特許第6783209号(P6783209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783209
(24)【登録日】2020年10月23日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】真空洗浄装置および真空洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/08 20060101AFI20201102BHJP
   B08B 3/04 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   B08B3/08 Z
   B08B3/04 Z
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-187515(P2017-187515)
(22)【出願日】2017年9月28日
(62)【分割の表示】特願2016-142767(P2016-142767)の分割
【原出願日】2012年11月20日
(65)【公開番号】特開2018-12106(P2018-12106A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2017年10月30日
【審判番号】不服2019-14520(P2019-14520/J1)
【審判請求日】2019年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2011-257625(P2011-257625)
(32)【優先日】2011年11月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】000198329
【氏名又は名称】株式会社IHI機械システム
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】平本 昇
(72)【発明者】
【氏名】三塚 正敏
(72)【発明者】
【氏名】小西 博之
【合議体】
【審判長】 柿崎 拓
【審判官】 小川 恭司
【審判官】 長馬 望
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−160378(JP,A)
【文献】 特開2000−51802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/08, B08B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と、
前記蒸気生成手段から供給される蒸気によって減圧下でワークを洗浄可能な洗浄室と、
前記洗浄室に隣接し、減圧状態に保持される凝縮室と、
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、
前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブと、を備え、
前記凝縮室と前記洗浄室とは配管を用いることなく前記開閉バルブを介して接続され、前記開閉バルブによって前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させることによって洗浄後の前記ワークを乾燥させることを特徴とする真空洗浄装置。
【請求項2】
ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を減圧する工程と、
石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程と、
減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、
前記凝縮室と前記洗浄室とを配管を用いることなく開閉バルブを介して接続し、当該開閉バルブを開弁して前記洗浄室と前記凝縮室とを連通させることによって洗浄後の前記ワークを乾燥させる工程と
