(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783172
(24)【登録日】2020年10月23日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】描画装置および描画方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20201102BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G03F7/20 521
H05K3/00 H
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-58912(P2017-58912)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-163202(P2018-163202A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2019年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】長尾 竜也
(72)【発明者】
【氏名】乘光 良直
(72)【発明者】
【氏名】中井 一博
(72)【発明者】
【氏名】北村 清志
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−089868(JP,A)
【文献】
特開2015−026738(JP,A)
【文献】
特開2012−209379(JP,A)
【文献】
特開平10−335225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
H01L 21/027
H01L 21/30
H01L 21/46
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物上に画像を描画する描画装置であって、
光源と、
前記光源からの光を変調する光変調部と、
前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構と、
描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる制御部と、
を備え、
前記制御部が、
基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する記憶部と、
前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して前記描画データを生成するデータ生成部と、
を備え、
前記複数の伸縮率は、前記描画装置において機械的な補正で対応できる伸縮率である対応限界伸縮率よりも大きい伸縮率を含み、
前記実際の伸縮率と前記選択描画データに対応する伸縮率との差は前記対応限界伸縮率以下であることを特徴とする描画装置。
【請求項2】
請求項1に記載の描画装置であって、
前記対象物上に位置する複数の目印を撮像する撮像部をさらに備え、
前記制御部が、前記撮像部による撮像結果に基づいて前記複数の目印の測定位置を取得し、前記複数の目印の前記測定位置と設計位置とを比較することにより、前記対象物の実際の伸縮率を取得する伸縮率取得部をさらに備えることを特徴とする描画装置。
【請求項3】
対象物上に画像を描画する描画装置であって、
光源と、
前記光源からの光を変調する光変調部と、
前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構と、
描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる制御部と、
を備え、
前記制御部が、
基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する記憶部と、
前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して前記描画データを生成するデータ生成部と、
を備え、
前記データ生成部において、仮に、前記基準状態に対応する初期描画データを利用して前記描画データが生成された場合、前記走査機構による主走査方向への走査時における前記光変調部による変調間隔の変更、および、前記走査機構による前記主走査方向への走査時に走査される走査領域の副走査方向における間隔の変更によって描画可能な前記対象物の伸縮率よりも大きい伸縮率が、前記複数の伸縮率に含まれることを特徴とする描画装置。
【請求項4】
対象物上に画像を描画する描画装置であって、
光源と、
前記光源からの光を変調する光変調部と、
前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構と、
描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる制御部と、
を備え、
前記制御部が、
基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する記憶部と、
前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して前記描画データを生成するデータ生成部と、
を備え、
前記対象物上の描画領域に複数の描画ブロックが設定されており、
前記データ生成部が、前記描画データを生成する際に、前記選択描画データの前記複数の描画ブロックにそれぞれ対応する部分を前記描画領域の歪みに基づいて補正することを特徴とする描画装置。
【請求項5】
請求項4に記載の描画装置であって、
前記データ生成部による前記選択描画データの前記複数の描画ブロックにそれぞれ対応する部分の補正が、前記描画領域における前記複数の描画ブロックのそれぞれの設計位置からの位置ずれの補正であることを特徴とする描画装置。
【請求項6】
対象物上に画像を描画する描画装置であって、
光源と、
前記光源からの光を変調する光変調部と、
前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構と、
