特許第6783170号(P6783170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783170
(24)【登録日】2020年10月23日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】塩化ビニル系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/18 20060101AFI20201102BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20201102BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20201102BHJP
   C08F 214/06 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   C08F2/18
   C08F2/38
   C08J5/00CEV
   C08F214/06
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-55706(P2017-55706)
(22)【出願日】2017年3月22日
(65)【公開番号】特開2018-158968(P2018-158968A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】301018278
【氏名又は名称】大洋塩ビ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】干場 充
(72)【発明者】
【氏名】坂根 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】榎本 真久
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−080469(JP,A)
【文献】 特開平09−194507(JP,A)
【文献】 特開平06−287237(JP,A)
【文献】 特開平08−134142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60、214/06
C08J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル単量体または、塩化ビニル単量体と該塩化ビニル単量体と共重合可能な他の単量体との混合物であり、該塩化ビニル単量体を50質量%以上含む塩化ビニル系単量体を、分散剤および油溶性重合開始剤の存在下、水性媒体中で懸濁重合する塩化ビニル系重合体の製造方法であって、
前記塩化ビニル単量体と共重合可能な他の単量体が、オレフィン類、ビニルエステル類、(メタ)アクリル酸エステル類、不飽和ジカルボン酸のエステル類あるいは酸無水物、不飽和ニトリル類およびビニリデン化合物から選択され、
第一段階の重合を、分子内に二つ以上のアリル基を有するアリルエステル類、および、分子内に二つ以上のアリル基を有するアリルエーテル類からなる群より選択される少なくとも1種からなる多官能性単量体を、前記塩化ビニル単量体または前記塩化ビニル系単量体に対して500〜3000ppm添加し、重合温度35〜53℃で、重合転化率15〜50質量%になるまで行い、その後、全重合時間の1%以上20%以下の時間をかけて昇温を行い、第二段階の重合を重合温度57〜75℃で行うことを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
前記第二段階の重合において連鎖移動剤を添加する請求項1に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記油溶性重合開始剤として、10時間半減期温度30〜40℃の油溶性重合開始剤(I)と10時間半減期温度41〜60℃の油溶性重合開始剤(II)を併用する請求項1または2に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記塩化ビニル系重合体のテトラヒドロフラン不溶ゲル分が0〜0.2質量%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項5】
前記塩化ビニル系重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定したポリスチレン換算法による重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が3.0〜5.5であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が2.5〜4.5であり、かつ、Z+1平均分子量(Mz+1)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz+1/Mw)が5.0〜8.0である請求項1〜4のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項6】
前記塩化ビニル系重合体の平均重合度が900〜1500である請求項1〜5のいずれか一項に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の方法で製造された塩化ビニル系重合体を射出成形する射出成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性、耐衝撃性および表面外観に優れる塩化ビニル系重合体の製造方法に関する。さらに詳しくは、射出成形装置によって継手などに成形する際、射出成形時の溶融粘度が低く、かつ、製品の耐衝撃性が高く、しかも、表面の光沢を維持した塩化ビニル系重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系重合体は、良好な物理的化学的性質を有し、経済性にも優れるため、パイプ、平板、シートなどの各種分野で広く用いられている。しかし、特に継手、バルブ製品等の射出成形品用途においては、十分に満足し得る程度の耐衝撃性と流動性が発現しにくいという欠点を有する。
