として添加する。一実施形態では、PTSAを酢酸と無水酢酸の少量の混合物に溶解した溶液として添加する。酸触媒、好ましくはPTSAの添加の速度/スピードは、最大反応温度が約65〜85℃に維持されるようなものである。一般に、添加時間は、発熱反応を制御するために数時間にわたる。
【0013】
好ましい実施形態では、酸触媒、好ましくはPTSAの添加の速度/スピードは、最大反応温度が約70〜80℃に維持されるようなものである。
【0014】
本発明によれば、酸触媒、好ましくはPTSAの添加により、確立されたアセチル化方法と比較して、低いレベルの副産物と共に過剰アセチル化化合物Aを含む反応混合物が生成される。次いで、過剰アセチル化化合物Aを含む反応混合物を、脱アセチル化剤を使用して脱アセチル化することができる。使用される脱アセチル化剤の性質には特に制限はなく、従来の反応において一般に使用される任意の脱アセチル化剤を、同様にここで使用してよい。適切な脱アシル化剤の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム又は炭酸リチウムなどのアルカリ金属炭酸塩、及び水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物を含む水性の無機塩基が挙げられる。これらの中で、アルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム、最も好ましくは水酸化ナトリウムが好ましい。例えば、過剰アセチル化化合物Aを含む反応混合物を水酸化ナトリウムなどの塩基の添加により脱アセチル化して化合物Aを形成し、次いで、順に当技術分野において公知の技術により精製(例えば、結晶化)し、分離することができる。
【0015】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、以下の実施例は、その中に記載される特定の手順の範囲に本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0016】
例1及び例2(確立されたアセチル化):
アセチル化:例1及び例2の両方について、化合物B(200g)を無水酢酸(191.8mL)及び酢酸(103.3mL)の混合物に添加した。スラリーを約60℃に加熱し、PTSA粉末(1.0g)を一度に添加した。発熱反応により、温度が約120〜125℃に急激に上昇した。
【0017】
例1では、温度を約2時間、約120℃に保ち、過剰アセチル化化合物Aを形成し、その後、化合物Aを形成するための次の脱アセチル化方法の工程に進んだ。
【0018】
例2では、約120〜125℃の最高温度に達した直後に、溶液を反応器ジャケット内で70℃に冷却した。冷却速度は約1℃/分であり、この溶液を70℃で一晩保持し、過剰アセチル化化合物Aを形成し、その後、化合物Aを形成するための次の脱アセチル化方法の工程に進んだ。
【0019】
脱アセチル化:アセチル化後、過剰アセチル化化合物Aを含む反応溶液を減圧下で濃縮し、その後、脱アセチル化工程前に、メタノール及び水を添加した。次いで、水酸化ナトリウムをメタノール−水反応混合物に添加し、脱アセチル化を行った。次いで、結晶化前に、得られた反応混合物をさらに水で希釈した。
【0020】
結晶化:結晶化を達成するために、最初に、反応混合物がわずかに濁るまで塩酸を添加し、次いで、この反応混合物を化合物Aに加えた。得られたスラリーを45分間撹拌し、その後、pHが約7になるまで、さらに塩酸を添加した。次いで、このスラリーを一晩15℃に冷却した。翌日、このスラリーを濾過し、濾過ケーキをメタノールで洗浄し、次いで、真空オーブン中で乾燥させた。
【0021】
この反応混合物を結晶化工程の前にHPLCによって分析すると、アセチル化合成中に形成された副産物の総レベルは、例1では1.38%であり、例2では1.34%であった。副産物の大部分はアセチル化工程中に形成された。
【0022】
両方の実験により、結晶化後の濾過工程で分離された母液中の化合物A及び副産物の総濃度は、1.1g/100mLであった。
【0023】
比較例3及び例4(代替アセチル化):
アセチル化:例3及び例4のそれぞれについて、化合物B(200g)を無水酢酸(150.4mL)及び酢酸(141.6mL)の混合物に添加し、スラリーを形成した。PTSA(1.6g)を少量の無水酢酸(3.0mL)に別々に溶解した。このスラリーを、約60℃まで加熱し、約2時間かけてPTSA溶液を添加し、過剰アセチル化化合物Aを形成し、その後、化合物Aを形成するための次の脱アセチル化方法の工程に進んだ。
【0024】
例3では、温度を80〜85℃に保ち、PTSA溶液を添加して、一晩80℃で保持した。
【0025】
例4では、温度を65〜70℃に保ち、PTSA溶液を添加して、一晩65℃で保持した。
【0026】
脱アセチル化:アセチル化後、過剰アセチル化化合物Aを含む反応混合物を減圧下で濃縮し、その後、脱アセチル化工程前に、メタノール及び水を添加した。次いで、水酸化ナトリウムをメタノール−水反応混合物に添加し、脱アセチル化を行った。次いで、結晶化前に、得られた反応混合物をさらに水で希釈した。
【0027】
結晶化:結晶化を達成するために、最初に、反応混合物がわずかに濁るまで塩酸を添加し、次いで、この反応混合物を化合物Aに加えた。得られたスラリーを45分間撹拌し、その後、pHが約7になるまで、さらに塩酸を添加した。次いで、このスラリーを一晩15℃に冷却した。翌日、このスラリーを濾過し、濾過ケーキをメタノールで洗浄し、次いで、真空オーブン中で乾燥させた。
【0028】
この反応混合物を結晶化工程の前にHPLCによって分析すると、アセチル化合成中に形成された副産物の総レベルは、例3では0.11%であり、例4では0.10%であった。
【0029】
両方の実験により、濾過工程で分離された母液中の化合物A及び副産物の総濃度は、0.6g/100mLであった。確立された方法と比較して、代替アセチル化によって、HPLCにより分析した結晶化後のAの総純度は約0.2%ポイント増加した。
【0030】
上記で考察及び/又は引用した全ての特許、学術論文、刊行物及び他の文書は、参照により本明細書に組み込まれる。