描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる制御部と、
を備え、
前記制御部が、
基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する記憶部と、
前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して前記描画データを生成するデータ生成部と、
を備え、
前記対象物の実際の伸縮率に対応する初期描画データが前記複数の初期描画データに含まれていない場合、前記対象物に対する描画が中止されて他の対象物に対する描画が開始され、他の対象物に対する描画と並行して前記対象物の実際の伸縮率に対応する初期描画データが生成された後、前記対象物に対する描画が行われることを特徴とする描画装置。
【請求項7】
光源と、前記光源からの光を変調する光変調部と、前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構とを備える描画装置により、前記対象物上に画像を描画する描画方法であって、
a)基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する工程と、
b)前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して描画データを生成する工程と、
c)前記描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる工程と、
を備え、
前記複数の伸縮率は、前記描画装置において機械的な補正で対応できる伸縮率である対応限界伸縮率よりも大きい伸縮率を含み、
前記実際の伸縮率と前記選択描画データに対応する伸縮率との差は前記対応限界伸縮率以下であることを特徴とする描画方法。
【請求項8】
請求項7に記載の描画方法であって、
d)前記b)工程よりも前に、前記対象物上に位置する複数の目印を撮像する工程と、
e)前記d)工程における撮像結果に基づいて前記複数の目印の測定位置を取得し、前記複数の目印の前記測定位置と設計位置とを比較することにより、前記対象物の実際の伸縮率を取得する工程と、
をさらに備えることを特徴とする描画方法。
【請求項9】
光源と、前記光源からの光を変調する光変調部と、前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構とを備える描画装置により、前記対象物上に画像を描画する描画方法であって、
a)基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する工程と、
b)前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して描画データを生成する工程と、
c)前記描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる工程と、
を備え、
前記b)工程において、仮に、前記基準状態に対応する初期描画データを利用して前記描画データが生成された場合、前記走査機構による主走査方向への走査時における前記光変調部による変調間隔の変更、および、前記走査機構による前記主走査方向への走査時に走査される走査領域の副走査方向における間隔の変更によって描画可能な前記対象物の伸縮率よりも大きい伸縮率が、前記複数の伸縮率に含まれることを特徴とする描画方法。
【請求項10】
光源と、前記光源からの光を変調する光変調部と、前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構とを備える描画装置により、前記対象物上に画像を描画する描画方法であって、
a)基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する工程と、
b)前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して描画データを生成する工程と、
c)前記描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる工程と、
を備え、
前記対象物上の描画領域に複数の描画ブロックが設定されており、
前記b)工程において、前記描画データが生成される際に、前記選択描画データの前記複数の描画ブロックにそれぞれ対応する部分が、前記描画領域の歪みに基づいて補正されることを特徴とする描画方法。
【請求項11】
請求項10に記載の描画方法であって、
前記b)工程における前記選択描画データの前記複数の描画ブロックにそれぞれ対応する部分の補正が、前記描画領域における前記複数の描画ブロックのそれぞれの設計位置からの位置ずれの補正であることを特徴とする描画方法。
【請求項12】
光源と、前記光源からの光を変調する光変調部と、前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構とを備える描画装置により、前記対象物上に画像を描画する描画方法であって、
a)基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する工程と、
b)前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して描画データを生成する工程と、
c)前記描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる工程と、
を備え、
前記対象物の実際の伸縮率に対応する初期描画データが前記複数の初期描画データに含まれていない場合、前記対象物に対する描画が中止されて他の対象物に対する描画が開始され、他の対象物に対する描画と並行して前記対象物の実際の伸縮率に対応する初期描画データが生成された後、前記対象物に対する描画が行われることを特徴とする描画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物上に画像を描画する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板、プリント基板、または、プラズマ表示装置もしくは液晶表示装置用のガラス基板等(以下、「基板」という。)に形成された感光材料に光を照射することにより、パターンの描画が行われている。近年、パターンの高精細化に伴い、変調される光ビームを感光材料上にて走査してパターンを直接描画する描画装置が利用されている。