を含む真空洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧下にある洗浄室に石油系溶剤の蒸気を供給してワークを洗浄する真空洗浄装置および真空洗浄方法に関する。本願は、2011年11月25日に出願された日本国特許出願第2011−257625号に対し優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に示される真空洗浄装置が知られている。この真空洗浄装置によれば、まず、ワークが搬入された蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプによって減圧する減圧工程がなされる。その後、石油系溶剤の蒸気を蒸気洗浄・乾燥室に供給して、ワークを洗浄する蒸気洗浄工程がなされる。次に、浸漬室に貯留された石油系溶剤にワークを浸漬させ、特に蒸気洗浄工程で洗浄が不十分となるワークの隙間等を洗浄する浸漬洗浄工程がなされる。
【0003】
このようにしてワークの洗浄が完了すると、再び蒸気洗浄・乾燥室にワークを搬送する。その後、蒸気洗浄・乾燥室をさらに減圧して、ワーク表面に付着した溶剤を蒸発させる乾燥工程がなされる。そして、乾燥工程が終了したら、蒸気洗浄・乾燥室を大気圧に復帰させる。その後、ワークを搬出して、一連の工程が終了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開2003−236479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の真空洗浄装置によれば、乾燥工程において、蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧している。このとき、蒸発によって100倍以上の体積に気化した気体を、従来のメカニカルな回転駆動式真空ポンプで排気乾燥するのは容易ではない。また、乾燥性を高めるために更に減圧すれば、さらに気体が膨張して排気時間がかかる。そのため、この従来の乾燥方法による乾燥工程には長時間を要する。すなわち、安定した洗浄品質かつ生産性を高める乾燥工程において、その時間の短縮化が望まれている。
【0006】
本発明は、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる真空洗浄装置および真空洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を提供している。本発明の第1の態様は、真空洗浄装置である。この真空洗浄装置は、石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と、前記蒸気生成手段から供給される蒸気によって減圧下でワークを洗浄可能な洗浄室と、前記洗浄室に隣接し、減圧状態に保持される凝縮室と、前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブとを備え、前記凝縮室と前記洗浄室とは配管を用いることなく前記開閉バルブを介して接続され、前記開閉バルブによって前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させることによって洗浄後の前記ワークを乾燥させる。
【0008】
本発明の第2の態様は、真空洗浄方法である。この真空洗浄方法は、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を減圧する工程と、石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程と、減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、前記凝縮室と前記洗浄室とを配管を用いることなく開閉バルブを介して接続し、当該開閉バルブを開弁して前記洗浄室と前記凝縮室とを連通させることによって洗浄後の前記ワークを乾燥させる工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の真空洗浄装置を説明するための概念図である。
図2】第1実施形態の真空洗浄装置の処理工程を説明するフローチャートである。
図3】従来の真空洗浄装置による乾燥工程の試験データを示す図である。
図4】第1実施形態の真空洗浄装置による乾燥工程の試験データを示す図である。
図5】従来の真空洗浄装置による乾燥工程の他の試験データを示す図である。
図6】第1実施形態の真空洗浄装置による乾燥工程の他の試験データを示す図である。
図7】第2実施形態の真空洗浄装置を説明するための概念図である。
図8】第2実施形態の真空洗浄装置の処理工程を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。本実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能および構成を有する要素については、同一の符号を付することにより、重複する説明を省略する。また、本発明に直接関係のない要素については、その図示を省略する。