【0003】
塩化ビニル系重合体を射出成形する際、通常、重合度が500〜1000程度のものを使用する。重合度が低くなる程、流動性が高まるが、衝撃強度が低下してしまう。一方、重合度が高くなる程、衝撃強度は向上するが、流動性が低下してしまう。また、流動性を上げるために成形温度を上げると、熱分解が進行し、好ましくない。
【0004】
そこで、従来、塩化ビニル系重合体の耐衝撃性向上のために、例えば塩化ビニル系重合体にメタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、塩素化ポリエチレン(CPE)、アクリルゴムなどを耐衝撃強化剤として添加する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、塩化ビニル系重合体にこれら耐衝撃強化剤を配合する場合、成形加工時の流動性が低下してしまうほか、成形品の引張強度等の機械物性の低下を招くなどの欠点があった。さらには、これら耐衝撃強化剤は一般に塩化ビニル系重合体と比較して高価であり、多量に用いると製品コストが高くなるという問題点があった。
【0005】
また、従来、塩化ビニル系重合体の流動性向上のために、例えば重合度を下げる、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等を共重合する、スチレン系樹脂をブレンドあるいはグラフト重合する等の手段や、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)などを添加する方法が知られている。しかしながら、塩化ビニル系重合体をこれらで改質する場合、流動性は改善されるものの、衝撃強度の低下や引張強度の低下を招くなどの欠点があった。
【0006】
そこで、塩化ビニル系重合体そのものについて、耐衝撃性と流動性の問題を解決する方法として、以下の方法が知られている。例えば、ジアリルエステル類との共重合体であって、テトラヒドロフラン不溶ゲル分が0.1〜9.9重量%の塩化ビニル系樹脂を配合した組成物が知られている(特許文献2)。この方法では、圧縮永久歪が向上するが、平均重合度が高く溶融粘度が高いため、射出成形加工には適しておらず、また、テトラヒドロフラン不溶ゲル分が多いため、成形品は表面光沢性に劣る。
【0007】
また、エチレン性二重結合を分子内に2個以上有する多官能性単量体を、重合開始時から連続的に重合系に添加する塩化ビニル系重合体の製造方法が知られている(特許文献3)。この方法では、成形加工時の流動性が向上するが、架橋する対象の重合度が700〜800程度であるため、射出成形品の衝撃強度の面では満足できるものではなかった。
【0008】
また、塩化ビニル系モノマーと、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーとを共重合して得られる塩化ビニル系樹脂からなる組成物が知られている(特許文献4)。この方法では、該マクロモノマーが、(メタ)アクリル酸系二重結合を含むため、塩化ビニル単量体との反応性に劣り、また、表面外観の面では満足できるものではなかった。
【0009】
また、分子内に二つ以上のエチレン性二重結合を有する化合物を添加し、平均重合度が600〜1400で、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、および、Z平均分子量(Mz)との間に、2.15≦Mw/Mn≦5、1.75≦Mz/Mw≦5の関係が成り立つ塩化ビニル系重合体が知られている(特許文献5)。この方法では、真空成形の際の伸長特性のバランスに優れた塩化ビニル系重合体が得られるが、架橋する対象の重合度が700〜800程度であるため、射出成形品の衝撃強度の面では満足できるものではなかった。
【0010】
また、アリルエーテル基を分子内に2個以上有する多官能性単量体を添加し、テトラヒドロフラン(THF)不溶分率が5重量%以下であり、60℃以上で重合を行った場合の重合度が1000以上、50℃以上で重合を行った場合の重合度が1500以上である塩化ビニル系重合体の製造方法が知られている(特許文献6)。この方法では、重合度の高い塩化ビニル系樹脂が高い生産性で得られるが、架橋する対象の重合度が700〜1000程度であるため、射出成形時に必要な溶融粘度と射出成形品の衝撃強度の面では満足できるものではなかった。
【0011】
また、架橋剤と連鎖移動剤を添加し、通常の重合温度よりも1.5℃以上、10℃未満高い重合温度で重合し、かつ、全反応時間の50%以上の期間に亘って反応温度を2〜35℃上昇させる塩化ビニル系重合体の製造方法が知られている(特許文献7)。この方法では、ゲル化最大トルクの低い樹脂が製造できるが、架橋する対象の重合度が1000程度であるため、射出成形品の衝撃強度の面では満足できるものではなかった。
【0012】
また、特定の油溶性重合開始剤を併用し、二段階の温度で重合を行うことにより、塩化ビニル系重合体を製造する方法が知られている(特許文献8)。この方法では、成形加工時のゲル化速度が向上するが、架橋した高重合度成分がないため、射出成形品の衝撃強度の面では満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平09−278964号公報
【特許文献2】特開平05−148394号公報
【特許文献3】特開平06−287237号公報
【特許文献4】特開2006−299240号公報
【特許文献5】特開平09−208631号公報
【特許文献6】特開2003−313248号公報
【特許文献7】特開平09−194507号公報
