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特許6783192ホウ素再利用システム及びホウ素再利用システムの運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783192
(24)【登録日】2020年10月23日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】ホウ素再利用システム及びホウ素再利用システムの運転方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20201102BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20201102BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   G21F9/12 501Z
   C02F1/42 A
   C02F1/42 B
   G21F9/12 512Z
   G21F9/06 G
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-114160(P2017-114160)
(22)【出願日】2017年6月9日
(65)【公開番号】特開2018-205267(P2018-205267A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大橋 利正
(72)【発明者】
【氏名】可児 祐子
(72)【発明者】
【氏名】浅野 隆
【審査官】 関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−003598(JP,A)
【文献】 特開2000−202442(JP,A)
【文献】 特開2009−090256(JP,A)
【文献】 特開2017−009486(JP,A)
【文献】 特開2015−125072(JP,A)
【文献】 特開昭59−228934(JP,A)
【文献】 特開2000−321393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/42
G21F9/00−9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉から排出されるホウ素及び放射性物質を含む被処理液から前記ホウ素を分離して回収するホウ素分離回収装置と、
前記ホウ素分離回収装置によって前記ホウ素が除去された前記被処理液から前記放射性物質を除去して浄化液を生成する放射性物質除去装置と、
前記浄化液に前記ホウ素分離回収装置によって回収された前記ホウ素を添加するホウ素添加装置と、を有し、
前記ホウ素分離回収装置は、前記ホウ素を吸着するホウ素吸着剤を備えたホウ素吸着塔と、前記ホウ素吸着塔に供給され、前記ホウ素吸着剤に吸着された前記ホウ素を溶離してホウ素含有液を生成するホウ素溶離液を収容するホウ素溶離液タンクと、を備えることを特徴とするホウ素再利用システム。
【請求項2】
前記ホウ素吸着塔を2塔以上備え、
一部の前記ホウ素吸着塔において前記被処理液に含まれる前記ホウ素を吸着し、
他の前記ホウ素吸着塔の前記ホウ素吸着剤から前記ホウ素溶離液によって前記ホウ素を溶離することが可能な構成を有することを特徴とする請求項1記載のホウ素再利用システム。
【請求項3】
前記ホウ素分離回収装置と前記ホウ素添加装置との間に、前記ホウ素含有液を中和する中和液を収容する中和液タンクを備えるホウ素含有液処理装置を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のホウ素再利用システム。
【請求項4】
前記ホウ素分離回収装置と前記ホウ素添加装置との間に、前記ホウ素溶離液に由来するイオンを除去可能なイオン交換樹脂を備えるホウ素含有液処理装置を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のホウ素再利用システム。
【請求項5】
前記ホウ素分離回収装置は、前記ホウ素吸着塔の前記ホウ素吸着剤に前記ホウ素含有液を中和する中和液を供給可能な中和液タンクを有することを特徴とする請求項1又は2に記載のホウ素再利用システム。
【請求項6】
前記ホウ素添加装置は、前記ホウ素分離回収装置によって回収された前記ホウ素含有液を収容する第1のタンクと、未使用のホウ素含有液を収容する第2のタンクと、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のホウ素再利用システム。
【請求項7】
原子炉から排出されるホウ素及び放射性物質を含む被処理液から前記ホウ素を分離して回収するホウ素分離回収工程と、
前記ホウ素分離回収工程によって前記ホウ素が除去された前記被処理液から前記放射性物質を除去して浄化液を生成する放射性物質除去工程と、
前記ホウ素分離回収工程によって回収された前記ホウ素を前記浄化液に添加するホウ素添加工程と、を有し、
前記ホウ素分離回収工程は、前記ホウ素を吸着するホウ素吸着剤を備えたホウ素吸着塔によって前記被処理液の前記ホウ素を吸着するホウ素吸着工程と、前記ホウ素吸着剤に吸着された前記ホウ素をホウ素溶離液によって溶離してホウ素含有液を生成するホウ素溶離工程と、を備えることを特徴とするホウ素再利用システムの運転方法。
【請求項8】
前記ホウ素分離回収工程において、前記ホウ素吸着塔を2塔以上備え、一部の前記ホウ素吸着塔において前記ホウ素吸着工程を実施し、他の前記ホウ素吸着塔において前記ホウ素溶離工程を実施することを特徴とする請求項7記載のホウ素再利用システムの運転方法。
【請求項9】
前記一部のホウ素吸着塔における前記ホウ素吸着工程と、前記他の前記ホウ素吸着塔における前記ホウ素溶離工程とを同時に実施することを特徴とする請求項8記載のホウ素再利用システムの運転方法。
【請求項10】
前記ホウ素分離回収工程と前記ホウ素添加工程との間に、前記ホウ素含有液を中和するホウ素含有溶液処理工程を有することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載のホウ素再利用システムの運転方法。
【請求項11】