【0012】
図1は、第1実施形態の真空洗浄装置1を説明するための概念図である。この図1に示すように、真空洗浄装置1は、内部に洗浄室2が設けられた真空容器3を備えている。この真空容器3には、開口3aが形成されており、開閉扉4によって開口3aが開閉可能となっている。したがって、ワークWを洗浄する際には、開閉扉4を開放して、開口3aから洗浄室2内にワークWを搬入して載置部5に載置する。その後、開閉扉4を閉じて、ワークWを洗浄する。その後、再び開閉扉4を開放して、開口3aからワークWを搬出する。
【0013】
そして、上記の洗浄室2には、蒸気供給部6が設けられている。この蒸気供給部6は、蒸気供給管7を介して、蒸気発生室8に接続されている。蒸気発生室8は、ヒータ8aを備えており、石油系溶剤を加熱して溶剤蒸気(以下、単に蒸気という)を生成する。このように、蒸気発生室8によって生成された蒸気は、蒸気供給管7および蒸気供給部6を介して、洗浄室2に供給される。なお、この石油系溶剤の種類は、特に限定されない。ただし、安全性の観点から第3石油類溶剤を使用することが望ましく、例えば、ノルマルパラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系、芳香族系の炭化水素系溶剤が挙げられる。具体的には、第3石油類溶剤として、一般的にクリーニングソルベントと呼ばれるテクリーンN20、クリーンソルG、ダフニーソルベント等を使用することが望ましい。なお、「テクリーン」は、新日本石油株式会社(現:JXホールディングス株式会社)の登録商標であり、「クリーンソルG」は、同社の商品名であり、「ダフニー」は、出光興産株式会社の登録商標である。
【0014】
また、洗浄室2には、配管9を介して、真空ポンプ10が接続されている。この真空ポンプ10は、ワークWの洗浄を開始する前の減圧工程において、真空容器3内を真空引き(初期真空)によって減圧する。さらに、洗浄室2には、この洗浄室2を大気開放するための配管11が接続されている。この配管11は、ワークWの洗浄工程および乾燥工程が終了した後の搬出工程において、洗浄室2を大気開放して大気圧に復帰させる。
【0015】
そして、洗浄室2には、開閉手段である開閉バルブ20を介して、凝縮室21が接続されている。開閉バルブ20を開弁すると、洗浄室2と凝縮室21とが連通し、開閉バルブ20を閉弁すると、洗浄室2と凝縮室21との連通が遮断される。この凝縮室21も、洗浄室2と同様に、配管9から分岐する分岐管25を介して真空ポンプ10に接続されており、減圧状態を保持することが可能である。また、この凝縮室21には、熱交換器等からなる温度保持装置22(温度保持手段)が設けられており、凝縮室21内の温度が洗浄室2内の温度よりも低い一定温度(5℃〜50℃、より好ましくは15℃〜約25℃)に保持することが可能である。
【0016】
さらに、凝縮室21の底部には、リターン配管23を介して、リザーバタンク24が接続されている。凝縮室21で凝縮した石油系溶剤をリターン配管23からリザーバタンク24に導くとともに、このリザーバタンク24に一時的に貯留することが可能である。このリザーバタンク24は、蒸気発生室8に接続されており、一定量以上の石油系溶剤が貯留されると、リザーバタンク24から蒸気発生室8に石油系溶剤が導かれる。つまり、リターン配管23およびリザーバタンク24は、石油系溶剤を回収する回収手段として機能する。こうした回収手段によって回収された石油系溶剤は、蒸気発生室8に還流して再度気化されて洗浄室2に供給される。
【0017】
なお、図1に示すように、蒸気供給管7には、洗浄室2と蒸気発生室8とを連通させたり、その連通を遮断したりする切換バルブV1が設けられている。配管9には、洗浄室2と真空ポンプ10とを連通させたり、その連通を遮断したりする切換バルブV2が設けられている。配管11には、洗浄室2を大気に開放したり、洗浄室2を大気から遮断したりする切換バルブV3が設けられている。分岐管25には、凝縮室21と真空ポンプ10とを連通したり、あるいは、その連通を遮断したりする切換バルブV4が設けられている。
【0018】
次に、上記の真空洗浄装置1におけるワークWの真空洗浄方法について、図1および図2を用いて説明する。なお、以下では、真空洗浄装置1における真空洗浄方法を具体的に説明するため、石油系溶剤として第3石油類溶剤であるテクリーンN20を用いた場合を説明する。ただし、上記したとおり、真空洗浄装置1に使用可能な石油系溶剤は、これに限定されるものではない。使用する石油系溶剤の沸点や凝縮点等の特性に応じて、各種装置における制御温度等を変更すれば、種々の石油系溶剤を利用することが可能である。