【0003】
上述のような描画装置では、基板に反り、ゆがみ、歪み等の変形が生じている場合、基板の変形に合わせて描画データが補正される。描画データの補正は、通常、基板上に設けられたアライメントマーク等の目印の位置を測定し、測定結果から基板上の各位置の変位を算出した後、各位置の描画データを当該変位に整合させることにより行われる。
【0004】
例えば、特許文献1では、描画パターンの下地パターンからズレ量を求めて描画データを補正する際に、画素サイズよりも小さいズレ量に対応して描画データを補正する技術が提案されている。具体的には、特許文献1の描画装置では、ベクトルデータで記述された描画パターンが、第1のラスタライズ開始位置からラスタライズされて第1の描画データが取得される。また、第1のラスタライズ開始位置から画素サイズよりも小さいシフト量だけシフトした第2のラスタライズ開始位置から、描画パターンがラスタライズされて第2の描画データが取得される。そして、第1の描画データおよび第2の描画データのうち、下地パターンに対する位置ズレを補正するための補正量に対応する描画データが選択され、当該補正量に基づいて補正される。
【0005】
また、このような下地パターンの局所的な歪み(すなわち、非線形歪み)ではなく、基板の全体的な伸縮(すなわち、線形歪み)が生じている場合、従来の描画装置では機械的な補正が行われる。具体的には、感光材料上にて走査される光ビームの変調間隔が調整され、また、光ビームの走査領域の幅方向におけるステップ移動の間隔が調整される。これにより、基板上に描画されるパターンが縦横に伸縮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5752967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、フィルム基板、プリント基板、樹脂基板または金属基板等、伸縮が比較的大きい基板では、上述のような描画装置の機械的な補正では、基板の伸縮に対応することができない場合がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、伸縮した対象物に対する描画を迅速に行うことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、対象物上に画像を描画する描画装置であって、光源と、前記光源からの光を変調する光変調部と、前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構と、描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる制御部とを備え、前記制御部が、基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する記憶部と、前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して前記描画データを生成するデータ生成部とを備え
、前記複数の伸縮率は、前記描画装置において機械的な補正で対応できる伸縮率である対応限界伸縮率よりも大きい伸縮率を含み、前記実際の伸縮率と前記選択描画データに対応する伸縮率との差は前記対応限界伸縮率以下である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の描画装置であって、前記対象物上に位置する複数の目印を撮像する撮像部をさらに備え、前記制御部が、前記撮像部による撮像結果に基づいて前記複数の目印の測定位置を取得し、前記複数の目印の前記測定位置と設計位置とを比較することにより、前記対象物の実際の伸縮率を取得する伸縮率取得部をさらに備える。
【0011】
請求項3に記載の発明は、
対象物上に画像を描画する描画装置であって、
光源と、前記光源からの光を変調する光変調部と、前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構と、描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる制御部とを備え、前記制御部が、基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する記憶部と、前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して前記描画データを生成するデータ生成部とを備え、前記データ生成部において、仮に、前記基準状態に対応する初期描画データを利用して前記描画データが生成された場合、前記走査機構による主走査方向への走査時における前記光変調部による変調間隔の変更、および、前記走査機構による前記主走査方向への走査時に走査される走査領域の副走査方向における間隔の変更によって描画可能な前記対象物の伸縮率よりも大きい伸縮率が、前記複数の伸縮率に含まれる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、
対象物上に画像を描画する描画装置であって、
光源と、前記光源からの光を変調する光変調部と、前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構と、描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる制御部とを備え、前記制御部が、基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する記憶部と、前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して前記描画データを生成するデータ生成部とを備え、前記対象物上の描画領域に複数の描画ブロックが設定されており、前記データ生成部が、前記描画データを生成する際に、前記選択描画データの前記複数の描画ブロックにそれぞれ対応する部分を前記描画領域の歪みに基づいて補正する。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の描画装置であって、前記データ生成部による前記選択描画データの前記複数の描画ブロックにそれぞれ対応する部分の補正が、前記描画領域における前記複数の描画ブロックのそれぞれの設計位置からの位置ずれの補正である。