前記ホウ素含有溶液処理工程は、前記ホウ素含有液に中和液を供給することを特徴とする請求項10記載のホウ素再利用システムの運転方法。
【請求項12】
前記ホウ素含有溶液処理工程は、前記ホウ素含有液に含まれる前記ホウ素溶離液に由来するイオンをイオン交換樹脂によって除去することを特徴とする請求項10記載のホウ素再利用システムの運転方法。
【請求項13】
前記ホウ素含有溶液処理工程は、前記ホウ素吸着塔の前記ホウ素吸着剤に前記ホウ素含有液を中和する中和液を供給することを特徴とする請求項10記載のホウ素再利用システムの運転方法。
【請求項14】
前記ホウ素添加工程は、前記ホウ素分離回収工程によって回収された前記ホウ素と、未使用のホウ素の両方を添加することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載のホウ素再利用システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素再利用システム及びホウ素再利用システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉施設核燃料物質の臨界を管理するために、中性子吸収断面積の大きな物質が用いられる。天然のホウ素(B)のうち、約2割を占める同位体10Bは大きな中性子吸収断面積を持つことが知られ、例えば、加圧水型原子炉(Pressurized Water Reactor,PWR)では、一次冷却材中にホウ素を添加し、中性子による核分裂反応を制御している。また、沸騰水型の原子炉(Boiling Water Reactor,BWR)においては、万が一、制御棒の挿入が不能になった場合に、ホウ素を含む溶液を原子炉内に注入し、核反応を停止させる。
【0003】
上述した原子炉施設内で使用されるホウ素(10B)は存在比が小さく、希少であるため、高価である。また、ホウ素は放射性物質との混合物になることから、ホウ素を廃棄する場合には放射性物質として廃棄することになる。したがって、原子炉施設内で使用された10Bは、コスト及び放射性廃棄物の低減の観点から、使用後はできる限り多くの量を回収して再利用されることが望まれる。
【0004】
水中のホウ素を分離回収する方法に関する技術としては、例えば以下の特許文献1及び特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008‐272742号公報
【特許文献2】特開2010‐172853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
原子炉施設において使用されたホウ素は放射性物質との混合物になる。上記特許文献は、いずれも原子炉施設において適用される技術ではない。このため、特許文献に記載の技術をそのまま原子炉施設に適用しても放射性物質との混合物になったホウ素を、放射性物質と分離した上で回収して再利用することはできない。
【0007】
本発明は、ホウ素を再利用し、かつ、放射性物質除去装置の性能を維持することが可能なホウ素再利用システム及びホウ素再利用システムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、原子炉から排出されるホウ素及び放射性物質を含む被処理液からホウ素を分離して回収するホウ素分離回収装置と、ホウ素分離回収装置によってホウ素が除去された被処理液から放射性物質を除去して浄化液を生成する放射性物質除去装置と、浄化液にホウ素分離回収装置によって回収されたホウ素を添加するホウ素添加装置と、を有するホウ素再利用システムを提供する。ホウ素分離回収装置は、ホウ素を吸着するホウ素吸着剤を備えたホウ素吸着塔と、ホウ素吸着塔に供給され、ホウ素吸着剤に吸着されたホウ素を溶離してホウ素含有溶液を生成するホウ素溶離液を収容するホウ素溶離液タンクと、を備える。
【0009】
また、本発明は、原子炉から排出されるホウ素及び放射性物質を含む被処理液からホウ素を分離して回収するホウ素分離回収工程と、ホウ素分離回収工程によってホウ素が除去された被処理液から放射性物質を除去して浄化液を生成する放射性物質除去工程と、ホウ素分離回収工程によって回収されたホウ素を浄化液に添加するホウ素添加工程と、を有するホウ素再利用システムの運転方法を提供する。ホウ素分離回収工程は、ホウ素を吸着するホウ素吸着剤を備えたホウ素吸着塔によって被処理液のホウ素を吸着するホウ素吸着工程と、ホウ素吸着剤に吸着されたホウ素をホウ素溶離液によって溶離してホウ素含有液を生成するホウ素溶離工程と、を備える。
【0010】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ホウ素を再利用し、かつ、放射性物質除去装置の性能を維持することが可能なホウ素再利用システム及びホウ素再利用システムの運転方法を提供することができる。
【0012】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1のホウ素再利用システムの構成を示すブロック図である。
図2】実施例1のホウ素再利用システムを構成するホウ素含有液処理装置の構成を示すブロック図である。
図3】実施例1のホウ素再利用システムの運転方法を示すフロー図である。
図4】実施例2のホウ素再利用システムの構成を示すブロック図である。
図5】実施例2のホウ素再利用システムの運転方法を示すフロー図である。
図6】実施例3のホウ素再利用システムを構成するホウ素含有液処理装置の構成を示すブロック図である。
図7】実施例4のホウ素再利用システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
原子炉施設内で使用されるホウ素及び放射性物質を含む溶液(以下、「被処理液」と称する。)から放射性物質を除去する場合、放射性物質が粒子状で存在する場合はフィルタ等に被処理液を通水して除去する方法が考えられる。また、放射性物質がイオン状で存在する場合は吸着剤に被処理液を通水し、放射性物質を吸着除去する方法が考えられる。
【0015】