【特許文献8】特開2014−080469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上に述べた従来の塩化ビニル系重合体の製造方法では、流動性の向上、溶融時のトルク低下、および艶消し現象がみられるものの、射出成形を施す際には、衝撃強度の面では不十分であり、製品の外観が悪化したりする、等の問題が生じる場合がある。そのため、これらいずれの方法においても、溶融粘度が低く、衝撃強度が高く、かつ表面外観に優れた塩化ビニル系重合体は得られず、射出成形における継手等の用途には適さないものであった。
【0015】
そこで、本発明の目的は、成形加工時の流動性に優れ、耐衝撃性および表面外観性に優れた塩化ビニル系重合体の製造方法、さらに詳しくは、射出成形によって、継手あるいはバルブ製品などを成形する際に、溶融粘度が低く、かつ、成形体の衝撃強度および表面外観に優れる塩化ビニル系重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ある特定の多官能性単量体の存在下において、低い温度領域で、ある特定の転化率になるまで重合し、その後、温度を上げて重合を継続することにより、射出成形時の溶融粘度が低く、しかも成形体の衝撃強度が高く、かつ表面光沢性に優れる塩化ビニル系重合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、塩化ビニル単量体または、塩化ビニル単量体と該塩化ビニル単量体と共重合可能な他の単量体との混合物であり、該塩化ビニル単量体を50質量%以上含む塩化ビニル系単量体を、分散剤および油溶性重合開始剤の存在下、水性媒体中で懸濁重合する塩化ビニル系重合体の製造方法であって、前記塩化ビニル単量体と共重合可能な他の単量体が、オレフィン類、ビニルエステル類、(メタ)アクリル酸エステル類、不飽和ジカルボン酸のエステル類あるいは酸無水物、不飽和ニトリル類およびビニリデン化合物から選択され、第一段階の重合を、分子内に二つ以上のアリル基を有するアリルエステル類、および、分子内に二つ以上のアリル基を有するアリルエーテル類からなる群より選択される少なくとも1種からなる多官能性単量体を、前記塩化ビニル単量体または前記塩化ビニル系単量体に対して500〜3000ppm添加し、重合温度35〜53℃で、重合転化率15〜50質量%になるまで行い、その後、全重合時間の1%以上20%以下の時間をかけて昇温を行い、第二段階の重合を重合温度57〜75℃で行うことを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、溶融粘度が低く、衝撃強度が高く、表面光沢性に優れ、かつ射出成形性に適した塩化ビニル系重合体を得ることができる。その結果、MBS等の耐衝撃強化剤を減量することができ、工業的価値は非常に高い。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明における塩化ビニル系重合体とは、塩化ビニル単量体、または塩化ビニル単量体を主体とし、該塩化ビニル単量体と共重合可能な他の単量体との混合物である塩化ビニル系単量体(以下、塩化ビニル単量体および塩化ビニル系単量体を総称して「塩化ビニル系単量体」という)を重合して得られる、塩化ビニルの単独重合体、または塩化ビニル共重合体のことである。なお、「塩化ビニル単量体を主体とする」とは、塩化ビニル単量体を50質量%以上含んでいることを意味する。
【0020】
塩化ビニル単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類;酢酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどのビニルエステル類;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類;マレイン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸のエステル類あるいは酸無水物;アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;塩化ビニリデンなどのビニリデン化合物等を挙げることができる。
【0021】
本発明における塩化ビニル系単量体の重合には、いわゆる懸濁重合方法を採用する。具体的には、塩化ビニル系単量体を、分散剤および油溶性重合開始剤の存在下、水性媒体中で懸濁重合させて、塩化ビニル系重合体を得る。ここで、第一段階の重合は、多官能性単量体を添加し、重合温度35〜53℃で、重合転化率15〜50質量%となるまで行い、第二段階の重合は、重合温度57〜75℃で行い、第一段階の重合温度から第二段階の重合温度への昇温時間を、全重合時間の1%以上20%以下とする。
【0022】
本発明において使用する分散剤は、塩化ビニル系単量体の懸濁重合において使用される公知の分散剤でよく、例えば、部分けん化ポリビニルアルコール、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、デンプン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。分散剤の使用量は、塩化ビニル系単量体の仕込み量に対して100〜2000ppmが好ましい。
【0023】
本発明では、油溶性重合開始剤として、10時間半減期温度(以下、「HDT」と称する)が30〜40℃の油溶性重合開始剤(I)と、HDTが41〜60℃の油溶性重合開始剤(II)とを併用することが好ましい。油溶性重合開始剤(I)としては、HDTが30〜40℃のものであればいずれも使用でき、例えば、3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート(HDT:38℃)、クミルパーオキシネオデカノエート(HDT:36.5℃)、イソブチリルパーオキサイド(HDT:32.7℃)などの過酸化物類;2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(HDT:30℃)などのジアゾ化合物等が使用可能であり、中でもクミルパーオキシネオデカノエートが好ましい。これらは、1種または2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0024】