【0014】
請求項6に記載の発明は、
対象物上に画像を描画する描画装置であって、
光源と、前記光源からの光を変調する光変調部と、前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構と、描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる制御部とを備え、前記制御部が、基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する記憶部と、前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して前記描画データを生成するデータ生成部とを備え、前記対象物の実際の伸縮率に対応する初期描画データが前記複数の初期描画データに含まれていない場合、前記対象物に対する描画が中止されて他の対象物に対する描画が開始され、他の対象物に対する描画と並行して前記対象物の実際の伸縮率に対応する初期描画データが生成された後、前記対象物に対する描画が行われる。
【0015】
請求項7に記載の発明は、光源と、前記光源からの光を変調する光変調部と、前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構とを備える描画装置により、前記対象物上に画像を描画する描画方法であって、a)基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する工程と、b)前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して描画データを生成する工程と、c)前記描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる工程とを備え
、前記複数の伸縮率は、前記描画装置において機械的な補正で対応できる伸縮率である対応限界伸縮率よりも大きい伸縮率を含み、前記実際の伸縮率と前記選択描画データに対応する伸縮率との差は前記対応限界伸縮率以下である。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の描画方法であって、d)前記b)工程よりも前に、前記対象物上に位置する複数の目印を撮像する工程と、e)前記d)工程における撮像結果に基づいて前記複数の目印の測定位置を取得し、前記複数の目印の前記測定位置と設計位置とを比較することにより、前記対象物の実際の伸縮率を取得する工程とをさらに備える。
【0017】
請求項9に記載の発明は、
光源と、前記光源からの光を変調する光変調部と、前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構とを備える描画装置により、前記対象物上に画像を描画する描画方法であって、
a)基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する工程と、b)前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して描画データを生成する工程と、c)前記描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる工程とを備え、前記b)工程において、仮に、前記基準状態に対応する初期描画データを利用して前記描画データが生成された場合、前記走査機構による主走査方向への走査時における前記光変調部による変調間隔の変更、および、前記走査機構による前記主走査方向への走査時に走査される走査領域の副走査方向における間隔の変更によって描画可能な前記対象物の伸縮率よりも大きい伸縮率が、前記複数の伸縮率に含まれる。
【0018】
請求項10に記載の発明は、
光源と、前記光源からの光を変調する光変調部と、前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構とを備える描画装置により、前記対象物上に画像を描画する描画方法であって、
a)基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する工程と、b)前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して描画データを生成する工程と、c)前記描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる工程とを備え、前記対象物上の描画領域に複数の描画ブロックが設定されており、前記b)工程において、前記描画データが生成される際に、前記選択描画データの前記複数の描画ブロックにそれぞれ対応する部分が、前記描画領域の歪みに基づいて補正される。
【0019】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の描画方法であって、前記b)工程における前記選択描画データの前記複数の描画ブロックにそれぞれ対応する部分の補正が、前記描画領域における前記複数の描画ブロックのそれぞれの設計位置からの位置ずれの補正である。
【0020】
請求項12に記載の発明は、
光源と、前記光源からの光を変調する光変調部と、前記光変調部により変調された光を対象物上にて走査する走査機構とを備える描画装置により、前記対象物上に画像を描画する描画方法であって、