本発明者らの検討の結果、吸着剤による放射性物質の吸着除去性能は処理水の水質に依存し、ホウ素濃度が高い被処理液を通水すると吸着除去性能が十分に発揮されない場合があることがわかった。さらに、吸着剤を放射性廃棄物として処分する際にはガラスやセメント等で固化することが考えられるが、吸着剤にホウ素が多量に含まれると、ガラスやセメント等の固化を阻害する可能性もあることがわかった。そのため、ホウ素を含む被処理液中から放射性物質を除去する際には、被処理液から放射性物質を吸着除去する前にホウ素を除去することが必要になる。
【0016】
上述した事情を踏まえ、本発明の対象となるホウ素再利用システム及びホウ素再利用システムの運転方法は、ホウ素及び放射性物質を含む被処理液から、まずホウ素を分離して回収(除去)する。次に、ホウ素を分離回収した被処理液から放射性物質を除去する。そして、放射性物質を除去した浄化液を原子炉に戻す前に、回収したホウ素を再び浄化液に添加可能な構成とした。このような構成とすることで、ホウ素の再利用、放射性物質除去装置の性能の維持、放射性廃棄物の発生の低減及び放射性廃棄物の固化の阻害の防止を実現することができる。
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の要旨を変更しない範囲で適宜改良及び変更を加えることができる。
【実施例1】
【0018】
[ホウ素再利用システム]
図1は実施例1のホウ素再利用システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、ホウ素再利用システム100aは、大まかな構成として、被処理液(原子炉41から排出されるホウ素及び放射性物質を含む水溶液)64からホウ素を分離回収するホウ素分離回収装置6aと、ホウ素が分離回収された被処理溶液64から放射性物質を除去して浄化液を生成する放射性物質除去装置22と、浄化液にホウ素を添加するホウ素添加装置63とを有する。
【0019】
原子炉41に収容された被処理溶液64は、原子炉41に接続された配管1から原子炉41外に排出され、ホウ素分離回収装置6a、放射性物質除去装置22を通り、配管42を通って再び原子炉41に戻る。ホウ素添加装置63は、放射性物質除去装置22から原子炉41に供給される浄化液(放射性物質が除去された溶液)に、ホウ素分離回収装置6aによって回収したホウ素を添加可能な構成を有している。さらに、ホウ素添加装置63は、必要に応じて浄化液に未使用のホウ素を添加することも可能な構成を有している。
【0020】
上述したように、被処理液64は、原子炉41から排出され、ホウ素再利用システム100aに供給され、溶液64に含まれるホウ素及び放射性物質がこの順で除去された後、ホウ素を添加して再び原子炉41に供給される。すなわち、被処理液64は、原子炉41とホウ素再利用システム100aとの間を循環する。このことから、被処理液64は「循環水」とも称することができる。
【0021】
配管1は弁2、ポンプ3及びフィルタ4を備え、上流側は原子炉41に、下流側は貯水タンク5に接続される。配管7はポンプ8及び弁9を備え、上流側は貯水タンク5に接続され、下流側は配管10に接続される。配管10は弁11を備え、上流側は配管7に、下流側はホウ素吸着塔14に接続される。配管16は弁17を備え、上流側はホウ素吸着塔14に、下流側は配管20に接続される。配管20はポンプ40、弁21を備え、上流側は配管16に、下流側は放射性物質除去装置22に接続される。配管23は弁24を備え、上流側は放射性物質除去装置22に、下流側は純水又は浄化液タンク25に接続される。配管42はポンプ43、弁44を備え、上流側は純水又は浄化液タンク25に、下流側は原子炉41に接続される。以下、ホウ素再利用システム100aを構成する各装置について詳細に説明する。
【0022】
(1)ホウ素分離回収装置
原子炉41から排出された被処理液64は、配管1を通ってホウ素分離回収装置6aに送られる。図1に示すように、被処理液64をホウ素分離回収装置6aに送る前に、原子炉41とホウ素分離回収装置6との間にフィルタ4を設け、被処理溶液64中の浮遊物を除去する構成としてもよい。
【0023】
ホウ素分離回収装置6aは、ホウ素を吸着するホウ素吸着剤を備えたホウ素吸着塔14と、ホウ素吸着剤に吸着されたホウ素を溶離するホウ素溶離液を収容するホウ素溶離液タンク26を備える。ホウ素溶離液タンク26から第1のホウ素含有液タンク(第1のタンク)45までの接続を以下に説明する。配管27はポンプ28を備え、上流側はホウ素溶離液タンク26に、下流側は配管29に接続される。配管29は弁30を備え、上流側は配管27に、下流側はホウ素吸着塔14に接続される。配管33は弁34を備え、上流側はホウ素吸着塔14に、下流側は配管37に接続される。配管37は上流側が配管33に、下流側が、後述するホウ素含有液処理装置38に接続される。配管39は上流側がホウ素含有液処理装置38に、下流側が第1のホウ素含有液タンク45に接続される。
【0024】
ホウ素吸着塔14に充填するホウ素吸着剤は、被処理液64中のホウ素を吸着できるとともに、後述するホウ素溶離液による溶離処理によってホウ素を脱離できる材料を使用する。ホウ素吸着剤は、ホウ素に対して高い選択性を有するものが好ましい。例えば、グルカミン基を導入したキレート樹脂が好ましい。ホウ素吸着剤に関しては、例えば、“和田祐司,松上俊行,森俊輔,「水中からの超高効率ホウ素除去技術」,化学装置,2012,2月号,p53−58”に記載されている。
【0025】
ホウ素溶離液タンク26に充填するホウ素溶離液は、ホウ素吸着塔14中のホウ素吸着剤からホウ素を溶離できるものを用いる。例えば、ホウ素吸着剤として、前述したグルカミン基を導入したキレート樹脂を用いた場合、酸性の水溶液(塩酸,硫酸等)又はアルカリ性の水溶液(水酸化ナトリウム水溶液,水酸化カリウム水溶液等)を用いることができる。吸着剤は、ホウ素の吸着量が多くなるほど吸着性能が低下するが、吸着剤に吸着されたホウ素をホウ素溶離液によって溶離することで吸着剤が再生し、吸着性能を復活させることができる。
【0026】
ホウ素溶離液タンク26からホウ素吸着塔14の吸着剤にホウ素溶離液を供給すると、吸着剤に供給されたホウ素溶離液は、吸着剤から吸着剤に吸着されたホウ素を溶離し、ホウ素含有液(溶離ホウ素液)として配管37を通ってホウ素含有液処理装置38に送られる。
【0027】