油溶性重合開始剤(II)としては、HDTが41〜60℃のものであれば支障なく使用でき、例えば、t−ブチルパーオキシネオデカノエート(HDT:46.4℃)、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート(HDT:50.6℃)、t−アミルパーオキシピバレート(HDT:54℃)、t−ブチルパーオキシピバレート(HDT:54.6℃)、t−ヘキシルパーオキシピバレート(HDT:53.2℃)などの過酸化物類が挙げられ、中でも、t−ヘキシルパーオキシピバレートが好ましい。これらは、1種または2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0025】
油溶性重合開始剤(I)と油溶性重合開始剤(II)の合計の使用量は、塩化ビニル系単量体の仕込み量に対して100〜1000ppmが好ましく、200〜1000ppmがより好ましい。前記使用量が100ppm以上であれば、重合時間が過度に長くなることがなく、生産性の低下を抑制できる。一方で、前記使用量が1000ppm以下であれば、重合反応の制御が容易となる。
【0026】
油溶性重合開始剤(I)と油溶性重合開始剤(II)の質量比は、1:3〜1:0.5であることが好ましく、1:2〜1:0.67であることがより好ましい。油溶性重合開始剤(I)の質量が、油溶性重合開始剤(I)と油溶性重合開始剤(II)の質量比1:3以上であれば、第一段階の重合の進行が過度に遅くなることがなく、目的とする重合転化率に到達しやすくなる。一方、油溶性重合開始剤(I)の質量が、油溶性重合開始剤(I)と油溶性重合開始剤(II)の質量比1:0.5以下であれば、第二段階の重合における発熱が抑制され、重合温度を維持しやすくなるため、所望とする平均重合度の塩化ビニル系重合体を得やすくなる。
【0027】
水性媒体としては、塩化ビニル系単量体の懸濁重合において使用される公知の水性媒体を用いることができる。例えば、水やイオン交換水、水に可溶なアルコール成分を含んだ水等を用いることができる。
【0028】
本発明において使用される多官能性単量体は、分子内に二つ以上のアリル基を有するアリルエステル類、および、分子内に二つ以上のアリル基を有するアリルエーテル類からなる群より選択される少なくとも1種からなる多官能性単量体(以下、「アリル系多官能性単量体」と称する)である。多官能性単量体としては、その反応性比(r2)が塩化ビニル系単量体の反応性比(r1)に対して小さいもの、すなわち、r1>1>r2の関係を満たすものが好ましい。多官能性単量体としては、例えば、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート等のフタル酸のジアリルエステル類;ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルサクシネート、ジアリルイタコネート等のエチレン性不飽和二塩基酸のジアリルエステル類;ジアリルアジペート、ジアリルアゼレート、ジアリルセバケート等の飽和二塩基酸のジアリルエステル類;ジアリルエーテル、グリセロールジアリルエーテル、トリメチロールエタンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル等のジアリルエーテル類;トリアリルシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル等のトリアリルエーテル類またはテトラアリルエーテル類;トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート等のトリアリルエステル類、およびジエチレングリコールジビニルエーテル、n−ブタンジオールジビニルエーテル、デカンジビニルエーテル、オクタデカンジビニルエーテル等のジビニルエーテル類等が挙げられる。これらの中でも、ジアリルフタレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートが好ましい。上記多官能性単量体は、1種または2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0029】
本発明において、多官能性単量体の添加量は、塩化ビニル系単量体に対して500〜3000ppmである。前記添加量は、500〜2500ppmであることが好ましい。前記添加量が500ppmより少ない場合には衝撃強度の改良効果が得られず、3000ppmより多い場合には溶融粘度が高く流動性に劣るだけでなく、成形体の表面の艶が無く外観が著しく悪化する。
【0030】
本発明における重合は、第一段階として重合温度35〜53℃で実施する。第一段階の重合温度は、37〜50℃が好ましい。重合温度が35℃より低い場合、重合度調整剤(多官能性単量体等の架橋剤や連鎖移動剤)を添加しない条件で3500より高い平均重合度の塩化ビニル系重合体が生じる。この高重合度の架橋成分は溶融粘度が高く、流動性が低下してしまうだけでなく、重合速度が遅いため生産性が大きく低下し、実用性に乏しくなる。一方、重合温度が53℃より高い場合、重合度調整剤を添加しない条件で平均重合度1300より低い重合度の塩化ビニル系重合体が生成する。この低重合度の架橋成分は、流動性は良いが衝撃強度が不十分であり、本発明の効果が発揮されない。なお、第一段階の重合温度は、35〜53℃の間で変化させてもよく、一定温度としてもよいが、この間に生成する塩化ビニル系重合体の、重合度調整剤を添加しない場合の平均重合度が1300〜3500であれば本発明の効果が得られる。最終的に得られる塩化ビニル系重合体の平均重合度の制御という観点からは、第一段階の重合温度は一定とする方が好ましい。