a)基準状態からの前記対象物の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している前記対象物に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する工程と、b)前記対象物の実際の伸縮率に基づいて前記複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して描画データを生成する工程と、c)前記描画データに基づいて前記光変調部および前記走査機構を制御することにより前記対象物に対する描画を実行させる工程とを備え、前記対象物の実際の伸縮率に対応する初期描画データが前記複数の初期描画データに含まれていない場合、前記対象物に対する描画が中止されて他の対象物に対する描画が開始され、他の対象物に対する描画と並行して前記対象物の実際の伸縮率に対応する初期描画データが生成された後、前記対象物に対する描画が行われる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、伸縮した対象物に対する描画を迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図4】描画装置における描画の流れを示す図である。
【
図5】描画装置における描画の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る描画装置1の構成を示す側面図である。
図2は、描画装置1を示す平面図である。描画装置1は、描画の対象物であるフィルム基板、プリント基板、樹脂基板または金属基板等(以下、単に「基板9」という。)の表面に設けられた感光材料に光を照射することにより、基板9上に回路パターン等の画像を直接的に描画する直描装置である。
【0024】
描画装置1は、走査機構2と、基板保持部3と、光照射部4と、撮像部5とを備える。基板保持部3は、(+Z)側の主面91(以下、「上面91」という。)上に感光材料の層が形成された基板9を保持する。走査機構2は、基台11上に設けられ、基板保持部3をZ方向に垂直なX方向およびY方向に移動する。換言すれば、走査機構2は、基板保持部3を水平移動する保持部移動機構である。
【0025】
基台11には、フレーム12が、基板保持部3および走査機構2を跨いで固定される。光照射部4および撮像部5は、フレーム12に取り付けられる。光照射部4は、基板9上の感光材料に変調された光を照射する。撮像部5は、例えば、基板9のX方向の全幅に亘って設けられ、基板9の上面91を撮像する。また、描画装置1は、
図1に示すように、走査機構2、光照射部4および撮像部5等の各構成を制御する制御部6を備える。なお、
図2では、制御部6の図示を省略している。
【0026】
基板保持部3は、ステージ31と、ステージ回転機構32と、支持プレート33とを備える。基板9は、ステージ31上に載置される。支持プレート33は、ステージ31を回転可能に支持する。ステージ回転機構32は、支持プレート33上において、基板9の上面91に垂直な回転軸321を中心としてステージ31を回転する。
【0027】
走査機構2は、副走査機構23と、ベースプレート24と、主走査機構25とを備える。副走査機構23は、基板保持部3をX方向(以下、「副走査方向」という。)に移動する。ベースプレート24は、副走査機構23を介して支持プレート33を支持する。主走査機構25は、基板保持部3をベースプレート24と共にX方向に垂直なY方向(以下、「主走査方向」という。)に移動する。描画装置1では、走査機構2により、基板9の上面91に平行な主走査方向および副走査方向に基板保持部3が移動される。
【0028】
副走査機構23は、リニアモータ231と、1対のリニアガイド232とを備える。リニアモータ231は、支持プレート33の下側(すなわち、(−Z)側)において、ステージ31の主面に平行、かつ、主走査方向に垂直な副走査方向に伸びる。1対のリニアガイド232は、副走査方向に伸びる。1対のリニアガイド232は、リニアモータ231の(+Y)側および(−Y)側に配置される。主走査機構25は、リニアモータ251と、1対のエアスライダ252とを備える。リニアモータ251は、ベースプレート24の下側において、ステージ31の主面に平行な主走査方向に伸びる。1対のエアスライダ252は、主走査方向に伸びる。1対のエアスライダ252は、リニアモータ251の(+X)側および(−X)側に配置される。
【0029】
図2に示すように、光照射部4は、副走査方向に沿って等ピッチにて配列されてフレーム12に取り付けられる複数(本実施の形態では、8つ)の光学ヘッド41を備える。また、光照射部4は、
図1に示すように、各光学ヘッド41に接続される光源光学系42、並びに、紫外光を出射する光源43および光源駆動部44を備える。光源43は固体レーザである。光源駆動部44が駆動されることにより、光源43から波長355nmの紫外光が出射され、光源光学系42を介して光学ヘッド41へと導かれる。
【0030】
各光学ヘッド41は、出射部45と、光学系451,47と、光変調部46とを備える。出射部45は、光源43からの光を下方に向けて出射する。光学系451は、出射部45からの光を反射して光変調部46へと導く。光変調部46は、光学系451を介して照射された出射部45からの光(すなわち、光源43からの光)を変調しつつ反射する。光学系47は、光変調部46からの変調された光を、基板9の上面91に設けられた感光材料上へと導く。
【0031】
光変調部46は、例えば、出射部45を介して照射された光源43からの光を基板9の上面91へと導く回折格子型の複数の光変調素子を備える。回折格子型の光変調素子としては、例えば、GLV(Grating Light Valve:グレーチング・ライト・バルブ)(シリコン・ライト・マシーンズ(サニーベール、カリフォルニア)の登録商標)が知られている。なお、光変調部46では、回折格子型の光変調素子以外の様々な光変調素子または光変調装置が利用されてよい。また、光変調部46による光の変調は、ON/OFFのみであってもよく、ON時の光量が多段階に変更可能であってもよい。
【0032】