ホウ素含有液処理装置38は、原子炉41及びホウ素再利用システム100aを構成する部材の健全性を保持するために、ホウ素含有液を中和処理する装置である。図2は実施例1のホウ素再利用システムを構成するホウ素含有液処理装置の構成を示すブロック図である。本実施例のホウ素含有液処理装置38は、ホウ素吸着塔14に繋がる配管37と、第1のホウ素含有液タンク45に繋がる配管39の一部を含む。配管37はポンプ53及び弁54を備え、下流側で配管56と合流し、配管39に接続される。配管56はポンプ57及び弁58を備え、上流側は中和液タンク55に、下流側は配管37と合流し、配管39に接続される。
【0028】
中和液タンク55に収容される中和液は、ホウ素含有液の液性によって構成が異なる。例えば、ホウ素溶離液が酸性の水溶液(塩酸,硫酸等)の場合は、ホウ素吸着塔14から排出されるホウ素含有液は酸性(pH<7)となる。ホウ素再利用システム100a及び原子炉41の構成部材の健全性の観点から、ホウ素含有溶液のpHを3〜12に調整することが好ましく、中性(pH≒7)にすることがより好ましい。そのため、アルカリ性の水溶液(水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等)を添加して中和することができる。ホウ素含有液のpHは、例えば、ホウ素溶離液の流量と濃度、中和液の流量と濃度から計算して制御することが出来る。また、第1のホウ素含有液タンク45の水をサンプリングする等してpHを実測し、ホウ素溶離液及び中和液の流量を制御しても良い。
【0029】
(2)放射性物質除去装置
吸着塔14を通過した被処理液64は、配管20を通って放射性物質除去装置22に送られる。放射性物質除去装置22は、被処理液64中に含まれる放射性物質の種類によって構成が異なる。例えば、被処理液64中に放射性のセシウム(Cs)及びストロンチウム(Sr)が含まれる場合、Cs吸着剤を充填した吸着塔及びSr吸着剤を充填した吸着塔をそれぞれ直列接続した構成が考えられる。また、Cs・Sr同時吸着剤を充填した吸着塔を用いても良い。吸着塔は複数用いても良く、直列に接続しても並列に接続しても良い。
【0030】
(3)ホウ素添加装置
ホウ素添加装置63は、放射性物質除去装置22で放射性物質が除去された浄化液に、ホウ素分離回収装置6aにて回収したホウ素を添加可能な構成を有する。ホウ素添加装置63は、第1のホウ素含有液タンク45に貯蔵された濃縮ホウ素液を配管42に供給可能な構成を有する。また、未使用のホウ素を貯蔵する第2のホウ素含有液タンク(第2のタンク)49を設置し、必要に応じて、回収したホウ素と未使用のホウ素の両方を浄化液に添加可能な構成としてもよい。例えば、回収したホウ素の量が不足している場合に、不足分を未使用のホウ素で補ってもよい。第2のホウ素含有液タンク49に充填するホウ素液は、ホウ素を含む化合物の水溶液であれば特に限定は無いが、臨界を抑制する観点からは中性子捕獲材となるB‐10の濃度を高めた水溶液が好ましい。
【0031】
純水又は浄化液タンク25には、運転開始前には純水が、運転開始後はホウ素及び放射性物質が除去された浄化済みの浄化液が貯蔵される。純水又は浄化液タンク25から原子炉41に送られる純水又は浄化液のホウ素濃度を調整するために、第1のホウ素含有液タンク45及び第2のホウ素含有液タンク49からホウ素を含む液を添加する。配管46はポンプ47及び弁48を備え、上流側は第1のホウ素含有液タンク45に、下流側は配管42に接続される。配管50はポンプ51及び弁52を備え、上流側は第2のホウ素含有液タンク49に、下流側は配管42に接続される。
【0032】
純水又は浄化液タンク25には、必要に応じて防錆剤などを添加する系統を純水又は浄化液タンク25に接続し、純水又は浄化液タンク25内の水質を調整しても良い。また、浄化液が不足した際には、純水を供給する必要がある。純水を供給する系統は純水又は浄化液タンク25に接続しても良いし、配管42に接続しても良い。また、ホウ素含有液で満たしたい領域(本実施例では原子炉41)に直接接続しても良い。
【0033】
ホウ素再利用システム100aの各装置の配置は、関連図面や線量率測定結果等をもとに、作業に必要なスペースが確保できることや雰囲気線量率等を勘案して決定する。各装置を遠隔操作可能なコントローラを設けてもよい。コントローラを原子炉41や放射性物質除去装置22から離れた位置に設置することで、作業スペース確保及び雰囲気線量率による操作員の被ばくを低減することができる。
【0034】
[ホウ素再利用システムの運転方法]
図3は実施例1のホウ素再利用システムの運転方法を示すフロー図である。以下、図1〜3に基づき、各工程について詳述する。
【0035】
(1)ホウ素再利用システム取付(S1)
まず初めに、原子炉41にホウ素再利用システム100aを取付ける。具体的には、ホウ素再利用システム100aの配管1及び42を原子炉41に取付ける。本発明に係るホウ素再利用システム100aは、原子炉の通常運転を停止して被処理液の浄化を行う都度取付けることができ、また、浄化を終了して通常運転を行う場合に取外すことができる構成を有している。
【0036】
(2)ホウ素含有液注入(S2)
ステップS2では、原子炉41内にホウ素含有液を添加することが必要な場合に、第2のホウ素含有液タンク49から未使用のホウ素含有液(ホウ素含有水)を供給する。
【0037】
ホウ素再利用システム100aの取り付けが完了した後、弁2,48を閉じ、弁44,52を開く。ポンプ43を起動して純水又は浄化液タンク25から純水又は浄化液を原子炉41内に送る。同様に、ポンプ51を起動して第2のホウ素含有液タンク49からホウ素含有液を原子炉41内に送る。第2のホウ素含有液タンク49内のホウ素含有液は、配管50、ポンプ51及び弁52を通り配管42に供給される。純水又は浄化液タンク25内の純水又は浄化液は、配管42、ポンプ43及び弁44を通り、第2のホウ素溶液タンク49内から供給されるホウ素含有液と配管42で混合されて原子炉41内に供給される。
【0038】
原子炉41のうち、ホウ素含有溶液で満たしたい領域が所定量かつ所定ホウ素濃度のホウ素含有液で満たされた場合、純水又は浄化液及びホウ素含有液の原子炉41への供給を停止する。純水又は浄化液タンク25からの純水又は浄化液の供給を停止するため、ポンプ43を停止し、弁44を閉じる。純水又は浄化液の供給の停止は、例えば、予め原子炉41においてホウ素含有溶液で満たしたい領域の容積を設計図書等から求め、注水量を監視することで判断することができる。または、予めホウ素含有溶液で満たしたい領域に水位計を設置し、水位を監視することで判断しても良い。
