(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1には、インペラのブレードの倒れ変形や背板部のうねり変形を抑制するために、合成樹脂のインペラの背板部に金属リングを設けることが開示されている。
しかしながら、径方向におけるインペラの内層部には、遠心力によって、高い応力ではないものの、多方向の応力場が発生する。このため、インペラの背板部に金属リングを設けるだけでは、インペラの内層部が多方向の応力場に対応できないことがある。
【0006】
本発明は、インペラの内層部が多方向の応力場に対応可能なインペラ
及び回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様は、前面、背面及びハブ面を有し、長繊維強化材で形成された長繊維強化部と、短繊維強化材で形成された短繊維強化部と、を有するインペラであって、前記ハブ面側において、周方向に複数配列されたブレードを有するインペラ表層部と、前記前面側から前記背面側に向う方向に沿って貫通するボス孔を有し、少なくとも一部に前記短繊維強化部を有するインペラ内層部と、を備えるインペラである。
【0008】
本態様によれば、インペラは、長繊維強化材で形成された長繊維強化部と、短繊維強化材で形成された短繊維強化部と、を有する。他方、インペラは、インペラ内層部の少なくとも一部に短繊維強化部を有する。
強化繊維を含む複合材は、繊維長によって強度異方性が異なり、長繊維であるほど配向方向の機械強度が高く、短繊維であるほど機械強度の異方性が緩和される。このため、多軸の応力場となるインペラ内層部の少なくとも一部を短繊維化することで、インペラは、応力状態に対応した機械強度を有する材料構成となる。
したがって、インペラの内層部が、多方向の応力場に対応可能である。
【0009】
第2の態様は、前記インペラ表層部が、長繊維強化部である第1の態様のインペラである。
【0010】
本態様によれば、インペラは、一軸方向が高応力となるインペラ表層部と、多軸の低応力場となるインペラ内層部の少なくとも一部とで、強化繊維の繊維長が異なる。表層部を長繊維化、内層部の少なくとも一部を短繊維化することで、インペラは、応力状態に合わせた機械強度を有する材料構成となる。
【0011】
第3の態様は、前記長繊維強化材が、前記短繊維強化材に比べて、統計的に長い繊維長の強化繊維を含む第1又は第2の態様のインペラである。
【0012】
本態様によれば、長繊維強化材の繊維長が統計的に長いので、長繊維強化材においては高応力が発生する方向の機械強度を高くすることができる。他方、短繊維強化材の繊維長が統計的に短いので、短繊維強化材においては多軸の応力場に対応した機械物性が得られる。
【0013】
第4の態様は、前記長繊維強化材が、0.2mm以下の繊維長を有する強化繊維の累積体積率が50%未満であって、且つ1mm以上の繊維長を有する強化繊維の累積体積率が少なくとも30%以上である強化繊維で構成され、前記短繊維強化材が、0.2mm以下の繊維長を有する強化繊維の累積体積率が少なくとも50%以上である強化繊維で構成されている第3の態様のインペラである。
【0014】
本態様によれば、長繊維強化材の繊維長が統計的にさらに長いので、長繊維強化材において高応力が発生する方向の機械強度をさらに高くできる。他方、短繊維強化材の繊維長が統計的にさらに短いので、短繊維強化材において多軸の応力場にさらに対応した機械物性が得られる。
【0015】
第5の態様は、前記長繊維強化材が、さらに、1mm以上の繊維長を有する強化繊維の累積体積率が少なくとも50%以上である強化繊維で構成されている第4の態様のインペラである。
【0016】
本態様によれば、長繊維強化材の繊維長が統計的にさらに長いので、長繊維強化材において高応力が発生する方向の機械強度をさらに高くできる。
【0017】
第6の態様は、前記短繊維強化材が、さらに、0.2mm以下の繊維長を有する強化繊維の累積体積率が少なくとも80%以上である強化繊維で構成されている第4又は第5の態様のインペラである。
【0018】
本態様によれば、短繊維強化材の繊維長が統計的にさらに短いので、短繊維強化材において多軸の応力場にさらに対応した機械物性が得られる。
【0019】
