【実施例】
【0043】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。なお、これらは本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施例および比較例において、テトラヒドロフラン不溶ゲル分、平均重合度、分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw、Mz+1/Mw)、溶融粘度、シャルピー衝撃強度、表面光沢性の評価は下記の方法によった。
【0044】
(1)テトラヒドロフラン不溶ゲル分
塩化ビニル系重合体1gをテトラヒドロフラン100mlに加え、50℃にて24時間撹拌した後、5000rpmで60分間、遠心分離機で沈降分離し、テトラヒドロフラン不溶ゲル分を回収し、その後、40℃にて真空乾燥して得られた不溶物の質量を求め、塩化ビニル系重合体の質量に対する割合にて、塩化ビニル系重合体のテトラヒドロフラン不溶ゲル分とした。
【0045】
(2)平均重合度
JIS K−6720−2:1999の付属書に従って測定した。なお、平均重合度は、テトラヒドロフラン不溶ゲル分が生成していないもの(0.2質量%以下のもの)に限り測定した。
【0046】
(3)分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw、Mz+1/Mw)
東ソー(株)製のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(商品名:HLC−8020)に、東ソー(株)製のクロマトカラム(商品名:TSKgel−GMHXL)を装着し、テトラヒドロフランを移動相の溶媒とし、溶媒16mlに対して塩化ビニル系重合体を20mg溶解して得られた溶液につき、溶媒温度40℃、注入速度1.0ml/分、注入量100μlで測定を行い、ポリスチレン換算で、塩化ビニル系重合体の数平均分子量、重量平均分子量、Z平均分子量、Z+1平均分子量を算出した。
ここで、分子量Miの高分子がNi個存在する場合、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、Z+1平均分子量(Mz+1)を、以下の式を用いて計算で求め、Mw/Mn、Mz/Mw、Mz+1/Mwを算出した。
数平均分子量(Mn)=Σ(Mi・Ni)/ΣNi
重量平均分子量(Mw)=Σ(Mi
2・Ni)/Σ(Mi・Ni)
Z平均分子量(Mz)=Σ(Mi
3・Ni)/Σ(Mi
2・Ni)
Z+1平均分子量(Mz+1)=Σ(Mi
4・Ni)/(Mi
3・Ni)
【0047】
(4)溶融粘度
塩化ビニル系重合体100質量部に対して、Ca−Zn複合金属石鹸安定剤3質量部を混合した後、170℃のロールで3分間混練し、取り出した後、180℃の温度で10分間プレスし、カッターにて細かく裁断した。その後、内径が0.5mm、長さが0.28mm、長さと内径の比が0.56であるダイスを、キャピラリーレオメーター((株)東洋精機製作所製)に装着し、190℃、せん断速度γ=973sec
−1で得られた塩化ビニル系樹脂を押し出し、溶融粘度を測定した。評価基準は以下のとおりである。
○・・・溶融粘度が5.5kPa・s以下
×・・・溶融粘度が5.5kPa・sより大きい
【0048】
(5)シャルピー衝撃強度
塩化ビニル系重合体100質量部に対して、Sn系安定剤3質量部を混合した後、170℃のロールで3分間混練し、取り出した後、180℃の温度で10分間プレスし、シート状にしたものを電動のこぎりで短冊状にカットし、ノッチングマシンにてノッチを入れた。JIS K7111に準拠し、23℃の雰囲気下でシャルピー衝撃試験を実施した。評価基準は以下のとおりである。
○・・・衝撃強度が3.0kJ/m
2以上
×・・・衝撃強度が3.0kJ/m
2未満
【0049】
(6)表面光沢性
射出成形加工によって得られたテストピース(成形品)の表面状態を目視により観察し、下記基準で評価した。
○・・・光沢有り(蛍光灯に当てた際、成形品表面の艶が有り、蛍光灯がはっきり写る。)
×・・・光沢無し(蛍光灯に当てた際、成形品表面の艶が消えていて、蛍光灯がはっきり写らない。)
【0050】
(実施例1)
撹拌機およびジャケットを付設した内容積600リットルのステンレス製オートクレーブに、純水230kg、分散剤として、けん化度80モル%のポリビニルアルコール(重合度2600)140g、アリル系エチレン性二重結合を含むアリル系多官能性単量体としてジアリルフタレート(表中、「DAP」と記す)を254g(1270ppm対塩化ビニル系単量体)仕込んだ後、内部を真空ポンプで脱気した。その中に、塩化ビニル単量体200kg、クミルパーオキシネオデカノエート(油溶性重合開始剤(I))60g(300ppm対塩化ビニル系単量体)およびtert−ヘキシルパーオキシピバレート(油溶性重合開始剤(II))60g(300ppm対塩化ビニル系単量体)を仕込んだ。次いで、オートクレーブ内を撹拌して46℃に調整し、第一段階の重合を開始した。
【0051】