【0031】
本発明では、第一段階の重合は、重合転化率が15〜50質量%になるまで行う。ここでいう重合転化率とは、ある時点までに生成した重合体の質量を、単量体の仕込み質量で除した値のことである。重合転化率が15質量%より低い場合、第一段階で生成する高重合度側の塩化ビニル系重合体成分が少ないため、耐衝撃性効果が発揮されない。一方、重合転化率が50質量%を超える場合、耐衝撃性効果は発揮されるが高重合度側の架橋塩化ビニル系重合体成分が多くなるため、溶融粘度が高く、流動性が低下してしまう。第一段階の重合転化率は、16〜45質量%であることが好ましい。
【0032】
本発明における重合は、第二段階として重合温度57〜75℃で実施する。第二段階の重合温度は、60〜75℃が好ましい。この重合温度は、最終的に得られる塩化ビニル系重合体の平均重合度を制御する温度である。この重合温度が57℃より低い場合、最終的に得られる塩化ビニル系重合体の平均重合度が1500よりも高くなってしまい、溶融粘度が増大し、流動性が低下し、本発明の効果が発揮されない。一方、重合温度が75℃を超えると、平均重合度が極端に低い塩化ビニル系重合体が生成し、衝撃強度を低下させることになる。また、重合時の圧力が高くなるため、塩化ビニル系重合体を製造する重合装置の耐圧性能を上げる必要があり好ましくない。なお、第二段階の重合温度は、57〜75℃の間で変化させてもよく、一定温度としてもよいが、この間に生成する塩化ビニル系重合体の、多官能性単量体等の架橋剤を添加しない場合の平均重合度が400〜1000であれば本発明の効果が得られる。最終的に得られる塩化ビニル系重合体の平均重合度の制御という観点からは、第二段階の重合温度は一定とする方が好ましい。
【0033】
また、本発明では、平均重合度を下げる目的で、第二段階の重合において、連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤としては、一般的に使用されるものであればよく、例えばトリクロロエチレン、2−メルカプトエタノール、2−ペンテン、イソプロピルアルコール等が挙げられ、特には2−メルカプトエタノールが好ましい。連鎖移動剤の添加方法は、一括添加でもよく、分割または連続添加でもよい。
【0034】
連鎖移動剤を添加する場合、添加量は、塩化ビニル系単量体に対して200〜2000ppmであることが好ましい。連鎖移動剤の添加量が上記範囲内であれば、重合後半でのテトラヒドロフラン不溶ゲル分の発生が抑制される。なお、連鎖移動剤の添加量が200ppm未満では、その抑制効果が十分に得られない場合がある。また、連鎖移動剤の添加量が2000ppmを超えると、得られる塩化ビニル系重合体が着色し、色相が悪化する場合がある。
【0035】
本発明では、第一段階の重合温度から第二段の重合階温度へ昇温するのに要する時間(以下、「昇温時間」とも称する)を、重合が進行する全重合時間の1%以上20%以内とする。昇温時間が全重合時間の20%を超えると、溶融粘度が高くなり流動性に劣り、本発明の効果が発揮されないばかりか、昇温時の温度制御が難しく、目的とする最終製品の平均重合度を得ることが非常に困難となる。昇温時間はできるだけ短い方が好ましいが、通常、昇温時間を全重合時間の1%未満とすることは困難であり、重合反応が暴走することが懸念される。なお、本発明において、全重合時間は、通常、720分以下であり、240分以上720分以下であることが好ましい。さらに、本発明では、重合反応系の除熱効率を高めるために、リフラックスコンデンサー(還流濃縮器)を付設した重合反応装置(オートクレーブ)を用いることもできる。
【0036】
本発明において、得られる塩化ビニル系重合体のテトラヒドロフラン不溶ゲル分は0〜0.2質量%であることが好ましく、0〜0.1質量%であることがより好ましい。テトラヒドロフラン不溶ゲル分が0.2質量%以下であれば、成形品の表面光沢性が低下することを抑制しやすくなる。また、成形体の引張破断伸びの低下を、より抑制することができる。
【0037】
本発明において、最終的に得られる塩化ビニル系重合体の平均重合度は900〜1500であることが好ましい。前記平均重合度は1000〜1500であることがより好ましく、1100〜1500であることがさらに好ましい。平均重合度が900以上であれば、より優れた衝撃強度が得られる。一方、平均重合度が1500以下であれば、吐出圧力が小さくなるため、射出成形性により適した塩化ビニル系重合体となる。なお、衝撃強度向上、および、流動性向上の観点から、最終的に得られる塩化ビニル系重合体の平均重合度は、第一段階の重合で得られる塩化ビニル系重合体の重合度調整剤を添加しない場合の平均重合度よりも低いことが好ましい。
【0038】
本発明において得られる塩化ビニル系重合体の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定したポリスチレン換算法によるMw/Mn値は3.0〜5.5であり、Mz/Mw値は2.5〜4.5であり、かつ、Mz+1/Mw値は5.0〜8.0であることが好ましい。なお、Mz+1は、Z+1平均分子量を表す。Mw/Mn値、Mz/Mw値およびMz+1/Mw値が上記範囲内であれば、アリル系多官能性単量体による架橋構造が適度に形成されて、衝撃強度向上効果が得られる。Mw/Mn値、Mz/Mw値およびMz+1/Mw値が上記範囲より低い場合、十分な衝撃強度向上効果が得られない場合がある。また、Mw/Mn値、Mz/Mw値およびMz+1/Mw値が上記範囲より高い場合、テトラヒドロフラン不溶ゲル分が多く発生し、外観が悪化する場合がある。
【0039】