第7の態様は、前記短繊維強化部が、前記ボス孔を取り囲むように形成された第1から第6のいずれかの態様のインペラである。
【0020】
本態様によれば、多軸の応力場が発生するボス孔周辺が、短繊維強化材で形成されるため、インペラは、ボス孔周辺の機械強度を向上させることができる。
【0021】
第8の態様は、前記短繊維強化部が、破断伸びが4%以上の樹脂を含む複合材で形成されている第1から第7のいずれかの態様のインペラである。
【0022】
本態様によれば、短繊維強化部に高延性の樹脂を用いることで、繊維配向の少ない方向の靱性が向上し、その結果強度異方性が緩和される。このため、短繊維強化部は、さらに多軸応力場に対応した機械物性を有する。
【0023】
第9の態様は、前記短繊維強化部が、破断伸びが8%以上の樹脂を含む複合材で形成されている第8の態様のインペラである。
【0024】
本態様によれば、短繊維強化部にさらに高延性の樹脂を用いることで、維配向の少ない方向の靱性が向上し、その結果強度異方性が緩和される。このため、短繊維強化部は、さらに多軸応力場に対応した機械物性を有する。
【0025】
第10の態様は、前記短繊維強化部が、エラストマが添加された樹脂を含む複合材で形成されている第1から第9のいずれかの態様のインペラである。
【0026】
本態様によれば、短繊維強化部に高延性の樹脂を用いることで、維配向の少ない方向の靱性が向上し、その結果強度異方性が緩和される。このため、短繊維強化部は、さらに多軸応力場に対応した機械物性を有する。
【0027】
第11の態様は、前面、背面及びハブ面を有し、緻密な繊維強化材で形成された緻密部と、発泡されている繊維強化材で形成された発泡部と、を有するインペラであって、前記ハブ面側において、周方向に複数配列されたブレードを有するインペラ表層部と、前記前面側から前記背面側に向う方向に沿って貫通するボス孔を有し、少なくとも一部に前記発泡部を有するインペラ内層部と、を備えるインペラである。
【0028】
本態様によれば、インペラは、緻密な繊維強化材で形成された緻密部と、発泡されている繊維強化材で形成された発泡部と、を有する。他方、インペラは、インペラ内層部の少なくとも一部に発泡部を有する。
強化繊維を含む複合材は、樹脂の発泡により、強化繊維の配向がランダム化し、強度異方性が緩和される。このため、多軸の応力場となるインペラ内層部の少なくとも一部を発泡部とすることで、インペラは、応力状態に対応した機械強度を有する材料構成となる。
したがって、インペラの内層部が、多方向の応力場に対応可能である。
さらに、発泡部とすることで、インペラの軽量化が可能となり、慣性力の低減が可能となる。
【0029】
第12の態様は、第1から第11のいずれかの態様のインペラと、前記インペラの前記ボス孔に挿入され、前記インペラを回転させる回転軸と、を備える。
【0030】
本態様によれば、インペラ内層部の機械強度が向上した回転機械とすることができる。
【0031】
第13の態様は、長繊維強化材で形成された長繊維強化部と、短繊維強化材で形成された短繊維強化部と、を有するインペラの製造方法であって、インペラの金型と、前面側にピンと、を設置する設置工程と、表層に溶融された長繊維強化材、内層に溶融された短繊維強化材が二層構造で射出されるように、背面側から前記金型及び前記ピンに向かって、前記溶融された長繊維強化材及び前記溶融された短繊維強化材を射出する射出工程と、を実施するインペラの製造方法である。
【0032】
本態様によれば、インペラ内層部の少なくとも一部に短繊維強化部を有するインペラを形成することができる。このため、インペラの内層部が多方向の応力場に対応可能なインペラを製造することができる。
さらに、表層と内層で二層構造とした材料を射出成形可能なサンドイッチ成形法により、二材の樹脂が一体成形されたインペラを製造することができる。サンドイッチ成形法を適用することで、表層部と内層部が溶融状態で一体化されるため、界面強度低下等の可能性を軽減できると共に、一体成形により生産性が向上、製造コスト低減が可能となる。
【0033】