【0019】
図2は、真空洗浄装置1の処理工程を説明するフローチャートである。真空洗浄装置1を利用するにあたっては、まず、準備工程(ステップS100)を1回行う。その後、1つのワークWに対して、搬入工程(ステップS200)、減圧工程(ステップS300)、蒸気洗浄工程(ステップS400)、乾燥工程(ステップS500)、搬出工程(ステップS600)を行う。そして、以後、順次搬入されるワークWに対して、ステップS200〜ステップS600の工程が行われる。以下に、図1を参照しながら、上記の各工程について説明する。
【0020】
(準備工程:ステップS100)
まず、真空洗浄装置1を稼働させる。そのために、開閉バルブ20および切換バルブV1〜V3を閉弁するとともに、切換バルブV4を開弁して真空ポンプ10を駆動する。これにより、凝縮室21を真空引きして、この凝縮室21の内部を10kPa以下に減圧する。そして、温度保持装置22を駆動して、減圧状態にある凝縮室21を、洗浄室2よりも低い温度、より詳細には、使用する石油系溶剤の凝縮点以下の温度(5℃〜50℃、より好ましくは15℃〜約25℃)に保持する。
【0021】
また、ヒータ8aを駆動して蒸気発生室8に貯留されている石油系溶剤を加温し、蒸気を生成させる。なお、このとき、蒸気発生室8は飽和蒸気圧となっており、かつ切換バルブV1が閉じられているため、蒸気発生室8で生成された蒸気は、この蒸気発生室8内に充満している。これにより、真空洗浄装置1の準備工程が終了し、真空洗浄装置1によるワークWの洗浄が可能となる。
【0022】
(搬入工程:ステップS200)
真空洗浄装置1によってワークWの洗浄を行う際には、まず、開閉扉4を開放し、開口3aから洗浄室2にワークWを搬入して載置部5に載置する。このとき、開閉バルブ20は閉弁したままであり、凝縮室21が減圧状態に維持されている。そして、ワークWの搬入が完了したら、開閉扉4を閉じて洗浄室2を密閉状態にする。このとき、ワークWの温度は、常温(15〜40℃程度)となっている。
【0023】
(減圧工程:ステップS300)
次に、真空ポンプ10を駆動して、真空引きにより洗浄室2を凝縮室21と同じ10kPa以下に減圧する。
【0024】
(蒸気洗浄工程:ステップS400)
次に、切換バルブV1を開弁して、蒸気発生室8によって生成された蒸気を洗浄室2に供給する。このとき、蒸気の温度は、70〜150℃(より好ましくは115〜125℃)に制御されており、高温の蒸気が洗浄室2に充満する。
【0025】
このように、洗浄室2に供給された蒸気がワークWの表面に付着すると、ワークWの温度が蒸気の温度に比べて低いことから、蒸気がワークWの表面で凝縮する。その結果、ワークWの表面に付着していた油脂類が、凝縮された石油系溶剤によって溶解、流下され、ワークWが洗浄される。この蒸気洗浄工程は、ワークWの温度が、蒸気の温度(石油系溶剤の沸点)である70〜150℃(115〜125℃)に到達するまで行われるとともに、ワークWの温度が蒸気の温度に到達したときに切換バルブV1を閉弁する。こうして、蒸気洗浄工程が、終了する。
【0026】
(乾燥工程:ステップS500)
上記ステップS400の蒸気洗浄工程が終了すると、次に、洗浄の際にワークWに付着した石油系溶剤を乾燥させる乾燥工程が行われる。この乾燥工程は、開閉バルブ20を開弁して、洗浄室2と凝縮室21とを連通させることによって行われる。具体的には、乾燥工程の開始時には、洗浄室2の温度が蒸気の温度である70〜150℃となっているが、凝縮室21の温度は、温度保持装置22によって5〜50℃(より好ましくは15〜25℃)に維持されている。
【0027】
したがって、開閉バルブ20を開弁すると、洗浄室2内に充満している蒸気は、凝縮室21に移動して凝縮する。これにより、洗浄室2が減圧されることから、ワークWに付着している石油系溶剤および洗浄室2内の石油系溶剤が、全て気化して、凝縮室21に移動する。その結果、従来に比べて極めて短時間で、洗浄室2(ワークW)を乾燥させることが可能となる。なお、第1実施形態の真空洗浄装置1における乾燥時間については、後で詳細に説明する。
【0028】
(搬出工程:ステップS600)