描画装置1では、走査機構2の主走査機構25により主走査方向に移動される基板9に対し、光照射部4の光変調部46により変調された光が照射される。換言すれば、主走査機構25は、光変調部46から基板9へと導かれた光の基板9上における照射位置を、基板9に対して主走査方向に相対的に移動する照射位置移動機構となっている。なお、描画装置1では、例えば、基板9を移動することなく、光変調部46が主走査方向に移動することにより基板9上の照射位置が主走査方向に移動されてもよい。描画装置1では、基板9を副走査方向にステップ移動して副走査方向における光の照射位置を決定した後、光変調部46による光の変調を制御しつつ基板9を主走査方向に移動する。描画装置1では、当該動作が繰り返されることにより、基板9上にパターンが描画される。
【0033】
図3は、制御部6の機能を示すブロック図である。
図3では、制御部6以外の構成も併せて描いている。制御部6は、記憶部61と、ランレングスデータ生成部62と、データ生成部63と、伸縮率取得部64と、描画制御部65とを備える。制御部6は、通常のコンピュータと同様に、各種演算処理を行うCPU、実行されるプログラムを記憶したり演算処理の作業領域となるRAM、基本プログラムを記憶するROM、各種情報を記憶する固定ディスク、作業者に各種情報を表示するディスプレイ、および、キーボードやマウス等の入力部等を接続した構成となっている。
図3では、制御部6のCPU等がプログラムに従って演算処理等を行うことにより実現される複数の機能を示している。なお、これらの機能は複数台のコンピュータにより実現されてもよい。
【0034】
記憶部61は、CAD等により作成されたパターンデータを、基板9に描画する画像のデータとして記憶する。パターンデータは、回路パターン等の画像の設計データである。パターンデータは、通常、ポリゴン等のベクトルデータである。ランレングスデータ生成部62は、当該ベクトルデータを変換してランレングスデータを生成する。ランレングスデータ生成部62により生成されたランレングスデータは、記憶部61に格納される。データ生成部63は、記憶部61に記憶されているランレングスデータを、基板9の変形に基づいて補正し、最終的な描画データを生成する。描画制御部65は、当該描画データに基づいて、光変調部46および走査機構2を制御することにより、光変調部46により変調された光を基板9上にて走査し、基板9に対する描画を実行させる。伸縮率取得部64は、基板9の伸縮率を取得する。
【0035】
次に、基板上に描画される回路パターンのデータを補正する処理の基本概念について説明する。通常、パターンデータは、変形がなく上面が平坦な理想的な形状の基板(以下、「基準状態の基板」と呼ぶ。)を想定して作成される。しかしながら、実際の基板には、前工程での処理に伴う伸縮および歪み等の変形が生じている場合がある。この場合、パターンデータで設定されている基板上の配置位置に回路パターンが描画されると、所望の生産物を得ることはできない。このため、基板に生じている変形に合わせて回路パターンが形成されるように、回路パターンの描画位置を基板の変形に応じて変換する補正処理が必要となる。
【0036】
従来の描画装置では、基板の基準状態からの伸縮については、光変調部および走査機構による機械的な補正により対応する。具体的には、基板が主走査方向に伸張している場合には、例えば、光変調部における光の変調間隔を増大させる。また、基板が副走査方向に伸張している場合には、例えば、副走査機構による基板上における光の照射位置のステップ移動距離(すなわち、主走査機構による光の走査領域の副走査方向における間隔)を増大させる。しかしながら、このような機械的な補正で対応できる伸縮率(以下、「対応限界伸縮率」と呼ぶ。)は、例えば100ppm程度である。
【0037】
そこで、
図1および
図2に示す描画装置1では、対応限界伸縮率を超える基板9の伸縮にも対応するため、まず、基板9の伸縮に応じて回路パターン全体を伸縮する線形補正(いわゆる、グローバルアライメント)が行われる。その後、基板9の部分的な歪みに応じて回路パターンの一部の形状を補正する非線形補正(いわゆる、ローカルアライメント)が行われて描画データが生成される。
【0038】
図4は、描画装置1における描画の流れを示す図である。描画装置1では、まず、基準状態からの基板9の伸縮の程度を示す複数の伸縮率が設定される。以下、設定された伸縮率を「設定伸縮率」という。複数の設定伸縮率はそれぞれ、対応限界伸縮率よりも大きい。複数の設定伸縮率は、例えば、0ppmから+10000ppmまでの間で100ppm毎に設定される。当該複数の設定伸縮率には、例えば、基板9が伸縮していない場合の伸縮率(すなわち、基準状態の伸縮率)である0ppmも含まれる。そして、各設定伸縮率にて伸縮している基板9に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータが、ランレングスデータ生成部62により生成される。複数の設定伸縮率に対応する複数のランレングスデータは、複数の初期描画データとして、
図3に示す制御部6の記憶部61に格納される(ステップS11)。すなわち、初期描画データは、上述のパターンデータを設定伸縮率で伸縮したものを、ランレングスデータに変換したものである。
【0039】
次に、撮像部5により基板9の上面91上に位置する複数の目印が撮像される(ステップS12)。当該複数の目印は、例えば、基板9の位置決め等に利用するために設けられたアライメントマーク(いわゆる、グローバルアライメントマーク)である。なお、目印は、その位置を正確に特定できるのであれば、アライメントマークには限定されず、例えば、基板に設けられた貫通孔や回路パターンの一部であってもよい。撮像部5により取得された画像は、伸縮率取得部64へと送られる。
【0040】
伸縮率取得部64では、撮像部5による撮像結果(すなわち、ステップS12における撮像結果)に基づいて、上記複数の目印の測定位置を取得する。そして、当該複数の目印の測定位置と、予め記憶部61に記憶されている当該複数の目印の設計位置(すなわち、基準状態の基板9上における複数の目印の位置)とが比較される。これにより、基板9の実際の伸縮率が取得される(ステップS13)。伸縮率取得部64により取得された基板9の実際の伸縮率は、データ生成部63へと送られる。