第14の態様は、緻密な繊維強化材で形成された緻密部と、発泡されている繊維強化材で形成された発泡部と、を有するインペラの製造方法であって、インペラの金型と、前面側にピンと、を設置する設置工程と、表層に溶融された非発泡性繊維強化材、内層に溶融された発泡性繊維強化材が二層構造で射出されるように、背面側から前記金型及び前記ピンに向かって、前記溶融された非発泡性繊維強化材及び前記溶融された発泡性繊維強化材を射出する射出工程と、を実施するインペラの製造方法である。
【0034】
本態様によれば、インペラ内層部の少なくとも一部に発泡部を有するインペラを形成することができる。このため、インペラの内層部が多方向の応力場に対応可能なインペラを製造することができる。
さらに、表層と内層で二層構造とした材料を射出成形可能なサンドイッチ成形法により、二材の樹脂が一体成形されたインペラを製造することができる。サンドイッチ成形法を適用することで、表層部と内層部が溶融状態で一体化されるため、界面強度低下等の可能性を軽減できると共に、一体成形により生産性が向上、製造コスト低減が可能となる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の一態様によれば、インペラの内層部が、多方向の応力場に対応可能である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る各種実施形態について、図面を用いて説明する。
【0038】
<第一の実施形態>
以下、第一の実施形態に係るターボチャージャ1(回転機械)について説明する。
図1に示すようにターボチャージャ1は、回転軸2と、回転軸2と共に回転するタービン3及び圧縮機4と、タービン3と圧縮機4を連結するとともに回転軸2を支持するハウジング連結部5とを備える。
このターボチャージャ1では、図示しないエンジンからの排気ガスGによりタービン3が回転し、当該回転に伴って圧縮機4が圧縮した空気ARをエンジンに供給する。
【0039】
回転軸2は、軸線Axに沿って延び、軸線Axを中心として回転する。
【0040】
タービン3は、軸線Axに沿う方向の一方側(
図1の紙面に向かって右側)に配置されている。
以下の説明においては、特に言及しない限り、軸線Axに沿う方向を単に「軸方向Da」と、回転軸2の周方向を「周方向Dc」と、回転軸2の径方向を「径方向Dr」という。
【0041】
このタービン3は、回転軸2が取付けられるとともにタービンブレード15を有するタービンインペラ14と、タービンインペラ14を外周側から覆うタービンハウジング11とを備える。
【0042】
タービンインペラ14には、回転軸2が嵌り込んでいる。このため、タービンインペラ14は、軸線Axを中心として、回転軸2と共に軸線Ax回りに回転可能となっている。
【0043】
タービンハウジング11は、タービンインペラ14を覆っている。タービンハウジング11は、タービンブレード15の前縁部(径方向Dr外側の端部)から径方向Dr外側に向かって延びると共に、径方向Dr外側の位置で軸線Axを中心とした環形状を有する。タービンハウジング11には、タービンハウジング11の内外を連通するスクロール通路12が形成されている。このスクロール通路12から排気ガスGがタービンインペラ14に導入されることで、タービンインペラ14及び回転軸2が回転する。
【0044】
また、タービンハウジング11には、軸線Axの一方側で開口する排出口13が形成されている。タービンブレード15を通過した排気ガスGは、軸方向Daの一方側に向かって流通し、排出口13からタービンハウジング11の外部に排出される。
【0045】
圧縮機4は、軸方向Daの他方側(
図1の紙面に向かって左側)に配置されている。
圧縮機4には、回転軸2が取付けられる。圧縮機4は、インペラ24と、インペラ24を外周側から覆う圧縮機ハウジング21とを備える。
【0046】
インペラ24の後述するボス孔27aには、回転軸2が嵌り込んでいる。このため、インペラ24は、軸線Axを中心として、回転軸2と共に軸線Ax回りに回転可能となっている。
【0047】
圧縮機ハウジング21は、インペラ24を覆っている。そして、圧縮機ハウジング21には軸方向Daの他方側(インペラ24の前面側)で開口する吸込口23が形成されており、この吸込口23を通じて圧縮機ハウジング21の外部から空気ARをインペラ24に導入する。そして、インペラ24に、タービンインペラ14からの回転力が回転軸2を介して伝達されることで、インペラ24が軸線Ax回りに回転し、空気ARが圧縮される。