【0039】
第2のホウ素含有液タンク49からのホウ素含有液の供給を停止するため、ポンプ51を停止し、弁52を閉じる。第2のホウ素含有液タンク49からのホウ素含有液の供給の停止は、例えば、純水又は浄化液と、第2のホウ素含有液タンク49からのホウ素含有液の原子炉41への注入量からホウ素含有溶液で満たしたい領域を満たすホウ素含有液のホウ素濃度を計算し、目的のホウ素濃度を超えているか否かを確認することで判断できる。または、ホウ素含有溶液で満たしたい領域を満たすホウ素含有液をサンプリングする等してホウ素濃度を実測して判断しても良い。例えば、運転停止時のPWRの1次系の冷却材であれば、未臨界状態を維持するためにホウ素濃度は数千ppmに維持する。
【0040】
上述したS2では、ホウ素含有液で満たしたい領域が所定量かつ所定ホウ素濃度のホウ素含有液で満たされるなら、原子炉41に純水又は浄化液タンク25から純水又は浄化液を供給せず、第2のホウ素含有液タンク49からのホウ素含有液のみを供給してもよいし、ホウ素含有液を供給せず、純水又は浄化液タンク25から純水又は浄化液のみを供給してもよい。さらに、既に原子炉41内に所定量のホウ素含有液があり、かつ、そのホウ素濃度が所定ホウ素濃度である場合は、S2を省略することができる。
【0041】
(3)ホウ素再利用システム循環路形成(S3)
ステップS3では、被処理液を循環するためにホウ素再利用システム100aに循環路を形成する。弁2,9,11,17,21,24,44を開く。これにより、ホウ素含有液が原子炉41から送り出され、フィルタ4、ホウ素吸着塔14、放射性物質除去装置22を通り、固形成分、ホウ素及び放射性物質がこの順で除去されて、浄化液が原子炉41に戻るループ状の系統が形成される。
【0042】
(4)被処理液循環開始(S4)、ホウ素分離回収工程(S5)、放射性物質除去工程(S6)及びホウ素添加工程(S7)
以下のステップS4〜S6は、原子炉41から排出された被処理液64を循環水としてホウ素再利用システム100aの循環路内を循環させながら、被処理液64中のホウ素の分離回収及び放射性物質の除去を行うステップである。ステップS7は、原子炉41に戻る循環水のホウ素濃度を補うために、循環水にホウ素を添加するステップである。ステップS5〜S7は、S8が「Yes」、すなわち、被処理液64の浄化が終了したと判断するまで実施される。
【0043】
ステップS4では、被処理液64の循環を開始する。ポンプ3,8,40,43を起動し、被処理液64を原子炉41及びホウ素再利用システム100aで構成される循環路内を循環させる。被処理液64は、原子炉41を出てフィルタ4において浮遊物が除去され、ホウ素吸着塔14においてホウ素が分離回収され(S5)、放射性物質除去装置22において放射性物質が除去される(S6)。放射性物質除去装置から排出された浄化液は、ホウ素添加装置63において必要な量のホウ素が添加されたホウ素含有液となり(S7)、原子炉41に戻る。
【0044】
浄化液が原子炉41に戻る際、ホウ素吸着塔14による吸着除去で減少したホウ素を補うため、ホウ素を添加する必要がある。そこで、ホウ素添加工程(S7)では、運転開始直後で、まだ被処理液64からのホウ素が回収されていない間は、第2のホウ素含有液タンク49から未使用のホウ素含有液を純水又は浄化液に添加し、所定のホウ素濃度に制御する。第2のホウ素含有液タンク49に貯蔵されたホウ素含有液を添加する場合、ポンプ51を起動し、弁52を開く。第2のホウ素含有液タンク49に貯蔵されたホウ素含有液は、配管50を通じて配管42を流れる純水又は浄化液に添加される。
【0045】
一方、所定の運転時間が経過し、後述のホウ素吸着塔再生(SA3)においてホウ素吸着塔14の再生を行った後は、第1のホウ素含有液タンク45に濃縮ホウ素液が蓄えられている。そこで、第2のホウ素含有液タンク49から供給されるホウ素含有液の代わりに、または、第2のホウ素含有液タンク49から供給されるホウ素含有液と合わせて、濃縮ホウ素液を第1のホウ素含有液タンク45から純水又は浄化液に添加し、ホウ素濃度を一定の範囲に制御することができる。第1のホウ素含有液タンク45に貯蔵された濃縮ホウ素液を添加する場合、ポンプ47を起動し、弁48を開く。第1のホウ素含有液タンク45に貯蔵されたホウ素含有液は、配管46を通じて配管42を流れる浄化液に添加される。
【0046】
配管42を流れるホウ素含有液のホウ素濃度は、例えば、純水又は浄化液の流量、第1のホウ素含有液タンク45から供給される濃縮ホウ素液の流量又は濃度、第2のホウ素含有液タンク49から供給されるホウ素含有液の流量又は濃度から計算して制御することが出来る。また、配管42を流れるホウ素含有液をサンプリングする等してホウ素濃度を実測して判断しても良い。
【0047】
(5)被処理液浄化終了判断(S8)
ステップS8では、ホウ素含有液の浄化の終了を判断する。例えば、純水又は浄化液タンク25でCs‐137およびSr‐90の濃度をモニタリングし、目標濃度以下になった場合に、ホウ素含有液の浄化が完了したとしてそれ以上のホウ素含有液の循環は不要と判断する。
【0048】
(6)ホウ素吸着塔出口ホウ素濃度基準値以上判断(SA1)、被処理液循環停止(SA2)及びホウ素吸着塔再生(SA3)
以下のステップSA1〜SA3は、ホウ素吸着塔出口のホウ素濃度を評価し、このホウ素濃度が基準値以上の場合はホウ素吸着塔を再生するステップである。ステップSA1〜SA3は、S8が「No」、すなわち、被処理液64の浄化が終了していないと判断された場合に実施される。吸着塔が1塔である本実施例のホウ素再利用システム100aでは、ホウ素の吸着(S5〜S7)と、ホウ素溶離液によるホウ素の回収(吸着剤の再生)(SA3)をそれぞれ分けて実施する。
【0049】