その他、必要に応じて、重合に際し使用される添加剤、例えば、pH調整剤、帯電防止剤、スケール防止剤などを適宜添加することができる。また、分散剤と共に、少量の界面活性剤を添加することもできる。
【0040】
本発明において得られる塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が低く、衝撃強度が高く、製品外観が良好であることから、真空成形、ブロー成形、発泡成形、射出成形での加工性に優れ、特に射出成形に好適に用いることができる。
【0041】
本発明の射出成形品を製造する方法については一般的に知られている方法を用いることができ、射出成形機の種類は特に制限されない。例えば、プランジャ式、プリプラ式、インラインスクリュ式等の射出成形機が使用できる。また、射出成形条件も特に制限されない。例えば、射出成形の温度は、160〜200℃の範囲が好ましい。
【0042】
本発明の射出成形品の形態は、例えば継手、バルブ等である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。なお、これらは本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施例および比較例において、テトラヒドロフラン不溶ゲル分、平均重合度、分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw、Mz+1/Mw)、溶融粘度、シャルピー衝撃強度、表面光沢性の評価は下記の方法によった。
【0044】
(1)テトラヒドロフラン不溶ゲル分
塩化ビニル系重合体1gをテトラヒドロフラン100mlに加え、50℃にて24時間撹拌した後、5000rpmで60分間、遠心分離機で沈降分離し、テトラヒドロフラン不溶ゲル分を回収し、その後、40℃にて真空乾燥して得られた不溶物の質量を求め、塩化ビニル系重合体の質量に対する割合にて、塩化ビニル系重合体のテトラヒドロフラン不溶ゲル分とした。
【0045】
(2)平均重合度
JIS K−6720−2:1999の付属書に従って測定した。なお、平均重合度は、テトラヒドロフラン不溶ゲル分が生成していないもの(0.2質量%以下のもの)に限り測定した。
【0046】
(3)分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw、Mz+1/Mw)
東ソー(株)製のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(商品名:HLC−8020)に、東ソー(株)製のクロマトカラム(商品名:TSKgel−GMHXL)を装着し、テトラヒドロフランを移動相の溶媒とし、溶媒16mlに対して塩化ビニル系重合体を20mg溶解して得られた溶液につき、溶媒温度40℃、注入速度1.0ml/分、注入量100μlで測定を行い、ポリスチレン換算で、塩化ビニル系重合体の数平均分子量、重量平均分子量、Z平均分子量、Z+1平均分子量を算出した。
ここで、分子量Miの高分子がNi個存在する場合、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、Z+1平均分子量(Mz+1)を、以下の式を用いて計算で求め、Mw/Mn、Mz/Mw、Mz+1/Mwを算出した。
数平均分子量(Mn)=Σ(Mi・Ni)/ΣNi
重量平均分子量(Mw)=Σ(Mi・Ni)/Σ(Mi・Ni)
Z平均分子量(Mz)=Σ(Mi・Ni)/Σ(Mi・Ni)
Z+1平均分子量(Mz+1)=Σ(Mi・Ni)/(Mi・Ni)
【0047】
(4)溶融粘度
塩化ビニル系重合体100質量部に対して、Ca−Zn複合金属石鹸安定剤3質量部を混合した後、170℃のロールで3分間混練し、取り出した後、180℃の温度で10分間プレスし、カッターにて細かく裁断した。その後、内径が0.5mm、長さが0.28mm、長さと内径の比が0.56であるダイスを、キャピラリーレオメーター((株)東洋精機製作所製)に装着し、190℃、せん断速度γ=973sec−1で得られた塩化ビニル系樹脂を押し出し、溶融粘度を測定した。評価基準は以下のとおりである。
○・・・溶融粘度が5.5kPa・s以下
×・・・溶融粘度が5.5kPa・sより大きい
【0048】
(5)シャルピー衝撃強度
塩化ビニル系重合体100質量部に対して、Sn系安定剤3質量部を混合した後、170℃のロールで3分間混練し、取り出した後、180℃の温度で10分間プレスし、シート状にしたものを電動のこぎりで短冊状にカットし、ノッチングマシンにてノッチを入れた。JIS K7111に準拠し、23℃の雰囲気下でシャルピー衝撃試験を実施した。評価基準は以下のとおりである。
○・・・衝撃強度が3.0kJ/m以上
×・・・衝撃強度が3.0kJ/m未満
【0049】
(6)表面光沢性
射出成形加工によって得られたテストピース(成形品)の表面状態を目視により観察し、下記基準で評価した。
○・・・光沢有り(蛍光灯に当てた際、成形品表面の艶が有り、蛍光灯がはっきり写る。)
×・・・光沢無し(蛍光灯に当てた際、成形品表面の艶が消えていて、蛍光灯がはっきり写らない。)
【0050】
(実施例1)
撹拌機およびジャケットを付設した内容積600リットルのステンレス製オートクレーブに、純水230kg、分散剤として、けん化度80モル%のポリビニルアルコール(重合度2600)140g、アリル系エチレン性二重結合を含むアリル系多官能性単量体としてジアリルフタレート(表中、「DAP」と記す)を254g(1270ppm対塩化ビニル系単量体)仕込んだ後、内部を真空ポンプで脱気した。その中に、塩化ビニル単量体200kg、クミルパーオキシネオデカノエート(油溶性重合開始剤(I))60g(300ppm対塩化ビニル系単量体)およびtert−ヘキシルパーオキシピバレート(油溶性重合開始剤(II))60g(300ppm対塩化ビニル系単量体)を仕込んだ。次いで、オートクレーブ内を撹拌して46℃に調整し、第一段階の重合を開始した。