【0048】
圧縮機ハウジング21には、後述するブレード25の後縁部(空気ARの流れの下流端部)から径方向Dr外側に向かって延びると共に、径方向Dr外側の位置で軸線Axを中心とした環形状を有して圧縮機ハウジング21の内外を連通する圧縮機通路22が形成されている。圧縮機通路22へインペラ24で圧縮された空気ARが導入される。このため、圧縮された空気ARは、圧縮機ハウジング21の外部に吐出される。
【0049】
ハウジング連結部5は、圧縮機ハウジング21とタービンハウジング11との間に配置されて、圧縮機ハウジング21とタービンハウジング11とを連結している。さらに、ハウジング連結部5は、回転軸2を外周側から覆う軸受6を備える。軸受6によって、ハウジング連結部5は、回転軸2をハウジング連結部5に対して相対回転可能となるように支持している。
【0050】
(インペラ)
次に、
図2〜
図5を参照して、インペラ24の構造について詳しく説明する。
インペラ24は、径方向Drについてインペラ24の表層を形成するインペラ表層部26と、径方向Drについてインペラ24の内層を形成するインペラ内層部27と、を備える。インペラ24は、さらに、前面24aと、背面24bと、ハブ面24cとを有する。
インペラ表層部26は、ハブ面24c側の周方向Dcに複数配列されたブレード25を有する。
インペラ内層部27は、径方向Dr内側において、軸方向Daに延びるボス孔27aを有する。ボス孔27aには、回転軸2が挿通されて嵌合される。
【0051】
図2及び
図3に示されるように、インペラ24は、複合材で形成された複合材部50を有する。
複合材部50は、樹脂及び強化繊維を含む複合材により形成されている。
【0052】
複合材部50に用いられる樹脂は、熱可塑樹脂であって、後述する金型に溶融状態で充填後、冷却することにより、固化させることができる。熱可塑樹脂としては、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリケトンサルファイド(PKS)、ポリアリルエーテルケトン(PAEK)、芳香族ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)等が例示される。
【0053】
複合材に用いられる強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、ウイスカー(Whisker)等が例示される。
【0054】
複合材部50は、後述の長繊維強化材で形成された長繊維強化部51と、後述の短繊維強化材で形成された短繊維強化部52と、を有する。長繊維強化材は、樹脂及び強化繊維を含む複合材である。短繊維強化材も、樹脂及び強化繊維を含む複合材である。
インペラ24の複合材部50は、インペラ内層部27の少なくとも一部に短繊維強化部52を有する。本実施形態の場合、インペラ内層部27の全てが短繊維強化部52となっている。
他方、短繊維強化部52以外の複合材部50は、長繊維強化部51である。すなわち、少なくともインペラ表層部26の複合材部50は、長繊維強化部51である。本実施形態の場合、インペラ表層部26の全てが長繊維強化部51となっている。
【0055】
本実施形態において、短繊維強化部52は、インペラ24のボス孔27aを画成する内周面52aと、長繊維強化部51に覆われ、長繊維強化部51の後述の内周面51aと接する外周面52bと、を有する。短繊維強化部52の内周面52aは、軸方向Daに沿って延びている。短繊維強化部52の外周面52bは、インペラ24の前面24a側から背面24b側に向かって、径方向Drの径が徐々に変化している。短繊維強化部52の外周面52bの径は、前面24a側から背面24b側に向かって大きくなり、背面24b近傍で小さくなっている。
短繊維強化部52に高延性の樹脂が用いられている。本実施形態では、破断伸びが4%以上の樹脂が、高延性の樹脂として用いられる。望ましくは、8%以上の樹脂が、高延性の樹脂として用いられてもよい。
変形例として、エラストマを添加した樹脂が、高延性の樹脂として用いられてもよい。
【0056】