オートクレーブ内の温度を46℃に保つようにジャケットに通す温水の温度、量を調整しながら255分間重合を行った。その時(第一段階の重合終了時)の重合転化率は33質量%であった。その後、ジャケットに通す温水の温度を上げ、20分かけてオートクレーブ内を67℃まで昇温し、その後、連鎖移動剤として2−メルカプトエタノールを60g(300ppm対塩化ビニル系単量体)添加し、その温度を維持して、第二段階の重合を続けた。第一段階の重合開始から370分後に、圧力が最大値から270kPa低下したので重合を停止し、未反応単量体を回収して重合を終了した。得られたスラリーを脱水した後、乾燥して塩化ビニル系重合体を得た。収率は82質量%であった。なお、昇温時間は全重合時間の5.4%であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、上記評価を行い、結果を表1に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が低く、衝撃強度が高く、表面光沢性に優れるものであった。なお、表1中、第一段階の「平均重合度」は、第一段階の重合で得られる塩化ビニル系重合体の重合度調整剤を添加しない場合の平均重合度を表す。
【0052】
(実施例2)
実施例1において、アリル系多官能性単量体の添加量を400g(2000ppm対塩化ビニル系単量体)に変更し、第一段階の重合転化率が20%となるまで180分間重合を行った以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は350分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が低く、衝撃強度が高く、表面光沢性に優れるものであった。
【0053】
(実施例3)
実施例1において、第一段階の重合温度を40℃、重合時間を350分、第二段階で添加する連鎖移動剤の量を100g(500ppm対塩化ビニル系単量体)とした以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は490分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が低く、衝撃強度が高く、表面光沢性に優れるものであった。
【0054】
(実施例4)
実施例1において、第一段階の重合温度を40℃、重合時間を350分、アリル系多官能性単量体の添加量を164g(820ppm対塩化ビニル系単量体)に変更した以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は470分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が低く、衝撃強度が高く、表面光沢性に優れるものであった。
【0055】
(実施例5)
実施例1において、アリル系多官能性単量体としてトリメチロールプロパンジアリルエーテル(表中、「TMPDAE」と記す)を使用した以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は460分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が低く、衝撃強度が高く、表面光沢性に優れるものであった。
【0056】
(実施例6)
実施例1において、アリル系多官能性単量体としてトリアリルイソシアヌレート(表中、「TAIC」と記す)を使用し、添加量を164g(820ppm対塩化ビニル系単量体)とし、第一段階の重合時間を180分とした以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は360分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が低く、かつ、衝撃強度、引張強度、外観に優れるものであった。
【0057】
(比較例1)
実施例1において、油溶性重合開始剤(I)およびアリル系多官能性単量体を添加せずに同様の仕込みを行った後、重合温度を64℃まで昇温し、その温度を保って重合を行い、連鎖移動剤を添加せずに重合転化率が82%になった時点で重合を停止した。全重合時間は270分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度に劣るものであった。なお、表2中、第一段階の「平均重合度」は、第一段階の重合で得られる塩化ビニル系重合体の重合度調整剤を添加しない場合の平均重合度を表す。
【0058】
(比較例2)
実施例1において、油溶性重合開始剤(I)の添加量を20g(100ppm対塩化ビニル系単量体)とし、油溶性重合開始剤(II)としてt−ブチルパーオキシネオデカノエートを使用し、アリル系多官能性単量体を添加せずに同様の仕込みを行った後、重合温度を52℃まで昇温し、その温度を保って重合を行い、連鎖移動剤を添加せずに重合転化率が82%になった時点で、重合を停止した。全重合時間は420分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が高く、流動性に劣るものであった。
【0059】
(比較例3)
実施例1において、アリル系多官能性単量体を添加しないこと以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は340分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度に劣るものであった。
【0060】
(比較例4)
実施例1において、アリル系多官能性単量体の添加量を80g(400ppm対塩化ビニル系単量体)としたこと以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は350分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度に劣るものであった。
【0061】
(比較例5)