【0041】
データ生成部63では、基板9の実際の伸縮率に基づいて、ステップS11にて記憶部61に予め記憶された複数の初期描画データから、1つの初期描画データが選択される。以下、選択された初期描画データを「選択描画データ」と呼ぶ。選択描画データは、例えば、基板9の実際の伸縮率に最も近い設定伸縮率に対応するランレングスデータである。基板9の実際の伸縮率と、当該最も近い設定伸縮率との差は、上述の対応限界伸縮率以下である。データ生成部63では、選択描画データを利用して描画データの生成が行われる(ステップS14)。
【0042】
具体的には、選択描画データのうち、基板9上の描画領域に予め設定されている複数の描画ブロックにそれぞれ対応する部分(以下、「ブロック描画データ」と呼ぶ。)が、当該描画領域の歪み(すなわち、各描画ブロックの歪み)に基づいて補正される。複数の描画ブロックは、例えば、描画領域をマトリクス状に分割した領域であり、それぞれが矩形状の領域である。描画領域の歪みは、対応限界伸縮率に対応する変形よりも小さい変形である。
【0043】
描画領域の歪みは、例えば、基板9の上面91上に位置する複数の目印(いわゆる、ローカルアライメントマーク)が撮像部5により撮像され、撮像結果に基づいて求められる。描画領域の歪みを求めるための目印の撮像は、ステップS12における複数の目印の撮像とは別に行われてもよく、並行して行われてもよい。各ブロック描画データの補正は、例えば、描画領域における各描画ブロックの設計位置からの位置ずれの補正である。すなわち、基板9上における描画ブロックの実際の位置と、当該描画ブロックの設計位置との差だけ、ブロック描画データの座標がシフトされる。
【0044】
データ生成部63により生成された描画データは、描画制御部65に送られる。そして、描画制御部65により描画データに基づいて走査機構2および光変調部46が制御されることにより、基板9に対するパターンの描画が実行される(ステップS15)。具体的には、上述のように、光変調部46による光の変調を制御しつつ基板9が主走査方向に移動されることにより、主走査方向に延びる線状または帯状の走査領域への描画が行われる。当該走査領域は、走査機構2による主走査方向への光の走査時に、当該光により走査される基板9上の領域である。続いて、基板9が副走査方向に所定の距離だけステップ移動された後、光変調部46による光の変調を制御しつつ基板9が主走査方向に移動されることにより、副走査方向において上記走査領域に隣接する次の走査領域への描画が行われる。そして、副走査方向に配列される複数の走査領域への描画が順次行われることにより、基板9上へのパターンの描画が行われる。
【0045】
描画装置1では、ステップS13にて取得された基板9の実際の伸縮率が、ステップS14にて選択された選択描画データに対応する設定伸縮率と異なっている場合、当該設定伸縮率と実際の伸縮率との差は、上述の機械的な補正で対応可能であるため、ステップS15における基板9に対する描画の際に機械的に補正される。例えば、主走査方向における伸縮率の差は、走査機構2による主走査方向への走査時における光変調部46による光の変調間隔の変更により補正される。副走査方向における伸縮率の差は、例えば、走査機構2による主走査方向への走査時に走査される走査領域の副走査方向における間隔の変更により補正される。具体的には、副走査機構23による基板9の副走査方向へのステップ移動の距離が変更される。あるいは、ズームレンズを利用して、基板9上に照射される光の副走査方向の幅が変更される。
【0046】
以上に説明したように、描画装置1は、光源43と、光変調部46と、走査機構2と、制御部6とを備える。光変調部46は、光源43からの光を変調する。走査機構2は、光変調部46により変調された光を対象物(すなわち、基板9)上にて走査する。制御部6は、描画データに基づいて光変調部46および走査機構2を制御することにより、基板9に対する描画を実行させる。制御部6は、記憶部61と、データ生成部63とを備える。記憶部61は、基準状態からの基板9の伸縮の程度を示す複数の伸縮率について、各伸縮率にて伸縮している基板9に対して描画が行われる場合の画像のランレングスデータを、複数の初期描画データとして予め記憶する(ステップS11)。データ生成部63は、基板9の実際の伸縮率に基づいて複数の初期描画データから選択された1つの初期描画データである選択描画データを利用して、上記描画データを生成する(ステップS14)。これにより、伸縮した基板9に対する描画を行う毎に、基板9の伸縮率に合わせたランレングスデータを新たに作成する必要がないため、描画データを迅速に生成することができる。その結果、伸縮した基板9に対する描画を迅速かつ精度良く行うことができる。
【0047】
上述のように、描画装置1は、撮像部5をさらに備える。撮像部5は、基板9上に位置する複数の目印を撮像する(ステップS12)。制御部6は、伸縮率取得部64をさらに備える。伸縮率取得部64は、撮像部5による撮像結果に基づいて当該複数の目印の測定位置を取得し、複数の目印の測定位置と設計位置とを比較することにより、基板9の実際の伸縮率を取得する(ステップS13)。これにより、基板9の実際の伸縮率を、描画装置1内において取得することができる。また、上記複数の目印の撮像結果を、描画装置1内における基板9の位置合わせにも利用することにより、基板9の描画に要する時間を短縮することができる。
【0048】
描画装置1では、上記複数の伸縮率に、対応限界伸縮率よりも大きい伸縮率が含まれる。対応限界伸縮率は、上述のように、データ生成部63において、仮に、基準状態に対応する初期描画データを利用して描画データが生成された場合、走査機構2による主走査方向への走査時における光変調部46による変調間隔の変更、および、走査機構2による主走査方向への走査時に走査される走査領域の副走査方向における間隔の変更によって描画可能な基板9の伸縮率の上限値である。これにより、描画装置1における上述の機械的な補正では対応不能な伸縮率にて伸縮している基板9に対しても、精度良く描画を行うことができる。
【0049】