長繊維強化部51は、短繊維強化部52の外周面52bを覆う内周面51aと、複数のブレード25を含むインペラ24のハブ面24c及び背面24bの外形を形成する外周面51bと、を有する。長繊維強化部51の内周面51aは、短繊維強化部52の外周面に沿った形状を有する。長繊維強化部51の外周面51bは、インペラ24の前面24a側から背面24b側に向かって、径方向Drの径が徐々に変化している。長繊維強化部51の外周面51bは、インペラ24の前面24a側から背面24b側に向かって、径がテーパ状に大きくなり、インペラ24の背面24bの外縁につながっている。
長繊維強化部51の外周面51bは、さらに突出する形状を有し、複数のブレード25を形成している。したがって、長繊維強化部51の外周面51bは、複数のブレード25と、ブレード25を支持するハブ面24cを形成している。
【0057】
(長繊維強化材及び短繊維強化材)
長繊維強化材と、短繊維強化材の材質の違いについて説明する。
長繊維強化部51の複合材として用いられる長繊維強化材は、短繊維強化部52の複合材として用いられる短繊維強化材に比べて、統計的に長い強化繊維を含む複合材である。
長繊維強化材は主に0.1m〜5mmの繊維長の強化繊維を有し、短繊維強化材は主に0.1mm〜0.5mmの繊維長の強化繊維を有する。
【0058】
図4に示されるように、長繊維強化材の強化繊維は、短繊維強化材の強化繊維に比べて、繊維長の長い強化繊維の体積率が大きくなるように分布している。
図4のグラフは、各強化材を構成する強化繊維の各繊維長(横軸)における体積率(縦軸)を示す。
図4において、長繊維強化材の各データは「長繊維」と示され、短繊維強化材の各データは「短繊維」と示される。
【0059】
図4の累積分布である
図5に示されるように、長繊維強化材は、0.2mm以下の繊維長の強化繊維の(体積率を累積した)累積体積率が50%未満であって、且つ1mm以上の繊維長の強化繊維の(体積率を累積した)繊維長の累積体積率が少なくとも30%以上である強化繊維で構成されている。
他方、
図5に示されるように、短繊維強化材は、0.2mm以下の繊維長の強化繊維の(体積率を累積した)累積体積率が少なくとも50%以上である強化繊維で構成されている。
図5のグラフは、各強化材を構成する強化繊維の各繊維長(横軸)以下の強化繊維の累積体積率(縦軸)を示す。
図5において、長繊維強化材の各データは「長繊維」と示され、短繊維強化材の各データは「短繊維」と示される。
【0060】
(製造方法)
次に、
図6〜
図9を参照して、インペラ24の製造方法について説明する。
【0061】
まず、
図6に示すように、インペラ24の金型DIと、前面側にピンPINと、が設置される(ST01:設置工程)。
【0062】
設置工程ST01に続いて、表層MBに溶融された長繊維強化材、内層MAに溶融された短繊維強化材が二層構造で射出されるように、背面側から金型DI及びピンPINに向かって、
図7のように、金型DI内に溶融された長繊維強化材及び短繊維強化材が射出、充填され、金型DI内で冷却・固化される(ST02:射出工程)。
図7において、背面側は射出方向Dinの上流側、前面側は射出方向Dinの下流側である。
【0063】
射出工程ST02に続いて、金型DIを分割することによって、固化された構造体STRが金型DIから取り出される。さらに、余分な部分が除去され、ボス孔27aが貫通されることによって、取り出された構造体STRがインペラ24に整形される(ST03:整形工程)。
【0064】
本実施形態において、インペラ24の製造方法の射出工程ST02では、溶融された長繊維強化材及び溶融された短繊維強化材は、溶融された短繊維強化材の径方向Dr外側の周りに、溶融された長繊維強化材が積層された状態で射出される。このため、金型DI内においても、概ね短繊維強化材の径方向Dr外側の周りに、長繊維強化材が積層された状態となっている。
さらに、本実施形態において、インペラ24の製造方法の射出工程ST02では、溶融された長繊維強化材が射出された後、溶融された長繊維強化材が射出されている途中で、短繊維強化材が射出される。このため、金型DIやピンPINの表面付近には、長繊維強化材が先に充填される。
したがって、
図7に示すように、金型DIやピンPINの表面と内層MAとの間に、表層MBが形成される。
【0065】
図8及び
図9に示されるように、表層MBに射出される長繊維強化材の成形原料ペレットPLは、内層MAに射出される短繊維強化材の成形原料ペレットPSに比べて、長い強化繊維が含まれている。