【0051】
オートクレーブ内の温度を46℃に保つようにジャケットに通す温水の温度、量を調整しながら255分間重合を行った。その時(第一段階の重合終了時)の重合転化率は33質量%であった。その後、ジャケットに通す温水の温度を上げ、20分かけてオートクレーブ内を67℃まで昇温し、その後、連鎖移動剤として2−メルカプトエタノールを60g(300ppm対塩化ビニル系単量体)添加し、その温度を維持して、第二段階の重合を続けた。第一段階の重合開始から370分後に、圧力が最大値から270kPa低下したので重合を停止し、未反応単量体を回収して重合を終了した。得られたスラリーを脱水した後、乾燥して塩化ビニル系重合体を得た。収率は82質量%であった。なお、昇温時間は全重合時間の5.4%であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、上記評価を行い、結果を表1に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が低く、衝撃強度が高く、表面光沢性に優れるものであった。なお、表1中、第一段階の「平均重合度」は、第一段階の重合で得られる塩化ビニル系重合体の重合度調整剤を添加しない場合の平均重合度を表す。
【0052】
(実施例2)
実施例1において、アリル系多官能性単量体の添加量を400g(2000ppm対塩化ビニル系単量体)に変更し、第一段階の重合転化率が20%となるまで180分間重合を行った以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は350分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が低く、衝撃強度が高く、表面光沢性に優れるものであった。
【0053】
(実施例3)
実施例1において、第一段階の重合温度を40℃、重合時間を350分、第二段階で添加する連鎖移動剤の量を100g(500ppm対塩化ビニル系単量体)とした以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は490分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が低く、衝撃強度が高く、表面光沢性に優れるものであった。
【0054】
(実施例4)
実施例1において、第一段階の重合温度を40℃、重合時間を350分、アリル系多官能性単量体の添加量を164g(820ppm対塩化ビニル系単量体)に変更した以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は470分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が低く、衝撃強度が高く、表面光沢性に優れるものであった。
【0055】
(実施例5)
実施例1において、アリル系多官能性単量体としてトリメチロールプロパンジアリルエーテル(表中、「TMPDAE」と記す)を使用した以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は460分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が低く、衝撃強度が高く、表面光沢性に優れるものであった。
【0056】
(実施例6)
実施例1において、アリル系多官能性単量体としてトリアリルイソシアヌレート(表中、「TAIC」と記す)を使用し、添加量を164g(820ppm対塩化ビニル系単量体)とし、第一段階の重合時間を180分とした以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は360分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が低く、かつ、衝撃強度、引張強度、外観に優れるものであった。
【0057】
(比較例1)
実施例1において、油溶性重合開始剤(I)およびアリル系多官能性単量体を添加せずに同様の仕込みを行った後、重合温度を64℃まで昇温し、その温度を保って重合を行い、連鎖移動剤を添加せずに重合転化率が82%になった時点で重合を停止した。全重合時間は270分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度に劣るものであった。なお、表2中、第一段階の「平均重合度」は、第一段階の重合で得られる塩化ビニル系重合体の重合度調整剤を添加しない場合の平均重合度を表す。
【0058】
(比較例2)
実施例1において、油溶性重合開始剤(I)の添加量を20g(100ppm対塩化ビニル系単量体)とし、油溶性重合開始剤(II)としてt−ブチルパーオキシネオデカノエートを使用し、アリル系多官能性単量体を添加せずに同様の仕込みを行った後、重合温度を52℃まで昇温し、その温度を保って重合を行い、連鎖移動剤を添加せずに重合転化率が82%になった時点で、重合を停止した。全重合時間は420分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が高く、流動性に劣るものであった。
【0059】
(比較例3)
実施例1において、アリル系多官能性単量体を添加しないこと以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は340分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度に劣るものであった。
【0060】
(比較例4)
実施例1において、アリル系多官能性単量体の添加量を80g(400ppm対塩化ビニル系単量体)としたこと以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は350分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度に劣るものであった。