実施例1において、アリル系多官能性単量体の添加量を800g(4000ppm対塩化ビニル系単量体)としたこと以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は410分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が高く、表面光沢性に劣るものであった。
【0062】
(比較例6)
実施例1において、油溶性重合開始剤(I)を添加せず、アリル系多官能性単量体の添加量を400g(2000ppm対塩化ビニル系単量体)とし、重合温度67℃で転化率が82%となるまで、連鎖移動剤を添加せずに一定温度のまま重合を行った以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は300分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度は低く、溶融粘度も高いものであった。
【0063】
(比較例7)
実施例1において、油溶性重合開始剤(I)を添加せず、アリル系多官能性単量体の添加量を800g(4000ppm対塩化ビニル系単量体)とし、重合温度67℃で転化率が82%となるまで、連鎖移動剤を添加せずに一定温度のまま重合を行った以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は340分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が高く、表面光沢が無いものであった。
【0064】
(比較例8)
実施例1において、アリル系多官能性単量体の添加量を400g(2000ppm対塩化ビニル系単量体)とし、油溶性重合開始剤(I)の添加量を20g(100ppm対塩化ビニル系単量体)とし、油溶性重合開始剤(II)としてt−ブチルパーオキシネオデカノエートを使用し、その添加量を60g(300ppm対塩化ビニル系単量体)とし、重合温度を57.5℃とし、重合時間125分経過した時点(重合転化率33%)で、昇温せずに連鎖移動剤として2−メルカプトエタノールを108g(540ppm対塩化ビニル系重合体)添加し、そのまま一定温度で重合を行った以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は380分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が高く、衝撃強度が低いものであった。
【0065】
(比較例9)
実施例1において、第一段階終了時の重合転化率を62%、重合時間を400分とした以外は実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は510分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が高く、流動性が悪いものであった。
【0066】
(比較例10)
実施例1において、アリル系多官能性単量体の代わりに(メタ)アクリレート系多官能性単量体としてジメタクリル酸エチレングリコール(表中、「EGDM」と記す)を添加した以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は400分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度が低く、表面光沢性に劣るものであった。
【0067】
(比較例11)
実施例1において、アリル系多官能性単量体の代わりに(メタ)アクリレート系多官能性単量体としてトリメタクリル酸トリメチロールプロパン(表中、「TMPTMA」と記す)を添加した以外は、実施例1と同様にして重合を行った。全重合時間は390分であった。
得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度が低く、表面光沢性に劣るものであった。
【0068】
(比較例12)
平均重合度500の塩化ビニル重合体(大洋塩ビ(株)製、商品名:TH−500)と平均重合度3300の架橋変性高重合度の塩化ビニル重合体(大洋塩ビ(株)製、商品名:TU−300)を、75対25の質量比でヘンシェルミキサーを用いてドライブレンドし、混合品として平均重合度700に調整した塩化ビニル系重合体を得た。
混合品として得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、衝撃強度に劣るものであった。
【0069】
(比較例13)
平均重合度500の塩化ビニル重合体(大洋塩ビ(株)製、商品名:TH−500)と平均重合度3300の架橋変性高重合度の塩化ビニル重合体(大洋塩ビ(株)製、商品名TU−300)を、60対40の質量比でヘンシェルミキサーを用いてドライブレンドし、混合品として平均重合度830に調整した塩化ビニル系重合体を得た。
混合品として得られた塩化ビニル系重合体について、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。得られた塩化ビニル系重合体は、溶融粘度が高く、流動性に劣るものであった。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
なお、実施例および比較例において使用した各多官能性単量体の反応性比(r2)と、塩化ビニル系単量体の反応性比(r1)との関係は、以下のとおりである。
DAP:ジアリルフタレート(r1>1>r2)
TMPDAE:トリメチロールプロパンジアリルエーテル(r1>1>r2)
TAIC:トリアリルイソシアヌレート(r1>1>r2)
EGDM:ジメタクリル酸エチレングリコール(r1<1<r2)
TMPTMA:トリメタクリル酸トリメチロールプロパン(r1<1<r2)