【0066】
長繊維強化材の成形原料ペレットPLとしては、例えば、3mm〜20mmの炭素繊維の繊維束PLaと樹脂PLbとが一体化されたペレットを用いる。
短繊維強化材の成形原料ペレットPSとしては、例えば、樹脂PSbに1mm未満の炭素繊維PSaが混練され、分散されたペレットを用いる。
1mm未満の炭素繊維PSaが混練され、分散されたペレットを用いる場合、製造されるインペラ24の短繊維強化部52は、1mm未満の強化繊維で形成される。
【0067】
(作用及び効果)
本実施形態のインペラ24は、長繊維強化材で形成された長繊維強化部51と、短繊維強化材で形成された短繊維強化部52と、を有する。他方、インペラ24は、インペラ内層部27の少なくとも一部に短繊維強化部52と、を有する。
強化繊維を含む複合材は、繊維長によって強度異方性が異なり、長繊維であるほど長繊維の配向方向の機械強度が高く、短繊維であるほど機械強度の異方性が緩和される。このため、多軸の応力場となるインペラ内層部27の少なくとも一部を短繊維化することで、インペラ24は、応力状態に対応した機械強度を有する材料構成となる。
【0068】
例えば、インペラ内層部27を長繊維強化部51としたとする。この場合、インペラ内層部27において、強化繊維が特定方向に配向しやすくなる。
強化繊維を含む複合材は、一般的に、強化繊維が配向する方向と同じ方向に対する機械的な強度(例えば、引張り強度)は高いが、強化繊維の配向方向と直交する方向に対する機械的な強度は低い。
このため、インペラ内層部27において、強化繊維が特定方向に配向すると、配向しない方向の機械的強度が弱くなる。このため、遠心力によって、インペラ内層部27に多軸の応力場が発生すると、インペラ内層部27の機械的強度が確保できない可能性がある。
これに対し、インペラ内層部27の少なくとも一部を短繊維化することで、強化繊維が特定方向に配向しにくく、多方向の応力場に対応できるので、インペラ内層部27の機械的強度が確保できる。
したがって、インペラ内層部27は、多方向の応力場に対応可能である。
【0069】
さらに、本実施形態のインペラ24は、一軸方向が高応力となるインペラ表層部26と、多軸の低応力場となるインペラ内層部27の少なくとも一部とで、強化繊維の繊維長が異なる。インペラ表層部26を長繊維化、インペラ内層部27の少なくとも一部を短繊維化することで、インペラ24は、応力状態に合わせた機械強度を有する材料構成となる。
【0070】
さらに、本実施形態のインペラ24は、多軸の応力場が発生するボス孔27a周辺が、短繊維強化材で形成される。このため、インペラ24は、ボス孔27a周辺の機械強度を向上させることができる。
【0071】
さらに、本実施形態のインペラ24は、短繊維強化部52に高延性の樹脂を用いることで、繊維配向の少ない方向の靱性が向上し、その結果強度異方性がより緩和されるとともに、成形後の固化収縮時に発生する残留ひずみも樹脂自体のクリープ変形により緩和することができる。この結果として、短繊維強化部52において、多軸応力場に対応した機械物性が得られる。
【0072】
本実施形態のインペラ24の製造方法は、インペラ内層部27の少なくとも一部に短繊維強化部52を有するインペラを形成することができる。このため、インペラの内層部が多方向の応力場に対応可能なインペラを製造することができる。
さらに、表層と内層で二層構造とした材料を射出成形可能なサンドイッチ成形法により、二材の樹脂が一体成形されたインペラを製造することができる。サンドイッチ成形法を適用することで、表層と内層が溶融状態で一体化されるため、界面強度低下等の可能性を軽減できると共に、一体成形により生産性が向上、製造コスト低減が可能となる。
【0073】
<第二の実施形態>
以下、第二の実施形態に係るインペラ124について説明する。
本実施形態のインペラ124は、第一の実施形態のインペラ24と基本的に同じであるが、インペラ124が、緻密部と発泡部とを有する点が異なる。
本実施形態のインペラ124は、第一の実施形態のインペラ24に代えて、ターボチャージャ1(回転機械)に設けられる。
【0074】
図10及び
図11を参照して、インペラ124について詳しく説明する。