【0061】
(比較例5)
実施例1において、アリル系多官能性単量体の添加量を800g(4000ppm対塩化ビニル系単量体)としたこと以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は410分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が高く、表面光沢性に劣るものであった。
【0062】
(比較例6)
実施例1において、油溶性重合開始剤(I)を添加せず、アリル系多官能性単量体の添加量を400g(2000ppm対塩化ビニル系単量体)とし、重合温度67℃で転化率が82%となるまで、連鎖移動剤を添加せずに一定温度のまま重合を行った以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は300分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度は低く、溶融粘度も高いものであった。
【0063】
(比較例7)
実施例1において、油溶性重合開始剤(I)を添加せず、アリル系多官能性単量体の添加量を800g(4000ppm対塩化ビニル系単量体)とし、重合温度67℃で転化率が82%となるまで、連鎖移動剤を添加せずに一定温度のまま重合を行った以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は340分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が高く、表面光沢が無いものであった。
【0064】
(比較例8)
実施例1において、アリル系多官能性単量体の添加量を400g(2000ppm対塩化ビニル系単量体)とし、油溶性重合開始剤(I)の添加量を20g(100ppm対塩化ビニル系単量体)とし、油溶性重合開始剤(II)としてt−ブチルパーオキシネオデカノエートを使用し、その添加量を60g(300ppm対塩化ビニル系単量体)とし、重合温度を57.5℃とし、重合時間125分経過した時点(重合転化率33%)で、昇温せずに連鎖移動剤として2−メルカプトエタノールを108g(540ppm対塩化ビニル系重合体)添加し、そのまま一定温度で重合を行った以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は380分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が高く、衝撃強度が低いものであった。
【0065】
(比較例9)
実施例1において、第一段階終了時の重合転化率を62%、重合時間を400分とした以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は510分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が高く、流動性が悪いものであった。
【0066】
(比較例10)
実施例1において、アリル系多官能性単量体の代わりに(メタ)アクリレート系多官能性単量体としてジメタクリル酸エチレングリコール(表中、「EGDM」と記す)を添加した以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は400分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度が低く、表面光沢性に劣るものであった。
【0067】
(比較例11)
実施例1において、アリル系多官能性単量体の代わりに(メタ)アクリレート系多官能性単量体としてトリメタクリル酸トリメチロールプロパン(表中、「TMPTMA」と記す)を添加した以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は390分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度が低く、表面光沢性に劣るものであった。
【0068】
(比較例12)
平均重合度500の塩化ビニル重合体(大洋塩ビ(株)製、商品名:TH−500)と平均重合度3300の架橋変性高重合度の塩化ビニル重合体(大洋塩ビ(株)製、商品名:TU−300)を、75対25の質量比でヘンシェルミキサーを用いてドライブレンドし、混合品として平均重合度700に調整した塩化ビニル系重合体を得た。
混合品として得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度に劣るものであった。
【0069】
(比較例13)
平均重合度500の塩化ビニル重合体(大洋塩ビ(株)製、商品名:TH−500)と平均重合度3300の架橋変性高重合度の塩化ビニル重合体(大洋塩ビ(株)製、商品名TU−300)を、60対40の質量比でヘンシェルミキサーを用いてドライブレンドし、混合品として平均重合度830に調整した塩化ビニル系重合体を得た。
混合品として得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が高く、流動性に劣るものであった。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
なお、実施例および比較例において使用した各多官能性単量体の反応性比(r2)と、塩化ビニル系単量体の反応性比(r1)との関係は、以下のとおりである。
DAP:ジアリルフタレート(r1>1>r2)
TMPDAE:トリメチロールプロパンジアリルエーテル(r1>1>r2)
TAIC:トリアリルイソシアヌレート(r1>1>r2)
EGDM:ジメタクリル酸エチレングリコール(r1<1<r2)
TMPTMA:トリメタクリル酸トリメチロールプロパン(r1<1<r2)