上記のように、洗浄室2およびワークWの乾燥が完了したら、開閉バルブ20を閉弁して、洗浄室2と凝縮室21とを遮断する。そして、切換バルブV3を開弁して洗浄室2を大気開放し、洗浄室2が大気圧まで復圧したときに、開閉扉4を開放して開口3aからワークWを搬出する。こうして、ワークWに対する全工程が、終了する。このとき、凝縮室21は、所望の圧力に維持されていることから、以後は、上記ステップS200〜ステップS600を繰り返すことで、次々とワークWを洗浄することができる。
【0029】
図3は、従来の真空洗浄装置による乾燥工程の試験データを示す図であり、図4は、第1実施形態の真空洗浄装置1による乾燥工程の試験データを示す図である。なお、図3および図4は、ほぼ同一の条件下において、ワークWとして小型の金属製部品150kgを乾燥させた際の各種データを示している。また、従来の真空洗浄装置は、乾燥工程において洗浄室2を減圧する際に、蒸気対応の特殊真空ポンプで真空引きする。この点のみが、第1実施形態の真空洗浄装置1と異なり、その他の構成は全て同じである。
【0030】
図3に示すように、従来の真空洗浄装置において、洗浄工程の終了後に真空ポンプを駆動して真空引きを開始すると、蒸気発生室8の蒸気温度および液温は、いずれも緩やかな上昇傾向を示している。このとき、洗浄室2は、真空引きによって徐々に減圧され、およそ150秒で900Paに到達し、真空引き開始からおよそ418秒で、最高減圧レベルである280Paに到達している。
【0031】
これに対して、図4に示すように、第1実施形態の真空洗浄装置1において、洗浄工程の終了後に開閉バルブ20を開弁して乾燥を開始すると、蒸気発生室8の蒸気温度および液温が、上記と同様に、いずれも緩やかな上昇傾向を示している。一方、洗浄室2は、蒸気が凝縮室21に向けて急激に移動することから、急速に減圧され、およそ12秒で900Paに到達し、開閉バルブ20の開弁からおよそ22秒で、最高減圧レベルである280Paに到達している。
【0032】
また、図5は、従来の真空洗浄装置による乾燥工程の他の試験データを示す図であり、図6は、第1実施形態の真空洗浄装置1による乾燥工程の他の試験データを示す図である。この図5および図6は、ワークWとして上記と同じ小型の金属製部品150kgと、石油系溶剤70ccが溜められたスチール缶とを洗浄室2に載置した状態で乾燥工程を行った際の各種データを示している。なお、洗浄工程においては、石油系溶剤が部品の隙間や凹部等に残液として溜まることがあり、この試験は、こうした残液が溜まってしまった場合を想定して行われた。
【0033】
図5に示すように、従来の真空洗浄装置によれば、洗浄室2が、真空引きによって徐々に減圧され、およそ353秒で900Paに到達し、真空引き開始からおよそ508秒で、最高減圧レベルである320Paに到達している。つまり、従来の真空洗浄装置によれば、洗浄工程においてワークWに残液が溜まってしまった場合は、残液が溜まっていない場合に比べて、最高減圧レベルに到達するまでの時間がおよそ90秒長くなり、最高減圧レベル到達時における洗浄室2の圧力も更に高くなっている。したがって、当然のことながら、ワークWに溜まった残液が多くなるほど、乾燥工程に要する時間が長時間になる。
【0034】
これに対して、図6に示すように、第1実施形態の真空洗浄装置1によれば、洗浄室2が、開閉バルブ20の開弁後、およそ20秒で900Paに到達し、開閉バルブ20の開弁からおよそ44秒で、最高減圧レベルである280Paに到達している。つまり、第1実施形態の真空洗浄装置1によれば、洗浄工程においてワークWに残液が溜まってしまった場合でも、残液が溜まっていない場合に比べて、最高減圧レベルに到達するまでの時間は僅か22秒しか長くならず、最高減圧レベル到達時における洗浄室2の圧力も、残液が溜まっていない場合と同じ圧力まで減圧されている。
【0035】
このように、第1実施形態の真空洗浄装置1と従来の真空洗浄装置とを比較すると、第1実施形態の真空洗浄装置1を用いることにより、乾燥工程に要する時間が顕著に短縮化され、この時間差は、ワークWに溜まる残液が多くなるほど一層顕著になることが確認された。したがって、上記の真空洗浄装置1によれば、乾燥工程の短縮により、全体的な処理時間が短縮され、単位時間当たりの処理量が向上するとともに、省エネルギー化を実現することができる。さらに、処理時間が短縮されることから、1つのワークに対して、上記ステップS400〜ステップS500の工程を繰り返し行うことにより、短時間で洗浄精度をより向上させることも可能である。
【0036】