インペラ124は、径方向Drについてインペラ124の表層を形成するインペラ表層部26と、径方向Drについてインペラ124の内層を形成するインペラ内層部127と、を備える。インペラ124は、さらに、前面124aと、背面124bと、ハブ面124cとを有する。
インペラ内層部127は、径方向Dr内側において、軸方向Daに延びるボス孔127aを有する。ボス孔127aには、回転軸2が挿通されて嵌合される。
【0075】
図10に示されるように、インペラ124は、複合材で形成された複合材部150を有する。
複合材部150は、樹脂及び強化繊維を含む複合材により形成されている。
【0076】
複合材部150に用いられる樹脂は、熱可塑樹脂であって、後述する金型により加熱することにより、硬化させることができる。熱可塑樹脂としては、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリケトンサルファイド(PKS)、ポリアリルエーテルケトン(PAEK)、芳香族ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)等が例示される。
【0077】
複合材に用いられる強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、ウイスカー(Whisker)等が例示される。
【0078】
複合材部150は、緻密な繊維強化材で形成された緻密部151と、発泡されている繊維強化材で形成された発泡部152と、を有する。
発泡されている繊維強化材は、樹脂及び強化繊維を含む複合材であって、樹脂内に多くの泡を含む。発泡されている繊維強化材は、長繊維強化材であってもよいし、短繊維強化材であってもよい。
【0079】
図11には、発泡部152の強化繊維をFB、樹脂をRGで示す。
図11に示すように、発泡部152は、樹脂RG内に泡BBをさらに有する。
【0080】
緻密な繊維強化材は、樹脂及び強化繊維を含む複合材である。緻密な繊維強化材では、発泡されている繊維強化材に比べて、発泡が抑制されており、樹脂内に分布する泡が少なく、強化繊維が緻密に分布している。
本実施形態において緻密な繊維強化材は、長繊維強化材である。
【0081】
インペラ124の複合材部150は、インペラ内層部127の少なくとも一部に発泡部152を有する。本実施形態の場合、インペラ内層部127の全てが発泡部152となっている。
他方、発泡部152以外の複合材部150は、緻密部151である。すなわち、少なくともインペラ表層部26の複合材部150は、緻密部151である。本実施形態の場合、インペラ表層部26の全てが緻密部151となっている。
【0082】
インペラ124は、樹脂RG内に泡BBを設ける以外、第一の実施形態のインペラ24と同様な方法によって製造される。
複合材の成形原料ペレットや溶融された複合材に発泡剤や液体窒素を分散させた発泡性複合材を射出することによって、樹脂RG内に泡BBを設けることができる。
すなわち、表層MBに溶融された非発泡性繊維強化材が、内層MAに溶融された発泡性繊維強化材が二層構造で射出されるように、背面側から金型DI及びピンPINに向かって、溶融された非発泡性繊維強化材及び溶融された発泡性繊維強化材が射出される。
その後、金型DI内で固化されると、表層MBが緻密な繊維強化材となり、内層MAが発泡されている繊維強化材となる。
【0083】
本実施形態のインペラ124は、インペラ内層部127が泡BBを有することにより、発泡部152内の強化繊維の配向がランダム化し、強度異方性が緩和される。このため、発泡部152は、さらに多軸応力場に対応した機械物性を有する。
他方、本実施形態の場合、インペラ表層部26において泡BBの発生が抑制されている。このため、長繊維強化材の配向を維持できるため、高応力が発生する方向の機械強度を維持できる。
さらに、発泡部とすることで、インペラの軽量化が可能となり、慣性力の低減が可能となる。
【0084】
<変形例>
各実施形態における長繊維強化材及び短繊維強化材の各構成は前述のとおりである。
変形例として、長繊維強化材が、0.2mm以下の繊維長の強化繊維の(体積率を累積した)累積体積率が50%未満であって、且つ1mm以上の繊維長の強化繊維の(体積率を累積した)累積体積率が少なくとも50%以上である強化繊維で構成されてもよい。