ステップSA1では、ホウ素吸着塔14の出口における被処理液64のホウ素濃度が基準値以上か否かを判断する。S8において「No」と判断した場合、すなわち、ホウ素含有液の循環がまだ必要と判断した場合にステップSA1を実施する。ホウ素吸着塔14が被処理液64を処理し続け、ホウ素吸着塔14の吸着剤のホウ素の吸着量が増加すると、吸着剤によるホウ素吸着量が低減し、徐々にホウ素吸着塔出口の被処理液64のホウ素濃度が上昇する。しかしながら、前述したように、放射性物質除去装置22に送られる被処理液中のホウ素濃度が高いと、放射性物質除去装置22の性能を低下させてしまう。そこで、放射性物質除去装置22に送られる被処理液中のホウ素濃度を所定の値以下に維持するために、ホウ素濃度の基準値を設定する。ホウ素吸着塔出口の被処理液64のホウ素濃度がこの基準値を上回った場合にホウ素吸着塔を切り替えることで、放射性物質除去装置22に流れ込む被処理液64のホウ素濃度を一定以下に維持する。ホウ素濃度の基準値は、放射性物質除去装置22の種類によって異なるが、例えば10ppmに設定することが考えられる。SA1において「No」と判断した場合、S4に戻り、被処理液64の循環を継続する。SA1において「Yes」と判断した場合、SA2に進み、被処理液64の循環を止める。
【0050】
ステップSA2では、被処理液64の循環を停止する。SA1において「Yes」と判断した場合、すなわち、ホウ素吸着塔出口の被処理液64のホウ素濃度が基準値以上の場合(吸着剤の再生が必要な場合)にステップSA2を実施する。ポンプ3,8,40,43を停止し、被処理液64の循環を止める。浄化済みの循環水に第2のホウ素溶液タンク49からホウ素含有液を添加していた場合、ポンプ51を停止し、ホウ素含有液の添加を止める。浄化済みの被処理液64に第1のホウ素含有液タンク45から濃縮ホウ素液を添加していた場合、ポンプ47を停止し、濃縮ホウ素液の添加を止める。
【0051】
ステップSA3では、ホウ素吸着塔14を再生する。ホウ素の吸着除去に使用していたホウ素吸着塔14を再生するために、ホウ素吸着塔14にホウ素溶離液を供給する。例えば、前述したように、ホウ素吸着塔14に充填されたホウ素吸着剤がグルカミン基を導入したキレート樹脂である場合、ホウ素溶離液としては1mol/L程度の塩酸溶液を用いることができる。弁30,34を開き、弁11、17を閉じる。ポンプ28を起動して、ホウ素溶離液タンク26からホウ素溶離液をホウ素吸着塔14に送る。これにより、ホウ素溶離液はホウ素溶離液タンク26からホウ素吸着塔14に供給され、ホウ素溶離液と、溶離したホウ素を含むホウ素含有液がホウ素吸着塔14から排出され、ホウ素含有液処理装置38に送られる。
【0052】
ステップSA3では、溶離ホウ素液を中和する。再生の際にホウ素吸着塔14から出た溶離ホウ素液を中和するために、溶離ホウ素液処理装置38を用いる。例えば、溶離液として塩酸溶液を用いた場合、溶離ホウ素液は酸性となるため、中和液としてはアルカリ性の水酸化ナトリウム溶液を用いることができる。弁54を開にし、ポンプ53を起動して浄化液を配管39に送る。弁58を開にし、ポンプ57を起動して中和液タンク55から中和液を送る。中和液は配管56、39を通り貯水タンク45に送られる。溶離ホウ素液は配管39および貯水タンク45において中和液と混合され、濃縮ホウ素液となる。
【0053】
ステップSA3では、ホウ素吸着塔14出口のホウ素含有液のホウ素濃度を確認し、ホウ素濃度が所定の値以上であれば、さらにホウ素吸着塔14へのホウ素溶離液の供給及びホウ素含有液処理装置38における中和処理を続ける。ホウ素吸着塔14出口の溶離ホウ素液のホウ素濃度が所定の値未満であれば、ホウ素吸着塔14の再生工程を終了する。ポンプ28を停止し、弁30,34を閉じて、ホウ素溶離液タンク26からホウ素吸着塔14へのホウ素溶離液の供給を止める。また、ポンプ57を停止し、弁54,58を閉じて、中和液タンク55からホウ素含有液への中和液の供給を止める。以上でSA3を終了する。SA3の終了後、弁11、17を開にし、S4に戻り、被処理液64の循環を開始する。
【0054】
(6)被処理液循環終了(S9)
ステップS9では、被処理液64の循環を終了する。S8において「Yes」と判断した場合、すなわち、被処理液64の循環が不要と判断された場合にステップS9を実施する。ポンプ3,8,40,43を停止し、被処理液64の循環を止める。浄化液に第2のホウ素含有液タンク49からホウ素含有液を添加していた場合、ポンプ51を停止し、ホウ素溶液の添加を止める。浄化液に第1のホウ素含有液タンク45から濃縮ホウ素液を添加していた場合、ポンプ47を停止し、濃縮ホウ素液の添加を止める。ホウ素吸着塔の再生が行われていた場合、再生工程を終了する。ポンプ28を停止し、弁30,34を閉じて、ホウ素溶離液タンク26からホウ素吸着塔14内へのホウ素溶離液の供給を止める。ポンプ57を停止し、弁54,58を閉じて、中和液タンク55からホウ素吸着塔14内への中和液の供給を止める。
【0055】
(7)ホウ素再利用システム取外(S10)
ステップS10では、ホウ素再利用システム100aを取り外す。S1で原子炉41に取り付けた配管1,42を取り外し、必要ならば、配管1,42を接続するために原子炉41設けた貫通部を閉止する。そして、ホウ素再利用システム100a全体を撤去する。
【0056】
以上のホウ素再利用システムの運転方法を実施することで、被処理液からホウ素を分離回収した上で放射性物質を除去する構成としたことから、ホウ素の再利用、放射性物質除去装置の性能の維持、放射性廃棄物の発生の低減及び放射性廃棄物の固化の阻害の防止を実現することができる。
【実施例2】
【0057】
図4は実施例2のホウ素再利用システムの構成を示すブロック図である。図4に示すように、実施例2のホウ素再利用システム100bは、ホウ素吸着塔を2台(14,15)備える点で、実施例1のホウ素再利用システム100aと異なる。このようにホウ素吸着塔を2台備えることで、ホウ素の吸着と、ホウ素溶離液によるホウ素の回収を同時に行うことができ、さらに高い効率でホウ素を分離回収することができる。
【0058】
配管31は弁32を備え、上流側は配管27に、下流側はホウ素吸着塔15に接続される。配管35は弁36を備え、上流側はホウ素吸着塔15に、下流側は配管37に接続される。配管12は弁13を備え、上流側は配管7に、下流側はホウ素吸着塔15に接続される。配管18は弁19を備え、上流側はホウ素吸着塔15に、下流側は配管20に接続される。
【0059】
図5は実施例2のホウ素再利用システムの運転方法を示すフロー図である。