また、凝縮室21に移動して凝縮された石油系溶剤は、リターン配管23を介してリザーバタンク24に導かれ、このリザーバタンク24において一時的に貯留された後に、再び蒸気発生室8に導かれて再利用される。このとき、石油系溶剤は、洗浄室2および凝縮室21という外部から密閉された室内を循環している。そのため、従来のような真空ポンプによって屋外に排気される場合に比べて、石油系溶剤の再生率(再利用効率)が非常に高い。したがって、石油系溶剤の消費が低減され、ランニングコストを低減することができる。
【0037】
さらには、従来の真空洗浄装置においては、減圧工程と乾燥工程との双方で、洗浄室を真空ポンプによって真空引きする。この場合、乾燥工程では、洗浄室から多量の蒸気が吸引されるため、特殊仕様の真空ポンプを採用しなければならない。そのため、こうした特殊な部品を設けることが、装置全体のコストアップの大きな要因となっている。これに対して、第1実施形態の真空洗浄装置1によれば、洗浄室2に蒸気がない減圧工程でのみ、真空ポンプを用いる。そのため、特殊仕様ではない一般的な真空ポンプを採用することが可能となり、装置全体のコストを低減することができる。
【0038】
次に、図7および図8を用いて、第2実施形態の真空洗浄装置について説明する。なお、第2実施形態の真空洗浄装置51は、第1実施形態の真空洗浄装置1の構成にワークWを浸漬洗浄するための構成を備えた点が、上記第1実施形態の真空洗浄装置1と異なっている。したがって、上記第1実施形態と同一の構成には、上記と同一の符号を付するとともに、その詳細な説明を省略する。以下では、上記第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0039】
図7は、第2実施形態の真空洗浄装置51を説明するための概念図である。この図に示すように、真空洗浄装置51は、内部に洗浄室2が設けられた真空容器52を備えている。この真空容器52には、開口52aが形成されており、開閉扉4によって開口52aが開閉可能となっている。
【0040】
また、真空容器52内には、洗浄室2の下方に配置された浸漬室53が設けられている。この浸漬室53には、ワークWが完全に浸漬可能な量の石油系溶剤が貯留されており、この石油系溶剤を加熱するためのヒータ53aが設けられている。また、洗浄室2と浸漬室53との間には中間扉54が設けられており、この中間扉54によって、洗浄室2と浸漬室53とが連通され、あるいはその連通が遮断される。
【0041】
なお、浸漬室53に貯留されている石油系溶剤は、蒸気発生室8で生成される蒸気と同じものである。また、この第2実施形態の真空洗浄装置51においては、載置部5に不図示の昇降装置が設けられており、載置部5が鉛直方向に移動することが可能である。したがって、中間扉54を開放して洗浄室2と浸漬室53とを連通させた状態で昇降装置を駆動することにより、図中破線で示すように、ワークWを洗浄室2から浸漬室53に移動させたり、あるいは、ワークWを浸漬室53から洗浄室2に移動させることができる。
【0042】
次に、上記の真空洗浄装置51におけるワークWの真空洗浄方法について図7および図8を用いて説明する。図8は、真空洗浄装置51の処理工程を説明するフローチャートである。真空洗浄装置51を利用するにあたっては、まず、準備工程(ステップS101)を1回行う。その後、1つのワークWに対して、搬入工程(ステップS200)、減圧工程(ステップS300)、蒸気洗浄工程(ステップS400)、浸漬洗浄工程(ステップS450)、乾燥工程(ステップS500)、搬出工程(ステップS600)を行う。そして、以後、順次搬入されるワークWに対して、ステップS200〜ステップS600の工程が行われる。
【0043】
なお、上記の各工程のうち、搬入工程(ステップS200)、減圧工程(ステップS300)、蒸気洗浄工程(ステップS400)、乾燥工程(ステップS500)、搬出工程(ステップS600)は、上記第1実施形態と同じである。したがって、ここでは、上記第1実施形態と異なる準備工程(ステップS101)および浸漬洗浄工程(ステップS450)について説明する。
【0044】
(準備工程:ステップS101)
まず、真空洗浄装置51を稼働するにあたり、切換バルブV1〜V4を閉弁するとともに、開閉扉4を閉じて真空容器52内を外部から遮断する。そして、中間扉54を開放するとともに開閉バルブ20を開弁し、浸漬室53および凝縮室21を洗浄室2に連通させる。次に、切換バルブV2を開弁して真空ポンプ10を駆動し、洗浄室2、浸漬室53および凝縮室21を真空引きにより10kPa以下に減圧する。このようにして、洗浄室2、浸漬室53および凝縮室21を所望の圧力まで減圧したら、中間扉54を閉じるとともに開閉バルブ20を閉弁して、浸漬室53および凝縮室21を洗浄室2から遮断する。