他の変形例として、短繊維強化材が、0.2mm以下の繊維長の強化繊維の(体積率を累積した)累積体積率が少なくとも80%以上である強化繊維で構成されてもよい。
さらに他の変形例として、長繊維強化材が、0.2mm以下の繊維長の強化繊維の(体積率を累積した)累積体積率が50%未満であって、且つ1mm以上の繊維長の強化繊維の(体積率を累積した)累積体積率が少なくとも50%以上である強化繊維で構成されると共に、短繊維強化材が、0.2mm以下の繊維長の強化繊維の(体積率を累積した)累積体積率が少なくとも80%以上である強化繊維で構成されてもよい。
長繊維強化材の繊維長が、統計的に長いほど、長繊維強化材が配向する方向の機械強度が高くなる。他方で、短繊維強化材の繊維長が、統計的に短いほど、多軸の応力場に対応した機械物性が得られる。
【0085】
各実施形態において、ブレード25やハブ面24c、124cは、樹脂及び強化繊維を含む複合材を用いているが、変形例として、(強化繊維を含まない)樹脂や金属を用いてもよい。ブレード25やハブ面24c、124cに用いられる樹脂としては、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリケトンサルファイド(PKS)、ポリアリルエーテルケトン(PAEK)、芳香族ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)等が例示される。
【0086】
第一の実施形態において、インペラ24は、インペラ内層部27の全てが短繊維強化部52となっているが、インペラ内層部27の少なくとも一部に短繊維強化部52を有するものであってもよい。 変形例として、インペラ内層部27のうち、ボス孔27a周辺部が長繊維強化部51であって、他の部分が短繊維強化部52であってもよい。
他の変形例として、インペラ内層部27のうち、インペラ24の背面24bが長繊維強化部51であって、他の部分が短繊維強化部52であってもよい。 同様に、インペラ24は、インペラ表層部26の全てが長繊維強化部51となっているが、変形例として、インペラ表層部26の少なくとも一部に長繊維強化部51を有するものであってもよい。
【0087】
第二の実施形態において、インペラ124は、インペラ内層部127の全てが発泡部152となっているが、インペラ内層部127の少なくとも一部に発泡部152を有するものであってもよい。
変形例として、インペラ内層部127のうち、ボス孔127a周辺部が緻密部151であって、他の部分が発泡部152であってもよい。
他の変形例として、インペラ内層部127のうち、インペラ124の背面124bが緻密部151であって、他の部分が発泡部152であってもよい。
同様に、インペラ124は、インペラ表層部26の全てが緻密部151となっているが、変形例として、インペラ表層部26の少なくとも一部に緻密部151を有するものであってもよい。
【0088】
各実施形態において、変形例として、発泡部152に高延性の樹脂を用いてもよい。発泡部152に高延性の樹脂を用いることで、繊維配向の少ない方向の靱性が向上し、その結果強度異方性が緩和されるとともに、成形後の固化収縮時に発生する残留ひずみも樹脂自体のクリープ変形により緩和することができる。この結果として、発泡部152において、さらに多軸応力場に対応した機械物性が得られる。
本変形例では、破断伸びが4%以上の樹脂が、高延性の樹脂として用いられる。望ましくは、8%以上の樹脂が、高延性の樹脂として用いられてもよい。
他の変形例として、エラストマを添加した樹脂が、高延性の樹脂として用いられてもよい。
【0089】
各実施形態において、複合材部50、150に熱可塑樹脂を用いているが、変形例として、熱硬化樹脂を用いてもよい。熱硬化樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂等が例示される。
【0090】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものとする。
【0091】
例えば、各実施形態では、回転機械の一例として、ターボチャージャを例に挙げて説明しているが、ターボチャージャ以外の回転機械にも適用可能である。