図5に示すように、S11〜S20は、それぞれ実施例1(図3)のS1〜S10対応する工程であり、実施例1と同様に実施される。SB1、SB2、SB4は、それぞれ実施例1のSA1、SA2、SA3に対応する工程であり、実施例1と同様に実施される。SB3は複数の吸着塔のうち、被処理液64からホウ素を除去するために用いる吸着塔を切り替える工程である。
【0060】
ステップSB1では、ホウ素吸着塔14の出口における被処理液64のホウ素濃度が基準値以上か否かを判断する。S18において「No」と判断した場合、すなわち、ホウ素含有液の循環がまだ必要と判断した場合にステップSB1を実施する。ホウ素吸着塔出口の被処理液64のホウ素濃度が基準値を上回った場合にホウ素吸着塔を切り替えることで、放射性物質除去装置22に流れ込む被処理液64のホウ素濃度を一定以下に維持する。
【0061】
ステップSB2では、被処理液64の循環を停止する。SB1において「Yes」と判断した場合、すなわち、ホウ素吸着塔出口の被処理液64のホウ素濃度が基準値以上の場合にステップSB2を実施する。ポンプ3,8,40,43を停止し、被処理液64の循環を止める。浄化済みの循環水に第2のホウ素溶液タンク49からホウ素含有液を添加していた場合、ポンプ51を停止し、ホウ素含有液の添加を止める。浄化済みの被処理液64に第1のホウ素含有液タンク45から濃縮ホウ素液を添加していた場合、ポンプ47を停止し、濃縮ホウ素液の添加を止める。
【0062】
ステップSB3では、ホウ素吸着塔を切り替える。ここでは、被処理液64からホウ素を除去するために用いていたホウ素吸着塔14をホウ素吸着塔15に切り替える場合について説明する。弁2,9,13,19,21,24,44を開き、弁11、17を閉じる。これにより、被処理液64が原子炉41から送り出され、フィルタ4、ホウ素吸着塔15、放射性物質除去装置22を通り、固形成分、ホウ素及び放射性物質がこの順で除去されて、浄化済みの循環水として原子炉41に戻るループ状の系統が形成される。
【0063】
ステップSB4では、ホウ素吸着塔14を再生する。ホウ素の吸着除去に使用していたホウ素吸着塔14を再生するために、ホウ素吸着塔14にホウ素溶離液を供給する。弁30,34を開き、弁32、36を閉じる。ポンプ28を起動して、ホウ素溶離液タンク26からホウ素溶離液をホウ素吸着塔14に送る。これにより、ホウ素溶離液はホウ素溶離液タンク26からホウ素吸着塔14に供給され、ホウ素溶離液と、溶離したホウ素を含むホウ素含有液がホウ素吸着塔14から排出され、ホウ素含有液処理装置38に送られる。
【0064】
ステップSB4では、溶離ホウ素液を中和する。再生の際にホウ素吸着塔14から出た溶離ホウ素液を中和するために、溶離ホウ素液処理装置38を用いる。例えば、溶離液として塩酸溶液を用いた場合、溶離ホウ素液は酸性となるため、中和液としてはアルカリ性の水酸化ナトリウム溶液を用いることができる。弁54を開にし、ポンプ53を起動して浄化液を配管39に送る。弁58を開にし、ポンプ57を起動して中和液タンク55から中和液を送る。中和液は配管56、39を通り貯水タンク45に送られる。溶離ホウ素液は配管39及び貯水タンク45において中和液と混合され、濃縮ホウ素液となる。
【0065】
ステップSB4では、ホウ素吸着塔14出口のホウ素含有液のホウ素濃度を確認し、ホウ素濃度が所定の値以上であれば、さらにホウ素吸着塔14へのホウ素溶離液の供給及びホウ素含有液処理装置38における中和処理を続ける。ホウ素吸着塔14出口の溶離ホウ素液のホウ素濃度が所定の値未満であれば、ホウ素吸着塔14の再生工程を終了する。ポンプ28を停止し、弁30,34を閉じて、ホウ素溶離液タンク26からホウ素吸着塔14へのホウ素溶離液の供給を止める。また、ポンプ57を停止し、弁54,58を閉じて、中和液タンク55からホウ素含有液への中和液の供給を止める。以上でSB4を終了する。SB4の終了後、S14に戻り、被処理液64の循環を開始する。
【0066】
本実施例では、ホウ素吸着塔14からホウ素吸着塔15に切り替え、ホウ素吸着塔14を再生する場合を説明したが、ホウ素吸着塔15からホウ素吸着塔14に切り替える場合も手順は同様で、弁11,13,17,19,30,32,34,36の開閉操作が逆になる点のみが異なる。また、長時間に渡り被処理液64から放射性物質を除去する場合、ホウ素吸着塔14,15の切り替えを繰り返すこともできる。
【0067】
本実施例では、ホウ素吸着塔を2塔並列で設置した場合を例に説明したが、ホウ素吸着塔の設置数は3塔以上でも良い。このようにホウ素吸着塔を複数台備えることで、ホウ素の吸着(S15〜S17)と、ホウ素溶離液によるホウ素の回収(吸着剤の再生)(SB4)を同時に行うことができ、さらに高い効率でホウ素再利用システムを運転することができる。
【実施例3】
【0068】
図6は実施例3のホウ素再利用システムを構成するホウ素含有液処理装置の構成を示すブロック図である。
実施例3のホウ素再利用システムは、ホウ素含有液処理装置の構成が実施例1と異なり、その他の構成は実施例1と同様である。
【0069】
図6に示すように、実施例3では、実施例1、2のホウ素含有液処理装置38の代わりに、ホウ素含有液処理装置38Aとして、イオン除去装置(イオン交換装置)61を用いる。以下、ホウ素含有液処理装置38Aにおける中和処理の手順について説明する。
【0070】
ホウ素の吸着除去に使用していたホウ素吸着塔14の吸着剤を再生するために、ホウ素吸着塔14にホウ素溶離液を供給する。実施例1と同様に、例えば、ホウ素吸着塔14に充填されたホウ素吸着剤がグルカミン基を導入したキレート樹脂である場合、溶離液として塩酸溶液を用いることができる。弁30,34を開く。ポンプ28を起動して、ホウ素溶離液タンク26からホウ素溶離液をホウ素吸着塔14に送る。これにより、ホウ素溶離液はホウ素溶離液タンク26から出てホウ素吸着塔14に流れ込み、溶離液と、溶離したホウ素を含むホウ素含有液がホウ素吸着塔14から排出され、ホウ素含有液処理装置38Aに供給される。
【0071】