【0045】
そして、温度保持装置22を駆動して、減圧状態にある凝縮室21を、洗浄室2よりも低い温度、より詳細には、使用する石油系溶剤の凝縮点以下の温度に保持する。また、ヒータ53aを駆動して浸漬室53に貯留されている石油系溶剤を加温するとともに、ヒータ8aを駆動して蒸気発生室8に貯留されている石油系溶剤を加温して、蒸気を生成させる。このとき、中間扉54が閉じられていることから、浸漬室53で生成された蒸気は、この浸漬室53内に充満している。また、切換バルブV1が閉じられていることから、蒸気発生室8で生成された蒸気は、この蒸気発生室8内に充満している。
【0046】
次に、ワークWを洗浄室2に搬入すべく、切換バルブV3を開弁して、洗浄室2を大気開放して大気圧に復帰させる。そして、洗浄室2が大気圧に復帰したところで切換バルブV3を閉弁する。こうして、真空洗浄装置51の準備工程が終了し、真空洗浄装置51によるワークWの洗浄が可能となる。
【0047】
そして、上記と同様に、搬入工程(ステップS200)、減圧工程(ステップS300)、蒸気洗浄工程(ステップS400)が終了したら、浸漬洗浄工程(ステップS450)が行われる。なお、この第2実施形態の真空洗浄装置51においては、浸漬室53に蒸気が充満していることから、蒸気洗浄工程(ステップS400)の開始に伴って中間扉54が開放されて、洗浄室2と浸漬室53とが連通される。したがって、蒸気洗浄工程(ステップS400)では、蒸気発生室8および浸漬室53の双方から、洗浄室2に蒸気が供給される。
【0048】
(浸漬洗浄工程:ステップS450)
蒸気洗浄工程が終了すると、載置部5が降下して、浸漬室53に貯留された石油系溶剤にワークWが浸漬される。このとき、不図示の昇降装置によってワークWが鉛直方向の昇降を複数回繰り返し、蒸気洗浄工程で洗浄しきれなかったワークWの細部に付着した油脂類等が洗浄される。このようにしてワークWの洗浄が完了したら、載置部5を上昇させてワークWを洗浄室2に搬送し、中間扉54を閉じて洗浄室2と浸漬室53とを遮断する。
【0049】
そして、上記と同様に、乾燥工程(ステップS500)および搬出工程(ステップS600)を行うことで、全工程が終了となる。このように、第2実施形態の真空洗浄装置51によれば、上記第1実施形態の真空洗浄装置1と同様の作用効果を実現しつつ、ワークWをより入念に洗浄することができる。なお、第1実施形態においては、蒸気発生室8(ヒータ8a)が、石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段として機能していたが、この第2実施形態においては、蒸気発生室8(ヒータ8a)および浸漬室53(ヒータ53a)の双方が、蒸気生成手段として機能する。
【0050】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されない。当業者であれば、本明細書および特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属する。
【0051】
したがって、例えば、焼き戻し処理が施された直後の高温のワークWを洗浄するような場合には、洗浄室2と浸漬室53とを離隔して設けておき、互いに熱伝達しにくいように構成してもよい。この場合には、浸漬室53に低温の石油系溶剤を貯留しておき、まず、ワークWを低温の石油系溶剤で浸漬洗浄し、この浸漬洗浄によって冷却されたワークWを、洗浄室2に搬送して蒸気洗浄すればよい。このように、ワークWに施す各工程の順序や、真空洗浄装置における各室の配置等は上記実施形態に限定されるものではなく、適宜設計することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、減圧下にある洗浄室に石油系溶剤の蒸気を供給してワークを洗浄する真空洗浄装置および真空洗浄方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1、51 真空洗浄装置
2 洗浄室
8 蒸気発生室
8a ヒータ
10 真空ポンプ
20 開閉バルブ
21 凝縮室
22 温度保持装置
23 リターン配管
24 リザーバタンク
53 浸漬室
53a ヒータ
W ワーク
図1
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