描画装置1にて描画が行われる基板9上の描画領域には、複数の描画ブロックが設定されている。データ生成部63は、描画データを生成する際に、選択描画データの複数の描画ブロックにそれぞれ対応する部分を、描画領域の歪みに基づいて補正する(ステップS14)。これにより、基板9上の描画領域の歪みに対応して、画像を精度良く描画することができる。
【0050】
また、データ生成部63による選択描画データの複数の描画ブロックにそれぞれ対応する部分の補正は、描画領域における複数の描画ブロックのそれぞれの設計位置からの位置ずれの補正である。描画装置1では、上述のように、基板9の比較的大きな伸縮の補正を、複数の初期描画データからの選択描画データの選択により行っているため、描画領域の歪みの補正をこのように簡素化することができる。
【0051】
図5は、描画装置1における描画の流れの他の例を示す図である。
図5中のステップS11〜S13の動作は、
図4に示すステップS11〜S13と同様である。また、
図5中のステップS14,S15の動作は、
図4に示すステップS14,S15と同様である。
【0052】
図5に示す例では、データ生成部63において選択描画データを選択する際に、基板9の実際の伸縮率に最も近い設定伸縮率と、基板9の実際の伸縮率との差が、対応限界伸縮率と比較される。そして、当該伸縮率の差が対応限界伸縮率よりも大きい場合、基板9の実際の伸縮率に対応する初期描画データが、記憶部61に予め記憶されている複数の初期描画データに含まれていないと判断され、選択描画データの選択が中止される(ステップS131)。
【0053】
そして、基板保持部3上の基板9に対する描画が中止され、基板9が描画装置1から搬出される。続いて、次の基板9が描画装置1に搬入され(ステップS132)、ステップS12に戻り、当該次の基板9に対して撮像、伸縮率の取得、および、伸縮率の比較が行われる(ステップS12,S13,S131)。そして、当該次の基板9の実際の伸縮率に対応する初期描画データが、記憶部61に予め記憶されている複数の初期描画データに含まれている場合、選択描画データの選択が行われ、描画データの生成、および、画像の描画が行われる(ステップS14,S15)。
【0054】
描画装置1では、ステップS132にて搬出された基板9の実際の伸縮率に対応する初期描画データが、ランレングスデータ生成部62により生成され、記憶部61に格納される。当該初期描画データの生成は、好ましくは、他の基板9(例えば、上述の次の基板9)に対する描画と並行して行われる。そして、当該他の基板9に対する描画の終了よりも後に(例えば、1つのロットに含まれる複数の基板9に対する描画の終了後に)、ステップS132にて搬出された基板9に対する描画が行われる。
【0055】
このように、描画装置1では、基板9の実際の伸縮率に対応する初期描画データが上記複数の初期描画データに含まれていない場合、基板9に対する描画が中止されて、他の基板9に対する描画が開始される。また、当該他の基板9に対する描画と並行して、描画が中止された基板9の実際の伸縮率に対応する初期描画データが生成される。その後、当該基板9に対する描画が行われる。これにより、複数の基板9に対する描画に要する時間を短縮することができる。
【0056】
なお、描画装置1では、基板9の実際の伸縮率に対応する初期描画データが上記複数の初期描画データに含まれていない場合、基板9を搬出することなく、基板9の実際の伸縮率に対応する初期描画データが生成され、基板9に対する描画が行われてもよい。ただし、描画装置1のタクト短縮という観点からは、
図5に示す上記処理が行われることが好ましい。
【0057】
上述の描画装置1では、様々な変更が可能である。
【0058】
例えば、データ生成部63による各ブロック描画データの補正は、上述の描画ブロックの設計位置からの位置ずれの補正には限定されず、他の方法(例えば、各描画ブロックの設計形状からの変形の補正)により行われてもよい。
【0059】
また、描画領域の歪みに基づく上述の各ブロック描画データの補正は、必ずしもデータ生成部63により行われる必要はない。データ生成部63にて各ブロック描画データの補正が行われない場合、データ生成部63では、複数の初期描画データから選択描画データが選択され、例えば当該選択描画データをそのまま描画データとして流用することにより、描画データの生成が行われる。そして、当該描画データに対して描画領域の歪みに基づく補正が必要に応じて行われ、補正後の描画データに基づいて基板9に対する描画が行われる。
【0060】
上述の初期描画データは、例えば、主走査方向および副走査方向における伸縮率が同じであるものとして、各伸縮率に応じて生成されてもよい。あるいは、主走査方向における伸縮率と、副走査方向における伸縮率とが異なる場合も考慮して、主走査方向の伸縮率および副走査方向の伸縮率の各組み合わせについて、初期描画データが生成されてもよい。
【0061】
描画装置1では、撮像部5および伸縮率取得部64は省略されてもよい。この場合、例えば、描画装置1以外の装置により取得された基板9の実際の伸縮率が、描画装置1に入力されて記憶部61に予め記憶される。そして、データ生成部63により、当該伸縮率に基づいて選択描画データが選択される。
【0062】
描画装置1では、ランレングスデータ生成部62は省略されてもよい。この場合、例えば、描画装置1以外の装置にて予め生成された複数の初期描画データが、描画装置1に入力されて記憶部61に記憶される。
【0063】
描画装置1により描画が行われる対象物は、上述の基板9には限定されず、例えば、液晶表示装置等のフラットパネル表示装置用のガラス基板、フォトマスク用のガラス基板、または、半導体基板であってもよい。また、描画装置1は、基板以外の様々な対象物上に画像を描画する際に利用されてもよい。
【0064】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0065】
1 描画装置
2 走査機構
5 撮像部
6 制御部
9 基板
43 光源
46 光変調部
61 記憶部
63 データ生成部
64 伸縮率取得部
S11〜S15,S131,S132 ステップ