ホウ素含有液処理装置38Aでは、ホウ素吸着塔14から排出されたホウ素含有液からイオンを除去する。例えば、ホウ素溶離液として塩酸を用いた場合、ホウ素含有液は塩化物イオンを含む酸性溶液となるため、陰イオン交換樹脂を用いて塩化物イオンを取り除くことでホウ素含有液を中和することができる。図6の弁60,62を開き、ポンプ59を起動して陰イオン交換樹脂を充填したイオン除去装置61にホウ素含有液を送る。ホウ素含有液は、陰イオン交換樹脂によって塩化物イオンが取り除かれ、濃縮ホウ素液としてイオン除去装置61から排出される。
【0072】
本実施例では、ホウ素溶離液として塩酸を用いる例を示したが、硫酸等の他の酸や、アルカリ性の水溶液を用いる場合も同様の手順になる。ホウ素溶離液にアルカリ性水溶液を用いる場合、ホウ素含有液処理装置38Aでは、陰イオンではなくアルカリ金属等の陽イオンを吸着除去する必要があるため、異なる種類のイオン交換樹脂(吸着剤)を用いる。
【0073】
本実施例では、金属材料の腐食に影響する恐れのある塩化物イオンや硫酸イオン等の陰イオンがホウ素含有液中から除去されるため、構造材の健全性維持に貢献できる。加えて、本実施例では、実施例1のようにホウ素含有液にアルカリ性の水溶液を添加して中和する必要がないため、陰イオンのみならずアルカリ金属濃度も増加しない。そのため、第1のホウ素含有液タンク45における塩の析出を抑制し、タンクの劣化を抑制することができる。
【実施例4】
【0074】
図7は実施例4のホウ素再利用システムの構成を示すブロック図である。実施例4のホウ素再利用システム100cは、ホウ素分離回収装置6cの構成が実施例2と異なり、その他の構成は実施例2と同様である。
【0075】
実施例4のホウ素再利用システム100cは、ホウ素含有液処理装置を備えず、吸着塔14,15の上流に、ホウ素溶離液タンク26Aと並列にホウ素溶離液を中和する中和液タンク26Bを備える。すなわち、本実施例では、吸着剤に中和液を供給する構成となっている。以下、図5及び図7を用いて、実施例4のホウ素再利用システム及びホウ素再利用システムの運転方法について説明する。
【0076】
S11からS23までは、実施例2と同様である。本実施例は、S24のホウ素吸着塔再生のみが実施例2と異なる。以下、ホウ素吸着塔14を再生する場合を例に説明する。
【0077】
本実施例におけるS24では、ホウ素の吸着除去に使用していたホウ素吸着塔14を再生するために、ホウ素吸着塔14にホウ素溶離液を供給する。実施例2と同様に、例えば、ホウ素吸着塔14に充填されたホウ素吸着材がグルカミン基を導入したキレート樹脂である場合、ホウ素溶離液として塩酸を用いることができる。弁30,34,53Aを開き、弁32,36,53Bを閉じる。ポンプ28Aを起動してホウ素溶離液タンク26Aからホウ素溶離液をホウ素吸着塔14に供給する。これにより、溶離液と、吸着剤から溶離したホウ素を含むホウ素含有液がホウ素吸着塔14から排出され、配管37Aを通り第1のホウ素含有液タンク45に溜められる。
【0078】
次に、ホウ素吸着塔14の再生が完了したかを判断する。ホウ素吸着塔14出口の被処理液64のホウ素濃度を確認し、ホウ素濃度が所定の値以上であればホウ素吸着塔14へのホウ素溶離液の供給を続ける。ホウ素吸着塔14出口の循環水のホウ素濃度が所定ホウ素濃度未満であればホウ素吸着塔14の再生工程を終了する。ポンプ28Aを停止し、弁53Aを閉じ、ホウ素溶離液タンク26Aからホウ素吸着塔14へのホウ素溶離液の供給を止める。
【0079】
次に、ホウ素吸着塔14に中和液を供給する。中和液の構成は、実施例2と同様である。弁53Bを開く。ポンプ28Bを起動して中和液タンク26Bから中和液をホウ素吸着塔14内に供給する。これにより、中和液は中和液タンク26Bから出てホウ素吸着塔14に供給され、ホウ素吸着塔14から排出され、配管37Aを通り第1のホウ素含有液タンク45でホウ素含有液と混合されて濃縮ホウ素液として溜められる。
【0080】
次に、ホウ素含有液の中和が完了したかを判断する。溶離液が酸性の場合、第1のホウ素含有液タンク45のpHを確認し、pHが所定の値未満であればホウ素吸着塔14への中和液の供給を続ける。第1のホウ素含有液タンク45のpHが所定の値以上であれば中和工程を終了する。溶離液がアルカリ性の場合、第1のホウ素含有液タンク45のpHを確認し、pHが所定の値以上であればホウ素吸着塔14への中和液の供給を続ける。第1のホウ素含有液タンク45のpHが所定の値未満であれば中和工程を終了する。ポンプ28Bを停止し、弁30,34,53Bを閉じて、中和液タンク26Bからホウ素吸着塔14内への中和液の供給を止める。以上でS24を終了する。
【0081】
本実施例によれば、吸着剤の吸着性能をより回復することができる。例えば、吸着剤としてグルカミン基を導入したキレート樹脂を用いた場合、ホウ素溶離液として酸性水溶液を用いて吸着剤のホウ素を除去(再生処理)したホウ素吸着塔に、中和液としてアルカリ性水溶液を供給することで、ホウ素吸着塔内に残った塩化物イオン等のホウ素溶離液由来のイオン(アニオン)を除去し、吸着剤の吸着性能(活性)をより回復することができる。
【0082】
以上説明したように、本発明によれば、ホウ素を再利用し、かつ、放射性物質除去装置の性能を維持することが可能なホウ素再利用システム及びホウ素再利用システムの運転方法を提供することができることが示された。
【0083】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0084】
1,7,10,12,16,18,20,23,27,29,31,33,35,37,39,42,46,50,56…配管、 2,9,11,13,17,19,21,24,30,32,34,36,44,48,52,54,58,60,62…弁、3,8,28,40,43,47,51,53,57,59…ポンプ、4…フィルタ、5…被処理液タンク、25…純水又は浄化液タンク、45…濃縮ホウ素液タンク、6a,6b,6c…ホウ素分離回収装置、14,15…ホウ素吸着塔、22…放射性物質除去装置、26,26A…ホウ素溶離液タンク、38,38A…ホウ素含有液処理装置、41…原子炉、49…未使用ホウ素含有液タンク、26B,55…中和液タンク、61…イオン交換装置、63…ホウ素添加装置、64…被処理液、100a,100b,100c…ホウ素再利用システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7